[実施例1]
[構成]
ベーンポンプ1(以下、単に「ポンプ1」という。)は、自動車の油圧機器、具体的にはベルト式の連続可変トランスミッション(CVT100)への油圧供給源として使用される。図1は、CVT100の一例を示すブロック図である。コントロールバルブ110内には、CVTコントロールユニット130により制御される各種のバルブ111〜123が設けられている。ポンプ1から吐出された作動油は、コントロールバルブ110を介してCVT100の各部(プライマリプーリ101、セカンダリプーリ102、フォワードクラッチ103、リバースブレーキ104、トルクコンバータ105、潤滑・冷却系106等)に供給される。ポンプ1は内燃機関のクランクシャフトにより駆動され、作動流体を吸入・吐出する。作動流体として作動油、具体的にはATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)を用いる。
ポンプ1は、吐出容量(1回転当たりに吐出する流体量。以下、ポンプ容量という。)を可変にできる可変容量型であり、作動油を吸入・吐出するポンプ部と、ポンプ容量を制御する制御部とを、ハウジングとしてのポンプボディ(以下、ボディ4)内に一体のユニットとして有している。図2及び図3は、ポンプ1の断面の一部を示す。図2は、ボディ4を除くポンプ部を回転軸Oに垂直な平面で切った断面を示すと共に、制御部を制御弁2の軸を通る平面で切った部分断面を示し、図3は、ボディ4を含むポンプ部を回転軸Oを通る平面で切った断面を示す。説明の便宜上、制御弁2の軸が延びる方向にx軸を設け、弁体(スプール20)がソレノイドSOLから離れる側をx軸正方向とする。ポンプ1の回転軸Oが延びる方向にz軸を設定し、図2の紙面上方をz軸正方向とする。
(ポンプ部の構成)
ポンプ部は主な構成要素として、クランクシャフトにより駆動される駆動軸(回転軸)5と、駆動軸5により回転駆動されるロータ6と、ロータ6の外周に形成された複数のスリット61のそれぞれに突没可能に収容されたベーン7と、ロータ6を囲んで配置されるカムリング8と、カムリング8を囲んで配置されるアダプタリング9とを有している。ボディ4は、収容凹部40b内にロータ6、ベーン7及びカムリング8を収容するリアボディ40(ポンプハウジング)と、リアボディ40の収容凹部40bのz軸負方向側底部に収容されると共に、カムリング8及びロータ6のz軸負方向側に配置され、ロータ6、ベーン7及びカムリング8と共に複数のポンプ室rを形成するプレート(サイドプレート)41と、収容凹部40bの開口を閉塞するとともに、カムリング8及びロータ6のz軸正方向側に配置され、ロータ6、ベーン7及びカムリング8とともに複数のポンプ室rを形成するフロントボディ(ポンプカバー)42と、を有している。
ボディ4(リアボディ40、フロントボディ42)には駆動軸5が回転自在に軸支されている。駆動軸5のz軸正方向側は、チェーンを介して内燃機関のクランクシャフトに結合されており、クランクシャフトに同期して回転する。駆動軸5の外周には、ロータ6が同軸に固定(セレーション結合)されている。ロータ6は、駆動軸5とともに、回転軸Oの周りに、図2の時計回り方向に回転する。リアボディ40には、z軸方向に延びる有底円筒状の収容凹部40bが形成されている。収容凹部40bの内周には、円環状のアダプタリング9が設置される。アダプタリング9の内周面は、z軸方向に延びる略円筒状の収容孔90を構成している。収容孔90内には、円環状のカムリング8が揺動自在に収容される。アダプタリング9のx軸正方向側には、弾性部材としてのコイルスプリングSPGの一端が設置され、コイルスプリングSPGの他端はカムリング8のx軸正方向側に設置されている。コイルスプリングSPGは圧縮状態で設置され、アダプタリング9に対してカムリング8をx軸負方向側に常時付勢する。
アダプタリング9とカムリング8の間には、両者を係止するピンPINが、アダプタリング9の内周面(転動面91)に設けられた凹部とカムリング8の外周面81の凹部との間に挟み込まれるように設置される。ピンPINの両端はボディ4に固定設置される。カムリング8は、アダプタリング9に対して、ピンPINが設けられた転動面91で支持され、転動面91を支点に揺動自在に設置される。ピンPINは、アダプタリング9に対するカムリング8の位置ズレ(相対回転)を抑制する。回転軸Oを挟んでピンPINの略反対側のアダプタリング9の内周面(収容孔90)にはシール部材S1が設置される。カムリング8が揺動する際には、アダプタリング9の内周の転動面91がカムリング外周面81に当接するとともに、シール部材S1がカムリング外周面81に摺接する。カムリング8の中心軸が回転軸Oに対して偏心する量をδとすると、偏心量δは、カムリング8の中心軸が回転軸Oと一致する位置(最小偏心位置)で最小となり、カムリング外周面81がx軸負方向側でアダプタリング9の内周面(収容孔90)に当接する図2の位置(最大偏心位置)で最大となる。
ロータ6は、カムリング8の内周側に設置される。ロータ6には、複数の溝(スリット61)が放射状に形成されている。各スリット61は、z軸方向から見て、ロータ外周面60から回転軸Oに向かって所定深さまで、ロータ径方向に延びて直線状に設けられており、ロータ6のz軸方向全範囲にわたって形成されている。スリット61は、ロータ6を周方向に等分割する位置に11箇所、形成されている。各スリット61の回転軸Oに向かう側(以下、「内径側」という。)の基端部は、z軸方向に延びる略円筒状に形成されている。なお、スリット基端部を特に円筒状に形成しなくてもよく、例えばスリット本体部と同様の溝形状としてもよい。ベーン7は、略矩形状の板部材(羽根)であり、複数(11枚)設けられ、各スリット61に1枚ずつ出没可能に収容されている。なお、スリット61とベーン7の数は11に限らない。ベーン7の回転軸Oから離れる側(以下、「外径側」という。)の先端部は、カムリング内周面80に対応して緩やかな曲面状に形成されている。スリット基端部と、このスリット61に収容されたベーン7の内径側の端部(受圧部としてのベーン基端部)との間には、このベーン7を外径側へ付勢する油圧を発生する圧力室としての背圧室brが形成されている。
