以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1である電池システムについて、図1を用いて説明する。図1は、電池システムの構成を示す図である。
図1に示す電池システムは、車両に搭載される。車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車は、車両を走行させるための動力源として、組電池の他に、燃料電池や内燃機関等を備えた車両である。電気自動車は、車両の動力源として組電池だけを備えた車両である。
組電池10(蓄電装置に相当する)は、電気的に直列に接続された複数の単電池11(蓄電素子に相当する)を有する。組電池10を構成する単電池11の数は、組電池10の要求出力等に基づいて、適宜設定することができる。組電池10は、電気的に並列に接続された複数の単電池11を含んでいてもよい。
単電池11としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。また、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を用いることができる。
単電池11は、電池ケースを有しており、電池ケース内部に充放電を行う発電要素が収容されている。発電要素は、正極素子と、負極素子と、正極素子および負極素子の間に配置されるセパレータとを有する。正極素子は、集電板と、集電板の表面に形成された正極活物質層とを有する。負極素子は、集電板と、集電板の表面に形成された負極活物質層とを有する。セパレータ、正極活物質層および負極活物質層には、電解液が含まれている。なお、電解液の代わりに、固体電解質を用いることもできる。
組電池10の正極端子およびインバータ22は、正極ライン(ケーブル)を介して接続され、組電池10の負極端子およびインバータ22は、負極ライン(ケーブル)を介して接続されている。正極ラインには、システムメインリレー21aが設けられており、負極ラインには、システムメインリレー21bが設けられている。インバータ22は、組電池10から供給された直流電力を交流電力に変換する。
インバータ22には、モータ・ジェネレータ23(交流モータ)が接続されており、モータ・ジェネレータ23は、インバータ22から供給された交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ23は、不図示の車輪と接続されている。なお、ハイブリッド自動車では、モータ・ジェネレータ23に接続される車輪が、エンジン等の内燃機関にも接続されている。
車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ23は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。インバータ22は、モータ・ジェネレータ23が生成した交流電力を直流電力に変換して、組電池10に供給する。これにより、組電池10は、回生電力を蓄えることができる。ハイブリッド自動車では、回生電力の加え、エンジン等の内燃機関によりモータ・ジェネレータ23を駆動させて電気エネルギを組電池10に蓄えることができる。
なお、本実施例の組電池10は、インバータ22に直接接続されているが、これに限るものではない。具体的には、組電池10とインバータ22との間の電流経路に、昇圧回路を配置することができる。これにより、昇圧回路は、組電池10の出力電圧を昇圧し、昇圧後の電力をインバータ22に供給することができる。また、昇圧回路は、インバータ22の出力電圧を降圧し、降圧後の電力を組電池10に供給することができる。
組電池10の電流経路上には、電流センサ24が設けられている。電流センサ24は、組電池10に流れる充放電電流を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。電流センサ24によって検出された電流値に関して、放電電流を正の値とし、充電電流を負の値とすることができる。また、電流センサ24は、後述する充電器27を介して外部電源から供給される充電電流を検出することもできる。
温度センサ25は、組電池10の温度を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。温度センサ25の数は、適宜設定することができる。複数の温度センサ25を用いるときには、複数の温度センサ25によって検出された温度の平均値を組電池10の温度として用いたり、特定の温度センサ25によって検出された温度を組電池10の温度として用いたりすることができる。
