JP3951564B2 - 電解析出ドラムの表面部材用熱延チタン板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、銅あるいはニッケルなどの金属箔を電解析出法によって製造する電解析出ドラムの表面部材に使用される表面性状に優れた安価なチタン熱延板およびそれを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器などの急速な発展に伴い、これら機器に用いられる銅またはニッケルなどの金属箔は、需要が増大するとともに品質に対する要求も厳しくなっており、特に表面性状(表面の平滑性)に優れたものの要求が増している。
【0003】
これらの金属箔は、銅またはニッケルの電解液から金属製ドラム(以下、これを「電解ドラム」と記載する)の表面に銅またはニッケルを析出させ、この析出した箔を連続的に回収することによって製造されている。このため、金属箔の表面には電解ドラムの表面形状が転写されるため、金属箔の表面性状は電解ドラムの表面性状の良否に左右される。
【0004】
この電解ドラムには、電解液での耐食性の点からチタン材が多用されている。たとえばチタン材を圧延などによって板材とし、これを円筒状に成形加工して端部を溶接によってリング状とした後、鋼製のインナードラムに焼きばめなどの方法で、はめ込み製造される。チタン板材の表面は、研削加工および研磨加工を施して仕上げられる。したがって、チタン材の研磨後の表面形状が電解析出箔にプリントされる。
【0005】
電解金属箔の表面性状を改善するため、チタン材の研磨後の表面性状を改善する方法が提案されている。たとえば、
(1) 熱間圧延によって得られたチタン板を円弧状に成形し、突き合わせ部を溶接によって接合してリング状の中間製品とした後、冷間において再び圧下を加え、引き続き焼鈍することによって、微細な結晶粒(25μm以下)を生成させることでチタンドラム表面に生じる段差を無くし、電解箔の品質を向上させるチタン製電着ドラムの製造方法(特開平6-93401号公報、参照)がある。
【0006】
上記の方法は、隣接する結晶粒の段差による表面欠陥をなくすことができるが、研磨加工によってチリメン模様といわれる研磨むらが生じることがある。また、リング状のものを冷間加工によって成形すると形状が不安定になり、後工程の焼きばめなどの施工を困難にする。これを解消する方法として、本出願人は下記(2)に示す電着ドラム用チタン材の製造方法および(3)に示す電着ドラム用チタン材を提案した。
【0007】
(2) 鋳塊の冷却過程、熱間圧延または環状圧延の冷却過程で1000℃/h以上の冷却速度でβ変態点を通過させる急冷処理を与え、その処理後に行う成形加工または熱処理をβ変態点未満の温度域で行い、チリメン模様を生じることのない電着ドラム用チタンリングの製造方法(特開平9-20971号公報、参照)。
【0008】
(3) 厚さが4〜30mmであり、その表面を平均あらさ(Ra)で0.3μm以下に研磨仕上げしたときの「表面の任意方向に0.3〜1mmピッチで10点以上の位置において荷重1kg(試験力:約9.8N)以下でのビッカース硬さ測定値」の最大値と最小値との差が10以下である電着ドラム用チタン材(特開平9-20990号公報、参照)。
【0009】
このチタン材は、鋳塊の鋳込みから板状あるいはリング状チタン材を製造する工程において鋳塊の冷却時、熱間圧延後または環状圧延後に1000℃/h以上の冷却速度でβ変態点を通過させる冷却処理を行い、この処理後の成形加工または熱処理をβ変態点未満の温度域で実施する製造方法(すなわち、上記(2)に示す方法)によって製造することができる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記(2)の方法で製造された上記(3)のチタン材は、板厚の表層部を研磨したときには表面性状が良好であるが、電解を繰り返し板厚の内部にまで再研磨すると表面性状が劣化することがある。
【0011】
本発明の目的は、電解ドラムを何回も再研磨する場合でも、研磨面の表面性状が均一であるチタン板材およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記(2)の方法で製造された上記(3)のチタン材を板厚の内部にまで研磨したとき、研磨面の表面性状が劣化する原因について研磨機構の解明を含む調査を行った。
