ところで、上述の特許文献1、2、3に開示された構成は何れも、ノズル(吐出口)か膜液をウエハ上に吐出する膜液吐出装置と、この膜液吐出装置によってウエハ上に形成された塗布膜を乾燥させる塗布膜乾燥装置とが、別々の装置として製作されている。そのため、この2種の装置を全体としてコンパクトにすることができず、作業エリアが不当に広くなるという問題を有している。しかも、このような構成であると、膜液吐出装置によってウエハ上に流動性を有する塗布膜が形成された後においては、その乾燥を行うまでの時間が長期化されることになるため、ウエハ上で塗布膜が不当に広がり、ウエハの外周端部から裏面まで流れてしまうという問題をも有している。
また、上述の特許文献3に開示された塗布膜の乾燥を除外して、膜液の吐出に着目すれば、特許文献1、2に開示された膜液吐出装置は何れも、ノズル(吐出口)から落下した膜液がウエハの外周端部から裏面に達することを防止するために、マスクや液受け部材が必要になり、ウエハ周辺の装置構造が複雑になるという問題を有する。しかも、これらの特許文献1、2に開示された膜液吐出装置の何れもが、膜液の使用効率を略100%にすることができないという問題をも有している。
本発明は、上記事情に鑑み、膜液の基板上への吐出と、基板上に形成された塗布膜の乾燥とを、コンパクトな装置で行い得るようにすると共に、前記吐出から前記乾燥までに要する時間の大幅な短縮を図り、更には膜液の使用効率を可及的に向上させることを課題とする。
上記課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、基板上に膜液を吐出して塗布膜を形成する膜液吐出部と、前記基板上に形成された塗布膜を乾燥させる塗布膜乾燥部とを備えた塗布膜形成乾燥装置であって、前記膜液吐出部はインクジェット塗布手段を有すると共に、前記膜液吐出部と前記塗布膜乾燥部における減圧乾燥手段と熱乾燥手段と冷却部とに対して基板の搬送及び受け取りを行う搬送ロボットを有し、前記膜液吐出部と、前記塗布膜乾燥部と、前記搬送ロボットとが、単一の包囲体の内部空間に収容され、前記単一の包囲体は、前側の第1箱状体と、該第1箱状体に一体的に連結され且つ該第1箱状体と内部で連通する後側の第2箱状体とを有し、前記第1箱状体の内部空間には、前記膜液吐出部が収容され、前記第2箱状体の内部空間には、中央部周辺領域に前記搬送ロボットの移動領域が形成されると共に、該移動領域の左右に前記減圧乾燥手段と熱乾燥手段と冷却部とが振り分けて収容され、前記第2箱状体の後端部には、前記搬送ロボットが前記基板を外部から搬入すると共に基板を外部に搬出する搬出入部が形成されていることに特徴づけられる。ここで、「単一の包囲体」とは、例えば包囲体が複数の箱状体や管状体を備えている場合であっても、それら箱状体や管状体が連結されていれば、単一の包囲体である(以下、同様)。
このような構成によれば、単一の包囲体の内部空間に、膜液吐出部と、塗布膜乾燥部と、搬送ロボットとが収容されているため、これらを一つの装置として捉えることができ、大幅な装置のコンパクト化が図られる。しかも、同一の内部空間において、膜液吐出部と塗布膜乾燥部とを近接させて配設することができるため、膜液吐出部で塗布膜が形成された基板を、搬送ロボットが極めて短時間で塗布膜乾燥部に搬入させることが可能となる。これにより、基板上で塗布膜が広がる以前の時点で、塗布膜の乾燥が行われ得ることになるため、基板上の適切な領域に塗布膜を形成した状態を維持して乾燥作業を完了させることができる。さらに、膜液吐出部は、インクジェット塗布手段(ピエゾ式)を有しているため、このインクジェット塗布手段によって基板上に膜液を吐出させることで、膜液の使用効率を90%以上もしくは100%とすることが可能となる。
前述の構成において、前記塗布膜乾燥部における前記減圧乾燥手段は、前記インクジェット塗布手段による膜液の吐出を終えて基板上に形成された流動性を有する塗布膜を10℃〜40℃の温度雰囲気中で減圧乾燥するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、インクジェット塗布手段を用いて膜液を基板上に吐出した場合には、流動性を有し且つ粘性の低い塗布膜が基板上に形成される。しかし、その後の塗布膜乾燥部では、すぐに熱乾燥が行われるのではなく、先ず最初に10℃〜40℃の温度雰囲気中で、減圧して乾燥が行われる。そして、この温度雰囲気は、常温もしくは常温に近い温度雰囲気であることから、塗布膜の粘性がさらに低くなることが抑止されると共に、減圧に起因して、温度が低い塗布膜であってもその溶剤分を蒸発させることができ、これらの相乗効果によって、適正な乾燥が行われる。すなわち、インクジェット塗布手段によって基板上に形成された流動性を有する塗布膜は、粘度が低くならず、且つ、減圧によって塗布膜の溶剤分の蒸発温度が低くなるため、塗布膜の粘度が変わることなく溶剤分が蒸発して乾燥が進行していくことになる。その結果、基板上における塗布膜の外周部の広がりが抑制されると共に、コーヒーリング現象を招くおそれもなくなる。しかも、塗布膜の粘度が変わらずに溶剤分が蒸発するため、塗布膜の移動が生じなくなり、これに伴って、基板の内周側から外周側に亘って均一な厚みの塗布膜が形成される。この場合、減圧乾燥を行う場合の温度雰囲気が40℃を超えると、基板上の流動性を有する塗布膜の粘性が低くなり、塗布膜の外周部の広がりやコーヒーリング現象の確実な阻止が困難になる一方、10℃未満にしようとすると、大型の冷却装置が別途必要になるなどして、装置の大幅な複雑化や、塗布膜の乾燥に要するコストが高く付く。しかしながら、10℃〜40℃の温度範囲であれば、このような不具合を回避する上で有利となる。以上のような観点から、減圧乾燥を行う場合の温度範囲は、23℃±10℃であることがより好ましく、23℃±5℃であることがさらに好ましい。
