以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
図1を参照して、本実施の形態によるハイブリッド車両20は、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26と、3軸式の動力分割機構30と、メインバッテリ50とを備える。クランクシャフト26は、トーショナルダンパ28を介して、動力分割機構30に連結される。
ハイブリッド車両20は、さらに、モータジェネレータMG1,MG2(以下、単に、MG1,MG2と称する)と、変速機60と、ハイブリッド車両20の駆動系全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」とも称する)70とを備える。
MG2は、変速機60を介して動力分割機構30に連結される。MG1,MG2の各々は、正トルクおよび負トルクの両方を出力可能であり、電動機として駆動できるとともに発電機としても駆動することができる。
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する「内燃機関」である。エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」とも称する)24は、クランク角センサ23からのクランクシャフト26のクランク角度等、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力される。
エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からエンジン22の制御指令を受ける。エンジンECU24は、各種センサからの信号に基づくエンジン22の運転状態に基づいて、HVECU70からの制御指令に従ってエンジン22が作動するように、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量制御などのエンジン制御を実行する。さらに、エンジンECU24は、必要に応じて、エンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。
動力分割機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合するとともにリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、キャリア34とを含む。キャリア34は、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するように構成される。動力分割機構30は、サンギヤ31、リングギヤ32、およびキャリア34を回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。
キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が連結され、サンギヤ31には、サンギヤ軸31aを介してMG1の出力軸が連結される。「駆動軸」としてのリングギヤ軸32aは、リングギヤ32の回転に伴って回転する。リングギヤ軸32aには、変速機60を介してMG2の出力軸が連結される。以下では、リングギヤ軸32aを、駆動軸32aとも称する。
駆動軸32aは、ギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して駆動輪39a,39bに機械的に連結されている。したがって、動力分割機構30によりリングギヤ32、すなわち、駆動軸32aに出力された動力は、ギヤ機構37,デファレンシャルギヤ38を介して駆動輪39a,39bに出力されることになる。
このように、動力分割機構30は「差動装置」に対応する。また、キャリア34は「第1の回転要素」に対応し、サンギヤ31は「第2の回転要素」に対応し、リングギヤ32は「第3の回転要素」に対応する。
変速機60は、MG2の出力軸48と駆動軸32aとの間に所定の減速比Grを与えるように構成される。変速機60は、代表的には、遊星歯車機構により構成される。変速機60は、外歯歯車のサンギヤ65と、このサンギヤ65と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ66と、サンギヤ65に噛合するとともにリングギヤ66に噛合する複数のピニオンギヤ67とを含む。プラネタリキャリアは、ケース61に固定されるので、複数のピニオンギヤ67は、公転することなく、自転のみを行なう。すなわち、サンギヤ65およびリングギヤ66の回転速度の比(減速比)が固定される。
なお、変速機60の構成は図1の例に限定されるものではない。また、変速機60を介することなく、MG2の出力軸およびリングギヤ軸(駆動軸)32aが連結される構成としてもよい。
MG1が発電機として機能するときには、キャリア34から入力されるエンジン22からの動力が、サンギヤ31側およびリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配される。一方、MG1が電動機として機能するときには、キャリア34から入力されるエンジン22からの動力と、サンギヤ31から入力されるMG1からの動力とが統合されて、リングギヤ32に出力される。
MG1,MG2は、代表的には、三相の永久磁石型同期電動機により構成される。MG1,MG2は、コンバータ40およびインバータ41,42を介して,メインバッテリ50との間で電力のやりとりを行なう。インバータ41,42の各々は、複数個のスイッチング素子を有する一般的な三相インバータによって構成される。
メインバッテリ50は、「主蓄電装置」の代表例として示される。メインバッテリ50には、代表的には、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池が適用される。ただし、メインバッテリ50に代えて、電気二重層キャパシタ等の他の蓄電装置、あるいは、二次電池と他の蓄電装置とを組み合わせたものを用いてもよい。たとえば、メインバッテリ50の出力電圧は、200V程度である。
メインバッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」とも称する)52によって管理されている。バッテリECU52には、メインバッテリ50を管理するのに必要な信号が入力される。たとえば、メインバッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、図示しない電流センサからのメインバッテリ50の充放電電流,メインバッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが、バッテリECU52に入力される。バッテリECU52は、必要に応じて、メインバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に出力する。なお、バッテリECU52では、メインバッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC:State of Charge)も演算している。
メインバッテリ50と、SMR(System Main Relay)55と、コンバータ40と、インバータ41,42とによって、ハイブリッド車両20の電気システム(電源システム)が構成される。SMR55は、メインバッテリ50とコンバータ40との間に配置される。
図2は、図1に示したMG1,MG2を駆動制御するための電気システムの回路図である。
図2を参照して、メインバッテリ50は、SMR55を介して電力線56に接続される。電力線56には、コンデンサC1が接続される。
SMR55がオフ状態であると、メインバッテリ50は電気システムから切離される。SMR55がオン状態であると、メインバッテリ50が電気システムに接続される。SMR55は、HVECU70からの制御信号に応答してオンオフされる。たとえば、イグニッションスイッチ90がオンされた状態で、ユーザが運転開始のための操作を行うことによって、電気システムの起動が指示される。電気システムの起動が指示されると、HVECU70は、SMR55をオンする。すなわち、通常の走行時には、SMR55はオンされる。
コンバータ40は、電力線56および電力線54の間に設けられる。コンバータ40は、リアクトルおよび2つの電力用半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチング素子とも称する)によって構成される、一般的な昇圧チョッパ回路の構成を有する。電力用半導体スイッチング素子としては、バイポーラトランジスタや、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、あるいは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いることができる。各スイッチング素子には、逆並列ダイオードが接続される。
MG1と接続されたインバータ41は、U相アーム、V相アームおよびW相アームを含む。U相アーム、V相アームおよびW相アームは並列に接続される。U相アーム、V相アームおよびW相アームは、それぞれ、直列に接続された2つスイッチング素子を有する。各スイッチング素子には逆並列ダイオードが設けられている。
MG1の図示しない固定子に巻回された各相コイル(U、V,W)は、中性点112において交互に接続される。インバータ41の各相アームにおけるスイッチング素子の接続点は、MG1の各相コイルの端部にそれぞれ接続される。
インバータ42は、インバータ41と同様に、一般的な三相インバータの構成を有する。MG2の図示しない固定子に巻回された各相コイル(U、V,W)は、中性点122において交互に接続される。インバータ42の各相アームにおけるスイッチング素子の接続点は、MG2の各相コイルの端部にそれぞれ接続される。
コンバータ40は、電力線56および電力線54の間で双方向の直流電圧変換を実行する。すなわち、コンバータ40は、電力線56の直流電圧VHを電圧指令値VHrに一致させる電圧制御(以下「VH制御」とも称する)と、電力線54の直流電圧VLを電圧指令値VLrに一致させる電圧制御(以下、「VL制御」とも称する)とのいずれかを選択的に実行することができる。
モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」とも称する)45は、VH制御およびVL制御の各々において、コンバータ40を構成する2つのスイッチング素子を、所定周期で相補的にオンオフするように制御する。モータECU45は、VH制御では、電圧センサ180にる直流電圧VHの検出値および電圧指令値VHrに基づいて、コンバータ40のデューティ比(2つのスイッチング素子のオン期間比)を制御する。同様に、モータECU45は、VL制御では、電圧センサ181による直流電圧VLの検出値および電圧指令値VLrに基づいて、コンバータ40のデューティ比を制御する。
このように、メインバッテリ50から放電された電力をMG1もしくはMG2に供給する際、電圧をコンバータ40により昇圧することができる。逆に、MG1もしくはMG2により発電された電力をメインバッテリ50に充電する際、電圧をコンバータ40により降圧することができる。通常走行時には、コンバータ40は、VH制御を実行する。
インバータ41は、電力線54上の直流電圧をスイッチング素子のオンオフにより交流電圧に変換する。変換された交流電圧は、MG1に供給される。また、インバータ41は、MG1が回生発電によって発生した交流電力を直流電力に変換する。同様に、インバータ42は、電力線54上の直流電圧を交流電圧に変換して、MG2に供給する。また、インバータ42は、MG2が回生発電によって発生した交流電力を直流電力に変換する。
このように、コンバータ40とインバータ41,42とを電気的に接続する電力線54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成される。電力線54には、コンデンサC2が接続される。
