以下、本発明の色素増感型太陽電池、本発明の色素増感型太陽電池を用いた太陽電池モジュール、および本発明の色素増感型太陽電池を製造する色素増感型太陽電池の製造方法について詳細に説明する。
A.色素増感型太陽電池
本発明の色素増感型太陽電池は、電極としての機能を備え、フレキシブル性を有し、かつ、色素増感剤が表面に坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層が一方の表面上に形成されている色素増感型太陽電池用基材と、上記色素増感型太陽電池用基材に対向するように配置され、電極としての機能を備え、かつ、フレキシブル性を有する対向電極基材と、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の間に形成され、上記多孔質層と接するように形成された固体電解質層とを有し、さらに、上記色素増感型太陽電池用基材または上記対向電極基材の少なくとも一方が透明性を有する基材である色素増感型太陽電池であって、上記色素増感型太陽電池用基材または上記対向電極基材の少なくとも一方の表面上には絶縁層が形成されており、上記絶縁層は、上記多孔質層が形成されている多孔質層形成領域の周囲であり、かつ、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向している領域に形成され、さらに上記絶縁層は、上記多孔質層形成領域内から外部に外通する外通部を有することを特徴とするものである。
本発明において、「上記絶縁層は、上記多孔質層形成領域内から外部に外通する外通部を有する」とは、多孔質層形成領域が密封されないように絶縁層が形成されていることを指し、例えば、上記多孔質層の周囲において、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が対向しておらず、絶縁層が形成されていない部分が存在する状態や、多孔質層の周囲に全て絶縁層が形成された場合には、少なくともその一部に空隙部分を有する状態を示すものである。
また、「上記絶縁層の空隙部分」とは、絶縁層が色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方に接していないように形成された状態や、絶縁層が部分的に形成されていない状態を示すものである。
また、本発明における「固体電解質層」は、流動性を示さないものを指す。
本発明の色素増感型太陽電池について図を用いて説明する。図1(a)は、本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す模式図である。図1(b)は、図1(a)に示す本発明の色素増感型太陽電池のA−A断面図である。図1(b)に示すように、本発明の色素増感型太陽電池10は、基材1aおよび第1電極層1bを有し、第1電極層1b上に色素増感剤が表面に坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層4が形成されている色素増感型太陽電池用基材1と、色素増感型太陽電池用基材1に対向するように配置され、電極としての機能を備えた対向電極基材2と、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2の間に形成され、多孔質層4と接するように形成された固体電解質層3と、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2の表面上の形成された絶縁層5とを有するものである。なお、図1(b)においては、絶縁層5が色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2の表面上に形成されている場合について示したが、絶縁層5は、色素増感型太陽電池用基材1または対向電極基材2の少なくとも一方の表面上に形成されていればよい。また、絶縁層5は、図1(a)に示すように、多孔質層4が形成されている多孔質層形成領域Tの周囲であって、色素増感型太陽電池用基材1および上記対向電極基材2が対向している領域に形成されているものである。また、本発明の色素増感型太陽電池10は、多孔質層4の周囲に、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2が対向しておらず、絶縁層5が形成されていない部分であって、多孔質層形成領域Tから色素増感型太陽電池10の外部へ外通する外通部5aを有するものである。なお、図1(a)においては、説明のため基材1aおよび多孔質層4は省略している。
図2は、本発明の色素増感型太陽電池の他の例を示す模式図である。図2においては、絶縁層5が、多孔質層形成領域Tの周囲を囲うように形成されている場合について説明する。また、図2(b)は、図2(a)に示す本発明の色素増感型太陽電池のA−A断面の概略断面図である。図2(a)に示すように、絶縁層5が、多孔質層形成領域Tの周囲を囲うように形成されている場合は、図2(b)に示すように、絶縁層5を色素増感型太陽電池用基材1または対向電極基材2のいずれか一方の表面上にのみ形成することで、絶縁層の厚み方向に空隙部分を設けることにより多孔質層4の周囲に外通部5aを設ける。図2(b)においては、絶縁層5が色素増感型太陽電池用基材1上に形成され、かつ、対向電極基材2には形成されていない態様について示しているが、絶縁層5が対向電極基材2上に形成され、かつ、色素増感型太陽電池用基材1には形成されていない態様であってもよい。なお、図2において、説明していない部材の符号については、図1と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
本発明によれば、上記絶縁層を有することにより、上記多孔質層形成領域の周囲であって、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が対向している領域において、両基材の接触を防止することができることから、上記色素増感型太陽電池内部での短絡を防止することが可能となる。
また、本発明によれば上記固体電解質層を有することにより、電解質として流動性を有さないものを用いることから、ヨウ素耐性の高い高価なシール剤による固体電解質層の封止が不要となり、低コストで色素増感型太陽電池を製造することができる。また、シール剤により固体電解質層を封止する必要がないことから、色素増感型太陽電池の製造の際に、各部材の形成位置、および上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の貼り合わせ位置に高い精度を必要としないため、容易に色素増感型太陽電池を製造することができる。
また、固体電解質層を用いた色素増感型太陽電池においては、例えば、図12に示すように、絶縁層5を形成せずに、多孔質層4が形成されている多孔質層形成領域Tの周囲に上記色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2が対向する領域を有さないような構成とすることにより、色素増感型太陽電池内部の短絡を防止することも考えられる。しかしながら、このような色素増感型太陽電池を製造する場合は、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を貼り合わせる際の貼り合わせ位置に高い精度が必要となり製造工程が煩雑になるといった問題が考えられる。なお、図12において説明していない符号については図1と同様とする。
一方、本発明によれば、上記絶縁層を有することから、色素増感型太陽電池の製造の際、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の貼り合わせ位置に高い精度を必要としないため、容易に色素増感型太陽電池を製造することができる。
また、本発明によれば、上記多孔質層の周囲に上記外通部を有することにより、色素増感型太陽電池を形成する際の色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を貼り合わせる工程において、色素増感型太陽電池内の空気を上記外通部から排出させて貼り合わせを行うことが可能であることから容易に製造可能な色素増感型太陽電池とすることができる。
さらに、本発明の色素増感型太陽電池は固体電解質層を用いているため、予め複数の色素増感型太陽電池を得ることが可能な多面付け部材を作製し、これを所定の大きさに断裁することにより、複数の色素増感型太陽電池とすることが可能である。これにより、例えばRoll to Roll法等で上記多面付け部材を製造し、これを所望の大きさに断裁することによって、色素増感型太陽電池を大量に生産することが可能となるため、低コストで色素増感型太陽電池を形成することが可能である。
本発明の色素増感型太陽電池において、上述した大量生産のために形成される多面付け部材について図を用いて説明する。図3〜5は、本発明の色素増感型太陽電池を得ることができる多面付け部材の例を示す模式図である。図3〜5に示すように、本発明において用いられる多面付け部材20は、予め複数の色素増感型太陽電池10が形成されているものである。これを断裁位置で断裁することにより色素増感型太陽電池10を大量生産することが可能となる。なお、図3および図4に示す多面付け部材を用いた場合は、断裁位置で断裁することにより、図1に示すように、上記多孔質層形成領域が矩形であり、上記多孔質層形成領域の対向する二辺に上記絶縁層が形成されている色素増感型太陽電池を複数個形成することが可能となる。
また、図5に示す多面付け部材を用いた場合は、断裁位置で断裁することにより、図2に示すように、多孔質層形成領域の周囲を囲うように絶縁層が形成されている色素増感型太陽電池を複数個形成することが可能となる。
なお、図3〜4において説明していない符号については図1と同様とすることができ、図5において説明していない符号については図2と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
以下、本発明に用いられる各部材について説明する。
1.絶縁層
本発明に用いられる絶縁層は、後述する色素増感型太陽電池用基材または上記対向電極基材の少なくとも一方の表面上に形成されており、後述する多孔質層が形成されている多孔質層形成領域の周囲であって、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向している領域に形成されるものである。
ここで、本発明の色素増感型太陽電池は、後述する多孔質層の周囲に形成された絶縁層に、上記多孔質層形成領域から上記色素増感型太陽電池の外部に外通する外通部を有するものであり、上記外通部は、上述したように、上記多孔質層の周囲で、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が対向しておらず、絶縁層が形成されていない部分、または、多孔質層の周囲に形成された絶縁層に設けられた空隙部分を指すものである。
また、本発明の色素増感型太陽電池においては、上記外通部として、上記多孔質層の周囲で、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が対向しておらず、絶縁層が形成されていない部分、または、多孔質層の周囲に形成された絶縁層に設けられた空隙部分の少なくとも1態様の外通部を有するように、上記絶縁層が形成されているのであれば、特に限定されず、すべての態様の外通部を有するように、上記絶縁層が形成されていてもよい。
したがって、本発明に用いられる絶縁層は、本発明の色素増感型太陽電池が、上記多孔質層の周囲に、上述した外通部を有するように形成され、かつ、上記多孔質層の周囲で、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が電気的に接触しないように形成されているのであれば特に限定されるものではない。
本発明における絶縁層としては、上記外通部が上記多孔質層の周囲で、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が対向しておらず、絶縁層が形成されていない部分がある態様においては、例えば多孔質層が多角形である場合、多角形の多孔質層形成領域の周囲の、少なくとも一辺が上記外通部となるように絶縁層が形成されているのであれば特に限定されるものではない。
