JP5794514B2 - 腫瘍血管新生阻害剤 - Google Patents
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Description
一方、血管新生は細胞増殖に不可欠であり、悪性腫瘍が増殖する際にも、腫瘍細胞は、増殖に必要な栄養や酸素を得るために自ら血管新生促進物質を産生し、血管新生を誘導する。また、悪性腫瘍が他の臓器や部位へ転移する場合も血管新生が誘導され、腫瘍細胞は血流にのって移動する。そこで、固形腫瘍の増殖を抑制するために、腫瘍細胞への栄養ならびに酸素の供給源である血管新生を断つという治療が提唱されてきた。すなわち腫瘍細胞そのものを攻撃することなく腫瘍細胞を栄養や酸素の枯渇状態に陥れ、結果として腫瘍細胞の増殖抑制、そして退縮という治療効果をあげるというものである。
この手法の具体的な標的として、腫瘍に到達している腫瘍血管があげられている。癌細胞を含む腫瘍は1〜2mm3程度の大きさになると血管新生促進物質を産生し、当該細胞自身の増殖に要する栄養と酸素とを摂取し、代謝老廃物を運び去るためのシステムを自ら構築するようになる。このシステムにより、当該細胞の初期成長が促進される。そのため、血管新生の抑制による腫瘍細胞の増殖・転移抑制が癌治療に有効であると考えられ、血管新生阻害活性を有する物質に関する研究が行われた。
これまで、血管新生阻害剤の研究は、血管内皮細胞株、正常血管内皮細胞を用いて行われてきたが、最近、腫瘍血管と正常血管の性状は極めて異なることが明らかになってきた(非特許文献1を参照)。例えば、正常血管は動脈、静脈、毛細血管が秩序を持った階層構造をとっているのに対し、腫瘍血管は無秩序な走行をしている。また腫瘍血管内皮細胞同士の関係(接着など)は正常血管内皮細胞に比べて疎であり、周皮細胞も少ないため血管の透過性が亢進している。このように腫瘍血管は正常血管に比べて未熟な血管であるといえる。すなわち、癌治療薬として理想的な血管新生阻害剤の標的を発見するには、従来の正常血管内皮細胞を用いた方法では不十分であると言わざるを得ない。そこで、本発明者らは、理想的な血管新生阻害剤の標的因子の探索のため、腫瘍血管内皮細胞の分離培養技術を確立した。
一方、Transmembrane protein 176B(TMEM176B)は、別名LR8またはClast1ともよばれる4つの推定膜貫通領域をもつ蛋白質である。マウスにおいては小脳の発達に、ラットにおいては樹状細胞の成熟化に関与していることがそれぞれ報告されている(非特許文献2及び3を参照)。
しかしながら、その生理的な機能は不明であり、TMEM176Bが腫瘍血管内皮細胞に高発現していることも、TMEM176Bの発現または機能を抑制することによって腫瘍血管内皮細胞の遊走が抑制されることも知られていなかった。
すなわち、本発明者らは、正常血管内皮細胞と比較して腫瘍血管内皮細胞において高発現する因子として、TMEM176Bを見出し、更には、TMEM176Bの発現を阻害するsiRNAが腫瘍血管内皮細胞に対して遊走抑制活性を示すことを見出した。本発明は上記の知見をもとに完成するに至ったものである。
即ち本発明は、
〔1〕 TMEM176Bの発現または機能を抑制する物質を有効成分として含有する、抗腫瘍剤;
〔2〕 物質が、TMEM176Bの発現を抑制する、以下の(1)〜(3)からなる群より選択される物質である、〔1〕に記載の剤:
(1)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸、
(2)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸、及び
(3)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
〔3〕 物質が、TMEM176Bと結合する抗体である、〔1〕に記載の剤;
〔4〕 TMEM176Bが、以下の(a)〜(e)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤:
(a)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列、
(c)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列、
(d)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列、及び
(e)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列;
〔5〕 血管新生阻害剤である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の剤;
〔6〕 腫瘍血管新生阻害剤である、〔5〕に記載の剤;
〔7〕 腫瘍血管内皮細胞遊走抑制剤である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の剤;
〔8〕 TMEM176Bの発現量を低下させる化合物を選択することを特徴とする、血管新生阻害剤のスクリーニング方法;
〔9〕 以下の(1)〜(3)の工程を含む、〔8〕に記載のスクリーニング方法:
(1)TMEM176Bをコードする遺伝子もしくは該遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞に、被検物質を接触させる工程、
(2)前記細胞におけるTMEM176Bもしくはレポータータンパク質の発現量を測定する工程、および
(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、発現量を低下させる化合物を血管新生阻害剤の候補として選択する工程;
〔10〕 TMEM176Bをコードする遺伝子の発現量を低下させる化合物を選択することを特徴とする、血管新生阻害剤のスクリーニング方法;
〔11〕 TMEM176Bの機能を低下させる化合物を選択することを特徴とする、血管新生阻害剤のスクリーニング方法;
〔12〕 癌を発症する危険性があるか否か、あるいは、癌に罹患しているか否かを判定する方法であって、以下の(1)および(2)の工程を含む方法:
(1)被験動物より採取した試料中の、TMEM176Bをコードする遺伝子もしくはTMEM176Bの発現量、またはTMEM176Bの機能を測定する工程、
(2)正常動物由来の試料において測定した場合と比較して、前記発現量もしくは機能が上昇している被験動物を、癌を発症する危険性があるか、癌に罹患していると判定する工程;
〔13〕 以下の群:
(1)配列番号:29〜43で示される塩基配列、及び
(2)配列番号:29〜43で示される塩基配列の3’末端に2〜4塩基が付加された塩基配列、
から選択されるいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;
〔14〕 二重鎖RNA部分が、配列番号:29〜43から選択されるいずれかの配列番号で示される塩基配列からなる、siRNA;
〔15〕 3’末端に2〜4塩基のオーバーハングが付加されていることを特徴とする、〔14〕に記載のsiRNA;
〔16〕 少なくとも1つの塩基が化学的に修飾されている〔14〕または〔15〕に記載のsiRNA;
〔17〕 少なくとも1つのホスホジエステル結合が化学的に修飾されている〔14〕〜〔16〕のいずれかに記載のsiRNA;
〔18〕 〔14〕〜〔17〕のいずれかに記載のsiRNAを有効成分として含有する抗腫瘍剤;
〔19〕 TMEM176Bの発現または機能を抑制する物質を有効成分として含有する、血管新生阻害剤;
〔20〕 物質が、TMEM176Bの発現を抑制する、以下の(1)〜(3)からなる群より選択される物質である、〔19〕に記載の剤:
(1)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸、
