液体クロマトグラフの検出器として質量分析計を用いた液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)では、分析により得られたデータに基づいて、任意の時刻におけるマススペクトルのほか、トータルイオンクロマトグラムや任意の質量電荷比におけるマスクロマトグラムなどのクロマトグラムを作成することが可能である。また、検出器として質量分析計のほかにフォトダイオードアレイ(PDA)検出器などの紫外可視分光光度計を併用したLC/MSでは、分析により得られたデータに基づいて、マススペクトル、各種クロマトグラムのほか、任意の波長における吸収スペクトルなどを作成することが可能である。また、こうした分析装置では、時間、信号強度、質量電荷比又は波長、という3次元のデータが得られるから、これに基づくマッピング画像などのグラフを作成することも可能である。
このような分析装置により得られた分析結果を解析したり複数の試料の分析結果を比較したりする際には、分析者は様々なスペクトルやクロマトグラムなどを適宜取捨選択した上で画面上に表示して目的とする箇所(時間や質量電荷比など)付近の波形を子細に観察したり複数の波形形状の比較を行ったりする。こうした解析を円滑に行うために、従来の分析装置では、モニタ画面上に表示される一つのウインドウの表示領域を複数に分割した各表示領域に、それぞれクロマトグラムやマススペクトルなどが表示されるようになっている(特許文献1、2参照)。
例えば非特許文献1には、市販のLC/MSのデータ処理用ソフトウエアをパーソナルコンピュータ上で実行することにより表示される画面の一例が開示されている。この画面表示例を図13に示す。この例ではウインドウ内の大部分を占めるペインの表示領域が田の字状に4つに分割され、その各表示領域にそれぞれクロマトグラムやマススペクトルなどが配置されている。
こうした分析データ表示処理装置においては、ウインドウ内におけるクロマトグラムやスペクトルの配置の仕方やそれぞれの表示枠のサイズといった、ウインドウ内の表示のレイアウトにかなりの自由度がある。そこで、分析者は、目的に応じて或いは得られた分析データの状況等に応じて、見易いように又は解析が容易であるように、レイアウトを適宜変更するのが一般的である。しかしながら、従来のこうしたレイアウトの変更作業は試行錯誤的に行われており、分析者が所望するような見易い表示にするには手間が掛かるという問題があった。
一部の装置では、レイアウト変更がなされた後の各表示領域の位置情報などを記憶しておき、この情報を用いて、次に該装置が立ち上げられたとき、記憶されている過去直近のレイアウトが再現可能となっている。しかしながら、こうした装置では、過去直近のレイアウトしか再現できず、目的や状況に応じたレイアウトを復元することはできない。一方、分析者が適宜に設定したレイアウトに対し名前を付けて保存することが可能な装置もあり、こうした装置では、任意の時点で作成されたレイアウトを復元することが可能である。しかしながら、保存したレイアウトに付与した名前を分析者自身が覚えておく必要があり、分析者にとっては負担である。また、複数の分析者が1台の装置を共用する場合でも、各分析者が作成したレイアウトをお互いに利用することは難しい。
また、非特許文献1に記載されているように、従来の分析データ表示処理装置では、複数の質量電荷比におけるマスクロマトグラムや異なる試料に対するクロマトグラムを比較するために、複数のクロマトグラムを縦方向に並べた並列表示や、同じグラフ上でベースラインを縦軸(強度軸)方向に少しずつずらして配置したベースシフト重ね描き表示、或いは、同じグラフ上でベースラインをずらすことなく色表示のみを変えて重ね描きしたシフトなし重ね描き表示、などが選択できるようになっている(特許文献3参照)。
クロマトグラムを比較するために、多数のクロマトグラムをシフトなし重ね描き表示とした場合、各クロマトグラムカーブの表示色が異なっていても、カーブが重なっている箇所では表示色自体も不明瞭になる。そのため、分析者が着目しているクロマトグラムが見えにくいことがある。特に、ピークとして検出された部分を塗りつぶす表示を行う場合には、背後に隠れたクロマトグラムが全く見えなくなってしまうことがある。ベースシフト重ね描き表示では各クロマトグラムの見分けはつき易いものの、ベースラインがずれていると信号強度の比較がしにくいうえ、多数のクロマトグラムをベースシフト重ね描き表示すると、縦軸方向に広いスペースを占めることになる。一方、多数のクロマトグラムを並列表示した場合には、縦軸方向にさらに広いスペースが必要になる上、複数のクロマトグラムが離れて配置されることになるので波形の細かな形状を比較することが難しくなる。