さらに、本発明においては、図1に示すように、上記多孔質層形成領域が四辺形であり、上記多孔質層形成領域の対向する二辺に上記絶縁層が形成されていることが好ましい。上記のように絶縁層が形成されている色素増感型太陽電池は大量生産によっても、高品質な色素増感型太陽電池を製造することが容易であるからである。
なお、上述した態様においては、上記絶縁層が、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材に密着するように形成されていてもよい。
一方、本発明において上記外通部が、多孔質層の周囲に形成された絶縁層に設けられた空隙部分である態様においては、絶縁層が色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方に接していない空隙部分、または、上記多孔質層が形成されている多孔質層形成領域の周囲であって、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向している領域の一部に、絶縁層が形成されていない空隙部分の少なくとも一方の空隙部分を有するように上記絶縁層が形成されているのであれば特に限定されず、両方の空隙部を有していてもよい。なお、上記絶縁層が形成されていない空隙部分を形成する場合には、後述する色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材とが接触しない程度の空隙部分を形成することが好ましい。
ここで、上記外通部として、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方に接していない空隙部分が設けられた絶縁層としては、例えば色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方のみに絶縁層が形成され、かつ、絶縁層が他方の基材に接しないように形成されている態様や、また、例えば色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれの表面上にも絶縁層が形成され、かつ、各基材上に形成された絶縁層どうしが接することがない態様が挙げられる。
また、上記外通部として、上記多孔質層が形成されている多孔質層形成領域の周囲であって、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向している領域の一部に、絶縁層が形成されていない空隙部分が設けられた絶縁層においては、上記絶縁層が色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の両側に密着するように形成されていてもよい。
また、図1から図5に示す色素増感型太陽電池においては、絶縁層5が連続したストライプ状に形成された態様を示しているが、図6に示すように、絶縁層5は色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2が接触しない程度の間隔をあけて島状に形成されていてもよい。なお、図6において説明しない符号については図2と同様とする。
また、本発明においては、上記絶縁層は、後述する色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が電気的に接触しないように形成されているのであれば特に限定されず、図7(a)に示すように、絶縁層5上の一部に多孔質層4および固体電解質層3が形成されていてもよく、また図7(b)に示すように絶縁層5と多孔質層4および固体電解質層3との間に間隙ができるように形成されていてもよい。このように、本発明においては、色素増感型太陽電池の各部材の形成位置に高い精度を必要としないことから、色素増感型太陽電池を容易に形成することが可能である。なお、図7において、説明しない符号については図2と同様とする。
上記絶縁層の幅としては、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が電気的に接触しない程度の幅であれば特に限定されるものではない。このような絶縁層の幅は広いほど、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の貼り合わせ位置に高い精度が必要なくなり、狭いほど貼り合わせ位置に高い精度が必要となる。そのため、色素増感型太陽電池の発電面積と上記貼り合わせ位置の精度とを考慮して決定されることが好ましい。また、上記絶縁層の幅として具体的には、0.5mm〜50mmの範囲内が好ましい。0.5mmに満たない場合は、後述する多孔質層が形成されている多孔質層形成領域の周囲であって、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向している領域における短絡を確実に防止するのが困難になるからであり、50mmを超える場合は、色素増感型太陽電池において発電に寄与しない部分が大きくなるからである。
また、本発明に用いられる絶縁層の材料としては、絶縁性を有し、かつ、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方に絶縁層を形成することが可能であれば特に限定されるものではない。上記絶縁層の材料としては透明性を有するものであってもよいし、透明性を有しないものであってもよい。
このような絶縁層の材料としては、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。上記無機材料としては、SiO2等の絶縁性材料を挙げることができる。また、有機材料としては、天然ゴム、ニトリルゴム等のエラストマー、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体等を挙げることができる。
本発明に用いられる絶縁層の膜厚としては、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が電気的に接触しない程度の膜厚であれば特に限定されるものではなく、後述する多孔質層および固体電解質の積層体よりも厚いものであってもよいし、薄いものであってもよい。
上記粘着性を有する絶縁層の厚みとしては、具体的には、上記絶縁層の厚みと上記多孔質層および上記固体電解質層からなる積層体の厚みとの差が±20μm程度、なかでも±10μm程度、特に±5μm程度であることが好ましい。
上記絶縁層の厚みと上記多孔質層および上記固体電解質層からなる積層体の厚みとの差が小さいことにより、本態様の色素増感型太陽電池の端部の膜厚を均一なものとすることが可能となる。
また、本発明においては、上記絶縁層が粘着性を有することがより好ましい。上記絶縁層が粘着性を有することにより、色素増感型太陽電池を形成する際の、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を貼り合わせる工程において、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の貼り合わせ位置関係を決定するため、上記絶縁層を用いて、予め仮の貼り合わせを行うことや、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を強固に接着させることが可能となるからである。なお、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を強固に接着させる場合は、上記絶縁層は、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方のみに接し、他方には接していない領域、または、絶縁層が形成されていない領域を一部有するものとする。
また、上記粘着性を有する絶縁層を用いて、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の仮の貼り合わせ、強固な接着等を行う場合においては、例えば絶縁層の厚みが、上記多孔質層および固体電解質層からなる積層体の厚みに比べて薄い場合や厚い場合であったとしても、色素増感型太陽電池側基材および対向電極基材を強く圧着することにより、仮の貼り合わせおよび強固な接着を行うことが可能である。したがって、絶縁層が粘着性を有する場合も、絶縁層の膜厚については、後述する多孔質層および固体電解質層の積層体よりも厚いものであってもよいし、薄いものであってもよい。
また、上記絶縁層の粘着性としては、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材を対向させて圧着した際に、上記粘着性を有する絶縁層によって仮の貼り合わせを行うことが可能となる程度の粘着性であれば特に限定されるものではない。このような絶縁層の粘着性としては、具体的には、特に100mN/25mm以上であることが好ましい。また、上述した絶縁層の粘着性は、それぞれの基材を剥離させるための力(剥離力)を(株)エーアンドデーのテンシロンなどの測定器を用いることにより測定される。
このような絶縁層の材料としては、上述した絶縁層材料のうち、溶剤型や重合型等の接着性を有する材料を用いることが可能であり、具体的には、紫外線硬化型、エマルジョン型、熱溶融型、ドライラミ、ヒートシール等の各種の接着剤が使用可能である。その接着剤の材料としては、天然ゴム系、ニトリルゴム系、エポキシ樹脂系、酢酸ビニルエマルジョン系、アクリル系、アクリル酸エステル共重合体系、ポリビニルアルコール系、フェノール樹脂系、ウレタン樹脂、アイオノマー樹脂等の各種材料が挙げられる。
2.固体電解質層
本発明に用いられる固体電解質層は、後述する色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の間に形成され、かつ、上記多孔質層と接するように形成されるものである。また、後述する多孔質層および対向電極基材間に位置し、多孔質層から伝導された電荷が、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を介して多孔質層へ輸入される際の輸送を行うものである。
また上述したように、本発明に用いられる固体電解質層は、本発明の色素増感型太陽電池を製造時、および使用時に流動性を示さないものである。このような固体電解質層としては、酸化還元対電解質を高分子成分により固体化したもの、一般的な太陽電池に用いられる電解質溶液中に酸化チタン粒子、シリカ粒子等を添加することによって流動性を低下させたもの等が挙げられるが、本発明においては、酸化還元対電解質を高分子成分により固体化したものを固体電解質層として用いることが好ましい。上述した固体電解質層は、容易に形成することができ、経時的な劣化が少ないからである。
上記固体電解質層における高分子成分としては、ポリエーテル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリルを主鎖に持つ高分子ないしはこれらモノマー成分2種類以上の共重合体等を好ましく用いることができる。
また、上記固体電解質層に用いられる高分子成分としては、セルロース系樹脂を挙げることができる。セルロース系樹脂は、耐熱性が高いので、セルロース系樹脂で固体化した電解質層は、高温下でも液漏れが起こらず熱安定性が高い。具体的にはセルロース、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース等のセルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、硝酸セルロース等のセルロースエステル類、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、シアノエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類が挙げられる。これらのセルロース系樹脂は、いずれかを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。セルロース系樹脂の中でも、電解質溶液への相溶性の観点から、特にカチオン性セルロース誘導体が好ましく用いられる。カチオン性セルロース誘導体とは、セルロース又はその誘導体のOH基にカチオン化剤を反応させてカチオン化したものをいう。カチオン性セルロース誘導体を含有させることにより、電解液の保持性に優れ、特に高温下あるいは加圧時において電解液の液漏れがない、熱安定性に優れた固体電解質を得ることができる。
