以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、後述する装置構成や処理動作の内容は一例であり、実施例と既知の技術との組み合わせや置換により他の実施例を実現することも可能である。
本実施例では、質量分析計のサンプリング部とイオン化部における、イオン化ニードルや試料の搬送動作・イオン化方法について説明する。本実施例のイオン源では、従来のように配管を用いない方法であり、イオン化ニードルは使い捨て可能なニードルを用い、試料が触れる部分はこのイオン化ニードルのみである。イオン化ニードルへの試料の供給(吸引)はシリンジを用いて行い、イオン化時のイオン化ニードルからの試料の送液(排出)は、重力による自然滴下(自然落下)により行う方法である。図1はイオン化の動作のフローチャート、図2〜図7は本発明の実施例であるイオン源と質量分析装置の構成と動作の模式図を横から見た図、図8は上部より見た全体図である。
本実施例の測定動作の工程は、連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4、イオン化工程S5、廃棄工程S6からなる(図1A)。
連結工程S1は、イオン化ニードル1の試料容器2に配管5を連結する工程である(図2)。試料の保持とイオン化を行う試料容器2と金属キャピラリー3からなるイオン化ニードル1は、ニードル保管部16に複数並べられて配置されている。イオン化ニードル1の試料容器2は、上部が解放されており、金属キャピラリー3側よりも開口径は広くなっていて、図のようにテーパー状になっている。テーパー状になっていることで、配管5は試料容器2の内壁に密に連結することが可能で、液漏れを防ぐことができる(図2)。配管5には、搬送駆動部13で動作制御可能なアーム12が装着されており、アーム12はX,Y,Zの各方向へ移動することが可能である。
移動工程S2は、試料吸引のために、イオン化ニードル1のニードル先端4が、液体試料10の内部へ移動する工程である(図3)。イオン化ニードル1にはアーム14が装着され、アーム14を駆動する搬送駆動部15により、イオン化ニードル1は移動する。移動時には、アーム12は配管5に装着されたまま、アーム14と同じ動きをして移動してもよいし、またアーム12が配管5から切り離されていても良い。搬送駆動部15に接続されたアーム14によりイオン化ニードル1は一旦上方(Z軸プラス方向)へ移動した後、液体試料10の入った試料瓶11の上方まで横(X軸プラス方向)へ移動する。その後、イオン化ニードル1のニードル先端4が液体試料10に浸るまで、イオン化ニードル1は下方(Z軸マイナス方向)へ移動する。
吸引工程S3は、試料容器2へ液体試料10を吸引する工程である(図4)。イオン化ニードル1の金属キャピラリー3の内部は、液体試料10が通過することが可能な配管構造である。シリンジ6は試料を吸引するために用い、シリンジピストン7はシリンジポンプ8によりZ軸方向に上下に動作する。配管5はそのシリンジ6に接続されており、シリンジポンプ8によりピストン7がZ軸プラス方向へ引き上げられることにより、試料容器2内は減圧される。この時、試料瓶11に入った液体試料10はニードル先端4から吸い上げられ、金属キャピラリー3の内部を通過して、試料容器2へ導入される。あらかじめ決められた液体量を吸引したのち、シリンジポンプ8は動作停止し、シリンジ6のピストン7も動作停止する。ピストン7が停止してその位置を維持することで、イオン化ニードル1のニードル先端4から液体試料が流出するのを防ぐことが可能である。液体試料の吸引量は、配管5に液体が触れない程度、すなわち配管5を汚染しない程度の量にすることが望ましい。そうすることで、配管5の洗浄を不要にすることができる。
移動工程S4は、質量分析計のイオン化の位置へイオン化ニードル1が移動する工程である(図5)。液体試料10が試料容器2に満たされたイオン化ニードル1は、アーム14を駆動する搬送駆動部15により、上部(Z軸プラス方向)へ移動する。イオン化ニードル1のニードル先端4が、質量分析計の導入口である対向電極21の細孔22付近へ来るように移動する。
イオン化工程S5は、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧が印加され、また液体試料が送液されることでイオン化が行われる工程である(図6)。イオン化工程は電圧を印加する工程と試料を送液する工程の2つの工程がある。電圧を印加する工程は、以下の方法で行う。金属キャピラリー3の先端4から静電噴霧するために、高電圧電源19から金属キャピラリー3へ電圧印加を行う。搬送駆動部15とアーム14を用いて、イオン化ニードル1をX軸プラス方向へ移動させ、高電圧電源19に接続された接触端子18に金属キャピラリー3を接触させることで、金属キャピラリー3に電圧が印加される。金属キャピラリー3へ電圧印加後、液体試料10の送液を開始する。試料送液は、配管5を試料容器2から切り離すことで開始される。切り離すと同時に、重力による自然落下により液体試料はイオン化ニードル1の先端4から静電噴霧されエレクトロスプレーが行われる。生成されたイオン17は、細孔22から検出部23に入り、検出される。
廃棄工程S6は、使用されたイオン化ニードル1が、廃棄される工程である(図7)。あらかじめ設定された時間の間、イオン化が行われ測定が終了したイオン化ニードル1は、アーム14を駆動する駆動部15により、ニードル保管部16のもとの位置へ戻される。この時、イオン化ニードル1は、X軸マイナス方向への移動と、Z軸マイナス方向への移動が行われる。移動後に、搬送駆動部15によりアーム14は開き、イオン化ニードル1はニードル保管部16へ戻される。または、別に準備された廃棄入れに、イオン化ニードル1が廃棄されてもかまわない。
本イオン化ニードルを用いたイオン源は大気圧下で動作可能である。イオン化ニードル1の金属キャピラリー3は、金属のような導電性の物質であり、かつキャピラリー内部を液体が通過可能な細管である。金属キャピラリー3の先端4は、図のように平らにカットされているものでイオン化可能である。また斜めに鋭利にカットされているものでもイオン化可能である。試料容器2は、数10〜数100 μL程度の試料を保持することが可能であれば分析可能である。金属キャピラリー3へ印加するエレクトロスプレーの電圧は通常は1kV〜6kV程度であり、この電圧によりエレクトロスプレーイオン化が行われる。液体試料の溶媒は、通常のLC/MSや質量分析計で用いられる溶媒と同じで良く、例えばメタノールやアセトニトリル、水、その他の有機溶媒、これらの混合物である。
S1からS6の工程を、装置の上部から見た図である図8を用いてイオン化ニードル1の動きの流れを説明する。イオン化ニードル1はニードル保管部16に複数並べられている。位置51、52、53には新品のイオン化ニードル、位置54には測定で使用する新品のイオン化ニードル、位置55、56、57には使用済みのイオン化ニードルが並べられている。イオン化ニードルは位置51から52、53、54・・・57とニードル保管部16上をベルトコンベア式に移動していく。位置54(場所A)へ移動したイオン化ニードル1は、場所Aにおいて配管5と連結される(連結工程S1)。移動工程S2では、イオン化ニードル1は場所Bへ移動し、吸引工程S3と移動工程S4が行われる。その後イオン化工程S5でイオン化ニードル1は場所Cへ移動し、廃棄工程S6で場所Aへ再び戻る。