特に、上述のように質量分析計やPDA検出器を用いたLC/MSでは、1回の分析で採取されたデータから時間軸方向に切り出されるクロマトグラムの数は非常に多い。そのため、複数の試料について得られたクロマトグラムを比較する場合、ベースシフト重ね描き表示をすると、クロマトグラムの数が多すぎて各クロマトグラムを識別することができず、実用的でない場合が多い。また、並列表示をすると、表示枠のサイズの制約から各クロマトグラムの強度軸が非常に小さくなってしまい、これも実用的ではない。即ち、従来の分析データ表示処理装置では、表示すべきクロマトグラムの数がかなり多い場合に、従来の重ね描き表示、並列表示のいずれを用いても、必ずしも十分に実用性のある表示が行えないという問題もあった。
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、解析目的や状況等に応じて分析者が作業し易いレイアウトを簡便に選択して分析結果を表示させることができ、作業効率が高くまた作業ミスや判断ミスを低減することができる分析データ表示処理装置を提供することである。
また、本発明の他の目的は、多数のクロマトグラムを一度に表示する際に、表示画面上で表示領域が占める面積を抑えながら、分析者が着目するクロマトグラムを高い識別性を以て表示することができる分析データ表示処理装置を提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明は、試料に対する分析により収集された分析データに基づいてクロマトグラム又はスペクトルを含むグラフを作成し、表示画面内に設定された複数の表示領域のそれぞれに1又は複数のグラフを割り当てて表示する処理を行う分析データ表示処理装置において、
a)少なくとも、表示画面内の複数の表示領域の設定、各表示領域に表示するグラフの割り当て、及び各表示領域に割り当てられたグラフの表示形式、を規定する表示レイアウトの情報が記憶されたレイアウト情報記憶手段と、
b)前記レイアウト情報記憶手段に記憶されている表示レイアウトのイメージを示すサムネイル画像を、前記表示画面内でグラフが割り当てられる前記表示領域とは異なる表示領域に一覧表示するレイアウトサムネイル提示手段と、
c)前記レイアウトサムネイル提示手段により表示されたサムネイル画像の一つを分析者が選択指示するための選択指示手段と、
d)前記選択指示手段により一つのサムネイル画像が選択されたときに、該サムネイル画像に対応して前記レイアウト情報記憶手段に記憶されている表示レイアウト情報の規定に従って、指定された分析データに基づいて作成されたグラフを配置した表示画面を構成し表示出力する表示処理手段と、
を備えることを特徴としている。
ここで、分析データを収集するための分析装置は、典型的には、質量分析計又はPDA検出器等の時間以外の他のディメンジョンをパラメータとする信号強度情報を得ることができる検出器を用いた、液体クロマトグラフ又はガスクロマトグラフ等のクロマトグラフ装置である。
また本発明において「クロマトグラム」とは、単に分析装置で得られた信号(信号強度)の時間的な変化のみならず、そうした信号に対し適宜の波形処理やデータ処理を実施して得られた信号の時間的変化を示すものでもよい。したがって、例えば分析装置がクロマトグラフ質量分析装置である場合、クロマトグラムは、一般的なトータルイオンクロマトグラム、マスクロマトグラムのほか、複数の質量電荷比に対するマスクロマトグラムを加算又は減算して求めたクロマトグラム、信号強度が最大であるピークを集めたベースピーククロマトグラム、或いは、マスデフェクトクロマトグラム、アイソトピックフィルタードクロマトグラム、ニュートラルロスクロマトグラムなども含むものとする。
一方、本発明において「スペクトル」とは、分析装置がクロマトグラフ質量分析装置である場合にはマススペクトル、検出器としてPDA検出器等の紫外可視分光光度計が用いられたクロマトグラフ装置の場合には吸光スペクトルや反射スペクトルなどである。もちろん、これらスペクトルについても、例えば、特定の質量電荷比や波長における単純なスペクトルのみならず、複数の質量電荷比や波長におけるスペクトルを加算したり減算したりしたスペクトル等、適宜のデータ処理を行ったスペクトルなども含むものとする。
