[第1実施形態]
本発明に係るプラントシミュレーション装置の第1実施形態を添付図面に基づいて説明する。以下に説明する各実施形態においては、本発明に係るプラントシミュレーション装置を沸騰水型原子力発電プラント(プラント)の運転訓練を支援するためのシミュレーション装置に適用して説明する。
まず、シミュレーション装置1の概略について説明する。
図1は、第1実施形態におけるプラントシミュレーション装置の機能ブロック図である。
プラントシミュレーション装置(シミュレーション装置)1は、苛酷事象モデル11、現場作業モデル12、現場作業インタフェース13、および外部環境モデル14を主に備える。苛酷事象モデル11、現場作業モデル12、および外部環境モデル14は、中央制御室2と接続され、必要に応じて信号の送受信を行う。
苛酷事象モデル11は、原子力発電プラントに苛酷事象を含むプラントの異常を模擬する。苛酷事象モデル11は、燃料プールモデル21、炉心損傷モデル22、および系統モデル23を有する。
燃料プールモデル21は、燃料プールへの注水状況に応じた水位を模擬する。燃料プールモデル21は、燃料から放射される放射線のスカイシャインの効果を模擬する。また、燃料プールモデル21は、設置された燃料の崩壊熱などの発熱による燃料の損傷および溶融を模擬する。炉心損傷モデル22は、炉心における通常運転から苛酷事故への進展や、水素発生に伴う爆発などを模擬する。
燃料プールモデル21および炉心損傷モデル22を模擬するためには、燃料破損などのいわゆる苛酷事故を模擬する原子炉モデルが必要である。これらのモデルの詳細は、公知の技術(例えば、特開2000−338854号公報)を適用することができる。
系統モデル23は、プラントの系統図データ、機器データ、三次元CADデータなどのデータを保持し、これらのデータからプラント機器データベースを作成する。系統モデル23は、これらのデータを用いて、プラント系統を模擬する。
現場作業モデル12は、例えば全電源喪失などプラントに与える影響が広範囲となるような大規模事故の発生を想定し、中央制御室2での運転員操作のみならず現場とのやりとりを含めた訓練を実施するために用いられる。現場作業モデル12は、プラントの外部環境と接続される機器を含む系統のモデルである。また、現場作業モデル12は、現場で作業が実施されることにより、保有する資源の残量が変化する各種機器のモデルであり、例えば燃料残量、バッテリ残量、純水残量などの有限の資源の残量が、現場作業員の作業や機器の動作により変化する機器のモデルである。
現場作業モデル12は、例えば、非常用D/Gモデル31、純水タンクモデル32、RCIC駆動用バッテリモデル33、SRV駆動用窒素ボンベモデル34、空気計装モデル35、および電源車接続モデル36である。
現場作業モデル12は、これ以外の現場作業を模擬するためのモデルを用いてもよい。なお、現場とは、プラントの内部・外部環境において、プラント関連機器が設置された場所をいう。現場作業(現場操作)は、中央制御室2で制御される操作以外の、現場で行われる作業をいう。
非常用D/G(ディーゼル発電機)モデル31は、現場に設置された非常用D/G4に対する燃料注入作業の訓練を模擬する。非常用D/Gモデル31は、燃料の残量、負荷による燃料の消費量、燃料タンクへの燃料注入を考慮して非常用D/Gを模擬する。
純水タンクモデル32は、現場に設置された純水タンクの弁(現場弁)5の操作の訓練を模擬する。純水タンクモデル32は、純水タンクの残量、純水タンクへの注水手段の選択、注水手段に応じた注水の消費量を考慮して純水タンクを模擬する。
RCIC(隔離時冷却系)駆動用バッテリモデル33は、現場に設置されたRCIC駆動用バッテリを模擬する。RCIC駆動用バッテリモデル33は、バッテリの残量、負荷による消費量を考慮してRCIC駆動用バッテリを模擬する。
SRV(圧力逃し弁)駆動用窒素ボンベモデル34および空気計装モデル35は、純水タンクモデル32と同様に、現場弁5を含む現場に設置された機器の操作の訓練を模擬する。
SRV駆動用窒素ボンベモデル34は、ボンベの残量、供給手段の選択、操作に応じた消費量を考慮してSRV駆動用窒素ボンベを模擬する。空気計装モデル35は、ボンベの残量、操作に応じた消費量を考慮して空気計装を模擬する。電源車接続モデル36は、電源車6と、電源を供給するための電源盤7との作業における訓練を模擬する。
なお、現場作業モデル12は、現場で作業を行う機器や設備として、注水口9に給水を行う消防車8もシミュレーションに用いることができる。
現場作業インタフェース13は、外部より入力された信号を現場作業モデル12の各モデルに渡すことで、燃料や純水などの有限のリソースの残量などを設定する。
外部環境モデル14は、プラント構造物である排気筒から外部環境へ放出される放射能の放出量を模擬する。
