本発明は、成膜室1内で、基材台3に配置された基材4の表面に薄膜を形成するための熱フィラメントCVD装置に関する。本発明の熱フィラメントCVD装置は、少なくとも一本のフィラメント2を固定するための、少なくとも一対のフィラメント固定部40と、少なくとも一対のフィラメント固定部40の間の距離を変えるためのフィラメント固定部移動機構と、少なくとも一本のフィラメント2の伸縮状態の変化を検出するためのフィラメント2の伸縮状態検出手段とを含む。フィラメント2の伸縮状態検出手段が、少なくとも一対のフィラメント固定部40の間の略中央の検出領域30において、フィラメント2からの少なくとも一つの波長の電磁波の強度を測定するための、又はフィラメントからの電磁波の波長、強度若しくはそれらの組み合せを測定するための、電磁波測定機構32を含む。電磁波測定機構32によって測定された電磁波の強度変化に基づいてフィラメント2の伸縮状態の変化を検出する。
以下、本発明の熱フィラメントCVD装置を詳しく説明する。
本発明の装置は、成膜室1内で、基材台3に配置された基材4の表面に薄膜を形成するための熱フィラメントCVD装置である。
図1に、本発明の熱フィラメントCVD装置の装置構成の模式図を示す。図1に示すように、本発明の熱フィラメントCVD装置は、成膜室1を有する。成膜室1は、真空気密を保つために金属などの剛性材料、例えばステンレス鋼からなる側壁等により包囲されて真空容器を形成する。成膜室1の外部と内部とを連通するためのポート等は、成膜室1の真空気密を保つために公知の方法によりシールされている。成膜室1の内部には基材台3が設けられ、基材台3に配置された基材4の表面に薄膜を形成することができる。
熱フィラメントCVD法は、熱分解による生成物や化学反応によって、薄膜を形成する方法である。熱フィラメントCVD法は化学気相成長法(CVD)の一種であり、フィラメント2からの熱エネルギーによって原料ガスの分解生成物や化学反応を利用する成膜法である。本発明の熱フィラメントCVD装置は、フィラメント2で発生した熱エネルギーによる所定の原料ガスの分解生成物や化学反応を利用することによって形成可能な薄膜の成膜に、薄膜の種類を問わず用いることができる。
本発明の熱フィラメントCVD装置は、具体的には、炭素系薄膜、特にダイヤモンド薄膜(多結晶ダイヤモンド薄膜)の成膜のために好適に用いることができる。ダイヤモンド薄膜の成膜のための原料ガスとして、炭化水素、アルコール及び/又はアセトン等の炭素化合物ガスと、水素ガスとを混合した混合ガスが利用されている。この原料ガスを用いたダイヤモンド薄膜の成膜方法として、加熱したフィラメント2を用いる熱フィラメントCVD法、マイクロ波等を励起エネルギーとして用いる方法、火炎法及び紫外線放射併用法などがあるが、とりわけ熱フィラメントCVD法を好適に用いることができる。本発明の熱フィラメントCVD装置により、有効成膜面積を大面積化し、速い成膜速度で大面積に均一な膜厚の薄膜を形成することのできるので、ダイヤモンド薄膜の成膜のために本発明の熱フィラメントCVD装置を用いることが好ましい。
本明細書において「基材4」とは、本発明の熱フィラメントCVD装置によってその表面に薄膜を形成する物体のことをいう。本発明の熱フィラメントCVD装置により、基材4の少なくとも一部の表面に薄膜を形成することができる。基材4の形状は、具体的には、平板状の基板であることができる。しかしながら、基材4の形状は、平板状の基板に限られず、例えば、厚みを有する直方体、円筒状の外形を有する基材4の外表面等、後述するフィラメント2の配置を工夫することによって、任意の形状の基材4の表面への成膜を行うことができる。熱フィラメントCVD法では、一般的に、成膜中の基材温度が800〜1000℃となることが多いため、基材4の材料としては、シリコン、炭化ケイ素、アルミナなどの耐熱性の材料、モリブデン、ケイ素、タンタル、チタン、ニオブ及びそれらを組み合わせた炭化物材料並びにモリブデン及び白金等の高融点金属材料を好ましく用いることができる。また、他の耐熱性材料に上記炭化物系材料を被覆して基材4とすることもできる。
基材台3とは、基材4を載置するための台である。本発明の熱フィラメントCVD装置によって基材4の表面に薄膜を形成する際には、基材4は基材台3に載置される。良好な膜質の薄膜を成膜するためには、基材4の温度が成膜条件として重要である場合が多い。そのため、基材台3は、必要に応じて加熱及び/又は冷却可能な構造であることが好ましい。
また、本発明の熱フィラメントCVD装置においては、基材台3が、フィラメント2の位置に対して相対的に移動可能なように構成されることが好ましい。通常、熱フィラメントCVD装置による成膜の際には、原料ガスの導入後、フィラメント2の温度を所定の温度まで上昇させた後に成膜を開始する。基材台3がフィラメント2の位置に対して相対的に移動可能であることにより、フィラメント2の温度が所定の温度まで上昇した後に、基材台3を移動して、フィラメント/基材間の距離を、所定の成膜速度が得られる程度に小さくする。この結果、基材表面に、所定のフィラメント2の温度で成膜を開始することができる。
基材台3のフィラメント2の位置に対する相対的な移動は、基材台3が移動機構を有することにより、固定されたフィラメント2に対して基材台3が移動するように構成することができる。また、相対的な移動は、固定された基材台3に対してフィラメント2が移動するように構成することができる。また、相対的な移動は、基材台3及びフィラメント2の両方が移動するように構成することにより、固定されたフィラメント2に対して基材台3が移動するように構成することができる。一般的にフィラメント2は細くて破壊しやすいため、相対的な移動の際には、フィラメント2を移動させず、基材台3を移動させることが好ましい。したがって、基材台3が移動機構を有し、固定されたフィラメント2に対して基材台3が移動するような構成とすることが好ましい。基材台3の移動は、垂直方向及び/又は水平方向に移動するように構成することができる。装置構造を簡単にする点から、基材台3の移動は、垂直方向に移動するように構成することが好ましい。
