近年のインターネットの普及とともに、既に全世帯の90%にも及ぶ世帯で光ファイバを用いた回線が利用可能となっている。このようにブロードバンド化の流れは確実に進展してはいるが、実際には、光回線の敷設による採算が見込めない地域があることから、ブロードバンド・ゼロ地域の解消を如何にして実現するかという問題はなかなか解決する術が見つからない現状がある。このような光回線の敷設による採算が見込めない地域を不採算地域(条件不利地域)という。
このような不採算地域における対策としては、無線回線を利用することが有利とされており、例えば、WiMAX(Worldwide interoperability for microwave access)(登録商標、以下同様)と呼ばれる無線規格を用いたサービスのための周波数チャネルを10[MHz]確保し、この周波数チャネルを用いたWiMAXサービスを、条件不利地域を中心に適用する「地域WiMAX」と呼ばれる施策が実施されている。この施策に用いられているWiMAXでは、例えば基地局装置は10[W]程度の大きな送信電力で信号送信を行い、この結果、半径3km程度のエリアを1局でカバーすることが可能となっている。
一般に、見通しがきく環境では送信局と受信局の間での伝搬に伴い受信信号強度は、距離の2乗に反比例する。見通し外の場合には受信信号強度は距離の3〜4乗に反比例するようになり、回線設計上にはより厳しい制限が課せられることになる。仮に見通しを想定したとしても、伝送距離を2倍に伸ばすためには、送信電力を22=4倍にする必要があり、より線形性の高い送信アンプを必要とする。しかし、そのような送信アンプは高価であるとともに、そのような送信アンプを用いると、電力効率は著しく低下するため消費電力は急激に増加してしまう。
近年は特に環境問題が注目され、無線を含めたインフラの低消費電力化が要求されており、高出力の送信アンプを用いた非効率的な通信は好ましくない。このような問題を解決するための方法としては、例えば、非特許文献1に記載のように、複数の中継局を介在させたコヒーレント伝送が有効である。非特許文献1では、中継においては非再生中継を仮定しているが、このコヒーレント伝送のポイントは、中継の形態が「非再生中継」であるか、又は「再生中継」であるかに依存しておらず、あくまでも受信側において各信号が同位相で合成されるように送信することである。このようなコヒーレント伝送を行う場合の別の形態の1つとして、例えば非特許文献2に記載のように分散アンテナシステムがある。
分散アンテナシステムは、1つの制御局に場所的に分散されて設置された複数のアンテナ(厳密にはアンテナに、光・電気変換や信号増幅等を行う装置が組み合わされた無線モジュールないしはリモート基地局)が接続された構成であり、制御局と各アンテナ間は光ファイバ等で接続される。
また、他の形態として、1つの基地局に複数の中継局が無線接続された構成(無線中継システム)をとることもできる。この場合は、基地局が制御局となり、中継局がアンテナないしは無線モジュールとなり、全体として分散アンテナシステムを構成することになるが、基地局と中継局とが無線により接続される点で異なる構成である。
いずれの場合も、複数のアンテナ(中継局)が受信端末側で各信号が同位相で合成されるように送信するコヒーレント伝送を行う。以下、その詳細な説明を行う。
[従来技術におけるコヒーレント伝送のシステム概要]
(無線中継システム)
図2は、従来技術における無線中継システムの概要を示す図である。
同図に示すように、無線中継システムは、送信局901と、N1個の中継局902−1〜902−N1と、受信局903とを具備している。送信局901は、受信局903宛ての無線パケットを一旦中継局902−1〜902−N1に対して送信する。中継局902−1〜902−N1は、送信局901から受信した信号に対して各種受信信号処理を行い、送信局901が送信した無線パケットを再生(復元)する。次に、各中継局902−1〜902−N1は、再生した同一の無線パケットを同時刻に受信局903に対して送信する。この際、各中継局902−1〜902−N1は、それぞれが送信した信号が受信局903において同一の位相で受信されるように、送信信号の位相を調整する。受信局903では、各中継局902−1〜902−N1から送信された信号全てが伝送路上で合成されて受信される。この際、各中継局902−1〜902−N1から送信された信号が、受信局903において同程度の受信電力で受信されるとするならば、合成された後の信号は、合成される前の信号に対して振幅でN1倍となる。また、受信電力は、振幅の2乗に比例するため(N1)2倍となる。
ここで、無線中継システムにおける中継局902が1局の場合と、N1局の場合とで比較する。評価条件を公平にするために、1局で中継する場合には単一の中継局902が送信電力をPとして送信し、N1局で中継する場合には中継局902−1〜902−N1がそれぞれ送信電力をP/N1として(総送信電力が一定の条件)送信するものとして比較する。N1局の中継局902−1〜902−N1から送信した場合、各中継局902−1〜902−N1から送信された信号は伝送路で合成され、中継局902−1〜902−N1のいずれか1局からの受信信号に比べ、受信局903における受信信号の振幅はN1倍になり、その結果、総受信電力は(N1)2倍となる。しかし、N1局で送信した場合、1つの中継局902当たりの送信電力は、単一の中継局902で送信した場合の1/N1となっている。そのため、受信電力は、(1/N1)×(N1)2=N1倍となる。
つまり、中継局902−1〜902−N1の総送信電力を一定としているにもかかわらず、1局で中継する場合と比較して受信局903における受信電力がN1倍となり、回線利得として10×Log10N1[dB]を稼ぐことが可能になる。
(分散アンテナシステム)
図3は、従来技術における分散アンテナシステムの概要を示す図である。
同図に示すように、分散アンテナシステムは、協調的な通信を行う3つのセル911−1〜911−3を形成するリモート基地局912−1〜912−3と、複数の端末装置913−1〜913−6と、光ファイバ915を介して各リモート基地局912−1〜912−3に接続された制御局914とを具備している。なお、各リモート基地局912−1〜912−3と制御局914とを接続する光ファイバ915は、同軸ケーブルなどであってもよい。また、ここでは3つのセル911−1〜911−3と3つのリモート基地局912−1〜912−3を想定して説明を行うが、一般的には3以外の数であっても良い。
各リモート基地局912−1〜912−3は、それぞれが形成するセル内に位置する各端末装置913−1〜913−6と、同一の周波数チャネルを用いて通信を行う。制御局914は、光ファイバ915を介して、リモート基地局912−1〜912−3を制御する。同一の周波数チャネルを用いた通信を行うため、各端末装置913−1〜913−6は、複数のリモート基地局912−1〜912−3から送信された信号を同時に受信することができる。例えば、端末装置913−4は、全てのリモート基地局912−1〜912−3から信号を受信することができる。
ここで、リモート基地局912−1〜912−3それぞれと端末装置913−4との間のチャネル情報が既知であれば、リモート基地局912−1〜912−3は、それぞれが端末装置913−4宛てに送信する際に、各リモート基地局912−1〜912−3から送信された信号が端末装置913−4において同位相となるように送信ウエイト乗算を施すことができる。この場合、端末装置913−4において受信される信号は、同位相合成されるので受信電力が増加する。その結果、端末装置913−4における通信特性が改善される。このような、同位相合成を行うための信号処理の制御は全て制御局914で実施され、リモート基地局912−1〜912−3は制御局914の指示に従い動作する。
分散アンテナシステムにおいて、制御局914と各リモート基地局912−1〜912−3との間は光ファイバ915で接続されており、この光ファイバ915上で転送される信号を各リモート基地局912−1〜912−3では光/電気変換を行うことで無線回線上において送信する電気信号を生成し、信号増幅などの処理の後にこれをアンテナから送信する。このような制御を利用することで、全てのチャネル情報を把握した制御局914に受信側において同位相合成となるような信号処理の機能を集約し、その結果、各リモート基地局912−1〜912−3における位相制御の不確定性を回避しながら通信品質の向上を図ることを可能としている。
なお、厳密な意味での分散アンテナシステムでは、各リモート基地局912−1〜912−3は同時に複数の端末装置913−1〜913−6と同一周波数上で空間多重を行うマルチユーザMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を利用してさらなる特性改善を図ることができる。マルチユーザMIMO技術を利用する際の制御は、多数の送信アンテナを利用することで、端末装置913における希望信号の同位相合成と、異なる端末装置913間の干渉信号の除去のためのヌル制御とを両立しているという点を除けば、基本的にはコヒーレント伝送を基礎とした制御である。
[コヒーレント伝送におけるチャネルフィードバックの概要]
コヒーレント伝送を行うためには、送受信局間のチャネルの状態を把握する必要がある。これは、複数の送信局又は中継局から送信された信号が同位相で受信局に届くようにするために、送信局及び中継局において、受信局との間のチャネルの状態を把握し、チャネルの状態に応じた送信ウエイトを用いて信号を送信するためである。
図4は、従来技術におけるチャネルフィードバックの処理を示すフローチャートである。従来技術におけるチャネルフィードバックの方法は大別して2種類の方法がある。ここでは、フォワードリンクのチャネル推定結果を直接取得する「(A)直接的な方法」と、バックワードリンクの情報を用いて換算推定する「(B)間接的な方法」とについて説明する。
一般的には、フォワードリンクとその逆方向のバックワードリンクのチャネル情報は一致しない。それは、フォワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組み合わせと、バックワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組み合わせが異なり、フォワードリンクのチャネル情報とバックワードリンクのチャネル情報との間で複素位相や振幅が異なるからである。
しかし、後述する換算処理(キャリブレーション処理)を実施することで、バックワードリンクのチャネル情報からフォワードリンクの情報を換算推定することが可能である。なお、以降の説明においては、先の説明における「リモート基地局」及び「中継局」を区別しない場合は「無線モジュール」と呼ぶことにする。
図4(A)は、直接的な方法の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、直接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(ステップS901)と、各無線モジュールから端末装置宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(ステップS902)。
端末装置は、各無線モジュールから送信された無線パケットを受信し、受信した無線パケットに含まれているプリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(ステップS903)。端末装置では、このチャネル推定結果を「制御情報収容用の無線パケット」に収容し、無線モジュールに送信する(ステップS904)。
無線モジュールは、端末装置が送信した「制御情報収容用の無線パケット」を受信し、チャネル情報を取得する(ステップS905)。更に、無線モジュールは、受信したチャネル情報をメモリに保存し、チャネル情報に関するデータベースを構築し(ステップS906)、処理を終了する(ステップS907)。
図4(B)は、間接的な方法の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、間接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(ステップS908)と、端末装置から無線モジュール宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(ステップS909)。
