ところで近年では、スパークプラグの小型化(小径化)を図るべく、主体金具の小径化が図られている。このような小径化された主体金具においては、その先端面(すなわち、接地電極の被溶接面)の幅が小さくなり、主体金具の先端面の幅と接地電極の厚さとの差が非常に小さなものとなる。そして、上述のように、幅方向の中心において厚さが最大となる接地電極を用いた場合には、接地電極のうち最大の厚さを有する部位が、主体金具の内周面や外周面に対して極めて接近する。
このような構成において、主体金具の外周面や内周面に対する溶融ダレのはみ出しを防止するためには、通電電流を比較的小さなものとし、溶融ダレの形成を抑制することが考えられる。しかしながら、この場合には、主体金具及び接地電極を十分に溶け込ませることができず、主体金具に対する接地電極の溶接強度を向上させることが非常に難しい。
さらに、上述のように、接地電極を、その幅方向の中心において最大の厚さを有し、前記幅方向の外側に向けてその厚さが小さくなる構成とした場合には、内燃機関等の動作に伴う振動等の外力が接地電極に加わった際に、前記最大の厚さを有する部位と主体金具との溶接部分に応力が集中してしまう。そのため、主体金具及び接地電極の溶接部分にクラックが生じてしまいやすく、主体金具からの接地電極の脱落が生じてしまいやすい。従って、接地電極が上述の形状をなす場合には、接地電極の脱落をより確実に防止すべく、より優れた溶接強度が必要とされるが、上述のように、接地電極が主体金具の内周面等に対して極めて接近する場合には、溶接強度の向上を図ることが非常に難しい。すなわち、幅方向の中心において最大の厚さを有し、前記幅方向の外側に向けてその厚さが徐々に小さくなるように接地電極を構成するとともに、主体金具の先端面の幅と接地電極の厚さとの差が非常に小さくなるように構成されたスパークプラグにおいては、外力による接地電極の脱落が特に懸念される。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外力による接地電極の脱落が特に懸念されるスパークプラグにおいて、溶接強度を十分に確保することができ、接地電極の脱落をより確実に防止することにある。
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
構成1.本構成のスパークプラグは、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
前記主体金具の先端面に溶接され、前記中心電極との間で間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極は、前記主体金具の先端面に溶接されるとともに、前記軸線方向先端側に向けて延び、少なくとも一部が前記主体金具に埋没する基部を具備し、
前記基部は、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくなっており、かつ、
前記軸線と直交する方向に沿った前記主体金具の先端面の幅が、前記最大厚さよりも大きい一方で、前記主体金具の先端面の幅と前記最大厚さとの差が0.2mm以下とされ、
前記軸線に垂直な平面における前記基部の厚さが最大となる線分の垂直二等分線を含み、かつ、前記軸線と平行に延びる断面における、前記軸線に沿った前記基部の最大埋没量を0.10mm以上とし、
前記軸線に垂直な平面における前記基部の幅が最大となる線分の垂直二等分線を含み、かつ、前記軸線と平行に延びる断面において、前記基部のうち前記主体金具の外周面及び内周面に位置する部位の一方のみが、前記主体金具の先端面に対して最も埋没することを特徴とする。
尚、「基部の最大埋没量」とあるのは、断面において、基部のうち主体金具に対して最も埋没している部位の埋没量から、基部のうち主体金具に対して最も埋没していない部位の埋没量を減じた値をいう(以下、同様)。
上記構成1によれば、基部は、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくされている。また、軸線と直交する方向に沿った主体金具の先端面の幅は、基部の最大厚さよりも大きい一方で、主体金具の先端面の幅と前記最大厚さとの差が0.2mm以下とされている。すなわち、外力が加わった際に接地電極の脱落が生じやすく、脱落を防止可能な程度の溶接強度を確保しようにも、従前の手法では、十分な溶接強度を確保することが難しい構成となっている。