続いて、試料瓶11の動きを説明する。液体試料10の入った試料瓶11は、試料瓶保管部41に複数並べられている。位置42、43には測定前の試料瓶、位置44(場所B)には測定中の試料瓶、位置45、46には測定済みの試料瓶が並べられている。位置Bへ移動した試料瓶11は、吸引工程S3により試料容器2へ試料が吸引される。測定終了後は、試料瓶は45、46へ順次移動していく。試料瓶保管部41はニードル保管部16と同様、試料瓶をベルトコンベア式に搬送して次から次へと移動することが可能である。試料吸引後、イオン化して測定する前にただちに位置45へ移動させ、イオン化部付近から遠ざけておけば、外部からの汚染防止になり液体試料の再利用が可能となる。または試料瓶に蓋をしておくことで同様に汚染防止となる。上記のようにイオン化ニードルや試料瓶を搬送することで、次から次へと試料を測定することが可能である。駆動部や試料瓶保管部41、ニードル保管部16などの動作制御は、パーソナルコンピューターなどを用いて行い、全自動または半自動で動作させることも可能である。
イオン化のために高電圧を金属キャピラリー3に印加する構造・方法について図8を用いて説明する。高電圧は高電圧電源19から接触端子18を用いて、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に印加される。接触端子18は、固定部31にとりつけられたばね32に取り付けられている。ばね32または固定部31の少なくともどちらかには、電流が流れないように、プラスチックやピークなどの物質を用いる方がよい。接触端子18は、金属などの電気を流す導電性物質であればよい。電圧を印加するために、金属キャピラリーをX方向プラス方向へ移動させ、金属キャピラリー3が接触端子18に接触させる。この時、ばね32を縮むことにより、金属キャピラリー3と接触端子18が密に接着することができ、安定して金属キャピラリー3への電圧供給が可能となる。ばね32は1つ、2つ、3つ以上でもかまわない。
イオン化工程S5の望ましい時間シーケンスを説明する。図9には、イオン化工程S5時の高電圧電源19の高電圧と液体試料の送液のon/offの時間シーケンスを示す。高電圧の縦軸は、高電圧電源19の電圧のon時は数kV印加され、off時は0Vである。また、試料送液の縦軸は、送液がon時は、配管5を切り離した状態で試料容器2内の液体試料がニードル先端4から自然落下により流出する状態、offは試料容器2に配管5またはふたが付いて、試料容器2の上部が密閉されて送液が止まる状態である。横軸の時間は、イオン化工程S5開始時をt0s、イオン化工程S5終了時をt0e、高電圧印加開始時間(on)をt1s、高電圧印加終了時間(off)をt1e、送液開始時間(on)をt2s、送液終了時間(off)をt2eで記載した。
高電圧印加や送液は以下のシーケンスに沿って実施される。イオン化工程S5開始時間t0sからディレイタイムtd1(0から数s程度)後、t1s時に高電圧を印加開始する。その後、t1sからディレイタイムtd2(数msから数s程度)の後、t2s時に送液を開始する。電圧印加開始時間t1sは送液開始時間t1eよりも前に実施した方が、液体試料の消費が抑えられるため望ましい。送液を開始すると、すぐに静電噴霧が開始されイオン化が行われるため、データ取得が可能となる。所定のデータ取得時間経過後は、t2eに送液をoff、少しディレイ時間後のt1eに高電圧をoffする。このt1eとt2eは同時でも特に問題ない。高電圧と送液は、どちらか1つをoffにした時点でイオン化されなくなるため、その時点でデータ取得は終了となる。送液をoffにするタイミングは、通常は試料容器2が空っぽになったタイミングで送液は自然に終了するため、特に送液をoffにするための操作は必要ない。しかし、液体試料が試料容器2に残っている状態で送液を止めたい場合には、先述のように配管5を再び試料容器2へ連結するか、試料容器2の上部の開口部を密閉するようにふたをすると液体試料の滴下は停止する。
図10には、もう1つの時間シーケンスの実施例を示す。この例では、イオン化工程開始後ディレイタイムtd1後に、高電圧印加開始時間t1sと送液開始時間t2sで同時にonにする。その後、ディレイタイムtd2後に、データ取得を開始する。測定終了時は、高電圧印加終了時間t1eと送液終了時間t2eで同時にoffにすることで終了する。ディレイタイムtd2は0でもかまわない。
続いてアームの動作について説明する。イオン化ニードル1用のアーム14と配管5用のアーム12は、持ちあげる対象物により形状・サイズが少し異なるが、基本的な動作方法は同様である。そのため、イオン化ニードル用のアーム14の例を図11で説明する。搬送駆動部15により駆動可能なアーム14は、支持部25、2つの容器保持部27・28、固定点26で構成される。容器保持部27および28は固定点26で固定されており、また固定点26を中心に回転運動することで、アームが開いたり閉じたりすることができる。アームが閉じた際には、アームの容器保持部と試料容器との摩擦により、試料容器はアームに連結され、一体となって移動する。動作の流れは、図11Aのようにアームが開いた状態で、アーム14はイオン化ニードル1を挟むことが可能な位置へ移動し、アームを閉じて図11Bのようにニードル1を容器保持部27・28で挟む。アーム14とイオン化ニードル1が連結された状態(図11B)において、駆動部15の駆動によりアーム14が移動することにより、イオン化ニードル1も一緒に移動する。移動後は、図11Aのように容器保持部27・28が開き、アーム14とイオン化ニードル1は切り離すことが可能である。
図12には、のアームの別の構造形態を示す。図12Aは、3本の容器保持部75を用いて、イオン化ニードル1の試料容器2を図のように3方から固定する。駆動部77は、容器保持部75や支持部74を動作・移動させることができる。これにより、イオン化ニードル1を固定・移動させることができる。図では容器保持部75は3本で記載したが、2本でも可能であるし、また4本以上でも可能である。また1本のみで磁力を用いて容器保持部75と試料容器2を固定させて移動させることも可能である。この場合、試料容器2は磁石にくっつく素材であり、容器保持部は磁石であればよい。
図12Bには、別のアームの構造形態を示す。支持部78に付いている容器保持部79・80は、駆動部85により支持部78の長手方向と平行な方向に動くことができる。その結果、図のように試料容器2を挟み込み、固定することができる。これにより、イオン化ニードル1を固定・移動させることができる。
図12Cには、別のアームの構造形態を示す。駆動部88に接続された容器保持部86・87は、図のように試料容器2を挟み込み、固定することができる。容器保持部86・87の試料容器との接触部分が丸く窪んだ形状であることにより、試料容器2との接触面積が大きく、安定した固定が可能となる。
図12Dには、別のアームの構造形態を示す。駆動部93に接続された容器保持部89・90は、図のように試料容器2を挟み込み、固定することができる。これにより、イオン化ニードル1を固定・移動させることができる。図12Cと同様に、試料保持部89・90の試料容器との接触部分が丸く窪んだ形状になっていても良い。
上記の試料保持部は、金属、プラスチックのような固いもので良いが、試料容器2と接触する部分の試料容器または容器保持部にはスポンジ、ゴムなどの緩衝力のある柔らかい素材がつけられていると、試料容器2が破損することなくてよい。またその接触部分には、滑り止め機能が付いていると試料容器がしっかりと保持できて望ましい。これまでに記載のアーム構造以外にも、既知の技術を用いたアームであればよい。試料容器2を固定・保持した状態で移動できる機構があれば、本実施例を実施可能である。