上記のようなセルロース系樹脂の分子量は、そのセルロース系樹脂の種類によって異なり特に限定されないが、電解質層を形成する際に良好な造膜性を得る観点から、重量平均分子量が10,000以上(ポリスチレン換算)、特に100,000〜200,000の範囲であることが好ましい。例えば、セルロース系樹脂としてエチルセルロースを用いる場合には、水に2重量%でエチルセルロースを溶解させ、30℃で粘度測定を行った場合の値で、10mPa・s〜1000mPa・s、特に5mPa・s〜500mPa・sの粘度を示すような分子量とすることが好ましい。
また、セルロース系樹脂のガラス転移温度は、電解質層の十分な熱安定性を得るために、80℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。
このような高分子成分の含有量としては、固体電解質層を形成することが可能であれば特に限定はされないが、上記固体電解質層中の高分子成分の濃度は、低過ぎると固体電解質層の熱安定性が低下し、逆に高過ぎると太陽電池の光電変換効率が低下するため、これらを考慮して適宜設定される。具体的には、固体電解質層中に5重量%〜60重量%含有させることが好ましい。上記固体電解質層中の高分子成分が上記範囲よりも割合が低いと、後述する多孔質層との密着性が十分に得られない場合があり、また、固体電解質層自体の機械的強度の低下に繋がる場合があるため好ましくない。一方、上記範囲よりも割合を高くすると、絶縁性である高分子成分が多量に存在することから、電荷を輸送する機能が阻害されるおそれがあるため好ましくない。
また、本発明に用いられる固体電解質層において、酸化還元対電解質としては、一般的に固体電解質層において用いられているものであれば特に限定はされない。具体的には、ヨウ素およびヨウ化物の組合せ、臭素および臭化物の組合せであることが好ましい。例えば、ヨウ素およびヨウ化物の組合せとしては、LiI、NaI、KI、CaI2等の金属ヨウ化物と、I2との組合せを挙げることができる。さらに、臭素および臭化物の組み合わせとしては、LiBr、NaBr、KBr、CaBr2等の金属臭化物と、Br2との組合せを挙げることができる。
また、上記酸化還元対電解質の含有量としては、固体電解質層を形成することができるのであれば特に限定はされないが、具体的には、固体電解質層に占める酸化還元対電解質の割合が、1重量%〜50重量%の範囲内、中でも、5重量%〜35重量%の範囲内であることが好ましい。酸化還元対電解質の含有量が上記範囲内であれば、第2電極層から酸化物半導体層へ電荷を輸送する機能を十分に得ることができるからである。
本発明に用いられる固体電解質層は、上述した高分子成分および酸化還元電解質の他にも、必要な成分を適宜追加することが可能である。このような成分としては、イオン液体を挙げることができる。
イオン液体は、電解質の粘性を下げ、イオンの伝導性を改善して光電変換効率を向上させるものである。イオン液体は蒸気圧が極めて低く、室温では実質的に殆ど蒸発せず、一般的な有機溶媒のように揮発や引火の心配がないことから、揮発によるセル特性の低下を防止することができる。上記イオン液体としては、例えば、カチオン(陽イオン)が、1−メチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−オクチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、及び1−オクタデシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム系、1−メチル−ピリジウム、1−ブチル−ピリジウム、及び1−ヘキシル−ピリジウム等のピリジウム系、脂環式アミン系、並びに脂肪族アミン系であるものを挙げることができる。また、アニオン(陰イオン)が、ヨウ素イオン、臭素イオン、塩素イオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロボレート、トリフルオロメタンスルホネート、及びトリフルオロアセテート等のフッ素系、シアネート系、並びにチオシアネート系であるもの等を挙げることができる。これらの物質は、いずれか一種を単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
また、ヨウ素をアニオンとするヨウ化物系イオン性液体を用いた場合は、ヨウ素イオンの供給源であり上記の酸化還元対としても機能させることができる。ヨウ化物系イオン性液体としては、具体的には、1,2−ジメチル−3−n−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−n−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、及び1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド等を挙げることができる。なお、ヨウ化物系イオン性液体のように、酸化還元対としても機能するイオン性液体については、上記の電解質層中の酸化還元対及びイオン性液体の濃度を決するにあたってイオン性液体ではなく酸化還元対として含有させることする。
本発明に用いられる固体電解質層中のイオン液体の割合は、イオン液体の種類等によっても異なるが、固体電解質中の酸化還元対/イオン液体/樹脂の割合として、樹脂は5重量%〜60重量%、イオン液体は0重量%〜80重量%、酸化還元対(PMIm−I含み)は、3重量%〜95重量%が好ましく、なかでも樹脂は5重量%〜40重量%、イオン液体は10重量%〜70重量%、酸化還元対(PMIm−I含み)は、10重量%〜85重量%が好ましい。
このような固体電解質層の膜厚としては、一般的に、固体電解質層において採用されている膜厚であれば特に限定はされないが、0.5μm〜100μmの範囲内、その中でも、2μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
3.多孔質層
次に、本発明に用いられる多孔質層について説明する。本発明に用いられる多孔質層は、表面に色素増感剤が担持された金属酸化物半導体微粒子を含有するものであり、後述する色素増感型太陽電池用基材上に形成され、かつ、上記固体電解質層と接するものである。
本発明に用いられる多孔質層の形状としては、後述する色素増感型太陽電池用基材上に形成することが可能であれば特に限定されるものではなく、例えば多角形等を挙げることができる。また、本発明に用いられる多孔質層の形状としては、多角形の中でも四辺形であることが好ましい。上記多孔質層を容易に形成することができるからである。また、上記多孔質層の形状が四辺形であることにより、上記多孔質層の周囲に絶縁層を形成する際も、容易に形成することが可能となる。
ここで、「多孔質層の形状が四辺形である」とは、多孔質層が矩形、平行四辺形、ひし形等の形状であることを指す。また上記「四辺形」としては、矩形、平行四辺形、ひし形の形状において、角だけが丸くなるようにした形状も含むものとする。
また、本発明の多孔質層が形成される多孔質層形成領域としては、後述する色素増感型太陽電池用基材上であって、上述した絶縁層により多孔質層形成領域内が密封されないような領域とすることができるのであれば、特に限定されない。例えば、図2に示すように、上記多孔質層の周囲すべてに上述した絶縁層を形成することが可能となるように、上記多孔質層を形成してもよいし、また例えば、図1に示すように、多孔質層の周囲において上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が対向しておらず、絶縁層が形成されていない部分が存在するように上記多孔質層を形成してもよい。
また、本発明に用いられる多孔質層と上述した絶縁層との位置関係としては、上述した絶縁層により、上記多孔質層形成領域が密封されず、上記絶縁層により多孔質層の周囲において内部短絡が発生しないようにすることができるのであれば特に限定されず、図2(b)に示すように、上述した絶縁層より内側に多孔質層が形成されていてもよいし、図7(a)に示すように、絶縁層の一部の表面上に多孔質層が形成されていてもよい。
次に、上記多孔質に用いられる金属酸化物半導体微粒子、および色素増感剤についてそれぞれ説明する。
(1)金属酸化物半導体微粒子
本発明に用いられる金属酸化物半導体微粒子としては、半導体特性を備える金属酸化物からなるものであれば特に限定されるものではない。本発明に用いられる金属酸化物半導体微粒子を構成する金属酸化物としては、例えば、TiO2、ZnO、SnO2、ITO、ZrO2、MgO、Al2O3、CeO2、Bi2O3、Mn3O4、Y2O3、WO3、Ta2O5、Nb2O5、La2O3等を挙げることができる。これらの金属酸化物半導体微粒子は、多孔性の多孔質層を形成するのに適しており、エネルギー変換効率の向上、コストの削減を図ることができるため本発明に好適に用いられる。
本発明に用いられる金属酸化物半導体微粒子は、すべて同一の金属酸化物からなるものであってもよく、あるいは異なる金属酸化物からなるものが2種類以上用いられていてもよい。また、本発明に用いられる金属酸化物半導体微粒子は、一種をコア微粒子とし、他の金属酸化物半導体により、コア微粒子を包含してシェルを形成するコアシェル構造としてもよい。
なかでも本発明においてはTiO2からなる金属酸化物半導体微粒子を用いることが最も好ましい。TiO2は特に半導体特性に優れるからである。
本発明に用いられる金属酸化物半導体微粒子の平均粒径としては、多孔質層の比表面積を所望の範囲内にできる程度であれば特に限定されるものではないが、通常、1nm〜10μmの範囲内が好ましく、特に10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。平均粒径が上記範囲よりも小さいと各々の金属酸化物半導体微粒子が凝集し二次粒子を形成してしまう場合があり、また平均粒径が上記範囲より大きいと、多孔質層が厚膜化してしまうだけではなく、多孔質層の多孔度、すなわち比表面積が減少してしまう可能性があるからである。ここで、多孔質層の比表面積が小さくなると、例えば、光電変換するのに十分な色素増感剤を多孔質層に担持させることが困難になる場合がある。
なお、上記金属酸化物半導体微粒子の平均粒径は一次粒径を意味するものとする。
また本発明においては、上記金属酸化物半導体微粒子としてすべて同一の平均粒径のものを用いてもよく、あるいは、平均粒径の異なる複数の金属酸化物半導体微粒子を2種類以上用いてもよい。平均粒径の異なる金属酸化物半導体微粒子を併用することにより、多孔質層における光散乱効果を高めることができ、本発明の色素増感型太陽電池をより発電効率に優れたものにできるという利点がある。
本発明において、平均粒径の異なる金属酸化物半導体微粒子を2種類以上用いる場合、異なる平均粒径の組み合わせとしては、例えば、平均粒径が10nm〜50nmの範囲内にある金属酸化物半導体微粒子と、平均粒径が50nm〜800nmの範囲内にある金属酸化物半導体微粒子との組み合わせを例示することができる。
(2)色素増感剤
本発明に用いられる色素増感剤としては、光を吸収して起電力を生じさせることが可能なものであれば特に限定はされない。このような色素増感剤としては、有機色素または金属錯体色素を挙げることができる。上記有機色素としては、アクリジン系、アゾ系、インジゴ系、キノン系、クマリン系、メロシアニン系、フェニルキサンテン、インドリン、カルバゾール系の色素が挙げられる。本発明においてはこれらの有機色素の中でも、クマリン系色素を用いることが好ましい。また、上記金属錯体色素としてはルテニウム系色素を用いることが好ましく、特にルテニウム錯体であるルテニウムビピリジン色素およびルテニウムターピリジン色素を用いることが好ましい。このようなルテニウム錯体は吸収する光の波長範囲が広いため、光電変換できる光の波長領域を大幅に広げることができるからである。
(3)任意の成分
本発明に用いられる多孔質層には、上記金属酸化物半導体微粒子の他に任意の成分が含まれていてもよい。本発明に用いられる任意の成分としては、例えば、バインダー樹脂を挙げることができる。上記多孔質層にバインダー樹脂が含有されることにより、本発明に用いられる多孔質層を脆性の低いものにできるからである。
