図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力するエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えば定格電圧が200Vなどのリチウムイオン二次電池として構成されてシステムメインリレー56とインバータ41,42とを介してモータMG1,MG2と電力をやりとりする高電圧バッテリ50と、高電圧バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、各ECUや補機59などが接続された電力ライン(以下、低電圧系電力ラインという)54bに接続された例えば定格電圧が12Vなどの鉛蓄電池として構成された低電圧バッテリ58と、インバータ41,42と高電圧バッテリ50とを接続する電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)54aからの電力を降圧して低電圧系電力ライン54bに供給するDC/DCコンバータ57と、家庭用電源などの外部電源に接続されて高電圧バッテリ50を充電可能な充電器60と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという)70と、を備える。
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号、例えば、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサからのクランクポジションθcrやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサからの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサからの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブや排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサからのカムポジションθca,スロットルバルブのポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサからのスロットルポジションTP,吸気管に取り付けられたエアフローメータからの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサからの吸気温Ta,排気系に取り付けられた空燃比センサからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサからの酸素信号O2などが入力ポートを介して入力されており、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁への駆動信号やスロットルバルブのポジションを調節するスロットルモータへの駆動信号,イグナイタと一体化されたイグニッションコイルへの制御信号,吸気バルブの開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2も演算している。
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、高電圧バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、高電圧バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの端子間電圧Vbや高電圧バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた電流センサ51bからの充放電電流Ib,高電圧バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じて高電圧バッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、高電圧バッテリ50を管理するために、電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてそのときの高電圧バッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいて高電圧バッテリ50の入出力制限Win,Woutを演算したりしている。高電圧バッテリ50の入出力制限Winは、実施例では、電池温度Tbに基づく温度依存値Wintmpに高電圧バッテリ50の蓄電割合SOCに基づく入力制限用補正係数kinを乗じることにより設定するものとした。また、高電圧バッテリ50の出力制限Woutは、実施例では、電池温度Tbに基づく温度依存値Wouttmpに高電圧バッテリ50の蓄電割合SOCに基づく出力制限用補正係数koutを乗じたもの(以下、基本出力制限Woutbという)に対して必要に応じて劣化ファクターDに基づいて補正することにより設定するものとした。図2に電池温度Tbと基本値Wouttmpとの関係の一例を示し、図3に高電圧バッテリ50の蓄電割合SOCと出力制限用補正係数との関係の一例を示す。また、劣化ファクターDは、基準値Dmaxを超えたときに高電圧バッテリ50の劣化の開始が想定されるパラメータであり、実施例では、充放電電流Ibを用いて次式(1)または式(1)から得られる式(2)により演算するものとした。式(1)中、「α」および「β」は、電池温度Tbと蓄電割合SOCとに依存するパラメータであり、実験などにより定めることができる。また、式(2)中、「κ」は、パラメータα,βに基づくパラメータ即ち電池温度Tbと蓄電割合SOCとに依存するパラメータであり、実験などにより定めることができる。以下、高電圧バッテリ50の出力制限Woutの設定について説明する。
dD/dt +α・D=β・Ib (1)
D=κ・∫Ib・dt (2)
