以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[第1実施形態]
本実施形態は、部品の衝撃吸収方向の一方の端部に衝撃荷重を負荷された際に、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部品である。この衝撃吸収部品は、適正なヤング率と密度のコア層の両面に金属板を接合積層してなり断面が一様な積層金属板を、少なくとも2つの稜線を有する形状に成形加工してなる部材を含んで構成される。なお、本明細書において、稜線とは、衝撃吸収部品の衝撃吸収方向に対して垂直な断面の形状が直線部分を有する場合の、直線部分同士で形成される角部(角度は0°超180°未満)を、衝撃吸収方向に連続して結んだ線である(図1の稜線3参照)。
図3に示すように、本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9は、コア層10の両面にそれぞれ金属板(表層5A、5B)が積層された構造、即ち、表層5A上にコア層10が積層され、さらにその上に表層5Bが積層された構造を有している。本実施形態は、コア層10が、表層5A、5Bのヤング率(Ef)未満のヤング率(Ec)と密度を有する板状層である。積層金属板9の断面全体に一様なコア層10が存在することが好ましい。コア層10のヤング率(Ec)は、JIS Z2241(金属材料)及びJIS−K7113に準拠した引張試験により評価することができる。コア層10が複数の物質が組み合わされた構造体の場合、ヤング率(Ec)は、その構造体に対する同軸方向の歪と応力の比例定数(縦弾性係数)となる。
ここで、断面が一様とは、積層金属板の断面全体に一様な表層とコア層が存在することをいう。一様には、金網のように周期的(規則的)に構成されたものも含む。周期は一定に限られず、若干変化していてもよい。断面全体において、周期的な部分と非周期的な部分が組み合わされたようなものは、一様には含まれない。
本実施形態の衝撃吸収部品は、少なくとも2つの稜線を有する形状に加工した積層金属板9の軸圧潰変形(図1H)を利用することにより、効率的に衝撃エネルギーを吸収できる。従って、衝撃エネルギーを吸収する際に、当該衝撃吸収部品の変形モードの50%以上が軸圧潰モードで変形する範囲の方向から衝撃荷重が加わることを想定している。当該条件を満足するような衝撃荷重の入力方向は、衝撃荷重の大きさ、速度によって異なるが、衝撃吸収方向に対する交差角が0°以上、60°未満が目安になる。60°以上の場合、衝撃荷重による当該部品の変形モードは、軸圧潰ではなく横荷重(衝撃吸収方向と直角の荷重)による曲げ圧潰変形モードが主になる場合が多い。好ましくは、衝突荷重の入力方向が、45°以下、より好ましくは30°以下になるように設置することである。それにより、軸圧潰変形モードの占める割合がより大きくなり、一層効率的に衝撃エネルギーを吸収できる。また、上記の輸送機関の衝撃吸収部品への適用も想定しているので、衝撃荷重の加わる速度は、1m/h以上500km/h以下を想定している。
ここで、積層金属板9のコア層10とは、表層5A、5Bを構成する金属板より低いヤング率と密度を有する板状層である。板状層は、ヤング率と密度が表層5A、5Bよりも低ければよく、後述するように材質及び構造を特に規定するものではない。従って、稜線3が1つの場合は“L字型形状”、2つ以上の稜線を有するとは、1箇所以上を“U字型もしくはS字形状”に加工した形状である。なお、図1Eのハット型形状の稜線3は4つである。
次に、本実施形態の衝撃吸収部品が、効率的にエネルギー吸収できる理由を詳細に説明する。
本実施形態の衝撃吸収部品は、密度の低いコア層10と金属板5の接合積層体で構成しているため、単一金属板に比較して密度が小さい。この結果、コア層10の厚さを増大しても、積層金属板9の質量の増加を極力抑制することが可能である。従って、質量等価の単一金属板と比較して、高い曲げ剛性を発現できる。チモシェンコに開示されているように、座屈変形時の最大荷重Pmiは、構成する板の曲げ剛性の関数((1)式参照)になり、曲げ剛性が大きいほどPmiは増大する。よって、積層金属板9の剛性増加効果により、Pmiを増大できる。
Pmi=kπ2D/b2 ・・・(1)
なお、kは比例定数、Dは曲げ剛性、bは衝撃吸収部品側面の幅である。
一方、座屈変形の小波長化は、以下のメカニズムにより、達成される。
本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9は、低ヤング率のコア層10が両面の金属板5を接合拘束しているから、弾性バネ20でお互いを拘束した2枚の表層材21としてモデル化できる(図4A)。表層材21の変形自由度には差異があるが、この2枚板の軸圧潰変形モードは、弾性床上の板の圧潰変形モード(図4B)と等価である。弾性床22が弾性バネ20に相当する。弾性バネ20で拘束した2枚の表層材21(図4A)では、2枚板(表層材21)両方が非固定、弾性床22上の表層材21(図4B)では、1枚の板(表層材21)のみが非固定である。しかしながら、どちらも軸圧潰エネルギーを、弾性バネ20の伸び変形と表層材21の変形とで吸収する。かつ、変分原理から、変形エネルギー総和が最小になる変形になる。ここで、表層金属板はチモシェンコに記載されているように、稜線間の間隔と等しい波長H1(図4C)で変形したとき、エネルギーefが最小となる。一方、弾性床の変形は、伸びを極力小さくした方がエネルギーを小さくできる。この結果、図4Dに示すように稜線間の間隔よりも小さい波長H2で変形したときに、エネルギーecが最小になる。従って、弾性床22上の板の座屈波長は、ec,efの大きさのバランスで決まり、H1より小さく、かつH2よりも大きい値になる(図4C、図4D)。
本実施形態を構成する積層金属板9も同様の原理により、小波長化することを説明できる。すなわち、表層5A、5Bは、大きい波長で座屈した場合に変形エネルギーが小さくなる。コア層10は、小さな波長で座屈した場合に変形エネルギーが小さくなる。積層金属板9は、表層5A、5Bとコア層10との変形エネルギーの大小関係でバランスし、かつ、双方の変形エネルギーの和が最小になるような波長で座屈変形する。小さな波長となり易いコア層10の変形寄与があるため、単一材料で構成された衝撃吸収部品と比較して、本実施形態の衝撃吸収部品は小さい波長で圧潰変形することが可能になる。
一方、積層金属板9のコア層10のヤング率を表層5A、5B以上にした場合の変形は、剛体によって拘束した2枚の金属板としてモデル化できる。この場合、コア層は(図4C、図4D)のような伸び変形をしないで、剛体23として2枚の表層材21の距離を一定に保つ。変形エネルギーは、平面保持(変形前に材軸に直交していた断面は、変形後も材軸に直交した断面になる)した変形(図4E)をするときに最小になる。この結果、座屈波長を小さくすることができない。従って、本実施形態を構成する積層金属板9のコア層10のヤング率は表層5A、5Bのヤング率未満でなければならない。
さらに、本実施形態の積層金属板9は、少なくとも2つの稜線3を有する形状に加工されていなければならない。稜線3を構成することによりコ−ナーができる。コーナー部は側面2よりも剛性が大きいので、座屈変形時の最大荷重Pmiを一層大きくできる。さらに、稜線3は2つ以上でなければならない。稜線3が1つの場合、稜線3を挟む側面の一方の周端面が自由端面になる。この結果、圧潰荷重が加わると図5のように側面のなす角を拡大するような変形モードを生じる。これにより、境界条件が変化して、ねじれ変形が生じて座屈変形が安定せず、上記の積層金属板のメリットを十分発現できない。
以上の理由により、本実施形態の衝撃吸収部品は、高い座屈変形時の最大荷重Pmiを維持し、かつ、小波長で座屈変形できるため、座屈回数を大きくして高い平均荷重Wが実現できる。この結果、衝撃エネルギー吸収量を大きくすることができる。さらに、変形中に境界条件が変化することなく、安定して座屈できる。この結果、効率的に衝撃エネルギーを吸収できる。
また、小波長で座屈変形する他の効果として、単一金属板における座屈変形時の軸ブレ(図6)のような現象の発生を抑制できる。この結果、座屈を安定させ、再現性よく衝撃エネルギーを吸収できる。同時に衝撃吸収方向に対して斜めに交差する方向からの荷重(これらは偏荷重として衝撃吸収部品に加わる)に対しても、安定してエネルギー吸収をすることができる。