この点、上記構成1によれば、前記軸線に垂直な平面における基部の幅が最大となる線分の垂直二等分線を含み、かつ、軸線と平行に延びる断面において、前記基部のうち主体金具の外周面及び内周面に位置する部位の一方のみが、主体金具の先端面に対して最も埋没するように構成されている。すなわち、接地電極に外力が加わった際には、基部及び主体金具の溶接部分のうち内周や外周に対して応力が特に加わるが、この応力が特に加わる部位において、基部が主体金具に対して最も埋没するように構成されている。従って、応力に対して十分に抗することが可能な溶接強度をより確実に確保することができる。
また、上記構成1によれば、前記軸線に垂直な平面における基部の厚さが最大となる線分の垂直二等分線を含み、かつ、軸線と平行に延びる断面における、軸線に沿った基部の最大埋没量が0.10mm以上とされている。すなわち、基部のうち外周や内周以外の部位において、十分な埋没量が確保されるように構成されている。これにより、溶接強度の更なる向上を図ることができ、接地電極の脱落をより確実に防止することができる。
尚、基部のうち主体金具に対して最も埋没する位置を、主体金具の外周面や内周面に位置させることは、主体金具の外周面や内周面に対して溶融ダレを積極的にはみ出させるような条件で、主体金具に接地電極を溶接することでなされる。主体金具の外周面や内周面に溶融ダレをはみ出させることで、主体金具の先端面の最内周や最外周を凹状に変形させることができ、その結果、基部のうち主体金具に対して最も埋没する位置を、主体金具の外周面や内周面とすることができる。また、溶接時において、溶融ダレがはみ出る程度の比較的大きな通電電流を流すことにより、主体金具及び接地電極が十分に溶け込む点も、溶接強度の向上を寄与する。
尚、主体金具の内周面等にはみ出した溶融ダレを切除することで、溶融ダレがはみ出すことに伴う不具合を回避することができる。
構成2.本構成のスパークプラグは、上記構成1において、前記基部の硬度をビッカース硬度でA(Hv)とし、前記主体金具の先端面の硬度をビッカース硬度でB(Hv)としたとき、A≧B−50(Hv)を満たし、
前記軸線に垂直な平面における前記基部の幅が最大となる線分の垂直二等分線を含み、かつ、前記軸線と平行に延びる断面における、前記軸線に沿った前記基部の最大埋没量を0.05mm以上0.4mm以下としたことを特徴とする。
溶接強度の更なる向上を図るという点では、基部の内周や外周を主体金具に対してより埋没させることが好ましい。しかしながら、埋没量を増大させるためには、通電電流ひいては発熱量を増大させる必要があり、発熱量を過度に増大させてしまうと、主体金具及び接地電極の溶接界面において、接地電極等に含有される成分の析出状態が通常とは異なるものとなってしまう。その結果、例えば、主体金具及び接地電極の表面にメッキ層を設け、溶接界面が脆化した場合などにおいて、溶接強度が低下してしまうおそれがある。
この点、上記構成2によれば、基部の内周や外周の最大埋没量が0.05mm以上とされているため、溶接強度の更なる向上を図ることができる。また、A≧B−50を満たすように構成されているため、主体金具に対して基部を埋没させやすくなり、前記最大埋没量を0.05mm以上とするために、発熱量を過度に増大させる必要がなくなる。従って、溶接界面における成分の析出状態に変化が生じてしまうことをより確実に防止でき、溶接強度の低下を効果的に抑制することができる。
また、上記構成2によれば、基部の内周や外周の最大埋没量が0.4mm以下とされているため、発熱量の過度の増大をより確実に抑制することができ、溶接界面における成分の析出状態の変化をより一層確実に防止することができる。その結果、溶接強度の低下を一層効果的に抑制することができる。
尚、基部の硬度Aを過度に大きくすると、基部において、接地電極が変形しにくくなり、所定の溶接界面にすることが難しくなったり、溶接界面で接地電極が脆化して十分な溶接強度を確保するのが難しくなったりするおそれがある。従って、基部の硬度Aを、例えば、260Hv以下とすることが好ましい。
構成3.本構成のスパークプラグは、上記構成1又は2において、前記接地電極は、ニッケル(Ni)又はこれを主成分とする合金からなることを特徴とする。
尚、「主成分」とあるのは、材料中、最も質量比の高い成分をいう。
上記構成3によれば、接地電極は、Ni又はNiを主成分とする合金から形成されている。従って、接地電極の熱伝導性を向上させることができ、優れた耐消耗性を実現することができる。
