(第1実施形態)
図1〜図6を用いて、本発明における半導体装置の第1実施形態を説明する。図1は本発明の第1実施形態を説明する回路図である。図2は本発明の第1実施形態を説明する別の回路図である。図3は、図1の回路図の一例として具体化した半導体チップの実装図である。図4は、図3の部分拡大図である。図5並びに図6は、図3の実装図に用いられている還流ダイオード及び半導体スナバの断面構造図である。
(半導体装置の回路構成)
図1に示すように、本実施形態の半導体装置10は、ユニポーラ動作する還流ダイオード100と、少なくともキャパシタ210と抵抗220を含み、スナバ機能を有するように半導体チップで形成された半導体スナバ200とを備えている。ここで、例えば、PN接合ダイオードの構造であっても、導通時にP型領域から注入される過剰キャリアの主成分である少数キャリアのライフタイムを制御することにより、ユニポーラ動作と同等の動作を行うため、バイポーラ型ダイオードであっても、ユニポーラ動作と同等の特性を有するダイオードについても、本発明で説明されるユニポーラ動作する還流ダイオードに含まれるものとし、詳細については後述する。
還流ダイオード100と半導体スナバ200は、共にアノード端子300並びにカソード端子400に接続されて、並列接続されている。なお、図1においては、半導体スナバ200の構成として、アノード端子300側にキャパシタ210が、カソード端子側に抵抗220が接続するような場合を示しているが、図2に示すように、アノード端子300側に抵抗220が、カソード端子側にキャパシタ210が接続していても良い。また、キャパシタ210と抵抗220は少なくとも直列接続していれば、複数の部位に分割されて形成されていても良いし、交互に形成されていても良い。
本実施形態では、還流ダイオード100と半導体スナバ200とを別の半導体チップとして形成した場合について説明する。
(半導体装置の実装構造)
図3は、図1で示した還流ダイオード100(炭化珪素ショットキーバリアダイオード)と半導体スナバ200(シリコン半導体RCスナバ)からなる半導体装置10について具体的な装置として実施形態を示した実装図である。
図3においては、半導体パッケージの一例として、セラミック板などで形成された絶縁性を有し、かつ、支持体としての機能を有する絶縁基板500上に、例えば銅やアルミなどの金属材料からなるアノード側金属膜310とカソード側金属膜410が形成されたセラミック基板を用いた場合について説明する。
カソード側金属膜410上には、還流ダイオード100を構成する半導体チップのカソード端子400が半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、還流ダイオード100のアノード端子300は、アルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線320を介して、アノード側金属膜310に接続された構成となっている。
また、半導体スナバ200については、図3並びに図3中の半導体スナバ200が実装された部分の拡大図である図4に示すように、本実施形態においては、アノード端子300とカソード端子400が半導体スナバ200の表面側に互いに絶縁されて形成されている。そして、カソード端子400は、アルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線1100を介してカソード側金属膜410と電気的に接続されており、アノード端子300は、アルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線330を介して、アノード側金属膜310に接続された構成となっている。なお、本実施形態においては、半導体スナバ200を構成する半導体チップを、カソード側金属膜410上に所定の接着材料を介して固定するように配置した場合を示しているが、配置される場所は、アノード側金属膜310や絶縁基板500上もしくは新たに形成する所定の金属膜上でも特に制限はない。
次に、図5及び図6に、還流ダイオード100と半導体スナバ200とをそれぞれ構成する半導体チップの断面構造図の一例を示す。
(還流ダイオードの構造)
還流ダイオード100に関しては、炭化珪素を半導体基体材料としたショットキーバリアダイオードの場合について説明する。本実施形態では、ショットキーバリアダイオードのアノード端子300とカソード端子400が互いに対面するように電極形成された、いわゆる縦型のショットキーバリアダイオードを一例として説明する。
図5に示すように、還流ダイオード100は、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域1上にN−型のドリフト領域2が形成された基板材料で構成されている。基板領域1としては、抵抗率が数mΩcmから数10mΩcm、厚さが数10μm〜数100μm程度の一般的な低抵抗基板を用いることができる。なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や厚みが前記範囲外となってももちろん良いが、一般に抵抗率及び厚みが小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り小さいほうが望ましい。ドリフト領域2としては、N型の不純物密度が1015cm-3〜1018cm-3、厚みが0.1μm〜数10μmのものを用いることができる。なお、ドリフト領域2に関しても、素子構造や所要の耐圧により、不純物密度や厚みが前記範囲外となってももちろん良い。本実施形態では、不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmで耐圧が600Vクラスのものを用いた場合で説明する。
なお、本実施形態では、半導体基体が、基板領域1とドリフト領域2の二層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらないが基板領域1のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に多層の基板を使用してもかまわない。また、本実施形態では一例として耐圧が600Vクラスの場合で説明しているが、耐圧クラスは限定されない。また、本実施形態においては、基板材料を炭化珪素材料で形成した場合を説明しているがシリコンなど他の半導体材料で構成されていてもかまわない。
ドリフト領域2の基板領域1との接合面に対向する主面に接するように表面電極3が、さらには表面電極3に対向し、かつ基板領域1と接するように裏面電極4が形成されている。表面電極3は、ドリフト領域2との間にショットキー障壁を形成する金属材料を少なくとも含む単層もしくは多層の金属材料から構成されており、ショットキー障壁を形成する金属材料としては、チタン、ニッケル、モリブデン、金、白金などの材料を用いることができる。また、表面電極3はアノード端子300として外部電極との接続をするために、最表面にアルミ、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いて多層の構造としても良い。一方、裏面電極4は基板領域1とオーミック接続するような電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料などが挙げられ、裏面電極4はカソード端子400として外部電極と接続をするように、最表面にアルミ、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いた単層、多層の構造としても良い。このように、図5に示す還流ダイオード100は、表面電極3がアノード電極、裏面電極4がカソード電極としたダイオードとして機能する。
(半導体スナバの構造)
半導体スナバ200の構成としては、キャパシタ210と抵抗220とが直列接続されたいわゆるRCスナバの構成とした場合について説明する。また、半導体スナバ200は、シリコンを半導体基体材料とし、かつ、アノード端子300とカソード端子400が同一主面上に電極形成された、いわゆる横型の半導体チップからなる場合について説明する。
図6は、半導体スナバ200の断面構造図の一例である。図6に示す半導体スナバ200では、シリコンのN−型である基板領域11上に、シリコン酸化膜などの誘電材料からなる誘電領域12が形成されている。また、誘電領域12に接するように第1電極13が、さらに第1電極13が形成される基板領域11の同一主面上には、第1電極13とは絶縁され、かつ基板領域11と接するように第2電極14が形成されている。
本実施形態では、基板領域11は抵抗220として機能し、誘電領域12はキャパシタ210として機能する。つまり、基板領域11は必要な抵抗値の大きさに応じて、基板の抵抗率や厚み、さらには、第1電極13と第2電極14の距離を決めることができ、抵抗率が数mΩcm〜数100Ωcm、厚さが数10μm〜数100μm程度のものを用いることができる。本実施形態においては、少なくとも還流ダイオード100に含まれる抵抗値よりも大きくなるように、抵抗率が100Ωcmで、厚さが300μmのものを用いた場合で説明する。なお、本実施形態においては、基板領域11として、単一の抵抗率で形成された場合を例示しているが、複数の抵抗率を有していても良い。また、本実施形態においては、基板領域11の導電型をN型としているがP型でももちろん良い。また、誘電領域12については、必要な耐圧並びに必要なキャパシタ210の容量Cの大きさに応じて、厚みや面積を決めることができる。耐圧については、誘電領域12の破壊防止のため、還流ダイオード100よりも高いことが望ましい。また、キャパシタ210の容量Cについては、還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に生じる空乏層のキャパシタ容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、十分なスナバ機能を発揮し、かつ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、後述する計算結果が示すように、概ね10分の1程度から10倍程度の範囲が望ましい。
本実施形態においては、還流ダイオード100よりも耐圧が高くなるように、厚みは1μmとし、キャパシタ210の容量Cが還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏容量と同程度としたものを用いた場合で説明する。なお、誘電領域12は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、かつ、キャパシタ210として機能する誘電材料であればどのような材料でも良いが、絶縁破壊電界と比誘電率との積の値がシリコン酸化膜の値よりも大きい材料であれば、さらによい。そのような材料を用いた場合には、誘電領域12の絶縁耐圧を維持しつつ、少ない面積で必要な静電容量を得ることができる。一般的なシリコン酸化膜の物性値として、絶縁破壊電界を1×109V/mとし、比誘電率を3.9とした場合、シリコン酸化膜の厚みが1μmの場合の1cm2当たりの静電容量は約3.4nF程度になる。それに対して、シリコン酸化膜の代わりにSi3N4を用いた場合、絶縁破壊電界を1×109V/mとし、比誘電率を7.5とした場合、厚みが1μmで同等の耐圧を確保することができる。このとき、Si3N4を用いた場合の1cm2当たりの静電容量は6.6nF程度になる。このように、Si3N4を用いた方が静電容量が約2倍程度大きくなり、誘電領域の絶縁耐圧を維持しつつ、より大きな静電容量を得ることができる。したがって面積効率が向上し、ウエハコストを低減することができる。この効果は誘電材料の絶縁破壊電界と比誘電率との積で比較することができ、シリコン酸化膜の値と、Si3N4の値を比較すると約2倍程度になっている。さらに、誘電領域の材料がBaTiO3のような強誘電体であれば、その値がシリコン酸化膜の約13倍となり、より少ない面積にすることができる。他にも強誘電体膜としては、Pb(Zr,Ti)O3やSrBi2Ta2O9やTi4Ti3O12があるが、絶縁破壊電界と比誘電率の積がシリコン酸化膜の値よりも大きければ、いずれでもよい。また、誘電領域は単一の誘電材料とは限らず複数の誘電材料を積層したものを用いても良い。例えば、図7に示すようなSi3N4をシリコン酸化膜で挟んだONO構造では、Si3N4のリーク電流をシリコン酸化膜により最小限にすることができる。
本実施形態においては、後述するように、還流ダイオード100として例えばショットキーバリアダイオードを用いた場合に、ユニポーラ動作によって本質的に発生する電流・電圧の振動現象に対して、従来からバイポーラ動作のダイオードの振動低減用のスナバ回路として用いられる、メイン電流が流れる経路にフィルムコンデンサやメタルクラッド抵抗など外付けのディスクリート部品を配線する手法を用いずに、小容量で小サイズのキャパシタ210と抵抗220を有する半導体スナバ200を並列接続することで、容易にかつ効果的に振動現象を抑制できることを特徴としている。また、効果的にスナバ機能を発揮する設計式として、C=1/(2πfR)が一般的に知られており(fは振動現象の周波数)、本実施形態においては、その式を満たすように、小容量の半導体スナバ200を用いたキャパシタ210の容量Cと抵抗220の抵抗値Rを容易に設定することができることを特徴としている。
また、第1電極13はアノード端子300として外部電極と接続するように、金属材料で形成されており、最表面にアルミ、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いた単層、多層の構造としても良い。同様に、第2電極14についても、カソード端子400として外部電極と接続するように、金属材料で形成されており、最表面にアルミ、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いた単層、多層の構造としても良い。このとき、第1電極13と第2電極14を同一材料で形成すれば、同時に形成することができ、製造プロセスの簡略化が可能となるという効果も有する。このように、図6に示す半導体スナバ200は、第1電極13が図5に示す還流ダイオード100のアノード電極に、第2電極14が図5に示す還流ダイオード100のカソード電極に、接続する半導体RCスナバとして機能する。
(動作)
次に、本実施形態の動作について詳しく説明する。
本発明の半導体装置10は、図8および図9に示すような電力エネルギの変換手段の1つとして、一般的に使用されるコンバータ(図8)やインバータ(図9)等の電力変換装置において、電源電圧(+V)(例えば本実施形態では400V)に対して逆バイアス接続になるように接続され、電流を還流する受動素子A、Bとして使用される。本発明の半導体装置10の動作モードは、MOSFETやIGBT等のスイッチング素子のスイッチング動作に連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。電力変換装置においては、電流を還流する受動素子に対しても、スイッチング素子と同様に、低損失でかつ誤動作等が起こりにくい安定動作が求められる。本実施形態においては、図8のコンバータ回路を一例として動作を説明する。なお、図8中のスイッチング素子Dは例えばIGBTで構成されている場合で説明する。
まず、スイッチング素子Dがオンし、スイッチング素子Dに電流が流れている状態においては、受動素子Aは逆バイアス状態となり遮断状態になる。図5に示す還流ダイオード100(ここでは、ショットキーバリアダイオード)においては、アノード端子300とカソード端子400間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。また、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ210として機能する誘電領域12が高電圧により充電された状態になっており、遮断状態を維持する。このように、遮断状態においては、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の機能を有する。
次に、スイッチング素子Dがオフし、スイッチング素子Dがオフ状態に移行するのに連動して、受動素子Aは順バイアス状態となり導通状態に移行する。図5に示す還流ダイオード100のドリフト領域2中に広がっていた空乏層が後退し、表面電極3とドリフト領域2との間に形成されているショットキー接合部にショットキー障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。このとき、還流ダイオード100に流れる電流は、ドリフト領域2中をほぼ裏面電極4側から供給される電子電流のみで構成されており、ユニポーラ動作をする。また、図6に示す半導体スナバ200においても、還流ダイオード100と同様に、高電圧の逆バイアス状態から低電圧の順バイアス状態に移行するため、誘電領域12に充電されていた電荷は放電され、過渡電流が流れる。しかしながら、本実施形態では、誘電領域12のキャパシタ210の容量Cが還流ダイオード100の遮断時に形成される空乏容量と同程度と非常に小容量であるため、放電によって流れる過渡電流の大きさは、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べて非常に小さく、動作にはほとんど影響しない。そして、半導体スナバ200は、バイアス電圧の変化に伴う過渡電流が流れた後は、順バイアス状態と定常状態に移行するため遮断状態となり、還流ダイオード100のみが導通状態となる。このとき本実施形態においては、還流ダイオード100が炭化珪素材料の半導体基体からなるショットキーバリアダイオードで構成されているため、一般的なシリコン材料からなるPN接合ダイオードに比べて、ドリフト領域2の抵抗をより低抵抗で形成することができ、導通損失を低減することができる。このように、本実施形態は、導通状態においても受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
次に、スイッチング素子Dがターンオンし、スイッチング素子Dがオン状態に移行するのに連動して、受動素子Aは逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図5に示すように、ショットキーバリアダイオードにおいては、裏面電極4側からドリフト領域2中に供給されていた電子電流は順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧がショットキー接合部のショットキー障壁高さに応じた電圧以下になり、さらには、ショットキー接合部に逆バイアス電圧が印加されはじめると、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が広がり遮断状態へと移行する。
この導通状態から遮断状態に移行する際に、還流ダイオードの素子内部に蓄積されていた過剰キャリアが消滅する過程において、過渡的に発生する電流が逆回復電流である。この逆回復電流は、受動素子A並びにスイッチング素子Dに過渡電流として流れ、それぞれの素子において損失(ここでは逆回復損失と呼ぶ)が発生する。このことから、還流ダイオードで発生する逆回復電流は極力小さいほうが良い。
本実施形態では、還流ダイオード100を炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードで形成しており、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。
この逆回復損失の違いは、両者の遮断・導通のメカニズムの違いで説明することができる。
まず、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードは、順バイアス導通時には少数キャリア注入によるドリフト領域の伝導度変調効果があるため、導通損失を極力低減しつつ耐圧を確保するため、ドリフト領域の厚みを小さく、かつ、不純物濃度を低く形成するのが一般的である。そして、600VクラスのPN接合ダイオードを実現しようとすると、低不純物濃度の実現性の制限から、ドリフト領域の不純物密度が1014cm-3程度とした場合、厚みが50μm程度と比較的ドリフト領域の厚い基板を使用する必要がある。導通時にはバイポーラ動作の伝導度変調効果によって、流れる電流の大きさに応じて、少数キャリアと多数キャリアがほぼ同等の濃度になるようにドリフト領域に注入されるため、低抵抗を得ることができる。数100A/cm2程度の順バイアス電流が流れた場合、多数キャリア(電子)及び少数キャリア(ホール)の濃度が共に1017cm-3台となる程度までキャリアが注入され、それらが過剰キャリアとなって動作する。