本実施形態におけるシミュレーション装置1は、2つの機能を有する。第1の機能は、プラントに含まれる機器の空間位置を考慮した異常状態のシミュレーションを行う機能(異常状態シミュレーション機能)である。この機能は、主に系統モデル23を用いて実現される。第2の機能は、現場作業を考慮したシミュレーションにより運転員の訓練を行う機能(現場作業シミュレーション機能)である。この機能は、主に現場作業モデル12と現場作業インタフェース13を用いて実現される。
まず、第1の機能である異常状態シミュレーション機能について説明する。系統モデル23は、訓練に用いる異常状態として、例えば教官10からの入力に基づいて異常領域を設定する。系統モデル23は、プラント内に含まれる機器部品のデータベースを有する。このデータベースは、各機器のパラメータや位置情報を予め格納する。
図2は、系統モデル23のプラント機器部品データベース41の生成手順を示すブロック図である。
系統モデル23は、計装系統図データ42、電気系統図データ43、プラント三次元CADデータ(機器配置データ)44、配管系統図データ45、および建屋系統図データ46を系統図データとして有する。プラント三次元CADデータ44を用いることにより、機器のパラメータの他、位置情報を付加することができる。
状態変量・位置情報入力部48は、各系統に含まれる機器の状態変量や位置情報を入力する。プラント機器部品データベース41は、各系統図データ42、43、45、46および状態変量・位置情報入力部48の入力に基づいて生成される。
図3(A)は各系統図データ42、43、45、46の一例を示す説明図、(B)は部屋データ53の位置情報を再現した概念図である。
配管系統図データ45は、例えばポンプデータ51を格納する。電気系統図データ43は、例えば遮断器データ52を格納する。建屋系統図データ46は、例えば部屋データ53を格納する。各データ51〜53は、例えば「名称」、「部品種別」などの「属性」、およびこれら属性の値である「属性値」を格納する。例えば、ポンプデータ51は、属性の「名称」は「注入ポンプ」であり、「部品種別」は「電動ポンプ」を例とするデータである。
ポンプデータ51や遮断器データ52とは異なり、部屋データ53は、元々の属性として位置情報を有するのが一般的であるため、部屋データ53(建屋系統図データ46)に位置情報も付与した。部屋データ53の空間的な位置情報を与える特性座標始点および特性座標終点は、図3(B)のように示される。
図4は、プラント機器部品データベース41の一例を示す説明図である。
プラント機器部品データベース(機器部品データベース)41は、上述した各系統図データ42、43、45、46、プラント三次元CADデータ44と、操作員により入力されたプラントの状態変量および位置情報とに基づいて生成される。ポンプデータ61の状態変量は、例えば、「入口1質量流量」、「入口1密度」などのプラントの運転状況や周囲環境に応じて変化する状態量である。位置情報は、「始点座標」、「終点座標」である。遮断器データ62および部屋データ63についても、状態変量や位置情報が付与されている。
系統モデル23は、このプラント機器部品データベース41を有することで、データベースで管理される各機器の状態変量、位置情報を踏まえたシミュレーションを可能とする。
図5は、系統モデル23による異常発生を想定したシミュレーションの流れを示すフローチャートである。
まず、例えばシミュレーション装置1の操作員により、外的要因による異常事象が設定される(ステップS1)。シミュレーション装置1は、異常事象が発生した領域や、異常事象の種類(例えば、水没、温度上昇、破損)を含む異常事象の情報の設定を受け付ける。
シミュレーション装置1は、設定された異常事象の情報に基づいて、異常状態となる機器類を特定する。シミュレーション装置1は、機器部品データベース41に格納された情報を参照し、異常機器類リストを生成する(ステップS2、ステップS3)。異常状態機器類の特定については、図6で詳述する。
なお、シミュレーション装置1は、異常機器類リストの生成を省略し、例えばプラント機器部品データベース41の該当機器にフラグを立てることで異常の有無を区別してもよい。
シミュレーション装置1は、異常機器類リストに基づいて、異常状態である機器モデルの一例である、計装系モデル71、電気系統モデル72、配管モデル73および建屋モデル74を機器部品データベース41より読み出す(ステップS4)。
各モデル71〜74は、異常事象に応じて時間経過と共に各状態変量の計算を行い、各モデル71〜74の状態を更新する。各モデル71〜74の状態は、各モデル71〜74毎に設けられた状態データベース81〜84に格納される。例えば、配管モデル73は、配管を流れるガスや流体の流量、配管の温度、圧力、放射能などの状態量や異常状態の有無を計算し、機器状態データベース83に格納する。各モデル71〜74は、相互につながっており、後述するように、モデル間においても関連する機器間で異常状態を伝播させる。
