以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
本発明は、少なくとも部分的には、LRGが細胞遊走、細胞浸潤の調整に関連することの発見に基づく。当該知見は、LRGが細胞遊走に関連する疾患のマーカー、例えば、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の状態のマーカーとして利用できるだけでなく、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の創薬標的ともなり得ることを示すものである。即ち、LRGの阻害薬は炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に有用であるとともに、LRGタンパク質やそれを発現する細胞・動物を用いて、新規なLRG阻害薬、ひいては炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防・治療薬となる物質を探索することもできる。本明細書において「急性期」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、代表的には、症状・徴候の発現が急激で、場合によっては生命の危機状態にあり、経過が短い時期であり、症状が急激に現われ医学的に適切な管理を必要とする時期ということができ、代表的には疾患(急性疾患および慢性疾患等)の発症期、急性憎悪期などをさす。
I. LRGまたはこれをコードする核酸
本明細書において、LRGは公知のタンパク質であり、Genbank Accession No.: NP_443204、またはGenbank Accession No.: NP_084072として知られている、配列番号2または4で表されるヒトまたはマウスLRGのアミノ酸配列、あるいはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。本明細書において、タンパク質およびペプチドは、ペプチド表記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。
本明細書において、LRGはヒトや他の温血動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ニワトリなど)の細胞[例えば、好中球など]または組織[例えば、血液など]等から、公知のタンパク質分離精製技術により単離・精製されるものであってよい。
「配列番号2で表されるアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列」としては、以下の(a)~(e)が挙げられる:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列;
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列;
(d)配列番号1で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列;
(e)配列番号1で示される塩基配列の相補鎖配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列。
具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトLRGタンパク質の他の哺乳動物におけるオルソログのアミノ酸配列、または配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトLRGタンパク質もしくはそのオルソログのスプライスバリアント、アレル変異体もしくは多型バリアントにおけるアミノ酸配列が挙げられる。
ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science,247:1306-1310(1990)を参照)。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミ ノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、Myersおよび Miller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
上記(e)におけるストリンジェントな条件とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1%SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
より好ましくは、「配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」として、配列番号2で表されるアミノ酸配列と、約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約96%以上、いっそう好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
「配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質」は、配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、かつ配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の機能を有するタンパク質である。
ここで「実質的に同質の機能」とは、例えば生理学的に、あるいは薬理学的にみて、その性質が定性的に同じであることを意味し、機能の程度(例、約0.1~約10倍、好ましくは0.5~2倍)や、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。また、現時点でLRGの生体内での詳細な役割は未知であるが、細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を有するタンパク質を、「実質的に同質の機能を有するタンパク質」とみなすことができる。
ここで、細胞遊走および/または炎症反応の促進活性は、例えば、後述するin vitroもしくはin vivoの細胞遊走および/または炎症(性疾患)モデルを用いて測定することができる。
本発明におけるLRGタンパク質として、例えば、(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1~30個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1~30個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1~30個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1~30個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質なども含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失、付加または置換されている場合、その挿入、欠失、付加または置換の位置は、タンパク質が細胞遊走および/または炎症反応を促進し得る限り、特に限定されない。
ここでアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
LRGの好ましい例としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトタンパク質(Genbank Accession No. NP_443204)、あるいは他の哺乳動物におけるそのオルソログ(例えば、マウスLRGタンパク質(配列番号4、Genbank Accession No. NP_084072)等)、アレル変異体、多型バリアント〔例えば一塩基多型(SNPs)〕などがあげられる。
「LRGをコードする核酸」は、上記(a)~(e)で示される、配列番号2で表されるアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸を表す。具体的には、以下の(f)~(j):
(f)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(g)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(h)配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(i)配列番号1で示される塩基配列、
(j)配列番号1で示される塩基配列の相補鎖配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
を有する核酸が挙げられる。
尚、ここで遺伝子とは、cDNAもしくはゲノムDNA等のDNA、またはmRNA等のRNAのいずれでもよく、また一本鎖の核酸配列および二本鎖の核酸配列を共に含む概念である。また、本明細書において、配列番号1および配列番号3等に示される核酸配列は、便宜的にDNA配列であるが、mRNAなど RNA配列を示す場合には、チミン(T)をウラシル(U)として解する。
あるいは、LRGの代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、LRGの有する活性、またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ること、細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性等をいう。
LRGのアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、LRGの有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ること(例えば、抗原として用いられる場合特異的エピトープとして機能し得る領域を含むこと)、細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性等をいう。
LRGをコードする核酸の好ましい例としては、例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるヒトLRG cDNA(Genbank Accession No. NM_052972)、あるいは他の哺乳動物におけるそのオルソログ(例えば、マウスLRG cDNA(配列番号3、Genbank Accession No. NM_029796)等)、アレル変異体、多型バリアント〔例えば一塩基多型(SNPs)〕などがあげられる。
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーまたは標的分子として機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーまたは標的分子としての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。例えば、タンパク質の活性についてみれば、細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を挙げることができる。
本発明は、LRG阻害剤、例えばLRGの発現を阻害する物質または機能を阻害する物質を含有する、細胞遊走抑制剤を提供する。本明細書では、「細胞遊走抑制剤」とは、細胞遊走および/または細胞浸潤を抑制する任意の薬剤を意味する。細胞遊走とは、体内局所で炎症反応がおこると,そこで産生される各種のサイトカインや遊走因子の作用で,循環白血球が脈管外へ出て同局所へ移動することをいい、特に炎症の急性期に関与するものとされている。
本発明は、LRG阻害剤、例えばLRGの発現を阻害する物質または機能を阻害する物質を含有する、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療剤を提供する。
本明細書では、「LRG阻害剤」とはLRGの作用を阻害する任意の物質をいい、その作用機序はLRGの発現を阻害すること、機能を阻害することをなどを含む。したがって、「LRG阻害剤」は、LRGの発現を阻害する物質およびLRGの機能を阻害する物質、このほか作用機序が不明であっても最終的にLRGの作用が阻害される任意の物質を含む。
II.LRGの発現を阻害する物質
本発明において「LRGの発現を阻害する物質」とは、LRGをコードする核酸(LRG遺伝子)の転写レベル、転写後調節のレベル、LRGタンパク質への翻訳レベル、翻訳後修飾のレベル等のいかなる段階で作用するものであってもよい。従って、LRGの発現を阻害する物質としては、例えば、LRG遺伝子の転写を阻害する物質(例、アンチジーン)、初期転写産物からmRNAへのプロセッシングを阻害する物質、mRNAの細胞質への輸送を阻害する物質、mRNAからLRGの翻訳を阻害するか(例、アンチセンス核酸、miRNA)あるいはmRNAを分解する物質(例、siRNA、リボザイム)、初期翻訳産物の翻訳後修飾を阻害する物質などが含まれる。いずれの段階で作用するものであっても好ましく用いることができるが、より好ましくは、以下の(1)~(3)からなる群より選択される物質が例示される。
(1)LRG遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸、
(2)LRG遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸、
(3)LRG遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体。
ここで転写産物の好ましい例としては、mRNAが挙げられる。
LRG遺伝子のmRNAからLRGへの翻訳を特異的に阻害する(あるいはmRNAを分解する)物質として、好ましくは、これらのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸が挙げられる。
LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と実質的に相補的な塩基配列とは、投与対象となる哺乳動物におけるLRG産生細胞(例、好中球)の生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る(あるいは該標的配列を切断する)程度の相補性を有する塩基配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAの塩基配列と完全相補的な塩基配列(すなわち、mRNAの相補鎖の塩基配列)と、オーバーラップする領域に関して、約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約97%以上の相同性を有する塩基配列である。
本発明における「塩基配列の相同性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
より具体的には、LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列としては、以下の(k)または(l):
(k)配列番号1で表される塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列;
(l)配列番号1で表される塩基配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつ細胞遊走および/または炎症反応を促進する活性を有するタンパク質をコードする配列と、相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列;
が挙げられる。
ストリンジェントな条件は、前述のとおりである。
LRG遺伝子のmRNAの好ましい例としては、配列番号1で表される塩基配列(Genbank Accession No. NM_052972)を含むヒトLRGのmRNA、あるいは他の哺乳動物におけるそれらのオルソログ(例えば、マウスLRG(配列番号3、Genbank Accession No. NM_029796)等)、さらにはそれらのスプライスバリアント、アレル変異体、多型バリアント等が挙げられる。
LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と「相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列の一部」とは、LRG遺伝子のmRNAに特異的に結合することができ、且つ該mRNAからのタンパク質の翻訳を阻害(あるいは該mRNAを分解)し得るものであれば、その長さや位置に特に制限はないが、配列特異性の面から、標的配列に相補的もしくは実質的に相補的な部分を少なくとも10塩基以上、好ましくは約15塩基以上を含むものである。
具体的には、LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸として、以下の(1)~(3)のいずれかのものが好ましく例示される:
(1)LRG遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸、
(2)LRG遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸、
(3)LRG遺伝子のmRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体。
(1)LRG遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸
本発明における「LRG遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸」とは、該mRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。
アンチセンス核酸は、2-デオキシ-D-リボースを含有しているポリデオキシリボヌクレオチド、D-リボースを含有しているポリリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていたりしてよい。
上記の通り、アンチセンス核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性RNaseHに認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こすことができる。したがって、RNaseHによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、mRNA中の配列だけでなく、LRG遺伝子の初期翻訳産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。イントロン配列は、ゲノム配列と、LRG遺伝子のcDNA塩基配列とをBLAST、FASTA等のホモロジー検索プログラムを用いて比較することにより、決定することができる。
本発明のアンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてタンパク質:LRGへの翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、LRGをコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAもしくは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10~約40塩基、特に約15~約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、それに限定されない。具体的には、LRG遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6-ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどが、アンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されない。
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、LRG遺伝子のmRNAや初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるこれらの遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン)であってもよい。
アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子は、天然型のDNAもしくはRNAでもよいが、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含むことができる。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。
RNAの糖部のコンフォメーションはC2’-endo(S型)とC3’-endo(N型)の2つが支配的であり、一本鎖RNAではこの両者の平衡として存在するが、二本鎖を形成するとN型に固定される。したがって、標的RNAに対して強い結合能を付与するために、2’酸素と4’炭素を架橋することにより、糖部のコンフォメーションをN型に固定したRNA誘導体であるBNA(LNA)(Imanishi, T. et al., Chem. Commun., 1653-9, 2002; Jepsen, J.S. et al., Oligonucleotides, 14, 130-46, 2004)やENA(Morita, K. et al., Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 22, 1619-21, 2003)もまた、好ましく用いられ得る。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、LRG遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも自体公知の手法により、化学的に合成することができる。
(2)LRG遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸
LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸の他の好ましい例としては、該mRNAをコード領域の内部で特異的に切断し得るリボザイム核酸が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。LRG遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
(3)LRG遺伝子のmRNAに対するsiRNA
本明細書においては、LRG遺伝子のmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAもまた、LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が動物細胞でも広く起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、上記のアンチセンス核酸やリボザイムの代替技術として汎用されている。
siRNAは、標的遺伝子のcDNA配列情報に基づいて、例えば、Elbashirら(Genes Dev., 15, 188-200 (2001))、Teramotoら(FEBS Lett. 579(13):p2878-82(2005))の提唱する規則に従って設計することができる。siRNAの標的配列は、原則的には15~50塩基、好ましくは19~49塩基、更に好ましくは19~27塩基の長さを有しており、例えばAA+(N)19(AAに続く、19塩基の塩基配列)、AA+(N)21(AAに続く、21塩基の塩基配列)もしくはA+(N)21(Aに続く、21塩基の塩基配列)であってもよい。
本発明の核酸は、5’または3’末端に、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、通常2~4塩基程度であり、siRNAの全長として19塩基以上である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、siRNAは、3'末端に突出部配列(オーバーハング)を有していてもよく、具体的には、dTdT(dTはデオキシリボ核酸のデオキシチミジン残基を表わす)を付加したものが挙げられる。また、末端付加がない平滑末端(ブラントエンド)であってもよい。
また、siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖が異なる塩基数であってもよく、例えば、アンチセンス鎖が3'末端および5'末端に突出部配列(オーバーハング)を有している「aiRNA」を挙げることができる。典型的なaiRNAは、アンチセンス鎖が21塩基からなり、センス鎖が15塩基からなり、アンチセンス鎖の両端で各々3塩基のオーバーハング構造をとる(Sun,X.ら著、Nature Biotechnology Vol26 No.12 p1379、国際公開第WO2009/029688号パンフレット)。
標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、5’-UTRおよび開始コドンから約50塩基まで、並びに3’-UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。上述の規則その他に基づいて選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認する。特異性の確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしく
はUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列およびTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるショートヘアピンRNA(shRNA)は、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
siRNAおよび/またはshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、Ambionが提供するsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)およびpSilencer(登録商標)Expression Vector用インサートデザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)、RNAi Codexが提供するGeneSeer(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)があるがこれらに限定されない。
siRNAを構成するリボヌクレオシド分子もまた、安定性、比活性などを向上させるため
に、上記のアンチセンス核酸の場合と同様の修飾を受けていてもよい。但し、siRNAの場合、天然型RNA中のすべてのリボヌクレオシド分子を修飾型で置換すると、RNAi活性が失われる場合があるので、RISC複合体が機能できる最小限の修飾ヌクレオシドの導入が必要である。
当該修飾として具体的には、siRNAを構成するヌクレオチド分子の一部を、天然型のDNAや、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を施したRNAに置換することができる(Usman and Cedergren,1992,TIBS 17,34;Usman et al.,1994,Nucleic Acids Symp.Ser.31,163を参照)。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、siRNAを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、-OR(R=CH3(2’-O-Me)、CH2CH2OCH3(2’-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等)、フッ素原子(-F)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。その他上記(1)に記載されたアンチセンス核酸における修飾方法を用いることができる。あるいは、siRNAにおけるRNAの一部をDNAに置換する化学修飾(2'-デオキシ化、2'-H)を施してもよい。また、糖(リボース)の2'位と4'位を-O-CH2-で架橋しコンフォメーションをN型に固定した人工核酸(LNA:Locked Nucleic Acid)を用いてもよい。