高電圧バッテリ50は、リチウムイオン二次電池として構成されているが、このリチウムイオン二次電池については、大電流による放電が継続されると、端子間電圧Vbが電池性能を十分に発揮できる電圧範囲の下限である下限電圧Vbminよりも高くても、あるタイミングから高電圧バッテリ50の劣化が開始して端子間電圧Vbが比較的急峻に低下し始める特性を有することが明らかにされている。この様子を図4に示す。また、以下、この端子間電圧Vbが比較的急峻に低下し始めるタイミングを劣化開始タイミングという。実施例では、このようなリチウムイオン二次電池の特性を考慮して、劣化開始タイミングに至ったときに、高電圧バッテリ50の劣化が開始したと想定するものとした。なお、この劣化開始タイミングは、前述の劣化ファクターDが基準値Dmaxを超えたタイミングに相当する。ところで、劣化ファクターDは、式(2)に示すように、パラメータκと充放電電流Ibの積算値との積として演算されるものであるから、高電圧バッテリ50から大電流による放電が継続して行なわれるほど大きな値となり、高電圧バッテリ50への充電が行なわれているときには徐々に小さくなっていく。このため、実施例では、この劣化ファクターDの特性を考慮して、劣化ファクターDが基準値Dmaxより小さい制限開始閾値(制御目標値)Dtag以下のときには基本出力制限Woutbを高電圧バッテリ50の出力制限Woutに設定し、劣化ファクターDが制限開始閾値Dtagより大きいときには基本出力制限Woutbと制御開始閾値Dtagと劣化ファクターDとを用いて式(3)により高電圧バッテリ50の出力制限Woutを設定するものとした。式(3)は、劣化ファクターDと制御開始閾値Dtagとの偏差を打ち消すためのフィードバック制御の式であり、式(3)中、右辺第2項の「Kp」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「Ki」は積分項のゲインである。「Kp」および「Ki」は、高電圧バッテリ50の出力制限Woutをできるだけ小さくせずに劣化ファクターDが基準値Dmaxを超えないようにすることができる値を実験などにより定めることができる。このように高電圧バッテリ50の出力制限Woutを設定することにより、劣化ファクターDが基準値Dmaxを超えないようにすることができる。即ち、劣化開始タイミングに至らないようにすることができる。こうして設定される高電圧バッテリ50の出力制限Woutの時間変化の様子の一例を図5に示す。高電圧バッテリ50の出力制限Woutは、図5に示すように、劣化ファクターDが制限開始閾値Dtag以下のときには基本出力制限Woutbが設定され、劣化ファクターDが制限開始閾値Dtagを超えた以降は劣化ファクターDが基準値Dmaxを超えないように劣化ファクターDが大きいほど小さくなる傾向に設定される。
Wout=Woutb+Kp・(Dtag-D)+Ki・∫(Dtag-D)・dt (3)
充電器60は、リレー62を介して高電圧系電力ライン54aに接続されており、電源プラグ68を介して供給される外部電源からの交流電力を直流電力に変換するAC/DCコンバータ66と、AC/DCコンバータ66からの直流電力の電圧を変換して高電圧系電力ライン54a側に供給するDC/DCコンバータ64と、を備える。
HVECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に、処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。HVECU70には、パワースイッチ80からのプッシュ信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,後述のEVモードでの走行の優先を指示するEVスイッチ89からのEVスイッチ信号EVSW,電源プラグ68の外部電源への接続を検出する接続検出センサ69からの接続検出信号などが入力ポートを介して入力されている。HVECU70からは、システムメインリレー56やリレー62への駆動信号,DC/DCコンバータ64やAC/DCコンバータ66へのスイッチング制御信号,DC/DCコンバータ57へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2との運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力と高電圧バッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共に高電圧バッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード,エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードとは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようエンジン22とモータMG1とモータMG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードとして考えることができる。ここで、エンジン運転モードは、エンジン22の運転とモータMG1,MG2の駆動とを伴うことから、ハイブリッドモード(HVモード)とも称し、モータ運転モードは、エンジン22の運転を停止した状態でモータMG2からの動力だけで走行することから、電動走行モード(EVモード)とも称する。
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作について説明する。図6は、実施例のHVECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
駆動制御ルーチンが実行されると、HVECU70は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,高電圧バッテリ50の基本出力制限Woutbや入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2のロータの回転位置θm1,θm2に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、高電圧バッテリ50の基本出力制限Woutb,入力制限Win,出力制限Woutは、それぞれ、電池温度Tbに基づく温度依存値Wouttmpに蓄電割合SOCに基づく出力制限用補正係数koutを乗じて演算されたもの,電池温度Tbに基づく温度依存値Wintmpに蓄電割合SOCに基づく入力制限用補正係数kinを乗じて演算されたもの,基本出力制限Woutbに対して必要に応じて劣化ファクターDに基づいて補正して演算されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて走行に要求される(駆動軸36に出力すべき)要求トルクTr*を設定すると共に設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数など)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算する(ステップS110)。ここで、要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとして図示しないROMに記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。要求トルク設定用マップの一例を図7に示す。