すなわち、系統モデル23による異常発生を想定したシミュレーションは、異常発生ステップS1で初期の異常事象(例えば津波の発生による水没や地震による破損など)を与え、その後の各モデル71〜74における異常状態の発生や変化は、機器部品データベース41に格納された状態変量や位置情報に基づいて随時シミュレートされる。
なお、各モデル71〜74は、異常状態を時間経過と共に変化させずに、初期の異常事象の設定に基づき計算された状態量を維持してもよい。また、操作員は、異常事象を複数回入力し、各モデル71〜74の異常状態を更新させてもよい。
図6は、図5の異常状態機器類の特定ステップS2の一例を示すフローチャートである。図6は、津波が発生し、ある部屋が水没した場合を想定した、異常状態機器類の特定手順である。
図7は、プラント内の部屋および各種機器の配置関係を示す配置図である。
図6の説明の前に、図7に示す各構造物を説明する。図7に示す建屋構成においては、ハッチングで示される領域100はコンクリートなどの部屋を区分する構造物である。部屋を区分する構造物内に存在する矩形で囲まれた各領域は、建屋内の部屋である。図7においては、各部屋には階層を考慮した部屋番号を付した。例えば、100番台の部屋は1階フロア、200番台の部屋は2階フロアである。各部屋に設置された電気系統の機器は、電気の流れを示す細実線で示す電源線101で接続される。開閉器122cは、外部の電源と接続される。
分電盤111は、バルブ112a、112b、112c、モータ113と接続されており、それぞれに電源を供給する。制御盤116は、点線で示す制御信号102をバルブ112a、112b、112c、モータ113へ供給する。タンク114a内の液は、タンク114aに接続されるバルブ112a、112b、112c、112d、112eやポンプ115により、太実線で示すライン103aでタンク114bに移送される。タンク114b内の液は、タンク114bに接続されるバルブ112f、112gを介して太実線で示すライン103bでタンク114cに移送される。
部屋間は2重線で示す配管105で接続される。外気取入口117は、外気を取り入れ、部屋301、101、001へ送る。各部屋301、101、001は、部屋302、202、102、104と配管105で接続されており、各部屋の空気は最終的に部屋204の手前で合流する。空気は、フィルター118を介して排風機119により排気筒120から放出される。なお、各部屋間は、通路とドアでつながっている場合もある。
以下、図6の異常状態機器類の特定処理について説明する。
シミュレーション装置1は、操作員の入力に基づいて、異常事象が発生した部屋番号の入力を受け付ける(ステップS11)。例えば、シミュレーション装置1は、図7に示す「部屋001」(図7においてはバツ印で示す。)の中に有る機器が水没などの外的要因、温度上昇、爆発などにより破損する異常事象を設定する。
シミュレーション装置1は、部屋番号に基づいてプラント機器部品データベース41を検索し、対象部屋の種類、領域を示す位置情報を取得する(ステップS12)。例えば、シミュレーション装置1は、部屋の種類は直方体を示す「タイプ1」、部屋の領域は横、縦、高さ方向の座標(X,Y,Z)の範囲が、XS001<X<XE001、YS001<Y<YE001、ZS001<Z<ZE001であることを機器部品データベース41より取得する。
シミュレーション装置1は、機器部品データベース41に含まれる機器の位置情報を示す機器座標が対象部屋の範囲に含まれるか否かを判定する(ステップS13)。図7においては、部屋001に含まれる開閉器122aとディーゼル発電機123とが検索される。
シミュレーション装置1は部屋の範囲に含まれる機器が検索された場合、検索された機器を異常状態機器として設定する。図7においては、部屋001に含まれる開閉器122aとディーゼル発電機123とに対して異常状態(信号)が設定される。
このとき、各機器の異常の種類は、図5の異常発生ステップS1で設定される異常事象の種類により決定される。すなわち、異常事象が水没であれば、開閉器122aは閉状態または短絡の異常状態が、対応する状態データベース82に設定される。また、ディーゼル発電機123は、起動不可あるいは短絡の異常状態が状態データベース82に設定される。
シミュレーション装置1は、異常状態を設定した後、各モデル71〜74を含む電源系、プロセス流体系、制御系モデルなどの各モデルを用いて異常状態を模擬する。異常状態が設定された後の、他のモデルへの影響について、図7を用いて説明する。