また、siRNAを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖は、リンカーを介し、細胞表層に存在する受容体を特異的に認識するリガンド、ペプチド、糖鎖、抗体、脂質や正電荷や分子構造的に細胞膜表層に吸着し貫通するオリゴアルギニン、Tatペプチド、RevペプチドまたはAntペプチドなどと化学結合していてもよい。
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖およびアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90~約95℃で約1分程度変性させた後、約30~約70℃で約1~約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるショートヘアピンRNA(shRNA)を合成し、これを、ダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
本明細書においては、生体内でLRG遺伝子のmRNAに対するsiRNAを生成し得るようにデザインされた核酸もまた、LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。そのような核酸としては、上記したshRNAやsiRNAを発現するように構築された発現ベクターなどが挙げられる。shRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖およびアンチセンス鎖を適当なループ構造を形成しうる長さ(例えば5~25塩基程度)のスペーサー配列を間に挿入して連結した塩基配列を含むオリゴRNAをデザインし、これをDNA/RNA自動合成機で合成することにより調製することができる。shRNAを発現するベクターには、タンデムタイプとステムループ(ヘアピン)タイプとがある。前者はsiRNAのセンス鎖の発現カセットとアンチセンス鎖の発現カセットをタンデムに連結したもので、細胞内で各鎖が発現してアニーリングすることにより2本鎖のsiRNA(dsRNA)を形成するというものである。一方、後者はshRNAの発現カセットをベクターに挿入したもので、細胞内でshRNAが発現しdicerによるプロセシングを受けてdsRNAを形成するというものである。プロモーターとしては、polII系プロモーター(例えば、CMV前初期プロモーター)を使用することもできるが、短いRNAの転写を正確に行わせるために、polIII系プロモーターを使用するのが一般的である。polIII系プロモーターとしては、マウスおよびヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNasePRNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーターなどが挙げられる。また、転写終結シグナルとして4個以上Tが連続した配列が用いられる。
このようにして構築したsiRNAもしくはshRNA発現カセットを、次いでプラスミドベクターやウイルスベクターに挿入する。このようなベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミドなどが用いられる。
上記siRNAは、ヌクレオチド配列の情報に基づいて、例えば394 Applied Biosystems, Inc.合成機等のDNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って化学的に合成することができる。例えば、Caruthers et al.,1992,Methods in Enzymology 211,3-19、Thompson et al.,国際公開WO99/54459、Wincott et al.,1995,Nucleic Acids Res.23,2677-2684、Wincott et al.,1997,Methods Mol.Bio.,74,59、Brennan et al.,1998,Biotechnol Bioeng.,61,33-45、Usman et al.,1987 J.Am.Chem.Soc.,109,7845、Scaringe et al.,1990 Nucleic Acids Res.,18,5433、および米国特許第6001311号に記載さ
れる方法等が挙げられる。具体的には、当業者に公知の核酸保護基(例えば5’末端にジメトキシトリチル基)およびカップリング基(例えば3’末端にホスホルアミダイト)を用いて合成できる。すなわち、5'末端の保護基を、TCA(トリクロロ酢酸)等の酸で脱保護し、カップリング反応を行う。ついでアセチル基でキャッピングを行った後、次の核酸の縮合反応を行う。修飾されたRNAやDNAを含むsiRNAの場合には、原料として修飾されたRNA(例えば、2'-O-メチルヌクレオチド、2'-デオキシ-2'-フルオロヌクレオチド)を用いればよく、カップリング反応の条件は適宜調整できる。また、リン酸結合部分が修飾されたホスホロチオエート結合を導入する場合には、ボーケージ試薬(3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン1,1-ジオキシド)を用いることができる。
あるいは、オリゴヌクレオチドは、別々に合成し、合成後に例えばライゲーションにより一緒につなげてもよいし(Moore et al.,1992,Science 256,9923; Draper et al.国際公開WO93/23569; Shabarova et al.,1991,Nucleic Acids Research 19,4247; Bellon et al.,1997,Nucleosides&Nucleotides,16,951; Bellon et al.,1997, Nucleosides&Nucleotides, Bellon et al.,1997,Bioconjugate Chem.8,204)、または合成および/または脱保護の後にハイブリダイゼーションにより、一緒につなげてもよい。siRNA分子はまたタンデム合成法により合成することができる。すなわち、両方のsiRNA鎖を、切断可能なリンカーにより分離された単一の連続するオリゴヌクレオチドとして合成し、次にこれを切断して別々のsiRNAフラグメントを生成し、これをハイブリダイズさせて精製する。リンカーはポリヌクレオチドリンカーであっても非ヌクレオチドリンカーであってもよい。
合成したsiRNA分子は、当業者に公知の方法を用いて精製できる。例えばゲル電気泳動により精製する方法、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製する方法が挙げられる。
LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸の別の好ましい例として、該mRNAを標的とするmicroRNA(miRNA)が挙げられる。ヒトLRGmRNAを標的とするヒトmiRNAとしては、例えば、has-miR-220b、has-miR-93、has-miR-95等が挙げられる。miRNAも、上述のsiRNAについて記載した方法に準じて調製することができる。
LRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸は、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で提供されたり、他の分子が付加された形態で提供されうる。付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大させたりするような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端または5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端または5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
これらの核酸のLRG発現阻害活性は、LRGをコードする核酸を導入した形質転換体、生体内や生体外のLRG遺伝子発現系、または生体内や生体外のLRGタンパク質の翻訳系を用いて調べることができる。
本発明におけるLRGの発現を阻害する物質は、上記のようなLRG遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に限定されず、LRGの産生を直接的または間接的に阻害する限り、低分子化合物などの他の物質であってもよい。そのような物質は、例えば、後述する本発明のスクリーニング方法により取得することができる。
III. LRGの機能を阻害する物質
本発明において「LRGの機能を阻害する物質」とは、いったん機能的に産生されたLRGがその機能を発揮するのを阻害する限りいかなるものでもよい。
具体的には、LRGの機能を抑制する物質として、例えば、LRGに対する抗体が挙げられる。該抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。これらの抗体は、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。また、該抗体は、標的抗原を特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等のタンパク質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
好ましい一実施態様において、LRGに対する抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用されることから、該抗体(好ましくはモノクローナル抗体)はヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス-ヒトキメラ抗体などであり、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、常法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、ヒト-ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定に且つ低コストで提供するためには、ヒト抗体産生マウスやファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
LRGの機能を抑制する別の好ましい物質は、Lipinski'sRuleに見合った低分子化合物である。そのような化合物は、例えば、後述する本発明のスクリーニング法を用いて取得することができる。
本発明により、LRGの発現もしくは機能を阻害する物質等のLRG阻害剤は、細胞遊走、細胞浸潤を抑制する薬剤(本明細書では「細胞遊走抑制剤」ともいう)として有用である。
LRGの発現もしくは機能を阻害する物質等のLRG阻害剤は、LRGにより亢進される細胞遊走、細胞浸潤を抑制する活性を示すことから、疾患(例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患等)の急性期の予防および/または治療に有用である。
従って、LRGの発現もしくは機能を阻害する物質を含有する医薬は、炎症性疾患・免疫
疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療剤として使用することができる。本明細書では、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療剤は、「抗急性期疾患物質」、「抗急性期疾患薬」等と呼ばれることがある。炎症性疾患および免疫疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)に対する予防および/または治療剤は、「抗急性期炎症物質(薬剤)」、「抗急性期自己免疫疾患物質(薬剤)」等と呼ばれることがある。
IV.アンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬
LRG遺伝子の転写産物に相補的に結合し、該転写産物からのタンパク質の翻訳を抑制することができる本発明のアンチセンス核酸や、LRG遺伝子の転写産物(mRNA)と相同な(もしくは相補的な)塩基配列を有し、当該転写産物を標的として該転写産物を切断し得るsiRNA(もしくはリボザイム)、さらに該siRNAの前駆体であるshRNAなど(以下、包括的に「本発明の核酸」という場合がある)は、生体内におけるLRGの発現を抑制し、LRGにより亢進される細胞遊走、細胞浸潤を抑制することから、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に有用である。
本発明の核酸を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
本発明の核酸を上記の疾患の急性期の治療または予防剤として使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。即ち、本発明の核酸を、単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルス(アデノ随伴ウイルス)ベクターなどの適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