前述の構成において、前記塗布膜乾燥部における前記熱乾燥手段は、前記流動性を有する塗布膜が前記減圧乾燥手段による減圧乾燥によって流動性を有しなくなった時点でその塗布膜を120℃〜280℃の温度雰囲気中で熱乾燥するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、上述の減圧乾燥は、塗布膜が流動性を有しなくなる時点まで行われて、その後は、熱乾燥が行われることになるので、その後に自然乾燥を行う場合と比較して時間が大幅に短縮され、効率良く乾燥が終了する。そして、塗布膜が流動しない状態となった後に、熱乾燥が行われるため、塗布膜が外周側に広がったり、コーヒーリング現象を起こしたりせずに、塗布膜の溶剤分がさらに蒸発して、完全に乾燥された良質の塗布膜を得ることが可能となる。従って、熱乾燥を行っている際には、既述の減圧乾燥によって基板上で流動性を有しなくなった塗布膜が再び流動性を有する状態にならないように熱管理を行うことが好ましい。また、熱乾燥を行っている際には、塗布膜が本来所有すべき特性が損なわれないように熱管理を行うことが好ましい。この場合、熱乾燥を行う場合の温度が120℃未満であると、塗布膜の溶剤分を蒸発させるための熱量が不足して、基板の内周側から外周側に亘って均一な厚みの塗布膜を得ることが困難になる一方、280℃を超えると、塗布膜が再び流動性を有する状態になるおそれがあると共に急激に塗布膜の溶剤分が蒸発して高品質の塗布膜を得ることが困難になる。しかしながら、本発明の場合のように120℃〜280℃の温度範囲内にあれば、このような不具合を回避する上で有利となる。以上のような観点から、熱乾燥を行う場合の温度範囲は、150℃〜250℃であることがより好ましい。
以上の構成において、前記減圧乾燥手段は、前記単一の包囲体の内部空間における前記インクジェット塗布手段から最も近い位置に配設されていることが好ましい。
このようにすれば、インクジェット塗布手段を用いて膜液を基板上に吐出してから極めて短時間で、当該基板を搬送ロボットが減圧乾燥手段まで搬送することができるため、基板上に形成された流動性を有し且つ粘性の低い塗布膜が、搬送中に外周側に広がるという事態が可及的に抑制される。これにより、上述の減圧乾燥がより意義のあるものとなる。
以上の構成において、記塗布膜乾燥部における前記冷却部は、前記熱乾燥手段により熱乾燥された基板上の塗布膜を冷却するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、単一の包囲体の内部空間で、冷却部と熱乾燥手段とを接近させて配置することができるため、コンパクト化が図られるのみならず、搬送ロボットが熱乾燥手段から冷却部まで基板を搬送するのに要する時間が大幅に短縮され、作業能率の向上が図られる。
以上の構成において、前記単一の包囲体の内部空間に、前記インクジェット塗布手段のメンテナンスを行うメンテナンス部が収容されていることが好ましい。
このようにすれば、インクジェット塗布手段と塗布膜乾燥部とが単一の包囲体の内部空間に配設されているのみならず、当該内部空間にインクジェット塗布手段のメンテナンス部も配設されているため、コンパクト化を図りつつ、インクジェット塗布手段の保守点検を迅速且つ容易に行うことが可能となる。
この場合において、前記メンテナンス部は、前記インクジェット塗布手段の複数のノズル周辺を洗浄するクリーニング手段と、前記インクジェット塗布手段の複数のノズルからの膜液の吐出状態を検査する吐出検査手段と、前記インクジェット塗布手段の複数のノズルからの膜液の液滴を計量する液滴計量手段とが一体的に移動することで、メンテナンスを行うように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、メンテナンスの種類が適切なものになると共に、メンテナンス部のコンパクト化及び駆動機構の簡素化をも図ることが可能となる。
以上の構成において、前記単一の包囲体には、前記搬送ロボットが、基板を外部から搬入すると共に基板を外部に搬出する搬出入部が形成されていることが好ましい。
このようにすれば、単一の包囲体には、専用の基板の搬出入部が形成されているため、搬送ロボットが単一の包囲体の内部空間に基板を搬入する際及び当該内部空間から基板を搬出する際に、その都度、単一の包囲体の一部を分割するなどの操作が不要となり、作業能率の向上が図られる。
以上の構成において、前記基板は、シリコンウエハまたは炭化ケイ素ウエハであってもよく、或いはガラス基板、樹脂基板または金属基板であってもよい。この場合、基板の形状は、円板状であってもよく、また角板状であってもよい。
以上のように本発明によれば、膜液の基板上への吐出と、基板上に形成された塗布膜の乾燥とが、コンパクトな装置で行い得るようになると共に、前記吐出から前記乾燥までに要する時間の大幅な短縮が図られ、更には膜液の使用効率が可及的に向上する。
以下、本発明の実施形態に係る塗布膜形成乾燥装置および塗布膜形成乾燥方法について図面を参照しつつ説明する。
まず、本発明の実施形態に係る塗布膜形成乾燥装置の特徴的構成の説明に先立って、当該塗布膜形成乾燥装置1の基本的構成について説明する。そして、この塗布膜形成乾燥装置1は、主たる構成要件の一つとして、基板上に膜液を吐出する膜液吐出部2を有しているため、この膜液吐出部2の基本的構成を最初に説明しておく。
