JP5780019B2 - 化成処理性に優れた高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法 - Google Patents
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Description
また、特許文献2に記載された技術では、緻密な化成結晶を生成することができるが、しかし、本発明者らの検討によれば、熱延時の巻取温度が高くなると、化成処理を施しさらに電着塗装した後の塗膜が剥離しやすくなり、塗膜密着性が低下するという問題があることがわかった。
この内部酸化層の形成は、熱間圧延後の巻取温度に大きく影響され、巻取温度が低温となるほど、その形成傾向は小さくなるが、巻取温度の極端な低下は、鋼帯の硬質化を招き、冷間圧延性での総圧下率の低下を招くため、冷間圧延での総圧下率限界(以下、冷間圧延性という)を加味して、巻取温度を調整する必要があることを知見した。
質量%で、0.17%C−1.2%Si−1.9%Mn−0.03%P−0.002%S−0.03%Al−0.015%Ti−0.002%N−0.03%Cr−残部Feからなる組成の鋼素材(スラブ)に、表1に示す仕上圧延温度の熱間圧延を施し、巻取温度500℃、550℃、600℃の3水準で巻き取り、板厚2.6mmの3種の熱延鋼帯とした。各鋼帯から、JIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張強さTSを求め、冷間圧延性の指標とした。熱延鋼帯のTSが700MPa超える場合には、強度が高くなりすぎて、目標板厚までの冷間圧延が困難となり、冷間圧延性が不良であるとして×と評価した。それ以外は冷間圧延性が良好であるとして○と評価した。
(1)化成処理性
得られた冷延焼鈍板から試験片を採取し、該試験片を、脱脂液(ファインクリーナー(登録商標)日本パーカライジング社製)で脱脂し、水洗したのち、表面調整液(プレパレンZ(登録商標)日本パーカライジング社製)で30秒表面調整し、ついで、液温35℃の化成処理液(パルボンドL3080(登録商標)日本パーカライジング社製)に120秒間浸漬したのち、水洗し、温風乾燥した。
(2)塗膜密着性
上記した化成処理を施された冷延焼鈍板から試験材(大きさ:厚さ×80mm×120mm)を採取し、該試験材表面に、電着塗装(塗料:V-50ブラック)を施し、電着塗膜(厚さ25μm)を形成した。
(1)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.5〜1.8%、Mn:1.5〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.02〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱延工程と、酸洗工程と、冷延工程と、焼鈍工程と、さらに焼鈍処理後の酸洗工程と、を施して製品鋼帯とする高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法において、前記熱延工程が、前記鋼素材に、加熱し、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延を施して熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯を、引張強さTSが700MPa以下となる、540〜640℃の範囲の巻取温度で巻き取る工程であり、前記酸洗工程が、前記熱延鋼帯に、溶解量80〜200 g/m2とする酸洗処理を行う工程である、ことを特徴とする、引張強さ590MPa以上を有し、冷間圧延性、化成処理性に優れ、塗膜密着性に優れた高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法。
まず、使用する鋼素材(スラブ)の組成限定理由について説明する。なお、以下、とくに断わらない限り、質量%は単に%で記す。
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するために0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、鋼板の溶接性を著しく低下させる。このため、Cは0.03〜0.20%の範囲に限定した。
Si:0.5〜1.8%
Siは、Cと同様に、鋼の強度を増加させ、さらに加工性の向上にも寄与する、安価な元素であり、本発明において重要な元素である。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、1.8%を超える含有は、鋼板の低温靭性が著しく低下する。
Mn:1.5〜3.5%
Mnは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するために1.5%以上の含有を必要とする。一方、3.5%を超える含有は、鋼板の溶接性を著しく低下させる。このため、Mnは1.5〜3.5%の範囲に限定した。