電圧センサ26は、組電池10の電圧を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。本実施例では、組電池10の端子間電圧を検出しているが、これに限るものではない。例えば、組電池10を構成する複数の単電池11それぞれの電圧を個別に検出することができる。また、組電池10を構成する複数の単電池11を複数のブロックに分け、各ブロックの電圧を検出することができる。
充電器27は、外部電源からの電力を組電池10に供給する。これにより、組電池10を充電することができる。充電器27は、充電リレー28a,28bを介して、組電池10に接続されている。充電リレー28a,28bがオンであるとき、外部電源からの電力を組電池10に供給することができる。充電リレー28a,28bのオンとオフとの間の切替制御は、コントローラ30によって行われる。
外部電源とは、車両の外部に設けられた電源であり、外部電源としては、例えば、商用電源がある。外部電源が交流電力を供給するとき、充電器27は、交流電力を直流電力に変換して、直流電力を組電池10に供給する。一方、外部電源が直流電力を供給するときには、外部電源からの直流電力を組電池10に供給するだけでよい。本実施例では、外部電源の電力を組電池10に供給できるようにしているが、外部電源の電力を組電池10に供給できなくてもよい。
コントローラ30は、システムメインリレー21a,21b、インバータ22、及びモータ・ジェネレータ23の動作を制御する制御装置であり、組電池10の充放電制御を行う。コントローラ30は、各種の情報を記憶するメモリ33を有しており、メモリ33には、コントローラ30を動作させるためのプログラムも記憶されている。本実施例では、コントローラ30がメモリ33を内蔵しているが、コントローラ30の外部にメモリ33を設けることができる。
コントローラ30は、車両のイグニッションスイッチがオフからオンに切り替わると、システムメインリレー21a,21bをオフからオンに切り替えたり、インバータ22を動作させたりする。また、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わると、システムメインリレー21a,21bをオンからオフに切り替えたり、インバータ22の動作を停止させたりする。
また、本実施例のコントローラ30は、車両の走行速度を検出する車速センサ40と接続されている。車速センサ40は、検出した車両の速度をコントローラ30に出力する。例えば、車速センサ40は、車輪の回転数やモータ・ジェネレータの回転数等から車両速度を算出・検出することができる。
コントローラ30は、電圧センサ26の組電池10の電圧検出値に基づいて、組電池10のSOCを算出し、算出されたSOCに基づいて組電池10の充放電制御を行うことができる。このとき、コントローラ30は、例えば、組電池10の劣化を抑制するためにSOCが予め規定された上限値および下限値を越えないように、モータ・ジェネレータ23への出力及びモータ・ジェネレータ23による回生電力の充放電制御を行うことができる。
組電池10のSOCは、組電池10の満充電容量に対して現在の充電容量の割合(充電状態)を示すものであり、満充電容量はSOCの上限値である。SOCは、組電池10のOCV(Open Circuit Voltage)から特定することができ、SOC及びOCVは対応関係にある。このため、予め求められたOCVとSOCとの対応関係をメモリ33にマップとして保持しておき、電圧センサ26の電圧検出値に基づいてSOCを特定することができる。組電池10のOCVは、電圧センサ26によって検出される組電池10の電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)から算出することができる。
また、コントローラ30は、組電池10の温度やSOCなどに基づいて、充電電力制限値(組電池10に充電される電力の最大値)W_inおよび放電電力制限値(組電池10から放電される電力の最大値)W_outを算出する。コントローラ30は、充電電力制限値W_inおよび放電電力制限値W_outを越えないように、組電池10の充放電電力を制限する。これにより、組電池10の過放電や過充電が防止され、組電池10が保護される。
本実施例において、組電池10に電流が流れる際には、電池システムを構成する組電池10に電気的に接続される通電部品(たとえば、サービスプラグ、組電池10の正負極の各電極端子、システムメインリレー、組電池10、システムメインリレー21a,21b、インバータ22をそれぞれ接続する接続ライン等のワイヤハーネス、ヒューズなど)にも電流が流れ、これらの通電部品にジュール熱が発生する。そのため、通電部品の温度が上昇して許容温度を越えると、通電部品が正常に機能しなくなるおそれがある。