無線モジュールは、端末装置から送信された無線パケットを受信し、無線パケットに含まれているプリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(ステップS910)。無線モジュールは、このバックワードリンクにおけるチャネル情報の推定結果に、換算処理を施し、フォワードリンク側のチャネル情報を取得する(ステップS911)。
バックワードリンクにおけるチャネル情報からフォワードリンクにおけるチャネル情報を算出する換算処理は、フォワードリンクにおけるハイパワーアンプと、バックワードリンクにおけるローノイズアンプとの相違を補正する係数を用いることにより実施することが可能である。具体的には、バックワードリンクにおけるチャネル情報に、ハイパワーアンプとローノイズアンプとの相違を補正する係数を乗算することによって、ステップS911における変換処理を実施することができる。
更に、無線モジュールは、端末装置から受信したバックワードリンクにおけるチャネル情報と、変換処理により得られたフォワードリンクにおけるチャネル情報とをメモリに保存し、チャネル情報を記憶するデータベースを構築し(ステップS912)、処理を終了する(ステップS913)。
このようにしてチャネル情報を事前に取得しておき、一般的には実際に通信を行う際にこのチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。なお、チャネル情報は時間とともに変動するため、状況に応じて例えば周期的に更新することが一般的である。また、上記の中でチャネル情報をデータベース化して保存するのは、無線モジュール以外のその他の制御局等で行っても構わない。
また、分散アンテナシステムを例にとれば、この送信ウエイト算出処理は各無線モジュールで個別に行うのではなく、制御局において集中制御的に一括処理を行うことが一般的である。特に、マルチユーザMIMOにより複数の端末装置と同時に同一周波数チャネルで通信を行う際には、全てのチャネル情報を用いなければ送信ウエイトを算出することはできない。ただし、マルチユーザMIMOではなく、1台の端末装置との間での1対1通信を行う場合に限定すれば、チャネル情報から得られる伝送路上での複素位相の回転をキャンセルする送信ウエイト(つまり、全ての無線モジュールでチャネル情報と送信ウエイトを乗算すると複素位相が定数となる)を利用可能であるので、無線モジュールで個別に処理をすることも可能である。
なお、ここではOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式及びSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization:周波数領域等化シングルキャリア伝送)方式を用いる場合を例にとり説明を行う。なお、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:直交周波数分割多元接続)方式は、物理レイヤにおける処理は基本的にOFDM変調方式を利用しているため、下記の説明ではOFDMとOFDMAは同等の方式として扱うことにする。
[フェーズドアレーアンテナ技術について]
なお、コヒーレント伝送と類似の技術として、多数のアンテナ素子を用いたフェーズドアレーアンテナ技術がある(例えば、非特許文献3)。
図5は、フェーズドアレーアンテナの原理を示す図である。同図には、5つのアンテナ素子961−1〜961−5が、互いに間隔dを隔てて直線状に配置されているフェーズドアレーアンテナが示されている。フェーズドアレーアンテナにおいてアンテナ素子961−1〜961−5の配列方向に対して角度θ方向の指向性を形成する場合、その方向に対してアンテナ素子961−1〜961−5ごとの経路長差がdCosθであることを考慮して、同位相合成するように各アンテナ素子961−1〜961−5を用いて送受信する信号それぞれに対して調整を行えばよい。
ここで、送受信する信号の波長がλである場合、隣接するアンテナ素子961−1〜961−5間で((2πdCosθ)/λ)ずつ位相をずらした信号を出力することにより、角度θ方向に対して指向性を形成することができる。この位相差((2πdCosθ)/λ)は、送受信する信号にアナログ的に移相器を用いて与えてもよいし、デジタル信号処理において与えてもよい。
フェーズドアレーアンテナでは、このようにして、所定の角度方向に対するアンテナ利得を稼ぐことができる。なお、一般には、指向性利得が最大となるメインローブ方向の周りに細かな利得のうねりを示すサブローブが生じるため、その影響を低減しメインローブを安定的に運用するために、アンテナ素子961−1〜961−5の間隔dをλ/2以下にする。
ただし、波長λに対しアンテナ素子961−1〜961−5間隔が短くなるにつれ、アンテナ素子961−1〜961−5同士の素子間結合や様々な要因により、単純な同位相合成の場合に比べ大幅に利得は低減する。この場合、個々のアンテナ素子961−1〜961−5から送受信される信号は、送受信点において独立な波として振幅を単純に加算できる波動と異なり、あたかも多数のアンテナ素子961−1〜961−5全体で一つの仮想的なアンテナ素子を構成し、その仮想的なアンテナ素子から一つの信号(波動)を送信するといった振る舞いとなる。この点で、単純な同位相合成が成り立つコヒーレント伝送とは異なる現象と見ることができる。
[マルチユーザMIMO技術について]
(マルチユーザMIMOの概要)
コヒーレント伝送や、フェーズドアレーアンテナ技術は、基本的に回線利得を改善する技術であり、広域のサービスエリアを一つの基地局装置でカバーする際の回線容量を増大させるためには、別の無線通信技術が必要となる。一方で周波数資源は限りがあるために、ここでは限られた資源を高い周波数利用効率で利用するための技術として、例えば非特許文献4にて検討されているマルチユーザMIMO技術について説明をする。
図6は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示す概略図である。同図に示すように、マルチユーザMIMOシステムは、基地局装置801と、端末装置802−1、802−2、802−3(端末装置#1〜#3)とを具備している。実際に一つの基地局装置801が収容する端末装置802の数は多数であるが、そのうちの数局を選び出し(同図では端末装置802−1〜802−3)、通信を行う。各端末装置802は、基地局装置801と比較して送受信アンテナ数が一般に少ない。例えば、基地局装置801から端末装置802への通信(ダウンリンク)を行う場合について説明する。
基地局装置801は、多数のアンテナ素子を用いて複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末装置802−1〜803に対してそれぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体として9系統の信号系列を送信する場合を考える。その際、端末装置802−1に対して送信する信号は、端末装置802−2及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整し、この結果として端末装置802−2及び端末装置802−3への干渉を抑制する。同様に、端末装置802−2に対して送信する信号は、端末装置802−1及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末装置802−3にも施す。このように指向性制御を行う理由は、例えば端末装置802−1においては、端末装置802−2及び端末装置802−3で受信した信号の情報を知る術がないため、端末装置802間での協調的な受信処理ができない。つまり、3本しかない端末装置802−1のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しい。そこで、各端末装置802−1〜802−3には他の端末装置802の信号が受信されないように、送信側で干渉分離を事前に行う。
以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。次に、指向性ビームの形成方法について、以下に説明を加える。ここでは、基地局装置801が9つのアンテナ素子を備え、各端末装置802−1〜802−3が3つのアンテナ素子を備える場合について説明する。例えば、図6において、基地局装置801の第j(j=1,…,9)のアンテナ素子と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子との間のチャネル情報をh1jと表記する。基地局装置801の各アンテナ素子(j=1,…,9)と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子とのチャネル情報を用いて行ベクトルh1を(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、基地局装置801の第jのアンテナ素子と、端末装置802−1の第2のアンテナ素子及び第3のアンテナ素子との間のチャネル情報をh2j及びh3jと表記し、対応する行ベクトルh2及びh3を(h21,h22,h23,…,h28,h29)及び(h31,h32,h33,…,h38,h39)と表記する。端末装置802−2及び端末装置802−3のアンテナ素子に対して同様の連番をふり、行ベクトルh4〜h9を(h41,h42,h43,…,h48,h49)〜(h91,h92,h93,…,h98,h99)と表記する。
加えて、基地局装置801が送信する9系統の信号をt1〜t9と表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t1,t2,t3,…,t8,t9)Tと表記する。ここで、右肩のTの文字はベクトル、行列の転置を表す。また同様に、端末装置802−1〜802−3の9本のアンテナ素子での受信信号をr1〜r9と表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r1,r2,r3,…,r8,r9)Tと表記する。最後に、行ベクトルh1〜h9を第1から第9行成分とする行列を、全体チャネル情報行列H[all]と表記する。また、ノイズをnと表記する。
この場合、マルチユーザMIMOシステム全体として、次式(1)の関係が成り立つ。
これに対し送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、式(1)を次式(2)のように書き換える。
更に、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw1〜w9に分解し、W=(w1,w2,w3,…,w8,w9)と表記すると、式(2)における「H[all]・W」を次式(3)のように表せる。
ここで、例えば6つの行ベクトルh4〜h9と、3つの列ベクトルw1〜w3との乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w1〜w3の値を選ぶことを考える。同時に、行ベクトルh1〜h3及びh7〜h9と列ベクトルw4〜w6との乗算、行ベクトルh1〜h6と列ベクトルw7〜w9との乗算が全てゼロになるように、w4〜w9の値を選ぶことにする。
すると、式(3)に示す9行9列の行列H[all]・Wは、3行3列の部分行列を用いて、次式(4)のように表すことができる。
式(4)において、H[1]、H[2]、及びH[3]は3行3列の行列であり、「0」は成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列を送信ウエイト行列Wに選択することで、式(4)は次式(5−1)〜式(5−3)で表される3つの関係式に分解できる。
ここで、Tx[1]=(t1,t2,t3)T、Tx[2]=(t4,t5,t6)T、Tx[3]=(t7,t8,t9)T、Rx[1]=(r1,r2,r3)T、Rx[2]=(r4,r5,r6)T、Rx[3]=(r7,r8,r9)Tとした。このようにして、一つの基地局装置が1対1でMIMO通信を行う、いわゆるシングルユーザMIMO通信が3系統、同時並行的に通信を行っている状態とみなすことができるようになる。
次に、送信ウエイトベクトルw1〜w9の決定方法の例を以下に説明する。手順としては、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を決定し、順次、端末装置802−2に対する送信ウエイトベクトルw4〜w6、端末装置802−3に対する送信ウエイトベクトルw7〜w9を決定する。