本発明の核酸は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の核酸と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の核酸を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castoroil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記核酸を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。本発明の核酸は、例えば、投薬単位剤形当たり通常5~500mg、とりわけ注射剤では5~100mg、その他の剤形では10~250mg含有されていることが好ましい。
本発明の核酸を含有する上記医薬(または医薬組成物)の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)等の炎症性腸疾患(IBD)、間質性肺炎、膠原病・リウマチ性疾患(例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ等)の治療・予防のために使用する場合には、本発明の核酸を1回量として、通常0.01~20mg/kg体重程度、好ましくは0.1~10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1~5mg/kg体重程度を、1日1~5回程度、好ましくは1日1~3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
なお前記した各組成物は、本発明の核酸との配合により好ましくない相互作用を生じない限り適宜他の活性成分を含有してもよい。
V.LRGに対する抗体、LRGの発現もしくは機能を阻害する低分子化合物等を含有する医薬 LRGに対する抗体や、LRGの発現もしくは機能を阻害する低分子化合物は、LRGの産生または機能を阻害することができる。したがって、これらの物質は、生体内におけるLRGの発現もしくは機能を阻害し、LRGにより亢進される細胞遊走、細胞浸潤を抑制することから、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に有用である。
上記の抗体や低分子化合物を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
上記の抗体や低分子化合物は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、上記の抗体もしくは低分子化合物またはその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の抗体または低分子化合物もしくはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。抗体や低分子化合物は、投薬単位剤形当たり通常5~500mg、とりわけ注射剤では5~100mg、その他の剤形では10~250mg含有されていることが好ましい。
上記の抗体もしくは低分子化合物またはその塩を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、IBDの治療・予防のために使用する場合には、抗体もしくは低分子化合物を1回量として、通常0.01~20mg/kg体重程度、好ましくは0.1~10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1~5mg/kg体重程度を、1日1~5回程度、好ましくは1日1~3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
なお前記した各組成物は、上記抗体や低分子化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
上述のLRGに対するアンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬や、LRGに対する抗体、LRGの発現もしくは機能を抑制する低分子化合物等を含有する医薬組成物は、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療剤として、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の治療、予防、または進行防止に用いることができる。このような疾患として、具体的には、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)等)、自己炎症性疾患(例えば、ベーチェット病、成人スティル病、全身性若年性特発性関節炎、クリオピリン関連周期熱症候群、家族性地中海熱、キャッスルマン病、間質性肺炎等)、膠原病・リウマチ性疾患(例えば、血管炎症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎等)、およびその他の炎症性の自己免疫疾患(例えば、特発性間質性肺炎、過敏性肺臓炎、糸球体腎炎等)などが挙げられるが、これらに限定されず、LRGがその病態の増悪に関与しているいかなる障害も、本発明の対象疾患に包含される。例えば、関節リウマチなどは従前は慢性病といわれてきたが、近年早期発見,早期治療が重要視されるようになり、「慢性」関節リウマチとの用語は妥当ではないと判断され(https://www.ryumachi-jp.com/info/yogo.htmlを参照)、「慢性」との用語は削除されて使用されている。したがって、関節リウマチの急性期についても本発明が有効であることが理解される。他の疾患についても、急性期におきる症状について、細胞遊走、細胞浸潤が関与していることが多いことから、一般の有用であることが理解される。
上述のLRGに対するアンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬や、LRGに対する抗体、LRGの発現もしくは機能を抑制する低分子化合物等を含有する医薬組成物を炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の治療または予防に使用する場合には、単独で使用してもよいが、1種または2種以上の炎症性疾患・免疫疾患等の疾患の予防および/または治療の作用を有する薬剤(例えば、他の抗炎症剤)と併用してもよい。
併用する薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メサラジン、副腎皮質ステロイド(例、ベタメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン等)、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs;例、サリチル酸系、アントラニル酸系、アリール酸系、プロピオン酸系、オキシカム系、ピリン系)、抗TNFα抗体(インフルキシマブ、アダリムマブ)、抗リウマチ薬(例、アクタリット等の免疫調節薬、メトトレキサート等の免疫抑制薬、抗TNFα抗体やエタネルセプト等の生物学的製剤)などが挙げられる。
VI.疾病に対する医薬候補化合物のスクリーニング
上述の通り、LRGの発現および/または機能を阻害すると、LRGにより亢進される細胞遊走、細胞浸潤を抑制することから、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に有用である。したがって、LRGの発現および/または機能を阻害する化合物は、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療剤として使用することができる。
したがって、LRGを産生する細胞は、LRG(またはLRG遺伝子)の発現量および/または機能を指標とすることにより、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療剤として使用できる物質のスクリーニングのためのツールとして用いることができる。
LRGの発現または機能を阻害する化合物をスクリーニングする場合、該スクリーニング方法は、LRGを産生する能力を有する細胞を、被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるLRGの発現量または機能の程度を比較することを含む。また、LRGの機能を阻害する化合物は、精製したLRGタンパク質への結合能、LRGタンパク質とその結合タンパク質(例えば、LRG受容体)との結合阻害活性を試験することによっても、スクリーニングすることができる。
上記のスクリーニング方法において用いられるLRGを産生する能力を有する細胞としては、それらを生来発現しているヒトもしくは他の哺乳動物細胞またはそれを含む生体試料(例:血液、組織、臓器等)であれば特に制限はない。非ヒト動物由来の血液、組織、臓器等の場合は、それらを生体から単離して培養してもよいし、あるいは生体自体に被検物質を投与し、一定時間経過後にそれら生体試料を単離してもよい。
また、LRGを産生する能力を有する細胞としては、公知慣用の遺伝子工学的手法により作製された各種の形質転換体が例示される。宿主としては、例えば、H4IIE-C3細胞、HepG2細胞、HEK293細胞、COS7細胞、CHO細胞などの動物細胞が好ましく用いられる。
具体的には、LRGをコードするDNA(即ち、配列番号1で表される塩基配列または該塩基配列に対し相補性を有する塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同質の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA)を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結して宿主動物細胞に導入することにより調製することができる。
LRGをコードする遺伝子の調製方法について、以下に説明する。
LRGをコードする遺伝子は、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得することができる。すなわち、LRGをコードするDNAは、例えば、配列番号1で表される塩基配列に基づいて、適当なオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして合成し、前記したLRGを産生する細胞・組織由来のcDNAもしくはcDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーション法やPCR法を用いてクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(上記)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
DNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
次いで、得られたLRG遺伝子を用いて、通常の遺伝子工学的方法に準じてLRGタンパク質を製造・取得することができる。
例えば、LRG遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物からLRGを取得すればよい。上記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自律的に複製できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、LRGをコードする遺伝子が導入されたものを好ましく挙げることができる。尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。
例えば、大腸菌での発現に使用される発現ベクターは、lac、trp、tacなどのプロモーターを含む発現ベクターであって、これらはファルマシア社、タカラバイオ等から市販されている。当該発現ベクターにLRGをコードする遺伝子を導入するために用いられる制限酵素もタカラバイオ等から市販されている。さらなる高発現を導くことが必要な場合には、LRGをコードするDNAの上流にリボソーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボソーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
また、動物細胞発現プラスミド(例:pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);λファージなどのバクテリオファージ;レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどを用いることもできる。プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF-αプロモーター、CAGプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。
選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
上記したLRGをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換することにより、LRG発現細胞を製造することができる。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞等を挙げることができる。哺乳動物細胞としては、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、ヒトFL細胞、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記)、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットH4IIE-C3細胞、ラットGH3細胞などが用いられ得る。例えば、LRGの大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法を用いることができる。