(2)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸、及び
(3)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体;
〔21〕 物質が、TMEM176Bと結合する抗体である、〔19〕に記載の剤;
〔22〕 TMEM176Bが、以下の(a)〜(e)から選択されるアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔19〕〜〔21〕のいずれかに記載の剤:
(a)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列、
(c)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列、
(d)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列、
(e)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ
酸配列;
〔23〕 〔14〕〜〔17〕のいずれかに記載のsiRNAを有効成分として含有する血管新生阻害剤;
に関する。
I. TMEM176BまたはこれをコードするTMEM176B遺伝子
本明細書において、TMEM176Bは公知のタンパク質であり、Genbank Accession No.: NP_001094781、NP_001094782、NP_054739、またはNP_001094784として知られている、配列番号:2、4、6または8で表されるヒトTMEM176Bのアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。本明細書において、タンパク質およびペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。
本明細書において、TMEM176Bはヒトや他の温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の細胞[例えば、ヒト肺線維芽細胞、マウス顆粒細胞など]もしくはそれらの細胞が由来するあらゆる組織[例えば、肺、脳など]または生体内で発現している組織[例えば、胸腺、心臓、肝臓、腎臓、大腸など]等から、公知のタンパク質分離精製技術により単離・精製されるものであってよい。
(a)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列;
(b) 配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列;
(c)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有し、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列;
(d)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列;又は、
(e)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列。
具体的には、配列番号:2、4、6または8で表されるアミノ酸配列からなるヒトタンパク質の他の哺乳動物におけるオルソログのアミノ酸配列、または配列番号:2、4、6または8で表されるアミノ酸配列からなるヒトタンパク質もしくはそのオルソログのスプライスバリアント、アレル変異体もしくは多型バリアントにおけるアミノ酸配列が挙げられる。
ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
ここで「実質的に同質の機能」とは、例えば生理学的に、あるいは薬理学的にみて、その性質が定性的に同じであることを意味し、機能の程度(例、約0.1〜約10倍、好ましくは0.5〜2倍)や、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。また、現時点でTMEM176Bの生体内での役割、すなわち生理機能は未知であるが、配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るタンパク質を、「実質的に同質の機能を有するタンパク質」と見なすことができる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失、付加または置換されている場合、その挿入、欠失、付加または置換の位置は、配列番号:2、4、6または8で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得る限り、特に限定されない。
ここでアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
(f)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(g)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(h)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有し、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(i)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列、
(j)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列であって、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るアミノ酸配列をコードする塩基配列、
を有する遺伝子が挙げられる。
尚、ここで遺伝子とは、cDNAもしくはゲノムDNA等のDNA、またはmRNA等のRNAのいずれでもよく、また一本鎖の核酸配列および二本鎖の核酸配列を共に含む概念である。また、本明細書において、配列番号:1、3、5または7等に示される核酸配列は、便宜的にDNA配列であるが、mRNAなどRNA配列を示す場合には、チミン(T)をウラシル(U)として解する。
本発明において「TMEM176Bの発現を抑制する物質」とは、TMEM176Bをコードする遺伝子(TMEM176B遺伝子)の転写レベル、転写後調節のレベル、TMEM176Bへの翻訳レベル、翻訳後修飾のレベル等のいかなる段階で作用するものであってもよい。従って、TMEM176Bの発現を抑制する物質としては、例えば、TMEM176B遺伝子の転写を阻害する物質(例、アンチジーン)、初期転写産物からmRNAへのプロセッシングを阻害する物質、mRNAの細胞質への輸送を阻害する物質、mRNAからTMEM176Bの翻訳を阻害するか(例、アンチセンス核酸、miRNA)あるいはmRNAを分解する(例、siRNA、リボザイム)物質、初期翻訳産物の翻訳後修飾を阻害する物質などが含まれる。いずれの段階で作用するものであっても好ましく用いることができるが、
より好ましくは、以下の(1)〜(3)からなる群より選択される物質が例示される。
(1)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸、
(2)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸、及び
(3)TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体。
転写産物の好ましい例としては、mRNAが挙げられる。