図1に示すように、塗布膜形成乾燥装置1の膜液吐出部2では、半導体ウエハからなる円板状の基板3が、矢印A方向に搬送される共に、その搬送経路の上方には、インクジェット塗布手段4の構成要素であるピエゾ式のインクジェットヘッド5が固定設置されている。このインクジェットヘッド5は、複数(図例では5個)の個別インクジェットヘッド5aが搬送方向Aと直交する幅方向Bに対して千鳥状に配列された併設インクジェットヘッドとして構成されている。このインクジェットヘッド5における各個別インクジェットヘッド5aの下面(吐出面)には、幅方向Bに複数のノズル6が、同一のノズルピッチ6Pで配列されている。したがって、インクジェットヘッド5には、全体的に視れば、幅方向Bに一定のノズルピッチ6Pで多数のノズル6が配列されていることになる。そして、全てのノズル6の位置を示すデータは、インクジェットヘッド5の記憶手段7に記憶されている。
基板3の表面への膜液の吐出に関しては、基板3の搬送方向Aの位置と、基板3の表面における膜形成面3Aの位置とに応じて決まるBMPデータ(ビットマップデータ)が、記憶手段7に記憶されている。このBMPデータにおいては、インクジェットヘッド5の各ノズル6に対して、膜液を吐出させるノズル6の個数、各ノズル6からの膜液の吐出量、および各ノズル6からの膜液の吐出の有無を、指定することができる。したがって、各ノズル6の膜液の吐出ピッチは任意に指定することができる。また、基板3の搬送速度は、2mm/sec〜100mm/sec、好ましくは10mm/sec〜50mm/secとされるが、この基板3の搬送速度は、ノズル6からの膜液の吐出量や吐出周波数、さらにはノズル6の配列状態などを考慮して適宜設定される。
図1に符合Cで拡大して示すように、単位面積当たりにおける基板3の膜形成面3Aにおける膜液の塗布状態は、インクジェットヘッド5の全てのノズル6から膜液8を吐出した場合(100%の吐出状態の場合)に、ノズルピッチ6Pと、搬送方向の吐出ピッチAPとの関係において、全ての膜液8(同図に示す円の形状をなす線)が隙間なく重なることになる。
図2は、インクジェットヘッド5の下面におけるノズル6の配列状態の一例を示している。同図に示すように、インクジェットヘッド5における各個別インクジェットヘッド5aの下面には、2つのライン型インクジェットノズル5bが並列に取り付けられている。そして、一方のライン型インクジェットノズル5bの各ノズル6の位置と、他方のライン型インクジェットノズル5bの各ノズル6の位置とは、幅方向Bにノズルピッチ6Pの半ピッチ分だけずれている。したがって、このインクジェットヘッド5の全体としての実質的なノズルの配列ピッチは、個々のライン型インクジェットノズル5bのノズルピッチ6Pの1/2とされている。なお、ライン型インクジェットノズル5bの配列個数やノズル6の配列状態などは、これに限定されるわけではない。
ここで、インクジェットヘッド5から吐出される膜液の吐出方式を説明する。図3(a)は、バイナリーモードと称される方式で、画像データのBMPデータ上で、一つのノズル6に相当する吐出データを1回ONさせた場合に、予め決められた吐出量の膜液8が1滴のみ吐出するモードである。図3(b)は、マルチドロップモードと称される方式で、画像データのBMPデータ上で、一つのノズル6に相当する吐出データに、1〜7までの数字(この例では3)を付加させた場合に、1回ONさせるだけで、予め決められた吐出量の膜液8が3滴連続して吐出するモードである。図3(c)は、DPNモードと称される方式で、画像データのBMPデータ上で、一つのノズル6に相当する吐出データに、吐出量のデータを入力することで、1回ONさせるだけで、入力された吐出量の膜液8を吐出するモードである。本発明は、この何れの方式も採用することができるが、この実施形態では、図3(a)のバイナリーモード方式が採用される。その理由は、バイナリーモード方式は、他の二つの方式に比べて、複雑な電気制御が不要だからである。
このインクジェットヘッド5の各ノズル6から吐出される膜液8の粘度は、6〜20mPa・s程度であるが、基板3上(膜形成面3A)に形成される塗布膜の種類に応じて、膜液8の粘度は若干相違する。しかし、この膜液8の粘度は、従来のスピンコーティング法やノズル吐出法に用いられていた装置から吐出される膜液の粘度よりも遥かに小さい。そして、このインクジェットヘッド5を用いて、基板3上に膜液8が吐出された場合には、図4に示すように、流動性を有する平面視で円形の塗布膜9が、基板3の外周端縁を除外した部位全域に形成される。詳述すると、図5に示すように、厚みが全域に亘って均一化され且つ流動性を有する塗布膜9が、基板3の湾曲した外周端部3bから裏面3cに向かって付着することを防止されている。すなわち、基板3の湾曲した外周端部3bと平面状の膜形成面3Aとの境界3dで、塗布膜9の付着が止められている。したがって、塗布膜9の外周端部9bは、基板3の湾曲した外周端部3bと平面状の膜形成面3Aとの境界3dまたはその近傍に位置している。なお、基板3の外周端部が図示のように湾曲して大きく外周側に突出していない場合には、基板3の外周端部と見なすことができる部位と、平面状の膜形成面3Aとの境界が、塗布膜9の外周端部9bの位置となる。見方を変えれば、塗布膜9の外周端部9bは、基板3の外周端部3bにおける裏面側部分3eに至っていなければよい。そして、この塗布膜9の厚みは、既述のように膜液8の粘度が低く且つ固形分濃度も低くなるため、従来の上記手法による場合と比較して、数倍或いは数十倍程度に厚くなる。なお、インクジェットヘッド5の各ノズル6から吐出される膜液8の各種調整は、記憶手段7のデータなどに基づいて制御手段10が行う構成とされている(図1参照)。
膜液吐出部2の基本的構成は、以上の通りであるが、本発明に係る塗布膜形成乾燥装置1は、他の主たる構成要件として塗布膜乾燥部11を有しているため、次に、この塗布膜乾燥部11の基本的構成を説明する。