上記のようにして得られる形質転換細胞や生来LRGを産生する能力を有する哺乳動物細胞または該細胞を含む組織・臓器は、例えば、約5~20%の胎仔牛血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122巻,501(1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology,8巻,396(1959)〕,RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199巻,519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などの培地中で培養することができる。培地のpHは約6~8であるのが好ましい。培養は通常約30~40℃で 行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
LRGタンパク質の取得は、一般のタンパク質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施すればよい。例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離などで除去し、培養上清からLRGを前記と同様にして精製してもよい。また、LRGタンパク質が前記の培養により得られた形質転換体の細胞内に蓄積する場合には、例えば、該形質転換体を遠心分離等で集めた後、細胞を破砕または溶解せしめ、必要であればタンパク質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、若しくは組み合わせることにより精製すればよい。精製されたタンパク質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。
本発明のスクリーニングを実施するに当たり、被検物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
また、LRGもしくはLRG遺伝子の発現量を低下させる物質、またはLRGの機能を低下させる物質を選択する際に、被検物質を接触させない対照細胞を比較対照として用いることもできる。ここで「被検物質を接触させない」とは、被検物質の代わりに被検物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、LRGもしくはLRG遺伝子の発現量またはLRGの機能に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
被検物質の上記細胞との接触は、例えば、上記の培地や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)の中に被検物質を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される被検物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM~約100μMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約10分~約24時間が挙げられる。
LRGを産生する細胞が、非ヒト哺乳動物個体の形態で提供される場合、該動物個体の状態は特に制限されないが、例えば、薬剤もしくは遺伝子改変により炎症を誘起した炎症性疾患モデル動物(例えば、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)や2.4.6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)等の薬剤により大腸炎を誘起したマウス、IL-10ノックアウトマウスやIL-2ノックアウトマウス等の遺伝子改変マウス等のIBDモデル動物、コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウス、SKGマウス、PD-1ノックアウトマウス、K/BxNマウス、シノビオリンTgマウス等のRAモデル動物など)であってもよい。使用される動物の飼育条件に特に制限はないが、SPFグレード以上の環境下で飼育されたものであることが好ましい。被検物質の該細胞との接触は、該動物個体への被検物質の投与によって行われる。投与経路は特に制限されないが、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、経口投与、気道内投与、直腸投与等が挙げられる。投与量も特に制限はないが、例えば、1回量として約0.5~20mg/kgを、1日1~5回、好ましくは1日1~3回、1~14日間投与することができる。
あるいは、上記のスクリーニング方法は、LRGを産生する能力を有する細胞に代えて、該細胞の抽出液、あるいは該細胞から単離精製したLRGに、被検物質を接触させることにより行うこともできる。
(LRG遺伝子またはLRGの発現量の測定)
本発明は、LRGを産生する能力を有する細胞における該タンパク質(遺伝子)の発現を、被検物質の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に使用することができる物質のスクリーニング方法を提供する。本方法において用いられる細胞、被検物質の種類、被検物質と細胞との接触の態様などは、上記と同様である。
LRGの発現量は、前記したLRGをコードするDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、即ち、配列番号1で表される塩基配列もしくはそれと相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸(DNA)(以下、「本発明の検出用核酸」という場合がある)を用いて、LRG遺伝子のmRNAを検出することにより、RNAレベルで測定することができる。あるいは、該発現量は、前記したLRGに対する抗体(以下、「本発明の検出用抗体」という場合がある)を用いて、これらのタンパク質を検出することにより、タンパク質レベルで測定することもできる。
従って、より具体的には、本発明は、
(a)LRGを産生する能力を有する細胞を被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該タンパク質をコードするmRNAの量を、本発明の検出用核酸を用いて測定、比較することを特徴とする、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に使用することができる物質のスクリーニング方法、および
(b)LRGを産生する能力を有する細胞を被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該タンパク質の量を、本発明の検出用抗体を用いて測定、比較することを特徴とする、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に使用することができる物質のスクリーニング方法を提供する。
すなわち、LRGの発現量を変化させる物質のスクリーニングは、以下のようにして行うことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル(例えば、DSSもしくはTNBS誘起大腸炎モデルなど)非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して被検物質を投与し、一定時間経過した後(30分後~3日後、好ましくは1時間後~2日後、より好ましくは1時間後~24時間後)に、血液、あるいは特定の臓器(例えば、脳等)、あるいは臓器から単離した組織または細胞を得る。
LRGのmRNAは、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出して定量することができ、あるいは自体公知のノーザンブロット解析により定量することもできる。一方、LRGのタンパク質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳述する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)LRG遺伝子を発現する細胞(例えば、LRGを導入した形質転換体)を上記の方法に従って作製し、常法に従って培養する際に被検物質を培地もしくは緩衝液中に添加し、一定時間インキュベート後(1日後~7日後、好ましくは1日後~3日後、より好ましくは2日後~3日後)、該細胞培養物中に含まれるLRGあるいはそれをコードするmRNAを、上記(i)と同様にして定量、解析することができる。
LRG遺伝子(mRNA)の発現レベルの検出および定量は、前記細胞から調製したRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法で実施できる。具体的には、LRG遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、RNA中のLRG遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、LRG遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3(http://primer3.sourceforge.net/)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プライマーもしくはプローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プライマーもしくはプローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System(Amersham Pharamcia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のLRG遺伝子の領域が増幅できるように、LRG遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents(Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
被検物質を添加した細胞におけるLRG遺伝子の発現が被検物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して2/3倍以下、好ましくは1/2倍以下、更に好ましくは1/3倍以下であれば、該被検物質はLRG遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。
また、LRGの発現量を変化させる物質のスクリーニングは、LRG遺伝子の転写調節領域を用いたレポーター遺伝子アッセイで行うことも可能である。ここで、「転写調節領域」とは、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を指し、例えば、(i)5'-レース法(5'-RACE法)(例えば、5'-fullRaceCoreKit(タカラバイオ社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5'末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5'-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。
LRG遺伝子の転写調節領域の下流に機能可能な形でレポータータンパク質をコードする核酸(以下、「レポーター遺伝子」という)を連結して、レポータータンパク質発現ベクターを構築する。該ベクターは当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される通常の遺伝子工学的手法に従って切り出されたLRG遺伝子の転写調節領域を、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポータータンパク質としては、β-グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ(GAS)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)等が挙げられる。
調製したLRG遺伝子の転写調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。ベクターに搭載される選択マーカー遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、安定な形質転換細胞を得ることができる。あるいは、LRG遺伝子の転写調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、宿主細胞内に一過的に発現させてもよい。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
LRGのタンパク質量の測定方法としては、具体的には、例えば、
(i)本発明の検出用抗体と、試料液および標識化されたLRGとを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたタンパク質を検出することにより試料液中のLRGを定量する方法や、
(ii)試料液と、担体上に不溶化した本発明の検出用抗体および標識化された別の本発明の検出用抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中のLRGを定量する方法等が挙げられる。
LRGのタンパク質発現レベルの検出および定量は、LRGを認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体としてLRGを認識する抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体としてLRGを認識する抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して該プロトコールに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
