近年における建物外皮、特に住宅の断熱気密化の高度化は、ほぼ限界が見えつつあると言われる。また、一方では多量なエネルギーを必要とする建築物の空調機器の効率にも限界が見られ、建物と設備とが一体となった省エネ化が進められている。
これまでの住宅の空調と言う観点から見れば、住宅の高断熱・高気密化を基礎とした屋内温熱状況の均一化とその代表格の設備であった従来の全館空調方式と言うエネルギー多消費型温熱環境の形成方法を経て、低炭素化社会とゼロエネルギーを強力に指向し、更にはエネルギーを生産する創エネルギー建築へと進んでいる。この場合の空調方式には省エネな方法として全館空調方式ではなく、各室個別型の空調が薦められている。全館空調のように直接使用しない空間をもこまめに空調すると言う無駄をなくすことが目的である。必要なところに必要なエネルギーを効率良く使用する。そのために、住宅では各室に高効率なルームエアコンを設置して、居住者に合った個別の空調が一案として提案され実施されている。
だが、各室個別エアコン方式は部屋間の温度差や、それによるヒートショックを解決するものではないことも指摘されている。嘗ての住宅性能が十分ではなかった頃と比較すればヒートショックの原因である温度差の程度は小さいものの、冷暖房された部屋から出れば、温度差を感じる嘗ての類似した屋内の温熱環境になりかねない。室間の温度差を解消するためには、ある程度の全館空調的な室内温熱環境的工夫が必要である。
また、各室個別エアコン空調の場合には、換気は別ものとして、別途に扱われる。しかし、換気は時として室内温熱環境にマイナスに作用することも少なくなく、室内の空調と共に換気による肉体的、感覚的負荷の解消も重要である。換気は、多くの場合、熱負荷として現れてくる。
よって、これからの住宅の室内温熱環境に必要なことは、性能が向上した住宅建築において、属性の異なる成員である居住者の健康と快適性を確保、維持すべく、不完全な換気になりやすい従来の家庭用全館空調システムに依存することなく、健康増進に有用である換気を主としつつも、換気の不快さの欠点をエアコンを用いてなくし、且つ、エアコンの吹き出し空気の不快さをも抑制する、室内のベーシックな全館的温熱環境を作ることにある。
本発明においてはダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンがベーシックな全館的空調のために用いられるが、それぞれの機器の特質上パッケージエアコンと換気とが同一ダクトにより空気を室内に供給するとは限らない。むしろ、パッケージエアコンと換気とは、それぞれ別の工夫を用いて個別に室内にそれぞれの空気を供給するのが一般的であり、換気は外気新鮮空気の室内への給気と排気、またエアコンは室内の空気を循環させて加熱、冷却、除湿、場合によっては加湿を行うと言う機能分化が図られている。それは、一般的に行われているように、住宅におけるルームエアコンに代表されるような冷暖房と全般換気は、多くの場合それぞれ別個に扱われてきたことと同様である。
一方では、従来から冷暖房と換気とを同時に一体的に行う方法として、全館空調方式がある。全館空調方式においては、室内の空気を室内機に還流、循環させ、還流した空気と換気のための新鮮空気である外気とを混合して、混合空気の加熱と冷却、又は除湿と加湿を行って冷暖房の熱負荷を空気によって除去することが目的である。クリーンゾーンと言われる居室に給気し、大部分を再度空調室へ還流させ、また一部の空気をトイレや洗面所などのダーティーゾーンと言われる空間から屋外へ排気する方法が採られている。ただし、全館空調方式の場合にも一般的には局所換気が併用されている。また、ビル建築等においては外周壁部周辺のぺリメーターゾーンに空調された空気を送り、インテリアゾーンで換気する方式が一般的である。住宅の場合にもこの考え方は踏襲されており、換気でのクリーンゾーンと熱負荷でのぺリメーターゾーンがラップすることが多い。
換気の面からすれば、全館空調方式では、外気は、熱効率を考慮して熱交換換気扇を介して排気との熱交換を経て、室内機内へと送られるのが一般的である。
熱交換換気扇からの給気(SA)は、熱交換換気扇の給気口とエアコンの室内機の吸い込み口とを結ぶダクトを通して室内機に入る。エアコンの冷凍サイクルが稼働している場合には室内から取り入れられた空気と室内機に入る前に混合されて加熱、冷却されてダクトで各室内に搬送される。この場合、熱交換換気扇を経由してきたSAの温湿度はエアコン室内機内の熱交換器の温度で決定されることになる。現状の空調機では、熱交換換気扇を経たSAと室内空気とを混合した後にエアコン内の経路を通すために、各室の給気グリルからの給気吹き出し温度は、冷房時には低すぎ、暖房時には高く乾燥した空気が供給されることになる。吹き出し温度は居住者にとっては快不快のみならず居住者の身体への負荷を左右する重要なファクターである。特に女性や高齢者、非健常者がエアコンの吹き出し空気に不快と苦痛を感じる原因となっている。
一方、冷房時の場合には、ダクト、給気グリルなどでの結露の問題が生じやすい状況を作る。一般にエアコンの吹き出し温度は、冷房の場合には室温に対し10℃から15℃低い温度で吹き出され、概ね吹き出し温度は平均的には13℃と言われる。ダクト内の通過中に温度が上昇するとしても、結露を起こしやすく、繰り返す結露はカビの発生を招きやすく、建築物の耐久性の劣化や不衛生へと通じる。
また、エアコンの冷凍サイクル・ヒートポンプが停止している場合でも、エアコンは送風のために室内機は稼働している場合もある。熱交換換気扇による送風とエアコン室内機の送風との2重の送風動力を用いた換気が行われていることになる。この場合、エアコンの送風機が熱交換換気扇の送風をある意味では邪魔していることになる。結果的に、換気空気の送風のために2重の動力源を使用することになる。そして多くの場合は、エアコンの送風量は熱交換換気扇で得る必要換気量よりも大きく、謂わば、エネルギーを使って無駄な室内の空気の撹拌を行っているとも言える。
この様な全館空調方式の場合の室内温熱環境の快適な形成と維持に必要な冷暖空気の風量は、換気の必要風量をはるかに超える量となり、例えば換気必要風量の10倍以上の風量が必要であることは珍しくはない。1時間当たりの風量で表せば、必要換気量を、換気対象空間で0.5回/時間とすれば、室内で汚染された空気を4.5回以上、場合によっては10回以上も再利用して室内空気の再加熱、再冷却を行っていることになる。室内空気の汚染と新鮮空気の瞬間分散を前提とすれば、室内空気の汚染は一定の濃度に維持されることになるが、現実には瞬間分散などはありえず、汚染種類や汚染度の異なる室内空気が空調機内に集められ、混じりあい、室内に給気される空気は、謂わば複合汚染的な様相を呈する。屋外からの新鮮空気は、それらの中で僅かな汚染の希釈をするに止まり、室内へ新鮮空気を送り込むと言う機能は薄らぐ。計算上の換気と実生活上の換気との乖離が生じている。冷暖用の送風量を削減して、不必要で無駄なエネルギー消費を抑えた方法が必要となる。
一方、前述したように換気と冷暖房は多くの場合、別々に扱われている。給排気が別々な非ダクト式第1種、また、第2種、第3種の換気方法による給気は、外気温度、湿度の状態である、と言うより外気汚染物質なども殆どそのまま含んだ外気そのものである。
給気が外気条件に左右される現象は、熱交換機能を併用するセントラル式第1種熱交換型換気方法においてもある程度は見られる。例えば、室内温熱状態が快適な状態にあっても、夏季には室内よりも高めの温度・湿度の給気となり、冬季には室内の温湿度よりも低めの給気が行われる。第2種、第3種の換気方式との程度の差は大きい場合もあるが、外気が持つ温熱的問題から開放されて給気を行っているわけではない。不快を感じさせる傾向を持つ室内温度との差のある外気の給気は、不快さをもたらす点では全館空調の給気と程度の差こそあれ好ましいものではない。
ところで、近年の住宅建築の断熱性、気密性は10年前と比較すると格段に高まり、また、普及しつつある。その様な背景の中で建材などから放散される揮発性有害化学物質の規制を目的に新築住宅の換気設備の設置の法的義務付けが行われた。しかし、義務付けは、換気を単に室内汚染物質の元凶と考えられたホルムアルデヒドの排出のレベルに止まると言う形骸化した換気の考えを広め、健康的で快適な換気の追及は薄らいだように見える。だが、一方では、換気を健康や快適性と関連させて再度捉え直そうとする動きも散見されるようになった。