部屋001に含まれるディーゼル発電機123および開閉器122aが短絡した場合、開閉器122bが開いていない限り、電源線101aの下流に接続される分電盤111は異常状態となる。また、分電盤111に接続されるモータ113、バルブ112a、112bは停止してしまう。一方、開閉器122bが開いている場合、電源線101aは正常であり、外部からの電源が動作していればモータ113、バルブ112a、112bは動作する。
また、外部からの電源が喪失した場合、プラントには電源が供給されなくなり、モータ113、バルブ112a、112bは停止する。これに伴いポンプ115は停止し、タンク114aからタンク114bへの移送はなくなる。
また、バルブ、ポンプなどのモデルの動作は、制御盤116から送信される信号で実施されるが、この制御盤116も電源の供給に基づいて動作する。電源線101aが異常状態になった場合、インバータ125の動作は停止し、切替器126によるバッテリ127からの電源供給の切り替えができない場合、制御盤116の動作は停止する。
これら電源系、プロセス流体系、制御系などの模擬はそれぞれ電源系、プロセス流体系、制御系モデルによって行われる。各モデルは、機器部品データベース41に異常状態を示す信号を属性として保持しており、これらの信号をモデル間で相互にやりとりすることにより、ある機器の異常状態が他の機器に及ぼす異常状態を模擬することができる。
以下、各モデルの具体例について説明する。
電源系モデルは、電源の有無、および異常の有無を状態変量として保持すればいいので、デジタル的な信号を伝達するモデルとする。
図8は、プラント内における一例としての電源系統の結線図である。
図9は、図8の電源系統を模擬した電源系統モデルを示す図である。
図8に示す電源系統は、発電機Gと500kVの外部電源およびそれから別れる所内電源が接続されている。所内電源は、常用母線および非常用母線と接続され、その下にはモータなど各種機器が接続される。非常用母線は、非常用ディーゼル発電機と接続され、さらに直流母線と合流してプラント計装系や安全保護系につながっている。
図8に示す電源系統を模擬するため、図9に示す部品表131には、変圧器、発電機、遮断器などの部品が機器部品データベース41に格納される。シミュレーション装置1の操作者は、この各部品を図8の結線図を参考にしながら接続し、電源系統モデルを構築する。なお、機器の接続関係に関するCADデータがある場合には、操作者が電源系統モデルの部品間の結線を手作業によってする必要はない。
図10は、発電機モデルにおける信号伝達の説明図である。
発電機モデルは、起動信号、短絡信号、異常状態信号を入力し、発電機起動状態信号、発電機停止状態信号、短絡状態信号を出力する。発電機モデルにおいては、短絡による異常と、物理的な故障などの異常状態による異常とが考えられる。起動信号がONであって、短絡信号が0(短絡なし)、異常状態信号が0(異常状態なし)の場合、発電機モデルは、起動状態信号1を出力する。短絡信号が1(短絡あり)の場合には、発電機モデルの連結先に短絡状態信号が伝播される。発電機モデルは、発電機起動状態信号および短絡状態信号を連結される他のモデルに渡す。
図11は、遮断器モデルにおける信号伝達の説明図である。
遮断器モデルは、遮断器遮断信号、短絡信号、異常状態信号を入力し、遮断器起動状態信号、遮断器停止状態信号、短絡状態信号を出力する。遮断器モデルは、入力信号がON(値が1)で、遮断器が「切」でなく、短絡信号が0(短絡なし)、異常状態信号が0(異常状態なし)の場合、遮断器モデルは、機動状態信号1を出力する。短絡信号が1(短絡あり)の場合には、遮断器モデルの連結先に短絡状態信号が伝播される。遮断器モデルは、遮断器起動状態信号および短絡状態信号を連結される他のモデルに渡す。
その他、インバータ、整流器なども同様にして模擬することができる。これにより、ある領域における機器に異常状態が発生した場合、他の電気機器(モデル)への異常状態の伝播が模擬される。
次に、ポンプなど流体のプロセス値を模擬するプロセス流体系モデルについて説明する。
図12は、プロセス流体系を模擬したプロセス流体系モデルを示す系統図である。
プロセス流体系モデルを模擬する場合、電源系モデルと同様に、部品表132に示すようなプロセス機器の部品が機器部品データベース41に格納される。シミュレーション装置1の操作者は、この各部品を実際の系統図を参考にしながら接続し、プロセス流体系モデルを構築する。例えば、ポンプモデルは、ポンプ部品により流量を計算し、タンクについてはタンク部品により液量、温度、成分などを計算する。
図13は、ポンプモデルの説明図である。
ポンプモデルは、機器部品データベース41を参照し、ポンプの入口圧力とポンプ回転数、流体の密度および出入口の水頭を入力することにより、出口の圧力および流量を求める。具体的には、ポンプの出口の圧力は、以下の式で求められる。
ここで、
P1:吸込み部圧力
L1:吸込み部高さ
P2:吐出部圧力
L2:吐出部高さ
W12:ポンプ流量
ρ12:ポンプ流体密度
ΔP12:ポンプヘッド
g:重力加速度