そこで、本実施例では、電池システムの作動時間において検出される組電池10の電流値Iに基づいて、これらの通電部品の温度状態に関する評価値Fを算出し、算出された評価値Fに基づいて、充電電力制限値W_inおよび放電電力制限値W_outを変更する。
図1に示すように、コントローラ30は、評価値算出部31及びW_in/W_out変更部32を含んで構成されている。
評価値算出部31は、通電部品の温度状態(温度上昇)の評価に用いられる値である評価値Fを算出する。評価値算出部31は、組電池10の電流値Iおよびメモリ33に記憶された評価値(先回算出された評価値)に基づいて、評価値Fを算出する。
W_in/W_out変更部32は、評価値算出部31で算出された評価値Fに基づいて、充電電力制限値W_inおよび放電電力制限値W_outを変更し、変更されたW_inおよびW_outで組電池10の電力を制限するように、インバータ22を制御する。
なお、評価値算出部31及びW_in/W_out変更部32を有する本実施例のコントローラ30は、デジタル回路やアナログ回路を主体としたハードウェアで構成することができる。また、コントローラ30に含まれるCPUがメモリ33に記憶されている所定のプログラムを読み込んで実行するソフトウェアで構成することもできる。
ここで、本実施例の評価値Fの算出方法と、算出された評価値Fを用いた充電電力制限値W_inおよび放電電力制限値W_outの算出方法について詳細に説明する。
コントローラ30は、通電部品の温度に相関するように、通電部品の温度が高いほど評価値F(N)を大きく設定する。また、コントローラ30は、通電部品の温度に相関するように、検出された組電池10の電流値Iに基づいて、評価値F(N)を算出する。例えば、評価値F(N)は以下の式1で表される関数で算出することができる。
(式1)
式1において、Nは、評価値Fの算出回数を示す。先回算出された評価値F(N−1)が存在しない場合は、評価値Fの初期値を用いることができる。ここで、なまし係数Kは、1以上の定数であって、通電部品の温度の変化に応じて予め設定される値である。なお、評価値F(N)の算出方法はこれに限定されない。例えば、通電時間を考慮して、通電時間と電流値Iとに基づいて評価値Fを算出するようにしてもよい。
また、本実施例の評価値Fを算出するためのなまし係数Kの値は、図7に示すKmin又はKrmaxで固定された値を用いることができるが、組電池10の電流値Iの時間平均値(電流平均値:I_ave)と評価値Fの増減に応じて可変にすることができる。
例えば、コントローラ30は、先々回算出された評価値F(N−2)および先回算出された評価値F(N−1)をメモリ33から読み出し、F(N−2)よりもF(N−1)が大きい場合に、評価値Fが増加していると判断することができる。評価値Fが増加していると判別された場合、コントローラ30は、図7に示すKrマップを参照して、係数Kを算出する。図7に示すKrマップは、電流平均値I_aveをパラメータとしてなまし係数Kを規定したものである。
実際の通電部品の温度は、電流平均値I_aveが高い領域で急激に増加し、電流平均値I_aveが低い領域では急激には増加しない特性を有する。この特性を評価値Fに反映させるために、図7に示すKrマップにおいて係数Kは、電流平均値I_aveが高い領域で小さい値、言い換えれば、評価値Fの単位時間あたりの増加量を大きくする値に設定され、電流平均値I_aveが低い領域で大きい値、言い換えれば、評価値Fの単位時間あたりの増加量を小さくする値に設定される。
具体的には、係数Kは、電流平均値I_aveがI_ave(2)よりも高い領域では最小値Kminに設定され、電流平均値I_aveがI_ave(2)よりも低下すると徐々に増加し、電流平均値_IaveがI_ave(1)よりも低い領域では最大値Krmaxに設定される。
ここで、図7に示すKrマップの設定手法の一例について説明する。上記式1において、I(N−1)は、評価値F(N−1)算出時の組電池10の電流値Iである。そして、上記式1に示す式を、電流値Iを一定値I_BOとして変形すると、下記の式2となる。
評価値F(N)が制限値I_Bconst
2を超えないように制限するための係数Kは、電流値Iを一定値I_BOとしたとき、上記式2に示す式を変形して下記式3に示す式で算出される。なお、制限値I_Bconst
2は、通電部品の許容温度などに基づいて予め設定された値であり、I_Bconstは、通電部品の通電電流許容値である。
(式3)