ロータ6の外周面(ロータ外周面60)とカムリング内周面80とプレート41のz軸正方向側の面410、フロントボディ42のz軸負方向側の面420との間に形成される環状室は、複数のベーン7によって、複数(11個)のポンプ室(容積室)rに区画される。以下、ロータ6の回転方向(図2の時計回り方向。以下、単に「回転方向」といい、ロータ6の逆回転方向を「回転負方向」という。)において隣り合うベーン7同士の間(2つのベーン7の側面間)の距離を、1ピッチという。1つのポンプ室rの回転方向幅は、1ピッチであり不変である。カムリング8の中心軸が回転軸Oに対して(x軸負方向側に)偏心した状態では、x軸正方向側からx軸負方向側に向かうにつれて、ロータ外周面60とカムリング内周面80との間のロータ径方向での距離(ポンプ室rの径方向寸法)が大きくなる。この距離の変化に応じ、ベーン7がスリット61から出没することで、各ポンプ室rが隔成されるとともに、x軸負方向側のポンプ室rのほうが、x軸正方向側のポンプ室rよりも、容積が大きくなる。このポンプ室rの容積の差異により、回転軸Oに対して図2の下側では、ロータ6が回転する(ポンプ室rがx軸負方向側に向かう)につれてポンプ室rの容積が拡大する一方、回転軸Oに対して図2の上側では、ロータ6が回転する(ポンプ室rがx軸正方向側に向かう)につれて、ポンプ室rの容積が縮小する。
プレート41には、吸入ポート43aと、吐出ポート44aと、吸入側背圧ポート45aと、吐出側背圧ポート46aとが形成されている。各ポート43a〜46a等は、プレート41のz軸正方向側の面410に形成されている。吸入ポート43aは、外部から吸入側のポンプ室rに作動油を導入する際の入り口となる部分であり、図2に示すように、ロータ6の回転に応じてポンプ室rの容積が拡大する区間に設けられている。吸入ポート43aは、吸入側のポンプ室rの配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成された溝であり、ポンプ吸入側の油圧が導入される。吸入ポート43aに対応する角度範囲、すなわち回転軸Oに対して吸入ポート43aのx軸正方向側の始点とx軸負方向側の終点とがなす略4.5ピッチ分に相当する角度の範囲に、ポンプ1の吸入領域が設けられている。吐出ポート44aは、吐出側のポンプ室rから外部へ作動油を吐出する際の出口となる部分であり、ロータ6の回転に応じてポンプ室rの容積が縮小する区間に設けられている。吐出ポート44aは、吐出側のポンプ室rの配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成された溝であり、ポンプ吐出側の油圧が導入される。吐出ポート44aに対応する角度範囲、すなわち回転軸Oに対して吐出ポート44aのx軸負方向側の始点とx軸正方向側の終点とがなす略4.5ピッチ分に相当する角度の範囲に、ポンプ1の吐出領域が設けられている。吸入ポート43aの終点と吐出ポート44aの始点とがなす角度の範囲に第1閉じ込み領域が設けられ、吐出ポート44aの終点と吸入ポート43aの始点とがなす角度の範囲に第2閉じ込み領域が設けられている。第1閉じ込み領域及び第2閉じ込み領域は、この領域内にあるポンプ室rの作動油を閉じ込め、吸入ポート43aと吐出ポート44aとが連通することを抑制する領域である。第1,第2閉じ込み領域の角度範囲は、それぞれ略1ピッチ分に相当する。
プレート41には、ベーン7の根元(背圧室br、ロータ6のスリット基端部)に連通する背圧ポート45a,46aが、吸入側と吐出側でそれぞれ分離して設けられている。吸入側背圧ポート45aは、吸入領域の大部分に位置する複数のベーン7の背圧室brと吸入ポート43aとを連通するポートである。吸入側背圧ポート45aは、ポンプ吸入側の油圧が導入される溝であって、ベーン7の背圧室br(スリット基端部)の配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。吐出側背圧ポート46aは、吐出領域、及び第1、第2閉じ込み領域の略半分に位置する複数のベーン7の背圧室brに連通するポートである。吐出側背圧ポート46aは、ポンプ吐出側の油圧が導入される溝であって、ベーン7の背圧室br(スリット基端部)の配置に沿って、回転軸Oを中心とする略円弧状に形成されている。カムリング8の偏心位置に関わらず、z軸方向から見て、吸入側背圧ポート45a及び吐出側背圧ポート46aは、背圧室brと大部分重なるロータ径方向位置に設けられており、背圧室brと重なるとき、これと連通する。なお、ベーン7が「吸入領域に位置する」とは、z軸方向から見て、ベーン7の先端部が吸入ポート43aと重なっていることをいい、ベーン7が「吐出領域等に位置する」とは、z軸方向から見て、ベーン7のベーン先端部70が吐出ポート44a等と重なっていることをいう。
(ボディ4の構成)
リアボディ40の内部には、軸受保持孔40d、低圧室40e、高圧室40f、及び図外の吐出室が形成されている。軸受保持孔40dの内周には、軸受としてのブッシュが設置され、ブッシュの内周側には駆動軸5のz軸負方向端部が回転自在に設置されている。低圧室40eは、リザーバ設置孔400を介して図外のリザーバに連通する。リザーバは、作動油を貯留しポンプ1へ供給可能な作動油源であり、リザーバにおける作動油の圧力は略大気圧である。高圧室40f及び図外の吐出室は、それぞれ収容凹部40bのz軸負方向側の底部に袋状に設けられている。高圧室40fは、リアボディ40内の連通路を介して、図外の吐出室に連通している。この吐出室は、油圧回路3の吐出通路30に連通している。吐出通路30は、メータリングオリフィス(オリフィス320)を介してポンプ1の外部のCVT100に供給圧を供給する供給通路34に連通している。
プレート41には、第1,第2連通路412,413及び図外の第3,第4連通路がz軸方向に貫通形成されている。リアボディ40の低圧室40eの開口部は、プレート41のz軸負方向側の面における第1,第2連通路412,413の開口部を覆うように設けられている。第1連通路412は、吸入ポート43aに開口し、吸入ポート43aは、第1連通路412を介して低圧室40eに連通している。第2連通路413は、吸入側背圧ポート45aに開口し、吸入側背圧ポート45aは、第2連通路413を介して低圧室40eに連通している。第2連通路413には、低圧室40eから吸入側背圧ポート45aへの作動油の流れを許容し、逆方向の作動油の流れを禁止する逆止弁として、チェック弁47aが設けられている。図外の吐出室のz軸正方向側の開口部は、プレート41のz軸負方向側の面における第3連通路の開口部を覆うように設けられている。第3連通路は、吐出ポート44aに開口し、吐出ポート44aは、第3連通路を介して図外の吐出室に連通している。高圧室40fのz軸正方向側の開口部は、プレート41のz軸負方向側の面における第4連通路の開口部を覆うように設けられている。第4連通路は、吐出側背圧ポート46aに開口し、吐出側背圧ポート46aは、第4連通路を介して高圧室40fに連通している。高圧室40fと図外の吐出室の上記開口部の外周には、シール部材S2が設置され、シール部材S2の外周側の低圧領域と内周側の高圧領域とが画成されている。