一方、ショットキーバリアダイオードについては、導通時に流れる電流が多数キャリアである電子のみで構成されるため、遮断状態に移行する際に発生する過剰なキャリアの量自体が、ほぼ還流ダイオード100に空乏層が形成される際に空乏層中から排出されるキャリアの量のみしか発生しない。つまり、600Vクラスとして不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmのドリフト領域2が全域空乏化した場合にも、上記PN接合ダイオードと単純に比較して、キャリア密度が10分の1、キャリアの分布しているドリフト領域の厚みが10分の1となるため、トータルで100分の1程度の過剰キャリアしか発生しない。このことから、還流ダイオード100をユニポーラ動作をする素子で形成することで、逆回復電流を大幅に低減し、その結果、逆回復損失を大幅に低減することができる。このように、逆回復損失低減の効果は、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
さらに、本実施形態においては、従来技術である受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合では本質的に解決できなかったユニポーラ動作ならではの逆回復動作時の電流・電圧の振動現象を抑制する機能を有する。
この振動現象自体は、還流ダイオードが組み込まれたインバータ等の電力変換装置の回路中に生じる寄生インダクタンスLsと、還流ダイオードの逆回復動作時の逆回復電流Irの遮断速度(dIr/dt)の相互作用によってサージ電圧Vsが生じ、これを起点として発生することが一般的に知られている。この電流・電圧の振動現象は、サージ電圧による素子の破壊、振動動作中の損失の増大、周辺の回路の誤動作などを引き起こすことから、安定動作の阻害要因となるため、抑制することが求められる。このため、振動現象を低減するためには、逆回復動作時の電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和することと、さらには振動している電流をいち早く減衰し振動を収束させる機構が必要となる。
しかしながら、従来のユニポーラ動作をするショットキーバリアダイオードのみでは、逆回復電流Irの成分が多数キャリアで構成されているため、過剰キャリアによる逆回復電流Irは大きく減るものの、空乏層の形成速度でほぼ決まる逆回復時間tがほとんど制御できないことから、電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しない。その理由として大きく2つ挙げられる。
1つは、上述したように、ショットキーバリアダイオードにおいては、遮断状態から導通状態に注入される過剰キャリアの量が、遮断時にドリフト領域中に形成される空乏領域を補充する多数キャリアのみで構成されている点である。つまり、ショットキーバリアダイオードの逆回復電流の遮断速度(dI/dt)はほとんど空乏領域の形成速度にのみ依存し、かつ、少数キャリアがほとんど存在しないためPN接合ダイオードのようなライフタイム制御法をそのまま用いることはできない。このため、ショットキーバリアダイオードのみを用いる場合、スイッチング素子のスイッチング速度を向上し過渡損失を低減しようとすると、より激しい振動現象が発生することから、過渡損失の低減と振動現象の抑制にはトレードオフの関係があった。
もう1つは、ショットキーバリアダイオードは導通時にほぼ多数キャリアのみで動作するため、導通時も遮断直前においても、素子内部の抵抗はドリフト領域の厚み並びに不純物濃度に準じた抵抗で変わらない点である。上述したように、PN接合ダイオードは、導通時は伝導度変調効果によって低抵抗になるものの、伝導度変調が解除される逆回復動作時にはドリフト領域は高抵抗となり、逆回復電流Irを抵抗制限する機構を有している。それに対して、ショットキーバリアダイオードは、それ自体の抵抗成分としては導通時も遮断直前においても低抵抗であり、逆回復電流Irを抵抗制限する機構を有していない。そのため、電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しないのである。さらに、半導体材料として炭化珪素などワイドギャップ半導体を用いていることで、素子自体の抵抗が小さいため導通損失を低減できる反面、振動現象がより起きやすくなっている。このことから、ショットキーバリアダイオードのみを用いる場合、導通時の損失と振動現象の抑制機構にトレードオフの関係があった。
これに対して、本実施形態においては、還流ダイオード100と半導体スナバ200を並列接続する簡便な構成により、過渡損失並びに導通損失を低減しつつ、かつ、振動現象を抑制することができる。
すなわち、本実施形態においては、還流ダイオード100において、順バイアス電流が減少し、順バイアス電流がゼロになると、ドリフト領域2中に逆バイアス電圧による空乏層が形成され、過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始める。その逆バイアス電圧が印加されるのとほぼ同時に、半導体スナバ200中の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の逆バイアス電圧が印加され、半導体スナバ200中にも相応の過渡電流が流れ始める。この半導体スナバ200に流れる過渡電流は、誘電領域12からなるキャパシタ210の容量Cの大きさと基板領域11の抵抗220の抵抗値Rの大きさで決まり、自由に設計することができる。この並列に接続された半導体スナバ200の効果は3つある。
第1の効果は、半導体スナバ200は電圧の過渡変動がないと動作しないため、スイッチング素子Dのスイッチング速度には影響を与えず、スイッチング速度に依存する損失は従来と同様に低く抑えることができることである。つまり、還流ダイオード100に流れる順バイアス電流の遮断速度を高速に設定することができるため、メイン電流の遮断に伴う損失を低減できる。
第2の効果は、還流ダイオード100が逆回復動作に入ったときに、還流ダイオード100に並列接続された半導体スナバ200のキャパシタ210並びに抵抗220が作動し、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和することができ、サージ電圧そのものを低減できることである。
第3の効果は、半導体スナバ200に流れた電流を基板領域11の抵抗220で電力消費するため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーを吸収し、振動現象を素早く収束することができることである。
このように、本発明においては、還流ダイオード100が有する過渡損失ならびに導通損失を低減する性能を有すると同時に、ユニポーラ動作ならではの本質的な振動現象を、半導体スナバ200を用いることで解決することができるという特徴を有する。
一般に、RCスナバ構成は回路として見れば従来から知られた回路であるが、スナバ回路を半導体基体上に形成する半導体スナバ200は、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作を有する還流ダイオード100と組み合わせることで、初めてスナバ回路として十分な機能を果たすことができる。つまり、インバータ等の電力変換装置に一般的に用いられてきたシリコンからなるPN接合ダイオードにおいては、電力容量の制限で半導体チップ上のスナバ回路は事実上困難であり、ディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗を電力変換装置の半導体パッケージの内側もしくは外側のメイン電流が流れる経路に配置する必要があるためである。その理由として、スナバ回路が十分機能を果たすためには、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和するために、ダイオードに流れる逆回復電流と同程度の過渡電流が流れるような容量を持つキャパシタが必要であること、かつ、振動現象を減衰するために、そのキャパシタに流れる電流を電力消費可能な電力容量を有する抵抗が必要であること、が挙げられる。上述したように、PN接合ダイオードは還流する電流の大きさによって、逆回復電流の大きさが変化し、上記一例ではユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードに比べて100倍もの逆回復電流が発生する。ダイオードに流れる電流密度がさらに大きくなったり、また耐圧クラスが大きくなるほど、導通時に注入される過剰キャリアはさらに増大し、逆回復電流も大きくなる。そのため、キャパシタを半導体チップ上に形成しようとすると、厚みは必要耐圧で制限されることから、単純に計算して面積を100倍にする必要がある。また、抵抗220に関しても消費すべき電力が100倍となるため体積を100倍にする必要があり、結果としてチップサイズが100倍必要となる。このことから、従来の技術の延長では電力変換装置におけるスナバ回路を半導体チップで形成するという発想は事実上困難であった。
本実施形態においては、還流ダイオード100に流れる過渡電流が高々ドリフト領域2に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみからなる過渡電流であることに着目し、スナバ回路を小容量の半導体スナバ200で形成しているところが従来技術と異なる点である。さらに、本実施形態の構成により、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない新たな効果を得ることができる。
第1の効果は、ユニポーラ動作をする還流ダイオード100に所定のキャパシタ容量及び抵抗値をもつ半導体スナバ200を一旦並列接続すると、その還流ダイオードが動作する全電流範囲、全温度範囲において、スナバ機能が有効に働くということである。上述したように、ショットキーバリアダイオードの逆回復電流は、逆バイアス電圧によって空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアのみで構成されているため、還流動作時に流れていた電流の大きさによらず、毎度ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。また同様の理由で、還流ダイオードの動作温度にもほとんど影響を受けず、ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。このため、全ての電流範囲、温度範囲において、過渡損失を低減し、かつ振動現象を抑制することができる。これらは、一般的なPN接合ダイオードとの組み合わせでは得られない効果である。
第2の効果は、図3に示すように、スナバ回路を半導体スナバ200で形成することで、還流ダイオード100の直近に低インダクタンスで実装することができ、さらに過渡損失を低減しかつ振動現象を抑制できる点である。これは、還流ダイオード100にスナバ回路を並列接続する際に生じる寄生インダクタンスが小さいほど、スナバ回路に流れる過渡電流が流れやすく、還流ダイオードに流れる逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和しやすくなることと、スナバ回路中のキャパシタに印加される電圧に重畳される寄生インダクタンスで発生する逆起電力が小さいため、キャパシタの耐圧範囲でスイッチング時間を速くできることによる。このことから、本実施形態においては、従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗とを用いるスナバ回路の場合に比べて、寄生インダクタンスを低減することで、スイッチング時間を短縮し過渡損失を低減できるとともに、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を適切に緩和し振動現象を抑制することができる。
また、スナバ回路を還流ダイオード100の直近に実装することは、不要なノイズ放射を低減することにもなる。例えば従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗とを用いるスナバ回路の場合では、還流ダイオード100で発生した振動電流はこれらの部品を通り、還流ダイオード100に戻る経路を通る。その際に抵抗220により振動電流が抑制されていくが、それまでの間にこの電流経路が作る面が一種のループアンテナとして働き、ノイズを放射する。スナバ回路を半導体スナバ200で形成した場合には、還流ダイオード100の直近に実装していることから、振動電流の電流経路が作る面の大きさがディスクリート部品を用いた場合よりも格段に小さくなり、振動電流によるノイズ放射が低減される。これにより、ノイズによる制御回路等の誤動作を防ぐことができる。
さらに、本実施形態においては、スナバ回路を半導体スナバ200で形成することで、還流ダイオード100と同様の実装工程を用いて電力変換装置を構成することができるため、簡便でかつ容易に振動現象を抑制することができるとともに、従来技術のスナバ回路に比べて必要な体積も大幅に低減できる。
また、半導体スナバ200の抵抗成分を半導体基体で形成し図3に示すような半導体パッケージに直接実装することができるため、高い放熱性を得ることができる。そのため、外付けの抵抗等に比べて、より高密度の抵抗設計が可能となる。つまり、破壊に対する耐性が高くより小型化が実現可能である。
また、本実施形態で一例としてあげたように、還流ダイオード100を炭化珪素からなるショットキーバリアダイオードで構成することで、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。つまり、所定の耐圧を得るために、ワイドバンドギャップにより空乏層の厚みを小さくできるほど、還流ダイオード100自体の抵抗が小さく低導通損失を低減できるのであるが、その反面、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)が高くなり、かつ振動エネルギーが消費されないため、振動現象がより顕著となる性質を有しているからである。還流ダイオード100としてシリコンからなるショットキーバリアダイオードを用いた場合には、本発明の効果として一定レベルの効果は得られるものの、ドリフト領域2の不純物濃度や厚みの制限により、炭化珪素材料に比べてダイオード自体に大きな抵抗成分を有するため、ダイオード自体で振動エネルギーを消費し減衰しやすい。このことから、還流ダイオード100が炭化珪素などのワイドバンドギャップ半導体で構成することで、より顕著に導通損失の低減と振動現象の緩和を両立することができる。
なお、本実施形態においては、還流ダイオード100の半導体材料を炭化珪素とした場合で説明しているが、窒化ガリウムやダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体を用いても同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態の半導体スナバ200においては、第1電極13と第2電極14の両方が、半導体スナバ200の表面側に形成されている。これにより、本実施形態においては、半導体スナバ200の配置レイアウトを自由に設計することができるため、設計自由度が高いという効果を有する。これにより、第1電極13と第2電極14の配置や形状を変えることにより、容易に抵抗220の抵抗値Rを変えることができる。この結果、逆回復動作時の振動現象の収束時間をより短縮することができる。更に、第1電極13と第2電極14を同一材料で形成すれば、同時に形成することができ、製造プロセスの簡略化が可能となるという効果も有する。
(変形例)
以上、本実施形態の一例として図1〜図6を用いて説明してきたが、半導体スナバ200としては、図1で示す単純なRCスナバ回路以外にも、図10に示すように、抵抗220に並列に接続するようにダイオード230を有する構成であっても良い。これは、キャパシタ210と抵抗220を少なくとも有する半導体スナバ200であれば、上記と同様の効果を得ることができるためである。
また、実装形態の一例として示した図3のセラミック基板を用いた半導体パッケージ以外にも、図11に示すように、金属基材420を支持基材及びカソード端子とし、アノード端子340とモールド樹脂510からなるような所謂モールドパッケージ型の実装形態を用いても良し、他の実装形態をとっていても良い。また、本実施形態においては、還流ダイオード100と半導体スナバ200がそれぞれ1チップずつの場合を示しているが、一方もしくは両方が複数のチップで構成されていてももちろん良い。また、図3及び図11はチップの裏面側の電極のみを半田等で実装し、表面側の電極は、金属配線320、330、1100を配線する場合を一例として挙げているが、チップの表面側及び裏面側の電極の両面を半田等で実装する方式としても良い。両面を半田等で実装することで冷却性能が向上するため、還流ダイオード100の放熱性及び半導体スナバ200の抵抗220の放熱性が増すため、より高密度に実装することができる。
また、本実施形態を説明するに当たって、半導体スナバ200の構造の一例として図6を用いて説明していたが、図12〜図28に示すように、別の構成で形成していてももちろん良い。
図12は、図6で示したシリコン酸化膜からなる誘電領域12の代わりに、P型の反対導電型領域15を形成した場合を示している。上記図6の場合には、還流ダイオード100が逆回復動作する際に印加される電圧を、誘電領域12のキャパシタ210に充電することで振動現象を抑制していたのに対し、図12においては、P型の反対導電型領域15とN型の基板領域11との間に形成される空乏層(図12中破線部)をキャパシタ210として使用する。空乏層をキャパシタ210の成分として用いる利点としては、シリコン酸化膜等の誘電領域12に比べると、過渡電流による劣化が比較的少ない点である。つまり、長期信頼性の点で有利である。また、半導体スナバ200の半導体材料として、炭化珪素やダイヤモンドなどの高温に強い材料を用いた場合においては、キャパシタ210を空乏層で形成したほうが、シリコン酸化膜等の誘電領域12で形成するよりも、高温での使用温度範囲が高く設計することができる。このことから、温度環境が厳しい場所で適用範囲が広いという特徴を有する。
また、基板領域11に空乏層を形成する他の構成として、図13に示すように、基板領域11上に、基板領域11とショットキー接合を形成する金属材料からなる第1電極13を形成する方法も用いることができる。ショットキー接合以外にもヘテロ接合など、逆バイアス電圧が印加されると空乏層が形成される構成であれば、どのような構成でも同様の効果を得ることができる。
なお、図12及び図13の構成では、順バイアス時に順方向電流が流れることが懸念されるが、図12及び図13の基板領域11の抵抗値は還流ダイオード100のドリフト領域2の抵抗に比べて大きいことから、電流の大部分は低抵抗の還流ダイオード100に流れるため順バイアス時の導通損失にはほとんど影響しない。
図14及び図15に示すように、キャパシタ210を構成する部位として、複数の領域が直列もしくは並列に形成されていても良い。図14は、図6で説明した誘電領域12によるキャパシタ210の容量Cと、図12で説明した反対導電型領域15を形成することで得られる空乏層を利用したキャパシタ210の容量Cとを、直列に接続した場合である。また、図15は、誘電領域12によるキャパシタ210の容量Cと、図13で説明した空乏層のよるキャパシタ210の容量Cとを並列に接続した場合を示している。いずれにしても、キャパシタ210と抵抗220とが直列接続するように形成されていれば、どのような領域で構成しても良い。
また、図16は、図6で示した基板領域11からなる抵抗220を、基板領域11以外で形成した場合を示している。図16中、図6で用いた基板領域11の代わりに、N+型の低抵抗基板で構成された低抵抗基板領域16で形成し、抵抗220を誘電領域12上に、多結晶シリコンからなる抵抗領域17で形成している。多結晶シリコンからなる抵抗領域17は厚み及び不純物濃度を変えることで抵抗値を自由に変えられるところが利点として挙げられる。つまり、支持基体として基板領域を選ぶ際にどのような基板を用いても半導体スナバ200を形成できるため、実現性の自由度をあげることが可能となる。なお、抵抗領域17は、多結晶シリコン以外でも、どのような材料を用いても良いが、抵抗領域17をシリコンよりも高い絶縁破壊電界を持つ材料で構成するとなお良く、抵抗領域17の製作プロセスをさらに容易にする効果がある。逆回復時に還流ダイオード100の両端にサージ電圧として100Vが印加された場合、半導体スナバ200においては、キャパシタ210には過渡電流が流れるため、概ね、抵抗領域の両端に、サージ電圧と同等の100Vが印加される。このとき、抵抗領域には、その材料に応じた絶縁破壊電界と厚みから決まる絶縁破壊電圧以上の破壊耐圧が求められる。100Vの破壊耐圧を持たせるためには、シリコンの場合、絶縁破壊電界が約0.3MV/cmであるので、3μm程度の厚さが必要になる。そこに、シリコンよりも高い絶縁破壊電界を持つポリ炭化珪素を用いると、絶縁破壊電界が約3.6MV/cmであるので、厚みを1/10程度に削減することができる。そのため、抵抗領域作製時の堆積時間を短縮でき、プロセスを容易にすることができる。また、炭化珪素のほうがシリコンよりも熱伝導率が3倍程度良いため、抵抗領域17の放熱性を良くする効果もある。
図17は、抵抗220として、図6で説明した基板領域11と図16で説明した抵抗領域17を直列に接続した場合を示している。このように、抵抗220についても、キャパシタ210と直列接続するように形成されていれば、どのような領域で構成しても良い。