本発明に係る分析データ表示処理装置において、例えば分析者が所定の操作を行うと、レイアウトサムネイル提示手段は、レイアウト情報記憶手段に記憶されている各表示レイアウトのイメージ、つまりは概略的な内容が把握可能であるサムネイル画像を、表示画面内でクロマトグラムやスペクトル等のグラフが割り当てられる表示領域とは異なる表示領域に一覧で表示する。ここでいう一覧表示とは必ずしも全てが一度に見える状態であるとは限らず、スクロールやタブ切替え等の簡単な操作によって表示が可能なものも含む。なお、表示レイアウトのイメージを示すサムネイル画像は、表示レイアウト情報の一部としてレイアウト情報記憶手段に記憶されるようにするのが好ましいが、表示領域の位置情報などの表示レイアウト情報に基づいてその都度サムネイル画像を作成して一覧表示するようにしてもよい。
分析者は一覧表示されたサムネイル画像を見て、クロマトグラムやスペクトル等のグラフの配置などを確認し、目的や状況に合った最適と思われるものを選択指示手段により指示する。具体的には、マウス等のポインティングデバイスによりサムネイル画像をクリックすることで選択指示できるようにするとよい。この選択指示を受けて表示処理手段は、選択されたサムネイル画像に対応した表示レイアウトの情報をレイアウト情報記憶手段から取得し、該表示レイアウト情報に基づいて表示領域の分割や各表示領域のサイズ等を定め、分析データから作成されたクロマトグラム、スペクトル等のグラフを各表示領域に割り当てることにより配置し、そうして構成された表示画面をモニタ上に表示出力する。それにより、分析者が選択指示したサムネイル画像に対応した表示レイアウトに則ってクロマトグラムやスペクトルが表示される。表示レイアウトを変更したい場合には、分析者が選択指示手段により、サムネイル画像の一覧表示からサムネイル画像を選択し直せば、それに応じて表示処理手段は表示レイアウトを変更し、表示出力を更新する。
なお、レイアウト情報記憶手段には、分析装置の製造メーカやデータ処理用ソフトウエア提供メーカが予め作成した複数の表示レイアウトを規定する表示レイアウト情報を記憶させておき、分析者即ちユーザがその中から任意の表示レイアウトを選択できるようにしてもよい。一方、表示レイアウトをユーザ自身が作成し、それをレイアウト情報記憶手段に登録することができるようにしてもよい。
即ち、本発明に係る分析データ表示処理装置の一実施態様としては、
e)分析者が表示画面上で任意に表示レイアウトを設定するための表示レイアウト設定手段と、
f)前記表示レイアウト設定手段により設定された表示レイアウトを規定するレイアウト情報を前記レイアウト情報記憶手段に新たに格納するレイアウト情報追加手段と、
をさらに備える構成とするとよい。
この構成によれば、装置製造メーカ等が予め作成した既製の標準的な表示レイアウトだけでなく、分析者自身が使い易い又は分析者による分析の目的や状況に特化した表示レイアウトを登録しておき、当該分析者のほか、装置を共用する他の分析者もその表示レイアウトを利用して解析作業を行うことができる。また、分析者が作成した表示レイアウトもサムネイル画像で確認した上で選択できるので、分析者が新たに作成した表示レイアウトを登録する際に名前を付けたり、その表示レイアウトを呼び出すために名前を覚えておいたりする必要もない。このため、分析者の負担は軽減され、作業の効率化が図れる。
また、一つの表示領域に複数のクロマトグラムを割り当てて表示させる際には、従来と同様に、複数のクロマトグラムの表示形式について重ね描き表示と並列表示とを選択できるようにすることが好ましいが、並列表示の場合、表示すべきクロマトグラムの数が多いと各クロマトグラムの縦軸(強度軸)が小さくなりすぎて見にくくなる。
そこで、本発明に係る分析データ表示処理装置の一実施態様として、並列表示の表示形式が選択された表示レイアウトに従った表示の際に、上記表示処理手段は、割り当てられた複数のクロマトグラムの中で同じパラメータに対して得られたクロマトグラムを同一グループに属するようにグループ分けし、同一グループに属するクロマトグラムを同一グラフ上に重ね描きするようにするとよい。