上記の抗体は、その形態に特に制限はなく、LRGを免疫原とするポリクローナル抗体であっても、またモノクローナル抗体であってもよく、さらにはLRGを構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体を用いることもできる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12~11.13)。
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体はLRGの異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体がLRGのN端部を認識する抗体であれば、他方の抗体として該タンパク質のC端部と反応するものを用いることができる。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
本発明の検出用抗体を用いるLRGの定量法は、特に制限されるべきものではなく、試料液中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体-抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法を用いるのが好ましい。
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
サンドイッチ法においては不溶化した本発明の検出用抗体に試料液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の検出用抗体を反応させた(2次反応)後、不溶化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、試料液中のLRGを定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
本発明の検出用抗体は、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
競合法では、試料液中のLRGと標識したLRGとを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中のLRGを定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、試料液中のLRGと固相化したLRGとを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中のLRGと過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化したLRGを加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中のLRGの量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてLRGの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「MethodsinENZYMOLOGY」Vol.70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
以上のようにして、本発明の検出用抗体を用いることによって、細胞におけるLRGの量を感度よく定量することができる。
例えば、上記スクリーニング法において、被検物質の存在下におけるLRGの発現量(mRNA量またはタンパク質量)が、被検物質の非存在下における場合に比べて、約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上阻害された場合、該被検物質を、LRGの発現阻害物質、従って、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に使用することができる物質の候補として選択することができる。
あるいは、上記スクリーニング法において、LRG遺伝子を発現する細胞に代えて、LRG遺伝子の内在の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を含む細胞を用いることができる。このような細胞は、LRG遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子(例、ルシフェラーゼ、GFPなど)を導入したトランスジェニック動物の細胞、組織、臓器もしくは個体であってもよい。かかる細胞を用いる場合には、LRGの発現量は、レポーター遺伝子の発現レベルを、常法を用いて測定することにより評価することができる。
(LRGの機能の測定)
本発明のスクリーニング方法は、被検物質がLRGの機能を阻害するか否かを指標として行うこともできる。
LRGは主に好中球から血中に分泌されるタンパク質であるので、LRGタンパク質に結合能を有する物質は、LRGタンパク質とその結合パートナーであるタンパク質(例えば、標的細胞表面上のLRG受容体)との相互作用を遮断することにより、LRGの機能を阻害し得ると考えられる。従って、LRGへの結合能を指標として、LRGの機能阻害物質の候補をスクリーニングすることができる。
例えば、被検物質をウェルプレートの各ウェルに吸着させ、適当な標識剤で標識したLRG溶液を各ウェルに添加してインキュベートした後液相を除き、洗浄後に固相に結合した標識量を測定することにより、LRGとの結合能を有する被検物質を検出することができる。LRGを直接標識する代わりに、標識した抗LRG抗体を用いて固相に結合したLRGを検出することもできる。あるいは、LRGを固定化した担体(例、アフィニティーカラム)に被検物質の溶液を通し、該担体に保持された被検物質を、LRGとの結合能を有する物質、即ち炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療に使用することができる物質の候補として選択することもできる。
このようにして得られた候補物質が実際に炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療の作用を有するか否かは、該候補物質を適宜の疾患モデル(例えば、ブレオマイシン誘導性間質性肺炎)に適用し、該モデルにおける疾患反応を抑制するか否かを検定することにより確認することができる。そのようなモデルとしては、in vivoおよびin vitroのモデルを用いることができる。in vivoモデルとしては、例えばブレオマイシン誘導性間質性肺炎モデル(野生型マウス(C57BL/6・メス)を麻酔し、気管内にブレオマイシン(1.5mg/kg)を投与して間質性肺炎・肺線維症を誘発することができる)。これら以外にも、DSS誘起大腸炎モデル(分子量5,000~10,000のDSSを3~5%(w/v)含有する水を、非ヒト動物に5~10日間飲水させることにより調製することができる)、TNBS誘起大腸炎モデル(TNBSを50%エタノールに溶解し、例えば50μg/g体重の量で非ヒト動物に直腸内投与することにより調製することができる)等のIBDモデル、CIAモデル(完全フロイントアジュバントとエマルジョン化したII型コラーゲンで非ヒト動物を免疫することにより調製することができる)、CAIAモデル(II型コラーゲンのCB11内のエピトープを認識するモノクローナル抗体カクテルを非ヒト動物に注射することにより調製することができる)等のRAモデル等もまたを用いることができるが、これらに限定されない。一方、in vitroモデルとしては、疾患(例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患等)における標的細胞(例えば、IBDにおける腸管上皮細胞、RAにおける滑膜細胞、肺炎における肺胞上皮細胞または気管支上皮細胞等)の培養系(例えば、Caco-2細胞培養系、RA患者の滑膜組織由来の滑膜線維芽細胞の培養系等)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのin vitroモデルは、必要に応じてTNFα等の急性期のサイトカインやH2O2等の活性酸素、LPS等による刺激、あるいは単球、マクロファージ、好中球等の急性期のサイトカイン産生細胞との複合培養(例えば、トランスウェルTM培養システム等を用い、上部コンパートメントに標的細胞(例、Caco-2細胞)、下部コンパートメントに炎症性サイトカイン産生細胞(マクロファージ様のTHP-1細胞、RAW264.7細胞)をそれぞれ単層培養する培養系)などにより、急性期の反応を惹起することができる。
候補物質が疾患の急性期の抑制作用を有するか否かは、上記のモデルにおける反応が候補物質の添加により抑制されたか否かにより判定することができる。例えば、上記の薬剤誘起ブレオマイシン誘導性間質性肺炎モデル動物であれば、体重の変化(発症による体重減少の抑制、あるいは体重減少からの回復の程度等)、肺の状況、肺疾患部位における上皮の損傷および細胞浸潤の程度などを指標にして、疾患の急性期に対する効果の有無および/またはその程度を判定することができる。一方、in vitroモデルである腸管上皮細胞の単層培養系を用いた場合、経上皮電気抵抗(TER)値の低下、LDH産生、IL-8発現上昇を指標にして疾患の急性期の反応の程度を評価することができる。
本発明の別の好ましい態様においては、LRGタンパク質とその結合タンパク質(例えば、LRG受容体)との結合阻害活性を試験することによって、LRGの機能阻害物質をスクリーニングすることができる。LRGの受容体やLRGと結合する生体物質については、LRGが主に好中球から血中に分泌されるタンパク質であることから、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)における標的細胞の表面上に発現するタンパク質の中に、LRGの生理学的な結合パートナーが存在することが強く示唆される。従って、該標的細胞の膜画分(例えば、腸管上皮細胞、肺胞上皮細胞または気管支上皮細胞の場合、粘膜固有層側の膜画分を常法に従って単離し、これを適当な担体上に固相化し、被検物質の存在下および非存在下で、該固相に標識したLRGタンパク質を接触させ、被検物質の非存在下で細胞膜画分に結合したLRG量と比較して、被検物質の存在下で細胞膜画分に結合したLRG量が有意に低かった場合、該被検物質を、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)のための治療または予防物質の候補として選択することができる。こうして選択された候補物質が炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防または治療作用を有するか否かは、上記と同様の方法で確認することができる。
本発明のさらに別の実施態様においては、上記in vitro炎症モデルを用いて、LRGの機能を阻害して炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の治療または予防する作用を示す物質を、ワンステップでスクリーニングすることもできる。当該方法は以下の(1)~(3)の工程:
(1)疾患(例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患等)の標的細胞を、LRGの存在下および非存在下で被検物質に接触させる工程
(2)各条件下での前記細胞における疾患(例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患等)の反応(例えば、炎症反応、自己免疫反応)の程度を測定する工程
(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、LRGの存在下で当該反応を抑制し、LRGの非存在下で当該反応を抑制しなかった被検物質を、LRGの機能を阻害して疾患(例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患等)の治療または予防作用を示す物質の候補として選択する工程
を含む。
当該方法は、必要に応じて、上記工程(1)と同時もしくはその前後において、疾患の急性期に関連する反応を惹起する工程をさらに含み得る。疾患の急性期に関連する反応を惹起する方法としては、例えば、TNFα等の炎症性サイトカインやH2O2等の活性酸素、LPS等による刺激、あるいは単球、マクロファージ、好中球等の急性期のサイトカイン産生細胞との複合培養等が挙げられる。好ましい一実施態様においては、例えば、トランスウェルTM培養システム等を用い、上部コンパートメントに標的細胞(例、Caco-2細胞)、下部コンパートメントに炎症性サイトカイン産生細胞(マクロファージ様のTHP-1細胞、RAW264.7細胞)をそれぞれ単層培養する方法が挙げられる。この場合、下部コンパートメントの培地にLRGを添加する。当該培地に、さらにLPS等を添加して炎症を惹起してもよい。被検物質は通常、下部コンパートメントの培地に添加されるが、例えば、腸管吸収されてLRGの機能を阻害し得る食品中に含有される成分や、経口投与可能なLRG機能阻害薬をスクリーニングすることを目的とする場合等においては、上部コンパートメントの培地に被検物質が添加され得る。
本発明の上記いずれかのスクリーニング方法を用いて得られる、LRGの発現または機能を阻害する物質は、炎症性疾患・免疫疾患等の疾患における急性期(発症期や急性増悪期等)、特に炎症の急性期(発症期や急性増悪期等)の予防および/または治療用の医薬として有用である。
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物を上述の予防・治療剤として使用する場合、上記LRGの発現または機能を阻害する低分子化合物と同様に製剤化することができ、同様の投与経路および投与量で、ヒトまたは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して、経口的にまたは非経口的に投与することができる。
VII.間質性肺炎等の肺間質の疾患の疾患活動性の判定方法