バルブモデル、配管モデルについても、機器部品データベース41に格納された圧力、圧損係数、弁開度などの状態変量から出口圧力などを求める。
タンクモデルにおけるタンク内の液にはk種類の成分が含まれているとし、液のk番目の成分は以下の式で計算できる。
ここで、
Mk:タンクの液のk番目の成分質量(kg)
Win,i,k:i番目の配管からタンクへ流入する液のk番目の成分質量流量(kg/h)
Wot,j,k:j番目の配管でタンクから流出する液のk番目の成分質量流量(kg/h)
Nin:タンクに流れ込む配管の数
Not:タンクから流出する配管の数
液の全質量M(kg)、全体積V(m3)は以下によって計算される。
ここで、
ρ:タンクの液の密度(kg/m3)
また、タンクの液温T(℃)は以下のようにして計算される。
ここで、
Cp:タンクの液の比熱(kcal/kg/℃)
Cpin,i:i番目の配管からタンクへ流入する液の液温(℃)
Tin,i:i番目の配管からタンクへ流入する液の液温(℃)
次に、ガス系モデルについて説明する。
図14は、ガス系を模擬したガス系モデルを示す系統図である。
ガス系モデル(ガス系)は、外気取り入れ口から配管、各部屋および弁、フィルターを通して、排風機によりガスを排気筒から排出させる。
ガス系モデルを模擬する場合、部品表133に示すような排風機、送風機、部屋、バルブなどの部品が機器部品データベース41に格納される。シミュレーション装置1の操作者は、この各部品を実際の系統図を参考にしながら接続し、ガス系モデルを構築する。例えば排風機については排風機部品により流量を計算し、部屋については部屋部品により液量、温度、成分などを計算する。
これら排風機、部屋、バルブについては、ガス系であるため圧縮性を考慮する必要が有るが、プロセス系のポンプ、タンク、バルブ部品とほぼ同様の計算となる。
図15は、配管モデルの説明図である。
配管は、番号1から2の間の領域であり、それぞれ番号1、2の密度、圧力を入力として、パラメータである配管断面積、長さ、圧損パラメータから流量を求める。
部屋における圧力は、気体であるため状態方程式によって計算される。
一方、水没などの異常事象が発生し、部屋の流路が閉鎖された場合、圧力として固定値を設定することになる。
ここで、
R:ガス定数
TG:ガスの温度
PMF:異常状態のときのガス圧力
これら異常事象の設定は、図7で説明した電気系の異常と同様に、部屋を異常領域として設定することにより実現される。
以上の通り説明したシミュレーション装置1は、第一の機能としての「プラントに含まれる機器の空間位置を考慮した異常状態のシミュレーションを行う機能」を実現することができる。すなわち、原子力発電プラントの異常状態を詳細に設定することができ、より現実に即したシミュレーションを用いた訓練を実施することができる。
シミュレーション装置1は、プラントに配置される機器や部屋の三次元CADデータ(機器配置データ)を用いることにより、機器の状態変量の他、位置情報を用いたより詳細なシミュレーションを実施することができる。
また、シミュレーション装置1は、ある機器や領域において発生した異常状態が、他の機器に及ぼす異常状態も模擬できるため、予め想定される範囲の事象に限られず、訓練員が習得できる技能や知識も多岐に亘る点で効果的である。
さらに、シミュレーション装置1は、共通であるコモンモードのエラーも自然に設定でき事象の理解・検証に役立てることができる。
次に、第二の機能である現場作業を考慮したシミュレーションにより運転員の訓練を行う機能(現場作業シミュレーション機能)について説明する。
まず、現場作業シミュレーション機能の大まかな流れについて説明する。
図16は、非常用D/Gモデル31を用いた現場作業訓練を説明するフローチャートである。
シミュレーション装置1は、設定された訓練内容に応じた事象をモデル化し、中央制御室2に配置された運転員に対して訓練を開始する。以下の説明においては、例えば外部電源が喪失し、非常用D/G4が起動した場合を想定した、非常用D/Gモデル31を用いたシミュレーションを例として説明する。なお、大きな事故時には、緊急時対策センター140との間で報告および指示の授受を行いながら現場作業員に燃料注入作業の指示を行う。緊急時対策センター140は、いわゆるオフサイトセンターであり、緊急時においては対策拠点となる施設である。
ステップS21において、シミュレーション装置1は、非常用D/Gモデル31において、非常用D/G4を起動する。ステップS22において、非常用D/Gモデル31の燃料残量は、稼働時間に応じて低下する。非常用D/G4の起動および燃料残量は、運転員が待機する中央制御室2へ通知される。
ステップS23において、運転員は、非常用D/Gモデル31に非常用D/G4への燃料注入の必要性が生じると、運転員は例えば電話を用いて音声で作業指示を行う。