フロントボディ42の内部には、軸受保持孔42d及び低圧室42eが形成されている。軸受保持孔42dの内周には、軸受としてのブッシュが設置され、ブッシュの内周側には駆動軸5のz軸正方向側が回転自在に設置されている。低圧室42eは、リアボディ40に設けられた連通路401を介して、リアボディ40の低圧室40eに連通する。また、低圧室42eは、軸受保持孔42dに連通することでブッシュへ潤滑油を供給する。フロントボディ42のz軸負方向側の面420には、吸入ポート43b及び吐出ポート44bと、吸入側背圧ポート45b及び吐出側背圧ポート46bが、夫々、プレート41に形成された各ポート43a等に略対応するz軸方向位置及び形状で形成されている。フロントボディ42には、吸入ポート43bに開口すると共に低圧室42eに連通する第5連通路422がz軸方向に貫通形成されている。吸入ポート43bは、第5連通路422を介して低圧室42eに連通している。フロントボディ42には、吸入側背圧ポート45bに開口すると共に低圧室42eに連通する第6連通路423がz軸方向に貫通形成されている。吸入側背圧ポート45bは、第6連通路423を介して低圧室42eに連通している。
第6連通路423には、低圧室42eから吸入側背圧ポート45bへの作動油の流れを許容し、逆方向の作動油の流れを禁止する逆止弁として、チェック弁47bが設けられている。吐出ポート44bは、リアボディ40の吐出ポート44aを介して図外の吐出室に連通し、吐出側背圧ポート46bは、リアボディ40の吐出側背圧ポート46aを介して高圧室40fに連通している。
(制御部の構成)
ポンプ1の制御部は、制御室R1,R2と制御弁2と油圧回路3とを有している。アダプタリング内周面90とカムリング外周面81との間の空間は、そのz軸負方向側がプレート41に、z軸正方向側がフロントボディ42により封止される一方、転動面91(とカムリング外周面81との当接部)とシール部材S1とにより、2つの制御室R1,R2に液密に隔成されている。カムリング8の外周側において、カムリング8の偏心量δが増大する方向であるx軸負方向側には第1制御室R1が隔成され、偏心量δが減少する方向であるx軸正方向側には第2制御室R2が隔成されている。
油圧回路3は、ボディ4内において各部を接続する作動油の通路30〜37を有しており、各通路は主にリアボディ40に設けられている。また、リアボディ40には、x軸方向に延びる略円筒状のバルブ収容孔40aが形成されており、バルブ収容孔40aには制御弁2の弁体が収容される。ポンプ部の吐出ポート44に連通する吐出通路30は、第1制御元圧通路31と吐出通路32に分岐する。
第1制御元圧通路31は、バルブ収容孔40aのx軸負方向側に開口し、カムリング8の偏心量δ(ポンプ容量)を制御する油圧(制御圧)の元圧として、吐出ポート44から吐出される油圧(吐出圧Pd)と略同じ圧力である第1油圧を、制御弁2に供給する。吐出通路32には、通路の他の箇所よりも流路断面積が小さい絞り部としてのオリフィス320が設けられている。吐出通路32は、オリフィス320の下流で、第2制御元圧通路33と供給通路34とに分岐する。供給通路34は、吐出ポート44からの吐出圧がオリフィス320を経由して若干降圧された油圧(供給圧Ps)をCVT100に供給する。第2制御元圧通路33は、バルブ収容孔40aのx軸正方向側に開口し、制御圧の元圧として、供給圧Psと略同じ圧力である第2油圧を制御弁2に供給する。
バルブ収容孔40aには、第1制御元圧通路31の開口部にx軸正方向側に隣接して、第1制御通路35が開口する。第1制御通路35は、アダプタリング9を径方向に貫く貫通孔を介して、ポンプ部の第1制御室R1に連通する。一方、バルブ収容孔40aには、第2制御元圧通路33の開口部にx軸負方向側に隣接して、第2制御通路36が開口する。第2制御通路36は、アダプタリング9を径方向に貫く別の貫通孔を介して、ポンプ部の第2制御室R2に連通する。また、バルブ収容孔40aには、x軸方向で第2制御通路36の開口部の近傍に、背圧供給通路37の開口部370が設けられている。背圧供給通路37は、リアボディ40内及びプレート41を通って、ポンプ部の吸入側背圧ポート45aに連通する。
制御弁2は油圧制御弁(スプール弁)であり、弁体(スプール20)を作動させる(変位させる)ことで、第1制御室R1及び第2制御室R2への作動油の供給を切り替える。制御弁2は、バルブ収容孔40a内にx軸方向に変位(ストローク)可能に収容されたスプール20と、バルブ収容孔40a内にスプール20のx軸正方向側に圧縮状態で設置され、スプール20をx軸負方向側に常時付勢する戻しバネとしてのスプリング21とを有している。制御弁2は、ソレノイドSOLが設けられた電磁弁である。制御弁2の作動(スプール20の変位)は、ポンプ部の吐出流量に応じてスプール20の両側に作用する油圧(第1,第2油圧)の差により制御されると共に、CVTコントロールユニット130からの指令に基づき、ソレノイドSOLからスプール20に作用する推力により制御される。
スプール20は、ポート遮断用(ないしポート開度可変用)の第1大径部(ランド)201及び第2大径部(ランド)202を備えている。第1大径部201はスプール20のx軸負方向側に設けられ、ソレノイドSOLのプランジャ2aのx軸正方向端部が当接する。第2大径部202はスプール20のx軸正方向側の端部に設けられている。これらの大径部201,202は、略円柱形状であり、略円筒状のバルブ収容孔40aの内径寸法に略一致した外径寸法を有する。バルブ収容孔40aの内部は、第1大径部201とバルブ収容孔40aのx軸負方向端部とにより第1圧力室23が画成され、第2大径部202とバルブ収容孔40aのx軸正方向端部とにより第2圧力室24が画成され、第1大径部201と第2大径部202によりドレン室25が画成される。スプール20の変位に関わらず、第1圧力室23には第1制御元圧通路31が常に開口し、第2圧力室24には第2制御元圧通路33が常に開口する。ドレン室25は、図外のドレン通路と常時連通し、低圧に保たれている(大気圧に開放されている)。
