JP5832142B2 - インベルターゼ活性抑制剤とその用途 - Google Patents

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Description

本発明は、インベルターゼ活性抑制剤とその用途に関し、詳細には、インベルターゼによるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解抑制剤とその分解抑制方法、更にはスクロース又はラクトスクロースと、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤を含有し、インベルターゼ作用下でのスクロース又はラクトスクロースの分解が抑制された糖質組成物に関する。また、本発明は、ラクトスクロースを含有する発酵パンの製造方法に関するものであり、当該発酵パンの製造方法において、糖質として、スクロースとともにラクトスクロース、並びにインベルターゼ活性抑制剤としてマルチトール又はイソマルチトールを所定の割合で含んでなるパン生地を発酵させ、次いで焼成することを特徴とするラクトスクロース含有発酵パンの製造方法、並びにラクトスクロース含有発酵パンの製造用のプレミックス粉に関する。
一般にわが国で食されている発酵パンは、小麦粉、糖質、パン酵母(イースト)及び水を原料とし、これに適量の食塩、油脂などを混合して生地を調製し発酵させて、これを焼成したものである。
また、近年、各種機能を持つラクトスクロース、エルロース、ラフィノースなどのβ‐フラクトフラノシド結合を有する三糖オリゴ糖が開発され、整腸作用や抗う蝕性、低カロリー等の機能が注目されている。
例えば、ラクトスクロースは、乳糖とショ糖にβ‐フラクトフラノシダーゼを作用させることによって得られる「4‐β‐D‐ガラクトシルスクロース」あるいは「O‐β‐D‐ガラクトピラノシル‐(1→4)‐O‐α‐D‐グルコピラノシル‐(1←2)‐β‐D‐フラクトフラノシド」で表されるオリゴ糖である。
ラクトスクロースは難消化性糖質であり、非特許文献1に開示されているように継続して摂取する事により腸内に棲息している善玉菌の代表であるビフィズス菌を選択的に増加させ、悪玉菌を減少させる事により、腸内有害産物の生成を抑制する働きや、便性改善、カルシウム吸収促進などの優れた機能を有している。
また、ラクトスクロースはスクロースに似た物性や癖の無い味質により、現在各種食品に配合されている。
発酵パンの製造においては、β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖を配合し、当該オリゴ糖の持つ機能性の効果を期待した製品が開発されているものの、通常の発酵パンの製造方法では、パン酵母に由来する酵素の働きにより発酵時に当該オリゴ糖が分解され、それが持つ機能が失われてしまう。
スクロースを加水分解するパン酵母の有する主な酵素には、スクロースのβ‐フラクトフラノシド結合を分解するインベルターゼ(EC3.2.1.26)と、スクロースのα‐グルコシド結合を分解するα‐グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)が知られており、ラクトスクロース、エルロース、ラフィノースなどのβ‐フラクトフラノシド結合を有する機能性三糖オリゴ糖もインベルターゼにより分解されることが懸念される。とりわけ、わが国では菓子パンなどの糖質を多く含む製品が多いこともあり、耐糖性とインベルターゼ活性の強いパン酵母が多く開発されパンの製造に用いられている。
現在までに、β‐フラクトフラノシド結合を有する三糖オリゴ糖を含有した発酵パンを製造するために様々な製造方法が提案されており、特許文献1に開示されているように、予め酵母の分解能力以上の糖質を多量に配合する方法や、特許文献2に開示されているように、発酵させる生地とは別の生地にラフィノースを含有させ、焼成前に発酵させた生地にラフィノースを含む生地を貼り付ける方法や、更には特許文献3及び4に開示されているインベルターゼ活性の低い酵母を利用し、ラクトスクロースやフラクトオリゴ糖を残存させるといった製造方法が採られてきた。
しかし、当該三糖オリゴ糖の十分な残存量を得るための製造方法として、必要量以上の当該オリゴ糖を添加すればパン酵母の活性やパン生地の物性、品質に悪影響を及ぼす懸念があり、焼成前に発酵させた生地に貼り付ける方法では作業工程が増え、手間がかかる上、製パンへの用途が限定されてしまう。また、インベルターゼ活性の低いパン酵母の利用は、従来のパン酵母と比較しての品質や風味を満足に引き出す事が難しいものや、多くの製造工程や発酵時間を要するものがある上、これに適する製品は限られてしまう。
特許第4300063号公報 特許第3161883号公報 特公平4‐37693号公報 特許第4149113号公報
「ジャパンフードサイエンス」日本食品出版株式会社発行1991年12月号46〜61頁
本発明は、インベルターゼ活性抑制剤とその用途を提供することを課題とするものであり、詳細には、インベルターゼによるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解抑制剤とその分解抑制方法、並びにβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖とともにインベルターゼ活性抑制剤を含有する糖質組成物、更にはスクロース及びラクトスクロースとりわけラクトスクロースを高含有するとともに品質の優れた発酵パンの製造方法、並びにスクロース及びラクトスクロースとインベルターゼ活性抑制剤を含有するプレミックス粉を提供することを課題とする。
本発明者は、上記の課題を解決する目的で、インベルターゼ活性に与える糖アルコールや難発酵性糖質の影響に着目してインベルターゼ活性抑制剤を鋭意探索してきた。
その結果、意外にも、糖アルコールの内、マルチトールが強いインベルターゼ活性の抑制作用を示し、次いで弱いながらイソマルチトールも同様抑制作用を示し、これらの糖質がインベルターゼ活性抑制剤として好適であることを見出し、併せて、その用途として、発酵パンの製造に、このインベルターゼ活性抑制剤が有利に利用できることを見出した。