本実施形態の衝撃吸収部品は、ヤング率及び密度が上記条件を満たす適正な積層金属板9を少なくとも2つの稜線3を有する形状に加工してなる部材を含んで構成していればよく、特に稜線3の形態を限定するものではない。従って、稜線3は2つ以上であればよく、衝撃吸収方向に平行でも、衝撃荷重負荷方向に対して末広がりに配置されていても、あるいはこの逆でもよい。好ましい稜線3の数は25本以下である。25本超になると、賦形が困難になる。
また、本実施形態の衝撃吸収部品の形状も、上記の条件を満足していれば良く、特に規定するものではない。上記特開2006−207724号公報に記載されているようなクラッシュビードを側面に付与する衝撃吸収部品を特定の形態に加工するなどの形状でもよいが、本実施形態の必要条件ではない。よって、従来技術に比較して形状制約が少なく、目的に応じて形態を選択できる。例えば、簡単なプロセスで衝撃吸収部品を成形加工するのであれば、単純なU字型やS字型、ハット型のような四角型などを選択できる。また、斜め方向からの荷重に対するエネルギー吸収を、形態からも、より安定化する目的で、衝撃荷重方向に対して垂直な断面形状を、多数の稜線を有する多角(四角超)形にし、より等方的な形態にすることもできる。より好ましくは、賦形性と斜め荷重に対するエネルギー吸収能の安定性とのバランスから、六〜八角形断面である。さらに、衝撃荷重負荷方向に対して末広がりに配置された2本の稜線を少なくとも有する形状にし、端面の断面形状が異なる形態にすることも可能である。当該形状は、衝撃荷重を初期に受ける側の断面を小さくすることにより、Pm1(元来、Pm1>Pmj(j>1))を小さくし、衝撃荷重が他の部材に伝播するのをより確実に抑制するのに有効である。あるいは、逆に衝撃荷重負荷方向に対して尻つぼみに配置された2本の稜線を少なくとも有する形状にすることも可能である。この場合、衝撃荷重を初期に受ける側の断面を大きくできるので、Pm1を大きくできる。この結果、部品の初期衝撃耐力が必要な用途(部品を壊れにくくするような用途)に好適に応用できる。
さらに、本実施形態の衝撃吸収部品の高さhも特に規定するものではない。ここで衝撃吸収部品の高さhとは、衝撃吸収部品の衝撃吸収方向軸に射影した高さであり、多くの場合、実質的な衝撃吸収部品高さを意味する。座屈1波長当たりの衝撃エネルギー吸収能は部品断面及び構成する材料で決まるので、好ましい部品高さはこれらに応じて決定することができる。例えば、座屈1波長当たりの衝撃エネルギー吸収能は、構成する積層板の塑性曲げモーメントMp、部品断面の最長周長Lmとの積の関数になる。従って、目標とするエネルギー吸収量U0とすると、部品高さh≦(U0/M0)Lmのとき、当該衝撃吸収部品のみでは衝撃エネルギーを吸収しきれない場合がある。よって、h>(U0/Mp)Lmであるがことが好ましく、より好ましくはh>2×(U0/Mp)Lmである。一方、h≦(100×U0/Mp)Lmであることが好ましい。h>(100×U0/Mp)Lmの場合、衝撃エネルギーに関与しないで健全な部位が多数残留し、質量当たりの衝撃吸収能を低下する場合がある。
さらに、本実施形態の衝撃吸収部品の部品断面の形態は、開断面(図11A、図11B参照)、閉断面(図12A、図12B参照)、あるいは断面の一部に開口部を設けた閉断面(図14参照)でもよい。また、側面にビードを施した形態、側面に空孔を設けた一部が開断面となる形態(図7A〜図7C)、衝突開始箇所に一部切り欠きを入れた形態などでもよい。
軽量性を重視する場合は、稜線を2つ確保した上で少なくとも1つの側面(後述する実施例では背板を形成する側面)を省略し、部品断面を開断面にすることが好ましい。本実施形態の衝撃吸収部品は、適正な積層金属板9を2つ以上の稜線を有する形状に成形した部材で構成されるため、小波長で安定して座屈する。この結果、後述する実施例に示すように開断面にして背板を省略しても、衝撃吸収部品が“V字型”に変形することなく蛇腹状に変形する。一方、単一金属板を2つ以上の稜線を有する形状に成形した場合、当該衝撃吸収部品は稜線間の間隔と等しい波長H1で座屈する。この結果、開断面にした場合、後述する比較例に示すように自由端部では大きく内側に入り込むような変形が生じ、“V字型”に変形し、安定して蛇腹状のしわを形成できない(図8)。この結果、単一金属板で構成される場合、開断面では効率的に衝撃エネルギーを吸収することが困難である。従って、開断面でも安定して衝撃エネルギーを吸収できることは、本実施形態の特色の1つである。なお、部品断面を開断面にする他の効果として、溶接の省略、部品と車体との締結自由度アップ(開断面であるため、L字板を通じてのボルト止めなども可能)などもある。
さらに、衝撃吸収部品の軽量性とねじり剛性を重視する場合には、部品断面の一部に開口部を設けた閉断面、側面に空孔を設けた一部開断面にすることが望ましい。閉断面部を設けることによりねじり剛性が増大する。本実施形態の衝撃吸収部品は、元来、開断面にしても安定して蛇腹状に変形してエネルギー吸収できるポテンシャルがあるので、開孔した側面には“V字型変形”を抑制するほどの強度を持たせる必要はない。この結果、単一金属板からなる衝撃吸収部品に比較して、設計の自由度が大きい。
また、衝撃吸収部品のねじり剛性や曲げ剛性を一層重視する場合は、部品断面をすべて閉断面にすることが好ましい。
さらに、本実施形態の衝撃吸収部品は、適正な積層金属板9を2つ以上の稜線を有する形状に加工してなる部材が、最長周長を有する部品断面の周長の50%以上を構成していればよく、構成する材料をすべて積層金属板9にする必要はない。目的により、一部を単一金属板に置換することも可能である。例えば、図1Eのハット形状型の衝撃吸収部品の場合、裏板13を単一金属板に置換することも可能である。積層金属板9同士の溶接の場合、溶接時の入熱によりコア層と表層金属板間の接合が解除される場合がある。この結果、金属板、コア層間を再接合できるような溶接条件を設定しなければならず、溶接が困難な場合がある。裏板13を単一金属板にすれば、裏板13には当該条件は必要なく、溶接条件がより設定しやすくできる。但し、積層金属板9は当該衝撃吸収部品の部品断面の最長周長の50%未満であってはならない。積層金属板9と単一金属板を混合して構成すると、積層金属板9から単一金属板部に伝播した座屈しわは、合体統合して波長が大きくなる。単一金属板が50%超になった場合、合体した座屈波長での変形が座屈時の主要な変形となり、エネルギー吸収効率が低下する。合体した座屈波長での影響を小さくするために好ましいのは、積層金属板9の断面周長に占める比を70%さらに好ましくは、85%以上である。
積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10のヤング率比(Ec/Ef)は、1/10〜1/100000であることが好ましく、ヤング率比(Ec/Ef)は、1/10〜1/1000がさらに好ましい。以下に理由を説明する。
Ec/Efが1/10超では、コア層10のヤング率(Ec)が大きすぎて、コア層10がせん断変形しにくいため、単一材料より若干小さな波長で座屈変形することが推定される。従って、上記ヤング率比の積層金属板9を成形加工してなる部材で構成された衝撃吸収部品では、衝撃エネルギー吸収効率が大幅に向上しない可能性がある。
また、Ec/Efが1/100000未満では、コア層10のヤング率Ecが非常に小さいので、コア層10は変形しやすくなる。このときのコア層10の変形エネルギーは、Ecが非常に小さいため、変形量が大きくても、変形エネルギーは小さくなる。この結果、表層5A、5B及びコア層10の各変形エネルギーの総和に占めるコア層10の変形エネルギーはほぼ無視でき、表層5A、5Bの変形エネルギーを小さくする変形が生じやすい。つまり、Ec/Efが1/100000未満の場合、積層金属板9は、単一材料より若干小さな波長で座屈変形することが推定される。従って、上記ヤング率比の積層金属板9を成形加工してなる部材で構成された衝撃吸収部品では、衝撃エネルギー吸収効率が大幅に向上しない可能性がある。
またさらに、Ec/Efが1/1000未満の場合、積層金属板9を成形加工してなる部材で構成された衝撃吸収部品1は、座屈波長が小さくできても、Ecの低下により、座屈変形時の最大荷重Pmiが小さくなる場合がある。この結果、平均荷重Wが低下することがある。
以上より、積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10とのヤング率比(Ec/Ef)が1/10〜1/100000であることが好ましく、ヤング率比(Ec/Ef)は、1/10〜1/1000がさらに好ましい。
