JP5742689B2 - 電解処理装置、及び該処理装置を用いたモールドの製造方法 - Google Patents

電解処理装置、及び該処理装置を用いたモールドの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、円柱状の基材を電解液中で電解処理する電解処理装置、および該処理装置を用いてアルミニウム基材を陽極酸化しモールドを製造する方法に関する。
基材の表面を処理する方法としては、めっき等の皮膜処理や、陽極酸化等の化成処理などがある。
基材の表面を処理する際は、例えば図12に示すように、直方体状の処理槽70の下部に設置された供給管71から電解液等の処理液L’を処理槽70に供給し、多孔板72によって処理槽70内の処理液L’の流動を調整しつつ、処理槽70の上部から処理液L’をオーバーフローさせながら、円柱状の基材Aを処理槽70内の処理液L’に浸漬させて表面処理を行うのが一般的である。
また、特許文献1には、直方体状のめっき槽と、該めっき槽の四方を囲むオーバーフロー部と、該オーバーフロー部と連通するリザーブ槽と、該リザーブ槽からめっき槽へめっき液を補給するポンプとを備えためっき処理装置が開示されている。このめっき処理装置は、ポンプの液吐出部にU字状の多孔管が設けられ、該多孔管の上部にはめっき槽の内部を上下に仕切る多孔板が設置され、被めっき物(基材)は多孔板の上部に位置するように、めっき槽に収容される。
このめっき処理装置によれば、ポンプによってめっき液をめっき槽へ導入させ、多孔管の吐出口よりめっき槽上方へ吐出させることで、めっき槽内のめっき液に流動が与えられるとともに、多孔間の上部の多孔板によってめっき液の流動を均一化できるとしている。
特開2009−242878号公報
しかしながら、図12に示すような処理槽70や特許文献1に記載のめっき槽を用いて基材の表面を処理する場合、多孔板72の下側において処理液L’の流動状態に斑が生じやすかった。その結果、処理槽70の下部から上部へと移動し、オーバーフローする処理液L’の流れが乱れ、部分的に処理液L’が滞留することがあった(滞留部の発生)。滞留部が発生すると、基材Aの表面を均一に処理することが困難となる。
このような傾向は、図12に示すように、基材Aが長尺な形状の場合に起こりやすく、長手方向の長さが長くなるほど顕著であった。かかる理由は以下のように考えられる。
通常、供給管71は、処理槽70の端面からこれに対向する端面に向かって奥まで伸びている。従って、基材Aが長尺になるほど、該基材Aを収容する処理槽70の形状も長尺になり、供給管71も処理槽70の長手方向の長さに合わせて長くなる。処理液L’はポンプ73によって供給管71から処理槽70に押出されるので、ポンプ73からの距離によって処理液L’が受ける圧力が異なりやすい。供給管71が長くなるほどポンプ73から遠ざかるため、ポンプ73に近い手前側とポンプ73から離れた奥側とでは圧力差が生じやすくなる。そのため、処理液L’の流動状態に斑がより生じやすくなり、滞留部が発生しやすくなると考えられる。
また、基材Aが長くなると、該基材Aを収容する処理槽70も大きくなるため、装置が大型化になり、処理液L’の使用量も増大する。
ところで、近年、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する光学フィルムなどの物品は、反射防止効果、ロータス効果等を発現することから、その有用性が注目されている。特に、モスアイ構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から物品の材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止機能を発現することが知られている。
微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法としては、基材フィルム等の被転写体の表面に、モールドの表面に形成された微細凹凸構造を転写するインプリント法が挙げられる。
このインプリント法で用いるモールドを製造する方法としては、例えば円柱状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化し、アルミニウム基材の周面に複数の細孔(凹部)を有する陽極酸化アルミナを形成する方法が知られている。
しかし、図12に示すような処理槽70を用いて円柱状のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化した場合、処理槽70内で滞留部が発生すると、特に多孔板72の上部において処理液(電解液)L’に温度斑が生じやすくなる。基材Aの表面温度は処理液L’の温度斑に影響を受けやすく、処理液L’に温度斑が生じると、基材Aの表面も温度斑が生じやすくなる。
陽極酸化によって基材表面に形成される細孔の深さは、処理中の温度に影響を受けやすい。従って、電解液や基材表面に温度斑が生じると、場所によって細孔の深さにバラツキがあるモールドが得られる場合がある。こうしたモールドを用い、該モールドの表面に形成された微細凹凸構造をインプリント法にて転写すると、場所によって凸部の高さにバラツキがある、すなわち、反射率にバラツキがある物品となってしまう。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、長尺な基材を処理する場合でも電解液の滞留を防止し、さらに電解液の使用量も抑制できる電解処理装置、およびこの電解処理装置に好適に用いられる処理槽の提供を目的とする。
また、本発明の電解処理装置は、円柱状の基材を電解液中で電解処理する電解処理装置において、電解液を収容し、前記基材が浸漬する長尺な処理槽本体、処理槽本体に電解液を供給する電解液供給部、および処理槽本体から電解液を排出するオーバーフロー部を備えた処理槽と、前記処理槽本体に浸漬された電極板とを具備し、前記処理槽本体の底部の内面は円弧状に湾曲し、前記電解液供給部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の一方の側面上方に設けられ、前記オーバーフロー部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の他方の側面上部に設けられていることを特徴とする
