JP2004043873A - アルミニウム合金の表面処理方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルミニウム合金からなる被処理部材2の外周面に陽極酸化皮膜を形成する表面処理方法であって、吐出口7から噴出された電解液8が、電解槽5内で被処理部材2の周囲を回転しながら流され、その後、電解槽5から排出され、この排出された電解液8が吐出口7に戻される循環操作を行いながら、通電して被処理部材2に陽極酸化処理をした。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金という)の表面に陽極酸化皮膜を形成する表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アルミニウム合金は、軽量で加工性や耐食性に優れていることより、家庭用品や建材等、幅広い用途で用いられている。その多くは、陽極酸化処理が施されているが、その処理工程に長い時間がかかっていた。例えば、10μm程度の陽極酸化皮膜を生成させるのに、電解浴中で30〜40分の直流電解を行う必要があり、処理時間を短縮しようとして電流密度を増加させると、ジュール熱の発生により皮膜の厚さが不均一となったり皮膜焼けとなったりすることがあった。
【0003】
そこで、特開2000−282293号公報に開示されているように、モータを使用して電解槽内を振動させたりミクロ気泡を発生させたりすることで電解液を撹拌する技術が知られている。この技術によれば、陽極酸化皮膜の生成にともなって発生するジュール熱が効率よく放出されるので、電流密度を増加させても焼けが生じにくく、陽極酸化処理の工程時間が短縮できるものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の技術においては、電解槽内を振動させたりミクロ気泡を発生させたりするための大掛かりな設備が必要であるとともに、大きな電解槽や冷却装置を使用しないと、連続して陽極酸化処理を行う場合に電解槽内の全体の液温が上昇して電解液を撹拌する効果が薄れる恐れがあった。
【0005】
また、特開平11−236696号公報に開示されているように、電解槽の内壁面に多数の噴出ノズルを配置し、被処理物に向けて電解液を循環噴出して流速を管理することで陽極酸化処理の高速化を図る技術が知られているが、やはり大掛かりな設備が必要であるとともに、流速の管理に流速計等を用いた複雑な制御が必要であった。更に、流速を高めると被処理物が電解槽内で落下する恐れもあった。
【0006】
また更に、特開平11−117092号公報に開示されているように、中空パイプ状で複数の孔を有した電極を回転させながら電解液を筒状の被処理物の内面に噴射する技術や、特開平9−217200号公報に開示されているように、噴射盤を回転させながら吐出口から電解液を被処理物の表面に噴射する技術も知られているが、被処理物に陽極酸化皮膜を形成する部分にあわせて孔や吐出口の数を増やしたり回転させたりするものであった。
【0007】
それゆえ、本発明は、以上の事情を背景になされたものであり、大規模な設備や複雑な制御を用いることなく、生成される陽極酸化皮膜の品質を満足しながら陽極酸化処理の工程時間を低減することが可能なアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを技術的課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、請求項1に記載のように、アルミニウム合金からなる被処理部材の外周面に陽極酸化皮膜を形成する表面処理方法であって、吐出口から噴出された電解液が、電解槽内で被処理部材の周囲を回転しながら流され、その後、電解槽から排出され、この排出された電解液が前記吐出口に戻される循環操作を行いながら、通電して被処理部材に陽極酸化処理を施すことを特徴とするアルミニウム合金の表面処理方法とした。
【0009】
本発明に係るアルミニウム合金の表面処理方法によれば、電解液が被処理部材の周囲を回転しながら流されるので、陽極酸化皮膜を均一に形成することができるとともに、陽極酸化皮膜の生成にともなって発生するジュール熱を被処理部材の全体から速やかに除去することができる。また、ジュール熱を吸収して液温が上がった電解液は、電解槽から排出され、循環して再び吐出口から噴出されるときは放熱されて液温が下がった状態となっているため、被処理部材の周囲は常に液温の低い電解液が回転しながら流れていることとなる。従って、電流密度を増加させても連続的にジュール熱が除去されるので、皮膜厚さの不均一な部位や皮膜焼けを生じることなく、陽極酸化処理の工程時間を大幅に低減することが可能となる。