電力線54は、インバータ41,42を介して、MG1,MG2と電気的に接続されている。したがって、MG1,MG2の一方で発電される電力を他方で消費することができる。SMR55がオン状態である通常走行時には、コンバータ40がVH制御を実行する下で、メインバッテリ50は、MG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、MG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、メインバッテリ50は充放電されない。
MG1,MG2は、いずれもモータECU45により駆動制御される。モータECU45には、MG1,MG2を駆動制御するために必要な信号が入力される。たとえば、MG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるMG1,MG2に印加される相電流などが、モータECU45へ入力される。回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいて、MG1,MG2の回転速度が検出できる。
モータECU45は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの動作指令に従って、MG1,MG2を駆動制御する。具体的には、モータECU45は、MG1およびMG2の出力トルクが、トルク指令値T1rおよびT2rに合致するように、インバータ41,42へのスイッチング制御信号を出力する。たとえば、モータECU45は、トルク指令値T1r,T2rに従って設定される電流指令値と、MG1,MG2の電流検出値との偏差に基づいて、インバータ41,42の出力電圧指令(交流電圧)を演算する。そして、インバータ41,42のスイッチング制御信号は、たとえばパルス幅変調制御に従って、インバータ41,42が出力する擬似交流電圧が、それぞれの出力電圧指令に近づくように生成される。
また、モータECU45は、電圧指令値VHrまたはVLrに従って直流電圧VHまたはVLを制御するように、コンバータ40へのスイッチング制御信号を出力する。コンバータ40のスイッチング制御信号は、たとえばパルス幅変調制御に従って、VH制御またはVL制御のためのデューティ比に従った矩形波電圧となるように生成される。
さらに、ハイブリッド車両20の電気システムは、低電圧系(補機系)の構成として、DC/DCコンバータ80と、補機バッテリ51と、電力線58とを含む。補機バッテリ51は、電力線58に接続される。補機バッテリ51は、「副蓄電装置」の一例として示される。たとえば、補機バッテリ51は、鉛蓄電池によって構成される。補機バッテリ51の出力電圧は、メインバッテリ50の出力電圧よりも低く、たとえば12V程度である。
DC/DCコンバータ80は、メインバッテリ50の出力電圧に相当する直流電圧VLを降圧して、低電圧系の電源電圧Vs、すなわち補機バッテリ51の出力電圧レベルの直流電圧に変換するように構成される。DC/DCコンバータ80は、代表的には、半導体スイッチング素子(図示せず)を含むスイッチングレギュレータであり、公知の任意の回路構成を適用することができる。
電力線58には、低電圧系の補機90が接続される。補機90は、たとえば、オーディオ機器、ナビゲーション機器、照明機器(ハザードランプ、室内灯、ヘッドランプ等)等を含む。これらの補機負荷群は、ユーザ操作に応じて作動することによって電力を消費する。
図2の構成において、電力線56は「第1の電力線」に対応し、電力線54は「第2の電力線」に対応する。また、コンデンサC1は「第1のコンデンサ」に対応し、コンデンサC2は「第2のコンデンサ」に対応する。さらに、コンバータ40は「第1のコンバータ」に対応し、DC/DCコンバータ80は「第2のコンバータ」に対応する。
再び図1を参照して、HVECU70は、CPU(Central Processing Unit)72を中心とするマイクロプロセッサとして構成される。HVECU70は、CPU72と、処理プログラムやマップ等を記憶するROM(Read Only Memory)74と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを含む。HVECU70には、イグニッションスイッチ90からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度ACC、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。
また、HVECU70は、上述のように、エンジンECU24、モータECU45および、バッテリECU52と、通信ポートを介して接続されている。これにより、HVECU70は、他のECUとの間で各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。なお、エンジンECU24、モータECU45および、バッテリECU52についても、HVECU70と同様に、マイクロプロセッサによって構成できる。また、図1では、HVECU70、エンジンECU24、モータECU45および、バッテリECU52を別個のECUとして記載したが、これらの機能の一部または全部を統合したECUを配置することも可能である。あるいは、図示された各ECUの機能をさらに分割するように、ECUを配置してもよい。
HVECU70は、車両状態に適した走行を行なうための走行制御を実行する。たとえば、車両発進時および低速走行時には、エンジン22を停止した状態で、MG2の出力によってハイブリッド車両20は走行する。定常走行時には、エンジン22を始動して、エンジン22およびMG2の出力によってハイブリッド車両20は走行する。特に、エンジン22を高効率の動作点で動作させることによって、ハイブリッド車両20の燃費が向上する。
エンジン22、MG1およびMG2が動力分割機構30を介して連結されることで、エンジン22、MG1およびMG2の回転数は、図3に示すように共線図で結ばれる関係になる。
図3を参照して、走行時には、MG2は主に「電動機」として動作し、MG1は主に「発電機」として動作する。以下では、MG2のトルクおよび回転数をTmおよびNmとも表記し、MG1のトルクおよび回転数をTgおよびNgとも表記する。
エンジン22は、エンジン要求パワーに基づいて定められた動作点(エンジン回転数NeおよびエンジントルクTe)で動作するように、エンジンECU24(図1)によって制御される。
