以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
図示するように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。弾性膜50は酸化シリコンからなり、膜厚が1000nmである。また、絶縁体膜55はスパッタリング法により形成され、イットリウムを2モルパーセント含有した酸化ジルコニウムからなる。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
圧電体層70は、第1電極60上に形成される分極構造を有する一般式ABO3で示される酸化物の圧電材料からなるペロブスカイト型構造を有する結晶膜である。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。本実施形態では、圧電体層70として、Pb(ZrxTi1-x)O3で、xが0.5のPZTを用いた。
また、圧電体層70は、結晶の配向面が疑キュービック表示で(100)面に優先配向しており、その結晶構造は、単斜晶系(monoclinic)となっている。圧電体層70の結晶構造は、製造条件等により大きく左右されるが、圧電体層70の膜厚が5μm以下の場合、例えば、xの範囲を0.45〜0.55程度とすることで、単斜晶系構造を取ることができる。なお、本発明で「結晶が(100)面に優先配向している」とは、全ての結晶が(100)面に配向している場合と、ほとんどの結晶(例えば、90%以上)が(100)面に配向している場合と、を含むものである。本実施形態の圧電体層70は、X線回折試験を行った結果、(100)面の配向率は92%であった。また、本発明で「結晶構造が、単斜晶系(monoclinic)となっている」とは、全ての結晶が単斜晶系である場合と、ほとんど全ての結晶(例えば、90%以上)が単斜晶系であり、単斜晶系ではない残りの結晶が正方晶系(tetragonal)等である場合と、を含むものである。
さらに、圧電体層70は、分極モーメントの方向が膜面垂直方向(圧電体層70の厚さ方向)に対して所定角度傾いているものであり、第1電極60及び第2電極80の間に発生する電界の方向と、圧電体層70の分極モーメントの方向とがなす角度が、圧電体層70の圧電定数(d31)が極大となる際の電界の方向と圧電体層70の分極モーメントの方向とがなす角度よりも大きくなっている。
具体的には、図3に示すように、圧電体層70に第2電極80から第1電極60に向かって電圧を印加した際に、第2電極80から第1電極60に向かう方向に電界Eが発生する。ここで、第2電極80から第1電極60に向かって電圧を印加するとは、第1電極60が第2電極80に対して相対的に負極性となるように、各電極60、80に電位を印加することである。また、このときの電圧の印加によって圧電素子300を駆動させるとは、ノズル開口21からインク滴が吐出されるように駆動する吐出駆動、インク滴が吐出されない程度に駆動する微振動駆動等を含むものである。なお、圧電素子300への電圧を印加する駆動手段及び駆動パルスについては、詳しくは後述する。
また、圧電体層70の圧電定数(d31)が極大となる際の電界の方向、すなわち、エンジニアード・ドメイン配置では、分極モーメントの方向が[111]方向に向いており、この場合の圧電体層70の圧電定数(d31)が極大となる際の電界Eの方向と圧電体層70の分極モーメントの方向とがなす角度はθ0となる(図4(a)及び図5参照)。例えば、圧電体層70の結晶構造が疑キュービックで表されるペロブスカイト型構造である場合、角度θ0は約57度となる。
そして、本実施形態では、圧電体層70の分極モーメントの方向と電界Eの方向とのなす角度θaは、圧電体層70の圧電定数(d31)が極大となる際の電界の方向と圧電体層70の分極モーメントの方向とがなす角度θ0よりも大きな角度となっている。
ここで、図4(a)に示すように、θaがθ0よりも大きい角度の場合、第2電極80から第1電極60に電圧を印加して電界Eを発生させて圧電素子300を繰り返し駆動すると、分極方向が電界印加方向に沿って一部固定される、いわゆる疲労現象が発生し、分極モーメントの方向(角度θa)が図5に示す曲線に沿ってA方向に移動する(角度θbとなる)。このとき圧電定数(d31)は、角度の変化に伴い圧電定数の増減が反転する極大値となる点を通過するため、圧電定数(d31)の変化率Δtは比較的小さくなる。
これに対して、例えば、圧電体層70として、図4(b)に示すように、分極モーメントの方向と電界Eの方向とのなす角度θa′が、θ0よりも小さい角度の場合、疲労現象によって分極モーメントの方向(角度θa′)が、図5に示す曲線に沿ってA′方向に移動して角度θb′となる。この角度の変化(θa′からθb′への変化)に伴い、圧電定数は、単純に低下する方向に変化するため、同じ疲労現象が生じた場合であっても、その変化率Δt′は、Δtに比べて大きくなる。