図6は、流動性を有する塗布膜9が基板3上に形成された後に、塗布膜9に対して乾燥工程を実行するための塗布膜乾燥部11における減圧乾燥手段12の基本的構成を示す概略図である。この減圧乾燥手段12は、常温または常温に近い温度(例えば10℃〜40℃の温度範囲内、または23℃±10℃もしくは23℃±5℃の温度範囲内)を維持した状態で基板3を収納するチャンバー(減圧処理室)13と、このチャンバー13の内部空間を減圧する真空源としての真空ポンプPとを備える。そして、真空ポンプPからチャンバー13の内部空間に通じるメイン通路14には、真空ポンプP側から順に、第1自動弁A1と、第2自動弁A2と、第3自動弁A3とが設けられている。さらに、メイン通路14には、第2自動弁A2を迂回するバイパス通路15が連通され、このバイパス通路15に手動弁Mが設けられると共に、第3自動弁A3は、メイン通路14を常時開いており且つ分岐通路16の先端部16xを大気解放状態にするか否かの開閉動作のみを行うものである。
この減圧乾燥手段12の動作を、以下に説明する。すなわち、先ず始めに、上述の図4及び図5に示された流動性を有する塗布膜9が形成された基板3を、常温または常温に近い温度に維持されているチャンバー13内に収納してセットし密閉状態とする。この時点では、手動弁Mを少し開いた状態に調整して固定すると共に、第1自動弁A1と、第2自動弁A2と、第3自動弁とを全て閉じておく。この場合、真空ポンプPは、常時運転しており、そのポンプ能力を示す最高の到達真空圧は、例えば、1Paとされている。このような状態から、基板3の塗布膜9に対して減圧乾燥を行う場合には、先ず、第1自動弁A1を開くことにより、少し開いた状態にある手動弁Mを通じて、チャンバー13内の圧力が、図7の圧力特性線Xに符合x1で示すように、大気圧(101330Pa)から急激に高真空とならずに徐々に低下していく。これにより、常温または常温に近い温度での減圧乾燥が始まる。このような状態が例えば約10秒経過して、チャンバー13内の圧力が、例えば15Paになった時点で、第2自動弁A2を開くことにより、チャンバー13内の圧力はさらに低下して、例えば10Paになる。そして、第1自動弁A1を開いてから、例えば20秒〜60秒(図7に示すグラフでは40秒)経過した時点で、常温または常温に近い温度での減圧乾燥が終了する。
この後においては、第1自動弁A1と第2自動弁A2とを閉じると共に、第3自動弁A3を開くことにより、チャンバー13内を窒素やクリーンエアで満たされた大気圧状態として、基板3をチャンバー13から取り出した後、第3自動弁A3を閉じる。このようにして取り出された基板3上の塗布膜9は、流動性を有しない状態となっている。
図8は、塗布膜乾燥部11における減圧乾燥手段12の他の例の構成を示す概略図である。この減圧乾燥手段12は、上記と同様に常温または常温に近い温度を維持した状態で基板3を収納するチャンバー13a、13b、13cを複数(図例で3つ)備えると共に、これら3つのチャンバー13a、13b、13cの内部空間を減圧する真空源としての真空ポンプPを一台備えている。そして、真空ポンプPからは、3つのチャンバー13a、13b、13cの内部空間に通じる三本のメイン通路14a、14b、14cが分岐しており、これら三本のメイン通路14a、14b、14cにはそれぞれ、真空ポンプP側から順に、第1自動弁A1a、A1b、A1cと、第2自動弁A2a、A2b、A2cと、第3自動弁A3a、A3b、A3cとが設けられている。さらに、これら三本のメイン通路14a、14b、14cにはそれぞれ、第2自動弁A2a、A2b、A2cを迂回するバイパス通路15a、15b、15cが連通され、これらのバイパス通路15a、15b、15cにそれぞれ手動弁Ma、Mb、Mcが設けられると共に、第3自動弁A3a、A3b、A3cはそれぞれ、三本のメイン通路14a、14b、14cを常時開いており且つそれぞれの分岐通路16a、16b、16cの先端部16ax、16bx、16cxを大気解放状態にするか否かの開閉動作のみを行うものである。
この減圧乾燥手段12の動作を、以下に説明する。すなわち、流動性を有する塗布膜9が形成された基板3を、常温または常温に近い温度に維持されている三つのチャンバー13a、13b、13c内にそれぞれ収納してセットし密閉状態とする。この時点では、全ての手動弁Ma、Mb、Mcを少し開いた状態に調整して固定すると共に、全ての自動弁A1a〜A3cを閉じておく。この場合、真空ポンプPは、常時運転しており、そのポンプ能力を示す最高の到達真空圧は、例えば、1Paとされている。このような状態から、先ず第1番目のチャンバー13aに対応する第1自動弁A1aを開くことにより、少し開いた状態にある手動弁Maを通じて、第1番目のチャンバー13a内の圧力が、図9の第1圧力特性線Xaに符号xa1で示すように、大気圧(101330Pa)から急激に高真空とならずに徐々に低下していく。このような状態から例えば約10秒経過して、第1番目のチャンバー13a内の圧力が、例えば15Paになった時点で、第1番目のチャンバー13aに対応する第2自動弁A2aを開くことにより、第1番目のチャンバー13a内の圧力はさらに低下して、例えば10Paになる。その後、第1番目のチャンバー13aに対応する第1自動弁A1aと第2自動弁A2aとを閉じて、その閉じた状態を例えば約20秒維持しておくことにより、第1圧力特性線Xaに符号xa2で示すように、第1番目のチャンバー13a内では、基板3上の塗布膜9の溶剤分が蒸発して、圧力が例えば14Paまで徐々に上昇する。この時点では、基板3上の塗布膜9が流動性を有しているため、第1番目のチャンバー13aに対応する第1自動弁A1a及び第2自動弁A2aを再び開いて、例えば約10秒経過することにより、第1番目のチャンバー13内の圧力を例えば8Paに低下させる。この時点においては、基板3上の塗布膜9が流動性を有しない状態となっているため、第1番目のチャンバー13aに対応する第1自動弁A1a及び第2自動弁A2aを閉じると共に、第3自動弁A3aを開いて大気解放状態とすることにより、第1番目のチャンバー13a内を大気解放状態とする。これにより、第1番目のチャンバー13a内における基板3上の塗布膜9に対する常温または常温に近い温度での減圧乾燥が終了する。なお、第1番目のチャンバー13aに対応する第1自動弁A1a及び第2自動弁A2aを開いて、第1番目のチャンバー13a内の圧力を低下させた時点で、基板3上の塗布膜9が流動性を有している場合には、第1圧力特性線Xaに符号xa2で示すような塗布膜9の溶剤分の蒸発を、必要に応じて何回繰り返し行ってもよい。