Pは、鋼を強化する作用を有する元素であるが、多量の含有は、溶接性、靭性を低下させるため、できるだけ低減することが望ましいが、0.1%までは許容できる。なお、より優れた溶接性、靭性を確保する必要がある使途には、0.05%以下の含有とすることが好ましい。
Sは、鋼中では硫化物として存在し、延性、とくに伸びフランジ性、さらには靭性に悪影響を及ぼす元素であり、できるだけ低減することが望ましいが、0.01%までは許容できる。なお、好ましくは0.005%以下である。また、過度の低減は、精錬コストの高騰を招き、経済的に不利となるため、0.001%以上とすることが好ましい。
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合してAlNを形成し、高温における結晶粒の粗大化を抑制する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、Alは0.02〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.05%である。
Nは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素であるが、溶接性、耐時効性に悪影響を及ぼす。このため、Nは、できるだけ低減することが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、Nは0.005%以下に限定した。
上記した成分が基本の成分であるが、加工性の向上など必要に応じて、これら基本の組成に加えて、選択元素として、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上、を選択して含有できる。
Nb、Ti、Vはいずれも、炭窒化物を形成し、析出強化により、鋼板の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して、1種または2種以上含有できる。このような効果を得るためには、Nb:0.005%以上、Ti:0.005%以上、V:0.005%以上の含有を必要とする。一方、Nb:0.15%、Ti:0.15%、V:0.15%を、それぞれ超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%の範囲にそれぞれ限定することが好ましい。
Cu、Ni、Cr、Moはいずれも、固溶強化を介して鋼の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を得るためには、それぞれ、Cu:0.01%以上、Ni:0.01%以上、Cr:0.01%以上、Mo:0.01%以上、含有することが望ましい。一方、Cu:0.20%、Ni:0.20%、Cr:0.20%、Mo:0.20%、をそれぞれ超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%、のそれぞれの範囲に限定することが好ましい。
上記した成分組成を有する鋼素材の製造方法は特に限定する必要はなく、転炉、電気炉等の通常公知の溶製炉を用いて、或いはさらにRH脱ガス・脱硫等の取鍋精錬を行って、上記した組成の溶鋼を溶製し、連続鋳造法等の、通常公知の鋳造法を用いてスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
熱間圧延のための再加熱温度は、熱間圧延が可能な温度であればよく、とくに限定する必要はないが、1150〜1300℃の範囲の温度とすることが好ましい。再加熱温度が1150℃未満では、変形抵抗が大きくなりすぎ、圧延機への負荷が過大となる。一方、1300℃を超えると、結晶粒が粗大化しすぎて、所望の特性を確保できない場合がある。
仕上圧延は、所望の寸法形状の熱延板(熱延鋼帯)とすることができればよく、その条件はとくに限定する必要はないが、巻取温度が所望の温度範囲の温度とすることができるように、仕上圧延終了温度を、1050〜950℃の範囲とすることが望ましい。
巻取温度:540〜640℃
本発明では、冷間圧延の負荷を軽減するために、ベイナイト等の硬質相の生成を抑制して、軟質の組織を有する熱延板とすることが好ましい。このため、本発明では、巻取温度を、540〜640℃の範囲の温度とする。
熱延工程を施された熱延板(熱延鋼帯)は、ついで、酸洗工程を施される。
酸洗処理による溶解量80 g/m2未満では、生成した粒界酸化物が完全に除去できず、粒界腐食層として10μm以上残存し、塗膜密着性が低下する。一方、200g/m2を超えて溶解量が多くなると、鋼帯歩留の低下を招く。このため、酸洗処理による溶解量80〜200g/m2の範囲に限定した。この溶解量は、厚み減少量に換算すると、10〜25μmに相当する。
冷延工程では、酸洗処理された熱延板(熱延鋼帯)に冷間圧延を施し、所定寸法の冷延板(冷延鋼帯)とする。冷間圧延は、通常公知のタンデム冷間圧延機やリバース式冷間圧延機がいずれも適用できる。冷間圧延の条件は、所定寸法の冷延鋼帯が製造できる条件であればよく、とくに限定する必要はない。