Krマップは、上記式3に示す式の一定値I_BOを電流平均値I_aveに置き換えて係数Kを算出した値に設定される。
一方、コントローラ30は、先々回算出された評価値F(N−2)および先回算出された評価値F(N−1)をメモリ33から読み出し、F(N−2)よりもF(N−1)が小さい場合に、評価値Fが減少していると判断することができる。評価値Fが減少していると判別された場合、コントローラ30は、図7に示すKfマップを参照して、係数Kを算出する。図7に示すKfマップも、Krマップ同様、電流平均値I_aveをパラメータとして係数Kを規定したものである。
図7に示すKfマップにおいて、係数Kは、電流平均値I_aveがI_ave(2)よりも高い領域ではKrマップと同じ最小値Kminに設定され、電流平均値I_aveがI_ave(2)よりも低下すると徐々に増加し、電流平均値I_aveがI_ave(1)よりも低い領域では最大値Kfmaxに設定される。Kfマップの最大値Kfmaxは、Krマップの最大値Krmaxよりも低い値に設定される。
上述したように、評価値F(N)は上記式1に示す式で算出することができ、なまし係数Kの値が小さいほど、評価値F(N)の単位時間あたりの増加量は大きくなる。つまり、なまし係数Kを最小値Kminで固定した場合、評価値F(N)の単位時間あたりの増加量が大きい値に維持されてしまうので、評価値F(N)が早期に閾値を超え、組電池10のW_in/W_outが不必要に制限されてしまう。
一方、係数Kを最大値Krmaxで固定した場合、評価値F(N)の単位時間あたりの増加量が小さい値に維持されてしまうので、通電部品の温度が許容温度を超えているにも関わらず、評価値F(N)が閾値に到達せずに組電池10のW_in/W_outを適切に制限することができず、通電部品を保護することができない。
このように、本実施例では、評価値F(N)の算出に用いられるなまし係数Kの値を、図7のマップに示したように、電流平均値I_aveに応じた可変値とすることで、評価値F(N)の単位時間あたりの増加量が電流平均値I_aveに応じて適切に調整できる。このため、係数Kを最小値Kminで固定した場合に比べて、W_in/W_outが制限されるまでの時間(評価値F(N)が閾値を超えるまでの時間)が長期化される一方で、なまし係数Kを最大値Krmaxで固定した場合に比べて、通電部品の実際の温度上昇を適切に把握でき、組電池10のW_in/W_outを適切に制限して、通電部品を保護することができる。
すなわち、電流平均値I_aveが高い領域では、通電部品の温度が急激に増加することを考慮して、係数Kを小さくして評価値Fの単位時間あたりの増加量を大きくする。一方、電流平均値I_aveが低い領域では、通電部品の温度が急激には増加しないことを考慮して、係数Kを大きくして評価値Fの単位時間あたりの増加量を小さくする。
したがって、評価値Fの単位時間あたりの増加量および減少量を、実際の通電部品の温度の単位時間あたりの増加量および減少量に適切に適合させることができ、その結果、評価値Fを実際の通電部品の温度に適切に近似させることができる。
本実施例の評価値Fの算出方法は、通電部品の温度状態の評価に用いられる評価値Fの算出のためのなまし係数Kの値を、組電池10の電流平均値I_aveおよび評価値Fの増減に応じて変更することで、評価値Fを実際の通電部品の温度上昇の変化を的確に捉えられるようにし、通電部品を適切に保護しつつ、組電池10のW_in/W_out(充放電電力)が不必要に制限されることを回避し、車両の動力性能の低下を抑制することができる。
次に、上述した評価値Fを用いた充電電力制限値W_inおよび放電電力制限値W_outの算出方法について説明する。
本実施例では、評価値Fが閾値Ftagを超えた時点でW_in/W_outの制限が開始され、充電電力制限値W_inおよび放電電力制限値W_outを、評価値Fをパラメータとしたフュードバック制御によって算出する。なお、本実施例では、W_inとW_outの各制限において異なる閾値Ftagで制御し、W_in制限開始用の閾値Ftag2とW_out制限開始用の閾値Ftag1とを用いている。閾値Ftagは、I_Bconst(通電電流許容値)に対応する閾値I_Bconst2よりも小さい値である。
評価値Fが閾値Ftagを超えた場合のW_in/W_outの各値は、下記の式4−1、式4−2に示すように算出することができる。
(式4−1)
(式4−2)