または、前記電極板は、前記処理槽本体に浸漬された基材を介して、前記オーバーフロー部に対向する位置にのみ配置されてもよく、該電極板の電解液に接触している面積と、前記基材の電解液に接触している面積との比が1:1以下であることが好ましい。
さらに、前記基材の中心軸を回転中心として、該基材を回転させる回転手段を具備することが好ましい。
また、前記回転手段は、電解液供給部から供給された電解液がオーバーフロー部へ流れる方向とは反対方向に、前記基材を回転させることが好ましい。
さらに、前記電解液を加熱または冷却して電解液の温度を調節し、電解処理直前および電解処理中には電解液を冷却する温度調節手段をさらに具備することが好ましい
また、本発明のモールドの製造方法は、上述の電解処理装置を用いて、アルミニウム基材を陽極酸化処理してモールドを製造することを特徴とする。
本発明の処理槽は、長尺な基材を処理する場合でも電解液の滞留を防止し、さらに電解液の使用量も抑制できる電解処理装置の処理槽として好適である。
また、本発明の電解処理装置は、長尺な基材を処理する場合でも電解液の滞留を防止し、さらに電解液の使用量も抑制できる。
本発明の処理槽の一例を示す側面図である。 図1のI−I’線に沿う断面図である。 処理槽の電解液供給部と基材の位置関係を説明する断面図である。 オーバーフロー部の他の例を示す側面図である。 本発明の処理槽の他の例を示す断面図である。 本発明の電解処理装置の一例を示す断面図である。 (a)は図6のII−II’線に沿う断面図であり、(b)は図6示す電解処理装置に備わる処理槽と電極板の斜視図である。 電解処理装置に備わる電極版の他の例を示す断面図である。 陽極酸化アルミナの細孔の形成過程を示す断面図である。 実施例1および比較例1において電解処理した時間と、処理槽壁面付近の数点での電解液の上昇温度との関係を示すグラフである。 実施例1および比較例1において電解処理した時間と、基材表面の長手方向の数点での電解液の最大温度差との関係を示すグラフである。 従来の処理装置の一例を示す図であり、(a)側面図であり、(b)は(a)のIII−III’線に沿う断面図である。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[処理槽]
本発明の処理槽は、円柱状の基材を電解液中で電解処理するためのものである。
図1は、本実施形態に係る処理槽10の一例を示す図であり、後述する電解液供給部側から見た側面図である。図2は、図1のI−I’線に沿う断面図である。
なお、図2には、図1に示す処理槽10を収容する外槽40を追加した。
また、本発明において、電解処理の対象となる基材の形状は円柱状であるが、図1,2に示すような中空状(円筒状)でもよいし、中空状でなくてもよい。本発明において、円柱状とは、円筒形状などの形状を含めて、全体としての形状が略円柱状のものをいう。
図1,2に示す処理槽10は、電解液Lを収容し、中空円柱状の基材Aが浸漬する長尺な処理槽本体11と、処理槽本体11に電解液Lを供給する電解液供給部12と、処理槽本体11から電解液Lを排出するオーバーフロー部13とを備えて構成されている。なお、本発明において長尺とは、上面視にて処理槽本体の短辺方向の長さよりも、処理槽本体の長辺方向が長いような形状を指し、例えば上面視にて略矩形形状のものが挙げられる。
この処理槽10は、図2に示すように外槽40に収容されている。
<処理槽本体>
処理槽本体11は、電解液Lを収容するものであり、該電解液L中に基材Aが浸漬する。
この例の処理槽本体11の底部11aの内面11a’は、処理槽本体11に浸漬された基材Aの周面(外周面)A’に沿うように、円弧状に湾曲している。底部11aの内面11a’が円弧状に湾曲していることで、後述する電解液供給部12から供給された電解液Lがオーバーフロー部13へとスムーズに流動できる。
なお、本発明において「円弧状」は真円状に限定されない。また、本発明において「湾曲している」とは、処理槽本体の底部の内面が、該処理槽本体の外側に突出するように湾曲していることである。
底部11aの内面11a’の形状としては、半円形状、半楕円形状など、屈曲点がなく滑らかに一方向に沿って曲げられた形状が好ましいが、中でも、半円形状がより好ましい。底部11aの内面11a’の形状が半円形状であれば、電解液供給部12から供給された電解液Lが底部11aの内面11a’をよりスムーズな流れを保ったままオーバーフロー部13へ流れる。
処理槽本体11の材質については、電解液Lによって腐食しにくいものであれば特に制限されず、例えばステンレス、ポリ塩化ビニル(PVC)などが挙げられる。
処理槽本体11の大きさについては、基材Aを収容できる大きさであれば特に制限されないが、例えば図2に示すように基材Aを処理槽本体11内に配置したときに、基材Aの外周面A’と底部11aの内面11a’との間に空隙Sが形成される大きさである。具体的には、基材Aの中心軸Pから底部11aの内面11a’までの距離Dが、基材Aの半径(r)の1.25〜2倍であることが好ましい。
なお、底部11aの内面11a’の形状が半円形状の場合は、この半円の直径上の中心と基材Aの中心軸Pとが重なるように、基材Aを処理槽本体11内に配置するのが好ましい。
ところで、上述したように、基材を陽極酸化して周面に細孔を形成させる場合、細孔の深さは電解液や基材表面(外周面)の温度斑に影響を受けやすいため、温度斑を軽減する必要がある。
電解液や基材表面の温度斑は、主に電解液が処理槽内で滞留することで生じるが、基材と処理槽の内面の間隔が狭いと温度斑が生じる場合がある。これは、陽極酸化を行うと発熱により処理槽が加熱されやすく、この処理槽の熱によって処理槽近傍の基材表面が直接かつ不均一に温められ、温度斑が生じるものと考えられる。この傾向は、基材と処理槽の内面との距離が近いほど起こりやすいと考えられる。
しかし、基材Aの中心軸Pから底部11aの内面11a’までの距離Dが、基材Aの半径(r)の1.25倍以上であれば、基材Aの外周面A’と処理槽本体11の底部11aの内面11a’との間に十分な隙間が形成される。よって、基材Aと処理槽本体11の間に位置する電解液Lが緩衝材の役割を十分に果たすことができるので、陽極酸化時の発熱により処理槽本体11が加熱されても、基材Aが処理槽本体11によって直接温められるのを抑制できる。従って、基材Aの外周面A’の温度斑をより効果的に防止でき、深さのバラツキが抑えられた細孔を基材の外周面に形成できる。