なお、図6並びに図12〜図17においては、キャパシタ210を構成する誘電領域12もしくは空乏層がアノード端子300側(第1電極13側)に形成される場合で説明してきたが、図18に示すように、カソード端子400側(第2電極14側)にキャパシタ210(図18においては誘電領域12)が形成されていても良い。また、図19に示すように、第1電極13並びに第2電極14の両方の電極それぞれにキャパシタ210(図19においては誘電領域12)が形成されていても良い。図19においては、誘電領域12の厚みを所望の耐圧の半分程度が得られる厚みにすることで、アノード端子とカソード端子間のトータルの耐圧としては、図6と同等で、誘電容量としても同等の値を得ることができる。このように、本実施形態においては、第1電極13と第2電極14が同一主面上に形成されているため、キャパシタ210の配置を自由に設定できるという利点がある。
また、抵抗220に関しても、図6並びに図12〜図17に示すように、本実施形態においては、第1電極13と第2電極14が同一主面上に形成されているため、第1電極13と第2電極14との距離を変えることによって容易に最適化することができるが、さらに、図20〜図28に示すように抵抗220として働く電流導通路の厚みや幅を変えることによって、より短い距離で最適な抵抗220を得ることができる。
図20は、第1電極13と第2電極14の間の電流導通路となる基板領域11の表層部に溝を形成し、溝の内部にシリコン酸化膜からなる埋め込み領域(電流阻止領域)1001が形成された場合を示している。埋め込み領域1001は、少なくとも抵抗220より抵抗値が大きい材料であれば何で埋め込まれていても良いし、特に何も埋め込まれていなくても良い。図20における第1電極13と第2電極14との間の電流導通路としては、埋め込み領域1001の直下の基板領域11の厚みが、他の領域に比べて小さくなるため、埋め込み領域1001が形成されていない図6の場合と比べて、第1電極13と第2電極14との間の抵抗は大きくなる。つまり、抵抗220として、所定の抵抗値Rを得るために短い距離で形成することができるため、半導体スナバ200のチップ面積を小型化することができる。
図21は、図20において溝を形成してそこに埋め込み領域1001を形成した代わりに、基板領域11とは反対導電型からなるP型の反対導電型領域1002を形成した場合を示している。この場合においても、図20と同様に、第1電極13と第2電極14との間の電流導通路としては、反対導電型領域1002の直下の基板領域11の厚みtが小さい部分を通って形成される。これは、第1電極13と第2電極14との間のP型の反対導電型領域1002を通る経路には、PN接合の順接合と逆接合が直列に形成されるため、逆接合の部分で電流が流れないからである。
このように、図20及び図21では、基板領域11の厚み方向に電流導通路を制限する場合の一例を示したが、本実施形態においては、図22及び図23に示すように、基板領域11の水平方向についても幅を制限することができる。
図22は、図20で示した断面構造を上面から示した構造の一例である。図20の埋め込み領域1001の図20中の紙面奥行き方向に、埋め込み領域1001が島状に形成されているのを示したのが図22である。つまり、図22では埋め込み領域1001が基板領域11を挟むように横方向にストライプ状に形成されている。このように、第1電極13と第2電極14との間の基板領域11の水平方向についても幅を制限することが容易に実現することができる。
図23は、図22において溝を形成してそこに埋め込み領域1001を形成した代わりに、図21に対応する基板領域11とは反対導電型からなるP型の反対導電型領域1002を形成した場合を示している。図23においても、第1電極13と第2電極14との間のP型の反対導電型領域1002を通る経路には、PN接合の順接合と逆接合が直列に形成されるため、基板領域11の水平方向についても幅を制限することが容易に実現することができる。
以上、図20〜図23では、電流導通路して機能しない所定領域を形成して、電流導通路の厚みや幅を制限する例を示してきたが、図24〜図28は、電流導通路として機能する所定領域を形成して、電流導通路の厚みや幅を制限する例を示す。
図24は、N型の低抵抗基板領域16上にP型の反対導電型領域1003を形成し、反対導電型領域1003は第2電極14と、誘電領域12を介して第1電極13とともに接する構成を示している。つまり、図24においては、第1電極13と第2電極14とをつなぐ抵抗220は、反対導電型領域1003で構成されている。低抵抗基板領域16は反対導電型領域1003に比べて抵抗値は小さいが、低抵抗基板領域16を通る経路には、PN接合の順接合と逆接合が直列に形成されるため、低抵抗基板領域16には電流が流れない。このような構成にすることで、電流導通路の厚みをより簡単に、小さくすることができるため、更なる小型化と製造プロセスの簡易化を図ることができる。なお、図24においては、半導体基板として低抵抗基板領域16を示しているが、もちろん抵抗値の大きい基板領域11を用いてももちろん良い。また、図25に示すように、低抵抗基板領域16上にドリフト領域1004が形成されている半導体基体を用いて、ドリフト領域1004の表層部に反対導電型領域1003を形成する構成としてももちろん良い。このような構成にすることによって、基板となる半導体基体の不純物濃度や導電型によらず半導体スナバ200を簡単に作成することができる。
図24及び図25に示すように電流導通路として機能する所定領域を形成して、電流導通路の厚みや幅を制限する場合においても、図26〜図28に示すように、基板領域11の水平方向についても幅を制限することができる。
図26は、図25に対応した上面図であり、反対導電型領域1003をストライプ状に形成した場合を示している。つまり、反対導電型領域1003とドリフト領域1004とが交互に形成されている。図24においては、電流導通路としては、反対導電型領域1003の深さで決まる厚みと反対導電型領域1003自身の幅で決まるため、抵抗220をより小さい面積で形成することができる。
図27は、図26と同様の電流導通路を持つ別の実施形態で、ドリフト領域1004の代わりに高濃度ドリフト領域1005を形成した場合を示している。図27においては、反対導電型領域1003を全面所定の深さで形成した後で、反対導電型領域1003より不純物密度の高い高濃度ドリフト領域1005を所定領域に形成して、反対導電型領域1003の幅を制限するような場合を示している。
図28は、図26と同様の電流導通路を持つ別の実施形態で、ドリフト領域1004の代わりに埋め込み領域1001を形成した場合を示している。図28においては、反対導電型領域1003を全面所定の深さで形成した後で、所定位置に溝を形成し、その溝の中に埋め込み領域1001を形成して、反対導電型領域1003の幅を制限するような場合を示している。
以上、本実施形態においては、半導体スナバ200の支持基体としてシリコンからなる半導体材料を用いた場合を一例としてあげたが、窒化シリコンや窒化アルミやアルミナなどの絶縁基板材料を基板領域としていてももちろん良い。図29は、窒化シリコンからなる絶縁基板18上にN−型の抵抗領域19を形成した場合を示している。このように、基板材料がシリコン等の半導体基体からならなくても、図3に示すようにチップ材料として半導体チップと同等に扱えて実装できる構成であればどのような構成でも良い。また、図29においては、絶縁基板18と抵抗領域19とが接する場合を示しているが、それらの間に金属膜や半田等の接合材料が形成されていても良い。
また、図30および図31は、スナバ回路に用いるキャパシタ210の容量Cの大きさによって、振動現象の抑制効果との関係とキャパシタ210の容量Cに流れる過渡電流による損失の増加しろとの関係について、一例として回路シミュレータを用いて計算した結果である。スナバ回路の振動低減は、回路中の寄生インダクタンスLsと還流ダイオード100のキャパシタ容量C0と還流ダイオードに並列接続されたスナバ回路のキャパシタ210の容量Cと抵抗220の抵抗値Rで構成された簡単な回路で計算できる。例えば、本計算では、効果回路中の寄生インダクタンスをLs=99nH、抵抗値R=40Ωに固定して、C/C0の大きさによって、振動現象の減衰時間やスナバ回路で発生する過渡損失の増加しろの変化を検証した。なお、還流ダイオード100のキャパシタ容量C0は、150pFとした。まず、C/C0が大きくなるほど、振動現象の減衰時間は小さくなる。図31の左側の軸は、スナバ回路がない場合において電圧もしくは電流振動が1/10に減衰するまでの時間をt0とし、スナバ回路を追加した際にスナバ回路がない場合と同等の振動となるまでの時間をtとした場合の振動現象収束時間比t/t0を示している。図30から、C/C0の値が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になっている。一方、C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。また、図31の右軸に示すように、スナバ回路に形成するキャパシタ210の容量Cによって、過渡動作時にはキャパシタ210の容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ210の容量Cの大きさは極力小さいほうが望ましい。なお、E0は還流ダイオード100に流れる過渡電流で発生する損失である。
このことから、本実施形態で用いるスナバ回路のキャパシタ210の容量Cの大きさは還流ダイオード100の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の大きさに比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で容量を選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、上記実施形態で説明したどの実施形態においても得ることができる。
(第2実施形態)
図32〜図34及び図5、図6を用いて、本発明における半導体装置10の第2実施形態を説明する。本実施形態においては、第1実施形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
図32は、図1に対応する本発明の実施形態を説明する回路図、図33は図3に対応する図32の回路図の一例として具体化した半導体チップの実装図、図34、図5並びに図6は図33の実装図に用いられている半導体チップのそれぞれの断面構造図の一例である。
(半導体装置の回路構成)
図32に示すように、本実施形態における半導体装置10は、第1実施形態で説明したユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をするユニポーラ型の還流ダイオード100と、少なくともキャパシタ210と抵抗220を含むように構成された半導体スナバ200に加え、スイッチング素子600が、それぞれエミッタ端子301並びにコレクタ端子401に接続するように、並列接続された半導体装置10である。
本実施形態では、還流ダイオード100と半導体スナバ200とスイッチング素子600とが別の半導体チップとして形成した場合について説明する。半導体スナバ200の構成並びに還流ダイオード100の構成は、第1実施形態と同じ構成とした場合について説明する。スイッチング素子600に関しては、シリコンを半導体基体材料としたIGBTを使用した場合について説明する。なお、本実施形態では、エミッタ端子301とコレクタ端子401が互いに対面するように電極形成された、いわゆる縦型のIGBTを一例として説明する。
(半導体装置の実装構造)
図33は、図32で示した還流ダイオード100(炭化珪素ショットキーバリアダイオード)と半導体スナバ200(シリコン半導体RCスナバ)さらにはスイッチング素子600(シリコンIGBT)からなる半導体装置10についての実装図である。
図33においては、図3と同様に半導体パッケージの一例としてセラミック基板を用いた場合について説明する。カソード側金属膜410上には、還流ダイオード100、スイッチング素子600のそれぞれの半導体チップのコレクタ端子401側が例えば半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、還流ダイオード100、スイッチング素子600のそれぞれの半導体チップのエミッタ端子301側は、例えばアルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線320、350を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。さらに、本実施形態においては、スイッチング素子600のゲート端子から金属配線710を介して、ゲート側金属膜700に接続された構成となっている。
また、半導体スナバ200については、第1実施形態でも説明したように、本実施形態においては、アノード端子300とカソード端子400が半導体スナバ200の表面側に互いに絶縁されるように形成されている。そして、カソード端子400は、例えばアルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線1100を介してカソード側金属膜410と電気的に接続されており、アノード端子300は、例えばアルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線330を介して、アノード側金属膜310に接続された構成となっている。なお、本実施形態においては、半導体スナバ200を構成する半導体チップを、例えばカソード側金属膜410上に所定の接着材料を介して固定するように配置した場合を示しているが、配置される場所は、アノード側金属膜310や絶縁基板500上もしくは新たに形成する所定の金属膜上でも特に制限はない。
スイッチング素子600、還流ダイオード100および半導体スナバ200を構成するそれぞれの半導体チップの断面構造を示したのが、それぞれ図34、図5および図6に示す断面構造図である。
(スイッチング素子の構造)
図34に示すように、スイッチング素子600は、一例として一般的なIGBTの構成を示している。例えばシリコンを材料としたP+型の基板領域21上に、N型のバッファ領域22を介して、N−型のドリフト領域23が形成された基板材料を用いた場合で説明する。基板領域21としては、抵抗率が数mΩcm〜数10mΩcm、厚さが数μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域23としては、N型の不純物密度が1013〜1016cm-3、厚みが数10μm〜数100μmのものを用いることができる。なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や不純物密度および厚みが前記範囲外となってももちろん良いが、一般に抵抗率及び厚みは小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗が小さくなるようにするのが望ましい。本実施形態では、不純物密度が1014cm-3、厚みが50μmで耐圧が600Vクラスのものを用いた場合で説明する。バッファ領域22はドリフト領域23に高電界が印加された際に、基板領域21とパンチスルーするのを防止するために形成される。本実施形態では一例として、基板領域21を支持基材とした場合を説明しているが、バッファ領域22やドリフト領域23を支持基材としても良い。バッファ領域22は基板領域21とドリフト領域23とがパンチスルーしない構造であれば、特になくても良い。
ドリフト領域23中の表層部にP型のウェル領域24が、さらにウェル領域24中の表層部にN+型エミッタ領域25が形成されている。そして、ドリフト領域23、ウェル領域24及びエミッタ領域25の表層部に接するように、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜26を介して、例えばN型の多結晶シリコンからなるゲート電極27が配設されている。さらに、エミッタ領域25並びにウェル領域24に接するように例えばアルミ材料からなるエミッタ電極28が形成されている。エミッタ電極28とゲート電極27との間には互いに接しないように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜29が形成されている。また、基板領域21にオーミック接続するようにコレクタ電極30が形成されている。このように、本説明で用いるIGBTはゲート電極27が半導体基体に対して平面上に形成されている所謂プレーナ型をしている。
図5に一例として示した還流ダイオード(ここではショットキーバリアダイオード)の構成は第1実施形態で説明したものと同様とする。
(半導体スナバの構造)
ただし、図6に示す半導体スナバ200については、基本的な構成は第1実施形態と同様とするものの、スナバ機能を効果的に発揮するためには、新たに並列接続されたスイッチング素子600を考慮したキャパシタ210の容量Cの設定と基板領域11による抵抗220の抵抗値Rの設定が望ましい。ただし後述するように、還流ダイオード100に逆回復電流が流れる場合においては、並列されたスイッチング素子600は必ず遮断状態にあるため、半導体スナバ200のキャパシタ210の容量C及び抵抗220の抵抗値Rの設定は、第1実施形態で説明した場合と同じように、還流ダイオード100とスイッチング素子の遮断時の空乏容量に応じた設定で対応可能である。つまり、基板領域11は必要な抵抗値の大きさに応じて、基板の抵抗率や厚みさらには距離によって決めることができ、例えば抵抗率が数mΩcmから数100Ωcm、厚さが数10〜数100μm程度のものを用いることで対応可能である。また、キャパシタ210の容量Cについても、必要耐圧を最低限満たすようにして、必要な容量が得られるように、誘電領域12の厚みや面積を変えることで対応可能である。本実施形態においては、還流ダイオード100並びにスイッチング素子600が遮断状態時(高電圧印加時)にそれぞれ充電される空乏容量の和に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、十分なスナバ機能を発揮し、かつ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、後述する計算結果が示すように、概ね10分の1程度から10倍程度の範囲が望ましい。本実施形態においては、例えば還流ダイオード100及びスイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように例えば厚みは1μmとし、キャパシタ210の容量Cが還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態時に形成される空乏容量の和と同程度としたものを用いた場合で説明する。
スイッチング素子600が並列に接続された本実施形態においても、後述するように、還流ダイオード100として例えばショットキーバリアダイオードを用いた場合に、ユニポーラ動作によって本質的に発生する電流・電圧の振動現象に対して、従来からバイポーラ動作のダイオードの振動低減用のスナバ回路として用いられる、メイン電流が流れる経路にフィルムコンデンサやメタルクラッド抵抗など外付けのディスクリート部品を配線する手法を用いずに、小容量で小サイズのキャパシタ210と抵抗220を有する半導体スナバ200を並列接続することで、容易にかつ効果的に振動現象を抑制できることを特徴としている。また、効果的にスナバ機能を発揮する設計式として、C=1/(2πfR)が一般的に知られており(fは振動現象の周波数)、本実施形態においては、その式を満たすように、小容量の半導体スナバ200を用いたキャパシタ210と抵抗220の抵抗値Rを容易に設定することができることを特徴としている。
(動作)
次に、本実施形態の動作について詳しく説明する。
本実施形態で説明する半導体装置10の構成は、電力エネルギーの変換手段の1つとして一般的な図35に示すような3相交流モータを動かす所謂インバータや、図36に示すような所謂Hブリッジなどの電力変換装置に用いることができる。図35に示すインバータにおいては、電源電圧(+V)(例えば本実施形態では400V)に対して、上アームを形成する並列接続されたスイッチ素子Eと受動素子Bと、下アームを形成する並列接続されたスイッチ素子Gと受動素子Fとを、逆バイアス接続になるように直列に接続して使用される。この接続が3相分接続され、3相インバータを構成する。本実施形態の半導体装置10の動作モードは、上アームもしくは下アームのどちらかのスイッチング素子がスイッチング動作した場合に、スイッチング動作していないアームのスイッチング素子及び受動素子が連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。ここでは、図35中の3相のうちの1相の動作を用いて半導体装置10の動作を説明することとし、さらに、一例として下アームのスイッチング素子Gがスイッチング動作をし、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bとが還流動作をする場合について説明する。
