JP5824756B2 - 赤外線加熱炉 - Google Patents

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本発明は赤外線加熱炉に関するものである。
従来から、電子工業用部品等の製造プロセスで使用される加熱炉として、図1に示すように炉体の内部でワーク(加熱対象物)を移動させながら、天井部に配置された赤外線ヒーターによって、ワークの赤外線加熱処理を行う赤外線加熱炉が広く使用されている。このような赤外線加熱炉に用いられる赤外線ヒーター50としては、図2に示すように中央のフィラメント51の周囲に保護管52を配置した構造のものが広く用いられている(特許文献1)。なお53はフィラメント51の支持体である。
前記ワークの赤外線加熱処理工程では、ワークに含有される有機溶剤・バインダー・水分等をワークから揮発させる処理が行われる。
これらの有機溶剤・バインダー・水分等は、分子中に水素結合を有するため、赤外線加熱処理工程における有機溶剤・バインダー・水分等の揮発効率を高めるために、従来は、赤外線ヒーター50のフィラメント51の温度を高め、放射エネルギーを増加させる方法を取るのが普通であった。フィラメント51の温度が高まると放射スペクトルのピークが短波長側に移行することが知られており、特にフィラメント温度を700℃以上とすると、図3に示すように放射スペクトルの主波長が近赤外線領域である3.5μm以下となる。このような近赤外線は蒸発を阻害する分子内の水素結合を切断する能力に優れ、フィラメント温度を高めることはこの点からも効果的である。
ところが、赤外線ヒーター50のフィラメント温度を高めると、次第にその周囲を取り巻く保護管52の温度も数百度に上昇し、それ自身が発火性の有機バインダー蒸気や有機溶剤蒸気の発火源となる恐れが生ずる。さらに、温度上昇に伴い保護管52自体が放射体となって赤外線を放射し、ワークや炉壁を過熱してしまう。その結果、炉内温度が発火性の有機バインダー蒸気や有機溶剤蒸気の着火点を越え、爆発事故に至る可能性がある。このため従来は、炉内温度の上昇を抑制しながら、有機溶剤・バインダー・水分等をワークから効率的に揮発させることはできなかった。
また、揮発した成分が天井部に配置された赤外線ヒーター表面に付着するため、赤外線ヒーターについて頻繁な付着物除去作業が必要となる問題があった。
特開2006−294337号公報
本発明の目的は前記問題を解決し、炉内温度の上昇を抑制しながら、分子間の水素結合を切断する能力に優れる近赤外線を集中的に放射してワークを効率よく加熱することができるとともに、赤外線加熱炉内でワークを移動させながら加熱処理する際、ワークから揮発する成分を、炉内天井部に配置された赤外線ヒーターの表面に付着させることなく、炉外に速やかに排出することができる赤外線加熱炉を提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明の赤外線加熱炉は、フィラメントの外周が3.5μm以上の赤外線を吸収する複数の管によって覆われ、これらの複数の管の間に赤外線ヒーターの表面温度の上昇を抑制する冷却用流体の流路を形成した構造を有し、炉体天井部の幅方向に延びる赤外線ヒーターを、炉体天井部の長手方向に複数配置した赤外線加熱炉であって、
該複数の赤外線ヒーターは、各々、炉体天井部の幅方向に渡って形成されたアーチ状窪み部に配置され、各アーチ状窪み部は、開口側端部にエアノズルを備え、該エアノズルは、該アーチ状窪み部内に配置された赤外線ヒーターの中心軸から外れた方向にエアを噴出して、該赤外線ヒーター周りに旋回流を形成するものであり、さらに、該炉体の内部に、ワークの搬送手段と、該炉体入側から出側に向かう水平流を形成する水平流形成手段を備え、該水平流形成手段は、該ワークと赤外線ヒーターとの間に、水平流を形成することを特徴とするものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の赤外線加熱炉において、該エアノズルを、アーチ状窪み部の後端部に備えることを特徴とするものである。
