以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′線断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には、振動板を構成する二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、一方の面とは反対側の面となる他方面側から異方性エッチングすることにより、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向と称し、これと直交する方向を第2の方向と称する。また、流路形成基板10の圧力発生室12の第2の方向の一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
インク供給路14は、圧力発生室12の第2の方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、マニホールド100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、このように、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、インク供給路14の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(第1の方向)より大きい断面積を有する。本実施形態では、連通路15を圧力発生室12と同じ断面積で形成した。
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、インク供給路14と、連通路15とが複数の隔壁11により区画されて設けられている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の一方面は、振動板を構成する弾性膜50によって画成されている。
一方、流路形成基板10の圧力発生室12等の液体流路が開口する一方面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱用着フィルム等を介して接合されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、二酸化シリコンからなり厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例
えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。
また、絶縁体膜55上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。なお、ここで言う上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70、第2電極80、を含む部分をいい、本実施形態では、第1電極60、圧電体層70、第2電極80、及び後述する保護膜140を含む部分をいう。なお、本実施形態では、第1電極60、圧電体層70、第2電極80を圧電素子本体とする。
一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部320が形成されていることになる。
また、本実施形態では、圧電素子300は、第1の方向と比較して第2の方向が長い矩形状となっている。そして、第1電極60の圧力発生室12の第2の方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域内に設けることで、圧電素子300の実質的な駆動部となる圧電体能動部320の長手方向(第2の方向)の端部(長さ)を規定している。また、圧電体層70及び第2電極80の圧力発生室12の幅方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域内に設けることで、圧電体能動部320の短手方向(第1の方向)の端部(幅)を規定している。すなわち、圧電体能動部320は、パターニングされた第1電極60及び第2電極80によって、圧力発生室12に相対向する領域にのみ設けられていることになる。
なお、本実施形態では、第1電極60を複数の圧電素子300の並設方向に亘って設け、第1電極60の圧力発生室12の並設方向の端部を、圧力発生室12に相対向する位置となるように設けた。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が圧電素子300と共に変形する振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。
ここで、図3を用いて、圧電素子300の構成について詳細に説明する。図3(a)は、図2(a)におけるX−X′線での断面図であり、図3(b)は図2(a)におけるY−Y′線での断面図である。
図3に示すように、圧電素子300を構成する第1電極60、圧電体層70及び第2電極80(圧電体能動部320)は、耐湿性を有する絶縁材料からなる保護膜(絶縁膜)140によって覆われている。
具体的には、保護膜140は、第1電極60の上面、圧電体層70の側面、及び第2電極80の側面を覆うように設けられている。そして、圧電体能動部320に対応する領域では、この保護膜140と第2電極80上面との間には間隙150が設けられており、保護膜140は、第2電極80上面に臨むように設けられている。すなわち、本実施形態にかかる保護膜140は、第2電極80の上面と接触することなく、第2電極80上方に設けられている。