さらに、積層金属板9からなる部材の稜線3の間隔を10mm以上にすることが好ましい。コア層10のヤング率を上記の範囲にした場合、上記の理由により、座屈波長を特に小さくすることが可能であり、10mm以下になる場合が多い。従って、稜線3の間隔を10mm以上にしても、衝撃吸収部品1の座屈波長を10mm以下にできる。積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10のヤング率比(Ec/Ef)が1/10〜1/100000であれば、より実現しやすい。2つの稜線の間隔を大きくできれば、当該衝撃吸収部品を製造する際の加工が容易になる。一方、単一金属板で構成した場合、座屈波長は2つの稜線の間隔に等しくなる。従って、座屈波長を10mm未満にするためには、2つの稜線の間隔を10mm未満にしなければならない。適正な積層金属板9で構成することにより形状制約をより少なくできるのも、本実施形態の特色の1つである。
また、本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9の表層5A、5Bの板厚(tf)とコア層10の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)は、10.0以下であることが好ましい。また、積層金属板9を構成する表層5A、5B及びコア層10の比重により若干異なるが、積層金属板9の軽量性を考慮すると、tc/tfは、2.0以上であることが好ましく、3.5以上であることがさらに好ましい。
板厚比(tc/tf)が10.0倍超である場合は、表層5A、5Bと比較してコア層10が非常に厚くなるため、積層金属板9の剛性と表層5A、5Bの剛性とに大きな乖離が生じる。この結果、座屈変形時の表層5A、5B同士でそれぞれ対称な変形が生じやすい。
具体的には、板厚比(tc/tf)が10.0以下の場合は、積層金属板9の剛性と表層5A、5Bの剛性との差は比較的小さい。従って、積層金属板9は、一枚の単一材料と同様の曲げ変形となる。つまり、表層5Aは外側方向に曲げ変形するのに対し、表層5Bはコア層10方向に曲げ変形することによって、表層5A、5Bは、非対称な曲げ変形をする(図9A)。
一方、板厚比(tc/tf)が10.0超の場合は、図9Bに示すように、表層5Aは外側方向に曲げ変形するのに対し、表層5Bも外側方向に曲げ変形する。この結果、積層金属板9は板厚方向に膨らむような(提灯開きする)変形が生じ、表層5A、5Bとコア層10との剥離部9aが生じる。従って、積層金属板9を成形加工して構成された衝撃吸収部品に、高さ方向の衝撃荷重を負荷した場合、安定した蛇腹状の圧潰変形を得ることができない可能性がある。
板厚比(tc/tf)が2.0未満の場合は、積層金属板9の厚さに対して、表層5A、5Bの厚さが占める割合が50%以上となる。表層5A、5Bはコア層10と比較して比重が大きいため、積層金属板9の質量が大幅に増大する。この結果、該積層金属板9で構成された衝撃吸収部品の十分な軽量化を図れない可能性がある。
以上より、本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10との板厚比(tc/tf)は、10.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る表層5A、5Bは、特に限定はされないが、炭素鋼、アルミ、チタン、銅、マグネシウム及びこれらの合金などの金属板を使用できる。具体的には、鋼板であれば、例えば、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等の缶用鋼板や、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛−錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛−鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛−クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス鋼板等を使用することができる。
さらに、同一種類の金属板でヤング率が同程度の異なる性質である金属板からなる表層5A、5B間に、コア層10を積層することも可能である。具体的には、曲げ加工、絞り加工等が必要な用途では、強度が異なる鋼板間にコア層10を積層し、曲率半径が小さく加工の厳しい面に軟鋼を使用し、他方の面には強度確保のため、高張力鋼を使用すること等も可能である。なお、表層5A、5Bの2枚の金属板のヤング率が異なる場合、本明細書で規定するヤング率比(Ec/Ef)のEfは、ヤング率の小さい表層の値を採用することとする。
また、本実施形態に係る表層5A、5Bの表面に、密着力や耐食性向上のため、公知の表面処理を施すことも可能である。このような表面処理としては、例えば、クロメート処理(反応型、塗布型、電解)及びノンクロ処理、リン酸塩処理、有機樹脂処理等が挙げられるが、これらには限定されない。
また好ましい表層5A、5Bの厚みは、0.2mm以上である。表層5A、5Bの厚みが0.2mm未満では、衝撃吸収部品を製造する際の曲げ加工時に、表層5A、5Bの破断が生じやすく、所望の断面形状が得られない場合がある。一方、表層5A、5Bの厚みが2.0mmを超えると軽量化効果が不十分になり易い。軽量化の観点からは、表層5A、5Bの厚みは2.0mm以下が好ましい。
また、コア層10の上下に接合積層する表層5A、5Bの厚みが上下で異なってもよい。例えば、上記の曲げ加工時の表層5A、5Bの破断を防止するために、引張変形が生じる表層を厚くすることも可能である。但し、表層5A、5Bの厚みを変える場合は、厚くする表層の厚み(TL)ともう一方の表層の厚み(Ts)との板厚比(TL/TS)は1〜1.5であることが好ましい。なぜならば、厚くする表層の厚み(TL)ともう一方の表層の厚み(Ts)との板厚比(TL/TS)が1.5超であった場合、積層金属板9の大幅な重量増を招くばかりでなく、当該積層金属板9を成形加工して構成された衝撃吸収部品は、安定した蛇腹状の圧潰変形を得られない可能性がある。
なお、コア層10の上下に設置する表層5A、5Bの厚みが上下で異なる場合、厚さが大きい表層の厚み(TL)を、上記の表層5A、5Bとコア層10との板厚比(tc/tf)の厚さ(tf)とする。
次に、本実施形態に係る積層金属板9のコア層10について説明する。コア層10は、表層5A、5Bのヤング率(Ef)未満のヤング率を有する板状層であれば、特には限定されず、公知な材料を適宜選択することができる。具体的には、コア層10の材質としては、Al合金、チタン、銅などの金属及びセラミックス、樹脂、繊維強化樹脂、紙などの非金属材料が挙げられる。
さらに、コア層10として、上記材料及びFe合金、ステンレスなどに公知の構造を付与した材料、例えば、網状構造体、ハニカム構造体、エキスパンドなどの空孔を有する構造体、波型構造体、コルゲート構造体、ロール構造体、発泡体などが挙げられる。
また、コア層10として、さらに上記材料を2つ以上組み合わせ複合化したコア層、例えば、ハニカム構造体の空孔に発泡樹脂を充填した複合材料や、樹脂シートと網状構造体を順次積層した複合材料などが挙げられる。なお、2つ以上組み合わせ複合化した材料をコア層10とする場合、複合体のヤング率がコア層10のヤング率(Ec)である。
なお、コア層10として絶縁物である樹脂等を用いる場合、樹脂中にアルミニウム粉、アルミニウム合金粉、ニッケル粉、亜鉛粉、Fe系金属粉(Fe−Si合金、Fe−Cr合金、Fe−Co合金、Fe−Mnなど)や、電気抵抗率が1.0×10−7〜1.9×10−4Ω・cmのホウ化物、炭化物、窒化物、ケイ化物等の非酸化物セラミックス粒子を含有することで、溶接性を確保する上で必要な導電性を確保することが可能である。
次に、本実施形態における表層5A、5Bとコア層10との接合について説明する。接合材及び接合法については特に限定されず、公知の接合材及び接合法を用いることができる。例えば、接合材としては、詳しくは後述するが、接着剤、導電性接着剤、ろう材、接合法としては、接着接合、ろう付け、溶接等が挙げられる。
積層金属板9は、金属板(表層5A、5B)の間に金網30を配置し、隙間に接合剤37を充填したものでもよい(図17参照)。換言すれば、金網30及び接合剤37によりコア層10を構成してもよい。接合剤37としては、ポリエステル樹脂や導電性接着剤等が挙げられる。この金網30は周期的に構成されているので、この積層金属板9は断面が一様なものと考えることができる。なお、この周期は一定に限られず、変化していてもよい。
