JP5797924B2 - ポリアミド樹脂板状体 - Google Patents
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Description
(a)面圧がかかった摺動体が、摺動相手材に密着している状態で外力が加わると摺動体が弾性変形する。
(b)相手材との密着面は、静摩擦力によりすぐには動かない。
(c)さらに運動外力が加わると、密着面は静摩擦力に耐え切れずに相手材上を瞬間的(弾性挙動的)に滑る。
(d)外力から開放されると同時に、動摩擦力で相手面に再度密着する。
スティック−スリップ現象の抑制のためには、(a)〜(c)に見られるような現象を抑制させる必要があり、具体的には、静摩擦係数と動摩擦係数との差(Δμ)を小さくさせる必要がある。また、(d)に見られるような再度相手材へ密着しにくくさせるために、動摩擦係数の振れ幅を小さくさせる必要がある。
なお、摺動部材としてはフッ素系材料も知られているが(例えば、特許文献3を参照)、フッ素系材料はポリアミド樹脂に比べて機械的強度が低いため、前記用途に用いることができなかった。
[1]ポリアミド樹脂層と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層とからなるポリアミド樹脂板状体であって、少なくとも片面がポリアミド樹脂層であり、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂層の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体の総厚みに対して10〜50%である、ポリアミド樹脂板状体。
[2]前記ポリアミド樹脂が、環状アミドを重合してなるモノマーキャストナイロンである、前記[1]に記載のポリアミド樹脂板状体。
[3]前記ポリアミド樹脂が、ε−カプロラクタムを重合してなるモノマーキャストナイロンである、前記[1]又は[2]に記載のポリアミド樹脂板状体。
[4]前記繊維布がガラスクロスである、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
[5]前記ポリアミド樹脂層の、面圧200kgf/cm2における静摩擦係数と動摩擦係数との差(静摩擦係数−動摩擦係数)が0.015以下である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
[6]厚さが3〜30mmである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
図1は、本発明のポリアミド樹脂板状体の好ましい一実施形態の断面図である。本発明のポリアミド樹脂板状体1は、ポリアミド樹脂層11と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層12とからなり、ポリアミド樹脂層11と繊維布強化層12とは一体化している。
なお、板状体の形状は図示したような平面状のものでも、若干湾曲した曲面状のものでもよい。また、本発明のポリアミド樹脂板状体1は、少なくとも片面がポリアミド樹脂層11であり、図示したように片面のみがポリアミド樹脂層11であってもよく、繊維布強化層12を挟むように2層のポリアミド樹脂層11を配置し、両面がポリアミド樹脂層であってもよい。
ワックス類としてはポリアミド樹脂に通常使用されるものが使用でき、例えば、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタムワックス、水添ポリ−α−オレフィンワックス、パラフィンワックス、イソパラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
ポリアミド樹脂板状体1全体の厚さは、特に限定されず、用途に応じて適宜決定することができるが、好ましくは3〜30mm、より好ましくは5〜15mmである。
ポリアミド樹脂層11は、本発明のポリアミド樹脂板状体1において優れた摺動性を奏する役割を果たす。ポリアミド樹脂層11は、摺動性の観点から、繊維を含有しない。
ポリアミド樹脂層11を構成するポリアミド樹脂は、摺動性及び機械的強度の観点、並びに効率的な製造の観点から、モノマーキャストナイロンであることが好ましく、ε−カプロラクタムを重合してなるモノマーキャストナイロンであることが好ましい。モノマーキャストナイロンは、後述するように環状アミドをモノマーキャスト法により重合させて製造することができる。環状アミドとしては、炭素数4〜12のω−ラクタム、γ−ブチロラクタム、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−カプリロラクタム、ω−ラウロラクタム、又はこれら2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、ε−カプロラクタムが好ましい。
繊維布強化層12は、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維強化樹脂層である。
本発明において、「ポリアミド樹脂が含浸した」とは、繊維布をポリアミド樹脂で完全に浸すことにより、ポリアミド樹脂が繊維布の細部まで入り込み、繊維布の内部に空隙が存在しない状態、好ましくは重合している状態をいう。
本発明に用いることができる繊維布としては、有機繊維布であっても無機繊維布であってもよいが、吸湿性のものや、ポリアミド樹脂の重合反応を阻害するものは好ましくない。本発明に用いることができる繊維布の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維等からなる繊維布を挙げることができる。中でも、機械的強度及び経済性の観点から、ガラス繊維又は炭素繊維からなる繊維布が好ましく、ガラス繊維からなる繊維布がより好ましく、ガラスクロスが好適に使用できる。ガラスクロスはガラス繊維を縦横に編んで、平織等の布状にしたものである。