TMEM176B遺伝子のmRNAの塩基配列と実質的に相補的な塩基配列とは、哺乳動物の標的組織である腫瘍血管の生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る(あるいは該標的配列を切断する)程度の相補性を有する塩基配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAの塩基配列と完全相補的な塩基配列(すなわち、mRNAの相補鎖の塩基配列)と、オーバーラップする領域に関して、約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上の相同性を有する塩基配列である。
本発明における「塩基配列の相同性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
(k)配列番号:1、3、5または7で表される塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列;
(l)配列番号:1、3、5または7で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつ配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を特異的に認識する抗体によって認識され得るタンパク質をコードする配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列;
が挙げられる。
ストリンジェントな条件は、前述のとおりである。
(1) TMEM176B遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸、
(2) TMEM176B遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸、
(3) TMEM176B遺伝子のmRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体。
本発明における「TMEM176B遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸」とは、該mRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。
アンチセンス核酸は、2-デオキシ-D-リボースを含有しているポリデオキシリボヌクレオチド、D-リボースを含有しているポリリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていたりしてよい。
TMEM176B遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸の他の好ましい例としては、該mRNAをコード領域の内部で特異的に切断し得るリボザイム核酸が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。TMEM176B遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
本明細書においては、TMEM176B遺伝子のmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAもまた、TMEM176B遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が動物細胞でも広く起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、上記のアンチセンス核酸やリボザイムの代替技術として汎用されている。
本発明の核酸は、5’または3’末端に、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、通常2〜4塩基程度であり、siRNAの全長として19塩基以上である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、siRNAは、3'末端に突出部配列(オーバーハング)を有していてもよく、具体的には、dTdT(dTはデオキシリボ核酸のデオキシチミジン残基を表わす)を付加したものが挙げられる。また、末端付加がない平滑末端(ブラントエンド)であってもよい。
また、siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖が異なる塩基数であってもよく、例えば、アンチセンス鎖が3'末端および5'末端に突出部配列(オーバーハング)を有している「aiRNA」を挙げることができる。典型的なaiRNAは、アンチセンス鎖が21塩基からなり、センス鎖が15塩基からなり、アンチセンス鎖の両端で各々3塩基のオーバーハング構造をとる(Sun, X.ら著、Nature Biotechnology Vol26 No.12 p1379、国際公開第WO2009/029688号パンフレット)。
具体的には、実施例5に記載されているような、25塩基長のブラントエンド型のsiRNAや、実施例9に記載されているような標的配列部分が19塩基長で3'末端にdTdTを付加された合計21塩基長のsiRNAが挙げられる。
標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、5’-UTRおよび開始コドンから約50塩基まで、並びに3’-UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。上述の規則その他に基づいて選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認する。特異性の確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列およびTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるショートヘアピンRNA(shRNA)は、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
当該修飾として具体的には、siRNAを構成するヌクレオチド分子の一部を、天然型のDNAや、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を施したRNAに置換することができる(Usman and Cedergren,1992,TIBS 17,34;Usman et al.,1994,Nucleic Acids Symp.Ser.31,163を参照)。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、siRNAを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等)、フッ素原子(-F)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。その他上記(1)に記載されたアンチセンス核酸における修飾方法を用いることができる。あるいは、siRNAにおけるRNAの一部をDNAに置換する化学修飾(2'-デオキシ化、2'-H)を施してもよい。また、糖(リボース)の2'位と4'位を-O-CH2-で架橋しコンフォメーションを N 型に固定した人工核酸(LNA:Locked Nucleic Acid)を用いてもよい。
また、siRNAを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖は、リンカーを介し、細胞表層に存在する受容体を特異的に認識するリガンド、ペプチド、糖鎖、抗体、脂質や正電荷や分子構造的に細胞膜表層に吸着し貫通するオリゴアルギニン、Tatペプチド、RevペプチドまたはAntペプチドなどと化学結合していてもよい。
このようにして構築したsiRNAもしくはshRNA発現カセットを、次いでプラスミドベクターやウイルスベクターに挿入する。このようなベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミドなどが用いられる。