本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10とは、5MPa以上のせん断接着強度で接合されることが好ましく、25MPa以上とすることがさらにより好ましい。ここで、せん断接着強度とは、表層5A、5Bとコア層10が剥離する際の最大荷重を、接合されている面積で割った値である。
本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10とのせん断接着強度が5MPa未満の場合、衝撃荷重を負荷した際に、コア層10の両面の表層5A、5Bに剥離が生じ、積層金属板9が一体となって変形できないおそれがある。この結果、当該衝撃吸収部品では安定した蛇腹状の圧潰変形を得られない可能性がある。
また、当該衝撃吸収部品の圧潰変形時に、積層金属板9で生じるせん断力によるコア層10の両面と表層5A、5Bとの剥離を防止するために、せん断接着強度を25MPa以上とすることがより好ましい。なお、せん断接着強度は、JIS-K6850に準拠した引張せん断試験により評価することができる。
本実施形態の衝撃吸収部品を構成する積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10の接合積層は、例えば、接合層7A、7Bを介した接合であることが好ましい。接合層7A、7Bは、公知の接合材により形成され、例えば、接着剤、ろう材、導電性接着剤などで形成されてもよい。
ろう材としては、例えば、鉛、錫、アンチモン、カドミウム、亜鉛等の合金からなる軟ろう(はんだ)、Ni−Cr系のろう材、銅ろう、金ろう、パラジウムろう、銀ろう、アルミろう等の硬ろう等が挙げられる。
導電性接着剤としては、例えば、後述する接着剤に、アルミ粉、ニッケル粉や鉄粉等の金属粉を所定量添加したもの等が挙げられる。さらに、溶接が安定してできるように導電性接着剤の電気抵抗率は、1.0×10−3〜1.0×10−4Ω・cmであることが好ましい。
積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10との接合積層が、ろう材もしくは導電性接着剤での接合であることにより、コア層10が導電材料である場合、積層金属板9の溶接性を確保することができ、溶接など手法での衝撃吸収部品が製造可能となる。
また、積層金属板9の表層5A、5Bとコア層10との接合部としてのせん断強さは5MPa以上であることが好ましく、25MPa以上であることがより好ましい。接合部のせん断強さが5MPa未満の場合、せん断力により接合部で破壊(凝集剥離)が生じる。この結果、当該衝撃吸収部品では安定した蛇腹状の圧潰変形を得られない可能性がある。また、当該衝撃吸収部品の圧潰変形時に、積層金属板9で生じるせん断力による接合部の凝集剥離を防止するために、接合部のせん断強さを25MPa以上とすることが、より好ましい。
表層5A、5Bとコア層10との接合を接着接合により行う場合には、接合材として接着剤を使用するが、加工後にも耐熱形状安定性を保持するため、接着剤の100℃〜160℃での貯蔵弾性率G’が、0.05MPa以上100GPa以下であることが好ましい。0.05MPa未満では、積層金属板9を衝撃吸収部品に成形する場合に発生した表層/接着剤界面の残留応力により、積層金属板9の成形品を当該温度(100℃〜160℃)に加熱すると、接合部がクリープ変形し、接合部が破壊したり、接合部を起点とした剥離を引き起こしたりする場合がある。接合部のクリープ変形をより確実に防止するためには、G’が1.0MPa以上であることがより好ましく、G’が5MPa以上であることがさらに好ましい。一方、100GPa超の場合、常温のG’はより大きくなるので、加工追従性が低下して加工時に破壊し、接合部を起点とした剥離を生じ易くなるおそれがある。なお、接着剤の貯蔵弾性率G’は、周波数0.1〜10Hzで測定した接着剤の貯蔵弾性率の最大値で評価できる。熱硬化性接着剤の場合は、積層条件と同一の熱履歴を付与して架橋硬化した接着剤フィルムを用いて、熱可塑性接着剤の場合は接着剤フィルムに成形して、公知の動的粘弾性測定装置で測定できる。
さらに、接着剤の100℃〜160℃での損失弾性率G”と貯蔵弾性率G’の比tanδ(=G”/G’)は、tanδ<1であることが好ましく、tanδ<0.8であることがより好ましく、tanδ<0.5であることがさらに好ましく、tanδ<0.1であることがさらに一層好ましい。tanδが小さいほど、加熱しても残留応力による接合部のクリープ変形を抑制し、形状を安定させることができる。tanδ≧1では、100℃〜160℃に加工品を加熱すると、接合部が粘性流動し、形状が不安定になったり、クリープ変形破壊して剥離したりする可能性がある。
また、接着剤としては、例えばエポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、及びウレタン系接着剤などを使用することができる。接着剤の耐熱性及び耐久性を確保するという観点から、エポキシ樹脂を基材とした構造用接着剤が好ましく、中でも硬化剤が予め混合された一液加熱硬化型接着剤が、ハンドリング性の面からさらに好ましい。
また、コア層10が導電性材料である場合は、表層5A、5Bとコア層10との接合を溶接により行うことも可能である。公知の溶接法を使用することができるが、具体的な溶接法として、例えば、スポット溶接、シーム溶接等の抵抗溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接、アーク溶接等が挙げられる。
さらに、表層5A、5Bとコア層10との接合方法として、積層金属板9の生産性及び溶接性の確保という見地から、特に好ましいのは、融点が400℃以下のろう材(例えば、はんだ等)か、あるいは、耐熱性を有する導電性接着剤による接合による接合である。
次に、本実施形態に係る衝撃吸収部品の製造法について説明する。衝撃吸収部品は公知の手法により製造すればよく、特定の製造法に限定されない。例えば、積層金属板9にプレス曲げ、絞り、ロールフォーミング等の加工をいずれかひとつあるいは複数行うことにより、衝撃吸収部品を製造してもよい。
また、2枚以上の板を使用し、衝撃吸収部品を製造する際の板同士の接合法に関しては、公知の接合手法により製造すればよく、特定の接合法に限定されない。例えば、スポット溶接、シーム溶接等の抵抗溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接、アーク溶接等などの溶接、ボルトなどを利用した機械接合、接着剤を利用した接着、ろう材を利用したろう付けなどにより、板同士を接合し、衝撃吸収部品を接合してもよい。
以上、本実施形態に係る積層金属板9の構成について詳細に説明したが、続いて、上述したような構成を有する積層金属板9の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態に係る積層金属板9は、公知の積層方法を適用して製造することが可能である。具体的には、以下の工程等で製造することができる。
コア層10の両面に必要に応じて接合材(接着剤、ろう材等)を塗布し、表層5A、コア層10、表層5Bの順に積層し、常温もしくは加熱しながら加圧する。または、表層5A、5Bの片面に接合剤を塗布し、塗布した面同士でコア層10を挟み込んで積層し、常温もしくは加熱しながら加圧して製造することも可能である。
また、接合材や接合方法の具体例については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
本実施形態は、稜線3を少なくとも2つ有するので、両端を稜線3で支持(自由端でない)された側面2があり、衝撃荷重に対して安定して座屈することが可能である。さらに当該衝撃吸収部品は、適正なヤング率と密度のコア層10を表層5A、5B間に積層した積層金属板9からなる部材によって構成されるため、軽量性を維持しながら板厚を厚くできる。これにより、曲げ剛性を大きくできる。さらに、稜線を有するように加工しているため、剛性の高いコーナー部ができる。この結果、高い座屈変形時の最大荷重Pmiを達成できる。さらに、上記の積層金属板9は、弾性バネで拘束した2枚金属板と等価な座屈変形をする。従って、既述のように単一金属板に比較して小波長で座屈変形することが可能で、座屈変形回数nを増加できる。さらに、小波長で座屈できるので、変形中の軸ブレも少なく、衝撃吸収方向に対して斜めから入力する衝撃荷重に対しても効率的にエネルギーを吸収できる。
また、本実施形態の衝撃吸収部品は上記の特色を有するので、機能発現するための形状制約も比較的少ない。目的によって適宜形態を選択できる。具体的には、例えば部品断面を開断面にして軽量化したり、側面に開孔部を設けて軽量化とねじり剛性とを確保したり、閉断面にして曲げ、ねじり剛性を確保するなどが挙げられる。
