本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な形態が実施可能である。
以下の記述において、色材(20)、第1の色材(20a)、第2の色材(20b)という用語を使用するが、色材(20)という語は、第1の色材(20a)及び第2の色材(20b)の両方を包含する用語として定義するものであり、色材(20)の種類が問題とならないような内容の説明に用いる用語である。
また、以下の記述において、例えば、基材(10)の凹部や色材(20)等、基材(10)上の立体物に対しても面積という用語を使用する。この場合の面積とは、基材(10)を平面とみなして、立体物を上記平面に対して投影した場合にできる面積を指す用語である。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態における印刷物(1)は、図1(a)に示すように、基材(10)の少なくとも一部に凹凸領域(5)を有し(破線で図示)、凹凸領域(5)の少なくとも一部に印刷画像(6)が形成されてなり、印刷画像(6)は、第1の画像部(11)及び第2の画像部(12)から構成される。なお、図1(a)に示す基材(10)の構成は、基材(10)の一部が凹凸領域(5)となっている構成を示しているが、基材(10)全体が凹凸領域(5)となっていてもよい。第1の画像部(11)は、凹凸領域(5)の凹部が色材(20)によって埋められてなる第1の要素(30a)が形成され、第2の画像部(12)は、同じ色材(20)によって、第1の要素(30a)とは異なる構成の第2の要素(30b)が形成されることで、異なる平滑性の第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が形成される。なお、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の詳細な構成については後述する。
第1の実施の形態の印刷物(1)は、所定の観察角度から観察する角度を変化させたときに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の平滑性の差により反射光量の差が生じて、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が区分けして視認され、視認される画像が変化することで、真偽判別することができるものである。以降は、本発明の第1の実施の形態の印刷物(1)の詳細な構成について説明する。
本発明は、前述のように、凹凸を有する基材(10)を用いる。このような基材(10)としては、紙又はプラスチックカード等が挙げられる。例えば、紙を基材(10)とする場合には、繊維により形成された凹凸部分を凹凸領域(5)とすることができる。また、表面にマット加工が施されたプラスチックカード等を基材(10)とする場合には、微細で、かつ、一様な凹凸形状が人工的に付与されたものを凹凸領域(5)とすることができる。このような基材(10)は、いずれも一般的に市販されており、入手は容易である。
第1の実施の形態において、第1の画像部(11)は、三角形の図形で形成される例であるが、他の図形で形成されてもよいし、文字、数字、記号、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組合せで形成されてもよい。また、第1の実施の形態において、印刷画像(6)の構成は、図1(a)に示すように、第1の画像部(11)を囲むように第2の画像部(12)が設けられているが、図1(b)に示すように、第1の画像部(11)が第2の画像部(12)を囲む構成でもよいし、図1(c)に示すように、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が離れていてもよいし、図1(d)に示すように、隣接する配置でもよい。また、第2の画像部(12)においても、三角形の図形の他に、文字、数字、記号、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組合せで形成されてもよい。
図2は、第1の画像部(11)の構成を示す図である。図2(a)は、第1の画像部(11)の一部を拡大した図であり、基材(10)を正面から観察した図である。第1の画像部(11)は、第1の色材(20a)から成る第1の要素(30a)が複数形成された構成である。
第1の画像部(11)に形成する第1の要素(30a)の個数は任意であるが、第1の要素(30a)の数が多いほど、第1の画像部(11)を濃い色として観察することができる。
第1の要素(30a)の形状は、図2に示したような円形に限るものではなく、例えば、四角形や楕円等の幾何学形状、文字やロゴマークのような意匠形状、直線や曲線等の線形状であってもよい。さらに、第1の画像部(11)に形成される複数の第1の要素(30a)の形状は、全てが同一形状である必要はなく、複数の形状の第1の要素(30a)が混在していても構わない。
図2(b)は、図2(a)に示すX−X’線上に形成された一つの第1の要素(30a)の断面を模式的に示した図である。本発明における第1の要素(30a)は、図2(b)に示すように、凹凸領域(5)の凹部が、第1の色材(20a)によって埋められてなる。本発明において、「凹部が第1の色材(20a)で埋められる」とは、図2(b)に示すように、凹凸領域(5)の凸部表面と同じ高さ又は凸部表面を超える高さまで第1の色材(20a)が形成されることであり、結果として、凹凸領域(5)の表面の平滑性が高くなった状態である。
また、本発明において第1の要素(30a)は、図2(b)で示した凹凸領域(5)の一つの凹部が第1の色材(20a)で埋められた状態の第1の要素(30a)に対して、図2(c)に示すように、2つの凹部に跨って形成されてもよいし、さらに、多数の凹部に跨って形成されてもよい(図示せず)。また、図2(d)に示すように、一つの凹部の一部に凸部表面と同じ高さ又は凸部表面を超える高さまでの第1の色材(20a)が形成されていればよく、一つの凹部が完全に色材(20)で埋められる必要はない。この理由は、図2(b)及び図2(c)に示す第1の要素(30a)は面積が異なるが、第1の色材(20a)によって凹部が埋められた状態の第1の要素(30a)は、第1の要素(30a)の一つあたりの面積に関係なく、印刷物(1)を傾けて観察した場合に、同じように反射率が異なって、第1の要素(30a)が形成される第1の画像部(11)が第2の画像部(12)と区分けされるからである。なお、傾けて観察した場合に視認される画像についての詳細な説明は後述する。また、第1の要素(30a)は、図2(b)乃至図2(d)に示す構成の組合せであってもよい。
図3は、第2の画像部(12)の構成を示す図である。図3(a)は、第2の画像部(12)の一部を拡大した図であり、基材(10)を正面から観察した図である。第2の画像部(12)は、第1の色材(20a)から成る第2の要素(30b)が複数形成された構成である。
第2の画像部(12)に形成する第2の要素(30b)の個数は任意であるが、第2の要素(30b)の数が多いほど、第2の画像部(12)を濃い色として観察することができる。
以上に説明した点は、第1の要素(30a)と同様であり、第1の要素(30a)と異なる点について続いて説明する。
