JP5843094B2 - α型チタン部材 - Google Patents

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本発明は、鍛造により製造されるとともに切削加工を行われる少なくとも一の外面を有するα型チタン部材に関する。
例えば純チタン丸棒材のようなα型チタン部材(純チタン部材)からなる部材には、使用に際して、その全部又は一部の表面をバイト等により切削加工(例えば旋盤による旋削加工)されるものがある。
この時、切削面に、無数の白い斑点から構成される目視可能なまだら模様が形成されることがある。このまだら模様は、製品の表面品質を大きく低下させ、研磨等で除去するにしても製造コストの大幅な上昇は避けられない。
純チタン部材に対する切削加工によって切削面にこのようなまだら模様が発生することはこれまで報告されていないが、特許文献1には、電着ドラム用チタンリングの表面に、研磨を行った場合に生じるちりめん模様に関する発明が開示されている。
このちりめん模様は、上記まだら斑模様とは異なるが、チタン板表面に対してチタン結晶粒の六方晶のC軸が垂直方向に近い結晶粒の集合体となって表面硬度が局部的に異なるため、研磨によりちりめん模様が発生する。
また、特許文献2、3には、チタン材の結晶方位の制御に関する発明が開示されているが、いずれの発明もプレス成形性の向上を目的とするものであり、上記まだら斑模様に関するものではない。
特開平9−20971号公報 特開2010−150607号公報 特開2011−26649号公報
本発明の目的は、鍛造により製造されるとともに切削加工を行われる少なくとも一の外面を有し、かつこの一の外面に切削加工を行っても目視可能なまだら模様が発生しないα型チタン部材を提供することである。
本発明は、削加工を行われる少なくとも一の外面を有するα型チタン部材であって、切削加工を行われる表面が、切削面に垂直な方向と結晶格子のc軸とのなす角度であるc軸の傾きが15°以下/または75°以上を有し、かつ結晶粒径が100μm以上である結晶が10個/mm以下である結晶方位分布を有することを特徴とする棒状α型チタン部材である。
好ましい態様としては、インゴットに対し、β変態点以上の温度域に加熱し、断面減少率で60%以上の鍛造を行った後、β変態点以下の温度域に加熱し鍛造を行う、棒状α型チタン部材の製造方法である。
本発明により、鍛造により製造されるとともに切削加工を行われる少なくとも一の外面を有するα型チタン部材のこの一の外面に切削加工を行っても、目視可能なまだら模様が発生しないようにすることができる。
図1(a)及び図1(b)は、まだら模様となった部分の切削試験後のSEM表面観察結果の一例を示す金属組織写真であり、図1(b)及び図1(d)は、まだら模様となった部分を電解研磨およびエッチングした後の光学顕微鏡による表面観察結果の一例を示す金属組織写真である。 図2は、純チタンの結晶格子(細密六方格子)のc軸の傾きとシュミット因子(cosφ×cosλ)との関係を調査した結果を示すグラフである。 図3は、純チタンの結晶格子のc軸の傾きとすべり発生応力σ0との関係を求めた結果を示すグラフである。 図4は、試料AのEBSDの結果を示すグラフである。 図5は、試料BのEBSDの結果を示すグラフである。
本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら説明する。
図1(a)及び図1(b)は、まだら模様となった部分の切削試験後の光学顕微鏡による表面観察結果の一例を示す金属組織写真であり、図1(b)及び図1(d)は、まだら模様となった部分の電解研磨後の光学顕微鏡による表面観察結果の一例を示す金属組織写真である。
図1(a)の囲み部に示すように、まだら模様となった部分は、切削によって表面がむしり取られたようになっている。電解研磨後エッチングを行って同一箇所を観察すると、図1(c)に示すように、まだら模様となった部分は、一つの結晶粒又はコロニーと呼ばれるいくつかの方位がそろった結晶粒の集合体に対応していることが判明した。
