前記の提案(特許文献3,4)に係る融雪・凍結防止構造及び加熱装置では、路盤上に配した断熱層によって発熱体から発生する熱エネルギーの地下方向への熱ロスが減少するから、該発熱体の熱が遠赤外線放射層を介して効率よく遠赤外線に変換され、高い遠赤外線放射効果が得られる。しかしながら、これら提案の場合でも、経時的に断熱層のへたり、吸水劣化、損傷、位置ずれ等を生じて断熱性能が低下することで、長期的に高い熱効率を維持できないという難点があった。因みに、前者の融雪・凍結防止構造の断熱層には、一般的な発泡樹脂パネル材、セラミック板、ガラス繊維シート材等が使用される。また、後者の加熱装置の断熱層には、ポリエステル、塩化ビニル、炭酸カルシウム等を含有する産業廃棄物残渣を圧縮成形したものが用いられている。
一般に、断熱材として、例えば、ポリスチレンフォーム、硬質ポリウレタンフォーム、ポリオレフィンフォームの如き発泡樹脂系断熱材、セルロースファイバーやインシュレーションボードの如き木質繊維系断熱材、グラスウールやロックウールの如き無機繊維系断熱材、炭酸カルシウム系やアルカリ珪酸塩系の無機質発泡断熱材、ポリシロキサンの如き無機質結合剤にパーライト等の多孔質ないし中空微粒子が配合された無機質断熱材等、多種多様な材質のものが知られている。しかるに、本発明者らの実施試験によれば、既存の断熱材はいずれも道路舗装下への埋設用として充分に満足できるものではなかった。
すなわち、道路舗装下に断熱材を埋設した場合、通行車両の大重量が頻繁に加わるため、断熱性を維持して且つ路面の凹凸変形を防止する上で、その反復荷重による潰れや割れを生じないことが必要であり、またアスファルト舗装では合材温度が150℃程度で敷き均し温度も110℃以上になるから、高い耐熱性が要求されると共に、アスファルト舗装の流動化が発生した際には断裂することなく流動化状況に応じて形態変化できねばならず、しかも本来の断熱性に優れることに加え、舗装下で長期にわたって品質を保つための高耐久性及び非吸水性、施工性、取扱い上での軽量性、更に道路に用いる上での材料コスト、製造コスト、イニシャルコスト、メンテナンスコスト等の低廉性も必要となる。
本発明者らは、上述の事情に鑑みて、路面の融雪や凍結防止等の目的で道路舗装下に発熱体を敷設する場合の地下方向への熱ロスを抑えるための断熱材として、高い断熱性及び耐熱性を備えて、且つ道路舗装下の埋設状態で長期にわたって劣化やへたれを生じることなく高い断熱性能を維持でき、また容易に安価に製造できて取扱い性にも優れるものを究明すべく、綿密な実験研究を重ねた。その結果、特定の樹脂基材に特定成分を配合した組成で且つ特定の比重、曲げ弾性率、圧縮強度、圧縮後の寸法復元率を備えるものが、道路舗装下に長期埋設する断熱材として性能及びコスト的に極めて適合すると共に、湿式床暖房用としての加熱装置での熱ロスを防ぐ断熱材としても有用であることを究明し、本発明をなすに至った。本発明は、該断熱材及びその製造方法と該断熱材を用いた遠赤外線加熱装置に係る。
請求項1の発明に係る断熱材は、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を主成分とし、比重が0.8〜1.0、曲げ弾性率が7〜25MPa、25%歪み圧縮強度が0.5〜6.0MPa、50%歪み圧縮後の寸法復元率が98%以上であることを特徴としている。
請求項2の発明は、上記請求項1の断熱材において、30〜80質量%の塩化ビニル系樹脂と、2〜25質量%の無機質中空微粒子と、15〜50質量%の可塑剤とを含有してなる構成としている。
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の断熱材において、無機質中空微粒子が粒子径5〜200μmのガラスバルーンを主体とする構成としている。
請求項4の発明は、上記請求項3の断熱材において、前記ガラスバルーンが、真密度0.13〜0.60g/cm3 、メジアン径16〜65μmの真球状粒子からなる構成としている。
請求項5の発明に係る断熱材の製造方法は、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を主成分として含むペースト状のゾルを遠赤外線加熱によってゲル化することにより、請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材を得ることを特徴としている。
請求項6の発明は、上記請求項5の断熱材の製造方法において、内表面に遠赤外線放射塗装を施した容器内に前記ペースト状のゾルを収容し、この容器を加熱炉内で加熱することにより、遠赤外線放射塗装部から放射される遠赤外線によってゲル化する構成としている。
請求項7の発明に係る遠赤外線加熱装置は、道路基盤上もしくは該道路基盤上に設けた平坦化処理層上に、遠赤外線放射ボードが接着固定され、この遠赤外線放射ボード上に発熱体が密着敷設され、更にこれら遠赤外線放射ボード及び発熱体を埋入する舗装が施され、前記遠赤外線放射ボードが、請求項1〜4の何れかに記載の断熱材からなる断熱層と、樹脂中に熱伝導性繊維及び遠赤外線放射剤粒子を配合した熱伝導放射層とを有することを特徴としている。
請求項8の発明は、上記請求項7の遠赤外線加熱装置において、前記舗装に遠赤外線放射剤粒子を含む構成としている。
請求項9の発明は、上記請求項7又は8の遠赤外線加熱装置において、遠赤外線放射ボードは、前記断熱層の下側に粘着層を備え、この粘着層を介して道路基盤上もしくは前記平坦化処理層上に接着されてなる構成としている。
請求項10の発明に係る遠赤外線加熱装置は、コンクリートスラブ上もしくは該スラブ上に設けた均しモルタル層上に、遠赤外線放射ボードが接着固定され、この遠赤外線放射ボード上に発熱体が密着敷設され、更にこれら遠赤外線放射ボード及び発熱体を埋入して床仕上げ層が形成され、前記遠赤外線放射ボードが、請求項1〜4の何れかに記載の断熱材からなる断熱層と、樹脂中に熱伝導性繊維及び遠赤外線放射剤粒子を配合した熱伝導放射層とを有することを特徴としている。
請求項11の発明は、上記請求項10の遠赤外線加熱装置において、前記床仕上げ層に遠赤外線放射剤粒子を含む構成としている。
請求項12の発明は、上記請求項6〜11の何れかの遠赤外線加熱装置において、遠赤外線放射ボードは、断熱層と熱伝導放射層との間に、相変化による潜熱吸収能を有する蓄熱剤を含む蓄熱層が介在してなる構成としている。
請求項13の発明は、上記請求項10〜12の遠赤外線加熱装置において、発熱体を密着敷設した遠赤外線放射ボード上に、蓄熱剤内包の蓄熱容器又は蓄熱剤配合の蓄熱モルタル層が配設され、その上に前記床仕上げ層が形成されてなる構成としている。
請求項14の発明は、上記請求項9〜13の遠赤外線加熱装置において、被加熱面を2以上の領域又は通電系統に分割して順次通電する分割通電制御を行う構成としている。
請求項1の発明に係る断熱材は、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を主成分とし、各々特定範囲の比重、曲げ弾性率、圧縮強度、圧縮復元率を有することから、高い断熱性及び耐熱性を備えることに加え、非吸水性であるために吸水による断熱性能の低下がなく、しかも高耐圧性である上に良好な柔軟性を備え、また軽量で取扱い性にも優れている。従って、路面の融雪や凍結防止等の目的で道路舗装下に発熱体を敷設する際、この断熱材を該発熱体の下側に配設すれば、その高い断熱効果により、該発熱体から発生する熱エネルギーの地下方向への熱ロスが著しく減少し、高い熱効率が得られる。しかも、この断熱材は、圧縮状態から元の非圧縮状態への復元力が極めて強く、高耐圧性で且つ良好な柔軟性を有するから、通行車両の大重量が頻繁に加わるにも関わらず、その反復荷重による潰れや割れを生じず、その潰れや割れに起因した断熱性低下や路面の凹凸変形をきたすことなく、高い断熱性能を長期にわたって維持できる。そして、アスファルト舗装の場合、その高い合材温度及び敷き均し温度に断熱材が充分に耐える上、アスファルトの流動化が発生しても、その流動化状況に応じて断熱材が形態変化するから、該断熱材の断裂や位置ずれを生じる懸念がなく、従来のような路内強化シートとその溶着固定作業が不要となる。一方、湿式床暖房用として、コンクリートスラブ上に一般的な断熱材を敷設し、その上に均しモルタル層を設け、その上から発熱体を敷設し、その上に床仕上げ層を設ける場合にも、該発熱体の下地側に本発明の断熱材を介在させることにより、該発熱体から発生する熱エネルギーの床下方側への熱ロスを防止し、高い熱効率を得ることができる。