まず、第1ステップとして、端末装置802−2、802−3に対する6つの行ベクトルh4〜h9が張る6次元部分空間における6つの基底ベクトルe4〜e9を求める。求める方法は、グラムシュミットの直交化法の他、様々な方法があるが、ここでは例としてグラムシュミットの直交化法を例に説明する。
まず、一つの行ベクトルh4に着目し、この方向で絶対値が1のベクトルを基底ベクトルe4とする。基底ベクトルe4は次式(6)として表される。
式(6)における(h4h4 H)は同一ベクトルの絶対値の2乗を意味するスカラー量であり、この値の平方根での除算は行ベクトルh4を規格化することを意味する。また、「h4 H」は、行ベクトルh4に対するエルミート共役ベクトルであり、行と列を転置し且つ各成分の複素共役を取ることで得られるベクトルである。
次に、行ベクトルh5に着目し、この行ベクトルの中から基底ベクトルe4方向の成分をキャンセルした行ベクトルh5’を求めた後、更に規格化する。行ベクトルh5’と基底ベクトルe5とは、次式(7−1)及び式(7−2)で表される。
式(7−1)における(h5e4 H)は、行ベクトルh5の基底ベクトルe4方向への射影を意味する。同様の処理を次式(8−1)及び次式(8−2)のように行う。
ここで、式(8−1)におけるΣの総和の範囲は、4≦i≦(j−1)(jは5〜9の整数)の整数iに対する総和となっている。つまり、既に確定した規定ベクトル方向の成分をキャンセルすることを意味する。このようにして、6つの基底ベクトルe4〜e9を求めることができる。
次に、第2ステップとして、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を求める。まず、行ベクトルh1〜h3から、基底ベクトルe4〜e9が張る6次元部分空間の成分をキャンセルする。具体的には、次式(9)で表される。
ここで、式(9)におけるjは1〜3の整数であり、Σの総和の範囲は4≦i≦9の整数iに対する総和となっている。このようにして求めた行ベクトルh1’〜h3’の3つのベクトルが張る3次元空間は上述の行ベクトルh4〜h9のいずれとも直交している。この3次元空間内の3つのベクトル(必ずしも直交ベクトルである必然性はない)を選び、そのベクトルの複素共役ベクトルを送信ウエイトベクトルw1〜w3として設定すれば、他の端末装置802−2、802−3への干渉を抑圧することができる。
なお、3つのベクトルの選び方は如何なる方法でも構わないが、例えば特異値分解を行って得られるユニタリー行列を構成する3つの直交ベクトルを用いれば、他の端末装置802に干渉を与えない部分空間内に限定された固有モード伝送が可能になり、効率的な伝送が可能になる。
最後に、第3ステップとして、これと同様の処理を端末装置802−2、端末装置802−3に対しても行えば、最終的に全体の送信ウエイトベクトルw1〜w9を求めることができる。
以上が送信ウエイト行列Wの求め方である。
図7は、マルチユーザMIMOシステムにおける送信ウエイト行列Wを算出する手順を示すフローチャートである。まず、送信ウエイト行列Wの算出にあたり、全ての端末装置802へのチャネル情報行列Hを取得する(ステップS801)。宛先とする端末装置802に対して通し番号を付与し、その通し番号を示す変数をkとした場合、まずkを初期化する(ステップS802)。更に、kをカウントアップし(ステップS803)、現在のkが示す値に対応する端末装置802(#1)に対する部分チャネル情報(ここでは便宜上、Hmainと表記する。)を抽出し(ステップS804)、それ以外の宛先の端末装置802に対する部分チャネル情報行列(ここでは便宜上、Hsubと表記する。)を抽出する(ステップS805)。
更に、部分チャネル行列Hsubの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ej}と置く(ステップS806)。次に、式(9)に相当する処理として、着目している端末装置802(#1)に対する部分チャネル情報行列HmainからステップS806において求めた基底ベクトル{ej}に関する成分をキャンセルし、これを行列〜Hmainとする(ステップS807)。ここで、ステップS807において、「〜(チルダ)」が上に付されたHを「〜H」と表記する。以下、数式等においても同様に、「^(ハット)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
更に、行列〜Hmainの行ベクトルが張る部分空間の任意の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ei}とする(ステップS808)。ここで、任意の基底ベクトルとは、例えば行列〜Hmainを特異値分解した際の右特異行列を構成するベクトルなどを選んでもよい。その後、基底ベクトル{ei}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(複素共役ベクトルを転置した列ベクトル)として、端末装置802(#1)の信号に関する送信ウエイトベクトル{wj}を決定する(ステップS809)。
ここで、全ての宛先の端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みか否かを判定し(ステップS810)、残りの端末装置802があれば、ステップS803からステップS809までの処理を繰り返す。全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{wj}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS811)、処理を終了する。
なお、チャネル情報は一般的には周波数成分ごとに異なるため、広帯域の信号、例えばOFDM変調方式を用いた信号であれば、周波数成分ごと、すなわちサブキャリアごとに同様の送信ウエイトを算出することになる。またここでは、端末装置802−1〜802−3がそれぞれアンテナを3素子ずつ備えている場合を例に取り説明したため、ステップS808にて〜Hmainの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出する処理を含んでいたが、端末装置が1本のアンテナのみを備える場合には、ステップS808は単に〜Hmainに相当する行ベクトルを規格化することに対応する。
(マルチユーザMIMOの装置構成例)
図8は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、送信部81、受信部85、インタフェース回路87、MAC層処理回路88、及び通信制御回路820を備えている。MAC層処理回路88はスケジューリング処理回路881を有している。
基地局装置80は、インタフェース回路87を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路87は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路88に出力する。MAC層処理回路88は、基地局装置80全体の動作の管理制御を行う通信制御回路820の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路87で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路881は、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に出力される。
図9は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における送信部81の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送信部81は、送信信号処理回路811−1〜811−L(Lは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−K(Kは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−Kと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−Kと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−Kと、フィルタ817−1〜817−Kと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−Kと、アンテナ素子819−1〜819−Kと、送信ウエイト処理部830とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−Lと、送信ウエイト処理部830とは、図8において示した通信制御回路820に接続されている。
送信ウエイト処理部830は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路832と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路833とを備えている。
ここで、同図における送信信号処理回路811−1〜811−Lの添え字のLは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−Kからアンテナ素子819−1〜819−Kまでの回路の添え字のKは、基地局装置80が備えるアンテナ系統数を表す。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−Lに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先の端末装置それぞれに送信すべきデータ(データ入力#1〜#L)がMAC層処理回路88から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号は周波数成分ごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号に周波数成分ごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−Kに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして加算合成回路812−1〜812−Kに入力される。
加算合成回路812−1〜812−Kに入力された信号は、周波数成分ごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−Kごとに、D/A変換器814−1〜814−Kでデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−Kで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−Kで帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−Kで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−Kより送信される。
なお、図9では、各周波数成分の信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−Kで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−Lにてこれらの処理を行い、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kを省略する構成としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−Lにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理をさす。
なお、送信信号処理回路811−1〜811−Lで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、送信ウエイト処理部830に備えられているマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833より取得する。送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831で別途チャネル情報を取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路832に記憶する。信号の送信時にマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−Lに出力する。