この保護膜140は、第2電極80上面側に開口部141を有しており、第2電極80の上面は、間隙150を介して外部に開放されている。本実施形態では、図2(a)及び図3に示すように、第2電極80上面の中央部に対応する領域に開口部141が設けられている、言い換えれば、保護膜140は、第2電極80の上面周縁部上方に設けられている。
このように、本実施形態では、保護膜140が、第2電極80上面と接触することなく、第2電極80上方を覆うように設けられていることにより、圧電素子本体と保護膜140との接触面積を小さくしつつ、圧電素子本体の耐湿性を維持することができる。
本実施形態では、従来の圧電素子のように第2電極80の主要部のみが露出しているのではなく、圧電体能動部320に対応する領域では第2電極80の上面すべてが間隙150を介して露出しており、第2電極80上面が保護膜140により拘束されていない。すなわち、従来の第2電極80上面を保護膜140により覆う構造と比較して、保護膜140と圧電素子本体との接触面積を小さくすることができる。これにより、保護膜140が圧電素子本体の変位を阻害するのを抑制して、圧電素子本体の変位特性を向上させることができる。
また、保護膜140は、圧電素子本体の側面を覆うように形成されているので、圧電素子本体の耐湿性は確保される。したがって、大気中の水分等に起因する圧電素子本体の破壊を抑制することができる。
ここで、本実施形態の保護膜140の開口部141について詳細に説明する。本実施形態の保護膜140の開口部141は、保護膜140を厚さ方向に貫通して圧電素子300の長手方向(第2の方向)に沿って矩形状に開口するものである。かかる開口部141は、圧電体能動部320に相対向する領域内に設けられている。詳述すると、図3(a)に示すように、圧電素子300の長手方向では、保護膜140の開口部141側端部が圧電体能動部320の長手方向の端部、すなわち、第1電極60の圧力発生室12の長手方向端部よりも、内側(圧電素子300中央部側)に設けられている。
また、図3(b)に示すように、圧電素子300の短手方向では、保護膜140の開口部141側端部が圧電体能動部320の短手方向の端部、すなわち、第2電極80の圧力発生室12の短手方向端部よりも、内側(圧電素子300中央部側)に設けられている。言い換えれば、本実施形態の開口部141は、圧電体能動部320よりも長さが短く且つ幅が小さいものであり、圧電体能動部320に相対向する領域内に設けられている。
従来の圧電素子300では、保護膜140による圧電素子本体の拘束面積を小さくするために、圧電体能動部320よりも保護膜140の開口部141の面積を大きくする必要があった。すなわち、圧電素子300の長手方向において、第2電極80上面に設けられる保護膜140の開口部141側端部を第1電極60端部よりも外側に設ける必要があった。これに対し、本実施形態の圧電素子300は、上述したように、保護膜140が第2電極80上面と接触していないため、圧電体能動部320よりも保護膜140の開口部141の面積を小さくしても、圧電素子本体と保護膜140との接触面積は変化しない。このため、保護膜140の開口部141の面積を小さくしても、圧電素子300の高い変位特性を維持することができる。したがって、圧電素子300の高密度化に伴い、開口部141の開口面積を十分に確保することができなくなる場合でも、圧電素子300の変位特性を低下させることがなく、優れた変位特性を有するものとすることができる。
また、開口部141の最大開口は、詳しくは後述するが、製造工程におけるリソグラフィー法の合わせ精度に依存する。合わせ精度は圧電素子300の大きさに依存するものではないため、圧電素子300が小さくなるほど非開口部の占める面積が大きくなってしまう。したがって、従来のように保護膜140が第2電極80の上面の一部を覆う構造では、第2電極80上面と保護膜140との接触面積が大きくなってしまい、圧電素子300の変位特性が低下してしまうという問題があった。これに対し、本実施形態では、上述したように、保護膜140が第2電極80上面と接触していないため、開口部141を小さくしても圧電素子300の変位特性を確保することができる。開口部141を小さくすることで圧電素子300の長手方向の長さを短くすることができ、圧電素子300を高密度化することができる。また、一枚のウェハーから形成することができるチップ数を増やすことによりコストを低減することができる。
また、保護膜140は、圧電体能動部320に対応する領域外、本実施形態では、インク供給路14側に、リード電極90を接続するためのコンタクトホール142が設けられている。そして、図2(b)に示すように、開口部141とコンタクトホール142との間の領域では、保護膜140と第2電極80との間に中間層160が設けられている。かかる中間層160は、保護膜140と第2電極80とが接触しないように設けられるものであり、保護膜140の支持層として機能する。
中間層160の材料は、第2電極80との密着性のよい材料であれば特に限定されないが、第2電極80及び保護膜140と異なる材料であるのが好ましい。後述する保護膜140の開口部形成工程において、保護膜140のみを選択的に除去することができ、また、中間層除去工程において、第2電極80を除去することなく、中間層160のみを選択的に除去することができるためである。中間層160の材料としては、具体的には、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化タンタル(TaOx)等の絶縁性無機材料、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等の金属、ランタンニッケルオキサイド(LNO)等の導電性酸化物、ポリイミド、サイクロテン、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリビニルアルコール誘導体等の有機材料を挙げることができる。中間層160は、これらの材料のうちいずれかを選択して形成したものであってもよいが、これらの材料を積層させた積層体であってもよい。