【0013】
チタンは、常温において稠密六方晶(HCP)の結晶構造を持つ。一般的にチタンは、変形においてHCP結晶構造のC軸と平行な方向にはすべり成分を持たないために、この方向での変形が抑制され、より高い変形抵抗を持つ双晶の活動が必要となる。
【0014】
一方、研磨加工において、研磨抵抗が場所により微妙に変化すると、研磨加工においていわゆるビビリ現象による「むしれ」が発生し、平滑な研磨面が得られない。この場合に結晶粒径が大きければ研磨加工において双晶の発生を招きやすく、結果としてビビリ現象を誘発しやすい。特に、100μmを超える結晶粒が混在すると、この結晶粒において双晶が密に発生し、研磨抵抗を局所的に著しく増大させることが判明した。
【0015】
チタン板は、熱間圧延によって製造されるが、熱間圧延後に徐冷されると静的な再結晶が生じ、結晶粒の粗大化が進行する。この再結晶過程では、再結晶の優先方位が存在し、特定の方位を持つ結晶粒が他の方位を持つ結晶粒を浸食しつつ成長する。この結果、結晶粒の大きさに著しい不均一が生じ、特に粒径の大きい結晶粒で研磨抵抗が高まる結果、ビビリ現象を誘発させやすくなる。これを回避するためには圧延時の終止温度(仕上げ圧延温度)をある一定の範囲に抑えると共に、圧延後の冷却速度を制御することで静的な再結晶の進行を阻止する必要がある。また、焼鈍処理において保持時間が長くなれば結晶粒の成長が生じるため、熱処理の温度と時間を制御することが必要である。
【0016】
チタン材の研磨後の表面性状はチタンが化学的に活性であること、および材料の硬度が低ければ研磨加工面にムシレが生じ、このムシレがチタン表面に押し付けられるために、良好な表面性状が得られないことが、上記研磨機構の調査で明らかとなった。チタン材の硬度を高めるには、酸素の含有量を高めることが有効である。
【0017】
本発明は上記の調査に基づく知見によって完成され、その要旨は下記(1)に示す電解析出ドラムの表面部材用チタン熱延板、下記(2)に示す電解析出ドラムの表面部材用チタン熱延板の製造方法にある。
【0018】
(1)0.015〜0.120質量%の酸素を含有するチタン板であって、肉厚の全断面において100μmを超える結晶粒が存在しない電解析出ドラムの表面部材用熱延チタン板。
【0019】
(2)0.015〜0.120質量%の酸素を含有するチタン鋳塊を仕上げ熱間圧延の終止温度を200〜750℃として圧延し、圧延板の中心部における冷却速度を10℃/min以上で冷却した後、550〜700の温度範囲に、下式を満足する保持時間で熱処理を施す電解析出ドラムの表面部材用チタン熱延板の製造方法。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の電解ドラム用のチタン板材は酸素含有量が0.015〜0.120質量%を含むチタン板材であって、肉厚の全断面において100μmを超える結晶粒が存在しないものである。なお、上記の酸素のほかに、通常の不純物が含まれていてもよい。
【0021】
本発明のチタン板材で化学組成および結晶粒径の最大値を規定した理由について説明する。以下、成分組成を表す%は質量%を意味する。
【0022】
チタン材に含有する酸素量は、後述の(実施例4)から明らかなように材料の硬さを変化させ、研磨による表面性状の良否に影響する。酸素含有量が0.015%未満では、チタン材が軟らかく研磨加工で焼き付きを発生しやすい。このため研磨後の表面は、肌がムシレたような状態となり、研磨粉が押し込まれた状態になる。また、酸素含有量が0.120%を超えるとチタン材が硬くなり、ドラム製作時の曲げ加工性を低下させる。したがって、酸素含有量は、0.015〜0.120%とした。なお、望ましい上限は、0.10%である。
【0023】
本発明のチタン板に含有されてもよい不純物は、下記のような元素である。
【0024】
Fe(鉄)は、原料スポンジチタンに混入している元素である。Feの含有量が0.09%を超えると耐食性が低下する。したがって、Feの含有量は0.09%以下とするのが望ましい。
【0025】
Ni(ニッケル)は、原料のスポンジチタンに混入している元素である。Niの含有量が0.05%を超えると耐食性が低下する。したがって、Niの含有量は0.05%以下とするのが望ましい。