重力による自然落下の送液方法は、液体試料の流速は金属キャピラリーの内径、溶媒の種類により変化する。図13に、メタノール溶媒を用いて、送液(落下)速度を測定した結果を示す。各溶媒100μLを試料容器2へ注入した場合に、長さ25mmの金属キャピラリーの配管内径毎に送液速度を調査した。キャピラリーの内径が大きくなればなるほど流速は速くなり、メタノール溶媒ではΦ0.1mm〜Φ0.4mmの内径の変化により、20μL/min〜1000μL/minの範囲で変化した。この流速はエレクトロスプレーで良く用いられている流速であり、金属キャピラリーの内径を選ぶことで、重力による自然落下でも十分実用可能であることがわかる。
検出部23は通常良く使われる質量分析計であればよい。良く用いられる質量分析計である、イオントラップ(ion trap)、四重極質量フィルター(Quadrupole mass filter)、三連四重極質量分析計(Triple quadrupole mass spectrometer)、飛行時間型質量分析計(Time−of−flight mass spectrometer)、磁場型質量分析計、オービトラップ(Orbitrap mass spectrometer)、フーリエ変換型質量分析計(Fourier−transform mass spectrometer)、フーリエ変換型イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(Fourier−transform ion cyclotron resonance mass spectrometer)などであればよく、またそれ以外の既知の質量分析計でもよい。また質量分析計以外の既知の検出器でも構わない。例えば、電子増倍管、蛍光検出器、荷電化粒子検出法(CAD)などでもよい。
本実施例では、試料が接触するのはイオン化ニードル1のみであるため、イオン化ニードル1を使い捨てにすることで、洗浄不要でかつキャリーオーバーやクロストークが大幅に改善される。また、配管の詰まりも低減する。さらに、送液溶媒も不要となる。
実施例1では、イオン化ニードル1を試料毎に交換する例で説明したが、本実施例では、イオン化ニードル1を洗浄して再利用する方法を説明する。実施例1と異なるところは、廃棄工程S6の代わりとして、洗浄工程S7が追加される。すなわち、本実施例の工程は、連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4、イオン化工程S5、洗浄工程S7の順番に実行される(図1B)。以下は、洗浄工程S7の説明と、実施例1と異なる個所のみ説明する。
洗浄工程S7では、分析に使われ、試料の付着したイオン化ニードル1を洗浄する工程である。イオン化工程S5が終了後、試料の付着したイオン化ニードル1は、実施例1と同様に位置54(図14)へ移動する。移動したイオン化ニードル1は位置55〜57を得て洗浄位置61へ移動する。洗浄位置61では、以下の流れで洗浄が行われる(図15)。アーム62は搬送駆動部63により駆動し、アーム12や14と同様の動作をする。アーム62が、ニードル保管部16に置かれたイオン化ニードル1と連結する(図15A)。連結後、駆動部63により、イオン化ニードル1は洗浄液64の入った洗浄瓶65の上方へ移動する(図15B)。その後、アーム62によりニードル1が洗浄液64に全部浸るまで下げる。アーム62が上下することによりイオン化ニードル1は洗浄液を出たり入ったりし、これを複数回繰り返すことでイオン化ニードル1は洗浄される。通常、数回から数10回程度行えば十分洗浄される。洗浄されたイオン化ニードル1は、ニードル保管部16へ戻し、その後位置51へ移動して再度分析に用いることができる(図14)。洗浄液64は、メタノール、エタノール、アセトニトリルや、その他の有機溶媒、水、これらの混合物であればよく、また一般に良く使われるプラスチックや金属を洗浄可能な洗浄液でもかまわない。洗浄を繰り返すことで洗浄液は徐々に汚れてくるため、洗浄液は1回毎または定期的に交換するのが望ましい。本洗浄方法によりニードルをきれいに洗浄することで、汚染物質混入を防ぐことができ、再利用した測定でも高精度な分析が可能となる。
以下に、別の洗浄方法の実施例を示すが、どの例においても、イオン化工程S5が終了後、試料が付着したイオン化ニードル1は、洗浄位置61へ移動するのは先例と同様である。図16に示す実施例は、超音波を用いた洗浄方法である。洗浄位置において、駆動部63により駆動可能なアーム62を用いて、イオン化ニードル1を洗浄液64に浸す(図16A)。イオン化ニードル1のすべてを洗浄液に浸した後、超音波洗浄機66を用いて、数秒から数分間、洗浄液64を振動させて超音波洗浄を行う(図16B)。
別の洗浄方法の実施例を図17Aに示す。本例は、高圧洗浄機を用いる方法である。高圧洗浄機67は、洗浄液を高圧に洗浄用配管68の先端から放出し、イオン化ニードル1を洗浄する装置である。洗浄位置61において、イオン化ニードル1はニードル保管部16に置かれたまま洗浄が行われる(図17A)。高圧洗浄機67により放出される洗浄液がイオン化ニードル1に吹き付けられ、イオン化ニードル1が洗浄される。イオン化ニードル1の内壁および外壁がともに洗浄される。
高圧洗浄機を用いた別の実施例を図17Bに示す。図17Aとの違いは、搬送駆動部63で動作可能なアーム62を用いてイオン化ニードル1を持ちあげ、ニードル保管部16から浮かせることである。この方法では、イオン化ニードル1の外壁や、金属キャピラリー3の外壁もよりきれいに洗浄可能になり、またニードル保管部16もきれいに洗浄可能となる。
高圧洗浄機を用いた別の実施例を図18に示す。アーム62により、容器69の上部へイオン化ニードル1を移動後に、高圧洗浄機67により洗浄を行う(図18B)。容器69は噴霧された洗浄液の受け皿であり、洗浄に使われた洗浄液は、容器69にためられ回収される。使用済みの洗浄液は、容器69が満たされる前に、定期的に廃棄する。同時にニードル保管部16も、高圧洗浄機67により洗浄しておくことが望ましい。
高圧洗浄機により、電圧印加用の接触端子18(図8、図14)やその他の試料で汚染される個所も洗浄しておくとさらに望ましい。
別の洗浄方法の実施例を図19に示す。本例は、試料の吸引方法と同様な方法である、シリンジ6やシリンジポンプ8を用いる方法であり、洗浄液の吸引・排出を繰り返してイオン化ニードル1を洗浄する。実施例1と同様に、駆動部13により移動可能なアーム12を用い、配管5をイオン化ニードル1に結合する(図19A)。その後、洗浄液64の入った洗浄瓶65の上部へイオン化ニードル1は移動し、イオン化ニードル1の先端4を洗浄液64の中へ浸ける(図19B)。その後、液体試料を試料容器2へ導入する方法と同様に、シリンジポンプ8を上方に引くことで、試料容器2内は減圧され、洗浄液64が試料容器2内へ入り込む。試料容器2が洗浄液でほぼ満たされるところで、シリンジポンプは止める。続いて今度は逆に、シリンジポンプ8でシリンジ6を下方へ押すことで、洗浄液64は洗浄瓶65へ排出される。このシリンジポンプの動作を数回繰り返すことで、イオン化ニードル1の洗浄を行う。試料容器2に入った洗浄液64を排出する際に、洗浄液64の入った洗浄瓶65へ排出するのではなく、別の廃棄用の瓶へ排出しても良い。その方が、瓶65に入っている未使用の洗浄液64が汚染されないために好ましい。配管まで洗浄液を吸い上げて、配管も同時に洗浄することも可能である。
上記に示した洗浄方法は一例にすぎず、その他の既知の技術を用いた洗浄方法でも構わない。
本実施例では、先述の移動用アームに、さらに高電圧印加機能を持たせた構造による実施方法を説明する。本実施例は、イオン化ニードル1を搬送駆動部72で制御するアーム71を用いて移動し、またアーム71を通して高電圧電源73から高電圧を印加する方法である。アーム71の表面は金属メッキ等の導電性物質で形成されており、その導電性物質を伝ってイオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧が印加される。基本的な分析の流れは、実施例1と同様であり、連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4、イオン化工程S5、廃棄工程S6が行われる(図1A)。実施例1と違う個所を中心に説明する。