即ち、本発明は、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤とこれを利用したβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖のインベルターゼによる分解を抑制する方法、インベルターゼの作用下でのスクロース又はラクトスクロースの分解が抑制された糖質組成物、及び、ラクトスクロース含有発酵パンの製造方法、並びにラクトスクロース含有プレミックス粉に関する発明である。
詳細には、本発明は、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤に関する発明であり、β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖をインベルターゼの作用下で用いるに際し、当該活性抑制剤を共存させることを特徴とするβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解抑制方法に関する発明である。
また、本発明は、スクロース、ラクトスクロースから選ばれるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖をインベルターゼの作用下で用いるに際し、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤を当該活性抑制剤含まれるマルチトール又はイソマルチトールの量で、前記オリゴ糖に対し無水物換算で10乃至100質量%(以下、本明細書を通じて特にことわらない限り、「質量%」を「%」と略称する。)共存させることを特徴とするβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解抑制方法に関する発明である。
また、本発明は、スクロース、ラクトスクロースから選ばれるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖を含有し、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤を当該活性抑制剤含まれるマルチトール又はイソマルチトールの量で、前記オリゴ糖に対し無水物換算で10乃至100%含有することを特徴とするインベルターゼ作用下での当該オリゴ糖の分解が抑制された糖質組成物に関する発明である。
また、本発明は、小麦粉、糖質、酵母及び水を含んでなるパン生地を混捏、成形、発酵させ、次いで焼成る発酵パンの製造方法において、小麦粉100質量部に対し、糖質として、スクロースとともにラクトスクロース、並びにインベルターゼ活性抑制剤として1乃至5質量部のマルチトール又はイソマルチトールを含み、且つ、ラクトスクロースに対し無水物換算で、当該活性抑制剤を14乃至143%、好ましくは、14乃至71%含んでなるパン生地を発酵させ、次いで焼成することを特徴とするラクトスクロース含有発酵パンの製造方法に関する発明である。
また、本発明は、小麦粉、糖質を含有し、糖質としてスクロースとともにラクトスクロースを含有し、小麦粉100質量部に対し1乃至5質量部のマルチトール又はイソマルチトールを含み、且つ、ラクトスクロースに対し無水物換算で、マルチトール又はイソマルチトールを14乃至143%、好ましくは、14乃至71%含有せしめた発酵パンの製造用のプレミックス粉に関する発明である。
本発明において得られた発酵パンは、パン生地製造工程で配合されたβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖をよく残存しており、製品の発酵パンに対し、製品当たり当該オリゴ糖を無水物換算で、約2%以上、更に望ましくは3〜10%残存させることも容易である。ラクトスクロースの場合、2%を超える量、望ましくは2.5%以上、更に好ましくは2.5乃至5%を残存させることも容易となり、特定保健用食品の関与成分量としての条件である成人一日当たりの摂取量2g以上を、発酵パン100g程度の摂取で十に摂取できる製品の製造が容易になる。そして、これを食する人の腸内に棲息している善玉菌の代表であるビフィズス菌を選択的に増加させ、悪玉菌を減少させる事により、腸内有害産物の生成を抑制、便性改善、カルシウム吸収促進などの効果が期待できる食品の提供を容易にするものである。
基質(スクロース又はラクトスクロース)に対するマルチトールの共存割合が、基質の残存率に及ぼす影響を示した図である。 小麦粉に対するマルチトール配合割合が焼成後のパンにおけるスクロース又はラクトスクロースの残存率に及ぼす影響を示した図である。
図1及び図2において、
●:スクロース
○:ラクトスクロース
本発明を実施するための最良の形態は、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤であり、また、β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖をインベルターゼの作用下で用いるに際し、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤を共存させることを特徴とするβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解抑制方法である。
また、本発明を実施するための最良の形態は、スクロース、ラクトスクロースから選ばれるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖を含有し、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤を当該活性抑制剤に含まれるマルチトール又はイソマルチトールの量で、前記オリゴ糖に対し無水物換算で10乃至100%含有することを特徴とするインベルターゼ作用下での前記オリゴ糖の分解が抑制された糖質組成物である。