本発明の熱フィラメントCVD装置は、フィラメント2を用いて原料ガスを加熱し、所定の薄膜を成膜する。フィラメント2の材料としては、タングステン、タンタル及びモリブデンなどの高融点金属を挙げることができる。取り扱い性の点などから、フィラメント2の材料としては、タンタル又はタングステンを用いることが好ましい。特に、本発明のフィラメントCVD装置を用いてダイヤモンド薄膜を成膜する際には、良質な膜質の薄膜を得ることができることから、タンタルを材料とするフィラメント2を用いることが好ましい。
本発明の熱フィラメントCVD装置で用いるフィラメント2の直径は、0.05〜1mmであり、好ましくは0.05〜0.3mm、より好ましくは0.10〜0.2mmである。フィラメント2の長さ及び本数は、成膜する基材4の表面(成膜表面)の大きさに応じて適宜選択することができる。好ましくは、フィラメント2が、少なくとも成膜表面の全体を所定の間隔で覆うように、複数本のフィラメント2を平行に、等間隔に配置することが好ましい。より均一な膜厚の薄膜を成膜する点から、フィラメント2の間隔は、2〜20mmであることが好ましく、5〜15mmであることがより好ましい。特に、フィラメント2の間隔が6〜10mmである場合には、優れた膜厚の均一性を得ることができる。
本発明の装置は、少なくとも一本のフィラメント2を固定するための、少なくとも一対のフィラメント固定部40を含む。
図1に側面模式図を示すように、一対のフィラメント固定部40a及び40bは、少なくとも一本のフィラメント2を二箇所で固定する。図11に、一対のフィラメント固定部40a及び40bにより15本のフィラメント2を固定した例の上面模式図を示す。フィラメント2の固定は、例えば、二つの固定部材の間にフィラメント2を挟み、ボルトなどにより締めこむことにより行うことができる。また、一対のフィラメント固定部40の材料を導電性材料とすることにより、フィラメント固定部40a及び40bがフィラメント2への電力供給のための電極を兼ねることができる。なお、フィラメント2の固定は、必ずしもフィラメント2の両端部で行う必要はなく、例えば中央付近の2点を固定することもできる。しかしながら、一対のフィラメント固定部40a及び40bが電極を兼ねることを考慮すると、基材4の表面での成膜面積を大きくすることができる点から、一対のフィラメント固定部40a及び40bによるフィラメント2の固定は、フィラメント2の両端部で行うことが好ましい。
本発明の熱フィラメントCVD装置は、複数対のフィラメント固定部40a及び40bを有し、各々のフィラメント固定部40a及び40bの対が、一本以上のフィラメント2を固定するように構成することもできる。例えば、基材4の表面の中央付近と、両端付近でフィラメント2の温度を調整して成膜する必要がある場合などには、図12に示すように、基材4の表面の中央付近のフィラメント2を固定するためのフィラメント固定部40a及び40bの対と、基材4の表面の両端付近のフィラメント2を固定するための二対のフィラメント固定部40a及び40bとを設け、各々のフィラメント固定部40a及び40bの対に独立に電力を印加することにより、フィラメント2の温度を調整しながら成膜することができる。図12に示す例では、両端の二対のフィラメント固定部40a及び40bに各々3本のフィラメントを固定し、中央のフィラメント固定部40a及び40bに9本のフィラメント2を固定した構成を示している。図12に示す例では、それぞれのフィラメント固定40bには、それぞれに固定されたフィラメント2の温度変化に応じてそれぞれ独立して移動可能なように、フィラメント固定部移動機構がそれぞれ設置されている。なお、フィラメント固定部40の対の数に応じて、複数のフィラメント2の弛みを測定できるように、複数の電磁波測定機構32を配置することができる。
本発明の熱フィラメントCVD装置は、少なくとも一対のフィラメント固定部40の間の距離を変えるためのフィラメント固定部移動機構を含む。
従来の熱フィラメントCVD装置では、図10に示すように、フィラメント2の両端をフィラメント固定部40によって一定の距離に固定する方法が採用されている。しかしながら、この方法では、フィラメント2は熱膨張に伴った伸びが発生するので、フィラメント2中央付近のフィラメント/基材間の距離d0と、フィラメント2両端付近のフィラメント/基材間の距離d1とは異なる距離になってしまう。また、図5に示すように、熱フィラメントCVD法による薄膜の形成速度(成膜速度)は、フィラメント/基材間の距離に依存する。さらに、成膜が終了した後に、フィラメント2の温度を下げるときには、フィラメント2が収縮する。本発明の熱フィラメントCVD装置では、フィラメント固定部移動機構を備えることにより、フィラメント固定部40の間の距離を変えることができる。そのためフィラメント2の温度変化に伴う伸び又は収縮を補償することができる。一対のフィラメント固定部40の間の距離を変えるために、フィラメント固定部40の一つ又は両方にフィラメント固定部移動機構を備えることができる。コストの点から、一対のフィラメント固定部40のうち、片方のフィラメント固定部40にフィラメント固定部移動機構を備えることが好ましい。
図1に示す例では、フィラメント固定部用連結シャフト41及びフィラメント固定部用駆動装置42を含むフィラメント固定部移動機構を示している。フィラメント固定部用連結シャフト41は、一方のフィラメント固定部40bに取り付けられる。また、フィラメント固定部用連結シャフト41は、成膜室1の側壁の真空シール部18を貫通して、外部のフィラメント固定部用駆動装置42へと連結されている。フィラメント固定部用駆動装置42としては、手動式のマイクロメータ又は電動式のアクチュエータなどを用いることができる。フィラメント固定部用駆動装置42のフィラメント固定部用駆動装置4を動作させることにより、フィラメント固定部40bを水平方向に移動させて、フィラメント2の温度変化に伴う伸び又は収縮を補償することができる。なお、図1に示す例では、フィラメント固定部40bがフィラメント2用の電極を兼ねているため、フィラメント固定部用連結シャフト41に電気絶縁部16が配置されている。なお、フィラメント固定部用駆動装置42として、外部からの信号により駆動可能な電動式のアクチュエータなどを用いる場合には、フィラメント固定部用駆動装置42を成膜室1の内部に配置することも可能である。