請求項2の発明によれば、上記断熱材は、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を各々特定比率で含む組成を有することから、前述の断熱性、耐熱性、耐圧性、柔軟性、弾力性、非吸水性、軽量性等の諸特性により優れるものとなる。
請求項3の発明によれば、上記断熱材は、含有する無機質中空微粒子が特定粒子サイズのガラスバルーンを主体としており、該ガラスバルーンの耐圧強度が大きいために該断熱材の製造時や使用時の圧力や剪断力等で破壊されにくく、もって優れた断熱性及び耐圧性を備えるものとなる。
請求項4の発明によれば、上記のガラスバルーンが特定範囲の真密度及びメジアン径の真球状粒子からなり、遠赤外線に対して高いミー拡散効果を発揮できるから、これを含む断熱材を遠赤外線加熱装置における断熱層に用いた場合に、遠赤外線を該断熱層で回折反射することでより高い熱効率が得られる。また、該断熱材をコンクリート床の床断熱に用いた場合は、床下からの冷放射を反射してコンクリート床の冷えを防止するという効果も得られる。
請求項5の発明に係る断熱材の製造方法によれば、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を主成分として含むペースト状のゾルを遠赤外線加熱によってゲル化することから、前記の優れた性能を備えた断熱材として、厚みの大小に関わらず全体的に均質なものを容易に且つ確実に得ることができる。
請求項6の発明によれば、上記製造方法において、内表面に遠赤外線放射塗装を施した容器内に前記ペースト状のゾルを収容し、この容器を加熱炉内で加熱することにより、遠赤外線放射塗装部から放射される遠赤外線によってゲル化することから、特にブロック状のような厚みの大きい断熱材成形物として、全体的に均質なものを容易に得ることができる。
請求項7の発明に係る遠赤外線加熱装置では、道路舗装下に、上記断熱材からなる断熱層と樹脂中に熱伝導性繊維及び遠赤外線放射剤粒子を配合した熱伝導放射層とを有する遠赤外線放射ボードが埋設固定され、この遠赤外線放射ボード上に発熱体が密着敷設されているから、発熱体から発生する熱エネルギーの地下方向への熱ロスが遠赤外線放射ボードの断熱層によって防止されると共に、発生熱が該遠赤外線放射ボードの熱伝導放射層全体に迅速に伝わり、もって該発熱体の周辺から遠赤外線放射ボードの上位側の地中全体にわたって急速に温度が高まり、その昇温に伴って該遠赤外線放射ボードの熱伝導放射層に含まれる遠赤外線放射剤粒子を介して遠赤外線に効率よく変換され、その遠赤外線の放射エネルギーによって高い融雪・凍結防止効果が得られる。
請求項8の発明によれば、上記の遠赤外線加熱装置において、舗装に遠赤外線放射剤粒子を含むから、遠赤外線の放射が増大し、より高い融雪・凍結防止効果が得られる。
請求項9の発明によれば、上記の遠赤外線放射ボードが断熱層の下側に粘着層を備えるから、この粘着層を介して道路基盤上もしくは前記平坦化処理層上に容易に能率よく接着固定できるという利点がある。
請求項10の発明に係る遠赤外線加熱装置では、コンクリートスラブ上もしくは該スラブ上に設けた均しモルタル層上に、既述同様の断熱層と熱伝導放射層を有する遠赤外線放射ボードが接着固定され、この遠赤外線放射ボード上に発熱体が密着敷設され、その上に床仕上げ層が形成されているから、従来の金属発熱線を用いた熱伝導主体の湿式床暖房に比較して格段に高い床面温度上昇が得られる。すなわち、前述の融雪・凍結防止用の加熱装置と同様に、発熱体から発生する熱エネルギーの床下方向への熱ロスが遠赤外線放射ボードの断熱層によって防止されると共に、発生熱が該遠赤外線放射ボードの熱伝導放射層全体に迅速に伝わり、もって該発熱体の周辺から遠赤外線放射ボードの上位側の地中全体にわたって急速に温度が高まり、その昇温に伴って該遠赤外線放射ボードの熱伝導放射層に含まれる遠赤外線放射剤粒子を介して遠赤外線に効率よく変換されて放射される。
請求項11の発明によれば、上記の湿式床暖房用の遠赤外線加熱装置において、床仕上げ層に遠赤外線放射剤粒子を含むことから、遠赤外線の放射が増大し、より高い暖房効果が得られる。
請求項12の発明によれば、上記の遠赤外線加熱装置において、遠赤外線放射ボードは、断熱層と熱伝導放射層との間に、相変化による潜熱吸収能を有する蓄熱剤を含む蓄熱層が介在しているから、発熱体から発する熱エネルギーが遠赤外線放射ボードの熱伝導放射層に沿って素早く伝導拡散しながら、同時に下地の蓄熱層にも幅広く伝導・放射し、蓄熱剤の相変化によって該蓄熱層に効率よく吸収されて蓄熱され、この蓄熱によって遠赤外線放射ボードの熱伝導放射層の熱拡散と遠赤外線放射が高レベルで持続する。よって、融雪・凍結防止用の加熱装置では路面温度の、湿式床暖房用の加熱装置では床面温度の、各々より高い上昇効果が得られる。
請求項13の発明によれば、上記の湿式床暖房用の遠赤外線加熱装置において、発熱体を密着敷設した遠赤外線放射ボード上に、蓄熱剤内包の蓄熱容器又は蓄熱剤配合の蓄熱モルタル層が配設され、その上に床仕上げ層が形成されているから、蓄熱剤の急速な潜熱吸収が得られ、その蓄熱によって暖房効果が長時間持続するという利点がある。
請求項14の発明によれば、上記の遠赤外線加熱装置において、分割通電制御により、融雪・凍結防止用及び湿式床暖房用の受電容量を大幅に削減することができる。
本発明の断熱材は、基材となる塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を主成分とし、比重が0.8〜1.0、曲げ弾性率が7〜25MPa、25%歪み圧縮強度が0.5〜6.0MPa、50%歪み圧縮後の寸法復元率が98%以上であることを特徴としている。
ここで、断熱材の基材に塩化ビニル系樹脂を用いるのは、塩化ビニル系樹脂が可塑剤によって容易に液状化できることと、無機質中空微粒子を破壊することなく均等に分散混合できることによる。このような塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体、50質量%以上の塩化ビニル単量体とエチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、又は酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類のビニル系単量体との共重合体、これら以外の重合体に塩化ビニルをグラフト重合させたグラフト共重合体等が例示される。その中でも、塩化ビニル単独重合体が好ましく、特に塩化ビニルのペーストレジンが好ましい。また、塩化ビニル系樹脂は、通常、平均重合度300〜8000のものを用いるが、成形性と機械的物性のバランスから平均重合度500〜3000のものが好ましい。そして、断熱材における塩化ビニル系樹脂の含有量は、30〜80質量%が好ましく、特に40〜60質量%が好ましく、少な過ぎては断熱材の機械的強度が不足し、多過ぎては断熱材の柔軟性が不充分になる。