スプール20がx軸方向に変位することで、各通路35〜37のバルブ収容孔40aにおける開口部(作動油の給排孔すなわちポート)が各大径部201,202によって塞がれる面積(通路の開口面積)が変化し、これにより各通路の連通状態ないし遮断状態が切り替えられる。各開口部は以下のように配置されている。スプール20がx軸負方向側に最大変位した状態で、第1制御通路35の開口部(第1制御室R1)は、第1大径部201により第1圧力室23との連通が遮断される一方、ドレン室25と連通する。同じ状態で、第2制御通路36の開口部(第2制御室R2)は、第2大径部202によりドレン室25との連通が遮断される一方、第2圧力室24と連通する。また、背圧供給通路37の開口部370(吸入側背圧ポート45a)は、第2圧力室24と連通する。スプール20がx軸正方向側に変位するにつれて、第1制御通路35の開口部(第1制御室R1)は、ドレン室25との連通が遮断される一方、変位量が所定以上になると第1圧力室23と連通する。x軸正方向側への変位量の増大に応じて、第1大径部201により塞がれる面積が減少する。また、第2制御通路36の開口部(第2制御室R2)は、第2大径部202により塞がれる面積が増大し、変位量が所定以上になると第2圧力室24との連通が遮断される。また、背圧供給通路37の開口部370(吸入側背圧ポート45a)は、第2大径部202により塞がれる面積が増大し、変位量が所定以上になると第2圧力室24との連通が遮断される。なお、スプール20の変位に関わらず、背圧供給通路37の開口部370(吸入側背圧ポート45a)は、第2大径部202によりドレン室25との連通が遮断されるように配置されている。よって、開口部370のx軸負方向端は、第2制御通路36の開口部のx軸負方向端よりもx軸正方向側に配置される。一方、開口部370のx軸正方向端は、第2制御通路36の開口部のx軸正方向端よりもx軸正方向側であってもx軸負方向側であってもよい。
ソレノイドSOLは、CVTコントロールユニット130からの指令に基づき通電されることにより、通電量に応じた推力でプランジャ2aをx軸正方向側に駆動する。プランジャ2aのx軸正方向端部がスプール20のx軸負方向端部に当接し、ソレノイドSOLの電磁力によりスプール20をx軸正方向側に付勢することで、スプリング21の初期セット荷重を小さく変更したのと同じ作用が得られる。このときソレノイドSOLの非作動時よりも小さい差圧で(早いタイミング)でスプール20が変位し、比較的低い吐出流量を達成した後、一定の流量を維持する。すなわち、ソレノイドSOLの発生する付勢力によって吐出流量を制御することができる。CVTコントロールユニット130は、例えば、ソレノイドSOLをPWM制御し、駆動電圧のパルス幅を変化させることにより、ソレノイドSOLのコイルに所望の実効電流を通電し、プランジャ2aの駆動力を連続的に変化させる。CVTコントロールユニット130では、アクセル開度、エンジン回転数、車速といった走行状況に応じてライン圧を適宜制御する。よって、高い吐出流量が要求されたときは、ソレノイドSOLに通電する電流(電磁力)をOFFするかまたは小さくし、低い吐出流量が要求されたときは、ソレノイドSOLに通電する電流(電磁力)を大きくする。
[作用]
次に、実施例1のポンプ1の作用を説明する。
(ポンプ作用)
カムリング8を回転軸Oに対してx軸負方向に偏心して配置した状態でロータ6を回転させることにより、ポンプ室rは回転軸周りに回転しつつ周期的に拡縮する。ポンプ室rが回転方向に拡大する吸入領域で、吸入ポート43からポンプ室rに作動油を吸入する。ポンプ室rが回転方向に縮小する吐出領域で、ポンプ室rから吐出ポート44へ上記吸入した作動油を吐出する。具体的には、あるポンプ室rに着目すると、吸入領域において、このポンプ室rの回転負方向側のベーン7(以下、「後側ベーン7」という。)が吸入ポート43の終点を通過するまで、言い換えると、回転方向側のベーン7(以下、「前側ベーン7」という。)が吐出ポート44の始点を通過するまで、当該ポンプ室rの容積は増大する。この間、当該ポンプ室rは吸入ポート43と連通しているため、作動油を吸入ポート43から吸入する。第1閉じ込み領域において、当該ポンプ室rの後側ベーン7(の回転方向側の面)が吸入ポート43の終点と一致し、前側ベーン7(の回転負方向側の面)が吐出ポート44の始点と一致する回転位置では、当該ポンプ室rは吸入ポート43とも吐出ポート44とも連通せず、液密に保たれる。当該ポンプ室rの後側ベーン7が吸入ポート43の終点を通過(前側ベーン7が吐出側ポート44の始点を通過)した後は、吐出領域において、回転に応じて当該ポンプ室rの容積は減少し、吐出ポート44と連通するため、ポンプ室rから作動油を吐出ポート44へ吐出する。同様に、第2閉じ込み領域において、当該ポンプ室rの後側ベーン7が吐出ポート44の終点と一致し、前側ベーン7が吸入ポート43の始点と一致する位置では、当該ポンプ室rは吐出ポート44とも吸入側ポート43とも連通せず、液密に保たれる。本実施例1では、第1、第2閉じ込み領域の範囲がそれぞれ1ピッチ分(1つのポンプ室rの分)だけ設けられているため、吸入領域と吐出領域とが連通することを抑制しつつ両領域をできるだけ拡大し、これによりポンプ効率を向上できる。なお、閉じ込み領域(吸入ポート43と吐出ポート44との間隔)を1ピッチ以上の範囲にわたって設けることとしてもよい。
(容量可変作用)
カムリング8がx軸負方向側に揺動してロータ6に対する偏心量δがゼロでないとき、吸入領域では、ポンプ室rの容積はロータ6が回転するにつれて拡大し、ポンプ室rが第1閉じ込み領域に位置するとき最大となる。吐出領域では、ポンプ室rの容積はロータ6が回転するにつれて縮小し、ポンプ室rが第2閉じ込み領域に位置するとき最小となる。図2に示す最大偏心位置で、ポンプ室rの縮小時と拡大時の容積差は最大となり、ポンプ容量も最大となる。一方、カムリング8がx軸正方向側に揺動して偏心量δが最小(ゼロ)となる最小偏心位置では、吸入領域でも吐出領域でも、ロータ6の回転につれてポンプ室rの容積は拡大も縮小もしない。言い換えると、ポンプ室r間の容積差は最小(ゼロ)となり、ポンプ容量も最小となる。このように、カムリング8の揺動量に応じて容積差が変化し、これに対応してポンプ容量も変化する。
