JP2010111623A - 糖鎖認識受容体の新規用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ミンクルの発現またはミンクルとマラセチアもしくはFcRγとの相互作用を阻害する物質を含有してなる、マラセチア感染症の治療および/または予防剤。ミンクルもしくはその細胞外領域を含む断片とマラセチアとを、被験物質の存在下および非存在下で接触させ、両条件下におけるミンクルもしくはその断片とマラセチアとの相互作用の程度を比較することを特徴とする、マラセチア感染症の治療および/または予防物質のスクリーニング方法。
【選択図】なし
Description
また、マラセチアは皮脂腺から分泌される皮脂を栄養にして増殖し、炎症を惹起して、フケ症や脂漏性皮膚炎の原因ともなる。
しかしながら、マラセチアの認識およびそれに対する自然免疫応答へのC型レクチン受容体ファミリーの関与については、これまで全く知られていない。
FEMS Immunol. Med. Microbiol., 47, 14-23(2006) Int. Arch. Allergy Immunol., 127, 161-169(2002) Adv. Neonatal Care, 6, 68-77(2006) Nat. Immunol., 8, 39-46(2007) J. Biol. Chem., 281, 38854-38866(2006) J. Immunol., 180(11), 7404-7413(2008)
[1]ミンクルの発現を阻害する物質またはミンクルとマラセチアもしくはFcRγとの相互作用を阻害する物質を含有してなる、マラセチア感染症の治療および/または予防剤。
[2]ミンクルとマラセチアとの相互作用を阻害する物質が、以下の(a)〜(d)から選ばれる1以上である、[1]に記載の剤。
(a)カルシウムキレート剤
(b)α-マンノース、または配列番号:2で表されるヒトミンクルのアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列もしくは他の哺乳動物のオルソログにおける対応するアミノ酸配列からなるモチーフを認識するα-マンノース誘導体、あるいはその塩
(c)配列番号:2で表されるヒトミンクルのアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列もしくは他の哺乳動物のオルソログにおける対応するアミノ酸配列からなるモチーフを含むペプチド
(d)ミンクルに対する抗体。
[3]ミンクルの発現を阻害する物質が、ミンクル遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイムまたはsiRNAである、[1]に記載の剤。
[4]ミンクルとFcRγとの相互作用を阻害する物質が、ミンクルおよび/またはFcRγに対する抗体である、[1]に記載の剤。
[5]以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、マラセチア感染症の治療および/または予防物質のスクリーニング方法。
(a)ミンクルもしくはその細胞外領域を含む断片とマラセチアとを、被験物質の存在下および非存在下で接触させる工程
(b)被験物質の存在下および非存在下におけるミンクルもしくはその断片とマラセチアとの相互作用の程度を測定する工程
(c)被験物質の存在下と非存在下との間で該相互作用の程度を比較する工程
(d)被験物質の存在下で、非存在下と比較して該相互作用が低下した場合に、該被験物質をマラセチア感染症の治療および/または予防物質として選択する工程。
[6]ミンクルもしくはその細胞外領域を含む断片が、ミンクルもしくはその細胞外および膜貫通領域を含む断片とFcRγとを発現する細胞の形態で提供され、相互作用の程度が、該細胞におけるミンクルおよびFcRγを介するシグナル伝達の活性化を指標として決定されることを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7]シグナル伝達の活性化を、該シグナル伝達により活性化される転写因子が結合し得る塩基配列を含むプロモーターの制御下にある遺伝子の発現変動を測定することにより決定する、[6]に記載の方法。
[8]以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、マラセチア感染症の治療および/または予防物質のスクリーニング方法。
(a)被験物質の存在下および非存在下で、ミンクルを産生する細胞における該蛋白質またはそれをコードするmRNAの量を測定する工程
(b)被験物質の存在下と非存在下との間でミンクルまたはそれをコードするmRNAの量を比較する工程
(c)被験物質の存在下で、非存在下と比較してミンクルまたはそれをコードするmRNAの量が低下した場合に、該被験物質をマラセチア感染症の治療および/または予防物質として選択する工程。
[9]工程(a)においてマラセチアを共存させることを特徴とする、[8]に記載の方法。
これらの蛋白質は、ヒトや他の温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]あるいはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉(例、平滑筋、骨格筋)、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、白色脂肪組織、褐色脂肪組織)など]等から、自体公知の蛋白質分離精製技術により単離・精製されるものであってよい。