このように圧電体層70の繰り返し駆動による圧電定数(d31)の変化率Δtが小さいということは、圧電素子300を繰り返し駆動した際の変位量の変化率が低いということである。すなわち、圧電素子300の繰り返し駆動による変位量の変化率が低ければ、初期使用時の変位量と、繰り返し駆動した後の変位量との差が少なくなるということであり、インク吐出量や吐出速度などのインク吐出特性が圧電素子300の使用中に変化することはなく、常に安定した印刷特性を維持することができる。したがって、高品質な印刷を実現できる。
このような、圧電体層70の分極モーメントの方向は、透過電子顕微鏡を用いて、強度輸送方程式による電子線の位相計測と、それに基づいた電場計測とを行うことにより内部電界を測定することで取得することができる。
具体的には、透過電子顕微鏡の明視野像(透過波だけの結像)を利用する。正焦点の像に対して、アンダーとオーバーの両側に同じフォーカスをした3枚の像を用意し、強度の伝播方向の微分を観測強度の差分で近似(強度輸送方程式)し、位相を測定する。この位相から電場ベクトルを求めるために位相を微分する。
そして、電場ベクトル(分極モーメントが作る内部電界のベクトル方向)は、分極モーメントのベクトル方向とは互いに反平行となっているため、圧電体層70の電場ベクトルを測定することにより、圧電体層70の分極モーメントの方向(電界方向とのなす角度)を測定することができるものである。
また、内部電界の絶対値と分極モーメントの絶対値は比例するため、内部電界の絶対値の相対比較で分極モーメントの絶対値の相対比較が可能となる。
このように、分極モーメントの方向を規定することにより、圧電体層70の繰り返し駆動による変位量の変化率を低くすることができる。すなわち、耐久性が向上することになる。例えば、上述したように圧電定数が極大となる方向を示す角度θ0が55度の場合、分極モーメントの方向を示す角度θaが58度、すなわち、3度大きな角度では、図6に示すように、200億回繰り返し駆動した際であっても、圧電体層70の変位量の変化率を5%以下とすることができる(実施例)。そして、例えば、上述した分極モーメントの方向と電界の方向とのなす角度θa′が、θ0よりも小さな角度、例えば、52度の場合、図6に示すように、繰り返し駆動による圧電体層70の変位量の変化率は10%程度と大きくなってしまう(比較例)。したがって、分極モーメントの方向を示す角度θaは、角度θ0よりも3度以上大きいことが好ましい。また、角度θaが、角度θ0よりも20度以上大きくなると、耐久試験において圧電定数は上昇し続けることになるが、初期変位量が低下するという問題が生じるため、角度θaと角度θ0との差は20度以下とすることが好ましい。また、図6に示すように、実施例の圧電体層70の変位量は、繰り返しの電界印加に対して、繰り返し回数に従って上昇し(5%以下の範囲で上昇することが好ましい)、その後に緩やかに低下する。これは、図6に示す比較例のように、変位量が繰り返しの電界印加に対して繰り返し回数に従って徐々に降下するのに比べて、変位量の変化率を低減することができる。さらに、実施例の圧電体層70の変位量は、繰り返しの電界印加に対して、繰り返し回数に従って上昇し、その後に低下するため、すぐに実使用(出荷)することができる。すなわち、図6に示す比較例のように初期の変位量の変化率が大きいと、使用前(出荷前)に変位量の大きな変化率を超して安定した変化率になるまで、分極を一部固定する駆動を行わなければならないが、実施例であれば分極を一部固定する駆動が不要となってコストを低減することができる。なお、図6は、実施例及び比較例の実験例を示すグラフである。
このような、分極モーメントの方向は、例えば、圧電体層70の第2電極側に他の領域よりも酸素が欠損した酸素欠損層を設けることや、圧電体層70をエピタキシャル成長により形成する際の下地となる第1電極60の圧電体層70側の材料を適宜選択することにより、分極モーメントの方向を電界の方向に対して所望の角度に調整することができる。
圧電体層70の第2電極80側に酸素欠損層が存在すると、酸素欠損層がプラス2価の仮想的なイオンとして働き、圧電体層70には第2電極80から第1電極60に向かう内部電界が現れる。発生する内部電界は、酸素欠損の量により調整することが可能であり、この内部電界の作用により、分極モーメントの方向を所望の方向に調整することができる。