続いて、後述の始動停止用閾値設定ルーチンにより、始動用閾値Pstartおよび停止用閾値Pstopを設定する(ステップS120)。ここで、始動用閾値Pstartは、エンジン22の運転停止中においてエンジン22を始動するか否かを判定するのに用いられる閾値であり、停止用閾値Pstartは、エンジン22の運転中においてエンジン22の運転を停止するか否かを判定するのに用いられる閾値である。詳細は後述するが、始動用閾値Pstartには、高電圧バッテリ50の出力制限Wout以下の値を設定し、停止用閾値Pstopには、始動用閾値Pstartより小さな値を設定する。
次に、エンジン22が運転中であるか運転停止中であるかを判定し(ステップS130)、エンジン22が運転停止中であると判定されたときには、エンジン22の始動条件の一つとしての、走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上であるパワー起因始動条件が成立しているか否かを判定し(ステップS140)、走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart未満のとき(パワー起因始動条件が成立していないとき)には、他の始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS150)。ここで、他の始動条件としては、例えば、要求トルクTr*が始動用閾値Tstart以上であるトルク起因始動条件や、高電圧バッテリ50の蓄電割合SOCが始動用閾値Sstart以下である蓄電割合起因始動条件などを用いるものとした。実施例では、パワー起因始動条件を含む全ての始動条件が成立していないときには、EVモードでの走行を継続すると判断し、少なくとも1つの始動条件が成立しているときには、エンジン22を始動してHVモードでの走行に移行すると判断するものとした。
走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart未満であり(パワー起因始動条件が成立しておらず)且つ他の始動条件も成立していないときには、EVモードでの走行を継続すると判断し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定し(ステップS160)、要求トルクTr*をモータMG2から出力すべきトルクの仮の値としての仮トルクTm2tmpに設定し(ステップS170)、高電圧バッテリ50の入出力制限Win,WoutをモータMG2の回転数Nm2で除してモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tm2min,Tm2maxを計算し(ステップS180)、次式(4)に示すように、仮トルクTm2tmpをトルク制限Tm2min,Tm2maxで制限してモータMG2から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm2*を設定する(ステップS190)。なお、始動用閾値Pstartには高電圧バッテリ50の出力制限Wout以下の値が設定されるため、この場合、仮トルクTm2tmpはトルク制限Tm2max以下の値となる。
Tm2*=max(min(Tm2tmp,Tm2max),Tm2min) (4)
こうしてモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、設定したモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜T26のスイッチング制御を行なう。こうした制御により、EVモードで、高電圧バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*(走行用パワーPdrv*)を駆動軸36に出力して走行することができる。
ステップS140で走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上のとき(パワー起因始動条件が成立しているとき)には、パワー条件始動フラグFpoに値1を設定して(ステップS210)、エンジン22を始動し(ステップS220)、ステップS150で他の始動条件が成立しているときには、パワー条件始動フラグFpoに値1を設定せずに(値0で保持して)、エンジン22を始動する(ステップS220)。ここで、パワー条件始動フラグFpoは、エンジン22の運転停止中には値0が設定され、エンジン22の運転停止中に走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至った(パワー起因始動条件が成立した)ことによってエンジン22を始動するときに値1が設定されるフラグである。また、エンジン22の始動は、エンジン22をクランキングするためのトルクをモータMG1から出力すると共にこのトルクの出力に伴って駆動軸36に作用するトルクをキャンセルするためのトルクをモータMG2から出力することによってエンジン22をクランキングし、エンジン22の回転数Neが所定回転数(例えば1000rpm)に至ったときに燃料噴射制御や点火制御などを開始する、ことによって行なわれる。なお、このエンジン22の始動の最中も要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2の駆動制御が行なわれる。即ち、モータMG2から出力すべきトルクは、要求トルクTr*とモータMG1によってエンジン22をクランキングする際に駆動軸36に作用するトルクをキャンセルするためのトルクとの和のトルクとなる。
エンジン22を始動すると、走行用パワーPdrv*から高電圧バッテリ50が要求する充放電要求パワーPb*(高電圧バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を設定し(ステップS230)、設定した要求パワーPe*とエンジン22を効率よく動作させる動作ライン(例えば燃費動作ライン)とに基づいてエンジン22を運転すべき運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS240)。エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子とを図8に示す。図示するように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定の曲線との交点により求めることができる。