本発明のポリアミド樹脂板状体は、特に限定されないが、好ましくは以下の工程(a)及び(b)を有する方法により製造することができる。
工程(a):外型内に繊維布を載置した後、環状アミド、重合触媒、重合助触媒及びワックス類を含有する重合用組成物を、前記繊維布が完全に浸り、ポリアミド樹脂層が得られるように前記外型内に注型する工程。
工程(b):前記外型内に内型を嵌合し、加熱・加圧下で前記重合用組成物を重合・成形させる工程。
上記方法は、モノマーキャスト法を利用した方法であり、液状の環状アミドを使用して、繊維布にポリアミド樹脂を含浸させるのと同時にポリアミド樹脂板状体を成形することができ、工程数が少なく、また繊維の細部までポリアミド樹脂を含浸させることができるため好ましい。
まず、図3(a)に示すように、外型21内に繊維布3を載置する。載置される繊維布3の厚さは、得られるポリアミド樹脂板状体の厚さや用途等に応じて適宜決定される。ポリアミド層の厚みを制御する方法として、注型する前に一度型締めし、繊維布表面を平滑にし、付与させるポリアミド層の厚みが均一になるようにすることが好ましい。
外型21内に繊維布3を載置した後、環状アミド、重合触媒、重合助触媒及びワックス類を含有する重合用組成物4を、繊維布3が完全に浸り、ポリアミド樹脂層が得られるように外型21内に注型する。重合触媒及び重合助触媒としては、任意のものを使用することができる。
重合用組成物4中の重合触媒の含有量は、環状アミドに対して、好ましくは0.1〜15モル%であり、より好ましくは3〜8モル%である。
重合用組成物4中の重合助触媒の含有量は、環状アミドに対して、好ましくは0.02〜1モル%であり、より好ましくは0.1〜0.5モル%である。
次に、図3(b)に示すように、外型21内に内型22を嵌合し、加熱・加圧下で重合用組成物4を重合・成形させる。これにより、ポリアミド樹脂の重合と同時にポリアミド樹脂板状体を成形することができ、特に、摺動面(ポリアミド樹脂層側の面)が平滑で摺動性に優れたポリアミド樹脂板状体を成形することができる。反応条件は、モノマー及び重合触媒の種類、並びに得られるポリアミド樹脂板状体の大きさ及び形状等に応じて適宜決定される。反応温度は、通常130〜200℃である。圧力は、好ましくは0.1〜1.0MPa程度である。反応時間は、好ましくは10分〜1時間程度である。
本発明のポリアミド樹脂板状体は、摺動性に優れたポリアミド樹脂層と、機械的強度を有する繊維布強化層とからなり、優れた摺動性及び機械的強度の両方を有する。
本発明のポリアミド樹脂板状体におけるポリアミド樹脂層の、面圧200kgf/cm2(19.6MPa)における静摩擦係数と動摩擦係数との差(静摩擦係数−動摩擦係数)は、相手材が無潤滑の鉄プレートである場合、好ましくは0.015以下、より好ましくは0.010以下、更に好ましくは0.005以下である。本発明のポリアミド樹脂板状体は、低速かつ高荷重条件下でスティック−スリップ現象が発生しない。
[性能評価方法]
(1)成形性
得られたポリアミド樹脂板状体の外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:ポリアミド樹脂層及び繊維布強化層に含有されるワックスが均一に分散し、繊維布強化層においてガラス繊維の内部までポリアミド樹脂が均一に含浸し、得られた板状体の外観に問題なかった。
×:ポリアミド樹脂層表面に凹凸が見られ、また、繊維布強化層の表面に、ガラス繊維へのポリアミド樹脂の含浸が不十分な部分が見られた。
スティック−スリップ評価用試験片として、得られた所定の厚さのポリアミド樹脂板状体を幅25mm×長さ40mmに切り出したものを用いた。測定面は、#320で研磨後、表面粗さRaが0.6〜1.0の範囲に入るように調整した。無潤滑の鉄製プレート(S45Cプレート、#320で研磨、表面粗さRa=0.1)を相手材として用いた。測定は、23℃で行った。
水平に配置した鉄製プレート上に、摺動面(ポリアミド樹脂層側の面)が下になるように試験片を配置し、面圧100kg/cm2(9.8MPa)で試験片を加圧した状態で、上記鉄製プレートを片道400mmの距離を速度5cm/分にて往復運動させたときの摩擦力を測定し、動摩擦係数μk=f(摩擦力)/[F(面圧)×s(摺動面積)]の関係式に従って動摩擦係数を算出した。
動摩擦係数について経時的にモニタリングして、以下の基準でスティック−スリップ特性を評価した。
○:鉄製プレートを片道400mm運動させたときの動摩擦係数の最大変位が±0.005未満であり、スティック−スリップ現象が発生しない。
×:鉄製プレートを片道400mm運動させたときの動摩擦係数の最大変位が±0.005以上であり、スティック−スリップ現象が発生する。
摩擦係数測定用試験片として、得られた所定の厚さのポリアミド樹脂板状体を幅25mm×長さ40mmに切り出したものを用いた。測定面は、#320で研磨後、表面粗さRaが0.6〜1.0の範囲に入るように調整した。無潤滑の鉄製プレート(S45Cプレート、#320で研磨、表面粗さRa=0.1)を相手材として用いた。測定は、23℃で行った。