本発明において多孔質層に用いることができるバインダー樹脂としては、多孔質層の脆性を所望の程度にできるものであれば特に限定されるものではない。もっとも、本発明においては、多孔質層が電解質層と接するように形成されることから電解質層に対する耐性を備えるバインダー樹脂が用いられることが必要になる。このようなバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カプロラクタン等を挙げることができる。
なお、本発明に用いられるバインダー樹脂は1種類のみであってもよく、あるいは2種類以上であってもよい。
(4)その他
本発明に用いられる多孔質層の厚みは、本発明の色素増感型太陽電池の用途に応じて、適宜決定できるものであり特に限定されるものではい。なかでも本発明における多孔質層の厚みは、通常、1μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、特に3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。多孔質層の厚みが上記範囲よりも厚いと、多孔質層自体の凝集破壊が起りやすく、膜抵抗となりやすくなってしまう場合があるからである。また、多孔質層の厚みが上記範囲よりも薄いと厚みが均一な多孔質層を形成するのが困難となったり、色素増感剤が担持される量が少なくなり、太陽光を十分に吸収できないために性能不良になる可能性があるからである。
本発明における多孔質層は単一の層からなる構成でもよく、また複数の層が積層された構成でもよい。複数の層が積層された構成を有する多孔質層としては、本発明に用いられる色素増感型太陽電池用基材の製造方法等に応じて任意の構成を適宜選択して採用することができる。このような構成としては、例えば、多孔質層が上記色素増感型太陽電池用基材と接する酸化物半導体層と、上記酸化物半導体層上に形成され、かつ上記酸化物半導体層よりも空孔率が高い介在層とからなる2層構造である態様を挙げることができる。多孔質層がこのような酸化物半導体層と介在層とからなる2層構造を有することにより、本発明に用いられる多孔質層を、いわゆる転写法により容易に作製することができるからである。すなわち、本発明に用いられる多孔質層は、耐熱基板上で焼成することにより多孔質層を形成した後、これらの層を色素増感型太陽電池用基材上に転写する方法によって作製することも可能であるところ、本発明における多孔質層を上述した酸化物半導体層と介在層とからなる2層構造とすることにより、多孔質層の性能を低下させることなく耐熱基板と多孔質層との密着力を低下させることが可能になる結果、転写方式により本発明に用いられる色素増感型太陽電池用基材を作製することが容易になるからである。
上記多孔質層を上記酸化物半導体層と上記介在層との2層構造を有するものにする場合、酸化物半導体層と介在層との厚み比としては特に限定されるものではないが、なかでも酸化物半導体層の厚み:介在層の厚みが10:0.1〜10:5の範囲内であることが好ましく、さらには10:0.1〜10:3の範囲内であることが好ましい。
上記酸化物半導体層の空孔率としては、10%〜60%の範囲内であることが好ましく、中でも20%〜50%の範囲内であることが好ましい。酸化物半導体層の空孔率が上記範囲よりも小さいと、例えば、多孔質層において太陽光を有効に吸収できなくなる可能性があるからである。また上記範囲よりも大きいと、多孔質層に所望量の色素増感剤を担持させることができなくなる可能性があるからである。
また上記介在層の空孔率としては、上記酸化物半導体層の空孔率よりも大きければ特に限定されないが、通常、25%〜65%の範囲内であることが好ましく、なかでも、30%〜60%の範囲内であることが好ましい。
なお、本発明における空孔率とは単位体積当たりの金属酸化物半導体微粒子の非占有率のことを示す。上記空孔率は、細孔容積をガス吸着量測定装置(Autosorb−1MP;Quantachrome製)にて測定し、単位面積あたりの体積との比率から算出する方法により測定することができる。介在層の空孔率については酸化物半導体層と積層された多孔質層としての空孔率を求めた後、酸化物半導体層単体で求めた値より算出することができる。
4.色素増感型太陽電池用基材
本発明に用いられる色素増感型太陽電池用基材は、電極としての機能を備え、フレキシブル性を有し、かつ、色素増感剤が表面に坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層が一方の表面上に形成されているものである。
ここで、色素増感型太陽電池用基材のフレキシブル性としては、JIS R1601のファインセラミックスの曲げ試験方法やJIS Z 2248の金属材料曲げ試験方法で、5KNの力をかけたときに曲がることを指す。
このような色素増感型太陽電池用基材としては、基材と、基材上に形成された第1電極層とを有する態様(以下、第1の態様とします。)と、金属箔からなる態様(以下、第2の態様)の2つの態様が考えられる。以下、それぞれについて説明する。なお、第1の態様においては、第1電極層上に上述した多孔質層が形成される。
(1)第1の態様
本態様の色素増感型太陽電池用基材は、基材と基材上に形成された第1電極層とを有するものである。以下、それぞれについて説明する。
(a)基材
まず、本態様に用いられる基材について説明する。本態様に用いられる基材としては、フレキシブル性を有し、本態様に用いられる第1電極層、および多孔質層を支持することが可能な程度の自己支持性を有するものであれば特に限定されるものではない。
なお、基材のフレキシブル性については、上述した色素増感型太陽電池用基材のフレキシブル性と同等とすることができるので、ここでの記載は省略する。
上記基材としてはフレキシブル性を有するものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、厚みの薄いガラス製基材や、樹脂製基材を用いることができる。このうち、樹脂製基材は、軽量であり、加工性に優れ、製造コストの低減ができるため、好ましい。
また、本態様に用いられる基材としては、基材上に第1電極層を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、透明性を有する基材であってもよいし、透明性を有さない基材であってもよいが、透明性を有する基材であることが好ましい。透明性を有する基材および太陽光に対する透過性を有する第1電極層からなる透明性を有する色素増感型太陽電池用基材を形成することが可能となるからである。
上記樹脂製基材としては、例えば、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエステルナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等の樹脂からなる基材等を挙げることができる、なかでも本態様においては二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリエステルナフタレートフィルム(PEN)、ポリカーボネートフィルム(PC)が用いられることが好ましい。
また、本態様に用いられる基材の厚みは、上記色素増感型太陽電池の用途等に応じて適宜選択することができるものであるが、通常、10μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に50μm〜1800μmの範囲内であることが好ましく、さらに100μm〜1500μmの範囲内であることが好ましい。
また、本態様に用いられる基材は、耐熱性、耐候性、水蒸気、その他のガスバリア性に優れたものであることが好ましい。上記基材がガスバリア性を有することにより、例えば、本態様の色素増感型太陽電池の経時安定性を向上できるからである。なかでも本態様においては、酸素透過率が温度23℃、湿度90%の条件下において1cc/m2/day・atm以下、水蒸気透過率が温度37.8℃、湿度100%の条件下において1g/m2/day以下のガスバリア性を有する基材を用いることが好ましい。本態様においては、このようなガスバリア性を達成するために、基材上に任意のガスバリア層を設けたものを用いてもよい。
(b)第1電極層
次に、本態様に用いられる第1電極層について説明する。本態様に用いられる第1電極層は、上記基材上に形成されたものである。
本態様に用いられる第1電極層を構成する材料としては、所望の導電性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、導電性高分子材料や金属酸化物等を用いることができる。
上記金属酸化物としては、所望の導電性を有するものであれば特に限定されるものではない。なかでも本態様に用いられる金属酸化物は太陽光に対して透過性を有するものであることが好ましい。このような太陽光に対する透過性を有する金属酸化物としては、例えば、SnO2、ITO、IZO、ZnOを挙げることができる。本態様においては、これらのいずれの金属酸化物であっても好適に用いることができるが、なかでもフッ素ドープしたSnO2(以下、FTOと称する。)、ITOを用いることが好ましい。FTOおよびITOは、導電性および太陽光の透過性の両方に優れているからである。
一方、上記導電性高分子材料としては、例えば、ポリチオフェン、ポリエチレンスルフォン酸(PSS)、ポリアニリン(PA)、ポリピロール、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を挙げることができる。また、これらを2種以上混合して用いることもできる。
本態様に用いられる第1電極層は、単一の層からなる構成であってもよく、また、複数の層が積層された構成であってもよい。複数の層が積層された構成としては、例えば、仕事関数が互いに異なる材料からなる層が積層された態様や、互いに異なる金属酸化物からなる層が積層された態様を挙げることができる。
本態様に用いられる第1電極層の厚みは、上記色素増感型太陽電池の用途等に応じて、所望の導電性を実現できる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本態様における第1電極層の厚みとしては、通常、5nm〜2000nmの範囲内が好ましく、特に10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。厚みが上記範囲よりも厚いと、均質な第1電極層を形成することが困難となる場合や全光線透過率が低下して良好な光電変換効率を得ることが難しくなる場合があり、また、厚みが上記範囲よりも薄いと、第1電極層の導電性が不足する可能性があるからである。
なお、上記厚みは、第1電極層が複数の層から構成される場合には、すべての層の厚みを合計した総厚みを指すものとする。
上記第1電極層を基材上に形成する方法としては、一般的な電極層の形成方法と同様とすることができるのでここでの記載は省略する。
(c)任意の構成
本態様に用いられる色素増感型太陽電池用基材は、少なくとも上記基材、および第1電極層を有するものであればよいが、必要に応じて他の任意の構成を有してもよいものである。本態様に用いられる任意の構成としては、例えば、上記第1電極層に接するように形成され、導電性材料からなる補助電極を挙げることができる。このような補助電極が形成されていることにより、上記第1電極層の導電性が不足する場合に、それを補充することができるため、本態様の色素増感型太陽電池をより発電効率に優れたものにできるという利点がある。
(2)第2の態様
本態様の色素増感型太陽電池用基材は、金属箔からなるものである。
本態様に用いられる色素増感型太陽電池用基材は、金属箔それ自体が電極としての機能を有するため、他の構成を有することは必須ではないことになる。上記色素増感型太陽電池用基材として用いられる金属箔としては、フレキシブル性を有するものである限り特に限定されないが、材質としては、銅、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン、モリブデン、白金、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、各種ステンレスおよびそれらの合金等が挙げられ、好ましくはチタン、クロム、タングステン、各種ステンレスおよびそれらの合金が望ましい。また、金属箔からなる色素増感型太陽電池用基材が用いられる場合、当該金属箔の厚みとしては、フレキシブル性を有し、色素増感型太陽電池用基材上に上述した多孔質層を形成することが可能な自己支持性を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、通常、5μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜500μmの範囲内であることがより好ましく、20μm〜200μmの範囲内であることがさらに好ましい。