また、圧電体層70の下地の材料を選択することによっても、圧電体層70の分極モーメントを所望の方向に調整することができる。圧電体層70の下地として、例えば、ランタンニッケル酸化物(LNO)等を用いると、このLNOの面内の格子定数は、一般的な圧電体層70の面内の格子定数に比べて小さいため、このLNO上には面内の格子定数が収縮された圧電体層70が形成される。このように、下地として用いる材料によって圧電体層70の面内の格子定数は伸張・収縮されるものであり、格子定数の伸張・収縮によっても分極モーメントの方向を調整することもできる。
さらに、本実施形態では、上述のように第2電極80から第1電極60に向かって電圧を印加するようにしたが、この電圧の印加する方向は、詳しくは後述するインクジェット式記録装置IIに設けられた駆動手段によって規定されるものである。したがって、詳しくは後述する駆動手段によって、第1電極60から第2電極80側に向かって電圧を印加するようにしてもよい。
圧電体層70の厚さについては、特に限定されないが、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成すればよい。例えば、圧電体層70を0.2〜4μm前後の厚さで形成することで、所望の結晶構造を得ることが容易となる。本実施形態においては、最適な圧電特性を得るため、圧電体層70の膜厚を1.2μmとした。
また、圧電体層70の製造方法は特に限定されず、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成することができる。もちろん、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法等を用いてもよい。
また、第2電極80は、例えば、厚さが200nmのイリジウム(Ir)からなる。この第2電極80は、圧電素子300の個別電極として機能する。また、第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路110が固定されている。この駆動回路110としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路110とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線110aを介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路110からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
また、上述したインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図7に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
また、インクジェット式記録装置IIには、図示しない駆動手段が設けられている。ここで、インクジェット式記録装置IIの制御構成について説明する。なお、図8は、本実施形態のインクジェット式記録装置IIの制御構成を示すブロック図である。
本実施形態のインクジェット式記録装置IIは、図8に示すように、プリンターコントローラー111とプリントエンジン112とから概略構成されている。プリンターコントローラー111は、外部インターフェース113(以下、外部I/F113という)と、各種データを一時的に記憶するRAM114と、制御プログラム等を記憶したROM115と、CPU等を含んで構成した制御部116と、クロック信号を発生する発振回路117と、インクジェット式記録ヘッドIへ供給するための駆動信号を発生する駆動信号発生回路119と、駆動信号や印刷データに基づいて展開されたドットパターンデータ(ビットマップデータ)等をプリントエンジン112に送信する内部インターフェース120(以下、内部I/F120という)とを備えている。
外部I/F113は、例えば、キャラクターコード、グラフィック関数、イメージデータ等によって構成される印刷データを、図示しないホストコンピューター等から受信する。また、この外部I/F113を通じてビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)が、ホストコンピューター等に対して出力される。RAM114は、受信バッファー121、中間バッファー122、出力バッファー123、及び、図示しないワークメモリーとして機能する。そして、受信バッファー121は外部I/F113によって受信された印刷データを一時的に記憶し、中間バッファー122は制御部116が変換した中間コードデータを記憶し、出力バッファー123はドットパターンデータを記憶する。なお、このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。
駆動信号発生回路119は、本発明の駆動信号発生手段に相当し、駆動信号COMを発生する。そして、駆動信号COMは、インクを吐出させるように圧電素子300を駆動(吐出駆動)する吐出パルスを1記録周期内に有する信号であり、記録周期T毎に繰り返し発生される。