また、siRNA分子をDNAまたはRNAベクター中に挿入させて、組換えベクターを用いて発現させることもできる。ベクターは,DNAプラスミドまたはウイルスベクターでありうる。siRNAを発現するウイルスベクターは,限定されないが、アデノウイルス等を用いることができる。
(1)二重鎖RNA部分が、配列番号:29〜43からなる塩基配列を含むsiRNA、
(2)3'末端に2〜4塩基のオーバーハングが付加されていることを特徴とする前記(1)に記載のsiRNA、
(3)少なくとも1つの塩基が化学的に修飾されている前記(1)または(2)に記載のsiRNA、または、
(4)少なくとも1つのホスホジエステル結合が化学的に修飾されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載のsiRNA、
等を例示することができる。ここでsiRNAの二重鎖RNA部分の塩基の長さは15〜50塩基、好ましくは19〜50塩基、更に好ましくは19〜49塩基、15〜49塩基、更に好ましくは19〜25塩基、15〜25塩基、更に好ましくは19〜23塩基である。
本発明において「TMEM176Bの機能を抑制する物質」とは、いったん機能的に産生されたTMEM176Bの機能を発揮するのを抑制する限りいかなるものでもよい。
好ましい一実施態様において、TMEM176Bに対する抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用されることから、該抗体(好ましくはモノクローナル抗体)はヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス−ヒトキメラ抗体などであり、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、常法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、ヒト−ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定に且つ低コストで提供するためには、ヒト抗体産生マウスやファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
TMEM176Bの機能を抑制する物質は、腫瘍血管移行性、細胞膜透過性に優れた物質であることが望ましい。したがって、TMEM176Bの機能を抑制する別の好ましい物質は、Lipinski's Ruleに見合った低分子化合物である。そのような化合物は、例えば、後述する本発明のスクリーニング法を用いて取得することができる。
従って、TMEM176Bの発現もしくは機能を抑制する物質を含有する医薬は、癌の予防および/または治療剤(抗腫瘍剤)として使用することができる。
また、TMEM176Bの発現もしくは機能を抑制する物質は、血管新生の異常を伴う疾患の治療もしくは予防に有用である。従って、TMEM176Bの発現もしくは機能を抑制する物質を含有する医薬は、血管新生の異常を伴う疾患の予防および/または治療剤として使用することができる。
TMEM176B遺伝子の転写産物に相補的に結合し、該転写産物からのタンパク質の翻訳を抑制することができる本発明のアンチセンス核酸や、TMEM176B遺伝子の転写産物(mRNA)と相同な(もしくは相補的な)塩基配列を有し、当該転写産物を標的として該転写産物を切断し得るsiRNA(もしくはリボザイム)、さらに該siRNAの前駆体であるshRNAなど(以下、包括的に「本発明の核酸」という場合がある)は、生体内におけるTMEM176Bの発現を抑制し、腫瘍血管内皮細胞の遊走を抑制するので、抗腫瘍剤等の医薬として使用することができる。
本発明の核酸を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
TMEM176Bに対する抗体や、TMEM176Bの発現もしくは機能を抑制する低分子化合物は、TMEM176Bの産生または機能を阻害することができる。したがって、これらの物質は、生体内におけるTMEM176Bの発現もしくは機能を抑制するので、癌の予防および/または治療剤等の医薬として使用することができる。
上記の抗体や低分子化合物を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
なお前記した各組成物は、上記抗体や低分子化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
また、上述のTMEM176Bに対するアンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する核酸、TMEM176Bに対する抗体またはTMEM176Bの発現もしくは機能を抑制する低分子化合物等を含有する医薬組成物は、異常な血管内皮細胞の遊走を抑制することから、血管新生阻害剤として、血管新生の異常を伴う疾患、具体的には、糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生、黄斑変性症、心不全、骨髄形成異常、インフルエンザ、炎症、関節炎、C型肝炎、乾癬、浮腫、神経変性疾患、アミロイドーシス、特発性肺線維症、多発性硬化症、ウィルソン病、フォンヒッペル・リンダウ病、クローン病、全身性肥満細胞症、骨髄増殖症候群、骨髄異形成等、好ましくは、糖尿病網膜症、黄斑変性症、炎症、関節炎、乾癬、浮腫、特発性肺線維症、フォンヒッペル・リンダウ病、クローン病等の治療、予防、または進行防止にも用いることができる。
併用する薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、Bevacizumab、Sunitinib、Sorafenib、Erlotinib、Erbitaxなどの血管新生阻害薬、ASA404をはじめとする血管破滅薬、5-FU(フルオロウラシル)、ゲムシタビン、シスプラチン、イリノテカン、カルボプラチン、パクリタキセル等の化学療法剤等が挙げられる。
上述の通り、TMEM176Bの発現および/または機能を抑制すると、腫瘍血管内皮細胞の遊走が抑制され、血管新生阻害活性を有する。従って、TMEM176Bの発現および/または機能を抑制する化合物またはその塩は、癌の予防および/または治療剤(抗腫瘍剤)として使用することができる。
したがって、TMEM176Bを産生する細胞は、TMEM176B(またはTMEM176B遺伝子)の発現量および/または機能を指標とすることにより、血管新生阻害活性を有する物質のスクリーニングのためのツールとして用いることができる。
また、TMEM176Bを産生する能力を有する細胞としては、公知慣用の遺伝子工学的手法により作製された各種の形質転換体が例示される。宿主としては、例えば、H4IIE-C3細胞、HepG2細胞、HEK293細胞、COS7細胞、CHO細胞などの動物細胞が好ましく用いられる。
具体的には、TMEM176BをコードするDNA(即ち、配列番号:1、3、5または7で表される塩基配列または該塩基配列に対し相補性を有する塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ配列番号:2、4、6または8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同質の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA)を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結して宿主動物細胞に導入することにより調製することができる。
