JP5738081B2 - トンネル最適支保工選定装置及びトンネル最適支保工選定プログラム - Google Patents

トンネル最適支保工選定装置及びトンネル最適支保工選定プログラム Download PDF

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本発明は、トンネル施工におけるトンネルの最適な支保工を選定するトンネル最適支保工選定装置及びトンネル最適支保工選定プログラムに関する。
従来、山岳トンネル等のトンネルにおける支保工の設計では、支保工(鋼製支保工と吹付けコンクリート)を線形弾性体と見なし、鋼製支保工の発生応力度と吹付けコンクリートの発生応力度がそれぞれの降伏応力度以内に収まるような弾性設計を行うことが原則になっていた。しかし、トンネル掘削によって支保工に土圧が作用する際、吹付けコンクリートよりも鋼製支保工のほうが剛性が大きいので、鋼製支保工に土圧が集中する。そのため、鋼製支保工の発生応力度が鋼材の降伏応力度を超える場合がある。その場合、鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度内に収まるまで、鋼製支保工としてより耐力の高い仕様に変更していた。
特許文献1には、トンネルの安定性の検討や支保工設計に用いる応力解放率の算定方法について開示されており、この算定方法では有限要素法(FEM[Finite Element Method])による解析法を用いている。また、非特許文献1には、膨張性泥岩地山におけるトンネルの多重支保工の合理的かつ経済的な設計法と施工法について開示されており、トンネルの数値解析では地山を弾塑性体とし、鋼製支保工と吹付けコンクリートの降伏を考慮した三次元解析を用いている。
特開2008−19654号公報
剣持三平、「膨張性泥岩地山におけるトンネルの多重支保工の効果に関する研究」、早稲田大学:博士論文、2006年12月
しかし、実際には、鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度を超えても、直ちにトンネルが崩壊することはなく、鋼製支保工が塑性変形を起こしながら、降伏応力度にまだ達していない剛性の小さい吹付けコンクリートが残りの土圧に抵抗するようになり、最終的に吹付けコンクリートの発生応力度が降伏応力度以内に収まれば、支保工としての健全性(支保工の応力、周辺に発生する変形)が保たれる。すなわち、従来のトンネル支保工の設計方法は必ずしも合理的な設計方法とはいえず、特に、土被りが大きくかつ脆弱な地盤内にトンネルを建設する場合には支保工により大きな土圧が作用するため、上記のような設計方法における課題が顕在化しやすい。このような課題を考慮して支保工を選定しないと、トンネルの健全性と経済性の両者を満足するような最適な支保工を選定できない。
特許文献1の場合、有限要素法を用いて支保工設計に用いる応力解放率を算定しているが、上記の課題に対しては検討されていない。また、非特許文献1の場合、鋼製支保工の鋼材の軸応力が鋼材の降伏応力に達したら一定応力で鋼材が変形する応力−ひずみ関係を用いてトンネル支保工の挙動を再現することを提案している。しかし、トンネル断面形状が扁平である場合やトンネルに偏った方向から強い土圧が作用する場合には支保工に大きな曲げモーメントが作用するので、この場合に軸応力のみを降伏応力を基準にして判定しても、鋼製支保工の鋼材が降伏する箇所も弾性範囲内と判定される虞があり、支保工の応力や変形状態を精度良く判定できず、最適な支保工を選定できない。
そこで、本発明は、トンネルの最適な支保工を選定できるトンネル最適支保工選定装置及びトンネル最適支保工選定プログラムを提供することを課題とする。
本発明に係るトンネル最適支保工選定装置は、トンネル施工におけるトンネルの最適な支保工を選定するトンネル最適支保工選定装置であって、トンネルの鋼製支保工の仕様と吹付けコンクリートの仕様の組み合わせからなる支保工パターンとして支保工の耐力の異なる複数の支保工パターンを格納する支保工パターンデータベースと、支保工パターンデータベースに格納される複数の支保工パターンの中から支保工パターンを選択する選択手段と、トンネルの掘削面に段階的に掘削解放力を作用させ、各段階の掘削解放力に応じて鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位をそれぞれ計算する計算手段と、各段階の掘削解放力毎に、計算手段で計算された鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上か否かを判定する第1判定手段と、第1判定手段で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合には鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように鋼製支保工の剛性を低下させる剛性低下手段と、計算手段で計算された吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上か否か及び計算手段で計算されたトンネルの変位が許容変位以上か否かを判定する第2判定手段とを備え、計算手段で鋼製支保工に作用する軸力と曲げモーメントに基づいて鋼製支保工の発生応力を計算し、第1判定手段で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合、計算手段は剛性低下手段で低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位を計算し、第2判定手段が吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上と判定した場合又はトンネルの変位が許容変位以上と判定した場合には選択手段は現在選択されている支保工パターンよりもトンネルの健全性を確保できる支保工パターンを選択することを特徴とする。
