[ポリ乳酸樹脂組成物中の成分]
ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸とコアシェルゴムとを必須成分とする熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂は更にポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PMMA樹脂などの樹脂を含んでもよい。ポリ乳酸樹脂組成物は更に充填材、着色材、その他の成分を含有してもよい。以下、ポリ乳酸樹脂組成物が含有し得る成分について説明する。
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸としては、乳酸の単独重合体と、乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸との共重合体とが挙げられる。ポリ乳酸は乳酸がポリマー化することで得られる。乳酸は、例えばトウモロコシなどの植物に由来するデンプンが発酵することで得られる。
乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、乳酸の二量体であるラクトン等が挙げられる。
乳酸と共重合可能な乳酸以外のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。これらのヒドロキシカルボン酸は、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
ポリ乳酸は、L−乳酸の重合体であるポリ−L−乳酸と、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸との少なくとも一方を含んでいることが好ましい。特にポリ乳酸がステレオコンプレックス型ポリ乳酸のみからなり、或いはポリ−L−乳酸とステレオコンプレックス型ポリ乳酸のみからなる場合には、外観並びに耐水性、耐衝撃性等の特性が非常に優れた成形品が得られる。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、光学異性体であるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを含有し、これらが対となることでステレオコンプレックス結晶を生成している(Macromolecules 1987,20,904−906参照)。このステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸と比較して格段に高い融点を有する結晶性樹脂であり、ポリ−L−乳酸よりも格段に優れた特性が期待できる。
ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は、実質的にそれぞれ下記式[化1]で表されるL−乳酸単位及びD−乳酸単位からなる。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を構成するポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。L−乳酸以外の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。ポリ−D−乳酸を構成するD−乳酸単位及び乳酸以外の単位の割合は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を構成するポリ−D−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。D−乳酸以外の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。ポリ−D−乳酸を構成するL−乳酸単位及び乳酸以外の単位の割合は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
乳酸以外の単位としては、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位、及びこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドを付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を形成し得る。ポリ−L−乳酸の重量平均分子量は、好ましくは15万〜21万である。ポリ−D−乳酸の重量平均分子量は、好ましくは13万〜16万である。このような範囲において、ステレオコンプレックス化が容易となり、より高い分子量で均一なステレオコンプレックスが形成され易くなる。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を構成するポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は、公知の方法で製造される。例えば、L−またはD−ラクチドが金属重合触媒の存在下、加熱されて開環重合することで製造される。また、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸が結晶化した後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱されて固相重合することによっても製造される。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸が脱水縮合する直接重合法によっても、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸が製造される。
重合反応は、従来公知の反応容器を用いて実施可能である。反応容器として、例えばヘリカルリボン翼等の高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器が単独で使用され、または複数が併用される。反応容器は回分式、連続式、半回分式のいずれでもよいし、これらの方式が組み合わされていてもよい。
重合開始剤としてアルコールが用いられてもよい。このアルコールは、ポリ乳酸の重合を阻害せず且つ不揮発性であることが好ましい。アルコールとして、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどが用いられることが好ましい。
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られる、比較的低分子量の乳酸ポリエステルが、プレポリマーとして使用される。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に保持されることで予め結晶化されることが、融着防止の面から好ましい。この結晶化されているプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との割合は、質量比で90:10〜10:90の範囲であることが好ましく、75:25〜25:75の範囲であればより好ましく、60:40〜40:60の範囲であれば更に好ましく、またこの割合が50:50に近いほど好ましい。
また、このステレオコンプレックス型ポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万の範囲であることが好ましく、10万〜30万の範囲であれば更に好ましい。この重量平均分子量は、溶媒(移動相)としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸からなりステレオコンプレックス結晶を形成していることが好ましい。ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。本発明でいうステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
また、このステレオコンプレックス型ポリ乳酸のステレオ化度は、90%以上であることが好ましく、100%であれば更に好ましい。ステレオ化度(S)は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって下記式によって決定することができる。
S=[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHmsはステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmhはホモ結晶の融解エンタルピーである。)
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、例えばポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが所定の質量比で共存する状態で混合されることで得られる。混合は溶媒の存在下でおこなわれる。この溶媒としては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するのであれば特に制限されないが、例えばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。これらの溶媒は一種のみ用いられ、或いは複数種が併用される。
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが溶媒の非存在下で混合されることでステレオコンプレックス型ポリ乳酸が得られてもよい。この場合、例えばポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを溶融混練する方法や、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のうち一方を溶融させた後、これに他方を加えて混練する方法などが、採用される。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸として、ポリ−L−乳酸セグメントとポリ−D−乳酸セグメントが結合している構造を有するステレオブロックポリ乳酸も、好適に用いられる。ステレオブロックポリ乳酸が前記のような基本的構成を有するブロック共重合体であれば、ステレオブロックポリ乳酸の製造方法は特に制限されない。ステレオブロックポリ乳酸の製造方法としては、ポリ−L−乳酸セグメントとポリ−D−乳酸セグメントが分子内で結合している構造を有するブロック重合体である。このようなブロック重合体は、たとえば、逐次開環重合によって製造する方法、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を重合しておいて後で鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法などが挙げられる。但し、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、及び固相重合法によって得られるステレオブロック重合体は、製造が容易である点で好ましい。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸には、ステレオ化度の向上のために、特定の添加物が添加されることが好ましい。この添加物の好ましい例として、下記式[化2]に示されるリン酸金属塩が挙げられる。