また、本発明を実施するための最良の形態は、小麦粉、糖質、酵母及び水を含んでなるパン生地を混捏、成形、発酵させ、次いで焼成る発酵パンの製造方法において、小麦粉100質量部に対し、糖質として、スクロースとともにラクトスクロース、並びにインベルターゼ抑制剤として1乃至5質量部のマルチトール又はイソマルチトールを含み、且つ、ラクトスクロースに対し無水物換算で、当該活性抑制剤を14乃至143%、好ましくは、14乃至71%含んでなるパン生地を発酵させ、次いで焼成することを特徴とするラクトスクロース含有発酵パンの製造方法である。
また、本発明を実施するための最良の形態は、小麦粉、糖質を含有し、糖質としてスクロースとともにラクトスクロースを含有し、小麦粉100質量部に対し1乃至5質量部のマルチトール又はイソマルチトールを含み、且つ、ラクトスクロースに対し無水物換算で、マルチトール又はイソマルチトールを14乃至143%、好ましくは、14乃至71%含有せしめた発酵パンの製造用のプレミックス粉である。
本発明のインベルターゼ活性抑制剤の有効成分であるマルチトール又はイソマルチトールの純度は、インベルターゼ抑制作用を発揮するものであれば良く、通常50%以上、望ましくは80%以上、更に望ましくは90%以上であって、その形態はシラップ、粉末、結晶のいずれであっても良い。
本発明において発酵パンの主原料となる小麦粉は、特に制限はなく、強力粉、中力粉、薄力粉、その他製菓製パン用に用いられる小麦粉を用いることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
また、風味改善、栄養改善などの目的で小麦粉の他に穀粉類として、例えば大麦粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉などの穀粉類を小麦粉と配合して用いることもできる。この場合には、小麦粉100質量部に対して、他の穀粉類を30質量部未満、好ましくは20質量部未満配合することも随意である。
また、本発明の発酵パンでは糖質を用いる。糖質は、後記の方法で分析できる可溶性糖質であって、パン生地で使用する小麦粉100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部用いる。この内、スクロース、ラクトスクロースなどのβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖については、約4乃至20質量部が好ましく、インベルターゼ活性抑制剤の有効成分であるマルチトール又はイソマルチトールについては1乃至5質量部が好ましい。ちなみに、小麦粉100質量部に対しマルチトールを7質量部以上配合すると、作業性が悪化することに加え、発酵が遅れ、パンの膨らみが足りず、内相が密になり過ぎて、食感が重く、口溶けも悪くなる場合がある。
糖質の具体例としては、グルコース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、エルロース、1−ケストース、異性化糖、はちみつ等の易発酵性糖質、並びに、マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等の難発酵性糖質、またこれら易発酵性糖質と難発酵性糖質との混合物である酵素糖化物、還元澱粉糖化物等の糖質を必要に応じて適宜配合して用いることができる。なお、本明細書でいう難発酵性糖質とは、パン酵母によって分解されない、もしくはほとんど分解されない糖質を指す。
また、上記以外の糖質として、還元乳糖、還元水飴、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、パラチニット、マルトトリイトール、マルトテトライトールなどの糖アルコールを必要に応じて適宜配合して用いることができる。
本発明の発酵パンではパン酵母を用いる。上記のパン酵母としては、汎用酵母、冷凍耐性イースト、生イースト、ドライイースト等があげられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
また本発明の発酵パンでは水を用いる。水は、パン生地で使用する小麦粉100質量部に対して、好ましくは50〜75質量部、さらに好ましくは52〜70質量部用いる。この水は、天然水、水道水、地下水などの飲用に適する水であれば良く、更に、糖質シラップ、牛乳、乳製品、卵類等水分を含む食品に由来してもよい。
また、本発明の発酵パンの他の原料として、食塩、でんぷん、油脂、乳化剤、卵類、イーストフードなどを適宜配合して用いることができる。
上記の食塩としては、精製塩、天然塩、自然塩等があげられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記のでんぷんとしては、コーン、ワキシーコーン、タピオカ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米等のでんぷんや、これらのでんぷんをアミラーゼ等の酵素で処理したものや、酸やアルカリ、エステル化、リン酸架橋化、加熱、湿熱等の物理的、化学的処理を行ったもの、更にこれらのでんぷんを、水に溶解しやすいようにあらかじめ加熱処理により糊化させたものなどがあげられる。
上記の油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂等があげられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、レシチン等があげられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の卵類としては、全卵、卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結加糖全卵、凍結卵黄、凍結加糖卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等があげられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