本発明の熱フィラメントCVD装置は、少なくとも一本のフィラメント2の伸縮状態の変化を検出するためのフィラメント2の伸縮状態検出手段を含む。フィラメント2の伸縮状態検出手段は、少なくとも一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の略中央の検出領域30においてフィラメント2からの少なくとも一つの波長の電磁波の強度を測定するための電磁波測定機構32を含む。また、伸縮状態検出手段は、電磁波測定機構32によって測定された電磁波の強度変化又は電磁波の波長、強度若しくはそれらの組み合せの測定結果に基づいてフィラメント2の伸縮状態の変化を検出する。
図2にフィラメント2の伸縮状態の変化を模式的に示す。図2(a)は、フィラメント2が一対のフィラメント固定部40a及び40bに固定され、直線状に懸架されている様子を示す。また、図2(a)に示す状態を側面から見た模式図を図3に示す。図2(a)に示すように、一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の距離はL0である。検出領域30は、一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の略中央に位置している。検出領域30は、電磁波測定機構32により、フィラメント2からの少なくとも一つの波長の電磁波の強度(又は電磁波の波長、強度若しくはそれらの組み合せ)を測定するための領域である。図2(a)の場合には、検出領域30にフィラメント2が存在するため、フィラメント2からは、フィラメント2の温度に応じた黒体輻射に対応する電磁波が放出されている。また、フィラメント2に対して外部から光などを照射した場合には、フィラメント2からの反射光である電磁波が放出される。図3に示すように、検出領域30a(図2の検出領域30に相当)内のフィラメント2a(図2のフィラメント2に相当)から放出された電磁波のうち、少なくとも一つの波長の電磁波の強度、又は電磁波の波長、強度若しくはそれらの組み合せが、電磁波測定機構32aによって測定される。フィラメント2aから放出された電磁波のうち、少なくとも一つの波長の電磁波の強度が所定の値以上であることが電磁波測定機構32aによって測定された場合には、フィラメント2(フィラメント2a)は、フィラメント固定部40a及び40bに直線状に懸架された状態であると認識することができる。また、電磁波測定機構32aによって、検出領域30a全体の電磁波の波長及び強度を測定する場合には、例えば撮像装置によって検出領域30aの光学的画像イメージを得ることができるので、フィラメント固定部40a及び40bに直線状に懸架された状態であると認識することができる。
なお、検出領域30(検出領域30a)からの電磁波の測定は、図3に示す電磁波測定機構32aにより、フィラメント2に対して垂直に、水平方向に行うことができるがこれに限られない。図3に、電磁波測定機構32b及び検出領域30bとして図示するように、複数のフィラメント2が配置されている平面に対して斜め方向から行うこともできる。斜め方向からの測定により、最も外側のフィラメント2a以外のフィラメント2bの測定も可能となる。この測定方法は、図12に示すように、複数の対のフィラメント固定部40a及び40bを有することにより、複数のフィラメント固定部移動機構を独立して移動可能な構成とする場合に好ましく用いることができる。
次に、図2のフィラメント2の温度が上昇すると、図2(b)に示すような状態になる。すなわち、図2(b)において、フィラメント2は熱膨張のために伸び、フィラメント2’として図示されているように弛む。また、図4では、フィラメント2が弛んだ状態を、フィラメント2a’及び2b’として示している。フィラメント2が弛んだ状態になったため、フィラメント2は検出領域30から外れて、符号2’(図2(b))並びに符号2a’及び2b’ (図3)で示される状態になり、電磁波測定機構32a及び32bによってフィラメント2から放出された電磁波が観測されなくなる。その結果、電磁波測定機構32a及び32bによって測定されるフィラメント2から放出された電磁波のうち、少なくとも一つの波長の電磁波の強度が所定の値以下となる。そのため、フィラメント2a’及び2b’が、フィラメント固定部40a及び40bに弛んで懸架された状態であると認識することができる。例えば、電磁波測定機構32が放射温度計の場合には、図2において、フィラメント2がフィラメント2’になると、放射温度計の温度の測定値が急減に低下することになり、フィラメント2が弛んだことを認識することができる。また、電磁波測定機構32aによって検出領域30a全体の電磁波の波長及び強度を測定する場合には、例えば撮像装置によって検出領域30aの光学的画像イメージを得ることができるので、フィラメント2が弛んだことを認識することができる。
フィラメント2が弛んで懸架された状態であると認識された場合には、フィラメント固定部移動機構によって、フィラメント固定部40a及び40bを移動し、一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の距離L0を大きくすることができる。図2(c)に、距離L0をΔLだけ大きくすることにより、弛んでいたフィラメント2の弛みがとれたことを示す。フィラメント固定部40bの移動の際に、電磁波測定機構32によって検出領域30からの電磁波を測定していると、弛んでいたフィラメント2’の弛みがとれ、フィラメント2の状態になって検出領域30に位置することになる。この結果、電磁波測定機構32によって測定されるフィラメント2から放出された電磁波のうち、少なくとも一つの波長の電磁波の強度が所定の値以上となる。このとき、フィラメント2は、フィラメント固定部40a及び40bに直線状に懸架された状態であると認識することができるので、フィラメント固定部40bの移動を停止することができる。このように、本発明の熱フィラメントCVD装置は、電磁波測定機構32を備えるため、フィラメント2が弛んだ場合にその弛みをフィラメント固定部移動機構によって補償することができ、また、その補償の際にフィラメント固定部移動機構によるフィラメント2の伸ばしすぎを防止することができる。例えば、電磁波測定機構32が放射温度計の場合には、図2において、フィラメント2’のように弛んだ状態のものがフィラメント2のような状態に戻ると、放射温度計の温度の測定値が上昇し、フィラメント2の温度を示すことになるので、フィラメント2’の弛みがとれたことを認識することができる。また、電磁波測定機構32aによって検出領域30a全体の電磁波の波長及び強度を測定する場合には、例えば撮像装置によって検出領域30aの光学的画像イメージを得ることができるので、フィラメント2’の弛みがとれたことを認識することができる。