ポンプ1は、ポンプ容量を可変に制御するための手段として制御弁2を有する。制御弁2は、吐出ポート44から圧力の供給を受け、供給される圧力を元圧として、偏心量δを制御するための制御圧を作り出す。すなわち、吐出領域のポンプ室rで圧縮された作動油(及び吐出領域のベーン基端部の背圧室brで圧縮された作動油)は、吐出ポート44(及び吐出側背圧ポート46)を経て図外の吐出室に供給される。この吐出室の作動油は、通路30,31を通って、制御弁2の第1圧力室23に供給されると共に、通路30,32,33を通って、制御弁2の第2圧力室24に供給される。第1制御室R1は、制御弁2(第1圧力室23)から通路35を介して作動油(制御圧)が供給されることで、スプリングSPGの付勢力に抗してカムリング8をx軸正方向側に向かって押圧する第1油圧力を発生する。第2制御室R2は、制御弁2(第2圧力室24)から通路36を介して作動油(制御圧)が供給されることで、スプリングSPGの付勢力に加勢してカムリング8をx軸負方向側に向かって押圧する第2油圧力を発生する。第1、第2制御室R1,R2に作動油が供給されていない状態で、カムリング8はスプリングSPGによりx軸負方向側に付勢され、偏心量δは最大となる。第1、第2油圧力の合計がカムリング8をx軸正方向側に押す方向である場合、この油圧力よりも、スプリングSPGによる(カムリング8をx軸負方向側に押す)付勢力が小さいと、カムリング8はx軸正方向側に移動する。すると、偏心量δが小さくなり、ポンプ室rの縮小時と拡大時の容積差が小さくなるため、ポンプ容量が減少する。逆に、第1、第2油圧力の合計がカムリング8をx軸正方向側に押す方向である場合であって、この油圧力よりもスプリングSPGによる付勢力が大きいときや、上記油圧力の合計がカムリング8をx軸負方向側に押す方向である場合には、カムリング8はx軸負方向側に移動する。すると、偏心量δが大きくなり、ポンプ室rの縮小時と拡大時の容積差が大きくなるため、ポンプ容量が増える。なお、第2制御室R2を設けず、第1制御室R1の油圧力のみにより偏心量δを制御してもよい。また、カムリング8を付勢する弾性部材として、コイルスプリング以外のものを利用してもよい。
制御弁2は、制御圧の供給を、弁体(スプール20)の変位により切り替える。すなわち、スプール20がx軸正方向側に変位することで、第1圧力室23から通路35を介して第1制御室R1に作動油(制御圧)が供給される。逆に、スプール20がx軸負方向側に変位することで、第2圧力室24から通路36を介して第2制御室R2に作動油(制御圧)が供給される。弁体(スプール20)は、吐出ポート44から供給された圧力(第1,第2油圧)が作用することで変位する。よって、制御対象であるポンプ部の作動に応じて自動的に制御弁2が作動することで、制御弁2の作動を制御するための制御手段を別途設ける必要が無く、構成を簡素化できる。具体的には、制御弁2は、ロータ6の回転数が所定値α以下のときに第1,第2油圧が弁体(スプール20)に作用すると、偏心量δを増大させる制御圧を供給するように、弁体(スプール20)がx軸負方向側に変位する一方、ロータ6の回転数が所定値αよりも大きいときに第1,第2油圧が弁体(スプール20)に作用すると、偏心量δを減少させる制御圧を供給するように、弁体(スプール20)がx軸正方向側に変位するように設けられている。よって、ポンプ1が低回転のときはポンプ容量を増大し、高回転のときはポンプ容量を減少させるように、自動的に制御することができる。
吐出ポート44から制御弁2に圧力(制御圧の元圧)を供給する通路32には、通過流量の増大に応じて大きな差圧を発生する差圧発生手段(オリフィス320)が設けられている。制御弁2は、吐出ポート44と共通の圧力(≒第1油圧、吐出圧Pd)が差圧発生手段(オリフィス320)により低下した後の圧力(第2油圧、供給圧Ps)の供給を受け、供給される圧力(第2油圧)を元圧として、(偏心量δを増大させる)制御圧を作り出す。よって、上記制御圧の他に、例えば吐出ポート44と共通の圧力(吐出圧Pd)を元圧として作られる(偏心量δを減少させる)制御圧を供給することで、ポンプ回転数の増大(吐出流量の増大)に応じて弁体(スプール20)を変位させる力を自動的に発生できる。すなわち、第1制御室R1と第2制御室R2とに供給される作動油の圧力は差圧を持つこととなり、この差圧の大きさによってカムリング8の揺動量が決められる。このため、ポンプ容量を減少させる自動制御を、より容易に実現することができる。実施例1では、差圧発生手段はオリフィス320であることとしたため、構成を簡素化できる。なお、第2圧力室24(偏心量δを増大させる制御圧)を省略し、第1圧力室23(偏心量δを減少させる制御圧)のみによりカムリング8の偏心量δを制御することとしてもよい。この場合、コイルスプリング21の付勢力と第1圧力室23の圧力によりスプール20を変位させることができる。
CVTコントロールユニット130は、ソレノイドSOLにより制御弁2の作動を制御し、スプール20を変位させることで第1、第2制御室R1,R2への作動油の供給を切り替え、第1、第2油圧力を適宜変化させる。よって、ポンプ1の回転数に応じてポンプ容量を上記のように自動的に制御する場合と異なり、ポンプ1の回転数(エンジン回転数)とは独立して、例えばCVT100の作動状態に応じてポンプ容量を任意に制御することができる。なお、制御弁2はソレノイドSOLにより制御可能な電磁弁でなくてもよく、ソレノイドSOLを省略することとしてもよい。ポンプ1は、以上のようにポンプ容量を可変制御することで、ポンプ駆動に必要なトルク(駆動トルク)を低減し、ポンプ出力を必要最低限に抑える。これにより、固定容量ポンプに比べて損失トルク(動力損失)を低減することができる。
(背圧ポートの分離による動力損失低減)
ロータ6の回転時、ベーン7には遠心力(ベーン7を外径方向へ移動させる力)が作用するため、回転数が十分に高い等、所定の条件が整えば、ベーン7の先端部はスリット61から突出し、カムリング8の内周面80に摺接する。ベーン先端部がカムリング内周面80に当接することで、ベーン7の外径方向の移動が規制される。ベーン7がスリット61から突出するとベーン7の背圧室brの容積が拡大し、ベーン7がスリット61へ没入する(収納される)とベーン7の背圧室brの容積が縮小する。カムリング8が回転軸Oに対してx軸負方向に偏心した状態でロータ6が回転すると、カムリング内周面80に摺接する各ベーン7の背圧室brは、回転軸Oの周りで回転しながら周期的に拡縮する。ここで、背圧室brが拡大する吸入領域では、背圧室brに作動油が供給されないと、ベーン7の突き出し(飛び出し)が阻害され、ベーン先端部がカムリング内周面80に当接せず、ポンプ室rの液密性が確保されないおそれがある。一方、背圧室brが縮小する吐出領域では、背圧室brから作動油が円滑に排出されないと、ベーン7のスリット61への収納(引込み)が阻害され、ベーン先端部とカムリング内周面80との摺動抵抗が増加する。これに対し、ポンプ1では、吸入領域では、吸入側背圧ポート45から背圧室brに作動油を供給する。これにより、ベーン7の突き出し性を向上する。吐出領域では、背圧室brから吐出側背圧ポート46へ作動油を排出する。これにより、ベーン7の摺動抵抗を低減する。