このトンネル最適支保工選定装置は、支保工パターンデータベースを備えており、支保工パターンデータベースには支保工の耐力の異なる複数の支保工パターンが格納されている。支保工パターンは、鋼製支保工の仕様と吹付けコンクリートの仕様の組み合わせなる様々なパターンである。ある支保工パターンが設定されている場合、トンネル最適支保工選定装置では、計算手段によって、トンネルの掘削面に段階的に大きくなる掘削解放力を作用させながら、各段階の大きさの掘削解放力に応じて鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位をそれぞれ計算する。掘削解放力は、トンネルの掘削によってトンネル内空の土がなくなるので、その土がなくなったことによって掘削面に作用する土圧による力である。この掘削解放力を支保工の鋼製支保工と吹付けコンクリート及びトンネル周辺の地盤で受けるので、それに応じて鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力、トンネルの変位が発生する。この中でも、鋼製支保工の剛性が最も高いので、最初に鋼製支保工に掘削解放力が集中して作用し、鋼製支保工の発生応力が大きくなる。そのため、掘削解放力の大きさのある段階で、鋼製支保工の発生応力(計算値)が鋼材の降伏応力を超える場合がある。なお、鋼製支保工の発生応力については、鋼製支保工に作用する軸力と曲げモーメントに基づいて発生応力を計算しており、掘削解放力の大きさに応じてその軸力と曲げモーメントが大きくなる。このように鋼製支保工の発生応力に曲げモーメントも考慮しているので、トンネル断面形状が扁平な場合やトンネルに偏った方向から強い土圧が作用する場合に大きな曲げモーメントが鋼製支保工に作用しているときでも鋼製支保工の発生応力として高精度な値を得ることができる。
トンネル最適支保工選定装置では、ある段階の掘削解放力を作用させる毎に、第1判定手段によって、その大きさの段階の掘削解放力に応じた鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上か否かを判定する。実現象では、鋼製支保工の発生応力とひずみの関係は、鋼製支保工の発生応力が降伏応力より小さい場合には発生応力とひずみが共に大きくなり(弾性変形)、鋼製支保工の発生応力が降伏応力に到達した場合にはひずみだけが大きくなるが発生応力は降伏応力で一定となり(塑性変形)、非線形な関係となる。そのため、鋼製支保工が弾性変形している間は鋼製支保工によって土圧に抵抗できるが、より大きな土圧が作用することで鋼製支保工が塑性変形を起こすと鋼製支保工によって土圧に抵抗できなくなり、吹付けコンクリートとトンネル周辺の地盤が土圧に抵抗することになる。したがって、鋼製支保工の発生応力が降伏応力より小さい場合、現在設定されている支保工パターン(特に、鋼製支保工の仕様)で十分に健全性を確保することができる。一方、鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上の場合、現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保できているか否かは吹付けコンクリートやトンネル周辺の地盤に依存し、吹付けコンクリートの発生応力やトンネルの変形で判定する必要がある。
そこで、第1判定手段である大きさの段階の掘削解放力に応じた鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合(つまり、鋼製支保工が弾性変形から塑性変形に移った場合)、トンネル最適支保工選定装置では、剛性低下手段によって、鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように鋼製支保工の剛性を低下させる。つまり、実際には鋼製支保工は塑性変形になると発生応力が降伏応力で一定となり、鋼製支保工ではそれ以上の土圧を負担できないので、鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上大きくならないように鋼製支保工に作用する剛性を低下させる。鋼製支保工の剛性が低下すれば、これ以上の土圧は吹付けコンクリートとトンネル周辺の地盤で負担しなければならないので、トンネル最適支保工選定装置では、計算手段によって、鋼製支保工の低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位を計算する。さらに、トンネル最適支保工選定装置では、第2判定手段によって、その吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上か否かを判定するとともにそのトンネルの変位が許容変位以上か否かを判定する。吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力より小さい場合かつトンネルの変位が許容変位より小さい場合、現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保することができる。しかし、吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上の場合又はトンネルの変位が許容変位以上の場合、現在設定されている支保工パターンで健全性を確保できない。そこで、第2判定手段で吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上と判定した場合又はトンネルの変位が許容変位以上と判定した場合、トンネル最適支保工選定装置では、選択手段によって、支保工パターンデータベースの中から、現在設定されている支保工パターンよりもトンネルの健全性を確保できる支保工パターン(例えば、耐力の高い支保工パターン)を選択する。最終的に、健全性(支保工の応力、周辺に発生する変形)を十分に確保できる中で最も経済的な支保工パターンを選定できる。