【0010】
好ましくは、請求項2に記載のように、被処理部材は、吐出口の噴出方向軸線上から外れた位置にあることが望ましい。これにより、吐出口から噴出された電解液は、その噴出力が直接的に被処理部材に作用することは少なく、そのまま被処理部材の周囲を回転することとなる。即ち、被処理部材は、電解液の流速の抵抗をあまり受けないので、被処理部材を強固に保持したり落下を心配したりすることなく、電解液の流速を上げることができる。
【0011】
また好ましくは、請求項3に記載のように、吐出口から噴出された電解液が、被処理部材の周囲を下方から上方へ螺旋状に回転しながら流されることが望ましい。これによれば、吐出口は被処理部材の下方にのみ設ければよいので、装置を簡略化することができる。更に、吐出口を少なくすると乱流が起こりにくくなり、電解液の流れをスムーズなものとすることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を用いて説明する。図1は、本発明に係るアルミニウム合金の表面処理方法の第1実施形態を模式的に示す図であり、図1(a)は主要断面図、図1(b)は上面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態における陽極酸化処理装置1は、電解液8を収容する電解槽5が設けられており、電解槽5の中央部には、円柱状を呈した被処理部材2が保持されている。被処理材2は、アルミニウム合金の押出材からなるが、アルミニウム合金の鍛造材や鋳造材であってもよい。陽極酸化皮膜を形成する部位2aは被処理部材2の中央とし、その中央の部位2aに接する上下の部位2bにはマスキングが施されている。被処理部材2の上端には陽極3が接続されている。尚、本実施形態では、被処理部材2の中央を被処理部としたが、必要に応じて被処理部材2の先端や、治具を用いて被処理部材2の全体に陽極酸化処理を施すことも可能である。
【0014】
電解槽5は、樹脂材からなり、図1(a)に示すように上面視では正方形を呈している。電解槽5の内部には、それぞれ4つの陰極4と供給管6が配設されている。陰極4は、電解槽5の4つの内壁面の水平方向中央に、供給管6は、電解槽5内の四隅に位置している。
【0015】
供給管6には複数の吐出口7が形成されており、電解液8が噴出されるようになっている。吐出口7の噴出方向f7は、被処理部材2が保持されている電解槽5の中央部よりも右側となっている。詳しく言えば、吐出口7の噴出方向f7は、被処理部材2の水平断面の形状である円の接線方向あるいは、その接線方向よりも被処理部材2から若干外側にずれた方向となっている。即ち、被処理部材2は、吐出口7の噴出方向f7の軸線上から外れた位置となっている。更に、電解液8が(図1の矢印方向f2に示すようにして)被処理部材2の周囲を回転しながら流されるように、吐出口7の噴出方向f7は調整される。
【0016】
吐出口7から噴出された電解液8は、やがて電解槽5の上端から溢れ出して排出され、タンクRに貯留される。タンクRには、必要に応じて冷却用の熱交換器を組みこんでもよい。タンクRに貯留された電解液8は、ポンプPによって吸い込まれて供給管6に供給され、再び吐出口7から噴出される。このようにして、電解液8は、循環操作されている。この循環操作を行いながら、陰極4と陽極3を通電して被処理部材2に陽極酸化処理を施すと、電解液8によりジュール熱を除去しながら部位2aに陽極酸化皮膜が形成される。
【0017】
以上のように、本発明に係るアルミニウム合金の表面処理方法においては、電解液8が被処理部材2の周囲を回転しながら流されるので、陽極酸化皮膜を均一に形成することができるとともに、陽極酸化皮膜の生成にともなって発生するジュール熱を被処理部材2の全体から速やかに除去することができる。また、ジュール熱を吸収して液温が上がった電解液8は、電解槽5から排出され、循環して再び吐出口7から噴出されるときは放熱されて液温が下がった状態となっているため、被処理部材2の周囲は常に液温の低い電解液8が回転しながら流れていることとなる。従って、電流密度を増加させても連続的にジュール熱が除去されるので、皮膜厚さの不均一な部位や皮膜焼けを生じることなく、陽極酸化処理の工程時間を大幅に低減することが可能となる。