構成4.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記接地電極は、Niを93質量%以上、イットリウム(Y)を含む希土類元素を0.05質量%以上0.45質量%以下含有することを特徴とする。
尚、「希土類元素」としては、イットリウム(Y)の他に、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、及び、イッテルビウム(Yb)を挙げることができる。
上記構成4によれば、接地電極は、Niを93質量%以上含有する金属により形成されている。従って、接地電極の熱伝導性を向上させることができ、優れた耐消耗性を実現することができる。
一方で、Niを多量に含有する金属は高温下で粒成長しやすく、上記構成4のように、Niを多量に含む金属により接地電極を形成する場合には、高温下において、接地電極を構成する金属の粒成長が懸念される。
この点、上記構成4によれば、接地電極に希土類元素が一種以上含有されるとともに、希土類元素の含有量が0.05質量%以上とされている。従って、接地電極を構成する金属の粒成長をより確実に抑制することができ、耐消耗性を一層向上させることができる。
尚、希土類元素の含有量を過度に大きなものとしてしまうと、高温下において接地電極の表面に発汗粒が生じやすくなってしまう。発汗粒が生じてしまうと、その発汗粒の存在により中心電極と接地電極との間に形成された間隙が局所的に狭くなってしまい、ひいては着火性の低下を招いてしまうおそれがある。この点、上記構成4によれば、希土類元素の含有量が0.45質量%以下と十分に小さなものとされている。従って、発汗粒の発生を効果的に抑制することができ、着火性の低下をより確実に防止することができる。
尚、Niを多量に含む金属により接地電極を形成した場合には、上述の通り、接地電極の熱伝導性が向上する。そのため、主体金具に接地電極を溶接する際に、主体金具及び接地電極を十分に溶け込ませるためには、通電電流ひいては発熱量をある程度増大させる必要がある。しかしながら、接地電極に希土類元素が含有されている場合において、発熱量を増大させてしまうと、溶接界面における希土類元素の析出状態に変化が生じてしまうおそれがある。その結果、溶接界面にクラックが生じやすくなってしまい、溶接強度が低下してしまうおそれがある。
この点、上記構成1等を採用することで、上記構成4のように、Niを93質量%以上、希土類元素を0.05質量%以上0.45質量%以下含有する金属により接地電極が形成され、溶接強度の低下が懸念される場合であっても、優れた溶接強度を確保することができる。換言すれば、上記構成1等は、Niを93質量%以上、希土類元素を0.05質量%以上0.45質量%以下含有する金属により接地電極を形成した場合において、特に有効である。
構成5.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記接地電極のうち少なくとも前記基部は、前記中心電極側の面が少なくとも自身の幅方向に平坦な面を有し、前記平坦な面以外の面が湾曲面状をなすことを特徴とする。
尚、「接地電極のうち少なくとも基部は、中心電極側の面が自身の幅方向に平坦な面を有する」とあるのは、基部の中心軸と直交する断面において、基部のうち中心電極側に位置する面の外形線が直線状をなすことをいう。
上記構成5によれば、間隙と燃料噴射装置との間に接地電極が位置するような状態で、スパークプラグが内燃機関等に取付けられた場合に、接地電極を回り込む形で、間隙に対して燃料ガスが入り込みやすくなる。従って、取付位置の相違に伴う着火性の極端な低下をより確実に防止することができる。
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図1では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部分が絶縁碍子2の先端から突出している。
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等(例えば、S25Cなど)の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19と、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20とが設けられている。尚、本実施形態では、スパークプラグ1の小型化を図るべく、主体金具3が小径化されており、ねじ部15のねじ径が比較的小さなもの(例えば、M12以下)とされている。