また、ROM115には、各種データ処理を行わせるための制御プログラム(制御ルーチン)の他に、フォントデータ、グラフィック関数等を記憶させてある。制御部116は、受信バッファー121内の印刷データを読み出すと共に、この印刷データを変換して得た中間コードデータを中間バッファー122に記憶させる。また、中間バッファー122から読み出した中間コードデータを解析し、ROM115に記憶させているフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して、中間コードデータをドットパターンデータに展開する。そして、制御部116は、必要な装飾処理を施した後に、この展開したドットパターンデータを出力バッファー123に記憶させる。
そして、インクジェット式記録ヘッドIの1行分に相当するドットパターンデータが得られたならば、この1行分のドットパターンデータは、内部I/F120を通じてインクジェット式記録ヘッドIに出力される。また、出力バッファー123から1行分のドットパターンデータが出力されると、展開済みの中間コードデータは中間バッファー122から消去され、次の中間コードデータについての展開処理が行われる。
プリントエンジン112は、インクジェット式記録ヘッドIと、紙送り機構124と、キャリッジ機構125とを含んで構成してある。紙送り機構124は、紙送りモーターとプラテン8等から構成してあり、記録紙等の記録シートSをインクジェット式記録ヘッドIの記録動作に連動させて順次送り出す。即ち、この紙送り機構124は、記録シートSを副走査方向に相対移動させる。
キャリッジ機構125は、インクジェット式記録ヘッドIを搭載可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3を主走査方向に沿って走行させるキャリッジ駆動部とから構成してあり、キャリッジ3を走行させることによりインクジェット式記録ヘッドIを主走査方向に移動させる。なお、キャリッジ駆動部は、上述したように駆動モーター6及びタイミングベルト7等で構成されている。
インクジェット式記録ヘッドIは、副走査方向に沿って多数のノズル開口21を有し、ドットパターンデータ等によって規定されるタイミングで各ノズル開口21から液滴を吐出する。そして、このようなインクジェット式記録ヘッドIの圧電素子300には、図示しない外部配線を介して電気信号、例えば、駆動信号COMや印字データ(SI)等が供給される。
なお、このように構成されるプリンターコントローラー111及びプリントエンジン112では、プリンターコントローラー111と、駆動信号発生回路119から出力された所定の駆動波形を有する駆動信号を選択的に圧電素子300に入力するラッチ132、レベルシフター133及びスイッチ134等を有する駆動回路110とが圧電素子300に所定の駆動信号を印加する駆動手段となる。
また、これらのシフトレジスター131、ラッチ132、レベルシフター133、スイッチ134及び圧電素子300は、それぞれ、インクジェット式記録ヘッドIの各ノズル開口21毎に設けられており、これらのシフトレジスター131、ラッチ132、レベルシフター133及びスイッチ134は、駆動信号発生回路119が発生した駆動信号COMから駆動パルスを生成する。ここで、駆動パルスとは実際に圧電素子300に印加される印加パルスのことである。
本実施形態の駆動パルスの一例を図9に示す。なお、図9は、駆動パルスを示す。本実施形態の駆動パルス200は、図9に示すように、第1電極60を基準電位V0として、第2電極80に印加されるものである。駆動パルス200は、駆動電位Vを基準電位V0よりも高い第1電位V1から、この第1電位V1よりも高い第2電位V2まで上昇させて圧力発生室12の容積を収縮させる収縮工程400と、第2電位V2を所定の期間保持する第1保持工程401と、駆動電位Vを第2電位V2から第1電位V1よりも低く、且つ基準電位V0よりも高い第3電位V3まで降下させて圧力発生室12の容積を膨張させる膨張工程402と、第3電位V3を所定の期間保持する第2保持工程403と、駆動電位Vを第3電位V3から第1電位V1まで上昇させる工程404とで構成されている。
そして、このような駆動パルス200が圧電素子300に出力されると、収縮工程400によって圧電素子300が圧力発生室12の容積を収縮させる方向に変形することにより、ノズル開口21のメニスカスが押し出される。次いで、膨張工程402によって圧電素子300が圧力発生室12の容積を膨張させる方向に変形して、ノズル開口21のメニスカスが圧力発生室12側に急激に引き込まれることで、ノズル開口21から押し出されていたインクが千切れ、ノズル開口21から吐出されたインクがインク滴となって飛翔する。すなわち、この駆動パルス200は、いわゆる引き打ち式のものである。