焼鈍工程は、冷延板に焼鈍処理を施し、冷延焼鈍板とする工程とする。焼鈍処理は、冷間加工された結晶粒が再結晶する条件であればよく、とくに限定する必要はなく、通常公知の条件がいずれも適用できる。
なお、焼鈍処理は、とくにSiの表面濃化を防止するために、特開2010−202959号公報に記載された条件で行うことが好ましい。すなわち、直火型加熱炉で、鋼板移動方向の上流側ではバーナーを、空気比1.0以上1.5未満かつ燃焼率70〜80%の酸化条件で燃焼させ、鋼帯表面にFe系酸化物を生成させ、鋼板移動方向最下流のバーナーでは、空気比0.5〜0.95かつ燃焼率100%程度の還元条件で燃焼させ、鋼帯表面のFe系酸化物を還元するように加熱し、さらに還元雰囲気の均熱帯で、再結晶焼鈍することが好ましい。なお、加熱帯出側温度は500〜700℃の範囲の温度とし、均熱帯の温度は700〜800℃とすることが好ましい。
焼鈍工程を施された冷延鋼帯は、さらに焼鈍処理後の酸洗工程を施されて、製品鋼帯とされる。この酸洗工程により、焼鈍時に鋼帯表面に形成されたSi、Mnの濃化層を削除することができ、化成処理性、ひいては塗膜密着性が向上する。焼鈍処理後の酸洗工程は、特開2007−246961号公報に示されるように、塩酸、硝酸、あるいは硝酸と塩酸とからなる混合酸等の水溶液、例えば10%塩酸、1%塩酸+25%硝酸、を用いた酸洗処理とすることが好ましい。なお、それ以外には混合酸としては、硝酸、塩酸、フッ素等の混合酸が例示される。また、酸洗温度は30〜70℃、浸漬時間は5〜20秒とすることが好ましい。
ついで、酸洗処理を施された熱延鋼帯に、5スタンドタンデム冷間圧延機(ワークロール径600mmφ)による冷間圧延を施し、1.4mm厚の冷延鋼帯とする、冷延工程を施した。なお、一部の鋼帯では、変形抵抗が増大し、冷間圧延の圧延荷重が過大となり、1.4mm厚まで冷間圧延ができなかった。この場合、冷間圧延性が不良(×)と評価し、1.4mm厚まで冷間圧延ができた場合には、冷間圧延性良好(○)と評価した。なお、1.4mm厚まで冷間圧延ができなかった鋼帯も、他の鋼帯と同様に、後工程を施した。
焼鈍工程における焼鈍は、露点−35〜−40℃、5〜7%H2と不活性ガスからなる雰囲気中で800〜870℃で20〜35秒保持する処理とした。なお、焼鈍処理後、鋼帯には、室温まで冷却されたのち、10〜12%硝酸と0.5%〜1.0%塩酸との混合酸水溶液(液温50〜60℃)で10〜15秒浸漬する、焼鈍工程後の酸洗工程を施し、製品鋼帯とした。
(1)引張特性
得られた製品鋼帯から、JIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
(2)化成処理性
得られた製品鋼帯から試験材を採取し、該試験材を、脱脂液(ファインクリーナー(登録商標)日本パーカライジング社製)で脱脂し、水洗したのち、表面調整液(プレパレンZ(登録商標)日本パーカライジング社製)で30秒表面調整し、ついで、液温35℃の化成処理液(パルボンドL3080(登録商標)日本パーカライジング社製)に120秒間浸漬したのち、水洗し、温風乾燥した。
(3)塗膜密着性
上記した化成処理を施された製品鋼帯試験材から試験片(大きさ:厚さ×80mm×120mm)を採取し、該試験材表面に、電着塗装(塗料:V-50ブラック)を施し、電着塗膜(厚さ25μm)を形成した。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.03〜0.20%、 Si:0.5〜1.8%、
Mn:1.5〜3.5%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.02〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱延工程と、酸洗工程と、冷延工程と、焼鈍工程と、さらに焼鈍工程後の酸洗工程と、を施して製品鋼帯とする高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法において、
前記熱延工程が、前記鋼素材に、加熱し、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延を施して熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯を、引張強さTSが700MPa以下となる、540〜640℃の範囲の巻取温度で巻き取る工程であり、
前記酸洗工程が、前記熱延鋼帯に、溶解量80〜200 g/m2とする酸洗処理を行う工程である、
ことを特徴とする、引張強さ590MPa以上を有し、冷間圧延性、化成処理性に優れ、塗膜密着性に優れた高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高Si含有高張力冷延鋼帯の製造方法。
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