連結工程S1は、イオン化ニードル1の試料容器2に配管5を連結する工程である(図20)。実施例1との違いは、イオン化ニードル1にはアームが連結されていないことであるが、イオン化ニードル1はニードル保管部16により固定されるため、連結をスムーズに実施することが可能である。その他は、実施例1と同様である。
移動工程S2は、試料吸引のために、イオン化ニードル1のニードル先端4が、液体試料10の内部へ移動する工程である(図21)。イオン化ニードル1の移動は、搬送駆動部13につながれたアーム12を用いて移動する。イオン化ニードル1は軽量であるため、配管5につながれたアーム12のみで、配管5もイオン化ニードル1も移動させることが可能である。その他は、実施例1と同様である。
吸引工程については、実施例1と同様であるため、説明は省略する。(図22)
移動工程S4は、質量分析計のイオン化の位置へイオン化ニードル1が移動する工程である(図23)。液体試料10が試料容器2に満たされたイオン化ニードル1は、アーム12を駆動する駆動部13により、上部へ移動し、質量分析計の導入口である対向電極21の細孔22付近へニードル先端4が移動する。この際に、液体試料の重みにより、イオン化ニードル1が配管5と切り離されてしまうのであれば、イオン化ニードル1を保持するようなアームを用意しておけばよい。
イオン化工程S5は、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧が印加され、送液の開始とともにイオン化が行われる工程である(図24)。搬送駆動部72につながれたアーム71はイオン化ニードル1の金属キャピラリー3に結合し、イオン化ニードル1の位置を保持・固定する役割を果たす。アーム71とイオン化ニードル1の結合方法は、図11の説明と同様な方法で行う。まず、高電圧電源73の電圧は、アーム71の表面を伝って、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に印加される。この状態で、アーム12とアーム71を用いて、配管5をイオン化ニードル1から切り離す。例えば、アーム71を固定し、アーム12を上方へ移動させればよい。切り離されたと同時に送液が開始され、イオン化により生成されたイオン17は細孔22から検出部に導入され分析される。
廃棄工程S6は、測定終了後に、使用されたイオン化ニードル1が廃棄される工程である(図25)。アーム71を駆動する搬送駆動部72により、使用済みのイオン化ニードル1はニードル保管部16の上部へ移動する。移動した後に、駆動部72によりアーム71は開き、ニードル保管部16に戻る。その後は、イオン化ニードル1は廃棄してもいし、また実施例2に示したように、洗浄して再利用することも可能である。
電圧印加のための別の接触端子の構造を図26Aに示す。実施例1との違いは、固定部31と接触端子18の間にばねが1つで、片側は直接固定されている。実施例1と同様、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3が接触端子18に接触することにより、電圧が印加される。
電圧印加のための別の接触端子の構造を図26Bに示す。高電圧電源19につながれた接触端子33がV字構造になっており、その間に金属キャピラリー3が入り、接触する方法である。
電圧印加のための別の接触端子の構造を図26Cに示す。2つの接触端子34が駆動部20により動き、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3を挟み込む。また高電圧電源19により接触端子34を伝って金属キャピラリー3に電圧印加される。
電圧印加のための別の接触端子の構造を図26Dに示す。2つの接触端子35に丸いくぼみがあり、金属キャピラリー3とも接触面積が拡大し接触しやすいようになっている。その他は、図26Cの例と同様である。
また別の実施例として、アーム71と駆動部72のみを用いる方法を説明する。上記実施例では、アーム12と駆動部13を用いたが、本例では、アーム12と駆動部13を用いず、図20の連結工程ににおいて、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3にアーム71を結合する方法である。ニードル保管部16の構造を工夫すれば、直接金属キャピラリー3をアーム71でつかむことが可能である。すなわち、金属キャピラリー3の周辺のみ、ニードル保管部16の壁をなくしておけばよい。この方法では、アームが1つで済むため、構造が簡潔である。
本実施例で説明した電圧印加方法は、他の実施例においても使用可能である。
これまでの実施例のイオン化工程S5において、イオン化を開始するために配管5をイオン化ニードル1から切り離すときに、配管5を上方(Z軸方向プラス側)に移動させていた。しかしこの際に、試料容器2内が減圧されるために液体試料が吸い上がり、結果として金属キャピラリー3の先端4に空気が少し入ってしまう可能性がある。その結果、金属キャピラリーがΦ0.1mmやΦ0.2mmなど内径が細い場合には、液体試料が自然落下の方法では送液できないことある。そのため、イオン化ニードル1の先端4に空気が入り込むことを防止して送液を実施する方法を開示する。
1つ目の実施例は、シリンジ6のピストン7で加圧しながら配管5を切り離す方法である。すなわち、実施例1のイオン化工程S5(図6)において、シリンジポンプ8によりピストン7を図の下方(Z軸方向マイナス側)に押しながら、配管5を取り外す方法である。この際、金属キャピラリー3の先端4から液体試料が少し流れ出るくらいに加圧しておけば、空気が先端から金属キャピラリー3の中に入り込まなくて望ましい。
別の実施例は、配管5の途中にバルブが付いていて、そのバルブを開く方法である。図27のように、配管5の途中にバルブ81がついており、制御部82によりバルブ81を開閉できる構造になっている。バルブ81を開いて解放し、配管5の内部を大気開放して大気圧にする。この動作により配管5をイオン化ニードル1から切り離す時に、試料容器2内部が下夏されなくなり、試料容器2に入っている液体試料10が配管の上昇とともに吸引されることなく、空気が金属キャピラリー先端に入るのを防ぐことができる。バルブの例で説明したが、バルブ以外の方法でも、配管5の内部や試料容器2の内部を大気圧にする方法であればどのような方法でもよい。
また別の実施例は、配管5を金属キャピラリーと同じZ方向(上下方向)に動かして外すのではなく、X方向(横方向)にスライドさせて、配管5を試料容器2から取り外す方法である。スライドさせることで、試料容器2の内部が減圧されずに大気開放され、空気が金属キャピラリー先端から入るのを防ぐことができる。この方法は、既知の技術で可能なスライド式の連結方法を用いればよい。
本実施例で説明した方法は、他の実施例においても使用可能である。
イオン化工程時の液体試料の送液流速の調整方法の実施例について説明する。実施例1では、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3の内径を変えることにより送液流速を変える方法を説明したが、本実施例では、別の方法を説明する。