このように、このトンネル最適支保工選定装置は、鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上となった場合には鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように剛性を低下させ、その低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力とトンネルの変位に基づいてよりトンネルの健全性を確保できる支保工パターンに変更する必要があるか否かを判定することにより、健全性(保全性)を十分に確保した支保工パターンを選定でき、トンネルの健全性と経済性の両者を満足するような最適な支保工を選定できる。健全性を十分に確保した支保工パターンでトンネルを施工することにより、切羽崩落や支保工の大変形等のトラブルを未然に防止できるので、トンネル施工の継続性を確保でき、トンネルの過剰変位の発生による再掘削等の手戻りを防止でき、さらに、選定した支保工による早期の対策工を実施できるので対策工法も効率化でき、トンネル施工の生産性(ひいては、経済性)が向上する。さらに、トンネル最適支保工選定装置は、鋼製支保工の発生応力を軸力と曲げモーメントを考慮して計算しているので、高精度な鋼製支保工の発生応力を推定でき、その高精度な鋼製支保工の発生応力を用いて降伏応力を基準とした判定を高精度に行うことができる。精度の低い発生応力を用いた精度の低い判定で耐力の高い支保工パターンを選定した場合には高コストとなるが、精度の高い判定で健全性を十分に確保できる最も低い耐力の支保工パターンを選定できるので、経済性に優れている。
本発明の上記トンネル最適支保工選定装置では、第2判定手段は、計算手段で最後の段階の掘削解放力に応じて計算された吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位のみに対して判定する。
このトンネル最適支保工選定装置では、第2判定手段での吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位の判定については、最後の段階の掘削解放力(すなわち、掘削解放力として作用する最も大きな値)に応じて計算された吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位のみを用いた判定だけを行う。このように、トンネル最適支保工選定装置は、第2判定手段での判定については最後の段階の掘削解放力に対する吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位のみを用いた判定だけを行うので、掘削解放力の各段階で判定を行う場合よりも処理負荷を軽減できる。
本発明に係るトンネル最適支保工選定プログラムは、トンネル施工におけるトンネルの最適な支保工を選定するためのトンネル最適支保工選定プログラムであって、コンピュータに、支保工パターンデータベースに格納されるトンネルの鋼製支保工の仕様と吹付けコンクリートの仕様の組み合わせからなる支保工の耐力の異なる複数の支保工パターンの中から支保工パターンを選択する選択機能と、トンネルの掘削面に段階的に掘削解放力を作用させ、各段階の掘削解放力に応じて鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位をそれぞれ計算する計算機能と、各段階の掘削解放力毎に、計算機能で計算された鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上か否かを判定する第1判定機能と、第1判定機能で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合には鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように鋼製支保工の剛性を低下させる剛性低下機能と、計算機能で計算された吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上か否か及び計算機能で計算されたトンネルの変位が許容変位以上か否かを判定する第2判定機能とを実現させるプログラムであり、計算機能で鋼製支保工に作用する軸力と曲げモーメントに基づいて鋼製支保工の発生応力を計算し、第1判定機能で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合、計算機能は剛性低下機能で低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位を計算し、第2判定機能が吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上と判定した場合又はトンネルの変位が許容変位以上と判定した場合には選択機能は現在選択されている支保工パターンよりもトンネルの健全性を確保できる支保工パターンを選択することを特徴とする。
本発明の上記トンネル最適支保工選定プログラムでは、第2判定機能は、計算機能で最後の段階の掘削解放力に応じて計算された吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位のみに対して判定する。
この各トンネル最適支保工選定プログラムによれば、この各プログラムをコンピュータに実行させることによって、上記トンネル最適支保工選定装置と同様の作用及び効果を奏する。
本発明は、鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上となった場合には鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように剛性を低下させ、その低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力とトンネルの変位に基づいてよりトンネルの健全性を確保できる支保工パターンに変更する必要があるか否かを判定することにより、健全性(保全性)を十分に確保した支保工パターンを選定でき、トンネルの健全性と経済性の両者を満足するような最適な支保工を選定できる。
本実施の形態に係るトンネル最適支保工選定装置の構成を示すブロック図である。 トンネルに対するFEM解析モデルの一例であり、(a)がトンネル掘削前であり、(b)がトンエンル掘削後であり、(c)が支保工設置後である。 鋼製支保工の応力―ひずみの関係を示すグラフの一例であり、(a)が従来の解析で用いられた関係であり、(b)が図1のFEM解析部での解析で用いられる関係である。 吹付けコンクリートの応力―ひずみの関係を示すグラフの一例であり、(a)が従来の解析で用いられた関係であり、(b)が図1のFEM解析部での解析で用いられる関係である。 図1の支保工パターンデータベースに格納される支保工パターンデータの一例を示す表である。 図1のトンネル最適支保工選定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