検出領域30は、一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の略中央に位置していることが好ましい。フィラメント2の温度変化による変形の大きさは、フィラメント2の中央付近が一番大きいため、フィラメント2の変形をより高い精度で測定することができるためである。略中央とは、具体的には、一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の距離Lとして、中央(端からL/2の位置)を中心に長さL/2の範囲の任意の位置のことであり、好ましくは、L/5の範囲の任意の位置のことであり、より好ましくは、L/10の範囲の任意の位置のことである。また、検出領域30は、一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の中央(端からL/2の位置)を含む領域であることが好ましい。また、検出領域30の上下方向の位置は、フィラメント2が一対のフィラメント固定部40a及び40bに直線状に懸架されたときのフィラメント2が電磁波測定機構32による測定の視野に含まれる領域である。
検出領域30の形状は、円形、矩形等の任意の形状から適宜選択することができる。基本的には、電磁波測定機構32による測定の視野を検出領域30とすることができる。
検出領域30の大きさは、少なくともフィラメント2の一部が入る大きさであれば良い。電磁波測定機構32の視野に依存する。具体的には、検出領域30は、直径0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mm、より好ましくは0.3〜1mmの円形、又は一辺の長さが、0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mm、より好ましくは0.3〜1mmの矩形であることができる。また、検出領域30は、直径又は一辺の長さが、フィラメント2の直径の1〜10倍、好ましくは2〜8倍の円形又は矩形であることが好ましい。なお、検出領域30の形状は、円形及び矩形に限られず、任意の形状であることができる。また、測定は大きな視野に対して行って、その一部を検出領域30として定めて、フィラメント2の弛みを判断するための領域とすることができる。また、ピンホールのような光学的なアパーチャーによって、検出領域30の大きさを制限し、好ましい大きさの検出領域30を得ることができる。
電磁波測定機構32としては、放射電磁波を測定し温度情報に変換する放射温度計又は反射電磁波を測定するための撮像装置を用いることができる。
電磁波測定機構32は、成膜室1の外部又は内部に配置することができる。電磁波測定機構32が、成膜室1の内部に配置される場合には、電磁波測定機構32へ成膜中の薄膜が堆積し、及び電磁波測定機構32からの汚染粒子が成膜室1へ放出される恐れがあるという問題がある。この問題を避ける点ため、放射電磁波は、放射電磁波に対して実質的に透明な監視窓10を介して、成膜室1の外部の電磁波測定機構32によって測定することが好ましい。
電磁波測定機構32として用いることのできる放射温度計は、フィラメント2の温度上昇に伴うフィラメント2からの黒体輻射による放出電磁波の所定の波長の強度を測定し、温度に換算する。したがって、検出領域30にフィラメント2が存在するか否かは、放射温度計の温度変化から認識することができる。また、外部光をフィラメント2に照射し、フィラメント2からの反射光(反射電磁波)を測定するための撮像装置を用いることができる。また、撮像装置により、フィラメント2の形状を撮像し、フィラメント2が弛んだ状態であるかどうかを判断することもできる。撮像装置を用いる場合には、検出領域30全体にわたって、フィラメントからの電磁波の波長、強度又はそれらの組み合せを測定することができる。その結果、検出領域30全体の光学的画像イメージを得ることができる。
少なくとも一つの波長の電磁波とは、電磁波測定機構32において測定可能な波長のうちの少なくとも一つのことである。例えば、放射温度計の場合、黒体輻射の電磁波のうち、所定の波長の電磁波の強度を測定することにより、測定対象物の温度に換算することができる。また、光学的測定法により電磁波測定を行う場合には、照射電磁波の波長の反射電磁波を測定することができる。
また、電磁波測定機構32による測定は、大きな視野、例えば直径5〜50mm程度の視野に対して光学的イメージの測定を行い、その一部を検出領域30として定めて、放射温度計によって検出領域30の温度を測定し、フィラメント2の弛みを判断するための領域とすることができる。
本発明の熱フィラメントCVD装置に用いる電磁波測定機構32の電磁波としては、可視又は赤外領域の波長の光に相当する電磁波を用いることが好ましい。
検出領域30にフィラメント2が存在するか否かは、電磁波測定機構32によって測定される電磁波の強度変化によって判断することができる。例えば放射温度計を用いる場合、検出領域30に存在するフィラメント2を加熱することにより、放射温度計の測定値が高温を示す。フィラメント2が高温になり弛みが生じると、フィラメント2が検出領域30から外れてしまい、放射温度計の測定値が急激に低下する。この結果、フィラメント2が弛んでいる状態であると認識することができる。このようにして、測定された電磁波の強度変化に基づいてフィラメント2の伸縮状態の変化を検出することができる。
