以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する樹脂製品の一実施形態として、自動車のリヤウインドウ用の樹脂ガラス10が、その部分断面形態において示されている。かかる図1から明らかなように、樹脂ガラス10は、樹脂基材12を有し、この樹脂基材12の表面と裏面(図1での上面と下面)には、アンダーコート層14が、それぞれ積層形成されている。また、それら各アンダーコート層14,14の樹脂基材12側とは反対側の面上には、トップコート層16が、それぞれ、更に積層形成されている。なお、以下からは、便宜上、図1での上面を表面と言い、図1での下面を裏面と言うこととする。
より詳細には、樹脂基材12は、透明な平板形態を呈し、ポリカーボネートを用いて射出成形された樹脂成形品にて構成されている。なお、樹脂基材12は、ポリカーボネート製の樹脂成形品であれば、射出成形以外の手法で成形されたものであっても良い。また、樹脂基材12の厚さは、何等限定されるものではなく、樹脂ガラス10の用途や要求特性等に応じて適宜に決定されるものであって、ここでは2〜7mm程度の厚さとされる。
そして、本実施形態では、アンダーコート層14が、基層部18と表層部20とを有する複層構造(二層構造)とされている。かかるアンダーコート層14の基層部18は、樹脂ガラス10に対して、紫外線耐性等に基づいた耐候性を付与すること等を目的として、樹脂基材12の表面と裏面の両面に対して、それらの全面を被覆するように、それぞれ直接に積層形成されるもので、薄膜形態を呈している。このような基層部18は、UV硬化型アクリル樹脂層にて構成されている。即ち、基層部18は、UV硬化型アクリル樹脂塗料を用いて、樹脂基材12の両面に形成された塗膜層が、紫外線照射により硬化させられて、形成されている。
この基層部18の厚さは、特に限定されるものではないものの、一般には1〜20μm程度とされる。何故なら、基層部18の厚さが1μmよりも薄いと、余りに薄いために、樹脂ガラス10に対して十分な耐候性を付与することが困難となる恐れがあるからであり、また、基層部18の厚さを20μmよりも厚くしても、樹脂ガラス10の耐候性を更に向上させることは難しく、却って、材料費が無駄となったり、基層部18の形成時間が長くなってしまう可能性があるからである。
一方、アンダーコート層14の表層部20は、フッ素樹脂層、ここではポリテトラフルオロエチレン(PTFE)層からなり、基層部18よりも厚さの薄い薄膜形態を呈している。そして、この表層部20は、後述するように、アンダーコート層14に施されるアルゴンプラズマ処理中に、UV硬化型アクリル樹脂層からなる基層部18を保護するために、各基層部18,18の樹脂基材12側とは反対側の面上に積層形成されるものである。
なお、表層部20を構成するフッ素樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、PTFEの他に、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)等が例示され得る。そして、それら各種のフッ素樹脂が、それぞれ単独で、或いは複数種類のものが適宜に組み合わされて、表層部20の形成材料として使用されるのである。
かかる表層部20の厚さも、何等限定されるものではないものの、一般には1〜20μm程度とされる。何故なら、表層部20の厚さが1μmよりも薄いと、余りに薄いために、基層部18の保護機能が十分に発揮されなくなる恐れがあるからであり、また、表層部20の厚さを20μmよりも厚くしても、基層部18の保護機能を更に高めることは困難で、却って、材料費が無駄となったり、表層部20の形成時間が長くなってしまう可能性があるからである。
また、そのようなフッ素樹脂からなる表層部20は、一般に、上記の如き各種のフッ素樹脂のうちの1種又は2種以上を含むフッ素樹脂塗料を、基層部18上に塗布したり、吹き付けたりして、或いはディッピング等により、基層部18上に塗膜層を形成した後、かかる塗膜層に対して加熱や紫外線照射等を行って、塗膜層を硬化させることにより形成される。なお、フッ素樹脂からなる表層部20は、形成工程の簡略化や形成に要する設備コストの低減等を図る上において、紫外線硬化層にて構成されていることが、望ましい。
さらに、表層部20の形成方法としては、上記の塗装による形成方法以外に、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーディング法、イオンビーム蒸着法等の公知の物理蒸着法(PVD法)等も採用することができる。
トップコート層16は、アンダーコート層14側に位置する基層部22と、この基層部22上に積層された表層部24とを有している。そして、ここでは、基層部22が、プラズマCVD法によって形成された、SiO2からなるプラズマCVD層にて構成されており、また、表層部24が、プラズマCVD法によって形成された、SiON からなるプラズマCVD層にて構成されている。
すなわち、本実施形態においては、トップコート層16の表面の全面を含む表層部分を形成する表層部24が、非常に硬質であるSiON にて構成されている。これにより、トップコート層16の表面の硬度が十分に高められて、樹脂ガラス10に対して、より一層優れた耐摩傷性が付与されている。
また、トップコート層16のアンダーコート層14との界面の全面を含むアンダーコート層14側部分を形成する基層部22が、硬度はSiON に劣るものの、SiON よりは、アンダーコート層14の基層部18を構成するアクリル樹脂の熱膨張係数に近似した熱膨張係数を有し、しかも、アンダーコート層14の表層部20を構成するフッ素樹脂との密着性も、SiON より優れた特性を発揮するSiO2にて構成されている。これによって、トップコート層16の硬度の低下を招くことなく、アンダーコート層14との熱膨張差応力等に起因したトップコート層16の割れやアンダーコート層14からの剥離の発生が可及的に防止されて、トップコート層16のアンダーコート層14に対する密着性の向上有利にが図られている。