MG1のトルクTgおよび回転数Ngは、エンジン回転数Neを上記動作点に従った目標回転数とするように制御される。上述のように、通常走行時には、MG1は負トルク(Tg<0)を出力し、発電する状態となる。
このとき、エンジントルクTeの反力を受け持つように出力されたトルクTgによって、駆動軸32aに伝達される直達トルクTepは、Tep=−Tg×(1/ρ)で示される。なおρは、動力分割機構30におけるギヤ比である。
一方、変速機60のギヤ比(減速比)Grを用いて、MG2のトルクTmによって駆動軸32aに発生するトルクは、Tm×Grで示される。したがって、駆動軸32a(リングギヤ32)に作用する駆動トルクTpについて、下記(1)式が成立する。
Tp=Tm×Gr−Tg×(1/ρ) …(1)
ハイブリッド車両20では、メインバッテリ50に異常が発生して充放電が禁止されると、SMR55をオフ状態として、メインバッテリ50を電気システムから切り離した状態で、図3に示した共線図に従って走行を継続する。以下では、メインバッテリ50を不使用としたバッテリレス走行時の走行制御について、「バッテリレス走行制御」と称する。
バッテリレス走行時には、メインバッテリ50を電力バッファとして使用することができない。このため、コンバータ40は、VH制御ではなくVL制御を実行する。VL制御の電圧指令値VLrは、たとえば、メインバッテリ50の出力電圧Vb相当に設定される。
バッテリレス走行時には、MG1およびMG2全体での入出力電力ΔPが、そのまま電力線54(コンデンサC2)の直流電圧VHに影響を与える。ΔPは、下記(2)式で示される。ΔP<0のときに、MG1,MG2から電力線54へ電力が供給され、ΔP>0のときに、電力線54からMG1,MG2へ電力が供給される。
ΔP=Tm×Nm+Tg×Ng …(2)
バッテリレス走行時には、電力線54の直流電圧VHが、P=(1/2)×C×VH×VHの関係に従って、入出力電力ΔPに応じて変化することになる。なお、コンデンサC2のキャパシタンスをCとする。したがって、ΔPによる電圧変化ΔVHは、下記(3)式によって示される。MG2の消費電力よりもMG1の発電電力の方が大きいΔP<0のときには、ΔVH>0であり、直流電圧VHが上昇する。
ΔP=−(C/2)×2×VH×ΔVH
=−C×VH×ΔVH …(3)
直流電圧VHが変動すると、MG1,MG2のトルク変動に繋がるため、バッテリレス走行時でも、直流電圧VHは電圧指令値VHrに制御されることが好ましい。
したがって、本実施の形態では、MG1およびMG2全体の入出力電力(すなわち、電力線54の入出力電力)ΔPの調整によって直流電圧VHを制御するように、MG1,MG2の出力トルクによる電力制御を実行する。すなわち、バッテリレス走行時には、要求駆動トルクのみならず、電力制御のためのトルクを反映して、MG1,MG2の出力トルクが設定される。
図4は、本発明の実施の形態1によるハイブリッド車両のバッテリレス走行制御のための機能ブロック図である。図4に示す各機能ブロックは、HVECU70および/またはモータECU45によるハードウェア処理および/またはソフトウェア処理によって実現することができる。
バッテリレス走行制御部200は、メインバッテリ50に異常が発生して使用できなくなったことを示す信号Fbtを受けて、バッテリレス走行を制御する。図4には、バッテリレス走行制御部200の機能のうち、電気システムに関連する機能が示される。
バッテリレス走行制御部200は、バッテリレス走行時における、SMR55のオンオフ制御信号および、DC/DCコンバータ80のオンオフ信号、ならびに、電力制御による直流電圧VHの電圧指令値VHrおよび、直流電圧VLの電圧指令値VHrを発生する。
具体的には、バッテリレス走行制御部200は、通常走行からバッテリレス走行への移行が指示されると、まず、SMR55をオンした状態の下でエンジン22の作動を確保する。すなわち、エンジン22が停止されているときには、メインバッテリ50の電力を用いてMG1をスタータとして動作させることにより、エンジン22が始動される。
バッテリレス走行制御部200は、エンジン22の作動が確保されると、SMR55をオフする。その際に、SMR55のオフに先立ってDC/DCコンバータ80の停止(オフ)を指示するとともに、DC/DCコンバータ80が停止している状態の下で、SMR55のオフを指示する。これにより、SMR55を円滑にオフすることができる。そして、バッテリレス走行制御部200は、SMR55がオフされた後、補機系への給電のために、停止状態のDC/DCコンバータ80を再び起動する。
MGトルク制御部210は、車両走行のための要求トルクTp0*と、バッテリレス走行制御部200からの電圧指令値VHrと、直流電圧VH(検出値)とに基づいて、MG1,MG2のトルク指令値T1r,T2rを設定する。
要求トルクTp*0は、ハイブリッド車両20の車両状態(代表的には、車速Vおよびアクセル開度ACC)に基づいて設定される、ユーザ要求に対応した車両駆動力を発生するための駆動軸トルクに相当する。
一方で、電圧指令値VHrおよび直流電圧VH(検出値)に基づいて、式(3)のΔPを用いて、直流電圧VHを電圧指令値VHrへ制御するための電力指令値Prを求めることができる。具体的には、直流電圧VHの制御のための電圧変化ΔVHを求めるとともに、式(3)にこのΔVHを代入したときのΔPを電力指令値Prとすることができる。
これにより、式(1)と、ΔP=Prを代入した式(2)とを用いて、駆動トルクTp=Tp0*にするとともに、電力制御のためのトルクが生じるように、MG1のトルク指令値T1r(Tg)およびMG2のトルク指令値T2r(Tm)を設定することができる。
インバータ制御部215は、MG1がトルク指令値T1rに従った出力トルクを発生するように、インバータ41のスイッチング制御信号Sinv1を発生する。同様に、インバータ制御部215は、MG2がトルク指令値T2rに従った出力トルクを発生するように、インバータ42のスイッチング制御信号Sinv2を発生する。