式4−1において、SW_inは、上述した組電池10のSOCと電池温度に基づいて算出されるW_inであり、K_in×(F−Ftag2)は、評価値Fをパラメータとしたフュードバック制御による補正項である。上述したように充電電流は負の値で表されているので、充電電力も負の値で表すことができ、SW_inに対して正の値である補正項K_in×(F−Ftag2)が加算されるので、W_inは、SW_inよりも大きい値(絶対値としては小さい値)となる。
式4−2において、SW_outは、上述した組電池10のSOCと電池温度に基づいて算出されるW_outであり、K_out×(F−Ftag1)は、評価値Fをパラメータとしたフュードバック制御による補正項である。また、上述したように放電電流は正の値で表されているので、放電電力も正の値で表すことができ、SW_outに対して正の値である補正項K_out×(F−Ftag1)が減算されるので、W_outは、SW_outよりも小さい値となる。
K_in、K_outは係数であり、評価値Fをパラメータとしたフュードバック制御の補正項の比例制御値であり、W_in/W_outを算出するためのフィードバックゲインである。
このように、W_in/W_outの低下量を、評価値Fの値をパラメータとしてフュードバック制御(SW_in/SW_outに対し、評価値Fをパラメータとした補正項を適用した制御)をすることで、通電部品の温度が許容温度を超えることを抑制しつつ、充放電電力の制限量を最小限に抑えることができる。
ここで、図8は、K_outを一定値とした場合の評価値Fをパラメータとした式4−2に基づいて算出されるW_outの関係を示した図である。
図8において、時間taで評価値Fが閾値Ftagを超え、式4−2に基づいて算出されるW_outを上限値として組電池10の放電電力が制限される。このとき、評価値Fが閾値Ftagを超えて制限が開始される際のW_outの制限量、すなわち、制限前のSW_outに対するW_outの低下量H1は、最大となる(時間taから時間tbの間のW_outの傾き(制限レート)が最大となる)。
また、時間tcの時点では、時間taから開始された放電電力の制限により、評価値Fは飽和傾向となり、評価値Fの増加が抑制される。このとき、制限開始から所定時間経過後のW_outの低下量H2は、評価値Fが閾値Ftagを超えて制限が開始される際のW_outの低下量H1よりも小さくなる(時間tbから時間tcの間の傾き(制限レート)が、時間taから時間tbの間のW_outの傾き(制限レート)よりも小さくなる)。
つまり、K_outを一定値とした場合、評価値Fをパラメータとした式4−2に基づいて算出されるW_outは、図8に示すように制限開始直後(評価値FがFtagを超えた際)が最も大きくなるが、W_outの制限が開始された後は低下量が小さくなり、時間tbから時間tcの間では、飽和傾向にある評価値Fの変化に対してW_outの低下量が低く抑えられている。
このように、K_outを一定値とした場合、時間tbから時間tcの間では、W_outの制限レートが、制限開始直後の最も大きい制限レートよりも低くなり、余裕がある。なお、制限レートの上限値(式4−1、式4−2の補正項の変化量の上限値)は、ドライバビリティを考慮して予め設定された値であり、制限レートの上限値が大きいほど、急激にW_in/W_outが制限されてしまうので、車両要求に対して過度の動力性能が低下しないようにしつつ通電部品の温度上昇を適切に抑制できるように予め設定される。
一方で、評価値Fが閾値Ftagを超えたことによってW_in/W_outが制限されている状態は、例えば、車両要求に対する組電池10の出力が不足すると、車両要求に見合った動力性能を発揮させることができず、ドライバビリティが低下する。また、ハイブリッド車両ではエンジンを始動して不足分の出力を補うため、燃費が低下する。このため、W_in/W_outの低下量が不必要に大きくならないようにしても、W_in/W_outの制限が介入ことは、極力避けることが好ましく、通電部品の温度上昇を適切に抑制するにしてもW_in/W_outの制限が介入するタイミングを、極力を遅らせることが好ましい。
このため、通電部品に対する保護閾値(I_Bconst2)を超えないように制御しつつ、W_in/W_outの制限が介入する機会を減少させるためには、閾値Ftagの値を大きくする必要がある。しかしながら、図8の例のように、K_in、K_outが固定値だと、式4−1、式4−2から分かるようにW_in/W_outの低下量と評価値Fの増加量とが単純な比例関係になってしまうため、W_outの制限レートは、制限開始直後が最も大きくなり、その後は制限が開始されたことにより評価値Fの増加傾向が抑制されるので制限レートを大きくすることができない。