なお、トップコート層16の全体の厚さは、何等、限定されるものではないものの、好ましくは、1〜20μm程度とされる。これによって、トップコート層16の全体の厚さを無駄に厚くすることなく、樹脂ガラス10に対して、耐摩傷性を十分に付与することができる。
そして、そのような厚さを有するトップコート層16のうち、基層部22の厚さは0.5〜10μm程度とされていることが望ましい。何故なら、SiO2からなる基層部22の厚さが0.5μmよりも薄いと、余りに薄いために、アンダーコート層14に対する密着性が不充分となる可能性があるからである。また、基層部22の厚さが10μmよりも厚いと、トップコート層16のうちで、SiO2からなる基層部22の占める割合が大きくなり、換言すれば、トップコート層16のうちで、極めて高硬度のSiON からなる表層部24の占める割合が小さくなり、そのために、トップコート層16の表層部24を SiONにて構成することによって得られる、樹脂ガラス10の耐摩傷性の向上効果が不充分なものとなる恐れがあるからである。
そして、本実施形態においては、そのような基層部22と表層部24との間に、プラズマCVD層からなる中間層26が設けられている。即ち、トップコート層16が、基層部22と中間層26と表層部24とを有する複層構造とされている。
中間層26には、基層部22を構成するSiO2と表層部24を構成するSiON とが混在している。つまり、中間層26は、プラズマCVD法によって形成された、SiO2からなる部分とSiON からなる部分とを有するプラズマCVD層にて構成されているのである。そして、かかる中間層26にあっては、SiO2の含有率が、基層部22側から表層部24側に向かって徐々に小さくなっている一方、SiON の含有率が、基層部22側から表層部24側に向かって徐々に大きくなっている。つまり、中間層26におけるSiO2の含有率とSiON の含有率が、基層部22側から表層部24側に向かって傾斜的に変化しているのである。
このように、本実施形態では、上記の如き構造を有する中間層26が、SiO2からなる基層部22とSiON からなる表層部24との間に設けられていることによって、それら基層部22と表層部24との間に、明確な界面が無くされ得るようになっている。そして、その結果として、例えば、周囲の熱環境の変化等によって、基層部22と表層部24との界面での剥離等の発生が可及的に防止されて、それら基層部22と表層部24との密着性が効果的に高められているのである。
なお、そのような中間層26の厚さも、何等限定されるものではないものの、好適には0.1〜10μm程度とされる。何故なら、中間層26の厚さが0.1μmよりも薄いと、余りに薄いために、基層部22と表層部24との間の密着性の向上効果が十分に望めなくなる恐れがあるからであり、また、中間層26の厚さが10μmよりも厚いと、トップコート層16全体の形成時間が冗長化し、そのために、樹脂ガラス10の生産性の低下や生産コストの高騰が生ずる可能性があるからである。
ところで、上記の如き構造を有する樹脂ガラス10は、例えば、以下の手順に従って製造される。
すなわち、先ず、ポリカーボネート製の樹脂基材12を射出成形等により成形する。その後、この樹脂基材12の表面と裏面の両面に、UV硬化型アクリル樹脂層からなる、アンダーコート層14の基層部18を、それぞれ積層形成する。この基層部18は、UV硬化型アクリル樹脂塗料を、樹脂基材12の両面に対して、例えば、ローラや刷毛等を用いて塗布したり、又はスプレーガン等を用いて吹き付けたりして、或いはディッピング操作等により、UV硬化型アクリル樹脂の塗膜層をそれぞれ形成した後、それらの塗膜層に対して紫外線を照射することによって形成される。
次に、樹脂基材12の両面に積層形成されたアンダーコート層14の基層部18,18上に、フッ素樹脂層(ここでは、PTFE層)からなる、アンダーコート層14の表層部22を、各基層部18,18の全面が、各表層部20にて被覆されるように、それぞれ、更に積層形成する。この表層部20は、フッ素樹脂塗料(ここでは、PTFE樹脂塗料)を、各基層部18上に、例えば、ローラや刷毛等を用いて塗布したり、又はスプレーガン等を用いて吹き付けたりして、或いはディッピング操作等により、フッ素樹脂の塗膜層をそれぞれ形成した後、それらの塗膜層に対して紫外線を照射することによって形成される。
かくして、樹脂基材12の表面と裏面の両面に対して、UV硬化型アクリル樹脂層からなる基層部18とフッ素樹脂層からなる表層部20との複層構造(二層構造)を有するアンダーコート層14を、それぞれ積層形成して、中間積層体28(図2参照)を得る。
次に、図2に示される如き構造を有するプラズマCVD装置30を用いて、中間積層体28のアンダーコート層14,14、具体的にはアンダーコート層14,14のうちのフッ素樹脂からなる表層部20,20に対するアルゴンプラズマ処理を、必要に応じて実施した後、それらのアンダーコート層14,14の表層部20,20上に、トップコート層16を、それぞれ更に積層形成する。
図2に示されるように、ここで用いられるプラズマCVD装置30は、平行平板方式を採用した従来のプラズマCVD装置と同様な基本構造を備えている。より具体的には、プラズマCVD装置30は、反応室としての真空チャンバ32を有している。この真空チャンバ32は、チャンバ本体34と蓋体36とを更に含んで構成されている。チャンバ本体34は、筒状の側壁部38と、かかる側壁部38の下側開口部を閉塞する下側底壁部40とを備えた有底筒状乃至は筐体状を呈している。蓋体36は、チャンバ本体34の上側開口部42の全体を覆蓋可能な大きさを有する平板にて構成されている。そして、かかる蓋体36が、チャンバ本体34の上側開口部42を覆蓋した状態で、図示しないロック機構にてロックされることによって、チャンバ本体34内が気密に密閉されるようになっている。
