本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施をするための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における発光印刷物(1)を示す。発光印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されて成る。
図2(a)に示すように、印刷画像(3)は、背景部(4)と情報部(5)から構成されて成る。なお、説明の便宜上、印刷画像(3)の中には、第一の有意情報である漢字の「証明」及び第二の有意情報であるアルファベットの「OK」の文字が視認できるが、通常の可視光下での観察においては「OK」の文字は不可視である。また、効果については後述するが、「OK」の文字は紫外線を照射した場合に視認できる。
なお、本発明における「可視光下での観察」とは、発光印刷物(1)に波長が400nmから700nmの可視光が入射し、発光印刷物(1)から生じる反射光を観察者が観察している状況を指しており、より厳密には、正反射光よりも拡散反射光が相対的に多い観察角度に観察者の視点がある状況を指す。また、一方の「紫外線を照射した場合の観察」とは、発光印刷物(1)に200nmから400nmまでの波長帯に含まれる紫外線を照射し、観察者の視点が、発光印刷物(1)から発せられる励起光を観察している状況を指している。
印刷画像(3)は、紫外線を照射することで発光する能力、いわゆる発光能を有する基材の上に形成するか、又は発光能を有さない基材の上に発光層を形成し、その形成層の上に形成される必要がある。発光の形態は蛍光、燐光、蓄光のいずれであってもよく、発光波長は可視領域でも赤外域のような不可視領域でも問題ない。ただし、認証性を考慮すると、可視領域に発光波長を有するものが望ましい。
もともと一般的な上質紙やコ−ト紙は、黄ばみを隠して白くみせるために、蛍光増白剤を混合している場合が多い。蛍光増白剤は、環境中にある紫外線によって青色の蛍光を発し、紙地の黄色と混色して合成色を白色とし、黄ばんだ紙でも明度を落とさずに白く見せる作用を担っている。以上のように、用紙の多くには蛍光増白剤による発光能があり、また、プラスティックカードやフィルム等でも構成材料である樹脂成分が発光能を備える場合がある。
本発明の最も容易な形態では、これら基材自体が有する発光能を利用して発光印刷物(1)を形成する。本実施の形態では蛍光増白剤を含んだ上質紙を基材(2)として使用する例について説明する。
また、後で詳細に説明する背景部(4)及び情報部(5)は、それぞれ複数の背景要素(6)及び複数の情報要素(7)によって形成されるが、本発明における要素とは、画線及び画素のいずれか又はそれらの組合せのことである。
なお、本明細書で言う「画線」とは、印刷画像を形成する最小単位である印刷網点を特定の方向に連続して配置したものであり、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線を言う。一方、本明細書で言う「画素」とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を一塊にしたものであり、円や三角形、四角形を含む多角形、星型等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等も含まれる。
以下、本実施の形態においては、印刷画像(3)を形成する全ての要素が、画線によって形成されている場合について説明する。
図2(a)に示す背景部(4)は、画線幅(W1)の背景要素(6)が、規則的に特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に複数配置されることで一定の階調(濃度)を形成している。また、図2(b)に示す情報部(5)は、画線幅(W2)の情報要素(7)が、規則的に特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に複数配置されることで第一の有意情報である漢字の「証明」の文字を形成して成る。
一定の階調(濃度)を有する背景部(4)の領域の中に、情報部(5)の領域が重なることで、背景部(4)中に面積率の差異が生じ、情報部(5)が表す「証明」の文字が濃淡によって視認される。
背景要素(6)の画線幅(W1)と、情報要素(7)の画線幅(W2)は、互いが重なり合わないという条件を満たせば、同じ画線幅でもよく異なった画線幅でもよい。