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
また、図2(a),(b)に示すように、主体金具3の先端面26には棒状の接地電極27が溶接されている。接地電極27は、その基端面を主体金具3の先端面26に対して押圧しつつ、接地電極27と先端面26との接触部分に通電することにより、前記先端面26に溶接されている。尚、溶接に伴い、主体金具3及び接地電極27が溶け合ってなる金属が前記接触部分の外側にはみ出すことで、いわゆる溶融ダレ(不図示)が形成される。ここで、溶融ダレが主体金具3の外周面にはみ出した場合には、スパークプラグ1を内燃機関等に取付ける際に支障が生じてしまうおそれがあり、溶融ダレが主体金具3の内周面にはみ出した場合には、中心電極5と溶融ダレとの間で絶縁碍子2の表面を這った異常放電が生じてしまうおそれがある。そのため、従前においては、主体金具3に対して接地電極27を溶接する際の押圧荷重や通電電流は、主体金具3の内周面等に対する溶融ダレのはみ出しを極力防止できるような値に設定されるのが一般的である。
さらに、本実施形態では、耐食性の向上を図るべく、主体金具3及び接地電極27の表面に、NiやZnを主成分とする金属からなるメッキ層(図示せず)が設けられている。メッキ層は、例えば、ZnやNiを含む酸性のメッキ用水溶液に接地電極27が溶接された主体金具3を浸漬した上で、主体金具3及び接地電極27に対して直流電流を流すことにより形成することができる。但し、メッキ層の形成時には、酸の影響により、主体金具3及び接地電極27の溶接界面が脆化し得る。
加えて、接地電極27は、Ni又はNiを主成分とする合金により形成されており、本実施形態では、Niを93質量%以上含有するとともに、イットリウム(Y)を含む希土類元素を0.05質量%以上0.45質量%以下含有する金属から形成されている。希土類元素としては、Yの他に、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、及び、イッテルビウム(Yb)を挙げることができる。
尚、主体金具3に対して接地電極27を溶接する際の通電電流を増大させ、発熱量を増大させた場合には、主体金具3及び接地電極27の溶接界面において、接地電極27等に含有される成分(本実施形態では、希土類元素)の析出状態に変化が生じる。析出状態に変化が生じ、かつ、メッキ層の形成工程に伴い溶接界面が脆化している場合には、溶接強度の低下が生じ得る。
接地電極27の説明に戻り、接地電極27は、自身の略中間部分にて曲げ返されており、自身の先端側側面と中心電極5の先端部との間には、間隙としての火花放電間隙28が形成されている。そして、当該火花放電間隙28に電圧が印加されることで、火花放電間隙28において軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。尚、接地電極27は、主体金具3の先端面26に溶接された後に、自身の略中間部分において曲げ返される。
加えて、接地電極27は、前記先端面26に溶接されるとともに、軸線CL1方向先端側に向けて延び、少なくとも一部が主体金具3に埋没する基部271を備えている。基部271は、図3〔図3は、図2(a)のJ−J線断面図である〕に示すように、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくなっている。特に本実施形態において、接地電極27のうち少なくとも基部271(本実施形態では、接地電極27の全域)は、中心電極5側の面27Cが自身の幅方向に平坦な面を有し、前記面27C以外の面が湾曲面状をなすように構成されている。すなわち、基部271を通り、基部271の中心軸と直交する断面において、面27Cの外形線は直線状をなし、基部271のうち前記面27C以外の面を形成する外形線は湾曲線状をなすように構成されている。