TMEM176Bをコードする遺伝子は、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得することができる。すなわち、TMEM176BをコードするDNAは、例えば、配列番号:1、3、5または7で表される塩基配列に基づいて、適当なオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして合成し、前記したTMEM176Bを産生する細胞・組織由来のcDNAもしくはcDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーション法やPCR法を用いてクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(上記)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
次いで、得られたTMEM176B遺伝子を用いて、通常の遺伝子工学的方法に準じてTMEM176B(タンパク質)を製造・取得することができる。
例えば、TMEM176B遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物からTMEM176Bを取得すればよい。上記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自律的に複製できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、TMEM176Bをコードする遺伝子が導入されたものを好ましく挙げることができる。
尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。
例えば、大腸菌での発現に使用される発現ベクターは、lac、trp、tacなどのプロモーターを含む発現ベクターであって、これらはファルマシア社、タカラバイオ等から市販されている。当該発現ベクターにTMEM176Bをコードする遺伝子を導入するために用いられる制限酵素もタカラバイオ等から市販されている。さらなる高発現を導くことが必要な場合には、タンパク質:TMEM176Bをコードする遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40 oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞等を挙げることができる。哺乳動物細胞としては、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、ヒトFL細胞、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記)、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットH4IIE-C3細胞、ラットGH3細胞などが用いられ得る。例えば、TMEM176Bの大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
また、TMEM176BもしくはTMEM176B遺伝子の発現量を低下させる物質、またはTMEM176Bの機能を低下させる物質を選択する際に、被検物質を接触させない対照細胞を比較対照として用いることもできる。ここで「被検物質を接触させない」とは、被検物質の代わりに被検物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、TMEM176BもしくはTMEM176B遺伝子の発現量またはTMEM176Bの機能に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
あるいは、上記のスクリーニング方法は、TMEM176Bを産生する能力を有する細胞に代えて、該細胞の抽出液、あるいは該細胞から単離精製したTMEM176Bに、被検物質を接触させることにより行うこともできる。
本発明は、TMEM176Bを産生する能力を有する細胞における該タンパク質(遺伝子)の発現を、被検物質の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、血管新生阻害活性を有する物質のスクリーニング方法を提供する。本方法において用いられる細胞、被検物質の種類、被検物質と細胞との接触の態様などは、上記と同様である。
従って、より具体的には、本発明は、
(a)TMEM176Bを産生する能力を有する細胞を被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該タンパク質をコードするmRNAの量を、本発明の検出用核酸を用いて測定、比較することを特徴とする、血管新生阻害活性を有する物質のスクリーニング方法、および
(b)TMEM176Bを産生する能力を有する細胞を被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該タンパク質の量を、本発明の検出用抗体を用いて測定、比較することを特徴とする、血管新生阻害活性を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
(i)正常あるいは疾患(例えば、大腸がん、肺がんなどの移植モデルマウス:KSN /Slc nudeマウスの右背部皮下にがん細胞を移植したモデルマウスなど)モデル非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して被検物質を投与し、一定時間経過した後(30分後〜3日後、好ましくは1時間後〜2日後、より好ましくは1時間後〜24時間後)に、血液、あるいは特定の臓器(例えば、脳等)、あるいは臓器から単離した組織または細胞を得る。
TMEM176BのmRNAは、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出して定量することができ、あるいは自体公知のノーザンブロット解析により定量することもできる。一方、TMEM176Bのタンパク質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳述する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)TMEM176B遺伝子を発現する細胞(例えば、TMEM176Bを導入した形質転換体)を上記の方法に従って作製し、常法に従って培養する際に被検物質を培地もしくは緩衝液中に添加し、一定時間インキュベート後(1日後〜7日後、好ましくは1日後〜3日後、より好ましくは2日後〜3日後)、該細胞に含まれるTMEM176BあるいはそれをコードするmRNAを、上記(i)と同様にして定量、解析することができる。
RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のTMEM176B遺伝子の領域が増幅できるように、TMEM176B遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
被検物質を添加した細胞におけるTMEM176B遺伝子の発現が被検物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して2/3倍以下、好ましくは1/2倍以下、更に好ましくは1/3倍以下であれば、該被検物質はTMEM176B遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。
また、TMEM176Bの発現量を変化させる物質のスクリーニングは、TMEM176B遺伝子の転写調節領域を用いたレポーター遺伝子アッセイで行うことも可能である。ここで、「転写調節領域」とは、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を指し、例えば、(i)5'-レース法(5'-RACE法)(例えば、5'-full Race Core Kit(タカラバイオ社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5'末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5'-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することが出来る。