ここで「活性」とは、ミンクルの場合、マラセチアと相互作用して、FcRγを介して炎症性サイトカイン等の産生を誘導する活性、FcRγの場合、ミンクルと共役して炎症性サイトカイン等の産生を誘導する活性をいう。また、「実質的に同質」とは、例えば生理学的に、あるいは薬理学的にみて、その性質が定性的に同一であることを意味する。したがって、該活性は同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例、約0.01〜約100倍、好ましくは約0.1〜約10倍、より好ましくは0.5〜2倍)や、蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
ミンクルとマラセチアおよびミンクルとFcRγとの相互作用は、自体公知の方法に準じて行うことができ、例えば、後記実施例に記載の方法等に従って行うことができる。
同様に、本発明におけるFcRγには、配列番号:4で表されるアミノ酸配列において、1または2個以上(例えば1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加された(あるいはそれらが組み合わされた)アミノ酸配列を含有する蛋白質も含まれる。
(a)カルシウムキレート剤
(b)α-マンノース、または配列番号:2で表されるヒトミンクルのアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列もしくは他の哺乳動物のオルソログにおける対応するアミノ酸配列からなるモチーフを認識するα-マンノース誘導体、あるいはその塩
(c)配列番号:2で表されるヒトミンクルのアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列もしくは他の哺乳動物のオルソログにおける対応するアミノ酸配列からなるモチーフを含むペプチド
(d)ミンクルに対する抗体
後記実施例に示されるとおり、ミンクルは細胞外領域の糖認識ドメイン(CRD)中のマンノース結合モチーフであるEPN(Glu-Pro-Asn)モチーフ(ヒトミンクルにあっては、配列番号:2で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列)において、マラセチアの菌体表面上の糖鎖抗原中のα-マンノースと結合してマラセチアを認識すると考えられる。レクチン蛋白質中のEPNモチーフとマンノースとの結合はカルシウムイオン(Ca2+)要求性であることから、カルシウムイオンをキレートして結合に関与するカルシウムイオンを除去することにより、ミンクルとマラセチアとの結合を阻害することができる。また、EPNモチーフをミミックするペプチドや、マラセチアの糖鎖抗原をミミックする糖類は、EPNモチーフと糖鎖抗原との結合を競合的に阻害することにより、ミンクルによるマラセチアの認識を阻害することができる。
ミンクルmRNAの塩基配列と実質的に相補的な塩基配列とは、哺乳動物細胞内の生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る程度の相補性を有する塩基配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAの塩基配列と完全相補的な塩基配列(すなわち、mRNAの相補鎖の塩基配列)と、オーバーラップする領域に関して、約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、最も好ましくは約97%以上の類似性を有する塩基配列である。
本発明における「塩基配列の類似性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
ストリンジェント条件下とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
(a)ミンクルmRNAに対するアンチセンス核酸
(b)ミンクルmRNAに対するsiRNA
(c)ミンクルmRNAに対するsiRNAを生成し得る核酸。
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、二本鎖DNAであるミンクル遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン)であってもよい。
RNAの糖部のコンフォーメーションはC2'-endo(S型)とC3'-endo(N型)の2つが支配的であり、一本鎖RNAではこの両者の平衡として存在するが、二本鎖を形成するとN型に固定される。したがって、標的RNAに対して強い結合能を付与するために、2'酸素と4’炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したRNA誘導体であるBNA(LNA)(Imanishi, T. et al., Chem. Commun., 1653-9, 2002; Jepsen, J.S. et al., Oligonucleotides, 14, 130-46, 2004)やENA(Morita, K. et al., Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 22, 1619-21, 2003)もまた、好ましく用いられ得る。