ステップS24において、現場作業員は、作業指示に基づき実機での現場作業、または作業手順確認の訓練を行う。ステップS25において、現場作業員は現場作業が完了すると、例えば電話を用いて音声で作業完了報告を運転員に対して行う。
ステップS26において、作業完了報告がシミュレーション装置1に入力される。作業完了報告は、例えば本訓練の教官(補助者)を介してシミュレーション装置1に入力される。なお、中央制御室2の運転員が単独で訓練を行う場合(現場作業員がいない場合)は、現場作業員の作業完了報告を教官が行ってもよい。
ステップS27において、現場作業インタフェース13は、非常用D/Gモデル31に燃料の残量を設定する。ステップS28において、非常用D/Gモデル31は、燃料の残量を反映する。
この流れは、中央制御室2で開度が確認できない現場弁5、外部からの電源を確保するため接続される電源車6、および電源盤7、注水手段である消防車8、および消防車8が接続される注水口9についても同様である。このため、非常用D/G4以外の説明は、ここでは省略する。
次に、現場作業インタフェース13が現場作業モデル12に燃料や純水などの有限リソースの残量を設定する方法について説明する。
現場作業のシミュレーションにおいては、例えば、非常用D/Gモデル31の燃料体積は、以下の式で表される。現場作業インタフェース13は、体積の目標値と注入による供給量を設定すればよい。
ここで、
VOIL:非常用D/Gの燃料体積
VOIL,TARGET:非常用D/Gの燃料体積目標値
FOIL,in:非常用D/G燃料タンクへの燃料供給流量
FOIL,in,0:非常用D/G燃料タンクへの燃料供給流量設定値
FOIL,ot,j:j番目の非常用D/Gへの燃料供給流量
図17は、非常用D/Gモデル31の燃料タンクの燃料体積の変化を示すグラフである。
横軸は時間経過、縦軸は燃料タンク内の燃料の体積を示している。非常用D/G4が動作していれば燃料体積は消費と共に低下するが、十分な燃料の追加供給があれば増加する。燃料の供給操作は、燃料体積が目標値VOIL,TARGETになるまで行われる。燃料供給後も、同様に燃料の消費と共に燃料体積は低下する。
なお、非常用D/Gモデル31の燃料について説明したが、有限のリソースである純水タンクの水の消費量、SRV駆動用窒素ボンベの残量、空気計装ボンベの残量およびバッテリ残量についても同様である。
以上の通り説明したシミュレーション装置1は、第二の機能としての「現場作業を考慮したシミュレーションにより運転員の訓練を行う機能」を実現することができる。
すなわち、第1実施形態におけるシミュレーション装置1は、従来のシミュレーション装置のように、プラント内で発生する事象を訓練するのみならず、プラントの外部環境で行われる、いわゆる現場作業についても訓練を行うことができる。シミュレーション装置1は、苛酷な自然災害が発生した場合に備えて、有限のリソースをも考慮して訓練を行うため、訓練者はより現実に即したシミュレーションに基づいて訓練を行うことができる。
また、第1実施形態におけるシミュレーション装置1は、第一の機能である異常状態シミュレーション機能と、二つ目の機能である現場作業シミュレーション機能とを連携させることにより、より具体的な事象に基づいてシミュレーションを実施することができる。例えば、シミュレーション装置1は、異常状態シミュレーション機能で模擬された各種機器の異常状態を、現場作業の状況に反映させることにより、より体系的な訓練を行うことができる。
最後に、外部環境モデル14の詳細について、図面を用いて説明する。
図18は、外部環境モデル14を説明するための構造物の配置関係を示す説明図である。
原子力発電プラントは、原子炉建屋151、ドライウェル152、原子炉153、ウェットウェル154などの構造物を備える。プラントにおいて事故が発生した場合、放射能は、配管155、弁156、フィルター157などを通して排気筒158より外部環境へ放出される。放出された放射能は、プラントの周囲や各地域に設置されているモニタリングポスト159により検出される。放射能の放出は、プラントの損傷の程度や弁156の開閉状況によって変化する。
そこで、通常時においては、放射能の放出またはその恐れがある大規模事故が発生した場合におけるプラントの周辺環境を考慮した訓練が必要となる。例えば、プラントで電源を喪失した場合、原子炉153の冷却が不十分となる。冷却などが復旧しない場合には、格納容器のドライウェル152は、圧力が長時間にわたり上昇し、格納容器の健全性に影響が出る恐れがある。
そのため、ドライウェル152のベント弁156を開け、蒸気やガスを大気に放出する必要がある。このような場合、周辺環境に人などの生態系の存在の有無や、大気放出した場合の拡散方向などを判断して、ベント弁156を操作する必要がある。
大気拡散の計算は、例えば風下方向をxとして以下のようにして求められる。
ここで、