また、蓋体36の下面には、上側ホルダ44,44が、一体的に立設されている。それら上側ホルダ44,44には、支持突起46,46が一体的に突設されている。そして、チャンバ本体34内に収容されたカソード電極48が、かかる支持突起46,46にて支持されて、上側ホルダ44,44に保持されている。また、カソード電極48には、給電線50の一端が接続され、この給電線50の他端は、真空チャンバ32外に設置された高周波電源52に接続されている。
チャンバ本体34の下側底壁部40上には、下側ホルダ54,54が、一体的に立設されている。それら下側ホルダ54,54には、上側支持突起56,56と下側支持突起58,58とが、上下に離間して、それぞれ一体的に突設されている。そして、チャンバ本体34内に収容されたアノード電極60が、上側ホルダ44,44にて保持されたカソード電極48と上下方向に所定距離を隔てて対向した状態で、下側支持突起58,58にて支持されて、下側ホルダ54,54に保持されている。このアノード電極60は、アース接地されている。また、下側ホルダ54,54の上側支持突起56,56は、中間積層体28を支持可能とされている。
チャンバ本体34の側壁部38の下端部における周上の一箇所には、排気パイプ62が、チャンバ本体34の内外を連通するように側壁部38を貫通して、設置されている。また、かかる排気パイプ62上には、真空ポンプ64が設けられている。そして、この真空ポンプ64の作動によって、チャンバ本体34内の気体が排気パイプ62を通じて外部に排出されて、チャンバ本体34が減圧されるようになっている。
また、側壁部38の上端側部位には、第一、第二、第三、及び第四の4個の導入パイプ66a,66b,66c,66dが、側壁部38を貫通して、設置されている。そして、それら第一、第二、第三、及び第四導入パイプ66a,66b,66c,66dにおいては、チャンバ本体34内に突入して開口する一端側開口部が、それぞれ、第一、第二、第三、及び第四ガス導入口68a,68b,68c,68dとされている。また、第一導入パイプ66aのチャンバ本体34外への延出側の他端部には、珪素化合物ガスを収容する第一ボンベ70aが接続されている。第二導入パイプ66bのチャンバ本体34外への延出側の他端部には、酸素ガスを収容する第二ボンベ70bが接続されている。第三導入パイプ66cのチャンバ本体34外への延出側の他端部には、窒素ガスを収容する第三ボンベ70cが接続されている。第四導入パイプ66dのチャンバ本体34外への延出側の他端部には、アルゴンガスを収容する第四ボンベ70dが接続されている。更に、第一、第二、第三、及び第四ボンベ70a,70b,70c,70dの第一、第二、第三、及び四導入パイプ66a,66b,66c,66dとの接続部には、第一、第二、第三、及び第四開閉バルブ72a,72b,72c,72dが、それぞれ設けられている。
なお、後述するように、第一ボンベ70a内に収容される珪素化合物ガスは、トップコート層16の基層部22を形成するための第一の成膜用ガスの原料ガスとして利用されると共に、トップコート層16の表層部24を形成するための第二の成膜用ガスの原料ガスとしても利用されるものである。第二ボンベ70b内に収容される酸素ガスは、第一の成膜用ガスの反応ガスとして利用されると共に、第二の成膜用ガスを構成する反応ガスとしても利用されるものである。第三ボンベ70c内に収容される窒素ガスは、第二ボンベ70b内に収容される酸素ガスと共に、第二の成膜用ガスの反応ガスとして利用されるものである。第四ボンベ70d内に収容されるアルゴンガスは、アンダーコート層14,14のアルゴンプラズマ処理に利用されるものである。そして、それら珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスは、何れも、第一乃至第四ボンベ70a,70b,70c,70d内に、大気圧を超える圧力で収容されている。
第一ボンベ70a内に収容されて、第一の成膜用ガスのうちの原料ガスに利用される珪素化合物ガスを構成する珪素化合物は、特に限定されるものではなく、一般には、モノシラン(SiH4)やジシラン(Si2H6 )等の無機珪素化合物が、それぞれ単独で、或いはそれらが組み合わされて使用される。また、かかる珪素化合物として、有機珪素化合物を使用するこも可能である。そして、この有機珪素化合物としては、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン等のシロキサン類や、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、トリメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシジメチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシラン類、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン類等が、例示される。そして、それらのうちの1種のものが単独で、或いは2種類以上が組み合わされて用いられる。なお、2種類以上の珪素化合物ガスを用いる場合には、それら複数種類の珪素化合物ガスを混合した状態で、一つの第一ボンベ70a内に収容しても良く、或いは2種類以上の珪素化合物ガスを、複数の第一ボンベ70a内に、それぞれ別個に収容しても良い。
そして、かくの如き構造とされたプラズマCVD装置30を用いて、樹脂基材12の両面に積層されたアンダーコート層14,14上に、トップコート層16をそれぞれ積層形成する際には、それに先立って、各アンダーコート層14,14の表層部20,20に対するアルゴンプラズマ処理を、必要に応じて実施する。