万能試験機(商品名:UH−500kNA、島津製作所社製)を用いて静摩擦係数及び動摩擦係数の測定を行った。試験片を2つ用意して、鉄製プレートを両側から挟むように2つの試験片を配置した。このとき、それぞれの試験片の摺動面(ポリアミド樹脂層側の面)が鉄製プレートに接触するように配置した。試験片をそれぞれ面圧200kg/cm2(19.6MPa)で加圧した状態で、上記鉄製プレートを速度5mm/分にて摺動させたときの摩擦力を測定し、摩擦係数μ=f(摩擦力)/[2×F(面圧)×s(摺動面積)]の関係式に従って静摩擦係数及び動摩擦係数を算出した。
(ポリアミド樹脂板状体の製造)
ステンレス鋼製ビーカーに無水のε−カプロラクタム50質量部を採り、140〜150℃に調整した。これに重合助触媒のトリレンジイソシアネート0.7質量部を加えた。更に予め溶融しておいた石油系ワックス(1)(商品名:Hi−Mic1080、日本精鑞社製、融点84℃)及び石油系ワックス(2)(商品名:NPS−9210、日本精鑞社製、融点75℃)を、それぞれε−カプロラクタム100質量部に対してワックス(1)15質量部及びワックス(2)2質量部で配合し、均一に撹拌した。
別のステンレス鋼製ビーカーに無水のε−カプロラクタム50質量部を採り、これに重合触媒のラクタム酸ナトリウム(濃度20質量%)5質量部を加え、120〜130℃に調整し、系を均一化した。
ついで、165℃に加熱保持した凹金型内部にガラス繊維平織クロス(ユニチカ社製、商品名:ガラスロービングクロス)を7mm厚さに載置し、ガラス繊維平織クロスへの含浸量及び所定の樹脂層厚さに相当する量の上記配合組成物を金型内部に注入し、型締めを行った。注入は1分で完了した。圧力として0.3MPaを加え、金型温度を165℃に保持したまま、30分間保持した。その後に脱型し、ポリアミド樹脂板状体を得た(全厚さ:8mm、ポリアミド樹脂層の厚さ:1mm)。
ポリアミド樹脂層の厚さを表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
板状体全体の厚さを表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例3と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
ワックス(1)の含有量を表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
ポリアミド樹脂層の厚さと板状体の総厚みを表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
これらに対し、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、ポリアミド樹脂層の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体の総厚みに対して10〜50%の範囲内である実施例1〜7のポリアミド樹脂板状体は、スティック−スリップ現象が発生せず、優れた摺動性を有し、しかも成形性に優れ、摺動部材製品として品質に優れることがわかる。
11 ポリアミド樹脂層
12 繊維布強化層
2 成型器
21 外型
22 内型
23 パッキング部材
3 繊維布
4 重合用組成物
Claims (9)
- ポリアミド樹脂層と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層とからなるポリアミド樹脂板状体であって、少なくとも片面がポリアミド樹脂層であり、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂層の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体の総厚みに対して10〜50%である、ポリアミド樹脂板状体。
- 前記ポリアミド樹脂が、環状アミドを重合してなるモノマーキャストナイロンである、請求項1に記載のポリアミド樹脂板状体。
- 前記ポリアミド樹脂が、ε−カプロラクタムを重合してなるモノマーキャストナイロンである、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂板状体。
- 前記繊維布がガラスクロスである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
- 前記ポリアミド樹脂層の、面圧200kgf/cm2における静摩擦係数と動摩擦係数との差(静摩擦係数−動摩擦係数)が0.015以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
- 厚さが3〜30mmである、請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
- 前記ワックス類の含有量が、ポリアミド樹脂板状体中の前記ポリアミド樹脂100質量部に対して10〜40質量部である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
- 前記ポリアミド樹脂層の厚さが、板状体の総厚みに対して10〜30%である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
- 以下の工程(a)及び(b)を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体の製造方法。
工程(a):外型内に繊維布を載置した後、環状アミド、重合触媒、重合助触媒及びワックス類を含有する重合用組成物を、前記繊維布が完全に浸り、ポリアミド樹脂層が得られるように前記外型内に注型する工程。
工程(b):前記外型内に内型を嵌合し、加熱・加圧下で前記重合用組成物を重合・成形させる工程。
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