本発明の赤外線加熱炉は、フィラメントの外周が3.5μm以上の赤外線を吸収する複数の管によって覆われ、これらの複数の管の間に赤外線ヒーターの表面温度の上昇を抑制する冷却用流体の流路を形成した構造を有する赤外線ヒーターを炉体の内部に備えている。この赤外線ヒーターは、フィラメントを700〜1200℃の高温にして、水または樹脂バインダーの分子中の水素結合を切断するに適した3.5μm以下の短波長の赤外線を選択的に放射し、搬送手段によって炉内を搬送されるワークを効率的に加熱することができる。また、冷却用流体により赤外線ヒーターの表面温度の上昇を抑制するため、波長が3.5μm以上の長波長の赤外線による炉内温度の上昇を抑制することができ、エネルギーの無駄をなくすことができるとともに、前記した爆発事故を防止することができる。
また、本発明の赤外線加熱炉は、該炉体入側から出側に向かう水平流を形成する水平流形成手段を備えている。該水平流形成手段は、該ワークと赤外線ヒーターとの間に水平流を形成する。当該構成によれば、加熱処理中にワークから揮発してくる成分を、該水平流の流れに伴って炉外に速やかに排出することができる。更に、該水平流が拡散遮断層として働き、加熱処理中にワークから揮発してくる成分の拡散を抑制して該揮発成分が赤外線ヒーター表面に付着する現象を効果的に回避することができる。
また、本発明の赤外線加熱炉は、複数の赤外線ヒーターが、各々、炉体天井部の幅方向に渡って形成されたアーチ状窪み部に配置され、各アーチ状窪み部は、開口側端部にエアノズルを備え、該エアノズルは、該アーチ状窪み部内に配置された赤外線ヒーターの中心軸から外れた方向にエアを噴出して、該赤外線ヒーター周りに旋回流を形成する。この構成によれば、該赤外線ヒーター周りに清浄空気層を定常的に形成することができるため、前記該水平流による効果との相乗作用により、加熱処理中にワークから揮発してくる成分の拡散を抑制して該揮発成分が赤外線ヒーター表面に付着する現象を、より効果的に回避することができる。また、揮発成分が赤外線ヒーターの表面に付着すると、赤外線ヒーターのフィラメントから放射されるふく射の透過が妨げられる結果、赤外線ヒーターの初期加熱性能を維持することが困難になるが、旋回流と水平流との相乗作用によれば、赤外線ヒーターの表面における揮発成分の付着防止効果が得られ、これにより、初期加熱性能の長期維持が可能となる。
従来の赤外線加熱炉の説明図である。 従来の赤外線ヒーターの断面図である。 赤外線ヒーターの放射スペクトルを示すグラフである。 本発明の一実施形態を示す赤外線加熱炉全体説明図である。 図1の加熱ゾーンの要部説明図である。 図4の赤外線加熱炉に配置した赤外線ヒーターの断面図である。 赤外線ヒーターの放射スペクトルを示すグラフである。 赤外線ヒーターの表面温度と放射スペクトルの関係を示すグラフである。
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
図4は本発明の一実施形態を示す説明図であり、10は炉体であり、その内部をフィルム状のワークWが一方向に移動する構造の炉である。本実施形態ではフィルム状のワークについて説明を行うが、ワークはフィルム状のものに限定されず、例えば、ローラーハースキルン上で処理される非処理物にも適用可能であり、例えば、匣鉢に充填された粉体やセッター上のセラミックスなどの成形体であってもよい。図4に示す炉体10の内部は、加熱ゾーン21のみから構成されているが、本実施形態の他、炉体10の内部を加熱ゾーン・調整ゾーン・冷却ゾーン等の複数に区分することもできる。本発明は、前記各ゾーンの内、特に、加熱ゾーン21に最適な技術である。
第一ゾーン(加熱ゾーン)21において、炉体1の天井部には、炉体天井部の幅方向に渡るアーチ状窪み部17が、長手方向に所定ピッチで形成されている。該アーチ状窪み部17内には、赤外線ヒーター11が配置され、下方のワークWに対して矢印のように赤外線を放射して加熱を行っている。フィルム状のワークWは電子工業用部品を製造するために、基材の表面に塗膜を形成したものである。