なお、説明の便宜上、本明細書中の図の全てにおいて背景要素(6)は、横線が入った画線で表現し、情報要素(7)は、縦線が入った画線で表現しているが、これらの表示は、それぞれの画線の構成を区別しやすくするために行っているものであって、実際の各画線が横線や縦線で形成されているわけではない。実際には各画線内部や画素内部は塗りつぶされて成る。
図3に、背景部(4)を構成している二つの要素群を示す。二つの要素群は、インキの違いによって区分けされ、一つは、図3(a)に示す潜像要素群(8)であり、他の一つは、図3(b)に示すカモフラージュ要素群(9)である。
潜像要素群(8)は、画線幅(W1)の潜像要素(10)が、第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に配置されることで、第二の有意情報を形成して成る。なお、本実施の形態における第二の有意情報とは、アルファベットの「OK」の文字である。
一方、カモフラージュ要素群(9)は、画線幅(W1)のカモフラージュ要素(11)が、同じく第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に配置されて、背景部(4)中で潜像要素群(8)がネガポジ反転した画像を形成している。つまり、前述した背景要素(6)は、潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)とに区分けされて成る。
潜像要素群(8)とカモフラージュ要素群(9)は、可視光下での観察においては目視上等色であり、潜像要素群(8)が形成している第二の有意情報は、可視光下の観察においてカモフラージュ要素群(9)によってカモフラージュされ、背景部(4)の中に隠蔽される。本実施の形態において、潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)の画線幅は、同じ画線幅(W1)及び同じピッチ(P1)であり、結果、同じ面積率で形成されて成る。なお、本発明における「面積率」とは、一定の面積中に占める印刷された面積の割合のことである。
本発明における発光印刷物は、第一のインキ及び第二のインキの二種類で形成するが、潜像要素群(8)及びカモフラージュ要素群(9)のどちらか一方は、第一のインキで形成し、他方は第二のインキで形成して成る。また、情報部(5)は第二のインキで形成して成る。
本実施の形態においては、潜像要素群(8)を第一のインキで形成し、カモフラージュ要素群(9)及び情報部(5)を第二のインキで形成する場合について説明することとする。
図4に、本発明における発光印刷物(1)を形成する印刷画像(3)に用いる二つの画像、第一のインキで形成する画像及び第二のインキで形成する画像を示す。図4(a)に示すのは、第一のインキで形成する画像であり、潜像要素群(8)のみである。図4(b)に示すのは、第二のインキで形成する画像(12)であり、情報部(5)及びカモフラージュ要素群(9)が組み合わさった画像である。
ここで、本発明で用いる第一のインキと第二のインキについて説明する。第一のインキと第二のインキは、少なくとも色相が同じである必要がある。ただし、本実施の形態では、潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)が同じ面積率であることから、第一のインキと第二のインキは色相だけでなく、色彩自体が同じである必要があり、この二つのインキは目視上等色である必要がある。
二つのインキが等色でない場合は、同じ面積率で形成された潜像要素群(8)とカモフラージュ要素群(9)は等色とならず、拡散反射光下の観察において、背景部(4)の中に存在する潜像要素群(8)を完全に隠蔽することができない。
仮に、潜像要素(10)とカモフラージュ要素(11)が同じ面積率でない場合、第一のインキと第二のインキとは、色相は同じで濃淡は異なる必要がある。この場合の具体的な濃淡の構成は後述する。
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。また、本発明における「等色」とは、観察者が色彩を有する二つの観察対象を特に注意をせずに一瞥した場合に、二つの観察対象が異なった色彩ではなく、同じ色彩であると感じる状態のこととする。例えば、色差ΔE6以下程度の値とする。また、本発明でいう「色相が同じ」とは、二つの色において赤、青、黄といった色の様相が一致し、可視光領域の波長の強弱の分布が二つの色において近似することである。
本発明の第一のインキは、紫外線遮断能を有する必要がある。本明細書でいう紫外線遮断能とは、200nmから400nmまでの波長帯に含まれる紫外線をカットする特性をいう。本発明の基本的な考え方は、第一のインキによって紫外線を遮断し、第一のインキの下にある発光能を有する基材や発光層を発光させないことである。よって、第一のインキに要求される紫外線遮断能とは紫外線を透過させない能力であって、それは紫外線吸収能であっても紫外線反射能であってもよい。