また、本実施形態の衝撃吸収部品の応用として、中空で長尺状の骨格部材(例えば、自動車のフロントサイドメンバー)が挙げられる。例えば図10に示すように、金属板からなる衝撃吸収部品31と本実施形態の衝撃吸収部品1とを溶接もしくは接着接合し、複数の座屈誘発部(ビード17)間(図10中の点線で囲まれた領域)に、本実施形態の衝撃吸収部品1を配置し、長尺状の骨格部材を形成する。当該長尺状の骨格部材は、骨格部材の長手方向に衝撃荷重が負荷された際に、本実施形態の衝撃吸収部品が安定して蛇腹状の圧潰変形をするため、十分な衝撃吸収効果を得ることができる。
これらの特性により、本実施形態の衝撃吸収部品は、普通乗用車のみならず、軽自動車からトラック、バスなどの大型車に至る自動車全般、電車などの輸送機関の衝撃吸収部品として好適に使用することが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
[第1実施例]
以下、実施例、比較例によって本発明をより具体的に説明する。
(使用した積層金属板の構成と製造方法)
本発明の実施例及び比較例として、表1に示す表層とコア層の構成の積層金属板を製造した。また、表層とコア層との接合は、構造用接着剤(基材:エポキシ樹脂、塗布量200g/m2)、瞬間接着剤(基材:シアノアクリレート、塗布量200g/m2)、ろう材(低温ろう剤、Sn−Pb系、融点183℃、使用量15g/m2)を使用した。
積層金属板A〜D、G、H、Jは、接合材として構造用接着剤を使用し、表層上に接合材、コア層、接合材、表層の順に積層し、真空下で180℃まで加温した。次いで、積層した表層、接合材及びコア層を圧着力10〜40kgf/cm2(0.98〜3.92MPa)で20分間加熱圧着し、その後、常温まで冷却して、大気開放し、表1に示した各積層金属板を得た。
また、積層金属板Eは、接合剤として瞬間接着剤を使用し、積層した表層、接合材及びコア層を加熱することなく、圧着力10〜40kgf/cm2で加圧することにより、積層金属板Eを製造した。
また、積層金属板Fは、接合剤としてろう材を使用し、積層した表層、接合材及びコア層を300℃まで加熱し、圧着力10〜40kgf/cm2で20分間加熱圧着し、その後、常温まで冷却して、大気開放し、積層金属板Fを製造した。
また、積層金属板Iは、接合材として構造用接着剤にAl粉を電気抵抗率が0.5×10−3Ω・cmとなるまで添加した接着剤を使用し、表層上に接合材、コア層、接合材、表層の順に積層し、真空下で180℃まで加温した。次いで、積層した表層、接合材及びコア層を圧着力10〜40kgf/cm2(0.98〜3.92MPa)で20分間加熱圧着し、その後、常温まで冷却して、大気開放し、積層金属板を得た。
また、積層金属板Kは、Al粉を電気抵抗率が0.5×10−3Ω・cmとなるまで添加したポリエステル樹脂をコア層に使用し、接合材として構造用接着剤にAl粉を電気抵抗率が0.5×10−3Ω・cmとなるまで添加した接着剤を使用し、表層上に接合材、コア層、接合材、表層の順に積層し、真空下で180℃まで加温した。次いで、積層した表層、接合材及びコア層を圧着力10〜40kgf/cm2(0.98〜2.92MPa)で20分間加熱圧着し、その後、常温まで冷却して、大気開放し、積層金属板を得た。
比較例として、980MPa級の高張力鋼板(板厚:1.0mm)を使用した。
なお、コア層に使用した金網は、原料素線が線径0.6mmφの鋼線材であり、メッシュ間隔(線材間の隙間)は1.6mmである。また、使用した樹脂に関しては、ASTM−D638に準拠した引張試験にて、ヤング率を測定した。また、各積層金属板のせん断接着強度は、JIS−K6850に準拠した引張せん断試験により測定した。
(衝突性能評価試験)
本発明に係る衝撃吸収部品の効果を検証するため、下記の落重試験を行った。表1の構成の積層金属板を使用し、プレスブレーキによる曲げ加工にて成形し、図11A、図11Bに示す長さ200mmのハット断面形状(開断面)の衝撃吸収部品を作製した。
実施例2、13及び比較例4の衝撃吸収部品は、図12A、図12Bに示すように開断面構造のハット材11に設けられたフランジ12を介して、積層金属板からなる裏板13をスポット溶接し、開断面構造のハット材11の開口部を塞ぎ、閉断面構造とした。
実施例10の衝撃吸収部品は、表1の積層金属板Fを稜線3が6本有するよう、図13に示すように成形加工した部材同士をスポット溶接にて接合し、多角形閉断面形状とした。
実施例11の衝撃吸収部品を作製するに当たり、図14に示すように、まず図11A、図11Bに示す長さ200mmのハット断面形状の部品を作製した。その後、ハット材11に設けられたフランジ12を介して、横断面形状の一部が開断面形状となるように積層金属板からなる幅22mmの裏板13を22mm間隔で部分的にスポット溶接にて取り付けて、衝撃吸収部品を作製した。
実施例12の衝撃吸収部品は、積層金属板Iを図11A、図11Bに示すハット断面形状に加工し、590MPa級の高張力鋼(1.0mm)を裏板13とし、スポット溶接にて図12A、図12Bに示すように閉断面構造の衝撃吸収部品を作製した。
比較例2の衝撃吸収部品は、図15A、図15Bに示すように、表1の積層金属板Fを直径が70mmの円筒となるように成形し、端部15同士をレーザー溶接にて接合し、円筒状とした。
比較例3の衝撃吸収部品は、図16A、図16Bに示すように、表1の積層金属板Aを曲げ成形し、L字型形状とした。
衝撃吸収部品は、錘が衝突する端部とは反対側の端部を冶具にて固定した。そして、120kgの質量の錘を3.5mの高さから自由落下させることより衝撃吸収部品の衝突端側に軸方向に30km/hの速度で衝突させた。
また、斜め荷重を負荷させる場合は、衝撃吸収部品を10°傾いた台に固定し、上記と同様の手順で、落重試験を実施した。
(評価)
<衝突性能の評価>
落重試験時の荷重−変位曲線より、100mm圧潰までの衝撃吸収エネルギーを算出した。さらに、部品の軽量性を評価するために、部品の質量で衝撃吸収エネルギーを除し、単位質量あたりの衝撃吸収エネルギーとし、比較評価した。
また、斜め荷重を負荷した場合の衝撃吸収エネルギーは、軸方向から10°傾いて荷重が負荷されるため、傾き分を補正した荷重−変位曲線から算出した。
<座屈波長及び変形形態の評価>
座屈波長は、落重試験時の変位(錘により衝撃吸収部品が押し込まれた量)−荷重曲線より、算出した。
具体的には、荷重が上下する周期ごとに、荷重の上昇が開始した変位と荷重が最小となった変位を測定した。次に、荷重が最小となった変位から荷重の上昇が開始した変位を引くことにより、周期ごとの座屈波長を算出した。同様に各周期で座屈波長を算出し、最後に平均化して平均座屈波長を算出した。この平均座屈波長を本発明の実施例における座屈波長とし、評価した。試験結果を表2及び表3に示す。
なお、表2の変形形態の欄における「A」とは、安定した蛇腹状の圧潰変形が発生したことを示し、「B」とは、部品全体で発生した圧潰変形のうち、一部で座屈波長が大きい部位が発生したことを示す。また「C」とは、変形初期に生じた1回目の座屈部位を起点に部品全体が‘V字’に折れ曲がる変形が発生したことを示す。
表2に示すように、実施例1〜13の衝撃吸収部品は、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー>6.6であり、比較例4の高張力鋼からなる衝撃吸収部品と比較して、高い衝撃エネルギー吸収能を示し、軽量性に優れることが判った。具体的には、実施例1と比較例4を比較した場合、同一の衝撃吸収エネルギーを得る場合、実施例1の衝撃吸収部品は比較例4に対して、40%弱の軽量化が可能となった。
さらに、実施例1〜13の衝撃吸収部品の平均座屈波長は7.1mm〜9.8mmとすべて10mm以下であり、比較例4〜5の高張力鋼からなる衝撃吸収部品の平均座屈波長と比べても非常に小さいことが判った。
また、さらに、表3に示すように、軸方向から衝撃荷重を加えた場合と斜め方向から衝撃荷重を加えた場合の単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量及び座屈波長はほぼ等しい。一方、比較例4の衝撃吸収部品は、上記と同様の比較をした場合、衝撃吸収エネルギー量及び座屈波長は異なることが判った。従って、本発明の実施形態においては、荷重の入力方向が多少変化したとしても、小さい座屈波長で安定した蛇腹状の圧潰変形することで、高い衝撃吸収能が実現可能であることが判った。