また、図1(b)及び図1(d)に示すように、目視ではまだら模様が観察されないチタン材においても、光学顕微鏡で拡大して観察すると、表面がむしり取られる現象は発生しており、結晶粒が細かいために目視で認識できなかったことが判明した。
さらに、切削によって表面がむしり取られて目視でまだら模様となって観察される結晶の大きさは、幾つかの目視結果及び光学顕微鏡による観察結果から、おおよそ100μm以上の結晶粒径のものであることが確認された。
一方、切削時の切削面には、切削バイト先端より前方(未切削面)では圧縮応力が発生するとともに、切削バイト先端より後方(バイトによる切削面)では引張応力が発生することが知られている。このため、切削面の表面には、切削バイト先端より後方(バイトによる切削面)で発生する引張応力が大きく影響すると考え、α型チタンである純チタンの結晶粒(細密六方格子)のすべり変形に及ぼす結晶方位の影響をシミュレーションした。
最初に、細密六方格子である純チタン粒に引張応力を負荷した場合、活動するすべり面とその方向とを検討した。
臨界分解せん断応力CRSS(Critical Resolved Shear Stress)は一定であるというシュミットの法則を用いて、α相の各すべり面のシュミット因子を算出し、文献に記載された臨界せん断応力CRSSの値からすべり変形を開始する応力(降伏応力)σ0を求めた。
シュミットの法則は(1)式により表される。ここで、τ0は臨界せん断応力(CRSS、MPa)であり、φは切削方向とすべり面の垂線とのなす角度(°)であり、λは切削方向とすべり方向のなす角度(°)であり、(cosφ×cosλ)はシュミット因子である。
σ0=τ0/(cosφ×cosλ)・・・・・・・・・・・(1)
α相のすべり変形が発生する面と方向は、図2に示す4つに限られている。この4つのすべり面と方向について、軸比c/a=1.58829)として、シュミット因子を計算した。計算は、シュミット因子が最も大きく変化するc軸の傾き(切削方向とc軸のなす角度θ)を変えて行い、c軸をa軸方向<11−20>に傾けた場合のシュミット因子を求めた。
図2は、純チタンの結晶格子(細密六方格子)のc軸の傾きとシュミット因子(cosφ×cosλ)との関係を調査した結果を示すグラフである。
図2にグラフで示すように、底面すべりと、a+c軸方向への錐面(錐面a+c)すべりとが大きく、a軸方向の錐面(錐面a)すべりは0.2未満と小さいことがわかる。
α相の臨界せん断応力CRSSに関する文献Titanium and Its Alloys, Lesson5. Deformation and Recrystallization of Titanium and Its Alloy P.3(ASM International)より、τ0=107MPa、柱面τ0=90MPa、錐面aτ0=97MPaを用いた。なお、錐面a+cのτ0(臨界せん断応力CRSS)は不明であるが、ここでは通常柱面すべりの8倍程度と考えられているいために720MPaとして計算した。すべり変形を開始するすべり発生応力σ0は、シュミット因子とCRSSを(1)式に代入して求めた。
図3は、純チタンの結晶格子のc軸の傾きとすべり発生応力σ0との関係を求めた結果を示すグラフである。
活動するすべりは、すべり発生応力σ0が最も低くなるすべり面であることから、c軸の傾きθ=0〜6°では錐面a+c、θ=6〜69°では底面、θ=69〜90°では柱面の各すべり面になる。ただし、錐面a+cや錘面aは、すべり発生応力が大きく、また、柱面は69°以上で底面のすべり発生応力より低くなるが、活発に活動しにくくなることがあるため、よって底面のすべりのみを考慮すればよいことになる。
一方、JIS2種の純チタンの引張強度は400MPa程度であるため、それ以上の引張応力が加わった場合は、チタン材自体が破壊することになる。
よって、純チタンの結晶格子のc軸の傾きが15°以下および75°以上であれば、結晶のすべりがほとんど生じることなくチタン材が破壊することになる。
そこで、表面がむしり取られる現象は、純チタンの結晶方位に関係する可能性があると推測し、研削面の結晶方位解析を行った。
鍛造で丸棒に成形した2種の試料A、B(材質はJIS2種相当の純チタン)を輪切りにし、切断面を切削してまだら模様の発生の有無を調査した。