ワークWの均一加熱の観点からは、アーチ状窪み部17の断面形状をパラボラ形状とし、その焦点位置に、前記の赤外線ヒーター11を配置することが好ましい。このような形状にすることで、赤外線ヒーター11より発せられる赤外線を反射させ、効率的に赤外線をワークWへ照射することができる。アーチ状窪み部17は100〜150mmピッチで形成し、直径30〜50mmの赤外線ヒーター11を配置することが好ましい。赤外線ヒーター11の設置高さは、ワークWから50〜150mmとすることが好ましい。
本発明で用いられる赤外線ヒーター11は、図6に示すようにフィラメント12の外周が複数の管13、14によって断面が同心円状に覆われた構造である。フィラメント12は700〜750℃に通電加熱され、図3に示したような近赤外線を放射している。この実施形態では内側の管13は従来の保護管52と同様であり、石英ガラス管である。またこの実施形態では、外側の管14も石英ガラス管である。そしてこれらの内側の管13と外側の管14との間に形成された空間は、冷却流体の流路16となっている。この実施形態では、冷却流体は空気である。
図7にハッチングで示すように、石英ガラスは3.5μm以上の波長の赤外線をほとんど透過させずに吸収するローパスフイルタとしての機能を有する。ただし高温になると石英ガラス自体が放射体となって3.5μm以上の波長の赤外線を放射する。本発明では冷却流体の流路16に空気などの冷却流体を流すことによって赤外線ヒーター11の外周温度を冷却し、石英ガラス自体が放射体となることを抑制する。この結果、図7に示すように3.5μm以上の波長の赤外線をほとんど含まず、波長が4μm以下の近赤外線領域にピークを持つ近赤外線をワークWに放射し、効率よく加熱することが可能となる。
しかもこのように波長が制御された赤外線は炉壁を加熱しにくく、炉内温度を200℃以下に保持することができる。このためワークWから有機溶媒が発生する場合にも赤外線ヒーター11や炉壁がその着火点以上の高温になることもなく、爆発の危険性もない。
本発明においては、冷却流体の種類や流量を任意に制御することができる。図8に示すように冷却流体の流量を増減することによって、赤外線ヒーター11の表面温度を変更し、放射スペクトルを調整することができる。これを利用して、赤外線ヒーター11の放射波長を炉体の長手方向で変化させることが可能となる。例えば分子間の水素結合を積極的に切断する必要のあるゾーンでは赤外線ヒーター11の冷却を強化して近赤外線をワークWに放射し、その後は冷却を緩和してワーク全体を昇温させるという使い分けが可能となる。
また、冷却流体の流路16を通過させる冷却流体の種類により、赤外線ヒーター11の放射波長を制御したり、フィラメント12の外周を覆う管13、14の材質により、赤外線ヒーター11の放射波長を制御することも可能である。例えば、空気の変わりにCOやHOを使用すれば放射波長は空気よりの長波長側にシフトする。
本発明の赤外線加熱炉は、該炉体入側から出側に向かう水平流を形成する水平流形成手段を備えている。図5に示すように、本実施形態における水平流形成手段は、炉体10の入側天井部に配置された給気部19と、炉体10の出側天井部に配置された排気部20とから構成され、該給気部19の給気口および排気部20の排気口は、各々、ワークと赤外線ヒーターとの間に水平流を形成する高さ位置に配置されている。加熱処理中にワークから揮発してくる成分は、該水平流の流れに伴って炉外に速やかに排出される。また、水平流が拡散遮断層として働き、加熱処理中にワークから揮発してくる成分の拡散が抑制されるため、該揮発成分が赤外線ヒーター表面に付着する現象を効果的に回避することができる。加熱処理中にワークから揮発してくる代表的成分としては、NMPやCO等があり、これらの成分は空気よりも比重が大きい。この場合、該水平流を空気で形成し、ワークと赤外線ヒーターとの間エアカーテンを設けることで前記効果を奏することができる。