以下、図面を参照して、本発明に係るトンネル最適支保工選定装置及びトンネル最適支保工選定プログラムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施の形態では、本発明を、山岳トンネルにおける最適な支保工を選定するトンネル最適支保工選定装置に適用する。本実施の形態に係るトンネル最適支保工選定装置は、トンネルの施工前や施工中に、FEM解析(有限要素法解析)を用いて鋼製支保工の発生応力度、吹付けコンクリートの発生応力度、トンネルの変位を計算し、その鋼製支保工の発生応力度、吹付けコンクリートの発生応力度、トンネルの変位に基づいてトンネルの支保工を選定する。なお、FEM解析については、従来の手法を適用するので、以下では詳細な説明を省略している。
図1〜図5を参照して、本実施の形態に係るトンネル最適支保工選定装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係るトンネル最適支保工選定装置の構成を示すブロック図である。図2は、トンネルに対するFEM解析モデルの一例である。図3は、鋼製支保工の応力―ひずみの関係を示すグラフの一例である。図4は、吹付けコンクリートの応力―ひずみの関係を示すグラフの一例である。図5は、図1の支保工パターンデータベースに格納される支保工パターンデータの一例を示す表である。
トンネル最適支保工選定装置1は、健全性と経済性の両者を満足する最適な支保工を選定するために、鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度以上となった場合には鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度となるように剛性を低下させ(非線形性を考慮)、その低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力度とトンネル変位に基づいてよりトンネルの健全性を確保できる支保工パターン(例えば、支保工の耐力がより高い支保工パターン、トンネルの変形をより抑制できるトンネル施工方法による支保工パターン)に変更する必要があるか否かを判定する。さらに、トンネル最適支保工選定装置1は、高精度な鋼製支保工の発生応力度を推定するために、軸力と曲げモーメントを考慮して鋼製支保工の発生応力度を計算する。
トンネル最適支保工選定装置1は、図1に示すように、支保工パターンデータベース2、入力部3、FEM解析部4、支保工健全性判断部5、出力部6を備えている。なお、トンネル最適支保工選定装置1は、最適支保工選定だけを行う専用装置でもよいし、あるいは、パソコン等の汎用コンピュータで最適支保工選定用のアプリケーションプログラムを実行することによって構成されてもよい。
なお、本実施の形態では、支保工パターンデータベース2が特許請求の範囲に記載する支保工パターンデータベースに相当し、FEM解析部4が特許請求の範囲に記載する計算手段に相当し、支保工健全性判断部5が特許請求の範囲に記載する選択手段、第1判定手段、剛性低下手段、第2判定手段に相当する。
支保工パターンデータベース2は、トンネル最適支保工選定装置1の記憶装置(ハードディスク等)の所定の領域に構成されるデータベースである。支保工パターンデータベース2には、支保耐力やトンネルの施工方法の異なる複数の支保工パターンが格納される。支保工パターンは、鋼製支保工の仕様と吹付けコンクリートの仕様やトンネル施工方法の組み合わせからなるパターンである。支保工パターンデータベース2には、考えられる全ての支保工パターンが格納されてもよいし、あるいは、施工対象のトンネルに対する支保工パターンだけが格納されてもよい。各支保工パターンには、支保耐力と施工方法が対応付けられている。基本的には、支保工の発生応力を低減させる耐力の高い支保工を採用する場合あるいはトンネルの変形を抑制する施工方法(トンネルの全断面を一度に掘削して切羽の直近で支保工を設置する方法等)を採用する場合は、トンネルの健全性が確保されやすいが同時に建設コストも高くなる。また、支保工パターン毎に許容できる地盤データ等が対応付けられており、トンネルの地盤データ等が入力されると、そのトンネルに対する標準の支保工パターンが自動で選択されるようにしてもよい。なお、同じ耐力の支保工を用いてもそれを設置するタイミング(施工方法)が異なることにより、トンネルの変形をより抑制でき、トンネルの健全性を確保できる。
図5には、支保工パターンデータベース2に格納される支保工パターンの一例を示しており、耐力が低いものから順に並べられている。まず、耐力が最も低い、標準の支保工パターンであり、支保工を選定する際に初期パターンとして設定される。次に、対策案1として支保工設置間隔縮小のパターンであり、支保工を設置する間隔を標準より縮小して支保工への作用荷重の低減を図る。次に、対策案2として高規格支保工を採用するパターンであり、鋼製支保工の鋼材として標準よりも高規格なもの(降伏応力が高いもの)に変更する。次に、対策案3として支保工仕様ランクアップのパターンであり、鋼製支保工のランクをアップしたり、吹付けコンクリートの厚さを厚くする。次に、対策案4として二重支保工のパターンであり、一次側支保工を切羽直近で設置し、二次側支保工を切羽後方で設置する施工方法である。次に、対策案5として二重支保工のパターンであり、一次側支保工、二次側支保工を共に切羽直近で設置する施工方法である。対策案4と対策案5とは、同じ二重支保工であるが(二重支保工なので他の対策案よりも耐力が高い)、施工方法が異なり、対策案5の施工方法のほうがトンネルの変形を抑制できる。
入力部3は、トンネル最適支保工選定装置1のキーボードやマウス等で構成され、オペレータが入力するための手段である。入力部3から入力されるものとしては、支保工パターンデータベース2に格納される支保工パターン、施工対象のトンネル周辺の地盤データや地形データ、掘削解放力の段階数n等がある。