それには、先ず、図2に示されるように、樹脂基材12の両面にアンダーコート層14がそれぞれ積層形成されてなる中間積層体28を、チャンバ本体34内に設けられた下側ホルダ54,54の上側支持突起56,56に支持させて、下側ホルダ54,54に保持させる。
次いで、上側開口部42を蓋体36にて覆蓋した後、図示しないロック機構にて、蓋体36をチャンバ本体34にロックする。これにより、真空チャンバ32内を気密に密閉する。そして、その後、真空ポンプ64を作動させて、真空チャンバ32内を減圧する。この減圧操作により、真空チャンバ32内の圧力を、例えば10-5〜10-3Pa程度とする。
そして、真空チャンバ32内の圧力が所定の値となったら、真空ポンプ64を作動させたままで、第四導入パイプ66dに接続された第四ボンベ70dの第四開閉バルブ72dを開作動する。これにより、第四ボンベ70d内のアルゴンガスを、第四導入パイプ66d内に流通させて、第四ガス導入口68dから真空チャンバ32内に導入する。
その後、真空チャンバ32内へのアルゴンガスの導入により、真空チャンバ32の内圧が所定の値となったら、高周波電源52をON作動して、真空チャンバ32内に配置されたカソード電極48に対して、高周波電流を給電線50を介して供給する。これにより、カソード電極48とアノード電極60との間で放電現象を惹起させて、真空チャンバ32内に充満したアルゴンガスをプラズマ化し、アルゴンガスのプラズマを真空チャンバ32内に、比較的に低温の状態で発生させる。
かくして、真空チャンバ32内にアルゴンのプラズマガスを発生させると共に、かかるアルゴンのプラズマガスを、中間積層体28の表面と裏面を形成するアンダーコート層14の、フッ素樹脂からなる表層部20に接触させる。これにより、アンダーコート層14の表層部20に対するアルゴンプラズマ処理を実施し、以て、アンダーコート層14に対するトップコート層16の密着性の向上を図る。
そして、真空チャンバ32内へのアルゴンガスの導入開始から、予め設定された時間が経過したら、第四ボンベ70dの第四開閉バルブ72dを閉作動して、アルゴンガスの真空チャンバ32内への導入を停止すると共に、高周波電源52をOFF作動する。これによって、真空チャンバ32内でのアンダーコート層14に対するアルゴンプラズマ処理を終了する。
その後、真空ポンプ64により、真空チャンバ32内のアルゴンガスやアルゴンのプラズマガスを外部に排出させる。そして、真空チャンバ32の内圧が、アルゴンガスの導入前の圧力となったら、アルゴンプラズマ処理されたアンダーコート層14の表層部20上へのトップコート層16の積層形成工程を開始する。
それには、先ず、第一導入パイプ66aと第二導入パイプ66bとにそれぞれ接続された第一ボンベ70aの第一開閉バルブ72aと第二ボンベ70bの第二開閉バルブ72bとを各々開作動する。これにより、第一ボンベ70a内の珪素化合物ガスを、第一導入パイプ66a内に流通させて、第一ガス導入口68aから真空チャンバ32内に導入する。また、それと共に、第二ボンベ70b内の酸素ガスを、第二導入パイプ66b内に流通させて、第二ガス導入口72bから真空チャンバ32内に導入する。かくして、珪素化合物ガスと酸素ガスとからなる、基層部22を形成するための第一の成膜用ガスを真空チャンバ32内に導入して、充満させる。
真空チャンバ32内に珪素化合物ガスと酸素ガスが充満して、真空チャンバ32の内圧が所定の値となったら、高周波電源52をON作動して、真空チャンバ32内に配置されたカソード電極48に対して、高周波電流を給電線50を介して供給する。これにより、カソード電極48とアノード電極60との間で放電現象を惹起させて、真空チャンバ32内に充満した珪素化合物ガスと酸素ガスとをそれぞれプラズマ化し、珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとを、真空チャンバ32内に、比較的に低温の状態で発生させる。
そして、真空チャンバ32内の空間や中間積層体28の表面上において、珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応(珪素化合物ガスと酸素ガスのプラズマCVD法による反応)を生じさせて、SiO2を生成すると共に、それを中間積層体28の全表面に堆積させる。以て、中間積層体28のアンダーコート層14,14の各表層部20,20上に、SiO2からなる基層部22を、比較的に低い温度下で、しかも十分に速いスピードで、それぞれ積層形成する。
なお、かかる本工程では、第一ボンベ70aの第一開閉バルブ72aと第二ボンベ70bの第二開閉バルブ72bの開作動が、その開放量を何等変化させることなく、一定の量において、予め設定された一定の時間だけ実施される。これによって、珪素化合物ガスと酸素ガスの真空チャンバ32内への単位時間当たりの導入量がそれぞれ一定の量とされて、真空チャンバ32内の珪素化合物ガス量と酸素ガス量の比率が一定の割合に維持されると共に、真空チャンバ32の内圧も、一定の値に維持される。
アンダーコート層14,14上に積層形成されるトップコート層16の基層部22の厚さは、珪素化合物ガスと酸素ガスとが、真空チャンバ32内に一定の導入量で導入される時間、つまり、珪素化合物ガスと酸素ガスとをプラズマCVD法によって反応させる時間に応じて、適宜に調節される。換言すれば、第一ボンベ70aの第一開閉バルブ72aと第二ボンベ70bの第二開閉バルブ72bの一定量での開作動時間は、予め設定された、基層部22の厚さの設定値等に応じて、適宜に決定されるのである。
そして、第一及び第二ボンベ70a,70bの第一及び第二開閉バルブ72a,72bの作動開始、即ち、珪素化合物ガスと酸素ガスの真空チャンバ32内への導入開始から、予め設定された時間(基層部22の膜厚に応じて設定された時間)が経過した時点で、第三ボンベ70c内の窒素ガスの真空チャンバ32内への導入を開始する。これによって、表層部24を形成するための成膜用ガスを構成する珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスの真空チャンバ32内への導入を開始するのである。このとき、カソード電極48への高周波電流の供給が継続されているため、真空チャンバ32内に導入された窒素ガスも、珪素化合物ガスや酸素ガスと同様に、随時、プラズマ化される。