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖およびアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるショートヘアピンRNA(shRNA)を合成し、これをダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
また、好ましい一実施態様において、これらの抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用されることから、該抗体は完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス−ヒトキメラ抗体などであることが好ましく、特に好ましくは完全ヒト抗体である。
ミンクルとFcRγとの会合には、ミンクルの膜貫通ドメイン中の、哺乳動物種間でよく保存されたアルギニン残基(配列番号:2で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号41で示されるアミノ酸)が重要である。したがって、ミンクルの当該アルギニン残基を含む膜貫通領域に特異的に結合し得る物質は、ミンクルとFcRγとの相互作用を有効に阻害し得る。膜貫通領域を標的とする場合は疎水性が要求されるので、脂溶性低分子化合物の利用はきわめて有利である。
ミンクルまたはFcRγに対する抗体やミンクルのデコイぺプチド等のペプチド性化合物、ミンクルの発現またはミンクルとマラセチアもしくはFcRγとの相互作用を阻害する低分子化合物を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤形の医薬組成物として、ヒトまたは他の哺乳動物(例、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サルなど)、好ましくはヒトまたはイヌに対して、経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
投与に用いられる医薬組成物としては、上記のペプチド性もしくは低分子化合物またはその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
ミンクルmRNAに対するアンチセンス核酸、siRNA、リボザイムおよびそれらをコードする核酸を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤形の医薬組成物として、ヒトまたは他の哺乳動物(例、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サルなど)、好ましくはヒトまたはイヌに対して、経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
これらの核酸をマラセチア感染症の治療・予防剤などとして使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。即ち、本発明の核酸を、単独あるいはレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどの適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
本発明は、ミンクルもしくはその細胞外領域を含む断片とマラセチアとを、被験物質の存在下および非存在下で接触させ、両条件下におけるミンクルもしくはその断片とマラセチアとの相互作用の程度を比較することを特徴とする、マラセチア感染症の治療・予防物質のスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング方法に用いられるミンクルおよびマラセチアは、上記本発明の医薬に関する説明において記載されたとおりのものである。使用するマラセチアは生菌であっても死菌であってもよい。ミンクルとの相互作用に関与するマラセチアの表面抗原はα-マンノースもしくはその関連糖類であるので、加熱滅菌したマラセチアを使用することもできる。ミンクルはその全長を用いてもよいし、その細胞外領域(配列番号:2で表されるアミノ酸配列にあっては、アミノ酸番号45〜219で示されるアミノ酸配列からなる領域)を含む断片を用いてもよい。以下、特にことわらない限り、ミンクルという場合、上記の機能的断片を包含する意味で用いることとする。
(a)被験物質と、ミンクルおよびマラセチアとを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させたミンクルのマラセチアとの結合活性を測定し、該活性を、被験物質を接触させない対照ミンクルのマラセチアとの結合活性と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、ミンクルのマラセチアとの結合活性を阻害する被験物質を、マラセチア感染症の治療・予防物質の候補として選択する工程。
b-1)抗ミンクル抗体または抗マラセチア抗体を用いて免疫沈降し、免疫沈降で使用しなかった抗体でウェスタンブロッティングを行い、ミンクルとマラセチアとの結合量を測定する方法。
b-2)ミンクルまたはマラセチアのいずれか一方を、ポリヒスチジンもしくはGSTなどの標識との融合蛋白質として発現させ、またはビオチン化させ、ポリヒスチジンはニッケルに、GSTはグルタチオンに、ビオチンはアビジンに結合することから、それらを利用して結合体を回収し、b-1)と同様のウェスタンブロッティングで結合量を測定する方法。
b-3)表面プラズモン共鳴法(ビアコア)。