さらに、本実施形態では、上述の通り、主体金具3の小径化が図られていることから、軸線CL1と直交する方向に沿った主体金具3の先端面26の幅W1が比較的小さなものとされている(尚、本実施形態において、幅W1は、主体金具3の周方向において一定とされている)。そのため、幅W1は、基部271の最大厚さT1よりも大きいものの、幅W1と最大厚さT1との差は0.2mm以下となっている。尚、上述の通り、接地電極27は、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくなっているため、主体金具3の先端面26の内周や外周に対して、基部271の幅方向の中心部(最大厚さT1を有する部位)が最も接近している。
ところで、幅W1と最大厚さT1との差が0.2mm以下とされている場合には、主体金具3に対して接地電極27を溶接する際に、主体金具3の内周面や外周面に溶融ダレがはみ出しやすく、溶融ダレのはみ出しを防止するためには、溶接時における押圧荷重や通電電流を比較的小さなものとせざるを得ない。しかしながら、押圧荷重や通電電流を小さくすると、主体金具3に対する基部271の埋没量や、両者の溶け込み量が減少してしまうため、両者の溶接強度が不十分となってしまうおそれがある。
また、本実施形態のように、基部271が、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくなる形状とされている場合には、接地電極27に対して、内燃機関等の動作に伴う振動や接地電極27を屈曲させる際の応力などの外力が加わった際に、基部271のうち最大厚さを有する部位と、主体金具3との溶接部分に対して応力が集中的に加わる。そのため、前記溶接部分にクラックが発生してしまいやすく、主体金具3から接地電極27が比較的容易に脱落してしまうおそれがある。すなわち、本実施形態におけるスパークプラグ1は、接地電極27の形状面を考慮すると、より優れた溶接強度を確保する必要があるものの、先端面26の幅W1と厚さT1との差が小さいため、十分な溶接強度を確保することが難しい構成となっている。
そこで、本実施形態では、溶接時における押圧荷重や通電電流を特段小さくすることなく、主体金具3に対して接地電極27を溶接することで、主体金具3の内周面や外周面にあえて溶融ダレをはみ出させ、溶融ダレのはみ出しに伴い、先端面26の最内周部や最外周部を変形させる。これにより、図4に示すように、軸線CL1に垂直な平面における基部271の幅が最大となる線分SG1の垂直二等分線PM1を含み、かつ、軸線CL1と平行に延びる断面をとったとき、図5(図5は、図4のK−K線断面図である)に示すように、主体金具3の先端面26に対して基部271を最も埋没させた位置271Mが、主体金具3の外周面3G又は内周面3Nの少なくとも一方(本実施形態では、主体金具3の外周面3G)に位置するように構成されている。より詳しくは、基部271のうち主体金具3の外周面3G及び内周面3Nに位置する部位の一方(本実施形態では、外周面3Gに位置する部位)のみが、主体金具3の先端面26に対して最も埋没するように構成されている。すなわち、外力が加えられた際に応力の集中する部位において、主体金具3に対して基部271が十分に埋没し、非常に優れた溶接強度が確保されるように構成されている。
尚、本実施形態では、主体金具3に対する接地電極27の溶接後、所定の治具により、主体金具3の外周面や内周面にはみ出した溶融ダレが切除される。
さらに、本実施形態では、基部271の外周や内周以外の部位において良好な溶接強度を確保すべく、図6に示すように、軸線CL1に垂直な平面における基部271の厚さが最大となる線分SG2の垂直二等分線PM2を含み、かつ、軸線CL1と平行に延びる断面をとったとき、図7(図7は、図6のL−L線断面図である)に示すように、軸線CL1に沿った基部271の最大埋没量MB2が0.10mm以上とされている。
また、本実施形態では、一層優れた溶接強度を実現すべく、図5に示すように、基部271の幅の線分SG1の垂直二等分線PM1を含み、かつ、軸線CL1と平行に延びる断面における、軸線CL1に沿った基部271の最大埋没量MB1が0.05mm以上とされている。尚、「基部271の最大埋没量」とあるのは、基部271のうち主体金具3に対して最も埋没している部位の埋没量から、基部271のうち主体金具3に対して最も埋没していない部位の埋没量を減じた値をいう。
尚、最大埋没量MB1を0.05mm以上とするにあたっては、例えば、主体金具3に対して接地電極27を溶接する際に、発熱量を増大させることが考えられるが、発熱量を過度に増大させてしまうと、溶接界面において、接地電極27に含有される成分(希土類元素)の析出状態に変化が生じてしまう。この場合には、最大埋没量MB1を0.05mm以上としたことによる溶接強度の向上効果が十分に発揮されないおそれがある。