Cr(クロム)は、原料のスポンジチタンに混入している元素である。Crの含有量が0.05%を超えると耐食性が低下する。したがって、Crの含有量は0.05%以下とするのが望ましい。
【0026】
N(窒素)は、スポンジチタンに混入しているか、または溶解工程で混入する元素である。Nの含有量が0.02%を超えるとNが局所的に濃化する結果、局部的に硬度の高い領域が形成されて研磨による表面性状が低下する。したがって、Nの含有量は0.02%以下とするのが望ましい。
【0027】
H(水素)は、スポンジチタンに混入しているか、または溶解工程ないしは焼鈍処理工程で混入する元素である。Hの含有量が0.015%を超えると水素脆化を引き起こす。したがって、Hの含有量は0.015%以下にするのが望ましい。
【0028】
C(炭素)は、原料のスポンジチタンに混入している元素である。Cの含有量が0.01%を超えると加工性が低下する。したがって、Cの含有量を0.01%以下にするのが望ましい。
【0029】
次に結晶粒径の最大値を100μm以下に規定した理由について説明する。
研磨加工における圧縮力の作用によって、結晶粒径が100μmを超える大きな結晶粒では双晶変形が密に生じる。特に100μmを超える結晶粒が、50μm以下の微細な結晶粒と混在して存在すると、微細な結晶粒では双晶変形が生じにくいが、100μmを超える結晶粒では双晶変形が密に生じるため、局所的に変形抵抗が変化する。この結果、ビビレ現象を招き、良好な研磨面を得ることができない。
【0030】
次に、本発明のチタン板の製造条件を規定した理由について説明する。
【0031】
チタン材の熱間圧延時の終止温度およびその後の冷却速度は、後述の実施例1の結果から明らかなように、結晶粒の大きさに影響を与える。
【0032】
熱間圧延の終止温度が200℃未満では、圧延材に歪みエネルギーが蓄積され、これが焼鈍処理で一気に解放されるため特定の結晶粒で異常粒成長を生じ、特に100μmを超える結晶粒が存在する混粒状態となる。この結果、研磨による表面性状が低下する。一方、熱間圧延の終止温度が750℃を超えると、圧延後の冷却過程において肉厚中心部で粗大な結晶粒が生成するため、研磨による表面性状が低下する。したがって、熱間圧延の終止温度は、200℃以上、750℃以下とした。なお、望ましい熱間圧延の終止温度は300℃から650℃の範囲である。ここで熱間圧延の終止温度とは、圧延材の表面温度を意味する。
【0033】
熱間圧延後の圧延材の冷却速度の影響は、後述の実施例2から明らかなように、100μmを超える粗大な結晶粒を生成させないためには、10℃/min以上の冷却速度を確保する必要がある。
【0034】
熱間圧延後の圧延材の冷却速度が板厚の中心部において10℃/min未満では、冷却過程で静的な再結晶が進行するため、圧延材には100μmを超える粗大な結晶粒が生成する。仕上げ圧延後に粗大な結晶粒が生成すると焼鈍熱処理によっても消滅しないため、チタン板材の板厚中心部を研磨したとき、表面性状を低下させる。なお、冷却速度の上限は特に制限しない。
【0035】
次に焼鈍過程においては、後述の実施例3から明らかなように焼鈍温度と板厚との関係で保持時間を設定する必要がある。
【0036】
焼鈍温度が550℃未満では再結晶が進行しない。この結果、チタン材には熱間圧延によって生じた加工組織が残留する。加工組織が残留すると、研磨時に研磨加工圧力が高まるため、ムシレが生じやすくなり、良好な製品は得られない。一方、700℃を超えると結晶粒の粗大化が著しく進行し、研磨による表面性状が低下する。
【0037】
焼鈍過程における保持時間は、チタン材の板厚との関係において定めなければならない。すなわち、保持時間T(min)が板厚t(mm)との関係において保持時間Tが1.2×t未満である場合、保持時間が不足となり、チタン材の厚さ方向中心部まで均一に加熱されない。このために、チタン材の厚さ方向中心部に熱間圧延組織が残留する。また、保持時間Tが15×tを超える場合、保持時間が長くなり、表面での酸化、あるいは結晶粒の粗大化のため研磨による表面性状が劣化する。したがって、焼鈍過程における保持時間は、板厚との関係で下式を満足させるのが望ましい。
1.2≦T/t≦15
ここで、tはチタン材の板厚(mm)、Tは保持時間(min)である。
なお、保持時間の望ましい範囲としては1.2≦T/t≦10である。