図3(b)は、図3(a)に示すY−Y’線上に形成された一つの第2の要素(30b)の断面を模式的に示した図である。第2の要素(30b)の構成は、図3(b)に示すように、単位面積当たりの色材(20)の転移量が第1の要素(30a)よりも少ないことで、凹凸領域(5)の凹部が埋められない状態となる。なお、ここでいう単位面積当たりの色材(20)の転移量とは、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)が同じ面積で形成されたときの、基材(10)の上に形成される色材(20)の量のことであり、凹凸領域(5)上に形成された色材(20)の膜厚と同様である。仮に、面積を一定としたときに、色材(20)の転移量が変化すれば、結果的に、色材(20)の膜厚が変化する結果となる。
また、本発明において第2の要素(30b)は、図3(b)で示した凹凸領域(5)の一つの凹部に、一つの第2の要素(30b)が形成される構成に対して、図3(c)に示すように、一つの凹部に第2の要素(30b)が複数形成される構成であってもよい。また、第2の要素(30b)の一つあたりの面積は、第1の要素(30a)一つあたりの面積より大きくてもよいし、第1の要素(30a)より小さくてもよいし、同じ大きさであってもよい。この理由は、第1の色材(20a)によって凹部が埋められない状態の第2の要素(30b)は、第2の要素(30b)の一つあたりの面積に関係なく、印刷物(1)を傾けて観察した場合に、第1の要素(30a)と反射率が異なって、第2の要素(30b)が形成される第2の画像部(12)が第1の画像部(11)と区分けされるからである。なお、傾けて観察した場合に視認することができる画像についての詳細な説明は後述する。
また、前述した第1の要素(30a)と同様に、第2の要素(30b)は、必ずしも図3で示したような円形である必要はなく、例えば、四角形や楕円等の幾何学形状、文字やロゴマークのような意匠形状、直線や曲線等の線形状であってもよい。さらに、第2の画像部(12)に形成される複数の第2の要素(30b)の形状は、全てが同一形状である必要はなく、複数の形状の第2の要素(30b)が混在していても構わない。
凹部が第1の色材(20a)で埋められない状態の第2の要素(30b)は、凹部が第1の色材(20a)で埋められた状態の第1の要素(30a)と比べて平滑性が低い状態であり、第1の要素(30a)は、第2の要素(30b)と比べて平滑性が高い状態で形成される。前述した、「異なる平滑性の第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が形成される」とは、平滑性が高い第1の要素(30a)が形成される第1の画像部(11)と、平滑性の低い第2の要素(30b)が形成される第2の画像部(12)において、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)が同じ面積で形成された凹部を含む凹凸領域(5)の平滑性が異なることであり、平滑性の高い第1の要素(30a)が形成される第1の画像部(11)は、平滑性の低い第2の要素(30b)が形成される第2の画像部(12)と比べて、平滑性の高い領域となっている。
本発明において、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、印刷物(1)の略正面から見て等色又は異なる濃度の色で形成される。なお、本発明において、「等色」とは、観察者が二つの観察対象を同じ色であると感じる状態のことであり、二つの観察対象の色差ΔEが1.5以下の値にある状態のことである。ΔEが1.5を超える場合、二つの観察対象が区別して視認される。なお、ここでいう色差ΔEとは、CIE1976L*a*b*表色系で定義されるΔEのことである。CIE1976L*a*b*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。CIE1976L*a*b*表色系では、二色のL*の差、a*の差及びb*の差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとったものが色差ΔEとなる。
第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を等色で形成した場合、印刷物(1)を正面から観察すると、印刷画像(6)を一定の濃度のベタ画像として視認することができる。また、異なる濃度で形成した場合、印刷物(1)を正面から観察すると、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の間に濃度差が生じて、各画像部が形成する図形、文字、数字、記号、図柄、マーク及び模様等を視認することができる。
一つの第1の要素(30a)と一つの第2の要素(30b)の大きさ(詳細には外周)が異なる場合において、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を等色又は異なる濃度で形成するためには、第1の画像部(11)に配置する第1の要素(30a)の面積率と、第2の画像部(12)に配置する第2の要素(30b)の面積率とを、調整する必要がある。なお、本発明において「面積率」とは、基材(10)の一定の面積の中に印刷される要素の面積の割合のことであり、面積率が高いほど色材(20)の色が濃い濃度として観察することができ、面積率が低いほど色材(20)の色を薄い濃度として観察することができる。実際に印刷物(1)を作製する場合には、以下に説明する光学的ドットゲインに代表される様々な影響を受けて、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が、完全に同じ面積率であっても、小さい要素が配置される画像部の方が濃い濃度として観察される。
光学的ドットゲインとは、図4(a)の断面図に示すように、色材(20)の近傍から基材(10)へ入射した光が、基材(10)内部での複雑な反射と散乱によって、そのうちの一部が色材(20)の基材寄りの面で吸収されてしまい、観測されない現象である。このため、図4(b)と図4(c)で示した印刷物のように、基材(10)に付与された色材(20)の面積の合計が同じであっても、図4(c)の方が基材(10)に付与された色材(20)の外周の長さの合計が長く、色材(20)近傍に該当する領域が大きいため、図4(c)の方が光学的ドットゲインにより色材(20)に吸収される光の量が多くなる。したがって、実際に印刷物(1)を作製する場合には、このような光学的ドットゲインの影響を加味して、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)の面積率を適宜調整して、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を等色又は異なる濃度にする必要がある。
仮に、図4(b)を第1の画像部(11)、図4(c)を第2の画像部(12)とすると、図4(b)で基材(10)に付与されている色材(20)は、第1の要素(30a)に相当し、図4(c)で基材(10)に付与されている色材(20)は、第2の要素(30b)に相当する。このとき、実際の印刷物では、面積率が同じであれば第2の画像部(12)の方が吸収される光の量が多いため、図4(b)に示す第1の画像部(11)の面積率を高くするか、図4(c)に示す第2の画像部(12)の面積率を低くすることで等色にすることができる。具体的には、図4(b)に示す第1の要素(30a)を大きくするか、図4(c)に示す第2の要素(30b)を小さくするか、図4(b)に示す第1の要素(30a)の数を増やすか、図4(c)に示す第2の要素(30b)の数を減らすか、のいずれかとすればよい。また、前述の方法を組み合わせて面積率を調整してもよい。
