JP5764018B2 - グリース組成物 - Google Patents

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本件は、転がり軸受に使用するのに好適な、優れた音響性能、低温性及び潤滑寿命を有するグリース組成物に関する。
機械部品等の潤滑剤として使用されるグリース組成物は、一般的に、増ちょう剤、基油及び添加剤の三つから構成されている。
高温で長寿命のグリースを得る手段としては、グリースの耐酸化性を向上させる必要がある。例えば、高温・高速軸受用グリース組成物として、増ちょう剤にジウレア化合物を、基油にアルキルジフェニルエーテル油を用いたグリースが、自動車電装部品、エンジン補機等用のグリースとして提案されている(特許文献1〜3)。特許文献4では、アルキルテトラフェニルエーテル油又はペンタフェニルエーテル油を主成分とする基油を用いたグリースが提案されている。
一方、良好な音響特性を得る手段としては、大部分が増ちょう剤にリチウム石けんが使用されている。このリチウム石けん系グリースの高温耐久性向上として、40℃における基油動粘度を高粘度化したグリースが提案されている(特許文献5)。しかし、基油を高粘度化すると、軸受トルク性能が劣ってしまう。
近年の機械部品の消費電力低減、省エネルギー、長寿命というニーズにより、グリースへの低トルク、長寿命の要求は従来より更に高まっており、更には汎用的に使えるよう、幅広い温度領域で性能を維持できることも求められている。
特開平03−028299号公報 特開平05−098280号公報 特開平06−017079号公報 特開平04−253796号公報 特開2008−286400号公報
本発明の目的は、転がり軸受において、低温から高温まで広い温度領域で潤滑され、軸受音響性能に優れた、長寿命を有するグリース組成物を提供することである。
本発明は、以下のグリース組成物を提供する:
1. 基油がペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油であり、増ちょう剤がリチウム石けんであり、下記(a)と(b)の酸化防止剤を質量比にして1:3〜3:1の割合で含有することを特徴とするグリース組成物:
(a)1−ナフチルアミン系酸化防止剤
(b)ジフェニルアミン系酸化防止剤。
2. 前記(a)が、アルキル化されたN−フェニル−1−ナフチルアミンであり、前記(b)が、アルキル化されたジフェニルアミンである前記1項に記載のグリース組成物。
3. 前記(a)と(b)の酸化防止剤の総量が、組成物全量の2〜10質量%である前記1または2項記載のグリース組成物。
4. 前記ペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油の40℃基油動粘度が10〜70mm2/sである前記1〜3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
5. 前記ペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油の流動点が−50℃以下である前記1〜4のいずれか1項に記載のグリース組成物。
6. 前記ペンタエリスリトールテトラエステル油が、下記式(1)で表されるペンタエリスリトールテトラエステル油である前記1〜5のいずれか1項に記載のグリース組成物。
C(CH2OCOR)4 (1)
(式中、RCOは炭素数6〜12の直鎖脂肪酸の残基又は炭素数6〜12の分岐脂肪酸の残基を表す。)
7. 前記1〜6のいずれか1項に記載のグリース組成物を封入してなる転がり軸受。
本発明のグリース組成物は、低温から高温まで広い温度領域で潤滑され、軸受音響性能に優れ、長寿命を有する。
〔基油〕
本発明のグリース組成物に使用される基油は、ペンタエリスリトールテトラエステル油を含むことが必須である。
ペンタエリスリトールテトラエステル油としては、ペンタエリスリトールと、炭素数6〜12の直鎖脂肪酸と炭素数6〜12の分岐脂肪酸との混合物とから得られるポリオールエステル系合成油が望ましい。このようなペンタエリスリトールテトラエステル油は、下記式(1)で表される:
C(CH2OCOR)4 (1)
(式中、RCOは炭素数6〜12の直鎖脂肪酸の残基又は炭素数6〜12の分岐脂肪酸の残基を表す。)
特に好ましくは、脂肪酸が、2−エチルヘキサン酸と、カプリル酸と、カプリン酸との混合物であるペンタエリスリトールテトラエステル油であることが望ましい。更に特に好ましくは、脂肪酸が、脂肪酸の全量を基準にして、2−エチルヘキサン酸51〜55質量%と、カプリル酸とカプリン酸の合計39〜49質量%(ただし、カプリル酸は30質量%以上、及びカプリン酸は5〜10質量%である)との混合物であるペンタエリスリトールテトラエステル油であることが望ましい。