なお、距離Dは、基材Aの半径(r)の2倍以下であることが好ましい。距離Dが基材Aの半径(r)の2倍を超えても、温度斑の防止効果は頭打ちとなるばかりか、処理槽本体11が大型となるため、電解液Lの使用量が多くなる。
<電解液供給部>
電解液供給部12は、処理槽本体11に電解液Lを供給するものであり、図1に示すように、処理槽本体11の長手方向に沿うように、処理槽本体11の一方の側面11b上方に設けられている。これにより、処理槽本体11の上方から供給された電解液Lは、この処理槽本体11の内面形状に沿って後述するオーバーフロー部13へとスムーズに移動できる。よって、電解液Lが部分的に滞留するのを防止できる。
図示例の電解液供給部12は、供給管12aと、該供給管12aに接続された、長尺な吐出部12bとで構成される。
供給管12a内には、ポンプ(図示略)等によって電解液が送り込まれる。そして、供給管12a内に充満した電解液が、供給管12aの吐出口121aから吐出部12bに供給される。
吐出口121aは、供給管12aの長手方向に沿って連続的(スリット状)に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。
吐出部12bの先端は処理槽本体11に収容された電解液Lに浸漬しており、吐出部12bの吐出口121bから電解液Lが処理槽本体11に供給される。
吐出口121bは、吐出部12bの長手方向に沿って連続的に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。
図1に示すように、吐出部12bの長手方向の長さ(幅)W12bは長尺な基材Aの長手方向の長さ(幅)Wによって選定され、吐出部12bの長さW12bは基材Aの長さWと同じか、基材Aの長さWの95%以上ほどの長さであることが好ましい。吐出部12bの長さW12bが基材Aの長さWに対して短すぎると、吐出部12bから供給された電解液Lの流れが基材Aの長手方向に対して不均一となり、流れが強い箇所と弱い箇所では電解処理時に基材Aの冷却斑に繋がり、温度斑が発生する原因になる。その結果、例えば基材Aを陽極酸化する場合には、基材Aの表面に形成される酸化皮膜に斑が生じることとなる。
なお、基材Aの長手方向における電解液の流れが均一であれば、吐出部12bの長さW12bは長くする必要はない。
電解液供給部12は、図3(a),(b)に示すように、吐出部12bの吐出口121bの延長線上に基材Aが位置しないように、処理槽本体11の一方の側面上方に設けられるのが好ましい。これにより、吐出部12bの吐出口121bから吐出された電解液Lが、吐出時の流速を保った状態で処理槽本体11の底部11aを通過し、効率よくオーバーフロー部13へと流れるため、循環効率が向上する。
なお、図3(c)に示すように、吐出部12bの吐出口121bの延長線上に基材Aが位置していると、吐出部12bから吐出された電解液Lが基材Aの表面に当たり、該基材Aの表面付近で滞留が発生してしまい、循環効率が低下し、処理槽内の温度斑が発生しやすくなる傾向にある。
ここで、図3においては外槽40を省略した。
吐出部12bから吐出された電解液Lが、処理槽本体11の長手方向に対して均一な流動状態を保つためには、電解液供給部12内の正圧を保てるような構造にすればよく、これにより処理槽本体11の長手方向に対して電解液Lの均一な流れが形成できる。正圧を保つには供給管12aの吐出口121aの開口面積が吐出部12bの吐出口121bの開口面積より大きくなるように設ければよい。
供給管12aおよび吐出部12bの材質については、電解液Lによって腐食しにくいものであれば特に制限されず、例えばステンレス、ポリ塩化ビニル(PVC)などが挙げられる。
<オーバーフロー部>
図2、3に示すオーバーフロー部13は、処理槽本体11から溢れる電解液Lを処理槽本体11の外へ排出するものであり、処理槽本体11の長手方向に沿うように、処理槽本体11の他方の側面11c上部に設けられている。
図示例のオーバーフロー部13は、処理槽本体11の一方の側面11bと他方の側面11cの高さを異ならせる、具体的には他方の側面11cを一方の側面11bよりも低くすることで形成されている。
<作用効果>
以上説明した本発明の処理槽10は、電解液Lを処理槽本体11の一方の側面11b上方から供給し、他方の側面11cの上部から排出する。このとき、処理槽本体11の底部11aの内面11a’が円弧状に湾曲しているため、電解液Lが滞留することなくスムーズにオーバーフロー部13へと移動できる。
なお、電解液供給部12へ電解液Lを送り込む際はポンプ(図示略)等を用いるが、電解液Lは重力に従って電解液供給部12から送り出される。従って、本発明の処理槽10は、図12に示す従来の処理槽70のように、この処理槽70の下部に設けられた供給管71から、ポンプ73によって電解液L’を処理槽70の上方へ(すなわち、重力に逆らって)吐出させる場合に比べて、ポンプの圧力の影響を受けにくい。そのため、電解処理する基材Aが長くなり、処理槽本体11の長手方向の長さや電解液供給部12が長くなっても、電解液供給部12の両端において、ポンプから受ける電解液の圧力差が小さい。
従って、本発明の処理槽10を用いれば、処理槽本体11内において電解液Lが部分的に滞留するのを防止できるので、基材Aの外周面A’を均一に電解処理できる。特に、吐出部12bの吐出口121bの延長線上に基材Aが位置しないように、電解液供給部12を処理槽本体11の一方の側面上方に設ければ循環効率が向上し、基材Aの外周面A’をより均一に電解処理できる。
特に、アルミニウム基材を陽極酸化処理する場合は、電解液や基材表面の温度斑を抑制することが重要となるが、本発明の処理槽10を用いれば、処理槽本体11内での電解液Lの滞留部が発生しにくいので、温度斑が生じにくい。よって、基材Aの外周面A’に形成される細孔の深さのバラツキが抑えられる。
また、本発明の処理槽10は、処理槽本体11の底部11aの内面11a’が円弧状に湾曲しているので、図12に示すような直方体状の処理槽70に比べて容積を縮小できる。よって、電解液の使用量も抑制できる。