5.対向電極基材
次に、本発明に用いられる対向電極基材について説明する。本発明に用いられる対向電極基材は、上記色素増感型太陽電池用基材に対向するように配置され、電極としての機能を備え、かつ、フレキシブル性を有するものである。
本発明における対向電極基材のフレキシブル性としては、上述した色素増感型太陽電池用基材のフレキシブル性と同等とすることができるので、ここでの記載は省略する。
本発明に用いられる対向電極基材としては、電極としての機能を有するものであれば特に限定されるものではない。このような対向電極基材としては、金属箔からなるものや、対向基材上に、第2電極層が形成された構成を有するもの等を挙げることができる。
本発明に用いられる対向電極基材として金属箔からなるものが用いられる場合は、上述した「4.色素増感型太陽電池用基材 (2)第2の態様」で記載したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
次に、上記対向電極基材として対向基材上に第2電極層が形成された構成を有するものを用いる場合、当該第2電極層としては、所望の導電性を有する導電性材料からなるものであれば特に限定されるものではなく、導電性高分子材料や金属酸化物等からなるものを用いることができる。ここで、上記導電性高分子材料や金属酸化物については、上記第1電極層に用いられるものとして説明したものを用いることができる。
本発明に用いられる第2電極層は、単一の層からなる構成であってもよく、また、複数の層が積層された構成であってもよい。複数の層が積層された構成としては、例えば、仕事関数が互いに異なる材料からなる層を積層する態様や、互いに異なる金属酸化物からなる層を積層する態様を挙げることができる。また、本発明に用いられる第2電極層の厚みは、通常、5nm〜2000nmの範囲内が好ましく、特に10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。
本発明に用いられる対向基材は、上記色素増感型太陽電池用基材に用いられる基材と同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
また、本発明に用いられる対向電極基材には必要に応じて触媒層が形成されていてもよい。対向電極基材に触媒層が形成されていることにより、本発明の色素増感型太陽電池をより発電効率に優れたものにできる。このような触媒層の例としては、例えば、上記第2電極層上にPtを蒸着した態様や、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルフォン酸(PSS)、ポリアニリン(PA)、パラトルエンスルホン酸(PTS)およびこれらの混合物から触媒層を形成する態様を挙げることができるが、この限りではない。なお、対向電極基材として対向基材と第2電極層とを有するものが用いられる場合、上記触媒層は第2電極層上に形成されることになる。
6.色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の組み合わせ
本発明の色素増感型太陽電池は、上記多孔質層に吸着した色素増感剤が太陽光を受光して励起されることによって働くものである。したがって、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方は、透明性を有する必要がある。よって、本発明においては、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方が透明性を有する基材となるように適宜選択される。本発明においては、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の両方が透明性を有する基材であってもよいし、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材のいずれか一方が金属箔からなり、他方が透明性を有する基材であってもよい。
本発明においては、上記色素増感型太陽電池用基材が金属箔からなり、かつ、上記対向電極基材が透明性を有する基材であることがより好ましい。上記色素増感型太陽電池用基材が金属箔であることにより、上記多孔質層を焼成することによって上記色素増感型太陽電池用基材上に直接形成することが可能であり、上記色素増感型太陽電池用基材および多孔質層の密着性を高いものとすることができるからである。
また、上記逆構造を有する色素増感型太陽電池においては、光が固体電解質層を通って多孔質層に入るので、固体電解質層での光の損失が懸念される。そこで、固体電解質層を薄くすることが望ましいが、固体電解質層を薄くすると両基材の間隔が狭くなるので、電極間の短絡の危険性が大きくなる。したがって、逆構造の色素増感型太陽電池においては、本発明に用いられる絶縁層の作用効果が高く発揮されることから好ましい。
また、本発明においては、上記色素増感型太陽電池用基材が透明性を有する基材であり、かつ、上記対向電極基材が金属箔からなることも好ましい。このような構造の色素増感型太陽電池は、上述した絶縁層を有することにより、上記色素増感型太陽電池内部での短絡をより効果的に防止することが可能となる。
7.その他の部材
本発明の色素増感型太陽電池は、上述した絶縁層、固体電解質層、多孔質層、色素増感型太陽電池用基材、および対向電極基材を有するものであれば特に限定されるものではなく、必要な部材を適宜追加することができる。このような部材としては、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を対向させて貼り合わせる際に、上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の外側に配置することにより、両基材を固定する固定部材等が挙げられる。
このような固定部材としては、貼り合わせを行った上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の貼り合わせ位置にずれ等を生じさせることなく、固定することができるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な基材どうしの貼り合わせの際に用いられる固定部材を用いることができる。このような固定部材の材料としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(マルチサイト触媒を使用して重合したポリマー、LLDPE)、メタロセン触媒(シングルサイト触媒)使用して重合したエチレンーα・オレフイン共重合体、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン系樹脂、エチレンー酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、熱可塑性ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリアミド系樹脂、その他等の熱可塑性樹脂の1種ないし2種以上を使用することができる。
B.色素増感型太陽電池モジュール
本発明の色素増感型太陽電池モジュールは、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載した色素増感型太陽電池が複数個連結されてなることを特徴とするものである。
本発明の色素増感型太陽電池モジュールについて図を用いて説明する。図8は、本発明の色素増感型太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。本発明の色素増感型太陽電池モジュール30は、基材1aおよび第1電極層1bを有し、第1電極層1b上に色素増感剤が表面に坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層4が形成されている色素増感型太陽電池用基材1と、色素増感型太陽電池用基材1に対向するように配置され、電極としての機能を備えた対向電極基材2と、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2の間に形成され、多孔質層4と接するように形成された固体電解質層3と、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2の表面上の形成された絶縁層5とを有する色素増感型太陽電池10が並列に複数連結されているものである。
なお、図示しないが、本発明の色素増感型太陽電池モジュールとしては、色素増感型太陽電池が直列に複数連結されていてもよい。
本発明によれば、上述した色素増感型太陽電池を複数個連結されてなることにより、内部短絡の発生が抑制された色素増感型太陽電池モジュールとすることができる。
本発明に用いられる色素増感型太陽電池については、「A.色素増感型太陽電池」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
本発明において、複数個の色素増感型太陽電池が連結された態様としては、本発明の色素増感型太陽電池モジュールにより所望の起電力を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。このような態様としては、個々の色素増感型太陽電池が直列に連結された態様であってもよく、あるいは並列で連結されたものであってもよい。
C.色素増感型太陽電池の製造方法
本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、電極としての機能を備え、フレキシブル性を有し、かつ、色素増感剤が表面に坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層が一方の表面上に形成される色素増感型太陽電池用基材と、上記色素増感型太陽電池用基材に対向するように配置され、電極としての機能を備え、かつ、フレキシブル性を有する対向電極基材とを、上記色素増感型太陽電池用基材または上記対向電極基材の少なくとも一方が透明性を有する基材として準備した後、上記色素増感型太陽電池用基材上に上記多孔質層を形成する多孔質層形成工程、上記多孔質層上に接するように固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程、および、上記色素増感型太陽電池用基材または上記対向電極基材の少なくとも一方の表面上の、上記多孔質層が形成される多孔質層形成領域に対応する領域の周囲で、かつ、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材を貼り合わせた際に上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向する領域に、絶縁層を形成する絶縁層形成工程、の各工程を順不同で行い、その後、上記色素増感型太陽電池用基材と上記対向電極基材とを上記多孔質層および電解質層を挟持するように対向させて貼り合わせる貼り合わせ工程を有することを特徴とする製造方法である。
本発明の色素増感型太陽電池の製造方法においては、上記多孔質層形成工程、固体電解質層形成工程、および絶縁層形成工程を順不同で行うことが可能である。したがって、製造される色素増感型太陽電池の形状に合わせて上記の各工程の順番を調整することが可能である。以下、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法について図を用いて説明する。