さらに本発明の発酵パンは必要に応じて、以下のような材料を用いてもよい。例えば、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、ファーセルラン、タラガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガム、大豆多糖類等の増粘安定剤、β‐カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、アスコルビン酸、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、アルコール類、膨張剤、無機塩類、ベーキングパウダー、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、粉乳、カゼイン等の乳蛋白、保存料、高甘味度甘味料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、コンソメ、ブイヨン、植物及び動物エキス、食品添加物等をあげることができ、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができる。
本発明の発酵パンの製造方法は、例えば、食パン、コッペパン、菓子パン、ハードロール、ドイツパン、ブドウパン、ベーグル、デニッシュなどのパン類、プレッツェル、スコーン、蒸しパン、中華饅頭、イーストドーナツ、ピザ、ナンなどの優れた品質を持つ各種発酵パンを容易に作業性良く製造できる。
本発明の発酵パンは、直捏法、中種法、更には湯種法などのいずれの製パン方法にも適用可能であり、また、従来パン生地類の冷凍に用いられている、生地玉冷凍法、分割生地冷凍法、成形生地冷凍法、ホイロ後冷凍法など、いずれの方法にも適用できる。冷凍方法についても、いずれの方法も適用可能であるが、液体窒素トンネルフリージング、エアブラストフリージング、あるいは冷凍庫内静置による冷凍など、品質保持の面からは急速冷凍が好ましい。
以下に本発明について実験例を用いて具体的に説明する。
以下の実験に用いた材料を表1に示した。
Figure 0005832142
<実験1:インベルターゼ活性に与える糖アルコール又は難発酵性糖質共存の影響>
スクロース或いはラクトスクロースを基質として用いた場合のインベルターゼ活性に与える糖アルコール又は難発酵性糖質影響を調べた。非還元性糖質であるスクロースやラクトスクロースはインベルターゼにより加水分解され、それぞれ還元性糖質のグルコース及びフラクトース、又はフラクトース及びラクトースが生成するので、生成した糖質の還元力を定量することにより、難発酵性糖質共存下でのインベルターゼのスクロース及びラクトスクロースに対する分解活性を評価した。
スクロース又はラクトスクロースと共存させる糖アルコールとして、ソルビトール、マルチトール、イソマルチトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール及びラクチトールを、難発酵性糖質としてマルトース、トレハロース、α‐サイクロデキストリンを用いた(表1参照)。
<実験1−1 反応液の調製:インベルターゼのスクロース分解活性測定>
スクロースと、糖アルコール又は難発酵性糖質の何れか1種とを、各々、最終濃度が30mMとなるように、5mM塩化カルシウムを含む20mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に溶解し基質溶液とした。その基質溶液2mlに、市販のインベルターゼ(シグマ アルドリッチ ジャパン(株) 商品名「インベルターゼ パン酵母(S.cerevisiae種)由来 GradeVII」、凍結乾燥粉末)を5mM塩化カルシウムを含む20mMクエン酸緩衝液(pH6.0)で希釈した酵素液(約0.32単位/ml)0.2mlを加え、40℃で10分間保持して酵素反応を行った後、その反応液0.5mlを採取してソモギー・ネルソン法にて、還元力を測定した。対照として、糖アルコール又は難発酵性糖質の共存しないスクロースのみを含有する基質溶液を用いた以外は、前記と同じ条件で酵素反応を行い、還元力を測定した。対照で生成した還元糖の量を100%として、糖アルコール又は難発酵性糖質の何れか1種の共存下でスクロースにインベルターゼを作用させたとき生成した還元糖の相対値(%)を求め、インベルターゼのスクロース分解活性として表2に示す。
因みに、インベルターゼの酵素活性は、スクロースを最終濃度30mM(1.0%W/W)となるように5mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解させて基質溶液とし、その基質溶液5mlに、適宜希釈したインベルターゼ溶液0.2mlを加え40℃で10分間保持後、その反応液0.5mlを採取し、D−グルコースを標準物質として、ソモギー・ネルソン法にて、酵素反応により生成した還元力を求め、斯かる反応条件で1分間に2μmolのグルコースに相当する還元力を生成する酵素量を1単位と定義した。
<実験1−2 反応液の調製:インベルターゼのラクトスクロース分解活性測定>
スクロースをラクトスクロースに代えた以外は、スクロースの分解活性の測定と同じ方法で生成する還元力を測定し、対照で生成した還元力を100%として、糖アルコール又は難発酵性糖質の何れか1種の共存下でラクトスクロースにインベルターゼを作用させたとき生成した還元力の相対値(%)を求め、インベルターゼのラクトスクロース分解活性として表2に併せて示す。
Figure 0005832142
表2から明らかなようにインベルターゼのスクロース分解活性はマルチトールの共存下では共存する糖質のない対照と比べて66.2%に抑制され、イソマルチトールの共存下では共存する糖質のない対照と比べて77.4%に抑制された。一方、ソルビトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール、ラクチトール、マルトース、トレハロース、α‐サイクロデキストリンの共存下では共存する糖質のない対照と比べていずれの場合も95%以上であり、その活性はほとんど抑制されなかった。
次に、インベルターゼのラクトスクロース分解活性はマルチトールの共存下では共存する糖質のない対照と比べて70.8%、イソマルチトールの共存下では71.2%という結果であった。スクロースの場合と同様に、共存させる糖アルコールや難発酵性糖質が、ソルビトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール、ラクチトール、マルトース、トレハロース、α‐サイクロデキストリンの共存下では共存する糖質のない対照と比べていずれの場合も95%以上であり、その活性はほとんど抑制されなかった。
