以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る混練装置及び該混練装置を用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法について説明する。
図1及び図2は、本発明の実施の形態に係る混練装置の一例を示す要部概略断面図であり、図1は、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとが連通している状態を、図2は、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとが遮断している状態を示す。また、図3は、図1及び図2におけるシール機構を示す概略斜視図である。
混練装置200は、可塑化シリンダ210と、可塑化シリンダ210内に回転及び進退自在に配設されたスクリュ20とを備えている。また、図示しないが、可塑化シリンダ210の上流側の後端部には、スクリュ20を回転させる回転モータなどの回転駆動手段と、スクリュ20を前後進させるためのボールネジ及びそれを駆動させるモータなどの移動手段とが接続されており、下流側の先端部には、溶融樹脂を射出するノズル部が接続されている。なお、図1及び図2に示すように、本実施の形態の混練装置200は、従来公知の混練装置の構成と同様に、可塑化シリンダ210の後方側から見た場合に、スクリュ20を反時計回りに回転させると溶融樹脂を前方(ノズル部側)に送る正回転をし、時計回りに回転させると逆回転するように構成されている。
可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給するための樹脂供給口201、高圧二酸化炭素を含む加圧流体を可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202、及び可塑化シリンダ210内からガス化した二酸化炭素を排気するためのベント口203が形成されている。後述するように、これらの樹脂供給口201、及び導入口202にはそれぞれ、樹脂供給用ホッパ211、及び導入バルブ212が配設されており、ベント口203には、バッファ容器219を介して真空ポンプ220が接続されている。また、可塑化シリンダ210の外壁面には、バンドヒータ(図示せず)が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱されて、熱可塑性樹脂が可塑化される。さらに、可塑化シリンダ210の下部側面の導入口202と対向する位置及びベント口203に対向する位置にはそれぞれ、図示しない圧力計及び温度センサが設けられている。
従って、本実施の形態の混練装置200では、スクリュ20が正回転することにより、樹脂供給口201から可塑化シリンダ210内に熱可塑性樹脂が供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータによって可塑化されて溶融樹脂となり、前方に送られる。そして、導入口202近傍まで送られた溶融樹脂は導入された加圧流体と高圧下、接触混練される。次いで、加圧流体と接触混練された溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、ガス化した二酸化炭素が溶融樹脂から分離し、ベント口203からこのガス化した二酸化炭素が排気される。そして、さらに前方に送られた溶融樹脂はスクリュ20の先端部に押し出され、溶融樹脂の圧力がスクリュ20に対する反力となり、該反力でスクリュ20が後退することにより計量が行われる。これにより、可塑化シリンダ210内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする可塑化ゾーン21、溶融樹脂と導入口202から導入される加圧流体とを高圧下、接触混練する高圧混練ゾーン22、及び加圧流体と接触混練した溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、溶融樹脂から分離された二酸化炭素をベント口203から排気する減圧ゾーン23が形成される。なお、溶融樹脂と加圧流体との接触混練を効率的に行うため、可塑化シリンダ210に導入口202及びベント口203をそれぞれ複数設け、可塑化シリンダ210内に高圧混練ゾーン22及び減圧ゾーン23がそれぞれ複数形成されてもよい。
図1及び2に示すように、上記可塑化ゾーン21、高圧混練ゾーン22、及び減圧ゾーン23の間にはそれぞれ、これらのゾーン21,22,23をスクリュ20の回転状態に応じて連通及び遮断する上流側シール機構S1及び下流側シール機構S2が配設されている。これにより、加圧流体を高圧混練ゾーン22に導入した際に、スクリュ20の回転状態に応じて機械的に高圧混練ゾーン22の上流側及び下流側がシールされるから、確実に高圧混練ゾーン22と隣接するゾーン21,23とを遮断できる。また、本実施の形態のシール機構S1,S2によれば、圧力制御によらず、スクリュ20の回転状態に応じて高圧混練ゾーン22と隣接するゾーン21,23とを連通及び遮断できるから、溶融樹脂の流動抵抗が小さい。さらに、スクリュ20の回転状態に応じて高圧混練ゾーン22を隣接するゾーン21,23からシールできるから、任意のタイミングで高圧混練ゾーン22の圧力を維持できる。それゆえ、高い粘性を有する樹脂を接触混練しても、高い可塑化能力を維持することができる。そして、このようなスクリュ20の回転状態に応じてシール性能を発揮する機械的なシール機構S1,S2を用いれば、高温の溶融樹脂がシール機構S1,S2を通過しても、シール性能の劣化が少ないため、成形機を長期間稼動させた後でも、高圧混練ゾーン22の圧力の変化が少なく、それゆえ長期に安定して熱可塑性樹脂成形体を製造することができる。また、これらのシール機構S1,S2はスクリュ20の回転状態に応じて高圧混練ゾーン22と隣接するゾーン21,23とを連通及び遮断するから、例えば、スクリュ20の正回転及び逆回転を任意のタイミングで行えば、高圧混練ゾーン22に溶融樹脂を滞留させた状態で、加圧流体と接触混練した溶融樹脂の樹脂内圧を低下させて、溶融樹脂からガス化した二酸化炭素を分離することができる。その結果、溶融樹脂を前方に送ることなく、高圧二酸化炭素の濃度の低くなった溶融樹脂と加圧流体とを繰り返し接触混練することができる。また、機能性材料を含む加圧流体を用いる場合、高濃度で機能性材料を分散させた成形体を製造することができる。