紫外線遮断能を有する材料の一例を挙げる。顔料として用い得る無機系紫外線遮断材としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄等が代表的であり、これらは特に高い紫外線吸収特性を有している。また、ハロゲン、カルボニル基、ベンゼン環、不飽和基等を含む有機化合物はいずれも少なからず紫外線を吸収する特性を有しているが、サリチル酸系吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が代表的であり、特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は紫外線長波領域(波長300nm〜400nm)に顕著な吸収特性を有していることで知られている。
また、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アミノアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体、ゼラチン、ポリビニルアルコ−ル等の樹脂は、紫外線領域の紫外線短波の波長の短い領域を特に吸収する特性を持っていることで知られている。
これらの顔料や樹脂の特性を利用して、紫外線遮断能を有する第一のインキを作製する。ただし、印刷適性、堅牢性、耐光性等を考慮すると、樹脂成分に長期にわたって紫外線遮断能を担保させることは困難であると考えられることから、顔料に無機系紫外線遮断材を用いて紫外線遮断能を担保させる形態のインキが最も好ましい。
一方、第二のインキは、紫外線遮断能を有さない、すなわち紫外線を透過するインキである必要がある。一般的にインキに用いられる樹脂成分には少なからず紫外線を吸収したり、反射したりする紫外線遮断能があるが、その程度の遮断能を有していても問題ない。基本的な考え方としては、第一のインキよりも相対的に多くの紫外線を透過すればよいことから、具体的には認証に用いる波長における紫外線の遮断率が第一のインキの2分の1以下であることを基準とする。
第二のインキは、紫外線を照射した場合に、下地の発光によって目視上消失する必要があることから淡い色彩である必要がある。ここで言う「淡い色」とは、拡散反射光下で明度の高い色彩であることを指し、具体的には、網点面積率100%のベタで印刷した場合には、拡散反射光下でL*が70を超える値を有することとする。一般的な着色顔料を微量配合することでこのような淡い色彩を再現してもよいが、より高い再現性で安定して製造するためには、透過性顔料や微粒子顔料と呼ばれる顔料を選択することが望ましい。
これらの顔料は、一般の顔料と比較して紫外線の透過性が高く、かつ、着色力が低いことから、第二のインキに使用する色材としては最も適している。このような透過性顔料や微粒子顔料としては、ダイピロサイド系顔料やシアニン系顔料が存在し、色数も豊富であって、印刷用色材として一般に販売されている。
第一のインキと第二のインキの色彩は特に限定するものではないが、印刷画像(3)の下地となる基材又は発光層の発光色に近い色彩の方が、第一の有意情報の消失効果が高くなるため、より望ましい。例えば、実施の形態のように、用紙に含まれる蛍光増白剤の発光能を利用する場合には、第一のインキと第二のインキの色彩は青色であるとよい。
以上のような性能を備えた第一のインキを用いて潜像要素群(8)を印刷し、また、第二のインキで図4(b)の画像(12)を印刷する。印刷方式は、オフセット印刷で十分な効果を発揮するが、フレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷等で形成してもよい。
本発明の効果について、図5を用いて説明する。発光印刷物(1)を可視光下で観察した場合、より具体的には、光源(13)と観察者の視点(14a)が、図5(a)に示すような位置関係で観察した場合、観察者(14a)には、情報部(5)を形成している第一の有意情報である漢字の「証明」の文字が視認される。
また、発光印刷物(1)に紫外線を照射した場合の観察、より具体的には紫外線ランプ(15)と観察者の視点(14b)が、図5(b)に示すような位置関係で観察した場合、観察者(14b)には、潜像要素群(8)を形成している第二の有意情報であるアルファベットの「OK」の文字が視認される。本実施例においては、基材(2)全体が発光し、アルファベットの「OK」の文字だけが発光していない状態で観察される。