そこで、本実施形態では、発熱量を過度に増大させることなく、最大埋没量MB1を0.05mm以上とするために、基部271の硬度をビッカース硬度でA(Hv)とし、主体金具3の先端面26の硬度をビッカース硬度でB(Hv)としたとき、A≧B−50を満たすように構成されている。すなわち、基部271の硬度Aは、最も小さい場合であっても、先端面26の硬度Bよりも若干小さい程度とされている。そのため、溶接時において発熱量を過度に増大させることなく、主体金具3に対して基部271を比較的容易に埋没可能となっている。また、本実施形態における基部271の硬度Aは、260Hv以下とされている。
尚、基部271の硬度Aとあるのは、基部271のうち、主体金具3に対する溶接に伴い硬度変化が生じる部位以外の部位における硬度をいう。また、先端面26の硬度Bとあるのは、接地電極27の溶接に伴い硬度変化が生じる部位以外の部位における硬度をいう。
また、本実施形態では、最大埋没量MB1が0.4mm以下とされており、溶接時における発熱量の増大抑制がより確実に図られている。
以上詳述したように、本実施形態によれば、軸線CL1に垂直な平面における基部271の幅が最大となる線分SG1の垂直二等分線PM1を含み、かつ、軸線CL1と平行に延びる断面において、基部271のうち主体金具3の外周面3Gに位置する部位のみが、主体金具3の先端面26に対して最も埋没するように構成されている。すなわち、接地電極27に外力が加わった際には、基部271及び主体金具3の溶接部分のうち内周や外周に対して応力が特に加わるが、この応力が特に加わる部位において、基部271が主体金具3に対して最も埋没するように構成されている。従って、応力に対して十分に抗することが可能な溶接強度をより確実に確保することができる。
また、軸線CL1に垂直な平面における基部271の厚さが最大となる線分SG2の垂直二等分線PM2を含み、かつ、軸線CL1と平行に延びる断面における、基部271の最大埋没量MB2が0.10mm以上とされている。すなわち、基部271のうち外周や内周以外の部位において、十分な埋没量が確保されるように構成されている。これにより、溶接強度の更なる向上を図ることができ、接地電極27の脱落をより確実に防止することができる。
加えて、最大埋没量MB1が0.05mm以上とされているため、溶接強度の更なる向上を図ることができる。また、A≧B−50を満たすように構成されているため、主体金具3に対して基部271を埋没させやすくなり、最大埋没量MB1を0.05mm以上とするために、発熱量を過度に増大させる必要がなくなる。従って、溶接界面における成分の析出状態に変化が生じてしまうことをより確実に防止でき、メッキ層を設けた場合などにおける溶接強度の低下を効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、最大埋没量MB1が0.4mm以下とされているため、溶接時における発熱量の過度の増大をより確実に防止でき、溶接界面における成分の析出状態の変化をより一層確実に防止することができる。その結果、溶接強度の低下を一層効果的に抑制することができる。
さらに、接地電極27は、Niを93質量%以上含有する金属により形成されている。従って、接地電極27の熱伝導性を向上させることができ、優れた耐消耗性を実現することができる。
一方で、Niを多量に含む金属により接地電極27を形成する場合には、高温下において、接地電極27を構成する金属の粒成長が懸念されるが、本実施形態では、接地電極27に希土類元素が一種以上含有されるとともに、希土類元素の含有量が0.05質量%以上とされている。従って、接地電極27を構成する金属の粒成長をより確実に抑制することができ、耐消耗性を一層向上させることができる。
また、接地電極27における希土類元素の含有量が0.45質量%以下と十分に小さなものとされている。従って、発汗粒の発生を効果的に抑制することができ、着火性の低下をより確実に防止することができる。
加えて、接地電極27のうち少なくとも基部271は、中心電極5側の面27Cが平坦な面を有し、前記平坦な面以外の面が湾曲面状をなすように構成されている。従って、火花放電間隙28と燃料噴射装置との間に接地電極27が位置するような状態で、スパークプラグ1が内燃機関等に取付けられた場合に、接地電極27を回り込む形で、火花放電間隙28に対して燃料ガスが入り込みやすくなる。従って、取付位置の相違に伴う着火性の極端な低下をより確実に防止することができる。