なお、本発明の処理槽10を用いれば、電解液Lがスムーズに処理槽本体11内を流動するので、多孔板などの流動を調整する部材を設ける必要がない。
<他の実施形態>
本発明の処理槽は図1,2に示す処理槽10に限定されない。例えば図1,2に示す処理槽10の電解液供給部12は一重の供給管12aと吐出部12bから構成されているが、供給管12aは多重管でもよい。また、処理槽本体11の長手方向に均一に電解液Lを供給できる形状であれば、電解液供給部12は管状の構造であってもよい。
また、図1,2の処理槽10は、オーバーフロー部13が処理槽本体11の他方の側面11cを一方の側面11bよりも低くすることで形成されているが、例えば図4に示すように、他方の側面11cに、処理槽本体11の長手方向に伸びる孔13’を設け、これをオーバーフロー部13としてもよい。ただし、この場合は、処理槽本体11に浸漬される基材Aよりも高い位置に孔13’を設けるのが好ましい。
孔13’は図4に示すように連続的でもよいし、断続的でもよい。
なお、図4においては処理槽本体11と孔13’と基材Aのみを示し、電解液供給部は省略した。
ところで、電解液供給部12から供給された電解液Lは、処理槽本体11の底部11aを通過してオーバーフロー部13へと流れて処理槽本体11の外へ排出されるが、このとき、電解液Lの一部がオーバーフロー部13へと向わずに処理槽本体11の液面を流れて電解液供給部12側へと戻ることがあり、処理槽本体11内に滞留して温度斑が発生する場合がある。
そのような場合には、図5に示すように、電解液Lが電解液供給部12側へと戻る流れを抑制するための邪魔板15をオーバーフロー部13近傍に設置するのが好ましい。電解液Lが電解液供給部12側へと戻るときは、主に処理槽本体11の液面近傍を流れるため、邪魔板15は液面から20〜30mm程度浸漬させればよい。
邪魔板15の材質は電解液Lによって腐食しにくいもので、かつ電解液Lの流れで邪魔板が変形しないような多少の剛性を有することが好ましく、例えばステンレスやポリ塩化ビニル(PVC)などが挙げられる。
なお、図5においては外槽40を省略した。
[電解処理装置]
本発明の電解処理装置は、円柱状の基材を電解液中で電解処理する装置である。
図6は、本実施形態に係る電解処理装置1の一例を示す側断面図であり、図7(a)は図6のII−II’線に沿う断面図であり、図7(b)は図6示す電解処理装置に備わる処理槽10と電極板20の斜視図である。
この例の電解処理装置1は、電解液Lで満たされた処理槽10と、この処理槽10の処理槽本体11に浸漬された基材Aを挟むように配置された電極板20と、基材Aの中心軸を回転中心として、基材Aを回転させる回転手段30と、処理槽10を収容し、処理槽10からオーバーフローした電解液Lを受けるための外槽40と、電解液Lを一旦貯留する貯留槽50と、外槽40で受けた電解液Lを貯留槽50へ流下させる流下流路41と、貯留槽50の電解液Lを処理槽10の電解液供給部12へ返送する返送流路51と、返送流路51の途中に設けられたポンプ52とを備えている。
以下、本発明の電解処理装置1を陽極酸化処理装置として用いる場合を例にとり、具体的に説明する。
電解処理装置1には、上述した本発明の処理槽10が備えられており、図7(a),(b)に示すように、電極板20は、この処理槽10の処理槽本体11の底部11aの内面11a’形状に沿うように湾曲した形状となっている。電極板20が湾曲した形状であることにより、電解液Lの流動が妨げられにくくなるため、電解液Lが滞留することなく、よりスムーズにオーバーフロー部13へと移動できる。
なお、図7(a)においては外槽40を省略した。また、図7(b)においては処理槽10の処理槽本体11およびオーバーフロー部13と、電極板20と、基材Aのみを示し、これ以外の電解処理装置1の構成部材は省略した。
処理槽本体11の端面11d,11eは、図7(b)に示すように、U字状になっている。従って、端面11d,11eから電解液が漏れないように、端面11d,11eにはその形状に合わせた封止材(図示略)が取り付けられる。
さらに、端面11d,11eの下部側には、図6,図7(a)に示すように、回転手段30として、水平方向に軸方向を沿わせて基材Aを支持する支持軸31が設けられている。
支持軸31は、図6,図7(a)に示すように処理槽本体11の端面11d,11eにそれぞれ水平方向に並んで一対設けられ、各支持軸31は、処理槽本体11の端面11d,11eを貫通し、これら処理槽本体11の端面11d,11eに対して回転可能に支持されている。
各支持軸31の処理槽本体11内の端部には、樹脂材料からなる円筒状の弾性部材32が挿通して設けられ、基材Aはその両端部外周面を各弾性部材32の上に載置されるようにして、支持軸31上に支持されている。各支持軸31は、例えばモータ等の回転駆動部(図示略)と接続されており、この回転駆動部によって各支持軸31が同一方向に回転されることで、この電解処理装置1では弾性部材32と接触した基材Aが回転するようになっている。
特に、回転手段30は、図7(a)に示すように、処理槽10の電解液供給部12から処理槽本体11へ供給された電解液Lが、オーバーフロー部13へ流れる方向とは反対方向に、基材Aを回転させるのが好ましい。電解液Lの流れる方向と基材Aの回転方向が反対になることで、基材Aに対する表面付近での電解液Lの流れは相対的に速くなり、電解処理時に基材Aから発生した熱の移動が効率よく行える。電解液Lの流れる方向と基材Aの回転方向が同じである場合、基材A表面付近での電解液Lの流れは相対的に遅く、速度が無い状態では熱の移動が悪いため、処理槽10全体での電解液Lの温度上昇に繋がってしまう。
支持軸31の上方には、水平方向に軸方向を沿わせた通電用シャフト33が、端面11d,11eに取り付けられた封止材14を貫通して設けられ、この通電用シャフト33は外槽40も貫通して外側に露出する。通電用シャフト33は導電性を有する材料からなり、端面11d,11eに取り付けられた封止材それぞれに回転可能に支持されている。なお、通電用シャフト33は全体が導電性を有する材料からなっていなくてもよく、後述の通電部材34を介して基材Aに電流を印加可能とされていればよい。具体的には、通電用シャフト33の外部が絶縁物質によりコーティングされた構成であってよく、端面11d,11eに取り付けられた封止材に接触する部位に耐摩耗性に優れるコーティング等が施されても構わない。