χ(x,y,z):点(x,y,z)における放射性物質の濃度
Q:放出率
U:放出源高さを代表する風速
λ:放射性物質の物理的崩壊定数
H:放出源の高さ(スタックからの高所放出あるいは原子炉建屋が破損した場合には原子炉建屋からの低所放出の両方を考慮する)
σy:濃度分布のy方向の拡がりパラメータ
σz:濃度分布のz方向の拡がりパラメータ
図19は、放射能の大気拡散モデルによる計算結果であり、外部環境への放出放射能濃度を示すグラフである。
放出放射能濃度は、プラントの周囲を示す地図上に等高線によって空間的な濃度で示される。このシミュレーション結果は、例えば中央制御室2に設けられた、シミュレーション装置1に接続された表示装置に表示されるなどして、運転員が確認することができる。この放射能の大気拡散の計算は、一例であり、より詳細なモデルを用いてもよい。なお、これら、放射能の大気放出を模擬するためには、燃料破損などのいわゆる苛酷事故を模擬する原子炉モデルが必要である。このモデルは、例えば公知技術(例えば、特開2000−338854号公報)を適用し、モデルを切り替えるなどして模擬する。
このように、シミュレーション装置1は、放射能の放出量の拡散を予測してプラントの運転操作の訓練を行うことができる。
なお、第1実施形態におけるシミュレーション装置1は一例であり、図20〜図22に示すように他の構成でもよい。
図20は、第1実施形態の第1の変形例としてのプラントシミュレーション装置の機能ブロック図である。
このシミュレーション装置1aが図1のシミュレーション装置1と異なる点は、現場に設置された機器類が訓練用に設置されたものである点である。シミュレーション装置1aを用いた訓練においては、訓練用に設置された機器類を用いて、非常用D/G4aの操作、現場弁5a操作、電源車6aの電源盤7aへの接続操作、消防車8a、可搬型ポンプ、給水車の接続操作を行う。
このシミュレーション装置1aは、例えば訓練用プラントなどであり、現場作業を行うための機器が配置されていない環境下で訓練が行われる場合であっても、模擬の現場機器を設置することにより本実施形態を適用できる点で効果的である。
図21は、第1実施形態の第2の変形例としてのプラントシミュレーション装置の機能ブロック図である。
このシミュレーション装置1bが図1のシミュレーション装置1と異なる点は、シミュレーション装置1bへの現場作業の完了報告が、現場作業員150により携帯端末151などの通信機器を用いた無線通信で行われる点である。
現場作業員150は、現場作業が完了すると、携帯端末151を用いてシミュレーション装置1bに無線で通信する。
図22は、第1実施形態の第2の変形例であるシミュレーション装置1bにおける非常用D/Gモデル31の燃料タンクの燃料体積の変化を示すグラフである。
図17と異なり、非常用D/Gモデル31は、燃料の供給過程を反映しないため、現場作業員から現場作業完了報告が通知されると、直ちに燃料体積を目標値まで増加させる。
このシミュレーション装置1bは、補助員としての教官が仲介する必要がなくなるため、訓練の負担を軽減することができる。
図23は、第1実施形態の第3の変形例としてのプラントシミュレーション装置の機能ブロック図である。
このシミュレーション装置1cが図1のシミュレーション装置1と異なる点は、シミュレーション装置1cは音声認識装置160を備え、現場作業員から運転員への作業完了報告を自動認識する点である。
音声認識装置160は、現場作業員から運転員への音声通話の内容を取得し、予め設定された作業完了報告が行われた場合には、現場作業インタフェース13に現場作業が完了した旨を通知する。図21のシミュレーション装置1bと同様に、補助員としての教官が仲介する必要がなくなるため、訓練の負担は軽減される。
[第2実施形態]
本発明に係るプラントシミュレーション装置の第2実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図24は、第2実施形態におけるプラントシミュレーション装置の機能ブロック図である。
第2実施形態におけるプラントシミュレーション装置(シミュレーション装置)201が第1実施形態と異なる点は、シミュレーション装置201内で現場作業をシミュレーションするため、現場環境機器モデル210が設けられた点である。第一の機能である異常状態シミュレーション機能を含む、第1実施形態と対応する構成および部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
運転員または緊急時対策センター140を対象とした訓練においては、現場作業員の存在および実際の現場作業は不要である。例えば、現場作業員の代行者は、運転員の指示を受け、適当なタイミングで作業完了を運転員に行う。しかし、訓練の負荷の低減と特定の対象者が訓練を行う観点から、シミュレーション装置201は、現場作業自体を模擬する。