まず、スイッチング素子Gがオンし、スイッチング素子Gに電流が流れている状態においては、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bは逆バイアス状態となり遮断状態になる。
まず、下アームの導通状態にあるスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fにおいては、還流ダイオード100及び半導体スナバ200は遮断状態を維持する。すなわち、還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオード(図5)については、その両端に印加されている電圧がスイッチング素子Gのオン電圧程度と低いものの逆バイアス電圧が印加されるためである。また、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ210として機能する誘電領域12の電圧が変化するときのみ動作するため、スイッチング素子Gのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態では遮断状態となる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bについても、電源電圧程度の逆バイアス電圧が共に印加されているため、遮断状態を維持する。すなわち、図34に示すスイッチング素子600であるIGBTについては、エミッタ端子301とコレクタ端子401間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域23中にはウェル領域24とのPN接合部から伸びた空乏層が形成され遮断状態が維持されるためである。また、図5に示す還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、表面電極3と裏面電極4間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。また、図6に示す半導体スナバ200においても、キャパシタ210として機能する誘電領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。
このように、下アームのスイッチング素子Gが導通状態の時には、上下アーム共に受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の機能を有する。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオフして遮断状態に移行する場合について説明する。
図35に示すようなモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオフする際には、電圧上昇と電流遮断の位相がずれるため、導通時の電流をほぼ維持した状態で、まずスイッチング素子Gの電圧上昇が起こる。
まず、下アームのターンオフするスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ200共に、スイッチング素子Gの電圧上昇に伴って、オン電圧程度の低い逆バイアス電圧から電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。すなわち、図5に示す還流ダイオード100においては、電圧の上昇に伴ってドリフト領域2中に表面電極3側から空乏層が広がる際に、電子が裏面電極4側に過渡電流として流れ、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ容量として働く誘電領域12が印加電圧に応じて充電されるため過渡電流が流れる。このとき、半導体スナバ200の誘電領域12のキャパシタ210としての容量Cの充電作用によって、スイッチング素子Gのコレクタ/エミッタ間に生じる過渡的な電圧上昇を緩和し、回路中に含まれる寄生インダクタンスによるサージ電圧の発生を抑制することができる。つまり、本実施形態においては、スイッチング素子600とも並列接続することで、スイッチング素子600自体がターンオフ動作をする際にも、素子破壊や他の周辺回路への誤動作等を引き起こすサージ電圧を低減し、より安定動作を実現することができる。
そして、スイッチング素子600の電圧上昇後、電流は所定の速度で遮断する。このとき、本実施形態で一例として挙げたIGBTでは、導通時に基板領域21から注入されたホール電流の影響で電流の遮断速度は制限され損失は生じるものの、電流遮断による振動現象は起こりにくく、結果として安定動作に寄与している。そして、スイッチング素子600の電流が遮断した後は、下アームのスイッチング素子G及び受動素子Fは定常オフ状態となり、遮断状態を維持する。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオフ動作に連動して、順バイアス状態となり導通状態に移行する。図5に示す還流ダイオード100のドリフト領域2中に広がっていた空乏層が後退し、表面電極3とドリフト領域2との間に形成されているショットキー接合部にショットキー障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。このとき、還流ダイオード100に流れる電流は、ドリフト領域2中をほぼ裏面電極4側から供給される電子電流のみで構成されており、ユニポーラ動作をする。
また、図6に示す半導体スナバ200においても、還流ダイオード100と同様に、高電圧の逆バイアス状態から低電圧の順バイアス状態に移行するため、誘電領域12に充電されていた電荷は放電され、過渡電流が流れる。しかしながら、本実施形態では、誘電領域12のキャパシタ210としての容量Cが還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断時に形成される空乏容量と同程度と非常に小容量であるため、放電によって流れる過渡電流の大きさは、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べて非常に小さく、動作にはほとんど影響しない。また、並列接続されているスイッチング素子Eについても、コレクタ/エミッタ間の電圧は逆バイアス電圧状態から順バイアス状態に移行するものの、ゲート信号はオフ状態を維持するように制御されることと、基板領域21とバッファ領域22との間のPN接合が逆バイアス状態となるためオフ状態を維持する。ただし、コレクタ/エミッタ間の電圧状態が変位するため、スイッチング素子600中のドリフト領域23中に生じていた空乏層の容量変化に伴うキャパシタ210としての放電による過渡電流は流れるが、半導体スナバ200と同様に、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べて非常に小さく、動作にはほとんど影響しない。そして、半導体スナバ200およびスイッチング素子600は、バイアス電圧の変化に伴う過渡電流が流れた後は、順バイアス状態と定常状態に移行するため遮断状態となり、還流ダイオード100のみが導通状態となる。
本実施形態においては、還流ダイオード100が炭化珪素材料の半導体基体からなるショットキーバリアダイオードで構成されているため、一般的なシリコン材料からなるPN接合ダイオードに比べて、ドリフト領域2の抵抗を低抵抗で形成することができるため、順バイアス導通時の導通損失を低減することができる。このように、導通状態においても、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオンし、再びスイッチング素子Gがオン状態に移行する動作について説明する。
図35に示すようなモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオンする際には、電流上昇と電圧低下の位相がずれるため、比較的高い電圧が印加された状態で、スイッチング素子Gに電流が流れ始める。下アームのターンオフするスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ200共に、スイッチング素子Gに電流が流れ、コレクタ/エミッタ間の電圧が低下するのに伴って、電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧からオン電圧程度の低い逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。このとき、図5に示す還流ダイオード100においては、電圧の減少に伴ってドリフト領域2中に広がっていた空乏層は表面電極3側に徐々に狭まり、裏面電極4側からドリフト領域2中に電子が過渡電流として流れる。また、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ容量として働く誘電領域12が印加電圧の減少と共に放電されるため過渡電流が流れる。
この過渡電流は、並列するスイッチング素子600に流れるターンオン電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、下アームの半導体スナバ200及び還流ダイオード100は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、スイッチング素子600のみが導通状態となる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオン動作に連動して、逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図5に示すように、ショットキーバリアダイオードにおいては、裏面電極4側からドリフト領域2中に供給されていた電子電流は順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧がショットキー接合部のショットキー障壁高さに応じた電圧以下になり、さらには、ショットキー接合部に逆バイアス電圧が印加されはじめると、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が広がり遮断状態へと移行する。
この導通状態から遮断状態に移行する際に、還流ダイオードの素子内部に蓄積されていた過剰キャリアが消滅する過程において、過渡的に発生する電流が逆回復電流である。この逆回復電流は、受動素子B並びに下アームのスイッチング素子Gに過渡電流として流れ、それぞれの素子において損失(ここでは逆回復損失と呼ぶ)が発生する。このことから、還流ダイオードで発生する逆回復電流は極力小さいほうが良い。
本実施形態では、還流ダイオード100を炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードで形成しており、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。
さらに、本実施形態においては、従来技術である受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合では本質的に解決できなかったユニポーラ動作ならではの逆回復動作時の電流・電圧の振動現象を抑制する機能を有する。すなわち、本実施形態においては、還流ダイオード100において、順バイアス電流が減少し、順バイアス電流がゼロになると、ドリフト領域2中に逆バイアス電圧による空乏層が形成され、過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始める。その逆バイアス電圧が印加されるのとほぼ同時に、スイッチング素子600および半導体スナバ200中の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の逆バイアス電圧が印加され、スイッチング素子600及び半導体スナバ200中にも相応の過渡電流が流れ始める。この半導体スナバ200に流れる過渡電流は、誘電領域12からなるキャパシタ210の容量Cの大きさと基板領域11の抵抗220の抵抗値Rの大きさで決まり、自由に設計することができる。この並列に接続された半導体スナバ200の効果は3つある。
第1の効果は、半導体スナバ200は電圧の過渡変動がないと動作しないため、下アームのスイッチング素子Gのスイッチング速度には影響を与えず、スイッチング速度に依存する損失は従来と同様に低く抑えることができることである。つまり、還流ダイオード100に流れる順バイアス電流の遮断速度を高速に設定することができるため、メイン電流の遮断に伴う損失を低減できる。
第2の効果は、還流ダイオード100が逆回復動作に入ったときに、還流ダイオード100に並列接続された半導体スナバ200のキャパシタ成分並びに抵抗成分が作動し、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和することができ、サージ電圧そのものを低減できることである。
第3の効果は、半導体スナバ200に流れた電流を基板領域11の抵抗成分で電力消費するため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーを吸収し、振動現象を素早く収束することができることである。
このように、本発明においては、還流ダイオード100が有する過渡損失ならびに導通損失を低減する性能を有すると同時に、ユニポーラ動作ならではの本質的な振動現象を半導体スナバ200を用いることで解決することができるという特徴を有する。
本実施形態においては、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流が高々ドリフト領域2及び23に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみからなる過渡電流であることに着目し、スナバ回路を小容量の半導体スナバ200で形成しているところが従来技術と異なる点である。さらに、本実施形態の構成により、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない新たな効果を得ることができる。
第1の効果は、ユニポーラ動作をする還流ダイオード100及びスイッチング素子600に所定のキャパシタ容量及び抵抗値をもつ半導体スナバ200を一旦並列接続すると、その還流ダイオードが動作する全電流範囲、全温度範囲において、スナバ機能が有効に働くということである。上述したように、ショットキーバリアダイオードの逆回復時に発生する逆回復電流は、逆バイアス電圧によって還流ダイオード100及びスイッチング素子600に空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアのみで構成されているため、還流動作時に流れていた電流の大きさによらず、毎度ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。また同様の理由で、還流ダイオードの動作温度にもほとんど影響を受けず、ほぼ一定の逆回復電流が流れるためである。このため、全ての電流範囲、温度範囲において、過渡損失を低減し、かつ振動現象を抑制することができる。これらは、一般的なPN接合ダイオードとの組み合わせでは得られない効果である。
第2の効果は、図33に示すようにスナバ回路を半導体スナバ200で形成することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の直近に低インダクタンスで実装することができ、さらに過渡損失を低減しかつ振動現象を抑制できる点である。これは、還流ダイオード100及びスイッチング素子600にスナバ回路を並列接続する際に生じる寄生インダクタンスが小さいほど、スナバ回路に流れる過渡電流が流れやすく、還流ダイオード100に流れる逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和しやすくなることと、スナバ回路中のキャパシタ210に印加される電圧に重畳される寄生インダクタンスで発生する逆起電力が小さいため、キャパシタ210の耐圧範囲でスイッチング時間を速くできることによる。このことから、本実施形態においては、従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗とを用いるスナバ回路の場合に比べて、寄生インダクタンスを低減することで、スイッチング時間を短縮し過渡損失を低減できるとともに、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を適切に緩和し振動現象を抑制することができる。
また、スナバ回路を還流ダイオード100の直近に実装することは、不要なノイズ放射を低減することにもなる。例えば従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサなどからなるキャパシタとメタルクラッド抵抗などからなる抵抗とを用いるスナバ回路の場合では、還流ダイオード100で発生した振動電流はこれらの部品を通り、還流ダイオード100に戻る経路を通る。その際に抵抗220により振動電流が抑制されていくが、それまでの間にこの電流経路が作る面が一種のループアンテナとして働き、ノイズを放射する。スナバ回路を半導体スナバ200で形成した場合には、還流ダイオード100の直近に実装していることから、振動電流の電流経路が作る面の大きさがディスクリート部品を用いた場合よりも格段に小さくなり、振動電流によるノイズ放射が低減される。これにより、ノイズによる制御回路等の誤動作を防ぐことができる。
さらに、本実施形態においては、スナバ回路を半導体スナバ200で形成することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600と同様の実装工程を用いて電力変換装置を構成することができるため、簡便でかつ容易に振動現象を抑制することができるとともに、従来技術のスナバ回路に比べて必要な体積も大幅に低減できる。
また、本発明の第1実施形態のように、半導体スナバ200の抵抗成分を半導体基体で形成し図3に示すような半導体パッケージに直接実装することができるため、高い放熱性を得ることができる。そのため、外付けの抵抗等に比べて、より高密度の抵抗設計が可能となる。つまり、破壊に対する耐性が高くより小型化が実現可能である。
また、第1実施形態で例示したように、還流ダイオード100を炭化珪素からなるショットキーバリアダイオードで構成することで、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。つまり、所定の耐圧を得るために、ワイドバンドギャップにより空乏層の厚みを小さくできるほど、還流ダイオード100自体の抵抗が小さく低導通損失を低減できるのであるが、その反面、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)が高くなり、かつ振動エネルギーが消費されないため、振動現象がより顕著となる性質を有しているからである。このことから、還流ダイオード100が炭化珪素などのワイドバンドギャップ半導体で構成することで、より顕著に導通損失の低減と振動現象の緩和を両立することができる。
なお、本実施形態においては、還流ダイオード100の半導体材料を炭化珪素とした場合で説明しているが、窒化ガリウムやダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体を用いても同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
(変形例)
また、本実施形態においても、半導体スナバ200の構成を、第1実施形態で説明した図10に対応する抵抗220に並列に接続するようにダイオード230を有する構成であっても良い。これは、キャパシタ210と抵抗220を少なくとも有するように構成された半導体スナバ200であれば、上記と同様の効果を得ることができるためである。
また、実装形態についても、第1実施形態と同様に、図11に対応する所謂モールドパッケージ型の実装形態を用いても良し、他の実装形態をとっていても良い。また、本実施形態においては、還流ダイオード100と半導体スナバ200及びスイッチング素子600とがそれぞれ1チップずつの場合を示しているが、一方もしくは両方が複数のチップで構成されていてももちろん良い。また、第1実施形態で上述したように、コレクタ端子及びエミッタ端子の両面を半田等で実装する方式としても良い。両面を半田等で実装することで冷却性能が向上するため、還流ダイオード100の放熱性及び半導体スナバ200の抵抗220の放熱性が増すので、より高密度に実装することができる。
また、本実施形態を説明するに当たって、半導体スナバ200の構造の一例として図6を用いて説明していたが、第1実施形態と同様に、図12〜図28に示すように、別の構成で形成していてももちろん良い。このような構成においても、第1実施形態で説明した効果と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態においても、半導体スナバ200の支持基体としてシリコンからなる半導体材料を用いた場合を一例としてあげたが、図29に示すように、窒化シリコンや窒化アルミやアルミナなどの絶縁基板材料を基板領域としていてももちろん良い。なお、図29においては、絶縁基板18と抵抗領域19とが接する場合を示しているが、それらの間に金属膜や半田等の接合材料が形成されていても良い。