各通電用シャフト33の処理槽本体11内の端部には、円盤状の通電部材34が一体に設けられている。通電部材34は、中空円柱状の基材Aの両端面に面接触する。ここで、電極板20と、通電用シャフト33とには、電源21が電気的に接続され、電流が印可可能とされている。
通電部材34は、通電用シャフト33あるいは基材Aの軸方向にエアシリンダ等の進退動を行う駆動部(図示略)によって、進退動ができるように設置されている。基材Aを支持軸31に設置した後、基材Aの軸方向の両側から、通電部材34を基材Aの両端面に接触させることで通電可能となる。なお、図6に示した例においては、基材Aの両端面に通電部材34を設けたが、通電部材34を基材Aの一方の端面にだけ設け、他方を押さえ部材としてもよい。また、通電部材34は、厳密に基材Aの端面において基材Aと接触する必要はなく、基材Aの内周面等他の位置において基材Aと接触する構成であっても構わない。
通電用シャフト33は処理槽10および外槽40を貫通して進退動を行うため、通電用シャフト33と処理槽10および外槽40との間には、通電用シャフト33を回転可能及び軸方に移動可能に支持する滑り軸受け35が設けられている。
図示例の基材Aの両端部の内径側角部は面取りされ、基材Aの両端面の一部には、テーパ面aが形成される一方、通電部材34の外径側角部は面取りされ、基材Aのテーパ面aに面接触するテーパ面34aが形成され、両者の傾斜は同一勾配を設定されていることが好ましい。基材Aのテーパ面aと、通電部材34のテーパ面34aとを面接触させることにより、両者は電気的に緊密に接触することができ、かつ基材A若しくは通電部材34側が回転した場合に、接触させた抵抗により回転を伝達することができ、同期させて回転させることができる。
このような構造とすることにより、接触面積が大きく、また、回転した際の滑りの影響や摩耗の影響も軽減されるため、安定した電流供給が可能となる。
また、通電部材34が接続された通電用シャフト33は、基材Aと同期して回転するため、通電用シャフト33と電源21は回転給電可能なコネクタ(図示略)にて電気的に接触(接続)されている。回転給電可能なコネクタとしてロータリーコネクタ、スリップリング等があるが、ロータリーコネクタが回転時の電流安定性がよく好ましい。また、通電部材34を基材Aの一端面にのみ面接触させて、通電を行うようにしてもよい。
外槽40は処理槽10を収容するものであり、図2,6に示すように、処理槽10内の電解液Lはオーバーフロー部13から排出され、外槽40へと流れる。外槽40で受けた電解液Lは、流下流路41を通って貯留槽50へ流下する。
貯留槽50には電解液Lを加熱または冷却して電解液Lの温度を調節し、電解処理直前および電解処理中には電解液Lを冷却する温度調節手段53が設けられている。この例の温度調節手段53は、電解液Lを冷却する熱交換器53aと、電解液Lを加熱するヒータ53bとからなり、貯留槽50内で調温された電解液Lは、ポンプ52によって返送流路51を通って処理槽10の電解液供給部12から、処理槽本体11へ返送される。
なお、熱交換器53aとしては水、オイル等を熱媒とした熱交換器等が挙げられ、ヒータ53bとしては電気ヒータ等が挙げられる。どちらも電解液Lに浸漬させていても腐食などの問題が生じないよう、コーティングされたものが好ましい。
<作用効果>
以上説明した本発明の電解処理装置1は、本発明の処理槽10を備える。よって、処理槽10の処理槽本体11内で電解液Lが滞留しにくい。
なお、貯留槽50から電解液Lを電解液供給部12へ返送する際はポンプ52を用いるが、電解液Lは重力に従って電解液供給部12から処理槽本体11へ送り出される。従って、本発明の電解処理装置1は、図12に示す従来の処理槽70のように、この処理槽70の下部に設けられた供給管71から、ポンプ73によって電解液L’を処理槽70の上方へ(すなわち、重力に逆らって)吐出させる場合に比べて、ポンプの圧力の影響を受けにくい。そのため、電解処理する基材Aが長くなり、処理槽本体11の長手方向の長さや電解液供給部12が長くなっても、電解液供給部12の両端において、ポンプから受ける電解液の圧力差が小さい。
従って、本発明の電解処理装置1であれば、処理槽10の処理槽本体11内において電解液Lが部分的に滞留するのを防止できるので、基材Aの外周面を均一に電解処理できる。
特に、アルミニウム基材を陽極酸化処理する場合は、電解液や基材表面の温度斑を抑制することが重要となるが、本発明の電解処理装置1であれば、処理槽本体11内での電解液Lの滞留部が発生しにくいので、温度斑が生じにくい。よって、基材Aの外周面に形成される細孔の深さのバラツキが抑えられる。
また、本発明の電解処理装置1は、処理槽本体11の底部が円弧状に湾曲しているので、図12に示すような直方体状の処理槽70に比べて容積を縮小できる。よって、電解液の使用量も抑制できる。
なお、本発明の電解処理装置1であれば、電解液Lがスムーズに処理槽本体11内を流動するので、多孔板などの流動を調整する部材を処理槽10内に設ける必要がない。
<他の実施形態>
本発明の電解処理装置は図6,7に示す電解処理装置1に限定されない。例えば図6,7に示す電解処理装置1では、電極板20が基材Aを挟むように配置され、かつ処理槽本体11の底部11aの内面形状に沿うように湾曲しているが、例えば図8に示すように、電極板20は前記処理槽本体11に浸漬された基材Aを介して、オーバーフロー部13に対向する位置にのみ配置されていてもよい。このとき、電極板20の電解液Lに接触している面積(接触面積)と、基材Aの電解液Lに接触している面積(処理面積)との比(接触面積:処理面積)が1:1以下となるように、電極板20が処理槽本体11中の電解液Lに浸漬されるのが好ましい。
電解処理時に基材Aと電極板20に流れる電流値は、基材Aの処理面積と電極板20の接触面積の比に比例する。電極板20の接触面積が基材Aの処理面積より大きいほど電流がより流れる。電流が多く流れると処理槽10内に発生するジュール熱(電流×電圧)が大きくなり、発熱量が増えてしまう。そのため、除熱するための装置の冷却能力が増大する。処理槽10内を均一な温度に保つのであれば、発生するジュール熱は低い方が好ましい。