レポータータンパク質としては、β-グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ(GAS)およびグリーン蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。
調製したTMEM176B遺伝子の転写調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。ベクターに搭載される選択マーカー遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、安定な形質転換細胞を得ることができる。あるいは、TMEM176B遺伝子の転写調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、宿主細胞内に一過的に発現させてもよい。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
(i)本発明の検出用抗体と、試料液および標識化されたTMEM176Bとを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたタンパク質を検出することにより試料液中のTMEM176Bを定量する方法や、
(ii)試料液と、担体上に不溶化した本発明の検出用抗体および標識化された別の本発明の検出用抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中のTMEM176Bを定量する方法等が挙げられる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
競合法では、試料液中のTMEM176Bと標識したTMEM176Bとを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中のTMEM176Bを定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、試料液中のTMEM176Bと固相化したTMEM176Bとを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中のTMEM176Bと過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化したTMEM176Bを加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中のTMEM176Bの量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
以上のようにして、本発明の検出用抗体を用いることによって、細胞におけるTMEM176Bの量を感度よく定量することができる。
本発明のスクリーニング方法は、被検物質がTMEM176Bの機能を抑制するか否かを指標として行うこともできる。
具体的には、TMEM176Bを発現する腫瘍血管内皮細胞において、被検物質を添加することにより、該細胞の遊走が抑制されるか否かを測定することにより実施することができる。例えば、被検物質存在下における腫瘍血管内皮細胞の細胞遊走が、被検物質の非存在下における細胞遊走に比べて、約10%以上、好ましくは約20%以上、より好ましくは約30%以上、更に好ましくは約50%以上阻害された場合に、該被検物質を、TMEM176Bの機能抑制物質、従って、血管新生阻害活性を有する物質の候補として選択することができる。
上記のスクリーニング方法において、コントロールとして、常法を用いて作製される、TMEM176B遺伝子がノックアウトされた細胞を用いることにより、被検物質がTMEM176B遺伝子を発現していないコントロール細胞において上記機能を示さないことを確認できる。すなわち、上記のスクリーニング方法において得られる血管新生阻害活性を有する候補物質の作用機序が、TMEM176BもしくはTMEM176B遺伝子の発現抑制またはTMEM176Bの機能抑制に基づくものであることが確認できる。
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物を上述の予防・治療剤として使用する場合、上記TMEM176Bの発現または機能を抑制する低分子化合物と同様に製剤化することができ、同様の投与経路および投与量で、ヒトまたは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して、経口的にまたは非経口的に投与することができる。
また、本発明は、被験動物より採取した試料中のTMEM176Bの発現量を測定することを特徴とする癌の発症または発症リスクの判定方法を提供する。当該方法は以下の(a)および(b)の工程を含む。
(a)被験動物より採取した試料中の、TMEM176B遺伝子もしくはTMEM176Bの発現量、またはTMEM176Bの機能を測定する工程
(b)正常動物由来の試料において測定した場合と比較して、前記発現量もしくは機能が上昇している被験動物を、癌を発症しているか、将来発症するリスクが高いと判定する工程
を提供する。
上記測定の結果、被験動物より採取した試料中のTMEM176B遺伝子の発現量またはTMEM176Bの量が、正常動物より採取した試料中のTMEM176B遺伝子の発現量またはTMEM176Bの量と比較して有意に高かった場合、該被験動物は、癌を発症しているか、将来発症するリスクが高いと判定することができる。あるいは、正常動物における発現量を予め同定しておき、例えば、その平均値+2SDをカットオフ値として規定し、被験動物より採取した試料中のTMEM176B遺伝子の発現量またはTMEM176Bの量が、当該カットオフ値を超えた場合に、該被験動物は、癌を発症しているか、将来発症するリスクが高いと判定することもできる。
移植用癌細胞懸濁液の調製
HSC3(ヒト舌癌細胞)は10%FBS(Hyclone社製)を含有するDMEM培地(SIGMA社製)を用いて、A375SM(ヒト高転移性のメラノーマ細胞)は10%FBS(Hyclone社製)を含有するMEM培地(GIBCO社製)を用いて、OSRC2(ヒト腎癌細胞)は10%FBS(Hyclone社製)を含有するRPMI培地(SIGMA社製)を用いて、それぞれ37℃、5% CO2条件下で培養した。培地を吸引除去後、PBS(日水製薬社)で1回洗浄し、0.5%トリプシン‐EDTA溶液(SIGMA 社製)を添加して、37℃、5% CO2条件下5分で剥離した細胞を、10% FBS含有DMEM培地(SIGMA社)を用いて懸濁した。該細胞懸濁液を1000rpm、4℃、5分間遠心して細胞を回収し、ハンクス緩衝液(Hank's buffered salt solution、以下HBSSと記す。GIBCO社製)で1x10 7細胞/mlに希釈・懸濁して移植用癌細胞懸濁液とした。
マウスへの癌細胞の移植
6〜7週齢のマウス(ストレイン:KSN/Slc nude、性別:female、ブリーダー:日本エスエルシー)の右背部皮下に、1匹当たり実施例1で調製した移植用癌細胞懸濁液0.1mlを、1mLシリンジ注射器(テルモ社製)と27G針(テルモ社製)を用いて注入した。移植腫瘍の直径が約10mmになるまで飼育した。
マウス初代血管内皮細胞の調製