FEM解析部4では、支保工パターンが設定(再設定)される毎に、FEM解析(有限要素法解析)によって、施工対象のトンネル及びトンネル周辺の地盤の解析モデルを作成する。解析モデルとしては、トンネル掘削前の解析モデル(初期状態)、トンネル掘削後の解析モデル(モデルの掘削面に掘削解放力作用)、支保工パターンに応じた支保工設置後の解析モデル(モデルの支保工に掘削解放力作用、下記で説明するが段階的に大きくなる掘削解放力を作用させる)の順に、FEM解析の解析モデルを作成してゆく。図2(a)には、トンネル掘削前の解析モデルの一例を示している。図2(b)には、トンネル掘削後の解析モデルの一例を示しており、中央の空洞部分がトンネル部分であり、掘削面から掘削解放力Fが作用している。図2(c)には、支保工設置後の解析モデルの一例を示しており、トンネルの掘削面に沿って鋼製支保工Sと吹付けコンクリートCが設置され、掘削面から鋼製支保工Sや吹付けコンクリートC等に掘削解放力F’(掘削直後の掘削解放力Fより小さい値)が作用している。
掘削解放力は、トンネルの掘削によってトンネル内空の土がなくなるので、その土がなくなったことによって掘削面に作用する土圧による力である。この掘削解放力は、トンネル掘削後から支保工が設置されるまでの間、トンネル周辺の地盤のみに作用(トンネル周辺の地盤のみで土圧に抵抗)するので、支保工が設置されるまでにトンネルが変形する。したがって、支保工が設置されるときには、トンネル掘削直後の掘削解放力(初期値)から小さい値となっている。支保工が設置されると、この小さくなった掘削解放力σが支保工の鋼製支保工と吹付けコンクリート及びトンネル周辺の地盤に作用(鋼製支保工、吹付けコンクリート、トンネル周辺の地盤で土圧に抵抗)し、鋼製支保工の発生応力度、吹付けコンクリートの発生応力度、トンネルの変位が発生する。
特に、鋼製支保工の剛性が最も高いので、最初に鋼製支保工に掘削解放力が集中して作用(鋼製支保工で最大限に土圧に抵抗)し、鋼製支保工の発生応力度が大きくなる。そのため、掘削解放力σまでの大きさのある段階で、鋼製支保工の発生応力度(解析値)が鋼材の降伏応力度を超える場合がある。しかし、実現象では、鋼製支保工の発生応力とひずみの関係は、鋼製支保工の発生応力が降伏応力より小さい場合には弾性変形により、発生応力とひずみが共に大きくなり、鋼製支保工の発生応力が降伏応力に到達すると塑性変形により、ひずみだけが大きくなるが発生応力は降伏応力で一定となり、非線形な関係となる。したがって、鋼製支保工が弾性変形している間は鋼製支保工によって土圧に抵抗できるが、鋼製支保工が塑性変形になると鋼製支保工によって土圧に抵抗できず、吹付けコンクリートとトンネル周辺の地盤が土圧に抵抗することになる。
図3には、鋼製支保工の発生応力度(解析値)が降伏応力度以上となった場合の鋼製支保工の応力度σ―ひずみεの関係を示している。図3(a)は従来のFEM解析に用いられる関係であり、鋼製支保工を完全弾性体とみなし、発生応力度σが降伏応力度σsy以上となっても、発生応力度σとひずみεが共に大きくなり、従来のFEM解析では線形性(比例関係)で扱っていた。一方、図3(b)は本実施の形態のFEM解析に用いられる関係であり、鋼製支保工を弾塑性体とみなし、発生応力度σが降伏応力度σsy以上となると、ひずみεのみを大きくし、発生応力度σを降伏応力度σsyで一定とし、本実施の形態のFEM解析では非線形性で扱う。
このように非線形性で扱うためには、掘削解放力をσまで段階的に大きくしてゆき、鋼製支保工の発生応力度σが降伏応力度σsyに達する掘削解放力の大きさの段階を判断し、その段階から以降は図3(b)に示すように発生応力度σが降伏応力度σsyになるように、鋼製支保工の剛性を低下させる必要がある。
そこで、FEM解析部4では、i=1を初期値として、式(1)によって、段階的に大きくなる掘削解放力σ(i)を順次計算し、各段階の大きさの掘削解放力σ(i)をFEM解析の解析モデルに作用させる。ここでは、i=1,2,3,・・・,nとする。nは、掘削解放力を段階的に大きくする場合の段階数であり、予め設定される。nを大きくするほど発生応力度σが降伏応力度σsyに達する段階を高精度に判断できるが処理負荷は大きくなるので、その判断精度と処理負荷を考慮して設定するとよい。
σ(i)=(σ/n)×i・・・(1)
ある段階の掘削解放力σ(i)毎に、FEM解析部4では、その段階の掘削解放力σ(i)を作用させた解析モデルを用いたFEM解析によって、鋼製支保工、吹付けコンクリート、トンネル周辺地盤の各剛性を解析し、その各剛性に応じて鋼製支保工の発生応力度σ(i)、吹付けコンクリートの発生応力度σ(i)、トンネルの変位D(i)をそれぞれ計算する。鋼製支保工の剛性は、発生応力度σが降伏応力度σsyより小さい場合には掘削解放力σ(i)に応じて大きな値となり、発生応力度σが降伏応力度σsyに達すると発生応力度σが降伏応力度σsyとなるように低下させて小さな値となる(0の場合もある)。吹付けコンクリートの剛性とトンネル周辺の地盤の剛性は、発生応力度σが降伏応力度σsyより小さい場合には鋼製支保工の剛性が大きい値なので小さい値となり、発生応力度σが降伏応力度σsyに達すると鋼製支保工の剛性を低下させた分も加味して大きな値となる。鋼製支保工の剛性、吹付けコンクリートの剛性、トンネル周辺の地盤の剛性のそれぞれ分担割合については、鋼製支保工の仕様、吹付けコンクリートの仕様、地盤データに基づいてFEM解析によって計算される。
なお、鋼製支保工の発生応力度σ(i)については、式(2)によって計算される。N(i)は鋼製支保工に作用する軸力であり、M(i)は鋼製支保工に作用する曲げモーメントであり、Aは鋼製支保工の断面積であり、Zは鋼製支保工の断面係数である。吹付けコンクリートの発生応力度σ(i)については、式(3)によって計算される。N(i)は吹付けコンクリートに作用する軸力である。Aは吹付けコンクリートの断面積である。軸力N及び曲げモーメントMは、掘削解放力σ(i)を用いて、FEM解析によって計算される。特に、鋼製支保工の発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyに達すると、鋼製支保工の発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyより大きくならいように軸力N(i)と曲げモーメントM(i)が大きくならず、吹付けコンクリートの軸力N(i)がより大きくなる。
σ(i)=N(i)/A+M(i)/Z・・・(2)
σ(i)=N(i)/A・・・(3)