なお、珪素化合物ガスと酸素ガスと、新たに導入される窒素ガスのそれぞれの真空チャンバ32内への単位時間当たりの導入量を、それぞれ、一定の値としても良いが、望ましくは、珪素化合物ガスの単位時間当たりの導入量を一定に維持する一方で、酸素ガスの単位時間当たりの導入量を徐々に減らしつつ、窒素ガスの単位時間当たりの導入量を徐々に増加させて、所定の時間の経過後に、酸素ガスの単位時間当たりの導入量と窒素ガスの単位時間当たりの導入量とが1:1の比率となるように調節される。また、珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスとが真空チャンバ32内に導入されているときには、酸素ガスと窒素ガスのそれぞれの単位時間当たりの導入量の合計と、珪素化合物ガスの単位時間当たりの導入量との比率が、珪素化合物ガスと酸素ガスだけが真空チャンバ32内に導入されているときの酸素ガスの単位時間当たりの導入量と珪素化合物ガスの単位時間当たりの導入量との比率と同じ比率とされていることが、より望ましい。これらにより、真空チャンバ32内への窒素ガスの新たな導入によって真空チャンバ32内の圧力が高められることが可及的に防止されることとなる。なお、表層部24を形成するために、真空チャンバ32内に新たに導入されるガス成分の導入量と、基層部22の形成時に真空チャンバ32内に導入される成膜用ガスの各ガス成分の導入量の比率は、基層部22を構成する珪素化合物と表層部24を構成する珪素化合物のそれぞれの種類によって、適宜に変更されるものであることは、勿論である。
そして、珪素化合物ガスと酸素ガスに加えて、窒素ガスの真空チャンバ32内に導入が開始されると、かかる窒素ガスの導入開始当初は、真空チャンバ32内に存在する全てのガスのうちで窒素ガスが占める割合が少ないため、珪素化合物ガスと酸素ガスとのプラズマCVD法による反応(珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応)が優先的に生じ、それによって、SiO2が多く生成される。また、真空チャンバ32内への窒素ガスの導入開始からある程度の時間が経過してくると、真空チャンバ32内に存在する全てのガスのうちで窒素ガスが占める割合が徐々に増大し、それに伴って、珪素化合物ガスと酸素ガスとのプラズマCVD法による反応と並行して、珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスとのプラズマCVD法による反応(珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマと窒素ガスのプラズマとの反応)が生ずるようになる。それにより、SiO2と SiONとが同時に生成されるようになる。そして、更に時間が経過して、真空チャンバ32内での窒素ガス量が増大すると、珪素化合物ガスと酸素ガスとのプラズマCVD法による反応よりも、珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスとのプラズマCVD法による反応が優先的に進行するようになり、以て、SiON の生成量が、SiO2の生成量を上回るようになる。
このように、珪素化合物ガスと酸素ガスに加えて、窒素ガスの真空チャンバ32内に導入が開始されることによって、基層部22上に、SiO2とSiON とが混在する中間層26が形成されることとなる。また、かかる中間層26は、基層部22側からそれとは反対側に向かって、SiO2の含有率が徐々に減少する一方、SiON の含有率が徐々に増加するものとなる。つまり、中間層26内でのSiO2の含有率とSiON の含有率とが、基層部22側から表層部24側に向かって傾斜的に変化するようになる。
その後、更に時間が経過して、真空チャンバ32内の窒素ガス量が十分な量に達すると、珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスとのプラズマCVD法による反応のみが進行するようになり、SiON のみが生成されるようになる。そして、窒素ガスの真空チャンバ32内への導入開始からの経過時間が、予め設定された時間に達した時点で、第一、第二、及び第三開閉バルブ72a,72b,72cを全て閉作動して、珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスの真空チャンバ32内への導入を停止する。これによって、中間層26上に、SiON からなる表層部24を、所定の厚さで形成する。かくして、図1に示される如き構造を備えた、目的とする樹脂ガラス10を得るのである。
なお、SiON からなる表層部24の厚さは、第一、第二及び第三開閉バルブ72a,72b,72cの上記の如き開閉作動によって、酸素ガスと窒素ガスの真空チャンバ32内への単位時間当たりの導入量が一定となったときから、珪素化合物ガスと酸素ガスと窒素ガスの真空チャンバ32内への導入が停止されるまでの時間を目安として、適宜に調節されることとなる。
このように、本実施形態では、樹脂基材12の表面にアンダーコート層14が積層形成されてなる中間積層体28を一つの真空チャンバ32内に収容配置したままで、SiO2からなる基層部22とSiON からなる表層部24とを有する複層構造のトップコート層16を、プラズマCVD法を利用した一連の操作によって、アンダーコート層14上に、形成することができる。
また、基層部22の形成操作から表層部24の形成操作に切り換える際に、基層部22を形成するための成膜用ガス(第一の成膜用ガス)が、真空チャンバ32内から排出されることがなく、それ故、かかる成膜用ガスを真空チャンバ32内から排出するための面倒で時間のかかる作業から開放され得る。