式中、R5は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。R6乃至R9はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を示す。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
M1はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を示す。M1として、Na、K、Al、Mg、Caが挙げられ、特に、K、Na、Alを好適に用いることができる。nは、M1がアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0であり、M1がアルミニウム原子のときは1または2である。
これらのリン酸金属塩は、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸に対して、好ましくは質量割合で10ppmから2%、より好ましくは50ppmから0.5%、さらに好ましくは100ppmから0.3%用いることが好ましい。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
また、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性の向上のために、ポリ乳酸にさらにケイ酸カルシウムが添加されることが好ましい。ケイ酸カルシウムは六方晶結晶を含むことが好ましく、ケイ酸カルシウムの粒子径は小さい方が好ましい。例えば、ケイ酸カルシウムの平均一次粒子径が0.2〜0.05μmの範囲であるとケイ酸カルシウムがポリ乳酸樹脂組成物に適度に分散して、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性が良好になる。また、添加量はポリ乳酸樹脂組成物を基準として、0.01〜1質量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましいのは0.05〜0.5質量%の範囲である。多すぎる場合には成形品の外観が悪くなりやすく、少なければ特段の効果を示さない。
また、ポリ乳酸樹脂組成物に対する、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸のカルボキシル末端基濃度は15eq/ton以下であることが好ましい。この範囲内にある時には、溶融安定性、湿熱耐久性が良好な組成物が得られる。このカルボキシル末端基濃度が15eq/ton以下となるためには、具体的には、ポリエステルにおける公知のカルボキシル末端基濃度の低減方法がいずれも採用される。このカルボキシル末端基濃度の低減方法としては、例えばステレオコンプレックス型ポリ乳酸に末端封止剤を添加する方法が挙げられ、具体的には、オキサゾリン類、エポキシ化合物等を添加する方法や、モノカルボジイミド類、ジカルボジイミド類、ポリカルボジイミド類などの縮合剤を添加する方法などが挙げられる。また、カルボキシル末端基濃度の低減方法として、末端封止剤や縮合剤を添加せずに、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸をアルコール、アミンなどによってエステル化またはアミド化する方法も挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物がステレオコンプレックス型ポリ乳酸を含有する場合、ポリ乳酸樹脂組成物全量に対するステレオコンプレックス型ポリ乳酸の含有量は50質量%以上であることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物から形成される成形品の引張り強度や引張り弾性率等の剛性が著しく改善される。また、この含有量は98質量%以下であることが好ましく、この場合、成形品の耐水性が向上する。
ポリ乳酸としてポリ−L−乳酸が用いられる場合、ポリ−L−乳酸としては、上記ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の製造に用いられるポリ−L−乳酸が使用され得る。またポリ−L−乳酸として、市販品が適宜使用され得る。ステレオコンプレックス型ポリ乳酸とポリ−L−乳酸とが併用される場合の、ポリ−L−乳酸の含有量は、ポリ乳酸樹脂全量に対して30質量%以下であることが好ましい。この含有量が30質量%を超えると、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を含有することによる成形品の剛性の改善が充分に達成されなくなるおそれがある。このポリ−L−乳酸の分子量は特に制限されないが、物理的、熱的特性の向上の観点からは、ポリ−L−乳酸の重量平均分子量が1万以上であることが好ましい。3万以上であればより好ましい。
ポリ乳酸としてポリ−L−乳酸が使用される場合には、特にメルトフローインデックス(MFI)1〜10g/10分のポリ−L−乳酸が使用されることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性(流動性)が特に向上する。このようなMFIを有するポリ−L−乳酸として、例えばネイチャーワークス社、海生生物社などから提供されている市販品が使用され得る。
ポリ乳酸樹脂組成物全体に対するポリ乳酸の含有量は1〜99質量%の範囲であることが好ましい。更に成形品の機械的強度向上の観点、並びに石油資源の使用量削減の観点からは、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量は25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であれば更に好ましく、55質量%以上であれば特に好ましい。また成形品の耐水性(耐加水分解性)を維持する観点からは、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量は98質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であれば更に好ましく、86.5質量%以下であれば特に好ましい。
(コアシェルゴム)
コアシェルゴムは多層構造の重合体であって、重合体で構成される最内層(コア層)と、コア層を覆い且つコア層とは異種の重合体から構成される1以上の層(シェル層)とを有する。コアシェルゴムとしては、例えばゴム状重合体の存在下で、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体などの単量体が重合してなる樹脂が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物全体に対するコアシェルゴムの含有量は、1〜99質量%の範囲であることが好ましい。成形品の耐水性向上の観点からは、この含有量は特に3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であれば更に好ましい。また、ポリ乳酸樹脂組成物の流動性を向上してポリ乳酸樹脂組成物の成形性、加工性、取り扱い性等を向上する観点からは、コアシェルゴムの含有量は98.5質量%以下であることが好ましく、95.5質量%以下であればより好ましく、20質量%以下であれば更に好ましい。
コアシェルゴムについて、更に詳細に説明する。
コアシェルゴムとして、Siを含有するコアシェルゴムが挙げられる。Siを含有するコアシェルゴムが使用される場合、成形品の難燃性が更に向上する。Siを含有するコアシェルゴムには、コア層がSiを含む重合体から構成されているポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体とエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのうちの、少なくとも一方が含まれていることが好ましく、特にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が含まれていることが好ましい。
Siを含有するコアシェルゴムとして、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムなどが挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物がポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を含有すると、成形品の難燃性と耐衝撃性とが特に向上する。ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、次の(X)〜(Z)成分から得られる;
(X)ポリオルガノシロキサン粒子;
(Y)第1のビニル系単量体;
(Z)第2のビニル系単量体。
(Y)成分は、下記(Y−1)成分のみからなり、或いは下記(Y−1)成分及び(Y−2)成分からなると共にこれらの成分を下記の割合で含む;
(Y−1)多官能性単量体100〜50質量%;
(Y−2)その他の共重合可能な単量体0〜50質量%。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分40〜90質量部の存在下で、(Y)成分0.5〜10質量部を重合し、更に、(Z)成分5〜50質量部を重合して得られる。前記の各成分の量は、(X)〜(Z)成分の合計量を100質量部とした場合の値である。
(X)成分は、トルエン不溶分量((X)成分0.5gをトルエン80mlに室温で24時間浸漬した場合のトルエン不溶分量)が95質量%以下、さらには50質量%以下、特には20質量%以下であることが、成形品の難燃性、耐衝撃性の向上のために好ましい。
(X)成分の具体例としては、ポリジメチルシロキサン粒子、ポリメチルフェニルシロキサン粒子、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体粒子などが挙げられる。これらのうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