次に、第2番目のチャンバー13bに着目すると、図9に示す第2圧力特性線Xbに従って減圧乾燥全般が行われることになり、この第2圧力特性線Xbは、上述の第1番目のチャンバー13aにおける第1圧力特性線Xaと同一の波形を呈している。しかしながら、この第2番目のチャンバー13bに対応する第1自動弁A1bを開くことにより、第2番目のチャンバー13b内の圧力が、図9の第2圧力特性線Xbに符号xb2で示すように、大気圧(101330Pa)から徐々に低下していくことを開始するのは、第1番目のチャンバー13a内の圧力が例えば10Paまで低下して、第1番目のチャンバー13aに対応する第1自動弁A1a及び第2自動弁A2aが閉じた時点である。さらに、第2番目のチャンバー13内bにおいて、図9の第2圧力特性線Xbに符号xb2で示すように基板3上の塗布膜9の溶剤分が蒸発して例えば14Paまで上昇した後、再び、第2番目のチャンバー13bに対応する第1自動弁A1b及び第2自動弁A2bを開くのは、第1番目のチャンバー13a内を大気解放状態にするための開始時点である。
さらに、第3番目のチャンバー13cに着目すると、図9に示す第3圧力特性線Xcに従って減圧乾燥全般が行われることになり、この第3圧力特性線Xcは、上述の第1番目及び第2番目のチャンバー13a、13bにおける第1圧力特性線Xa及び第2圧力特性線Xbと同一の波形を呈している。しかしながら、この第3番目のチャンバー13cに対応する第1自動弁A1cを開くことにより、第3番目のチャンバー13c内の圧力が、図9の第2圧力特性線Xcに符号xc1で示すように、大気圧(101330Pa)から徐々に低下していくことを開始するのは、第2番目のチャンバー13b内の圧力が例えば10Paまで低下して、第2番目のチャンバー13bに対応する第1自動弁A1b及び第2自動弁A2bが閉じた時点である。しかも、この時点では、第1番目のチャンバー13aに対して真空ポンプPが圧力低下作用を行っていない状態にある。さらに、この第3番目のチャンバー13c内において、図9の第3圧力特性線Xcに符号xc2で示すように基板3上の塗布膜9の溶剤分が蒸発して例えば14Paまで上昇した後、再び、第3番目のチャンバー13cに対応する第1自動弁A1c及び第2自動弁A2cを開くのは、第2番目のチャンバー13b内を大気解放状態にするための開始時点である。しかも、この時点では、第1チャンバー13aに対する減圧乾燥が終了している。
以上のように、三つのチャンバー13a、13b、13cにおける圧力特性線Xa、Xb、Xcを参酌すれば、圧力値15Paから10Paに減圧する時期と、圧力値10Paから14Paに減圧が緩む時期と、圧力値14Paから8Paに減圧する時期と、圧力値8Paから大気解放される時期とが、チャンバー13a、13b、13cの相互間で相違している。そのため、真空ポンプPに大きな負担が一挙に集中して掛からなくなり、一台の真空ポンプPが有効に活用されるだけでなく、その真空ポンプPの小型化或いは省能力化が図られる。
なお、この例では、一台の真空ポンプPを用いて三つのチャンバー13a、13b、13c内で減圧乾燥を行ったが、チャンバーの個数は二つであってもよく、或いは四つ以上であってもよい。また、三つの圧力特性線Xa、Xb、Xcで示した圧力値は、あくまでも例示であって、それらの例示したものよりも高真空であっても低真空であっても、基板3上の塗布膜9が流動性を有しなくなるような減圧乾燥であれば差し支えない。
以上の全ての例のようにして、基板3上に形成された流動性を有する塗布膜9が、常温または常温に近い状態で減圧乾燥されることによって、その塗布膜9は流動性を有しなくなる。すなわち、この時点では、塗布膜9には未だ溶剤分が含まれているため押圧すれば容易に変形するが、流動しなくなっている。そして、この時点では当然に、基板3上で塗布膜9が外周側に広がろうとする現象やコーヒーリング現象は生じていない。ここで、コーヒーリング現象について説明すると、従来における塗布膜の乾燥は、ヒータにより加熱されたチャンバー(処理室)内に基板を投入して塗布膜を熱乾燥させたり、ホットプレートを用いて基板上の塗布膜を乾燥させることが行われていた。それにも関わらず、インクジェットヘッドによって塗布されて乾燥工程が行われる前の塗布膜(膜液)は、粘度が6〜20mPa・s程度の低い値を示している。そのため、基板3上の内周側から外周側にかけて厚みが均一に塗布された塗布膜であっても、このように粘度が低い場合には、従来の乾燥工程における熱に起因して、粘度がさらに低くなって塗布膜が外周側に広がろうとすると同時に、図26に示すように基板3wの外周側端部で符号9zで示すように塗布膜の厚みが極端に厚くなり、局部的に隆起した状態となる。このような現象を、一般に、上述のコーヒーリング現象と呼んでいる。そして、本実施形態に係る塗布膜乾燥部11では、既述のように減圧乾燥手段12が減圧乾燥を行うことによって、このコーヒーリング現象が生じないのである。このような結果が得られる理由は、基板3上に流動性を有する塗布膜9を、常温または常温に近い温度で減圧乾燥することによって、塗布膜9の溶剤分の蒸発温度が常温以下になるため、塗布膜9の粘度が変わらない状態で溶剤分が蒸発するからである。そして、このように塗布膜9の粘度が変わらない状態で溶剤分が蒸発することによって、塗布膜9の移動が起こらず、基板3上の略全域に均一な塗布膜9が形成されるのである。