換気設備の設置の法的義務付け以前は、むしろ先進的な住宅建設においては、健康や快適性と関連させて捉えようとする議論が活発であり、単に必要換気量で換気の課題を終わらせると言うことは、むしろ少なかった。その意味では、本来の換気のあり方に戻りつつあると言える。
この様な換気に関する本発明の基本的スタンスは、全館空調のように空気質を問わずに温熱を主にして、換気をその中に混ぜ込むように取り入れると言うのではなく、換気を主にしてそこに温熱的な要素を絡ませると言うものである。あくまでも換気が主であり、温熱空調は副である。その様なシステムにおいては、そのシステムのみでは温熱的満足度が薄らぐ場合も多々想定されるが、他の温熱機器との併用で、省エネな効率の良い換気と涼温給気が可能である。
また、本発明は、主給気ダクトを分岐させてゆく通常のダクト方式においても適応可能であるが、空気を媒体としての冷暖房エネルギーの合理的移動経路と換気のための合理的室内経路の確保は、本発明を実現するためには必要である。
背景技術に既に述べられているが、本発明が解決しようとする課題は、常に新鮮空気を供給する快適な換気と、今後益々推奨されるであろう各室個別のエアコン設置により生じるエアコンの吹き出し空気の不快さの改善や屋内の温度分布のムラや、室間の温度差の抑制を可能にする全館的なベーシックな温熱環境とを同時に作り出す装置を提供することにある。
言い換えれば、性能が向上した住宅建築において、属性の異なる成員である居住者の健康と快適性を確保、維持すべく、不完全な換気になってしまう従来の家庭用全館空調システムや各室個別エアコン方式のみに依存することなく、健康増進に有用である換気を主としつつも、換気の不快さの欠点をなくし、且つ、エアコンの吹き出し空気の非健康さを改善し、屋内のベーシックな温熱環境を作ることにある。
ここに言うベーシックとは、温熱負荷の大きい時などには常に十分に満足が得られるわけではないが、しかし、ある程度の温熱的な環境を作り出しており、負荷の大きい場合には他の温熱機器の併用により十分に負荷に対処出来る可能性を有すると言う意味もある。
ベーシックな冷暖房及び除湿の効果の一つに、更に多くの冷暖エネルギーが個々の空間で必要な場合には、冷暖房の速やかな立ち上がりが可能であることが挙げられる。それは、全館空調が、居住者が居なくとも家全体の最大温熱負荷を常に負って対処している非効率的で、非省エネ的な状態とは異なる。その意味では、本格的ではないが、待機的な冷暖房と言っても良い。
温熱的配慮が出来ていない状態から一気に快適な冷暖房に立ち上げるには、相応の設備を事前に設置しておかなくてはならないし、また、最大負荷を基準とした場合も同様であり、日常運転では常にオーバースペックとなる。更には、立ち上がりまでは不健康で、非快適な状態に居なければならない。多くの家庭用温熱機器は、その様な状態を前提にして設計されている。
オーバースペックや立ち上がりの悪さ等の状態を回避するためには、全館的なベーシックな冷暖房はその解決策となる。全館冷暖房とは異なり、必要のないところは本格的な冷暖房を行わず、屋内全体に大きな温度差のない範囲で、謂わば待機的に冷暖房しておけば足りる場合が多い。冬季の無暖房室の結露の問題や夏季の無冷房室の熱気ゴモリなどは十分に対処可能である。更に居室の何処にでも常に必要とされる換気と融合した場合には、その効率と効果は増す。
本発明では、その様な謂わば待機的に冷暖房されている状態を涼温と呼び、涼温を可能にする一つの熱運搬手段として換気とを絡ませて「涼温換気」と呼んでいる。
性能が格段に進歩した住宅が普及し始めた近年において、換気と冷暖房及び除湿の最良の方法の一つを提供すること、及び従来の一般的な全館空調のメンテナンスの煩雑さと高額な費用の低減を可能にすること、そして換気空気のみの送風のための2重の動力源とそのエネルギーの無駄の排除、室内への給気温度のマイルド化である。
ところで、換気用新鮮空気と室内循環空気とを、エアコン室内機の吹き出し口以後で混合することは一般には行われていない。例えば夏季のエアコンから吹き出る冷気と換気用新鮮空気SAとをエアコン室内機の熱交換器以後で混合することは行われていない。夏季においてエアコン室内機からの冷気と換気用の新鮮空気とを混合することはチャンバー内部の混合部での結露を発生させる危険性があるからである。
室内機熱交換器コイル温度が低く、例えば冷媒の蒸発温度に近い2℃〜3℃の吹き出し空気が出ると、室内機吹き出し空気は、100%近い相対湿度になっている。除湿が室内機の熱交換部で行われている時も同様な湿度である。また、換気用新鮮空気も絶対湿度が高い場合もある。その様なエアコン室内機からの送風量と換気用新鮮空気のチャンバー内送風量との比によっては、チャンバー内混合部で結露が発生することはあり得る。本発明においては、エアコン室内機の吹き出し空気量と熱交換器を経た換気用新鮮空気量の比は、10対1から4対1の間にある。
本発明では、夏季の外気の絶対湿度を熱交換器により低下させて換気用新鮮空気SAとしている。外気をそのままを換気用新鮮空気とはしていない。また、エアコン室内機の吹き出し温度も10℃以上に維持していることが好ましい。それでもエアコン室内機の制御方式等により混合部が飽和水蒸気状態になり結露が生じることがある。その様な場合は、チャンバー内面に付着した極めて微小な結露水がチャンバー内の気流により瞬時に蒸発して、水滴としては落下しないようにすることが十分調整可能である。
よって、本願の技術が可能となるためには、ある程度の断熱、気密の性能を持つ建物で、且つ、セントラル式第一種熱交換型換気方式を用いる場合を前提としている。
本願の課題を解決する手段の前提は、住宅全体の1秒当たり、1K差での熱貫流を床面積で除した熱損失が2.7W/平米K以下であり、気密性能C値が2以下で、且つ、セントラル式第一種熱交換型換気方式を用いる住宅を対象としている。換気が計画通りに行われるには気密性が必要であり、また、排気の熱回収と計画性の確保の観点からセントラル式第一種熱交換型換気方式は、有効である。更に、本願の課題である換気の温熱的目的を達成するには、断熱・気密性が必要である。換気方式と住宅建築の断熱・気密性能は、謂わば一体化していると考える。
本願の目的は、セントラル式第1種熱交換型換気扇から給気される空気とダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンから吹き出される冷暖空気とをエアコンの吹き出し口以降に設けられたミキシングチャンバーやミキシングダクト内で混合して換気対象空間に給気することにより、換気を含めた給気の不快さの欠点とエアコン吹き出し空気の不健康さ、不快さを抑制し、もって室内のベーシックな温熱環境を作ることにある。
本発明の涼温換気とは、換気と冷暖房の二つを意味すると言うよりは、換気の給気が温かく、又は涼しく、夏季には除湿された給気であることも意味している。
その手段を詳しく説明する。
本発明に用いるエアコンは、市販のダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンであり、室内機と室外機を分離したヒートポンプである。本発明においては当該パッケージエアコンの吸い込み口は室内空気のみを給気する。熱交換換気扇を経た換気のための新鮮空気SAはエアコンの吸い込み口には吸気されない。
SAは、24時間の換気の必要性に基づき、エアコンと室内に送風を行う主ダクトとの間に設けられたミキシングチャンバー内に24時間常時送られる。
エアコンの室内機が稼働している場合には、ミキシングチャンバーでエアコンの吹き出し空気と新鮮空気とが混合されて混合空気が作られ主ダクトへと送られる。また、エアコン室内機が稼働しておらず、ファンも停止している場合には、新鮮空気のみがミキシングチャンバーを経由して主ダクトに送風される。
主ダクトに換気のための新鮮空気であるSAのみを送るための工夫として、本発明ではエアコン室内機の吸い込み口に逆流防止弁(チャッキダンパー:CD)を設けている。室内機のファンが稼働し室内空気を吸気している場合にはCDは室内機の吸引力により開放している。この場合には室内機の熱交換器が作動して、冷気か暖気のいずれかを作り、ミキシングチャンバーでSAとの混合空気が作られ、主ダクトへ送風している。