ここでいう「パラメータ」とは、例えば分析装置がクロマトグラフ質量分析装置であれば質量電荷比、PDA検出器を検出器としたクロマトグラフ装置であれば波長である。即ち、異なる試料から得られた同一質量電荷比における複数のマスクロマトグラムを同一グラフ上に重ね描きすればよい。
また、上記サムネイル画像は、それぞれの表示領域に割り当てられる情報がクロマトグラム又はスペクトルのいずれかであるかを識別可能なイメージであるとともに、分析データが収集された検出器の種別の識別が可能で、且つ重ね描き表示と並列表示との表示様式も識別可能な表現様式であることが好ましい。ここで、検出器の種別とは、例えば、質量分析計、PDA検出器、などである。
これによれば、分析者がサムネイル画像の一覧表示を見たときに、分析結果を実際に表示したときにどのようにクロマトグラムやスペクトルが表示されるのかを容易に理解することができる。それによって、分析者によるサムネイル画像の選択ミスや思い違いなどによる不適切な選択操作を減らすことができ、操作性を向上させることができる。
また、本発明に係る分析データ表示処理装置において、上記表示処理手段は、一つの表示領域に複数のクロマトグラムが割り当てられており重ね描き表示が指定されている場合に、指定されたクロマトグラム以外のクロマトグラムを半透明で表示するとよい。
これにより、例えば多数のクロマトグラムを一つの表示領域中に重ね描きする場合でも、注目したいクロマトグラムが強調され、且つ重なったクロマトグラムの形状も確認することができる。
さらにその場合に、上記表示処理手段は、指定されたクロマトグラム上で検出されたピーク領域を塗りつぶし、それ以外のクロマトグラム上で検出されたピーク領域は半透明で塗りつぶすようにするとよい。これにより、背後のクロマトグラムのピーク面積などの情報も表現することができる。
なお、上述のように半透明表示にする際に、その透明度を設定できる機能も持たせるとよい。これにより、例えば、注目する試料と比較対象試料とを比較する場合に、比較対象試料によるクロマトグラムの半透明の度合いを低くして、注目する試料によるクロマトグラムと比較対象試料によるクロマトグラムとをほぼ同等の状態で比較することができる。また、多くの試料由来のクロマトグラムの中で特徴的なクロマトグラムのみを見たい場合には、注目するもの以外のクロマトグラムの半透明の度合いを高くして、注目するクロマトグラムがより強調されるようにすることができる。
さらにまた、上記のように半透明化しないクロマトグラムを指定する場合において、そのクロマトグラムの指定を、ポインティングデバイスを用いた、例えばスピンボタンなどのGUIに対する操作又はキー操作によって切り替え可能とするとよい。これにより、分析者は簡単に各クロマトグラムの形状を確認することができる。
また本発明に係る分析データ表示処理装置では、描画したクロマトグラム若しくはスペクトル上のピーク部、又は表示領域内の任意の位置に注釈を付加可能とするとさらに好ましい。また、注釈の代わりにクロマトグラムやスペクトルなどの任意のグラフを縮小画像として貼付け可能としてもよい。
本発明に係る分析データ表示処理装置によれば、予め用意された既製の又は分析者自身が作成した独自の表示レイアウトのイメージを分析者が目視で確認した上で、その中から任意の表示レイアウトを選択することができる。そのため、表示レイアウトに多くの選択肢がある場合であっても、分析者は表示レイアウトの内容を容易に且つ直感的に理解して、そのときの解析目的や状況に応じた適切な表示レイアウトを選択することができる。特に、分析者自身が作成した表示レイアウトではなく、他の分析者が作成した表示レイアウトや装置製造メーカやソフトウエア提供メーカが作成した表示レイアウトであっても、分析者は表示形式等を的確に把握することができるので、表示レイアウトの選択の迷いを軽減できる。それによって、解析作業を効率的に進めることができるとともに、解析作業に伴う分析者の作業ミスや判断ミスを軽減して的確な解析を行うことができる。
さらにまた本発明に係る分析データ表示処理装置においてクロマトグラムを重ね描き表示したときに、注目するもの以外のクロマトグラムのカーブやピークの塗りつぶしを半透明表示とすることで、注目したいクロマトグラムを強調表示しながら、背後にある多くのクロマトグラムも視認できるようにすることができる。これにより、解析に際して必要な情報の見落としを防止することができる。また、クロマトグラムの数が多い場合に重ね描き表示を選択することで、表示領域のスペースの節約が図れ、節約したスペースに別の有用な情報を表示できるようになる。