図9は、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法の一例を示す工程図である。図9に示すように、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、金属箔からなる色素増感型太陽電池用基材1と、上記色素増感型太陽電池用基材1に対向するように配置され、対向基材2aおよび第2電極層2bを有する対向電極基材2とを準備(図9(a))した後、色素増感型太陽電池用基材1上に、表面に色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層4を形成する多孔質層形成工程(図9(b))、多孔質層4上に固体電解質層3を形成する固体電解質層形成工程(図9(c))、色素増感型太陽電池用基材1上の、多孔質層4が形成される多孔質層形成領域Tの周囲で、かつ、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2を貼り合わせた際に色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2が対向する領域に、絶縁層5を形成する絶縁層形成工程(図9(d))を行った後、色素増感型太陽電池用基材1と、対向電極基材2の第2電極層2b側とを、多孔質層4および固体電解質層3を挟持するように対向させて貼り合わせる貼り合わせ工程(図9(e))とを有する製造方法である。
また、図10は、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法の他の一例を示す工程図である。図10に示すように、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、金属箔からなる色素増感型太陽電池用基材1と、色素増感型太陽電池用基材1に対向するように配置され、対向基材2aおよび第2電極層2bを有する対向電極基材2とを準備(図10(a))した後、対向電極基材2の第2電極層2b上に、多孔質層4が形成される多孔質層形成領域Tに対応する領域の周囲で、かつ、色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2を貼り合わせた際に色素増感型太陽電池用基材1および対向電極基材2が対向する領域に、絶縁層5を形成する絶縁層形成工程(図10(b))と、色素増感型太陽電池用基材1上に、表面に色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層4を形成する多孔質層形成工程(図10(b))と、上記多孔質層4上に固体電解質層3を形成する固体電解質層形成工程(図10(c))と、上記色素増感型太陽電池用基材1と、対向電極基材2の第2電極層2b側とを、多孔質層4および固体電解質層3を挟持するように対向させて貼り合わせる貼り合わせ工程(図10(d))とを有する製造方法である。
また、図示しないが、本発明においては、多孔質形成工程および固体電解質形成工程の前に、色素増感型太陽電池用基材上に絶縁層を形成してもよい。また、図9および図10においては、色素増感型太陽電池用基材として金属箔を用いた場合について例示しているが、色素増感型太陽電池用基材として、基材および基材上に形成された第1電極層を有する色素増感型太陽電池用基材を用いてもよい。また、上記色素増感型太陽電池用基材が透明性を有する場合は、対向電極基材としては金属箔からなるものを用いてもよいし、対向基材および第2電極層を有する対向電極基材を用いてもよい。
本発明によれば、内部短絡を生じない色素増感型太陽電池を容易に製造することが可能となる。また、本発明によれば、固体電解質層形成工程および絶縁層形成工程により、固体電解質層および絶縁層が形成されるため、上記貼り合わせ工程において、上記色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材とを貼り合わせる際の貼り合わせ位置に高い精度を必要としないことから、色素増感型太陽電池を容易に製造することができる。
また、本発明によれば、シール剤により電解質層を封止する工程を有さないことから、多孔質層が形成された色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材をシール剤で封止したのち、電解質を注入して電解質層を形成する従来の色素増感型太陽電池の製造方法に比べ、容易に色素増感型太陽電池を製造することができる。
本発明に用いられる色素増感型太陽電池用基材、対向電極基材、および、色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材との組み合わせについては、「A.色素増感型太陽電池」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
以下、本発明における多孔質層形成工程、固体電解質層形成工程、絶縁層形成工程、および貼り合わせ工程について説明する。
1.多孔質層形成工程
本工程は、上記色素増感型太陽電池用基材上に、上記多孔質層を形成する工程である。
本工程に用いられる多孔質層の形成方法としては、上記色素増感型太陽電池用基材上に所望する多孔質層を形成することができる方法であれば特に限定されない。具体的には、上記色素増感型太陽電池用基材として金属箔を用い、上記金属箔上に、上記多孔質層を焼成して形成する方法(以下、第3の態様とする。)、上記色素増感型太陽電池用基材上に多孔質層を形成する多孔質層形成用組成物をパターン状に塗布することによって多孔質層を形成する方法(以下、第4の態様とする。)、および耐熱基板上に多孔質層を形成した後、上記多孔質層を上記色素増感型太陽電池用基材に配置し、次いで耐熱基板を剥離することにより多孔質層を形成する方法(転写法)(以下、第5の態様とする。)の3つの態様が挙げられる。以下、各態様について説明する。
(1)第3の態様
本態様の多孔質層の形成方法は、上記色素増感型太陽電池用基材として金属箔を用い、上記金属箔上に、上記多孔質層を焼成して形成する方法である。
本態様に用いられる金属箔としては、多孔質層を焼成する際の焼成温度に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではない。
また、本態様においては上記色素増感型太陽電池用基材として金属箔が用いられることから、上記対向電極基材としては透明性を有する基材が準備される。
ここで、「A.色素増感型太陽電池」の項で説明したように、逆構造の色素増感型太陽電池においては、光が固体電解質層を通って多孔質層に入るので、固体電解質層での光の損失が懸念される。そこで、固体電解質層を薄くすることが望ましいが、固体電解質層を薄くすると両基材の間隔が狭くなるので、電極間の短絡の危険性が大きくなる。したがって、逆構造の色素増感型太陽電池においては、後述する絶縁層形成工程により形成される絶縁層の作用効果が高く発揮されるものであることから、本態様において、色素増感型太陽電池用基材として金属箔を用いて、多孔質層を形成することは好ましい。。
また、金属箔は、耐熱温度が高いことから、多孔質層に用いられる材料の選択の幅が広がる、金属箔および多孔質層の密着性が良好であるといった利点も有する。
本態様の多孔質層の形成方法においては、まず、金属酸化物半導体微粒子、バインダー樹脂、および溶媒からなる多孔質層形成用塗工液が調製される。次に、金属箔上に調製された多孔質層形成用塗工液を所望の膜厚で塗布して多孔質層形成用塗布膜を形成し、上記多孔質層形成用塗布膜を焼成してバインダー樹脂を熱分解させることによって多孔質層形成用層を形成する。次に上記多孔質層形成用層の表面に色素増感剤を付着させることにより多孔質層が形成される。
本態様に用いられる金属酸化物半導体微粒子については、「A.色素増感型太陽電池」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
上記多孔質層形成用塗工液に用いられるバインダー樹脂としては、焼成により熱分解されるものであれば特に限定されるものではない。このようなバインダー樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などのほか、ポリエチレングリコールのような多価アルコール類等を挙げることができる。
また、上記多孔質層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上記バインダー樹脂を所望量溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、水またはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ターピネオール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、tert−ブチルアルコール等の各種溶剤を挙げることができる。
上記多孔質層形成用塗工液の塗布方法は、金属箔上に多孔質層形成用塗工液を所望の膜厚で均一に、パターン状に塗布することが可能であれば、特に限定されず、一般的な塗布方法と同様とすることができる。ここで、一般的な塗布方法としては、例えば、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコート、オフセットコート、スクリーン印刷(ロータリー方式)等を挙げることができる。
本態様において、金属箔上に形成される多孔質層形成用塗布膜の膜厚としては、所望する膜厚の多孔質層を形成することができる膜厚であれば特に限定されるものではないが、0.5μm〜50μmの範囲内、なかでも2μm〜30μmの範囲内、特に、5μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。上記多孔質層形成用塗布膜の膜厚が上記範囲に満たない場合、もしくは上記範囲を超える場合は、多孔質層を所望する膜厚で形成するのが困難であるからである。
本態様においては、上記多孔質層形成用塗布膜を焼成する前に、多孔質層形成用塗布膜を加圧してもよい。多孔質層形成用塗布膜を加圧することで、形成される多孔質層と色素増感型太陽電池用基材との密着性を高めることができるからである。上記多孔質層形成用塗布膜の加圧方法については、一般的な色素増感型太陽電池の製造の際に用いられるものと同様とすることができるのでここでの記載は省略する。
本態様における多孔質層形成用塗布膜の焼成方法としては、加熱ムラなく一様に焼成できる方法であれば特に限定されず、公知の焼成方法を用いることができる。
本態様における焼成温度は、多孔質層形成用塗布膜に含まれるバインダー樹脂を熱分解することができる温度であれば特に限定されるものではなく、バインダー樹脂の熱分解温度に応じて適宜決定することができるものである。なかでも、250℃〜550℃の範囲内、なかでも350℃〜550℃の範囲内、特に400℃〜550℃の範囲内であることが好ましい。
本態様に用いられる色素増感剤を上記多孔質層形成用層表面に付着させる方法としては、本態様の多孔質層の形成方法により形成された多孔質層が色素増感型太陽電池に用いられた際に、色素増感剤が太陽光を受光することができるものとすることができるのであれば特に限定されず、一般的な色素増感型太陽電池を製造する際に用いられる方法と同様とすることができる。
本態様に用いられる色素増感剤については、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載したものと同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
(2)第4の態様
本態様の多孔質層の形成方法は、上記色素増感型太陽電池用基材上に多孔質層を形成する多孔質層形成用組成物をパターン状に塗布することによって多孔質層を形成する方法である。また、本態様においては、色素増感型太陽電池用基材の耐熱温度以下で熱処理(以下、単に熱処理と称する場合がある。)を行ってもよいものとする。
本態様用いられる色素増感型太陽電池用基材としては、金属箔からなるものであってもよいし、基材および基材上に形成された第1電極層からなるものであってもよい。また、上記基材としては、厚みの薄いガラス基材、樹脂フィルム等を挙げることができる。
また、上記対向電極基材については、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方が透明性を有する基材として準備すればよい。