コンバータ制御部225は、バッテリレス走行制御部200からの電圧指令値VLrと直流電圧VLの検出値とに基づいて、VL制御を実行するためのコンバータ40のスイッチング制御信号Scnvを生成する。スイッチング制御信号Scnvに基づいて、直流電圧VLをフィードバック制御するためのコンバータ40のデューティ比が実現される。
なお、上述のように、バッテリレス走行時の直流電圧指令値VLrをメインバッテリ50の出力電圧Vb相当とすることにより、補機系に対して、通常走行時と同様に電圧を供給することができる。
次に、図4に示した機能ブロック図に係るバッテリレス走行制御を実現するための制御処理を、図5のフローチャートを用いて説明する。
図5に示すフローチャートによる制御処理は、バッテリレス走行制御時に、所定の制御周期毎に実行される。なお、図5に示した制御処理は、所定周期で繰り返し実行される。
図5を参照して、HVECU70は、ステップS50により、メインバッテリ50の異常により、バッテリレス走行が指示されている状態であるか否かを判定する。HVECU70は、メインバッテリ50が使用できるとき(S50のNO判定時)、すなわち、通常走行時には、バッテリレス走行制御のための以降のステップS60〜S90をスキップする。
HVECU70は、バッテリレス走行時(S50のYES判定時)には、ステップS60により、コンバータ40にVL制御を指示する。すなわち、コンバータ40への電圧指令値VLrが設定される。
HVECU70は、ステップS70により、直流電圧VHのフィードバック制御(電力制御)のための電圧指令値VHrを読込む。電圧指令値VHrは、後ほど説明する図6のフローチャートに従って設定される。
そして、HVECU70は、ステップS80により、直流電圧VHを電圧指令値VHrに制御するための電力制御の電力指令値Prを算出する。
さらに、HVECU70は、ステップS90により、車両走行のための要求トルク(Tp0*)および電力制御のためのトルクに基づいて、トルク指令値T1r,T2rを設定する。すなわち、ステップS70〜S90による処理は、図4のMGトルク制御部210の機能に対応する。
次に図6を用いて、バッテリレス走行における電圧指令値VHrの設定処理を説明する。図6に示すフローチャートによる処理は、図4のバッテリレス走行制御部200による電圧指令値VHrの設定機能に対応する。
図6を参照して、HVECU70は、ステップS100により、バッテリ異常によりメインバッテリ50の使用(充放電)が禁止されている状態であるか否かを判定する。HVECU70は、メインバッテリ50が使用できるとき(S100のNO判定時)、すなわち、通常走行時には、バッテリレス走行制御のための以降のステップS110〜S190をスキップする。
HVECU70は、充放電禁止時(S100のYES判定時)には、ステップS110により、SMR55がオンされた状態の下で、エンジン22を始動する。エンジン22が既に作動しているときには、ステップS110の実行は省略される。これにより、バッテリ走行の開始時にエンジン22の作動が確保される。
HVECU70は、ステップS120により、SMR55をオフする前にDC/DCコンバータ80をオフ(停止)する。さらに、HVECU70は、ステップS130により、DC/DCコンバータ80がオフされた状態で、SMR55をオフする。そして、メインバッテリ50を不使用としたバッテリ走行が開始される(ステップS140)。
SMR55をオフしてバッテリレス走行が開始されると、補機系の電力を確保するためにDC/DCコンバータ80を再始動する必要がある。
SMR55のオフのためのDC/DCコンバータ80の停止中には、補機バッテリ51の電力によって補機90が動作している。このため、SMR55オフ後にDC/DCコンバータ80を再起動する際には、補機バッテリ51の電圧低下をカバーするために、電力線56(コンデンサC1)からDC/DCコンバータ80を経由した補機系への給電量が、瞬間的に大きくなる可能性がある。この場合には、直流電圧VLが低下するとともに、この電圧低下をカバーするためのコンバータ40のVL制御によって、電力線54(コンデンサC2)の電力が消費されるため、直流電圧VHが低下する虞がある。
このような電圧低下を抑制するために、HVECU70は、ステップS150,S160により、所定期間T1にわたって電圧指令値VHrを上昇する。たとえば、通常値V1から所定値V2へ電圧指令値VHrが上昇される。電圧指令値VHrは、一定の制限レートに従って徐々に上昇させることが好ましい。所定期間T1の長さは、電力制御(MG1,MG2のトルク)によって、直流電圧VHをV2まで上昇させるのに必要な時間に基づいて決められる。
HVECU70は、直流電圧VHの上昇を指示してから所定期間T1が経過すると、ステップS170により、DC/DCコンバータ80を再起動する。事前にV1からV2へ電圧を上昇させることにより、DC/DCコンバータ80の再起動時に、直流電圧VHが通常値V1よりも大きく低下することを防止できる。
HVECU70は、ステップS180,S185により、DC/DCコンバータ80の再起動から所定期間T2が経過するまでの間、電圧指令値VHrをV2に維持する。そして、DC/DCコンバータ80の再起動から所定期間T2が経過すると(S180のYES判定時)、HVECU70は、ステップS190により、電圧指令値VHrをV2から通常値V1へ低下させる。この際にも、電圧指令値VHrは、一定の制限レートに従って徐々に低下させることが好ましい。所定期間T2の長さは、DC/DCコンバータ80の再起動直後における電圧低下が収まるのに要する時間に対応して定められる。
図7には、本発明の実施の形態1によるハイブリッド車両におけるバッテリレス走行開始時の動作波形例が示される。
図7の動作例では、バッテリレス走行の開始が指示されると、DC/DCコンバータ80がオフされた後の時刻t1において、SMR55のオフ処理が実行される。そして、時刻t1後に、電圧指令値VHrが上昇される。そして、直流電圧VHの上昇を指示してから所定期間T1が経過した時刻t2において、停止状態のDC/DCコンバータが起動(再起動)される。
DC/DCコンバータ80の再起動時には、DC/DCコンバータ80の停止中における補機系の電力消費に伴う補機バッテリ51の電圧低下を補償するように、電力線56および電力線54の電力が、コンバータ40およびDC/DCコンバータ80によって電力線58へ供給される。この動作は、直流電圧VHを低下させる方向に作用する。