一方、以上の全ての例では、インクジェット塗布手段4を用いて基板3上に流動性を有する塗布膜9を形成する場合や、減圧乾燥手段12におけるチャンバー13内に流動性を有する塗布膜9が形成された基板3を収納する場合には、塗布膜9の温度を周辺雰囲気の温度(例えばクリーンルーム内の温度)と変化させることなく行う構成とされている。これに対しては、例えば図10及び図11に示すような手法を用いて、基板3上の塗布膜9を冷却するように構成してもよい。
図10は、小型で簡易な構造の冷却板17の上面に基板3を載置して、基板3を冷却することで、基板3上に形成されている流動性を有する塗布膜9を冷却するように構成したものである。このようにすれば、塗布膜9の周辺雰囲気の温度が、例えば10℃〜40℃の範囲内にあるとしたならば、その温度範囲内における実際の周辺雰囲気の温度よりも、塗布膜9を低温にして、塗布膜9の粘度を高めることができる。そして、このように冷却板15に載置された基板3は、インクジェット塗布手段4によって基板3上に流動性を有する塗布膜9を形成する場合に使用してもよく、もしくはその塗布膜9の形成後に減圧乾燥手段12のチャンバー13内に収容してもよく、またはその両者であってもよい。このようにすれば、減圧乾燥を行う段階で、基板3上に形成されている流動性を有する塗布膜9の粘度が高くなっているため、減圧乾燥に要する時間が短縮されて、生産性の向上が図られる。
図11は、基板3の外周端部3bのみを、小型で簡易な構造の円環状の冷却部18で受止して、基板3の外周端部3bのみを冷却することで、基板3上に形成されている流動性を有する塗布膜9の外周端部9bを集中して冷却するように構成したものである。このようにすれば、塗布膜9の実際の周辺雰囲気の温度よりも塗布膜9の外周端部9bを低温にして、塗布膜9の外周端部9bの粘度を高めることができる。そして、この場合も、その使用態様は、上記の場合と同様である。このようにすれば、塗布膜9の外周側への広がり現象やコーヒーリング現象の発生原因となる塗布膜9の外周端部9bの粘度が高くなることにより、効率良くそれらの現象を回避しつつ、減圧乾燥に要する時間の短縮及び生産性の向上を図ることができる。
以上の全ての例において、減圧乾燥が終了することによって基板3上の塗布膜9が流動性を有しなくなった後は、大気圧下で、熱処理室内のホットプレート上に複数のピンを介して基板3が載置された状態で塗布膜9が熱乾燥され、または、ヒータにより加熱された熱処理室内に基板3が収納されて塗布膜9が熱乾燥される。この場合、その塗布膜9は120℃〜280℃(好ましくは150℃〜250℃)の温度雰囲気中で熱乾燥される。このようにすれば、基板3上で塗布膜9が流動しない状態となった後に、熱乾燥が行われるため、塗布膜9が外周側に広がったり、コーヒーリング現象を起こしたりすることなく、塗布膜9の溶剤分がさらに蒸発して、図12に示すように、完全に乾燥された薄肉で良質の塗布膜9xが得られる。すなわち、図12に示す流動性を有しない塗布膜9xは、図5に示す塗布膜9と比較して、厚みが数分の1または数十分の1になると共に、塗布膜9xの外周端部9bxの位置が殆ど変化しておらず、且つ全域に亘って厚みが均一になっている。この場合、熱乾燥を行っている際には、既述の減圧乾燥によって基板3上で流動性を有しなくなった塗布膜9が再び流動性を有する状態にならないように熱管理が行われる。また、熱乾燥を行っている際には、塗布膜が本来所有すべき特性が損なわれないように熱管理が行われる。そして、減圧乾燥の後に熱乾燥を行うことにより、減圧乾燥の後に自然乾燥を行う場合と比較して、時間の大幅な短縮が図られると共に、生産性の向上も図られる。
図13は、基板3上に厚い塗布膜9を形成する場合について説明するための概略図である。一例として、最終的に厚みが50μmの塗布膜9を基板3上に形成する場合には、以下に示す三つの手法の何れかで行われる。第1の手法は、基板3上に厚み25μmの塗布膜を形成した後に減圧乾燥を行い且つその後に熱乾燥を行う事を、2回繰り返して行う手法である。第2の手法は、基板3上に厚み25μmの塗布膜を形成した後に減圧乾燥を行う事を、2回繰り返して行った後に、熱乾燥を一回行う手法である。第3の手法は、基板3上に厚み25μmの塗布膜を形成する事を2回行った後に、減圧乾燥を一回行い、その後に熱乾燥を1回行う手法である。なお、以上の説明における塗布膜の厚みや回数は、特に限定されるものではない。
次に、本実施形態に係る塗布膜形成乾燥装置1の特徴的構成を説明する。
図14及び図15はそれぞれ、塗布膜形成乾燥装置1の外観を示す平面図及び右側面図である。これらの各図に示すように、塗布膜形成乾燥装置1は、単一の包囲体20の内部空間に、膜液吐出部2と塗布膜乾燥部11とが配設されている。この単一の包囲体20は、大別すると、前側に配置され且つ膜液吐出部2を内蔵する第1箱状体21と、後側に配置され且つ第1箱状体21に一体的に連結されると共に塗布膜乾燥部11の主要部を内蔵する第2箱状体22と、第2箱状体22の側方に配置され且つ塗布膜乾燥部11の構成要素である真空ポンプPを内蔵する第3箱状体23と、第2箱状体22と第3箱状体23とを一体的に連結し且つ真空ポンプPに通じるメイン通路14(14a,14b,14c)を内蔵する第1管状体23Rとを備える。なお、第2箱状体22の後端部には、外部空間との間を連通・遮断する開閉機構を有し且つ基板3を外部空間から搬入すると共に基板3を外部空間に搬出する2つの搬出入部24、25をそれぞれ形成する第4箱状体24S及び第5箱状体25Sと、塗布膜乾燥部11を操作する操作パネル26を有する第6箱状体26Sとが一体的に突設されている。この場合、第1箱状体21及び第2箱状体22の上面部はそれぞれ、異物を捕集するフィルタ部材21a、22aで構成されている。