以下、本発明に係る分析データ表示処理装置を含むLC/MSシステムの一実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるLC/MSシステムの概略構成図、図2は本実施例のLC/MSシステムにおける特徴的な表示処理を説明するための概念図である。
このLC/MSシステムは、試料中の含有成分を時間的に分離する液体クロマトグラフ(LC部)1と、分離された各成分を検出する第1の検出器であるPDA検出器2と、PDA検出器2を通過した(又はPDA検出器の手前で一部分岐された)試料中の各成分を質量電荷比m/zに応じて分離して検出する質量分析計(MS部)3と、PDA検出器2及びMS部3で取得されたデータを処理するデータ処理部4と、測定データを記憶するための測定データ記憶部51と、後述する表示レイアウト情報を記憶しておく表示レイアウト情報記憶部52と、ユーザインターフェイスなどを担う中央制御部6と、該中央制御部6に接続されるキーボードやマウス等のポインティングデバイスである操作部7と、表示モニタである表示部8と、を含む。データ処理部4は、後述する特徴的な表示を行うために、表示レイアウト設定部41、サムネイル画像作成部42、表示処理部43などの機能ブロックを備える。
なお、データ処理部4、測定データ記憶部51、表示レイアウト情報記憶部52、及び中央制御部6は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、パーソナルコンピュータに予めインストールされた専用のデータ処理用ソフトウエアをコンピュータ上で実行することにより各部の機能が実現されるようにすることができる。
本実施例のLC/MSシステムでは、次のようにして測定データが取得され、測定データ記憶部51に格納される。即ち、LC部1に試料が導入されると、試料中の含有成分は図示しないカラムを通過する間に時間的に分離されて溶出する。PDA検出器2は予め設定された1乃至複数の波長における吸光度を所定時間間隔で繰り返し測定する。一方、MS部3は予め設定された1乃至複数の質量電荷比におけるイオン量に対応した信号強度を所定時間間隔で繰り返し測定する。MS部3では所定の質量電荷比範囲のスキャン測定を繰り返すようにしてもよい。
上記測定により、PDA検出器2では1乃至複数の波長毎に試料注入時点から試料溶出終了時点までのクロマトグラムデータが得られ、MS部3では1乃至複数の質量電荷比毎に試料注入時点から試料溶出終了時点までのクロマトグラムデータが得られる。一つの試料に対して行われた1回の測定で収集されたデータは全て1個のデータファイルに集約され、測定データ記憶部51に格納される。別の試料がLC部1に導入されて同様にPDA検出器2及びMS部3でクロマトグラムデータが収集されると、それらデータは別の1個のデータファイルに集約され、測定データ記憶部51に格納される。したがって、試料の数だけデータファイルが作成され、測定データ記憶部51に保存される。
表示レイアウト情報記憶部52には、分析結果表示ウインドウ100内に設けられたグラフ表示領域102内の表示レイアウトを規定する各種データと、その表示レイアウトのイメージを示すサムネイル画像データと、が対応付けて格納されている。表示レイアウトを規定するデータとは、矩形状のグラフ表示領域102を分割することで作成されるペイン(表示領域)の数、そのサイズ、及び位置と、各ペイン中に表示されるクロマトグラム、マススペクトル、或いは吸光スペクトルなどのグラフの種類と、各ペインにおけるグラフの表示形式、などを含み、表示したい測定データが与えられた状態で、後述するような各種表示を可能とするものである。
一方、サムネイル画像は、その表示レイアウトに従ってクロマトグラムやスペクトルが表示されたときの全体的なイメージが把握可能であるように作成されたものあり、当然のことながら、表示されるグラフ自体はあくまでも一例であるが、各ペインに割り当てられるグラフの種類(例えばクロマトグラム、マススペクトル、吸光スペクトルなど)や、データ取得元の検出器の種類(例えばPDA検出器、質量分析計など)、一つのペインに複数のクロマトグラムやスペクトルを割り当てる場合のその表示様式(並列表示、ベースシフト重ね描き表示、ベースシフトなし重ね描き表示など)、或いは、クロマトグラムピークの塗りつぶしの有無などが容易に識別可能であるような表現形式となっている。