実施例2にて作成した腫瘍皮下移植マウスをイソフルラン(アボットジャパン社製)で全身麻酔後、安楽死させた。腫瘍部分(腫瘍塊)を摘出し、終濃度10〜15mg/ml のII 型コラゲナーゼ(Collagenase Type II、GIBCO社)溶液20ml中でハサミを用いて細かく切断後、終濃度20〜30μg/mlとなるようにDNase(Roche社製)を加え、37℃で30分インキュベート(振蕩)して細胞懸濁液を調製した。該細胞懸濁液を含むチューブを氷上にたて、沈殿した未消化の組織片を除いた懸濁液(上層部分)を100μmメッシュサイズのセルストレーナー(BD Biosciences社製)を通して新しい50mLチューブに移した。そこに該細胞懸濁液と等量のFBSを添加してコラゲナーゼを失活させた。1000rpm、4℃、5分間遠心して細胞を回収後、20mLのHBSS(GIBCO社製)で懸濁した。該細胞懸濁液を同量(20ml)のHistopaque(登録商標)‐1077(SIGMA ALDRICH社製)上に重層し、2000rpm、4℃で20分遠心し、中間層に分離された単核球細胞を回収した。回収液に40mlのHBSS(GIBCO社製)を添加し、1000rpm、4℃で10分間遠心して細胞を回収後、40mlの0.5%BSA(Albumin solution,from bovine serum,30%,ASEPTICALLY FILLED:SIGMA社製)含有HBSSで再懸濁した。1000rpm、4℃、5分間遠心した後、1mlの0.5%BSA含有HBSSで懸濁し、室温で20分インキュベート(攪拌)した。そこに、ラット抗マウスCD31抗体(Purified Rat Anti-mouse CD31、BD Biosciences pharmingen社製)を5μl加え、4℃で30分間インキュベート(攪拌)した。1000rpm、4℃、5分間遠心した後、細胞を0.5%BSA含有HBSS にて懸濁して、再度1000rpm、4℃、5分間遠心した。回収した細胞を80μl の0.5% BSA含有MACS buffer(脱気した2mM EDTA含有PBS緩衝液)で懸濁後、ヤギ抗ラットIgG 磁気ビーズ (Goat Anti-Rat IgG Microbeads、Miltenyi Biotec社製)を20μl加え、4℃で15分間静置した。1000rpm、4℃、5分間遠心し、沈殿した細胞を1mlのMACS bufferで懸濁した。該懸濁液の細胞数が1×107個以下であれば MSカラム(MS Columns、Miltenyi Biotec社製)を、1×107個以上であればLSカラム(LS Columns、Miltenyi Biotec社製)を用いて以下の操作(MACS)を行った。先ず、選択したカラムを付属の磁気マグネットに設置し、500μl のMACS bufferを3回加えキァリブレーション(初期較正)した後、細胞懸濁液1mLをカラムに加え、500μlのMACS bufferで3回洗浄した。カラムをマグネットから外し、カラム内に残った磁気標識されたCD31陽性細胞を、カラムに付随しているシリンジを用い、1mLのMACS bufferで15mlチューブに押し出した。該細胞を血管内皮細胞専用培地EGM-2MV(Lonza社製)を用いて再懸濁し、細胞数を計測後、1.5%ゼラチン(SIGMA社製)含有PBSでコーティングした6 well plate (Nunc社製)に約2x105細胞/ wellの割合でまき、終濃度500ng/mlのジフテリア毒素(Calbiochem社)を含む20%FBS含有EGM-2MV培地で16時間培養後、ジフテリア毒素を含まない培地に変換し約2週間培養した。培養後の細胞を回収し、0.5%BSA含有HBSSにて再懸濁した後、上記CD31抗体の代わりにBS1-B4(Vector Laboratories社)を用いたMACSによってBS1-B4陽性細胞を分離・回収し、腫瘍血管内皮細胞として以下の実験に使用した。一方、正常血管内皮細胞は、腫瘍細胞を移植していないマウスの皮膚血管を出発材料とし、上記腫瘍血管内皮細胞の調製法と同様の操作で調製した。
マウス初代血管内皮細胞の培養
血管内皮細胞用増殖培地(ブレットキットEGM-2MV、Lonza社製)を用いて37℃、5% CO2条件下で培養した。継代の際は、フラスコから培地を吸引除去後、PBS(GIBCO社製)で1回洗浄し、0.05%トリプシン‐EDTA溶液(GIBCO社製)を添加後、37℃、5% CO2条件下3分で剥離した細胞を、10% FBS含有DMEM培地(ナカライテスク社製)を添加して懸濁・回収した。該細胞懸濁液を800rpmで室温、5分間遠心して細胞を回収し、EGM-2MV培地で希釈・懸濁して培養した。
マウス初代血管内皮細胞へのsiRNAトランスフェクション
0.8mlのEBM-2培地(Lonza社製)に10μMのsiRNA溶液1.44μlとLipofectamine RNAiMAX試薬(Invitrogen社製)8μlを添加して混和後、室温で10〜20分静置して以下に示すsiRNA(センス鎖のみを示す)とリポソームの複合体を形成させた。
mTMEM176B-1 siRNA:CCCUGGGACUAAGUCUCCGAAGUAU(配列番号17)
mTMEM176B-2 siRNA:UGCAAUCAAGCAUGGACCCUGGGUA(配列番号18)
尚、ここで用いたsiRNAは、Invitrogen社市販品である(mTMEM176B-1:TMEM176B Stealth Select RNAi siRNA (MSS227202)、およびmTMEM176B-2:TMEM176B Stealth Select RNAi siRNA (MSS227203)である。
遊走アッセイ
アンジオジェネシスシステム:血管内皮遊走アッセイ(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて測定した。即ち、siRNAトランスフェクション48時間後に、実施例5にて作成した遊走アッセイ用6穴プレートの培地を吸引除去し、PBS(GIBCO社製)で1回洗浄後、0.2% BSAを含有するEBM-2培地を1〜2ml/ウェルで添加して37℃、5% CO2条件下で2〜3時間培養した。ピペッティングにて細胞を剥離・懸濁させた後、0.2%トリパンブルー(GIBCO社)染色にて細胞数を計測した(10〜20x104細胞/ml程度になるよう、必要に応じて0.2% BSAを含有するEBM-2培地で希釈した)。室温に戻した遊走アッセイ用96穴プレート(ベクトン・ディッキンソン社製)の上部チャンバーに0.075ml/ウェルで上記細胞懸濁液を添加し、続いて、EBM-2培地で10倍希釈したEGM-2MV培地を0.225ml/ウェルで下部ウェルに添加し、CO2インキュベーター(37℃、5% CO2条件下)で16〜20時間培養した。上部チャンバー内の培養液を吸引除去後、HBSS(GIBCO社)にて4μg/mlの濃度に調製した Calcein AM(ベクトン・ディッキンソン社製)溶液0.225ml/ウェルで満たした別の96穴プレート(Falcon社製)に該チャンバーを浸し、そのままCO2インキュベーター(37℃、5% CO2条件下)で90分間培養して、チャンバーメンブレンを通過(遊走)した細胞を蛍光標識した。下方測光型蛍光プレートリーダー(CytoFluorII, PerSeptive Biosystems社製)で蛍光値を測定し(励起波長485nm/測定波長530nm)、上部チャンバーに撒きこんだ細胞数で補正して104細胞当たりの蛍光値を算出した。細胞を含まない培地のみ(ブランク)の測定値を0%、siRNAを含まないトランスフェクション試薬のみを添加した細胞(モック)の測定値を100%として、siRNAを導入した細胞の相対値(%)を計算した。以下の計算式にて遊走抑制率を計算した。
遊走抑制率=100%- siRNAを導入した細胞の相対値(%)
結果を表1に示した。
定量的RT-PCR
(RNA調製)