また、図1に示すように、本発明の熱フィラメントCVD装置は、電磁波の強度変化に基づいて、フィラメント2の伸縮状態の変化を補償するようにフィラメント固定部40a及び40bの間の距離を変えるように構成される自動距離可変機構35をさらに含むことが好ましい。自動距離可変機構35としては、コンピューターなどの情報処理装置を用いることができる。電磁波測定機構32によって測定される電磁波の強度変化の情報は、信号線36によって、自動距離可変機構35に入力される。自動距離可変機構35は、電磁波測定機構32からの信号に基づき、自動的に検出領域30にフィラメント2が存在するか否かを判定する。自動距離可変機構35が、検出領域30にフィラメント2が存在しないと判定した場合には、フィラメント2の伸縮状態の変化を補償するように、フィラメント固定部移動機構のフィラメント固定部用駆動装置42を自動的に駆動するよう構成することができる。すなわち、自動距離可変機構35が、検出領域30にフィラメント2が存在しないと判定した場合には、自動距離可変機構35は、フィラメント固定部用駆動装置42に対して、フィラメント2の弛みを伸ばす方向にフィラメント固定部40bを移動するように、信号線37を介して信号を送る。なお、信号の送受信には無線を用いることもできる。このようにして、自動距離可変機構35からの所定の信号により、フィラメント固定部用駆動装置42を駆動することができる。さらに、自動距離可変機構35は、再度、検出領域30にフィラメント2が存在するようになったかを判定し、検出領域30にフィラメント2が存在するようになった場合には、フィラメント固定部用駆動装置42を自動的に停止するよう構成することができる。本発明の熱フィラメントCVD装置が、自動距離可変機構35を含むことにより、人為的な操作を介する必要なく、フィラメント2の伸縮状態の変化の補償を速やかにかつ確実に行うことができる。自動距離可変機構35は、成膜室1の内部に配置することが可能である。その場合、成膜室1の内部の汚染防止及びフィラメント固定部移動機構への薄膜材料の堆積による故障を防止する点から、自動距離可変機構35の内部の駆動部等は、成膜室1の雰囲気に対して気密な構造であることが好ましい。
フィラメント固定部用駆動装置42としてマイクロメータを用いる場合、例えば、マイクロメータを、ステッピングモータ等の外部からの所定の信号により駆動する装置に接続することができる。自動距離可変機構35からの信号線37を介した所定の信号によってステッピングモータを駆動させることにより、マイクロメータを回転させ、自動的にフィラメント2の伸縮状態の変化を補償することができる。また、フィラメント固定部用駆動装置42としては、アクチュエータなど、外部からの所定の信号により駆動可能な駆動装置を用いることもできる。その場合にも、自動距離可変機構35からの信号線37を介した所定の信号によって、アクチュエータなど駆動装置を駆動させることにより、自動的にフィラメント2の伸縮状態の変化を補償することができる。
図3及び図4には、二つの電磁波測定機構32a及び32bが図示されている。本発明の熱フィラメントCVD装置が、複数の電磁波測定機構32を有する場合にも、複数の信号線36(図3及び図4の場合には、信号線36a及び36b)を介して、自動距離可変機構35に電磁波の強度変化の情報を入力することができる。また、図3及び図4には、一つの自動距離可変機構35が図示されているが、電磁波測定機構32の数に応じて複数の自動距離可変機構35を有することもできる。自動距離可変機構35は、複数の信号線37(図3及び図4の場合には、信号線37a及び37b)を介して、ステッピングモータ等の複数のフィラメント固定部用駆動装置42(図3及び4には図示せず。)に対して所定の信号を送ることができる。この結果、複数のフィラメント固定部用駆動装置42が、それぞれ所定の駆動をすることにより、それぞれ所定のフィラメント固定部40bを移動させることができる。
上述の伸縮状態検出手段によって、フィラメント2の伸縮状態の変化を検出することができる。
図1に示すように本発明の熱フィラメントCVD装置は、フィラメント2に電力を印加するための電源24を有することができる。電源24は、電流導入ケーブル12によって、成膜室1の壁に取り付けられた電流導入ポート13を介して、フィラメント2の電極(フィラメント固定部40a及び40b)に電気的に接続される。成膜室1の壁への電流の流出を避けるため、フィラメント固定部用支柱5及びフィラメント固定部用連結シャフト41等には、電気絶縁部16が配置されて電気的に絶縁される。
図1に示すように本発明の熱フィラメントCVD装置は、原料ガス供給装置20を有することができる。原料ガス供給装置20は、原料ガス配管によって、成膜室1の原料ガス導入口14へと接続される。原料ガス配管には、原料ガスの通過を制御・遮断するための開閉弁を適宜設置することができる。原料ガス供給装置20により、所定の原料ガスを所定の流量で成膜室1へと導入することができる。
図1に示すように本発明の熱フィラメントCVD装置は、成膜室1内の気体を外部に排出し、成膜室1を真空にするための真空ポンプ22を有することができる。真空ポンプ22は、排気用配管によって成膜室1の排気ガス口15へと接続される。排気用配管には、排気速度を制御するための制御弁及び/又は真空ポンプ22への接続をするための開閉弁等を適宜設置することができる。
本発明の熱フィラメントCVD装置の構造は、適宜、変更可能である。例えば、フィラメント2及び基材4の成膜表面は、水平方向に配置されるように説明したが、フィラメント2及び基材4の成膜表面が垂直になるように構成することもできる。また、基材4の成膜表面が下方を向き、成膜表面が下方の下方にフィラメント2を配置するように構成することも可能である。
また、基材4の表面が曲面である場合には、その曲面に沿うようにフィラメント2を配置することにより、曲面の基材4の表面に対しても薄膜を形成することができる。
本発明の熱フィラメントCVD装置は、ダイヤモンド薄膜(多結晶ダイヤモンド薄膜)の形成のために用いることが好ましい。本発明の熱フィラメントCVD装置を用いるならば、速い成膜速度で大面積に均一な膜厚のダイヤモンド薄膜を形成することができる。