上記の無機質中空微粒子は、本発明の断熱材の断熱機能を担う成分であり、例えば、ガラスバルーン、シラスバルーン、パーライト、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、カーボンバルーン等が挙げられるが、成形時や使用時の圧力や剪断力等で破壊されると断熱材の断熱性が悪化するので、耐圧強度の大きいものがよい。そして、断熱材における無機質中空微粒子の含有量は、2〜25質量%が好ましく、特に4〜15質量%が好適であり、少な過ぎては断熱材の断熱性が不足し、多過ぎては断熱材の機械的強度が悪化する。
また、上記の無機質中空微粒子の中でもガラスバルーンが耐圧強度及びコストの両面から好適であるため、該無機質中空微粒子にはガラスバルーンを主体として用いることが推奨される。そして、このようなガラスバルーンの粒子径は、5〜200μmの範囲が好ましく、10〜100μmの範囲がより好ましく、小さ過ぎては断熱効果が不充分になり、大き過ぎては断熱材の機械的強度が不足する。
更に、好適なガラスバルーンとして、真密度0.13〜0.60g/cm3 、メジアン径16〜65μmの真球状粒子からなるものが推奨される。すなわち、このような真密度及びメジアン径の真球状粒子からなるガラスバルーンを配合した断熱材では、高いミー拡散効果を発揮できるから、遠赤外線加熱装置における断熱層に用いた場合に、遠赤外線を該断熱層で回折反射することでより高い熱効率が得られる。また、該断熱材をコンクリート床の床断熱に用いた場合は、床下からの冷放射を反射してコンクリート床の冷えを防止するという効果も得られる。
本発明の断熱材に用いる可塑剤としては、塩化ビニル系樹脂と相溶性のものであればよく、例えば、フタル酸2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジルの如きフタル酸エステル類、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジブチルの如き脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリブチル、リン酸トリ−n−エチルヘキシル、リン酸トリクレシル、リン酸トリフェニルの如きリン酸エステル類、トリメリット酸−トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリブチルの如きトリメリット酸エステル類、ペンタエリスリトールエステル、ジエレングリコールベンゾエートの如きグリコールエステル類、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油の如きエポキシ化エステル類、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリオクチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレートの如きクエン酸エステル類、テトラ−n−オクチルピロメリテート、ポリプロピレンアジペート、ポリエステル系可塑剤等が挙げられ、これらは一種単独又は二種以上を組み合わせて使用できるが、特にフタル酸2−エチルヘキシル(DOP)がコスト及び取扱い性の面から好ましい。そして、断熱材における可塑剤の含有量は、10〜50質量%が好ましく、特に20〜40質量%が好適であり、少な過ぎては断熱材の柔軟性が不足し、多過ぎてはブリードアウトして断熱材の外観が悪化する。
なお、本発明の断熱材には、必要に応じて、塩化ビニル系樹脂に対して一般的に使用される安定剤、塩化ビニル用改質剤、充填剤、滑剤、着色剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
上記の安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、鉛白、鉛のラウレート又はステアレートの如き鉛系安定剤、ブチル錫マレート、オクチル錫マレート、ジ−n−アルキル錫メルカプチド、ジ−n−アルキル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ラウリルメルカプチド、ジオクチル錫S,S’−ビス−(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジブチル錫ビス−イソオクチルチオグリコレート、ジ−(n−オクチル)錫マレートポリマー、ジブチル錫メルカプトプロピオナートの如き有機錫系安定剤、カルシウム、カドミウム、バリウム、亜鉛のラウレート又はステアレートの如き有機金属塩系安定剤及び金属石けん系安定剤、アンチモンメルカプトカルボン酸塩又はエステル塩の如きアンチモン系安定剤、ホスフェート系安定剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油の如きエポキシ化油安定剤、BHT、硫黄、メチレン基等で二量体化したビスフェノールの如きヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトタアゾールの如き紫外線吸収剤等が挙げられ、これらは一種単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。断熱材における安定剤の配合量は、0.5〜5質量%が好ましい。
上記の塩化ビニル用改質剤としては、例えは、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリメチレン、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴムの如き耐衝撃改良剤、アクリロニトリル−ブタジエン−α−メチルスチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリル酸共重合体、その他マレイミドを使用した共重合体の如き耐熱改質剤、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、アンチモン酸ナトリウム、リン酸エステル及びリン酸化合物、塩素化パラフィン、塩素化オレフィン、ヘキサブロモベンゼンの如き難燃化剤、部分架橋NBR、アクリルゴム、ポリウレタンの如き弾性付与剤、発泡剤、帯電防止剤、界面活性剤、導電性付与剤等が挙げられ、これらは一種単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。
上記の充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイトの如き炭酸塩系、シリカ、珪藻土、酸化チタンの如き酸化物系、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムの如き水酸化物系、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き(亜)硫酸塩系、タルク、クレー、マイカ、珪酸カルシウムの如き珪酸塩系、カーボンブラック、グラファィトの如き炭素系、ガラス短繊維、カーボン繊維の如き無機繊維系、ポリイミド、シリコーンの如き耐熱性樹脂系等が挙げられ、これらは一種単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。
一方、本発明の断熱材は、既述のように、比重が0.8〜1.0、曲げ弾性率が7〜25MPa、25%歪み圧縮強度が0.5〜6.0MPa、50%歪み圧縮後の寸法復元率が98%以上であることを必要とし、これらの物性値が規定範囲外になると、後述する融雪・凍結防止用の遠赤外線加熱装置のように道路舗装下に埋設して用いる場合に充分な適性が得られない。
すなわち、上記の比重が0.8未満では、断熱材が強度不足になり、道路舗装下の埋設状態で潰れや割れを生じ易く、耐久性を確保できない。また、該比重が1.0を越えると、断熱材本来の断熱性能が不充分になると共に、重くなって取扱い性も悪くなる。しかして、このような断熱材の比重は、使用する無機質中空微粒子の粒度及び真密度と配合量によって調整できる。