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、基部の幅の線分の垂直二等分線を含み、かつ、軸線と平行に延びる断面において、基部のうち主体金具の先端面に対して最も埋没する位置(最埋没位置)を、主体金具の外周面、内周面、又は、これら以外とするとともに、主体金具の先端面の幅W1から基部の最大厚さT1を減じた値(W1−T1)、最大埋没量MB1,MB2、及び、主体金具の先端面の硬度Bから基部の硬度Aを減じた値(B−A)を種々変更したスパークプラグのサンプルを少なくとも5本ずつ作製し、各サンプルについて、溶接強度評価試験を行った。
溶接強度評価試験の概要は、次の通りである。すなわち、主体金具及び接地電極にメッキ層を設けなかったサンプルと、主体金具及び接地電極にメッキ層を設けたサンプルとのそれぞれについて、接地電極を繰り返し折り曲げ、溶接部分において接地電極が破断した(主体金具から接地電極が脱落した)回数(破断回数)を計測するとともに、破断回数の平均値(平均破断回数)を算出した。ここで、平均破断回数が3.5回以上となったサンプルは、優れた溶接強度を有するとして「◎」の評価を下すこととし、平均破断回数が2.5回以上3.5回未満となったサンプルは、良好な溶接強度を有するとして「○」の評価を下すこととした。一方で、平均破断回数が2.5回未満となったサンプルは、溶接強度に劣るとして「×」の評価を下すこととした。表1〜表3に、当該試験の試験結果を示す。
尚、メッキ層を設けなかったサンプルと比べて、メッキ層を設けたサンプルは、メッキ層を設ける際における酸の影響により、主体金具及び接地電極の溶接強度が低下しやすくなる。また、最埋没位置や、最大埋没量MB1,MB2等は、主体金具に対して接地電極を溶接する際の通電電流や押圧荷重を調節することで変更した。例えば、通電電流を比較的小さなものとすることで、溶融ダレの形成(すなわち、主体金具の外周面や内周面への溶融ダレのはみ出し)を抑制し、最埋没位置を主体金具の外周面及び内周面以外の位置とすることができる。また、通電電流を比較的大きなものとすることで、溶融ダレを積極的に形成する(主体金具の外周面や内周面に対して溶融ダレをはみ出させる)ことができ、最埋没位置を主体金具の内周面や外周面とすることができる。さらに、通電電流や押圧荷重を増減させることで、最大埋没量MB1,MB2を増減させることができる。
また、主体金具の先端面の硬度Bをほぼ一定とする一方で、加熱処理などにより基部の硬度Aを調節することで、B−Aを変更した。さらに、各サンプルともに、Niを93質量%含有するとともに、希土類元素を0.05質量%以上0.45質量%以下含有する金属により接地電極を形成した。加えて、接地電極は、中心電極側の面が自身の幅方向に平坦な面を有し、前記中心電極側の面以外の面が湾曲面状をなすように構成した。
表1〜表3に示すように、最埋没位置を主体金具の内周面及び外周面以外の位置としたサンプル(サンプル1〜21)のうち、W1−T1を0.2mm超としたサンプル(サンプル1〜7)は、良好な溶接強度を有することが分かった。これは、W1−T1が比較的大きかったため、通電電流を比較的大きなものとしても、主体金具の内周面や外周面に溶融ダレをはみ出させることなく、主体金具及び接地電極を十分に溶け込ませることができたためであると考えられる。
その一方で、最埋没位置を主体金具の内周面及び外周面以外の位置としたサンプル(サンプル1〜21)のうち、W1−T1を0.2mm以下としたサンプル(サンプル8〜21)は、溶接強度に劣ることが明らかとなった。これは、W1−T1が比較的小さかったため、主体金具の内周面や外周面に溶融ダレがはみ出ないようにするためには、通電電流を小さくせざるを得ず、その結果、主体金具及び接地電極の溶け込みが不十分となったためであると考えられる。
また、最大埋没量MB2を0.10mm未満としたサンプル(サンプル22〜33)は、溶接強度が不十分となることが確認された。
これに対して、最埋没位置を主体金具の内周面及び外周面のうちの一方とし、かつ、最大埋没量MB2を0.10mm以上としたサンプル(サンプル34〜109)は、W1−T1を0.2mm以下とした場合であっても、良好な溶接強度を有することが明らかとなった。これは、次の(1)及び(2)に起因すると考えられる。