続いて、エンジン22の目標回転数Ne*とモータMG2の回転数Nm2とプラネタリギヤ30のギヤ比ρとを用いて次式(5)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算したモータMG1の目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて式(6)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS250)。式(5)は、プラネタリギヤ30の回転要素に対する力学的な関係式である。エンジン22からパワーを出力しながら走行しているときのプラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を図9に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2であるリングギヤ32の回転数Nrを示す。なお、R軸上の2つの太線矢印は、モータMG1から出力されて駆動軸36に作用するトルクと、モータMG2から出力されて駆動軸36に作用するトルクとを示す。式(5)は、この共線図を用いれば容易に導くことができる。また、式(6)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(6)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/ρ (5)
Tm1*=-ρ・Te*/(1+ρ)+k1(Nm1*-Nm1)+k2∫(Nm1*-Nm1)dt (6)
次に、次式(7)に示すように、モータMG1のトルク指令Tm1*をプラネタリギヤ30のギヤ比ρ(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)で除したものを要求トルクTr*に加えてモータMG2の仮トルクTm2tmpに設定し(ステップS260)、式(8),(9)に示すように、高電圧バッテリ50の入出力制限Win,WoutからモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)を減じた値をモータMG2の回転数Nm2で除してモータMG2のトルク制限Tm2min,Tm2maxを計算し(ステップS270)、上述の式(4)に示すように、仮トルクTm2tmpをトルク制限Tm2min,Tm2maxで制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し(ステップS280)、エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信して(ステップS290)、本ルーチンを終了する。ここで、式(7)は、図9の共線図から容易に導くことができる。また、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などの制御を行なう。こうした制御により、HVモードで、高電圧バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*(走行用パワーPdrv*)を駆動軸36に出力して走行することができる。
Tm2tmp=Tr*+Tm1*/ρ (7)
Tm2min=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (8)
Tm2max=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (9)
こうしてエンジン22からの動力を用いての走行(HVモードでの走行)を開始すると、次回に本ルーチンが実行されたときにはステップS130でエンジン22は運転中であると判定されるから、走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下であるパワー起因停止条件を含む停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS300)。ここで、停止条件としては、パワー起因停止条件の他に、例えば、要求トルクTr*が始動用閾値Tstartより小さな停止用閾値Tstop以下であるトルク起因停止条件や、高電圧バッテリ50の蓄電割合SOCが始動用閾値Sstartより大きな停止用閾値Sstop以上である蓄電割合起因停止条件などを用いるものとした。実施例では、少なくとも一つの停止条件が成立していないときには、HVモードでの走行を継続すると判断し、全ての停止条件が成立しているときには、エンジン22の運転を停止してEVモードでの走行に移行すると判断するものとした。
走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstopより大きいとき(パワー起因停止条件が成立していないとき)など少なくとも1つの停止条件が成立していないときには、エンジン22の運転を継続すべきと判断し、HVモードで駆動軸36に要求トルクTr*を出力して走行するようエンジン22の目標回転数Ne*,目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してエンジンECU24やモータECU40に送信して(ステップS230〜S290)、本ルーチンを終了する。
一方、走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下である(パワー起因停止条件が成立している)ことを含む全ての停止条件が成立しているときには、パワー条件始動フラグFpoが値1のときにはパワー条件始動フラグFpoに値0を設定し(ステップS310,S320)、エンジン22の運転を停止し(ステップS330)、EVモードで駆動軸36に要求トルクTr*を出力して走行するようモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してモータECU40に送信して(ステップS160〜S200)、本ルーチンを終了する。ステップS310,S320の処理は、パワー起因始動条件が成立したことによってエンジン22を始動して運転していたかパワー起因始動条件以外の始動条件(例えば、トルク起因始動条件や蓄電割合起因始動条件など)が成立したことによってエンジン22を始動して運転していたかに拘わらず、パワー条件始動フラグFpoを値0にする処理である。
以上、図3の駆動制御ルーチンについて説明した。次に、図10に例示する始動停止用閾値設定ルーチンにより始動用閾値Pstartや停止用閾値Pstopを設定する処理について説明する。