また、宛先局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う送信ウエイト処理部830に対し、通信制御回路820は宛先局等を示す情報を出力する。
図10は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における受信部85の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、アンテナ素子851−1〜851−Kと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−Kと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−Kと、フィルタ855−1〜855−Kと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−Kと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−Kと、受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とを備えている。受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とは、図8において示した通信制御回路820に接続されている。
受信ウエイト処理部860は、チャネル情報推定回路861と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路862とを備えている。
アンテナ素子851−1〜851−Kで受信した信号をローノイズアンプ852−1〜852−Kで増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−Kで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ855−1〜855−Kで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−Kでデジタル・ベースバンド信号に変換される。デジタル・ベースバンド信号は全てFFT回路857−1〜857−Kに入力され、所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信信号処理回路858−1〜858−Lに入力されるとともに、チャネル情報推定回路861にも入力される。
チャネル情報推定回路861では、各周波数成分に分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末装置のアンテナ素子と、基地局装置80の各アンテナ素子851−1〜851−Kとの間のチャネル情報を周波数成分ごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトを周波数成分ごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を合成する受信ウエイトは、信号系列ごとに異なり、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路858−1〜858−Lそれぞれに入力される。
受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、FFT回路857−1〜847−Kから入力された周波数成分ごとの信号に対し、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を周波数成分ごとに加算合成する。受信信号処理回路858−1〜858−Lは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路88に出力する。
ここで、異なる受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、MAC層処理回路88は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路87に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。この処理の中でスケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。MAC層処理回路88にて処理された受信データは、インタフェース回路87を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う受信ウエイト処理部860に対し、通信制御回路820から送信元の端末装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算は周波数成分ごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−Kから出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−KでFFTを行い各周波数成分に分離し、分離した周波数成分ごとに、チャネル情報推定回路861での信号処理、及び、受信信号処理回路858−1〜858−Lでの受信信号処理が実施されることになる。
(マルチユーザMIMOの送信処理)
図11は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の送信処理を示すフローチャートである。マルチユーザMIMOでは、データの送信とは別に行うダウンリンクのチャネル情報のフィードバックが定期的になされている。チャネル情報取得回路831はダウンリンクにおけるチャネル情報を取得すると(ステップS831)、端末装置ごとに各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832に記憶させる(ステップS832)。ステップS831及びステップS832の処理は、逐次行われる。
基地局装置80からの信号送信処理が開始されると(ステップS821)、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先である端末装置に対応する各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出す(ステップS822)。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、読み出したチャネル情報を基に、先に示した処理によりマルチユーザMIMO用の送信ウエイトを周波数成分ごとに算出する(ステップS823)。ステップS822及びステップS823の処理とは別に、送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先ごとの送信すべきデータに対し、各種変調処理等の送信信号処理により、宛先局ごとに各周波数成分の送信信号を生成する(ステップS824)。
送信信号処理回路811−1〜811−Lは、生成した送信信号に、ステップS823においてマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833が算出した送信ウエイトを乗算する(ステップS825)。また、送信信号処理回路811−1〜811−Lは一連の信号処理を施し、加算合成回路812−1〜812−Lはアンテナ素子819−1〜819−Lごとに各周波数成分の各端末装置宛の送信信号に対する加算合成を行い、更にIFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理を行い、D/A変換器814−1〜814−Kに出力する(ステップS826−1〜S826−K)。IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kから出力された信号は、D/A変換器814−1〜814−Kからハイパワーアンプ818−1〜818−Kにおける信号処理が施され、アンテナ素子819−1〜819−Kそれぞれから送信され(ステップS827−1〜S827−K)、処理を終了する(ステップS828−1〜S828−K)。
なお、ステップS827−1〜S827−Kにおける処理は、ベースバンド信号から無線周波数へのアップコンバート処理、フィルタによる帯域が周波数成分の除去、ハイパワーアンプによる信号の増幅などを含む。
(マルチユーザMIMOの受信処理)
図12は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の受信処理を示すフローチャートである。まず、受信処理を開始すると(ステップS840)、第1から第Kのアンテナ素子851−1〜851−Kにて信号を受信する(ステップS841−1〜S841−K)。ここでの受信とは、受信した信号ないしそれをダウンコンバートした信号に対し、アナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。以降の信号処理は、デジタル化された受信信号に対する処理を意味する。
続いて、各アンテナ素子851−1〜851−Kに対応する受信信号に対し、FFT回路857−1〜857−Kによる各周波数成分への分離等の信号処理を行う(ステップS841−1〜S842−K)。更に、チャネル情報推定回路861は、無線パケットに付与されていた既知のパターンのプリアンブル信号の受信状態より、各周波数成分のチャネル推定を実施する(ステップS843−1〜S843−K)。ここで、伝搬路上での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握する。このステップS843−1〜S843−Kで行うチャネル推定では、ステップS843−1、S843−2、・・・、S843−Kを個別に示した通り、空間多重される信号系列ごとに個別にチャネル推定を行う必要がある。この個別のチャネル推定とは、送信元の端末装置それぞれから送信された信号を分離可能な状態で行う必要がある。OFDM変調方式を例に取れば、一般的には空間多重数と同数のシンボル数のチャネル推定用のプリアンブル信号が必要となる。各端末装置は空間多重数と同数のシンボル数(ないしはそれ以上)で且つそれぞれが異なるパターンのプリアンブル信号を付与して信号送信を行い、基地局装置80はそのパターンの違いを利用して、ステップS843−1〜S843−Kにて個別のチャネル推定を行うことになる。
マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862は、チャネル情報推定回路861が推定したチャネル情報を用いて、空間多重された信号系列ごと及び周波数成分ごとに個別の適切な受信ウエイトを算出する(ステップS844)。更に、受信信号処理回路858−1〜858−Lは、信号系列ごと及び周波数成分ごとに算出された受信ウエイトを、周波数成分ごとに分離された各アンテナ素子の受信信号に乗算する(ステップS845−1〜S845−K)。
ここで、受信ウエイトは、空間多重された信号系列ごとに用意されているため、ステップS845−1〜S845−Kにおける乗算結果は、空間多重された信号系列ごとに別々の結果となる。それぞれの信号系列の信号は、各アンテナ素子851−1〜851−Kの信号が周波数成分ごとに加算合成され(ステップS846−1〜S846−L)、合成された信号系列に対して、第1信号系列の信号処理(ステップS847−1)から第L信号系列の信号処理(ステップS847−L)までの処理が行われ、処理を終了する(ステップS848−1〜S848−L)。
なお、ここでは簡単のために線形の受信ウエイトを用いる場合の例を示したが、一般にはMIMOに関してはMLD(Maximum Likelihood Detection)等の非線形の信号処理を行うようにしてもよい。この場合、ステップS845−1〜S845−L、ステップS846−1〜S846−L、及びステップS847−1〜S847−Lにおける処理は、一体として非線形の信号検出処理が行われることになる。また、線形の受信ウエイトの算出に関しては、図7に示した送信ウエイトの算出処理と同様の手法で算出することが可能である。その他にも、擬似逆行列を利用した受信ウエイトや、MMSEウエイトを利用することも可能である。また、ここでは、受信に用いるアンテナ素子851−1〜851−Kの数Kに対し、空間多重された信号系列数がLとして説明をしたが、一般的にはKとLとは一致する必要はなく、Lの値がKの値以下であれば多数の信号系列の信号を空間多重することができる。