また、実施例2と比較例4の衝撃吸収部品は、形状は同一であるが、座屈波長は異なった。比較例4の衝撃吸収部品の座屈波長は、部品の稜線の間隔とほぼ一致しており、座屈波長は、稜線の間隔に依存していることが判る。一方、実施例2の衝撃吸収部品の座屈波長は、部品の稜線の間隔と一致しておらず、積層金属板から構成される衝撃吸収部品は、稜線の間隔によらず、座屈波長を小さくすることができることが判った。
実施例1、3〜8の衝撃吸収部品は、図11A、図11Bに示す、すべて開断面形状である。実施例2、10、13の衝撃吸収部品は、それぞれ図12A、図12B及び図13に示す、すべて閉断面形状である。実施例11の衝撃吸収部品は、図14に示す一部開断面形状である。これらの衝撃吸収部品では、すべて安定した蛇腹状の圧潰変形が得られた。つまり、積層金属板から構成される衝撃吸収部品は、部品の形状によらず、安定した蛇腹状の圧潰変形を得ることができることが判った。
また、実施例1、実施例2及び実施例11を比較すると、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量は、実施例1(すべて開断面形状)>実施例11(一部開断面形状)>実施例2(すべて閉断面形状)であることが判った。これは、一部もしくはすべて閉断面構造とするために、フランジ12を介してスポット溶接した裏板13が衝撃吸収エネルギー量に対する寄与が小さく、重量増加分の効果を得られなかったためと考えられる。
実施例8は、本発明の実施形態のうち、座屈波長は最も小さいが、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギーも比較的小さい。これは、一回の座屈変形時の最大荷重が小さいことで、平均荷重も小さくなることから、効果的に衝撃エネルギー吸収量を増大できなかったと考えられる。
実施例9は、衝撃吸収部品を構成する積層金属板の表層とコア層のヤング率比(Ec/Ef)が1/10000未満である。このため、実施例1〜8、10、11と比較して、座屈波長が大きくなったと推定される。
実施例5は、衝撃吸収部品を構成する積層金属板の表層とコア層の板厚比(tc/tf)が10倍超である。このため、良好なエネルギー吸収能を示すものの、圧潰変形が進むにつれ、表層の剥離により、一部で不安定な圧潰変形が生じた。しかし、部材全体としては、良好な変形モードを示すことが判った。
接合部のせん断接着強度を測定した結果、実施例1〜5、7〜11の衝撃吸収部品を構成する積層金属板のせん断接着強度は25MPa超であったが、実施例6の衝撃吸収部品を構成する積層金属板のせん断接着強度は15MPaであることが判った。このため、良好なエネルギー吸収能を示すものの、圧潰変形が進むにつれ、表層の剥離により、一部で不安定な圧潰変形が生じた。しかし、部材全体としては、良好な変形モードを示すと推定される。
実施例2、10、11、12、13の衝撃吸収部品は、積層金属板同士スポット溶接により接合し、製造した。上記衝撃吸収部品を構成する積層金属板の表層とコア層の接合積層が、ろう材もしくは導電性接着剤での接合であったため、良好な導電性が確保でき、スポット溶接による接合が可能になった。
実施例12の衝撃吸収部品は、裏板だけを単一金属板で置換されているが、最長周長を有する部品断面の周長の60%を積層金属板で占めているため、他の実施例同様小さい波長で安定した蛇腹状の圧潰変形が生じたと考えられる。
比較例1の衝撃吸収部品を構成する積層金属板のコア層は、表層のヤング率と等しい。このため、比較例5の高張力鋼からなる衝撃吸収部品と同様に座屈波長は大きく、変形初期に生じた1回目の座屈部位を起点に部品全体が折れ曲がる変形が発生した。
比較例2の衝撃吸収部品は、実施例と比較して、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギーは小さい。これは、衝撃吸収部品の形状が、稜線の存在しない円筒状であるため、座屈波長は小さいが、実施例と比較して、最大荷重が小さかったため、効果的に衝撃エネルギー吸収量を増大できなかったと考えられる。
比較例3の衝撃吸収部品は、稜線が一本しかないL字型形状であったため、座屈変形が安定して生じず、コーナーが広がるような変形(図5)により、衝撃吸収部品がねじれるような変形が発生した。
このように、本発明を満足する構成の積層金属板からなる衝撃吸収部品は、軽量性に優れる。また、衝撃荷重の入力方向に関係なく、最大荷重が高く、小さい座屈波長で安定した蛇腹状の圧潰変形することで、高い衝撃エネルギー吸収が可能となり、良好な衝突性能を示すものである。
[第2実施形態]
(概要)
本実施形態に係る衝撃吸収部品は、コア層の両面にコア層よりもヤング率が大きい金属板からなる表層が接合積層され、積層金属板の表層の板厚(tf)とコア層の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)が2.0〜7.0である断面が一様な積層金属板を成形加工してなる部材で構成される。この衝撃吸収部品は、単純形状でも衝撃エネルギー吸収効率が高く、大幅な軽量化を達成することが可能となる。
具体的には、積層金属板は、該積層金属板の表層の板厚(tf)とコア層の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)を2.0〜7.0とすることにより、座屈波長をより小さくすることができる。したがって、このような積層金属板で形成された衝撃吸収部品は、衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
また、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、積層金属板の表層の板厚(tf)とコア層の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)のみで、衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。そのため、衝撃吸収部品の形状を複雑に加工する必要がなく、形状をより単純化することができる。さらに、座屈波長をより小さくするために積層金属板の表層及びコア層のヤング率を変更する必要がないため、衝撃吸収部品の強度を変更せずに衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
以下では、衝撃吸収部品を構成する積層金属板について、座屈波長を小さくできるメカニズムの観点から説明を行う。
コア層の両面に表層が接合積層された積層金属板では、上述したように、コア層の変形エネルギーUcと表層の変形エネルギーUfとの和が最小となるように座屈変形時の座屈波長が決定される。ここで、コア層の変形エネルギーUc、及び表層の変形エネルギーUfは、以下の式(2)及び(3)で表される。
Uc=Ec/2.6×Vc×γ ・・・式(2)
Uf=Ef×VF×ε ・・・式(3)
なお、上記の式(1)及び(2)において、Ecはコア層のヤング率を表し、Vcはコア層の変形に関わる体積を表し、γはコア層の変形した量を表す。また、EFは表層のヤング率を表し、VFは表層の変形に関わる体積を表し、εは表層の変形した量を表す。なお、表層の変形は曲げ変形であるのに対して、コア層の変形はせん断変形であるため、ヤング率を2.6で除してせん断変形の弾性率にしている。
コア層がせん断変形する場合においても、第1実施形態において図4A〜4Eを参照して説明したように、基本的には、コア層の変形エネルギーUcは、座屈波長が小さくなるほど小さくなり、表層の変形エネルギーUfは、座屈波長が大きくなるほど小さくなる。そのため、座屈波長を小さくするためには、Uc>>Ufとし、変形エネルギーの和において、コア層の変形エネルギーUcを支配的にすることが好ましい。
例えば、積層金属板における表層とコア層の割合が等しい場合、コア層及び表層のヤング率Ec及びEfを制御して、Uc>>Ufを実現させるには、EcとEfを近づけなければならない。しかしながら、EcとEfとの差が小さくなるほど積層金属板の軸圧潰変形時における変形の挙動が単一材料の金属板に近くなるため、上述の理論から外れ、座屈波長の減少幅が小さくなるという問題があった。また、Ecを大きくした場合、コア層の密度も高くなることが多く、積層金属板の質量が増加してしまう。一方、衝撃吸収部品は、燃費効率を確保するために軽量化が求められる自動車等に装着されるものである。そのため、この積層金属板は、この衝撃吸収部品を構成するものとして好適ではなかった。