(X)成分の一部又は全部は、ポリオルガノシロキサン以外の重合体を含む変性ポリオルガノシロキサンの粒子であってもよい。ポリオルガノシロキサン以外の重合体の具体例としては、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体などが挙げられる。(X)成分中のポリオルガノシロキサン以外の重合体の含有量は低い方が好ましく、特に含有量が5質量%以下であることが好ましい。特に(X)成分が実質的にポリオルガノシロキサンのみからなる粒子であることが、成形品の難燃性向上のために好ましい。
(X)成分の平均粒子径は特に制限されないが、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められる数平均粒子径が0.008〜0.6μmであることが好ましく、0.01〜0.2μmであれば更に好ましく、0.01〜0.15μmであれば特に好ましい。この数平均粒子径が小さすぎる場合は(X)成分の生産が困難であり、逆に大きすぎると成形品の難燃性を充分に向上することができないおそれがある。成形品の外観の向上のためには、(X)成分の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/数平均粒子径(%))が10〜100%の範囲であることが好ましく、20〜60%であれば更に好ましい。
(X)成分の製造にあたってのモノマーの組み合わせとしては、オルガノシロキサンの単独重合;2官能シラン化合物の単独重合;オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との共重合;オルガノシロキサンとビニル系重合性基含有シラン化合物との共重合;2官能シラン化合物とビニル系重合性基含有シラン化合物との共重合;オルガノシロキサン、2官能シラン化合物及びビニル系重合性基含有シラン化合物、或いは更にこれらの化合物と3官能以上のシラン化合物の共重合等が、挙げられる。
前記各化合物のうち、オルガノシロキサン又は2官能シラン化合物は、ポリオルガノシロキサン鎖の主骨格を構成する成分である。
オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(a)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(b)、デカメチルシクロペンタシロキサン(c)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(d)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(e)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(f)等が挙げられる。
2官能シラン化合物としては、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
特に経済性及び成形品の難燃性向上の観点から、(X)成分の製造に使用されるモノマー中の、(b)成分、(a)〜(e)成分の混合物、又は(a)〜(f)成分の混合物の割合が、70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることが更に好ましい。残余の部分は、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が0〜30質量%を占めることが好ましく、0〜20質量%を占めることが更に好ましい。
ビニル系重合性基含有シラン化合物は、オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、3官能以上のシラン化合物などと共重合し、これにより共重合体の側鎖または末端にビニル系重合性基が導入される。このビニル系重合性基は、後述する(Y)成分または(Z)成分から形成されるビニル系(共)重合体と化学結合する際のグラフト活性点として作用する。更にこのビニル系重合性基含有シラン化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下でグラフト活性点間をラジカル反応により架橋結合させ得る。すなわちビニル系重合性基含有シラン化合物は架橋剤としても機能し得る。ラジカル重合開始剤として、後述のグラフト重合において使用され得るものと同じものが使用できる。尚、ビニル系重合性基含有シラン化合物が架橋剤として機能する場合も、その一部はグラフト活性点として残るため、グラフトは可能である。
ビニル系重合性基含有シラン化合物の具体例としては、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシランなどのビニルフェニル基含有シラン化合物;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有シラン化合物;メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプト基含有シラン化合物などが、挙げられる。
これらのなかでは(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物、ビニル基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物から選択される少なくとも一種を用いることが、経済性の点から好ましい。尚、前記ビニル系重合性基含有シラン化合物がトリアルコキシシラン型である場合には、次に示す3官能以上のシラン化合物の役割も有する。
3官能以上のシラン化合物は、前記オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物などと共重合することにより、ポリオルガノシロキサンに架橋構造を導入して、(X)成分にゴム弾性を付与し得る。すなわち3官能以上のシラン化合物はポリオルガノシロキサンの架橋剤として用いられる。
3官能以上のシラン化合物としては、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランなどの4官能、3官能のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。このうちテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシランの少なくとも一方が用いられることが、架橋効率の高さの点から好ましい。
オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物、および3官能以上のシラン化合物の重合時の使用割合は適宜決定される。特にオルガノシロキサンと2官能シラン化合物との合計量の割合が50〜99.9質量%であることが好ましく、60〜99.5質量%であれば更に好ましい。尚、オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との割合は、重量比で100/0〜0/100であることが好ましく、100/0〜70/30であれば更に好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物の割合は0〜40質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であれば更に好ましい。3官能以上のシラン化合物の割合は0〜50質量%であることが好ましく、0〜39質量%であれば更に好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物と3官能以上のシラン化合物とは、少なくとも一方が用いられることが好ましく、特にビニル系重合性基含有シラン化合物と3官能以上のシラン化合物のうちの少なくとも一方の割合が0.1%以上であることが好ましい。オルガノシロキサン及び2官能シラン化合物の使用割合が少なすぎると、成形品が脆くなる傾向がある。逆に多すぎてもビニル系重合性基含有シラン化合物および3官能以上のシラン化合物の量が少なくなりすぎて、これらを使用する効果が発現されにくくなる傾向にある。また、ビニル系重合性基含有シラン化合物あるいは前記3官能以上のシラン化合物の割合が少なすぎると、成形品の難燃性が充分に向上しないおそれがある。逆に多すぎても、成形品が脆くなる傾向がある。
(X)成分は、上記モノマーの乳化重合により製造されることが好ましい。乳化重合は、例えば前記モノマーおよび水が乳化剤の存在下で機械的剪断により水中に乳化分散すると共に酸性状態となることで行なわれる。この場合、機械的剪断により数μm以上の乳化液滴が調製されると、重合後に得られる(X)成分の平均粒子径は乳化剤の量に応じて0.02〜0.6μmの範囲で制御される。また、(X)成分の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/平均粒子径)(%)が20〜70%の範囲に制御される。
平均粒子径が0.1μm以下で且つ粒子径分布の狭い(X)成分が製造される場合、多段階の重合により(X)成分が製造されることが好ましい。例えば前記モノマー、水および乳化剤が機械的剪断により乳化されることで得られる数μm以上の乳化液滴からなるエマルションのうちの1〜20%が先に酸性状態で乳化重合し、得られた(X)成分がシードとなってその存在下で残りのエマルションが追加的に重合することが好ましい。これより得られる(X)成分は、乳化剤の量に応じて平均粒子径0.02〜0.1μmの範囲で、粒子径分布の変動係数が10〜60%の範囲に制御される。更に好ましい方法では、多段重合において、(X)成分がシードとなる代わりに、後述するグラフト重合時に用いられるビニル系単量体(例えばスチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなど)が通常の乳化重合法により(共)重合してなるビニル系(共)重合体が用いられることで、前記と多段重合によりるポリオルガノシロキサン(変性ポリオルガノシロキサン)粒子が得られる。この場合、得られるポリオルガノシロキサン(変性ポリオルガノシロキサン)粒子の平均粒子径は乳化剤量に応じて0.008〜0.1μmの範囲でかつ粒子径分布の変動係数が10〜50%の範囲に制御される。前記数μm以上の乳化液滴は、ホモミキサーなど高速撹拌機が使用されることで調製され得る。