【0038】
【実施例】
(実施例1)
圧延終止温度の影響を調査した。素材は、表1に示す化学成分を有するJIS1種の純チタンを用いた。直径1mのインゴットから1m長さの素材を切り出し、950℃に加熱した後、断面の一辺が500mmまで鍛造した。さらに850℃に加熱した後、幅500mm、厚さ80mmまで鍛造した。この素材から、厚さ80mm、幅200mm、長さ100mmの圧延用素材を切り出し、厚さ10mmまで圧延した。圧延では850℃加熱とし、厚さ20mmまで圧延し、さらに表2に示す終止温度になるまで待った後、厚さ10mmまで2パスで仕上げた。終止温度の管理は接触式の熱電対で行った。圧延後は、送風機の前に試料を放置して冷却速度を速くした。圧延材と同一形状の試験材の板厚中心部に熱電対を設置し700℃に加熱後の同じ条件で冷却した場合、650℃から室温までの平均冷却速度は15℃/minであった。この圧延材を650℃で30分間焼鈍した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
以下、評価方法について説明する。
【0042】
熱間圧延後のミクロ組織は、圧延材の縦断面でミクロ組織を観察した。このとき、表面から1mmの位置(これを「表層部」という)と厚さ方向中心部(表面から5mm、これを「中心部」という)について観察を行った。この組織観察において結晶粒の大きさを100倍の倍率にて観察し、結晶粒径が100μmを超えるものが1視野内に観察されたものは粗大粒生成として、表2の評価欄を×として示した。
【0043】
研磨後の表面性状の評価は一辺が100mmの試験材を表面から板厚方向の1mm及び5mmの位置をシェーパー(形削り機)で切削加工した後、PVA研磨(ポリビニールアルコール、1000番)にて仕上げ研磨した。このとき100mm角内の試験材の表面に模様が観察されたものは研磨性不良として、表2の評価欄を×とした。
表2の結果から明らかなように、熱間圧延の終止温度が200〜745℃の範囲にある試験材1〜4は、表層部及び中心部の結晶粒において100μmを超えるものは観察されず、研磨試験においていずれの表面でも模様は認められなかった。
【0044】
これに対して試験材5は、圧延終止温度が780℃であるため、冷却過程で結晶粒の成長が生じる結果、100μmを超える結晶粒が中心部において発生し、研磨性も不良となっている。
【0045】
さらに試験材6は圧延の終止温度が150℃であるため表層部で粗大な結晶粒が観察され、研磨性も不良であった。これは圧延時に蓄積された歪エネルギーが焼鈍処理の際に解放され、特定方位を持つ結晶粒が優先的に成長するため、伸張粒となるためである。
(実施例2)
ここでは圧延後の冷却速度の影響を調査した。
【0046】
素材の製造は、熱間圧延の段階までは実施例1と同じであるが、最終圧延厚さを15mmとし、圧延後に氷水中に焼き入れした。焼き入れ前の材料の表面温度は、650℃であった。
【0047】
得られた材料から直径10mm、長さ12mmの試験材を採取した。試験片の採取方向は、長手方向が素材の肉厚方向と平行になるように採取した。この試験材を高周波加熱によって650℃に5分間加熱した後、表3に示す種々の冷却速度で室温まで冷却し、さらに650℃で30分間熱処理した。試験片中心部に熱電対を埋め込み、これにより冷却速度を制御した。表3中の冷却速度は650℃から室温までの冷却速度である。
【0048】
【表3】
【0049】
熱処理後の試験材について長さ方向の中央部(圧延素材肉厚中心部)のミクロ組織を圧延縦断面について調査した。再現性を調査するために同一の冷却速度の条件において3個の試験片を調査した。この調査において一つでも結晶粒径が100μmを超えるものが観察されたものについて、表3の評価欄を×とした。
【0050】
表3の結果から明らかなように、冷却速度を10〜25℃/minとした試験材の7〜9は、結晶粒の大きさが100μmを超えるものは観察されなかった。これに対して冷却速度が10℃/minよりも遅い試験材10および11は結晶粒径が100μmを超えるものが観察された。
(実施例3)
ここでは、焼鈍における熱処理条件の影響を調査した。
【0051】