また、上記の曲げ弾性率が7MPa未満では、断熱材が柔らか過ぎて保形性に乏しく、道路舗装下の埋設状態での繰り返し荷重により、路面の変形破損の原因となる。逆に該曲げ弾性率が25MPaを越えると、断熱材が硬く変形しにくいため、作業性が悪く、更に、アスファルト舗装の供用時に流動化が発生した際に舗装内で形態変化できず、断裂や位置ずれを起こし舗装破損を一層促進させる。しかして、このような曲げ弾性率は、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤の配合比率によって調整できる。
更に、上記の25%歪み圧縮強度が0.5MPa未満では、道路舗装下の埋設状態で通行車両の荷重を受ける度にへしゃげ、断熱性能を喪失するだけでなく、舗装面にひび割れを起こし舗装破損の原因となる。逆に圧縮強度が6.0MPaを越えると、アスファルト舗装において流動化が発生した際に形態変化できず、断裂や位置ずれを起こし舗装破損を一層促進させる。しかして、このような圧縮強度も、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤の配合比率によって調整できる。
50%歪み圧縮後の寸法復元率が98%未満では、道路舗装下の埋設状態での通行車両のによる反復荷重により、次第に厚みを減じて断熱機能が低下するから、長期にわたって高い断熱作用を持続できない。この圧縮後の寸法復元率は、主として塩化ビニル系樹脂と可塑剤の配合比率によって調整できる。
上記構成の本発明の断熱材は、高い断熱性及び耐熱性を備えることに加え、非吸水性であるために吸水による断熱性能の低下がなく、しかも高耐圧性である上に良好な柔軟性及び弾力性を備え、また軽量で取扱い性にも優れている。
従って、路面の融雪や凍結防止等の目的で道路舗装下に発熱体を敷設する際、この断熱材を該発熱体の下側に配設すれば、その高い断熱効果により、該発熱体から発生する熱エネルギーの地下方向への熱ロスが著しく減少し、高い熱効率が得られると共に、高耐圧性で且つ良好な柔軟性及び弾力性を有するから、通行車両の大重量が頻繁に加わるにも関わらず、その反復荷重による潰れや割れを生じず、その潰れや割れに起因した路面の凹凸変形をきたすことなく、高い断熱性能を長期にわたって維持できる。そして、アスファルト舗装の場合、その高い合材温度及び敷き均し温度に断熱材が充分に耐える上、アスファルトの流動化が発生しても、その流動化状況に応じて断熱材が形態変化するから、該断熱材の断裂や位置ずれを生じる懸念がない。
また、この断熱材は、湿式床暖房用として、コンクリートスラブ上もしくは該スラブ上に一般的な断熱材を介して設けた均しモルタル層上に発熱体を敷設し、その上に床仕上げ層を設ける場合にも、該発熱体の下地側に当該断熱材を介在させることにより、該発熱体から発生する熱エネルギーの床下方側への熱ロスを防止し、高い熱効率を得ることができる。更に、該断熱材は、これら加熱装置に限らず、建築分野や日用雑貨分野を含む広範な産業分野において、断熱を要する部位に一般的な断熱材と同様に用いることができる。例えば、建築分野では、コンクリート直張り断熱材、断熱タイル、風呂洗い場の床断熱等の用途が挙げられる。また、日用雑貨分野では、断熱機能ベンチ、防水断熱マット、防寒靴用のインソール断熱材、保温容器、保温鍋敷き等の用途が挙げられる。
次に、上記断熱材の製造方法について説明する。該断熱材を得るには、基本的には、塩化ビニル系樹脂と無機質中空微粒子及び可塑剤を含むペースト状のゾルを調製し、熱を加えることでゲル化して所要の成形物とすればよい。この成形物は、塩化ビニル系樹脂のポリマー分子間に可塑剤が入り込んでポリマーの配向を阻害していることで、ガラス遷移点以下でもアモルファス状態を呈するから、ゴムのような弾力性を具備する。
上記ペースト状のゾルを調製するには、スーパーミキサーやリボンブレンダー等の混合機を用い、まず可塑剤と無機質中空微粒子を混合し、次いで該混合液に塩化ビニル系樹脂(ペーストレジン)と要すれば前記の安定剤、改質剤、充填剤等の添加成分とを加えて均一に撹拌混合する。
ゲル化手段としては、本発明者らの実験研究から、一般的な電気加熱炉での炉内雰囲気による加熱(熱伝導)は不適切であることが判明している。すなわち、断熱材としてある程度以上の厚みを有する成形物を得る場合、前記ペースト状のゾルを所要厚みに対応する深さの液層を保ってゲル化させる必要があるが、そのゾルには無機質中空微粒子が多量に含まれている。従って、一般的な電気加熱炉での炉内雰囲気による加熱では、該中空微粒子の断熱作用によって液層内部まで熱伝導しにくく、加熱温度が低い場合には成形物内部のゲル化が不完全となる一方、加熱温度を高くして成形物内部までゲル化を進行させると、成形物表面側が炭化してしまい、更に炭化防止のために低い温度で長時間の加熱を行うと、ゲル化の完了前に比重の小さい該中空微粒子が浮上して液層上部に集中し、得られる成形物の断面組織が不均一になる。
そこで、本発明者らが更に鋭意検討を重ねる過程で、塩化ビニル系樹脂の分子構造が有極性(永久双極子)であり、遠赤外線の吸収波長域が3.4μm、5.8μm、6.3μm、6.8μm、7.9μm、9.0μm、10.5μmにあるという知見を得た。そして、ランベルトの法則より吸光度は物質の吸収層の厚さに比例することから、塩化ビニル系樹脂を基材とする厚みの大きい断熱材成形物を得るためのゲル化手段として、遠赤外線放射による加熱が極めて有効であることを究明した。すなわち、遠赤外線放射による加熱では、ペースト状のゾルの全体が同時に均等に加熱されてゲル化するから、表面部の炭化を生じることなく全体に均質な組織で完全にゲル化した断熱材成形物が得られる。
このような遠赤外線放射による加熱を行うには、遠赤外線を発生させる遠赤外線ヒーターを用いればよいが、他の手段として遠赤外線放射容器を用いる方法もある。この遠赤外線放射容器はアルミ材等よりなる容器の少なくとも内周面に遠赤外線放射塗装を施したものであり、前記ペースト状のゾルを収容して加熱炉内で加熱すれば、その遠赤外線放射塗装部より遠赤外線が放射されるから、この遠赤外線放射によってゲル化を行える。
ゲル化して得られる断熱材の成形物は、該断熱材の用途に応じた厚みにスライスすると共に、所要の縦横寸法となるように裁断すればよい。
次に、本発明の断熱材を利用した本発明の融雪・凍結防止用ならびに床暖房用の遠赤外線加熱装置について、図面を参照して具体的に説明する。これら融雪・凍結防止用ならびに床暖房用の遠赤外線加熱装置では、該断熱材を図1(a)(b)に示すような遠赤外線放射ボード1A,1Bとして用いる。
まず、図1(a)に示す遠赤外線放射ボード1Aは、本発明の断熱材からなる断熱層10の上面側に、樹脂中に熱伝導性繊維及び遠赤外線放射剤粒子を含有する熱伝導放射層11が形成されると共に、該断熱層10の下面側に、粘着層12が形成された積層構造になっている。また、図1(b)に示す遠赤外線放射ボード1Bは、上記同様の断熱層10と熱伝導放射層11との間に、樹脂中に蓄熱剤を含有する蓄熱層13が介在すると共に、該断熱層10の下面側に、粘着層12が形成された積層構造になっている。
遠赤外線放射ボード1A,1Bにおける熱伝導放射層11ならびに遠赤外線放射ボード1Bの蓄熱層13は、各々の成分を含む塗料の塗膜層として形成されている。高熱伝導放射層11及び蓄熱層13の樹脂成分としては、特に制約されないが、断熱層10の基材が塩化ビニル系樹脂であることから、接着強度面より適合するビニールアクリルベース樹脂が好ましい。それらの塗装手段としては、刷毛塗り、こて塗り、スプレー塗装、スクリーン印刷等の種々の方法を採用できるが、作業性の面よりスクリーン印刷が推奨される。