前記乳化重合では、酸性状態下で乳化能を失わない乳化剤が用いられる。具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウムから選択される少なくとも一種を用いることが、エマルションの乳化安定性が比較的高いことから好ましい。更に、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルスルホン酸はモノマーの重合触媒としても作用するので特に好ましい。
反応系の酸性状態は、この反応系に硫酸や塩酸などの無機酸やアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸が添加されることで達成される。反応系のpHは生産設備の腐食抑制や適度な重合速度の達成を考慮して1〜3に調整されることが好ましく、1.0〜2.5に調整されることがより好ましい。重合のための加熱は、適度な重合速度の達成のためは60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
尚、酸性状態下では、ポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi−O−Si結合が切断と生成の平衡状態にあり、この平衡は温度によって変化する。このため、ポリオルガノシロキサン鎖の安定化のためには、反応系に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液が添加されて反応系が中和されることが好ましい。更に前記の平衡は、低温になるほど生成側に寄り、高分子量または高架橋度の生成物が得られやすくなる。このため、高分子量または高架橋度の生成物が得られるためには、モノマーの重合が60℃以上で進行した後、反応系が室温以下に冷却されて5〜100時間程度保持されから反応系が中和されることが好ましい。
このようにして得られる(X)成分は、例えば、オルガノシロキサンあるいは2官能シラン化合物、更にこれらにビニル系重合性基含有シラン化合物が加えられてこれらが重合する場合、通常はランダムな共重合によりビニル系重合性基を有する重合体となる。また、3官能以上のシラン化合物が共重合する場合、架橋による網目構造を有する共重合体が得られる。また、後述するグラフト重合時に用いられるようなラジカル重合開始剤によってビニル系重合性基間がラジカル反応により架橋する場合、ビニル系重合性基間の化学結合による架橋構造が形成され、かつ一部未反応のビニル系重合性基が残存する。
(Y)成分は、(Y−1)成分からなり、或いは(Y−1)成分と(Y−2)成分とからなる。(Y−1)成分は分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能単量体であり、(Y)成分における割合は100〜50質量%である。(Y−2)成分は(Y−1)成分以外のビニル系単量体であり、(Y)成分における割合は0〜50質量%である。(Y)成分が使用されることで、成形品の難燃性及び耐衝撃性が向上する。
(Y)成分における(Y−1)成分の割合が50質量%以上であること、並びに(Y)成分における(Y−2)成分の割合が50質量%以下であることで、成形品の耐衝撃性が更に向上する。(Y)成分における(Y−1)成分の割合は、特に100〜80質量%であることが好ましく、100〜90質量%であれば更に好ましい。(Y)成分における(Y−2)成分の割合は特に0〜20質量%であることが好ましく、0〜10質量%の範囲であれば更に好ましい。
(Y−1)成分としては、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、フタル酸ジアリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの化合物のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。これらの中では、経済性および効果の点で特にメタクリル酸アリルが使用されることが好ましい。
(Y−2)成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、パラブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
(Z)成分は、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体と(A)成分や(D)成分との相溶性を確保し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の分散性向上に寄与する。
(Z)成分としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリル等の、上記(Y−2)成分と同様の化合物が使用され得る。これらの化合物うち一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
(Z)成分の溶解度パラメーターは、9.15〜10.15[(cal/cm3)1/2]であることが好ましく、9.17〜10.10[(cal/cm3)1/2]であればより好ましく、9.20〜10.05[(cal/cm3)1/2]であれば更に好ましい。溶解度パラメーターが前記範囲であると、成形品の難燃性が更に向上する。尚、溶解度パラメーターは、JohnWiley&Son社出版「ポリマーハンドブック」1999年、第4版、セクションVII第682〜685頁)に記載のグループ寄与法でSmallのグループパラメーターを用いて算出される値である。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分40〜90質量部の存在下で、(Y)成分0.5〜10質量部が重合し、更に、(Z)成分5〜50質量部が重合することで得られる。(X)〜(Z)成分の合計量は100質量部である。特に(X)成分の割合は60〜80質量部であることが好ましく、60〜75質量部であれば更に好ましい。(Y)成分の割合は1〜5質量部であることが好ましく、2〜4質量部であれば更に好ましい。(Z)成分の割合は15〜39質量部であることが好ましく、21〜38質量部であれば更に好ましい。
(X)成分の割合が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも成形品の難燃化効果が低くなる。(Y)成分が少なすぎる場合、成形品の難燃化効果および耐衝撃性改良効果が低くなり、多すぎる場合は成形品の耐衝撃性改良効果が低くなる。(Z)成分が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも成形品の難燃化効果が低くなる。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、公知のシード乳化重合により製造され得る。例えば、(X)成分のラテックス中で(Y)成分がラジカル重合し、更に、(Z)成分がラジカル重合することで、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が得られる。(Y)成分および(Z)成分は、いずれも1段階で重合しても2段階以上で重合してもよい。
前記ラジカル重合にあたっては、ラジカル重合開始剤を熱分解することにより反応を進行させる方法、還元剤を使用するレドックス系で反応を進行させる方法など、適宜の方法が採用され得る。重合時の反応温度は30〜120℃が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、反応性の高さから、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、シクロヘキサンノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどの有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物などが、使用されることが好ましい。ラジカル重合開始剤の使用量は、(Y)成分あるいは(Z)成分100部に対して、0.005〜20部、さらには0.01〜10部であり、特に0.03〜5部であることが好ましい。
一方、レドックス系で使用される還元剤としては、硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/エチレンジアミン酢酸塩などの混合物などが、挙げられる。
ラジカル重合の際に連鎖移動剤が使用されてもよい。連鎖移動剤の具体例としては、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどが挙げられる。連鎖移動剤が使用される場合の使用量は、(Y)成分あるいは(Z)成分100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。
前記重合では、(X)成分がビニル系重合性基を含有する場合には(Y)成分がラジカル重合開始剤によって重合する際に、(Y)成分が(X)成分のビニル系重合性基と反応することにより、グラフトが形成される。(X)成分にビニル重合性基が存在しない場合、特定のラジカル開始剤、例えばt−ブチルパーオキシラウレートなどが用いられると、ケイ素原子に結合したメチル基などの有機基から水素が引き抜かれることで生成するラジカルによって(Y)成分が重合してグラフトが形成される。さらに(Z)成分がラジカル重合開始剤によって重合する際に、(Y)成分と同じように(X)成分と反応するだけでなく、(Y)成分によって形成された重合体中に存在する不飽和結合にも反応して(Z)成分によるグラフトが形成される。
乳化重合等によって得られるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、ラテックスから分離されてもよく、分離されなくてもよい。ラテックスからポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を分離する方法としては、通常の方法、例えば、ラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法が採用され得る。スプレー乾燥法が採用されてもよい。
尚、(X)成分の存在下での(Y)成分および(Z)成分の重合時には、グラフト共重合体の枝にあたる部分(ここでは、(Y)成分および(Z)成分の重合体)が幹成分(ここでは(X)成分)にグラフトせずに枝成分だけで単独に重合して得られるいわゆるフリーポリマーも副生し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体とフリーポリマーの混合物が得られる。この両者を併せてポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体という。