各試験片の鍛造および熱処理は、以下に記載の条件で行った。
試料Aは、VAR溶解法によってJIS2種相当のチタン材を製造したインゴットに対し、β変態点以上の温度域で加熱および鍛造を繰り返し、トータルの断面減少率で60%以上の鍛造を行った。その後、β変態点以下での温度域で加熱、鍛造、圧延することによって直径64mmの丸棒とした。この直径64mmの丸棒に対して、630℃での歪取り焼鈍を実施した。
試料Bは、VAR溶解法によって製造したインゴットに対し、β変態点以下の温度域で加熱、鍛造、圧延することによって直径86mmの丸棒とした。この直径86mmの丸棒に対して、705℃での歪取り焼鈍を実施した。
各試験片の切断面に対して、切削を行った結果、試料Aはまだら模様が僅かに発生していたものの、合格レベルであった。これに対し、試料Bは、まだら模様が多数発生しており、不合格レベルであった。
試料A、Bの結晶方位を測定するために、試料A、Bの切削後の表面を電解研磨によって表面の歪み層を除去して表面を平滑化した後、EBSD(electron backscatter diffraction)で結晶方位分布を測定した。観察の視野は、1.17mm×0.89mm(=1.0413mm)である。
図4は、試料AのEBSDの結果を示すグラフであり、図5は、試料BのEBSDの結果を示すグラフである。なお、この結果は、図3に結果を示す試験と同様に、純チタンの結晶格子である細密六方格子のc軸が切削面に垂直方向からの傾きで整理した。
上述した光学顕微鏡による観察結果から、表面がむしり取られる現象が発生して目視によりまだら模様であると認識できるのは、おおよそ100μm以上の結晶粒径のものであるので、この確認においても100μm以上の結晶粒に着目した。ただし、100μm以下の結晶粒であっても、同一の結晶方位を持つ結晶粒の集合体であるコロニーを形成した時には、まだら模様として目視で確認できる場合がある。
試料Aは、c軸の傾き(切削方向とc軸のなす角度θ)が65°以上である領域で結晶粒径が100μm以上の結晶が17個存在するのに対して、試料Bはc軸の傾きが65°以上である領域において34個の結晶が存在していることが判明した。また、c軸の傾きが75°以上である場合はそれぞれ、10個、28個であった。
以上の結果から、以下のことが判明した。
(1)純チタン鍛造材の断面の結晶方位は、c軸の傾きが65°以上を有する結晶粒において100μm以上の粒径を有する結晶が存在し、光学顕微鏡による観察結果よりまだら模様となって目視で観察されるのは、100μm以上のチタンの結晶粒である。
(2)シミュレーションの結果、c軸の傾きとすべり発生応力の間には相関関係があり、15°以下、および75°以上の領域では、チタンの引張強度を超え、切削を行った場合にはチタンの結晶が殆どすべり変形をおこさずに破壊する。
(3)以上の結果から、c軸の傾きが15°以下および75°以上の角度を有し、且つ100μm以上の結晶粒が10個/mm超存在すると、切削加工を行ったときにまだら模様様となって不合格レベルとなる。
このため、鍛造により製造されるとともに切削加工を行われる少なくとも一の外面を有するα型チタン部材における、切削加工を行われる表面が、切削面に垂直な方向と結晶格子のc軸とのなす角度であるc軸の傾きが15°以下および75°以上を有し、かつ結晶粒径が100μm以上である結晶が10個/mm以下である結晶方位分布を有すれば、この一の外面に切削加工を行っても、目視可能なまだら模様が発生しない。

Claims (2)

  1. 削加工を行われる少なくとも一の外面を有するα型チタン部材であって、前記切削加工を行われる表面が、切削面に垂直な方向と結晶格子のc軸とのなす角度であるc軸の傾きが15°以下および/または75°以上を有し、かつ結晶粒径が100μm以上である結晶が10個/mm以下である結晶方位分布を有することを特徴とする棒状α型チタン部材。
  2. インゴットに対し、β変態点以上の温度域に加熱し、断面減少率で60%以上の鍛造を行った後、β変態点以下の温度域に加熱し鍛造を行う、請求項1記載の棒状α型チタン部材の製造方法
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