以上の結果よりβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖とともにマルチトール又はイソマルチトールを共存させることにより、インベルターゼの活性がよく抑制されることが判明した。換言すれば、マルチトール又はイソマルチトールはインベルターゼ活性抑制剤として機能することが判明した。
<実験2:パン酵母によるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解に与えるマルチトール又はイソマルチトールの共存の影響>
実験1において、マルチトールとイソマルチトールがインベルターゼ活性を抑制することが判明したので、発酵パンの製造時を想定し、パン酵母によるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解に対するマルチトール及びイソマルチトールの共存の影響を調べた。基質として、β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖は実験1で用いたスクロース及びラクトスクロースの他に、エルロース、ラフィノースを用いた。
<実験2−1:反応液の調製>
反応液は以下の手順で調製した。β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖として、スクロース、ラクトスクロース、エルロース、又はラフィノースを最終濃度5%、糖アルコールとしてマルチトール又はイソマルチトールを最終濃度5%となるよう50mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に溶解し、さらに、パン酵母を最終濃度0.5%になるように懸濁し、酵母緩衝液懸濁液を調製した。この懸濁液を時々攪拌しながら酵母によるオリゴ糖の分解反応を28℃で4時間行った後、直ちに氷冷し、遠心分離を行ない、酵母菌体を除去し、上清を回収し、残存するオリゴ糖を定量した。
<残存オリゴ糖の定量方法>
反応液に残存するオリゴ糖量は以下の手順で測定した。反応液(遠心上清)0.1mlと0.2%ソルビトール水溶液(内部標準物質として添加)1mlを混合し、メンブラン濾過後、マイクロアシライザーG0(旭化成株式会社製)にて脱塩後、その糖質の組成を高速液体クロマトグラフィー法(以下、HPLCと略称する。)で調べた。なお、HPLCは、カラムに「MCIGEL CK08EC」(三菱化学株式会社製)を用い、溶離液に水を用いて、カラム温度75℃、流速0.6ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID‐10A(島津製作所製)を用いて行った。得られた糖組成から内部標準物質であるソルビトールのピーク面積を基準に補正し、各反応後の反応液に残存するβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の質量を求め、酵母を含まない反応液に含まれる各β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の質量を100%とした場合の残存率(%)を示した。結果を表3に示す。
Figure 0005832142
表3の結果から明らかなように、基質としてスクロースを用いた場合、マルチトールを共存させるとスクロースの残存率は69.4%、イソマルチトールを共存させると52.1%となり、これらの糖アルコールを共存させない場合の残存率は7.2%であるのに比べてスクロースの分解が抑制された。
基質としてラクトスクロースを用いた場合、マルチトールを共存させるとラクトスクロースの残存率は63.5%、イソマルチトールを共存させると41.2%となり、これらの糖アルコールを共存させない場合の残存率は4.4%であるのに比べてラクトスクロースの分解が抑制された。
基質としてエルロースを用いた場合、マルチトールを共存させるとエルロースの残存率は71.7%で、マルチトールを共存させない場合の残存率は25.8%の残存率であった。また、基質としてラフィノースを用いた場合、マルチトールを共存させるとラフィノースの残存率は76.0%で、マルチトールを共存させない場合の残存率は54.2%であり、基質がいずれの場合であってもマルチトールを共存させることによってβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解が抑制された。なお、エルロースとラフィノースについてはイソマルチトールの共存下では試験を行わなかった。
以上の結果から、マルチトール又はイソマルチトールを共存させると、パン酵母によるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解を抑制することがわかった。
さらに、β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖のなかでも、スクロース又はラクトスクロースは、パン酵母によりよく分解され、マルチトール又はイソマルチトールの共存によりその分解は抑制されることが分かった。ちなみに、本実験で用いたパン酵母(オリエンタル酵母工業株式会社販売 商品名「オリエンタル レギュラーイースト」)はインベルターゼを含んでいるので、実験2の結果から、酵母によるβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解の抑制は、これらの糖アルコールによるインベルターゼ活性の阻害によるものと判断した。上記の結果によって、マルチトール又はイソマルチトールの共存下において、インベルターゼ活性が抑制されていることを示している。とりわけ、マルチトールの共存下において強い抑制を示している。
<実験3:パン酵母によるスクロース又はラクトスクロースの分解に及ぼすマルチトール共存割合の影響>
<実験3‐1:反応液の調製>