具体的には、吸入領域では、ベーン7の先端部に吸入ポート43内の圧力が作用し、ベーン基端部(根元)に吸入側背圧ポート45内の圧力が作用する。吸入側背圧ポート45と吸入ポート43は共に共通の作動油源である低圧室40e,42eに連通しているため、吸入ポート43内の圧力と吸入側背圧ポート45内の圧力は共に低圧である。よって、ベーン先端部に作用する圧力とベーン基端部に作用する圧力との差は大きくない。より具体的には、作動油はリザーバから低圧室40e,42eを経て、連通路412,422から吸入ポート43に、連通路413,423から吸入側背圧ポート45に、夫々供給される。ポンプ1の駆動時には吸入領域では作動油は吸入され続けているため、吸入ポート43内の圧力(吸入圧Pi)は負圧、すなわち大気圧以下となっている。一方、吸入側背圧ポート45は、低圧室40e,42eを介して吸入ポート43と連通しているため、連通路413,423からは吸入側背圧ポート45に吸入圧Piに近い圧力の作動油が供給されることとなる。一方、吐出領域では、ベーン先端部に吐出ポート44内の圧力が作用し、ベーン基端部に吐出側背圧ポート46内の圧力が作用する。吐出側背圧ポート46と吐出ポート44は共に高圧室40fに連通しており、吐出ポート44内の圧力と吐出側背圧ポート46内の圧力は共に高圧である。よって、ベーン先端部に作用する圧力とベーン基端部に作用する圧力との差は大きくない。具体的には、ポンプ1の駆動時には吐出領域ではポンプ作用により作動油の圧力が上昇するため、吐出ポート44内の圧力は大気圧よりも高い吐出圧Pdとなる。一方、吐出側背圧ポート46は、高圧室40fを介して吐出ポート44と連通しているため、吐出圧Pdに近い高圧となる。したがって、ベーン先端部がカムリング内周面80に不必要に強く押し付けられることが抑制され、ベーン7がカムリング内周面80と摺接する際の摩擦による損失トルクが低く抑えられる。
このように、ポンプ1では、ベーン7の背圧室brと連通する背圧ポートを吸入側と吐出側とで分離し、吸入工程と吐出工程の両方で、ベーン7のベーン先端部とベーン基端部に(吐出圧Pdと吸入圧Piとの差のように大きな)圧力差が発生することを抑制している。このため、遠心力によりベーン7を適度にカムリング8に押し付けつつ、摺動抵抗を低減することができる。よって、摩耗を低減できるとともに、ロータ6を回転させるために余分な駆動トルクが浪費されることがないため、動力損失を低減できる。言い換えると、ポンプ1は、回転数に対する駆動トルクが低く、高効率な(すなわち動力損失を低減して燃費を向上できる)、いわゆる低トルク式ポンプであり、通常の可変容量ベーンポンプに比べ、同一体格でも吐出量が大きい(すなわち小型化できる)という特長を有している。
(吸入側背圧ポート増圧による騒音抑制)
上記のように吸入領域で吸入側背圧ポート45から背圧室brに作動油を供給する構成にあっても、内燃機関の始動時やアイドル状態等のポンプ低回転域では、ベーン7に作用する遠心力が小さい。よって、ポンプ低回転時には、吸入工程でベーン7の突き出しが不十分となり、ベーン先端部がカムリング内周面80から離間した状態になるおそれがある。この状態でベーン7(の背圧室br)が吐出側背圧ポート46に差し掛かると、ベーン7(基端部71)に急激に高い圧力が作用するため、ベーン7がカムリング8に勢いよく押し出されて飛び出し、カムリング8に勢いよく衝突して、その際に騒音が発生するおそれがある。また、ベーン7の突き出し不足によるポンプ室rの液密性の低下により、吐出量も低下して吐出圧が十分に得られないため、ポンプ効率が低下するとともに始動性が低下するおそれがある。これに対し、本実施例1のポンプ1では、ロータ6の回転数が所定値β以下のとき、吸入側背圧ポート45の圧力を、吸入ポート43と共通の圧力(吸入圧Pi)よりも高い圧力(Pi+ΔPi)に増圧する吸入側背圧ポート増圧手段を設けた。よって、ベーン基端部が吐出側背圧ポート46に差し掛かる手前の吸入領域において、ベーン7は、基端部と先端部との差圧ΔPiによりカムリング8の側に押し付けられ、その先端部はカムリング内周面80から離間しにくくなる。このため、ベーン基端部が吐出側背圧ポート46に差し掛かってこれに高圧(吐出圧Pd)が作用しても、ベーン7がカムリング8に勢いよく衝突することが抑制され、衝突による騒音を低減できる。上記所定値βは、所定の油温等の条件下で、ロータ6がその回転数となったときにベーン7が遠心力のみで突き出すことが可能な値とすることが好ましい。この回転数β以上となったときは吸入側背圧ポート45の圧力を増圧せず、吸入ポート43と共通の圧力(吸入圧Pi)に復帰させることで、上記動力損失の低減効果を得ることができる。
また、複数のポンプ室rは順番に、ロータ6の回転に応じて第1、第2閉じ込み領域に差し掛かると、吸入工程と吐出工程が切り替わる。突き出し量が小さい任意のベーン7が、カムリング内周面80から離間した状態のままで、吸入領域と吐出領域が切り替わる上記回転位置に差し掛かると、以下の問題が生じる。すなわち、あるポンプ室r(第1ポンプ室rという。)の後側ベーン7(上記突き出し量の小さいベーン7)が第1閉じ込み領域内にあるとき、第1ポンプ室rの前側ベーン7は吐出領域にあり、第1ポンプ室rは吐出ポート44と連通しているため、高圧である。一方、第1ポンプ室rに対して回転負方向側に隣接するポンプ室r(第2ポンプ室rという。)の後側ベーン7は吸入領域にあるため、第2ポンプ室rは吸入ポート43と連通しており、低圧である。このように、あるベーン7を挟んで隣り合うポンプ室rの圧力が、一方のポンプ室rは低圧であり他方のポンプ室rは高圧である場合、当該ベーン7の突出(カムリング8への押し付け)が不十分であると、ベーン先端部とカムリング内周面80との間の隙間を通って、高圧のポンプ室rから低圧のポンプ室rへと作動油が漏出する現象(作動油の吹き抜け)が発生する。吹き抜けにおいては、急激な作動油の流れが発生するため、吐出ポート44内及び吸入ポート43内の圧力が大きく変動して、騒音が発生する。また、ロータ6の回転に伴い周期的に吐出ポート44内の圧力低下が生じるため、吐出圧の脈動が発生する原因となる。また、吐出量が低下して吐出圧が十分に得られないため、ポンプ効率が低下するとともに始動性が低下し、ポンプ吐出圧を利用したシステム(CVT100)の始動性が悪化するおそれがある。これに対し、本実施例1のポンプ1では、ベーン7が第1閉じ込み領域に移行する手前の吸入領域で、ベーン7の背圧室brに高圧を作用させることとした。よって、このベーン7が第1閉じ込み領域内に移行する手前の段階でその突出を確保し、このベーン7を挟んで隣り合う高圧のポンプ室rと低圧のポンプ室rとを液密に隔成(シール)することができる。よって、ポンプ低回転時に、遠心力によるベーン7の突き出し性が悪くても、上記吹き抜けに起因する騒音を抑制し、低回転時の始動性を向上させることができる。