中間層160の膜厚は特に限定されないが、例えば、10〜200nmとすることができる。本実施形態では、中間層160は、膜厚100nmのランタンニッケルオキサイドからなるものとした。
上述した保護膜140の材料としては、耐湿性を有する材料であればよいが、例えば、公知の絶縁性無機材料または絶縁性樹脂材料などが好適に用いられる。公知の絶縁性無機材料としては、例えば、酸化シリコン(SiOx)、酸化タンタル(TaOx)、酸化アルミニウム(AlOx)等を用いるのが好ましく、特に、無機アモルファス材料である酸化アルミニウム(AlOx)、例えば、アルミナ(Al2O3)を用いるのが好ましい。公知の絶縁性樹脂材料としては、例えば、公知の感光性樹脂材料を用いてもよいし、非感光性樹脂材料を用いてもよい。絶縁性樹脂材料が、感光性樹脂材料である場合、公知の不飽和結合含有重合性化合物、光重合開始剤等も含んでいてもよい。具体的には、絶縁性樹脂材料は、ポリイミド、サイクロテン、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリビニルアルコール誘導体等の樹脂組成物であってもよい。保護膜140の材料として酸化アルミニウムを用いた場合、保護膜100の膜厚を100nm程度と比較的薄くしても、高湿度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。
また、各圧電素子300の個別電極である第2電極80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部32を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31が設けられている。圧電素子保持部31は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路200が固定されている。この駆動回路200としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路200とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線210を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってマニホールド部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
ここで、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法について詳細に説明する。なお、図4〜図7は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図であり、圧電素子300第1の方向における断面図である。
まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
次いで、図5(a)に示すように、第1電極60を絶縁体膜55上に形成した後、所定形状にパターニングする。本実施形態では、100nmの白金からなる第1電極60を所定形状に形成した。第1電極60の形成方法は特に限定されないが、例えば、スパッタリング法や化学蒸着法(CVD法)などが挙げられる。また、パターニングは、所定形状にマスクを形成した後、マスクを介してエッチングを行う、いわゆる、フォトリソグラフィー法により行うことができる。なお、エッチングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチング、ウェットエッチングにより行うことができる。本実施形態では、第1電極60の材料として白金を用いるようにしたが、特にこれに限定されず、イリジウム等の貴金属や、ランタンニッケルオキサイド(LNO)等の導電性酸化物を用いることができる。これらは2種以上用いてもよく、例えば、第1電極60は白金及びイリジウムの積層体からなるものとしてもよい。
次に、図5(b)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる第2電極80と、中間層160とを流路形成基板用ウェハー110の全面に形成する。
圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。本実施形態では、圧電体層70は、上述したゾル−ゲル法により厚さの薄い圧電体膜を形成する工程を複数回繰り返し行って、複数層の圧電体膜からなる厚さ1μmの圧電体層70を形成した。
第2電極80の形成方法は特に限定されないが、例えば、スパッタリング法や化学蒸着法(CVD法)などが挙げられる。