実験2においては基質と等量のマルチトールを用いることにより、パン酵母によるスクロース又はラクトスクロースの分解が抑制されたので、実験3においては、スクロース又はラクトスクロースに対するマルチトールの共存割合を種々変えて実験を行った。
実験手順については以下の方法で行った。スクロースを無水物換算で最終濃度5%、マルチトールを無水物換算で最終濃度0から5%まで0.5%間隔(11通り)、パン酵母を最終濃度0.5%になるように50mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に混合し、酵母緩衝液懸濁液を調製した。懸濁液を時々攪拌しながら酵母によるオリゴ糖の分解反応を28℃で4時間行なった後、遠心分離して上清を回収し、オリゴ糖の残存率を評価するために分析に供した。対照として酵母不使用区を設けた。分析は実験2と同様の手順で実施した。
次に、スクロースに代わり、ラクトスクロースを用いて、同様の実験手順で反応液を調製し分析を行った。
実験2の場合と同様にスクロース又はラクトスクロースの残存率(%)を求め、その結果をスクロースの場合は表4を、ラクトスクロースの場合は表5を用いて示し、併せて図1に示した。
Figure 0005832142
Figure 0005832142
表4、表5及び図1の結果から明らかなように、パン酵母によるスクロース及びラクトスクロースの分解は、共存させたマルチトールにより濃度依存的に抑制されることがわかった。詳細には、スクロース、ラクトスクロースに対する、マルチトールの共存割合が30乃至40%付近まで濃度依存的にオリゴ糖の残存率が急激に上昇し、その残存率は約50%となる事が判明した。マルチトールの共存割合を更に高くすると、オリゴ糖の残存率は、なお向上するものの、その上昇の程度は緩慢になることが判明した。
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
本実施例で用いた主な材料を表6に示す。
Figure 0005832142
<実施例1−1:発酵パンの作製>
スクロース、ラクトスクロースを含有した発酵パンの製造におけるマルチトールの共存割合と焼成後のパンのラクトスクロースの含有量を調べる目的で、小麦粉100gに対するマルチトールの配合を0、1、3、5、7gの5種類に変化させた表6に示す原材料のパン生地(試料No.1〜No.5)を調製し表7に示した。また、酵母の発酵に与える浸透圧の影響をできるだけ少なくする為に、それぞれのパンに配合する糖の量を均等にし、試料No.1〜No.5のスクロースの配合量を小麦粉100gに対し、10、9、7、5、3gとした。
Figure 0005832142
ショートニングを除く全てを混合した原材料を、ミキサーを用いて、低速3分間、中速2分間で混捏し、一時停止した後、ショートニングを添加し、更に中速で2分間、高速で3分間混捏して、生地の捏上げ温度を27℃に調製した。次に生地の一次発酵を28℃、相対湿度75%で60分間行い、分割後、丸めて20分間のベンチタイムを取り、成形後二次発酵を35℃、相対湿度75%で60分間行い、上火210度、下火190度で10分間焼成し、発酵パンを作製した。
<実施例1−2:作業性及び発酵パンの官能評価>
なお、作業は3名(30代2名、40代1名)で行い、作業性、外観、内相、風味を評価し結果を表8にまとめた。作業性については作業中のパン生地の纏まりや、製造機器や手に対する生地離れを評価し、外観については焼色を、内相にはついては気泡の形状や大きさを、風味については呈味と食感を、それぞれ「良好」「やや劣る」「劣る」の三段階に分け評価した。
Figure 0005832142
マルチトールを小麦粉100gに対し7g配合した試料No.5の生地では、混捏及び成形時において、試料No.1〜No.4と比べて生地が纏まりにくく、製造機器や手からの生地の離れについても試料No.1〜No.4と比較して離れにくくなる傾向が認められた。また、外観(焼色)に関してはマルチトールの添加量に比例して焼色が淡くなる事が目視にて確認され、試料No.1〜No.4は表面に広く焼色がついていたが、試料No.5は焼色のついていない部分が目立った。次に、内相については、試料No.1〜No.4は気泡の膨張は十分であり、ふっくらとした内相であったが、試料No.5は気泡の膨張が不十分で、内相が密になり過ぎていた。
次に、焼成したパンを室温で1時間放冷し、ポリエチレン製袋で包装し、室温にて一夜保存した後、風味について5名のパネラー(男性20代1名、30代2名、40代2名)にて官能試験を行ったところいずれも呈味に関して良好であったが、試料No.5は口溶けが悪く、重い食感が認められた。
以上の結果から、マルチトールを小麦粉100gに対し1〜5g配合した発酵パンは、作業性、外観(焼色)、内相、風味に関して良好であり、マルチトールを小麦粉100gに対し7g以上配合した場合は、作業性に影響を与え、外観(焼色)、内相、風味が劣った発酵パンとなる事が分かった。
<実施例1−3:発酵パンの体積の測定>
次に、パンの質量の焼残率と体積を測定し、結果を表9にまとめた。
Figure 0005832142
表9の焼残率については、パンの焼成前の質量に対する焼成後の質量減少の割合を百分率で求めた結果、各パンに大きな差は認められなかった。パンの体積は、一定の体積の容器に穀物の粟を満たして、あらかじめ容器内の粟の質量を測っておき、パンを粟で満たされた容器に入れた際にこぼれた粟の質量を測定。{(こぼれた粟の質量)÷(測定前の粟質量)}×(容器の体積)で割り出した。試料No.1(マルチトール無し)のパンの体積を100とした時の他のパンの体積の相対値を求め、パンの体積比として表9に併せて示す。
表9に示すよう、試料No.1〜No.4においてはパンの体積に大きな差が認められなかったが、試料No.5においては、体積が小さく、その傾向は目視においても確認された。
以上の結果から、マルチトールを小麦粉100gに対し1〜5g配合した発酵パンは、十分な膨らみが得られるが、マルチトールを小麦粉100gに対し7g以上配合した場合は、発酵が遅れ、膨らみが不十分であることが分かった。
<実施例1−4:焼成後の発酵パンに含まれる可溶性糖質の糖組成分析>