拡散反射光下での観察と透過光下での観察において、視認できる画像が異なる原理について説明する。拡散反射光下の観察において、第二の有意情報を表した潜像要素群(8)と、これと対を成すカモフラージュ要素群(9)とは目視上等色であることから、潜像要素群(8)は、カモフラージュ要素群(9)によって背景部(4)中に隠蔽されて不可視であり、一方、第一の有意情報を表した情報部(5)を構成する情報要素(7)は、背景部(4)を構成する背景要素(6)と重なり合わないよう配置されていることから、面積率の違いによって印刷画像中に濃淡が生じ、情報部(5)を形成している第一の有意情報である漢字の「証明」の文字が可視化されている。
紫外線を照射した場合の観察においては、基材(2)は発光能を有するとともに、第一のインキによって形成された潜像要素群(8)は紫外線を遮断し、第二のインキによって形成された画像(12)は紫外線を透過する。よって、何も印刷されていない基材(2)と第二のインキによって形成された画像(12)下にある基材(2)とが発光することで、第二のインキによって形成された画像(12)の基材(2)とのコントラストが失われて不可視になる一方、第一のインキによって形成された潜像要素群(8)の下にある基材(2)は発光せずに、その他の領域との間に光の強いコントラストが生じ、第二の有意情報であるアルファベットの「OK」の文字が可視化される。
以上の原理によって、通常の可視光下での観察と、紫外線を照射した場合の観察において、発光印刷物(1)中に視認される画像が、第一の有意情報から第二の有意情報へと変化する。
本発明の発光印刷物(1)を構成する背景部(4)は、25%以上75%以下の面積率で形成することが望ましい。25%未満の面積率で背景部(4)を形成すると、潜像要素群(8)の面積率が25%以下となり、透過光下の観察において出現する潜像要素群(8)の視認性が低くなるためである。同様に、75%を超える面積率で背景部(4)を形成すると、情報部(5)の面積率が25%未満となり、拡散反射光下の観察で視認される情報部(5)の視認性が低くなるためである。
また、ピッチ(P1)は、印刷の再現性及び画像の解像度を考慮して設計するとよく、例えば、0.1mmから5mmとする。
本実施の形態では、図6(a)に示すように、蛍光増白剤が入った用紙を基材(2)とし、その上に印刷画像(3)を形成したが、図6(b)に示すように、発光能を有さない基材(2)の上に発光層(16)を形成し、その上に印刷画像(3)を形成してもよい。ただし、図6(b)においては、基材(2)の全面に発光層(16)を形成するように図示しているが、これに限定されず、印刷画像(3)を形成する領域のみに発光層(16)が形成されていればよい。
発光層(16)は、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷等、如何なる印刷方式で形成してもよく、コーティング、スプレー、フィルムの貼付、ラミネート等によって形成してもよい。また、発光層(16)の発光色の色彩はいかなる色彩であってもよい。
ここまで、情報要素(7)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)が全て画線である例で説明したが、全ての要素を画素で形成してもよい。例として、図7に、本発明の発光印刷物の印刷画像(3´)を全て画素で形成した場合の例を示す。
この場合、背景部(4´)は、特定の画素幅(R1)及び特定の画素高さ(H1)の複数の画素から構成される背景要素(6´)が、第一の方向(図中S1方向)に特定のピッチ(P1)で規則的に複数配置されて成り、情報部(5´)は、特定の画素幅(R2)及び特定の画素高さ(H2)の複数の画素から構成される情報要素(7´)が、第一の方向(図中S1方向)に特定のピッチ(P1)で規則的に複数配置されて成り、背景要素(6´)と情報要素(7´)は、重なり合わずに隣接して印刷画像(3´)を形成して成る。なお、背景要素(6´)を構成している複数の画素は、ランダムに配列されるのではなく、図7に示すように規則的に配列されている。
また、背景要素(6´)における画素の高さ(H1)に関しては、画素幅(R1)と同一でもよく違ってもよく、情報要素(7´)における画素の高さ(H2)に関しては、画素幅(R2)と同一でもよく違ってもよい。本発明における「S1方向」とは、背景要素(6´)及び情報要素(7´)が画素の場合、図面中における上下方向のことであり、図7に示すように画素がマトリクス状に規則的に配置されている状態である。