第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を異なる濃度で形成する場合、第1の画像部(11)を第2の画像部(12)より濃い濃度(第1の画像部(11)の面積率が第2の画像部(12)の面積率より高い)で形成してもよいし、第2の画像部(12)を第1の画像部(11)より濃い濃度(第2の画像部(12)の面積率が第1の画像部の面積率より高い)で形成してもよい。
なお、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)を一般的な網点印刷物における網点と見立てると、第1の画像部(11)及び第2の画像部(12)の面積率と色濃度に関する上記の内容は、いずれも網点印刷物の面積率と色濃度の関係として一般に知られている内容であり、前述した光学的ドットゲインや、色材(20)表面の光沢等の影響を加味した上で、適宜、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の面積率を調整することで、任意の色濃度の第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を形成することができる。
本発明で用いる色材(20)は、例えば、乾式トナー又はUV硬化インキを用いることができる。
以下に、本発明における印刷物(1)の作製方法の例を示す。
本発明における印刷物(1)の作製方法として、例えば、レーザープリンタのように、色材(20)として乾式トナーを用い、基材(10)へ色材(20)を付与した後、ローラ等により熱及び圧力を色材(20)に加えることで、色材(20)を一時的に軟化及び/又は溶融させ、色材(20)を基材(10)へ定着させる方法がある。この方法による印刷物の作製方法の例について、模式図を用いて以下詳細に説明する。
この方法で第1の要素(30a)を形成する場合、例えば、図5(a)に示したように凹部を埋め尽くす程度の量の色材(20)を基材(10)へ付与する。基材(10)の凹部に色材(20)を付与する量については、基材(10)の凹部の体積にもよるので、使用する基材(10)に応じて凹部を埋め尽くす程度の色材(20)を付与すればよい。また、必ずしも1度の色材(20)の付与で基材(10)の凹部を埋め尽くす必要はなく、例えば、基材(10)に印刷を複数回施すことによって、基材(10)の凹部を埋め尽くしてもよい。色材(20)を付与した後、ローラ等によって基材(10)表面に熱及び圧力をかけると、基材(10)へ色材(20)が定着するだけではなく、以下に説明する二つの現象が起こり得る。その一例は、色材(20)同士が溶け合って一つの集合体になる現象であり、また、別の一例は、ローラに接する色材(20)がローラにより潰されて成形されることにより、表面の平滑性が高くなる現象である。以上に説明した方法によって、図5(b)に示す平滑性の高い第1の要素(30a)を形成することができる。
一方、第2の要素(30b)を形成する場合、図6(a)に示すように、例えば、色材(20)を、凹部が完全に埋め尽くさない程度の量として基材(10)へ付与する。図6(a)に示す例では、色材(20)を分散させて付与しており、この場合、ローラ等によって基材(10)表面に熱及び圧力をかけても、色材(20)同士が離れて付与されているため、図6(b)に示すように、一つの大きな集合体を形成し難い。また、仮に、図6(c)に示すように、一部の色材(20)同士が溶け合って一つの集合体になったとしても、基材(10)の凹部を埋め尽くさない程度の量の色材(20)が付与された場合には、色材(20)が基材(10)の凹凸の影響を受けるとともに、色材(20)が基材(10)凹部にあってローラの圧力による前述の成形効果を受けにくいため、第1の要素(30a)と比べて平滑性が低い状態となる。
また、本発明における印刷物(1)の別の作製方法として、例えば、UVインクジエットプリンタのように、色材(20)としてUV硬化インキを用い、色材(20)を撥水性の高い基材(10)へ付与した後、速やかに紫外線を照射して色材(20)を硬化させることで、色材(20)を基材(10)へ定着させる方法がある。この場合も、ローラによる熱及び圧力の付与はないものの、レーザープリンタによる作製時と同様の理由で、第1の要素(30a)及び第2の要素(30b)を形成することができる。
以上の説明において、基材(10)が有する凹凸領域(5)の凹部の大きさについては特に限定していないが、本発明における第2の要素(30b)は、色材(20)で基材(10)の凹部を完全に埋めない状態の構成であることから、基材(10)の凹部の大きさが、前述した大きさのトナー又はUV硬化インキ液滴よりも大きい必要がある。本発明で基材(10)として用いる、紙又はプラスチックカードにおいて、この条件を満たしていれば、凹部の大きさは特に限定がない。なお、基材(10)表面の凹凸による粗さの状態を数値で評価する方法の一つに、ISO5627で定められるベック平滑度がある。ベック平滑度は、基材(10)表面の凹凸の大きさを限定するものではないが、平滑度が高くなると、凹部の大きさが小さくなる傾向がある。このような凹部の大きさと平滑度の関係がある中で、印刷物(10)の作製のために平滑度が100秒以上の基材(10)を用いると、第2の方向(2b)から観察したときに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の反射率の差を得る効果が低下したことから、好ましくは、ベック平滑度が100秒以下の基材(10)を用いるのがよい。
このようにして、本発明における印刷物(1)を作製することが可能である。
本発明による印刷物(1)の効果を図7に示す。はじめに、本発明の印刷物(1)を観察する条件について説明する。
図7は、本発明の印刷物(1)を観察する条件を模式的に示す図である。図7に示す第1の方向(2a)とは、印刷物(1)に対して垂直方向をZ軸としたときに、印刷物(1)に対して略正面となる方向である。第1の方向(2a)がZ軸方向となる角度の絶対値は、0度以上20度以下の範囲内である。
第2の方向(2b)とは、印刷物(1)に対して略平行となる方向である。第2の方向(2b)がZ軸方向と成す角度の絶対値は、60度以上90度未満の範囲内である。
第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を、第1の方向(2a)から観察した場合に等色として観察されるように形成した本発明の印刷物(1)について、以下説明する。このとき、第1の方向(2a)から観察した印刷物(1)は、図8(a)に示すように、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、等色として視認され区別することができない。また、印刷物(1)を第2の方向(2b)から観察すると、図8(b)に示すように、第1の画像部(11)が第2の画像部(12)よりも明るい色として観察されることにより、三角状の像を視認することができる。前述した、所定の観察角度とは、第1の方向(2a)又は第2の方向(2b)のうちのいずれか一方の方向のことであり、観察する角度を変化させたときの観察角度とは、残りの方向のことである。図8に示す視認される画像が変化する例では、第1の方向(2a)から第2の方向(2b)に観察角度を変化させた状態である。
なお、本発明の印刷物(1)を観察する際、例えば、印刷物(1)を蛍光灯や太陽光のような光源にかざして観察してもよいが、間接照明の室内のようなほぼ散乱光のみが存在するような観察条件下であっても、上記の効果は問題なく得られる。