遠赤外線放射ボード1A,1Bの熱伝導放射層11に含有させる熱伝導性繊維としては、例えばピッチ系の炭素繊維、シリコンカーバイト繊維、銅,真鍮、銀、アルミ、鉄等の金属繊維が挙げられるが、特に高熱伝導性炭素繊維が好適である。また、この高熱伝導性炭素繊維としては、熱伝導性の高いピッチ系炭素繊維がよく、更に熱伝導効果を高める上で繊維長の長い素材が適している。なお、このようなピッチ系の高熱伝導性炭素繊維の好適な市販品として、三菱樹脂社製の商品名ダイヤリードK233HM(平均繊維長187μm、最大繊維長200μm、密度2.2g/cm3、引張弾性率900GPa、引張強度3,800MPa、熱伝導率550W/m・K)が挙げられる。また、高熱伝導放射層11には、熱伝導性及び遠赤外線放射を高める助剤としてアセチレンブラックや黒鉛等のカーボン粉末を配合してもよい。
一方、同様に熱伝導放射層11に含有させる遠赤外線放射剤粒子としては、フライアッシュ(石炭灰)、珪石、軽石、珪藻土、シリカブラック、パーライト、ゼオライト、タルク、コージライト、珪灰石、長石、赤煉瓦、黒煉瓦、グラファィト等の粉末が挙げられ、これらは一種単独又は二種以上を組み合わせて使用できるが、これらの内でも特にフライアッシュが推奨される。このフライアッシュは、酸化ケイ素と酸化アルミニウムを主成分とした中空球形粒子からなる粉体であり、遠赤外線の9〜10μmの波長域において85〜90%の放射率を有しているから、その配合によって熱伝導放射層11内の遠赤外線の放射伝播を高める共に、その粒子によって該熱伝導放射層11の表面に微細な凹凸を形成することで放射面積を増大させ、波長9〜10μmの遠赤外線を効率よく放射させる機能を持つ。なお、このようなフライアッシュとしては、JIS A 6201(二酸化珪素45%以上、密度1.95以上、比表面積2,500cm2/g以上)が好適である。
遠赤外線放射ボード1Bの蓄熱層13に含有させる蓄熱剤は、固−液の相変化による蓄熱作用を発揮できるものであれば、無機化合物及び有機化合物のいずれをも使用できるが、特に有機化合物が相変化の繰り返し安定性に優れて且つ幅広い温度域にわたり蓄熱温度を容易に設定できることから好適である。このような有機化合物の蓄熱剤としては、融点が0〜30℃の、パラフィン、高級脂肪酸、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、価格や入手の容易さパラフィンが好ましく、更には蓄熱層形成用塗料としての配合のし易さからマイクロカプセル化されたものが推奨される。
マイクロカプセル化された蓄熱剤の好適な市販品として、三菱製紙社製の商品名サーモメモリーHSカプセルを例示できる。このHSカプセルは、水不溶性樹脂からなるカプセル殻中にノルマルパラフィンを内包した粒径1〜10μmのマイクロカプセル品であって、蓄熱の相変化温度域を約0〜60℃の範囲において5℃刻みで設定可能であり、熱を加えるとその設定温度で相変化し、水の約33〜43倍の潜熱蓄熱(100〜200KJ/kg)が得られる。その耐熱性は150℃まで安定であり、耐溶剤性は脂肪族の非極性溶剤に対して高い耐性を示す。
なお、蓄熱層13には、蓄熱剤の潜熱吸収を高めるために、既述した熱伝導放射層11に含有させるものと同様の遠赤外線放射剤粒子の1種以上を含有させてもよい。
遠赤外線放射ボード1A,1Bの粘着層12は、施工面に対して当該ボード1A,1Bを接着固定し得る粘着力を発揮できるものであればよく、粘着成分を含めて構成的に制約されないが、例えば、不織布を基材として、ストレートアスファルトに軽度の加熱空気を吹き込んで改質したセミブロンアスファルトを含浸させたものを例示できる。このセミブロンアスファルトは、上記改質によってストレートアスファルトよりも軟化点が高く伸度も小さくなっていることから、大きな接着強度が得られる。なお、図示を省略しているが、使用前の遠赤外線放射ボード1A,1Bの粘着層12の表面には剥離シートが貼着される。
図2(a)(b)は遠赤外線放射ボード1A,1Bに対する発熱体2の配設状態を示している。なお、ここでは代表して遠赤外線放射ボード1Bを図示している。発熱体2は、帯板状の遠赤外線放射ボード1A,1Bの熱伝導放射層11上に、幅方向中央位置に接触状態で長手方向に沿って配設され、該ボード1A,1Bの両端部近傍において、逆U字形の固定金具21と止着ピン22,22を介して固定される。この発熱体2としては、既述したPTC(正温度係数)特性発熱体が好適に使用される。すなわち、PTC特性発熱体では、周辺温度が低下すると、抵抗値が下がって電流量を増大させる機能があるから、高いエネルギー負荷の使用条件でも有効なエネルギー供給が可能である。
融雪・凍結防止用の遠赤外線加熱装置では、図3(a)(b)に示すように、道路基盤3上に設けたアスファルト舗装等よりなる平坦化処理層3a上に、帯板状の遠赤外線放射ボード1A,1B(図では代表して遠赤外線放射ボード1Bを示す)の複数枚が、長手方向に直列して、所定間隔置きの複数列に平行配置する形で、各々粘着層12を介して接着固定されている。そして、これら遠赤外線放射ボード1A,1Bの各列毎に、熱伝導放射層11上に発熱体2が配設固定され、その全体を覆って下側の保護層4aと表層4bとからなる舗装が施されている。なお、平坦化処理層3aは、道路基盤3の表面に凹凸がある場合に、該凹凸を埋めて平坦な施工面を形成するものである。従って、道路基盤3の表面が平坦である場合は、その表面に遠赤外線放射ボード1A,1Bが直接に接着固定される。
図4は遠赤外線加熱装置の施工域端部の構成例を示している。この施工域端部では、遠赤外線放射ボード1A,1Bの隣接する列が繋がり、その各列に沿う発熱体2がUターン状に折り返して連続しており、その折り返し部分が固定金具21を介して赤外線放射ボード1A,1Bに止着されている。Sは遠赤外線放射ボード1A,1Bの隣接する列間に配設した温度センサーである。
舗装の保護層4aは、表層4bの舗装時のローラー圧から遠赤外線放射ボード1A,1B及び発熱体2を保護するものであり、砂、モルタル、アスファルト、コンクリート等が使用される。また、表層4bとしては、例えば、モルタル、アスファルト、コンクリート、コンクリートブロック等の一般的に道路舗装の表層部を構成するものが用いられる。そして、これら保護層4a及び表層4bには、既述した遠赤外線放射ボード1A,1Bの熱伝導放射層11に含有するものと同様の遠赤外線放射剤粒子を配合することが推奨される。
上記構成の融雪・凍結防止用の遠赤外線加熱装置では、発熱体2から発する熱エネルギーは、遠赤外線放射ボード1A,1Bの断熱層によって地下方向への熱ロスが防止される一方、熱伝導放射層11内の熱伝導繊維によって素早く吸収されて該遠赤外線放射ボード1A,1Bの上面に沿って拡散する。そして、これに伴って地中温度が急速に上昇することにより、該熱エネルギーが熱伝導放射層11内の遠赤外線放射剤粒子にて遠赤外線に効率よく変換され、その遠赤外線の放射エネルギーによって路面温度が急速に上昇し、もって高い融雪・凍結防止効果が得られる。なお、保護層4a及び表層4bが遠赤外線放射剤粒子を含む場合は、これら両層4a,4bでも遠赤外線が素早く吸収・再放射されることで路面へ効率よく伝播すると共に、熱伝導量も増大する。加えて、遠赤外線放射ボード1A,1Bの断熱層10が非吸水性であるため、吸水による断熱性能の低下がなく、長期にわたって優れた融雪・凍結防止効果を安定的に発揮する。
特に、蓄熱層13を有する遠赤外線放射ボード1Bを用いた遠赤外線加熱装置では、熱伝導放射層11内の熱伝導繊維に吸収されて面方向に沿って迅速に拡散する熱エネルギーが、同時に下地の蓄熱層13にも伝導・放射されて潜熱吸収が行われる。従って、発熱体2からの熱エネルギー温度は一旦相変化温度に変換されるため、蓄熱層13のない遠赤外線放射ボード1Aに比較して断熱層10の上面側温度が低くなり、それだけ該断熱層10を通過する熱量(地下への熱ロス)が抑えられる。例えば、発熱体2の発熱温度を4〜30℃の間でON・OFFする通電制御において、蓄熱層13に含まれる蓄熱剤の相変化点が9℃である場合、熱伝導放射層11を通過してきた9℃以上の熱エネルギーが潜熱吸収され、その潜熱吸収される間の蓄熱層13の温度は9℃で推移するから、該蓄熱層13と断熱層10との接点温度も9℃に保たれ、結果的に断熱層10を通過する熱エネルギー量(熱ロス)が削減されることになる。また、気象条件が急激に悪化した場合でも、該蓄熱層13からの潜熱放出によって舗装内温度の低下が少なくなるから、融雪・凍結防止効果が持続する。