図7中には、電圧指令値VHrを一定値(通常値V1)に維持したときの動作波形例が、比較のための点線で示されている。この場合には、DC/DCコンバータ80の再起動時には、直流電圧VHをフィードバックしたMG1,MG2トルクによる電力制御によって、上記の電圧上昇に対応することになる。
しかしながら、バッテリレス走行時においては、MG2のトルクは車両駆動力に影響するので、要求トルクとの兼ね合いからMG1,MG2のトルクを変化可能な範囲が限られてくる。このように、MG1,MG2のトルクについては、電力制御のみの観点から急激に変化させることが困難であるため、電力制御のみによる直流電圧VHの制御応答性にはある程度限界がある。
したがって、図7中に点線で示すように、DC/DCコンバータ80の再起動に応答して、直流電圧VHは大きく低下する虞がある。この電圧低下が過大になると、MG1,MG2の出力トルクが低下することによって、車両駆動力が低下する虞がある。
一方、実施の形態1によるバッテリレス走行では、図7中に実線で示すように、直流電圧VHは、DC/DCコンバータ80が再起動される時刻t2において、予め通常レベルよりも上昇している。したがって、DC/DCコンバータ80の再起動をトリガに直流電圧VHが低下しても、直流電圧VHが通常値V1よりも大きく低下することを防止できる。なお、V1およびV2の電圧差は、DCコンバータ80の再起動時に発生する電圧変動量に応じて、実機実験等に基づいて決定することができる。
このように、本実施の形態1によるハイブリッド車両のバッテリレス走行では、停止状態の補機給電用のDC/DCコンバータ80を起動する際に、電気システム内に生じる電圧変動、より特定的には直流電圧VHの大幅な低下を防止することができる。この結果、車両駆動力の変動を抑制できる。
特に、バッテリレス走行開始時にSMR55のオフに先立ってDC/DCコンバータ80を停止するシーケンスを採用することによってSMR55を安全なオフするようにした場合にも、DC/DCコンバータ80の再起動に伴う電圧変動を抑制することができる。
[実施の形態2]
上述したように、バッテリレス走行におけるMG1,MG2のトルク設定は、電力フィードバック制御を行う一方で、車両走行のための要求トルク(Tp0*)に従って設定する必要がある。したがって、実施の形態2では、バッテリレス走行制御におけるMGトルク制御について、電力制御性および車両走行性を確保するための好ましい態様について説明する。
図8は、本発明の実施の形態2によるハイブリッド車両のバッテリレス走行制御におけるMGトルク制御のための機能ブロック図である。図8に示す各機能ブロックは、HVECU70によるハードウェア処理および/またはソフトウェア処理によって実現することができる。
図8を参照して、図4に示したMGトルク制御部210は、電力指令算出部510と、MGトルク換算部520と、MGトルク上下限設定部530と、駆動トルク上下限設定部540と、駆動トルク設定部550と、MGトルク換算部560と、MGトルク設定部570とを含む。
電力指令算出部510は、直流電圧VHと、直流電圧の電圧指令値VHrとに基づいて、電力補正指令値ΔPrを算出するとともに、このΔPrに基づいて電力指令値Prを算出する。電力補正指令値ΔPrは、直流電圧VHを電圧指令値VHrに近付けるための、電力線54の入出力電力の変化量を示す。電力補正指令値ΔPrは、電力線54の電力が不足しているときには負値(ΔPr<0)に設定され、電力線54の電力が過剰なときには正値(ΔPr>0)に設定される。
MGトルク換算部520は、電力指令値Prに従った電力を電力線54に入出力するための、MG1,MG2の必要トルク(以下、電力制御トルクとも称する)T1p,T2pを演算する。MGトルク換算部520は、「第1のトルク算出部」に対応する。
MGトルク上下限設定部530は、当該制御周期における、MG1のトルク上限値T1maxおよびトルク下限値T1minと、MG2のトルク上限値T2maxおよびトルク下限値T2minとを設定する。
トルク上限値は、たとえば、図10に示されるように、当該制御周期における直流電圧およびモータジェネレータの回転数によって決まる。
図10を参照して、MG1,MG2の各々が出力可能な上限トルクは、MG回転数および直流電圧に応じて変化する。同一のMG回転数の下では、直流電圧VHが低い程、出力可能な上限トルクが低下する。一方で、同一の直流電圧下では、回転数が高くなる程、出力可能な上限トルクが低下する。
トルクおよび/または回転数が負の範囲でも、MGトルクの絶対値と、MG回転数の絶対値と、直流電圧VHとの間には、上記と同様の関係が成立する。したがって、各制御周期において、直流電圧VHおよび回転数(Ng,Ne)に照らして、トルク上限値T1max,T2maxおよび/またはトルク下限値T1min,T2minを設定できる。
あるいは、回転要素の過高回転やMG1,MG2の過高温等からの部品・機器保護の観点から、トルク(絶対値)の増大を制限するために、トルク上限値T1max,T2maxおよび/またはトルク下限値T1min,T2minが設定されてもよい。
また、急峻なトルク変動を抑制するために、前回の制御周期における出力トルクからの変化量を所定値以下に制限するように、MG1のトルク上下限値T1max,T1minおよびMG2のトルク上下限値T2max,T2minが設定されてもよい。
再び図8を参照して、MGトルク上下限設定部530は、上記のような観点を総合して、各制御周期において、当該制御周期でのトルク上限値T1max,T2maxおよびトルク下限値T1min,T2minを設定する。
駆動トルク上下限設定部540は、MGトルク上下限設定部530によって設定されたトルク上下限範囲を、電力制御トルクT1p,T2pで修正することによって、駆動トルクTpの上下限を設定する。