焼成後の試料No.1〜No.5にそれぞれ含まれる可溶性糖質を抽出し、全糖量を測定した。まず、パン試料をブレンダーにかけ粉砕した。この粉砕物2gを200ml容コニカルビーカーに採り重量測定後に脱イオン水40mlを加えてスターラーで3時間攪拌抽出を行い、さらにエタノール160mlを加えて3時間攪拌抽出を行い80%エタノール可溶性糖質を抽出した。ついで、抽出液全量を珪藻土(ラヂオライト#600)ろ過して不溶物を除去後に500ml容メスフラスコに定容し、0.01%グルコース溶液をスタンダードとしてアンスロン硫酸法にて抽出液の糖を定量して全糖量とした。
また、焼成後のパンの粉砕物40gに脱イオン水200mlを加えてスターラーで3時間攪拌抽出を行い、さらにエタノール800mlを加えて3時間攪拌抽出を行った。次いで、ろ過した(澱粉などの高分子糖質は80v/v%エタノール溶液に溶解せず、不溶性糖質として、ろ過にて除去される。)。ろ液をロータリーエバポレーターにて濃縮、乾固した後、再度、脱イオン水に溶解し、ろ過した。得られた試料溶液を、電気透析器を用いて脱塩し、可溶性糖質の糖組成分析用試料とした。
可溶性糖質の糖組成分析はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)とGLC(ガスリキッドクロマトグラフィー)を組み合わせて行った。まず、糖濃度約3%になるよう水で希釈し調製した可溶性糖質試料液20μlを用いて実験2と同様のHPLC条件にて分析し、含まれている各糖質のピーク面積を全糖質のピーク面積の総和で除して百分率で重合度ごとに糖質の組成を求めた。
次いで、HPLC分析のみでは分離が不十分な糖質(2糖類、3糖類)についてさらに詳細に分析するため、同分析用試料を下記に示す条件でGLC分析に供した。
<GLC条件>
カラム:2%シリコンOV‐17/クロモソルブW・AW・DMCS
(内径3mm×長さ2m、ステンレスカラム)
キャリアーガス:窒素、 キャリアーガス流量:40ml/分
注入口温度:330℃ 検出器温度:330℃
カラム温度:160℃で2分保持後、320℃まで毎分7.5℃で昇温し、
320℃で16分保持するプログラムで運転
燃焼ガス:水素、 燃焼ガス流量:35ml/分
助燃ガス:空気、 助燃ガス流量:600ml/分
検出器:FID
糖質試料は予め常法に従いトリメチルシリル化(TMS化)し、TMS誘導体として測定した。内部標準物質としてフェニル‐β‐D‐グルコシドを用い、内部標準物質のピーク面積に対する各糖質のピーク面積で糖質の各重合度別に組成を算出した。単糖類はHPLCで分離した。
GLC分析で分離した各糖質の組成をもとに、糖質の重合度ごとに求めたHPLC分析値を比例配分して試料中の糖組成とし、試料No.1〜No.5の可溶性糖質糖組成の分析結果を表10に示し、全糖量に各糖質の組成を当てはめ、各糖量を算出し、スクロースとラクトスクロースの残存量と残存率を割り出した。結果を表11及び図2に示した。また、パン100gに含まれるスクロース量を求め、これらの結果も表11にまとめて示した。
Figure 0005832142
Figure 0005832142
表11において、ラクトスクロースの残存量が試料No.1の3.7gと比較すると試料No.2の4.6gと多いことから、小麦粉100gに対し1g(ラクトスクロースに対し、14%)という低濃度のマルチトールでラクトスクロースの分解抑制効果があることが分かった。更に、試料No.3(ラクトスクロース残存量5.2g)、試料No.4(ラクトスクロース残存量5.1g)、試料No.5(ラクトスクロース残存量5.3g)の結果から、試料No.1〜No.3のパンではマルチトールは濃度依存的にラクトスクロースの分解を抑制し、試料No.4と試料No.5においても試料No.3とほぼ同量の残存率を示した。また、表11の結果から、試料No.2〜No.5のいずれのパンにおいても、スクロースとラクトスクロースはよく残存し、これを合計したβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の含量がマルチトールの含量を超えており、とりわけ高品質の発酵パンである試料No.2〜No.4においては、ラクトスクロースの含量がマルチトールに対し大きく超えて高含有であることから、少量のマルチトールでスクロースとラクトスクロースの分解を十分に抑制できる事がわかる。
また、表11及び図2の結果から明らかなように、小麦粉100gに対してマルチトールを1g、3g、5g、7g共存含有させたパン生地を発酵させ焼成して得られたパンは、スクロースを約56%以上、ラクトスクロースを約65%以上残存していることが判明した。
また、表10及び表11の結果から、可溶性糖質中に含まれるグルコースとフラクトースの割合に関しては、マルチトールを小麦粉100gに対し3g(ラクトスクロースに対し、43%)以上共存させたパンでは、著しく低くなっている事からも、ラクトスクロースとスクロースの酵母による分解がマルチトールの共存によりよく抑制されている事に加えて、発酵によりこれら単糖類、特にグルコースは利用されているものと考えられる。
以上、本実施例の結果を総合判定すると試料No.2〜No.4の発酵パンがパン生地調製時の作業性が良好でラクトスクロースの残存率が高く、且つ外観(焼色)、内相、風味の全てが良好で優れていた。一方、試料No.1の発酵パンは、残存するラクトスクロース量が少ない点で劣り、また試料No.5の発酵パンはラクトスクロースの残存率が高いものの作業性の点で劣っているのに加え、外観(焼色)が不十分で膨らみが足らず、内相が密で、口溶けが悪く重い食感であり、風味の劣るものであった。
<実施例2−1:油脂(ショートニング)量を減らした発酵パンの作製>
実施例1においては油脂(ショートニング)の配合量が小麦粉100gに対し、20gと、菓子パンやバターロールなどに用いられる高い配合であったため、食パンやフランスパン等の食事パンに用いられる油脂量を考慮し、表12の配合に基づいてショートニングを減らし、実施例1と同様の製法で発酵パンを作製した。
Figure 0005832142
まず、ショートニングを小麦粉100gに対し5g配合したパンを作製した。そのとき試料No.6のパンではマルチトールを配合せず、試料No.7ではマルチトールを小麦粉100gに対し5g配合したパンを作製した。