なお、図4には鋼製支保工の発生応力度(解析値)が降伏応力度以上となった場合の吹付けコンクリートの応力度σ―ひずみεの関係を示しており、図4(a)が従来のFEM解析に用いられる関係であり、図4(b)が本実施の形態のFEM解析に用いられる関係である。図4(a)と図4(b)を比較すると、本実施の形態のFEM解析では鋼製支保工の剛性を低下させた分の一部の剛性に応じて吹付けコンクリートの発生応力度σとひずみεが共に従来の値よりも大きくなっている。
支保工健全性判断部5では、最初に、支保工パターンデータベース2の中から、トンネル周辺の地盤データ等に応じた標準の支保工パターンを設定する。ここでは、オペレータが地盤データ等を入力すると標準の支保工パターンを自動で設定してもよいし、あるいは、オペレータが支保工パターンデータベース2に格納されている支保工パターンから選択したものを設定してもよい。
ある支保工パターンのある段階の掘削解放力σ(i)毎に、支保工健全性判断部5では、FEM解析部4で鋼製支保工の発生応力度σ(i)が計算されると、発生応力度σ(i)が鋼材の降伏応力度σsyより小さいか否かを判定する。この降伏応力度σsyは、鋼製支保工の鋼材の仕様によって設定される。この各段階の掘削解放力σ(i)の判定において発生応力度σ(i)が降伏応力度σsy以上と最初に判定されたときが鋼製支保工が弾性変形から塑性変形に変わったときであり、この弾性変形から塑性変形への変わる段階を判断するために掘削解放力を段階的に作用させて判定を行っている。
鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度σsyより小さい間(弾性変形している間)は、鋼製支保工によって土圧に抵抗でき、現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保することができる。したがって、発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyより小さいと判定した場合、支保工健全性判断部5では、次の段階の判定に移行する。
一方、鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度σsy以上となると(塑性変形に移行すると)、鋼製支保工によって土圧に抵抗できないので、鋼製支保工の剛性を低下させる。この場合、現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保できているか否かは吹付けコンクリートとトンネル周辺の地盤による抵抗に依存する。そこで、発生応力度σ(i)が降伏応力度σsy以上と判定した場合、支保工健全性判断部5では、鋼製支保工工の発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyとなるように鋼製支保工の剛性を低下させる(0にする場合もある)。なお、このように鋼製支保工の剛性を低下させた場合、FEM解析部4では、その低下させた剛性分を吹き付けコンクリートとトンネル周辺の地盤に割り振り、その各剛性に応じて吹き付けコンクリートの発生応力度σ(i)とトンネルの変位D(i)を再度計算する。
ある支保工パターンの全ての段階の掘削解放力σ(i)について鋼製支保工の発生応力度σ(i)の判定が終了すると、支保工健全性判断部5では、FEM解析部4で計算されている最後の段階nの掘削解放力σ(n)の場合の吹付けコンクリートの発生応力度σ(n)が許容応力度(吹付けコンクリートの降伏応力度)σcaより小さいか否かを判定する。許容応力度σcaは、吹付けコンクリートの仕様によって設定される。また、支保工健全性判断部5では、FEM解析部4で計算されている最後の段階nの掘削解放力σ(n)の場合のトンネルの変位D(n)が許容変位Dより小さいか否かを判定する。許容変位Dは、トンネル周辺の地盤データ等によって設定される。
吹付けコンクリートの発生応力度σ(n)が許容応力度σcaより小さいかつトンネルの変位D(n)が許容変位Dより小さいと判定した場合、支保工健全性判断部5では、現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保できるので、現在設定されている支保工パターンを最終的な支保工パターンとする。一方、吹付けコンクリートの発生応力度σ(n)が許容応力度σca以上又はトンネルの変位D(n)が許容変位D以上と判定した場合、支保工健全性判断部5では、現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保できないので、支保工パターンデータベース2の中から、現在設定されている支保工パターンよりも健全性を確保できる支保工パターンを選択する(支保工パターンを再設定する)。そして、この選択された支保工パターンに基づいて、上記のFEM解析部4の処理と支保工健全性判断部5の処理を再度行う。なお、より健全性を確保できる支保工パターンを選択する場合、単純に1ランク耐力の高い支保工パターンを選択してもよいし、あるいは、鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度以上となっている場合、吹付けコンクリートの発生応力度が許容応力度以上になっている場合あるいはトンネルの変位が許容変位以上になっている場合等の各状況に対応して耐力の高い支保工パターンを選択したり、同じ耐力の支保工でもトンネルの変形をより抑制できる施工方法の支保工パターンを選択してもよい。
なお、ある支保工パターンの全ての段階の掘削解放力σ(i)について鋼製支保工の発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyより小さいと判定している場合、鋼製支保工によって土圧に抵抗できるので(現在設定されている支保工パターンで十分に健全性を確保できるので)、吹付けコンクリートの発生応力度σ(n)とトンネルの変位D(n)による判定を行わないようにしてもよい。
出力部6は、トンネル最適支保工選定装置1のディスプレイや接続されるプリンタ等で構成され、トンネル最適支保工選定装置1から各種情報や結果を出力するための手段である。出力するものとしては、支保工健全性判断部5で最終的に選定した支保工パターンを少なくとも出力し、FEM解析部4での解析結果等の他の情報も出力するようにしてもよい。
