JP5741371B2 - リチウム複合酸化物とその製造方法、及びリチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Description
リチウム過剰系の材料では、リチウム非過剰系の材料に比較して、4.5V以上の高電位充電において高容量及び高エネルギーが得られる。
つまり、層状岩塩型構造を有するリチウム過剰系のリチウム複合酸化物では、高容量と4.5V以上の充電及びその放電を繰り返した際の容量維持率は互いに背反する特性であり、これらを両立することは難しい。この課題については、非特許文献1を参照されたい。
特許文献2には、下記式で表されるリチウム複合酸化物を含み、このリチウム複合酸化物を構成する遷移金属元素(M)に対して、(V+B)/M)=0.001〜0.05(モル比)のバナジウム(V)及び/又はボロン(B)を含有し、一次粒子径が1μm以上、結晶子サイズが450Å以上、かつ格子歪が0.05%以下である正極活物質が開示されている(請求項1)。
LiXMYOZ−δ(式中、MはCo又はNiを示し、(X/Y)=0.98〜1.02、(δ/Z)≦0.03)
特許文献2におけるLi非過剰系では、4.5V以上の高電位の充電とその放電を繰り返した時の粒子クラック、及びそれによる容量維持率の低下の課題は、それ程大きくない
本明細書において、高電位は「4.5V以上」と定義する。
下記式で表される層状岩塩型構造を有するリチウム複合酸化物であって、
Halder Wafner法により求められた格子歪が0.4%以下であり、結晶子サイズが30nm以下のリチウム複合酸化物である。
一般式:LixMyO2
(式中、Mは平均価数が4+である少なくとも1種の遷移金属であり、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
1.2≦x/y<2.0)
本明細書において、「結晶子サイズ」は、粉末XRD測定において、リガク社製の解析ソフトPDXLを用いて測定するものとする。
本発明のリチウム複合酸化物は、
下記式で表される層状岩塩型構造を有するリチウム複合酸化物であって、
Halder Wagner法により求められた格子歪が0.4%以下であり、結晶子サイズが30nm以下のリチウム複合酸化物である。
一般式:LixMyO2
(式中、Mは平均価数が4+である少なくとも1種の遷移金属であり、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
1.2≦x/y<2.0)
本発明者は、上記規定を充足するリチウム複合酸化物は、4.5V以上の充電とその放電を繰り返しても、結晶格子の膨張収縮による応力が緩和され、クラックの発生が抑制され、容量維持率を向上できることを見出している(後記[実施例]の項の表1を参照)。
表面酸化処理方法としては例えば、リチウムイオン二次電池の組立て後に、4.5V以上の電位まで充電し、この電位を5分間以上保持する方法が好ましい。この方法で酸化処理を実施する場合、4.5V以上の電位まで充電し、この電位を5分間以上保持した後、放電を実施してもよいし、実施しなくてもよい。
以下、上記のリチウム複合酸化物の製造方法の一例について説明する。
はじめに、最終的に製造するリチウム複合酸化物のすべての構成金属元素の金属塩をそれぞれ用意する。
例えば、3元系のリチウム複合酸化物であれば、Li源、Mn源、Co源、及びNi源をそれぞれ用意する。Li源、Mn源、Co源、及びNi源としては例えば、酢酸塩等が好ましい。
本発明者は、金属塩溶液のpHを酸性とすることで、金属塩溶液中に金属の酸化物及び水酸化物が生成されることを抑制し、金属イオンを液中に安定的に存在させることができることができること、これにより各金属が良好に分散した金属塩溶液が得られることを見出している。
金属塩溶液のpHは酸性であればよく、具体的には6未満が好ましく、3以下が特に好ましい。
次に、上記工程で得られた酸性の金属塩溶液を次の工程(C)の焼成温度より低い温度で保持してゲル化させる。
ゲル化温度は特に制限なく、例えば45〜100℃が好ましい。
例えば、上記工程で得られた酸性の金属塩溶液を45〜100℃で約一晩保持して、ゲル化させることができる。
このゲル化工程を経ることで、金属イオンの均一な分散状態を維持しつつ、次の焼成工程を進めることができる。
次に、上記工程後に得られたゲル化物を焼成する(工程(C))。
工程(A)で調製する金属塩溶液のpHを酸性とし、これをゲル化してから焼成することで、金属が均一に分散された焼成物を生成することができる。
1段階の焼成工程後、複数段階の最終焼成工程後、あるいは複数段階の焼成工程の間に、粉砕工程(D)を実施することができる。
仮焼成温度及び本焼成温度は特に制限されない。
良好な結晶化を進め、かつ所望でない結晶の生成を抑制するには、例えば、仮焼成温度は450〜750℃、特に550〜650℃が好ましく、本焼成温度は750〜1000℃、特に800〜950℃が好ましい。
ボールミルによる粉砕時間は特に制限なく、1〜10時間が好ましく、1〜3時間が特に好ましい。
以上のようにして、リチウム複合酸化物が合成される。
合成したリチウム複合酸化物は、表面酸化処理を行うことが好ましい。表面酸化処理によって、格子歪を小さくし、結晶子サイズを小さくすることができる。
表面酸化処理方法については前述したので、ここでは説明を省略する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記の本発明のリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたものである。
正極と負極とセパレータと非水電解質と外装体を用い、公知方法により、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