本実施の形態の混練装置200において、上記スクリュ20の回転状態に応じて高圧混練ゾーン22と隣接する他のゾーン21,23とを連通及び遮断するシール機構は、少なくとも高圧混練ゾーン22の下流側に設けられていることが好ましく、高圧混練ゾーン22の上流側及び下流側の両方に設けられていることがより好ましい。すなわち、図1及び図2から理解されるように、高圧混練ゾーン22への加圧流体の導入により、高圧混練ゾーン22の上流側においては、高圧の加圧流体が可塑化ゾーン21と高圧混練ゾーン22とを遮断するように上流側シール機構S1に働くのに対し、高圧混練ゾーン22の下流側においては、加圧流体及び上流側から流動する溶融樹脂が高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させるように下流側シール機構S2に働く。また、高圧混練ゾーン22の上流側には通常、溶融樹脂が充填されているため、加圧流体が漏洩し難い。従って、高圧混練ゾーン22の上流側には低いバネ圧を有する逆流防止弁などの簡便なシール機構を配設し、少なくとも高圧混練ゾーン22の下流側にスクリュ20の回転状態に応じて高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通及び遮断する下流側シール機構S2を配設すれば、シール性の低下しやすい高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを確実に遮断でき、接触混練時に高圧混練ゾーン22の高圧状態を維持することができる。なお、本実施の形態において、上流側シール機構S1と下流側シール機構S2とは基本的に同一の構成を有するものが用いられているため、以下では、下流側シール機構S2について主として説明する。
本実施の形態のスクリュ20は、図1〜図3に示すように、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との境界領域において、この境界領域と隣接する領域に比べて縮径された縮径部50を有している。また、縮径部50には、縮径部50の範囲で軸方向(前後方向)に移動可能となるように遊嵌状態で下流側シールリング60が外嵌している。これら縮径部50と下流側シールリング60とで、下流側シール機構S2が構成されている。なお、上流側及び下流側シールリング40,60を縮径部30,50に外嵌させるために、スクリュ20は、上流側から順に、第1スクリュ部20a、第2スクリュ部20b、及び第3スクリュ部20cに分割されており、これらが縮径部30,50で図示しない螺子によって螺止めされている。
高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との間に配置される縮径部50は、上流側の第2スクリュ部20bから連接し、前方に向かって傾斜するテーパ面を有する円錐台部(シール部)51と、円錐台部51から連接し、軸方向に水平に延びる水平面を有する円筒部52とで構成されている。また、下流側の第3スクリュ部20cの端面54には、下流側シールリング60を回り止めするための係止部として突起部54aが周方向に所定間隔で複数箇所形成されている。なお、縮径部50の構造は、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通及び遮断できるものであれば特に限定されない。例えば、縮径部50は直径の異なる円筒部が連接された構造を有していてもよいし、円錐台部51が下流側に配設された構造を有していてもよい。
図3に示すように、下流側シールリング60は、スクリュ20の縮径部50を外嵌するように貫通孔61を有している。また、図1及び図2に示すように、該貫通孔61は、上流側に、前方に向かって縮径するテーパ面(接触面)を有するテーパ部62と、テーパ部62から前方に向かって水平に延在する環状部63とが連接されて構成されている。このテーパ部62のテーパ面は円錐台部51のテーパ面の少なくとも一部と密着状態で当接するように形成されている。なお、貫通孔61の構造は、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通及び遮断できるものであれば特に限定されない。例えば、貫通孔61は内径の異なる環状部が複数形成された構造を有していてもよいし、テーパ部62が下流側に配設された構造を有していてもよい。さらに、下流側シールリング60がスクリュ20の縮径部50の範囲で軸方向に移動可能なように、貫通孔61の環状部63の内径は上記縮径部50の円筒部52の直径よりも大きく形成されている。そして、下流側シールリング60の下流側リング面66には、被係止部として、下流側から見たときに、時計方向に深くなるように傾斜する切欠き67が周方向に複数箇所形成されている。これにより、下流側シールリング60は、スクリュ20の回転状態に応じて、スクリュ20に対し切欠き67の深さの範囲で軸方向に移動し、突起部54aが切欠き67と係合すると、スクリュ20に対して下流側シールリング60はそれ以上の軸方向の移動が規制される。
従って、スクリュ20に対して下流側シールリング60が下流側に移動すると、円錐台部51のテーパ面とテーパ部62のテーパ面とが離間して、溶融樹脂及び高圧二酸化炭素の湯道となる隙間Gが下流側シールリング60の内周面とスクリュ20の縮径部50の外周面との間で開口する。一方、スクリュ20に対して下流側シールリング60が上流側に移動すると、円錐台部51のテーパ面とテーパ部62のテーパ面とが当接して、下流側シールリング60の内周面とスクリュ20の縮径部50の外周面との間の隙間Gが閉口する。そして、下流側シールリング60が上流側に移動して、突起部54aと切欠き67とが係合すると、下流側シールリング60の移動が規制されるから、下流側シールリング60がスクリュ20と共回りする。これにより、接触混練の間、円錐台部51のテーパ面とテーパ部62のテーパ面との当接状態が維持され、確実に高圧混練ゾーン22をシールすることができる。ただし、可塑化ゾーン21と高圧混練ゾーン22、及び高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とが連通する場合、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とが離間した状態となり、隙間Gには上流側から溶融樹脂あるいはさらに加圧流体が進入してくる。従って、上流側及び下流側シールリング40,60が下流側に移動した場合、上流側及び下流側シールリング40,60がスクリュ20と共回りしなくても、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とが当接し難いため、高圧混練ゾーン22と、隣接するゾーン21,23との連通状態を維持することができる。なお、スクリュ20、並びに上流側及び下流側シールリング40,60にそれぞれ設けられる係止部及び被係止部は、これらが係合したときに、上流側及び下流側シールリング40,60が回り止め状態でスクリュ20と共回りできる構造であれば任意の構造を採用することができる。例えば、係止部あるいは被係止部としてピンが用いられてもよい。また、円錐台部51やテーパ部62の構造に合せて、係止部を第2スクリュ部20bの下流側に、非係止部を下流側シールリング60の上流側に設けてもよい。