このような効果が得られる理由について、図9に示す単純化したモデルを用いて、以下に説明する。
まず、図9(a)に示す基材(10)と平行な色材(20)表面における光の反射について説明する。
図9(a)に示す色材(20)表面の法線方向をDと定義し、色材(20)への入射光をIinと、色材(20)表面による入射光の反射光をIoutと、それぞれ定義する。このとき、入射光がDと成す角度の絶対値がαだとすると、電磁波の法則の1つであるスネルの法則により、反射光がDと成す角度の絶対値もαになる。
また、入射光の強度に対する反射光の強度の割合である、反射率をRと定義する。また、印刷物(1)周辺の空気の屈折率がn1であり、さらに第1の色材(20a)が透明で、かつ、均一な物質であると仮定し、その屈折率がn2であるものとする。
n2≧n1のとき、電磁波の法則を表す式の一つであるフレネルの公式により、光のエネルギーの反射率Rは以下の式で表わされる。
前述した式におけるRを縦軸、光の入射角αを横軸としてプロットしたグラフが図10である。なお、市販されている一般的な色材(インキ及びトナー)は、屈折率1.3〜1.7程度の材料(油脂や合成樹脂等)が成分の大部分を占めるため、図10では、色材(20)の屈折率n2=1.6の例について、グラフをプロットしたものである。このとき、n1は空気の屈折率を想定しており、ここでは、近似的にn1=1としている。また、グラフによる図示は省略するが、前述した式によれば、図10で示した以外のn2/n1の値についても同様に、光の入射角が90°に近づくにつれて反射率が急激に高くなり、1に近づく。
実際は、本発明で用いる色材(20)が顔料、染料及びワニス等の混合物であることから、完全な透明材料として扱うことも、単一の屈折率n2で記述することもできない。しかし、色材(20)の一部が光を吸収したとしても、色材(20)の部位ごとに屈折率が異なるとしても、光の入射角が90°に近づくにつれて反射率が高くなるという特性自体は概ね保たれるため、以下の議論に影響を与えない。
次に、基材(10)上に色材(20)が付与されており、基材(10)平面に対する垂直方向をZとし、色材(20)表面の法線方向をDとし、ZとDが図9(b)に示すように角度θをなす場合を考える。
このとき、印刷物(1)の観察方向である、Zと反射光がなす角度を改めてαと定義し、αが90°近くの場合を考える。Dと反射光がなす角度は(α−θ)であることから、スネルの法則によりDと入射光がなす角度も(α−θ)となる。よって、αが90°近くとなる条件下では、色材(20)表面における光の反射率は低くなり、反射光は弱くなる。
上記説明の具体例として、図9(a)で示す印刷物と図9(b)で示す印刷物を、共にα=85°となるような角度から観察し、更には図9(b)の色材(20)表面の角度がθ=10°であるような場合を考える。これら二つの観察条件は、色材(20)表面の角度が異なる他は、全く同じ条件下で行われる。このとき、図9(a)の印刷物の色材(20)表面で反射されて観察される反射光は、入射角及び反射角が85°であるような反射光である。一方、図9(b)では、色材(20)表面が基材(10)に対して10°傾いているため、色材(20)表面で反射されて観察される反射光は、入射角及び反射角が85°−10°=75°であるような反射光である。ここで、色材(20)の空気に対する屈折率である、すなわち、n2/n1が仮に1.6であるとすると、図10のグラフより、横軸が85°となる位置での縦軸の値は約0.62となり、横軸が75°となる位置での縦軸の値は約0.27となる。すなわち、上記の条件下では、図9(a)の印刷物と図9(b)の印刷物で、色材(20)表面で反射されて観測される光の反射率に、2倍以上の差が生じることになる。
次に、基材(10)上に色材(20)が付与されており、基材(10)平面に対する垂直方向をZとし、色材(20)表面の法線方向をDとし、ZとDが図9(c)に示すように角度θをなす場合を考える。
このとき、前述した考え方と同様に、図9(a)の状態と図9(c)の状態を比較して、αが共に同じ値で、かつ、90°近くの場合は、図9(c)の状態の方が色材(20)表面での光の反射率は高くなる。
しかし、図9(c)の入射光Iinの向きから分かるように、この場合は、光の入射元を基材(10)がふさいでいるため、外光が直接色材(20)表面に入射するのではなく、基材(10)を透過してきた透過光又は基材(10)での散乱光が入射光になる。よって、印刷物(1)を通常の反射状態で観察している場合、色材(20)表面での反射率は高いものの、入射光自体が弱いため、結果として反射光は弱くなる。さらに、θ及びαの値が大きく、角度(θ+α)が90度を超える場合は、インキ表面からの反射光は観察位置に届かない。
以上の内容をまとめると、図9(a)に示すようにθの値が0に近い場合は、αが90°近くとなるような観察条件下である、すなわち、第2の方向(2b)から観察したときに、色材(20)表面で反射されて観察される光は強く、図9(b)又は図9(c)で示すようにθの値が0から離れている場合は、αが90°近くとなるような観察条件下である、すなわち、第2の方向(2b)から観察したときに、色材(20)表面で反射されて観察することができる光は弱い。
本発明においては、表面の平滑性が高い第1の要素(30a)は、図11(a)で模式的に示すようにθの値が0に近い部分が多く、表面の平滑性が低い第2の要素(30b)は、図11(b)及び(c)で模式的に示すようにθの値が0から離れた部分が多いが、第1の方向(2a)に相当する0°〜20°から観察した場合には、図10に示したように光の反射率は略一定であるため、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)の光の反射率の差は小さい。また、前述のとおり、ここでは、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を、第1の方向(2a)から観察して等色で見えるように形成した本発明の印刷物(1)について説明していることから、第1の方向(2a)から見た場合に第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を等色として区別することなく視認することができる。
さらに、本発明においては、表面の平滑性が高い第1の要素(30a)は、図11(a)で模式的に示すようにθの値が0に近い部分が多いため、第2の方向(2b)から観察した場合、主に図9(a)に示すモデルと同じ作用が生じて、第1の要素(30a)を第1の方向(2a)から観察した場合と比べて光の反射率が高くなる。よって、第1の要素(30a)が複数形成される第1の画像部(11)は、色材(20)表面で反射されて観察される光の量が多いため、第1の方向(2a)から観察したときよりも明るく見える。
一方、表面の平滑性が低い第2の要素(30b)は、図11(b)及び(c)で模式的に示すようにθの値が0から離れた部分が多いため、第2の方向(2b)から観察した場合、主に図9(b)及び図9(c)に示すモデルと同じ作用が生じて、第1の要素(30a)を第1の方向(2a)から観察した場合と比べて、光の反射率は高くはならない。よって、第2の要素(30b)が複数形成される第2の画像部(12)は、色材(20)表面で反射されて観察することができる光の量が少ないため、第1の要素(30a)が複数形成される第1の画像部(11)よりも暗く見える。このように、第1の方向(2a)から観察した際に等色で視認することができる第1の画像部(11)と第2の画像部(12)であるが、第2の方向(2b)から観察した際に光の反射量の差が生じることで明るさの違いが生じて、三角状の像を視認することができる。