次にショートニングを小麦粉100gに対し、12g配合したパンを作製した。そのとき試料No.8のパンではマルチトールを配合せず、試料No.9ではマルチトールを小麦粉100gに対し、5g配合したパンを作製した。なお、マルチトールを配合した試料No.7と試料No.9では、パンに配合する糖の量を均等にするため、スクロースの配合量を小麦粉100gに対し、5gとした。
<実施例2−2:焼成後の発酵パンに含まれるラクトスクロースの残存量と残存率>
試料No.6から試料No.9の焼成後のパンのラクトスクロースの残存率と残存量を実施例1と同様の方法で測定し、表13にまとめた。
Figure 0005832142
表13の結果より、試料No.6のパンではラクトスクロースの残存量が3.1gで残存率が44.7%であるのに対し、試料No.7のパンでは残存量が5.0gで残存率が71.8%であった。
次に、試料No.8のパンではラクトスクロースの残存量が1.9gで残存率が27%であるのに対し、試料No.9のパンでは残存量が4.2gで残存率が61%であった。
以上の結果からも、添加する油脂の量に関わらず、マルチトールがインベルターゼ活性を抑制するため、ラクトスクロースが多く残存した発酵パンの製造が可能であることが確認された。
<実施例3−1:ラクトスクロースの配合を減らした発酵パンの作製>
次に、ラクトスクロースの配合量を実施例1及び実施例2の半分(小麦粉100gに対し3.5g)に減らした発酵パンのラクトスクロースの含有量を調べる目的で、表14の配合に基づいて、実施例1と同様の製法でマルチトール無配合のパン(試料No.10)と小麦粉100gに対し、マルチトールを5g配合したパン(試料No.11)を作製した。なお、マルチトールを配合した試料No.11では、パンに配合する糖の量を均等にするため、スクロースの配合量を小麦粉100gに対し、5gとした。
Figure 0005832142
<実施例3−2:焼成後の発酵パンに含まれるラクトスクロースの残存量と残存率>
試料No.10と試料No.11の焼成後のパンのラクトスクロースの残存率と残存量を実施例1と同様の方法で測定し、表15にまとめた。
Figure 0005832142
表15の結果より、試料No.10のパンでは残存量が0.8gで残存率が21%であるのに対し、試料No.11のパンでは残存量が2.1gで残存率が59%であった。
この結果から、ラクトスクロースの配合量が少ない場合でも、マルチトールがインベルターゼ活性を抑制し、ラクトスクロースが多く残存した発酵パンの製造が可能である事が確認された。
<プレミックス粉>
小麦粉100質量部に対し、食塩1.8質量部とともに、糖質としてスクロース8質量部と粉末ラクトスクロース10質量部及び、マルチトール3質量部とを均一に混合してプレミックス粉を調製した。本品は、これにパン酵母、油脂、水を適宜加えて混合し発酵させると、インベルターゼの活性が抑制を受けつつ発酵され、生成する還元性糖質の存在割合を低減できるため、これを焼成し、得られる発酵パンは、食欲をそそる好ましい淡い焼色である。また、ラクトスクロース残存率も高くこれを高含有した高品質の発酵パンに仕上げることができる。
<インベルターゼ活性抑制剤含有糖質組成物>
粉末ラクトスクロース10質量部とインベルターゼ活性抑制剤(マルチトール)5質量部とを均一に混合し、常法に従って造粒した。パン酵母による発酵に際し用いると、本品はパン酵母に含まれるインベルターゼによる、ラクトスクロースの分解が抑制される糖質組成物であって、発酵パン用糖質として、また、健康食品用糖質として有利に利用できる。
以上説明したように、本発明は、マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするインベルターゼ活性抑制剤と、当該活性抑制剤を用いた、β‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖のインベルターゼによる分解抑制方法、及び当該活性抑制剤を含有し、インベルターゼ作用下でスクロース又はラクトスクロースの分解が抑制された糖質組成物、更には、発酵パンの製造方法においては、ラクトスクロースに対して、一定量の当該活性抑制剤を配合することにより、パン酵母の種類を限定する事なく十分な発酵を行い、ラクトスクロースを含有する品質の優れたパンの製造を容易にするものである。よって、そのラクトスクロースを高含有する発酵パンの種類も大幅に増えるため、毎日継続してラクトスクロースを摂取することが容易になる。そして、このような発酵パンには、ラクトスクロースの機能が付与されるため、継続して食することにより腸内に棲息している善玉菌の代表であるビフィズス菌を選択的に増加させ、悪玉菌を減少させる事により、腸内有害産物の生成を抑制する働きや、便性改善、カルシウム吸収促進などの効果が期待できる食品の提供を容易にするという利点がある。

Claims (4)

  1. マルチトール又はイソマルチトールを有効成分とするパン酵母由来インベルターゼの活性抑制剤。
  2. 請求項1記載の活性抑制剤を共存させることを特徴とするβ‐フラクトフラノシド結合を有するオリゴ糖の分解抑制方法。
  3. 小麦粉、スクロース、ラクトスクロース、酵母及び水を含んでなるパン生地を混捏、成形、発酵させ、次いで焼成する発酵パンの製造方法において、小麦粉100質量部に対するマルチトール又はイソマルチトールの量が1乃至5質量部、且つ、ラクトスクロースに対するマルチトール又はイソマルチトールの量が、無水物換算で、14乃至143質量%となるよう配合したパン生地を発酵させ、次いで焼成することを特徴とするラクトスクロース含有発酵パンの製造方法。
  4. 小麦粉、スクロース及びラクトスクロースを含有し、小麦粉100質量部に対するマルチトール又はイソマルチトールの量が1乃至5質量部、且つ、ラクトスクロースに対するマルチトール又はイソマルチトールの量が、無水物換算で、14乃至143質量%となるよう配合したラクトスクロース含有発酵パンの製造用のプレミックス粉。
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