そこで、本実施形態に係る衝撃吸収部品を構成する積層金属板では、上記式(2)及び(3)において、Uc及びUfを制御するもう一つのパラメータであるVc及びVfを制御することにより、Uc>>Ufを実現させるものである。具体的には、積層金属板におけるコア層の割合(すなわち、板厚)を増加させることによって、Vcを大きくし、かつVfを小さくする。その結果、積層金属板は、表層の変形エネルギーUfに対して、コア層の変形エネルギーUcを大きくすることができる。したがって、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、軸圧潰変形時における座屈波長をより小さくすることができる。
(衝撃吸収部品の構成)
以下では、図3、図18A及び18Bを参照して、衝撃吸収部品の構成について説明を行う。図3は、積層金属板9の構成を示す断面図である。この積層金属板9は、第1実施形態と同様であるので、共通事項の説明は省略する。図18Aは、衝撃吸収部品の形状の一例を示す斜視図である。図18Bは、衝撃吸収部品の形状の他の例を示す斜視図である。
積層金属板9において、表層5A及び5Bの板厚(tf)と、コア層10の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)が2.0〜7.0である。後述する第2実施例で実証されるように、この板厚比(tc/tf)がこれらの範囲の値となる場合に、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、その座屈波長を小さくすることができる。
具体的には、板厚比(tc/tf)が2.0未満である場合、軸圧潰変形時の変形エネルギーにおけるコア層10の変形エネルギーの寄与が小さくなるため、座屈波長を小さくすることができない。また板厚比(tc/tf)が7.0を超える場合、表層5A及び6Bに対してコア層10が非常に厚くなるため、表層5A及び5Bと、コア層10との間で、剛性に大きな乖離が生じる。そのため、衝撃吸収部品は、接合層7A及び7Bが破壊され、安定して蛇腹状の軸圧潰変形をすることができない可能性がある。
また、積層金属板9において、表層5A及び5Bの板厚(tf)と、コア層10の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)は、好ましくは、3.5〜5.0であってもよい。この板厚比(tc/tf)がこれらの範囲の値となる場合に、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、その座屈波長をより小さくし、安定して蛇腹状の軸圧潰変形を起こすことができるようになる。具体的には、板厚比(tc/tf)が3.5〜5.0である場合、軸圧潰変形時のコア層10の変形エネルギーと、表層5A及び5Bの変形エネルギーのバランスが好適となるため、座屈波長をさらに小さくすることができる。
また、積層金属板9において、表層5A及び5Bのヤング率Efと、コア層10のヤング率Ecとのヤング率比(Ec/Ef)は、1/10〜1/1000であってもよい。このヤング率比(Ec/Ef)がこの範囲の値となる場合に、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
具体的には、ヤング率比(Ec/Ef)が1/1000未満である場合、積層金属板9は、衝撃吸収部品の座屈波長を小さくすることはできるものの、Ecの低下により座屈変形時の平均荷重Wを低下させ、衝撃エネルギー吸収効率を低下させてしまうため好ましくない。また、ヤング率比(Ec/Ef)が1/10を超える場合、コア層10のヤング率Ecが大きく、せん断変形しにくくなる。そのため、軸圧潰変形時の挙動が、単一材料の金属板と近くなり、座屈波長を小さくすることができなくなるため好ましくない。なお、ヤング率については、例えば、ASTM−D638に準拠した引張試験等にて測定することが可能である。
また、接合層7A及び7Bは、コア層10と接合層7A及び7Bからなる層のせん断変形を制御するために、せん断弾性率が30〜500MPaであることが好ましい。このせん断弾性率が30MPa未満である場合、接合層7A及び7Bが過剰にせん断変形することにより、表層5A及び5Bが互いに独立して変形する可能性があり、安定した座屈変形が生じにくくなるため好ましくない。また、せん断弾性率が500MPaを超える場合、コア層10と、接合層7A及び7Bからなる層のせん断変形が生じにくくなるため、座屈波長が大きくなる可能性があり好ましくない。なお、上記のせん断弾性率については、JIS−K6850に準拠した引張せん断試験により測定することができる。
(衝撃吸収部品の形状)
次に、本実施形態に係る衝撃吸収部品の形状について説明する。図18A及び図18Bに示されるように、衝撃吸収部品20A及び20Bは、例えば、少なくとも4つの稜線を有する形状に成形加工される。
具体的には、図18Aに示されるように、衝撃吸収部品20Aは、積層金属板を一端から順に谷折り、山折り、山折り、谷折りにされた開断面構造のハット型形状であってもよい。
また、図18Bに示されるように、衝撃吸収部品20Bは、積層金属板を一端から順に山折り、山折り、山折り、山折りにされ、端部同士が溶接等で接合された閉断面構造の筒型形状であってもよい。
なお、衝撃吸収部品20A及び20Bにおいて、稜線方向が衝撃吸収方向である。
また、衝撃吸収部品20A及び20Bにおいて、稜線同士の間隔の各々は、50〜80mmであってもよい。ここで、稜線同士の間隔とは、例えば、図18A及び図18Bに示される間隔Lである。稜線同士の間隔がこの範囲に含まれる場合に、衝撃吸収部品20A及び20Bは、安定して小さい座屈波長にて蛇腹状の軸圧潰変形を起こすことができる。
具体的には、稜線同士の間隔の各々が50mm未満である場合、形状が複雑になり、形状制約を受けるため好ましくない。また、稜線同士の間隔の各々が80mmを超える場合、剛性が小さくなって弾性変形する側面が多くなり、座屈波長が大きくなり、かつ安定して蛇腹状の軸圧潰変形が起きにくくなるため好ましくない。
なお、本実施形態に係る衝撃吸収部品の形状が、例示した形状に限定されないことは、第1実施形態と同様である。
以上説明したように、本実施形態に係る衝撃吸収部品20A及び20Bは、該衝撃吸収部品20A及び20Bを構成する積層金属板9の表層5A及び5Bの板厚(tf)と、コア層10の板厚(tc)との板厚比(tc/tf)を2.0〜7.0にすることにより、座屈波長をより小さくし、衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
また、本実施形態に係る衝撃吸収部品20A及び20Bは、形状を複雑にする必要がなく、より単純な形状で衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。さらに、この衝撃吸収部品20A及び20Bは、座屈波長をより小さくするために積層金属板9の表層5A及び5Bとコア層10のヤング率比をさらに低下させる必要がない。このため、衝撃吸収部品20A及び20Bの強度を変更せずに、衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
[第2実施例]
以下では、本実施形態に係る衝撃吸収部品の第2実施例について説明する。
(積層金属板の製造)
まず、表3に示される表層及びコア層を積層接合して、積層金属板を製造した。また、表層とコア層との接合には、表4に示される接合材を用いた。表層上に接合材、コア層、接合材、表層の順に積層し、80℃〜180℃まで加熱し、圧着力40kgf/cm2(3.92MPa)で20〜30分加熱圧着し、その後、常温まで冷却して大気開放し、各実施例及び各比較例に係る積層金属板を製造した。
表4において、接着剤1は、基材がエポキシ樹脂の接着剤であり、塗布量200g/m2、180℃加温、圧着力40kgf/cm2(3.92MPa)、圧着時間20分間で接合に使用した。また、接着剤2は、基材がウレタン樹脂の接着剤であり、塗布量200g/m2、80℃加温、圧着力40kgf/cm2(3.92MPa)、圧着時間30分間で接合に使用した。さらに、接着剤3は、接着剤2に弾性ゴムを分散させた接着剤であり、塗布量200g/m2、80℃加温、圧着力40kgf/cm2(3.92MPa)、圧着時間20分間で接合に使用した。また、ろう付けでは、ろう材(低温ろう材、Sn−Pb系、融点183℃)を使用量15g/m2にて使用した。なお、接合材のせん断弾性率は、JIS−K6850に準拠した引張せん断試験により測定した。
また、表4において、コア層として用いたポリプロピレンは、密度が0.94g/cm3であり、またコア層として用いた金網の線径は0.6mmφ、線材間の隙間は1.6mmである。さらに、上述したように、Ecはコア層のヤング率であり、Efは表層のヤング率であり、tcはコア層の板厚であり、tfは表層の板厚である。