実際に、今回の発明では、凹凸のある基材(10)を用いることを前提としているため、基材(10)の凹凸による影響を考慮する必要がある。
しかし、この場合でも、第1の画像部(11)が有する第1の要素(30a)は、例えば、図2(b)に示すように、第1の色材(20a)で凹凸領域(5)の凹部が埋められた状態の要素であるため、基材(10)の凹凸による影響を受けない。
一方で第2の画像部(12)が有する第2の要素(30b)は、前述のとおり基材(10)の凹凸がなくとも、観察方向にかかわらず外光の反射量が少なかったのに加え、例えば、図3(b)に示すように、凹凸領域(5)の凹部を埋めない状態の第2の要素(30b)は、基材(10)の凹凸により光の一部が遮られることによって、更に色材(20)表面からの反射光量が少なくなる。
このように、基材(10)の凹凸を含めて考慮した場合においても、本発明の印刷物(1)は、基材(10)の凹凸領域(5)に形成された第1の要素(30a)と第2の要素(30b)において、第2の方向(2b)から観察したときに反射率が異なるので、画像の変化を視認することができる。
続いて、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を、第2の方向(2b)から観察した際に等色として観察されるように形成した本発明の印刷物(1)の効果について説明する。第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の色の濃淡を調整して等色にする方法は、一般的な網点印刷物の色の濃淡を調整する前述の方法と同様であり、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の面積率を調整し、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を等色にすればよい。なお、印刷画像(6)が、図12に示す第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の図柄で形成される例で説明する。
第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が、第2の方向(2b)から観察した際に等色として観察されるように形成した印刷物(1)において、印刷物(1)を第2の方向(2b)から観察した状態を、図12(b)に示す。このとき、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、等色として観察されることで区別することができないが、前述のとおり、第1の要素(30a)により構成される第1の画像部(11)は、第2の要素(30b)により構成される第2の画像部(12)よりも、外光の反射光をより多く含んでいる。続いて、この印刷物(1)の観察方向を第2の方向(2b)から第1の方向(2a)へと変化させると、前述のとおり、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)の反射率が同程度にまで小さくなって、暗く見える。しかし、この外光の反射率が小さくなることによる影響は、第2の方向(2b)から観察した際に外光をより多く反射していた第1の要素(30a)の方が、第2の要素(30b)よりも大きい。これにより、第2の方向(2b)から観察して第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が等色として観察されるように形成した印刷物(1)は、第1の方向(2a)から観察すると、図12(a)に示すように、反射率の変化が大きい第1の要素(30a)が複数形成される第1の画像部(11)は、第2の画像部(12)よりも暗く見える結果、印刷画像(6)中に、三角状の像を視認することができる。
これまでに説明した例の他にも、第1の方向(2a)及び第2の方向(2b)から観察した際に、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)のうち、どちらの画像部の色が濃い(又は等しい濃度)かについては、前述した実施の形態以外にもあらゆるバリエーションが考えられる。しかし、これらは印刷物(1)作製時の第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の各面積率に違いがあるだけで、印刷物(1)の構成も原理も全て等しいため、説明を省略する。
以上に説明したように、本発明の第1の実施の形態における印刷物(1)は、第1の方向(2a)から観察した場合と第2の方向(2b)から観察した場合で、視認することができる画像が変化し、これによって真偽判別をすることができる。また、本発明の印刷物(1)は、特殊なインキや材料を用いることなく、一般的なトナー又はUV硬化インキ等の色材と、一般的な市販用紙のみを用いることで作製が可能である。
以上が本発明の第1の実施の形態における印刷物(1)の説明である。以降に説明する本発明の印刷物(1)は、第1の実施の形態の印刷物(1)に対して、第1の色材(20a)と異なる色の第2の色材(20b)によって、凹部を埋めない状態の第3の要素(31b)と、凹部が埋められた状態の第4の要素(31a)を形成した印刷物(1)である。続いて、第3の要素(31b)と第4の要素(31a)が形成される本発明の印刷物(1)の詳細について説明する。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、第1の画像部(11)に、第1の色材(20a)と異なる色の第2の色材(20b)を用いて第3の要素(31b)を形成し、第2の画像部(12)に、第2の色材(20b)を用いて第4の要素(31a)を形成した印刷物(1)である。なお、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の詳細な構成ついては後述する。
第2の実施の形態の印刷物(1)は、所定の観察角度から観察すると各画像部に形成される二つの要素を構成する二つの色材(20)の色が混色した状態として視認される。そして、所定の観察角度から観察する角度を変化させたとき、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の平滑性の差により反射光量の差が生じて、二つの色材(20)の混色として視認された各画像部は、第1の色材(20a)と第2の色材(20b)の色が互いに異なる色で強調されて視認されることで、真偽判別することができる。以降、本発明の第2の実施の形態の印刷物(1)の詳細な構成について説明する。
第2の実施の形態における印刷物(1)の構成の一例を図13及び図14を用いて説明する。なお、印刷画像(6)を構成する第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、第1の実施の形態と同様に、図1(a)に示す構成の例で説明する。
図13(a)は、第1の画像部(11)の一部拡大図であり、図13(b)は、第2の画像部(12)の一部拡大図である。第1の画像部(11)は、図13(a)で示すように、第1の色材(20a)から成る複数の第1の要素(30a)と、第1の色材(20a)とは異なる色の第2の色材(20b)から成る複数の第3の要素(31b)が形成される。また、第2の画像部(12)は、図13(b)で示すように、第1の色材(20a)から成る複数の第2の要素(30b)及び第2の色材(20b)から成る複数の第4の要素(31a)が形成される。