実施例を図27に示す。本実施例では、配管5を試料容器2から切り離さずに試料送液とイオン化を行う。液体の流速制御を、バルブ81の開閉により調整する。バルブが閉じていれば、液体は滴下せず、流速は0となる。一方、バルブを完全に開いて解放すれば、流速は、図13のように、金属キャピラリーの内径と溶媒の粘性で決まる流速で流れる。その間の流速は、バルブの開閉率により調整することが可能である。すなわちこのバルブの開閉を調整することで、任意の流速に送液速度を設定することが可能となる。バルブ81は制御部82につながれていて、試料ごとに流速を変えることも可能である。また制御部82はパソコンなどにつながれており、あらかじめ決められた設定の通りに自動制御も可能である。
また別の実施例を図28に示す。イオン化工程時に、配管5を切り離した後、穴84のあいたふた83で試料容器2の上部に蓋をする方法である。穴84の面積により、送液流速が調整可能である。例えば、穴84の面積が大きければ流速は大きくなり、穴の面積が小さければ流速は小さくなる。数100μm〜数10mm程度の直径の穴があいていればよい。様々な穴のサイズのふたが複数準備されていて、パソコンで設定した流速に従い、自動にふたをする機構があってもよい。
実施例1および図13の送液流速の結果もイオン化ニードル1は、重力の方向と平行であるZ軸に平行に配置した。本実施例では、送液流速の別の調整方法として、イオン化ニードル1の角度を傾けることで送液流速を調整する方法を説明する。図29Aには、Z軸方向から45度傾けた例を示す。45度傾けることで、図13の時に比べて送液速度は低下する。これはニードルを傾けることにより、液体面とニードル先端4のZ軸方向の距離(高さ)が、距離aから距離bに小さくなるために流速が低下するためと推測される(図29B)。このようにニードルの角度の調整により、送液速度が自由に調整可能である。本例では45度傾けた例で説明したが、所定の流速にするために様々な角度を適宜調整して、流速を調整することが可能である。またニードルを傾けた際には、試料が試料容器2の上部からこぼれ出ないように、上面の一部に蓋をするまたは試料容器2の構造を工夫して試料がこぼれないようにする必要がある。または試料容器2はZ軸に平行に配置し、ニードル1のみを傾けたようなニードルであればよい(図29C)。
別の送液速度の調整方法の実施例を説明する。本実施例では、図30のように、試料容器2の内側の底に、紙などの多孔質な物質を設置する方法である。この多孔質な物質は、物質内部に隙間があいているため、液体試料がこの多孔質物質を透過することが可能である。しかしこれらの多孔質物質は液体の流れの抵抗として機能するために、液体が通過しにくくなり、結果として送液流速が遅くすることが可能となる。図30Aには、紙や布などでできた多孔質物質91を設置した例を示す。図30Bには、木、プラスチック、スポンジなどの多孔質物質92を設置した例を示す。この多孔質物質の設置により、落下による送液流速を遅くすることが可能となる。また多孔質物質の量、厚みにより送液速度が調整可能である。その他の既知の多孔質物質であっても同様に実施可能である。
本実施例は、イオン化ニードル1の金属キャピラリー95の先端4が先鋭である例である。図31に実施例の例を示す。良く使われる注射針の用に、例えば先端の直径が数μm〜数100μm程度に先鋭に尖っている。液体はこれまでの例と同様に、金属キャピラリー95の内部を通って先端4から噴霧される。先鋭にとがっていることで、放電の安定によるイオン化の安定し、また先端部において局所的なナノスプレーが実現できる可能性がある。
別の実施形態として、上記実施例のようにイオン化ニードル1だけでなく、試料瓶を上下に移動させることで試料吸引を行う方法を説明する。実施例3の応用例として説明する。測定動作の工程は、連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4、イオン化工程S5、廃棄工程S6からなり、実施例1と同じである(図1A)。廃棄工程S6は洗浄工程S7と入れ替えてもかまわない。
連結工程S1は、実施例1や3と同様なので省略する。
移動工程S2は、これまでの実施例と違い、イオン化ニードル1と試料瓶11の両方が移動する工程である。イオン化ニードル1は質量分析計のイオン化位置に移動する。その後試料瓶11がニードル1の位置へ移動する。液体試料10の入った試料瓶11はステージ96の上に乗り、制御部97によりステージ96がZ軸方向に上下することで、試料瓶11も同時に上下する。ニードルの先端4が液体試料10内に浸かるように、試料瓶11がZ軸プラス方向に移動する(図32A→図32B)。試料瓶11は、試料が複数並べられている試料瓶保管部41(図8)から1つピックアップしてステージ96上へ乗せればよい。
吸引工程S3は、実施例1や3と同様なので省略する。
移動工程S4は、試料瓶11が移動する工程である。ステージ96がZ軸マイナス方向に動くことで、試料瓶は図32Aのようなもとの位置へ戻る。その後、使われた試料瓶は廃棄または試料瓶保管部41へ移動される。
イオン化工程S5と廃棄工程S6は、実施例1や3と同様なので省略する。
公知の特許文献1〜3に共通する問題は、イオン化中に次の測定試料を吸引、補充ができないために、分析のスループットが高くできないことである。共通の問題と個別の問題を、文献毎に以下に整理して説明する。
特許文献1では、イオン化の最中は、試料吸引・搬送用ピペッターとチップが、イオン化ニードルであるシリコン基板に連結されているため、次の試料を吸引することはできず、分析のスループットは高くできない問題がある。また別の問題として、イオン化ニードルの配管内径は、数μm程度であるため、ゴミや試料が詰まりやすいという問題がある。特に前処理できれいにゴミを除去していない試料、つまり簡便な前処理のみ行った試料では使用できない。また、イオン化促進のためのネブライザーガス等を用いていないため、送液流速が小さいナノスプレーは可能であるが、送液流速が大きくなれば、感度低下が予想される。
特許文献2では、イオン化の最中は、物理的に針への試料の吸引・供給ができないために、イオン化が断続的・離散的になり、分析のスループットを高くすることはできない。また別の問題として、プローブが高速に往復運動するため、イオン化が不安定になり、イオン強度も安定しない懸念がある。
特許文献3では、イオン化の最中は、試料吸引・搬送用ピペッターが、イオン化ニードルに連結されているため、次の試料を吸引することはできず、分析のスループットは高くできない問題がある。また、試料吸引時に、イオン化ニードルの外壁にも試料が付着してしまうために、その後イオン化ニードルをイオン化部のガス噴霧管(ネブライザーガス管)に挿入する際に、ガス噴霧管内部を汚染してしまう問題がある。その結果、キャリーオーバーが発生し、定量精度が低下する問題もおこる可能性がある。
本実施例以降では、これまでの実施例と同様に、共通する問題であるイオン化中に次の試料を吸引できないために、分析のスループットが低下する問題を解決する方法・構成を開示する。また、特許文献1の問題である、イオン化ニードル径が小さく試料が詰まりやすい問題、送液流速が小さいナノスプレーイオン化しかできない問題を解決し、送液流速の大流量化にも対応したイオン化促進のためのガスを用いた方法・構成を開示する。また、特許文献2の問題である、イオン化が不安定になる問題を解決する方法・構成を開示する。さらに、特許文献3の問題である、試料が付着後にイオン化ニードルを噴霧管に挿入することにより起こるキャリーオーバーの問題を解決する方法・構成を開示する。これらの問題を同時に解決可能な手段を開示する。