以上説明を行ったが、マルチユーザMIMOの典型的な特徴は、アップリンクにおける基地局装置80での受信処理において送信側と受信側との間のチャネル情報を基に、受信の都度、受信ウエイトを算出する点(ステップS844)、及び、ダウンリンクにおける送信処理において最新のチャネル情報を読み出し(ステップS822)、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する点(ステップS823)にある。つまり、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出は、送信ないし受信の都度行う点にある。これは、チャネルの時変動に起因したものであり、良好なチャネル推定精度を得るためには周期的にチャネル情報のフィードバック処理をする必要がある。チャネルのフィードバック周期を短く設定するに従い、チャネルフィードバックのための制御情報の送受信が必要になりオーバーヘッドは増大する。更に、基地局装置80において空間多重された信号を受信する際には複数の端末装置のチャネル推定をそれぞれ個別に行う必要があり、そのために所望の数の直交したプリアンブルが必要となる。一般的には、プリアンブル信号のパターンそのものが直交していることが好ましいが、そのようなパターンを設定できなければ、空間多重数と同数のシンボル数のオーバーヘッドが必要であり、空間多重数の増大に従ってそのオーバーヘッドも増大する。
[実際のシステムに求められる要求条件]
上述したコヒーレント伝送及び分散アンテナシステムでは、チャネル情報が送信側で既知である必要がある。そのため、実際のシステムでは、以下の要求条件をクリアする必要がある。
(要求条件1)
例えば、100局の無線モジュールを利用して20[dB]の回線利得を稼ぐ場合について考える。通信において、20[dB]の回線利得改善を前提として無線通信装置等の回路を設計するため、一つの無線モジュールと端末装置との間のチャネル推定を行う際には、通信時に比べて20[dB]劣化した環境でチャネル推定を行わなければならない。例えば、実際の通信における所要SNRが10[dB]であったとすると、チャネル推定はSNRが−10[dB]という雑音が支配的な環境で実施しなければならない。しかし、このような雑音が支配的な環境では、推定した極めて不確かなチャネル情報から送信ウエイトを求めても同位相合成を実現することはできない。
なお、分散アンテナシステムは、図3に示したように、複数のセルがオーバーラップする領域に存在する端末装置を想定している。すなわち、分散アンテナシステムで送受信に関与するリモート基地局は地理的に端末装置に比較的近接する数局のみであり、その結果低SNRとはならず、そもそも上述のチャネル推定精度の問題は発生していなかった。また、複数の中継局を利用したコヒーレント伝送が記載されている非特許文献1では、その「まとめ」の章においても記載があるように、チャネル情報の推定法を含む各種制御の達成方法についてはこの文献内で「あえて言及しないこと」を明言している。すなわち、著者は現時点ではコヒーレント伝送の実現は困難であるとの認識であり、非特許文献1ではこれらの数々の課題を解決できさえすれば有益な効果が得られる可能性があるという主張を行っていると推察される。このように従来技術では、コヒーレント伝送に必要な超低SNR領域でのチャネル情報のフィードバックを行うための方法が確立されていない。したがって、実際のシステムではこれらの技術が確立されることが求められる。
(要求条件2)
都市部のように自動車の往来が常に絶えない環境を想定すると、チャネルの状況は時間とともに変動する。仮にチャネル推定精度が所望のレベルにありチャネルのフィードバックが可能な場合であっても、チャネルのフィードバックに要するオーバーヘッドによる伝送効率の低下を考慮すれば、チャネルをフィードバックする周期は比較的長めに設定する必要があり、この結果、実際の送受信時刻よりも過去のチャネル情報を基にした送受信ウエイトを利用することになる。しかし、チャネルの時変動により最適な送受信ウエイトは変化するため、期待する回線利得は得られないことがあり、通信が不安定化してしまうという問題がある。したがって、実際のシステムでは、このチャネル時変動に対する対策技術の確立が求められている。
以上説明したように、複数の無線モジュール又は複数のアンテナ素子を介したコヒーレント伝送を行うためには、上記の「受信電力が低い環境ではチャネル情報の精度が低くなることに対する対策」(要求条件1)、「チャネルの時変動に起因して通信が不安定化してしまうことに対する対策」(要求条件2)に関する技術を確立し、受信側としての端末装置において同位相で信号が合成されるように、各無線モジュール又は各アンテナ素子から送信する信号を調整するための新たな技術が求められることになる。また、送信側と同様に、各無線モジュール又は各アンテナ素子で受信した信号に対する受信信号処理においても、全く同様の要求条件が存在する。
(要求条件3)
上記の要求条件をクリアできる状況であったとしても、20[dB]などの高い回線利得を稼ぐことが可能である場合、非常に広域のエリアを一括してサービスエリアとすることができるようになるため、広域のエリア内に位置する多数の端末装置で周波数資源を共用しなければならない。エリアが広くなり周波数資源を共用する端末装置数が増えると、1台の端末装置あたりのスループットが結果的に低下する。端末装置あたりのスループットを所定の値以上にするには、システム全体におけるスループットを高める必要がある。しかし、周波数資源は限られているため、通信に利用する周波数帯域を広げることはできない。つまり、周波数利用効率を高めることで、1台の端末装置あたりのスループットを向上させる必要がある。つまり、このような環境での利用におけるシステムの大容量化技術の確立が求められる。
上述の(要求条件3)に対しては、マルチユーザMIMO技術が有効であるが、大幅なスループットの増大のためには空間多重数を膨大にする必要があり、このために様々な要求条件が新たに生じる。
例えば、超多数(例えば、100本)のアンテナ素子を用いたマルチユーザMIMO伝送では、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出において、「総送信アンテナ素子数」×「総受信アンテナ素子数」の行列を扱うことになり、この行列のサイズの増加に合わせてデータの送受信ごとに求められる送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に対する影響が大きくなる。一般に、逆行列算出や特異値分解等の演算処理量(具体的には、回路として構成する際に加算回路に比べて乗算回路は回路規模が大きくなるため、乗算回数ないし除算回数を基準として評価される)は、行列サイズの3乗に比例して増加するといわれている。一般的に想定されるマルチユーザMIMOに用いられるアンテナ素子数に対して1桁以上多いアンテナ素子の数を用いる場合、要求される演算量は1000倍以上になってしまう。また、チャネルが時変動する環境であれば、データの送受信ごとに送信ウエイト又は受信ウエイトを算出する必要があるので、逐次、演算負荷による影響は著しく大きくなる。すなわち、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に要する時間が長くなり、空間多重化を効率よく行うことが困難になってしまうという問題がある。
更に、マルチユーザMIMO伝送で超多数の信号を空間多重する場合には、少なくともアップリンクにおいて、空間多重した信号を分離した上で、受信側で個別のパスのチャネル推定が必要となる。このようなチャネル推定を行うためには、少なくとも空間多重数の直交したプリアンブル信号が必要となる。一般的には、プリアンブル信号のパターンそのものが直交していることが好ましいが、そのようなパターンを設定できなければ、空間多重数と同数のシンボル数のオーバーヘッドが必要となる。これはMACレイヤの効率を低下させることとなり、周波数利用効率を低くしてしまうことになる。つまり、(要求条件3)に対する従来の対策技術では、新たな課題を生むことになっている。したがって、実際のシステムでは、現実的な演算負荷で、且つチャネルフィードバックやチャネル推定用のプリアンブルなどを含めたオーバーヘッドによるMACレイヤの効率の低下を抑えて、大幅なスループットの増大のための高次の空間多重を効果的に実現することが求められている。
(要求条件4)
以上の説明は、基本的に物理レイヤにおける信号処理を中心に説明を行っていた。しかし実際の無線システムの運用においては、物理レイヤの処理に加えてアクセス制御を管理するMACレイヤの動作も合わせて重要になる。例えば、WiFi(登録商標、以下同様)などでは自律分散型のCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス/衝突回避方式)が適用されている。このCSMA/CAでは、他の無線機からの信号の送信の有無をキャリアセンスにより把握し、無線パケットの送信が衝突しないように所定のルールで乱数を発生させ、キャリアセンスで信号負検出の時間の累積値がその乱数に応じた時間長に一致した段階で送信を開始する(この制御を「ランダムバックオフ」と呼ぶ)。このような自律分散型の制御により、基地局装置は帯域割り当てのスケジューリング処理を回避し、簡易なアクセス制御を実現することが可能となる。この制御は複数の信号系列を空間多重する場合であっても、基地局装置と1台の端末装置が1対1でMIMO伝送するシングルユーザMIMOであれば、このCSMA/CAによる自律分散型のアクセス制御をそのまま流用できる。しかし、上述のマルチユーザMIMOなどの技術では、同時に空間多重する端末装置の組み合わせを基地局装置が集中管理する必要があり、自律分散型とは異なる基地局装置における集中制御型(以下、基地局集中制御型という。)のアクセス制御が必要となる。
アップリンクを例に取れば、基地局装置が同時に空間多重された信号を分離するためには端末装置ごとのチャネル情報の推定が必要である。このチャネル推定のためには端末装置ごとに直交したチャネル推定用のパイロット信号(プリアンブル信号)の受信と、どのパイロット信号がどの端末装置に対応するかの管理が必要となる。このパイロット信号の直交関係とは、一般的には時間軸(OFDMシンボル)及び周波数軸(サブキャリア)の組み合わせで他の端末装置と重複しない組み合わせを設定することで実現したり、複数OFDMシンボルの受信信号の所定の係数を乗じた加算合成などで実現する。しかし、例えば100台以上の端末装置が存在するような状況で、各端末装置に対して異なる直交プリアンブルを用意することは困難(ないしは非効率)であるため、実際には比較的少数の直交したパイロット信号を使いまわすのが一般的である。つまり、利用するパイロット信号の条件を帯域割り当て時に合わせて端末装置に対して指示し、それらのチャネル推定用のパイロット信号の同期を図って送受信を行う必要がある。このため、少なくともアップリンクに関しては、帯域が割り当てられる端末装置の選択と送信開始タイミング及びパイロット信号の使用条件についての指示とを基地局装置が行う必要があり、結果的に基地局集中制御型の動作にならざるを得ない。
この基地局集中制御では、基地局装置は各端末装置がアップリンクでデータを送信するために必要となる帯域を把握する必要がある。つまり、何らかの制御情報用パケットを用いて基地局装置に通知することになる。このような基地局集中制御は、通常はTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)方式の適用が想定される。標準規格の中にマルチユーザMIMOが部分的に導入されたシステムとしてはWiMAXが上げられるが、ここでもTDMAフレームを用い、端末装置は割り当てられたスロットを用いて帯域要求を行う。端末装置からは必要な帯域(例えば、収容すべき情報のバイト数とその際の伝送モードなど)に関する情報を含む制御情報を基地局装置に送信し、基地局装置はその要求に応じて帯域を割り当てる。基地局装置は端末装置が割り当て不要の場合でも、その帯域要求用の制御情報を送信するためのスロットの割り当てを行わなければならない。そのため、比較的トラヒックの密度の低い超多数の端末装置を基地局装置が収容する場合には、帯域要求などの制御情報を送受信するための帯域がオーバーヘッドとなり、MACレイヤの効率を低下させることになる。自律分散型のCSMA/CA方式は、ランダムバックオフを行う際の時間が送受信のために利用できないため、この分だけMACレイヤの効率を下げることになるが、本当に送信すべきデータを有する端末装置のみがデータ送信を行うため、比較的トラヒック密度の低い超多数の端末装置を収容する場合には、むしろ効率的には優れることになる。例えば、上述した条件不利地域において広域エリアを一台の基地局装置で収容する無線システムを想定するならば、非常に広いサービスエリア内に点在する超多数の端末装置を一括して収容することになる。このため、このような条件で運用する場合であっても、MACレイヤの効率を落とすことなく、効率的に運用可能なアクセス制御方式が求められている。