図1〜図5を参照して、トンネル最適支保工選定装置1における処理の流れを図6のフローチャートに沿って説明する。図6は、図1のトンネル最適支保工選定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
トンネル最適支保工選定装置1の支保工パターンデータベース2には、支保耐力やトンネルの施工方法の異なる複数の支保工パターンが格納されている。トンネル施工前あるいはトンネル施工中に、トンネル最適支保工選定装置1では、最初に、支保工パターンデータベース2の中から、施工対象のトンネルに対する標準の支保工パターンを設定する(S1)。
支保工パターンが設定される毎に、トンネル最適支保工選定装置1では、施工対象のトンネル及びその周辺の地盤に対する解析モデルをFEM解析によって作成する(S2)。
次に、トンネル最適支保工選定装置1では、iに初期値として1を設定し、i=1,2,・・・,nまでのループ処理を行う。まず、トンネル最適支保工選定装置1では、iの値に応じて、式(1)によって大きさの各段階の掘削解放力σ(i)を計算し、その各段階の掘削解放力σ(i)を解析モデルに作用させる(S3)。各段階の掘削解放力σ(i)毎に、トンネル最適支保工選定装置1では、その段階の掘削解放力σ(i)を作用させた解析モデルを用いてFEM解析によって応力や変形についての解析を行い、鋼製支保工の発生応力度σ(i)、吹付けコンクリートの発生応力度σ(i)、トンネルの変位D(i)をそれぞれ計算する(S4)。そして、トンネル最適支保工選定装置1では、鋼製支保工の発生応力度σ(i)が鋼材の降伏応力度σsyより小さいか否かを判定する(S5)。S5にて発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyより小さいと判定した場合(鋼製支保工が弾性変形で土圧に抵抗)、トンネル最適支保工選定装置1では、iに1を加算し、次の段階の掘削解放力σ(i)についての処理を行う。一方、S5にて発生応力度σ(i)が降伏応力度σsy以上と判定した場合(鋼製支保工が塑性変形に移行)、トンネル最適支保工選定装置1では、発生応力度σ(i)が降伏応力度σsyになるように鋼製支保工の剛性を低下させるとともにその低下させた分の剛性を吹付けコンクリート及びトンネル周辺地盤に負担させた場合の吹付けコンクリートの発生応力度σ(i)、トンネルの変位D(i)をそれぞれ再計算する(S6)。そして、トンネル最適支保工選定装置1では、iに1を加算し、次の段階の掘削解放力σ(i)についての処理を行う。i=nの処理が終了した場合、トンネル最適支保工選定装置1では、このループを抜ける。
次に、トンネル最適支保工選定装置1では、最後の段階nの吹付けコンクリートの発生応力度σ(n)が許容応力度σcaより小さいか否かを判定する(S7)。S7にて発生応力度σ(n)が許容応力度σcaより小さいと判定した場合、トンネル最適支保工選定装置1では、最後の段階nのトンネルの変位D(n)が許容変位Dより小さいか否かを判定する(S8)。S8にて変位D(n)が許容変位Dより小さいと判定した場合、トンネル最適支保工選定装置1では、現在設定されている支保工パターンを最終的な支保工として出力し、処理を終了する。
S7にて発生応力度σ(n)が許容応力度σca以上と判定した場合又はS8にて変位D(n)が許容変位D以上と判定した場合(現在設定されている支保工パターンでは健全性を十分に確保できない場合)、トンネル最適支保工選定装置1では、支保工パターンデータベース2の中から、現在設定されている支保工パターンよりも健全性を確保できる支保工パターンを選択し(S9)、S2の処理に戻って各処理を再度行う。
このトンネル最適支保工選定装置1によれば、鋼製支保工の発生応力度(解析値)が鋼材の降伏応力度以上となった場合には鋼製支保工の発生応力度が降伏応力度となるように鋼製支保工の剛性を低下させ、その低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力度とトンネルの変位に基づいてよりトンネルの健全性を確保できる支保工パターンに変更する必要があるか否かを判定することにより、健全性(保全性)を十分に確保した支保工パターンを選定でき、トンネルの健全性と経済性の両者を満足するような最適な支保工を選定できる。健全性を十分に確保した支保工パターンでトンネルを施工することにより、切羽崩落や支保工の大変形等のトラブルを未然に防止できるので、切羽進行の継続性を確保でき、トンネルの過剰変位の発生による再掘削等の手戻りを防止でき、さらに、選定した支保工による早期の対策工を実施できるので対策工法も効率化でき、山岳トンネル施工の生産性(ひいては、経済性)が向上する。特に、土被りが大きくかつ脆弱な地盤内に山岳トンネルを施工する場合には支保工により大きな土圧が作用するが、そのような場合でもトンネル最適支保工選定装置1では十分な健全性を確保しつつ経済性にも優れる支保工を選定できる。
さらに、トンネル最適支保工選定装置1によれば、鋼製支保工の発生応力度を軸力と曲げモーメントを考慮して計算しているので、高精度な鋼製支保工の発生応力度を推定でき、その高精度な鋼製支保工の発生応力度を用いて降伏応力度との判定を高精度に行うことができる。精度の低い応力度を用いた精度の低い判定で耐力の高い支保工パターンを選定した場合には高コストとなるが、トンネル最適支保工選定装置1では精度の高い判定で健全性を十分に確保できる最も経済的な支保工パターンを選定できる。特に、トンネル断面形状に扁平がある場合やトンネルに偏った方向から強い土圧が作用する場合でも、軸力だけでなく曲げモーメントも考慮して鋼製支保工の発生応力度を計算しているので、鋼製支保工の発生応力度を高精度に推定できる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では山岳トンネルを対象としたトンネル最適支保工選定装置に適用したが、都市トンネルや水底トンネル等の他のトンネルを対象としたものでもよい。
また、本実施の形態ではトンネル最適支保工選定装置に適用したが、CD−ROM等の記憶媒体に格納されたプログラムやインタネット等のネットワークを介して利用可能なプログラム等に適用し、このようなプログラムをコンピュータ上で実行することによってトンネルの最適な支保工を選定する構成としてもよい。