具体的には、図3の例では、サムネイル画像上に「+」、「−」の記号が重ねて表示されているものは質量分析計で得られたクロマトグラム又はマススペクトルであり、これら記号が表示されていないものは質量分析計以外の検出器で得られたクロマトグラムなどである。さらにまた、同じ質量分析計で得られたデータに基づくグラフでも、例えばクロマトグラムは青、スペクトルは赤、などとさらに細かく色分け表示してもよい。もちろん、決まった表現形式でなく、こうした表現形式をユーザが自在に設定できるようにしてもよい。
なお、表示レイアウト情報記憶部52に格納される表示レイアウト情報で規定される表示レイアウトには、予め用意されている既製のものと、ユーザ自身が作成した(或いは既製のものに変更や修正を加えた)ものとがある。既製の表示レイアウトは、本実施例のLC/MSシステムを製造する製造メーカ、或いは、データ処理用ソフトウエアを提供するメーカなどが予め作成したものである。一方、ユーザ自身が表示レイアウトを作成する際には、分析者が操作部7から所定の操作を行うことで、図2に示したようなグラフ表示領域102内の表示レイアウトを自由に設定する。そして、表示レイアウトが確定すると、表示レイアウト設定部41はその時点で設定されている表示レイアウトを規定する情報を作成する。また、サムネイル画像作成部42はその表示レイアウトに対応したサムネイル画像を作成する。そして、それら表示レイアウト情報及びサムネイル画像が新たに、表示レイアウト情報記憶部52に格納される。このようにして、既製の表示レイアウト以外に、ユーザ自身が目的や状況に特化した特殊な表示レイアウトを作成し、これを登録しておくようにすることができる。
次に、上記のように測定データと表示レイアウト情報とが格納されている状況で、任意の表示レイアウトに従った表示を行う際の分析者による操作とそれに応じた処理について説明する。
分析者が操作部7で所定の操作を行うことで表示したい測定データのファイル名等を指示した上で、分析結果表示画面を開く操作を行うと、表示処理部43は図2に示すような分析結果表示ウインドウ100を表示部8の画面上に表示する。このウインドウ100内の左側には、レイアウトサムネイルバー101が配置されており、表示処理部43は表示レイアウト情報記憶部52に格納されている全ての表示レイアウト情報に含まれるサムネイル画像データを読み出し、サムネイル画像103を作成してレイアウトサムネイルバー101中に一覧表示する。表示すべきサムネイル画像103の数が多い場合には、垂直方向のスクロールバー操作によって全てのサムネイル画像103の表示が可能であるようにすればよい。
図3は本実施例のLC/MSシステムにおける特徴的な表示画面の一例を示す図、図4は図3中の表示レイアウトサムネイルバーの一例を示す図である。なお、ここでは、各表示レイアウトに、[Classic]、[Wide]など、その表示レイアウトの特徴を示す名前が付されているが、これはあくまでも補助的な情報であり、図4に示すように、表示レイアウトの見た目のイメージがサムネイル画像103に表現されていることが重要である。分析者はこのサムネイル画像103を確認し、目的や状況に応じた所望の表示レイアウトを見つけ、操作部7のポインティングデバイスによるクリック操作等により任意の一つのサムネイル画像103を選択指示する。なお、図3及びその他の図では、選択指示されたサムネイル画像を符号103aで、それ以外のサムネイル画像を符号103bで示している。
サムネイル画像103の選択指示を受けて表示処理部43は、選択されたサムネイル画像103に対応した表示レイアウト情報を取得し、その情報に従って測定データから作成されるクロマトグラムやマススペクトル、或いは吸光スペクトルなどを適宜配置した表示画像を作成し、これをグラフ表示領域102に嵌め込んだ画像を作成して表示部8の画面上に表示する。図3は、グラフ表示領域102の横幅全体に亘って三つのクロマトグラムと二つのマススペクトルとを配置した表示レイアウトを選択したときの表示例である。この例では、最上位のクロマトグラムは、PDA検出器2による特定波長におけるクロマトグラム、二番目のクロマトグラムはMS部3による正イオンに対するトータルイオンクロマトグラム、三番目のクロマトグラムはMS部3による負イオンに対するトータルイオンクロマトグラムである。また、上のマススペクトルは或る時点における正イオンのマススペクトル、下のマススペクトルはほぼ同じ時点における負イオンのマススペクトルである。