(衝突性能評価試験)
次に、上記で製造した各実施例及び各比較例に係る積層金属板で構成された衝撃吸収部品の衝突性能評価を行った。具体的には、表4に示された構成の各実施例及び各比較例に係る積層金属板を使用して、プレスブレーキによる曲げ加工にて成形し、図11A及び11Bに示される長さ200mmのハット型形状の衝撃吸収部品を製造した。図11Aは、本実施例に係る衝撃吸収部品を、衝撃吸収方向である稜線方向に垂直な断面で切断した断面図である。図11Bは、その斜視図である。
製造した衝撃吸収部品の衝突性能評価は、落重試験により行った。具体的には、衝撃吸収部品を、その稜線方向が衝突吸収方向となるように配置し、錘が衝突する端部と反対側の端部を治具にて固定した。その後、120kgの質量の錘を3.5mの高さから自由落下させることにより、この錘を衝撃吸収部品の衝突端側に対して30km/hの速度で衝突させた。
上記の落重試験における荷重−変位曲線から、100mm圧潰するまでの衝撃エネルギー吸収量を算出した。衝撃エネルギー吸収量は、衝撃吸収部品の軽量化を評価するために、部品の質量で衝撃エネルギー吸収量を除算し、単位質量当たりの衝撃エネルギー吸収量とした。
さらに、落重試験の荷重−変位曲線から平均座屈波長を算出した。具体的には、荷重が上下する周期ごとに、荷重が最小となった変位を測定し、直前に荷重が極小になった変位から、次に荷重が極小になった変位を引くことで、周期単位の座屈波長を算出した。同様の方法で各周期における座屈波長を算出し、算術平均を取ることで平均座屈波長を算出した。上記で算出した単位質量当たりの衝撃エネルギー吸収量及び平均座屈波長の評価結果を表5に示す。なお、表5において、座屈形態の欄の「A」、「B」、「C」の意味については、表2の変形形態の「A」、「B」、「C」の意味と同じである。
表5を参照すると、本発明の実施例101〜109に係る衝撃吸収部品は、比較例101〜103に係る衝撃吸収部品に対して、平均座屈波長が小さくなり、単位質量当たりの衝撃エネルギー吸収量が増加していることがわかる。具体的には、比較例101及び102は、tc/tfが2.0未満であるため、平均座屈波長が大きくなり、衝撃エネルギー吸収量が減少していることがわかる。また、比較例103は、tc/tfが本発明の範囲に含まれるものの、コア層のヤング率と、表層のヤング率とが同じであるため、単一材料で構成された衝撃吸収部品と実質的に同様の座屈変形の挙動を示し、平均座屈波長が大きくなり、衝撃エネルギー吸収量が実質的に減少していることがわかる。
また、実施例102、103、105〜109は、tc/tfが本実施形態における好ましい範囲内に含まれるために、平均座屈波長がより小さくなり、単位質量当たりの衝撃エネルギー吸収量がさらに増加していることがわかる。一方、実施例101は、tc/tfが3.5未満であるため、実施例102、103、105〜109より平均座屈波長が大きくなっている。また、実施例104は、tc/tfが5.0を超えているため、座屈形態が「B」になっている。
また、実施例101〜107、109は、接合層のせん断弾性率が本実施形態における好ましい範囲内に含まれているため、平均座屈波長がより小さくなっていることがわかる。一方、実施例108は、接合層のせん断弾性率が500MPaを超えているため、他の条件が同じである実施例105に対して、平均座屈波長が大きくなり、衝撃エネルギー吸収量が減少している。
また、実施例101〜108は、コア層及び表層のヤング率比(Ec/Ef)が、本実施形態における好ましい範囲内に含まれているため、単位質量当たりの衝撃エネルギー吸収量がより増加していることがわかる。一方、実施例109は、コア層及び表層のヤング率比(Ec/Ef)が1×10−3未満であるため、他の条件が同じである実施例105に対して、衝撃エネルギー吸収量が減少している。
さらに、実施例103、比較例101及び102に係る積層金属板について、シミュレーションにて、表層とコア層のヤング率比(Ec/Ef)を変更しながら、表層とコア層のヤング率比(Ec/Ef)に対する平均座屈波長の変化を評価した。シミュレーションは、非線形解析プログラムであるMarcを用い、座屈固有値解析を実施した。その評価結果を図19に示す。ここで、図19は、実施例103、比較例101及び102に係る衝撃吸収部品において、ヤング率比(Ec/Ef)に対する平均座屈波長を示した線図である。図19において、縦軸は平均座屈波長であり、横軸はヤング率比(Ec/Ef)の常用対数である。
図19に示されるように、実施例103(総厚2.0mm、tc/tf=4.3)は、いずれの表層及びコア層のヤング率比(Ec/Ef)においても、比較例101(総厚1.0mm、tc/tf=1.1)に対して、平均座屈波長が小さくなることがわかる。すなわち、実施例103は、tc/tfが本実施形態の範囲内に含まれるために、表層及びコア層のヤング率比(Ec/Ef)に関わらず、比較例101及び102に対して平均座屈波長を小さくできることがわかる。
また、実施例103及び比較例102の曲げ剛性は、9.6×104N・cm2であり、比較例101の曲げ剛性は、1.7×104N・cm2である。すなわち、実施例103は、比較例102に対して、積層金属板の強度(具体的には、曲げ剛性)を低下させずに平均座屈波長を小さくすることができる。
さらに、図19を参照すると、実施例103は、比較例102及び103に対して、特に、表層及びコア層のヤング率比(Ec/Ef)が1×10−3〜1×10−1の範囲において、平均座屈波長をより小さくすることができる。具体的には、表層及びコア層のヤング率比(Ec/Ef)が1×10−1を超える場合は、平均座屈波長の減少量が小さいため好ましくない。また、表層及びコア層のヤング率比(Ec/Ef)が1×10−3未満の場合は、コア層のヤング率Ecの低下により座屈変形時の平均荷重Wが低下し、衝撃エネルギー吸収効率が低下するため好ましくない。
次に、上記と同様にMarcを用いたシミュレーションにて、稜線の間隔Lをそれぞれ50mm、65mm、80mmとしたハット型形状部材における表層とコア層のヤング率比(Ec/Ef)に対する平均座屈波長の変化を評価した。その評価結果を図20に示す。ここで、図20は、衝撃吸収部品の形状に対する平均座屈波長を示した線図である。図20において、縦軸は平均座屈波長であり、横軸はヤング率比(Ec/Ef)の常用対数である。
図20を参照すると、衝撃吸収部品の稜線の間隔Lが50〜80mmである場合に、本実施形態において好ましいヤング率比(Ec/Ef)の範囲である1×10−3〜1×10−1にて、平均座屈波長がより顕著に低下していることがわかる。一方、稜線の間隔Lが80mmを超える場合、平均座屈波長が大きくなり、かつ安定して蛇腹状の軸圧潰変形が起きにくくなるため、好ましくない。また、稜線の間隔Lが50mm未満の場合は、衝撃吸収部品の形状が複雑になり、形状制約を受けるため好ましくない。
以上の結果からわかるように、本実施形態に係る衝撃吸収部品によれば、コア層の両面にコア層よりヤング率が大きい金属板からなる表層を接合積層し、表層の板厚tfとコア層の板厚tcを2.0〜7.0にした積層金属板で構成することによって、座屈波長を小さくし、衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
また、本実施形態に係る衝撃吸収部品によれば、衝撃吸収部品の形状を複雑に加工せずとも座屈波長を小さくすることができるため、衝撃吸収部品の形状をより単純化することができる。さらに、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、座屈波長をより小さくするために、積層金属板の表層とコア層とのヤング率比をさらに低下させる必要がないため、衝撃吸収部品の強度を低下させずに衝撃エネルギー吸収効率を向上させることができる。
さらに、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、従来の衝撃吸収部品に対して、ヤング率が小さく、かつ比較的密度が小さいコア層の割合が大きい積層金属板で構成されるため、より軽量化を図ることができる。したがって、本実施形態に係る衝撃吸収部品は、より軽量化を図ることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の第2実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本明細書に記載されたすべての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。