[本発明の動作原理について]
本発明の本質の一つは、基地局装置が、基地局装置に備えられている多数の無線モジュールと、端末装置との間のチャネルの特性を示すチャネル情報の推定値を長時間に亘って測定し、チャネル情報の推定値の平均値に基づいて算出した送信ウエイト及び受信ウエイトを用いることにより、複数の無線モジュールを用いてチャネル時変動の影響を低減させながら、同位相合成を用いたコヒーレント伝送に伴う回線利得の獲得と、ピンポイントで同位相合成となる地域以外での低い回線利得を利用した高次の空間多重を実現することにある。
また、本発明は、上述のチャネル情報を平均して得られた推定値に基づいて算出した固定的な送信ウエイト及び受信ウエイトを用いて、各端末装置に対する送信処理及び受信処理を定常的に実施する。この際の受信ウエイトは、基地局装置の複数のアンテナにて受信されたある端末装置が送信した信号を、同位相で合成するための受信ウエイトである。同様に送信ウエイトは、基地局装置の複数のアンテナから送信される信号を端末装置にて同位相で合成されて受信できるようにするための送信ウエイトである。つまり、同時に空間多重する端末装置の組み合わせに依存せず、各端末装置で独立に設定可能な送受信ウエイトである。これらの送受信ウエイトを用い、基地局装置は、ある端末装置に対して送信すべき送信信号の有無に拘わらずに送信ウエイトを用いた送信処理を行い、また、ある端末装置から受信すべき受信信号の有無に拘わらず受信ウエイトを用いた受信処理を行う。
具体的には、基地局装置は、複数のアンテナで受信した受信信号それぞれを周波数軸上の信号に変換し、変換により得られた各周波数成分に対し、想定する端末装置、アンテナ及び周波数成分ごとに対応する受信ウエイトを乗算し、各周波数成分において各アンテナに対応する受信ウエイトの乗算結果を全アンテナに亘り加算合成する。このとき、各周波数成分に乗算される受信ウエイトは、アンテナ、周波数成分、及び端末装置の組み合わせに対応し、予め算出されたものである。
ここで、ある端末装置のみが基地局装置に信号を送信する場合について考える。基地局装置において、信号を送信した端末装置に対応する受信ウエイトを受信信号に乗算した場合、多数のアンテナで受信した受信信号それぞれが同位相合成されて有意な受信レベルの信号となり信号を検出することができる。一方、他の端末装置に対応する受信ウエイトを受信信号に乗算した場合、各アンテナの信号がランダムな位相で加算合成されることになり、その結果得られる信号の受信レベルは非常に低い信号となり信号を検出することができない。すなわち、各端末装置に対応する受信ウエイトを用いて全周波数成分(ないしは一部の周波数成分でも良い)の信号を合成すると、信号を送信した端末装置に対応する受信ウエイトを用いて得られた合成結果において有意な受信レベルの信号を検出することができ、当該端末装置から信号が送信されたことを把握することができる。一方、端末装置が信号を送信していない場合には、上述の受信ウエイトを用いて得られた合成結果においても有意な受信レベルの信号が検出されず、当該端末装置から信号が送信されていないことを把握することができる。
基地局装置は、上述の受信ウエイトを用いた受信処理を行うことにより、各端末装置が信号を送信したか否かを把握することができるので、各端末装置の信号送信の有無を事前に把握せずとも各端末装置からの信号を受信することができる。すなわち、基地局装置は、収容した全ての端末装置それぞれに対応する受信処理を行う受信信号処理回路を備えることにより、各端末装置から送信される信号の有無を事前に把握せずとも各端末装置から信号を受信することができるようになり、この結果、各端末装置に対する無線リソースの割り当て管理を省略することが可能になる。
同様に、基地局装置から端末装置へ信号を送信する際にも、上述の送信ウエイトを用いた送信処理を行うことにより、複数のアンテナから送信された信号が所望の端末装置で同位相合成され、当該端末装置宛の信号が有意な受信レベルの信号として当該端末装置において検出されるようにすることができる。このとき、他の端末装置においては同位相合成ではなくランダムな位相合成となるため、有意な受信レベルの信号として検出されない。換言すると、チャネル情報を平均して得られた推定値に基づいて算出した送信ウエイトを用いることにより、他の端末装置宛の信号の有無に拘わらずに、所望の端末装置宛の信号を送信することができる。
また、基地局装置では、上記のように有意な受信レベルの信号を検出することより、各端末装置からの送信を把握することができる。そこで、基地局装置では、信号送信が把握された端末装置の数をカウントすることによりアップリンクの空間多重数を予測し、その予測数が通信の品質の劣化を引き起こす可能性がある上限を超えた場合に、端末装置に送信を控えるよう指示する。これにより、パケットロスに伴う再送によって更にトラヒックが増大し、雪だるま式に空間多重数が膨大となって、通信の品質が大幅に劣化するような状況を防ぐ。
このように、本発明における基地局装置では、チャネル情報を平均化して得られた推定値に基づいて算出した送信ウエイト及び受信ウエイトを用いて定常的に送受信処理を行うことにより、基地局集中制御による各端末装置に対する無線リソースの割り当て管理を行わずとも、各端末装置との間で空間多重された伝送を行うことができる。更に、通信の対象となる端末装置ごとに、受信処理と送信処理とを行う処理部を基地局装置が個別に備えることで、各端末装置との通信を独立且つ並行に行うことができる。これにより、各端末装置が必要とする帯域を帯域要求用の制御情報などを用いて把握する必要がなくなり、余計な制御信号を送受信することによるオーバーヘッドを回避し、MACレイヤの効率を損なうことなく複数の端末装置と空間多重伝送を行うことができる。
さらに、各端末装置と基地局装置が個別のPoint−to−Point型の通信を並列で実施しながらも、空間多重数の上限が特性劣化に至らないように管理することで、安定的な通信を効率的に実現することが可能になる。
[本発明のベースとなる関連技術の概要]
以上に記した本発明の動作概要を実現するために、そのベースとなる関連技術について以下に説明を行う。以降の説明における関連技術とは、先に説明したコヒーレント伝送における無線中継システム、分散アンテナシステム、フェーズドアレイアンテナ技術、及びマルチユーザMIMO技術などの従来技術をさすものではなく、本発明を実現する際に組み合わせて利用するそのベースとなる技術を意味している。つまり本発明は、物理レイヤにおける処理及び動作原理的には、以下に示す関連技術の構成例に示す動作をベースとしている。そして、その特徴を利用しながらも、装置構成及び処理内容の一部を修正することで、MACレイヤの処理を簡易化することを可能にしている。なお、以下に示す本発明のベースとなる関連技術の構成例に示す処理においては、空間多重に用いる送受信ウエイトは空間多重する端末装置の組み合わせに依存せず、且つ時間とともに変動しない固定的な送受信ウエイトであるために、制御が大幅に簡易化されている。
以下、前提条件、システムの設置例などから順番に説明を行う。
(前提条件)
まず本発明の前提条件としては、基地局装置において送信する信号と受信する信号とが混信しない通信を前提としている。図13は、本実施形態において用いる通信方式の例を示す図である。この混信を回避するため、本無線通信システムは、WiMAX等で用いられている通信方式であって図13(A)に示されている送信と受信とが行われる時間が異なる時分割複信(Time Division Duplex:TDD)方式、ないしは図13(B)に示されている送信と受信とで利用する周波数帯域が異なる周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)方式のいずれかを用いる。このように、本発明では、送信と受信とが時間的ないしは周波数的に分離されている無線通信システムを想定している。
さらには、OFDMシンボルタイミングは、基地局装置と端末装置との間においてタイミング同期が図られているものとする。このタイミング同期を図る方法としては、例えばGPSなどのシステムを利用した同期であっても良いし、他の如何なる方法であっても構わない。シンボルタイミング同期の精度としては、そのタイミング同期の誤差が、OFDMシンボルに含まれているガードインターバル長よりも十分に小さければよい。例えばWiMAXなどでは1OFDMシンボル長が約100μ秒、ガードインターバル長も約20μ秒であるので、GPSよりも同期精度の低い電波時計や他の様々な方法を活用することも可能である。
また本発明では、各無線モジュールと端末装置との見通しが必ずしも確保できている必要はないが、無線モジュールと端末装置とは比較的高所に固定されていることが推奨される。この場合、各無線モジュールと端末装置との間の伝送路(チャネル)は、「直接的な見通し波」と、固定的な巨大な建築物等による「安定した反射波」と、地上(低所)付近の車や人などの「移動を伴う物体からの多重反射波」とが混在したものとみなすことができる。この場合、「直接的な見通し波」と「安定した反射波」とは、「移動を伴う物体からの多重反射波」に比べ、受信レベルが相対的に高く、更に時変動が小さい。一方、「移動を伴う物体からの多重反射波」は、「直接的な見通し波」と「安定した反射波」とに比べ、受信レベルが低く、時変動が大きく激しい。
何らかのチャネル推定用の信号(以降、「トレーニング信号」と呼ぶ)を連続的、又は間欠的に長時間に亘り送信し、受信側では受信した信号を長時間に亘り平均化すると、その結果、「移動を伴う物体からの多重反射波」の信号は、そのランダム性故に複素位相及び振幅の変動の平均値はゼロに近づく。一方で、「直接的な見通し波」及び「安定的な反射波」に関する成分は非ゼロの一定値に収束する。結果的に、時変動成分が相対的に小さな安定したパスに相当するチャネル推定結果が抽出されることになる。
なお、従来技術におけるコヒーレント伝送の説明においては「無線モジュール」とは「中継局」又は分散アンテナシステムにおける「リモート基地局」であった。これらは、当然ながら従来技術における制御局ないしは基地局から物理的に離れた場所に位置していた。分散アンテナシステムを例にとれば、複数のセルの中心にリモート基地局が位置する形態であるし、無線を用いた中継局であれば、無線を用いる必要があるほどには離れていることになる。しかし、本発明で意図する個別の無線モジュールからの信号の(送信及び受信の両方に対しての)同位相合成においては、必ずしも無線モジュールをリモート基地局や中継局のように遠くまで離す必要はない。
また、各無線モジュールのアンテナ素子とアンテナ素子の間隔が、通信の搬送波周波数の波長よりも小さくなると、アンテナ素子間の相互結合により想定している信号の同位相合成が乱される可能性があるが、概ね1波長以上の間隔がアンテナ素子相互に確保されていれば、この問題は回避できる。
つまり、本発明においては1波長以上の間隔が相互に確保された多数のアンテナ素子が、一つの基地局装置に接続された構成が基本となる。当然ながら、各アンテナ素子から送受信される信号は送受信ウエイトの係数が異なるため、アンテナ素子ごとに、ハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ等の無線周波数帯におけるRF(Radio Frequency:無線周波数)回路が個別に設けられるとともに、接続されており、これらが一つの無線モジュールを構成する。
これまでの説明においては、各無線モジュールが物理的に制御局などと異なる場所に離散的に配置されていたために、アンテナ素子とほぼ一体型の無線モジュールを意図して「無線モジュール」という用語で様々な説明を行っていたが、本発明においては制御局と多数の無線モジュールが1箇所に集約され、一般的には一つの基地局装置という形態が自然であるため、その実現の構成によっては「無線モジュール」という表現が適切でない場合がありうる。