ファンが停止している場合、例えば除湿時の間欠運転時やエアコンを使用しない場合などには、CDは閉じている。CDが閉じて室内空気を室内機に入れないのはCDの自重による閉鎖もあるが、停止することのない熱交換換気扇による外気新鮮空気の給気(SA)で生じる静圧がエアコン室内機内に作用してCDを閉鎖するためである。エアコン室内機が停止しているにもかかわらず、CDが開放していれば換気のための新鮮空気は、抵抗の小さなエアコン室内機の吸い込み口から出て行き、抵抗の大きな換気用ダクトには十分に新鮮空気が行かず、結果として計画されている換気が出来ないことになる。
エアコン室内機が漏気を無視し得るほどの気密性があれば換気はエアコンの存在に関係なく行われる。エアコン室内機の内部には通風はなく単に熱交換換気扇によるSAのための静圧がかかるだけの状態となり、換気は換気計画通りに行われる。
これにより、換気のために、従来の全館空調のように室内機と熱交換換気扇との2重の動力を用いた送風による換気はなくなり、換気扇のみによる換気を行う合理的で経済的な換気が可能となり、省エネにも大きく貢献する。
エアコンの室内機が停止している期間は、室内機に空気が通らないことはメンテナンスの意味からも重要である。室内空気には多くの浮遊物質が含まれているのが一般的であり、それが室内機内部を通過し、室内機の熱交換器も通過することによって室内機内に汚れが付着する。特に熱交換器部のコイルや細かなフィンには汚れが堆積しやすい。エアコンが停止し換気のみが必要な期間が長ければ長いほど、エアコン室内機と換気とを分離する必要があることは明らかである。単に換気ダクトと室内空気の室内機の熱交換器以前に混合すること、そしてそのために生じる室内機のファンの機械的都合からファンを稼働させることは、省エネの観点からも、メンテナンスの観点からも有益なことではない。
本発明においては、ミキシングチャンバーのエアコン室内機と熱交換換気扇のSA、及び室内への主ダクトとの関係は重要である。パッケージエアコンの吹き出し口と室内への送風を行う主ダクト口との間に、エアコン室内機から吹き出される冷暖気と、熱交換換気扇から送られるSAとを混合するミキシング・チャンバー又はミキシング・ダクトが設けられている。ミキシングチャンバー又はミキシングダクトによって、エアコンから吹き出される冷暖気と熱交換換気扇からのSAとの混合空気が作られ、主ダクトを通して室内に送り込まれて換気と冷暖気の室内への供給が同時に行われる。
本発明の混合空気は、エアコン室内機の吹き出し空気と換気の新鮮空気SAをマイルド化したものである。特に、冷房時の給気温度は不快感や身体への負荷の回避から重要である。エアコンからミキシングチャンバー内に吹き出される空気温度は、冷房時には概ね10℃から15℃で、平均13℃と言われるが、室内機の熱負荷の状態によっては10℃以下の空気が吹き出されることもある。送風時に室温により冷気の温度が上がるとしても断熱ダクトによりさして上がらない。しかし、多くの場合には、室温と外気、全熱交換換気扇の熱交換素子の交換率に依存するが、ミキシングチャンバーに熱交換換気扇からのSAを混入することで温度を約5℃上げることも可能であり、実際に20℃前後の空気が室内給気グリルから出し得る。
また、このことにより室内の温湿度条件にもよるが、ダクトや給気グリルの室内側での結露発生の抑制に非常に有効であるとともに、エアコン室内機の室内の除湿作用もあいまって、結露が生じにくくなる方向になる。繰り返す結露はカビの発生を招きやすく、建築物の耐久性の劣化や屋内環境の不衛生へと通じるが、本発明はその害を回避することが可能である。
本発明のミキシングチャンバーにおいてエアコンの室内機からの吹き出し空気と熱交換換気扇を経た換気のための新鮮空気SAとにより混合空気が作られるためには、両方の空気が適量にミキシングチャンバーに送風可能、換言すれば押し込み可能でなければならない。
そのためには、ミキシングチャンバーへの送風が、パッケージエアコンの室内機及び熱交換換気扇のそれぞれのファンのチャンバー側の全圧がチャンバー内の静圧よりも大きな全圧を有するファンにより行われ、且つ、パッケージエアコン及び熱交換換気扇の個々のファンの送風時の静圧がチャンバー内の静圧に略等しい状態でチャンバー内の通過風量を確保されなければならない。ミキシングチャンバーの静圧に対してどれほどの全圧が必要かは送風量による。
例えば、熱交換換気扇を経た新鮮空気SAが混合時のミキシングチャンバーに入り得るためには、機外静圧ノッチのP-Q曲線を左上方に移動した状態の風量と全圧でバランスを取ることになる。風量の調整過程は、熱交換換気扇単独で供給される新鮮空気SAの風量設定後に、パッケージエアコンの使用風量設定を行い、それによるミキシングチャンバー内の静圧を基準として再度熱交換換気扇の機外静圧を切替ノッチで調整し必要換気量を確保する方法もある。そして、そして必要な場合にはこのプロセスが繰り返されて必要換気量に収束することになる。
なお、エアコンからの吹き出し風量は換気のためのSAの風量に比較して、数倍大きくなるように設定される。どれほどに大きく設定されるかは、熱負荷とその処理率の設定により決められる。本発明による涼温換気の構造においては、最大熱負荷をそのまま処理する発想はない。
本発明のミキシングチャンバーの構造は比較的簡単である。ミキシングチャンバーであることからチャンバー内の圧力に耐え得る構造であることは当然であるが、一般の市販のパッケージエアコンの全静圧が200Pa程度であれば、気密を取ることも従来技術で十分可能である。また、エアコン室内機の低温な吹き出し空気と熱交換換気扇からのSAの混合は、ミキシングチャンバー内・外での結露の危険性を予想させる。そのため、ミックスチャンバーやチャンバー内のSAのノズルは断熱性が確保される必要があるが、エアコン吹き出し温度が平均で10℃以上あれば、対策は困難ではない。
むしろ課題となるのは、ミキシングチャンバー内の空気の流れを決めるチャンバー内の空間の構造である。本発明に用いられるミキシングチャンバーにおいては、エアコンの室内機からの吹き出し空気が入るミキシングチャンバーの開口部が、パッケージエアコンの吹き出し口断面積及び形状と略等しく、且つ、チャンバー内に熱交換換気扇からのSAの給気ノズルが突出し、その給気ノズルは断熱性が維持されており、且つ、ノズルの開口部がチャンバー内のパッケージエアコンの吹き出し空気の流れ方向に開口しており、また、断熱性を有するミックスチャンバーの形状がノズルの開口部近傍でチャンバー内の空気の流れ方向に直角の断面積を主ダクトの断面積に絞り込むレジュース部分を有することを特徴としている。
チャンバー内に熱交換換気扇からのSAの給気ノズルが突出することは、チャンバー内の空気の流れ方向に直角な断面積を減少させることになり、減少した断面では風速が増し、静圧が低下する。更に、ミックスチャンバーの形状がノズルの開口部近傍でチャンバー内の空気の流れ方向に直角の断面積を主ダクトの断面積に絞り込むレジュース部分を有することから、その部分での静圧も低い方に作用する。そして、ノズルの開口部がチャンバー内のパッケージエアコンの吹き出し空気の流れ方向に開口していることにより、熱交換換気扇からのSAがチャンバー内の最大静圧を受けけることなく、より低い静圧に対抗してチャンバー内に入り得ると言う吸引的作用をもたらしている。吸引的作用は、気流に直角な断面の縮小による一種のベンチュリー効果であり、チャンバー内で場所により静圧の変化が生じていることによる。
なお、ノズルの開口部がチャンバー内のパッケージエアコンの吹き出し空気の流れ方向に開口していることにより、エアコン室内機の吹き出し空気がノズル内に動圧により侵入することを防ぐことは言うまでもないが、このこともSAを送るノズル内部での結露を防止することに貢献している。
また、本発明でのミキシングダクトを用いた場合にもミキシングチャンバーと同じようなことが言える。エアコン室内機からの吹き出し空気と熱交換換気扇からのSAとの混合、また、換気のみの送風機能はミキシングチャンバーと同じである。混合部の形状も換気用SAの風量よりもエアコンからの吹き出し風が大きいことを利用したベンチュリー効果による吸引的作用を利用している。
ミキシングダクトのミキシング部が、パッケージエアコンの吹き出し口から連続する断熱ダクトと、熱交換換気扇からの換気用新鮮空気SAの断熱ダクトとの接合部の内角が鋭角となっており、且つ、接合部においてパッケージエアコンの吹き出し口から連続する断熱ダクト断面積を縮小させるように断熱性を持つ給気ノズルで構成されることを特徴としている。