【0018】
また、被処理部材2は、吐出口7の噴出方向f7の軸線上から外れた位置にあることより、吐出口7から噴出された電解液8は、その噴出力が直接的に被処理部材2に作用することは少なく、そのまま被処理部材2の周囲を回転することとなる。即ち、被処理部材2は、電解液8の流速の抵抗をあまり受けないので、被処理部材2を強固に保持したり落下を心配したりすることなく、電解液8の流速を上げることができる。
【0019】
次に、本発明に係るアルミニウム合金の表面処理方法の第2実施形態を説明する。図2は、本発明に係る第2実施形態を模式的に示す図であり、図2(a)は主要断面図、図2(b)は上面図である。
【0020】
図2に示すように、第2実施形態における陽極酸化処理装置21は、電解液28を収容する電解槽25が設けられており、電解槽25の中央部には、第1実施形態と同様の被処理部材22が保持されている。陽極酸化皮膜を形成する部位22aは被処理部材22の中央とし、被処理部材22の下端は台32の上面に接しているとともに、陽極23が接続されている。尚、第2実施形態でも、被処理部材22の中央を被処理部としたが、必要に応じて被処理部材22の先端付近や、治具を用いて被処理部材22の略全体に陽極酸化処理を施すことも可能である。
【0021】
電解槽25は、台32の上方に配置されており、樹脂材からなる上部材25aと下部材25bが構成されている。上部材25aと下部材25bの間には、陰極24が組み込まれている。陰極24は、中空円筒状を呈しており、陰極24の内側と、上部材25a及び下部材25bで囲まれた空間が電解液28の収容室25cとなっている。
【0022】
被処理部材22は、上部材25a及び下部材25bに形成された貫通孔に挿通されており、上部材25a及び下部材25bと被処理部材22との間は収容室25cの上端及び下端の位置に設けられたOリング31により液密的にシールされている。即ち、被処理部材22における2つのOリング31の間が、陽極酸化皮膜を形成する部位22aとなっている。
【0023】
収容室25cの下端には、4つの吐出口27が形成されており、電解液28が噴出されるようになっている。吐出口27の噴出方向f27は、被処理部材22が保持されている電解槽25の中央部よりも左側となっている。詳しく言えば、吐出口27の噴出方向f27は、被処理部材22の水平断面の形状である円の接線方向あるいは、円筒状の陰極24の接線方向となっている。即ち、被処理部材22は、吐出口27の噴出方向f27の軸線上から外れた位置となっている。更に、電解液28が(図2の矢印方向f22に示すようにして)被処理部材22の周囲を下方から上方へ螺旋状に回転しながら流されるように、吐出口27の噴出方向f27は調整される。
【0024】
吐出口27から噴出された電解液28は、やがて収容室25cの上端に位置する排出口33から溢れ出して排出され、タンクRに貯留される。タンクRには、タンクRに貯留された電解液8は、ポンプPによって吸い込まれて、再び吐出口27から噴出される。このようにして、電解液28は、循環操作されている。この循環操作を行いながら、陰極24と陽極23を通電して被処理部材22に陽極酸化処理を施すと、電解液28によりジュール熱を除去しながら部位22aに陽極酸化皮膜が形成される。
【0025】
以上のように、本発明に係るアルミニウム合金の表面処理方法の第2実施形態においても、電解液28が被処理部材22の周囲を回転しながら流されるので、上記した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、吐出口27から噴出された電解液28が、被処理部材22の周囲を下方から上方へ螺旋状に回転しながら流される第2実施形態は、吐出口27を収容室25cの下方にのみ設ければよいので、装置を簡略化することができる。更に、吐出口27を少なくすると乱流が起こりにくくなり、電解液28の流れをスムーズなものとすることができる。
【0026】
【実施例】
次に、本発明の実施例について、比較例と対比して具体的に説明する。
【0027】