熱フィラメントCVD法によって、ダイヤモンド薄膜を形成する場合、成膜プロセス中の基材温度が800〜1000℃となる。そのため、ダイヤモンド薄膜を表面に形成するための基材4の材料として、シリコン、窒化ケイ素、アルミナ及び炭化珪素等の無機材料並びにモリブデン及び白金等の高融点金属を用いることができる。また、成膜中の基材4が高温であるため、基材4とダイヤモンド薄膜との熱膨張係数の差が大きいと、基材4の変形量が大きくなる傾向がある。基材4の材料として、ダイヤモンドの熱膨張係数に近い材料を用いたとき、変形量が小さくなり、例えば、ダイヤモンド薄膜をシール材の表面に形成する場合など、シール効果及び耐摩耗性を必要とする用途において、優れた特性を得ることができる。ダイヤモンドの熱膨張係数は、1.1×10−6/℃であるので、基材4の材料としては、熱膨張係数が8×10−6/℃以下であることが望ましい。なお、熱膨張係数が8×10−6/℃以下のものであれば、SiC、Si3N4などのセラミックス材料に限らず金属材料を用いることもできる。
次に、本発明の成膜方法について説明する。本発明の成膜方法は、上述の本発明の熱フィラメントCVD装置を用いて薄膜を形成するための成膜方法である。本発明の成膜方法は、フィラメント2の伸縮状態検出手段により検出されるフィラメント2の伸縮状態の変化を補償するように、少なくとも一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の距離を変えることを含む。
本発明の成膜方法に用いる本発明の熱フィラメントCVD装置は、フィラメント固定部移動機構及びフィラメント2の伸縮状態検出手段を含む。そのため、本発明の熱フィラメントCVD装置を用いる本発明の成膜方法は、フィラメント2の伸縮状態検出手段により検出されるフィラメント2の伸縮状態の変化を補償するように、少なくとも一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の距離を変えることができる。本発明の成膜方法を用いるならば、熱フィラメントCVD法による成膜の際に、フィラメント2の弛みを修正することができる。そのため、本発明の成膜方法に用いるならば、有効成膜面積を大面積化し、速い成膜速度で大面積に均一な膜厚の薄膜の形成を行うことができる。
また、本発明の成膜方法は、上述のように少なくとも一対のフィラメント固定部40a及び40bの間の距離を変えることに加え、次の工程を含むことが好ましい。すなわち、本発明の成膜方法は、フィラメント固定部40にフィラメント2を固定する工程と、基材台3に基材4を配置し、基材4とフィラメント2との距離を20mmより大きくする工程と、成膜室1内に原料ガスを導入する工程と、フィラメント2に通電することにより、所定の成膜温度までフィラメント2の温度を昇温させる工程と、基材4とフィラメント2との距離を20mm以下にすることにより、基材4の表面に薄膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
本発明の成膜方法は、フィラメント固定部40にフィラメント2を固定する工程を含む。フィラメント固定部40及びフィラメント2については、上述した通りである。フィラメント固定部40が、例えば、二つの固定部材の間にフィラメント2を挟むような構造の場合には、二つの固定部材の間にフィラメント2を挟み、ボルトなどにより締めこむことにより、フィラメント2を固定することができる。均一な膜厚の薄膜を成膜する点から、フィラメント2は、互いに平行に、等間隔に配置されるように固定することが好ましい。より均一な膜厚の薄膜を成膜する点から、フィラメント2の間隔は、2〜20mmであることが好ましく、5〜15mmであることがより好ましい。特に、フィラメント2の間隔が6〜10mmである場合には、優れた膜厚の均一性を得ることができる。また、図5に示すように、1μm/時間以上の成膜速度を得るためには、フィラメント/基材間の距離を15mm以下にすることが好ましい。
本発明の成膜方法は、基材台3に基材4を配置し、基材3とフィラメント2との距離(フィラメント/基材の距離)を20mmより大きくする工程を含む。基材3とフィラメント2との距離との距離は、基材台3を移動することによって、調節することができる。基材4とフィラメント2との距離が20mm、好ましくは50mmm、より好ましくは100mmより大きい場合には、基材4に対する成膜速度は非常に遅いので、フィラメント2が所定の成膜温度になる前の基材4の表面への成膜を防止することができる。成膜の膜質は、フィラメント2の温度によって異なるため、良好な膜質の薄膜を得るためには、フィラメント2が所定の成膜温度になった後に、成膜を開始する必要がある。
本発明の成膜方法は、成膜室1内に原料ガスを導入する工程を含む。原料ガスは、ガス供給装置から原料ガス導入口14を経由して成膜室1内に導入することができる。原料ガスの種類及び流量は、成膜する薄膜の種類に応じて、適宜、調整することができる。
例えば、多結晶ダイヤモンド薄膜を成膜するための熱フィラメントCVD法の場合、原料ガスとして、炭化水素、アルコール、アセトン等の炭素化合物ガスに水素ガスを混合した混合ガスを用いることができる。また、原料ガスに水蒸気、酸素、一酸化炭素などを添加することもできる。また、半導体ダイヤモンド及び導電性ダイヤモンド等の薄膜を成膜するために、ボロンや窒素などを含むドーパントガスを添加することもできる。
原料ガスに水素ガスが含まれている場合、フィラメント2からの熱により活性化された水素は、非ダイヤモンド炭素に対して強いエッチング作用を示し、一方、ダイヤモンドに対してはほとんどエッチング作用を示さない。熱フィラメントCVD法は、この選択的エッチング作用をうまく利用して、基材4上における非ダイヤモンド成分の成長を抑え、ダイヤモンドのみを析出させることにより、ダイヤモンド薄膜を形成することができる。
本発明の成膜方法により、ダイヤモンド薄膜を成膜する際は、次の表の成膜条件にすることが好ましい。
本発明の成膜方法は、フィラメント2に通電することにより、所定の成膜温度までフィラメント2の温度を昇温させる工程を含む。電力は、所定の電源24から電流導入ケーブル12及び電流導入ポート13を経由して、電極としての役割を担う一対のフィラメント固定部40a及び40bへと印加することができる。一対のフィラメント固定部40a及び40bへ印加された電力は、フィラメント2へ印加され、フィラメント2を加熱する。フィラメント2へ印加する電流及び電圧を調整することにより、所定の成膜温度までフィラメント2の温度を昇温させることができる。
フィラメント2の温度を昇温させるときの昇温速度は、フィラメント2の伸縮状態検出手段によってフィラメント2の弛みを検出し、フィラメント固定部移動機構によって弛みを補償することができる範囲であることが必要である。具体的には、フィラメント2の昇温速度は、15〜120℃/分であることが好ましく、40〜90℃/分であることがより好ましい。