始動停止用閾値設定ルーチンでは、まず、前回にこの始動停止用閾値設定ルーチンを実行したときに設定した停止用閾値(前回Pstop)を高電圧バッテリ50の出力制限Woutから所定値γを減じた値(Wout−γ)と比較し(ステップS400)、前回の停止用閾値(前回Pstop)が値(Wout−γ)以上のときには、高電圧バッテリ50の出力制限Woutを始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS470)、高電圧バッテリ50の出力制限Woutから所定値γを減じた値(Wout−γ)を停止用閾値Pstopに設定して(ステップS480)、本ルーチンを終了する。ここで、所定値γは、エンジン22の始動と停止とが頻繁に生じないように始動用閾値Pstartと停止用閾値Pstopとに差を設けるために用いられるものであり、例えば、2kWや3kW,5kWなどを用いることができる。
ステップS400で前回の停止用閾値(前回Pstop)が値(Wout−γ)未満のときには、緩変化フラグFsmの値を調べる(ステップS410)。ここで、緩変化フラグFsmは、始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopを出力制限Wout,値(Wout−γ)側に増加させる際に、緩変化させないときには値0が設定され、緩変化させるときには値1が設定されるフラグである。
緩変化フラグFsmが値0のときには、高電圧バッテリ50の出力制限Woutが基本出力制限Woutbに等しいか基本出力制限Woutb未満かを判定すると共に(ステップS420)、パワー条件始動フラグFpoの値を調べる(ステップS430)。実施例では、上述したように、劣化ファクターDが基準値Dmaxより小さい制限開始閾値Dtag以下のときには基本出力制限Woutbを高電圧バッテリ50の出力制限Woutに設定し、劣化ファクターDが制限開始閾値Dtagより大きいときには基本出力制限Woutbより小さな値を高電圧バッテリ50の出力制限Woutを設定するものとしたから、ステップS420の処理は、劣化ファクターDが制限開始閾値Dtag以下か制限開始閾値Dtagより大きいかを判定する処理と同様に考えることができる。なお、高電圧バッテリ50の出力制限Woutが基本出力制限Woutbより小さいときには、出力制限Woutは、劣化ファクターDの影響により、基本出力制限Woutbに比して大きな変化率(単位時間あたりの変化量)で変化する。
高電圧バッテリ50の出力制限Woutが基本出力制限Woutbに等しいときや、パワー条件始動フラグFpoが値0のときには、高電圧バッテリ50の出力制限Woutを始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS470)、値(Wout−γ)を停止用閾値Pstopに設定して(ステップS480)、本ルーチンを終了する。
一方、高電圧バッテリ50の出力制限Woutが基本出力制限Woutb未満で、且つ、パワー条件始動フラグFpoが値1のとき(走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至った(パワー起因始動条件が成立した)ことによってエンジン22を始動して運転しているとき)には、緩変化フラグFsmに値1を設定し(ステップS440)、前回の始動用閾値(前回Pstart)に所定値ΔPを加えた値(前回Pstart+ΔP)と高電圧バッテリ50の出力制限Woutとのうち小さい方を始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS490)、前回の停止用閾値(前回Pstop)に所定値ΔPを加えた値(前回Pstop+ΔP)と値(Wout−γ)とのうち小さい方を停止用閾値Pstopに設定して(ステップS500)、本ルーチンを終了する。いま、ステップS400で前回の停止用閾値(前回Pstop)が値(Wout−γ)未満であると判定されたときを考えているから、ステップS490,S500の処理は、それぞれ、高電圧バッテリ50の出力制限Wout,値(Wout−γ)以下の範囲で、始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopを所定値ΔPだけ増加させる(出力制限Wout,値(Wout−γ)側に近づける)処理となる。ここで、所定値ΔPは、始動用閾値Pstartや停止用閾値Pstopの増加率(本ルーチン(図3の駆動制御ルーチン)の実行間隔ΔT(例えば、数msec)あたりの増加量(レート値))であり、実施例では、エンジン22の運転中に想定される高電圧バッテリ50の出力制限Woutの増加率(高電圧バッテリ50が必要に応じて充電されるときの出力制限Woutの増加率)より小さな値を定めるものとした。この所定値ΔPは、例えば、始動用閾値Pstartや停止用閾値Pstopを所定時間T(例えば、20秒や30秒,1分など)で所定値γ(例えば、2kWや3kW,5kWなど)だけ増加させるための値などを用いることができる。所定時間Tは、例えば、走行用パワーPdrv*が一定のときにエンジン22の運転の継続を所望する時間(走行用パワーPdrv*が一定のときに走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下に至るまでに要するよう所望する時間)などを用いることができる。
ステップS410で緩変化フラグFsmが値1であると判定され、パワー条件始動フラグFpoの値を調べ(ステップS450)、パワー条件始動フラグFpoが値1のときには、値(前回Pstart+ΔP)と高電圧バッテリ50の出力制限Woutとのうち小さい方を始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS490)、値(前回Pstop+ΔP)と値(Wout−γ)とのうち小さい方を停止用閾値Pstopに設定して(ステップS500)、本ルーチンを終了する。即ち、前回の停止用閾値(前回Pstop)が値(Wout−γ)より小さく且つパワー条件始動フラグFpoが値1のときには、高電圧バッテリ50の出力制限Wout,値(Wout−γ)以下の範囲で始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopを所定値ΔPずつ増加させるいわゆるレート処理を実行するのである。これにより、高電圧バッテリ50の出力制限Woutがある程度大きな変化率(始動停止用閾値設定ルーチンの実行間隔の変化量)で増加するときに、出力制限Wout,値(Wout−γ)をそれぞれ始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopに設定するものに比して、始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopの増加が緩やかなものとなる(出力制限Wout,値(Wout−γ)との差分が大きくなる)から、走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下になりにくくなり、エンジン22が停止されにくくなる(エンジン22の運転が継続されやすくなる)。この結果、エンジン22の始動と停止とが頻繁に行なわれるのを抑制することができる。