また、遠赤外線放射ボード1A,1Bは、断熱層10が高耐圧性で且つ良好な柔軟性及び弾力性を有するから、通行車両の大重量が頻繁に加わるにも関わらず、その反復荷重による潰れや割れを生じず、その潰れや割れに起因した路面の凹凸変形をきたすことなく、高い断熱性能を長期にわたって維持できる。そして、アスファルト舗装の場合、その高い合材温度及び敷き均し温度に断熱層10が充分に耐える上、アスファルトの流動化が発生しても、その流動化状況に応じて断熱層10が形態変化するから、断裂や位置ずれを生じる懸念がなく、従来のような路内強化シートとその溶着固定作業が不要となる。また、道路基盤3上もしくは平坦化処理層3a上に遠赤外線放射ボード1A,1Bを接着固定する際、その被接着面に多少の凹凸や不陸があっても、断熱層10の柔軟性によって吸収できると共に、下側の粘着層12を介して容易に能率よく接着固定できる。
更に、遠赤外線放射ボード1A,1Bは、軽量であるため、輸送経費等が軽減されると共に、施工現場での移動や配置等の取扱い作業も容易となる。また、遠赤外線放射ボード1A,1B自体はカッターナイフ等で簡単に切断できるから、施工現場において必要寸法に調整することも容易であり、これによって作業性が一段と向上する。
一方、このような遠赤外線加熱装置では、加熱する路面を複数の領域又は電気系統に分割して分割通電制御を行うことにより、融雪・凍結防止用の受電容量を大幅に削減し、もって経費を大きく改善できる。すなわち、この遠赤外線加熱装置によれば路面温度が上昇が従来に比較して格段に速いから、従来と同程度の融雪・凍結防止の条件でよいとした場合、融雪面を少なくとも3領域(3電気系統)に分割した3分割通電制御とすることで、受信容量を1/3に削減できる。そして、この受電容量を削減できることにより、高価で且つ設置スペース及び維持管理を要する高圧受電設備が不要になり、低圧受電設備とする融雪面積が多くなるという利点もある。特に、蓄熱層13を有する遠赤外線放射ボード1Bを用いた遠赤外線加熱装置では、分割通電制御方式を採用した際、各分割部における通電停止から通電再開までの間でも、蓄熱層13からの潜熱放出によって地中温度のある程度以上の低下が回避されるから、高い融雪・凍結防止能力を確保できる。
なお、融雪設備では、急激な気象変化(降雪・外気温度低下)に対応するために、一般的に予熱運転が行われるが、この予熱運転の稼働率は融雪設備の全運転時間に対して2/3位に達すると言われている。従来型の電熱式融雪設備における予熱運転の自動設定は、例えば路面下7cmに発熱体を埋設している場合、実績より1cm当たり1℃で予熱設定温度が上がり、発熱体周辺の温度が7+1=8℃になると予熱運転を開始するように設定される。これは、降雪や急激な気温低下となった場合、地中温度の上昇には限界があるため路面温度プラス1℃に維持できなくなり、路面凍結や積雪を発生することによる。しかし、問題は、この予熱運転が作動しても降雪や気温低下がないことが多く、予熱運転が無駄になることにある。
これに対し、本発明の遠赤外線加熱装置では、従来型の電熱式融雪設備に比較して、路面温度の上昇が概して4倍以上になるため、地中温度の設定を少なくとも半分以下の3〜4℃に設定でき、もって予熱運転の無駄を大幅に削減することができる。つまり、融雪用の加熱装置では、設計降雪量に対する融雪熱量算出(効率)だけでなく、余熱運転の効率も考慮した運用効率の改善が非常に重要であり、本発明はこの改善に多大に寄与することができる。
床暖房用の遠赤外線加熱装置では、図5(a)(b)に示すように、コンクリートスラブ5上に一般的な断熱材51を介して設けた均しモルタル層52上に、帯板状の遠赤外線放射ボード1A,1B(図では代表して遠赤外線放射ボード1Bを示す)の複数枚が、長手方向に直列して、所定間隔置きの複数列に平行配置する形で、各々粘着層12を介して接着固定されている。そして、これら遠赤外線放射ボード1A,1Bの各列毎に、熱伝導放射層11上に発熱体2が配設固定され、その全体を覆って床仕上げ層6が形成されている。なお、コンクリートスラブ5上に断熱材51及び均しモルタル層52を設けない床構造の場合は、該コンクリートスラブ5の表面に遠赤外線放射ボード1A,1Bを直接に接着固定することになる。
上記構成の床暖房用の遠赤外線加熱装置では、既述の融雪・凍結防止用の遠赤外線加熱装置と同様に、発熱体2から発する熱エネルギーは、遠赤外線放射ボード1A,1Bの断熱層によって床下方向への熱ロスが防止される一方、熱伝導放射層11内の熱伝導繊維によって素早く吸収されて該遠赤外線放射ボード1A,1Bの上面に沿って拡散する。そして、これに伴って地中温度が急速に上昇することにより、該熱エネルギーが熱伝導放射層11内の遠赤外線放射剤粒子にて遠赤外線に効率よく変換され、その遠赤外線の放射エネルギーによって床面温度が急速に上昇する。
この床面温度の上昇は、従来の金属発熱線を使用した熱伝導主体の湿式床暖房と比較し、蓄熱層13のない遠赤外線放射ボード1Aを用いた構成で2倍以上、蓄熱層13を有する遠赤外線放射ボード1Bを用いた構成では3倍以上となる。
図6は、上述した床暖房用の遠赤外線加熱装置において、発熱体2上に、更に蓄熱剤71を内包するパイプ状の蓄熱容器7を配置した構成を示す。また、図7は、同じく発熱体2上に、蓄熱剤配合の蓄熱モルタル層6aを打設し、その上に床仕上げ層6を設けた構成を示す。これら蓄熱容器7や蓄熱モルタル層6aを設けた遠赤外線加熱装置では、従来の蓄熱式床暖房よりもモルタル層内の温度上昇が3倍以上になるから、蓄熱剤の急速な潜熱吸収が得られ、その蓄熱作用によって暖房効果が長時間持続し、もって省エネルギー床暖房を実現できる。
なお、図6に示す蓄熱容器7を用いた遠赤外線加熱装置では、床仕上げ層6に既述同様の遠赤外線放射剤粒子を配合することが推奨される。また、蓄熱容器7としては、図6ではパイプ状のものを例示したが、偏平状等の他の形状のものも使用可能である。一方、図7に示す遠赤外線加熱装置の蓄熱モルタル層6aに含有させる蓄熱剤としては、既述のマイクロカプセル化されたものが好適である。更に、この蓄熱モルタル層6aには、蓄熱剤と共に既述同様の遠赤外線放射剤粒子を配合することが推奨される。
また、このような床暖房用の遠赤外線加熱装置においても、被加熱面を複数の領域又は電気系統に分割して分割通電制御を行うことにより、湿式床暖房用の受電容量を大幅に削減することができる。
次に、本発明に係る断熱材の実施例を比較例と対して具体的に説明する。なお、実施例及び比較例で使用した各成分と成形容器の詳細は次の通りである。
<使用成分>
塩化ビニル系樹脂A・・・塩ビペースト(カネカ社製:品番PSM-176、比重1.4)
塩化ビニル系樹脂B・・・塩ビストレート(カネカ社製:品番S-1001、比重1.4)
塩化ビニル用改質剤・・・減粘用ブレンド樹脂(カネカ社製:品番PBM-B5M、比重1.4) 可塑剤・・・DOP(フタル酸ジ−2エチルヘキシル、比重0.98)
安定剤・・・Ba/Zn系安定剤(ADEKA社製:品番AC-328、比重0.98)
ガラスバルーンA・・・スリーエム社製:品番スコッチライト・グラスバブルズK25 、メジアン径55μmの真球状粒子、真密度0.25g/cm3、比重0.25、 熱伝導率0.085W/m・K、熱安定性600℃、耐圧強度5.2MPa
ガラスバルーンB・・・スリーエム社製:品番スコッチライト・グラスバブルズK46 、メジアン径40μmの真球状粒子、真密度0.46g/cm3、比重0.46、 熱伝導率0.162W/m・K、熱安定性600℃、耐圧強度41MPa
<成形容器>