図16は、第1箱状体21の内部空間に収容されている膜液吐出部2及びその周辺の構造を示す正面図であり、図17は、同じく第1箱状体21の内部空間に収容されている膜液吐出部2及びその周辺の構造を示す平面図である。これらの各図に示すように、膜液吐出部2は、ガイドレール27に沿って前後方向(矢印X方向)に往復動可能とされ且つ基板3を載置させる基板搬送アーム28と、この基板搬送アーム28による基板3の搬送経路の上方に固定設置されたインクジェットヘッド5と、このインクジェットヘッド5の下方であって且つ基板搬送アーム28の移動経路よりも下方に配置されたヘッド保護部29とを備えている。この場合、インクジェットヘッド5は、ヘッドシャフト30の下部に固定されている。また、ヘッド保護部29は、基板搬送アーム28が退避位置(後方端位置)にある時にインクジェットヘッド5の下面(ノズル面)に近接するまで上昇するものである。さらに、第1箱状体21の内部空間には、インクジェットヘッド5のメンテナンスを行うメンテナンス部31と、塗布膜が形成される前の基板3を周方向に位置決めして待機状態としておくための基板アライメント部32と、インクジェットヘッド5に膜液を供給するためのタンク部33とが収容されている。これらのメンテナンス部31、基板アライメント部32及びタンク部33も、膜液吐出部2の構成要素である。
図18は、メンテナンス部31を説明するための平面図である。同図に示すように、このメンテナンス部31は、インクジェットヘッド5のノズル6の周辺を非接触で負圧吸引して清浄にするクリーニング手段31aと、インクジェットヘッド5のノズル6からの液滴の吐出状態をカメラで検査する吐出検査手段31bと、インクジェットヘッド5の全てのノズル6からの液滴の量の平均値を計測する液滴計量手段31cとを備えている。そして、これらの各手段31a、31b、31cは、一体構造とされており、ガイドロッド34に沿って一体となって左右方向(矢印Y方向)に往復動可能とされると共に、インクジェットヘッド5の前方に位置した時点で、これらの各手段31a、31b、31cがそれぞれ後方側に突出動して、上述の各動作を行うように構成されている。そして、メンテナンス部31は、インクジェットヘッド5から基板3上に膜液が塗布されている間においては、基板3と干渉しないように配置されている。
図19は、第2箱状体22の内部空間に収容されている塗布膜乾燥部11及びその周辺の構造を示す平面図である。この場合、第2箱状体22の内部空間と、上述の第1箱状体21の内部空間とは、連通している。同図に示すように、第2箱状体22の内部空間の右側端部で且つ前側端部には、塗布膜乾燥部11における減圧乾燥手段12の構成要素であるチャンバー13(減圧処理室)が配置されると共に、このチャンバー13は、第1管状体23Rの内部のメイン通路14(14a、14b、14c)を介して第3箱状体23の内部の真空ポンプPに通じている。また、第2箱状体22の内部空間の左側端部には、塗布膜乾燥部11の構成要素である熱乾燥手段としての熱処理室35が前後2箇所に配置されると共に、これらの熱処理室35は、減圧乾燥手段12のチャンバー13内で処理が施された後の基板3に対して既述の熱乾燥を行うための室である。さらに、第2箱状体22の内部空間の右側端部で且つ後側端部には、塗布膜乾燥部11の構成要素である冷却部としての冷却処理室36が配置されると共に、この冷却処理室36は、熱乾燥を終えた基板3を冷却するための室である。
そして、第2箱状体22の中央部周辺領域には、膜液吐出部2と塗布膜乾燥部11との間で基板3の搬送を行う搬送ロボット40が移動自在に収容されている。詳述すると、搬送ロボット40は、搬出入部24、25から搬入された基板3を基板アライメント部32に受け渡す作業と、基板アライメント部32から基板搬送アーム28に基板3を移載させる作業と、インクジェットヘッド5により流動性を有する塗布膜が形成された基板3を受け取ると共にその基板3をチャンバー13内に導入する作業と、チャンバー13内で減圧乾燥処理を受けた基板3を受け取ると共にその基板3を熱処理室35内に導入する作業と、熱処理室35内で熱乾燥処理を受けた基板3を受け取ると共にその基板3を冷却処理室36内に導入する作業と、冷却処理室36内で冷却処理を受けた基板3を受け取ると共にその基板3を搬出入部24、25から搬出させる作業とを行うように構成されている。
なお、図20は、第2箱状体22の内部空間に収容されている減圧乾燥を行うチャンバー13と、冷却処理を行う冷却処理室36とを示す右側面図であって、チャンバー13は上下方向の中央部に1個のみが配置されているのに対して、冷却処理室36は上下3段に配置されている。また、図21は、第2箱状体22の内部空間に収容されている熱乾燥を行う熱処理室35を示す左側面図であって、熱処理室35は前後2箇所においてそれぞれ上下3段に配置されている。
次に、上記構成からなる塗布膜形成乾燥装置1の作用効果を説明する。