しかも、基層部22を形成するための成膜用ガスに原料ガスとして含まれる珪素化合物ガスが、表層部24の形成操作において、表層部24を形成するための成膜用ガス(第二の成膜用ガス)に含まれる原料ガスとして、そのまま利用される。また、基層部22を形成するための成膜用ガスに反応ガスとして含まれる酸素ガスが、表層部24の形成操作において、表層部24を形成するための成膜用ガス(第二の成膜用ガス)に含まれる反応ガスの一種として、そのまま利用される。
従って、本実施形態によれば、樹脂基材12のアンダーコート層14上に、アンダーコート層14に対する密着性に優れた基層部22と、より優れた耐摩傷性を発揮する表層部24とを含むトップコート層16を、簡便な作業により、効率的に、しかも低コストに形成することができる。
また、本実施形態では、基層部22と表層部24との間に、それらを構成するSiO2とSiON とが混在する中間層26を形成して、トップコート層16が構成されている。そのため、基層部22と表層部24との間に明確な界面が形成されず、それによって、基層部22と表層部24との界面での剥離等の発生が可及的に防止され、以て、それら基層部22と表層部24との密着性が効果的に高められ得るのである。
さらに、本実施形態の樹脂ガラス10では、アンダーコート層14の基層部18がUV硬化型アクリル樹脂層にて構成されると共に、表層部20が、UV硬化型のフッ素樹脂層にて構成されている。それ故、それらアンダーコート層14の基層部18と表層部20とが、例えば、熱硬化型のアクリル樹脂やフッ素樹脂からなる場合とは異なって、アンダーコート層14の形成に際しての基層部18や表層部20の硬化時間が十分に短縮化され得、それによって、アンダーコート層14の形成工程の効率化、ひいては樹脂ガラス10の生産性の向上が、有利に図られ得る。
従って、かくの如き本実施形態に係る樹脂ガラス10にあっては、高い生産性を実現しつつ、アンダーコート層14とトップコート層16とによって得られる優れた耐候性と耐摩傷性とが、より長期に亘って安定的に確保され得る。また、それと同時に、長期使用による外観や品質の低下が、極めて効果的に防止され得るのである。
ところで、上記した第一の実施形態では、SiO2からなる、トップコート層16の基層部22の形成操作から、SiON からなる、トップコート層16の表層部24の形成操作に切り換える際に、基層部22の成膜用ガスの真空チャンバ32内への導入を維持しつつ、それに加えて、表層部24の成膜用ガスに反応ガスとして含まれる窒素ガスの真空チャンバ32内への導入が開始されるようになっていた。しかしながら、例えば、基層部22がSiO2からなる一方、表層部24がSi3N4 等の珪素化合物からなる場合等のように、基層部22を形成するための成膜用ガスに含まれるガス成分と、表層部24を形成するための成膜用ガスに含まれるガス成分とが、それらのうちの一部のガス成分(例えば、反応ガス)のみが異なるものである場合には、前記第一の実施形態に係る樹脂ガラス10の製造に際して実施される操作とは、一部が異なる操作が実施されて、トップコート層16の基層部22及び表層部24と中間層26とが、それぞれ形成されることとなる。
すなわち、前記第一の実施形態と同様に、プラズマCVD装置30の真空チャンバ32内に中間積層体28を収容した状態下で、アンダーコート層14に対するアルゴンプラズマ処理を、必要に応じて実施する。
その後、真空チャンバ32内のアルゴンガスとアルゴンのプラズマガスとを外部に排出した後、珪素化合物ガスと酸素ガスとを導入して、それら珪素化合物ガスと酸素ガスとをプラズマCVD法により反応させることによって、SiO2のプラズマCVD層からなる基層部22を中間積層体28のアンダーコート層14の表層部20上に形成する。
そして、珪素化合物ガスと酸素ガスの真空チャンバ32内への導入開始から所定時間が経過したら、予め真空チャンバ32内への酸素ガスの導入量を漸減させつつ、窒素ガスを、真空チャンバ32内に、その導入量が漸増していくように導入する。そして、酸素ガスの導入量が、やがてゼロとなった時点で、窒素ガスの真空チャンバ32内への単位時間当たりの導入量を一定の値とする。このとき、酸素ガスや窒素ガスの導入量の変動に拘わらず、珪素化合物ガスを真空チャンバ32内に一定の導入量で導入する。
そうして、酸素ガスの真空チャンバ32内への導入量が漸減して、ゼロとなるまでの間、真空チャンバ32内で、珪素化合物ガスと酸素ガスのプラズマCVD法による反応を行いつつ、それと並行して、珪素化合物ガスと窒素ガスのプラズマCVD法による反応を実施する。これにより、基層部22上に、SiO2とSi3N4 とが混在する中間層26を積層形成する。この中間層26は、トップコート層16の基層部22側(アンダーコート層14側)からそれとは反対側に向かって、SiO2の含有率が徐々に減少する一方、Si3N4 の含有率が徐々に増加するものとなる。つまり、中間層26内でのSiO2の含有率とSi3N4 の含有率とが、基層部22側から表層部24側に向かって傾斜的に変化するようになる。
そして、真空チャンバ32内への酸素ガスの導入が停止されると共に、窒素ガスの真空チャンバ32内への単位時間当たりの導入量が一定の値にされると、真空チャンバ32内で、珪素化合物ガスと窒素ガスのプラズマCVD法による反応のみが進行する。これにより、中間層26上に、Si3N4 のプラズマCVD層からなる表層部24を積層形成する。その後、真空チャンバ32内への酸素ガスの導入が停止されてから所定時間が経過した時点で、珪素化合物ガスと窒素ガスの真空チャンバ32内への導入を停止する。
かくして、中間積層体28のアンダーコート層14の表層部20上に、基層部22と中間層26と表層部24とが、その順番で積層されてなる複層構造を有するトップコート層16を積層形成する。そうして、図1に示される如き構造を備えた、目的とする樹脂ガラス10を得るのである。