試験材の製造は、実施例1と同じであり、厚さ10mmの圧延材を製造した。素材の圧延条件は、表2に示す試験番号2(圧延終止温度が650℃、圧延後の冷却速度15℃/min)と同じである。この圧延材に表4に示す条件で熱処理(焼鈍処理)を施し、研磨性とミクロ組織を調査した。比較として、厚さ10mmの圧延材を機械加工(切削加工)によって片面切削で8mmとしたものを用意した。ミクロ組織と研磨性の調査方法は、実施例1の方法と同じである。
【0052】
【表4】
【0053】
この調査において結晶粒径が100μmを超えるものが観察された場合および研磨性が悪いものについては表4の評価欄をそれぞれ×とした。評価基準は、実施例1と同じである。
【0054】
表4の結果から、本発明の条件で熱処理された板材(番号12〜19)は、100μm以上の結晶粒が認められず、研磨性も良好であった。
【0055】
これに対して、番号20の板材は、焼鈍温度が500℃と低いため、100μm以上の結晶粒が認められ、研磨性も悪い。
【0056】
番号21の板材は、焼鈍温度が800℃と高いため、板材の表層部に100μm以上の結晶粒が認められ、研磨性も悪い。
【0057】
番号22の板材は、焼鈍時の保持時間Tが10分であり、保持時間Tと板厚tとの比T/tが1.0となり、肉厚中心部では熱間加工組織が残存するため、研磨性も悪い。
【0058】
番号23の板材は、焼鈍時の保持時間Tが200分であり、保持時間Tと板厚tとの比T/tが20.0となるため、板材の表層部に100μm以上の結晶粒が認められ、研磨性も悪い。
【0059】
番号24の板材は、焼鈍時の保持時間Tが8分であり、保持時間Tと板厚tとの比T/tが1.0となり、肉厚中心部では熱間加工組織が残存するため、研磨性も悪い。
【0060】
番号25の板材は、焼鈍時の保持時間Tが150分であり、保持時間Tと板厚tとの比T/tが18.8となるため、板材の表層部に100μm以上の結晶粒が認められ、研磨性も悪い。
(実施例4)
ここでは、酸素量の影響を調査した。
【0061】
純チタン材に表5に示す酸素含有量となるようにVAR溶解法によって10kg鋳塊(直径150mm、長さ150mm)を溶製した。この鋳塊を950℃に加熱した後、幅100mm、厚さ50mmの角材に鍛造した。その後、850℃に加熱して、厚さ10mmまで圧延した。圧延時の終止温度は650℃とした。圧延後、600℃で30分保持する熱処理を行った。
【0062】
【表5】
【0063】
熱処理後の素材から一辺が100mmの試験材を採取し、研磨性を調査した。調査方法は実施例1と同じである。この中で研磨性が不良と判断された材料については表5の評価を×とした。また、試験材の硬度をビッカース硬度計を用いて、荷重1kg(試験力9.8N)で10カ所を測定した。
【0064】
発明例の試験番号26〜29は、ビッカース硬さが131〜195の範囲にあり、研磨したときの表面性状および曲げ加工性は良好である。これに対し、比較例の試験番号30の試験材は、酸素含有量が0.012質量%と低いため、研磨したときの表面性状が悪い。また、試験番号31の試験材は、酸素含有量が0.135質量%と高いため、ビッカース硬さが210となって曲げ加工性が悪い。
【0065】
【発明の効果】
本発明のチタン材は、酸素含有量と結晶粒の大きさを調整したので、研磨性に優れ、平滑な表面が得られる。これを電解析出ドラムの表面部材に用いれば、平滑な表面を持つ電解金属箔の製造が可能となる。このチタン熱延板は、圧延終止温度、圧延後の冷却速度および冷却後の熱処理条件を規定することによって安価に製造することができる。
Claims (2)
- 0.015質量%以上で0.12質量%以下の酸素を含有するチタン板であって、肉厚の全断面において100μmを超える結晶粒が存在しないことを特徴とする電解析出ドラムの表面部材用熱延チタン板。
- 0.015質量%以上で0.12質量%以下の酸素を含有するチタン材を熱間での圧延における終止温度を200℃以上、750℃以下として圧延し、板材中心を10℃/min以上の冷却速度で冷却した後、550℃以上、700℃以下の温度範囲に、下式の範囲で保持することからなる熱処理を施すことを特徴とする電解析出ドラムの表面部材用熱延チタン板の製造方法。
1.2≦T/t≦15ここで、tはチタン材の板厚(mm)、Tは保持時間(min)である。
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