実施例5記載の細胞から、QuickGene-800(富士フィルム社製)を用い、添付のプロトコールに従ってRNAを調製した。即ち、siRNAトランスフェクションの48時間後に、実施例5にて作成したRNA調製用6穴プレートの各ウェルから培地を吸引除去した後、QuickGene RNA cultured cell kit S(富士フィルム社製)添付のLRC溶解液に2-メルカプトエタノールを10μl/mlで添加した混合液を350μl/ウェルで添加し、細胞溶解液を調製した。70%エタノール溶液を350μl添加して混合後、10000rpmで室温、1分間遠心して混合液を回収し、回収した混合液全量をキット添付のカートリッジに添加した。該カートリッジをQuickGene-800の所定の場所にセット後、RNAモードを選択してRNAを自動調製した。調製したRNAはNanodrop-1000(Thermo scientific社製)で濃度を測定し、RT-PCR反応に供した。
(RT−PCR)
調製したRNAを鋳型としてTaqMan Reverse Transcription Reagents(ABI社製)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として定量しようとする遺伝子をコードする塩基配列領域を特異的に増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)を設計し、通常の方法で合成した。マウスTMEM176Bを定量する際には下記に示される塩基配列からなるプライマー1および2を用いた。
マウスTMEM176B プライマー1:CTCCAAGTCTACTCCTCAAGCTCCA(配列番号19)
マウスTMEM176B プライマー2:CCAGAGTCCTACAGGAAAGCAGAGA(配列番号20)
18S ribosomal RNA プライマー1:GGGAGCCTGAGAAACGGC(配列番号21)
18S ribosomal RNA プライマー2:GGGTCGGGAGTGGGTAATTT(配列番号22)
((対照細胞の発現レベル)−(siRNAを導入した細胞の発現レベル))/(対照細胞の発現レベル)×100
ここで対照細胞とは、siRNAを含まない、トランスフェクション試薬のみを添加した細胞(モック)を意味する。表2はマウスTMEM176B遺伝子の各siRNA(実施例5を参照)を、マウス初代腫瘍血管内皮細胞へ導入した際のマウスTMEM176Bの遺伝子発現抑制率を示す。
マウス初代腫瘍血管内皮細胞での発現
実施例4で調製した細胞から実施例7に記載の方法でRNAを調製し、下記に示される塩基配列からなるプライマー3および4を用い、定量的RT-PCRを実施した。
マウスTMEM176B プライマー3:TGTTCCTAGCGTTCTGCATCATGC(配列番号23)
マウスTMEM176B プライマー4:CCGGCCATACATACTTCGGAGACTT(配列番号24)
その結果、TMEM176Bの発現は、マウス初代正常血管内皮細胞と比較して、マウス初代腫瘍血管内皮細胞で顕著に高いことが示された。(図1)
ヒトTMEM176Bの発現抑制
ヒトTMEM176Bに対するsiRNA配列(表3を参照)(19塩基対と2塩基の3'末端オーバーハングとからなる21塩基の二本鎖siRNA)を、アミダイトを用いたホスホロアミダイト法によりRNA合成機(ABI394)にて合成した。
1mlのOpti-MEM培地(GIBCO社製)あたりLipofectamine RNAiMAX試薬(Invitrogen社製)10μlを添加して混和後、6穴プレート(旭テクノグラス社製)に400μl/ウェルで分注した。該RNAiMAX希釈溶液400μlに10μMのsiRNA溶液2μlを添加あるいは非添加し、室温で20分間静置してsiRNAとリポソームの複合体を形成させた。そこに、10%のFBSを含有するDMEM培地(GIBCO社製)で1x105細胞/mlに調製したHEK293(ヒト胎児腎由来細胞株)の細胞懸濁液を1.6ml添加し、37℃、5% CO2条件下で一晩培養した。その後、6穴プレートの各ウェルから培地を吸引除去した後、QuickGene RNA cultured cell kit S(富士フィルム社製)添付のLRC溶解液に2-メルカプトエタノールを10μl/mlで添加した混合液を350μl添加し、細胞溶解液を調製した。以降、実施例7記載の方法でRNAを調製し、ヒトTMEM176Bに特異的なプライマーおよびヒトGAPDHに特異的なプライマーを用い、定量的RT-PCRを実施した。各サンプルにおけるヒトTMEM176Bの発現量をGAPDHの発現量で補正した値をそれぞれのサンプルにおけるTMEM176Bの発現レベルとし、実施例7に記載の方法で遺伝子発現抑制率を求めた。対照細胞としては、無処置の細胞を用いた。
使用したプライマーは以下のとおり。
ヒトTMEM176B プライマー1: CCAATGGCAGAAGGAGGAGTGTAGAG(配列番号25)
ヒトTMEM176B プライマー2: TGCTGTGAACAACTTCCTCAGCATCT(配列番号26)
ヒトGAPDH プライマー1:GCACCGTCAAGGCTGAGAAC(配列番号27)
ヒトGAPDH プライマー2:TGGTGAAGACGCCAGTGGA(配列番号28)
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
配列番号19〜28:PCRプライマー
Claims (9)
- TMEM176Bの発現を抑制する物質を有効成分として含有する、血管新生阻害剤であって、該物質が、TMEM176Bをコードする遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体である、剤。
- TMEM176Bが、以下の(a)〜(d)から選択されるタンパク質である、請求項1記載の剤:
(a)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列を含み、かつ上記(a)のタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログ、天然のアレル変異体または多型バリアントであるタンパク質、
(c)配列番号:2、4、6または8で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ上記(a)のタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログ、天然のアレル変異体または多型バリアントであるタンパク質、および
(d)配列番号:1、3、5または7で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質。 - TMEM176Bの発現を抑制する物質が、以下の群:
(1)配列番号:29〜43で示される塩基配列、および
(2)配列番号:29〜43で示される塩基配列の3’末端に2〜4塩基が付加された塩基配列、
から選択されるいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含む、請求項1または2記載の剤。 - TMEM176Bの発現を抑制する物質が、二重鎖RNA部分が、配列番号:29〜43から選択されるいずれかの配列番号で示される塩基配列からなるsiRNAである、請求項3記載の剤。
- siRNAの両3’末端に2〜4塩基のオーバーハングが付加されていることを特徴とする、請求項4に記載の剤。
- siRNAの少なくとも1つの塩基が化学的に修飾されている、請求項4または5に記載の剤。
- siRNAの少なくとも1つのホスホジエステル結合が化学的に修飾されている、請求項4〜6のいずれか1項に記載の剤。
- 腫瘍血管新生阻害剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の剤。
- 腫瘍血管内皮細胞遊走抑制剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の剤。
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