基油は、上記ペンタエリスリトールテトラエステル油を単独で使用しても、その他の基油を加えて使用しても良い。ペンタエリスリトールテトラエステル油と併用する基油は特に限定されない。具体的には、ジオクチルセバケート等のジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリαオレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油;アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油;シリコーン油;フッ素化油など各種合成油基油等を使用することができる。
他の基油を含む場合、基油の全量を基準にして、ペンタエリスリトールテトラエステル油を、50質量%以上、好ましくは80〜100質量%含むのが好ましいが、ペンタエリスリトールテトラエステル油 100質量%の基油が最も好ましい。
基油の40℃の動粘度は、10〜70mm2/sであることが好ましく、20〜50mm2/sであることがより好ましい。粘度が低すぎると、十分な油膜を構成できず、疲労寿命への悪影響が懸念され、粘度が高すぎると、トルク性能への悪影響が懸念される。
低温性を考慮すると、基油の流動点は−50℃以下であることが望ましい。
〔増ちょう剤〕
本発明のグリース組成物に使用される増ちょう剤は、リチウム石けん類が好ましい。リチウム石けん類は欠点が少なく、軸受音響性能を満足出来る増ちょう剤である。更に好ましいのは、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである。これは、リチウム石けん類の中でも、軸受音響性能が最も優れ、安価であり実用性のある増ちょう剤である。
本発明のグリース組成物のちょう度は、200〜300が好適である。ちょう度が小さすぎる硬いグリースでは軸受トルクが高くなってしまい、ちょう度が大きすぎる軟らかいグリースでは、軸受からのグリース漏洩が生じ、軸受内で性能を発揮できなくなる。増ちょう剤の含有量はこのちょう度を得るのに必要な量となる。具体的には、本発明の組成物に対し、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは7〜15質量%である。
〔酸化防止剤〕
本発明に使用される酸化防止剤は、(a)1−ナフチルアミン系酸化防止剤及び(b)ジフェニルアミン系酸化防止剤の少なくとも2種を必須成分として含有する。
1−ナフチルアミン系酸化防止剤とジフェニルアミン系酸化防止剤との質量比は1:3〜3:1である。
(a)1−ナフチルアミン系酸化防止剤としては、下記式(I)で表されるものが好ましい。
Figure 0005764018
式中、R1及びR2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖又は分岐アルキル基である。
1及びR2の直鎖又は分岐アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2− メチルヘキシル、n−オクチル、i−オクチル、2−エチルヘキシル、3−メチルヘプチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、n−ノニル、i−ノニル、1−メチルオクチル、エチルヘプチル、n−デシル、1−メチルノニル、n−ウンデシル、1,1−ジメチルノニル、n−ドデシル等が挙げられる。
1は、水素原子であるのが好ましい。R2は、炭素数1〜12の分岐アルキル基であるのが好ましい。炭素数3〜10の分岐アルキル基がより好ましい。1,1,3,3-テトラメチルブチル基が特に好ましい。R1が水素原子であり、R2が1,1,3,3-テトラメチルブチル基であるのが更に特に好ましい。
1の結合位置はフェニル基の4位であるのが好ましい。R2の結合位置はナフチル基の6位であるのが好ましい。
式(I)の化合物としては、N-フェニル-1,1,3,3-テトラメチルブチルナフタレン-1-アミンが好ましい。
本発明のグリース組成物において、1−ナフチルアミン系酸化防止剤は単独で使用しても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
(b)ジフェニルアミン系酸化防止剤としては、下記式(II)で表されるものが好ましい。
Figure 0005764018
式中、R3及びR4は、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖又は分岐アルキル基である。