本態様の多孔質層の形成方法においては、まず、金属酸化物半導体微粒子および溶媒を含む多孔質層形成用組成物を塗布して乾燥させることにより多孔質層形成用層を形成し、次いで多孔質層形成用層に色素増感剤を付着させることによって多孔質層を形成する。
上記多孔質層形成用組成物に用いられる金属酸化物半導体微粒子については、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載したものと同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
また、上記溶媒としては、上記金属酸化物半導体微粒子を分散でき、樹脂成分を溶解又は分散させることができ、かつ、自然乾燥または熱処理により除去することが可能であれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、水や、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等を用いることができるがこれに限らない。二種類以上の溶剤を混合して用いても良い。成膜後の揮発分の環境への影響等の点から水やアルコール系溶剤を用いることがさらに望ましい。
上記多孔質層形成用組成物の塗布方法、および多孔質層形成用組成物の塗膜の膜厚としては、上記色素増感型太陽電池用基材上に所望する膜厚で均一に形成することが可能であれば特に限定されるものではなく、「(1)第3の態様」の項で記載した多孔質層形成用塗工液の塗布方法および多孔質層形成用塗膜の膜厚と同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
本態様における色素増感剤、および上記多孔質層形成用層に色素増感剤を付着させる方法については、「(1)第3の態様」の項で説明した方法と同様とすることができるのでここでの記載は省略する。
(3)第5の態様
本態様の多孔質層の形成方法は、耐熱基板上で多孔質層を焼成して形成した後、上記多孔質層を上記色素増感型太陽電池用基材に配置し、次いで耐熱基板を剥離することにより多孔質層を形成する方法(転写法)である。
本態様の多孔質層の形成方法においては、耐熱基板上で多孔質層を焼成によって形成し、これを色素増感型太陽電池用基材上に配置することができるのであれば特に限定されるものではないが、上記多孔質層上に第1電極層を形成し、上記第1電極層上に基材を接着した後、耐熱基板を剥離することが好ましい。これにより、多孔質層と色素増感型太陽電池基材との密着性の高い色素増感型太陽電池を製造することができるからである。
また、上記の観点から、本態様に用いられる色素増感型太陽電池用基材としては、基材と、基材上に形成された第1電極層からなるものであることが好ましい。また、本態様に用いられる対向電極基材としては、上記色素増感型太陽電池基材または対向電極基材の少なくとも一方が、透明性を有する基材として準備すればよい。
本態様に用いられる耐熱基板としては、所望の耐熱性を有するものであれば特に限定されない。上記耐熱基板上で多孔質層を形成する際には高温の焼成処理がなされることが一般的であることから、本発明に用いられる耐熱基板としては、上記多孔質層を形成する際に行われる焼成処理時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有するものが好ましい。このような耐熱基板としては、一般的な色素増感型太陽電池の製造において用いられるものと同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
また、上記耐熱基板上に多孔質層を形成する方法としては、「(1)第3の態様」において、金属箔上に多孔質層を形成する際に用いた方法と同様とすることができるのでここでの記載は省略する。
本態様において、上記多孔質層上に第1電極層を形成する方法としては、上記多孔質層上に所望する膜厚で均一に第1電極層を形成することができるのであれば特に限定されるものではなく、一般的な電極層の形成方法と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。また、本態様に用いられる第1電極層の材料等については、「A.色素増感型太陽電池」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
本態様において、上記第1電極層上に基材を接着させる方法としては、所望する接着力をもって基材および第1電極層を接着させることができる方法であれば特に限定されるものではなく、通常は接着層を介して基材および第1電極層を接着させる方法が用いられる。
上記接着層としては、一般的な色素増感型太陽電池の製造の際に用いられるものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
また、上記耐熱基板の剥離方法としては、上記多孔質層を破損することなく耐熱基板を剥離することができるのであれば特に限定されず、一般的な剥離方法を用いることができる。また本工程においては、耐熱基板を機械的研磨除去や、エッチングなどによる化学的除去により剥離することもできる。
(4)その他
本工程が、後述する絶縁層形成工程後に行われる場合は、例えば図7(a)に示されるように、絶縁層の一部に多孔質層が形成されていてもよい。後述する絶縁層は、本発明の製造方法により製造される色素増感型太陽電池において、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が電気的に接触しないように形成されているのであれば特に限定されない。したがって、絶縁層が形成されていない多孔質形成領域上に高い位置精度をもって上記多孔質層を形成する必要がないことから、上記多孔質層を容易に形成することが可能となる。
2.固体電解質層形成工程
本工程は、上記多孔質層に接するように固体電解質層を形成する工程である。
本工程において、上記固体電解質層を形成する方法としては、上記多孔質層上に所望する膜厚で固体電解質層を上記多孔質層に接するように形成することができるのであれば、特に限定はされないが、例えば、高分子成分、酸化還元対電解質および架橋剤、光重合開始剤等の添加剤が適切な溶媒に分散または溶解している固体電解質層形成用組成物を準備し、当該固体電解質層形成用組成物を、上記多孔質層上にパターン状に塗布した後、活性光線を照射することにより硬化させ形成する方法、または、固体電解質層を別個に固体高分子フィルムとして形成し、上記多孔質層上に配置することによって形成する方法、対向電極基材上に固体電解質層を設け、これを多孔質層が設けられた色素増感型太陽電池用基材と、固体電解質層および多孔質層が接するように配置して貼り合わせる方法等を挙げることができる。
本工程においては、特に上記固体電解質層形成用組成物を、上記多孔質層上にパターン状に塗布することによって固体電解質層を形成することが好ましい。上記色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材をシール剤等で封止した後、固体電解質層材料を注入することにより、固体電解質層を形成する方法に比べて容易に固体電解質層を形成することが可能となるからである。
上記高分子成分および酸化還元対電解質については、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。また、固体電解質層形成用組成物に用いられるその他の成分については、一般的な固体電解質層を形成する際に用いられるものと同様とすることができるのでここでの記載は省略する。
その他、固体電解質層に関することは、上述した「A.色素増感型太陽電池」の項で記載したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
3.絶縁層形成工程
本工程は、上記色素増感型太陽電池用基材または上記対向電極基材の少なくとも一方の表面上の、上記多孔質層が形成される多孔質層形成領域に対応する領域の周囲で、かつ、上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材を貼り合わせた際に上記色素増感型太陽電池用基材および上記対向電極基材が対向する領域に絶縁層を形成する工程である。
本工程において、絶縁層を形成する方法としては、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法により形成される色素増感型太陽電池が内部短絡を起こさないように絶縁層を形成することができるのであれば特に限定されない。上記絶縁層の形成方法としては、例えば、絶縁層を形成する絶縁層形成用組成物を上記色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方に、パターン状に塗布することによって上記絶縁層を形成する方法、絶縁性を有するテープを用い、色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方に貼りつけることで絶縁層を形成する方法、多孔質層および固体電解質層が形成された色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を、多孔質層および固体電解質層を挟持するようにして対向させ、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の間に絶縁層材料(高分子フィルム等)を挟み込み圧着することによって絶縁層を形成する方法、上記色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方に、SiO2等の絶縁性の蒸着膜を蒸着法、スパッタ法、CVD法等により形成して絶縁層を形成する方法等を挙げることができる。
本工程においては、上記色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方に、上記絶縁層を形成する絶縁層形成用組成物をパターン状に塗布する、または、絶縁性を有するテープを用いることによって上記絶縁層を形成することが好ましい。これにより、絶縁層を容易に形成することができるからである。
なお、上記絶縁層形成用組成物は、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載した絶縁層の材料を含むものであり、上述した絶縁性を有するテープは、「「A.色素増感型太陽電池」の項で記載した絶縁層の材料を含み、所望する絶縁層の幅および厚みを有するものである。
また、上記絶縁性材料(高分子フィルム)としては、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載した絶縁層の材料を含み、かつ、ヒートシール性を有するもの、およびヒートシール性を有さないもの、もしくは、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載した絶縁層の材料を含み、かつ、粘着性を有するものおよび粘着性を有さないもののいずれをも含むものとする。
上記絶縁層形成用組成物をパターン状に塗布する方法としては、一般的なパターン塗布方法と同様とすることができ、特に印刷法、インクジェット法、ディスペンサー法、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、オフセットコート、スクリーン印刷(ロータリー方式)が好ましい。
また、上記絶縁性を有するテープを用いた絶縁層の形成方法としては、上記テープを色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の所定の位置に貼ることができる方法であれば特に限定されず、一般的なテープの貼り付け方法と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
本工程において形成される絶縁層は、製造される色素増感型太陽電池が多孔質層の周囲において、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材が電気的に接触しないような絶縁層であれば特に限定されない。本工程において形成される絶縁層としては、なかでも製造される色素増感型太陽電池において、多孔質層が形成されている多孔質層形成領域から上記色素増感型太陽電池の外部に外通する外通部を有するように形成されることがより好ましい。後述する貼り合わせ工程において、色素増感型太陽電池内の空気を上記外通部から排出して色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を貼り合わせることができ、色素増感型太陽電池を容易に形成することができるからである。