本発明は、被験体における肺間質の疾患の疾患活動性の判定方法であって、該被験体に由来する生体試料中のロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)の濃度を測定する工程を包含し、該LRGの濃度に基づいて該被験体の肺間質の疾患の疾患活動性(すなわち、さらなる重症化のリスク)を評価する、判定方法を提供する。本発明では、従来KL-6でしか確立していない肺間質の疾患に関するマーカーとして信頼性が高く、かつ、KL-6では検査し得ない種類の肺間質の疾患の疾患活動性をも網羅的に判定し得るマーカーが提供される。このようなマーカーは従来提供されていなかったものであり、疾患活動性の判定が難しい肺間質の疾患に対して新たな疾患活動性判定ツールを提供するものである。また、肺間質の疾患は、炎症や肺の他の疾患とは異なり、通常の肺炎と間質性肺炎は原因も病態も異なる(治療法も異なる)ため、肺間質の疾患を考える上では関連性はないものと当該分野では考えられている。また、肺間質の疾患については、自己免疫疾患のときに認められる合併症ではあるものの、自己免疫疾患は、間質性肺炎のみならず、高血圧・糖尿病など多くの疾患を合併することがあり、間質性肺炎は必ず自己免疫に伴うものでないうえ、LRGが自己免疫疾患のバイオマーカーとなっても、それが間質性肺炎のマーカーとなる事を示すものではないことが当該分野で周知であったことに鑑みると、本発明の知見はまさに予想外なものであるといえる。また、肺間質の疾患としては炎症が多いため、通常の炎症マーカーとの関連について考慮されるものの、CRPなどのある特定の炎症のマーカーで、何らかの炎症が存在していることがわかったとしても、他の病態のマーカー(この場合間質性肺炎)であることが導き出せるものではなく、今般の「間質性肺炎」の疾患活動性マーカーとしての機能は、他の炎症における知見からは導き出せないと当業者に理解される。肺間質の疾患、特に間質性肺炎のマーカーとして従来使用されているKL-6にはない機能を提供するものであり、その意味でも、本発明の肺間質の疾患のマーカーとしての能力は当該分野において渇望されていたものであり、特筆に値する。
疾患活動性は、疾患の症状、疾患の進行速度、臓器の機能障害などの程度から判断される。疾患活動性が高いということは、疾患が増悪傾向にあり重症化しつつある状態を指す。疾患活動性を評価することは、疾患の治療効果の判定、治療予後の予測、今後の治療方針の決定等において重要である。また、疾患活動性の評価に基づいて、重症化する前に治療方法を適切なものに変更することで、重症化を最小限に抑えることが可能である。肺間質の疾患(例えば、間質性肺炎)の「疾患活動性」は、症状、%DLCOまたは%VCなどの呼吸機能検査、胸部CTなどの画像検査、動脈血ガスまたは血液検査などの結果およびその推移を総合的に評価することによって決定される。%DLCOおよび%VCは、病態の悪化に直接的に関与する因子であるため、間質性肺炎の疾患活動性の評価において特に重要である。あらゆる種類の間質性肺炎患者における血清LRG濃度は、重要な因子である%DLCOおよび%VCに相関しているため、LRGの血液検査により活動性を簡便に評価することが可能である。本発明は、従来の活動性マーカーでは評価できなかった種類の肺間質の疾患活動性を評価することができる。
%DLCOは、肺拡散能力(carbon monoxide lung diffusion capacity)を百分比%で表わしたものであり、正常範囲は80%以上である。VCは、肺活量(Vital Capacity)は最大吸気から最大呼気までのガス量を意味する。%VCは肺活量(VC)を正常予測値に対する百分比%で表わしたものである。%VCの正常範囲は80%以上とされ、80%未満のものを拘束性障害と呼ばれる。拘束性障害には、間質性肺炎(肺線維症)、肺結核や肺切除などによる肺実質の破壊や消失、胸水貯留、時には小児マヒや重症筋無力症などの神経筋疾患などが挙げられる。
本明細書において「重症度」とは、ある疾患の症状の重さをいい、軽度、中等度、重度等に分けることができる。重症化が進んでいないとき、すなわち重症度が軽度ないし中等度の時点、あるいは重度であってもその程度が低い場合には、疾患活動性を測定することで、さらなる重症化を防止する治療を行って重症化を防ぐことができる。従来は疾患活動性の簡易な指標がなかったため、適切な治療を選択することが難しかったが、本発明により、重症化を防ぐことで、重症度を重くしないようにすることができる。日本で使用される場合は、間質性肺炎では、安静時動脈血ガス、6分間歩行時SpO2の値によりI、II、III、IVに分類することができる。
同じ疾患でも、疾患活動性によって経過や予後が大きく異なるため疾患活動性を評価することの臨床的な意義は大きい。本発明の判定方法において、従来のマーカーでは評価できなかった種類の肺間質の疾患の疾患活動性を簡便に評価することができ、従来のマーカー(例えばKL-6)に比べて優れている。また、例えば、間質性肺炎は、低酸素血症を伴う拘束性換気障害が進行し、呼吸不全や循環不全に陥る傾向が強く死に至りやすい難治性疾患の一つとされているため間質性肺炎では、疾患活動性の正確な評価とそれに応じた治療介入が不可欠である。
本発明の判定方法が対象とする「被験体」とは、ヒトまたは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、ヒトなど)であり、好ましくはヒトが対象とされる。
本明細書において、「肺間質」とは、例えば、小葉間隔壁、胸膜近傍の支持組織をいい、より具体的には、肺胞隔壁である。「肺間質の疾患」には、間質性肺炎の他、%DLCOおよび/または%VCの障害(例えば、正常値の範囲外の数値を示すこと)を伴う任意の肺間質の疾患が含まれる。
本明細書において「間質性肺炎」は、肺間質の炎症性を示す疾患群をいい、炎症後線維化(肺線維症)に進展するものも存在する。間質性肺炎は、いくつかの疾患に分類され、代表的には、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)、続発性の間質性肺炎である慢性過敏性肺炎(chronic hypersensitivity pneumonitis:CHP)、膠原病に関連した間質性肺炎(interstitial pneumonia associated with collagen vascular diseases:CVD-IP)、特発性非特異性間質性肺炎(non-specific interstitial pneumonia :NSIP)、皮膚筋炎合併間質性肺炎、剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia:DIP)、リンパ球性間質性肺炎(lymphoid interstitail pneumonia)、びまん性肺胞障害(diffuse alveolar damage:DAD)、肉芽腫性間質性肺炎等が挙げられるが、これらに限定されない。
上記判定方法において使用される生体試料は、好ましくは血清であるが、血漿であってもよい。生体試料はヒトまたは哺乳動物由来であり得る。
代表的には、LRG濃度の正常値は約3.07μg/mlであり、LRG濃度が5.91μg/ml以上である場合は、肺間質の疾患の疾患活動性が高いと判断することができる。
上記判定方法において、生体試料におけるLRG濃度は、生体試料とLRGに結合することができる試薬(例えば抗LRG抗体またはその断片)とを接触させることにより測定され得る。例えば、本明細書に記載の各種定量法を使用することができ、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法等が挙げられる。
本発明は、肺間質の疾患活動性を判定するための判定をさらに提供する。判定は、LRGに結合することができる試薬を含み、この試薬は標識されていてもよく、標識された分子に結合可能であってもよい。標識には、上記に記載の通り種々の標識剤を使用することができ、当業者は、測定法に応じて好適な標的剤を選択することができる。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが挙げられる。
本発明はまた、上記判定剤を含む、LRGを検出および/または定量するためのキットを提供する。キットは、上記試薬に結合することができる二次抗体をさらに含み得る。二次抗体は、一次抗体に結合する標識された抗体であり得る。
VIII.間質性肺炎の予後評価方法
本発明は、肺間質の疾患の予後を評価するための方法であって、前記肺間質の疾患を有するかまた前記肺間質の疾患を有する危険があると判断された被験体に由来する生体試料中のロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)の濃度を測定する工程を包含し、前記LRGの濃度に基づいて前記肺間質の疾患の疾患活動性を判定し、前記疾患活動性に基づいて前記肺間質の疾患の予後が判定される、方法を提供する。特定の態様において、肺間質の疾患の予後は、LRGの濃度を治療前のLRGの濃度と比較することにより判定された疾患活動性に基づいて判定される。
本明細書において「予後」とは、疾患を有する患者で予測される経過、転帰のことをいう。転帰としては、治癒、軽快および不変などが挙げられる。予後の評価は、治療前のLRG濃度との比較により行われ得る。LRG濃度の測定は、上記に記載の通り行われる。
上記予後評価方法において使用される生体試料は、好ましくは血清であるが、血漿であってもよい。生体試料はヒトまたは哺乳動物由来であり得る。
上記予後評価方法において、生体試料におけるLRG濃度は、生体試料とLRGに結合することができる試薬(例えば抗LRG抗体またはその断片)とを接触させることにより測定され
得る。例えば、本明細書に記載の各種定量法を使用することができ、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法等が挙げられる。
本発明は、間質性肺炎等の肺間質の疾患の予後を判定するための予後判定剤をさらに提供する。予後判定剤は、LRGに結合することができる試薬を含み、この試薬は標識されていてもよく、標識された分子に結合可能であってもよい。標識には、上記に記載の通り種々の標識剤を使用することができ、当業者は、測定法に応じて好適な標的剤を選択することができる。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが挙げられる。
本発明はまた、上記予後判定剤を含む、LRGを検出および/または定量するためのキットを提供する。キットは、上記試薬に結合することができる二次抗体をさらに含み得る。二次抗体は、一次抗体に結合する標識された抗体であり得る。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、すでに引用されたものも含め、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols inMolecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel,F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in MolecularBiology, Greene Pub. Associates; Innis,M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium ofMethods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach,IRL Press; Gait,M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein,F.(1991). Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach, IRL Press;Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman&Hall; Shabarova,Z. et al.(1994). Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim;Blackburn, G.M.et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson,G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
例えば、本明細書において、当該分野に知られる標準法によって、例えば自動化DNA合成装置(Biosearch、Applied Biosystems等から市販されるものなど)の使用によって、本発明のオリゴヌクレオチドを合成することも可能である。例えば、Steinら(Stein et al., 1988,Nucl. Acids Res. 16:3209)の方法によって、ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドを合成することも可能であるし、調節孔ガラスポリマー支持体(Sarin et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:7448-7451)等の使用によって、メチルホスホネート・オリゴヌクレオチドを調製することも可能である。
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(参考例1)LRG欠損マウスの作製
以下の方法により、LRGホモ欠損マウスを作製した。
マウスLRG遺伝子(Lrg1)をPCR法にて取得し、ジフテリア毒素配列を有するベクターに挿入して次のような改変を加えてターゲティングベクターを作成した。Lrg1遺伝子のコード領域(エクソン2)の下流に、FRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子(Neo)を挿入し、さらにエクソン2上流とNeo下流にそれぞれLoxp配列を挿入した。本ターゲティングベクターをマウスES細胞にエレクトロポレーション法で導入し、ネオマイシン耐性ESクローンを選択した。相同組み換えクローンをPCR法にて同定し、キメラマウス作製に用いた。キメラマウスの産仔をPCR法でスクリーニングして目的のヘテロマウスを得たのち、FLP発現トランスジェニックマウスさらにCre発現トランスジェニックマウスとの交配により、NeoおよびLrgの各配列を順に欠損させた。得られたLrg1ヘテロ欠損マウス同士の交配によりLrgホモ欠損マウスを得た。