また、第1の実施形態において図30及び図31を参照して説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタの容量C、及び遮断状態における還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ成分の総和の容量C0であるとき、容量比C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、容量比C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。また、過渡動作時には、スナバ回路に形成するキャパシタの静電容量の大きさに比例する過渡電流によって損失Eが発生するため、キャパシタ210の静電容量の大きさは極力小さいことが好ましい。
このことから、第2の実施形態で用いる半導体スナバ回路200のキャパシタ210の静電容量は、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の総和に比べて、10分の1倍以上10倍以下の範囲に選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第2の実施形態で説明したどの構成例においても得ることができる。
(第3実施形態)
第3実施形態においては、第2実施形態で説明した還流ダイオード100と半導体スナバ200とスイッチング素子600とが並列接続した構成において、還流ダイオード100及びスイッチング素子600がそれぞれショットキーバリアダイオード及びIGBT以外の素子で構成された場合について説明する。図37は図5に対応する還流ダイオード100の一例を示し、図38は図34に対応するスイッチング素子600の一例である。本実施形態においても、第1実施形態もしくは第2実施形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
(還流ダイオードの構造)
図37に示すように、還流ダイオード100は、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域41上にN−型のドリフト領域42が形成された基板材料で構成されている。基板領域41としては、抵抗率が数mΩcmから数10mΩcm、厚さが数10μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域42としては、N型の不純物密度が1015cm-3〜1018cm-3、厚みが数μm〜数10μmのものを用いることができる。なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や不純物密度および厚みが前記範囲外となってももちろん良いが、一般に抵抗率及び厚みは小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗が小さくなるようにするのが望ましい。本実施形態では、不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmで耐圧が600Vクラスのものを用いた場合で説明する。なお、本実施形態では、半導体基体が、基板領域41とドリフト領域42の二層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域41のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に多層の基板を使用してもかまわない。また、本実施形態では、耐圧が600Vクラスの場合で説明しているが、耐圧クラスは限定されない。
ドリフト領域42の基板領域41との接合面に対向する主面に接するように、炭化珪素よりもバンドギャップの小さい多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域43が堆積されている。ドリフト領域42とヘテロ半導体領域43の接合部は、炭化珪素と多結晶シリコンのバンドギャップが異なる材料によるヘテロ接合ダイオードが形成されており、その接合界面にはエネルギー障壁が存在している。ヘテロ接合ダイオードは、ヘテロ半導体領域43の不純物密度を変えることで、ヘテロ接合部のエネルギー障壁の高さを制御することができるため、必要な耐圧に応じて、最適な障壁高さを得ることができる。ここでは、一例としてP型で不純物密度が1019cm-3、厚みが0.5μmとした場合で説明する。
また、本実施形態においては、ヘテロ半導体領域43に接するように表面電極44が、基板領域41に接するように裏面電極45がそれぞれ形成されている。表面電極44はアノード端子300として外部電極との接続をするために、最表面にアルミ、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いて多層の構造としても良い。一方、裏面電極45は、基板領域41とオーミック接続するような電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料などが挙げられ、裏面電極45はカソード端子400として外部電極と接続をする。このように、図37に示す還流ダイオード100は、表面電極44がアノード電極、裏面電極45がカソード電極とした縦型のダイオードとして機能する。
(スイッチング素子の構造)
一方、図38に示すように、スイッチング素子600は、炭化珪素からなるMOSFETを一例として示している。図38では、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域51上にN−型のドリフト領域52が形成された基板材料で構成されている。基板領域51としては、抵抗率が数mΩcmから数10mΩcm、厚さが数μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域52としては、N型の不純物密度が1014cm-3〜1017cm-3、厚みが数μm〜数10μmのものを用いることができる。なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や不純物密度および厚みが前記範囲外となってももちろん良いが、一般に抵抗率及び厚みは小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗が小さくなるようにするのが望ましい。本実施形態では、不純物密度が2×1016cm-3、厚みが5μmで耐圧が600Vクラスのものを用いた場合で説明する。本実施形態では、基板領域51を支持基材とした場合を説明しているが、ドリフト領域52を支持基材としても良い。
ドリフト領域52中の表層部にP型のウェル領域53が、さらにウェル領域53中の表層部にN+型ソース領域54が形成されている。そして、ドリフト領域52、ウェル領域53及びソース領域54の表層部に接するように、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜55を介して、N型の多結晶シリコンからなるゲート電極56が配設されている。さらに、ソース領域54並びにウェル領域53に接するようにアルミ材料からなるソース電極57が形成されている。ソース電極57とゲート電極56との間には互いに接しないように、シリコン酸化膜からなる層間絶縁膜58が形成されている。また、基板領域51にオーミック接続するようにドレイン電極59が形成されている。このように、本説明で用いるMOSFETは、ゲート電極56が半導体基体に対して平面上に形成されている所謂プレーナ型をしている。
第3実施形態においても、図37で示した還流ダイオード100と図38で示したスイッチング素子600とを、図6で示した半導体スナバ200と共に並列接続して使用するが、スナバ機能を効果的に発揮するためには、還流ダイオード100とスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ容量を考慮した誘電領域12によるキャパシタ210の容量Cの設定と、基板領域11による抵抗220の抵抗値Rの設定をすることが望ましい。第1実施形態及び第2実施形態と同様に、本実施形態においては、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように、厚みは1μmとし、キャパシタ210の容量Cが還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態時に形成される空乏容量の和と同程度としたものを用いた場合で説明する。
(動作)
次に、本実施形態の動作について、第2実施形態と同様に、図35に示すインバータの動作に対応させて詳しく説明する。
まず、図35中のスイッチング素子Gがオンし、スイッチング素子Gに電流が流れている状態においては、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bは逆バイアス状態となり遮断状態になる。
まず、下アームの導通状態にあるスイッチング素子Gは、炭化珪素材料からなるMOSFETで構成されているため、第2実施形態で説明したIGBTに比べて、低オン抵抗で導通することができる。これは、炭化珪素材料のバンドギャップがシリコン材料に比べて約3倍大きく、最大絶縁電界が約1桁大きいため、ドリフト領域52に厚みを小さくかつ不純物濃度大きくすることができるためである。このため、IGBTのようなバイポーラ型の動作とせずとも、ドリフト領域52の抵抗を低くすることができる。
また、下アームの導通状態にあるスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fにおいては、還流ダイオード100及び半導体スナバ200は遮断状態を維持する。すなわち、還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオード(図37)については、その両端に印加されている電圧がスイッチング素子Gのオン電圧程度と低いものの逆バイアス電圧が印加されるためである。また、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ210として機能する誘電領域12の電圧が変化するときのみ動作するため、スイッチング素子Gのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態では遮断状態となる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bについても、電源電圧程度の逆バイアス電圧が共に印加されているため、遮断状態を維持する。すなわち、図38に示すスイッチング素子600であるMOSFETについては、ソース端子302とドレイン端子402間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域52中にはウェル領域53とのPN接合部から伸びた空乏層が形成され遮断状態が維持されるためである。また、図37に示す還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオードにおいては、表面電極44と裏面電極45間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域42中にはヘテロ半導体領域43とのヘテロ接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。また、図6に示す半導体スナバ200においても、キャパシタ210として機能する誘電領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。
このように、下アームのスイッチング素子Gが導通状態の時には、上下アーム共に受動素子は第2実施形態で構成されている従来技術と同様の機能を有する。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオフして遮断状態に移行する場合について説明する。
図35に示すようなモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオフする際には、電圧上昇と電流遮断の位相がずれるため、導通時の電流をほぼ維持した状態で、まずスイッチング素子Gの電圧上昇が起こる。
まず、下アームのターンオフするスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ200共に、スイッチング素子Gの電圧上昇に伴って、オン電圧程度の低い逆バイアス電圧から電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。すなわち、図5に示す還流ダイオード100においては、電圧の上昇に伴ってドリフト領域42中にヘテロ半導体領域43側から空乏層が広がる際に、電子が裏面電極45側に過渡電流として流れ、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ210の容量Cとして働く誘電領域12が印加電圧に応じて充電されるため過渡電流が流れる。この、半導体スナバ200の誘電領域12のキャパシタ210の容量Cの充電作用によって、スイッチング素子Gのコレクタ/エミッタ間に生じる過渡的な電圧上昇を緩和し、回路中に含まれる寄生インダクタンスによるサージ電圧の発生を抑制することができる。つまり、本実施形態においては、スイッチング素子600とも並列接続することで、スイッチング素子600自体がターンオフ動作をする際にも、素子破壊や他の周辺回路への誤動作等を引き起こすサージ電圧を低減することができる。
そして、本実施形態で一例として挙げた炭化珪素からなるMOSFETでは、電圧上昇後、電流は急峻に遮断する。これは、第2実施形態で説明したIGBTとは異なり、導通時にユニポーラ動作をしているため、電圧の上昇によって空乏層から吐き出された電子電流が空乏層の伸びの速さに応じて遮断されるためである。つまり、スイッチング素子600が炭化珪素からなるMOSFETになることによって、導通時においては低オン抵抗を実現できるものの、スイッチング素子の遮断性能の早さによって、スイッチング素子600自体のターンオフ時に振動現象が生じやすく、さらに抵抗が小さいため振動現象の減衰がなかなか生じないという問題が生じてしまうのであるが、本実施形態においては、並列に半導体スナバ200が形成されているため、効果的に振動現象を緩和することができる。
すなわち、本実施形態においては、スイッチング素子600の電流が遮断された際に、回路中の寄生インダクタンスと共振し電流及び電圧に振動現象が始まるものの、半導体スナバ200中の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の電圧が印加され相応の過渡電流が流れ始める。すると、キャパシタ210及び抵抗220によって電流振動の傾き(dI/dt)を緩和し、基板領域11の抵抗220によって寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーを消費するため、振動現象を素早く収束することができる。このことから、本実施形態のように、スイッチング素子600がユニポーラ型で高速遮断性能を有している場合にも、本発明は振動現象を抑制することができる。また、スイッチング素子がより導通損失が小さいワイドギャップ半導体からなり、振動現象にとっては減衰しにくい構成であっても、導通損失を悪化させることなく、容易に振動現象を減衰することができる。このように、本実施形態においては、スイッチング素子600においても導通損失と過渡損失を高い次元で両立できるような構成、すなわち高速動作が可能なユニポーラ型であることや低オン抵抗が実現できるワイドバンドギャップ半導体の構成と組み合わせることで、さらに高い効果を引き出すことができる。
そして、スイッチング素子600の電流が遮断した後は、下アームのスイッチング素子G及び受動素子Fは定常オフ状態となり、遮断状態を維持する。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオフ動作に連動して、順バイアス状態となり導通状態に移行する。図37に示す還流ダイオード100のドリフト領域42中に広がっていた空乏層が後退し、ヘテロ半導体領域43とドリフト領域42との間に形成されているヘテロ接合部にヘテロ障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。ヘテロ接合ダイオードはヘテロ接合部からドリフト領域42側並びにヘテロ半導体領域43側にそれぞれ広がる内蔵電位の和によって決まる電圧降下で順方向電流が流れるものの、価電子帯側の正孔に対するヘテロ障壁が大きいため、電流はドリフト領域42中をほぼ裏面電極45側から供給される電子電流のみで構成されており、ユニポーラ動作をする。このとき、第2実施形態で説明したショットキーバリアダイオードでは、ショットキー障壁高さが表面電極3のショットキーメタル固有の仕事関数差で一義的に決まる為、所定の耐圧を得るために、ドリフト領域2の不純物濃度や厚みが制限されるのに対して、本実施形態においては、ヘテロ障壁をヘテロ半導体領域43の不純物濃度を制御することによって変えることができるため、ドリフト領域42の抵抗をより低抵抗にすることができる。つまり、導通時の損失をより低減することができる。
また、図6に示す半導体スナバ200においては、還流ダイオード100が逆バイアス状態から順バイアス状態に移行する際に、誘電領域12に充電されていた電荷が過渡電流として放電される。本実施形態では、誘電領域12のキャパシタ210としての容量Cが還流ダイオード100及びスイッチング素子600に形成されていた空乏容量と同程度と小容量であるため、放電によって流れる過渡電流は流れるものの、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。半導体スナバ200は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断される。また、並列接続されているスイッチング素子Eについても、ドレイン/ソース間の電圧は逆バイアス電圧状態から順バイアス状態に移行するものの、ゲート信号はオフ状態を維持するように制御されることと、ウェル領域53とドリフト領域52との間のPN接合が順バイアス状態となるものの内蔵電位が2V〜3Vと大きいことからオフ状態を維持する。ただし、ドレイン/ソース間の電圧状態が変位するため、スイッチング素子600中のドリフト領域52中に生じていた空乏層の容量変化に伴うキャパシタ210としての放電による過渡電流は流れるが、半導体スナバ200と同様に、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、上アームの半導体スナバ200及びスイッチング素子600は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、還流ダイオード100のみが導通状態となる。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオンし、再びスイッチング素子Gがオン状態に移行する動作について説明する。
図35に示すようなモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオンする際には、電流上昇と電圧低下の位相がずれるため、比較的高い電圧が印加された状態で、スイッチング素子Gに電流が流れ始める。下アームのターンオンするスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fについては、還流ダイオード100及び半導体スナバ200共に、スイッチング素子Gに電流が流れ、ドレイン/ソース間の電圧が低下するのに伴って、電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧からオン電圧程度の低い逆バイアス電圧へと変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。このとき、図37に示す還流ダイオード100においては、電圧の減少に伴ってドリフト領域42中に広がっていた空乏層はヘテロ半導体領域43側に徐々に狭まり、裏面電極45側からドリフト領域42中に電子が過渡電流として流れる。また、図6に示す半導体スナバ200においては、キャパシタ210の容量Cとして働く誘電領域12が印加電圧の減少と共に放電されるため過渡電流が流れる。この過渡電流は、並列するスイッチング素子600に流れるターンオン電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、下アームの半導体スナバ200及び還流ダイオード100は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、スイッチング素子600のみが導通状態となる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオン動作に連動して、逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図37に示す還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオードにおいては、裏面電極45側からドリフト領域42中に供給されていた電子電流は順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧が、ヘテロ接合部のヘテロ障壁高さに応じた電圧以下になり、さらにヘテロ接合部に逆バイアス電圧が印加されると、ドリフト領域42中にはヘテロ半導体領域43とのヘテロ接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態へと移行する。