また、中間層160の形成方法は特に限定されないが、例えば、スパッタリング法や化学蒸着法(CVD法)などが挙げられる。また、中間層160の材質は、特に限定されないが、第2電極80及び保護膜140とは異なり、第2電極80及び保護膜140に対してエッチングの選択性を有する材料からなるのが好ましい。ここで、エッチングの選択性を有する材料とは、その材料をエッチングする際に、エッチングされ難く、実質的にエッチングされない材料のことをいう。これにより、後述する保護膜140の開口部形成工程において、保護膜140のみを選択的に除去することができ、また、後述する中間層除去工程において、第2電極80を除去することなく、中間層160のみを選択的に除去することができる。中間層160の材料としては、具体的には、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化タンタル(TaOx)等の絶縁性無機材料、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等の金属、ランタンニッケルオキサイド(LNO)等の導電性酸化物、ポリイミド、サイクロテン、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリビニルアルコール誘導体等の有機材料を挙げることができ、これらの材料から第2電極80及び保護膜140とは異なるものを適宜、選択すればよい。また、中間層160は、これらの材料のうちいずれかを選択して形成したものであってもよいが、これらの材料を積層させた積層体であってもよい。本実施形態では、スパッタリング法により、100nmのランタンニッケルオキサイド(LNO)からなる中間層160を形成した。
次に、図5(c)に示すように、レジスト等からなるマスクパターンを介して、中間層160、第2電極80、及び圧電体層70を同時にパターニングすることにより、各圧力発生室12に対応する領域に、中間層160、第2電極80、及び圧電体層70を形成する。ここで、パターニングは、所定形状にマスクを形成した後、マスクを介してエッチングを行う、いわゆる、フォトリソグラフィー法により行うことができる。なお、エッチングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチング、ウェットエッチングにより行うことができる。
ここで、本実施形態では、レジスト等からなるマスクパターンを介してパターニングを行ったが、中間層160をハードマスクとして使用することもできる。例えば、ドライエッチングによりパターニングする場合は、中間層160に無機材料を用いると、レジストよりもドライエッチングによる後退量が少ないので、圧電体層70のテーパー角を鋭角に形成することができる。また、中間層160を感光性の有機材料からなるものとした場合、中間層160自身を露光・現像することでパターニングして、エッチング用のマスクとして使用することができる。このため、レジスト等のマスクが別途不要となり工程を短縮することができる。中間層160をハードマスクとして使用する場合は、ニッケル(Ni)やランタンニッケルオキサイド(LNO)からなるものとするのが特に好ましい。
次いで、レジスト等のマスクを除去した後に、図6(a)に示すように、保護膜140を形成する。保護膜140の形成方法は特に限定されず、公知の成膜方法を用いることができる。公知の成膜方法としては、CVD法やPVD法などの蒸着法、スパッタリング法、MOD法、ゾル−ゲル法、スピンコート法等が挙げられる。本実施形態では、CVD法により、厚さ100nmの酸化アルミニウムからなる保護膜140を形成した。
次に、保護膜140に所定形状のマスクを設け、図6(b)に示すように、保護膜140をエッチングすることによりコンタクトホール142を形成し(コンタクトホール形成工程)、その後、中間層160をエッチングして、コンタクトホール142周縁部の中間層160を除去する。保護膜140のエッチングは、例えば、イオンミリングや、反応性ドライエッチング(RIE)等のドライエッチングにより行うことができる。なお、保護膜140が感光性樹脂材料からなる場合は、フォトリソグラフィーのみで保護膜140にコンタクトホール142を形成することができる。また、中間層160のエッチングは、例えば、ウェットエッチングやドライエッチングにより行うことができる。本実施形態のランタンニッケルオキサイド(LNO)からなる中間層160は、例えば、バッファードフッ酸(BHF)を使用し、ウェットエッチングにより除去することができる。また、有機材料からなる中間層160の場合は、例えば、酸素プラズマによるドライエッチング、いわゆるアッシングにより除去することができる。なお、ドライエッチングにより中間層160を除去する際には、第2電極80のオーバーエッチングを抑制するために、イオンの引き込みエネルギーを決定するバイアス電力を0Wとするのが好ましい。
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、図7(a)に示すように、例えば、レジスト等からなるマスクパターンを介して各圧電素子300毎に金属膜をパターニングすることで、リード電極90が形成される。
次に、図7(b)に示すように、保護膜140に所定形状のマスク180を設け、エッチングすることにより開口部141を形成する(開口部形成工程)。保護膜140のエッチングは、上述したコンタクトホール形成工程と同様の方法により行うことができる。なお、開口部141の位置及び大きさは、マスク寸法やマスクのアライメント位置を調整することで、変更することができる。