そして、本実施形態の圧電体層70には、上述のように第2電極80から第1電極60に向かって電圧を印加するとは、基準電位V0を第1電極60に印加するため、第2電極80に印加する第1電位V1、第2電位V2及び第3電位V3が基準電位V0よりも相対的に大きいことを言っている。たとえ基準電位V0が正極性だとしても、第1電位V1、第2電位V2及び第3電位V3が基準電位V0よりも大きな正極性であれば、第1電位V1、第2電位V2及び第3電位V3が印加された第2電極80が正極性、第1電極60が負極性となる。
なお、本実施形態では、第1電位V1、第2電位V2及び第3電位V3の全てが、第1電極60に印加される基準電位V0よりも大きな正極性となるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、第2電位V2が、基準電位V0よりも低い電位、すなわち、第2電極80が負極性となるようにしてもよい。この場合、第1電極60に印加される電位を基準として、駆動パルス200の積分で表される電圧と印加時間とにより規定される要素が、基準電位V0より負極性側に比べて正極性側が大きくなるようになっていれば、本発明の上述した効果を奏することができるものである。
(実施形態2)
上述した実施形態1では、第2電極80から第1電極60に向かって電圧を印加するようにしたが、本実施形態では、第1電極60から第2電極80側に向かって電圧を印加するようにしたものである。
ここで、圧電体層70の分極モーメントの方向について図10を参照して説明する。なお、図10は、電界の方向と分極モーメントの方向とを示す図である。図10に示すように、圧電体層70の分極モーメントの方向と電界の方向とがなす角度θcは、圧電体層70の圧電定数(d31)が極大となる際の電界の方向と圧電体層70の分極モーメントの方向とがなす角度θ0よりも大きな角度となっている。ここで、実施形態1と同様に内部電界を測定すると、θ0が55度、θcが60度であった。
そして、圧電素子300を繰り返し駆動して、疲労現象が発生すると、分極モーメント方向は、電界の方向に対する角度がθ0よりも小さなθdとなる。これにより、上述した実施形態1と同様に、圧電定数(d31)の変化率、すなわち、圧電体層70の変位量の低下率を低減することができる。具体的には、本実施形態においては、200億回の繰り返し駆動に対して、初期の変位量に対して一旦2%上昇した後、最終的に初期の変位量に対して2%の低下となった。
このような圧電素子300では、駆動手段が圧電素子300を駆動する駆動パルスは、例えば、図11に示すものとなる。
すなわち、駆動パルス201は、第1電極60を基準電位V0として、第2電極80に印加されるものである。駆動パルス201は、駆動電位Vを基準電位V0よりも低い(相対的に負極性となる)第1電位V11から、この第1電位V11よりも低い第2電位V12まで降下させて圧力発生室12の容積を膨張させる膨張工程410と、第2電位V12を所定の期間保持する第1保持工程411と、駆動電位Vを第2電位V12から第3電位V13まで上昇させて圧力発生室12の容積を収縮させる収縮工程412と、第3電位V13を所定の期間保持する第2保持工程413と、駆動電位Vを第3電位V13から第1電位V11まで戻す工程414とで構成されている。そして、このような駆動パルス201が圧電素子300に出力されると、膨張工程410によって圧電素子300が圧力発生室12の容積を膨張させる方向に変形して、ノズル開口21内のメニスカスが圧力発生室12側に引き込まれる。次いで、収縮工程412で、圧電素子300が圧力発生室12の容積を収縮させる方向に変形することにより、ノズル開口21内のメニスカスが圧力発生室12側から大きく押し出され、ノズル開口21からインク滴が吐出される。すなわち、この駆動パルス201は、いわゆる押し打ち式のものである。
このような第1電位V11、第2電位V12及び第3電位V13は、基準電位V0よりも低い電位である。したがって、このような駆動パルス201を用いることにより、第1電極60には、正極性の電位が印加され、第2電極80には負極性の電位が印加される。
(実施形態3)
図12は、本発明の実施形態3に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの平面図及びそのB−B′断面図であり、図13は、記録ヘッドの圧力発生室の並設方向の要部を拡大した断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板10上には、弾性膜50が形成され、弾性膜50上に絶縁体膜55が形成されている。また、絶縁体膜55上には、第1電極60A、圧電体層70A及び第2電極80Aで構成される圧電素子300Aが設けられている。