本実施形態では、第1実施形態及び第2実施形態で説明したショットキーバリアダイオードと同様に、ユニポーラ動作を有しているため、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。
さらに、本実施形態においては、ショットキーバリアダイオードよりも導通損失を低減可能なヘテロ接合ダイオードに半導体スナバ200を組み合わせることによって、導通損失と過渡損失を高い次元で両立することができる。すなわち、本実施形態においては、還流ダイオード100が逆回復動作する場合に、ドリフト領域42中に逆バイアス電圧が印加され過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始めるのとほぼ同時に、スイッチング素子600及び半導体スナバ200中の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の逆バイアス電圧が印加され、スイッチング素子600及び半導体スナバ200中にも相応の過渡電流が流れ始める。本実施形態においては、キャパシタ210の容量Cの大きさを、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流とほぼ同等となるような容量で設定しているため、下アームのスイッチング素子Gのスイッチング速度をほぼ変えることなく、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和することができる。さらに、半導体スナバ200に流れる電流を基板領域11の抵抗220で消費するため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーを吸収し、振動現象を素早く収束することができる。つまり、還流ダイオード100がヘテロ接合ダイオードとなり導通損失が小さくなっても、第2実施形態で説明したショットキーバリアダイオードを用いた場合と同様に、ユニポーラ動作ならではの本質的な振動現象を半導体スナバ200で解決することができる。
このことから、低オン抵抗が実現できるヘテロ接合ダイオードと組み合わせることで、さらに高い効果を引き出すことができる。
本実施形態においても、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流が高々ドリフト領域42及び52に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、スナバ回路を半導体スナバ200で形成しているところが従来技術と異なる点である。
また、本発明の構成のようにスイッチング素子もユニポーラ型とすることで、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合に加えて、スイッチング素子600がターンオフする場合においても、全電流範囲、全温度範囲においてスナバ機能が有効に働く。
また、本実施形態においても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
このようにスイッチング素子600は、MOSFET以外にも、図39及び図40に示すような他のユニポーラ素子を用いても同様の効果を得ることができる。
図39は、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域61上にN−型のドリフト領域62が形成され、ドリフト領域62の基板領域61との接合面に対向する主面に接するように、N型の多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域63が形成されている。つまり、ドリフト領域62とヘテロ半導体領域63の接合部は、炭化珪素と多結晶シリコンのバンドギャップが異なる材料によるヘテロ接合からなっており、その接合界面にはエネルギー障壁が存在している。ヘテロ半導体領域63とドリフト領域62との接合面に共に接するように、シリコン酸化膜から成るゲート絶縁膜64が形成されている。また、ゲート絶縁膜64上にはゲート電極65が、ヘテロ半導体領域63のドリフト領域62との接合面に対向する対面にはソース電極66が、基板領域1にはドレイン電極68が接続するように形成されている。なお、ゲート電極65とソース電極66を絶縁するように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜67が形成されている。
次に、図39のスイッチング素子の動作について説明する。図39のスイッチング素子においても、MOSFETと同様に、ソース電極66を接地しドレイン電極68に正電位が印加されるようにして使用する。
まず、ゲート電極65を接地電位もしくは負電位とした場合、遮断状態を保持する。すなわち、ヘテロ半導体領域63とドリフト領域62とのヘテロ接合界面には、伝導電子に対するエネルギー障壁が形成されているためである。
次に、遮断状態から導通状態へと転じるべくゲート電極65に正電位を印加した場合、ゲート絶縁膜64を介してゲート電界が及ぶヘテロ半導体領域63並びにドリフト領域62の表層部には電子の蓄積層が形成される。すると、ヘテロ半導体領域63並びにドリフト領域62の表層部においては自由電子が存在可能なポテンシャルとなり、ドリフト領域62側に伸びていたエネルギー障壁が急峻になり、エネルギー障壁厚みが小さくなる。その結果、電子電流が導通する。このとき、図39に示すスイッチング素子600においては、電流の導通・遮断を制御する所謂チャネル部分の長さが、ヘテロ障壁によって形成されるエネルギー障壁の厚み程度であり、MOSFETにおいて耐圧保持に必要な所定のチャネル長に比べて小さいため、より低抵抗で導通することができる。このため、上述したように、半導体スナバ200によって導通損失と過渡損失をさらに高いレベルで両立することができる。
次に、本実施形態において、導通状態から遮断状態に移行すべく、再びゲート電極65を接地電位とすると、ヘテロ半導体領域63並びにドリフト領域62のヘテロ接合界面に形成されていた伝導電子の蓄積状態が解除され、エネルギー障壁中のトンネリングが止まる。そして、ヘテロ半導体領域63からドリフト領域62への伝導電子の流れが止まり、さらに、ドリフト領域62中にあった伝導電子は基板領域61に流れ枯渇すると、ドリフト領域62側にはヘテロ接合部から空乏層が広がり遮断状態となる。
また、図39のスイッチング素子600においては、ソース電極66を接地し、ドレイン電極68に負電位が印加された逆方向導通(還流動作)も可能である。
ソース電極66並びにゲート電極65を接地電位とし、ドレイン電極68に所定の正電位が印加されると、伝導電子に対するエネルギー障壁は消滅し、ドリフト領域62側からヘテロ半導体領域63側に伝導電子が流れ、逆導通状態となる。このとき、正孔の注入はなく伝導電子のみで導通するため、逆導通状態から遮断状態に移行する際の逆回復電流による損失も小さい。なお、上述したゲート電極65を接地にせずに制御電極として使用する場合も可能である。このように、図39のスイッチング素子においては、ユニポーラ型の還流ダイオードとしても使用ができるため、還流ダイオード100を図39のスイッチング素子で共用することができる。すなわち、図39に示すスイッチング素子では還流ダイオード100を別チップで形成する以外にも、還流ダイオード100とスイッチング素子600を1チップ化して、半導体パッケージを小型化することができる。このことにより、配線等に生じる寄生インダクタンスをさらに低減することができるため、半導体スナバ200による振動現象をさらに低減することができる。また、配線長が短くなることは、振動電流により配線から発する放射ノイズを低減させる効果もある。また、チップサイズの低減によってコストが低減されると共に、還流ダイオード100とスイッチング素子600とのキャパシタ容量の和が小さくなるため、半導体スナバ200に必要なキャパシタ容量Cも小さくすることができる。つまり、小型且つ低コストで振動現象を抑制することができる。
以上、図39においては、一例としてヘテロ半導体領域63に用いる材料として多結晶シリコンを用いた例で説明したが、炭化珪素とヘテロ接合を形成する材料であれば単結晶シリコン、アモルファスシリコン等、他のシリコン材料やゲルマニウムやシリコンゲルマン等他の半導体材料や6H、3C等炭化珪素の他のポリタイプなど、どの材料でもかまわない。また、一例として、ドリフト領域62としてN型の炭化珪素を、ヘテロ半導体領域63としてP型の多結晶シリコンを用いて説明しているが、それぞれN型の炭化珪素とP型の多結晶シリコン、P型の炭化珪素とP型の多結晶シリコン、P型の炭化珪素とN型の多結晶シリコンの如何なる組み合わせでもよい。
次に、図40は、スイッチング素子としてJFETと呼ばれる接合型のFETを用いた場合について説明する。
図40中、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域71上にN−型のドリフト領域72が形成され、N+型のソース領域73とP型のゲート領域74が形成されており、ゲート領域74はゲート電極75に接続されており、ソース領域73はソース電極76に接続されており、基板領域71はドレイン電極78に接続されている。なお、77は層間絶縁膜である。
図40のJFETはMOSFETと同様に、ユニポーラ動作をするため、MOSFETで得られる効果と同様の効果を得ることができる。さらに、JFETにおいては、MOSFETにおいては必須のゲート絶縁膜が不要のため、信頼性の確保という観点では例えば200℃を超えるような高い温度でのオペレーションが比較的容易である。このことから、JFETを用いることで、本発明の特徴である使用温度領域によらず振動現象を抑制できる効果をより強みとして活かせることができる。なお、高温用途においては、半導体スナバ200においても、図12、図13などキャパシタ210の容量Cとしてシリコン酸化膜を用いない空乏容量を用いる構成のほうが、信頼性を確保しつつ、効果を発揮することができる。
このように、スイッチング素子600についてMOSFET以外のスイッチング素子を用いた場合の効果について説明してきたが、還流ダイオード100についても、ユニポーラ動作もしくはユニポーラ動作と同等の動作をするダイオードであれば同様の効果を得ることができる。
図41に示すようなPN接合ダイオードの構造であっても、導通時にP型領域から注入される少数キャリアからなる過剰キャリアを、金や白金を用いた重金属拡散、電子線を用いた電子線照射、プロトン等を用いたイオン照射などの方策により、過剰キャリアの主成分である少数キャリアのライフタイムを制御することによって、ほとんどユニポーラ動作と同等の動作をする場合においても適用可能であり、本発明の実施形態として説明してきた効果を同じように得ることができる。
図41に示すPN接合ダイオードがソフトリカバリダイオードで構成されている場合について説明する。図41に示すように、還流ダイオード100は、シリコンからなるN+型の基板領域81上にN−型のドリフト領域82が形成された基板材料で構成されている。基板領域81としては、抵抗率が数mΩcmから数10mΩcm、厚さが数10μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域82としては、N型の不純物密度が1013cm-3〜1017cm-3、厚みが数μm〜数100μmのものを用いることができる。本実施形態では、不純物密度が1014cm-3、厚みが50μmで耐圧が600Vクラスのものを用いた場合で説明する。なお、本実施形態では、半導体基体が、基板領域81とドリフト領域82の二層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域81のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に多層の基板を使用してもかまわない。また、本実施形態では一例として耐圧が600Vクラスの場合で説明しているが、耐圧クラスは限定されない。
ドリフト領域82の基板領域81との接合面に対向する主面に接するようにP型の反対導電型領域83が形成され、反対導電型領域83に接続するように表面電極84が、基板領域81と接するように裏面電極85が形成されている。なお、図41で示した還流ダイオード100はPN接合のみで形成されているが、一部がショットキーダイオードとして働くように構成されていても良いし、他の構成を含んでいても良い。
図41に示すPN接合ダイオードがソフトリカバリダイオードとして働くようにするひとつの手法として、導通時にドリフト領域82中に注入される少数キャリアのライフタイムを制御する方法がある。ドリフト領域82中にイオン照射などを用いて、反対導電型領域83に近い側と基板領域81に近い側とで少数キャリアのライフタイム時間が異なるように制御して、逆回復時に流れる少数キャリアによる過渡電流は小さくしつつ、基板領域81側に滞留していた少数キャリアの減少時間を緩和し、大電流時の逆回復動作においては振動現象が起こらないようにすることができる。
しかしながら、少数キャリアのライフタイムを制御したPN接合ダイオードにおいては、少数キャリアのライフタイムは電流の大きさによらず短くなることから、電流が小さいときには、逆回復時において瞬時に少数キャリアが消滅してしまい、ほとんどユニポーラ動作と同じ動作をすることになる。この場合は、図41に示すダイオードに流れる過渡電流は図5などで説明したユニポーラ型のダイオードと同じように空乏層が広がる際の多数キャリアの移動による電流が流れるため、半導体スナバ200が無い状態だと振動現象が生じる。しかし、本実施形態のように、半導体スナバ200を並列接続することでの低電流時においての振動現象を緩和することができる。つまり、ソフトリカバリダイオードと半導体スナバとの組み合わせによって、大電流時も小電流時も振動現象を緩和することができる。なお、ここではソフトリカバリダイオードを一例として本発明の実施形態の効果を説明してきたが、大電流時に逆回復特性がソフト化されていないファストリカバリダイオードを用いた場合にも、ユニポーラ動作と同等の動作をする電流領域があれば、少なくとも低電流時の振動現象を抑制する効果を得ることができる。また、例えば炭化珪素からなるPN接合ダイオードなど、シリコン材料に比べて熱処理による結晶の回復が起こりにくい材料においては、イオン注入によってP型領域を形成した場合など、少数キャリアのライフタイムが元々小さいダイオードにおいても、上記で説明したように、振動現象を抑制する効果を得ることができる。また、いずれの構造においても、少なくとも電流が流れず少数キャリアが注入されない条件でPN接合ダイオードを逆回復動作させる場合にも本発明の効果を得ることができる。
このように、少なくともユニポーラ動作と同等の動作を一部でも有するダイオードであれば逆回復動作時に振動現象を低減するという本発明の効果を得ることができる。
なお、図41に示した還流ダイオード100は第1実施形態で示したスイッチング素子が並列接続されていない場合でも同様の効果を発揮するため、還流ダイオード100と半導体スナバ200のみの並列接続としても良い。
さらに、第3実施形態においては、第2実施形態で説明した還流ダイオード100とスイッチング素子600が共に異なる組み合わせで説明してきたが、還流ダイオード100とスイッチング素子600の組み合わせはどれを組み合わせても良い。すなわち、還流ダイオード100は、第2実施形態で説明したショットキーバリアダイオードを用いて、スイッチング素子600は、第3に実施形態で説明したMOSFETを組み合わせても良い。また、還流ダイオード100とスイッチング素子600とを同一チップ上に形成していても良い。
さらに、半導体スナバ200の構成についても、第1実施形態及び第2実施形態で説明したのと同様に、図12〜図28に示すような別の構成で形成していてももちろん良い。このように構成しても、上述した実施形態で説明した効果と同様の効果を得ることができる。
(第4実施形態)
本実施形態においては、第1実施形態の図1に示した回路図において、還流ダイオード100と半導体スナバ200が1つのチップ上に形成された場合について例示する。
図42は、図3に対応する半導体チップの実装図である。図43は、図42の半導体チップの実装部分の拡大図である。図44は、図42の実装図に用いられている半導体チップの断面構造図である。つまり、図44に示す断面構造図においては還流ダイオード100と半導体スナバ200とが形成されている。本実施形態においては、第1実施形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴について詳しく説明する。
(半導体装置の実装構造)
図42及び図43に示すように、カソード側金属膜410上には、半導体スナバ内蔵還流ダイオード800のチップ裏面に形成されるカソード端子400側が、半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、半導体スナバ内蔵還流ダイオード800の還流ダイオード100側のアノード端子300側は、アルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線320を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。
一方、半導体スナバ内蔵還流ダイオード800の半導体スナバ200側においては、アノード端子1300とカソード端子1400が、半導体スナバ内蔵還流ダイオード800のチップ表面側に互いに絶縁されるように形成されている。そして、カソード端子1400は、アルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線1100を介して、カソード側金属膜410と電気的に接続されており、アノード端子1300は、アルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線330を介して、アノード側金属膜310に接続された構成となっている。なお、本実施形態においては、半導体スナバ200側のアノード端子1300と還流ダイオード100側のアノード端子300を別の電極領域として構成し、別々に金属配線を用いてアノード側金属膜310と接続しているが、共通の電極を用いて形成してもかまわない。
(半導体スナバ内蔵還流ダイオードの構造)
また、半導体スナバ内蔵還流ダイオード800を構成する半導体チップの断面構造を示したのが、それぞれ図44に示す断面構造図である。
図44に示すように、半導体スナバ内蔵還流ダイオード800は、右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分と、左側破線の左側に形成される半導体スナバ200の部分で構成されている。
まず、還流ダイオード100の部分は、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域1上にN−型のドリフト領域2が形成された基板材料で構成されている。基板領域1としては、抵抗率が数mΩcm〜数10mΩcm、厚さが数10μm〜数100μm程度のものを用いることができる。ドリフト領域2としては、N型の不純物密度が1015cm-3〜1018cm-3、厚みが数μm〜数10μmのものを用いることができる。本実施形態では例えば不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmで耐圧が600Vクラスのものを用いた場合で説明する。なお、本実施形態においても、半導体基体が、基板領域1とドリフト領域2の二層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域1のみで形成された基板を使用してもかまわないし、反対に多層の基板を使用してもかまわない。また、本実施形態では、一例として耐圧が600Vクラスの場合で説明しているが、耐圧クラスは限定されない。