駆動トルク上下限設定部540は、MGトルク上下限設定部530によって設定されたMG1のトルク上下限値T1max,T1minおよびMG2のトルク上下限値T2max,T2minと、MGトルク換算部520によって演算された電力制御トルクT1p,T2pとに基づいて、駆動軸32aに出力可能なトルク上限値Tpmaxおよびトルク下限値Tpminを設定する。後程詳細に説明するように、トルク上限値Tpmaxおよびトルク下限値Tpminは、MG1およびMG2による電力制御トルクT1p,T2pを確保した上で、MG1,MG2の出力トルクをMGトルク上下限設定部530による上下限範囲内としたときにおける、駆動軸トルクの上下限範囲を規定するものである。このように、MGトルク上下限設定部530および駆動トルク上下限設定部540の機能は、「トルク上下限設定部」に対応する。
駆動トルク設定部550は、駆動トルク上下限設定部540によって設定された駆動トルクの上下限範囲内(Tpmax〜Tpmin)で、要求トルクTp*0に最も近いトルクを、駆動トルク指令値Tp*に設定する。
上述のように、要求トルクTp*0は、ハイブリッド車両20の車両状態(代表的には、車速Vおよびアクセル開度ACC)に基づいて設定される、ユーザ要求に対応した車両駆動力を発生するための駆動軸トルクに相当する。
MGトルク換算部560は、駆動トルク設定部550によって設定された駆動トルク指令値Tp*を、MG1,MG2の出力トルクに換算する。これにより、MG1,MG2の駆動力制御トルクT1d,T2dが算出される。MGトルク換算部560は「第2のトルク算出部」に対応する。
MGトルク設定部570は、MGトルク換算部560によって設定された駆動力制御トルクT1d,T2dと、MGトルク換算部520によって設定された電力制御トルクT1p,T2pとの和に従って、MG1,MG2のトルク指令値T1r,T2rを設定する。
次に、図8に示した機能ブロック図に係るバッテリレス走行制御でのMGトルク制御を実現するための制御処理を、図9のフローチャートを用いて説明する。
図9に示すフローチャートによる制御処理は、図5に示されたステップS90の詳細を示すものに相当する。すなわち、図9に示す制御処理は、図5に示した制御処理の実行に伴って、バッテリレス走行時に所定周期で実行される。
図9を参照して、HVECU70は、ステップS200により、MG1トルクおよびMG2トルクの上下限値を設定する。ステップS200の処理は、図8のMGトルク上下限設定部530の機能に相当する。これにより、今回の制御周期における、オリジナルのトルク上限値T1max,T2maxおよびトルク下限値T1min,T2minが設定される。
さらに、HVECU70は、ステップS210により、直流電圧VHを電圧指令値VHrに制御するための電力指令値Prを算出する。ステップS210による処理は、図8の電力指令算出部510の機能に相当する。たとえば、電力指令値Prは、下記(4)式に従って設定される。
Pr=ΔPr+Ploss+Pax …(4)
式(4)中において、電力補正指令値ΔPrは、電圧偏差(VH−VHr)に対してPID制御演算を実行した制御演算値を示す。Plossは、MG1,MG2による損失電力である。たとえば、Plossは、MG1およびMG2のそれぞれについて、回転数の関数として設定することができる。また、Paxは、電力線54の電力を使用して動作する補機負荷の消費電力である。
VHr>VHのときには、電力線54の電力が不足しているので、電力指令値Prは、PID制御演算によって負方向に変化する。反対に、VHr<VHのときには、電力線54の電力が過剰であるので、電力指令値Prは、PID制御演算によって正方向に変化する。
HVECU70は、ステップS220では、電力指令値Prに基づいて、MG1,MG2の電力制御トルクT1p,T2pを算出する。ステップS220による処理は、図8のMGトルク換算部520の機能に相当する。
電力制御トルクT1p,T2pは、駆動軸トルクに影響を与えることなく、電力指令値Prに従った電力を電力線54に対して入出力するための、MG1,MG2の出力トルクに相当する。電力制御トルクT1p,T2pは、下記のように求めることができる。
まず、(1)式で、Tp=0と置くとともに、Tm=T2pおよびTg=T1pを代入することによって、下記(5)式が得られる。
0=T2p×Gr−T1p×(1/ρ) …(5)
(5)式より、電力制御トルクT1pおよびT2pの間には、下記(6)式の関係が成立することが理解される。
T1p=T2p×ρ×Gr …(6)
さらに、(2)式において、ΔP=Prとし、Tm=T2pとし、Tgに(6)式のT1pを代入することにより、下記(7)式が得られる。
Pr=T2p×Nm+T2p×ρ×Gr×Ng
=T2p×(Nm+(ρ×Gr×Ng)) …(7)
(7)式より、MG2の電力制御トルクT2pは、下記(8)式で示されることが理解される。
T2p=Pr/(Nm+(ρ×Gr×Ng)) …(8)
また、(8)式および(6)式から、MG1の電力制御トルクT1pは下記(9)式で示される。
T1p=Pr×(ρ×Gr)/(Nm+(ρ×Gr×Ng)) …(9)
MG1およびMG2が電力制御トルクT1p,T2pを出力すると、駆動軸32aに作用するトルクを変化させることなく(Tp=0)、電力指令値Prに従った電力値を電力線54に対して入出力することができる。
HVECU70は、ステップS230では、電力制御トルクT1p,T2pの出力を確保するために、ステップS200で設定されたMG1およびMG2のトルク上下限範囲を修正する。さらに、HVECU70は、ステップS240では、ステップS230で求められたMG1,MG2のトルク上下限値に基づいて、駆動軸32aのトルク上下限値Tpmax,Tpminを設定する。すなわち、ステップS230およびS240による処理は、図8に示した駆動トルク上下限設定部540の機能に対応する。
ステップS230では、オリジナルのトルク上限値T1maxおよびトルク下限値T1minから電力制御トルクT1pを減算することによって、MG1について修正後のトルク上限値T1max♯およびトルク下限値T1min♯が求められる。同様に、オリジナルのトルク上限値T2maxおよびトルク下限値T2minから電力制御トルクT2pを減算することによって、MG2について修正後のトルク上限値T2max♯およびトルク下限値T2min♯が求められる。