図3に示すような分析結果表示ウインドウ100において、分析者がレイアウトサムネイルバー101中の他のサムネイル画像103を選択指示すると、表示処理部43は新たに選択されたサムネイル画像103(103a)に対応した表示レイアウト情報に基づいてグラフ表示領域102に嵌め込むべき画像を作成し直す。それによって、グラフ表示領域102中の表示は新たに選択された表示レイアウトに応じたものに更新される。このようにして、分析者は各表示レイアウトをイメージしたサムネイル画像103を選択指示するだけで、その時点で用意されている表示レイアウトの中から任意のものを選んで該表示レイアウトに従った様式でクロマトグラムやスペクトルを表示させることができる。
上述した図3、及び図5はいずれも、複数(具体的には三つ)のクロマトグラムが並列表示される例であるが、図6は図5と同じ複数のクロマトグラムがベースシフトなし重ね描き表示された表示レイアウトが選択指示されている場合の表示例である。図5では、クロマトグラム上の特定の(例えば分析者により指定された)ピークが塗りつぶし表示されており、それによって、ピーク面積の比較が容易になっている。一方、図6では、重ね描きされた三つのクロマトグラムのうち、分析者に指定されたクロマトグラムのカーブは通常通り非透明状態で表示され、該クロマトグラム上のピークは通常の塗りつぶし表示されているのに対し、それ以外の二つのクロマトグラムのカーブ及び該クロマトグラム上のピークの塗りつぶし部分は互いに透明度の相違する半透明表示となっている。それぞれのクロマトグラムのカーブや塗りつぶし部分は、ポップアップメニュー等で表示される小画面上でそれぞれ透明度を調整可能である。
この図6の例のように、表示レイアウトの選択によって全ての(又は多数の)クロマトグラムを重ね描きする場合、注目したいクロマトグラム以外のクロマトグラムを半透明で描画することで、注目したいクロマトグラムが強調される。しかも、重なったクロマトグラムの形状も十分に確認することができるし、クロマトグラムピークの塗りつぶしも半透明化されているため、背後のクロマトグラムの情報も十分に把握することができる。また、図5と図6とを比較すれば判るように、図6に示したような表示レイアウトでは、複数のクロマトグラムを表示してもその表示の占めるスペースが小さくて済むので、その分だけ、マススペクトルを拡大して表示することができる。
なお、重ね描き表示されたクロマトグラムの右上部にはスピンボタン105が設けられており、このスピンボタン105をクリック操作する(又はキー操作を行う)ことによって半透明表示しないクロマトグラムを順に切り替えることができる。そうした切り替えによって、簡単に各クロマトグラムの形状を確認することができる。
また、表示されている或る一つのクロマトグラム上でクリック操作等によりピークを指定すると、対応するピークと同時刻に出現しているピークが、他の半透明表示のクロマトグラム上でもハイライト表示される。これによって、仮に背後に隠れて見えにくい場合であっても、複数のクロマトグラムにおいて同時刻に出現しているピークを容易に確認することができる。
また、図6に示したような半透明表示を用いても、複数の試料から得られたクロマトグラムを併せて表示するような場合には、表示すべきクロマトグラムの数が多すぎて見にくくなることがある。そこで、こうした場合のために、並列表示のようにクロマトグラムを表示する領域を複数用意しておき、クロマトグラムのプロパティ情報、例えば質量電荷比や波長などの情報に基づいて複数のクロマトグラムをグループ分けし、グループ毎に一つの表示領域を割り当て、一つのグループに属する複数のクロマトグラムを一つの表示領域に重ね描きするとよい。こうしたグループ分け並列表示を表示レイアウトの選択肢の一つとして用意しておくことで、クロマトグラムの数がかなり多い場合であっても、解析作業に好適な表示を行うことができる。
また本実施例のLC/MSシステムにおける表示処理部43は、図3、図5、図6に示したように表示部8の画面上に描出されたクロマトグラムやマススペクトルなどのグラフ上の任意の位置に、別のグラフを縮小して画像として貼り付けたり任意の注釈を付加したりする機能を有する。その具体例を図7〜図12を参照して説明する。