単一の包囲体20の内部空間に、膜液吐出部2と、塗布膜乾燥部11と、搬送ロボット40とが収容されているため、これらが一体化された単一の装置が実現し、これによって大幅な装置のコンパクト化が図られる。しかも、単一の包囲体20の構成要素である第1箱状体21及び第2箱状体22のそれぞれの内部空間が連通しているため、膜液吐出部2と塗布膜乾燥部11とを近接させて配設することが可能となる。これにより、膜液吐出部2で塗布膜が形成された基板3を、搬送ロボット40が極めて短時間で塗布膜乾燥部11に導入させることが可能となる。その結果、基板3上で塗布膜が広がる以前の時点で、塗布膜の乾燥が行われることになるため、基板3上の適切な領域に塗布膜を形成した状態で乾燥作業を完了させることができる。さらに、膜液吐出部2は、ピエゾ式のインクジェット塗布手段4を有しているため、このインクジェット塗布手段4によって基板3上に膜液を吐出させることで、膜液の使用効率を90%以上もしくは100%とすることが可能となる。
しかも、単一の包囲体20の内部空間において、減圧乾燥手段12が減圧乾燥を行うためのチャンバー13は、インクジェット塗布手段4から最も近い位置に配設されているため、インクジェット塗布手段4を用いて膜液を基板上に吐出してから可及的に短時間で、基板3を搬送ロボット40がチャンバー13まで搬送することができる。そのため、インクジェット塗布手段4によって基板3上に形成された塗布膜が、流動性を有し且つ粘性の低いものであっても、その塗布膜が搬送ロボット40による搬送中に外周側に広がるという事態が確実に抑制される。これにより、減圧乾燥手段12での減圧乾燥工程が、極めて良好に行われる。
さらに、塗布膜乾燥部11は、減圧乾燥手段12による減圧乾燥によって流動性を有しなくなった時点でその塗布膜を120℃〜280℃の温度雰囲気中で熱乾燥するため、塗布膜が外周側に広がったり、コーヒーリング現象を起こしたりせずに、塗布膜の溶剤分がさらに蒸発して、完全に乾燥された良質の塗布膜を得ることが可能となる。従って、熱乾燥を行っている際には、既述の減圧乾燥によって基板3上で流動性を有しなくなった塗布膜が再び流動性を有する状態にならないように熱管理が行われている。また、熱乾燥を行っている際には、塗布膜が本来所有すべき特性が損なわれないように熱管理が行われている。この場合、熱乾燥を行う場合の温度が120℃未満であると、塗布膜の溶剤分を蒸発させるための熱量が不足して、基板の内周側から外周側に亘って均一な厚みの塗布膜を得ることが困難になる一方、280℃を超えると、塗布膜が再び流動性を有する状態になるおそれがあると共に急激に塗布膜の溶剤分が蒸発して高品質の塗布膜を得ることが困難になる。しかしながら、本発明の場合のように120℃〜280℃の温度範囲内で熱乾燥を行えば、このような不具合を回避する上で有利となる。以上のような観点から、熱乾燥を行う場合の温度範囲は、150℃〜250℃であることがより好ましい。
そして、単一の包囲体20の内部空間においては、減圧乾燥を行うためのチャンバー13と、熱乾燥を行うための熱処理室35とが、接近して配置されているため、減圧乾燥処理が施された基板3を、搬送ロボット40が極めて短時間で、熱処理室35まで搬送することが可能となり、作業能率が大幅に向上する。
さらに、単一の包囲体20の内部空間においては、インクジェットヘッド5のメンテナンスを行うメンテナンス部31が収容されているため、コンパクト化を図りつつ、インクジェットヘッド5の保守点検を迅速且つ容易に行うことが可能となる。この場合、メンテナンス部31は、クリーニング手段31aと、吐出検査手段31bと、液滴計量手段31cとが一体的に移動するため、メンテナンス部31のコンパクト化及びその駆動機構の簡素化をも図ることが可能となる。
以上の実施形態では、基板3上に形成する塗布膜9xが、感光性絶縁膜、非感光性絶縁膜、レジスト膜などの機能性膜あるいはその他の膜であれば、特に限定されるものではない。
さらに、以上の実施形態では、塗布膜9xの形成対象である基板3を、円板状の半導体ウエハ(シリコンウエハ)としたが、炭化ケイ素(SiC)からなるウエハや、樹脂、ガラスまたは金属からなる基板、さらには、矩形や多角形などの角板状をなす基板であってもよい。
また、以上の実施形態では、基板3が移動してインクジェットヘッド5が固定設置されているが、これとは逆に、インクジェットヘッド5が移動して基板3が固定設置されていてもよく、あるいは、両者5、3が移動してもよい。
図22は、上記実施形態で使用されるインクジェット塗布手段4の第1例を示す概略図である。同図に示すように、この第1例に係るインクジェット塗布手段4は、制御手段10によって制御される駆動回路部41からの信号aが、ヘッド支持体50に固定された複数の個別インクジェットヘッド5aに送出されると共に、一種類の膜液を貯留する単一のタンク51から、主送液管52及び複数の分岐送液管53を通じて複数の個別インクジェットヘッド5aに一種類の膜液が供給されるように構成されている。
図23は、上記実施形態で使用されるインクジェット塗布手段4の第2例を示す概略図である。この第2例に係るインクジェット塗布手段4が、上述の第1例に係るインクジェット塗布手段4と相違している点は、複数種類の膜液を貯留する複数個のタンク54からそれぞれ、複数の個別インクジェットヘッド5aに異なる膜液が供給されるように構成されているところにある。そして、この第2例に係るインクジェット塗布手段4によれば、図24に示すように、基板3に対して各個別インクジェットヘッド5が一点鎖線で示す軌跡55に沿って移動することにより、複数種類の膜液が重ね塗りされることになる。
図25は、上記実施形態で使用されるインクジェット塗布手段4の第3例を示す概略図である。この第3例に係るインクジェット塗布手段4は、インクジェットヘッド5とタンク56とが一体となったヘッドユニット57を、ヘッドシャフト30に着脱自在に取り付けたものである。このようにすれば、膜液が貯留された状態にあるタンク56とインクジェットヘッド5とを、他の種類の膜液が貯留された状態にあるタンク56と他のインクジェットヘッド5とに、ユニットの状態で取り替えることが可能となる。これにより、異なる種類の膜液の交換を迅速に行うことが可能となり、生産性の向上が図られる。