図14(a)は、図13(b)に示すY−Y’線における第4の要素(31a)が形成された領域の断面を模式的に示した図であり、第4の要素(31a)は、凹凸領域(5)の凹部が、第2の色材(20b)によって埋められた状態である。
図14(b)は、図13(a)に示すX−X’線における第3の要素(31b)が形成された領域の断面を模式的に示した図である。第3の要素(31b)の構成は、図14(b)に示すように、第2の色材(20b)が、凹凸領域(5)の凹部を埋めない状態の構成である。第3の要素(31b)が形成される部分は、凹凸領域(5)の凹部が埋められていない状態であり、凹部が埋められた状態の第4の要素(31a)と比べて平滑性が低い状態となっている。
すなわち、構成する色材(20)の種類が異なる点を除けば、第4の要素(31a)は第1の要素(30a)と同様の構造であり、第3の要素(31b)は第2の要素(30b)と同様の構造である。このことから、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)に関する前述の原理は、第4の要素(31a)と第3の要素(31b)についてもそのまま当てはまる。
第2の実施の形態において、複数の第1の要素(30a)と複数の第3の要素(31b)のそれぞれは、必ずしも図13(a)のように規則正しく配列している必要はない。ただし、第1の画像部(11)が一様に見えるように、第1の画像部(11)内のいずれの範囲においても第1の要素(30a)の面積率が等しくなるよう、第1の画像部(11)内に第1の要素(30a)が配置され、第1の画像部(11)内のいずれの範囲においても第3の要素(31b)の面積率が等しくなるよう、第1の画像部(11)内に第3の要素(31b)が配置される。同様に、複数の第2の要素(30b)と複数の第4の要素(31a)のそれぞれは、必ずしも図13(b)のように規則正しく配列している必要はない。ただし、第2の画像部(12)が一様に見えるように、第2の画像部(12)内のいずれの範囲においても第2の要素(30b)の面積率が等しくなるよう、第2の画像部(12)内に第2の要素(30b)が配置され、第2の画像部(12)内のいずれの範囲においても第4の要素(31a)の面積率が等しくなるよう、第2の画像部(12)内に第4の要素(31a)が配置される。
また、第1の方向(2a)から観察した第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の第1の色材(20a)による色濃度を、任意の濃度として形成することができることは、第1の実施の形態で説明したとおりである。第2の色材(20b)についても、これと同様であり、第1の方向(2a)から観察した第2の色材(20b)による各画像部の色濃度は、第3の要素(31b)が第1の画像部(11)において占める面積率及び第4の要素(31a)が第2の画像部(12)において占める面積率を調整することで、任意の濃度にすることが可能である。
また、第1の方向(2a)から観察した際に、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が等色として観察されるように印刷画像(6)を形成する場合には、第1の要素(30a)と第2の要素(30b)の面積率を適宜調整して、第1の色材(20a)によって形成する第1の画像部(11)と第2の画像部(12)における色濃度を第1の方向(2a)から見て等しくし、第3の要素(31b)と第4の要素(31a)の面積率を適宜調整して、第2の色材(20b)によって形成する第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の色濃度を第1の方向(2a)から見て等しくすればよい。また、第1の方向(2a)から観察したときに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が異なる色の印刷画像(6)を形成する場合には、第1の色材(20a)によって形成する第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の色濃度と、第2の色材(20b)によって形成した第1の画像部と第2の画像部における色濃度のうち、一方又は両方を第1の方向(2a)から見て異ならせればよい。このとき、第1の方向(2a)から見て異なる色濃度とする色材(20)で形成される第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、第1の画像部(11)が第2の画像部(12)より濃い濃度で形成してもよいし、第2の画像部(12)が第1の画像部(11)より濃い濃度で形成してもよい。
さらに、第2の方向(2b)から観察した第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の第1の色材(20a)による色濃度は、任意の濃度になるように第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を形成することが可能であることも、第1の実施の形態で示した。同様に、第2の色材(20b)についても、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)において、第2の方向(2b)から観察した各画像部の第2の色材(20b)による色濃度は、任意の濃度になるように第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を形成することが可能である。よって、第1の方向(2a)に関する上述の内容がそのまま当てはまり、第2の方向(2b)から観察して第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の第1の色材(20a)による色濃度が等しくなり、更には第2の方向(2b)から観察して第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の第2の色材(20b)による色濃度が等しくなるように、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を形成することで、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が第2の方向(2b)から観察したときに等色として観察されるような印刷物(1)が得られる。また、第2の方向(2b)から観察して第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の第1の色材(20a)による色濃度又は第2の色材(20b)による色濃度の少なくとも一方の濃度が異なるように、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を形成すれば、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が第2の方向(2b)から観察して異なる色として観察される印刷物(1)が得られる。
第3の要素(31b)と第4の要素(31a)の作製方法は、第1の実施の形態で説明した第1の要素(30a)と第2の要素(30b)と同様であるため、説明を省略する。