現場環境機器モデル210は、現場非常用D/Gモデル204、現場弁モデル205、電源車モデル206、電源盤モデル207、消防車モデル208および注水口モデル209を有する。各モデル204〜209は、それぞれ現場に設置された非常用D/Gや現場弁などを、予め設定された条件で模擬する。
現場環境機器モデル210は、現場状態異常入力装置211および現場環境表示装置212と接続される。現場状態異常入力装置211は、現場環境機器モデル210が行う現場作業の模擬において、任意の異常を発生させるための入力を行う。現場状態異常入力装置211は、例えば補助者としての教官から入力を受け付ける。現場環境表示装置212は、現場環境機器モデル210が模擬する現場の状況を表示する。
現場環境機器モデル210から出力された作業完了報告信号は、現場環境モデルインタフェース213に出力される。現場環境モデルインタフェース213は、受信した作業完了報告信号を、現場作業インタフェース13に通知する。
現場作業シミュレーション機能の大まかな流れを、非常用D/Gに対する現場作業を例に説明する。
図25は、非常用D/Gモデル31を用いた現場作業訓練を説明するフローチャートである。
ステップS31〜ステップS33は、図16の起動ステップS21〜作業指示ステップS23とほぼ同様であるため、説明を省略する。
ステップS34において、補助者としての教官は、運転員から現場作業員に向けた燃料注入作業の指示を現場環境機器モデル210の現場非常用D/Gモデル204に入力する。ステップS35において、現場非常用D/Gモデル204は、現場作業としての非常用D/Gに対する燃料注入作業を模擬する。
ステップS36において、現場非常用D/Gモデル204は、現場作業を完了する。また、現場非常用D/Gモデル204は、現場作業の完了報告(作業完了報告信号)を教官(教官の端末220)へ送信する。教官は、運転員(中央制御室2)に対して作業完了報告を行う。
ステップS37において、現場環境モデルインタフェース213は、現場非常用D/Gモデル204が出力した作業完了報告信号を受信する。ステップS38において、現場作業インタフェース13は、現場環境モデルインタフェース213から作業完了報告を受信する。
ステップS39およびステップS40は、図16の残量設定ステップS27および反映ステップS28とほぼ同様であるため、説明を省略する。
次に、現場環境機器モデル210のうち電源車モデル206の動作の一例を説明する。
図26は、電源車モデル206の動作を示すタイミングチャートである。
横軸は時間、縦軸は電源車の速度、位置である。運転員により電源車配備が指示されると、電源車モデル206は現場へ向けて出発する。電源車モデル206は、出発後は徐々に加速し、目標位置、すなわち電源盤モデル207位置に近づくと一定速度になる。電源車モデル206は現場に到着した後、電源盤モデル207への接続を行う。接続が完了すると、電源車モデル206は運転員(教官の端末220)に対して作業完了報告信号を出力する。
次に、現場状態異常入力装置211により、異常状態が設定される場合のシミュレーションについて説明する。
図27は、異常状態が設定された場合の電源車モデル206の動作を示すタイミングチャートである。
図28は、現場環境表示装置212に表示される電源車モデル206の様子を示す表示例である。
図27は、電源車モデル206の移動中に異常事象が起き、電源車モデル206が目的地へ到達できなくなった場合を模擬している。
現場状態異常入力装置211は、電源車モデル206が出発した後、電源車モデル206が電源盤モデル207への接続ができない異常事象(MF:マルファンクション)を設定する(電源車異常MF投入完了報告)。MFは、例えば地震などの自然災害により、がれきや障害物が電源車の経路に散乱し、電源車が電源盤への接続ができない異常事象である。
すると、電源車モデル206は目的地へ到達できず、電源車モデル206(現場)からの報告が運転員(教官の端末220)に通知される(電源車異常報告)。運転員は報告された状況に応じて、次の対応としての判断・操作を行う。
電源車モデル206の動作は、コンピューターグラフィックなどにより現場環境表示装置212に表示される。地図上には、道路231、対象となる電源車モデル206、プラント232a、プラント232b、および山233や海234などの周囲環境が表示される。電源車モデル206は、移動に伴い位置などの情報が更新される。これにより、教官は、訓練の進展を容易に把握することができる。
このように、シミュレーション装置201は、現場作業をも現場環境機器モデル210を用いてシミュレーションすることにより、現場操作においても種々の異常事象を考慮した訓練を行うことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。