更に、本実施形態では、赤外線ヒーター11を配置したアーチ状窪み部17の後端部にエアノズル18を備えている。該エアノズル18から、該アーチ状窪み部17内に配置された赤外線ヒーター11の中心軸から外れた方向にエアを噴出すると、図5に示すように、該エアは赤外線ヒーター11の下端部に衝突して、流れが上下に分岐され、下方に分岐された流れは前記水平流に合流して流れの向きを変え、該水平流とともに炉外に排出される。一方、上方に分岐された流れは、赤外線ヒーター11周りに旋回流を形成し、赤外線ヒーター11周りに清浄空気層を定常的に形成する。当該旋回流と、前記該水平流による効果との相乗作用によれば、加熱処理中にワークWから揮発してくる成分の拡散を抑制して該揮発成分が赤外線ヒーター11の表面に付着する現象を、より効果的に回避することができる。揮発成分が赤外線ヒーター11の表面に付着すると、フィラメント12から放射されたふく射の透過が妨げられる結果、赤外線ヒーター11の初期加熱性能を維持することが困難になるが、前記の旋回流と水平流との相乗作用によれば、赤外線ヒーター11の表面における揮発成分の付着防止効果が得られ、これにより、初期加熱性能の長期維持が可能となる。なお、該エアノズル18の設置位置は、本実施形態に限定されず、例えば、アーチ状窪み部17の前端部としてもよい。
本発明の赤外線加熱炉で、基材表面にNMPを含有する塗膜を形成したシートの加熱処理を行った。長さが6mの炉体を前中後2mずつに区画し、前側の2mの部分の炉体天井部に、0.1mピッチで図6に示した断面構造の赤外線ヒーターを19本配置した。各赤外線ヒーターは、炉体天井部に形成されたアーチ状窪み部17に配置した。炉室の高さは0.3mであり、赤外線ヒーターの設置高さは0.25mである。また各赤外線ヒーターの外周管の材質は石英ガラスであり、その直径は20mmである。図4に示したように、該シートと赤外線ヒーターとの間に、エアカーテンの水平流を形成するとともに、アーチ状窪み部17内の赤外線ヒーター周りにもエアの旋回流を形成させながら該シートの赤外線加熱処理を行なった。
赤外線ヒーターのフィラメント温度を850℃とし、その外周に冷却空気を流して赤外線ヒーターの外表面温度を187℃に維持した。なお冷却空気は流入時は20℃であるが赤外線ヒーターから出たときには129℃になっていた。赤外線ヒーターから放射される赤外線のスペクトルを測定したところ、ピーク波長が3.2μmの近赤外線が放射されていた。また炉壁の温度は183℃で定常状態となり、溶剤爆発の危険がある200℃よりも低温に維持することができた。2〜3か月の間、該赤外線加熱処理を繰り返し行っても、赤外線ヒーター表面へのNMP付着は認められなかった。
なお、従来型の面状赤外線ヒーターを用いた加熱炉において同等の加熱効果を得るためには、ヒーター温度を460℃程度の高温としなければならず、前記発火性の有機バインダー蒸気や有機溶剤蒸気の発火の危険性を鑑みると当該ヒーターは熱源として成立しない。また、図6に示す本発明における赤外線ヒータを用いた加熱炉においても、水平および局所のエアカーテンを用いない場合は、2〜3か月使用後には、赤外線ヒーター表面へのNMP付着が生じ、付着物の除去作業が必要となった。
W ワーク
10 炉体
11 赤外線ヒーター
12 フィラメント
13 管
14 管
16 空間
17 アーチ状窪み部
18 エアノズル
19 給気部
20 排気部
21 第1ゾーン
22 第2ゾーン
23 第3ゾーン
50 従来の赤外線ヒーター
51 フィラメント
52 保護管
53 支持体

Claims (2)

  1. フィラメントの外周が3.5μm以上の赤外線を吸収する複数の管によって覆われ、これらの複数の管の間に赤外線ヒーターの表面温度の上昇を抑制する冷却用流体の流路を形成した構造を有し、炉体天井部の幅方向に延びる赤外線ヒーターを、炉体天井部の長手方向に複数配置した赤外線加熱炉であって、
    該複数の赤外線ヒーターは、各々、炉体天井部の幅方向に渡って形成されたアーチ状窪み部に配置され、各アーチ状窪み部は、開口側端部にエアノズルを備え、該エアノズルは、該アーチ状窪み部内に配置された赤外線ヒーターの中心軸から外れた方向にエアを噴出して、該赤外線ヒーター周りに旋回流を形成するものであり、
    さらに、該炉体の内部に、ワークの搬送手段と、該炉体入側から出側に向かう水平流を形成する水平流形成手段を備え、該水平流形成手段は、該ワークと赤外線ヒーターとの間に、水平流を形成することを特徴とする赤外線加熱炉。
  2. 前記エアノズルを、アーチ状窪み部の後端部に備えることを特徴とする請求項1記載の赤外線加熱炉。
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