b-4)蛍光標識したミンクルのマラセチアへの結合をフローサイトメーターで測定する方法。
本発明はまた、被験物質の存在下および非存在下で、ミンクルもしくはその細胞外および膜貫通領域を含む断片とFcRγとを発現する細胞における、ミンクルもしくはその断片とFcRγとの相互作用の程度を測定・比較することを特徴とする、マラセチア感染症の治療・予防物質のスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング方法に用いられるミンクルおよびFcRγ蛋白質は、上記本発明の医薬に関する説明において記載されたとおりのものである。ミンクルはその全長を用いてもよいし、その細胞外領域および膜貫通領域(配列番号:2で表されるアミノ酸配列にあっては、アミノ酸番号22〜219で示されるアミノ酸配列からなる領域)を含む断片を用いてもよい。FcRγ蛋白質も、ミンクルとの結合および細胞内シグナル伝達に関与する領域を含む限り、その断片を用いることができる。以下、特にことわらない限り、ミンクルおよびFcRγという場合、上記の機能的断片を包含する意味で用いることとする。
(a)ミンクルおよびFcRγを発現し、且つそれらの相互作用により伝達されるシグナル(「活性化シグナル」という)を測定可能な細胞に、被験物質を接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞における活性化シグナルのレベルを測定し、該レベルを、被験物質を接触させない対照細胞における活性化シグナルのレベルと比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、活性化シグナルのレベルを低下させる被験物質を、マラセチア感染症の治療・予防物質の候補として選択する工程。
また、活性化シグナルの測定は、上記シグナル伝達経路の活性化によって産生されるMIP-2、TNFα、IL-6、IL-8、IL-12、等の炎症性サイトカイン/ケモカインを、例えば、それらに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングやELISA等のイムノアッセイにより、定量することによって行ってもよい。
上記スクリーニング法(II)において、被験物質と細胞との接触を、マラセチアの存在下で行うことにより、ミンクルとFcRγとの相互作用を調節する物質に加えて、ミンクルとマラセチアとの相互作用を調節する物質をスクリーニングすることが可能である。本スクリーニング法でも、同様に、活性化シグナルレベルを低下させた被験物質は、マラセチア感染症の治療・予防物質の候補として選択される。選択された物質がミンクルとマラセチア、あるいはミンクルとFcRγのいずれの相互作用に影響するかは、例えば、上記スクリーニング法(I)もしくは(II)を併用することにより、確認することができる。
本発明はまた、被験物質の存在下および非存在下で、ミンクルを産生する細胞における該蛋白質またはそれをコードするmRNAの量を測定・比較することを特徴とする、炎症反応を調節する物質のスクリーニング方法を提供する。
(a)被験物質とミンクルの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるミンクルの発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるミンクルの発現量と比較する工程、
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、ミンクルの発現量を減少させる被験物質を、マラセチア感染症の治療・予防物質の候補として選択する工程。
また、ミンクルの発現を測定可能な細胞は、非ヒト哺乳動物より単離したミンクルを産生する組織もしくは臓器、さらには非ヒト哺乳動物個体の形態で提供されうる。あるいは、ミンクル遺伝子の内在プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を導入したトランスジェニック動物の細胞、組織、臓器もしくは個体であってもよい。
細胞
チオグリコール酸によって誘起した腹膜マクロファージおよび骨髄由来マクロファージ(BMMφ)は、Matsumoto, M., et al., J. Immunol., 163: 5039-5048(1999)に記載されたようにして調製した。サイトカイン産生はELISAまたはMeso Scale Discovery assay kitによって決定した。ウェスタンブロットはYamasaki, S. et al., Nat. Immunol., 7: 67-75(2006)に記載されたようにして行った。
抗体
抗ミンクルモノクローナル抗体は、マウスミンクルを発現する好塩基球性白血病(RBL-2H3)細胞をWistarラットに免疫して樹立した、クローン1B6(IgG1、κ)を用いた。
真菌類
表1に示す種々の真菌株を、Institute of Food Microbiology, Chiba Universityから入手し、ポテト・デキストロース寒天(PDA; Difco Laboratories)に接種して25℃で3〜14日間培養した(いくつかのマラセチア株はオリーブ油を添加したPDAもしくはCHROMagar Malassezia Candida medium(CHROMagar)で培養した)。胞子および菌糸を回収し、0.85% NaClまたは0.1% Tween80溶液中に懸濁した。
遺伝子特異的プライマー配列は次の通りである。