図44中の右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分は、ドリフト領域2の基板領域1との接合面に対向する主面に接するように表面電極3が、さらには表面電極3に対向し、かつ基板領域1と接するように裏面電極4が形成されている。表面電極3は、ドリフト領域2との間にショットキー障壁を形成する金属材料を少なくとも含む単層もしくは多層の金属材料から構成されており、ショットキー障壁を形成する金属材料としては、チタン、ニッケル、モリブデン、金、白金などを用いることができる。また、表面電極3はアノード端子300として外部電極との接続をするために、最表面にアルミ、銅、金、ニッケル、銀などの金属材料を用いて多層の構造としても良い。一方、裏面電極4は基板領域1とオーミック接続するような電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料などが挙げられ、裏面電極4はカソード端子400として外部電極と接続をする。このように、図44に示す還流ダイオード100は、表面電極3がアノード電極、裏面電極4がカソード電極としたダイオードとして機能する。さらに、図44においては、ドリフト領域2と表面電極3との接合面の端部に、ドリフト領域2と表面電極3とそれぞれ接するように、シリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜5が形成されている。フィールド絶縁膜5は、還流ダイオード100を半導体チップとして製造する際に、チップ外周部のショットキー接合部における電界集中を緩和するために、一般的に用いられる構造である。本実施形態においては、図44に一例としてフィールド絶縁膜5の端部の形状として、表面電極と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていてももちろん良い。また、フィールド絶縁膜5が形成される外周端部の構成として、図45に示すように、ドリフト領域2中の表面電極3とフィールド絶縁膜5とが接する部分に、P型の電界緩和領域7を形成しても良い。さらに、図45の構成に加えて、電界緩和領域7の外周を囲むように、1本もしくは複数のガードリングが形成されていても良い。
次に、図44中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ200の部分について構成を説明する。上記還流ダイオード100の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜5の所定領域上に第1電極1006が形成され、第1電極1006は、図42で示したように、還流ダイオード100のアノード端子300と同電位となっている。さらに、第1電極1006とは離れた部分に、第1電極1006とは、絶縁された第2電極1007が形成されている。第2電極1007は、図42で示したように、還流ダイオード100のカソード端子400と同電位となっている。さらに、ドリフト領域2の表層部に、ドリフト領域2とは反対導電型のP型の反対導電型領域1008が形成されている。つまり、反対導電型領域1008は、第2電極1007と、さらには、フィールド絶縁膜5を介して第1電極1006と接するように形成されている。このように、図42では、半導体スナバ200が、第1実施形態の図25で説明した構成を適用している。
すなわち、本実施形態における半導体スナバ200においては、抵抗220は、反対導電型領域1008で形成される。これは、カソード端子400が裏面電極4と第2電極1007で構成されているが、逆回復時には裏面電極4と第1電極1006との間には逆接続のPN接合を有するため、裏面電極4と第1電極1006との間では電流が流れないためである。
また、抵抗220の抵抗値Rの大きさは、第1電極1006と第2電極1007との距離を所定距離とし、かつ、反対導電型領域1008を所定の厚みとすることで、容易に設定することができる。これは、半導体スナバ200の部分の第1電極1006と第2電極1007を同一主面上に形成する構造ならではの効果である。半導体スナバ内蔵還流ダイオード800においては、電力変換装置としての性能を向上、つまり、還流ダイオード100側の性能を向上するために、基板領域1は低抵抗で、かつ、ドリフト領域2は耐圧を保持しつつ可能な限り低抵抗であることが要求される。そのため、同一の基板上に半導体スナバ200の領域を形成する場合、半導体基体の不純物濃度が簡単には変えられないため、最適な抵抗220の抵抗値Rを実現するには元々自由度が小さかった。しかしながら、本実施形態においては、第1実施形態でも説明したように、第1電極1006と第2電極1007との距離を変えられるのと同時に、電流導通路の厚みや幅を自由に変えることができる。つまり、簡単な製造プロセスで、容易に半導体スナバ200を1チップ上に形成できる。さらに、本実施形態においては、半導体基板を抵抗220として使用することもでき、振動現象で生じる熱エネルギーを、半導体基板を通して放熱できるため、抵抗部分の高密度化が可能となる。
また、半導体スナバ200におけるキャパシタ210は、フィールド絶縁膜5によって形成される。フィールド絶縁膜5は、必要な耐圧並びに必要なキャパシタ210の容量Cの大きさに応じて、厚みや面積を決めることができる。耐圧については、半導体スナバ200の機能としてだけではなく、還流ダイオード100の電界緩和という機能を満たすために、フィールド絶縁膜5の破壊防止のため、還流ダイオード100で形成されるショットキーバリアダイオードよりも高いことが望ましい。また、キャパシタ210の容量Cについては、還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に充電される空乏容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、十分なスナバ機能を発揮し、かつ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、第1実施形態で示した計算結果と同様に、概ね10分の1程度から10倍程度の範囲が望ましい。
本実施形態においては、還流ダイオード100のショットキーバリアダイオードよりも耐圧が高くなるように厚みは1μmとし、キャパシタ210の容量Cが還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏容量と同程度としたものを用いた場合で説明する。なお、フィールド絶縁膜5は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、かつ電界緩和機能とキャパシタ210として機能する誘電材料であればどのような材料でも良いが絶縁破壊電界と比誘電率との積の値がシリコン酸化膜の値よりも大きい材料であれば、さらによい。そのような材料を用いた場合には、誘電領域12の絶縁耐圧を維持しつつ、少ない面積で必要な静電容量を得ることができる。一般的なシリコン酸化膜の物性値として、絶縁破壊電界を1×109V/mとし、比誘電率を3.9とした場合、シリコン酸化膜の厚みが1μmの場合の1cm2当たりの静電容量は約3.4nF程度になる。それに対して、シリコン酸化膜の代わりにSi3N4を用いた場合、絶縁破壊電界を1×109V/mとし、比誘電率を7.5とした場合、厚みが1μmで同等の耐圧を確保することができる。このとき、Si3N4を用いた場合の1cm2当たりの静電容量は6.6nF程度になる。このように、Si3N4を用いた方が、静電容量が約2倍程度大きくなり、誘電領域の絶縁耐圧を維持しつつ、より大きな静電容量を得ることができる。したがって面積効率が向上し、ウエハコストを低減することができる。この効果は誘電材料の絶縁破壊電界と比誘電率との積で比較することができ、シリコン酸化膜の値と、Si3N4の値を比較すると約2倍程度になっている。さらに、誘電領域の材料がBaTiO3のような強誘電体であれば、その値がシリコン酸化膜の約13倍となり、より少ない面積にすることができる。他にも強誘電体膜としては、Pb(Zr,Ti)O3やSrBi2Ta2O9やTi4Ti3O12があるが、絶縁破壊電界と比誘電率の積がシリコン酸化膜の値よりも大きければ、いずれでもよい。また、誘電領域は単一の誘電材料とは限らず複数の誘電材料を積層したものを用いても良い。図7に示すようなSi3N4をシリコン酸化膜で挟んだONO構造では、Si3N4のリーク電流をシリコン酸化膜により最小限にすることができる。
また、反対導電型領域1008で形成される抵抗220の領域の抵抗値Rの大きさとしては、効果的にスナバ機能を発揮する一般的な設計式C=1/(2πfR)を満たすように設定するのが望ましい。
このように、1チップに還流ダイオード100と半導体スナバ200が形成された場合にも、第1実施形態で説明した動作及び効果を得ることができる。
さらに、本実施形態においては、還流ダイオード100と半導体スナバ200が支持基体としての基板領域1及びドリフト領域2を共用し、かつ、電極材として表面電極3と第1電極1006及び第2電極1007を共用している。さらに、還流ダイオード100の電界緩和機能として働くフィールド絶縁膜5もキャパシタ210の機能として共用することができる。つまり、これらの部分については、同一プロセスで形成することができるため、製造プロセスを簡易化することができる。また、1チップ化することによって、実装面積(敷地面積)を減らすことができるため、半導体パッケージを小型化することができる。また、還流ダイオード100及び半導体スナバ200のアノード側電極を共通化した場合、第1実施形態では金属配線320、330で接続されていたのに比べて、配線等に生じる寄生インダクタンスをさらに低減することができるため、還流ダイオード100における振動現象をさらに低減することができる。また、配線長がより短くなることは、振動電流により配線から発する放射ノイズをさらに低減させる効果もある。さらに、本実施形態をL負荷回路に用いた場合には、還流ダイオード100と半導体スナバ200とを1チップ化した新たな効果を生むことができる。すなわち、第1実施形態から第3実施形態を通して説明してきたように、還流ダイオード100が遮断時及び導通時には半導体スナバ200は動作せずに過渡時のみ動作をし、還流ダイオード100の空乏容量並びに半導体スナバ200のキャパシタ210の容量Cに起因して発生する過渡電流を消費するべく抵抗220で発熱する。一方、還流ダイオード100においては、ターンオンおよびターンオフの過渡動作時においては、電流と電圧の位相ずれの影響であまり発熱しない。換言すると、還流ダイオード100が最も発熱するのが定常の導通時となる。即ち、還流ダイオード100と半導体スナバ200とスイッチング回路の一連の動作の中で、発熱するタイミングが異なる。このため、1チップ化することによって、還流ダイオード100の部分が導通時に発熱している際には半導体スナバ200の部分は遮断状態にあり発熱していないため、チップ全体としての温度上昇は別チップの場合と比べて低く抑えることができる。つまり、1チップ化することによって、還流ダイオード100の導通性能も向上することができる。
以上のように、本実施形態では、振動現象をさらに抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能をともに向上すると同時に、小型でかつ低コストで実現することができる。
また、図45のように、電界緩和領域7を有する還流ダイオード100と1チップ化した場合においては、電界緩和領域7と同じ導電型・不純物密度とすれば、同時に形成でき、製造プロセスを簡略化することができるという効果も有する。
また、図44及び図45の場合においても、第1実施形態の図26〜図28で説明したように、紙面奥行き方向の領域において、反対導電型領域1008が横方向にストライプ状に形成されていても良いし、図46に示すようにN型の拡散領域1009を形成し、反対導電型領域1008の電流導通路の厚みを一部狭める構成となっていても良い。
いずれの構成においても、還流ダイオード100の性能を最大限発揮しつつ、簡単な製造プロセスで同一チップ上に半導体スナバ200を形成することができる。
(変形例)
以上、図44、図45では還流ダイオード100がショットキーバリアダイオードの場合を説明してきたが、第3実施形態で説明したヘテロ接合ダイオードの場合でも同様に容易に実現することができる。図47は、図44に対応する断面図である。
図47中、基板領域41、ドリフト領域42、ヘテロ半導体領域43、表面電極44及び裏面電極45からなるヘテロ接合ダイオードに加えて、フィールド絶縁膜46が、ドリフト領域42とヘテロ半導体領域43との接合面の端部に、ドリフト領域42とヘテロ半導体領域43とそれぞれ接するように形成されている。そして、第1電極1006が、フィールド絶縁膜46に接するように形成され、還流ダイオード100のアノード端子300と同電位となっている。第2電極1007は、金属配線等を介してカソード端子400と同電位になっている。また、ドリフト領域42の表層部には、ドリフト領域42とは反対導電型のP型の反対導電型領域1008が形成されている。
図47においても図44と同様に、フィールド絶縁膜46の端部の形状は鋭角形状でも良いし、図45のようにP型の電界緩和領域が形成されていても良い。また、電界緩和領域の外周を囲むように、1本もしくは複数のガードリングが形成されていても良い。
また、図47の動作については、第3実施形態で説明した固有の効果と、本実施形態で説明した1チップ化した際の効果を実現することができる。他にも図48に示すような構成で、還流ダイオード100と半導体スナバ200とを1チップ化することができる。
図48は、図44に対して、還流ダイオード100としてショットキーバリアダイオードの代わりに図41で示したユニポーラ動作と同等の動作を有するPN接合ダイオードを構成した点が異なっている。本実施形態においても、図44と同様に、1チップ化が容易に実現でき、振動現象をさらに抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能をともに向上すると同時に、小型でかつ低コストで実現することができる。また、還流ダイオード100として働く反対導電型領域83と半導体スナバ200として働く反対導電型領域1008とを同時に、不純物導入と不純物の活性化によって形成することで容易に実現できる。このような構成にすることによって、還流ダイオード100と半導体スナバ200とを同一プロセスで形成可能なため、製造工程を簡略化でき製造コストを低減することができる。
以上、還流ダイオード100と半導体スナバ200とを1チップ化した場合の構成を複数例示してきたが、上記で例示した以外にも、還流ダイオード100と半導体スナバ200の組み合わせを入れ替えて、1チップ化してももちろん良い。また、本実施形態においては、第1実施形態に対応する還流ダイオード100と半導体スナバ200のみが並列接続している場合で例示してきたが、第2実施形態及び第3実施形態で示したようなスイッチング素子600が並列接続されるような回路においても同様に本発明の効果を発揮することができる。いずれにしても、少なくとも還流ダイオード100と半導体スナバ200とを1チップ化することで、振動現象をさらに抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能をともに向上すると同時に、小型でかつ低コストで実現することができる。
以上、還流ダイオード100と半導体スナバ200とを1チップ化した場合の構成を複数例示してきたが、還流ダイオード100のアノード端子及びカソード端子と接続する各電極が同一主面上にある所謂横型の素子であってももちろん良い。
(第5実施形態)
本実施形態においては、第2実施形態の図32に示した回路図において、スイッチング素子600と半導体スナバ200が1つのチップ上に形成された場合について例示する。
図49は図33に対応する半導体チップの実装図、図50は、図34の実装図に用いられている半導体チップの断面構造図の一例である。つまり、図50に示す断面構造図においてはスイッチング素子600と半導体スナバ200とが形成されている。本実施形態においては、第2実施形態と同様の動作をする部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
(半導体装置の実装構造)
図49に示すように、カソード側金属膜410上には、半導体スナバ内蔵スイッチング素子900のチップ裏面に形成されるコレクタ端子401側が、還流ダイオード100のカソード端子と共に、例えば半田やろう材等の接合材料を介して接するように配置されている。そして、半導体スナバ内蔵スイッチング素子900のスイッチング素子600側のエミッタ端子301側は、還流ダイオード100のアノード端子と共に、例えばアルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線350を介して、共にアノード側金属膜310に接続された構成となっている。
一方、半導体スナバ内蔵スイッチング素子900の半導体スナバ200側においては、アノード端子1300とカソード端子1400が半導体スナバ内蔵スイッチング素子900のチップ表面側に互いに絶縁されるように形成されている。そして、カソード端子1400は、例えばアルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線1100を介してカソード側金属膜410と電気的に接続されており、アノード端子1300は、例えばアルミワイヤやアルミリボンなどの金属配線330を介して、アノード側金属膜310に接続された構成となっている。なお、本実施形態においては、半導体スナバ200側のアノード端子1300とスイッチング素子600側のエミッタ端子301を別の電極領域として構成し、別々に金属配線を用いてアノード側金属膜310と接続しているが、共通の電極を用いて形成してもかまわない。
(半導体スナバ内蔵スイッチング素子の構造)
また、半導体スナバ内蔵スイッチング素子900を構成する半導体チップの断面構造を示したのが、図50に示す断面構造図である。
図50に示すように、半導体スナバ内蔵スイッチング素子900は、右側破線の右側に形成されるスイッチング素子600の部分と、左側破線の左側に形成される半導体スナバ200の部分で構成されている。
まず、スイッチング素子600の部分は、一般的なIGBTの構成を示している。シリコンを材料としたP+型の基板領域21上に、N型のバッファ領域22を介して、N−型のドリフト領域23が形成された基板材料で構成されている。ドリフト領域23中の表層部にP型のウェル領域24が、さらにウェル領域24中の表層部にN+型エミッタ領域25が形成されている。そして、ドリフト領域23、ウェル領域24及びエミッタ領域25の表層部に接するように、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜26を介して、N型の多結晶シリコンからなるゲート電極27が配設されている。さらに、エミッタ領域25並びにウェル領域24に接するように、アルミ材料からなるエミッタ電極28が形成されている。また、基板領域21にオーミック接続するようにコレクタ電極30が形成されている。このように、本説明で用いるIGBTはゲート電極27が半導体基体に対して平面上に形成されている所謂プレーナ型をしている。
さらに、図50においては、ドリフト領域23もしくはウェル領域24の表層部に接するように、シリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。フィールド絶縁膜31は、スイッチング素子600を半導体チップとして製造する際に、チップ外周部のPN接合部における電界集中を緩和するために、一般的に用いられる構造である。本実施形態においては、図50に一例としてフィールド絶縁膜31の端部の形状として、表面電極と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていてももちろん良い。また、フィールド絶縁膜31が形成される外周端部の構成として、ウェル領域24の外周を囲むように、1本もしくは複数のガードリングが形成されていても良い。
次に、図50中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ200の部分について構成を説明する。
上記スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に第1電極1006が形成され、第1電極1006は、図49で示したように、スイッチング素子600のエミッタ端子301と同電位となっている。さらに、第1電極1006とは離れた部分に、第1電極1006とは絶縁された第2電極1007が形成されている。第2電極1007は、図49で示したように、スイッチング素子600のコレクタ端子401と同電位となっている。さらに、ドリフト領域23の表層部に、ドリフト領域23とは反対導電型のP型の反対導電型領域1008が形成されている。つまり、反対導電型領域1008は第2電極1007と、さらには、フィールド絶縁膜31を介して、第1電極1006と接するように形成されている。このように、図50では、半導体スナバ200が第1実施形態の図25で説明した構成を適用している。
すなわち、本実施形態における半導体スナバ200においては、抵抗220は反対導電型領域1008で形成される。これは、コレクタ端子401がコレクタ電極30と第2電極1007で構成されているが、逆回復時にはコレクタ電極30と第1電極1006との間には少なくとも逆接続のPN接合を有するため、コレクタ電極30と第1電極1006との間では電流が流れないためである。