言い換えれば、評価値Fの増加に応じて制限レートが高くなるので、制限介入後は、制限開始直後の最も大きい制限レートよりも低い制限レートでしかW_in/W_outを制御できない。このため、閾値Ftagの値を大きくすると、評価値Fをパラメータとする制限レートの上限値をより高くしなければ、通電部品に対する保護閾値を超えないように制御することができないため、ドライバビリティが低下してしまう。
そこで、本実施例では、K_in、K_outの値を単純な比例定数とせずに、評価値Fの単位時間当たりの変化量(dF/dt)と車両の速度Vsとに応じて可変値とすることで、ドライバビリティが考慮された所定の制限レートの上限値内で通電部品を適切に保護しつつ、W_in/W_outの制限が介入するタイミングを遅らせる。
具体的には、図2(a)に示すように本実施例のK_in、K_outは、評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)が大きい領域では、小さい値に設定され、評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)が小さい領域では、大きい値に設定される。つまり、評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)に応じて可変にするとともに、W_in/W_outの制限が開始された後の評価値Fが飽和傾向に近づくにつれて(評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)が小さくなるにつれて)、K_in、K_outが大きくなるので、制限開始閾値であるFtagを大きい値に設定しても、ドライバビリティが考慮された所定の制限レートの上限値を維持しつつ、制限開始直後よりも制限が開始された後の評価値Fの増加傾向が抑制される状態での制限レートを大きくすることができる。
図3は、本実施例のK_in、K_outが適用された評価値FとW_outとの関係を示す図である。閾値FtagAは、K_in、K_outが固定値である場合の制限開始閾値であり、そのW_outを二点鎖線で示している。
図3に示すように評価値Fが閾値Ftagを超えて制限が開始された直後は、評価値Fの変化量dF1/dtが大きいため、K_in1、K_out1が小さくなり、W_in、W_outの低下量が低く抑えられる一方で、制限が介入したことで増加傾向が抑制されている評価値Fの変化量dF2/dtは、dF1/dtよりも小さいため、K_in2、K_out2がより大きな値になり、W_in、W_outを大きく制限する。
図3において、K_in、K_outが固定値である場合の二点鎖線で示したW_outと比較して、制限開始後の同じ時点でのW_outの低下量は、制限開始直後では小さくなり(H1>H3)、制限が開始された後の評価値Fの増加傾向が緩和されるについて大きくなる(H2<H4)。
このため、K_in、K_outが固定値である場合のFtagAよりも大きいFtagを制限開始閾値としても、ドライバビリティが考慮された所定の制限レートの上限値を維持しつつ、通電部品の温度上昇を適切に抑制でき、W_in/W_outが制限されるタイミングを遅らせることができる。
また、本実施例のK_in、K_outは、図2(b)に示すように評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)に加えて、車両の速度(車速)Vsに応じて可変に設定される。図2(c)は、評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)と車速Vsとで規定されたK_in、K_outマップの一例である。K_in、K_outマップは、メモリ33に記憶することができる。
同じdF/dtでも車速Vsが高い領域では、K_in、K_outが大きく設定され、車速Vsが低い領域では、K_in、K_outが小さくなるように設定される。これは、車速Vsが大きいと、通電部品に通電される放電電流又は回生電流の電流値が大きく、通電機器の発熱量が高くなる傾向にあるため、車速Vsが大きい領域では、K_in、K_outを大きくしてW_in/W_outをより制限して通電部品の保護を図るためである。なお、本実施例では、車速Vsを考慮して制限量を変更している。例えば、車速Vsが高い領域においてW_in/W_outの制限に対する動作性能の低下は、車速Vsが低い場合に比べて、ユーザが急な動力性能の低下として認識し難い傾向にあるので、車速Vsが高い領域で制限量を大きくし、車両要求に対する動力性能の低下に対するユーザの認識を抑制しつつ、通電部品の保護を図ることができる。