本発明は、主給気ダクトを分岐させてゆく通常のダクト方式においても適応可能であるが、これからの住宅の室内温熱環境に必要なことは、性能が向上した住宅建築において、属性の異なる成員である居住者の健康と快適性を確保、維持すべく、不完全な換気になりやすい従来の家庭用全館空調システムに依存することなく、健康増進に有用である換気を主としつつも、換気の不快さの欠点をなくし、且つ、室内の待機的なベーシックな全館的温熱環境を作ることにあると考えれば、空気を媒体としての冷暖房エネルギーの合理的移動経路と換気の合理的な室内経路の確保は、本発明を実現するに当たり必要である。室内換気経路を形成するためには、給気グリルと排気グリルとの位置関係が決定的に重要である。
その様なダクティングの方式としてセントラルダクト方式があり、それとの組み合わせが提案出来る。従来のセントラルダクト方式では、空気を媒体としての冷暖房エネルギーの合理的移動経路の観点がなかった。しかし、セントラルダクトを用いれば、換気の室内経路と給気の持つ冷暖エネルギーの屋内での消費の経路とが一致した、合理的で効果的な涼温換気が可能となる。
本発明と従来技術との関係
本発明と従来の全館空調との異なる点は、一般的な全館空調方式ではエアコン室内機の吸気口又はそれに類する場所で熱交換換気扇からの換気のためのSAと室内空気とを混合して、エアコン内の熱交換器を通過させて吹き出すのに対して、本発明ではエアコン室内機が吸気する空気は室内空気のみであり、吹き出された空気が熱交換換気扇のSAと室内機の吹き出し口と室内に送風する主ダクトとの間に設けられたミキシングチャンバー又はミキシングダクトで混合されることにある。
単にエアコンの利用効率や、単位体積当たりの空気の熱容量を大きくするならば、可能な限りのエアコン室内機が吸気した空気を加熱、冷却する方が効率は良い。つまり、エアコン室内機の吸い込み口を通過する空気は、室内空気と換気用新鮮空気SAの両方をエアコン室内機の熱交換器に通した方が効率が良い。しかし、その様にして得られるエアコンの吹き出し空気の温熱的不快さは周知のことである。
本発明は、熱交換換気扇を経た換気用給気をエアコン吹き出し空気とを混合することによって、両方の熱的不快さを抑制して、且つ、温熱負荷を全館にわたり緩和すして、ベーシックで快適な温熱環を作り出すことを目的としている。
よって、本出願において先ず先行技術として取り上げたのは、本発明と同じようにエアコンの吹き出し口以後の室内方向に向かう空気と換気用のSAとの混合する類の先行技術である。
エアコンから吹き出された空気に他の空気を混合することによって「空調空気の吹出温度と吹出風量の自由な設定を可能」とする提案が「空調装置」(特開平9−303809)で示されている。当該出願では、普通型のルームエアとエアミキシングチャンバーと及びクロスファンが必須要件になっている。本発明と異なるところはエアコンの種類が本発明ではダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンでありそのために室内機の吸気吸い込み口、吹き出し口の関係からエアミキシングチャンバーからの送風に当該出願のように新たなクロスファンを必要としない点が挙げられる。当該出願でのエアコン内のファンはダクト利用を可能にするような静圧の高いファンではなく、ルームエアコン用クロスファンである。また、混合される空気は、室内空気であり、本発明に示す熱交換換気された新鮮空気である換気用給気SAではない。よって、当該出願の空調空気の吹出温度と吹出風量の自由な設定を可能とする方法と本発明とは明らかに異なる。
先行技術の一つとして、換気装置と空調装置を結合させた換気空調装置を床下空間に設置し、換気と空調の空気の流路を流路切替弁を用いて冷暖房と換気とを行うことを目的とした特開2010−243075号公報(特許文献1)に記載の換気空調システム及び建物がある。定性的記述が多く、換気空調装置のハードな部分、特に流路切替弁が不明であるが、換気を空調と組み合わせる考えは、本願と似ている。しかし、前述したように、必要換気風量と必要空調風量の関係や、また、当該出願の効果に関しての記述はあいまいである。更に、床下空間に設置することを前提条件としており、前提条件を利用することにより、建築物の暖房効果や室内空間でのダクトレスな換気を述べている。更には、熱交換に関しての言及もない。当該出願の換気機器と空調機器とを結合させると言う目的は本願と似ているが、クレームに見る着想や手段は、本発明と全く異なるものである。
また、室内への換気の給気口をエアコンの吸気口近傍に設置して、換気の給気をエアコンに吸気させて、換気の給気を冷やしたり暖めたりする案が特開2003−227642号公報(特許文献2)に記載の換気装置に見られる。しかし、当該出願では換気の給気がエアコンにどれほど吸気され計画的に加温、冷却された空気が供給されるかは甚だ蓋然的である。また、エアコンの吹き出し空気はダクトを経由して全般換気を行うのではなく、直ちに室内に吹き出され、エアコンの守備範囲のみの作用となっている。当該出願に対し、セントラル式第一種熱交換型換気方法とミキシングボックスを必須とする本願では、換気の給気の空気をエアコンから吹き出された空気とSAの空気とを混合し、且つ、エアコンの作用範囲をルーム的な範囲を超えて、ダクトを通して全館的なパッケージエアコンの対象範囲を拡大するものであり、当該出願とは異なる。
更に、換気のために導入する外気に清浄と調湿を行い給気として用い、室内に給気する際に給気口の上方近傍に設置されたエアコンが吹き出す温風又は冷風を空中で混合することにより、換気の給気の温度を制御する案が特開2000−205592号公報(特許文献3)に記載の換気装置に示されている。換気の給気とエアコンの吹き出し空気の混合は、前掲の特許文献2(特開2003−227642号公報)に記載のものとは異なるが、空中混合であることから、換気の給気の温度調整は、不安定さが伴う。また、当該出願は、給気とエアコン吹き出し空気との混合と言う点に関しては似通っているように見えるが、本願が前提とするセントラル式第一種換気方法やミキシングボックスを欠いており、換気の給気温度の制御方法や換気方式を異にしている。
エアコンの吹き出し空気と室内又は床下空気とを混合する案も見られる。特開平10−292924号公報(特許文献4)に記載の空調装置は、腰高近くに設けられた壁掛けエアコンをキャビネット内に格納し、斜め下方に吹き出されるエアコンの空気に、室内又は床下の空気を斜め下方から上方へファンで送風して気流の方向を明確に作ることにより、エアコンから吹き出される気流方向を変えようとしたものである。当該出願は、エアコンの吹き出し空気を他のファンにより送風と混合を行う点では本願と異なり、また、換気のためのSAの空気ではない。混合が本願のようなボックス外のオープンな空間で行われており、且つ、混合後の気流方向を問題としており、混合後の空気の温度などは混合の目的としては捉えられていないなど、本発明とは異なる技術である。
また、壁掛けエアコンを利用してミキシングチャンバー(空調機室と称している)を設けた先行技術も見られる。本発明の市販のパッケージエアコンとは異なり、市販壁掛けエアコン利用したものがある。エアコンを断熱材で囲われた空調機室の中に設けて、空調機室でエアコンのリターン空気と熱交換換気扇の給気を混合し、混合空気を空調機室に設けた個別のファンでダクトを通して個別に室内の冷暖房を図ると言う発明(特開2011−174674号公報(特許文献5)に記載の空調システム)がある。当該発明は、謂わば従来の全館冷暖房器の室内機の冷凍サイクル機構部分をエアコンに置き換えて、断熱ボックスである空調機室内でエアコンを稼働させ、別途に断熱ボックス壁部に多数の送風器と各部屋へのダクトを個々の送風機ごとに設けて各室に給気すると言うものである。
空気の混合に関しては、当該出願では、換気用外気と室内空気とを壁掛けエアコンが設置されている空調機室に入れて混合する。熱交換換気扇からの給気と室内空気、エアコンからの吹き出し空気との関係は明確ではない。エアコンの熱交換器を通過する空気はエアコンの室内空気であるのか、そうではなくて、熱交換器から給気される空気であるのか、又は、それらの混合空気であるのかは不明である。なぜなら混合経路が本発明のように明確にはなっておらず、空調室内での空気の混合が十分に行われず、室内空気、エアコン吹き出し空気、換気用空気がショートカットして個々の送風機に吸い込まれることは十分に考えられる。つまり、空調機室と称される一種のミキシングチャンバーにおける混合空気の性状は、本発明のように明確な混合空気とは限らない。エアコン吹き出し空気と熱交換換気扇の給気をノズルで誘導し、ミキシングチャンバーで混同を図る本発明でのミキシングの手段と当該出願のミキシングとは方法が異なると言える。