本実施形態は、圧力差を用いて試料溶液の送液流速を制御する方法を開示する。本開示の利点は、圧力制御により、これまでの重力による制御方法よりも、より精度良く送液流速を制御可能である。また、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3の外壁は液体試料と接触しないために汚れず、その結果、金属キャピラリー3の外壁と接するネブライザーガス管104内部の汚染を大幅に低減可能である。これまでの実施例では、重力による送液方法であり積極的に送液速度を制御しない受動的な方法であったが、本実施例では送液速度を制御可能な能動的な方法を開示する。本方法は、イオン化ニードル1をイオン化室101の台108に配置し、その後液体試料10を上部より試料容器2へ供給し、イオン化する方法である。これらの構成は図34に示してある。送液流速の制御は、試料容器2にある液体試料10の上面側の空気の圧力と下面側の空気の圧力の差を用いて送液制御を行う方法を説明する。本実施例は、図33Aにあるように、圧力制御工程S8、移動工程S2、電圧印加工程S9、試料供給工程S10、イオン化工程S5、廃棄工程S6、洗浄工程S7からなる。
圧力制御工程S8は、イオン化室101の内部の圧力を調整・設定する工程である。本実施形態の送液速度は、大気圧とイオン化室の圧力の差により制御される。送液速度を一定にするためには、イオン化室の内部の圧力を制御し、圧力差を一定にする必要がある。詳細については後述する。
移動工程S2は、図34において、イオン化ニードル1がイオン化位置へ移動する工程である。イオン化ニードル1は、ニードル保管部16に複数並べられて配置されている。搬送駆動部15により駆動するアーム14はイオン化ニードル1に連結され、イオン化ニードル1はイオン化位置であるイオン化ニードルの固定台108へ移動する。イオン化ニードルは、最初、保管部16から上方(Z軸プラス方向)へ移動し、その後台108の上方へ水平移動(Z軸プラス方向)し、最後に下方(Z軸マイナス方向)へ移動する。イオン化ニードル1は、イオン化室101のネブライザーガス管104の内部に挿入され、台108に固定される。
電圧印加工程S9は、イオン化(静電噴霧)のためにイオン化ニードル1に電圧を印加する工程である。工程及び構成は図35に示してある。液体試料10が試料容器2に供給されると、重力や前記圧力差により直ちに液体送液が開始されるため、試料供給前にあらかじめイオン化ニードル1に電圧を印加しておくことが望ましい。電圧は高電圧電源19を用いて印加される。高電圧電源19はネブライザーガス管104に電気的に接続されており、あらかじめネブラーザーガス管に高電圧が印加されている。ネブライザー管の内部には接触端子115が付いており、イオン化ニードル1が挿入されると、接触端子115と金属キャピラリー3は接触する構造になっている。このように接触端子115を伝って、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧印加される。通常は、エレクトロスプレーイオン化のために数kV程度印加される。または、イオン化ニードル1を台108に設置した後に、電源より電圧を印加する方法でも良い。この方法では、イオン化ニードル1の移動中に放電するなどの危険を防ぎ、安全な装置制御が可能となる。
試料供給工程S10は、イオン化ニードル1の試料容器2に液体試料10を供給する工程である。試料容器2の広開口部側(図の上部)に、ピペッターを用いて液体試料10を供給する。以下の手順でピペッターを用いた試料供給が行われる。(a)ピペッター110に使い捨てのチップ111を取りつける。(b)瓶11に入った液体試料10を、ピペッター110を用いてチップ111に一定量吸い取る。典型的には数100nLから数100μL程度である。(c)試料の入ったチップ111とピペッター110をイオン化ニードル1の上部まで移動させ、ピペッター110により液体試料10を試料容器2へ供給する。(d)試料を供給後、チップ111は廃棄される。この作業を繰り返し行うことで、繰り返し測定することが可能となる。
イオン化工程S5は、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧が印加された状態で、液体試料が送液されることで静電噴霧(スプレー)が行われる工程である。すなわち、チップ111による試料供給と同時に送液は開始され、すなわちイオン化が開始される。ネブライザーガス管内部104には、ネブラーザーガス105が流れており、イオン化のための脱溶媒を促進する。ネブライザーガス管104の外側にある補助ガス管106の内部には温められた補助ガス107が流れており、液体の気化を促進する。補助ガスは数100℃に温められていると気化が進行しやすくて良い。イオン化領域125にイオン化されたイオン17は、検出部23である質量分析計に入り分析される。イオン化は、送液の終了とともに、すなわち液体試料10が試料容器2から無くなることで終了する。また試料容器2の上部の広開口部にふた(栓)をすることで、液体試料が残っていても途中で送液を止めることも可能である。イオン化工程S5時には、イオン化ニードル1は、アーム14等により台108に固定しておくことが望ましい。固定しておくことで、イオンニードル1が圧力差や気流等により動いたりずれることなく、安定した静電噴霧が可能となる。
廃棄工程S6は、使用されたイオン化ニードル1が、廃棄される工程である。測定が終了したイオン化ニードル1は、搬送駆動部15により駆動するアーム14により、ゴミ箱113に運ばれて廃棄される。
洗浄工程S7は、ネブライザーガス管を洗浄する工程である。廃棄工程S6において、測定で使われたイオン化ニードル1をネブライザーガス管から抜き取った際に、イオン化ニードル1の内部に残った液体試料がネブライザー管104の内壁に付着し汚染する可能性がある。その結果、次の測定のキャリーオーバーが発生し、測定精度が低下する問題が発生する。このために、ネブライザーガス管を測定毎に洗浄する、または定期的に洗浄する必要がある。洗浄方法は、測定後にイオン化ニードル1を取り除いた後、洗浄液117を含むピペッター116を用いて、ネブライザーガス管104の上部から洗浄液を滴下することで、ネブライザーガス管104の内部を洗浄する。通常、数10μLから数10mL程度の洗浄液を用い数回程度洗浄する。洗浄器具は、ピペッターを用いた例で説明したが、シリンジやその他の洗浄溶液を放出可能な代替品でかまわない。洗浄工程は測定毎に毎回行うことが望ましいが、汚れが許容できる測定であれば、測定数回に1回の洗浄でもよい。また、洗浄工程を行わなくても本発明は実施可能である。
以下、本実施例特有の送液速度の制御方法について説明する。
送液流速の制御方法を以下に説明する。流速制御のために、圧力の制御を行う。圧力制御工程S8について、図34を用いて説明する。イオン化室101は試料溶液の飛散防止のために図のように壁100で追われており、台108とネブライザー管104でのみイオン化室内部と外部(大気圧)は気体が行き来できるような状態である。このため、イオン化室101に液体試料10の入ったイオン化ニードル1を設置した時には、イオン化室の内部と外部は遮断される。イオン化室外部は大気圧であるが、イオン化室内部は気密されている。その機密されたイオン化室内部は、ネブライザーガスや補助ガスで加圧されている、一方、質量分析計に設置されたポンプにより減圧されている。ネブライザーガスや補助ガスは、ガスフローメータなのでガス流量制御部123〜124を用いて行う。典型的には、ネブラーザーガス(1L/min)や補助ガス(4L/min)で加圧し、一方、質量分析計(−1L/min)で減圧されるため、イオン化室内部は4L/min程度で加圧されていることになる。この状態では、イオン化ニードル1に供給された液体試料が、これまでの実施例で説明してきた重力のみでは液体試料を落下させて送液することができないことが考えられる。さらに言えば、イオン化ニードル1を設置した瞬間に液体試料10が上部へ噴射してしまうという問題が起こることも考えられる。このため、イオン化室内部を減圧する手段が必要となる。さらにイオン化室内部へ液体送液するためには、イオン化室外部よりも、イオン化室内部の圧力を低くする必要がある。