第2の実施の形態の印刷物(1)の効果を図15に示す。はじめに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を、第1の方向(2a)から観察した際に等色として観察されるように形成された印刷物(1)の例について説明する。この場合、第1の方向(2a)から観察すると、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)に配置された各要素が微細であるため、各画像部は、第1の色材(20a)と第2の色材(20b)の色が混色して見える。このとき、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の第1の色材(20a)による色濃度が等しく、第2の色材(20b)による第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の色濃度が等しいことから、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、結果的に、同じ色濃度の混色として見えて、図15(a)に示すように、等色として視認され、区別することができない。
また、同印刷物(1)を第2の方向(2b)から観察すると、図15(b)に示すように、第1の画像部(11)が有する表面の平滑性が高い第1の要素(30a)は第2の画像部(12)が有する表面の平滑性が低い第2の要素(30b)よりも外光を強く反射して明るく見え、同時に第2の画像部(12)が有する表面の平滑性が高い第4の要素(31a)は第1の画像部(11)が有する表面の平滑性が低い第3の要素(31b)よりも外光を強く反射して明るく見えて、色の差が生じて三角状の像を視認することができる。詳細には、第1の実施の形態で説明した原理によって、第1の要素(30a)と第4の要素(31a)の光の反射率が高くなり、第1の画像部(11)は、明るい第1の色材(20a)の色と暗い第2の色材(20b)の色が混色する結果、第2の色材(20b)の色が強調され、第2の画像部(12)は、反対に暗い第1の色材(20a)の色と明るい第2の色材(20b)の色が混色する結果、第1の色材(20a)の色が強調され、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、第2の方向(2b)から見た場合は異なる色に見える。
続いて、第1の方向(2a)から観察した際に、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が異なる色として観察されるように形成した第2の実施の形態の印刷物(1)の効果について図16を用いて説明する。ここでは、第1の方向(2a)から観察して、第1の画像部(11)の第1の色材(20a)による色濃度が、第2の画像部(12)の第1の色材(20a)による色濃度より高く、第2の画像部(12)の第2の色材(20b)による色濃度が、第1の画像部(11)の第2の色材(20b)による色濃度より高い例で説明する。
この場合、印刷物(1)を第1の方向(2a)から観察すると、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、第1の色材(20a)と第2の色材(20b)の色が混色して見える中、第1の画像部(11)は、第1の色材(20a)の色が強調され、第2の画像部(12)は、第2の色材(20b)の色が強調され、結果的に、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)で色の差が生じて、図16(a)に示すように、三角状の像を視認することができる。
また、印刷物(1)を第2の方向(2b)から観察した際には、第1の要素(30a)と第4の要素(31a)の光の反射率が高くなり、第1の画像部(11)は、明るい第1の色材(20a)と暗い第2の色材(20b)が混色する結果、第2の色材(20b)の色が強調され、第2の画像部(12)は、反対に暗い第1の色材(20a)と明るい第2の色材(20b)が混色する結果、第1の色材(20a)の色が強調され、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、印刷物(1)を第1の方向(2a)から観察した場合と比べて異なる色に見える。ここで説明した印刷物(1)では、図16(b)に示すように、第1の方向(2a)から第2の方向(2b)に観察角度を変えたときに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の色が反転して視認することができる効果が生じる。
このように、第2の実施の形態における印刷物(1)は、第1の方向(2a)と第2の方向(2b)で観察したときに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)の色が変化することで真偽判別することができる。
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、第1の画像部(11)に第1の色材(20a)から成る複数の第1の要素(30a)及び第2の色材(20b)から成る複数の第4の要素(31a)が形成され、第2の画像部(12)に第1の色材(20a)から成る複数の第2の要素(30b)及び第2の色材(20b)から成る複数の第3の要素(31b)が形成された印刷物(1)である。なお、第3の実施の形態において、第3の要素(31b)と第4の要素(31a)の構成は、第2の実施の形態で説明したとおりである。
第3の実施の形態は、第1の実施の形態で第1の色材(20a)を用いて印刷物(1)を作製しているのに対し、第1の色材(20a)及び第2の色材(20b)を用いて印刷物(1)を作製している点での差異はあるものの、第1の画像部(11)に凹部が色材(20)で埋められた状態である表面の平滑性が高い要素(第1の要素(30a)及び第4の要素(31a))が形成され、第2の画像部(12)に凹部が色材(20)で埋められない状態である表面の平滑性が低い要素(第2の要素(30b)及び第3の要素(31b)が形成されるという点で、第1の実施の形態と第3の実施の形態は共通している。
よって、このような印刷物(1)の効果は、第1の画像部(11)及び第2の画像部(12)が共に第1の色材(20a)と第2の色材(20b)の混色で見える点を除いて、第1の実施の形態の印刷物(1)の効果と同一である。第1の方向(2a)から観察するときには、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)は、第1の色材(20a)と第2の色材(20b)の混色が等色又は異なる濃度で見え、第2の方向(2b)から観察すると第1の画像部(11)に形成される第1の要素(30a)と第4の要素(31a)の反射率が高くなることで、視認することができる画像に変化が生じて、真偽判別することができる。
また、説明は省略するが、第2の実施の形態及び第3の実施の形態に対して、3種類以上の色材(20)を用いた同様の構成の印刷物(1)についても、同様の効果が得られる。例えば、第1の色材(20a)及び第2の色材(20b)と異なる色の三つ目の色材(20)によって、凹部が埋められた状態の要素と凹部が埋められない状態の要素を、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)にそれぞれ形成することで、三つの色材(20)の色が混色した状態として観察される印刷物(1)を作製することができる。