本実施形態では、第2電極80の開口部141に相対向する領域には中間層160が形成されているので、開口部141を形成した場合にオーバーエッチングが発生したとしても、第2電極80の膜厚に影響を与える虞がない。言い換えれば、保護膜140に確実に開口部141を開けるために、オーバーエッチングしてもよい。オーバーエッチング量は、中間層160がなくならない範囲で任意に選択することができる。このように、本実施形態では、保護膜140をエッチングする際にオーバーエッチング量を制御する必要がないため、作製が容易であり、歩留まりを向上させることができる。また、保護膜140のエッチングに起因する第2電極80の膜厚のばらつきを防止することができ、断線などが生じることがない。したがって、圧電素子300毎の圧電特性のばらつきを抑制した液体噴射ヘッドを製造することができる。
次に、図7(c)に示すように、ウェットエッチングやドライエッチングにより、中間層160を選択的に除去し(中間層除去工程)、その後レジスト180を除去する。本実施形態では、圧電体能動部320に対応する領域の中間層160をすべて除去することにより、第2電極80と保護膜140との間に間隙150を形成した。中間層160のエッチングは、コンタクトホール形成工程後に行った中間層160のエッチングと同様の方法により、行うことができる。
そして、図示しないが、保護基板用ウェハー130を、流路形成基板用ウェハー110上に接着剤35を介して接着する。ここで、この保護基板用ウェハー130は、保護基板30が複数一体的に形成されたものであり、保護基板用ウェハー130には、マニホールド部32及び圧電素子保持部31が予め形成されている。保護基板用ウェハー130を接合することによって流路形成基板用ウェハー110の剛性は著しく向上することになる。その後、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
次いで、流路形成基板用ウェハー110上にマスク膜を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
そして、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
本実施形態の製造方法によれば、保護膜140の開口部形成工程において、保護膜140の下に中間層160が設けられていることにより、オーバーエッチングしても第2電極80が除去される虞がない。また、かかる中間層160は除去されるので、いわば犠牲層として機能し、第2電極80の膜厚均一性に優れた圧電素子300を製造することができる。従来の圧電素子300では、特に、耐湿性の高い酸化アルミニウムからなる保護膜140を用いた場合に、開口部形成工程においてオーバーエッチングしやすく、保護膜140の下に設けられる第2電極80の膜厚が不均一になるという問題があったが、本実施形態の製造方法によれば、第2電極80の膜厚が不均一になる虞がない。
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、保護膜をエッチングする際にオーバーエッチング量を制御する必要がないため、歩留まりを向上させることができる。また、保護膜をエッチングする際にオーバーエッチングしても、第2電極の特性を劣化させることがなく、圧電素子毎の圧電特性のばらつきを抑制した液体噴射ヘッドを実現することができる。
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る記録ヘッドの圧電素子及び圧力発生室の要部断面図である。図8(a)は圧電素子300の第1の方向における断面図であり、図8(b)は圧電素子300の第2の方向における断面図である。本実施形態は、詳しくは後述するが中間層を設けた以外は、実施形態1と同様であるので、同一作用を示す部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
図8に示すように、第2電極80と保護膜140との間の領域、すなわち、第2電極80と保護膜140との間の間隙150に、中間層160が設けられている。この中間層160は、間隙150の第2電極80上面周縁部に設けられている。このように、第2電極80上面周縁部に中間層160を設けることにより、第2電極80上面周縁部の保護膜140の強度を向上させることができ、圧電素子300の駆動時の保護膜140の破壊を抑制することができる。また、第2電極80上方の保護膜140の剥離を抑制することができる。これにより、高信頼性の圧電素子300とすることができる。
かかる中間層160の開口は、保護膜140の開口部141より大きい。より詳細に説明すると、圧電素子300の短手方向(第1の方向)では、中間層160は、図8(b)に示すように、第2電極80の両端部に対応する領域に設けられている。また、圧電素子300の長手方向(第2の方向)では、中間層160は、図8(a)に示すように、第2電極80の両端部に対応する領域に設けられている。具体的には、この中間層160の圧電素子300の長手方向開口部141側端部は、第1電極60端部よりも圧電素子300の長手方向外側に設けられている。言い換えれば、中間層160の圧電素子300の長手方向開口部141側端部は、第1電極60及び第2電極80によって規定される圧電素子300の実質的な駆動部である圧電体能動部320に相対向する領域外に設けられている。これにより、圧電素子300の変位の阻害を抑制しつつ、第2電極80上面周縁部の保護膜140の強度を向上させることができる。
また、中間層160は、開口部141側端部の膜厚が圧電素子300の中央に向かって漸小している。具体的には、図8(a)に示すように、圧電素子300の長手方向において、中間層160の開口部141側端部は、圧電素子300の長手方向内側、すなわち、圧電素子300の中央に向かって膜厚が漸小している。同様に、図8(b)に示すように、圧電素子300の短手方向において、中間層160の開口部141側端部は、圧電素子300の短手方向内側、すなわち、圧電素子300の中央に向かって膜厚が漸小している。これにより、圧電素子300の端部の応力集中を緩和することができ、圧電素子300の駆動時の破壊を抑制することができる。