混合が不完全になりやすい原因は、空調室内の空気を混合するための動力が静圧が低いエアコンのクロスフロー・ファンと静圧が高い給気送風機とによって構成されることにある。給気送風機が必要となるのは、壁掛けエアコンのクロスフローファンでは静圧が出ないためにダクトを通して各室に給気が出来ないことと、更に静圧が大きなファンではエアコンのリターン空気と熱交換換気扇の給気とが圧力的に競合し、給気送風機はそれらの競合を回避出来る空気量を常に空調室から引かなければならないからである。本発明においては、当該出願の必須要件である給気送風機を必要としない。更には、空調室と言われるミキシングチャンバーの構造や位置大きさなども全く異なるものである。
全館空調と全般換気との関連において、換気用空気と空調用空気とを別途にダクトを通してそれぞれの風量を、各室内への給気口の手前で流量調整機構を用いて調整し、1本のダクト内で混合して給気口に送る案が、特開平11−294839号公報(特許文献6)に記載の全館空調換気システムに示されている。当該出願は、換気空気と空調用空気を混合し給気口に送ると言う意味では似ているが、本発明では空調用空気のダクトを有していなく、且つそれぞれの空気の混合はミキシングボックス内で行われて1本のダクトに送られて、しかる後、屋内全体の全般換気用に分配される方法を採っている。ダクトを多用し、またスペースの多く必要とする当該出願とは、本発明はメカニズムを異にする。
室内の温熱的な面と換気とは必ずしも整合しないことから、温熱的な空調状態に関係なく換気を行える提案が特開2010−196997号公報(特許文献7)に記載の建物において行われている。当該出願の中の一部に、換気系統に外気の給気の温湿度を室内のそれと同じようにするための混合部を設けることが示されている。当該混合部は、リターンチャンバーを通して室内からの換気と外気とを混合して、室内へと給気する機能を担う。これに対して、本願においては、換気の外気は熱交換器を経由して、ミキシングボックス内でエアコンの吹き出し空気と混合される。当該出願も本発明とは技術手法を異にする。
一般的な全館空調方式においては、冷暖房と換気とが同一の系統で同時に行われる。全館空調の非省エネ性は、近年問題になっているところであるが、その難点を回避するために換気系統と冷暖房系統の2系統にする案が特開平11−325569号公報(特許文献8)に記載の空調装置に示されている。当該出願は、換気のみの系統と、全館式換気を含めた冷暖された空気の系統を給気用分岐ダクトと三法弁付きのY字分岐を用いることにおいて行っている。これに対して、本願は1系統であるが、換気のみと、換気と加温冷却された空気の使い分けや分岐の仕方は全く異なる。本発明のミキシングチャンバーがその違いを物理的に示している。
本願が前提としているセントラル式第一種熱交換換気方式において、換気の給気空気のみの温熱的特性をコントロールする製品がある。既に松下電器産業と三菱電機から除湿ユニットと言う名称でハウスメーカーに限定販売されている。当該製品の特徴は、換気の給気空気のみを除湿、加温することにある。
そのため、特別な装置を必要とする。一方、換気の給気風量が小さいために、給気により運ばれる熱量も小さく、本願のようにベーシックな冷暖房、換言すれば待機的冷暖房を、居室において何処でも常時必要とされる換気と融合することにより、効率の良い効果的な冷暖効果のある換気を可能にする類のものではない。事実、当該製品は本発明とは異なり、室内空気を換気の給気空気と混合する機能を持たない。
更には、当該製品では、本発明のような一般市販のパッケージエアコンで、換気の温度的不快さをなくすと共に、室内の冷暖房負荷のある程度の除去が可能であり、且つ、冷暖換気のみでも十分生活し得る室内の温熱状態が作り出されると言う可能性は極めて薄い。当該製品の限界は、熱の移送を行う風量の小ささと、移送される熱の温度の限界にある。本願においては、当該製品のような特別な設備を使わずに一般的な市販のパッケージエアコンを用いて、エアコンの吹き出し風量と熱量を出来るだけ利用し、且つ、換気を確実に行うことを目的としており、換気とエアコンの吹き出し空気の不快さの欠点をなくし、且つ、室内のベーシックな温熱環境を作ることに特徴がある。
以上、幾つかの先行技術に示される全般換気と換気に温熱的操作を加える場合の簡易なエアコンの利用、特にエアコンの吹き出し空気と他の空気の混合や、複雑な全館空調に関する引用を行った。また、エアコン、特に壁掛けエアコンを利用又はエアコンの吹き出し空気を他の空気と混合してエアコンの吹き出し空気の特性以外の特性を得ようとする案が見られた。
しかし、本発明のようにセントラル式第一種熱交換型換気方法を前提とし、換気の空気を屋内に導入して、パッケージエアコンの吹き出し口と室内に空気を送る主ダクトの間に設けられたミキシングチャンバーやミキシングダクト内で、換気用空気SAとエアコン室内機の吹き出し空気とを混合し、その後に混合空気をダクトを通して全般換気を行う類の案は見られない。
本願の効果は、室内の冷暖房のためにいわゆる全館空調設備を設ける場合とは異なり、本発明が前提とするセントラル式第1種熱交換換気方法のメリットを生かして、ダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンと熱交換換気扇とを組み合わせることにより、換気とエアコン吹き出し空気の温度的な不快さの抑制、更には、全館的な室内の涼温房によるある程度の温熱的負荷の除去が可能となることである。これまでの実験によれば、比較的小さな能力のパッケージエアコンで、換気とエアコンの吹き出し空気の温度的不快さをなくすと共に、室内の冷暖房負荷のある程度の除去が可能であり、更に、涼温換気のみでも十分生活し得る室内の温熱状態が作り出される場合さえある。
ちなみに、これまでの実機の観測によれば、例えば神奈川県の夏季某日において、エアコン室内機の室温25℃設定で、外気30℃、熱交換後の換気用新鮮空気SA27℃、エアコン吹き出し空気13℃で混合空気18℃となり、混合空気はダクト経過中に室内に漏れる冷エネルギーのロスにより、室内での吹き出しは20℃近くで室内給気グリルから吹き出されている。冷凍サイクルの非常に強力に出力を上げた場合でさえ、例えば外気35℃、エアコン設定温度20℃、熱交換後換気用給気29℃、エアコン室内機吹き出し空気温度6℃の条件で、混合空気は15℃となり、ダクト通過の熱取得で18℃程度の温度になる。ルームエアコンの吹き出し冷気流11℃〜13℃から受ける不快感はなく、且つ、熱交換換気扇からの給気用新鮮空気SAの温度も給気グリルからは涼風として出てくる。
更に、この程度の室内給気グリルの温度であれば、いわゆる冷房ではなく、常時必要とされる換気と融合した本発明に言う涼換気可能にしている。更には、ベーシックな、待機的な冷暖房、すなわち効率の良い効果的な涼温換気で十分な快適生活が可能となるとなる場合も大いに予測され、涼温換気のみの生活も可能性を予知させる。換言すれば、地域的には稀な極端な高温・低温の天候変化に対処する補助冷暖房機の設置で年間を通して生活することが可能な、その意味ではある地域にとっては主たる冷暖房方式となり得ることを示唆している。しかし、ここではベーシックな、待機的な、マイルドな温熱空間を可能にすると言う表現するに止める。
また、エアコン吹き出し空気に換気用空気SAを混合することは、設定温度に対するエアコンによる室温の上昇、低下の負荷が増大することになり、特に夏季には除湿機能を多少とでも高める方向に作用している。これは、エアコン室内機熱交換器を空気が通過する前の、エアコン室内機の吸い込み口で混合する方式では得られ無い効果である。
よって、本発明は、ダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンと熱交換換気扇とをミキシングチャンバーで連結することにより、マイルドな温熱的特徴を持つ換気と、一般的な第1種熱交換換気の使い分けが可能なシステムである。すなわち、熱交換器を通した換気のみで居住が十分な中間期と、熱交換換気といえども換気の給気が不快な冬季、夏季には温熱的操作を容易に換気に加えることを切り替えることにより、より快適で省エネな居住生活が可能となる。