容器A・・・厚さ2mmのアルミ材からなる蓋付き容器(幅424mm、奥行き480mm、 深さ50mm)で、表面をフッ素樹脂にて離型加工したもの。
容器B・・・容器Aの内外面に、3〜10μm領域の遠赤外線波長帯を90%以上の効 率で放射可能な遠赤外線放射塗料(オキツモ社製:高効率輻射塗料B-600) を焼付け塗装したもの。
実施例1〜3
後記表1記載の成分を表記割合で用い、まずスーパーミキサーにて可塑剤と無機質中空微粒子であるガラスバルーンとを混合し、この混合液に塩化ビニル系樹脂Aと塩化ビニル用改質剤及び安定剤を加えて均一に撹拌混合して断熱材原料液を調製した。そして、この断熱材原液を容器B内に注入して蓋を被せ、この容器Bを加熱炉に入れて50℃で15分間予熱したのち、該加熱炉を温度190℃に設定して自動運転とした。自動運転開始後24分で炉内温度は190℃に上昇し、その後20分間のON・OFF運転を行ったのち、電源をOFFとして該容器Bを加熱炉中で13分間養生させてから取り出した。この養生中に炉内温度は185℃まで徐々に低下した。なお、200〜185℃領域から放射される遠赤外線波長は約2〜100μmの範囲であるが、その中で最大放射が得られる波長は、ウィーンの変位則から、例えば190℃では6.26μm、185℃では6.33μmとなる。しかして、冷却後の容器Bから取り出した断熱材ブロックは、縦42mm、横47.7mm、厚さ36mmの白い直方体形状で、表面部の炭化がなく、内部まで完全にゲル化して且つ全体に均質な組織を有するものであった。
比較例1
実施例1と同様にして調製した断熱材原料液を容器A内に注入して蓋を被せ、この容器Aを加熱炉に入れて50℃で15分間予熱したのち、該加熱炉を温度180℃に設定して自動運転とした。自動運転開始後29分で炉内温度は180℃に上昇し、その後20分間のON・OFF運転を行ったのち、該容器Aを加熱炉から取り出した。冷却後に該容器Aから取り出した断熱材ブロックは、表面部に焦げ目がなく白い状態であったが、帯板状にスライスしたところ、その断面がざらざらであって曲げると簡単に破断し、内部のゲル化が不充分な不良品であることが判明した。
比較例2
実施例1と同様にして調製した断熱材原料液を容器A内に注入して蓋を被せ、この容器Aを加熱炉に入れて50℃で15分間予熱したのち、該加熱炉を温度200℃に設定して自動運転とした。自動運転開始後26分で炉内温度は200℃に上昇し、その後40分間のON・OFF運転を行ったのち、該容器Aを加熱炉から取り出した。冷却後に該容器Aから取り出した断熱材ブロックは、上面に黒い焦げ目があり、側面及び底面は表面から10mm程度まで炭化しているが、中心部には未ゲル化部分が残る不良品であった。
比較例3
塩化ビニル系樹脂B:459g(53.2質量%)、可塑剤DOP:275g(31.9質量%)、安定剤:14g(1.6質量%)の混合物を加圧ニーダーによって180℃で予備混練したのち、ロール温度190℃、クリアランス2mmでロール加工し、次いでクリアランスを3mmに変更してガラスバルーンB:115g(13.3質量%)を添加し、5分間のロール加工を行ってシートを取り出した。このシートは、比重0.985、熱伝導率0.154W/m・kであり、その比重から配合したガラスバルーンBの約43%が割れていることが想定され、また熱伝導率が高く断熱材として適していないことが判った。なお、比重及び熱伝導率の測定は後記方法による。
比較例4
先行技術の特許文献4に開示される加熱装置に用いられる断熱材として、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、炭酸カルシウム等を含有するタイルカーペットの廃材を粉砕し、厚さ20mmの矩形板状に圧縮成形したものを用意した。
実施例1〜3で得られた断熱材ブロックならびに比較例4の断熱材から試料を採取し、比重、曲げ弾性率、曲げ降伏応力、25%歪み圧縮強度、50%歪み圧縮後の寸法復元率、吸水率、熱伝導率の各物性を測定した。その結果を後記表1に示す。なお、各物性の測定方法は次のとおりである。
〔比重〕・・・JISK7112Aに準じて測定した。
〔曲げ弾性率,曲げ降伏応力〕・・・ミネベア社製の引張圧縮試験機AL−50kNBを用い、ロードセル容量5kN、クロスヘッド速度5mm/分にて測定した。
〔25%歪み圧縮強度〕・・・上記と同じ引張圧縮試験機を用い、ロードセル容量5kN、クロスヘッド速度1mm/分にて25%歪みのときの圧縮応力を求めた。
〔50%歪み圧縮後の寸法復元率〕・・・上記と同じ引張圧縮試験機を用い、ロードセル容量5kN、クロスヘッド速度1mm/分にて50%歪みまで圧縮したのち、試料を取り出して30分後の厚さを測定し、元の厚さ対する復元率を算出した。
〔吸水率〕・・・JISK7209に準じ、試料を50℃のオーブン中で165時間乾燥したのち、23℃の蒸留水に浸漬し、23℃、50%RHの恒温室で24時間放置後の重量を測定し、吸水率を算出した。
〔熱伝導率〕・・・昭和電工社製の熱伝導測定装置Shortherm QTMを用い、JISR2251-1に従い、非定常熱線法で測定した。
表1で示すように、実施例1〜3の断熱材は、比重、曲げ弾性率、25%歪み圧縮強度、50%歪み圧縮後の寸法復元率がいずれも本発明の断熱材として適合し、熱伝導率が低く断熱性に優れる上、非吸水性である。これに対し、比較例4の断熱材は、高耐圧性であるが、比重が大きい上に柔軟性がないため、路面の融雪・凍結防止用としては、コンクリート舗装、コンポジット舗装、半たわみ舗装等に使用が限定され、路面舗装の95%以上を占めるアスファルト舗装には適用できず、また熱伝導率が高く断熱性に劣ることに加え、吸水性が大きいために吸水に伴う断熱性能の低下が免れないという難点がある。
なお、実施例2は、実施例1の断熱材と同等の柔軟性を確保しつつ耐圧性をより高める目的で、実施例1のガラスバルーンAよりも圧縮強度の高いガラスバルーンBを同じ体積%で用いている。その結果、得られた断熱材は、実施例1の断熱材に比較し、曲げ降伏応力は変わらないが、圧縮強度が約1.45倍に増大している。従って、ガラスバルーンとして圧縮強度の高いものを用いることで、柔軟性を低下させずに耐圧性を高め得るが、曲げ弾性率及び耐熱性は相対的に低下する。
また、実施例3は、実施例1の断熱材よりも柔軟性を高める目的で、可塑剤の配合量を実施例1の約1.2倍に増量し、他の配合成分を実施例1と同体積で用いている。その結果、得られた断熱材は、曲げ降伏応力が0.44MPaとなり、実施例1の断熱材よりも柔軟性が大幅に増大しているが、曲げ弾性率及び圧縮強度は低下している。
これら実施例1〜3から明らかなように、本発明の断熱材の諸特性は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と無機質中空微粒子の配合比率に加え、ガラスバルーンの如き無機質中空微粒子の種類(性状)によっても調整可能である。
次に、上記の断熱材を用いた融雪・凍結防止用の遠赤外線加熱装置の実施例について、比較例と対比して具体的に説明する。
実施例4
前記実施例1で得られた断熱材ブロックをスライス及び裁断することにより、幅130mm、長さ300mm、厚さ7mmの帯板状断熱材を作成した。そして、この帯板状断熱材の上面側に、熱伝導放射層用塗料をシルクスクリーン印刷(スクリーン網目80メッシュ)によって塗付・乾燥し、膜厚60μmの熱伝導放射層を形成すると共に、該断熱材の下面側に、不織布を基材としてセミブロンアスファルトを含浸させた厚さ2mmの粘着層を形成することにより、既述の図1(a)に示す遠赤外線放射ボード1Aを作製した。使用した熱伝導放射層用塗料は、市販のシルク印刷用塗料(セイコーアトバンス社製の商品名LOV(Z)710ブラック:ビニールアクリル樹脂37質量%、カーボンブラック8質量%、芳香族炭化水素溶剤26質量%、ケトン溶剤16質量%、イソホロン9質量%、添加剤4質量%よりなる)100質量部に対し、フライアッシュ(JIS A 6201、前出)5質量部と、炭素繊維(三菱樹脂社製:ダイアリードK233HM、前出)100質量部を配合したものである。