本実施形態にかかる中間層160は、実施形態1で説明した中間層除去工程におけるエッチング時間を調整して中間層160の一部を残すことにより、形成することができる。すなわち、エッチング時間を調整することにより、開口部141近傍の中間層160のみを除去し、第2電極80上面の周縁部のみに所望の長さの中間層160を残すことで形成することができる。
なお、中間層除去工程におけるエッチングをウェットエッチングとすることにより、中間層160の開口部141側端部の膜厚が圧電素子300の中央に向かって漸小したものとすることができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。上述した実施形態では、保護膜140の開口部141は、圧電体能動部320に相対向する領域内に設けるようにしたがこれに限定されるものではなく、例えば、保護膜140の圧電素子300の長手方向開口部141側端部が第1電極60端部よりも外側となるように、すなわち、圧電体能動部320に相対向する領域外となるように設けてもよい。
また、上述した実施形態では、保護膜140の開口部141の形状は、矩形状としたがこれに限定されるものではない。
上述した実施形態では、保護膜140の開口部141の中心と圧電素子本体の中央が一致するように、すなわち、開口部141を圧電素子本体の中央部に設けるようにしたがこれに限定されない。開口部141がオフセットされた位置に設けられていても圧電素子300の変位特性に影響がないため、例えば、図9に示すように、開口部141Aが圧電素子300Aの短手方向(第1の方向)においてオフセットされた位置に設けられていてもよい。本発明では、開口部141Aのアライメント精度が低くてもよいため、プロセスマージンが広く、プロセスが簡易で歩留まりを向上させることができる。
さらに、実施形態2では、圧電体層70、第2電極80、及び中間層160の側面の傾斜角度(テーパー角)が一致するように形成して、圧電素子300側面において保護膜140が所定の傾斜面を構成するようにしたが、保護膜140の形状はこれに限定されるものではない。例えば、図10(a)に示すように、中間層160Bのテーパー角が圧電体層70Bと第2電極80Bのテーパー角よりも小さくなるように形成して、圧電素子300B側面における保護膜140Bの形状を変化させもよく、図10(b)に示すように、中間層160Cのテーパー角が第2電極80Cのテーパー角よりも小さくなるようにすると共に、第2電極80のテーパー角が圧電体層70Cのテーパー角よりも小さくなるようにして、圧電素子300C側面における保護膜140Cの形状を変化させもよい。また、図10(c)に示すように、圧電体層70D、第2電極80D、及び中間層160Dの側面が曲面となるようにすることにより、圧電素子300D側面において保護膜140Dが曲面を構成するようにしてもよい。いずれの形状においても、実施形態2と同様の効果を得ることができる。
また、上述した実施形態では、流路形成基板10として、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
上述した実施形態では、リード電極90と第2電極80を接続させるためのコンタクトホール142を開口部141とは別に形成したが、液体噴射ヘッドの製造方法はこれに限定されるものではない。例えば、保護膜140の開口部形成工程において、同時にコンタクトホール142を形成し、その後にリード電極90を形成してもよい。具体的には、例えば、圧電体層70及び第2電極80を圧力発生室12のインク供給路14側にさらに延設して、開口部141とコンタクトホール142の間隔が広くなるようにし、開口部141とコンタクトホール142とを同時に形成してもよい。その後は、中間層160のエッチング時間を調整することにより、開口部141とコンタクトホール142との間の領域に中間層160を残すことができる。
また、上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、コンタクトホール142を設けたが、コンタクトホール142を設けずに、圧力発生室12の長手方向(第2方向)一端部側の圧電素子300の側面及び上面の保護膜140を除去し、露出した圧電素子本体を覆うようにリード電極90を設けてもよい。この場合は、例えば、開口部形成工程において、同時に圧力発生室12の長手方向(第1方向)一端部側の圧電素子300の側面及び上面の保護膜140を除去し、その後は、中間層160をエッチングにより除去した後、リード電極90を形成すればよい。
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
なお、上記実施の形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドを対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、赤外センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー等の各種センサー等の圧電素子にも適用することができる。また、本発明は強誘電体メモリー等の強誘電体素子や、マイクロ液体ポンプ、薄膜セラミックスコンデンサー、ゲート絶縁膜等にも同様に適応することができる。