また、抵抗220の抵抗値Rの大きさは、第1電極1006と第2電極1007との距離を所定距離とし、かつ、反対導電型領域1008を所定の厚みとすることで、容易に設定することができる。これは、半導体スナバ200部の第1電極1006と第2電極1007を同一主面上に形成する構造ならではの効果である。半導体スナバ内蔵スイッチング素子900においては、電力変換装置としての性能を向上、つまり、スイッチング素子600側の性能を向上するために、基板領域21は低抵抗で、かつ、バッファ領域22及びドリフト領域23は耐圧を保持しつつ可能な限り低抵抗であることが要求される。そのため、同一の基板上に半導体スナバ200の領域を形成する場合、半導体基体の不純物濃度が簡単には変えられないため、最適な抵抗220の抵抗値Rを実現するには元々自由度が小さかった。しかしながら、本実施形態においては、第1実施形態でも説明したように、第1電極1006と第2電極1007との距離を変えられるのと同時に、電流導通路の厚みや幅を自由に変えることができる。つまり、簡単な製造プロセスで、容易に半導体スナバ200を1チップ上に形成できる。さらに本実施形態においては、半導体基板を抵抗として使用することもでき、振動現象で生じる熱エネルギーを半導体基板を通して放熱できるため、抵抗部分の高密度化が可能となる。
また、半導体スナバ200におけるキャパシタ210はフィールド絶縁膜31によって形成される。フィールド絶縁膜31は、必要な耐圧並びに必要なキャパシタ210の容量Cの大きさに応じて、厚みや面積を決めることができる。耐圧については、半導体スナバ200の機能としてだけではなく、スイッチング素子600の電界緩和という機能を満たすためのフィールド絶縁膜31の破壊防止のため、スイッチング素子600の耐圧よりも高いことが望ましい。また、キャパシタ210の容量Cについては、同一チップ上のスイッチング素子600とともに並列に接続される還流ダイオード100がそれぞれ遮断状態時(高電圧印加時)に充電される空乏容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができるが、十分なスナバ機能を発揮し、かつ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、第2実施形態で示した計算結果と同様に、概ね10分の1程度から10倍程度の範囲が望ましい。
本実施形態においては、スイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように、厚みは1μmとし、キャパシタ210の容量Cがスイッチング素子600と還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏容量の和と同程度としたものを用いた場合で説明する。なお、フィールド絶縁膜31は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、かつ電界緩和機能とキャパシタ210として機能する誘電材料であればどのような材料でも良い。
また、反対導電型領域1008で形成される抵抗220の抵抗値Rの大きさとしては、効果的にスナバ機能を発揮する一般的な設計式C=1/(2πfR)を満たすように設定するのが望ましい。
このように、1チップにスイッチング素子600と半導体スナバ200が形成された場合にも、第1実施形態で説明した動作及び効果を得ることができる。
さらに、本実施形態においては、スイッチング素子600と半導体スナバ200が支持基体としての基板領域21及びバッファ領域22及びドリフト領域23を共用し、かつ、電極材としてエミッタ電極28を共用している。さらに、スイッチング素子600の電界緩和機能として働くフィールド絶縁膜31もキャパシタ210の機能として共用することができる。さらに、反対導電型領域1008をウェル領域24と同じ導電型・不純物密度として共用して作成が可能である。つまり、これらの部分については、同一プロセスで形成することができるため、製造プロセスを簡易化することができる。また、1チップ化することによって、実装面積(敷地面積)を減らすことができるため、半導体パッケージを小型化することができる。また、スイッチング素子600のエミッタ電極28と半導体スナバ200のアノード側電極を共通化した場合、第2実施形態では金属配線350、330で接続されていたのに比べて、配線等に生じる寄生インダクタンスをさらに低減することができるため、並列接続している還流ダイオード100の逆回復時における振動現象をさらに低減することができる。さらに、本実施形態を例えば図35に示すようなインバータ回路に用いた場合には、スイッチング素子600と半導体スナバ200とを1チップ化した新たな効果を生むことができる。すなわち、第2実施形態から第3実施形態を通して説明してきたように、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合においては、半導体スナバ200は振動現象を緩和するべく、還流ダイオード100、スイッチング素子600の空乏容量並びに半導体スナバ200のキャパシタ容量Cに起因して発生する過渡電流を消費し抵抗220で発熱する。一方、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合においては、それに並列接続されているスイッチング素子600は導通状態にないため、ほとんど発熱していない。このことから、1チップ化することによって、逆回復時に半導体スナバ200の部分が発熱している際にはスイッチング素子600の部分は遮断状態にあり発熱していないため、チップ全体としての温度上昇は別チップの場合と比べて低く抑えることができる。つまり、1チップ化することによって、半導体スナバ200の高集積化が期待できる。
以上のように、本実施形態では、振動現象をさらに抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能をともに向上すると同時に、小型でかつ低コストで実現することができる。
また、図50の場合においても、第1実施形態の図26〜図28で説明したように、紙面奥行き方向の領域において、反対導電型領域1008が横方向にストライプ状に形成されていても良いし、図21に示すようにN型の拡散領域を形成し、反対導電型領域1008の電流導通路の厚みを一部狭める構成となっていても良い。
いずれの構成においても、スイッチング素子600の性能を最大限発揮しつつ、簡単な製造プロセスで同1チップ上に半導体スナバ200を形成することができる。
以上、図49、図50ではスイッチング素子600がIGBTの場合を説明してきたが、第2実施形態および第3実施形態で説明したさまざまなスイッチング素子600と1チップ化した場合でも同様に容易に実現することができる。図51〜図53はその一例である。
図51は、図50のスイッチング素子600としてIGBTを用いる代わりに、MOSFETを用いた場合を示している。なお、図51のMOSFETは、炭化珪素半導体基体からなる場合を示している。N+型である基板領域51上にN−型のドリフト領域52が形成された基板材料を用いており、ドリフト領域52中の表層部にP型のウェル領域53が、さらにウェル領域53中の表層部にN+型ソース領域54が形成されている。そして、ドリフト領域52、ウェル領域53及びソース領域54の表層部に接するように、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜55を介して、N型の多結晶シリコンからなるゲート電極56が配設されている。さらに、ソース領域54並びにウェル領域53に接するようにソース電極57が形成され、基板領域51にオーミック接続するようにドレイン電極59が形成されている。
さらに、図51においては、ドリフト領域52もしくはウェル領域53の表層部に接するように、シリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。フィールド絶縁膜31は、スイッチング素子600を半導体チップとして製造する際に、チップ外周部のPN接合部における電界集中を緩和するために、一般的に用いられる構造である。本実施形態においては、図51に一例としてフィールド絶縁膜31の端部の形状として、表面電極と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていてももちろん良い。また、フィールド絶縁膜31が形成される外周端部の構成として、ウェル領域53の外周を囲むように、1本もしくは複数のガードリングが形成されていても良い。
次に、図51中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ200の部分について構成を説明する。上記スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に、第1電極1006が形成され、第1電極1006はスイッチング素子600のソース端子302と同電位となっている。さらに、第1電極1006とは離れた部分に、第1電極1006とは絶縁された第2電極1007が形成されている。第2電極1007は、スイッチング素子600のドレイン端子402と同電位となっている。
さらに、ドリフト領域52の表層部に、ドリフト領域52とは反対導電型のP型の反対導電型領域1008が形成されている。つまり、反対導電型領域1008は、第2電極1007と、さらには、フィールド絶縁膜31を介して、第1電極1006と接するように形成されている。このように、図50では、半導体スナバ200が第1実施形態の図25で説明した構成を適用している。
本実施形態においても、抵抗220は反対導電型領域1008で形成され、キャパシタ210はフィールド絶縁膜31で形成される。
図51の動作については、第3実施形態で説明した固有の効果と、図50を用いて説明した本実施形態で説明した1チップ化した際の効果を実現することができる。
他にも、図52で示すようなヘテロ接合部を絶縁ゲート電極で駆動するトランジスタや図53で示すようなJFETと1チップ化することもでき、図51で説明した効果を同様に得ることができる。
図52は図50のスイッチング素子600としてIGBTを用いる代わりに、図39で示したヘテロ接合部を絶縁ゲート電極で駆動するトランジスタを用いた場合を示している。
図52では、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域61上にN−型のドリフト領域62が形成され、ドリフト領域62の基板領域61との接合面に対向する主面に接するように、N型の多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域63が形成されている。そして、ヘテロ半導体領域63とドリフト領域62との接合面に共に接するように、シリコン酸化膜から成るゲート絶縁膜64が形成されている。また、ゲート絶縁膜64上にはゲート電極65が、ヘテロ半導体領域63のドリフト領域62との接合面に対向する対面にはソース電極66が、基板領域61にはドレイン電極68が接続するように形成されている。また、半導体スナバ200の部分は図50と同様であり、同じ効果を得ることができる。
図53は図50のスイッチング素子600としてIGBTを用いる代わりに、図40で示したJFETを用いた場合を示している。
図53のJFETの部分は、炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域71上にN−型のドリフト領域72が形成され、N+型のソース領域73とP型のゲート領域74が形成されており、ゲート領域74はゲート電極75に接続されており、ソース領域73はソース電極76に接続されており、基板領域71はドレイン電極78に接続されている。また、半導体スナバ200の部分は図50と同様であり、反対導電型領域1008はゲート領域74と共用して作成することができる。
図53の動作については、第3実施形態で説明した固有の効果と、本実施形態で説明した1チップ化した際の効果を実現することができる。このような構成することによって、製造工程をさらに簡略化し、低コストで実現することができる。
さらに、第3実施形態で説明したように、本実施形態においては、スイッチング素子600をユニポーラ型の還流ダイオードとしても使用ができるため、還流ダイオード100についても図52で示した半導体装置10で共用することができる。すなわち、本実施形態においては、還流ダイオード100を別チップで形成する以外にも、還流ダイオード100とスイッチング素子600と半導体スナバ200とを1チップ化して、半導体パッケージを小型化することができる。このことにより、配線等に生じる寄生インダクタンスをさらに低減することができるため、半導体スナバ200による振動現象をさらに低減することができる。また、配線長がより短くなることは、振動電流により配線から発する放射ノイズをさらに低減させる効果もある。また、チップサイズの低減によってコストが低減されると共に、還流ダイオード100とスイッチング素子600とのキャパシタ容量の和が小さくなるため、半導体スナバ200に必要なキャパシタ210の容量Cも小さくすることができる。つまり、小型且つ低コストで振動現象を抑制することができる。
以上、スイッチング素子600と半導体スナバ200とを1チップ化する例を説明してきたが、1チップ化する際に、半導体スナバ200の抵抗220の抵抗値Rとしては、反対導電型領域1008以外にも、半導体基体中の基板領域やドリフト領域もしくは半導体基退場に形成された多結晶シリコンなどからなる抵抗領域を用いてもよい。また、半導体スナバ200のキャパシタ210の容量Cとしても、シリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31以外にも、PN接合やヘテロ接合などの逆バイアス時に空乏層を形成する構成とし、空乏容量を用いても良い。また、ショットキーバリアダイオードを内蔵するMOSFETなどのように、スイッチング素子600中に還流ダイオード100を内蔵する構成とし、半導体スナバ200と共に1チップ化してもよい。いずれの構成においても、本発明の特徴である振動現象をさらに抑制し、過渡性能と導通性能をともに向上すると同時に、小型でかつ低コストで実現することができる。
以上、スイッチング素子600と半導体スナバ200とを1チップ化した場合の構成を複数例示してきたが、スイッチング素子600のエミッタ端子(ソース端子)及びコレクタ端子(ドレイン端子)及びゲート端子(ベース端子)と接続する各電極が同一主面上にある所謂横型の素子であってももちろん良い。
(その他の実施形態)
以上、第1〜第5実施形態を通して、本発明の具体的な構成及び効果を説明してきたが、半導体スナバ200は、少なくとも還流ダイオード100と並列接続されていれば、同一実装基板上に実装されていなくても発振現象を低減する効果を得ることができる。
また、全ての実施形態において、還流ダイオード100、スイッチング素子600、半導体スナバ200の材料として、シリコン材料、炭化珪素材料などを一例として説明してきたが、振動現象の低減効果が得られれば、基板材料はシリコンゲルマン、窒化ガリウム、ダイヤモンドなどその他の半導体材料でもかまわない。また、炭化珪素のポリタイプとして4Hタイプを用いて説明したが、6H、3C等その他のポリタイプでも構わない。また、スイッチング素子600および還流ダイオード100のドリフト領域としてN型の場合で説明してきたが、P型で構成されていてももちろん良い。
また、本発明の半導体装置10を適用可能な電力変換装置として、DC/DCコンバータや3相交流インバータなどを一例として説明してきたが、図36に示すような一般にHブリッジなどと呼ばれる電力変換装置に用いても良い。いずれにしても、直流電圧を交流電圧に変換するインバータや、交流電圧を直流電圧に変換する整流器や、直流電圧を電圧を変えて出力するDC/DCコンバータなどのように、あらゆるタイプの電力変換装置に適用することができる。そして、本発明の構成を用いる電力変換装置であれば、大電流領域及びゼロ電領域のいずれの領域においても、さらには、低温および高温時のいずれにおいても、振動現象を低減することができる。このため、導通損失及び過渡損失を低減し高密度化ができると共に、振動現象が低減し安定的に動作させることができるので、装置の基本性能を両立して向上させることができる。
さらに、本発明の構成においては、図35で示す3相交流インバータや図36で示すHブリッジなどの半導体スナバ200が直列に接続される回路構成を有するような電力変換装置に適用する場合、新たな効果を得ることができる。
図54は、図35もしくは図36で示す電力変換装置の回路図の1相分を抜き出した回路図である。図54は、還流ダイオード100とスイッチング素子600と半導体スナバ200が並列に接続された半導体装置10を直列に接続した回路図である。そして、上アーム側のコレクタ端子、エミッタ端子、ゲート端子をそれぞれ、C1、E1、G1とし、下アーム側のコレクタ端子、エミッタ端子、ゲート端子をそれぞれ、C2、E2、G2とする。上アームのエミッタ端子E1と下アームのコレクタ端子C2は接続されており、一般にモータ等の負荷に接続されている。この図54の構成を、半導体パッケージ構造として例示したのが、図55となる。上アーム及び下アームに還流ダイオード100とスイッチング素子600がそれぞれ1チップずつ実装されており、各電極は図54に対応するC1、E1(C2)、G1、E2、G2にそれぞれ接続されている。さらに、本実施形態においては、上アーム及び下アームにそれぞれ接続されている半導体スナバ200を1チップで形成した上下アーム一体半導体スナバ2000を用いた場合を示している。なお図55中においては、上下アーム一体半導体スナバ2000の配置場所が、独立した電極膜1200上に形成しているが、上下アーム一体半導体スナバ2000のチップの裏面には電気的な接続がされていないので、どの部分に実装されていてもよい。図55に示す上下アーム一体半導体スナバ2000の具体的な断面構造を示したのが図56である。図56に示すように、基板領域11上にシリコン酸化膜などからなる誘電領域12が形成されており、誘電領域12に接するように、上アーム第2電極1010と上アーム第1電極1011と下アーム第2電極1012と下アーム第1電極1013がそれぞれ形成されている。つまり、本実施形態においては、第1実施形態で説明した図19の半導体スナバ200が二個分形成されている構成となっている。そして、図55の回路に示すように、上アーム第2電極1010はC1端子に、上アーム第1電極1011と下アーム第2電極1012は、E1(C2)端子に、下アーム第1電極1013はE2端子に金属配線等でそれぞれ接続されている。
このように、本実施形態においては、上アーム及び下アームにそれぞれ別チップで形成されていた半導体スナバ200を1チップに一体化することで、基板領域11及び誘電領域12を共用することができると共に、4つの電極を同一プロセスで形成することができる。また、本実施形態においては、誘電領域12の厚みを所望の耐圧の半分程度が得られる厚みにすることで、各C1端子とE1端子間、C2端子とE2端子間、そしてC1端子とE2端子間のいずれにおいても、所定の誘電容量を確保しつつ、所望の耐圧を得ることができる。このように、本実施形態にすることで、チップサイズを小型化し、製造プロセスを簡略化することができる。また、図57に示すように、E1(C2)端子に接続され同一の電位となる上アーム第1電極1011と下アーム第2電極1012を中間電極1014として1つの電極として形成した場合、中間電極1014直下に形成される誘電領域12の面積を少なくとも2倍以上にすることができるため、誘電容量を2倍以上に集積化することが可能となる。この作用は、上アームと下アームを1チップ化したことで得られる大きな特徴であり、さらなるチップの縮小化に寄与する。
以上、図55〜図57を用いて、上下アームに形成された半導体スナバ200を1チップ化する場合について説明してきたが、還流ダイオード100及びスイッチング素子600を各電極が同一主面に形成する所謂横型素子として形成した場合、図58に示すように、上下アーム全てのチップを1チップ内に形成することができる。このようにすることで、トータルのチップサイズを縮小化することができるとともに、第2実施形態で説明したように、上下アームの各素子は、全てが同時には動作しないため、半導体基体からの放熱体積が増える分、放熱効率が向上し、さらにチップサイズを低減することができる。また、図59に示すように、図35で示した3相交流インバータを構成する半導体装置10全てのチップを1チップ化した場合を示している。このようにすることで、さらにチップサイズを縮小化でき、パッケージ実装も含めて製造工程が容易になる。3相交流回路においても、3相全てが同時に最大発熱にならないように電流が分散するため、1チップ化したことによる放熱効率についても向上する。
以上、本実施形態で示したように、半導体スナバ200の第1電極と第2電極の少なくとも一部を、支持基材となる基板領域1の同一主面側に形成することで、還流ダイオード100もしくはスイッチング素子600もしくは、半導体スナバ200同士との一体化が容易にできるため、チップサイズを低減し、容易な製造プロセスで形成することができる。このようにすることで、半導体装置10そのものだけでなく電力変換装置としても、小型化・低コスト化が可能となる。
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。