下流側シールリング60の外周面には、下流側シールリング60の外周面から突出するように金属製の外側シール部材70が嵌合している。これにより、下流側シールリング60と可塑化シリンダ210との間のシール性が確保される。なお、樹脂製の外側シール部材が用いられてもよい。また、本実施の形態の下流側シールリング60では、図4に示すように、上流側リング面64の外径が対向する上流側の第2スクリュ部20bの直径よりも大きく形成されている。そのため、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを遮断すると、下流側シールリング60は、上流側において、第2スクリュ部20bから径方向で若干突出する態様で配置される。しかしながら、図5に示すように、上流側リング面64の外径は対向する上流側の第2スクリュ部20bの直径と略同一あるいはそれより小さく形成されていてもよい。すなわち、高圧混練ゾーン22では導入口202から高圧の加圧流体が導入されるため、上流側リング面64の外径が対向する上流側の第2スクリュ部20bの直径よりも大きければ、スクリュ20から突出した上流側リング面64が加圧流体による圧力で前方に押され、それによってスクリュ20を正回転させることなく、スクリュ20の回転の停止あるいは逆回転の回転数を低下させることにより、直ちに高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させることができる。一方、上流側リング面64の外径が対向する上流側の第2スクリュ部20bの直径と略同一あるいはそれより小さければ、加圧流体による圧力が上流側リング面64に付与されないから、接触混練時に、より確実に高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを遮断することができる。
なお、上流側シール機構S1の構成は、上記下流側シール機構S2のそれと同様であり、図1及び図2に示すように、可塑化ゾーン21と高圧混練ゾーン22との間に、円錐台部(シール部)31を有する縮径部30が配設されており、第2スクリュ部20bの上流側の端面34には突起部34aが設けられている。また、縮径部30には、上流側シールリング40が縮径部30の範囲で軸方向(前後方向)に移動可能なように遊嵌状態で外嵌している。さらに、上流側シールリング40の貫通孔には、テーパ面(接触面)を有するテーパ部42と、円筒部32の直径よりも大径の環状部43とが形成されている。そして、上流側シールリング40の下流側リング面46には、第2スクリュ部20bの端面34に設けられた突起部34aと係合する切欠き47が周方向に複数箇所形成されている。これにより、下流側シール機構S2と同様に、スクリュ20に対して上流側シールリング40が下流側に移動すると、円錐台部31のテーパ面とテーパ部42のテーパ面とが離間して、上流側シールリング40の内周面と縮径部30の外周面との間の隙間Gが開口する。一方、スクリュ20に対して上流側シールリング40が上流側に移動すると、円錐台部31のテーパ面とテーパ部42のテーパ面とが当接して、上流側シールリング40の内周面と縮径部30の外周面との間の隙間Gが閉口する。そして、突起部34aが切欠き47と係合すると、上流側シールリング40がスクリュ20と共回りする。
次に、上記シール機構S1,S2の動作について混練装置200で行われる工程に従って説明する。図1に示すように、スクリュ20を正回転(反時計回り)させると、上流側及び下流側シールリング40,60はそれぞれ縮径部30,50の範囲を下流側に移動する。これにより、円錐台部31のテーパ面とテーパ部42のテーパ面とが離間して、上流側シールリング40の内周面とスクリュ20の縮径部30の外周面との間の隙間Gが開口し、可塑化ゾーン21及び高圧混練ゾーン22が連通する。そして、突起部34aと切欠き47とが係合すると、上流側シールリング40がスクリュ20と共回りする。これにより、可塑化ゾーン21と高圧混練ゾーン22との連通状態が維持されるため、可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22に円滑に溶融樹脂を送ることができる。
一定量の溶融樹脂が高圧混練ゾーン22に送られると、図2に示すように、回転駆動手段によりスクリュ20を所定回転数以上で逆回転(時計回り)させる。すると、スクリュ20の逆回転に伴って上流側及び下流側シールリング40,60が上流側に移動するため、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とが当接し、上流側及び下流側シールリング40,60の内周面と縮径部30,50の外周面との間に形成されていた隙間Gが閉口する。そして、スクリュ20の突起部34a,54aと、上流側及び下流側シールリング40,60の切欠き47,67とが係合すると、上流側及び下流側シールリング40,60がスクリュ20と共回りする。これにより、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との遮断状態が維持されるから、高圧の加圧流体を高圧混練ゾーン22へ導入しても、溶融樹脂及び加圧流体の高圧混練ゾーン22から隣接するゾーン21,23への流動が防止され、高圧下で、溶融樹脂と加圧流体とを接触混練することができる。