正極は、公知の方法により、アルミニウム箔などの正極集電体に正極活物質を塗布して、製造することができる。
本発明では、上記の本発明のリチウム複合酸化物を正極活物質として用いる。
正極の目付は特に制限なく、1.5〜15mg/cm2が好ましい。正極の目付が過小では均一な塗布が難しく、過大では集電体から剥離する恐れがある。
負極活物質としては特に制限なく、Li/Li+基準で2.0V以下にリチウム吸蔵能力を持つものが好ましく用いられる。負極活物質としては、黒鉛等の炭素、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンのド−プ・脱ド−プが可能な遷移金属酸化物/遷移金属窒化物/遷移金属硫化物、及び、これらの組合わせ等が挙げられる。
例えば、水等の分散剤を用い、負極活物質と、変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の結着剤と、必要に応じてカルボキシメチルセルロースNa塩(CMC)等の増粘剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーを銅箔等の集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、負極を得ることができる。
負極の目付は特に制限なく、1.5〜15mg/cm2が好ましい。負極の目付が過小では均一な塗布が難しく、過大では集電体から剥離する恐れがある。
非水電解質としては公知のものが使用でき、液状、ゲル状もしくは固体状の非水電解質が使用できる。
例えば、プロピレンカーボネ−トあるいはエチレンカーボネ−ト等の高誘電率カーボネート溶媒と、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の低粘度カーボネート溶媒との混合溶媒に、リチウム含有電解質を溶解した非水電界液が好ましく用いられる。
混合溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒が好ましく用いられる。
リチウム含有電解質としては例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、Li2SiF6、LiOSO2CkF(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPFn{CkF(2k+1)}(6−n)(n=1〜5の整数、k=1〜8の整数)等のリチウム塩、及びこれらの組合わせが挙げられる。
セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンが透過可能な膜であればよく、多孔質高分子フィルムが好ましく使用される。
セパレータとしては例えば、PP(ポリプロピレン)製多孔質フィルム、PE(ポリエチレン)製多孔質フィルム、あるいは、PP(ポリプロピレン)−PE(ポリエチレン)の積層型多孔質フィルム等のポリオレフィン製多孔質フィルムが好ましく用いられる。
外装体としては公知のものが使用できる。
二次電池の型としては、円筒型、コイン型、角型、あるいはフィルム型等があり、所望の型に合わせて外装体を選定することができる。
本発明によれば、4.5V以上の高電位で充放電を繰り返した際の容量維持率を向上することが可能なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
<正極活物質の合成>
Li源として酢酸リチウム・2水和物、Mn源として酢酸マンガン・4水和物、Co源として酢酸コバルト・4水和物、Ni源として酢酸ニッケル・4水和物(いずれもナカライテスク(株)社製)を用いた。
これらの原料を、Li/Mn/Co/Ni=60/27/6.5/6.5(モル比)となるようにそれぞれ秤量して純水で溶解した。
溶液は、硝酸を用いて、pHを3に調整した。
得られた溶液を撹拌しながら、80℃で一晩保持し、ゲルを得た。
上記で得られたゲルを大気雰囲気下で2段階焼成した。
まず600℃で5時間仮焼成した。その後、常温まで冷却後にボールミルを用いて粒子状に粉砕し、その後、再度900℃で本焼成した。
以上のようにして、粒子状のリチウム複合酸化物を得た。
分散剤としてN−メチル−2−ピロリドン((株)和光純薬工業社製)を用い、上記のリチウム複合酸化物からなる正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)社製HS−100)と、結着剤であるPVDF((株)クレハ社製KFポリマー♯1120)とを、85/10/5(質量比)で混合して、スラリーを得た。
上記スラリーを集電体であるアルミニウム箔上にドクターブレード法で塗布し、80℃で30分間乾燥し、プレス機械を用いてプレス加工して、正極を得た。正極は、目付5.5mg/cm2、厚み18μmとした。
負極活物質として、金属リチウムを用いた。
これをそのまま負極として用いた。
PP(ポリプロピレン)製多孔質フィルムからなる市販のセパレータを用意した。
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート=3/3/4(体積比)の混合溶液を溶媒とし、電解質としてリチウム塩であるLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解して、非水電界液を調製した。
外装体として、SUS製2032型コインセルを用意した。
上記の正極と負極とセパレータと非水電解液と外装体を用い、公知方法により、リチウムイオン二次電池を組み立てた。
リチウムイオン二次電池の組立て後に、これを4.8V(リチウム金属基準)まで充電後、これを20時間保持し、2.5Vまで放電させて、正極活物質を酸化処理した。