MIP-2
5’-GCTTCCTCGGGCACTCCAGAC-3’(forward;配列番号:5)
5’-TTAGCCTTGCCTTTGTTCAGTAT-3’(reverse;配列番号:6)
TNFα
5’-GCGACGTGGAACTGGCAGAAG-3’(forward;配列番号:7)
5’-GGTACAACCCATCGGCTGGCA-3’(reverse;配列番号:8)
KC
5’-GCCAATGAGCTGCGCTGTCAATGC-3’(forward;配列番号:9)
5’-CTTGGGGACACCTTTTAGCATCTT-3’(reverse;配列番号:10)
IL-10
5’-TAGAGCTGCGGACTGCCTTCA-3’(forward;配列番号:11)
5’-TCATGGCCTTGTAGACACCTTG-3’(reverse;配列番号:12)
β-actin
5’-TGGAATCCTGTGGCATCCATGAAAC-3’(forward;配列番号:13)
5’-TAAAACGCAGCTCAGTAACAGTCCG-3’(reverse;配列番号:14)
試薬
LPS(L4516)およびZymosan(Z4250)はSIGMAから購入した。Candida albicans細胞壁マンナン(MG001)、酵母由来マンナン(21338-34)およびCeratonia siliqua由来D-ガラクト-D-マンナン(48230)は、それぞれTakara Bio Inc.(京都、日本)、SIGMAおよびNakarai Tesque(京都、日本)から購入した。組換えMalassezia furfurペルオキシソーム膜蛋白質(Mal F2)およびCyclophilin(Mal f6)はTakara Bio Inc.から購入した。
コンストラクト
ミンクルおよびFcRγのcDNAはPCRでクローニングし、それぞれpMX-IRES-rCD2およびpMX-IRES-hCD8 vector(Yamasaki, S. et al., Nat. Immunol. 7: 67-75(2006))にクローニングした。
Ig融合蛋白質
Ig-Mincleの調製
ミンクルの細胞外ドメイン(アミノ酸46-214)は、PCRでhIgG Fc領域のN末端に融合させ、pME18S-SLAMsig-hIgG FcのXhoI断片に挿入した。293T細胞をpME18S-SLAMsig-hIgG Fc(Ig)またはpME18S-SLAMsig-hIgG Fc-Mincle(Ig-Mincle)で一過的にトランスフェクトした。細胞は無蛋白質培地(PFMH-II)で培養した。ろ過した上清をProtein A-Sepharose columnにアプライし、結合した画分を50mM diethylamineで溶出し、すぐにTris-HCl(pH 7.5)で中和した。主画分をPBSで透析し精製Ig fusion溶液として用いた。
ミンクルが真菌のレセプターとして作用するか否かを、レポーター細胞システムを用いて調べた。真菌由来のTLRリガンドのコンタミネーションを回避するために、非骨髄性T細胞ハイブリドーマを宿主細胞として用い、ミンクル、FcRγ、ならびに転写因子NFATが結合するシスエレメントを含むプロモーターの下流に緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子が連結したレポータープラスミドを導入した。得られたNFAT-GFPレポーター細胞をITAM介在性シグナルの特異的検出手段として利用した。当該細胞に表1に示した50種を超える病原性真菌を接触させ、GFP発現の変動を調べた。その結果、マラセチア属に属する真菌のみが、レポーター細胞におけるGFP発現を増強した(図1A、レーン31-39)。ミンクルと構造的に類似するDectin-1、Dectin-2およびDC-SIGNはカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)もしくはアスペルギルス(Aspergillus sp.)を認識することが報告されているが、ミンクルは、調べた限りでは、C. アルビカンス(図1A、レーン18-20)およびアスペルギルス(図1A、レーン3-10)のいずれも、ミンクル発現細胞を活性化しなかった。顕微鏡観察により、マラセチアが結合した細胞のみがGFP陽性であることがわかった(図1B)。GFP発現量はマラセチアの接種量依存的に増大した(図1C)。FcRγのみを発現するレポーター細胞はマラセチアに応答しないことから(図1C)、FcRγと会合する他の内在性レセプターではなく、導入したミンクルがNFAT活性化を担っていることが示された。さらに、可溶性の抗ミンクルモノクローナル抗体はマラセチアにより誘導されるNFAT活性化をほぼ完全にブロックした(図1D)。これらの結果は、ミンクルが直接マラセチアを認識することを示している。