(実施例1:LRGの発現分布)
本実施例では、マウスから各種組織 を取り出し、各種組織におけるLRGの発現の多様性を観察した。
(材料および方法)
野生型マウス(C57BL/6J、9-11週齢メス、チャールズリバーより購入)より、脾細胞、脾細胞由来T・B細胞、血液由来好中球(Gr1陽性)、腹腔マクロファージ、肝臓を採取し、mRNAを抽出した。各種細胞の採取は、MACS(登録商標)細胞分離システム(Miltenyi Biotec)によって行い、脾細胞中のThy1.2およびCD19陽性細胞をそれぞれT細胞およびB細胞として、血液細胞(末梢血)中のGr1陽性細胞を好中球として回収した。また腹腔洗浄液中の細胞のうち培養皿に接着した細胞を腹腔マクロファージとして回収した。mRNAの抽出は、RNeasy Mini Kit(QIAGEN Cat. No. 74106)を用いて製品マニュアルに従い行った。LRGの発現をreal time PCRにて検討した。real time PCRは、SYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM(TAKARA RR420A)の製品マニュアルに従って行い、7900HT Fast Real-Time PCR System(applied biosystems)を使用して解析した。プライマーの配列は以下のとおりである。Fw 5’ATCAAGGAAGCCTCCAGGAT(配列番号5)、Rv 5’CAGCTGCGTCAGGTTGG(配列番号6)。LRGの発現量はHPRT1の発現で補正した。また、野生型マウスより、肝臓と血液由来好中球を採取し、タンパク質を抽出した。タンパク質の抽出には、タンパク質分解酵素阻害剤および脱リン酸化阻害剤(ナカライ)を添加したRIPAバッファー(10 mM Tris-HCl pH7.5、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、1% NP-40、0.1% SDS、150 mM NaCl)を用いた。肝臓組織についてはRIPAバッファー中でホモジナイズして上清を回収し、好中球については細胞ペレットをRIPAバッファーに溶解した。タンパク質ライセートをグリコペプチダーゼF(Takara)にて糖鎖切断処理(GPF+)したのち、ウェスタンブロットでLRGの分子量の変化を未処理検体と比較した。ウェスタンブロットの手法は以下のとおりである。上記タンパク質ライセートをSDS-PAGEにより分離し、PVDF膜へ転写したのちウサギ抗マウスLRG抗体(IBL、クローンR322)で処理して、酵素標識二次抗体を用いた化学発光法(Western Lightning ECL, Perkin Elmer)により検出した。
(結果)
結果を図1に示す。図1の左のグラフからも明らかなように、特に好中球、ResidentのマクロファージにLRGが高く発現していることが観察された。好中球、マクロファージから産生されるLRGと肝臓から産生されるLRGは糖鎖修飾に違いがあることも分かった。
(実施例2:LRGの免疫電子顕微鏡での観察)
本実施例では、LRGの発現を免疫電子顕微鏡を用いて観察してその分布を調べた。
(材料および方法)
ヒト好中球中のLRGを免疫電子顕微鏡で調べた。標本作製はPost-embedding法で行い、使用した電子顕微鏡はHT7700(日立ハイテクノロジーズ社)であった。観察は(株)鎌倉テクノサイエンスにおいて、標準的な撮影条件にて行われた。使用した抗体はLRG1 polyclonal antibody (Proteintech, 13224-1-AP)およびGoat Anti-Mouse IgG H&L (Abcam, 5nm Gold)であった。
(結果)
結果を図2に示す。図中、矢印先端などの黒い粒子(金コロイド粒子)はLRGを示す。示されるように、LRGは好中球顆粒中に多く存在することが示された。
(実施例3:ブレオマイシン誘導性間質性肺炎モマウスモデルにおけるLRGの発現)
本実施例では、ブレオマイシン誘導性間質性肺炎モマウスモデルにおけるLRGの発現を確かめた。
(材料および方法)
(ブレオマイシン誘導性間質性肺炎マウスモデルの作製)
野生型マウス(C57BL/6・メス)を麻酔し、気管内にブレオマイシン(1.5mg/kg)(ブレオ(登録商標)注射用5 mg(日本化薬株式会社))を投与して間質性肺炎・肺線維症を誘発し、これをブレオマイシン誘導性間質性肺炎マウスモデルとして用いた。
(LRG発現)
投与後、7日後、14日後、21日後にマウスより肺を回収し、伸展固定後に切片を作製、LRG発現を免疫組織化学染色にて検討した。免疫組織化学染色は以下の通り行った。すなわち、脱パラフィン後、ウサギ抗マウスLRG抗体(IBL、クローンR322)を反応させ、DAKO REAL Envision Detection System(Dako K5007)を用いてDABで発色させた。
(結果)
結果を図3に示す。図3の写真図から、解剖学的にみて少なくとも肺胞上皮および気管支上皮に、強く染色される細胞が存在すると解釈される。したがって、LRGはブレオマイシン誘導性間質性肺炎において肺胞上皮細胞および気管支上皮細胞に発現することが示された。
(実施例4:LRGノックアウトマウスのブレオマイシン誘導性間質性肺炎)
本実施例では、LRGノックアウトマウスのブレオマイシン誘導性間質性肺炎における炎症の度合いを確認した。
(材料および方法)
各種マウスの気管内へのブレオマイシンを投与して、マウスに間質性肺炎を誘導した。試薬等は実施例3と同様のものを利用した。本実施例では、野生型マウス(C57BL/6J、9-11週齢メス、チャールズリバーより購入)および参考例で産生したLRG欠損マウス(本明細書において「欠損」マウスは「ノックアウト」マウスまたは「KO」マウスともいうが、いずれも同じ意味で使用される。)のそれぞれに、ブレオマイシンを投与して、マウスに間質性肺炎を誘導した。
その後、各種マウスにおいて、3日後、7日後、10日後、12日後、14日後、17日後、21日後の体重を測定し記録した。また、TNFαの発現量を測定した。肺からmRNAを抽出し、TNFαの発現をreal time PCRにて検討した。mRNAの抽出、real time PCRの手法は、実施例1に従い、TNFαの検出には、プライマー Fw 5’CCTCCCTCTCATCAGTTCTATGG(配列番号7)、Rv 5’CGTGGGCTACAGGCTTGTC(配列番号8)を用いた。
(結果)
結果を図4に示す。図4(左)は、体重の経時変化の結果を示す。LRGノックアウトマウスでは、野生型マウスに比較して、ブレオマイシン投与後の体重減少が軽減していた。図4(右)は、TNFαの発現量を示す。LRGノックアウトマウスマウスでは、野生型マウスに比較して、炎症性サイトカインTNFαの肺での発現が減少していた。以上から、ブレオマイシン誘導性間質性肺炎において、LRGノックアウトマウスでは炎症が軽度である
ことが分かった。
(実施例5:ブレオマイシン誘導性間質性肺炎におけるLRGノックアウトマウスでの好中球の浸潤)
本実施例では、ブレオマイシン誘導性間質性肺炎においてLRGノックアウトマウスの好中球の浸潤を観察した。
(材料および方法)
ブレオマイシンを投与したマウスを、1日目および7日目で解析した。Dulbecco PBS (-)(0.5mL×3回)を用いてマウス各個体から肺胞洗浄液(BALF)を採取し、液中の細胞数をカウントするとともに細胞分画をFACSにて解析した。FACSは以下の条件で行った。細胞を、CD45、Gr1、CD19、CD86、CD11c、F4/80、Ly6G、CD11bに対するFITC、PE、PerCP-Cy5.5、PE-Cy7、APC、APC-Cy7、Pacific Blue、Horizon V500標識抗体(CD11bのみBecton Dickinson、他はBioLegendより購入)で染色し、FACS CantoII(Becton Dickinson)を用いて製造業者の指示通りに分析した。
(結果)
結果を図5に示す。図5は、(左)BALF中の総細胞数を示し、図6は(右)BALF中の好中球(Ly6G+)数を示す。ブレオ誘導性間質性肺炎においてLRGノックアウトマウスでは、好中球の浸潤が著明に減少することが分かった。したがって、LRGは、好中球の細胞浸潤を亢進する役割を果たしていることが理解される。
(実施例6:ブレオマイシン誘導性間質性肺炎において、LRGノックアウトマウスではコラーゲン発現が低い)
本実施例では、ブレオマイシン誘導性間質性肺炎における、LRGノックアウトマウスではコラーゲン発現を観察した。
(材料および方法)
ブレオマイシンを投与したマウス肺からmRNAを抽出し、コラーゲン1α2の発現をreal time PCRにて検討した。mRNA の抽出、PCRの手法は実施例1に記載の手法に準じ、PCRのプライマーとしては、Fw 5’TGTTGGCCCATCTGGTAAAGA(配列番号9)、Rv 5’CAGGGAATCCGATGTTGCC(配列番号10)を用いた。
(結果)
結果を図6に示す。コントロール、3日目、7日目、14日目とも、ブレオマイシン誘導性間質性肺炎において、LRGノックアウトマウスでは線維化に関わるコラーゲン発現誘導が低いことがわかる。したがって、LRGは、肺線維症の進行に重要な役割を果たしていることが理解される。LRGは、間質性肺炎に伴う線維化(すなわち肺線維症)に密接に関連しており、LRGが肺線維症の活動性マーカーとなり得ることが明らかになった。
(実施例7:間質性肺炎患者における血清LRG濃度の定量)
本実施例では、間質性肺炎患者血清における血清中LRG濃度を定量した。
(方法)
間質性肺炎患者(CHP(n=11)、CDV-IP(n=12)、IPF(n=10)、NSIP(n=10))における血清中LRG濃度を定量した。血清LRG濃度と血清KL-6濃度との相関関係、および血清LRG濃度あるいは血清KL-6濃度と%DLCO、VC、%VCとの相関関係を解析した。血清LRG濃度の測定には、サンドイッチ法を使用した。
(結果)
結果を図7~11に示す。間質性肺炎患者血清中LRG濃度は健常人血清と比較して有意に高値を示した。また、CHP、CVD-IP、IPF、NSIPのいずれの疾患においても血清LRG濃度は健常人よりも有意に高値を示した(図7)。IPF患者において血清LRG濃度は血清KL-6濃度と相関関係を示したが、その他の疾患では相関関係は認められなかった(図8)。CVD-IP、NSIP患者において血清LRG濃度は%DLCOと有意な相関関係を示した(図9)。NSIP患者において血清LRG濃度はVCおよび%VCに有意な相関関係が認められた(図10および11)。即ち、肺機能低下の程度と血清LRG濃度の間に相関関係が認められたが、KL-6については有意な相関関係は認められなかった。これらの結果から、KL-6はすべての間質性肺炎のマーカーとして機能することはできず、他方で、LRGは網羅性に優れたマーカーとなり得ることが明らかになった。
本発明者らは、本発明において、LRGが細胞浸潤および/または細胞遊走の調節に関係していることを明らかにしてきた。そして、本実施例において、細胞浸潤による炎症が原因となる間質性肺炎の1つであるNSIPにおいて、血清LRG濃度が、疾患活動性の評価において重要な因子である%DLCOおよび%VCと密接に相関していることが明らかになった。したがって、本実施例の結果かLRG濃度はNSIPの疾患活動性マーカーとして使用することができることが証明されたといえる。これに加えて、CHP、CVD-IP、IPFおよびNSIPなどを含む間質性肺炎は、共通して細胞浸潤を発症のメカニズムとする疾患であるため、LRGが、NSIPのみならずCHP、CVD-IP、IPFなどの間質性肺炎一般の疾患活動性の評価に有用であると予測された。予測された通り、NSIP以外の間質性肺炎(CHP、CVD-IPおよびIPF)患者に対しても同様の実験を行ったところ、NSIP患者と同様に、健常人と比較して顕著に高いレベルを示し、さらに、%DLCOおよび%VCとの関係において、NSIPと類似した傾向が観察された。したがって、当業者は、LRGが、細胞浸潤を共通の発症メカニズムとする種々の間質性肺炎の疾患活動性マーカーとなり得ることを理解する。
(疾患活動性との関連)
通常、間質性肺炎の疾患活動性は、症状、%DLCOまたは%VCなどの呼吸機能検査、胸部CTなどの画像検査、動脈血ガスまたは血液検査などの結果およびその推移を総合的に評価することによって決定される。%DLCOおよび%VCは、病態の悪化に直接的に関与する因子であるため、肺間質の疾患、特に間質性肺炎の疾患活動性の評価において特に重要である。
また、本実施例の結果から、血清LRGは、間質性肺炎の疾患活動性の評価において重要な因子である%DLCOおよび%VCと相関していることが明らかになった。すなわち、LRGの血液検査により活動性を簡便に評価することが可能であることを示している。したがって、本発明のマーカーは、間質性肺炎等の肺間質の疾患の疾患活動性の指標として使用し得ることが理解される。
(実施例8:皮膚筋炎合併間質性肺炎患者の血清LRG濃度の解析)
本実施例では、治療前および治療後の皮膚筋炎合併間質性肺炎患者の血清LRG濃度を解析した。
(方法)
皮膚筋炎合併間質性肺炎患者血清(N=49)について、治療前、治療2週間後、4週間後、8週間後、および12週間後の血清LRG濃度を測定した。皮膚筋炎合併間質性肺炎の治療は、ステロイド(内服プレドニゾロン・メチルプレドニゾロンパルス療法)に免疫抑制剤(シクロスポリンあるいはタクロリムス)を併用して行った。症例に応じて、シクロフォスファミドのパルス療法も追加的に行った。血清LRG濃度の測定には、サンドイッチ法を使用した。
(結果)
結果を図12および13~図17に示す。皮膚筋炎合併間質性肺炎患者において、治療の経過に伴ってLRG濃度が減少し、血清中LRG濃度は治療前に比べて治療後に有意に減少した(図12)。
実施例7および8の結果から、血清LRG濃度を測定することは、間質性肺炎患者の活動性の評価に有用性が高いことが示された。
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。