本発明の成膜方法は、基材4とフィラメント2との距離を20mm以下にすることにより、基材4の表面に薄膜を形成する工程を含む。所定の成膜温度までフィラメント2の温度を昇温させた後、基材4とフィラメント2との距離を20mm以下、好ましくは2〜20mm、より好ましくは5〜20mm、さらに好ましくは、7〜10mmにすることによって、基材4の表面に所定の薄膜の成膜を開始することができる。
また、成膜の終了後、フィラメント2の温度を下げる際には、フィラメント2の温度上昇の際とは逆に、フィラメント2が収縮することになる。そこで、フィラメント2の温度を下げる際には、フィラメント固定部移動機構によってフィラメント2を弛ませて検出領域30から外し、収縮により電磁波測定機構32によって検出領域30におけるフィラメント2の存在を認識した場合に、フィラメント2を弛ませるという操作により、フィラメント2の温度を下げる際の破壊を防止することができる。
本発明の熱フィラメントCVD装置を用いて、ダイヤモンド薄膜を基材4上に堆積させた。
基材4としては、市販のシリコンウエハー基板又は焼結炭化シリコン基板を用いた。基板の大きさは、φ50mm(2インチサイズのシリコンウエハー)である。
熱フィラメントCVD装置は、図1に示すような構成のものを用いた。すなわち、熱フィラメントCVD装置は、ステンレス鋼製の真空容器により成膜室1を構成し、成膜室1の排気のための真空ポンプ22は油回転ポンプのみで構成されている。原料ガスの励起源であるフィラメント2は、長さ120mmのφ0.15mmのタンタル線を、10mm間隔で互いに平行に直線状に張って用いた。フィラメント2の両端は、一対のフィラメント固定部40a及び40bで固定した。一対のフィラメント固定部40a及び40bのうちの一つ(フィラメント固定部40b)には、フィラメント固定部用連結シャフト41が側壁に取り付けられている。フィラメント固定部用連結シャフト41は、外部のフィラメント固定部用駆動装置42(マイクロメータ)に連結されているので、一対のフィラメント固定部40a及び40bのうちの一つの位置を移動することが可能である。
基板温度は、基材台3をアルメル−クロメル熱電対により測定した。
薄膜を形成する際の核生成密度を増加させるために、基板への傷つけ前処理をした。傷つけ前処理は、具体的には、ダイヤモンドペースト(ダイヤモンド粒径:10〜30μm)で基板表面にスクラッチ処理した後、エタノール中で数分間超音波洗浄することによって行った。
高純度水素にメタンを混合したものを原料ガスとして、フィラメント2の上方より導入した。各々のガス流量は流量計で調節し、装置内の圧力はピラニー真空計及び隔膜真空計により測定した。なお、多結晶ダイヤモンド薄膜を形成するために必要な各々のガス流量及びフィラメント2の温度等の成膜条件は、例えば表1に示す範囲から適宜選択することができる。また、多結晶ダイヤモンド薄膜の成膜条件は公知であり、例えば特許文献3に記載されている。本実施例では、成膜の際の各々のガス流量及びフィラメント2の温度は、多結晶ダイヤモンド薄膜の成膜可能な条件の中から選択し、すべて成膜において一定とした。
フィラメント2に通電し、加熱して、フィラメント2の温度を放射温度計で測定した。用いた放射温度計は、直径約10mmの光学的イメージを得ることができ、光学的イメージの中央のφ1mmの領域の温度を測定することができる。したがって、この放射温度計を用いて、放射温度計の温度測定値の変化からフィラメントの弛みを認識する場合の検出領域30の大きさは、φ1mmの円形であるといえる。また、この放射温度計は、測定対象物であるフィラメント2に光学的イメージの焦点を合わせることができる。その結果、放射温度計によって測定する際の検出領域30の大きさを所定の大きさにすることができる。具体的には、この放射温度計を、放射温度計のφ1mmの円形の検出領域30が、最も外側に張架されたフィラメント2の中央を含み、放射温度計の焦点が張架されたフィラメント2に合うように配置した。本発明の電磁波測定機構32として用い、フィラメント2からの放射電磁波を測定した。フィラメント2の加熱により、フィラメント2が弛むことにより、フィラメント2が所定の検出領域30から外れると、放射温度計の温度の測定値が急激に下がる。その際に、フィラメント2の弛みを補償するようにフィラメント固定部用駆動装置42(マイクロメータ)を動作させた。このとき、放射温度計の温度の測定値が、再度、フィラメント2の温度である高温に戻り、フィラメント2の弛みが補償されたことを認識できるまで、フィラメント固定部用駆動装置42(マイクロメータ)を動作させた。
フィラメント2の加熱の際のみならず、成膜中も常に、所定の検出領域30を放射温度計により測定し、フィラメント2の弛みが検出された際には、上述のように、フィラメント2の弛みを補償した。
上述のようにして作製したダイヤモンド薄膜は、多結晶ダイヤモンドである。成膜した多結晶ダイヤモンド薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することにより、成膜した多結晶ダイヤモンド薄膜の膜厚を測定した。さらに、成膜した多結晶ダイヤモンド薄膜を、走査型電子顕微鏡(SEM)及びX線回折で評価し、膜質を評価した。
表2及び図5に、フィラメント/基板(基材4)間の距離を5〜20mmまで変化させ、上述のように多結晶ダイヤモンド薄膜を成膜した場合の、成膜速度とフィラメント/基板間の距離との関係を示す。成膜速度は、得られた多結晶ダイヤモンド薄膜の膜厚(平均膜厚)及び成膜時間から計算した。上述のように、フィラメント2の加熱及び成膜の際に、電磁波測定機構32及びフィラメント固定部用駆動装置42を用いてフィラメント2の弛みの補正を行ったため、フィラメント/基板間の距離を5mmとした場合でも、均一な膜厚の成膜が可能であった。フィラメント/基板間の距離を7mmとした場合には、5μm/時間という高速の成膜が可能であった。また、フィラメント/基板間の距離を5mmとした場合には、7μm/時間というさらに高速の成膜が可能であった。この結果から、本発明の熱フィラメントCVD装置を用いるならば、速い成膜速度で薄膜を形成することが可能であることが明らかである。