吸入側背圧ポート増圧手段は、吸入ポート43と共通の圧力(吸入圧Pi)よりも高い圧力(Pi+ΔPi=供給圧Ps)を供給する圧力供給源(吐出ポート44)と、この圧力供給源と吸入側背圧ポート45を接続する通路33,37と、この通路33,37の連通と遮断を切り替える切り替え手段(制御弁2)と、を備え、ロータ6の回転数が所定値β以下のときに通路33,37を連通させる一方、ロータ6の回転数が所定値βより高いときに通路33,37を遮断させる。よって、吸入側背圧ポート45への高圧(Pi+ΔPi)の供給を切り替え手段(制御弁2)により切り替えることで、ポンプ回転数に応じて吸入側背圧ポート45の増圧と非増圧を切り替えることが容易である。実施例1では、上記圧力供給源として、元々存在する吐出ポート44及び通路30,32を用いることで、圧力供給源を別途設ける必要が無く、構成を簡素化できる。なお、圧力供給源を別途設けることとしてもよい。制御弁2は、ロータ6の回転数が所定値β以下のときに通路33,37を連通させる一方、ロータ6の回転数が所定値βよりも大きいときにオリフィス320で発生する差圧(Pd−Ps)が弁体(スプール20)に作用すると、通路33,37を遮断する(吸入側背圧ポートへの高圧(Pi+ΔPi=Ps)の供給を遮断する)ように弁体(スプール20)が変位する。よって、ポンプ1が低回転のときは吸入側背圧ポート45を増圧し、高回転のときは吸入側背圧ポート45を増圧しないように、自動的に制御することができる。
上記弁体は、バルブ収容孔40aに収容されたスプール20である。すなわち、上記制御弁2としてスプール弁を用いることができる。具体的には、スプール20は第2大径部202を有し、第2大径部202により、吐出ポート44から圧力(供給圧Ps)の供給を受ける第2圧力室24が画成され、バルブ収容孔40aには、吸入側背圧ポート45に高圧(Pi+ΔPi=Ps)を供給する通路37が開口し、ロータ6の回転数が所定値β以下のとき、通路37の開口部370が第2大径部202により塞がれずに第2圧力室24と連通すると共に、前記ロータの回転数が所定値βより大きいとき、通路37の開口部370が第2大径部202により塞がれて第2圧力室24との連通が遮断されるように、スプール20の位置が制御される。よって、ポンプ1が低回転のときは吸入側背圧ポート45を増圧し、高回転のときは吸入側背圧ポート45を増圧しないように、制御することができる。また、高回転時に、通路37の開口部370を第2大径部202により塞いで第2圧力室24と吸入側背圧ポート45との連通を遮断することで、第2圧力室24の圧力を安定化し(第2油圧への外乱を除去し)、もってスプール20の(第1、第2油圧の差圧(Pd−Ps)による)制御性を向上することができる。
なお、通路37の開口部370が第2大径部202により塞がれるか否かの閾値となる回転数βは、通路36の開口部が第2大径部202により塞がれる(通路35の開口部が第1大径部201により塞がれずに第1圧力室23と連通する)か否かの閾値となる上記回転数αより低い。また、スプール20の変位の原因となる第1油圧と第2油圧の差圧(Pd−Ps)は、オリフィス320を通過する流量すなわちポンプ1の吐出量に応じて決まり、ポンプ吐出量はポンプ容量と回転数に応じて決まる。よって、例えばポンプ容量が一定(偏心量δが最大で固定)と仮定すれば、回転数α、βは、スプール20の位置(例えば開口部370が第2大径部202により塞がれる位置)に基づき決定することができる。回転数βは、設計値により設定してもよいし、予め実験等により求めてもよい。
図4及び図5は、スプール20の動作を説明するために、制御弁2の概略を示した図である。通路31,33の構成を適宜省略して描いている。ロータ6の回転数の増大に応じて、第2大径部202が通路37の開口部370を塞ぐ方向(x軸正方向側)に徐々に変位するように、スプール20が図4の位置から図5の位置まで制御される。よって、ポンプ1が低回転であるほど通路37(開口部370)の開口面積が大きくなるため、低回転側での上記効果を向上できる。なお、制御弁2の種類はスプール弁に限らず、例えばボール弁を用いてもよい。また、スプール20の形状は実施例1のものに限らない。
図6及び図7は、スプール20の形状の変形例を示し、図4及び図5と同様、スプール20の動作を説明するために、制御弁2の概略を示した図である。実施例1と共通する構成については実施例1と同一の符号を付して説明を省略する。大径部201,202にはそれぞれ、バルブ収容孔40a内におけるスプール20の移動を円滑にするため、外周に溝20cが設けられている。溝20cにより、第1大径部201は、x軸負方向側の長尺部20aと、x軸負方向側の短尺部20bとに分割される。長尺部20aのほうが短尺部20bよりもx軸方向寸法が大きく設けられている。同様に、溝20fにより、第2大径部202は、x軸正方向側の長尺部20dと、x軸負方向側の短尺部20eとに分割される。長尺部20dのほうが短尺部20eよりもx軸方向寸法が大きく設けられている。背圧供給通路37の開口部370は、スプール20の変位に関わらず、第2大径部202の溝20fとの連通が抑制されるように配置されている。よって、開口部370のx軸負方向端は、望ましくは、スプール20がx軸正方向側に最大変位したときの第2大径部202の溝20fのx軸正方向端(長尺部20dのx軸負方向端)よりもx軸正方向側に配置される。これにより、開口部370が溝20fを介して例えば通路36と連通することを抑制し、もって、背圧側吸入ポート45が不用意に増圧されたり第2制御室R2への制御圧の供給が不安定になったりする事態等を回避することができる。また、溝20fを設けることによって、通路36に対向するスプール20の外周と、スプール軸を挟んで通路36と反対側のスプール20の外周との圧力差を小さくでき、これによりスプール20が円滑に動けるようになる。