ここで問題となるのが、イオン化室外部(大気圧)の圧力変動である。大気圧は環境や日により90~110kPa(変動幅20kPa)の間で変動する。このためイオン化室の内部の圧力を一定に制御しても、大気圧の圧力変化により圧力差が日々変動するため、送液速度も日々変動してしまう。この問題を解決し送液速度を一定にするために、イオン化室内部と外部(大気圧)の圧力差を一定にする必要がある。このため、大気圧の変化に応じて、イオン化室内部の圧力を変化させる必要がある。本実施例では、常に一定の送液速度で送液しイオン化するために、イオン化室の内部の圧力を制御することで、外部(大気圧)との圧力差を制御する方法を開示する。イオン化室の内部の圧力を調整する機構として、ポンプ103およびバルブ102を設置する。
送液速度を一定にするためにどの程度の精度で圧力制御が必要かを見積もる。大気圧(〜100kPa)中において、イオン化ニードル1の配管内部におよそ高さ5cmの液体が存在している時の、その液体の上面と下面の圧力差を見積もる。
(数1)
上記数式1により、5cmの水柱は0.5kPaの圧力差を持ち、その圧力差により液体は下方に流れ始める。この0.5kPa程度の圧力差を常に一定に保つために、少なくとも0.1kPa(大気圧の約1/1000)程度またはそれ以下の精度で圧力差を一定に制御することが必要となる。一方で、送液速度を変動させる要因である圧力変動要因で、最も影響が大きいのは上記の大気圧の変動である。この問題を解決するために、毎日1回から数回程度、イオン化室の内部の圧力を制御して圧力差を一定にして、送液流速を一定に制御する必要がある。
イオン化室の内部の圧力制御方法としてポンプ103とバルブ102を用いる。また圧力を計測する圧力センサー118〜119を、イオン化室の内部および外部に設置し、圧力をモニターする。圧力センサーより計測される2つの圧力差が一定になるように、イオン化室の内部の圧力を調整・制御する。制御方法は、人間が定期的にチェックして手動でポンプ103やバルブ102を制御する方法でもよいが、コンピュータによる自動制御が望ましい。イオン化室内部の圧力を変化させる方法として、ポンプの排気速度を変化させる、またはバルブによりポンプの実効排気速度を変化させる方法を用いる。
イオン化室内部の圧力を変える別の方法として、排気ファン、フローメータ等を用いることも可能である。またその他の既知の減圧手段であればよい。
圧力モニター手段として、差圧計を用いる方法もある。差圧計を用いて圧力差が一定になるように、イオン化室の内部の圧力を制御することで、本実施例では、送液速度を一定にすることが目的であるため、定期的に送液速度をモニターする手段があることが望ましい。1つの方法は、超音波やレーザーなどの液面センサーによる液面探知により、液体上面の位置情報を調べる方法である。この上面の位置情報と経過時間から、消費した液体量を計算し、液体の送液流速を算出することが可能である。モニターの結果、送液速度が指定した値からずれた場合は、イオン化室内部の圧力を再度調整し直すことも可能である。圧力制御の頻度は、測定中に液体残量が変わるたびに行っても良く、また測定試料が変わる毎に行っても良い。1日の大気圧の圧力変動はそれほど大きくないため、一日1回、または数回程度行う方法でも良い。
別の送液流速のモニター方法として、液体試料10の重量を計測して送液流速を算出し、送液流速を制御する方法がある。台108に重量測定の機能が付いて液体試料の重さを常時計測して、送液速度を算出することも可能である。その他、既知の液面探知や液体重量計測によって、送液速度を算出することも可能である。
本実施例では、廃棄工程を設けているが、イオン化ニードル1を再利用することも可能である。その際には、廃棄工程は洗浄工程に変わる。洗浄して再利用するために、イオン化ニードル1は洗浄場所へ移動する。洗浄方法は、これまでの実施例で説明した方法と同様で良い。
イオン化ニードル1の金属キャピラリー3への電圧印加方法は、ほかの方法でもかまわない。1つの方法は、図36にあるように、試料容器2の外壁に金属などの導電性物質122でメッキされており、金属キャピラリー3と電気的に導通している。高電圧電源19から導電体でできた台108に電圧印加され、台108に置かれたイオン化ニードル1の導電性物質122にも電圧印加され、導通している金属キャピラリー3に電圧印加されてスプレーされる。
通常、イオン化室外部の圧力が大気圧である100kPa程度に対し、イオン化室内部の圧力は例えば1kPa~100kPaで使用可能である。圧力の下限は針の内径を、液体試料の両を決めた時に、どれだけの時間送液されるかによって決められる。また圧力差を0にする、すなわちイオン化室内部と外部の圧力を同じになるように制御する方法でもよい。この場合は、圧力差による送液ではなく、重力による落下送液になる。
別の実施形態を説明する。本実施例の工程や構成はほぼ実施例10と同じである。実施例10とは異なる部分である、構成と圧力制御工程について以下説明する。本実施例は図37のような構成で行う。実施例10との違いは、イオン化室101の壁100にバルブ109が付いていることである。イオン化室の内部と外部の空間がこのバルブの穴をかいして接続され、イオン化室の内部と外部の両空間の間のコンダクタンスを調整することができる。バルブ109を開いた時には、圧力の高い方から低い方へガスが流れ込み、イオン化室の外部と内部の圧力差が小さくなる。このようにバルブ109を設けることで、イオン化室の内部と外部で圧力差を小さくするもしくは一定にすることができる。その結果として、バルブ102やポンプ103による制御範囲が狭くなるまたは不要になるメリットがある。バルブ109に空く穴の直径は、およそ0.1mmから数100mm程度で良く、バルブで開閉することでコンダクタンスが調整でき、圧力差を調整可能である。
別の実施形態として、シリンジと送液ポンプを用いて送液する方法を説明する。本実施例の利点は、送液ポンプを用いた送液により、一定の送液流速で安定して送液可能となる。本実施例は、図33Bにあるように、移動工程S2、電圧印加工程S9、試料供給工程S10、連結工程S1、イオン化工程S5、廃棄工程S6、洗浄工程S7からなる。実施例10と異なる、連結工程S1とイオン化工程S5のみ説明する。その他は実施例10と同様である。
連結工程S1は、送液のための配管114とイオン化ニードル1を連結する工程である。図38にあるように、配管120はシリンジ6に接続されており、配管120とシリンジ6の内部には液体121でほぼ満たされている。その配管120をイオン化ニードル1の試料容器2に図のように連結する。この際に、液体試料10が配管120や液体121には触れないようにするために、空気層112があらかじめ設けられている。これにより、配管120や液体121の汚染を防ぎ、測定のキャリーオーバーを低減させることができる。
本方式では、空気層112の体積が大きいと、シリンジポンプ8でシリンジ6を押したとしても、空気層112の膨張や圧縮により、シリンジ6から先端の液体試料10にまで正確に圧力が伝わりにくいために、液体を一定速度で押すことができず、結果として試料の送液速度が安定しないことが考えられる。このため、空気層112は、液体試料10と液体113が混ざり合わない程度に微小な体積であることが望ましい。つまり液体113をできるだけ多量に充填されていることが望ましい。液体113は水や有機溶媒、試料の溶媒等で良い。