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分に(Y)成分がグラフトし、さらに(Z)成分が(X)成分だけでなく(Y)成分によって形成された重合体にもグラフトしている構造を有するため、フリーポリマーの量が少なくなる。このポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体のアセトン不溶分量(ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1gをアセトン80mlに室温で48時間浸漬した場合のアセトン不溶分量)は、80%以上、さらには85%以上であることが、成形品の難燃性向上のために好ましい。
このようなポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、市販品として入手可能である。市販されているポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体としては、例えば株式会社カネカ製の商品名カネエースMR01、カネエースMR02等が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物がエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムを含有する場合、その含有量は3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムとしては、アクリル酸アルキル、シリル基末端ポリエーテル、及びグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体が挙げられる。このエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムは、アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体(シリコーンアクリル複合ゴム)と、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体との複合物であってもよい。この場合、アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体と、グリシジル基含有ビニル系化合物の重合体との全部若しくは一部が共重合していてもよい。
このエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのコア層はアクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体から構成され、シェル層はグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体から構成される。この多層構造重合体は、例えばアクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体のラテックスにグリシジル基含有ビニル系化合物が添加されてグラフト重合することで得られる。
アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体(シリコーンアクリル複合ゴム)の代表的な一例の構造式を下記式[化3]に示す。この構造式の左部分がアクリル酸アルキルに由来するアクリル酸アルキル単位であり、右側部分がシリル基末端ポリエーテルに由来するシリル基末端ポリエーテル単位である。
グリシジル基含有ビニル系化合物の代表的な一例の構造式を下記式[化4]に示す。
アクリル酸アルキルとしては、具体的には、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル;メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸オクタデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸クロロメチル、メタアクリル酸2−クロロエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル;メタアクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタアクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルまたはメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。これらの化合物のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
シリル基末端ポリエーテルとしては、末端にシリル基を有するポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリエーテルが用いられる。前記シリル基としては、具体的には、メチルシリル基、エチルシリル基、プロピルシリル基、ブチルシリル基などのアルキルシリル基、3−クロロプロピルシリル基、3,3,3−トリフルオロプロピルシリル基などのハロゲン化アルキルシリル基、ビニルシリル基、アリルシリル基、ブテニルシリル基などのアルケニルシリル基、フェニルシリル基、トリルシリル基、ナフチルシリル基などのアリールシリル基、シクロペンチルシリル基、シクロヘキシルシリル基などのシクロアルキルシリル基、ベンジルシリル基、フェネチルシリル基などのアリール−アルキルシリル基などが挙げられる。このようなシリル基末端ポリエーテルのうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
グリシジル基含有ビニル系化合物としては、メタアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルまたは4−グリシジルスチレンなどが挙げられる。これらの化合物のうち一種のみが用いられても二種以上が併用されてもよい。
このようなエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムとしては、市販品が適宜使用され得る。その具体例としては、グリシジルメタクリレートをシェルに含有するコアシェル構造体である三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンS2200が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物は、Siを含有するコアシェルゴム以外のコアシェルゴム、すなわちSiを含有しないコアシェルゴムを含有してもよい。Siを含有しないコアシェルゴムの例として、不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体が挙げられる。
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体が使用される場合、不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体は、Siを含有するコアシェルゴムの機能の全部又は一部をSiを含有するコアシェルゴムに代わって発揮し得る。尚、この場合、コスト面でも有利となる。
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体を得るために用いられる不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。ジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン等の、ガラス転移点が10℃以下のゴムが挙げられる。芳香族ビニルとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン及びp−メチルスチレン等の核置換スチレンが挙げられる。これら不飽和カルボン酸アルキルエステル、ジエン系ゴム、芳香族ビニルは、それぞれ1種または2種以上使用することができる。
この不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体の代表例として、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)が挙げられる。メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体は、ブタジエン・スチレン重合体で構成されるコア層と、メタクリル酸メチル重合体で構成されるシェル層とを備える多層構造重合体であることが好ましい。
ブタジエン・スチレン重合体の構造式を下記式[化5]に示す。この構造式の左側部分がブタジエンに由来するブタジエン単位であり、右側部分がスチレンに由来するスチレン単位である。
シェル層を構成するメタクリル重合体の構造式を下記式[化6]に示す。
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体の製造法としては、例えば塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの各種方法が挙げられる、特に、乳化重合法が好適である。このようにして得られるコアシェルタイプグラフトゴム状弾性体は、前記ジエン系ゴム成分を50質量%以上含有していることが好ましい。
このようなメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体として、市販品が適宜使用されてもよい。メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体の好適な具体例としては、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンC−223A、メタブレンC−323A、メタブレンC−215A、メタブレンC−201A、メタブレンC−202、メタブレンC−102、メタブレンC−140A、メタブレンC−132等、株式会社カネカ製の商品名カネエースM−600、ローム・アンド・ハース株式会社製の商品名パラロイドEXL−2638等が挙げられる。
(ポリ乳酸及びコアシェルゴム以外の熱可塑性樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸及びコアシェルゴム以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸及びコアシェルゴムに含まれない熱可塑性樹脂の含有量は適宜設定される。
ポリ乳酸及びコアシェルゴムに含まれない熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが挙げられる。