背景部(4´)は、図8(a)に示す潜像要素群(8´)とカモフラージュ要素群(9´)によって成り、潜像要素群(8´)は、潜像要素(10´)から成り、カモフラージュ要素群(9´)は、カモフラージュ要素(11´)から成る。以上のような画素構成を用いても、本発明の発光印刷物を形成することができる。
以上のように、情報要素(7)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)は、画線、画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせで形成される。つまり、図9(a)に示すように、情報要素(7)及び潜像要素(10)を画素で形成し、カモフラージュ要素(11)を画線で形成するなど、要素ごとの単位で画線と画素を組み合わせてもよい。また、図9(b)に示すように、情報要素(7)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)において、それぞれの各要素同士で画線と画素を組み合わせてもよい。また、図9(c)に示すように、情報要素(7)、潜像要素(10)及びカモフラージュ要素(11)において、それぞれの各要素の中で画線と画素を組み合わせてもよい。
また、実施の形態では、潜像要素(10)と、カモフラージュ要素(11)とが同じ画線幅の画線によって形成された例について説明したが、潜像要素(10)と、カモフラージュ要素(11)の画線幅を異ならせることも可能である。
図10に、潜像要素(10)と、カモフラージュ要素(11)の画線幅を異ならせて本発明の発光印刷物の印刷画像(3´´)を形成した例を示す。図10(a)に示すように、背景部(4´´)は、画線幅(W1)と画線幅(W2)の二つの異なる画線幅の背景要素(6´´)が、第一の方向(図中S1方向)に規則的にピッチ(P1)で複数配置されて成り、図10(b)に示す情報部(5´´)は、画線幅(W3)の情報要素(7´´)が、第一の方向(図中S1方向)に規則的にピッチ(P1)で複数配置されて成り、背景要素(6´´)と情報要素(7´´)は、重なり合わずに隣接して印刷画像(3´´)を形成して成る。
背景部(4´´)は、図11(a)に示す潜像要素群(8´´)と、図11(b)に示すカモフラージュ要素群(9´´)によって成り、潜像要素群(8´´)は、画線幅(W1)の複数の潜像要素(10´´)から成り、カモフラージュ要素群(9´´)は、画線幅(W2)の複数のカモフラージュ要素(11´)から成る。
前述したとおり、潜像要素群(8´´)とカモフラージュ要素群(9´´)は、目視上等色に視認されなければならないため、この場合、第一のインキと第二のインキとは、色相が同じであっても等色であってはならず、画線幅(W1)と画線幅(W2)の画線幅の違いに応じた色濃度の差がなければならない。
仮に、画線幅(W1)が画線幅(W2)の2倍の幅であったとしたら、第二のインキは第一のインキの2倍の濃度である必要がある。以上のような画素構成を用いても、本発明の発光印刷物を形成することができる。このような二つの画線幅を意図的に変えた形態は、本発明の効果が不十分である場合に有効である。
例えば、用いた第一のインキの紫外線遮断能が弱く、紫外線を照射した場合に第二の有意情報の視認性が低くなってしまった場合には、二つの画線幅のバランスを変えることで(第一のインキの画線面積率を高くすることで)第二の有意情報の視認性を向上させることができる。
また、情報要素(7)の画線幅も必ずしも一定の幅である必要はない。本実施の形態においては、情報部(5)である「証明」の文字が二値画像であることから、情報要素(7)の画線幅は一定の値としたが、情報部(5)が、例えば、人の顔や風景のような多階調画像である場合には、画像の濃度に応じて画線幅(W2)の値を変えて形成してもよい。つまり、濃い部分の画線幅は太く、淡い部分の画線幅は細く形成すればよい。また、情報要素(7)の幅や高さは、背景要素(6)と重なり合わない範囲であれば変化させてもなんら問題はない。
また、情報部(5)を多階調画像とする場合、要素の幅や高さは変化させず、要素内に複数の異なる階調を配置した構成としてもよい。例えば、図12に示すように、印刷画像(3´´´)内に、一定の階調を成す背景部(4´´´)と女性の顔を第一の有意情報とした情報部(5´´´)とを有する構成において、画線幅(W2)の情報要素(7´´´)の中に濃淡を有した階調を付与することで多階調画像を表現してもよい。情報要素(7´´´)の作製一例として、多階調の原画像を画線幅(W2)の画線として分割することで情報要素(7´´´)を形成することができる。