例えば分析結果表示ウインドウ100が開かれ、その画面上にポインタが重畳して表示されている状態で、分析者がポインティングデバイスで右クリック操作又はそれに相当する操作を行うと、表示処理部43は図7に示すようなコンテクスメニュー110を画面上にポップアップ表示する。このコンテクスメニュー110の中で分析者が「Edit」を選択し、さらにその下層の選択肢の中で「Copy Picture」をクリック操作すると、表示中の任意のグラフを画像としてコピーし貼り付けることが可能となる。
即ち、分析者が、そのときの分析結果表示ウインドウ100内に表示されている任意のグラフを囲む操作を行うと、表示処理部43は、指定された領域の表示を画像化して一時的に保持する。その後、分析者が画面上の任意の位置を指定した上で、「Paste」をクリック操作すると、表示処理部43は一時的に保持していた画像を指定された位置に貼り付ける。図8は、一つのグラフ(この例ではクロマトグラム)111上に別のグラフ(この例ではマススペクトル)を縮小したグラフ画像112を貼り付けたときの表示例である。このときに貼り付けられたグラフ画像112については、図9に示すような別のポップアップウインドウ113において支点となる箇所を指定することが可能である。支点としては、貼り付けられるグラフ画像112の四隅のいずれか一つ、又は画像全面を指定することができる。図9は、左下隅が支点として指定された状態である。
図9に示したポップアップウインドウ113において支点が指定されて「OK」ボタンがクリック操作されると、支点が確定し、図8に示したグラフ画像112中の支点を示す□マークは消える。貼り付けられたグラフ画像112の支点が確定すると、グラフ111上でグラフ画像112の貼り付け位置が確定する。例えばグラフ画像112の左下隅が支点として指定された場合には、グラフ画像112の左下隅位置がグラフ111の横軸上のP、縦軸上のQの位置に固定される。したがって、例えばグラフ111の横軸又は縦軸を拡大したりスクロールしたりする操作が行われた場合でも、グラフ画像112の左下隅はグラフ111の横軸上のP、縦軸上のQの位置に維持される。
図10は図8に示したグラフの横軸の拡大操作を行ったときの図であり、グラフ画像112はその左下隅がグラフ111の横軸上のP、縦軸上のQの位置に維持されている。つまり、グラフ111上で分析者が着目するピークの近傍にグラフ画像112を貼り付けると、そのピークを拡大表示した際にも該ピーク近傍にそのグラフ画像112が表示される。したがって、例えば、クロマトグラムの時間軸を拡大したりスクロールしたりした場合でも、グラフ画像112と貼り付けた或る時点におけるマススペクトルを確実に視認することができる。
また上記グラフ画像112と同様に、適宜の注釈文を画像としてグラフ111上に貼り付けることができる。図11は注釈文を作成したり編集したりするためのポップアップウインドウ114の一例である。この画面上で分析者がテキストボックス115に任意の文字や文を記入し、「OK」ボタンをクリック操作すると、表示処理部43は入力されたテキストを確定し、そのテキストが表示されたテキスト画像を任意の位置に貼り付けることが可能となる。
図12は図8に示したグラフ111上にさらにテキスト画像116を貼り付けたときの表示画像の一例を示す図である。グラフ画像112と同様に、このテキスト画像116についても支点の位置を任意に定めることができ、それによって表示される位置をグラフ111上で固定することができる。
なお、上記実施例では、LC/MSで収集されたデータに基づくクロマトグラム、マススペクトル、吸光スペクトルを表示していたが、分析により収集されたデータに基づいて作成されるグラフであれば、表示対象のグラフはこれに限らない。例えば、MS部3やPDA検出器2では、時間、信号強度、質量電荷比又は波長、という三つのディメンジョンを有するデータが収集されるから、これに基づいて二次元等高線図等のマッピング画像を作成することが可能である。こうしたマッピング画像を表示領域中に表示するようにしてもよい。
さらにまた、上記記載以外に、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。