第1の実施の形態、第2の実施の形態及び第3の実施の形態で説明した、本発明の印刷物(1)は、基材(10)が備える凹凸領域(5)と、凹凸領域(5)の凹部が埋められた状態の第1の要素(30a)及び凹部が埋められない状態の第2の要素(30b)で構成されており、近年の分解能が高い複写機や商用の印刷機を用いて、単純に平面上の印刷画像を真似しただけでは、本発明の効果を奏する印刷物(1)を作製することはできないことから、偽造防止効果に優れる。
上記実施の形態に基づいて作製した実施例としての印刷物について、以下に説明する。また、本発明における印刷物と対比する目的により、本発明以外の印刷物を作製した実施例について、以下に説明する。
実施例1は、第1の実施の形態で説明した第1の方向(2a)から観察したときに、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が等色として観察される印刷物(1)である。実施例1の印刷物(1)を図17に示す。
実施例1の印刷物(1)を作製するため、基材(10)として、用紙(日本製紙株式会社製PPC用紙N70)を用い、印刷画像(6)を形成する手段としてカラーレーザープリンタ(RICOH社製IPSiO SP C411)を用いた。なお、実施例1で用いた用紙のベック平滑度は、35秒であり、用紙の表面を拡大して見ると凹凸があることを確認することができた。
はじめに、印刷画像(6)を形成するための画像データを、画像処理ソフトウェア(Adobe社製Photoshop)を用いて作成した。印刷画像(6)を形成するための画像データとして、画像処理ソフトウェア上で、図17(b)に示す解像度600DPIで、かつ、縦600個×横600個の画素から成る正方形状のRGB画像を作成した。このとき、正方形状のRGB画像のうち、左半分の縦600×横300個の画素には、図17(b)の拡大図に示すように、RGB全成分が255の白画素による背景と、RGB全成分が0の黒画素による直径6画素の円形を、縦横10画素おきに配置した。また、正方形状のRGB画像のうち、右半分の縦600×横300個の画素には、RGB全成分が190の明るさを持つ灰色画素を配置した。以上のように作成した画像データを基に、カラーレーザープリンタと同プリンタの純正ブラックトナーを用いて、用紙に対して白黒印刷を実施することにより印刷物(1)を得た。このとき、用紙の凹凸位置を把握することなく印刷を行った。
以上により得られた印刷物(1)を200倍の光学顕微鏡で観察したところ、印刷された画像の左半分に付与されたトナーの大部分は、用紙の製造時に自然に発生する凹凸の凹部を埋めるように付与されるとともに、プリンタ内のトナー定着用ローラによって熱及び圧力を加えられたことにより、表面が平滑になっていることから、本発明の第1の要素(30a)が形成されていることを確認することができ、同時に、印刷された画像の左半分が本発明の第1の画像部(11)として形成されていることを確認することができた。
一方、印刷された画像の右半分に付与されたトナーの大部分は、用紙の製造時に自然に発生する凹凸の凹部の一部に付与されるとともに、プリンタ内のトナー定着用ローラによって熱が加えられたことにより、一度溶融して基材(10)に定着していたものの、一か所に付与されたトナーの量が少ないため、表面張力によって球形に近い形状になっており、表面が平滑ではなく、本発明の第2の要素(30b)が形成されていることを確認することができ、同時に、印刷された画像の右半分が、本発明の第2の画像部(12)として形成されていることを確認することができた。また、印刷物作製時に、用紙の凹部の位置を把握せずにトナーを付与しているため、トナーの一部は用紙の凸部に付着し、トナーの別の一部は用紙の凹部を埋めつくすことをしなかったが、用紙に付着したトナーの大部分は、前述のとおり、第1の要素(30a)及び第2の要素(30b)を問題なく形成していることを観察により確認することができた。
実施例1の印刷物(1)を、蛍光灯照明の室内で肉眼により観察すると、印刷物(1)を第1の方向(2a)から観察した場合は、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)が略同濃度の灰色として観察され、第1の画像部(11)と第2の画像部(12)を区分けして視認することができず、印刷物(1)を第2の方向(2b)から観察した場合は、第1の画像部(11)の方が第2の画像部(12)よりも明るい灰色に見えて各画像部を区分けして視認することができた。また、実施例1の印刷物(1)を間接照明の室内で観察しても、前述の効果が同様に得られた。
(比較例1)
比較例1として、基材(10)に写真用紙(EPSON社製PM/MC写真用紙<半光沢>:型番KA420MSH)を用い、基材(10)以外は、実施例1と全く同一の条件で印刷を実施し、印刷物を得た。このとき、比較例1の印刷物を第2の方向(2b)から観察しても、各画像部が区分けして視認される効果は見られなかった。
そこで、比較例1の印刷物の表面を200倍の光学顕微鏡で観察したところ、第1の画像部に相当する部分のトナーも、第2の画像部に相当する部分のトナーも、どちらも平滑な用紙の表面上に平たく覆い被さった状態であった。これは、印刷時に平滑度の非常に高い用紙の上に乾式トナーが乗せられた後、プリンタ内のトナー定着用ローラによって熱及び圧力をかけられたためである。
この観察により、比較例1の印刷物は、使用した用紙の平滑性が非常に高いために基材(10)の凹凸よりも色材(20)であるトナーの粒子の方が大きく、本発明の前提の一つである、基材(10)の凹凸領域(5)の凹部を色材(20)が埋めない状態の第2の要素(30b)を形成することができなかったことが分かった。
(比較例2)
比較例2として、実施例1と同一の用紙、画像データ及び画像処理ソフトウェアを用いて、顔料系インクジェットプリンタ(Canon社製PIXUS iP4100)及び同プリンタの純正ブラックインクを用いて印刷物を作製した。比較例2の印刷物も、第2の方向(2b)から観察したときに、各画像部が区分けして視認される効果は見られなかった。
そこで、比較例2の印刷物の表面を200倍の光学顕微鏡で観察したところ、第1の画像部に相当する部分のインク皮膜も、第2の画像部に相当する部分のインク皮膜も、用紙表面の繊維上を薄く覆う状態であり、どちらの領域のインク皮膜も、繊維の凹凸をそのまま反映した凹凸形状であった。これは、印刷時にインクが表面張力等により紙繊維の表面に沿って広がった後、そのまま乾燥してインク内の顔料のみが紙繊維の表面で固化したためである。
この観察により、比較例2の印刷物は、本発明の前提の一つである、凹凸領域(5)の凹部を色材(20)が埋めつくした状態である表面の平滑度が高い第1の要素(30a)を形成することができなかったことが分かった。
(比較例3)
実施例1と同一のプリンタ、トナー及び用紙を用いて、同プリンタドライバ付属の不正コピー抑止機能を利用して印刷を実施し、比較例3の印刷物を作製した。比較例3の印刷物は、プリンタのコピー抑止機能によって、一部の領域が相対的に大きな黒色の円の集合で形成され、残りの領域は相対的に小さな黒色の円の集合で形成されるが、全体としては、実施例1と同様に、灰色に見える。また、比較例3の印刷物は、複写機(FUJI Xerox社製DocuCentre−III5000)により複写すると、前述の大きな黒色の円の集合で形成された一部の領域は、濃い灰色で複写され、残りの領域は、薄い灰色で複写されることで像が形成され、警告文字が現れる複写防止機能を有していた。
しかしながら、一見して実施例1の印刷物と同じように見える比較例3の印刷物は、蛍光灯照明の室内環境において、どの方向から観察しても印刷物全面が灰色に見え、実施例1の印刷物のように、観察方向の違いによって像が出現する効果は見られなかった。