例えば、機能的にはベースバンド信号処理等の制御局に相当する機能と複数のハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ等の無線周波数帯でのRF回路の機能が一つの筐体内に実装され、その筐体と多数のアンテナ素子間を同軸ケーブルで接続する構成を想定するならば、送受信時のアンプ、フィルタ系での振幅/複素位相の変動に対する補正を行うことを考慮した上で、「端末装置と無線モジュール間のチャネル情報」という表現は実質的には「端末装置のアンテナ素子と無線モジュールのアンテナ素子間のチャネル情報」と表現されることが多い。したがって、以降、チャネルの説明においては無線モジュールという用語の代わりにアンテナ素子という用語を用いて説明することにする。
(無線通信システムの設置例と関連技術の基本原理)
図14は、本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例を示す図である。同図において、符号11は基地局装置が設置されている建築物を示し、符号12−1〜12−2は端末装置を示し、符号13−1〜13−4は基地局装置が備えているアンテナ素子を示し、符号14−1〜14−3は地上の移動体を示し、符号15−1〜15−2は大型の建築物(当然、静止状態)を示している。
ここで、基地局装置が備えるアンテナ素子13−1〜13−4は、建築物11の屋上など非常に高所に設置されている。端末装置12−1〜12−2は、電信柱などの上や、一般のビルの屋上など、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4よりは相対的に低所であるかも知れないが、比較的高所に設置されている。一方、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4や、端末装置12−1〜12−2よりも比較的低所に位置する場所には、地上の移動体14−1〜14−3である車に加え、人や風に揺れる樹木など、ランダムに変動する反射波の起点(反射点)が多数存在する。
例えば、端末装置12−1と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、見通し環境(図中、太い実線の矢印で直接波を表示)にある。一方、端末装置12−2と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、大型の建築物15−2の遮蔽により見通し環境にはないが、大型の建築物15−1などの反射体があり、安定した反射波(図中、太い実線の矢印で表示)が到達している。
また、見通し環境の端末装置12−1にとって、見通し波以外に大型の建築物による安定的な反射波が存在し、常にそれらが合成されて信号が到達する状況であるかもしれない。このような太い実線の矢印で表した信号を安定的な入射波とみなす。一方、地上の移動体14−1〜14−3等からの反射波は、多数回のランダムな多重反射として到達する信号が多く、相対的に受信される信号のレベルは低く、更に複素位相成分及び振幅は時間とともにランダムに変動する。
多数の微弱かつランダムな波を合成すると、その結果得られる信号は、安定的な入射波に対して相対的に信号強度が小さい。したがって、「安定的な入射波」に「ランダムな多重反射波」を合成して得られる「時変動する入射波」は、「安定的な入射波」の周りに微小な誤差が加わった信号と見ることができる。
次に、このような状況において、基地局装置が行う信号の合成について説明する。
図15は、本発明に係る基地局装置が行う信号合成の動作例を示す図である。ここでは、一例として、図14における端末装置12−1から送信された信号を、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4にて受信した際に、適切な受信ウエイトを用いて合成する場合を示している。
基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4では、「時変動する入射波」を受信している。これらを合成する際に用いる受信ウエイトは、「安定的な入射波」を基準にして、各アンテナ素子での信号が同位相合成されるように定められている。図15において点線で示した信号は、「安定的な入射波」に対して受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子13−1〜13−4で位相が同位相に揃えられた信号である。
実際の「時変動する入射波」に受信ウエイトを乗算した信号、即ち図15における細い実線で示した「時変動する入射波」は、点線で示した「安定的な入射波」から微小にずれているため厳密には各アンテナ素子で同位相合成とはなっていないが、「時変動する入射波」は「安定的な入射波」に近い振る舞いを示すため、多数のアンテナ素子の信号を「安定的な入射波」を基準にして設定した受信ウエイトを用いて合成すると、太い実線で示した大きな振幅の合成された信号となる。つまり、基地局装置で用いるアンテナ素子の数を膨大な数に増やせば、統計的な効果として各アンテナ素子の「安定的な入射波」成分は同位相合成され、「ランダムな多重反射波」は相互に打ち消しあうために、「安定的な入射波」に対して時変動成分は相対的に非常に小さなレベルに抑えられる。
ここで、図14及び図15の説明においては、あくまでも簡単のために基地局装置に4本のアンテナ素子を備える場合について説明を行ったが、以下に示すように、本発明では非常に多数のアンテナ素子を備えることで統計的な効果を得ることが可能になる。
なお、この「安定的な入射波」に基づく統計的な信号の同位相合成は、送信時に用いる送信ウエイトと受信時に用いる受信ウエイトの双方において同様に利用することができる。基地局装置で用いる送受信ウエイトはチャネル推定結果に基づき算出されるものであるが、そのチャネル推定は基地局装置が送信するトレーニング信号を端末装置で受信して行っても、端末装置が送信する信号を基地局装置で受信してチャネル推定しても構わない。一般的に、ダウンリンクとアップリンクのチャネル情報は送信/受信に用いるアンプ/フィルタ等が異なるために非対称であるが、アップリンクのチャネル推定結果とダウンリンクのチャネル推定結果には所定の換算式が成り立ち、後述するキャリブレーション処理を用いれば、端末装置が送信したトレーニング信号を基地局装置の全てのアンテナ素子で同時に受信し、その結果を用いたチャネル推定によりアップリンクのチャネル情報を取得し、これに所定の換算式を適用することでダウンリンク方向のチャネル情報を取得することが可能である。
以上に説明したように、基地局装置の各アンテナ素子と、各端末装置のアンテナ素子との間のチャネル情報に対する長時間に亘る平均化処理により、ランダムな時変動成分を抑制し、時間変動のない見通し波ないしは安定的な構造物等からの安定的な入射波を抽出することが可能になる。この抽出された長時間平均のチャネル情報を基に、ターゲットとする端末装置に対して同位相合成を行うことで、高い回線利得を獲得することが可能となる。一般に、ある1本のアンテナ素子から送信された信号が別の場所の1本のアンテナ素子で受信される際の振幅を1としたときに、N本のアンテナ素子から送信された信号を同位相合成すると、受信信号の振幅の期待値はN倍になる。受信電力は振幅の2乗に比例するので、受信電力はN2倍となる。つまり10Log10(N2)[dB]の利得を得ることが可能になり、Nが仮に100であれば同位相合成によるコヒーレント伝送に伴う回線利得は40[dB]に相当する。
次に、与・被干渉の低減を利用した高次の空間多重に関して説明する。上述の同位相合成は、特定の端末装置をターゲットにして行うものであり、当該端末装置に対してのみピンポイントで高い回線利得を得ることができる。例えば、図14の端末装置12−1に対して同位相合成を行えば、端末装置12−2のように同位相合成とならない他の地点では、ランダムな位相合成となる。図14では基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4が4素子の場合を示したが、アンテナ素子がN本の場合、ランダムな位相合成の結果、期待値として受信電力はN倍になる。このような状況で、2つの信号系列を同時に空間多重した場合、同位相合成がなされている希望信号に関しては回線利得が送信アンテナ素子1本あたりN2倍であるのに対して、干渉となる非希望信号に関しては回線利得が送信アンテナ素子1本あたりN倍となる。そのため、相対的なSIR値は10Log10(N)[dB]となる。
このように、送信アンテナ素子の数(N)が仮に100であれば、空間多重を行いながらも期待値として20[dB]のSIRを稼ぐことができる。つまり、図14における太い実線で示した二つのパスを利用し、端末装置12−1及び端末装置12−2の両方と基地局装置との通信を同時に同一周波数帯で実施することが可能となる。
通常、アンテナの本数が膨大な場合に、一般的なマルチユーザMIMO技術で空間多重を行う際、アンテナの本数の3乗に比例する信号処理の演算量が見込まれるため、回路規模的に現実的な数のアンテナ素子による運用が強いられてきた。特に、重要なのはある端末装置への信号が他の端末装置に対して干渉とならないようにするためのヌル制御であるが、本発明においてはこのヌル制御を実現するための送受信ウエイトの算出をリアルタイムで行う必要がなく、事前に算出したウエイトを読み出す形で通信における信号処理を実現できる。このため、多数のアンテナ素子を利用しながらも、運用中の演算量及び回路規模を抑えた高次の空間多重が実現可能である。さらには、本発明では上述のヌル制御を行わずとも、もともとある程度高いSIRを確保することができ、このためチャネル時変動により多少ヌル制御が破れてもSIR値は比較的高いままで、安定的に空間多重を行うことができるという特徴も併せ持つ。
なお、先ほどの例を基に説明を行えば、送信アンテナの数(N)が100である場合、10系統の信号を空間多重すると干渉電力は相対的に約10倍となるために、SIRの期待値は約10[dB]となる。もちろん、平均SIR値が10[dB]でもある程度の分布の広がりがあるため、所要SIR値が10[dB]の場合でも10多重ないしはそれ以上の空間多重を行うためには、SIR特性が良好な端末装置の組み合わせを行うスケジューリング機能や、干渉抑圧を行うための指向性制御機能を組み合わせることが好ましい。ただし、ここで行うスケジューリング機能及び指向性制御機能は、時間とともに変動するチャネル情報を反映したリアルタイムの制御を前提とする必要はなく、先に説明した長時間平均により時変動成分を平均化した固定的なチャネル情報を用いて行うことができる。そのため、通信を行うたびに逐次複雑な信号処理を行うことを避け、通信の開始の前に行う事前処理において、その負荷の大きい処理を完了させ、処理の結果を用いた運用を行うことにより、運用中の負荷を低減させることができる。本発明は、上述のようにヌル制御なしでもSIR特性に優れる安定的な条件を構築するとともに、更に干渉抑圧を行うための指向性制御機能を組み合わせることで、より高次の空間多重を安定的に実現可能とする。
このように本発明では、リアルタイムのチャネル情報を用いて厳密な同位相合成を目指す代わりに、厳密な送受信ウエイトからは若干の誤差を伴う送受信ウエイトであったとしてもある程度の誤差以内に抑えられる送受信ウエイトを用い、多数のアンテナ素子を用いて合成することで統計的な効果により安定的かつ高い回線利得を引き出す準最適な同位相合成を目指す点が第1の重要なポイントである。
更に本発明では、送受信ウエイトはチャネルの時変動を意識することなく固定的な値となるため、例えば通信サービスの運用開始前に事前に取得しておけば、データの送受信を行うサービス運用時には、個々に演算をすることなく単純にメモリに記憶された送受信ウエイトを読み出すだけで良いため、通信に用いるアンテナ素子数を膨大な数に増やしたとしても信号処理の負荷を低く抑えることが可能であり、この点が第2の重要なポイントである。
更に本発明では、通信の都度、送受信ウエイトの算出のために個別のアンテナ素子間のチャネル推定を行わないので、空間多重数と同数のチャネル推定用のプリアンブル信号を付与する必要がない。このため、OFDM変調方式を用いる場合を例に取れば、従来であれば10多重の空間多重のためには異なる10シンボルのチャネル推定用のプリアンブル信号が必要であったが、本発明では空間多重数に依存せずに1シンボルのチャネル推定用のプリアンブル信号で足りることになる。この結果、MACレイヤの効率の低下を抑えて高次の空間多重を実施することが可能となり、この点が第3の重要なポイントである。
以上の動作原理に対し、詳細な実施形態の説明の前に、これらを実現するための補足事項を以下に簡単に整理しておく。
(チャネル推定の平均化処理について)
本発明に係る基地局装置は、「安定的な入射波」に基づく統計的な信号の同位相合成を行うための送受信ウエイトを用いることが特徴であるが、この「安定的な入射波」に対応したチャネル推定の概要について、ここで説明しておく。