高圧混練ゾーン22と隣接するゾーン21,23とを上流側及び下流側シール機構S1,S2でシールして、溶融樹脂を加圧流体と接触混練させると、次いで、溶融樹脂の樹脂内圧を低下させるために、再度、回転駆動手段によりスクリュ20を正回転させる。すると、突起部34a,54aと、切欠き47,67とが係脱し、スクリュ20の正回転に伴って上流側及び下流側シールリング40,60が下流側に移動するため、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とが離間し、上流側及び下流側シールリング40,60の内周面と縮径部30,50の外周面との間の隙間Gが開口する。これにより、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とが連通し、溶融樹脂の樹脂内圧が低下するため、溶融樹脂からガス化した二酸化炭素が分離して、減圧ゾーン23に設けられたベント口203からガス化した二酸化炭素を排気することができる。なお、既述したように、高圧混練ゾーン22で溶融樹脂と加圧流体とを接触混練した後では、下流側シールリング60は溶融樹脂及び加圧流体の圧力を受けているため、スクリュ20の回転の停止あるいはスクリュ20の逆回転の回転数の低下によっても、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させることができる。
次に、本実施の形態の混練装置200を用いた熱可塑性樹脂成形体の製造方法について具体的に説明する。
本実施の形態の熱可塑性樹脂成形体の製造方法においては、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給し、スクリュ20を回転させることにより、可塑化ゾーン21で熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする可塑化工程がまず行われる。
熱可塑性樹脂としては、目的とする樹脂成形体の種類に応じて種々の樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどの熱可塑性樹脂、及びこれらの複合材料を用いることができる。また、これらの熱可塑性樹脂にガラス繊維、タルク、カーボン繊維などの各種無機フィラーを混練したものを用いることもできる。
次に、高圧混練ゾーン22で、溶融樹脂と、高圧二酸化炭素を含む加圧流体とを接触混練する混練工程が行われる。本実施の形態の混練装置200では、高圧混練ゾーン22と隣接するゾーン21,23とが上流側及び下流側シール機構S1,S2により遮断された状態で、溶融樹脂と加圧流体とを接触混練することができるため、高圧混練ゾーン22からの加圧流体の漏洩が抑えられ、高圧状態を維持したまま加圧流体を溶融樹脂に導入することができる。なお、接触混練時の高圧混練ゾーン22の圧力及び温度は、使用する熱可塑樹脂や加圧流体の種類に応じ、加圧流体が溶融樹脂に良好に分散される範囲で適宜選択することができる。
高圧二酸化炭素としては、液体状態、ガス状態、または超臨界状態の高圧二酸化炭素を用いることができる。これらの高圧二酸化炭素は、人体に無害であり、また溶融樹脂への拡散性に優れ、しかも溶融樹脂から容易に除去可能な、可塑剤、溶媒あるいは相溶化剤として機能する。高圧二酸化炭素の圧力、及び温度は、その目的に応じて適宜選択することができる。例えば、高圧二酸化炭素を可塑剤や相溶化剤として用いる場合、高圧二酸化炭素が低密度となる3〜5MPaの圧力のものを使用することができる。また、機能性材料を利用する場合には、加圧流体中の機能性材料の濃度を高めるために高密度を有する高圧二酸化炭素が好ましく使用される。例えば、機能性材料を用いる場合、圧力を4MPa以上、好ましくは5〜25MPaとし、温度を0℃以上、好ましくは5〜100℃として、0.6g/cm3以上の密度を有する高圧二酸化炭素が好ましく用いられる。
加圧流体は、機能性材料を含有してもよい。機能性材料としては、高圧二酸化炭素に分散でき、得られる成形体に所期の機能を付与できるものであれば特に制限されることなく使用することができる。このような機能性材料としては、具体的には、例えば、各種樹脂のアロイ化を促進させるための相溶化剤、界面活性剤、有機金属錯体、金属アルコキシド、染料、ナノカーボンなどが挙げられる。また、高圧二酸化炭素はそれ自身、低圧でも溶融樹脂に対する可塑剤として機能するが、可塑化効果を促進させるためにアルコールなどの各種溶媒や可塑剤を使用してもよい。機能性材料を用いる場合、加圧流体中の機能性材料の濃度は、使用する機能性材料の種類、目的とする成形体の機能を考慮して適宜選択することができ、特に制限されないが、溶融樹脂への浸透性や加圧流体中の機能性材料の凝集を考慮すれば、好ましくは飽和濃度以下である。
加圧流体は、さらに溶媒を含有してもよい。例えば、水を、高圧二酸化炭素及び水溶性の界面活性剤とともに使用することにより、乳濁液(エマルジョン)として得られる加圧流体を用いることができる。高圧二酸化炭素に溶解する材料は限られているので、このような溶媒を用いることにより、水溶性の材料を、二酸化炭素が持つ樹脂に対する拡散性や相溶性を利用して溶融樹脂に導入することができる。また、水のみを溶融樹脂と接触混練すると、成形体に水分が残留して加水分解などの悪影響が懸念されるが、高圧二酸化炭素とのエマルジョンとして水を溶融樹脂に導入した場合、速やかに二酸化炭素とともに水を溶融樹脂から分離でき、上記のような悪影響を防止できる。さらに、機能性材料を用いる場合、加圧流体は機能性材料を溶解する溶媒を含有してもよい。例えば、有機金属錯体を使用する場合、加圧流体中の有機金属錯体の濃度を高めるため、パーフルオロペンチルアミンなどのフッ素系有機溶媒を用いてもよい。
高圧二酸化炭素を含む加圧流体を調製する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を使用することができる。例えば、シリンジポンプなどの加圧手段により液体二酸化炭素を加圧することにより加圧流体を調製できる。また、高圧二酸化炭素及び機能性材料を含む加圧流体を調製する場合、高圧二酸化炭素と機能性材料とを混合撹拌することによって加圧流体を調製できる。さらに、機能性材料を溶媒に溶解させた溶液を用いる場合、高圧二酸化炭素と、加圧手段により所定圧力まで加圧した溶液とを混合することによって加圧流体を調製できる。
加圧流体を高圧混練ゾーン22に導入する方法は任意の方法を使用することができる。例えば、加圧流体は、高圧混練ゾーン22に間欠的に導入されてもよいし、連続的に導入されてもよい。また、加圧流体の導入は、安定な送液が行えるシリンジポンプを利用し、導入量を制御することが好ましい。シリンジポンプを用いて加圧流体を導入する場合、高密度でも安定な液体状態の高圧二酸化炭素が好ましく使用される。