また、以下に述べる理由により、成膜速度の変動を抑えて、均一な膜厚の薄膜を得るためには、フィラメント/基板間の距離の変動が、好ましくは±1mm以内、より好ましくは±0.5mm以内となるように、フィラメント固定部移動機構によってフィラメント2の温度変化に伴う伸び又は収縮を補償することが好ましい。
図5に示す実施例1〜実施例5のプロットを指数関数で近似すると、式(1)の近似式を得ることができる。この近似式に相当する曲線は、図5に図示されている。
y=18.633・exp(−0.189・x) ・・・・・・・・(1)
(1)式で、xはフィラメント/基板間の距離(mm)、yは成膜速度(μm/時間)である。また、この式を変形すると次の式を得ることができる。
x=[ln(18.633)−ln(y)]/0.189 ・・・・(2)
ここで、ある成膜速度をy0として、そのときのフィラメント/基板間の距離をx0とすると、式(2)より、
x0=[ln(18.633)−ln(y0)]/0.189 ・・・(3)
となる。
y0よりα%速い成膜速度y1は、(1+α/100)・y0であるから、そのときのフィラメント/基板間の距離をx1とすると、
x1=[ln(18.633)−ln((1+α/100)・y0)]/0.189 ・・・(4)
となる。
式(3)から式(4)を差し引くと、
x0−x1=ln(1+α/100)/0.189 ・・・(5)
となる。
式(5)のαに10%を代入すると、x0−x1の値は約0.5043mmであるから、成膜速度の変動割合を10%以内にするためには、フィラメント/基板間の距離の変動を、±0.5mm以内とすることが必要であるといえる。また、フィラメント/基板間の距離がどのような値であったとしても、成膜速度の変動割合を10%以内にするためには、一定の変動、±0.5mm以内とすることが必要である。同様に、成膜速度の変動割合を20%以内にするためには、フィラメント/基板間の距離の変動を±0.9647mm(約±1mm)以内とすることが必要である。なお、成膜速度の変動割合に対するフィラメント/基板間の距離の変動の範囲を表3に示す。
次に、図6及び図7に、フィラメント2と基板間の距離が5mm(実施例5)及び7mm(実施例4)の条件で作製した薄膜の膜厚分布を測定した結果をそれぞれ示す。薄膜の膜厚分布はフィラメント2の方向に対して垂直方向に測定した。図6及び図7に、フィラメントの位置を図示した。また、図6及び図7に示す膜厚は、平均膜厚を100%として規格した規格化膜厚である。成膜速度はフィラメント/基板間の距離に依存し、フィラメント2の間隔は10mmなので、膜厚分布は10mm周期で繰り返すものと予想できる。図6及び図7に示す測定範囲はフィラメント2の位置を含む10mm弱の範囲なので、図6及び図7に示す膜厚分布は、薄膜全体のうちの典型的な膜厚分布を示しているといえる。
図7に示すように、フィラメント/基板間の距離が7mm(実施例4)の場合、膜厚分布が±10%以内になっていることが明らかである。一方、図6に示すように、フィラメント/基板間の距離が5mmの場合(実施例5)、膜厚分布が約±20%程度だった。膜厚の均一性の観点から、本実験でのフィラメント2の間隔が10mmである場合、フィラメント/基板間の距離が7mm以上であることにより膜厚分布が±10%以内を得ることができる。膜厚分布が±20%程度の場合には、用途によっては使用に耐える。しかしながら、膜厚分布が±10%以内であれば、さらに一般的な用途の使用に耐える膜厚均一性を有するいえる。均一な膜厚を有する薄膜を得るためにさらなる実験を行った結果、フィラメント2の間隔をL(mm)とした場合、フィラメント/基板間の距離をL(mm)以下にした方が望ましく、より好ましくはフィラメント/基板間距離を0.7×L(mm)以下に設定した方が好適であることが明らかとなった。以上のことから、本発明の熱フィラメントCVD装置を用いることによって、速い成膜速度で均一な膜厚の薄膜を形成することが可能であることが明らかである。
なお、上述の成膜の際のフィラメント2の間隔は、10mmで行ったが、フィラメント2の間隔を5mmとした場合には、隣り合うフィラメント2に流れる電流により生じる磁界の影響により、フィラメント2に振動が発生するという現象が観測された。フィラメント2の振動の発生を避けるために、フィラメント2の間隔は、6mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることがさらに好ましい。
本発明の熱フィラメントCVD装置を用いてさらに大面積に薄膜を形成する場合には、さらに長く、さらに多くのフィラメント2を用いることができる。この場合にも、上述の方法と同様に、フィラメント2の弛みを補償できる。したがって、本発明の熱フィラメントCVD装置を用いるならば、大面積に、速い成膜速度で均一な膜厚の薄膜を形成することのできる。
図8(a)及び(b)に、フィラメント/基板間距離Lが7mmの条件で得られた多結晶ダイヤモンド薄膜(実施例4)について、表面性状及び断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す。また、作製した多結晶ダイヤモンド薄膜(実施例4)をX線回折で測定した結果を図9に示す。今回、作製した多結晶ダイヤモンド薄膜は、ダイヤモンドの(111)面が支配的な結晶がランダムに配列して薄膜を形成しているのが認められる。すなわち、本発明の熱フィラメントCVD装置を用いるならば、少なくとも、一般的に得られる程度の膜質の多結晶ダイヤモンド薄膜を成膜することが可能であることが明らかである。
図13に、熱フィラメントCVD装置を用い、本発明の方法によって作製した多結晶ダイヤモンド薄膜の面内の膜厚均一性を示す。図13に示す膜厚は、5点の平均膜厚を100%で規格化した膜厚である。具体的には、2インチサイズのシリコンウエハー上に多結晶ダイヤモンド薄膜を成膜した後、図14に示す測定点1〜5の位置で膜厚を測定して得られた規格化膜厚である。図13に示すように、測定点1〜5の膜厚分布は、±10%以内である。したがって、熱フィラメントCVD装置を用い、本発明の方法によって作製した多結晶ダイヤモンド薄膜の膜厚は、良好な膜厚均一性を示すことが明らかとなった。