かくの如き本実施形態にあっても、前記第一の実施形態において奏される作用・効果と同様な作用・効果が有効に享受され得るのである。
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
先ず、市販のポリカーボネート樹脂を用いて、公知の射出成形を行って、縦×横×厚さが100×100×5mmの矩形平板からなる2個の透明な樹脂基材を得た。
次いで、それら2個の樹脂基材のそれぞれの表面の全面に、市販のUV硬化型アクリル樹脂塗料を塗布し、これに紫外線を照射して硬化させた。これにより、2個の樹脂基材のそれぞれの表面の全面に、UV硬化型アクリル樹脂層をそれぞれ形成した。それら2個の樹脂基材表面上のUV硬化型アクリル樹脂層の厚さを、何れも20μmとした。
引き続いて、表面にUV硬化型アクリル樹脂層がそれぞれ形成された2個の樹脂基材のうちの1個を用い、かかる1個の樹脂基材のUV硬化型アクリル樹脂層上に、市販のUV硬化型PTFE樹脂塗料を、UV硬化型アクリル樹脂層の全面を被覆されるように塗布し、これに紫外線を照射して硬化させた。これにより、樹脂基材のUV硬化型アクリル樹脂層上に、UV硬化型PTFE樹脂層を積層形成した。この樹脂基材のUV硬化型アクリル樹脂層上のUV硬化型PTFE樹脂層の厚さを20μmとした。
かくして、樹脂基材の表面上に、UV硬化型アクリル樹脂層からなる基層部とUV硬化型PTFE樹脂層からなる表層部との複層構造を有するアンダーコート層が積層形成されてなる中間積層体Aを得た。また、樹脂基材のUV硬化型アクリル樹脂層上に、UV硬化型PTFE樹脂層を何等形成することなく、樹脂基材の表面上に、UV硬化型アクリル樹脂層のみからなる単層構造のアンダーコート層が積層形成されてなるものを、中間積層体Bとした。
そして、中間積層体Aを、図2に示される如き構造を有するプラズマCVD装置の真空チャンバ内に収容した後、真空チャンバ内を真空状態とした。このときの真空チャンバの内圧を10-4Paとした。
その後、真空チャンバ内に、アルゴンガスを導入して、充満させた後、高周波電源からカソード電極に高周波電流を供給し、アルゴンガスのプラズマを発生させた。そして、かかるアルゴンのプラズマガスを、真空チャンバ内の中間積層体Aにおけるアンダーコート層の表層部に接触させることにより、アンダーコート層の表層部に対するアルゴンプラズマ処理を実施した。なお、かかるアルゴンプラズマ処理時間を10分とした。
次に、真空チャンバ内にアルゴンガスとアルゴンのプラズマガスとを外部に排出した後、真空チャンバ内に、珪素化合物ガスたるモノシランガスと酸素ガスとを、単位時間当たりの導入量が一定となるように導入して、充満させた。その後、高周波電源からカソード電極に高周波電流を供給し、酸素ガスのプラズマとモノシランガスのプラズマを発生させて、それらのプラズマガスを反応させることにより、アンダーコート層の表層部上に、SiO2からなる、トップコート層の基層部を形成した。なお、この基層部の形成操作を1200秒間継続して実施した。また、真空チャンバ内へのモノシランガスの導入量は50ml/sec、真空チャンバ内への酸素ガスの導入量は50ml/secとした。更に、高周波電源の出力値を3000Wとした。かくして形成された基層部の厚さは1μmであった。
そして、酸素ガスとモノシランガスの真空チャンバ内への導入の開始(基層部の形成操作の開始)から1〜5分経過した後、窒素ガスを、真空チャンバ内に、単位時間当たりの導入量が徐々に増加するように、20分かけて導入した。モノシランガスと酸素ガスは、基層部の形成時と同じ単位時間当たりの導入量で、継続的に導入した。
そして、モノシランガスと酸素ガスと窒素ガスとを真空チャンバ内に導入している間、高周波電源の出力値を3000Wとしたままで、カソード電極に高周波電流を継続に供給することにより、モノシランガスと酸素ガスと窒素ガスをそれぞれプラズマ化して、モノシランガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとを反応させる一方、それと並行して、モノシランガスのプラズマと酸素ガスのプラズマと窒素ガスのプラズマとを反応させた。これにより、基層部上に、SiO2とSiON とが混在する中間層を形成した。なお、真空チャンバ内への窒素ガスの導入量は500ml/secだけ増加するようにした。真空チャンバ内へのモノシランガスと酸素ガスの導入量は、それぞれ、50ml/secとした。かくして形成された中間層の厚さは0.1〜10μmであった。
そして、更に高周波電源の出力値を3000Wとしたままで、カソード電極に高周波電流を継続に供給して、モノシランガスのプラズマと窒素ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとを発生させて、それらのプラズマガスを反応させることにより、中間層上に、 SiONからなる、トップコート層の表層部を形成した。この表層部の厚さは、1μmであった。
かくして、図1に示されるように、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面に、UV硬化型アクリル樹脂層からなる基層部とUV硬化型PTFE樹脂層からなる表層部の二層構造を有するアンダーコート層が形成されると共に、SiO2からなる基層部と、SiO2と SiONが混在する中間層と、SiON からなる表層部の三層構造を有するトップコート層が、アンダーコート層上に積層形成されてなる透明な樹脂ガラスを得た。そして、この樹脂ガラスを試験例1とした。
一方、比較のために、前記中間積層体Bを、試験例1の樹脂ガラスの製造の際に用いられたプラズマCVD装置の真空チャンバ内に収容した後、真空チャンバ内を真空状態とした。このときの真空チャンバの内圧を10-4Paとした。