次に、ミンクルによって認識されるマラセチアの構造を調べた。いくつかのマラセチア蛋白質がアトピー性皮膚炎患者におけるIgEに対する主要抗原として知られているが、マラセチア・フルフル(M. furfur)由来の組換え蛋白質Mal f2およびMal f6はミンクルを導入したレポーター細胞におけるNFAT活性化を誘導しなかった。一方、加熱滅菌したマラセチアはミンクルを刺激する活性を保持していることから、ミンクルはマラセチアの非タンパク性の決定基を認識することが示唆された。ミンクルの糖認識ドメイン(CRD)は、推定のマンノース結合モチーフであるEPNモチーフを含むので、ミンクルによるマラセチア認識にマラセチアのマンノースもしくは関連の糖決定基が関与するか否かを調べるため、ミンクルのEPNモチーフをガラクトース結合性のQPDモチーフに置換した。その結果、変異ミンクル(E169Q/N171D)はマラセチア・フルフルおよびマラセチア・パキダーマティス(M. pachydermatis)に応答しなかったが(図2A、左パネル)、固定化した抗ミンクルモノクローナル抗体による活性化には影響がなかった(図2A、右パネル)。ポリアクリルアミド基板上に種々の糖残基を結合した糖コンジュゲートのマイクロアレイを用いて、ミンクルのグリカン結合の特異性をさらに調べた。その結果、ミンクルは、α-マンノースの多価形態であるα-マンノース-ポリアクリルアミドコンジュゲートのスポットのみに結合した(図2B、左パネル、位置7C)。カルシウムキレート剤であるEDTAはミンクルとα-マンノースとの結合を完全にブロックした(図2B、右パネル、位置7C)。両者の結合にはカルシウムイオンが必要なことから、ミンクルのCRDがこの認識に関与することが示唆された。しかし、ミンクルはマンノースが重合した多糖類であるマンナンのスポットに結合しなかった(図2B、位置4E-5E)。また、可溶性マンナンはマラセチアにより誘導されるミンクルを介したNFAT活性化をブロックしなかった。これらの結果は、ミンクルが、マラセチアのα-マンノース残基もしくはいずれかの関連する糖類の特定の幾何学的配置を認識して、マラセチアと他の真菌とを識別している可能性を示唆している。
マラセチア刺激により、野生型マウスから単離したマクロファージではミンクル蛋白質の発現が顕著に増大し(図3A)、マクロファージは、おそらくはマラセチアに対する免疫応答を開始するために、該菌体を感知した後でマラセチアに対するレセプターをアップレギュレートすることが示唆された(図3B)。
Claims (9)
- ミンクルの発現を阻害する物質またはミンクルとマラセチアもしくはFcRγとの相互作用を阻害する物質を含有してなる、マラセチア感染症の治療および/または予防剤。
- ミンクルとマラセチアとの相互作用を阻害する物質が、以下の(a)〜(d)から選ばれる1以上である、請求項1に記載の剤。
(a)カルシウムキレート剤
(b)α-マンノース、または配列番号:2で表されるヒトミンクルのアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列もしくは他の哺乳動物のオルソログにおける対応するアミノ酸配列からなるモチーフを認識するα-マンノース誘導体、あるいはその塩
(c)配列番号:2で表されるヒトミンクルのアミノ酸配列中アミノ酸番号169〜171で示されるアミノ酸配列もしくは他の哺乳動物のオルソログにおける対応するアミノ酸配列からなるモチーフを含むペプチド
(d)ミンクルに対する抗体。 - ミンクルの発現を阻害する物質が、ミンクル遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイムまたはsiRNAである、請求項1に記載の剤。
- ミンクルとFcRγとの相互作用を阻害する物質が、ミンクルおよび/またはFcRγに対する抗体である、請求項1に記載の剤。
- 以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、マラセチア感染症の治療および/または予防物質のスクリーニング方法。
(a)ミンクルもしくはその細胞外領域を含む断片とマラセチアとを、被験物質の存在下および非存在下で接触させる工程
(b)被験物質の存在下および非存在下におけるミンクルもしくはその断片とマラセチアとの相互作用の程度を測定する工程
(c)被験物質の存在下と非存在下との間で該相互作用の程度を比較する工程
(d)被験物質の存在下で、非存在下と比較して該相互作用が低下した場合に、該被験物質をマラセチア感染症の治療および/または予防物質として選択する工程。 - ミンクルもしくはその細胞外領域を含む断片が、ミンクルもしくはその細胞外および膜貫通領域を含む断片とFcRγとを発現する細胞の形態で提供され、相互作用の程度が、該細胞におけるミンクルおよびFcRγを介するシグナル伝達の活性化を指標として決定されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
- シグナル伝達の活性化を、該シグナル伝達により活性化される転写因子が結合し得る塩基配列を含むプロモーターの制御下にある遺伝子の発現変動を測定することにより決定する、請求項6に記載の方法。
- 以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、マラセチア感染症の治療および/または予防物質のスクリーニング方法。
(a)被験物質の存在下および非存在下で、ミンクルを産生する細胞における該蛋白質またはそれをコードするmRNAの量を測定する工程
(b)被験物質の存在下と非存在下との間でミンクルまたはそれをコードするmRNAの量を比較する工程
(c)被験物質の存在下で、非存在下と比較してミンクルまたはそれをコードするmRNAの量が低下した場合に、該被験物質をマラセチア感染症の治療および/または予防物質として選択する工程。 - 工程(a)においてマラセチアを共存させることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
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