一方、図8(a)(b)に示すように、厚さ12mmの合板材81からなる箱枠の四周内壁面に、厚さ20mmの発泡断熱材82(カネカ社製の商品名カネライトフォーム・・・発泡ポリスチレン)を貼着し、内側空間が縦300mm、横400mm、高さ120mmである試験体容器8を製作した。そして、この試験体容器8内に、既述の道路基盤上に設ける平坦化処理層3aとしてモルタルを40mm厚に打設し、その上に前記の遠赤外線放射ボード1Aの2枚を、各々粘着層を介して幅方向中間点の距離が200mmとなる間隔で並列に接着固定し、PTC特性の発熱体2(200VAC、負荷容量55W/m、幅13.3mm、厚さ6.35mm、長さ300mm)を各遠赤外線放射ボード1A幅方向中央位置に接触状態で長手方向に沿って配設し、その両端部を固定金具21で固定し、その上に舗装4として、遠赤外線放射剤のフライアッシュを細骨材質量に対して7質量%の割合で配合したモルタルを86mm厚に打設し、加熱装置試験体を作製した。
実施例5
前記実施例4と同様の帯板状断熱材の上面側に、蓄熱層用塗料をシルクスクリーン印刷(スクリーン網目80メッシュ)によって塗付・乾燥し、膜厚60μmの蓄熱層を形成し、この蓄熱層上に実施例4と同様にして膜厚60μmの熱伝導放射層用を形成すると共に、該断熱材の下面側に実施例4と同様にして厚さ2mmの粘着層を形成することにより、既述の図1(b)に示す遠赤外線放射ボード1Bを作製した。使用した蓄熱層用塗料は、市販のシルク印刷用塗料(セイコーアトバンス社製の商品名LOV(Z)800メジューム:ビニールアクリル樹脂39質量部、芳香族炭化水素溶剤30質量%、ケトン溶剤17質量%、イソホロン11質量%、添加剤5質量%よりなる)100質量部に対し、フライアッシュ(JIS A 6201、前出)5質量部と、カプセル化蓄熱剤(三菱製紙社製:サーモメモリーHS、品番FP-9、嵩密度0.3g/cm3、融点9℃、融解熱量33Kcal/kg)33質量部を配合したものである。
次いで、実施例4と同様の試験体容器8内に、実施例4と同様にして、平坦化処理層3aの打設、前記の遠赤外線放射ボード1Bの2枚の接着固定、PTC特性の発熱体2の配設固定、舗装4としての遠赤外線放射剤を配合したモルタルの打設、を順次行って加熱装置試験体を作製した。
比較例5
幅130mm、長さ300mm、厚さ0.4mmの鋼板の表面に、遠赤外線放射塗料(オキツモ社製:高効率輻射塗料B-600、前出)を焼付け塗装して膜厚20μmの遠赤外線放射層を形成し、熱拡散放射板とした。そして、前記比較例4の断熱材をスライス及び裁断して得られた幅130mm、長さ300mm、厚さ8mmの帯板状断熱材の上面に、上記の熱拡散放射板を接着一体化して遠赤外線放射ボードを作製した。次いで、実施例4と同様の試験体容器8内に、実施例4と同様にして平坦化処理層3aを打設し、この平坦化処理層3a上に上記の遠赤外線放射ボードの2枚を実施例4と同様の配置間隔で配置し、各遠赤外線放射ボード上にPTC特性の発熱体2を実施例4と同様にして配設固定したのち、その上に試験体容器8の内側全体を覆うサイズで厚さ1mmの熱融着性の路内強化シート(遠赤外線放射剤粒子を20質量%含有するアスファルトをポリエステル系不織布に含浸させたもの)を密着状態に被せ、更に実施例4と同様にして舗装4としての遠赤外線放射剤を配合したモルタルを打設し、加熱装置試験体を作製した。
比較例6
図9(a)(b)に示すように、実施例4と同様の試験体容器8内に実施例4と同様にして平坦化処理層3aを打設したのち、この平坦化処理層3a上に直接に、2本のPTC特性の発熱体2を実施例4と同様間隔で並行配置し、その両端部を固定金具21で固定し、その上に舗装4として遠赤外線放射剤を含まないモルタルを86mm厚に打設し、従来型電熱式の加熱装置試験体を作製した。
〔加熱試験〕
上記実施例4,5及び比較例5,6で作製した加熱装置試験体を、それぞれ下からの冷却の影響を避けるために厚さ30mmの発泡断熱材83〔発泡断熱材82と同じ材料・・・図8(a),図9(a)参照〕を敷いた状態で恒温室に収容し、該恒温室をマイナス6℃に自動制御する設定として、発熱体2への通電を行って路面の加熱状況を調べた。通電はON:5分とOFF:5分の2分割通電制御方式とし、次の側定点A〜Cの路面温度を測定した。
側定点A・・・発熱体直上
側定点B・・・発熱体直上から50mm側方
側定点C・・・発熱体直上から100mm側方
上記加熱試験にて得られた、実施例5及び比較例5,6の加熱装置試験体における側定点A〜C毎の路面温度上昇特性を、図10(a)〜(c)に示す。これら図中、実5の測定曲線は実施例5、比5の測定曲線は比較例5、比6の測定曲線は比較例6、の各試験体にそれぞれ対応しており、各測定曲線の途中にある□印は、路面温度が1℃に達した時点を表している。なお、図10(a)〜(c)では、実施例4の加熱装置試験体の路面温度上昇特性の図示を省略している。
図11に、上記加熱試験おいて路面温度が1℃まで上昇するのに要した時間を、実施例4,5及び比較例5,6の各加熱装置試験体の側定点A〜C毎及び側定点A〜Cの平均として棒グラフで示す。また、図12に、上記加熱試験における通電開始4時間後の、実施例4,5及び比較例5,6の各加熱装置試験体の路面温度分布を示す。
図10及び図11より、実施例5の蓄熱層を有する遠赤外線放射ボード1Bを用いた遠赤外線加熱装置では、通電開始からの路面温度上昇速度が側定点A〜Cの平均で、比較例6の従来型電熱式の加熱装置に比較して4倍近くも速く、先行技術(特許文献4)に対応する比較例5の加熱装置に比較しても2倍以上に速くなっている。また、実施例4の蓄熱層のない遠赤外線放射ボード1Aを用いた遠赤外線加熱装置でも、同路面温度上昇速度が側定点A〜Cの平均で、比較例6の加熱装置の2.4倍程度、比較例5の加熱装置の1.4倍程度に達している。従って、本発明の遠赤外線加熱装置によれば、通電後の短時間で路面温度が上昇するから、降雪や急激な気温低下が発生した際に迅速に対応できる。
一方、図12より、通電開始から4時間後の路面温度は、実施例5の遠赤外線加熱装置では発熱体直上の側定点Aで3.7℃、発熱体直上から100mm側方つまり遠赤外線放射ボード1Bから外れた位置の側定点Cで1.0℃あり、実施例4の遠赤外線加熱装置でも側定点Aで1.5℃、側定点Cで0.6℃になっている。従って、本発明の遠赤外線加熱装置によれば、持続的に路面全体の高い融雪・凍結防止効果が得られることが明らかである。これに対し、比較例6の従来型電熱式の加熱装置では、同4時間後の路面温度が発熱体直上では0.3℃とかろうじて融雪・凍結防止効果が得られても、発熱体直上から50mm側方で−0.4℃、100mmの側方で−0.5℃と氷点下であり、路面全体にわたる融雪・凍結防止効果が得られないことが判る。また、比較例5の加熱装置でも、同4時間後の路面温度が発熱体直上で1.0℃であり、ほぼ満足な融雪・凍結防止効果が得られるが、遠赤外線放射ボード上から外れた側定点Cでは0.1℃に止まっているから、降雪度合や気温低下の程度によっては路面全体にわたる融雪・凍結防止効果を発揮できなくなる懸念がある。
更に、これら図10〜図12に示す加熱試験の結果から、本発明の融雪・凍結用の遠赤外線加熱装置を用いる場合、従来と同程度の融雪・凍結防止の条件を確保するだけなら、既述の分割通電制御により、受電容量(契約電力=電気料金)を実施例5の構成では1/3程度、実施例4の構成では1/2程度と大幅に減らし得ることが判る。また、既述のように、予熱自動運転制御を行う場合に、予熱温度の設定を従来の8℃から3〜4℃まで低くすることが可能であり、これによって予熱運転の無駄を大きく削減し、上記受電容量の減少と相俟って、ランニングコストを従来に比して格段に低減できることが明らかである。