次に、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させ、加圧流体と接触混練させた溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、溶融樹脂からガス化した二酸化炭素を分離する分離工程が行われる。本実施の形態では、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とをスクリュ20の回転状態に応じて連通させるシール機構S2が用いられているから、高圧混練ゾーン22の圧力に依存せず、速やかに溶融樹脂に導入した加圧流体中の高圧二酸化炭素をガス化でき、ガス化した二酸化炭素を可塑化シリンダ210外に排気することができる。減圧ゾーン23の圧力は、高圧混練ゾーン22の圧力よりも低ければ、樹脂内圧が低減されるため、特に制限されない。なお、ガス化した二酸化炭素を効率的に排気するために、真空ポンプを用いてもよい。
また、溶融樹脂からガス化した二酸化炭素を分離するにあたっては、溶融樹脂を減圧ゾーン23に送りながら二酸化炭素を分離してもよいし、溶融樹脂を高圧混練ゾーン22に滞留させた状態で、二酸化炭素を分離してもよい。すなわち、本実施の形態の混練装置200では、スクリュ20の回転状態に応じて高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通及び遮断する下流側シール機構S2が設けられているから、溶融樹脂が減圧ゾーン23に送られなくても、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させれば、高圧混練ゾーン22に溶融樹脂を滞留させた状態で、該溶融樹脂の樹脂内圧を低下でき、それによって高圧混練ゾーン22の高圧二酸化炭素の一部がガス化し、ガス化した二酸化炭素を減圧ゾーン23から排気することができる。例えば、スクリュ20を逆回転させて溶融樹脂が前方に送られない状態でスクリュ20の回転数を制御し、円錐台部51のテーパ面とテーパ部62のテーパ面とを離間させることにより、隙間Gを僅かに開口させればよい。これにより、高圧二酸化炭素の濃度の低くなった高圧混練ゾーン22の溶融樹脂に再度、加圧流体を接触させて、加圧流体を溶融樹脂にさらに導入することができる。しかも、高圧混練ゾーン22の圧力が可塑化ゾーン21における樹脂内圧よりも高い場合、上流側シール機構S1が可塑化ゾーン21と高圧混練ゾーン22とを遮断する方向に移動しやすくなるため、可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22への新たな溶融樹脂の流動が抑えられるとともに、加圧流体の可塑化ゾーン21への漏洩も防止することができる。従って、本実施の形態の混練装置200を用いた製造方法によれば、高圧混練ゾーン22に溶融樹脂を滞留させた状態で混練工程及び分離工程を繰り返し行うことができる。これにより、例えば、機能性材料を含む加圧流体を用いる場合、高圧二酸化炭素への溶解度が低い機能性材料であっても、高濃度で機能性材料が分散された熱可塑性樹脂成形体を得ることができる。このとき、既述したように、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通及び遮断を繰り返すために、スクリュ20の正回転と逆回転とを小刻みに繰り返してもよいし、スクリュ20の所定回転数以上の逆回転と、スクリュ20の回転の停止あるいはスクリュ20の逆回転の回転数の低下とを小刻みに繰り返してもよい。
ガス化した二酸化炭素が溶融樹脂から分離されると、溶融樹脂はスクリュ20の先端部に送られる。そして、可塑化シリンダ210の先端部から射出される溶融樹脂を所望の形状に成形する成形工程が行われる。本実施の形態で使用される成形工程としては、目的とする成形体の種類に応じて、従来公知の射出成形法や押出成形法を使用できる。射出成形法を利用する場合、可塑化計量が終了した後、可塑化シリンダ210の後端部に接続された移動手段によりスクリュ20を前進させ、所定の内部形状を有する金型内に溶融樹脂を射出充填することにより熱可塑性樹脂成形体を製造することができる。また、押出成形法を利用する場合、可塑化シリンダ210から所定の内部形状を有する押出ダイに溶融樹脂を射出することにより、例えば、ペレット状、チューブ状、シート状など形状を有する成形体を製造することができる。
以下、実施例に基づきさらに具体的に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例では、上流側及び下流側シール機構S1,S2として図4の形態を有するシール機構を備えた混練装置200を用いて、機能性材料を分散させた熱可塑性樹脂成形体を射出成形により製造した。熱可塑性樹脂としてはガラス繊維が30質量%添加されたナイロン6(東レ製,アミランCM1011G30)を、機能性材料としては有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II)を、溶媒としてはパーフルオロペンチルアミンを用いた。なお、1ショットごとの溶融樹脂の質量に対し、二酸化炭素の濃度が約2質量%、有機金属錯体の濃度が約100ppmとなるように導入量を調整した。
図6は、本実施例で使用した成形機を示す概略断面図である。図6に示すように、この成形機1000は、高圧二酸化炭素と有機金属錯体をフッ素系有機溶媒に溶解させた溶液Cとを混合して加圧流体を調製し、該調製された加圧流体を可塑化シリンダ210に供給する加圧流体供給装置100と、既述した混練装置200と、金型を有する射出成形装置250とを備えている。これら加圧流体供給装置100、混練装置200、及び射出成形装置250は図示しない制御装置で動作制御される。
加圧流体供給装置100は、液体二酸化炭素ボンベ101と、液体二酸化炭素を所定の圧力に加圧して高圧二酸化炭素を供給するための二酸化炭素用シリンジポンプ102と、有機金属錯体を溶媒に溶解した溶液Cを調製するための溶液槽111と、溶液Cを所定の圧力に加圧し、送液するための溶液用シリンジポンプ112とを備えている。液体二酸化炭素ボンベ101と二酸化炭素用シリンジポンプ102とを接続する配管及び二酸化炭素用シリンジポンプ102と可塑化シリンダ210とを接続する配管にはそれぞれ、吸引用エアオペレートバルブ104及び供給用エアオペレートバルブ105が配設されている。また、溶液槽111と溶液用シリンジポンプ112とを接続する配管及び溶液用シリンジポンプ112と可塑化シリンダ210とを接続する配管にはそれぞれ、吸引用エアオペレートバルブ114及び供給用エアオペレートバルブ115が配設されている。