(ポリカーボネート樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物がポリカーボネート樹脂を含有すると、成形品の耐水性が更に向上する。ポリ乳酸樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂の含有量は適宜設定されるが、特に1〜20質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%以上であると成形品の耐水性が向上する。この含有量は更に10質量%以上であることが好ましい。またこの含有量が20質量%以下であれば樹脂成分全体に対するポリ乳酸樹脂の比率が下がりすぎず、ポリ乳酸樹脂の特徴である生分解性が充分に発揮されるようになる。
ポリカーボネート樹脂としては、例えば二価フェノールとカーボネート前駆体とが反応することで得られる芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などが挙げられる。
二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが、挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも成形品の靭性を向上させることができる点でビスフェノールA(BPA)が特に好ましい。
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステル、ハロホルメートなどが挙げられる。具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
二価フェノールとカーボネート前駆体から界面重合法によって芳香族ポリカーボネート樹脂が製造される際には、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止のための酸化防止剤などが使用されてもよい。
ポリカーボネート樹脂として、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにこの二官能性カルボン酸及び二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂などが用いられてもよい。また、ポリカーボネート樹脂として2種以上のポリカーボネート樹脂が用いられてもよい。
分岐ポリカーボネート樹脂が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物の溶融張力が増加し、それにより押出成形、発泡成形、ブロー成形等における成形加工性が改善する。その結果、寸法精度により優れる成形品が得られる。分岐ポリカーボネート樹脂を得るために使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。その他の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、並びにトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、及びこれらの酸クロライド等が例示される。中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、及び1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位の割合は、二価フェノールから誘導される構成単位とこの多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、0.03〜1モル%、好ましくは0.07〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.4モル%である。また、この分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。尚、この分岐構造の割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
一方、脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましく、その具体例としては、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールが好適であり、例えば、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール等が例示される。さらに、ポリオルガノシロキサン単位を共重合したポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
ポリカーボネート樹脂として、二価フェノール成分が異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体等が2種以上用いられてもよい。さらに、製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネート等が2種以上用いられてもよい。
ポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献及び特許公報などで良く知られている方法である。
ポリカーボネート樹脂として、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネートが用いられてもよい。使用済みの製品としては防音壁、ガラス窓、透光屋根材、自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。これらは多量の添加剤や他樹脂などを含むことがなく、目的の品質が安定して得られやすい。殊に自動車ヘッドランプレンズや光記録媒体などは下記粘度平均分子量のより好ましい条件を満足するため好ましい態様として挙げられる。尚、上記のバージン原料とは、その製造後に未だ市場において使用されていない原料である。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは1×104〜5×104、より好ましくは1.4×104〜3×104、更に好ましくは1.8×104〜2.5×104である。粘度平均分子量が1.8×104〜2.5×104の範囲においては、ポリ乳酸樹脂組成物が特に良好な流動性と成形品の耐衝撃性との両立に優れる。最も好適には、粘度平均分子量が1.9×104〜2.4×104の範囲である。尚、この粘度平均分子量はポリカーボネート樹脂全体が満足すればよく、分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂の混合物がこの範囲を満足してもよい。
粘度平均分子量の算出にあたっては、まず次式(a)にて算出される比粘度を、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解して調製される試料溶液についてのオストワルド粘度計による測定結果から求める。次に得られた比粘度から、次式(b)〜(d)を用いて粘度平均分子量Mを求める。
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t …(a)
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度) …(b)
[η]=1.23×10−4M0.83 …(c)
c=0.7 …(d)
(ABS樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物がABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂を含有する場合、成形品の耐水性が更に向上する。
ABS樹脂としては、市販品が適宜使用される。ABS樹脂が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物中のABS樹脂の含有量は適宜設定されるが、特に1〜20質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%以上であると成形品の耐水性、耐衝撃性、弾性率等の特性が向上する。この含有量は更に10質量%以上であることが好ましい。またこの含有量が20質量%以下であれば樹脂成分全体に対するポリ乳酸樹脂の比率が下がりすぎず、ポリ乳酸樹脂の特徴である生分解性が充分に発揮されるようになる。
このABS樹脂として、特に乳化剤、凝固剤が使用されることなく連続塊重合法(バルク重合)により合成された樹脂が使用されることが好ましい。この方法で合成されるABS樹脂は、合成時の添加成分が少なく、このためポリ乳酸樹脂の加水分解が引き起こされにくくなる。このようなABS樹脂としては、日本エイアンドエル株式会社製のサンタックAT−05,サンタックAT−08等が挙げられる。
スチレン単位の割合が72質量%以下でありブタジエン単位の割合が10〜16質量%であるABS樹脂が用いられることも好ましい。このようなABS樹脂が用いられることで、ポリ乳酸樹脂組成物の成形時のウエルドが更に抑制され、成形品の外観が向上する。またこのようなABS樹脂が使用されることで、成形品が着色される場合の発色性が優れる。スチレン単位の割合の下限は特に制限されないが、30質量%以上であることが好ましく、特にABS樹脂が実質的にアクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位のみから構成される場合には60質量%以上であることが好ましい。ABS樹脂中のアクリロニトリル単位の割合は例えば1.5〜30質量%の範囲であり、ABS樹脂が実質的にアクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位のみから構成される場合には例えば15〜30質量%の範囲である。
ABS樹脂は、アクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位以外の単位を含んでいてもよく、例えばメチルメタクリレート単位を含んでいてもよい。ABS樹脂中のメチルメタクリレート単位の割合は、例えば60質量%以下である。
尚、ABS樹脂中のアクリロニトリル単位、スチレン単位、ブタジエン単位、メチルメタクリレート単位等の割合は、ABS樹脂のNMR測定結果、並びにABS樹脂のグラジエント・ポリマー溶出クロマトグラフィ(GPEC:gradient polymer elution chromatography)による測定結果に基づいて導出される。
ABS樹脂の平均粒径は特に制限されないが、例えば0.3〜0.9μmの範囲である。この平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