3及びR4の直鎖又は分岐アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2− メチルヘキシル、n−オクチル、i−オクチル、2−エチルヘキシル、3−メチルヘプチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、n−ノニル、i−ノニル、1−メチルオクチル、エチルヘプチル、n−デシル、1−メチルノニル、n−ウンデシル、1,1−ジメチルノニル、n−ドデシル等が挙げられる。
3及びR4で示されるアルキル基は、それぞれフェニル基の任意の位置に結合可能であるが、アミノ基に対してp−位であることが好ましく、さらに好ましくは、R3及びR4がi−オクチル基である、p,p’−ジオクチルジフェニルアミンであることが好ましい。
本発明のグリース組成物において、ジフェニルアミン系酸化防止剤は単独で使用しても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
前記(a)と(b)との総量は、好ましくは組成物全量の2〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%である。(a)と(b)との総量がこの範囲より少ないと、酸化防止剤の効果として十分でなく、軸受潤滑寿命が短いものとなり、この範囲より多いと、基油への溶解が悪くなり、軸受音響性能を悪くさせ、また低温性も悪くさせてしまう。
本発明のグリース組成物は、上記必須成分に加えて、必要に応じてグリース組成物に通常使用される添加剤を含むことが出来る。このような添加剤の例としては、上記(a)及び(b)以外の酸化防止剤、錆止め剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、極圧添加剤、泡消剤、抗乳化剤、油性向上剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤などが挙げられる。これらの添加量は通常0.01〜10質量%である。
本発明のグリース組成物は、転がり軸受、特に、家電機器や情報機器の小型モータ(例えば、ブラシレスモータ、ファンモータ)の転がり軸受に好適に使用することができる。
<試験グリース>
・実施例1〜4並びに比較例1〜6
下記に示す基油中で、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを混合、加熱及び溶解し、冷却してベースグリースとした。酸化防止剤の所定量を基油と混合し、ベースグリースに加えてよく混ぜ、3本ロールミルで混練して、混和ちょう度250(JIS K2220)のグリース組成物を製造した。
・比較例7
基油中でジフェニルアミンジイソシアネートにシクロヘキシルアミン及びステアリルアミンを反応させ、ベースグリースを調整した。以降、上に示した方法と同様にしてグリース組成物を製造した。
・基油
PET油A:ペンタエリスリトールと、2−エチルヘキサン酸、カプリル酸及びカプリン酸の混合物とのエステル油(40℃動粘度;34mm2/s、流動点:−52.5℃)
ジエステルB:ジオクチルセバケート(40℃動粘度;11.6mm2/s、流動点:−60℃以下)
PAO油C:ポリαオレフィン油(40℃動粘度;30mm2/s、流動点:−60℃以下)
エーテル油D:アルキルジフェニルエーテル油(40℃動粘度;34mm2/s、流動点:−35.0℃)
実施例4で使用したPET油Aとジエステル油Bとの混合油の40℃における動粘度は25.0mm2/sである。
尚、40℃における動粘度はJIS K 2220 23.に準拠して測定した。流動点は、JIS K 2269に準拠して測定した。
・酸化防止剤
酸化防止剤A:アルキル化N−フェニル−1−ナフチルアミン
(Cas No.68259−36−9)
酸化防止剤B:アルキル化ジフェニルアミン
(Cas No.68411−46−1)
酸化防止剤C:芳香族アミン
(Cas No.5285−60−9)
<試験方法>
・軸受潤滑寿命
試験方法:軸受潤滑寿命試験(ASTM D 3336準拠)。高温下での軸受寿命を評価する内輪回転の試験である。下記の条件で運転し、モータが過電流を生じるまでもしくは試験温度よりも+15℃上昇した場合に寿命と判断した。その時の時間を潤滑寿命とした。なお、比較例5〜7の軸受潤滑寿命は、軸受音響性能又は低温性が不合格のため、測定しなかった。
・軸受形式:6204金属シール
・試験温度:160℃
・回転数:10000rpm
・試験荷重:アキシャル荷重 66.7N
ラジアル荷重 66.7N
・軸受音響性能
試験方法:軸受からの発生音をアンデロンメータで計測した。
・軸受形式:608