加圧流体を調製する場合、まず、吸引用エアオペレートバルブ104を開放して、液体二酸化炭素ボンベ101から液体二酸化炭素を吸引する。次に、二酸化炭素用シリンジポンプ102の圧力制御により所定圧力まで液体二酸化炭素を加圧する。本実施例では、圧力が10MPa、温度が10℃の高圧二酸化炭素を供給した。
一方、溶液用シリンジポンプ112側の吸引用エアオペレートバルブ114を開放して、溶液槽111から溶媒に有機金属錯体を溶解させた溶液Cをフィルタ113を介して常温で吸引し、溶液用シリンジポンプ112の圧力制御により所定圧力まで溶液Cを加圧する。本実施例では、溶液Cを10MPaに加圧した。
次に、供給用エアオペレートバルブ105,115を開放した後、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112を圧力制御から流量制御に切替え、高圧二酸化炭素と加圧した溶液Cとを所定の流量比となるように流動させる。これにより、配管内で高圧二酸化炭素と溶液Cとが混合される。本実施例では、高圧二酸化炭素と溶液Cとの供給容積比を5:1に設定した。なお、高圧二酸化炭素と溶液Cとの容積比が一定範囲(1:1〜10:1)の加圧流体を用いれば、混練工程において高圧二酸化炭素により有機金属錯体の熱分解を防止でき、また高圧二酸化炭素を溶融樹脂への有機金属錯体の分散を補助する相溶化剤として機能させることができる。
一方、混練装置200において、樹脂供給用ホッパ211から供給された熱可塑性樹脂は、可塑化シリンダ210の外壁面に設けられたバンドヒータ(図示せず)で可塑化シリンダ210を加熱し、スクリュ20を正回転することにより混練され、溶融される。本実施例では、樹脂温度が210〜240℃となるように可塑化シリンダ210を加熱した。
溶融樹脂が高圧混練ゾーン22に送られると、高圧混練ゾーン22と、減圧ゾーン23及び可塑化ゾーン21とを遮断するため、可塑化計量完了位置よりも20mm手前(金型側位置)でスクリュ20の回転を一旦停止した後、スクリュ20を逆回転させた(回転数:50rpm)。これにより、上流側及び下流側シールリング40,60を上流側に移動させて、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とを当接させ、さらに上流側及び下流側シールリング40,60をスクリュ20と共回りさせることにより、上流側及び下流側シールリング40,60の内周面とスクリュ20の外周面との間の隙間Gを閉口し、高圧混練ゾーン22と、減圧ゾーン23及び可塑化ゾーン21とを遮断した。
図6に示すように、可塑化シリンダ210の導入口202には、加圧流体を導入するための導入バルブ212が設けられている。この導入バルブ212は、可塑化シリンダ210の導入口202と連結された基端部に流体供給口218を有するとともに、内部に導入ピストン217を有している。従って、導入ピストン217で流体供給口218を開放することによって、加圧流体供給装置100から可塑化シリンダ210に加圧流体が導入される。本実施例では、上流側及び下流側シール機構S1,S2によって高圧混練ゾーン22をシールした後、加圧流体が高圧混練ゾーン22に1秒間滞留するように、流量制御にてショットごと間欠的に加圧流体を導入し、溶融樹脂と加圧流体とを接触混練した。加圧流体の導入前の樹脂内圧は0.1MPaであり、加圧流体の導入後の接触混練時の樹脂内圧は1〜8MPaであった。なお、バネ圧によって開閉するポペット弁をスクリュ内に設けた従来の混練装置を用い、同一の可塑化計量条件で成形を行った場合、加圧流体の導入前の樹脂内圧は8MPa、接触混練時の樹脂内圧は13〜14MPaであった。従って、本実施例の混練装置は従来のシール機構を有する混練装置に比べて低圧で溶融樹脂を可塑化計量することができ、高い可塑化能力を有していることが確認された。
可塑化シリンダ210のベント口203は、バッファ容器219を介して真空ポンプ220と排気管で接続されている。従って、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させ、真空ポンプ220を作動させることにより、可塑化シリンダ210の内部が減圧される。本実施例では、加圧流体を高圧混練ゾーン22に滞留させた後、スクリュ20の逆回転の回転数を低下させて(回転数:30rpm)、上流側及び下流側シールリング40,60を元の下流側の位置に戻し、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とを離間させ、上流側及び下流側シールリング40,60の内周面とスクリュ20の外周面との間の隙間Gを開口させて、ガス化した二酸化炭素をベント口203から排気した。このとき、ベント口203から樹脂のベントアップは生じなかった。
次いで、スクリュ20を正回転に戻し、溶融樹脂をスクリュ20の先端部に送り、可塑化計量を完了させてキャビティ253内に溶融樹脂を射出充填した。得られた成形体は茶色に着色されていたことから、有機金属錯体が溶融樹脂に導入されたことが確認された。また、成形体に有機金属錯体が良好に分散されていることを確認するため、得られた成形体にめっき処理を行った。めっき処理は、まず、成形体の表面を膨潤させるため、1,3−ブタンジオールを50体積%含む80℃の水溶液に5分間、成形体を浸漬させた。次いで、この成形体に汎用のNiP無電解めっき処理を施して全面に金属膜を形成した。さらに、金属膜上に、連続して順に、20μmの電解銅めっき膜、10μmの電解ニッケルめっき膜、及び0.5μmの電解クロムめっき膜を形成した。得られためっき品を、120℃で1時間保持した後、−40℃で1時間保持するサイクルを100サイクル繰り返す熱衝撃試験に供した。試験後、目視により外観検査を行った。その結果、めっき膜に膨れや割れは発生せず、密着性に優れるめっき膜が形成されていることが確認された。
また、上記の成形を繰り返し、1000ショット目の接触混練時の高圧混練ゾーン22の樹脂内圧を測定したところ、1〜8MPaであり、1ショット目の圧力と同一の圧力であった。従って、本実施例によれば、長期に安定して熱可塑性樹脂成形体を製造できることが確認された。
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様の混練装置200及び成形機1000を用いて、機能性材料を分散させた熱可塑性樹脂成形体を射出成形により製造した。熱可塑性樹脂としては非晶性ナイロン(ジャパンンエムスケミー製,グリボリTR55)を、機能性材料としては抗菌剤であるヘプタフルオロ酪酸銀塩(I)を、溶媒としてはエタノールを用いた。なお、1ショットごとの溶融樹脂の質量に対し、二酸化炭素の濃度が約6質量%、抗菌剤の濃度が400ppmとなるように導入量を調整した。