この涼温換気の効果は、多数のダクト分岐と外周壁近傍の天井面に配置される給気口を持つ一般的なセントラル式第1種熱交換換気方式よりも、給気ダクトを例えば1本にして、その外周部に給気口を備え且つ屋内の略中央に配置されるセンターダクト方式の場合には特に向上する。給気からの冷暖気の熱は、通常の給気のように開口部を含めた家の外周部で先ず使われるのではなく、熱が室内の中央付近で最初に遣われるために、より効果的な温熱作用が得られることになる。センターダクトを用いる場合の換気の効果と冷暖効果が同時に発揮されると言える。この効果により、単純な換気やエアコンの吹き出し空気の不快さをなくすのみならず、室内の冷暖房にも少なからぬ効果、すなわち健康的で快適な省エネな居住空間の形成に役立っていると言える。
その様な効果が現れるためには、建物の断熱、気密の温熱的性能が高くならなければなら無いが、近年の住宅建築の進歩はその前提を作りつつあると言える。それは、開口部製品の断熱・気密性能の向上、また、非開口部の断熱・気密の施工技術の向上によるところが大きい。更に、制御機能が高く高効率なパッケージエアコンの登場は、省エネ・節電であっても健康的で快適な涼温換気を可能にしている。
設備費が高価であり、また運転も省エネとは評価されていない全館空調は、そもそも住宅の温熱的性能が低い場合に現れる室内又は室内間の大きな温度差、温度ムラがあること存在価値・期待を持つものであったが、現実にはその様な建物の状況を打破するほどの快適性は作りに難かったようにも思える。
屋内において、厳しい温度ムラは、快適性以前の問題として、特に高齢者にとっては大きな身体的、精神的負担を強いる健康を害する環境であることが以前から知られているが、その様な住宅建設が当たり前であった時代において、全館空調が設備費やランニングコストを問わない場合には、理想の温熱環境と多少の換気を可能にするものとして、用いられていた。しかし、近年における住宅の性能が向上した段階では、そのあり方が再検討されるべきであり、本願はその普及版としての一回答の提案と言う意味合いも含んでいる。
高齢社会、超高齢時代における住宅が、健康的で快適である必要があることは論を待たないが、生活の細かな点においては未だに課題を山積している。換気設備の設置が法的に義務付けられてから久しいが、未だに単に空気を入れ替えるだけ、法的基準さえ遵守すればその生活における意味は問わない等と言う形骸的意識も強く残っている。換気の不快さを取り除き、エアコンの吹き出し空気に悩ませられながらも、健康的に快適に生活し得るように温熱環境と換気とを合理的、簡便に改善してゆく姿は現実には乏しい。その大きな原因の一つに設備とその運転のコストの問題がある。好ましい環境を作る手段として、設置費用が低く、また、使用時のランニングコストも低く、且つ、メンテナンスも比較的容易に安価に行えることは、高齢化社会と生活の中での換気、温熱的不快感を取り除き、健康増進に役立つ住空間を求める時代の要請である。
図1は、本発明の実施形態のシステム全体の平面図と側面図を示す。
エアコン室内機や熱交換換気扇のレイアウトは、平面的に並べられても良いし、図1の様に立体的に組まれても良い。また、設置場所等の都合によりエアコン室内機と熱交換換気扇の上下が反対でも良い。
本実施形態における空気の流れを述べる。なお、本出願においては、ミキシングチャンバーを用いた例で主なる説明を行う。
熱交換換気扇とエアコンが同時に稼働して室内に空調された冷暖気と換気用新鮮空気であるSAとを混合空気として送る場合には、換気用の外気は9の外気ダクトを通ってフィルターユニット8を経て熱交換換気扇7に入り、排気と熱交換されて5−bのダクトを通って5−aの給気ノズルによりミキシングチャンバー4内に入る。一方、エアコンに吸気される室内空気はチャッキダンパー・ボックス3に設けられているチャッキダンパー3−aを通過してフィルターチャンバー2を経由してエアコン室内機1に入り加熱又は冷却・除湿されてミキシングチャンバー4に入る。ミキシングチャンバー4内において混合空気が作られて、主ダクト6により室内に送風される。この場合の送風動力は、熱交換換気扇の送風ファンとエアコン室内機の送風ファンの二つとなる。
それに対して、エアコンは停止し、熱交換換気扇が稼働して単なる換気が行われる場合には、換気空気は上述の経路を通りミキシングチャンバー4を経由して主ダクト6により室内に換気空気SAのみが送風される。換気の送風で生じるミキシングチャンバー内4内の静圧はそのままエアコン室内機の内部にも作用して、チャッキダンパー3−aの自重も手伝ってチャッキダンパーは閉じる。エアコン室内機内部には通気はなく、熱交換換気扇による静圧のみが作用することになる。この場合の送風動力は、熱交換換気扇の送風ファンの一つのみである。
なお、ミキシングチャンバー4に代わって、ミキシングダクトが用いられる場合においても、全体としての空気の流れはミキシングチャンバーの場合と同じである。
本発明の空気の流れの要点は、エアコンの吹き出し口以降でミキシングが行われること、ミキシングはエアコンの室内機からの吹き出し空気と換気用の新鮮空気SAとで行われること、そして、エアコン室内機の吸い込み口に設けられたチャッキダンパーCD3−aの設置とその開閉が自然に行われることであり、且つ、チャンバーを経由する送風を空調空気の場合にはエアコン室内機のファンと熱交換換気扇のファンの二つで行い、また、換気のみの場合には熱交換換気扇のファン一つのみで行うことにある。
涼温換気全体を構成するシステムの部分に関して説明する。
先ずは、涼温換気の前提となる換気用屋外空気の導入に関して説明しておく。屋外フードからダクト9を経由して外気清浄フィルターユニット8に入った外気は、外気に含まれる粗塵や虫、浮遊粒状物質をフィルターにより捕集、浄化される。
大気の汚染に関しては環境基準が設けられているが、しかし、都市内や幹線道路周辺では元素状炭素の煤やNOxなどの窒素酸化物などが多く、個々の住宅でどの程度まで外気の浄化が現実的に可能であるか、又は住宅において必要になるかについては、明確な指針はなく、機械換気による換気がいたずらに汚染空気を強制的に室内に持ち込む害をもたらす場合さえ想像される。ただし、換気装置の設置を義務付けている建築基準法ではエアフィルターの設置義務はない。
エアフィルターにどの程度の性能を持たすかは、換気扇の機外静圧と風量の関係が大きく作用するが、一般的な住宅では10μm以上の物質が90%捕集される程度に設定するのが現実的である。
いずれにしろある程度に浄化された外気は、外気浄化フィルターユニット8から熱交換換気扇7に送られる。熱交換換気扇7は室内に給気される外気と室内から屋外へ排気される空気とのエンタルピー(温度と湿気、又は、顕熱と潜熱)の交換を行うが、外気のエンタルピーを室内に近い状態に変換する。現在の熱交換器の交換性能は、100%ではない。現状の家庭用の熱交換器の交換性能は温度交換で70%〜80%前後、湿気の交換では50%〜70%と言われている。室内空気と外気との温度差の20%から〜30%前後が外気の影響として室内に入ることになる。
換言すれば、快適に生活出来る温度、湿度である室内環境が形成されていることを前提として、冬季の場合には室内気温よりも低めで、乾いた空気が室内に給気され、夏季の場合には室内気温よりも高めで、湿った空気が給気されることになる。室内に給気された空気は室内で汚されて室内に設けられた排気グリルから熱交換器を経て屋外に排気される。この様な換気を一箇所又は数箇所に設けられた熱交換器を装着した換気扇で集中的に行うセントラル式第一種熱交換型換気方法は、現在では一般的な換気方法となっている。
必要な換気量は、建築基準に従い建築物屋内の換気対象空間の気積の半分を1時間で換気する量になる。計算上は0.5回の風量を確保するように行うが、換気機器の能力との関係上、必要換気量を近傍で上回る換気機器風量を有効換気量で修正した風量が実際の風量として計画される。
熱交換器を経由した外気が室内に給気される場合の給気の空気の特性には、室内外の空気のエンタルピーの差が小さい春、秋の中間期には、給気の不快さはさしてなく、時として窓開けによる大量な換気の方が気持ち良い場合さえある。また、わざわざ熱交換素子を通して圧力損失を大きくする必要もない。その場合には、熱交換換気扇は熱交換換気をせずに普通換気で運転される。しかし、実際は快適な外気はそう長く続くのは稀なことから、熱交換器が外気に対して1年中対応し得る様に、マイコン利用の熱交換換気扇では自動運転にしておくのが一般的である。