第1電極60Aは、各圧力発生室12に相対向する領域に個別に設けられており、第1電極60Aが各圧電素子300Aの個別電極となっている。具体的には、第1電極60Aは、圧力発生室12の短手方向(圧力発生室12の並設方向)において、圧力発生室12の幅よりも幅狭となるように設けられている。また、第1電極60Aは、圧力発生室12の長手方向(圧力発生室12の並設方向と直交する方向)の一端部側が、圧力発生室12の外側まで引き出されている。
圧電体層70Aは、第1電極60A上に各圧力発生室12に対応して個別に設けられている。具体的には、圧電体層70Aは、第1電極60A上に第1電極60Aの幅方向(圧力発生室12の幅方向)の両端面を覆うように設けられており、互いに隣り合う圧電素子300Aにおいて、隔壁11上で不連続となるように区分けされている。また、圧電体層70Aは、第1電極60Aの長手方向(圧力発生室12の長手方向)の一端部を覆い、且つ他端部を露出する大きさで設けられている。圧電体層70Aから露出された第1電極60Aの端部は、各圧電素子300Aを駆動する駆動回路に電気的に接続される端子として機能する。
第2電極80Aは、圧電体層70A上に設けられ、且つ複数の圧電素子300Aに亘って連続して設けられた共通電極である。具体的には、第2電極80Aは、圧電体層70Aの上と、互いに隣り合う圧電素子300Aの間の絶縁体膜55上とに亘って連続して設けられている。
このような構成の圧電素子300Aでは、各圧電体層70Aが、第2電極80Aによって覆われている。特に、圧電体層70Aの側面が第2電極80Aによって覆われているため、圧電素子300Aの上に耐湿度性を有する保護膜を設けることなく、第2電極80Aによって圧電体層70Aを外部の湿度等から保護することができる。これにより、保護膜を設けることによる圧電素子300Aの変位量の低下を抑制することができる。すなわち、保護膜を設けないことで、コストを低減することができると共に、変位特性に優れた圧電素子300Aを実現できる。
また、第1電極60Aを複数の圧電素子300Aの個別電極とすることで、上述した実施形態2のように、第1電極60Aから第2電極80Aに向かって電圧を印加し易くすることができる。
(実施形態4)
図14は、本発明の実施形態4に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの平面図及びそのC−C′断面図であり、図15は、記録ヘッドの圧力発生室の並設方向の要部を拡大した断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板10上には、弾性膜50が形成され、弾性膜50上に絶縁体膜55が形成されている。また、絶縁体膜55上には、第1電極60A、圧電体層70B及び第2電極80Bで構成される圧電素子300Bが設けられている。
第1電極60Aは、上述した実施形態3と同様に、各圧力発生室12毎に独立して設けられている。
圧電体層70Bは、第1電極60A上に設けられ、且つ複数の圧電素子300Bに亘って連続して設けられている。具体的には、圧電体層70Bは、第1電極60Aの並設方向に向かって、第1電極60A上と絶縁体膜55上とに亘って連続して略同一厚さで形成されている。なお、圧電体層70Bは、第1電極60Aの長手方向の一端部上には設けられておらず、圧電体層70Bが設けられていない第1電極60Aの一端部から電極が引き出されている。
第2電極80Bは、圧電体層70B上に亘って連続して設けられている。すなわち、第2電極80Bは、圧電素子300Bに亘って連続する共通電極として機能する。
このような構成の圧電素子300Bは、圧電体層70Bが、第2電極80Bによって覆われている。特に、互いに隣り合う第1電極60Aの間の圧電体層70Bが第2電極80Bによって覆われているため、圧電素子300Bの上に耐湿度性を有する保護膜を設けることなく、第2電極80Bによって圧電体層70Bを外部の湿度等から保護することができる。これにより、保護膜を設けることによる圧電素子300Bの変位量の低下を抑制することができる。すなわち、保護膜を設けないことで、コストを低減することができると共に、変位特性に優れた圧電素子300Bを実現できる。
また、第1電極60Aを複数の圧電素子300Bの個別電極とすることで、上述した実施形態2のように、第1電極60Aから第2電極80Bに向かって電圧を印加し易くすることができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面、(110)面等のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエーター装置に限られず、他の装置に搭載されるアクチュエーター装置にも適用することができる。