実施例1に戻って説明する。吸入側背圧ポート増圧手段は、吐出ポート44と共通の圧力(吐出圧Pd)よりも低い範囲で吸入側背圧ポート45の圧力を増圧する。すなわち、ポンプ1の低回転時には、吸入側背圧ポート45には吸入側背圧ポート増圧手段により作動油が供給されるため、吸入側背圧ポート45の圧力は吸入圧Piよりも高いPi+ΔPiとなる。しかし、この圧力Pi+ΔPiは、差圧発生手段(オリフィス320)の差圧発生効果により、ポンプ1の吐出圧Pd(吐出ポート44と共通の圧力)よりも低くなっている。したがって、例えば背圧室brに吐出圧Pd(吐出ポート44と共通の圧力)を供給した場合に比べて、ベーン先端部がカムリング内周面80に遠心力以外の油圧力により不必要に強く押し付けられることが抑制され、ベーン7がカムリング内周面80に摺接する際の摩擦による損失トルクが低く抑えられる。言い換えると、ベーン7の突き出し量を確保しつつ、ベーン先端部のカムリング内周面80への摺動抵抗を軽減し、動力損失を低減できる。すなわち、圧力供給源(吐出ポート44)と吸入側背圧ポート45とを接続する通路を構成する通路33には、通過流量の増大に応じて大きな差圧を発生する差圧発生手段(オリフィス320)が設けられ、制御弁2は、吐出ポート44と共通の圧力(吐出圧Pd)が差圧発生手段(オリフィス320)により低下した後の圧力(供給圧Ps)の供給を受け、供給される圧力(供給圧Ps)を元圧として、吸入側背圧ポート45に高圧(Pi+ΔPi=Ps)を供給する。よって、カムリング8の偏心量δを制御するための構成(オリフィス320)を利用した簡素な構成により、吐出ポート44と共通の圧力(吐出圧Pd)よりも低い範囲で吸入側背圧ポート45の圧力を増圧することができる。なお、オリフィス320を経由しない吐出圧Pdを用いて吸入側背圧ポート45を増圧することとしてもよい。
また、吸入側背圧ポート45は、吸入ポート43と共通の作動油源である低圧部(低圧室40e,42e)に連通するとともに、吸入側背圧ポート45と低圧部(低圧室40e,42e)とを接続する連通路413,423に、吸入側背圧ポート45から低圧部(低圧室40e,42e)への作動流体の流れを制限する制限手段(チェック弁47)が設けられている。よって、吸入側背圧ポート45に供給される作動油が低圧部(低圧室40e,42e)へ漏れ出すことが抑制されるため、吸入側背圧ポート45の増圧を効率的に実現できる。具体的には、上記制限手段は、低圧部から吸入側背圧ポート45への作動油の流れを許容し、逆方向の作動油の流れを禁止する逆止弁(チェック弁47)である。よって、吸入側背圧ポート45の増圧をより効率的に実現できる。ここで、ポンプ低回転時に、吸入側背圧ポート45の圧力が、吸入側背圧ポート増圧手段により供給される圧力(Pi+ΔPi=Ps)を超えるおそれはない。また、ポンプ1が高回転となって、吸入側背圧ポート増圧手段によって吸入側背圧ポート45が増圧されなくなったとき、吸入側背圧ポート45には必要な作動油量はチェック弁47を介して供給される。なお、チェック弁47a,47bのいずれかを省略してもよいし、両方を省略することとしてもよい。また、上記制限手段として、連通路413,423の流路断面積を適宜調整することとしてもよい。
[効果]
以下、実施例1から把握される本発明のポンプ1の効果を列挙する。
(1)駆動軸5により回転駆動されるロータ6と、ロータ6の外周に形成された複数のスリット61の夫々に突没可能に収容されたベーン7と、ロータ6を囲んで配置されるカムリング8と、カムリング8、ロータ6、及びベーン7を内部に収容するポンプボディ4と、を備え、ポンプボディ4は、カムリング8及びロータ6の軸方向側面に対向して配置されて8カムリング、ロータ6、及びベーン7と共に複数のポンプ室rを形成する面410,420を有し、ポンプボディ4の面410,420には、ロータ6の回転に応じて複数のポンプ室rの容積が拡大する吸入領域に開口する吸入ポート43と、ロータ6の回転に応じて複数のポンプ室rの容積が縮小する吐出領域に開口する吐出ポート44と、吸入ポート43と共通の圧力(吸入圧Pi)が導入されるとともに、吸入領域に位置する複数のベーン7を収容するスリット61の基端部に連通する吸入側背圧ポート45と、吐出ポート44と共通の圧力(吐出圧Pd)が導入されるとともに、吐出領域に位置する複数のベーン7を収容するスリット61の基端部に連通する吐出側背圧ポート46と、が設けられたベーンポンプにおいて、ロータ6の回転数が所定値β以下のとき、吸入側背圧ポート45の圧力を、吸入ポート43と共通の圧力(吸入圧Pi)よりも増圧する吸入側背圧ポート増圧手段(制御弁2等)を設けた。
よって、ベーン7に作用する遠心力が小さいポンプ低回転時に、ベーン7の突き出し量を増大することで、騒音を低減することができる。
(2)吸入側背圧ポート増圧手段は、吸入ポート43と共通の圧力(吸入圧Pi)よりも高圧(Pi+ΔPi=供給圧Ps)を供給する圧力供給源(吐出ポート44)と、圧力供給源と吸入側背圧ポート45とを接続する通路33,37と、ロータ6に対するカムリング8の偏心量δを制御するための制御圧の供給を弁体(スプール20)の変位により切り替える制御弁2と、を備え、制御弁2は、弁体の変位により前記通路33,37の連通と遮断を切り替え、弁体は、ロータ6の回転数が所定値β以下のときに通路33,37を連通させる位置に変位する一方、ロータ6の回転数が所定値βより大きいときに通路33,37を遮断する位置に変位する。
よって、偏心量δを制御するための制御弁2の動作を利用することで、ポンプ回転数に応じて吸入側背圧ポート45の増圧/非増圧を切り替えることを容易化し、構成を簡素化できる。
(3)弁体(スプール20)は、ロータ6の回転数の増大に応じて、通路37の開口部370を塞ぐ方向に変位する。
よって、ポンプ1が低回転であるほど通路37の開口面積が大きくなるため、低回転側での吸入側背圧ポート45の増圧による上記(1)の効果を向上できる。
(4)吸入側背圧ポート増圧手段は、吐出ポート44と共通の圧力(吐出圧Pd)よりも低い範囲で吸入側背圧ポート45の圧力を増圧する。
よって、動力損失を低減できる。
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施例1に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、実施例1では、ポンプ1が適用される自動車の油圧機器として、CVT100を例に説明したが、他の油圧機器、例えばパワーステアリングシステムの油圧供給源としてポンプ1を使用してもよい。また、作動流体として、作動油(ATF)以外の流体を用いることも可能である。実施例1では、ベーン7(スリット61)を、ロータ径方向に沿って延びるように設けたが、ロータ径方向に対して傾斜して設けてもよい。実施例1では、プレート41とフロントボディ42の両方に各ポート43〜46を形成したが、これらのポートを一方側にのみ設けるようにしてもよい。実施例1では、吸入側背圧ポート増圧手段(を構成する通路や吐出ポート)をリアボディ40側に設けたが、フロントボディ42側に設けてもよい。