ミキシングチャンバーに送られる熱交換後の換気用新鮮空気SAとは、この様にしてある程度清浄化され、冬季、夏季においては温熱的にも不十分ではあるが外気よりは室内空気に近くなるように処理された空気である。
しかし、熱交換された空気といえども冷暖房の熱負荷を室内に持ち込むことになり、居住者にとっては、健康や快不快の原因ともなる。室温よりも温度の低い冬季の冷たい給気は、高齢社会、超高齢社会においては無視出来ない課題である。特に、給気が天井面から行われ、その下に寝具などがある場合は室内の快適さは減少し、時として不快をもたらす。この点が、熱交換器を利用した換気であっても克服出来ない問題点である。本発明による涼温換気は、従来のエアコンほどに高い温度ではない給気を行うことによりこの問題を解決するものである。
図2は、一般市販品のパッケージエアコン室内機1の姿図である。室内空気の吸い込み口、及び吹き出し口は単純に開口している。吸い込まれる空気を1−a、吹き出される空気を1−bで示している。市販品では開口部分に接続される各種のアタッチメントが準備されているが、本発明で吸い込み口側に使用するチャッキダンパーは、パッケージエアコンの通常の使用目的、使用方法では用いる必要はないし、用いることもない。吸い込み口と吹き出し口は常に開放していることが使用上原則的である。ちなみに、本実施例のチャッキダンパーのボックス3は私製品である。1−dはドレン管、1−cは冷媒管の接続部である。
図3は本発明に用いるパッケージエアコン室内機1とフィルターチャンバー2、及びチャッキダンパー・ボックス3の側面図である。本実施形態においては、室内循環空気の清浄のために室内機1とチャッキダンパー・ボックスの間にフィルターを内蔵したフィルターチャンバー2が設置されている。
ダクト送風式の埋め込み型パッケージエアコンの吸い込み口側に逆流防止弁(チャッキダンパー:CD)3−aを有し、CDはダンパーボックス3に納められている。CDの数は必要風量とCDの圧力損失の関係から定まる。本実施形態では、3つのCDが用いられている。
エアコン室内機が停止時には、CDは、自重と熱交換換気扇からの新鮮空気の給気であるSAの送風静圧によって自然に閉鎖する。パッケージエアコンの室内機は、CDの閉鎖によって、換気の漏気が無視し得る程度の気密構造となるパッケージエアコンに必要に応じて加工されている。エアコン室内機の吸い込み口側は吸い込みを行えば機能的に十分であるために、気密構造となっていない場合があるが、その様な場合にはシーリング等により室内機のケーシングを気密構造に加工する必要がある。
CDには本実施例の様な円形のものもあれば、水平方向のスリットを設けた開閉羽を用いたものもあり、また、開閉力を弁の自重により得る場合やバランスを設けて任意に調整するものもある。選択は使用するエアコン室内機の風量と機外静圧やCDの圧力損失と通過風量等により定まるが、本発明のように小能力の場合には円形の簡便なもので十分な効果が得られている。
なお、室内機から生じる騒音が室内機の吸い込み口から著しく室内に漏れるのを防止するために、フィルターチャンバー2及びチャッキダンパー・ボックス3の外周内面に吸音材を張設しておくことも必要である。
図4は、室内機1の吹き出し口に接続されたミキシングチャンバー4と主ダクト6を示す平面図である。熱交換換気扇から送られてくる新鮮空気である換気用給気SAは、5−bのダクトを通って、ミキシングチャンバー内に設けられている給気ノズル5−aによりミキシングチャンバー内に吹き出される。
ミキシングチャンバー4の構造は、エアコンの室内機からの吹き出し空気を吸気するミキシングチャンバーの開口部が、パッケージエアコンの室内機の吹き出し口断面積に略等しく、且つ、ミキシングチャンバー4の内部には熱交換換気扇からダクト5−bを通って送られてくるSAの給気ノズル5−aが突出し、その給気ノズル5−aは断熱性が確保されており、且つ、ノズルの開口部がチャンバー内のパッケージエアコン室内機の吹き出し空気の流れ方向に開口しており、また、断熱性を有するミックスチャンバーの形状がノズルの開口部近傍でチャンバー内の空気の流れ方向に直角の断面積を主ダクト6の断面積程度に絞り込むレジュース部分を有するものになっている。
ミキシングチャンバーは、必要な断熱性と密閉性を有することは言うまでもないが、脱着可能な上蓋の利用やチャンバー内の清掃や結露対策にもチャンバー内面は非吸水性で清掃のしやすい塩ビやステンレス板、フィルム等で仕上げられることが好ましい。
本実施形態においては、ミキシングチャンバー4は、室内機の吹き出し口にフランジでダイレクトに結合しているが、室内機吹き出し口とミキシングチャンバー4との間を断熱ダクトで連結してもかまはない(図示せず)。その場合にも、圧力損失の関係からダクトとミキシングチャンバーの断面積は、室内機の吹き出し面積に略等しいことが望ましい。
チャンバー内に熱交換換気扇からの換気用新鮮空気のノズルが突出することは、エアコンからの吹き出し空気の流れ方向に直角な断面積を減少させることになる。エアコンからの吹き出し空気が流れる減少した断面積は、室内に送風する主ダクトの断面積以上であることが好ましい。
減少した断面では風速が増し、静圧が低下する。更に、ミックスチャンバーの形状がノズルの開口部近傍でチャンバー内の空気の流れ方向に直角の断面積を主ダクトの断面積に絞り込むレジュース部分を有することから、その部分での静圧も低い方に作用する。そして、ノズルの開口部がチャンバー内のパッケージエアコンの吹き出し空気の流れ方向に開口していることにより、熱交換換気扇からのSAがチャンバー内の最大全圧を受けることなく、より低い静圧に対抗してチャンバー内にSAが入り得ると言う吸引的作用をもたらしている。
事実、エアコンの吹き出し口近傍の静圧よりも給気ノズル5−a近傍の静圧は低くなっている。吸引的効果は、気流に直角な断面の縮小による一種のベンチュリー効果が作用して、チャンバー内で場所により静圧の変化が生じていることによる。ちなみに、エアコン吹き出し口近傍の静圧は60Pa、ノズルの開口直後では30Pa、主ダクト内では15Paと言うデータが得られている。
なお、ノズル5−aの内部はエアコンが冷房運転の時には結露の現象を招く可能性があり所要の断熱性能を持つことが必要である。また5−aの開口部がチャンバー内のパッケージエアコンの吹き出し空気の流れ方向に開口していることにより、エアコン室内機の吹き出し空気がノズル内に動圧により侵入することを防ぐことは言うまでもないが、このこともSAを送るノズル5―aの開口内部での結露を防止することに貢献している。
ミキシングチャンバー4から送られる空気を室内へと送る主ダクトは、断熱性、吸音性を備えている必要がある。一般的には繊維系断熱材を断熱材、吸音材として用いたダクトが使用されるが、本実施形態においてもその類のダクトを用いている。また、熱交換換気扇からの空気を送るダクト5−bにも吸音性が要求される。
図5は、ミキシングダクトの混合部7のエアコン室内機1と主ダクト6の平面図である、ミキシングダクト部7においてもが熱交換換気扇からのダクト12−bを経由した換気用SAがミキシング部の給気ノズル12−aに送られる。エアコン室内機が稼働している場合には、室内機の吹き出し空気は混合部のノズル12−aがあることにより通過断面積の減少が生じベンチュリー効果によりミキシング部での静圧を下げる。それによって、給気ノズル12−aの吹き出し口には混合部以前とは異なる小さな静圧しかかからない。
ミキシング部の圧力損失を小さくするために混合部を大きくすればミキシングチャンバーのように主ダクトよりも大きな断面積を有するものとなる。
なお、混合部での結露に関しては、「課題を解決するための手段」で述べたように最悪結露が生じた場合にも、チャンバー内の気流により瞬間的に付着する微細な結露水を瞬間的に蒸発させて水滴化しないことが可能である。
ミキシングチャンバーの混合空気は、主ダクトによって室内に搬送されるが、主ダクトは各室内への搬送のために多数に分岐されるのが一般的である。本発明においては、主ダクトが個々の部屋に分岐される前に2本の副ダクトに分岐されることを特徴としている。図6はミキシングチャンバーの空気出口に2本の主ダクトを有した場合であり図7はミキシングダクト混合部の先にY字型分岐で2本の副ダクトに分岐した例である。