一方、車速Vsが小さいと、通電部品に通電される放電電流又は回生電流の電流値が小さく、車速Vsが大きい場合に比べて通電機器の発熱量(温度上昇)は抑制される傾向になるため、車速Vsが小さい領域では、K_in、K_outを小さくすることでW_in/W_outの制限が緩和され、W_in/W_outの制限による車両要求に対する動力性能の低下を抑制させることができる。
なお、K_in、K_outが固定値である場合の閾値FtagAよりも大きい値の本実施例の閾値Ftagは、固定値せずに可変値とすることもできる。例えば、図2(d)に示すように、車速Vsに対して閾値Ftag(Ftag1,Ftag2)を可変とするマップ情報をメモリ33に保持しておき、車速Vsが高くなるにつれて値を大きくするように、閾値Ftagを可変に適用することができる。
つまり、本実施例では、車速Vsが高いと、K_in,K_outが大きく設定され、W_in/W_outが大きく制限されることになるので、通電部品の温度上昇に対するW_in/W_outの制限フィードバックが大きく(早く)作用することになる。このため、閾値Ftagを車速Vsが高くなるにつれて可変的に値を大きくすることで、車速が低い場合よりも大きく設定されるK_in,K_outによって通電部品が適切に保護されつつ、W_in/W_outの制限が介入するタイミングを遅らせることができる。なお、可変値として適用される場合の閾値Ftagは、例えば、図2(d)に示すように、温度上昇に対する通電部品の保護の観点から予め決められた上限値及び下限値の範囲内とすることができる。このとき、下限値は、K_in、K_outが固定値である場合の閾値FtagAよりも大きい値とすることができる。
図4は、評価値F、W_in/W_out及び通電部品の温度の関係を示す図である。実線は、図2(c)に示したK_in、K_outマップに基づいて、評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)と車両の速度(Vs)に応じたK_in、K_outが可変的に適用されたものであり、点線がK_in、K_outが固定値である場合の挙動を示している。
図4に示すように、W_inの制限開始閾値Ftag2が、K_inが固定された場合の制限開始閾値Ftag2aよりも大きく設定され、制限が開始される時間を時間t1から時間t3に遅延させつつ、ドライバビリティを考慮した所定の制限レートを維持した通電部品の保護を実現できる。時間t5において、K_in、K_outマップによる可変値であってもK_inが固定される場合と同様、W_inの制限量はほぼ同じであり、評価値Fに基づいて通電部品の温度上昇が抑制されている。
また、W_outにおいても、W_outの制限開始閾値Ftag1が、K_outが固定された場合の制限開始閾値Ftag1aよりも大きく設定され、制限が開始される時間を時間t2から時間t4に遅延させつつ、ドライバビリティを考慮した所定の制限レートを上限値として維持した通電部品の保護を実現できる。
ここで、評価値Fの単位時間あたりの変化量(dF/dt)は、以下の式5のように求めることができる。
(式5)
βは、評価値Fの単位時間あたりの変化量を算出するためのなまし定数(β>0)、(dF/dt)nは、所定時間間隔で算出された前回の評価値Fと今回の評価値Fとの間の変化量である。(dF/dt)ave(n)の初期値は0である。式5のように求められるdF/dtは、dF/dt間の変動により、K_in、K_outが大きく変動することを抑制することができる。
また、K_in、K_out、Ftag1、及びFtag2は、以下のように算出することができる。例えば、ドライバビリティを考慮した所定の制限レートA(W/sec)を予め決めておく。この予め決められた制限レートAを維持するには、d(W_in)/dt=K_in×(dF/dt)=Aとなるので、(dF/dt)=Max(最大)となるK_inを算出する。K_inが算出されれば、式4−1より、Ftag2を算出することができる。
そして、(dF/dt)ave(n)が小さい領域では、K_inを大きくし、制限レートAを守りながら、通電電流許容値(I_Bconst)を超過しないようにW_inが制限されるK_inを設定することができる。
同様に、この予め決められた制限レートAを維持するには、d(W_out)/dt=−K_out×(dF/dt)=Aとなるので、(dF/dt)=Max(最大)となるK_outを算出する。K_outが算出されれば、式4−2より、Ftag1を算出することができる。(dF/dt)ave(n)が小さい領域では、K_outを大きくし、制限レートA内での制限レートを守りながら、通電電流許容値(I_Bconst)を超過しないようにW_outが制限されるK_outを設定することができる。