まず、実施例1と同様にして加圧流体供給装置100で加圧流体を調製するとともに、混練装置200で熱可塑性樹脂を溶融した。溶融樹脂が高圧混練ゾーン22に送られると、実施例1と同様にして、スクリュ20を一旦停止した後、スクリュ20を逆回転(回転数:50rpm)させて、上流側及び下流側シールリング40,60を上流側に移動させ、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とを当接させて、高圧混練ゾーン22と、減圧ゾーン23及び可塑化ゾーン21とを遮断した。
次いで、本実施例では、流量制御にて加圧流体を連続的に導入しながら、スクリュ20の逆回転の回転数を低下させて(回転数:20rpm)、上流側及び下流側シールリング40,60を僅かに下流側に移動させることにより、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とを離間させた。これにより上流側及び下流側シールリング40,60の内周面とスクリュ20の外周面との間の隙間Gを僅かに開口させ、ガス化した二酸化炭素を排気した。さらに、スクリュ20の逆回転の回転数を小刻みに変化させることにより(回転数:20〜50rpm)、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通及び遮断を繰り返した。このとき、高圧混練ゾーン22の樹脂内圧は、5〜10MPaの範囲で変動した。また、ベント口203から樹脂のベントアップは生じなかった。
次いで、実施例1と同様にして、スクリュ20を正回転に戻し、溶融樹脂をスクリュ20の先端部に送り、可塑化計量を完了させてキャビティ253内に溶融樹脂を射出充填した。得られた成形体について、黄色ブドウ球菌及び大腸菌を用い、統一試験法(JIS
Z 2911)で抗菌評価を行った。その結果、成形体は高い抗菌作用を有しており、成形体に抗菌剤が良好に分散されていることが確認された。従って、本実施例によれば、高圧混練ゾーン22の樹脂内圧が過剰に高くなることを抑制しつつ、溶融樹脂と加圧流体とを繰り返し接触混練することができる。また、上流から高圧混練ゾーン22への溶融樹脂の供給が抑制された状態においても、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とを連通させることにより、高圧混練ゾーン22の高圧二酸化炭素の一部がガス化し、ガス化した二酸化炭素を減圧ゾーン23から排気することができる。これにより、高圧二酸化炭素及び機能性材料を含む加圧流体を用いる場合、減圧ゾーン23近傍の高圧混練ゾーン22では、減圧により高圧二酸化炭素に不溶となった機能性材料を溶融樹脂の内部に残存させていくことができる。従って、溶融樹脂と加圧流体との繰り返しの接触混練により機能性材料を高濃度で溶融樹脂に導入することができる。
また、上記の成形を繰り返し、1000ショット目の接触混練時の高圧混練ゾーン22の樹脂内圧を測定したところ、5〜10MPaであり、1ショット目の圧力と同一の圧力であった。従って、本実施例によれば、長期に安定して熱可塑性樹脂成形体を製造できることが確認された。
(実施例3)
本実施例では、上流側及び下流側シール機構S1,S2として図5の形態を有するシール機構を備えた混練装置200及び図6に示す成形機1000を用い、機能性材料を分散させた熱可塑性樹脂成形体を射出成形により製造した。また、熱可塑性樹脂、機能性材料、及び溶媒は実施例1と同様のものを用い、二酸化炭素及び機能性材料の導入量も実施例1と同様に調整した。
まず、実施例1と同様にして加圧流体供給装置100で加圧流体を調製するとともに、混練装置200で熱可塑性樹脂を溶融した。溶融樹脂が高圧混練ゾーン22に送られると、スクリュ20の回転を一旦停止した後、スクリュ20を逆回転させて、上流側及び下流側シールリング40,60を上流側に移動させた。これにより、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とを当接させ、高圧混練ゾーン22と、減圧ゾーン23及び可塑化ゾーン21とを遮断した。
次いで、本実施例では、加圧流体が高圧混練ゾーン22に1秒間滞留するように、流量制御にて間欠的に加圧流体を導入し、溶融樹脂と加圧流体とを接触混練した後、スクリュ20を正回転に戻し、上流側及び下流側シールリング40,60を下流側に移動させることにより、円錐台部31,51のテーパ面とテーパ部42,62のテーパ面とを離間させ、上流側及び下流側シールリング40,60の内周面とスクリュ20の外周面との間の隙間Gを開口した。接触混練時の樹脂内圧は1〜8MPaであった。そして、溶融樹脂を減圧ゾーン23に送りながらガス化した二酸化炭素を排気した後、実施例1と同様にして、可塑化計量を完了させてキャビティ253内に溶融樹脂を射出充填した。得られた成形体を用いて、実施例1と同様にして、めっき品を作製したところ、密着性に優れるめっき膜が形成されていることが確認された。
また、上記の成形を繰り返し、1000ショット目の接触混練時の高圧混練ゾーン22の樹脂内圧を測定したところ、1〜8MPaであり、1ショット目の圧力と同一の圧力であった。従って、本実施例によれば、長期に安定して熱可塑性樹脂成形体を製造できることが確認された。
以上詳細に本発明を説明したが、上記の実施の形態から本発明について要約すると、以下のようになる。
本発明の一局面は、可塑化シリンダと、前記可塑化シリンダ内を回転及び進退自在に配設されたスクリュとを備え、前記可塑化シリンダ内で、熱可塑性樹脂が可塑化された溶融樹脂と高圧二酸化炭素を含む加圧流体とを接触混練する高圧混練ゾーンと、樹脂内圧を減圧することにより、前記加圧流体が接触混練された溶融樹脂からガス化した二酸化炭素を分離する減圧ゾーンとが上流側からこの順に隣接して形成される混練装置であって、
前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとの間に、前記スクリュの回転状態に応じて前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとを連通及び遮断する下流側シール機構を備える。