トルク上限値T1max♯およびトルク下限値T1min♯によって、電力制御トルクT1pを確保した上で、オリジナルのトルク上下限範囲T1max〜T1minに収まるように、駆動トルク確保のためにMG1が出力可能なトルク範囲が示される。同様に、トルク上限値T2max♯およびトルク下限値T2min♯によって、電力制御トルクT2pを確保した上で、駆動トルク確保のためにMG2が出力可能なトルク範囲が示される。
ステップS240では、ステップS230で修正されたトルク上下限値に基づいて、駆動軸32aに出力される駆動トルクの上下限値が演算される。
ここで、電力バランスを保った上で、すなわちΔPr=0として駆動トルクTpを発生するためのMG1,MG2のトルクTg,Tmの関係は、(2)式においてΔP=0と置くことで、下記(10)式で示される。
Tg=−(Nm/Ng)×Tm …(10)
(10)式を(1)式に代入してTgを消去することにより、ΔP=0としたときの駆動トルクTpとMG2のトルクTmとの関係は、(11)式で示される。
Tp=Tm×Gr+(1/ρ×Nm/Ng)×Tm
=(Gr+(1/ρ×Nm/Ng))×Tm …(11)
(11)式に、MG2についてのトルク上限値T2max♯およびT2min♯を代入することにより、MG2トルク制限からの駆動トルクTpの上下限値Tpmax2,Tpmin2が得られる。
同様に、(10)式を(1)式に代入してTmを消去することにより、ΔP=0としたときの駆動トルクTpとMG1のトルクTgとの関係は、(12)式で示される。
Tp=−(Ng/Nm×Gr)×Tg−(1/ρ)×Tg
=−(1/ρ+Gr×Ng/Nm)×Tg …(12)
したがって、(12)式に、MG1についてのトルク上限値T1max♯およびT1min♯を代入することにより、MG1トルク制限からの駆動トルクTpの上下限値Tpmax1,Tpmin1が得られる。
図11を参照して、MG1トルク制限からの駆動トルクの上下限範囲(Tpmax1〜Tpmin1)と、MG2トルク制限からの駆動トルクの上下限範囲(Tpmax2〜Tpmin2)とが重なる範囲が、駆動トルクTpの上下限範囲に設定される。すなわち、駆動トルク上限値Tpmax=min(Tpmax1,Tpmax2)であり、駆動トルク下限値Tpmin=max(Tpmin1,Tpmin2)である。これにより、電力制御トルクT1p,T2pの出力を確保した上で、駆動軸32aに出力可能な駆動トルクTpの上下限範囲(Tpmax〜Tpmin)、すなわち、駆動トルク指令値Tp*の設定可能範囲が定められる。
再び、図9を参照して、HVECU70は、ステップS250により、駆動トルク上下限値Tpmax,Tpminとユーザからの要求トルクTp*0とに基づいて、駆動トルク指令値Tp♯を設定する。ステップS250の処理は、図8の駆動トルク設定部550の機能に対応する。
ステップS250では、駆動トルク指令値Tp*は、ステップS240で設定された駆動トルクTpの上下限範囲(Tpmax〜Tpmin)内で、要求トルクTp*0に最も近い値に設定される。具体的には、Tp*0>Tpmaxのときには、Tp*=Tpmaxに設定される。同様に、Tp*0<Tpminのときには、Tp*=Tpminに設定される。また、Tpmin<Tp*0<Tpmaxのときには、Tp*=Tp*0に設定されることになる。
そしてHVECU70は、ステップS260により、ステップS250で設定された駆動トルク指令値Tp*から、MG1,MG2の駆動力制御トルクT1d,T2dを算出する。駆動力制御トルクT1d,T2dは、電力制御を実行した上で、駆動トルク指令値Tp*に従った駆動トルクを発生するためのMG1,MG2の出力トルクに相当する。ステップS260による処理は、図8のMGトルク換算部560の機能に対応する。
駆動力制御トルクT1dは、式(12)において、Tp=Tp*とし、Tg=T1dとすることによって、式(13)によって求められる。
T1d=−Tp*/(1/ρ+Gr×Ng/Nm) …(13)
同様に、駆動力制御トルクT2dは、式(11)において、Tp=Tp*とし、Tm=T2dとすることによって、式(14)によって求められる。
T2d=Tp*/(Gr+(1/ρ×Nm/Ng)) …(14)
HVECU70は、ステップS270により、MG1,MG2のトルク指令値T1r,T2rを設定する。ステップS270の処理は、図8のMGトルク設定部570の機能に対応する。
ステップS270では、下記の式(15),(16)に基づいて、最終的なトルク指令値T1r,T2rが算出される。
T1r=T1p+T1d …(15)
T2r=T2p+T2d …(16)
そして、図2に示した電気システムによって、MG1,MG2の出力トルクが、トルク指令値T1r,T2rに従って制御される。
このように、本実施の形態2によるハイブリッド車両のバッテリレス走行制御では、直流電圧VHを制御するための電力制御トルクT1p,T2pが確保可能な範囲に絞って、駆動トルク出力のためのMG1,MG2の出力トルクを設定できる。このため、コンバータ40が使用できないバッテリレス走行においても、直流電圧VHが安定するので、MG1,MG2の出力トルクの変動が抑制される。この結果、車両走行性が向上する。
さらに、MG1,MG2の両方のトルクによって電力制御を行なうので、電力制御を実現した上でMG1,MG2から出力可能なトルク範囲が広くなる。この結果、実施の形態1による効果に加えて、バッテリレス走行における車両駆動力が確保し易くなることにより、走行性能が向上する。
なお、本発明が適用されるハイブリッド車両の構成は、図1の例示に限定されるものではない点について確認的に記載する。具体的には、内燃機関と、内燃機関の動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機と、発電機の発電電力が供給される電力線の電力によって駆動軸にトルクを出力する電動機とを用いてバッテリレス走行を実行することが可能な構成において、補機系電力を供給するためのDC/DCコンバータが停止状態から再始動されるものであれば、本実施の形態で説明したバッテリレス走行制御に従って、発電機および電動機の出力トルクを適切に設定することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。