ステップS450でパワー条件始動フラグFpoが値0のときには、緩変化フラグFsmに値0に設定し(ステップS460)、高電圧バッテリ50の出力制限Woutを始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS470)、値(Wout−γ)を停止用閾値Pstopに設定して(ステップS480)、本ルーチンを終了する。
なお、実施例では、パワー起因始動条件以外の始動条件(例えば、トルク起因始動条件や蓄電割合起因始動条件など)が成立したことによってエンジン22を始動して運転しているときには、パワー条件始動フラグFpoが値0であるから、エンジン22の運転中でも、始動用閾値Pstartや停止用閾値Pstopについては緩変化させずに、高電圧バッテリ50の出力制限Woutを始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS470)、値(Wout−γ)を停止用閾値Pstopに設定する(ステップS480)、ことになる。これにより、パワー起因始動条件以外の始動条件が成立したことによってエンジン22を始動して運転しているときには、パワー起因始動条件が成立したことによってエンジン22を始動して運転しているときに比して、エンジン22の始動後に走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下になりやすくなる即ちエンジン22の運転が停止されやすくなるようにすることができる。
図11は、実施例の高電圧バッテリ50の基本出力制限Woutbや出力制限Wout,走行用パワーPdrv*,始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstop,パワー条件始動フラグFpo,緩変化フラグFsm,エンジン22の状態の時間変化の様子の一例を示す説明図であり、図12は、始動用閾値Pstartや停止用閾値Pstopを変化させる際に緩変化させない(それぞれ出力制限Wout,値(Wout−γ)を設定する)比較例の高電圧バッテリ50の基本出力制限Woutbや出力制限Wout,走行用パワーPdrv*,始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstop,パワー条件始動フラグFpo,緩変化フラグFsm,エンジン22の状態の時間変化の様子の一例を示す説明図である。なお、図11および図12中、高電圧バッテリ50の出力制限Woutは、エンジン22の運転停止中には、高電圧バッテリ50から放電が行なわれて劣化ファクターDが増加することによって減少し、エンジン22の運転中には、必要に応じて高電圧バッテリ50の充電が行なわれて劣化ファクターDが減少することによって増加する(図5参照)。また、図11および図12では、走行用パワーPdrv*は略一定である。
図12に例示するように、比較例では、高電圧バッテリ50の出力制限Woutと同一の変化率で始動用閾値Pstart(=Wout),停止用閾値Pstop(=Wout−γ)が増減することにより、エンジン22の運転停止中に走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至ってパワー条件始動フラグFpoに値1を設定してエンジン22を始動することと、エンジン22の運転中に走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下に至ってパワー条件始動フラグFpoに値0を設定してエンジン22の運転を停止することと、が比較的頻繁に行なわれている。
一方、図11に例示するように、実施例では、エンジン22の運転停止中(パワー条件始動フラグFpo,緩変化フラグFsmが共に値0のとき)に走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至ると(時刻t11)、パワー条件始動フラグFpoに値1を設定してエンジン22を始動し、出力制限Woutが基本出力制限Woutbより小さいこととパワー条件始動フラグFpoが値1であることとを条件として緩変化フラグFsmに値1を設定する。これにより、始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopをレート処理により緩やかに増加させるから、比較例に比して走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下になりにくくなり、エンジン22の運転が停止されにくくなる(時刻t11〜t12)。その後、走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下になると(時刻t12)、パワー条件始動フラグFpoに値0を設定してエンジン22の運転を停止する。そして、パワー条件始動フラグFpoが値0であることを条件として緩変化フラグFsmに値0に設定し、高電圧バッテリ50の出力制限Wout,値(Wout−γ)をそれぞれ始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopに設定する。
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の運転停止中に走行用パワーPdrv*が高電圧バッテリ50の出力制限Wout以下の始動用閾値Pstart以上に至ったときには、走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstartより小さな停止用閾値Pstop以下に至るまでエンジン22を運転しながら高電圧バッテリ50の出力制限Woutの範囲内で走行用パワーPdrv*によって走行するようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御し、エンジン22の運転中に走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下に至ったときには、走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至るまでエンジン22を運転停止した状態で高電圧バッテリ50の出力制限Woutの範囲内で走行用パワーPdrv*によって走行するようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するものにおいて、高電圧バッテリ50の出力制限Woutの増減に応じて増減し且つエンジン22の運転中に高電圧バッテリ50の出力制限Woutの増加時にはレート処理により増加するよう停止用閾値Pstopを設定するから、エンジン22の運転中に走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下になりにくくなり、エンジン22の運転が停止されにくくなるようにすることができる。