上記混練装置によれば、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとの間に、スクリュの回転状態に応じて高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとを連通及び遮断する下流側シール機構が設けられており、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとの間でバネによる反力が生じないから、高い可塑化能力を得ることができる。また、下流側シール機構がスクリュの回転状態に応じて高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとを連通及び遮断するから、長期使用によってもシール性能が劣化することもない。
上記下流側シール機構は、前記スクリュの逆回転により、前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとを遮断してもよい。また、上記下流側シール機構は、前記スクリュの正回転、前記スクリュの回転の停止、または前記スクリュの逆回転の回転数の低下のいずれかによって、前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとを連通してもよい。
上記混練装置によれば、スクリュの回転状態に応じて、所望のタイミングで高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとを連通及び遮断することができる。
好ましくは、上記混練装置において、
前記下流側シール機構は、前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとの間に配置され、シール部を有する前記スクリュの縮径部と、前記スクリュの縮径部に軸方向で移動可能に外嵌し、前記シール部と当接する接触面を有するシールリングとを備えており、
前記スクリュの回転状態に応じて、前記縮径部のシール部と前記シールリングの接触面とが離間すると、前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとが連通し、前記縮径部のシール部と前記シールリングの接触面とが当接すると、前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとが遮断する。
上記混練装置によれば、スクリュの縮径部のシール部とシールリングの接触面とがスクリュの回転状態に応じて離間及び当接することにより、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとを連通及び遮断することができる。
好ましくは、上記混練装置において、
前記スクリュは、係止部を備え、前記シールリングは、前記スクリュの係止部と係合及び係脱する被係止部を備えており、
前記スクリュが所定回転数以上で逆回転している場合に、前記スクリュの係止部と前記シールリングの被係止部とが係合し、前記スクリュと前記シールリングとが共回りすることにより、前記縮径部のシール部と前記シールリングの接触面との当接状態が維持される。
上記混練装置によれば、スクリュが所定回転数以上で逆回転している間、シールリングとスクリュとが係合状態で共回りするから、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとを確実に遮断することができる。また、スクリュの回転数に応じて、高圧混練ゾーンと減圧ゾーンとを連通及び遮断することができる。
上記可塑化シリンダ内で、前記高圧混練ゾーンの上流側に隣接して、前記熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする可塑化ゾーンが形成される場合、
好ましくは、上記混練装置は、前記可塑化ゾーンと前記高圧混練ゾーンとの間に、前記スクリュの回転状態に応じて前記可塑化ゾーンと前記高圧混練ゾーンとを連通及び遮断する上流側シール機構を備える。
上記混練装置によれば、高圧混練ゾーンの上流側にも可塑化ゾーンと高圧混練ゾーンとを連通及び遮断する上流側シール機構が設けられているから、さらに高圧混練ゾーンのシール性を高めることができる。
また、本発明の他の局面は、上記に記載の混練装置を用いる熱可塑性樹脂成形体の製造方法であって、
前記下流側シール機構で前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとを遮断し、高圧下、前記溶融樹脂と前記加圧流体とを接触混練する混練工程と、
前記下流側シール機構で前記高圧混練ゾーンと前記減圧ゾーンとを連通させ、前記加圧流体が接触混練された溶融樹脂の樹脂内圧を低下させて、前記加圧流体が接触混練された溶融樹脂からガス化した二酸化炭素を分離する分離工程とを有する。
上記製造方法によれば、混練工程では、高圧混練ゾーンの高いシール性を確保した状態で溶融樹脂と加圧流体とを接触混練することができる。また、分離工程では、速やかに樹脂内圧を低下でき、円滑にガス化した二酸化炭素を溶融樹脂から分離し、排気することができる。
好ましくは、上記熱可塑性樹脂成形体の製造方法において、
前記高圧混練ゾーンに前記溶融樹脂を滞留させた状態で、前記混練工程及び前記分離工程が複数回繰り返されてもよい。
上記製造方法によれば、分離工程により高圧二酸化炭素の濃度の低くなった溶融樹脂と加圧流体とを繰り返し接触混練することができる。そのため、溶融樹脂に対する高圧二酸化炭素の溶解度が低くても、多量の高圧二酸化炭素を溶融樹脂に導入することができる。また、機能性材料を含む加圧流体を用いる場合、多量の機能性材料を溶融樹脂に導入することができる。
上記製造方法において、前記加圧流体は、機能性材料を含んでもよい。上記製造方法によれば、機能性材料が良好に分散された熱可塑性樹脂成形体を製造することができる。
以上のように、本発明によれば、高圧二酸化炭素を含む加圧流体を可塑化シリンダに導入し、可塑化シリンダ内で加圧流体と熱可塑性樹脂を可塑化した溶融樹脂とを接触混練して熱可塑性樹脂を製造する場合に、高い可塑化能力が得られるとともに、長期に渡って安定に熱可塑性樹脂成形体を製造することができる混練装置、及び熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
以上、実施の形態、及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態、及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。