また、第二のインキに関しては、浸透成分を含んだ有色浸透インキであってもよく、本出願人が既に出願している特願2011−90921号公報に記載されている有色浸透インキを、本発明の第二のインキに使用し発光印刷物を作成することが可能であり、その場合、本発明の発光印刷物の効果に加え、特願2011−90921号公報に記載されている有色浸透インキの効果を奏することは言うまでもない。その場合の形態については、実施例2において説明する。
以下、前述の発明を実施するための最良の形態にしたがって、具体的に作製した発光印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
本実施例1は、発光印刷物(1−1)を構成する三つの要素である、情報要素(7−1)、潜像要素(10−1)及びカモフラージュ要素(11−1)を、それぞれ画線によって形成した例である。
図13に、本発明における発光印刷物(1−1)を示す。発光印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、淡い青色を有する印刷画像(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)には、蛍光増白剤が配合されている一般的な白色上質紙(日本製紙製)を使用した。
印刷画像(3−1)は、図14(a)に示す背景部(4−1)と、図14(b)に示す情報部(5−1)から構成される。
図14(a)に示す背景部(4−1)は、画線幅0.2mmの背景要素(6−1)が、ピッチ0.40mmでS1方向に規則的に複数配置されることで一定の階調(濃度)で形成されて成る。背景部(4−1)の面積率は、50%である。
また、図14(b)に示す情報部(5−1)は、背景要素(6−1)と異なる画線幅0.1mmの情報要素(7−1)が、ピッチ0.4mmでS1方向に規則的に複数配置されることで第一の有意情報が形成されて成る。
なお、本実施例1における第一の有意情報は、実施の形態同様に漢字の「証明」の文字である。背景要素(6−1)と情報要素(7−1)とは、互いに重なり合わない位置に隣接して配置して、印刷画像(3−1)中に第一の有意情報である「証明」の文字が濃淡によって表現される。
図15に、背景部(4−1)を構成している二つの要素群を示す。二つの要素群は、インキの違いによって区分けされ、一つは、図15(a)に示す潜像要素群(8−1)であり、他の一つは、図15(b)に示すカモフラージュ要素群(9−1)である。
潜像要素群(8−1)は、画線幅0.2mmの潜像要素(10−1)が、S1方向にピッチ0.4mmで規則的に配置されて成り、第二の有意情報を形成している。
なお、本実施例1における第二の有意情報とは、アルファベットの「OK」の文字である。カモフラージュ要素群(9−1)は、同じく画線幅0.2mmのカモフラージュ要素(11−1)が、同じくS1方向にピッチ0.4mmで規則的に複数配置され、潜像要素群(8−1)とネガポジ反転の関係を有する画像を形成して成る。
図16は、第一のインキで形成した画像及び第二のインキで形成した画像を示す。図16(a)に示すのは、第一のインキで形成した画像であり、潜像要素群(8−1)のみである。図16(b)に示すのは、第二のインキで形成する画像(12−1)であり、情報部(5−1)及びカモフラージュ要素群(9−1)が組み合わさった画像である。
第一のインキは、紫外線遮断材であるチタンを含有する白インキ(ベストワン GIGA 白 M−SOYA T&K TOKA製)に微量の青色顔料(フタロシアニンブルー5G 大日精化工業製)を配合することで作製した。
第二のインキは、通常のUVオフセット印刷用インキ用ワニスに透過性着色顔料であるダイピロキサイドTMブルーを約4%配合して作製した。第一のインキ及び第二のインキは、いずれも淡い青色であり、同じ面積率で基材に印刷した場合には、拡散反射光下の観察において等色に見えるよう微量の他の色材を加えて調色した。
図16(a)に示した潜像要素群(8−1)を、第一のインキを使用して、オフセット印刷方式で印刷し、図16(b)に示した画像(12−1)を、第二のインキを使用して、オフセット印刷方式で印刷して本発明の発光印刷物(1−1)を得た。
図17に、本発明の発光印刷物(1−1)の効果を示す。図17(a)に示すように、通常の可視光下の観察において、情報部(5−1)である漢字の「証明」の文字が淡い青色で視認され、図17(b)に示すように、紫外線を照射した場合には、基材全体が青色に発光する中で、潜像要素群(8−1)であるアルファベットの「OK」の文字だけが発光せずに視認された。以上のように、可視光下の観察と紫外線を照射した場合の観察とにおいて、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