(ポリメタクリル酸メチル樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)を含有してもよい。PMMA樹脂の一部又は全部は、ポリメタクリル酸メチル樹脂エラストマー(PMMA樹脂エラストマー)であってもよい。
このPMMA樹脂の、JIS K7111に規定されるノツチ付シャルピー衝撃値は、5kJ/m2以上であることが好ましい。このノツチ付シャルピー衝撃値は特に5.3kJ/m2以上であることが好ましい。ノツチ付シャルピー衝撃値の上限は特に制限されない。
このようなPMMA樹脂としては、住友化学株式会社製の商品名スミペックスHT03Y、スミペックスHT01X等が挙げられ、特にスミペックスHT01Xが好ましい。
ポリ乳酸樹脂組成物にPMMA樹脂が含まれていると、ポリ乳酸樹脂組成物の成形後にPMMA樹脂がポリ乳酸の結晶化を阻害する。このため成形品の高温条件下での寸法安定性が向上すると共に成形品の耐衝撃性が更に向上する。更にこのPMMA樹脂により、成形品の耐熱性が更に向上する。
ポリ乳酸樹脂組成物中のPMMA樹脂の含有量は適宜設定されるが、特にこの含有量が2〜17質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が2質量%以上であると成形品の寸法安定性、耐衝撃製、耐熱性が特に向上し、またこの含有量が17質量%以下であるとポリ乳酸樹脂組成物の高い流動性が維持される。
(カルボジイミド化合物)
ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物を含有してもよい。この場合、これらの化合物が、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル基末端の一部または全部と反応して封鎖する働きを発揮し、これにより、成形品の耐水性が更に向上する。このため、成形品の高温高湿環境下での耐久性が向上する。
前記ポリカルボジイミド化合物としては、例えばポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられる。また前記モノカルボジイミド化合物としては、例えばN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
このようなカルボジイミド化合物としては、市販品が適宜使用される。その具体例としては、日清紡績株式会社製の商品名カルボジライトLA−1(ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド))等を挙げることができる。
カルボジイミド化合物が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物中のカルボジイミド化合物の含有量は0.1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が0.1質量%以上であることで成形品の耐久性が更に向上し、5質量%以下であることで成形品の高い機械的強度が維持される。カルボジイミド化合物の含有量は更に3質量%以下であることが好ましい。
カルボジイミド化合物が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物の調製時にステレオコンプレックス型ポリ乳酸とカルボジイミド化合物のみが予め混合されることでマスターバッチが調製されると、カルボジイミド化合物が使用されることによる前記作用が効果的に発揮される。
(充填材等)
ポリ乳酸樹脂組成物は充填材を含有してもよい。充填材としては、例えば、タルク、ワラストナイト、マイカ、クレー、モンモンリロナイト、スメクタイト、カオリン、ゼオライト(珪酸アルミニウム)、ゼオライトを酸処理及び加熱処理して得られる無水非晶質珪酸アルミニウムなどの無機充填材が挙げられる。特にタルク、ワラストナイトが好ましい。これらの充填剤のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
タルクとしては、樹脂成形材料のフィラー材として一般的に使用されているタルクが挙げられる。市販されている適宜のタルクが使用可能である。タルクの平均粒径は、通常は0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)などを用いるレーザー回折散乱法により測定される値である。
ポリ乳酸樹脂組成物中のタルクの含有量は特に制限されないが、1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%以上であれば成形品の引張り弾性率が向上し、この含有量が30質量%以下であればポリ乳酸樹脂組成物の混練時におけるスクリューへのタルクの食い込みが抑制されて、良好な加工性、成形性が維持される。このタルクの含有量は、好ましくは1〜15質量%の範囲であり、更に好ましくは3〜8質量%の範囲である。この含有量が8質量%以下であると、複雑な形状の成形品を得る場合であってもウエルドの発生が充分に抑制され、この含有量が3質量%以上であるとタルクの添加の効果が特に発揮される。
ポリ乳酸樹脂組成物は着色剤として染料や顔料などを含有してもよい。染料としては、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、ジアミノスチルベン系蛍光染料などの、蛍光染料(蛍光増白剤を含む);ペリレン系染料;クマリン系染料;チオインジゴ系染料;アンスラキノン系染料;チオキサントン系染料;紺青等のフェロシアン化物;ペリノン系染料;キノリン系染料;キナクリドン系染料;ジオキサジン系染料;イソインドリノン系染料;フタロシアニン系染料などが挙げられる。蛍光染料のうちでは、耐熱性が良好でポリカーボネート樹脂の成形加工時における劣化が少ないクマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、及びペリレン系蛍光染料が好適である。顔料としては、金属被膜または金属酸化物被膜を有する各種板状フィラーなどのメタリック顔料、カーボンなどが、使用可能である。
ポリ乳酸樹脂組成物中の着色剤の含有量は、樹脂成分の合計量100質量部に対して、0.00001〜1質量部の範囲が好ましく、0.00005〜0.5質量部の範囲であれば更に好ましい。
(その他)
ポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の目的に反せず、その効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて結晶核剤、安定剤、顔料、染料、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の、公知の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、ポリ乳酸樹脂組成物の混練時に加えられても、成形時等に加えられてもよい。
[ポリ乳酸樹脂組成物及び成形品]
ポリ乳酸樹脂組成物は、上記のようなポリ乳酸樹脂組成物の原料が任意の方法で混合、混練されることによって調製される。前記混合、混練にあたっては、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等が用いられるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。
例えばポリ乳酸樹脂組成物の調製にあたって、ポリ乳酸樹脂組成物の原料をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、原料のうちの一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法が採用されてもよい。また、原料の一部を溶融混練機に供給した後、残りの原料を溶融押出機の途中から供給する方法が採用されてもよい。溶融混練に際しての加熱温度は、通常250〜300℃の範囲で選ばれる。
尚、原料中に液状の成分がある場合には、溶融押出機への液状の成分の供給の際に、いわゆる液注装置、液添装置等が使用されてもよい。このような液注装置や液添装置には加温装置が設けられていることが好ましい。そのため溶融押出機は、液体注入用の原料供給口を持つことが好ましい。例えば溶融押出機へ液状の成分が供給される際は、液状の成分が、ギアポンプ等の公知の液体運搬装置によって、通常の溶融押出機のバレルに形成されているフィード口から、押溶融押出機内の吐出圧以上の圧力で供給されることが好ましい。
ポリ乳酸樹脂組成物が必要に応じてペレット状に成形されてもよい。例えば溶融押出機により押し出されたポリ乳酸樹脂組成物が直接切断されてペレット化され、或いはこのポリ乳酸樹脂組成物のストランドが形成された後、このストランドがペレタイザー等で切断されてペレット化されることで、ペレット状のポリ乳酸樹脂組成物が得られてもよい。ペレット化に際して外部の埃などの影響が低減される必要がある場合には、溶融押出機の周囲の雰囲気が清浄化されることが好ましい。ペレット状のポリ乳酸樹脂組成物の形状は、円柱、角柱、球状などの一般的な形状でよいが、より好適には円柱状である。円柱状のポリ乳酸樹脂組成物の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱状のポリ乳酸樹脂組成物の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
ポリ乳酸樹脂組成物から形成される成形品の具体的としては、OA機器や家庭用電気製品などの電気製品の筐体や内部部品が挙げられる。これらの電気製品としては、例えば携帯電話機、携帯電話機用卓上ホルダー、複写機、プリンター、液晶プロジェクター、テレビジョン、ディスプレイ等の筐体などが挙げられる。また、建材、サニタリー分野など、広範囲の分野に使用することもできる。
成形品には、各種の表面処理が施されてもよい。表面処理としては、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、めっき(電気めっき、無電解めっき、溶融めっきなど)、塗装、コーティング、印刷などの、成形品の表面上に新たな層を形成する処理が挙げられる。表面処理の具体例としては、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、メタライジング(蒸着など)などが挙げられる。