・回転数:1800rpm
・スラスト荷重2kgf
・グリース充填量0.35ml
・試験時間:120秒
評価基準
120秒間アンデロン値が1アンデロン未満であれば、合格「○」とした。
・低温性
試験方法:低温トルク試験(JIS K 2220.18)
評価基準
起動トルク:500mNm以下、回転トルク:100mNm以下で合格「○」とした。
結果を表1及び表2に示す。
Figure 0005764018
リチウム石けん系増ちょう剤と、ペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル化反応によって得られたエステル系合成油基油(PET油A)と、所定比率で組み合わせた1−ナフチルアミン(酸化防止剤A)とジフェニルアミン(酸化防止剤B)とを含有する実施例1〜3は、いずれも軸受音響性能、低温性、軸受潤滑寿命のいずれも良好であった。
リチウム石けん系増ちょう剤と、ペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル化反応によって得られたエステル系合成油(PET油A)とジオクチルセバケート(ジエステル油B)からなる合成油基油と、所定比率で組み合わせた1−ナフチルアミン(酸化防止剤A)とジフェニルアミン(酸化防止剤B)とを含有する実施例4は、軸受音響性能、低温性、軸受潤滑寿命のいずれも良好であった。
酸化防止剤の配合量は同じであるが、実施例1とは、酸化防止剤Bを含まない点で異なる比較例1(酸化防止剤A配合)、酸化防止剤Aを含まない点で異なる比較例2(酸化防止剤B配合)は、軸受潤滑寿命に劣る結果となった。
実施例1における酸化防止剤Bの代わりに酸化防止剤Cを同量配合した比較例3(酸化防止剤C配合)、酸化防止剤Aの代わりに酸化防止剤Cを同量配合した比較例4(酸化防止剤C配合)は、軸受潤滑寿命に劣る結果となった。
実施例1と異なる基油を配合した比較例5(PAO油C配合)は、軸受音響性能に劣る結果となった。
実施例1と異なる基油を配合した比較例6(エーテル油D配合)は、低温性に劣る結果となった。
実施例1と異なる増ちょう剤を配合した比較例7(ウレア)は、軸受音響性能に劣る結果となった。
以上の結果により、本発明のグリース組成物は優れた音響性能、低温性を有し、優れた潤滑寿命を有することが明らかとなった。

Claims (6)

  1. 基油がペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油であり、前記ペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油の流動点が−50℃以下であり、増ちょう剤がリチウム石けんであり、下記(a)と(b)の酸化防止剤を質量比にして1:3〜3:1の割合で含有することを特徴とするグリース組成物:
    (a)1−ナフチルアミン系酸化防止剤
    (b)ジフェニルアミン系酸化防止剤。
  2. 基油がペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油であり、前記ペンタエリスリトールテトラエステル油が、下記式(1)で表されるペンタエリスリトールテトラエステル油であり
    C(CH 2 OCOR) 4 (1
    式中、RCOは炭素数6〜12の直鎖脂肪酸の残基又は炭素数6〜12の分岐脂肪酸の残基を表す。
    増ちょう剤がリチウム石けんであり、下記(a)と(b)の酸化防止剤を質量比にして1:3〜3:1の割合で含有することを特徴とするグリース組成物
    a)1−ナフチルアミン系酸化防止剤
    b)ジフェニルアミン系酸化防止剤
  3. 前記(a)が、アルキル化されたN−フェニル−1−ナフチルアミンであり、前記(b)が、アルキル化されたジフェニルアミンである請求項1又は2に記載のグリース組成物。
  4. 前記(a)と(b)の酸化防止剤の総量が、組成物全量の2〜10質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
  5. 前記ペンタエリスリトールテトラエステル油を含む合成油の40℃基油動粘度が10〜70mm2/sである請求項1〜のいずれか1項に記載のグリース組成物。
  6. 前記ペンタエリスリトールテトラエステル油が、下記式(1)で表されるペンタエリスリトールテトラエステル油である請求項1、3〜5のいずれか1項に記載のグリース組成物。
    C(CH2OCOR)4 (1)
    (式中、RCOは炭素数6〜12の直鎖脂肪酸の残基又は炭素数6〜12の分岐脂肪酸の残基を表す。)
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