電極板20の接触面積は基材Aの処理面積より小さくても問題ないが、小さくしすぎても最終的な電流値は基材Aの処理面積によって決まるため、電極板20を小さくしても電流値抑制の効果は頭打ちになる。そのため、流れる電流量を抑えるためには電極板20の接触面積と基材Aの処理面積との比は1:1以下が好ましい。
また、図8に示す電極板20のような形状であると、図6,7に示す電極板20のように湾曲させる必要がないため、加工性が格段に良くなる。加えて、処理槽本体11の底部11aにおいて電解液Lがより流れやすくなるため、電解液Lの更新性がより高まる。
なお、図8においては外槽40を省略した。
また、図6,7に示す電解処理装置1は、基材Aを回転させる回転手段30として支持軸31を備えているが、通電部材34に接続された通電用シャフト33を回転手段としてもよい。その場合、支持軸31は上記で説明した回転駆動部に接続せず、基材Aと同期して回転できるような構造になっていればよい。
さらに、通電部材34は、上述したように全体が導電性を有する材料から構成されている必要はなく、基材Aと通電用シャフト33とを電気的に接続可能な構成とされていればよい。具体的には、通電部材34のテーパ面34aと、通電用シャフト33とを電気的に接続する部分以外が絶縁物質によりコーティングされた構成であっても構わない。また、テーパ面34aについても、安定的に基材Aと通電部材34とを電気的に接続可能であれば、その表面の一部が導電性物質以外からなっても構わない。
また、上述した実施形態では、基材Aの両端部の内径側角部を面取りして、テーパ面aを形成し、通電部材34の外径側角部を面取りして、テーパ面34aを形成したが、基材Aの両端部の外径側角部を面取りし、通電部材34の内径側角部を面取りしてテーパ面を形成してもよい。
さらに、それぞれの通電部材34に形成されるテーパ面34aは、同一の形状である必要はなく、異なる形状であっても構わない。また、テーパ面34aは、通電部材34の少なくとも一方に形成される構成であっても構わない。
<用途>
本発明の電解処理装置は、陽極酸化等の化成処理や、めっき等の皮膜処理など、基材の表面を電解処理する装置として用いることができるが、特にアルミニウム基材を陽極酸化する陽極酸化処理装置として好適である。
以下、本発明の電解処理装置を用い、アルミニウム基材を陽極酸化してモールドを製造する方法の一例について説明する。
まず、図6,7に示すように、基材Aとしてアルミニウム基材を支持軸31の上に設置する。この際、図2に示すように、基材Aの外周面A’と処理槽本体11の底部11aの内面11a’との間に空隙Sが形成されるように、基材Aを支持軸31上に設置する。具体的には、基材Aの中心軸Pから底部11aの内面11a’までの距離Dが、基材Aの半径(r)の1.25〜2倍となるように、基材Aを設置するのが好ましい。
なお、底部11aの内面11a’の形状が半円形状の場合は、この半円の直径上の中心と基材Aの中心軸Pとが重なるように、基材Aを設置するのが好ましい。
その後、前後移動を行う上記駆動部(図示略)を用いて通電用シャフト33を両側から同時に動かして、通電部材34を基材Aに接触させる。なお、通電部材34に基材Aを接触させてから電解液Lを処理槽本体11に供給してもよいし、処理槽本体11に電解液Lが入っている状態で、通電部材34を基材Aに接触させても構わない。通電部材34と基材Aが接触した状態で上記回転駆動部(図示略)を駆動させて、支持軸31を回転させて基材Aを回転させる。
基材Aを回転させながら通電用シャフト33、通電部材34を介して、陽極となる基材Aと陰極となる電極板20に電圧を印加し、基材Aの陽極酸化を行う。
基材Aに通電部材34を接触させる際、接触させる為の押し圧は0.2MPa以上が好ましい。回転時に接触させたテーパ面で滑りが発生することや、緊密に接触しきれていないために安定した電流供給に影響がある。しかし、押し圧があまりに大きいと基材Aの歪の原因になったり、回転が伝達できず止まったりすることもあるため、ワーク形状と回転駆動源の仕様により適宜選択を行う必要がある。
基材Aの陽極酸化を行う間は、基材Aを回転させながら、処理槽本体11から電解液Lの一部を排出しつつ、処理槽本体11に同量の電解液を供給する。具体的には、処理槽10のオーバーフロー部13において処理槽本体11から外槽40へと電解液Lを排出させ、排出した電解液Lを外槽40から貯留槽50に流下させ、電解液Lの温度を貯留槽50で調節した後、該電解液Lを、処理槽本体11の長手方向に沿うように、一方の側面上方に設けられた電解液供給部12に返送し、この電解液供給部12から処理槽本体11内に供給する。
このとき、処理槽本体11の底部11aの内面11a’が円弧状に湾曲しているため、電解液Lのほぼ均一な流れが形成され、電解液Lが滞留することなくスムーズにオーバーフロー部13へと移動できる。
なお、電界液Lの流れる方向とは反対方向に基材Aを回転させるのが好ましい。
電解液供給部12から処理槽本体11への電解液Lの供給量は、処理槽本体11の容積に対して、循環回数が3分に1回以上が好ましい。そうすることで、処理槽本体11は頻繁な液更新を行うことができ、除熱、発生した水素除去を効率よく行える。
基材Aの回転数は、3rpm以上が好ましい。基材Aの回転数が3rpm以上であれば、基材Aの周囲における電解液Lの濃度や温度のムラがより効果的に抑えられる。駆動装置の能力の点から、基材Aの回転数は、10rpm以下が好ましい。
なお、電解液Lの温度調節は上述したように貯留槽50内で行われるが、具体的には、電解液Lを冷却する熱交換器53aと電解液Lを加熱するヒータ53bをそれぞれ制御することで、電解液Lを温度調節している。制御の方法としてはフィードバック型のPID制御などがある。
ここで、「PID制御」とは、制御対象の出力値と目標との偏差量を用い、比例制御、積分制御、微分制御の3つの制御を組み合わせることにより、出力値が短時間で目標値に到達するように調整する方法のことである。
基材Aを処理槽10に投入する前の電解液Lの温度調節は、冷却と加熱の両方を制御して行えばよいが、電解処理が始まると、処理槽本体11内に流れた電流によるジュール熱や電解処理による反応熱によって電解液Lは発熱する。その際、処理槽本体11内の温度上昇、若しくは処理槽本体11から送られた電解液Lによる貯留槽50の温度上昇を確認して、貯留槽50内ではPID制御を行い、電解液Lを冷却して所望の温度に保とうとする。