この結果、エンジン22の始動と停止とが頻繁に行なわれるのを抑制することができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、始動停止用閾値設定ルーチンのステップS400で、前回の停止用閾値(前回Pstop)を値(Wout−γ)と比較するものとしたが、前回の始動用閾値(前回Pstart)を高電圧バッテリ50の出力制限Woutと比較するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、前回の停止用閾値(前回Pstop)が値(Wout−γ)より小さく且つパワー条件始動フラグFpoが値1のときには、高電圧バッテリ50の出力制限Wout,値(Wout−γ)以下の範囲で、レート処理により、始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopを増加させるものとしたが、レート処理以外の緩変化処理、例えば、なまし処理などにより、始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopを増加させるものとしてもよい。なお、なまし処理によって始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopを計算する場合、例えば、時定数τを用いて次式(10),(11)により計算することができる。
Pstart=前回Pstart・τ+Wout・(1-τ) (10)
Pstop=前回Pstop・τ+(Wout-γ)・(1-τ) (11)
実施例のハイブリッド自動車20では、前回の停止用閾値(前回Pstop)が値(Wout−γ)より小さく且つパワー条件始動フラグFpoが値1のときには、値(前回Pstart+ΔP)と高電圧バッテリ50の出力制限Woutとのうち小さい方を始動用閾値Pstartに設定すると共に、値(前回Pstop+ΔP)と値(Wout−γ)とのうち小さい方を停止用閾値Pstopに設定するものとしたが、始動用閾値Pstartについては高電圧バッテリ50の出力制限Woutを設定し、停止用閾値Pstopについては値(前回Pstop+ΔP)と値(Wout−γ)とのうち小さい方を停止用閾値Pstopに設定する、ものとしてもよい。この場合の高電圧バッテリ50の基本出力制限Woutbや出力制限Wout,走行用パワーPdrv*,始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstop,パワー条件始動フラグFpo,緩変化フラグFsm,エンジン22の状態の時間変化の様子の一例を図13に示す。この場合、停止用閾値Pstopについては実施例と同様に変化するから、実施例と同様の効果を奏することができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、緩変化フラグFsmに値1を設定した後は、パワー条件始動フラグFpoが値0となるまで緩変化フラグFsmを値0に切り替えないものとしたが、EVスイッチ89がオンとなっていることを条件として緩変化フラグFsmを値0に切り替えるものとしてもよい。この場合の始動停止用閾値設定ルーチンの一例を図14に示す。図14の始動停止用閾値設定ルーチンは、ステップS600〜S620の処理を追加した点を除いて図10の始動停止用閾値設定ルーチンと同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。図14の始動停止用閾値設定ルーチンでは、まず、EVスイッチ89からのEVスイッチ信号EVSWがオンかオフかを調べ(ステップS600)、EVスイッチ信号EVSWがオフのときには、図10の始動停止用閾値設定処理と同様にステップS400以降の処理を実行する。一方、EVスイッチ信号EVSWがオンのときには、緩変化フラグFsmの値を調べ(ステップS610)、緩変化フラグFsmが値1のときには緩変化フラグFsmに値0を設定し(ステップS620)、緩変化フラグFsmが値0のときにはステップS620の処理を実行せず、高電圧バッテリ50の出力制限Woutを始動用閾値Pstartに設定すると共に(ステップS470)、値(Wout−γ)を停止用閾値Pstopに設定して(ステップS480)、本ルーチンを終了する。したがって、HVモードでの走行中にEVスイッチ89がオンとされたときには、レート処理によって緩やかに停止用閾値Pstopを増加させるのを終了して値(Wout−γ)を停止用閾値Pstopに設定するから、エンジン22の運転が停止されやすくなるようにすることがでできる。この場合のEVスイッチ89の状態,高電圧バッテリ50の基本出力制限Woutbや出力制限Wout,走行用パワーPdrv*,始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstop,パワー条件始動フラグFpo,緩変化フラグFsm,エンジン22の状態の時間変化の様子の一例を図15に示す。この場合、時刻t11でパワー条件始動フラグFpo,緩変化フラグFsmを値0から値1に切り替えると共にエンジン22を始動してHVモードに移行した後に、EVスイッチ89がオンとされると(時刻t13)、緩変化フラグFsmを値1から値0に切り替えて、高電圧バッテリ50の出力制限Wout,値(Wout−γ)をそれぞれ始動用閾値Pstart,停止用閾値Pstopに設定する。これにより、走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下になりやすくなる即ちエンジン22の運転が停止されやすくなるようにすることができる。そして、走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下と判定されると、パワー条件始動フラグFpoを値1から値0に切り替えてエンジン22の運転を停止する。