また上記外通部については、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載したものと同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
本工程においては、図1に示すように、絶縁層を連続的に形成してもよいし、図6に示すように絶縁層を、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法により製造される色素増感型太陽電池が内部短絡を起こさない程度の間隔を持って島状に形成してもよい。
本工程に用いられる絶縁層に関する事項については、「A.色素増感型太陽電池」の項で記載したものと同様であるのでここでの記載は省略する。
4.貼り合わせ工程
本工程は、色素増感型太陽電池用基材と、上記対向電極基材とを、上記多孔質層および電解質層を挟持するように対向させて貼り合わせる工程である。
本工程においては、上記多孔質層形成工程、固体電解質層形成工程、および絶縁層形成工程後に、色素増感型太陽電池用基材と、上記対向電極基材とを、上記多孔質層および固体電解質層を挟持するように対向させて貼り合わせるため1つの製造ラインで製造することができ、製造効率を向上させることが可能となる。
本工程において用いられる色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の貼り合わせ方法としては色素増感型太陽電池用基材と、上記対向電極基材とを、上記多孔質層および固体電解質層を挟持するように対向させて貼り合わせることができるのであれば特に限定されるものではなく、一般的な色素増感型太陽電池の製造方法に用いられる方法と同様とすることができる。
5.その他の工程
本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、上記貼り合わせ工程を有する製造方法であれば特に限定されるものではなく、必要な工程を適宜追加することができる。このような工程としては、例えば上述した貼り合わせ工程において組み立てられた色素増感型太陽電池を所望の大きさに断裁する工程が挙げられる。本発明においては、電解質が固体状であるため、組み立てられた色素増感型太陽電池を所望の大きさに断裁することが可能である。
また、上記対向電極基材上に触媒層を形成する触媒層工程等が挙げられる。上記触媒層の形成方法については、一般的な色素増感型太陽電池の製造の際に用いられる方法と同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
6.その他
本発明においては、上記多孔質層形成工程では、上記色素増感型太陽電池用基材に、多孔質層を形成する多孔質層形成用組成物をパターン状に塗布することによって上記多孔質層を形成し、上記固体電解質層形成工程では、上記多孔質層上に固体電解質層を形成する固体電解質層形成用組成物をパターン状に塗布することによって固体電解質層を形成し、上記絶縁層形成工程では、上記色素増感型太陽電池用基材または対向電極基材の少なくとも一方に、上記絶縁層を形成する絶縁層形成用組成物をパターン状に塗布することによって上記絶縁層を形成することが好ましい。これにより、本発明の色素増感型太陽電池を1つの製造ラインで製造することが可能となり、製造効率を向上させることができるからである。また、本発明に用いられる色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材はいずれもフレキシブル性を有するものであることから、上記各工程すべてを塗布方法によって行うことにより、上記各部材をテープ等を用いて形成する場合に比べて、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材に加わる負荷が少なく、加工精度が低下することを防止することが可能となる。
また、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法においては、例えば図3〜図5に示すような複数の色素増感型太陽電池が形成された多面付け部材を用いて色素増感型太陽電池を大量生産することも可能である。
このような多面付け部材を用いた色素増感型太陽電池の製造方法としては、まず、上述した多孔質層形成工程、固体電解質層形成工程、および絶縁層形成工程において、複数の色素増感型太陽電池に必要な複数の各部材を形成し、その後、上述した貼り合わせ工程において、各部材が形成されている色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材を貼り合わせることにより、複数の色素増感型太陽電池が形成された多面付け部材を形成し、これを所定の断裁位置で断裁する方法が一例として挙げられる。
上述した多面付け部材を形成する際の複数の色素増感型太陽電池の製造方法に用いられる多孔質層形成工程、固体電解質層形成工程、および絶縁層形成工程については、所望する複数の色素増感型太陽電池が形成された多面付け部材を形成することができるのであれば特に限定されるものではないが、なかでも、上述したように、多孔質層形成工程、固体電解質層形成工程、および絶縁層形成工程のすべてをパターン塗布法によって行うことが好ましい。これにより、上記貼り合わせ工程も併せて、多面付け部材を1つの製造ラインで製造することができることから製造効率を向上させることができ、各部材をテープ等を用いて形成する場合に比べて、加工精度の低下を防止することが可能となる。
また、Roll to Roll法等を用いて上記多面付け部材を形成することができ、これを断裁することによって色素増感型太陽電池を大量生産することができることから、低コストで色素増感型太陽電池を形成することが可能となる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
色素増感型太陽電池用基材としてチタン箔を準備し、対向基材としてPENフィルム上にITO膜が形成された透明導電フィルムを用意し、そのITO膜上に白金を厚み13Å(透過率72%)で積層することにより対向電極基材を準備した。
(多孔質層形成工程)
日本エアロジル社製P25をエタノールで分散した分散液に、高分子成分としてエチルセルロース(日新化成製ST−100)を固形分比で5%添加して多孔質層形成用塗工液を調製した。その多孔質層形成用塗工液をチタン箔上に、ドクターブレードで10mm×10mmの面積で塗布した120℃で乾燥し、膜厚6μmの多孔質層形成用塗布膜を得た。その多孔質層形成用塗布膜にプレス機で0.1t/cmの圧力を加えた。プレス時に高分子成分を添加したのは、ロールに多孔質層形成用塗布膜が取られないようにするためである。プレス後500℃で焼成して多孔質層形成用層とした。次いで、ルテニウム錯体(Solaronix社製 RuL2(NCS)2)を無水エタノールで3.0×10−4mol/lの濃度となるように溶解された色素溶液に、上述の多孔質層形成用層を20時間浸漬させた。浸漬後色素溶液から引き上げ多孔質層に付着した色素溶液をアセトニトリルで洗浄し、風乾した。これにより、色素増感剤が坦持された多孔質層を得た。
(固体電解質層形成工程)
EMIm−B(CN)4 3.64gにPMIm−I 10.0gとI20.24gを加えて拡販して溶解させた。また、この溶液にカチオン性ヒドロキシセルロース(ダイセル化学製ジェルナーQH-200)のメタノール5w%溶液を28g添加し、攪拌することによりコーティング可能な固体電解質層形成用組成物を調製した。
次に、上記色素増感型太陽電池用基材の多孔質層が形成されている領域と同じ領域に、上述の固体電解質層形成用組成物をドクターブレードで塗布し、100℃で乾燥することにより、固体電解質層を厚み4μmで設けた。
(絶縁層形成工程および貼り合わせ工程)
次に、多孔質層が形成されている領域以外で、色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材とが重なっている領域(図1(a)の絶縁層5の領域)に、絶縁層として厚み12μmのPETフィルム(東洋紡績製ルミラーT−25)を挟み、色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材を重ねた。次いで、OPPフィルム(東洋紡績製)P3162 40μmを用いて、色素増感型太陽電池用基材および対向電極基材の外側から120℃でヒートシールすることにより圧着した。これにより色素増感型太陽電池を得た。
[実施例2]
絶縁層形成工程において、厚み15μmの両面テープ(共同技研化学製400P15)を用いた以外は、実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を得た。
[実施例3]
上記色素増感型太陽電池用基材の面積を10mm×40mmにして、図3の絶縁層5の位置に絶縁層を挟んだ以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を得た。次いで図3に示すように、絶縁層上の断裁位置で断裁することにより、10mm×10mmの色素増感型太陽電池を得た。
[実施例4]
30mm×30mmのチタン箔に多孔質層を10mm×10mmの面積で4か所に、上記多孔質層形成用塗工液をパターン塗布することにより形成し、図5の絶縁層5の位置に絶縁層を挟んだこと以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を得た。ついで、図5に示すように、絶縁層上の断裁位置で断裁することにより10mm×10mmの色素増感型太陽電池を得た。
[実施例5]
色素増感型太陽電池用基材として、PENフィルム上にITO膜が形成された透明導電フィルムを用意し、面積を10mm×40mmとした。また、対向基材としてチタン箔上に白金を厚み13Å(透過率72%)で積層することにより対向電極基材を準備した。
色素増感型太陽電池用基材上に上記の酸化チタンペーストおよび塗布液をドクターブレード法によりITO膜面に塗布し、その後120℃で5分間乾燥させることで、膜厚4μmの多孔質層形成用塗布膜を得た。次いで、ルテニウム錯体(Solaronix社製 RuL2(NCS)2)を無水エタノールで3.0×10−4mol/lの濃度となるように溶解された色素溶液に、上述の多孔質層形成用層を20時間浸漬させた。浸漬後色素溶液から引き上げ多孔質層に付着した色素溶液をアセトニトリルで洗浄し、風乾した。これにより、色素増感剤が坦持された多孔質層を得た。
次に、上記色素増感型太陽電池用基材の多孔質層が形成されている領域と同じ領域に、上述の固体電解質層形成用組成物をドクターブレードで塗布し、100℃で乾燥することにより、固体電解質層を厚み4μmで設けた。
次に、多孔質層が形成されている領域以外で、色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材とが重なっている領域(図3の絶縁層5の領域)に、絶縁層としてドライラミ接着剤(東洋インキ製造製 接着剤AD-76PI/硬化剤CAT-RT85=100/7)をドクターブレードで塗布し、100℃で乾燥することにより厚み8μmで設けた。色素増感型太陽電池用基材と対向電極基材を重ね、接着させた。その後、50℃で7日間エージングした。
次いで実施例3と同様に図3に示す断裁位置で断裁することにより、10mm×10mmの色素増感型太陽電池を得た。
[比較例1]
絶縁層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を作成した。
[比較例2]
絶縁層を形成しないこと以外は実施例4と同様にして色素増感型太陽電池を作成した。
[評価]
実施例1〜5、および比較例1〜2の色素増感型太陽電池をAM1.5、疑似太陽光(入射光強度 100mW/cm2)を光源としてソースメジャーユニット(ケースレー2400型)にて電圧印加により電流電圧特性を測定した。
実施例1〜5で作成した色素増感型太陽電池は短絡なく、良好に発電した。一方、比較例1〜2はすべて短絡が発生した。