(1)通電電流を比較的大きなものとし、主体金具の外周面や内周面に溶融ダレがはみ出したことで、接地電極に外力が加わった際に特に応力が集中しやすい部位において、基部が主体金具に対して最も埋没し、応力に対して十分に抗することが可能な溶接強度が確保されたこと。
(2)通電電流を比較的大きなものとしたことで、主体金具及び接地電極が十分に溶け込むこととなったこと。
さらに、B−A≦50、つまり、A≧B−50を満たすように構成しつつ、最大埋没量MB1を0.05mm以上0.4mm以下としたサンプル(サンプル75〜79,81〜85,87〜91,93〜97,99〜103,105〜109)は、メッキ層を設け、溶接強度の低下が生じ得る場合においても、極めて優れた溶接強度を有することが分かった。これは、次の(3)〜(5)が相乗的に作用したことによると考えられる。
(3)最大埋没量MB1を0.05mm以上としたことで、溶接強度の向上が図られたこと。
(4)A≧B−50としたことで、主体金具に対して接地電極が埋没しやすくなったため、最大埋没量MB1を0.05mm以上とする際に、通電電流(発熱量)を過度に増大させる必要がなくなり、その結果、溶接界面における成分の析出状態の変化を防止できたこと。
(5)最大埋没量MB1を0.4mm以下としたことで、通電電流(発熱量)の過度の増大を防止でき、A≧B−50としたことと相俟って、溶接界面における成分の析出状態の変化をより確実に防止できたこと。
上記試験の結果より、基部が、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくなっており、かつ、W1−T1が0.2mm以下とされ、外力による接地電極の脱落が懸念されるスパークプラグにおいて、良好な溶接強度を実現し、接地電極の脱落をより確実に防止するという観点から、最大埋没量MB2を0.10mm以上とするとともに、接地電極の最埋没位置を主体金具の内周面及び外周面の一方とすることが好ましいといえる。
また、溶接強度の更なる向上を図るべく、基部の硬度A(Hv)、及び、主体金具の先端面の硬度B(Hv)について、A≧B−50を満たすとともに、最大埋没量MB1を0.05mm以上0.4mm以下とすることがより好ましいといえる。
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
(a)上記実施形態における基部271の形状は例示であって、基部271は、自身の幅方向の中心において厚さが最大であるとともに、前記幅方向の外側に向かうにつれて厚さが小さくなる形状であればよい。従って、例えば、図8に示すように、基部371が断面円形状をなすように接地電極37を構成してもよい。また、図9に示すように、基部471が断面楕円形状をなすように接地電極47を構成してもよい。さらに、図10に示すように、基部571が断面三角形状をなすように接地電極57を構成してもよいし、図11及び図12に示すように、基部671,771が、断面多角形状(例えば、五角形状や六角形状)をなすように接地電極67,77を構成してもよい。
(b)上記実施形態では、基部271を最も埋没させた位置271Mが、主体金具3の外周面3Gに位置するように構成されているが、図13に示すように、位置271Mが主体金具3の内周面3Nに位置するように構成してもよい。
(c)上記実施形態において、接地電極27は、Niを主成分とする単一の金属により形成されているが、接地電極27を、Niを主成分とする金属からなる外層と、当該外層の内部に配置され、熱伝導性に優れる金属(例えば、銅や銅合金、純Niなど)からなる内層とを備える多層構造としてもよい。尚、この場合において、前記基部271の硬度Aとあるのは、前記外層の硬度をいう。
(d)上記実施形態では、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間に火花放電間隙28が形成されている。これに対して、電極5,27の一方又は双方に、耐消耗性に優れる金属(例えば、白金合金やイリジウム合金等)からなるチップを接合し、火花放電間隙28を、一方の電極5(27)に設けられたチップと他方の電極27(5)との間に形成したり、両電極5,27に設けられた両チップの間に形成したりしてもよい。
(e)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。