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の運転停止中に、パワー起因始動条件が成立したことによってエンジン22を始動するときにはパワー条件始動フラグFpoに値1を設定し、パワー起因始動条件以外の始動条件(例えば、トルク起因始動条件や蓄電割合起因始動条件など)が成立したことによってエンジン22を始動するときにはパワー条件始動フラグFpoに値1を設定しない(値0で保持する)ものとしたが、エンジン22を始動するときには、その始動がいずれの始動条件の成立によるものかに拘わらず、パワー条件始動フラグFpoに値1を設定するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、パワー起因始動条件以外の始動条件が成立したことによってエンジン22を始動するときにはパワー条件始動フラグFpoに値1を設定しない(値0で保持する)ものとしたが、エンジン22の運転中に走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至ったときには、パワー条件始動フラグFpoに値1を設定するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、高電圧バッテリ50の出力制限Woutは、主として、劣化ファクターDの影響(図5参照)によって変化すると考えるものとしたが、これに代えてまたは加えて、例えば、高電圧バッテリ50の蓄電割合SOC(基本出力制限Woutb)の影響(図3参照)などによって変化すると考えるものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、EVスイッチ89を備えるものとしたが、これを備えないものとしてもよい。また、実施例のハイブリッド自動車20では、充電器60を備えるものとしたが、これを備えないものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図16の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸36が接続された車軸(駆動輪38a,38bが接続された車軸)とは異なる車軸(図16における車輪39a,39bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力するものとしたが、図17の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪38a,38bに動力を出力する駆動軸36に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン22からの動力の一部を駆動軸36に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図18の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に変速機330を介してモータMGを取り付けると共にモータMGの回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。あるいは、図19の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22からの動力を変速機430を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪38a,38bが接続された車軸とは異なる車軸(図19における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。即ち、エンジンと走行用の動力を入出力する電動機とを備えるものであれば如何なるタイプのハイブリッド自動車としてもよいのである。
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータMG2が「モータ」に相当し、高電圧バッテリ50が「バッテリ」に相当し、図6の駆動制御ルーチンを実行する(図10の始動停止用閾値設定ルーチンを実行する)HVECU70とエンジンECU24とモータECU40とが「制御手段」に相当する。
ここで、「エンジン」としては、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力するエンジン22に限定されるものではなく、水素エンジンなど、走行用の動力を出力可能なものであれば如何なるタイプのエンジンであっても構わない。「モータ」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、走行用の動力を入出力可能なものであれば如何なるタイプのモータであっても構わない。「バッテリ」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、モータと電力のやりとりが可能なものであれば如何なるタイプのバッテリであっても構わない。「制御手段」としては、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40とバッテリECU52とからなる組み合わせに限定されるものではなく、単一の電子制御ユニットによって構成されるものなどとしてもよい。また、「制御手段」としては、エンジン22の運転停止中に走行用パワーPdrv*が高電圧バッテリ50の出力制限Wout以下の始動用閾値Pstart以上に至ったときには、走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstartより小さな停止用閾値Pstop以下に至るまでエンジン22を運転しながら高電圧バッテリ50の出力制限Woutの範囲内で走行用パワーPdrv*によって走行するようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御し、エンジン22の運転中に走行用パワーPdrv*が停止用閾値Pstop以下に至ったときには、走行用パワーPdrv*が始動用閾値Pstart以上に至るまでエンジン22を運転停止した状態で高電圧バッテリ50の出力制限Woutの範囲内で走行用パワーPdrv*によって走行するようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するものにおいて、高電圧バッテリ50の出力制限Woutの増減に応じて増減し且つエンジン22の運転中に高電圧バッテリ50の出力制限Woutの増加時にはレート処理により増加するよう停止用閾値Pstopを設定するものに限定されるものではなく、エンジンの運転停止中に走行に要求される走行用パワーがバッテリの出力制限以下の始動用閾値以上に至ったときには、エンジンを運転しながら出力制限の範囲内で走行用パワーによって走行するようエンジンとモータとを制御し、エンジンの運転中に走行用パワーが始動用閾値より小さな停止用閾値以下に至ったときには、エンジンを運転停止した状態で出力制限の範囲内で走行用パワーによって走行するようエンジンとモータとを制御するものにおいて、出力制限の増減に応じて増減し且つエンジンの運転中で出力制限の増加時には出力制限の変化に対して緩変化するよう停止用閾値を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。