しかし、処理槽本体11内が発熱し、貯留槽50で調温された電解液Lが処理槽本体11に届くまではタイムラグが発生してしまい、その間に処理槽本体11内では不要な温度上昇が発生し、基材Aの表面に形成する酸化皮膜の生成速度が変わり、均一な電解処理が行えなくなる場合がある。
そこで、不要な温度上昇を避けるには、電解液処理中に電解液Lを冷却するのはもちろんのこと、電解処理直前に貯留槽50内を制御したい温度よりわずかに冷却しておくことが好ましい。すなわち、基材Aを処理槽10に投入する前は冷却と加熱で制御を行っているところ、基材Aを処理槽10に投入して電解処理を開始する直前は冷却のみで制御を行い、低めに電解液を保っておく。そうすることで、電解処理が開始することで発生した発熱した電解液も瞬時に冷却することが可能となる。
上述のようにして基材Aを陽極酸化すると、図9(a)に示す状態から図9(b)に示すように細孔61を有する酸化皮膜62が形成される。
基材Aとして用いられるアルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上がさらに好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した際に、不純物の偏析により可視光線を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で形成される細孔61の規則性が低下したりする。電解液としては、シュウ酸、硫酸等が挙げられる。
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
ある所定の周期で規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得るには、所定の周期に合った化成電圧をかける必要がある。例えば周期が100nmの陽極酸化アルミナの場合、化成電圧は30〜60Vが好ましい。所定の周期に合った化成電圧をかけない場合、規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
ある所定の周期で規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得るには、所定の周期に合った化成電圧をかける必要がある。例えば周期が63nmの陽極酸化アルミナの場合、化成電圧は25〜30Vが好ましい。所定の周期に合った化成電圧をかけない場合、規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がよりに好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
そして、図9(b)に示すように細孔61を有する酸化皮膜62を形成した後は、本発明の電解処理装置1を用いて陽極酸化することにより複数の細孔を有する陽極酸化アルミナを形成する工程(陽極酸化処理)と、該細孔の径を拡大させる工程(細孔径拡大処理)とを繰り返すことで、ロール状モールドが製造される。
陽極酸化処理工程と、細孔径拡大処理とを繰り返す場合は、先ず、図9(c)に示すように、酸化皮膜62を一旦除去する。ここで、これを陽極酸化の細孔発生点63にすることで細孔の規則性を向上することができる。
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
そして、酸化皮膜を除去した基材Aを再度、陽極酸化すると、図9(d)に示すように、円柱状の細孔61を有する酸化皮膜62が形成される。
陽極酸化は、上述した電解処理装置1を用いて行う。条件は、図9(b)に示した酸化皮膜62を形成した際と同様な条件であればよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
そして、図9(e)に示すように、細孔61の径を拡大させる処理を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
そして、再度、陽極酸化すると、図9(f)に示すように、円柱状の細孔61の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔61がさらに形成される。
陽極酸化は、上述した電解処理装置1を用いて行う。条件は、上述と同様な条件であればよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
そして、上述したような、細孔径拡大処理と、陽極酸化処理を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔61を有する陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))が形成された、図9(g)に示すようなロール状モールド60が得られる。最後は細孔径拡大処理で終わることが好ましい。
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を転写して製造され光学フィルムの反射率低減効果は不十分である。
細孔61の形状としては、略円錐形状、角錐形状等が挙げられる。細孔61間の平均周期は、可視光線の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔61間の平均周期は、25nm以上が好ましい。
細孔61のアスペクト比(細孔の深さ/細孔の開口部の幅)は、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。
以上に記載した本実施形態に係る電解処理装置1では、基材Aとしてロール状のアルミニウム基材を処理槽本体11の電解液L中で陽極酸化する際に、電解液Lを処理槽本体11の一方の側面上方から供給し、他方の側面の上部から排出する。このとき、処理槽本体11の底部の内面が円弧状に湾曲しているため、電解液Lが滞留することなくスムーズにオーバーフロー部へと移動できる。従って、電解液や基材表面の温度斑が抑制されるので、基材Aの外周面全体にわたってほぼ均一に陽極酸化が行われ、その結果、細孔の深さのバラツキが抑えられたロール状のモールドを製造できる。