本実施例2は、第二のインキに紫外線遮断能を有するだけでなく、すかし効果を有した着色浸透インキを用いて発光印刷物(1−2)を形成した例であって、紫外線を照射した場合だけでなく、透過光で観察した場合にも第二の有意情報が視認できる例である。
本実施例2における画線構成は実施例1で図13から図16に示した構成と同じであり、使用した印刷材料である基材及び第一のインキも実施例1と同じであるため、画線構成の説明は割愛する。異なるのは第二のインキのみである。第二のインキについて以下に説明する。
本実施例2における第二のインキは、紫外線遮断能を有さないだけでなく、印刷画像が透過光下で透けて見える(非印刷部よりも明るく観察される)効果を有する浸透成分を含む浸透型インキに、色材をわずかに混合することで形成した有色浸透インキであり、淡い色を有した浸透型インキを指す。
第二のインキは、基材に印刷した場合に、反射光下でははっきりと視認できる色彩を有した印刷画像を形成できる一方、透過光下ではその印刷画像は不可視か、ほとんど視認し難い程度の淡い色彩に変化する特徴を有する。簡潔に表現すると「透かすと画像が消える」効果を有したインキである。
なお、本明細書でいう浸透成分とは、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる働きを成す成分のことを指し、具体的には、セルロ−スの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等を指す。これらの成分は、印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
また、本明細書でいう浸透型インキとは、浸透成分を含んだインキであり、一般的には透かしインキ等と称して販売されているようなインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA製ベストワン透かしインキ、帝国インキ製ユニマーク、東洋インキ製SMXすかしインキ、合同インキ製E2ニス等が存在する。
本発明の有色浸透インキは、これらのインキを用いても作製可能である。これらのインキの中には紫外線を照射した場合に、わずかに発光を呈する場合があるが、その発光強度は蛍光増白剤の発光と比較すると極めて微弱であり、本発明の発光印刷物の形成にあたって特段の配慮を必要とするものではない。
本実施例2において使用した第二のインキを表1に示す。浸透型インキに青色の透過性着色材料を混合することで作製した。本インキに極微量の着色顔料を混合することで第一のインキと等色の色彩のインキとした。
第二のインキを用いて図16(b)の画像(12−1)をオフセット印刷方式で印刷し、実施例1と同様に第一のインキは、紫外線遮断材であるチタンを含有した白インキ(ベストワン GIGA 白 M−SOYA T&K TOKA製)に微量の青色顔料(フタロシアニンブルー5G 大日精化工業製)を混合することで作製し、図16(a)の潜像要素群(8−1)をオフセット印刷方式で印刷して印刷画像(3−1)を得た。
図18に、本発明の発光印刷物(1−2)の効果を示す。図18(a)に示すように、通常の可視光下の観察において、情報部(5−1)である漢字の「証明」の文字が淡い青色で視認され、図18(b)に示すように、紫外線を照射した場合、基材全体が青色に発光する中、潜像要素群(8−1)であるアルファベットの「OK」の文字だけが発光せずに視認された。また、発光印刷物(1−2)を図18(c)に示すように光に透かして、透過光で観察した場合、第一の有意情報である漢字の「証明」の文字が光を透過することで淡く変化して背景部(4−1)とほぼ同じコントラストとなって不可視となり、対して潜像要素群(8−1)であるアルファベットの「OK」の文字だけが光を透過せずに暗く視認されることで、第二の有意情報が視認された。
以上のように、可視光下の観察と紫外線を照射した場合の観察とにおいて、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができたとともに、透過光下でも可視光下で観察された画像とは異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
本実施例2の形態においては、印刷物の真偽は印刷物を単に光にかざして透かすだけで視認できるため、紫外線ランプを必要とせず、万人にとって極めて利便性が高い形態であると言える。
また、本発明本来の、紫外線を照射した場合の画像のチェンジングの効果も全く損なわれないため、より厳密な確認を要求する場合には紫外線を照射して真偽判別を行うこともできる。本実施例2で形成した発光印刷物は真偽判別性に優れ、偽造抵抗力も高い形態であるといえる。