被処理部材は、7000系アルミニウム合金をT6処理した押出材(φ23.5mm×300mm)を使用し、従来の方法と同様に脱脂処理を施した後、電解槽に保持させた。電解液は、200g/Lの硫酸水溶液を用い、処理浴の温度を10℃として、表1に示す条件にて陽極酸化処理を行った。
【0028】
実施例1〜2は、第1実施形態の陽極酸化処理装置1を使用し、実施例3〜4は、第2実施形態の陽極酸化処理装置21を使用した。比較例5は、陽極酸化処理装置1を、電解液の循環操作を行わずに、エアで撹拌させて使用した。実施例1〜2及び比較例5では、被処理部材にマスキングを施して、実施例1〜4及び比較例5の処理面積は、0.4dm2とした。
【0029】
電解液の流速は、吐出口から噴出された直後の値とした。通電はスロースタートとし、通電時間は、このスロースタートの昇圧時間も含めたものとした。膜厚は、処理後の被処理部材を切断した断面を光学顕微鏡(20倍)にて観察して測定した。硬度(ビッカース硬さ)は、常温でJIS−Z2244に従い5点平均により測定した。表面粗さは、JIS−B0601に従い十点平均粗さ(Rz)を測定した。これらの結果も表1に併せて示す。
【0030】
【表1】
【0031】
通電後、それぞれ表1に示す膜厚の陽極酸化皮膜が均一に形成され、この皮膜は、いずれも皮膜焼けも生じておらず良好な表面状態であった。更に、表1に示すように、本発明における実施例1〜4は、いずれも、比較例5と比べて大幅に電流密度を増加させることができ、短時間で20μm以上の陽極酸化皮膜を形成することができた。特に、第2実施形態である実施例3〜4は、電流密度を30A/dm2以上と格別に大きな値とすることができた。
【0032】
その上、実施例1〜4は耐摩耗性に要求される品質(皮膜硬度270Hv以上、表面粗さRz6.3μm以下)を満足するものであった。特に、実施例1〜4は、硬度を比較例5と比べて大幅に上げることができ、耐摩耗性も向上することができた。従って、本発明は、耐摩耗性が要求されるシャフト等の摺動部に、効果的に適用することができる。
【0033】
尚、実施例1〜4は、電解液の流速を上げて処理を行ってもよい。特に、陽極酸化装置21では、流速を0.4m/sec以上とすることも可能である。また、被処理部材は、上記した実施形態で使用した円柱状が適しているが、他の断面形状であっても、吐出口から噴出された電解液が、電解槽内で被処理部材の周囲を回転しながら流されるようにすることにより、上記した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、大規模な設備や複雑な制御を用いることなく、生成される陽極酸化皮膜の品質を満足しながら陽極酸化処理の工程時間を低減することができるアルミニウム合金の表面処理方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金の表面処理方法の第1実施形態を模式的に示す図であり、図1(a)は主要断面図、図1(b)は上面図である。
【図2】本発明に係るの第2実施形態を模式的に示す図であり、図2(a)は主要断面図、図2(b)は上面図である。
【符号の説明】
1、21 陽極酸化処理装置
2、22 被処理部材
3、23 陽極
4、24 陰極
5、25 電解槽
7、27 吐出口
8、28 電解液
P ポンプ
R タンク
f7、f27 噴出方向
Claims (3)
- アルミニウム合金からなる被処理部材の外周面に陽極酸化皮膜を形成する表面処理方法であって、
吐出口から噴出された電解液が、電解槽内で前記被処理部材の周囲を回転しながら流され、その後、前記電解槽から排出され、この排出された電解液が前記吐出口に戻される循環操作を行いながら、通電して前記被処理部材に陽極酸化処理を施すことを特徴とするアルミニウム合金の表面処理方法。 - 前記被処理部材は、前記吐出口の噴出方向軸線上から外れた位置にあることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金の表面処理方法。
- 前記吐出口から噴出された電解液が、前記被処理部材の周囲を下方から上方へ螺旋状に回転しながら流されることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金の表面処理方法。
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