正極活物質の表面酸化処理を下記条件とした以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
酸化処理:リチウムイオン二次電池の組立て後に4.8V(リチウム金属基準)まで充電後、これを20時間保持して、正極活物質を酸化処理した。
正極活物質の表面酸化処理を下記条件とした以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
酸化処理:リチウムイオン二次電池の組立て後に、これを4.8V(リチウム金属基準)まで充電後、これを5分間保持し、2.5Vまで放電させて、正極活物質を酸化処理した。
正極活物質の表面酸化処理を下記条件とした以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
酸化処理:リチウムイオン二次電池の組立て後に、これを4.4V(リチウム金属基準)まで充電後、これを5分間保持し、2.5Vまで放電させて、正極活物質を酸化処理した。
リチウムイオン二次電池の組立て後に、充(放)電による正極活物質の表面酸化処理を実施しなかった以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
<XRD分析>
実施例1〜4、比較例1において、正極活物質の表面酸化処理後・後記サイクル充放電前のリチウムイオン二次電池をグローブボックス内で解体し、ジメチルカーボネート(DMC)で洗浄後、乾燥した。その後、正極活物質を集電体から剥離し、この正極活物質について、X線回折(XRD)装置を用いて、粉末XRD分析を実施した。
比較例2においては、合成した正極活物質をそのまま測定した。
測定装置としてリガクUltima4を用い、CuKα線を用い、一次検出器を用いて測定を行った。測定条件は、2θ=10〜80°、10°/min、3回積算とした。
リガク社製の解析ソフトPDXLを用いて、格子歪及び結晶子サイズを測定した。
正極活物質の表面酸化状態をX線吸収微細構造(XAFS)分析により評価した。
実施例1〜2、比較例1において、正極活物質の表面酸化処理後・後記サイクル充放電前のリチウムイオン二次電池をグローブボックス内で解体し、DMCで洗浄後、乾燥した。その後、正極活物質を集電体から剥離し、この正極活物質について、Mn K端のXAFS分析を実施した。比較例2においては、合成した正極活物質をそのまま測定した。
吸収端位置は、ピークの立ち上がり位置とピーク頂点との中点により定義した。
各例において得られたリチウムイオン二次電池に対して、下記のサイクル充放電を実施した。
25℃の恒温槽内で、充電電圧4.6V(リチウム金属基準)、放電電圧2.5V(リチウム金属基準)、及び、電流密度300mA/gの条件で100サイクルの充放電を行った。
上記のサイクル充放電において、10サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量とを求め、下記式で定義される容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(10サイクル目の放電容量)
実施例1及び比較例2において、上記のサイクル充放電後のリチウムイオン二次電池をグローブボックス内で解体し、DMCで洗浄後、乾燥した。その後、正極活物質を集電体から剥離し、TEM観察用のCuメッシュに付着させた。このTEM像を観察した。
表1に、各例について、正極活物質の表面酸化処理の有無と方法、正極活物質の格子歪と結晶子サイズの測定結果、及び容量維持率の測定結果を示す。
各例における吸収端位置を、表1に示す。
実施例1、2の吸収端位置は6555.0eV以下であり、比較例1、2の吸収端位置は6555.0eV超であった。
実施例2の正極活物質にはクラックが見られなかったが、比較例2の正極活物質にはクラックが見られた。
Claims (6)
- Halder Wagner法により求められた格子歪が0.4%以下であり、結晶子サイズが30nm以下である、下記式で表される層状岩塩型構造を有するリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記リチウムイオン二次電池の組立て前に、前記正極活物質を表面酸化処理するリチウムイオン二次電池の製造方法。
一般式:LixMyO2
(式中、Mは平均価数が4+である少なくとも1種の遷移金属であり、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
1.2≦x/y<2.0) - 前記表面酸化処理は、NO2BF4、I2、O3、及びHClOからなる群より選ばれた少なくとも1種のガスを用いた化学的な表面酸化処理である、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。 - 前記リチウム複合酸化物の前記格子歪が0.3%以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
- 前記リチウム複合酸化物は、Mn K端のXAFS測定において、吸収端位置をピークの立ち上がり位置とピーク頂点との中点により定義したとき、6555.0eV以下に吸収端を持つ請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
- 少なくとも1種の遷移金属MがMn、Co、及びNiから選ばれた少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
- 前記リチウムイオン二次電池は、4.5V以上の充電条件で使用されるものである請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
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