また、本実施の形態では鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力、トンネルの変位を計算するためにFEM解析を適用したが、他の手法を適用してもよい。
また、本実施の形態では掘削解放力を段階的に大きくして作用させて、鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力、トンネルの変位を計算し、鋼製支保工の発生応力については掘削解放力の各段階で判定し、吹付けコンクリートの発生応力とトンネルの変位については掘削解放力の最後の段階でのみ判定する構成としたが、吹付けコンクリートの発生応力とトンネルの変位についても掘削解放力の各段階で判定し、吹付けコンクリートの発生応力が許容応力を超えた段階又はトンネルの変位が許容変位を超えた段階でより健全性を確保できる支保工パターンを選択するようにしてもよい。
1…トンネル最適支保工選定装置、2…支保工パターンデータベース、3…入力部、4…FEM解析部、5…支保工健全性判断部、6…出力部。

Claims (4)

  1. トンネル施工におけるトンネルの最適な支保工を選定するトンネル最適支保工選定装置であって、
    トンネルの鋼製支保工の仕様と吹付けコンクリートの仕様の組み合わせからなる支保工パターンとして支保工の耐力の異なる複数の支保工パターンを格納する支保工パターンデータベースと、
    前記支保工パターンデータベースに格納される複数の支保工パターンの中から支保工パターンを選択する選択手段と、
    トンネルの掘削面に段階的に掘削解放力を作用させ、各段階の掘削解放力に応じて鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位をそれぞれ計算する計算手段と、
    各段階の掘削解放力毎に、前記計算手段で計算された鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上か否かを判定する第1判定手段と、
    前記第1判定手段で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合には鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように鋼製支保工の剛性を低下させる剛性低下手段と、
    前記計算手段で計算された吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上か否か及び前記計算手段で計算されたトンネルの変位が許容変位以上か否かを判定する第2判定手段と、
    を備え、
    前記計算手段で鋼製支保工に作用する軸力と曲げモーメントに基づいて鋼製支保工の発生応力を計算し、前記第1判定手段で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合、前記計算手段は前記剛性低下手段で低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位を計算し、前記第2判定手段が吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上と判定した場合又はトンネルの変位が許容変位以上と判定した場合には前記選択手段は現在選択されている支保工パターンよりもトンネルの健全性を確保できる支保工パターンを選択することを特徴とするトンネル最適支保工選定装置。
  2. 前記第2判定手段は、前記計算手段で最後の段階の掘削解放力に応じて計算された吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位のみに対して判定することを特徴とする請求項1に記載のトンネル最適支保工選定装置。
  3. トンネル施工におけるトンネルの最適な支保工を選定するためのトンネル最適支保工選定プログラムであって、
    コンピュータに、
    支保工パターンデータベースに格納されるトンネルの鋼製支保工の仕様と吹付けコンクリートの仕様の組み合わせからなる支保工の耐力の異なる複数の支保工パターンの中から支保工パターンを選択する選択機能と、
    トンネルの掘削面に段階的に掘削解放力を作用させ、各段階の掘削解放力に応じて鋼製支保工の発生応力、吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位をそれぞれ計算する計算機能と、
    各段階の掘削解放力毎に、前記計算機能で計算された鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上か否かを判定する第1判定機能と、
    前記第1判定機能で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合には鋼製支保工の発生応力が降伏応力となるように鋼製支保工の剛性を低下させる剛性低下機能と、
    前記計算機能で計算された吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上か否か及び前記計算機能で計算されたトンネルの変位が許容変位以上か否かを判定する第2判定機能と、
    を実現させるプログラムであり、
    前記計算機能で鋼製支保工に作用する軸力と曲げモーメントに基づいて鋼製支保工の発生応力を計算し、前記第1判定機能で鋼製支保工の発生応力が降伏応力以上と判定した場合、前記計算機能は前記剛性低下機能で低下させた影響を考慮した吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位を計算し、前記第2判定機能が吹付けコンクリートの発生応力が吹付けコンクリートの許容応力以上と判定した場合又はトンネルの変位が許容変位以上と判定した場合には前記選択機能は現在選択されている支保工パターンよりもトンネルの健全性を確保できる支保工パターンを選択することを特徴とするトンネル最適支保工選定プログラム。
  4. 前記第2判定機能は、前記計算機能で最後の段階の掘削解放力に応じて計算された吹付けコンクリートの発生応力及びトンネルの変位のみに対して判定することを特徴とする請求項3に記載のトンネル最適支保工選定プログラム。
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