次に、図5及び図6に示すフローチャートを用いて、組電池10の充放電を制御する処理について説明する。図5及び図6に示す処理は、予め設定された時間間隔(サイクルタイム)で繰り返して行われる。図5及び図6に示す処理は、コントローラ30に含まれるCPUが、メモリ33に記憶されたプログラムを実行することにより行われる。
ステップS101において、コントローラ30は、イグニッションスイッチがONされると、電池システムを起動し、組電池10の充放電制御を開始する。
ステップS102において、コントローラ30は、電流センサ24の出力信号に基づいて、放電電流又は充電電流の電流値Iを取得する。
ステップS103において、コントローラ30は、ステップS102で得られた電流値Iに基づいて、評価値Fを算出する。コントローラ30は、メモリ33に記憶されている図7に示した評価値Fを算出するためのなまし係数Kを算出し、式1に基づいて評価値Fを算出することができる。評価値Fの算出過程について上記説明をもって省略する。
ステップ104において、コントローラ30は、所定の時間間隔で評価値Fの単位時間あたりの変化量dF/dtを算出する。コントローラ30は、ステップS103での評価値Fの算出処理の算出結果に基づいて、式5に示した算出方法により変化量dF/dtを算出することができる。
コントローラ30は、ステップS103で算出された評価値Fが閾値Ftag2を超えているか否かを判別し(S105)、超えている場合は、ステップS106に進み、W_inの制限を開始してW_inをSW_inよりも低く変更する。超えていない場合は、ステップS106をスキップしてW_inの制限を開始しない。
続いて、ステップS105において、ステップS103で算出された評価値Fが閾値Ftag2を超えていないと判別された場合やW_inの制限を開始した後、コントローラ30は、ステップS103で算出された評価値Fが閾値Ftag1を超えているか否かを判別し(S107)、超えている場合は、ステップS108に進み、W_outの制限を開始してW_outをSW_outよりも低く変更する。
図6は、図5のステップS106,S108の詳細な処理を示すフローチャートである。図6に示すように、評価値Fが閾値Ftag2(Ftag1)を超えた場合、コントローラ30は、車速センサ40から組電池10が搭載された車両の車速Vsを取得する(S301)。
コントローラ30は、メモリ33に記憶されている図2(c)で示したK_in、K_outマップを参照し、ステップS104で算出された変化量dF/dtと車速Vsをパラメータに、K_in又は/及びK_outを算出する(S302)。またコントローラ30は、評価値Fによる制限開始前の組電池10のSOCと電池温度に基づいて設定される入出力制限値SW_in/SW_outを取得する(S303)。
コントローラ30は、式4−1、式4−2を用い、入出力制限値SW_in/SW_out、算出されたK_in又は/及びK_out、Ftag1又は/及びFtag2を用いて、制限後のW_in/W_outを求め(S304)、算出されたW_in/W_outを組電池10の入出力制限値として設定して(S305)、評価値Fによる通電部品保護の観点から、保護温度を超えた異常検出温度とならないように温度上昇を抑制するために、W_in/W_outを変更する。
本実施例によれば、評価値Fの単位時間あたりの変化量dF/dtに応じて可変的にW_in/W_outの上限値の制限量を変更するので、放電電力又は充電電力の上限値の制限を開始する閾値Ftagを高く設定しても、通電部品の温度上昇を適切に抑制することができる。このため、閾値Ftagを高く設定することが可能となり、放電電力又は充電電力が制限されるタイミングを遅らせることができる。また、車速Vsから把握される通電機器の発熱量の傾向に応じて上限値の制限量を変更するので、車両要求に対する動力性能の低下を抑制することができる。
なお、本実施例では、W_in/W_outの両者の各上限値の制限量を変更する態様について説明したが、これに限るものではなく、W_in/W_outの両者のいずれか一方の上限値の制限量を変更することもできる。
また、本実施例の充放電制御は、外部充電時にも適用することができる。この場合、車両が停止しているので、車速は0となる。したがって、K_outマップにおいて車速Vsが最も低い場合のK_inを用いて、式4−1に基づくW_inの算出処理を行うことができる。外部充電時にも充電電力に応じた温度上昇を抑制して通電部品の保護を図りながら、W_inが制限されるタイミングを遅らせて外部充電の充電時間を短縮することができる。