イオン化工程S5は、シリンジポンプ8によりシリンジ6を押すことにより送液され、噴霧を開始し、イオン化を行う工程である。従来の送液ポンプを用いた方法と同様に、あらかじめ指定した送液速度でシリンジ6のピストン7を押すことにより、安定した流速で液体送液が可能となる。
また別の方法として、実施例10のように、試料を上部からピペッターで供給した後に、シリンジ6に接続して、シリンジ6を送液用シリンジとして加圧することで送液する方法も可能である。この方法により、決められた送液速度で安定した送液が可能となる。
さらに別の方法として、試料吸引用のシリンジと送液用のシリンジを2つ用意する方法でも良い。それぞれ役割を分担することで、分析のスループットを高くすることが可能となる。これらの方法に置いても、空気層112は、液体試料10と液体113が混ざり合わない程度に微小な体積であることが望ましい。つまり液体113をできるだけ多量に充填されていることが望ましい。
別の実施形態として、ピペッターを用いて供給だけでなく送液も行う方法を図39を用いて説明する。本実施例は、図33Cにあるように、移動工程S2、電圧印加S9、試料供給とイオン化工程S11、廃棄工程S6、洗浄工程S7からなり、試料供給とイオン化工程S11以外は実施例12と同じである。実施例12と異なる工程である試料供給とイオン化工程S11のみ説明する。
試料供給とイオン化工程S11は、イオン化ニードル1への試料の供給を行う工程であるが、それと同時にイオン化が開始される。実施例10と同様、イオン化ニードル1はイオン化室101に挿入され、台108に設置されている。ピペッター110にはチップ111が装着され、ピペッターは液体試料10を瓶11からイオン化ニードル1へ移す役割を果たす。ピペッター110は、液体試料10をチップ111に決められた一定量吸い取る。その後、イオン化室101のイオン化ニードル1の上部へ移動し、液体が漏れないようにイオン化ニードル1とチップ111を密に連結する。その連結した状態で、ピペッターを一定の速度で押すことにより、液体試料を一定の流速で安定に送液する。ピペッターはシリンジポンプ等を設けることにより、一定速度で送液が可能である。
別の実施形態として、実施例10において、イオン化室が無い構成における実施例を図40を用いて説明する。本実施例は、図33Dにあるように、移動工程S2、電圧印加工程S9、試料供給工程S10、イオン化工程S5、廃棄工程S6、洗浄工程S7からなる。イオン化室が無いため、圧力差は無くなるため、圧力制御は不要となる。そのため、圧力制御工程S8が無い以外は、実施例10と工程は同じである。本実施例の試料溶液の送液方法は、実施例1同様に重力(液面の圧力差)により送液する。実施例1との違いは、イオン化ニードル1への液体試料10の供給方法である。液体試料10は実施例10と同様に、ピペッター110でチップ111に吸い取り、イオン化ニードル1へ上部から導入する。試料導入後、ただちに送液が開始され、イオン化が行われる。
別の実施形態として、実施例10の応用例を説明する。実施例10と同じ構成であるが、イオン化ニードル1への試料供給方法が異なる。試料の供給が、イオン化ニードルの先端から吸い上げることでイオン化ニードルへ供給される。本実施例の測定動作の工程は、圧力制御工程S8、連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4、イオン化工程S5、廃棄工程S6からなる(図33E)。
圧力制御工程S8は、イオン化室の圧力を制御する工程である。実施例10に記載のように、あらかじめ所定の送液流速になるように、バルブ102やポンプ103を制御することで、イオン化室の内部の圧力を調整する。
連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4は、実施方法は、実施例1と同様である。
イオン化工程S5は、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧印加され、液体試料が送液されることで静電噴霧(スプレー)が行われる工程である。電圧印加と試料供給とともに送液は開始され、イオン化が開始される。イオン化のための試料送液は、配管5をイオン化ニードル1から切り離すことで開始される。これらは図42に示されている。実施例10と同様、圧力差を用いて送液を行う。
廃棄工程S6は、使用されたイオン化ニードル1が、廃棄される工程である。測定が終了したイオン化ニードル1は、搬送駆動部15で制御されるアーム14により、ゴミ箱に捨てられる。
廃棄工程S6は、実施例10に記載のように、洗浄工程に置き換わることも可能である。
別の実施形態として、実施例1の応用例を説明する。実施例1の構成に、さらにイオン化室を設け、イオン化室内部で噴霧してイオン化する方法である。本実施例の測定動作の工程は、連結工程S1、移動工程S2、吸引工程S3、移動工程S4、イオン化工程S5、廃棄工程S6からなり、図1Aにあるように、実施例1と工程は同じである。イオン化工程S5のみ構成と方法が異なるので図43を用いて説明する。
イオン化工程S5では、イオン化ニードル1の金属キャピラリー3に電圧印加が行われ、液体試料が送液されることで静電噴霧(スプレー)が行われる工程である。実施例1との違いは、図43に示すように、配管5を切り離さずに、そのままシリンジ6およびシリンジポンプ8を用いて加圧することにより送液を行うことである。シリンジポンプ8を用いることで、常に一定の流速で安定した送液が可能である。
別の実施形態として、実施例12、13、16の応用例を説明する。これらの実施例において、イオン化部がイオン化室101で覆われていない場合、すなわち開放系であってもイオン化は可能である。これらの方法は、液体試料の送液をシリンジポンプやピペッター等の送液ポンプを用いる方法であり、イオン化室の有無にかかわらず安定した試料送液が可能である。
別の実施形態として、実施例1―9において、ネブライザーガスや補助ガスを使用する構成であってもかまわない。利点は、ネブライザーガスや加熱された補助ガスを液体試料に向けて流すことで、脱溶媒が促進され感度向上が期待できる。ただし一方、ネブライザーガス管が、試料で汚染されキャリーオーバーの原因になる。そのため、実施例10に記載のように、ネブライザーガス管の洗浄は必要になる。
同様な理由で、実施例10以降において、ネブライザーガスや補助ガスが無い構成であってもかまわない。感度が低下する問題あるが、汚れによるキャリーオーバーは低減するメリットがある。
また補助ガス107を流す補助ガス管106は、金属キャピラリー3と同軸管で説明したが、公知の技術のように別の場所から液体試料にガス流をあてる方法であっても良い。
別の実施形態として、実施例1の応用例を説明する。実施例10の構成に、開閉可能な扉122がついた構成であり、実施例10と異なりイオン化ニードルや試料溶液全体がイオン化室内部に入るため、試料溶液の上面と下面で圧力差は無い。すなわち、イオン化室の内部において、重力落下で送液する方法である。液体試料の供給はイオン化室外部で行い、実施例1のようにイオン化ニードル1の先端から供給する方法または、実施例10のようにイオン化ニードル1の試料容器2の上部から供給する方法どちらでも用いることが可能である。また別の供給方法でも構わない。イオン化ニードルに試料供給後、イオン化室101についた、扉122が開き、イオン化ニードル1は、イオン化室内部の台108に配置される。イオン化ニードル1は、イオン化室内部にあるために、液面の上下で大気の圧力は同じである。そのため、実施例1と同様に、重力落下により送液される。その他、詳細な方法は実施例1と同様である。本実施例も、ネブライザーガスや補助ガスはあってもなくてもどちらでも実施可能である。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。