各室の給気グリルの開度とミキシングチャンバー及びミキシングダクトの圧力調整を容易にするために、ミキシングチャンバー又はミキシングダクトに接続される主ダクトが1本又は複数のダクトであり、1本の主ダクトである場合には主ダクトが2本の副ダクトに分割されることもある。副ダクトを介するのは、ミキシングチャンバー及びミキシングダクト内の圧力と各室に分岐されるダクトの給気グリルの開度との調整を容易にするためである。ただし、本発明の副ダクトのようなものは通常使われているが、それは給気の配分のための分岐が主目的であり、本発明のようにミキシングチャンバーやミキシングダクト内の圧力調整をしやすくする目的とは異なる。ただし、本発明での副ダクトを用いる場合にも副ダクトが単なる給気も配分のための分岐であることを妨げるものではない。
本発明におけるダクトは、請求項6に述べられたように圧力調整を容易に行うための副ダクトを介して各室へのダクトの分岐を行って給気する方法も可能であるが、更には主ダクトをそのまま1本で延長して各室などに混合空気を送る方法がある。
その様なダクトの特性に関しては、特願2008−6126(建築物の換気構造)に述べられている。そこでは建物の屋内空間の略中央に設けられた小屋裏から1階床上、又は床下まで略鉛直に伸びて、且つ、給気グリルと点検口が設けられてダクトとなっている。
また、当該ダクトが給気ダクトとしての機能を発現するに、建物外周壁近辺に設けられた排気グリルが示されており、建物中央付近の当該ダクトの給気グリルから出る新鮮空気が外周壁近辺に設けられた排気グリルと対になって室内換気経路を形成することにより、これまでには見られなかった室内換気経路が形成されることが述べられている。
更には、当該換気経路の効果として、換気効率の向上や、汚染空気の他室への拡散防止、速やかな局部的排気の効果なども述べられている。
しかし、当該換気システムにおける空調的な冷暖に関する温熱的な領域は検討されていない。本発明は、当該ダクトとグリルとを涼温換気の冷暖エネルギーの室内における効果的拡散に用いることを特徴としている。本発明ではそれをセンターダクト換気方式と呼ぶ。
屋内空間への冷暖房を行う冷暖空気は、一般的には建物外周壁近辺に設けられた給気グリルから行われる。その理由は、外部熱負荷を先ず解消することに目的があるからである。特に、冬季においては、開口部のドラフト現象が問題となりドラフトの抑制にも暖気を吹き出す給気グリルを配置することは必須と考えられてきた。この方法は、もともとはオフィスビルでの空気冷暖房から派生したものであるが、冷暖房用給気グリルを建物外周近辺に設けることは常套的手法となっている。
しかし、外周壁近辺に給気グリルを配することは、外気負荷に対抗するために既にエネルギーを消耗した冷暖気を室内側に回し、室内側に居住する人は謂わばその残り分の冷暖気の効果にあずかることを意味している。そのため、居住者が不快を感じないように室内側に回る空気にも十分な冷暖エネルギーを持つ空気を供給しようとすれば、給気は自ずと低温化、高温化せざるを得なくなってくる。低温化、高温化は居住者にとって温度的不快感を与えかねない。オフィスビルなどの冷房病がそれを良く表している。また、給気量を増加させる方法もあるが、その場合には単に消耗される送風エネルギーの増大の問題と給気量増大に伴う吹き出しでの風による不快の問題も生じてくる。
この様な、従来の一般的空気冷暖房式の方法が抱える問題は、建築物、特に住宅のような小規模の建築物においては、上記センターダクト換気方式により解決可能であり、効果的な冷暖給気が可能となる。従来の外周壁給気の方式が外部温熱負荷を先ず対象としたことと異なり、センターダクト方式では先ずはセンターダクト周辺の屋内の中心近辺から冷暖エネルギーを使うことになる。
図8は、パッケージエアコン、熱交換換気扇等と、ミキシングチャンバーから出る主ダクト6、主ダクトと接続するセンターダクト15、及び屋内空間での給気グリル16と排気グリル17の設置の様子を建物屋内の断面で実施形態を示している。外気はフィルターユニット8を通り、熱交換換気扇7に入り熱交換されて、5−aのダクトからミキシングチャンバー4に入る。一方室内循環空気はチャッキダンパー・ボックス3で吸い込まれてエアコン室内機1に入り、冷却・加熱されてミキシングチャンバー4に入る。混合空気は主ダクト6を経て屋内の中央辺りに設けられてセンターダクト15に入り、給気グリル16から室内に供給される。屋内の中央辺りからの給気の一部は、建物外周近辺に設けられた換気での排気として排気グリルから出て熱交換換気扇に戻り、熱交換後に屋外へと排気される。室内空気はゆっくりとエアコン室内機が置かれている場所の換気口へ向かい、換気口を経て室内機の空気吸い込み口に向かう。
従来の方法との対比で図8を模式的に表現すれば、従来方法は建物外周近辺に設けられた給気グリルから給気が行われ、室内を通ってダーティーゾーンの排気口から一部が排気される。先ずは外部温熱負荷に対処することが図られている。センターダクト式ではそれとは異なり、先ずは居住者の冷温感覚を向上させるために使われる。換言すれば、従来の方式が外部負荷で消耗した余った冷暖エネルギーで居住者の冷暖感覚に対応するのとは異なり、センターダクト式では居住者の冷暖感覚に対応した後で外部温熱負荷に対処することになる。
センターダクト方式の本発明による涼温換気では、居住者に先ずは直接作用してマイルドな給気温度で冷温感覚を満たし、すなわち生活の温熱的要求を満たし、しかる後に外部温熱負荷で冷暖エネルギーを消耗する。一方、従来のダクト方式においては外部温熱負荷に対処するために先ずは温度の高い又は低い空気を外周近辺に設けられた給気グリルから吹き出し、冷暖エネルギーを居住者とは直接関係なく消耗した後で、居住者への冷暖感覚に作用させている。無論、外部温熱負荷と屋内にいる居住者の空間とは強い関係があるが、どちらを先ずは優先するかによって、感覚で得られるエネルギーの効果も異なる。
本発明の涼温換気は、従来と比較すれば弱い冷暖エネルギーを用いて快適な温熱環境を得ることになるので、建物の性能、特に断熱性と気密性がある程度高いことが前提であり、
更には開口部の断熱性、気密性、熱遮断性が必須となる。建物の性能と冷暖房は深い関係にあるが、従来の全館空調的冷暖房方式では、先ずは建物外周部の問題を解決して、次に中で生活する人の快適性を課題としたわけで、建物の熱負荷の解決を優先して、その後で人の直接的快適性を問題とした。それほどに外皮などの建物外周部が、屋外条件に左右されやすい建物であり、外周部の熱負荷を先ずは解決しなければ、人が生活する室内の快適性をもたらすことが出来なかったと言える。
センターダクト方式を冷暖房に用いることが可能なのは、本発明の涼温換気によりセンターダクトから出る給気温度がマイルドであることによる。ルームエアコンのように低くも高くもない。まさに本発明の涼温換気が目指すベーシックな給気空気の快適な温度条件を備えていることによる。従来の低温、高温な給気ではセンターダクト方式は不快感をもたらすものとなるとも言える。また、逆に言えば、涼温換気のようなマイルドな給気では、先ず外部温熱負荷に対処すると言う考えには不適当であるとも言える。
屋内の冷暖エネルギーを隈なく且つ早く拡散させるためには、センターダクトを2本設ける場合がある。仮想壁等を設定して建物を略等分割して、それぞれの屋内の中心付近にセンターダクトを設ける方法である。この場合には、例えば主ダクトをY字型分岐を用いて2本の副ダクトとしそれぞれにセンターダクトを接続すれば良い。また、ミキシングチャンバーから2本の副ダクトを引いてセンターダクトに接続しても良い。全ての副ダクトとセンターダクトの空気の流れ方向に直角な断面積が、主ダクト相当の面積を有していればダクトにおける圧力損失は増加しても僅かであるが、一般的には主ダクトよりも面積が大きくなり、圧力損失も低下する場合が多いく、混合空気の送風には都合が良い。
この様なセンターダクト方式を用いた涼温換気の実施形態は、涼温換気の目的と特性を生かす方法として、つまりは、換気用新鮮空気SAとエアコン室内機の吹き出し空気による室内への給気グリル吹き出し空気をマイルド化する作用を持つ涼温換気の有効性をと効果を具体化する手段として、また、冷熱エネルギーの屋内における利用方法とその効果に関して、当該ダクトに関する出願の請求項にもない、また実施形態にも記述されていない当該発明の範囲を超えたものとして、本発明において請求項に挙げることは、涼温換気の特性を生かす重要な方法として新たな利用上の発明に値するものもと考える。