そして、中間積層体Bに形成されたUV硬化型アクリル樹脂層の単層構造を有するアンダーコート層上に、SiO2からなる基層部と、SiO2とSiON が混在する中間層と、SiON からなる表層部の三層構造を有するトップコート層を、試験例1の樹脂ガラスの製造時と同様にして、積層形成した。これにより、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面に、UV硬化型アクリル樹脂層のみからなる単層構造のアンダーコート層が形成されると共に、SiO2からなる基層部と、SiO2とSiON が混在する中間層と、SiON からなる表層部の三層構造を有するトップコート層が、アンダーコート層上に積層形成されてなる透明な樹脂ガラスを得た。そして、この樹脂ガラスを試験例2とした。なお、トップコート層の基層部と中間層と表層部のそれぞれの厚さを、試験例1の樹脂ガラスと同一の厚さとした。
そして、上記のようにして得られた試験例1及び試験例2の2種類の透明な樹脂ガラスを用いて、各樹脂ガラスの耐摩耗性と、トップコート層とアンダーコート層との間の密着性とに関する評価試験を以下のようにして実施した。その結果を、下記表1に示す。
<耐摩耗性>
JIS R3211に準拠したテーバー摩耗試験の実施前後におけるヘイズ値の差:ΔHを、JIS R3212に基づいて測定した。そして、その測定値:ΔHが2.0%以下のものを、耐摩耗性に優れたものとして、評価結果を○で示し、ΔHが2.0%を超えるものを、耐摩耗性に劣るものとして、評価結果を×で示した。なお、テーバー摩耗試験の実施に際しては、型番:CS−10F(テーバー社製)の摩耗輪を使用した。また、ヘイズ値の測定には、ヘイズ値測定機[型番:HZ−2P(スガ試験機株式会社製)]を使用した。ここで、ΔHの値が2.0%以下のものの評価結果を○としたのは、以下の理由による。即ち、自動車用のフロントガラスに使用される樹脂ガラスには、JIS R3211に準拠したテーバー摩耗試験の実施前後におけるヘイズ値の差:ΔHが2.0%以下であることが要求される。それ故、ここでは、ΔHの値が2.0%以下のものの耐摩耗性に関する評価結果を○としたのである。
<密着性試験>
JIS K5600−5−6に準拠して実施した。そして、密着性試験の結果、剥離がなかったものを、密着性に優れたものとして、評価結果を○で示し、剥離が軽微であったものを、密着性に僅かに劣るものとして、評価結果を△で示した。
かかる表1の結果から明らかなように、UV硬化型アクリル樹脂層からなる基層部とUV硬化型PTFE樹脂層からなる表層部の二層構造を有するアンダーコート層上にトップコート層が積層形成された試験例1の樹脂ガラスと、UV硬化型アクリル樹脂層のみからなる単層構造のアンダーコート層上にトップコート層が積層形成された試験例2の樹脂ガラスとを比較した場合、試験例1の樹脂ガラスは、耐摩耗性試験と密着性試験の評価結果が、何れも○となっている。しかしながら、試験例2の樹脂ガラスは、耐摩耗性試験の評価結果が×で、密着性試験の評価結果が△となっている。これは、本発明に従う構造を有する樹脂ガラスが、耐摩耗性と密着性の両方において優れた特性を発揮するものであることを、如実に示している。
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
例えば、前記第一の実施形態では、トップコート層16の基層部22と表層部24とが、それぞれ、SiO2のプラズマCVD層とSiON のプラズマCVD層にて構成され、また、前記第二の実施形態では、トップコート層16の基層部22と表層部24とが、それぞれ、SiO2のプラズマCVD層とSi3N4 のプラズマCVD層にて構成されていた。しかしながら、トップコート層16は、珪素化合物のプラズマCVD層にて構成されておれば、単層構造を有していても、何等差し支えない。
また、トップコート層16を、複数の珪素化合物のプラズマCVD層を有する複層構造とする場合にも、それら複数の珪素化合物のプラズマCVD層をそれぞれ構成する珪素化合物の種類は、例示のものに、何等限定されるものではない。しかしながら、トップコート層16を複層構造とする場合には、表層部が、基層部よりも高い硬度を有する珪素化合部のプラズマCVD層にて構成されていることが、望ましい。
さらに、複層構造のトップコート層16を形成する方法も、プラズマCVD法を利用するものであれば、例示した方法に、特に限定されるものではない。そして、真空チャンバ32内に導入される、トップコート層16の基層部22や表層部24を形成するための成膜用ガスに含まれるガス成分、特に反応ガスの種類も、何等限定されるものではなく、それら基層部22や表層部24を構成する珪素化合物の種類に応じて、適宜に変更され得るものである。例えば、SiON やSi3N4 のプラズマCVD層からなるトップコート層16の表層部24を形成するための成膜用ガスに含まれるガス成分として、窒素ガスに代えて、アンモニアガス等の窒素化合物ガスを用いることもできる。
また、トップコート層16の形成に際して用いられるプラズマCVD装置は、例示された構造を有するもの以外にも、公知の構造を有するものが、適宜に採用可能である。例えば、誘導結合方式やアークを発生するプラズマガンを用いた方式の構造を採用することもできる。
さらに、樹脂基材12の一方の面のみに、アンダーコート層14とトップコート層16とを設けるようにしても良い。
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車のリヤウインドウ用の樹脂ガラスと、その製造方法に適用したものの具体例を示したが、本発明は、ポリカーボネート製の樹脂成形品からなる樹脂基材の表面に、アンダーコート層と、基層部を含むトップコート層とが、その順番に積層形成されてなる樹脂製品と、そのような樹脂製品の製造方法の何れに対しても、有利に適用され得るものであることは、勿論である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。