ポリ乳酸樹脂組成物の成形法としては、射出成形、回転成形、ブロー成形、真空成形などの適宜の成形方法が採用され得る。特に射出成形が好ましい。この場合、特にポリ乳酸樹脂組成物がステレオコンプレックス型ポリ乳酸を含有していると、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸がポリ−L−乳酸のみである場合と比べて、成形サイクルが短縮され得る。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、二色成形、サンドイッチ成形、超高速射出成形などが採用されてもよい。
ポリ乳酸樹脂組成物の射出成形時には、金型のキャビティ表面温度がポリ乳酸樹脂組成物の最短の半結晶化時間の温度±10℃の範囲である状態で、この金型内にポリ乳酸樹脂組成物が射出される。最短の半結晶化時間の温度とは、ポリ乳酸樹脂組成物の半結晶化時間が最も短くなる温度をいう。半結晶化時間の測定には示差走査熱量計が用いられる。この測定時には、ポリ乳酸樹脂組成物がまず昇温されることで溶融し、続いて所定の温度(測定温度)まで急冷され、更にこの測定温度に保持される。ポリ乳酸樹脂組成物が測定温度に保持されている間にポリ乳酸樹脂組成物の結晶化が始まることで、示差走査熱量計により結晶化の発熱ピークが観測される。ポリ乳酸樹脂組成物の温度が測定温度に達した時点から発熱ピークの頂点が現れる時点までに経過する時間が、半結晶化時間である。種々の測定温度におけるポリ乳酸樹脂組成物の半結晶化時間が測定され、これらの測定温度と半結晶化温度との関係がプロットされると、その結果から、ポリ乳酸樹脂組成物の最短の半結晶化時間の温度が求められる。
上記のような条件で金型にポリ乳酸樹脂組成物が射出されると、成形品のウエルドの発生が著しく抑制されると共に、金型のキャビティ表面の形状が成形品の表面に良好に転写される。特に金型のキャビティ表面が、シボ模様等の凹凸がない平滑な形状であれば、成形品の表面の平滑性が非常に高くなり、成形後に研磨等が施されなくても表面平滑性が非常に高い成形品が得られる。また、ポリ乳酸樹脂組成物が着色剤を含有することで着色されていれば、塗装が施されることなく良好な意匠性を有する成形品が得られる。更に、成形時に金型内でのポリ乳酸樹脂組成物の結晶化が促進され、これにより成形サイクルが短縮されると共に、成形品の結晶性が高くなって成形品の耐水性、耐熱性等が向上する。その理由は次に示す通りであると考えられる。
キャビティ表面温度がポリ乳酸樹脂組成物の最短の半結晶化時間の温度−10℃以上であることで、キャビティ表面付近でのポリ乳酸樹脂組成物の流動性が高くなり、このため、金型のキャビティ表面の形状が成形品の表面に転写されやすくなると共に、ウエルドが生じにくくなると考えられる。更に、このような温度では、金型内でポリ乳酸樹脂組成物の結晶化が促進されることで、成形サイクルが短縮化されると共に成形品の耐水性、耐熱性等が高くなると考えられる。また、キャビティ表面温度がポリ乳酸樹脂組成物の最短の半結晶化時間の温度+10℃以下であることで、成形時のポリ乳酸樹脂組成物の膨張及び収縮が抑制され、このために成形品にヒケなどの不良が生じにくくなって、成形品の外観が向上すると考えられる。
ポリ乳酸樹脂組成物の射出成形にあたっては、適宜の射出成形装置が使用され得る。特に、射出時の金型のキャビティ表面温度が上記のように制御されるためは、電気式のヒータを備える金型が用いられることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の射出時に、電気式のヒータによってキャビティ表面の温度が正確且つ速やかに調整される。
ポリ乳酸樹脂組成物の成形にあたっては、ヒートアンドクール成形が採用されることが好ましい。このヒートアンドクール成形においても、電気式のヒータを備える金型が特に適している。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の射出時には電気式のヒータなどにより金型が加熱され、離型時には水冷などにより金型が冷却される。このようなヒートアンドクール成形が採用されることで、射出時に金型が加熱されるにもかかわらず成形サイクルが短縮化され、離型時に金型から成形品が変形を生じることなく取り出されやすくなる。
成形品の製造にあたっては、成形品に厚みが1〜1.5mmの範囲の薄肉部分が形成されてもよい。本実施形態によれば、このような薄肉部分が形成される場合であっても、優れた外観を有し、且つ耐衝撃性等の特性に優れた成形品が得られる。
[製造例]
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度99%以上)100重量部に、オクチル酸スズを0.006重量部、オクタデシルアルコール0.37重量部を加え、得られた混合物を窒素雰囲気下、撹拌翼を備える反応機内で190℃で2時間加熱することで反応させた。次に、この混合物にエステル交換抑制剤(ジヘキシルホスホノエチルアセテートDHPA)0.01重量部を加えた後、反応機内を減圧して残存するラクチドを除去し、更にこの混合物をチップ化することで、ポリ−D−乳酸を得た。得られたポリ−D−乳酸の重量平均分子量は13万、ガラス転移点(Tg)60℃、融点は170℃であった。
このポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸(ネイチャーワークス社製の4042D、光学純度95%以上、融点150℃、重量平均分子量21万)とを、32mm径の二軸押出機(Coperion製、ZSK 32)を用いて、シリンダー温度200℃〜250℃、回転数200rpmの条件で溶融混練することで、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得た。得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸の融点は213℃、ステレオ化度は100%であった。
[実施例及び比較例]
各実施例及び比較例では、表1に示す成分を用い、樹脂成分については予め乾燥処理を施した上で、これらの成分をタンブラーで10分間混合した。得られた混合物を二軸押出機で、ダイス付近温度190℃、投入口付近温度200℃の条件で押し出してストランドを得た。このストランドを速やかに冷却槽で冷却した後、カッターで切断して、長さ2〜4mmのペレット状の樹脂組成物を得た。
各実施例及び比較例で得られたポリ乳酸樹脂組成物の最短の半結晶化時間の温度を、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC TA−2920)を用いて、次のようにして測定した。ポリ乳酸樹脂組成物10mgをアルミニウムパン上に載せ、まずこのポリ乳酸樹脂組成物を20℃から200℃まで毎分200℃の昇温速度で加熱し、続いてこのポリ乳酸樹脂組成物を200℃で1分間保持した。続いてこのポリ乳酸樹脂組成物を所定の測定温度まで毎分300℃の降温速度で急冷した。続いてこのポリ乳酸樹脂組成物を測定温度で保持し、ポリ乳酸樹脂組成物の温度が測定温度に達した時点から、発熱ピークの頂点が観測される時点までの経過時間(半結晶化時間)を調査した。測定温度を130℃からより低い温度に順次変更し、各測定温度における半結晶化時間を調査した。これらの測定温度と半結晶化温度との関係をプロットし、その結果から、ポリ乳酸樹脂組成物の最短の半結晶化時間の温度を求めた。その結果を表1に示す。
この樹脂組成物に、除湿乾燥機を使用して120℃で4時間加熱する乾燥処理を施した。次にこの樹脂組成物を金型に射出した。射出成形機としては100トン射出成形機を用い、金型としては電気式ヒータを備え、且つキャビティ表面が平滑な試験片金型(カラープレート、キャビティ寸法60mm×60mm×1.2mm、2個取り)を用いた。射出時には、シリンダーの温度をヘッド付近で230℃、材料投入口付近で220℃に設定すると共に、電気式ヒータにより金型のキャビティ表面温度を表2〜4に示すように設定した。
続いて、電気式ヒータの動作を停止した後、金型を水冷し、更に金型から成形品を取り出した。
[外観評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品の外観を観察し、次のように評価した。
◎:成形品にウエルドが認められず、且つ成形品の表面が平滑であった。
○:成形品に僅かなウエルドが認められ、或いは成形品の表面の平滑性が僅かに損なわれていた。
△;明確なウエルドが認められ、或いは成形品の表面の平滑性が大きく損なわれていた。
×:明確なウエルドが認められ、且つ成形品の表面の平滑性が大きく損なわれていた。
[成形サイクル評価]
各実施例及び比較例につき、樹脂組成物の射出成形時における、金型への樹脂組成物の射出後、金型から成形品を変形が生じることなく取り出すことが可能となるまでに要した時間を測定し、これを成形サイクルの指標とした。
[引張り強度評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品の引張り強度を、ISO 527に準拠して測定した。
[引張り弾性率評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品の引張り弾性率を、ISO 527に準拠して測定した。
[シャルピー衝撃強度評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品のシャルピー衝撃強度を、ISO 179(常温)に準拠して測定した。
[耐久性(耐水性)評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品を60℃、95%RHの雰囲気下に曝露した後、この成形品の引張り強度を、ISO 527に準拠して測定した。この試験を曝露時間を変化させて実行することで、曝露後の成形品の引張り強度が曝露前の成形品の引張り強度の80%以下に達する最短の曝露時間を特定し、これを耐久性の指標とした。
以上の結果を表1に示す。
表1に示される各成分の詳細は次の通りである。
・ポリ乳酸A:製造例で得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸。
・ポリ乳酸B:ポリ−L−乳酸(ネイチャワークス社製の品番Ingeo 4032D)。
・コアシェルゴムA:グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレン S2200。
・コアシェルゴムB:コア層がポリブタジエン70重量%、シェル層がスチレンおよびメチルメタクリレートで構成されるグラフト共重合体(MBS樹脂)、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンC223A。
・タルク:竹原化学工業株式会社製の商品名TTタルク、平均粒径7μm。
・カルボジイミド化合物:日清紡ケミカル株式会社製の商品名カルボジライトLA−1。