特に、基材Aの中心軸を回転軸として基材Aを回転させれば、基材の周囲における電解液の濃度や温度の斑が抑えられるので、より均一に基材Aを陽極酸化でき、細孔の深さのバラツキがより抑えられたロール状のモールドを製造できる。
さらに、基材Aの外周面と処理槽本体の底部の内面との間に特定の大きさの空隙が形成されるように基材Aを処理槽本体11内に設置すれば、基材Aと処理槽本体11の間に位置する電解液Lが緩衝材の役割を十分に果たすことができる。その結果、陽極酸化時の発熱により処理槽本体11が加熱されても、基材Aが処理槽本体11によって直接温められるのを抑制できる。従って、基材の外周面の温度斑をより効果的に防止でき、深さのバラツキがより抑えられたロール状のモールドを製造できる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図6に示す電解処理装置1を用い、中空円柱状のアルミニウム基材(純度:99.99%、長さ:1000mm、外径:200mm、内径:155mm)を陽極酸化処理した。
なお、電解処理装置1には、図2に示す処理槽10が備わり、中心軸Pから底部11aの内面11a’までの距離Dは400mmであった。
また、電解液Lの循環回数が3分に1回となる流量、かつ16℃に温度調節した電解液Lを処理槽10の処理槽本体11に供給した。
図10,11に、陽極酸化処理した際の電解液温度を示す。
図10のグラフには、処理槽壁面から50mm離れた箇所の電解液温度を処理槽全域にて数点測定したときの、電解処理した時間(処理時間)と上昇温度との関係を示す。
一方、図11のグラフには、基材表面付近の電解液温度を基材の長手方向の数点にて測定したときの、温度差の最大値(最大温度差)と電解処理した時間(処理時間)との関係を示す。
[比較例1]
図2に示す処理槽10の代わりに、図12に示す直方体状の処理槽70を用いた以外は、実施例1と同様にして中空円柱状のアルミニウム基材を陽極酸化処理した。図10,11に陽極酸化処理した際の電解液温度を示す。
図10から明らかなように、陽極酸化処理を行うことで、処理槽本体内の電解液の温度は、通電による発熱、酸化反応の熱などの影響で上昇するが、実施例1の場合は比較例1の場合に比べて上昇温度が小さかった。これは、図12に示すように処理槽70の底部が湾曲しておらず、直方体状の処理槽では循環効率が悪く電解液の滞留部が発生しやすく、発熱した際の熱が滞留部に溜まり、滞留部以外の箇所と比べると電解液の温度が高くなってしまうことによるものと考えられる。
しかし、本発明の処理槽および電解処理装置であれば、処理槽本体の底部の内面が基材の周面に沿うように円弧状に湾曲しているので、電解液の滞留部が発生しにくく、温度斑が生じにくい。
また、図11から明らかなように、実施例1の場合は比較例1の場合に比べて基材表面付近の電解液の最大温度差が小さかった。基材表面付近の電解液の温度差が大きいほど基材表面の温度斑が大きいことを意味するため、陽極酸化処理を行った際には細孔の深さのバラつきに影響する。比較例1の場合は基材表面付近の電解液の最大温度差が大きいため、基材表面の温度斑も大きい。これは、直方体状の処理槽では循環効率が悪く電解液の滞留部が発生しやすく、その結果、滞留部付近における基材表面の電解液温度が高くなることによるものと考えられる。
しかし、本発明の処理槽および電解処理装置であれば、処理槽本体の底部の内面が基材の周面に沿うように円弧状に湾曲しているので、電解液の滞留部が発生しにくく、基材表面の電解液温度が高くなるのを抑制できる。
また、実施例1で用いた処理槽は容積が130Lであったのに対し、比較例1で用いた処理槽は容積が250Lであった。
このように、本発明の処理槽であれば、電解液の滞留を防止できるばかりか、電解液の使用量をも抑制できることが確認できた。
1 電解処理装置
10 処理槽
11 処理槽本体
11a 底部
11a’ 内面
11b,11c 側面
12 電界液供給部
13 オーバーフロー部
20 電極板
30 回転手段
53 温度調節手段
A 基材
A’ 周面(外周面)
L 電解液

Claims (7)

  1. 円柱状の基材を電解液中で電解処理する電解処理装置において、
    電解液を収容し、前記基材が浸漬する長尺な処理槽本体、処理槽本体に電解液を供給する電解液供給部、および処理槽本体から電解液を排出するオーバーフロー部を備えた処理槽と、前記処理槽本体に浸漬された電極板とを具備し、
    前記処理槽本体の底部の内面は円弧状に湾曲し、
    前記電解液供給部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の一方の側面上方に設けられ、
    前記オーバーフロー部は、処理槽本体の長手方向に沿うように、処理槽本体の他方の側面上部に設けられていることを特徴とする電解処理装置。
  2. 前記電極板は、前記処理槽本体に浸漬された基材を介して、前記オーバーフロー部に対向する位置にのみ配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電解処理装置。
  3. 前記電極板の電解液に接触している面積と、前記基材の電解液に接触している面積との比が1:1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解処理装置。
  4. 前記基材の中心軸を回転中心として、該基材を回転させる回転手段を具備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解処理装置。
  5. 前記回転手段は、電解液供給部から供給された電解液がオーバーフロー部へ流れる方向とは反対方向に、前記基材を回転させることを特徴とする請求項4に記載の電解処理装置。
  6. 前記電解液を加熱または冷却して電解液の温度を調節し、電解処理直前および電解処理中には電解液を冷却する温度調節手段をさらに具備することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解処理装置。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解処理装置を用いて、アルミニウム基材を陽極酸化処理してモールドを製造する、モールドの製造方法。
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