先ほども説明した通り、基地局装置は、移動体において反射しランダムに変動する多重反射波の影響を取り除くことで「安定的な入射波」に関する成分を抽出する。基地局装置は、多数のアンテナ素子による統計的な効果を得る前段として、各アンテナ素子においても「安定的な入射波」に関する成分を抽出するために、基地局装置の各アンテナ素子と端末装置のアンテナ素子との間の個々のチャネルのチャネル推定を長時間に亘り実施し、その結果を平均化することで「安定的な入射波」に対応したチャネル情報を取得する。
その具体的な取得方法を説明する前に、まず、図14における車等の移動体14−1〜14−3において反射する反射の影響について考える。これらの移動体からの反射波の状況は、移動体の位置があまり変位しない短時間ではそれ程大きくは変動しないが、これらの移動体が物理的に異なる位置に移動すれば反射波の影響は全く異なるものになることが予想される。つまり、移動体において反射しランダムな多重反射の状況がそれ程大きく変動しない短時間の間でチャネル情報の平均化処理を行ったとしても、ランダムな反射波の基になる移動体が大きく移動した際には、また別のチャネル状態になっていることが予想される。
次に、この長時間平均のチャネル情報の求め方について、注意すべき点を中心に説明する。一般に、基地局装置のクロック信号と、端末装置のクロック信号とは完全に同期が取れておらず、ある程度の周波数誤差が存在する。例えば、OFDM変調方式やSC−FDE伝送技術のようなブロック伝送を行う場合には、1シンボルのシンボル周期(ないしはブロック周期)は少しずつシンボルタイミングが基地局装置と端末装置との間でずれることになり、このシンボルタイミングのずれは全周波数で共通の複素位相の回転として表れる。なお、基地局装置のクロック信号、及び端末装置のクロック信号は、A/D変換や、D/A変換を行う際のサンプリング周期を定めるクロック信号のことである。
同様の複素位相の回転という課題は、ベースバンド信号と無線周波数信号との間のアップコンバート、ダウンコンバートで用いるローカル発振器が出力する局部発振信号の基地局装置と端末装置との間の非同期性や周波数誤差によっても問題となる。
送信と受信との間が非同期で周波数誤差が伴う場合、仮に空間上のチャネル情報に時変動がない場合でも、異なる時刻に測定するチャネル情報は、その時間差と周波数誤差とに依存する形で複素位相成分が変動する。
これは、例えば、受信側のダウンコンバート処理でミキサにおいて乗算するローカル発振器から入力される局部発振信号の初期複素位相を通信の都度、毎回一致させることができないことに起因する。通信における信号検出処理では、トレーニング信号でチャネル推定を行う際に、その初期複素位相の影響まで含めた結果としてのチャネル情報を取得するため、トレーニング信号に後続する信号の信号検出処理において問題となることはない。しかし、離散時間で平均化する際には、仮にチャネル情報に時変動がなくてもこの初期複素位相の不確定性により時変動があったように見えてしまうために問題となる。
しかし、受信時の同位相合成を実現するための送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に必要となるチャネル情報は、伝送路の特性を示すチャネル情報の複素位相を含む絶対的な値そのものではなく、アンテナ素子ごとのチャネル情報における複素位相の相対的な関係さえ分かれば十分なのである。したがって、離散的な時刻に測定したチャネル推定結果を平均化する際には、基地局装置の複数のアンテナ素子から基準となるアンテナ素子を1つ設定し、そのアンテナ素子で推定されたチャネル情報の複素位相成分だけ、各アンテナ素子におけるチャネル情報の複素位相成分にマイナスのオフセットを付加すれば良い。
具体的には、基地局装置がK個のアンテナ素子を備えている場合、アンテナ素子#i(i=1,…,K)で観測された第k周波数成分のチャネル情報がAi・Exp(φi (k)j)であるとする。ここでjは虚数単位を表し、Aiはアンテナ素子#iのチャネル情報の振幅成分を表し、φi (k)はアンテナ素子#iの第k周波数成分のチャネル情報の複素位相を表す。
このとき、アンテナ素子#1の複素位相φ1 (k)を用いて、全てのアンテナ素子に複素位相−φ1 (k)のオフセットを加えると、オフセットによる補正後のアンテナ素子#kのチャネル情報としてAi・Exp{(φi (k)−φ1 (k))j}が得られる。空間上のチャネル情報が不変であるならば、この補正後のチャネル情報は基地局装置と端末装置とのクロック信号及び局部発振信号の周波数誤差の影響(すなわち複素位相の初期位相の不確定性の影響)を受けない。以降の説明では、この初期位相の不確定性除去のための補正後のチャネル情報を「(チャネル情報の)相対成分」と呼ぶことにする。なお、この補正は周波数成分ごとに個別に行うものとする。
したがって、チャネル情報の平均化を行う際には、このような補正を行い、複素位相成分の不確定性を排除した上で平均化を実施する必要がある。その他、この平均化を行う上で、本発明における課題の(課題1)で示した回線利得が大幅に不足する領域では、チャネル推定により取得したチャネル情報の平均化を行う以前に、その基になる情報の取得が困難な場合があることに注意しなければならない。このような状況では、何らかのチャネル推定用のトレーニング信号を受信したとしても、一般にはその信号の受信を検知することができない。OFDM変調方式の場合を例にとれば、OFDMシンボルタイミングの検出ができないことを意味し、当然ながらガードインターバルの除去もできなければFFTを実施することもできない。以下に、このような低SNR環境におけるチャネル推定の平均化処理の方法と具体的なトレーニング信号の例を示す。
(本発明におけるトレーニング信号の例)
図16は、本発明におけるトレーニング信号の例を示す図である。同図において符号1−1〜1−3は一般的なOFDMシンボルを示し、符号2−1〜2−3はガードインターバルを含まない有効な信号領域を示し、符号3−1〜3−3は本発明におけるトレーニング信号を示し、符号4−1〜4−3は信号の末尾領域を示し、符号5−1〜5−3はガードインターバルを示し、符号6−1〜6−3は実際のチャネル推定に用いる信号周期を示している。なお、OFDM信号は、複数のサブキャリア成分を含むが、本図ではあるサブキャリア一つを抜き出して正弦波として図示している。
従来のOFDM信号であれば、OFDMシンボル(1−1〜1−3)周期の信号は、実際のデータとして有効な信号領域(2−1〜2−3)を生成し、この信号の末尾領域(4−1〜4−3)を信号の先頭領域にガードインターバル(5−1〜5−3)としてコピーして貼り付け、全体のOFDMシンボル(1−1〜1−3)を生成していた。通常の通信においては、ガードインターバルを取り除いた有効な信号領域(2−1〜2−3)の先頭部分のタイミングをタイミング検出により抽出し、そのタイミングを起点とした場合の振幅及び複素位相に関する情報をチャネル推定では取得する。
しかし、本発明の送受信ウエイトの算出においては各アンテナ素子の相対的な位相関係を取得できれば十分であるために、正確な初期複素位相の把握までは不要であり、OFDMシンボルの先頭のような適切なタイミングを起点とする必要はない。したがって、ガードインターバルを設定したOFDM信号である必要はなく、OFDMシンボルの有効な信号領域(2−1〜2−3)を取り出して連続させた信号であるトレーニング信号(3−1〜3−3)を多数回繰り返し送信すれば良い。ここで各区間は連続的につながっているために、この複数の周期に亘るトレーニング信号においては実質的にはシンボルタイミングというものは意味を成さない。受信側では、受信したトレーニング信号(3−1〜3−3)に対して任意の開始タイミング、例えば実際のチャネル推定に用いる信号周期(6−1〜6−3)で信号を切り取り、区間6−1、区間6−2、区間6−3の信号に対して加算処理を行えばよい。
(基地局装置と端末装置とのローカル発振器周波数誤差の補償)
なお、このトレーニング信号を用いたチャネル平均化においては、複数の連続する区間6−1、区間6−2、区間6−3の比較的短時間平均を行うことになるが、この「比較的短時間」の定量的な意味は、基地局装置と端末装置との間のクロック信号及び局部発振信号の周波数誤差に依存する影響(厳密には、下記に示す周波数誤差補償処理後に残る、残留周波数誤差の影響)を無視できる範囲での平均化を意味する。
例えば、中心周波数が2.4[GHz]の局部発振信号において、ローカル発振器の周波数誤差が1p.p.m.である場合、局部発振信号の周波数誤差の最大値は2.4[kHz]である。つまり、416μ秒で位相が2π回転してしまう誤差である。このとき、平均化を行う時間長の中で周波数誤差に伴う複素位相の回転が1周期(2π)の1/10以内に抑えたいと考えるならば、平均化に使える時間長は約40μ秒となる。
しかし、広域をサービスエリアにするWiMAXの例を見れば、長遅延波の影響を排除するための1シンボル周期は約100μ秒に設定されており、平均化処理を行う時間としては十分ではない。これらの問題を解決するために、ここでは周波数誤差を補償するための以下の補正処理を行う。
一般的には周波数誤差補正はAFC(Automatic Frequency Control)と呼ばれる信号処理で対処可能である。今回のトレーニング信号のように同一の信号が繰り返し受信される状況であれば、一般には1周期分だけシフトした信号を乗算することで周波数誤差成分を抽出することが可能である。このAFC処理を適用して周波数誤差を抽出し、その周波数誤差をキャンセルする補正を行うことが可能である。しかし、受信信号が低SNRである場合、AFC処理を適用して隣接するシンボルから周波数誤差を抽出しようとしても、ノイズに埋もれて誤った周波数誤差を抽出してしまう可能性がある。したがって、AFC処理も、もともとの信号のSNRを改善可能な時間長に亘り実施する必要がある。
例えば、時刻tにおける複素数で表されるサンプリングデータをS(t)と表し、周波数誤差をΔfと表すと、時刻tにおける複素位相の回転量は2πΔf・tとなる。そこで、サンプリングデータS(t)に対して理想的に周波数補償すると、周波数補償されたサンプリングデータは、S(t)・Exp(−2πjΔf・t)となる。
また、サンプリング周期をΔtと表し、1シンボルの周期をTとすると、1周期のデータ数はN=T/Δtで与えられる。このとき、時刻t=m’・Δtとし、更に、mとMとをm=mod(m’,N)、M=Int(m’/N)とすれば、サンプリングデータS(t)を離散的な時刻により定められる数列{Sm (M)}と表記できる。ここで、関数「mod(x,y)」は、xをyで除算した際の余りを求める関数である。また、関数「Int(x)」は、xの整数部を求める関数である。
更に、サンプリングデータS(t)を理想的に周波数補償した数列を{Sm (M)・Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m]}と表記できる。ここで、全体としてM0シンボル周期のサンプリングを行うものとする。
周波数補償した数列{Sm (M)・Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m]}を、mごとに多数のMでの加算したサンプリングデータ〜Smは次式(10)で表される。ここで、式(10)において、「〜(チルダ)」が上に付されたSを「〜S」と表記する。
AFC処理によりSNRを改善するには、式(10)で表される〜Smの振幅を最大にするΔfを求めればよい。そこで、次式(11)で表される評価関数G(Δf)を定める。
式(11)における^S(M,M’)は、次式(12)で表される。
評価関数G(Δf)を最大にするΔfを求めれば良いので、次式(13)で表される条件式が求まる。
条件式(13)を満たす実数Δfを数値的に求めれば、基地局装置と端末装置との間の周波数誤差が算出され、このΔfを用いて式(10)で与えられる1周期分の加算・平均化されたサンプリングデータを用い、チャネル推定を行えばよい。OFDM変調方式であれば、この1周期のサンプリングデータを基にFFT処理により、各サブキャリア成分のチャネル情報を算出する。
なお、必ずしも式(13)を用いなくても、Δfのとりうる範囲が限定されているならば、その範囲内の適当な刻み幅でΔfを設定し、それらのΔfに対して式(11)を算出して最大値を与えるΔfを検索しても良い。この場合、先ほど例示したのと同様に使用する中心周波数が仮に2.4GHzで周波数誤差が1p.p.m.であるならば、Δfの範囲は−2.4kHzから+2.4kHz以内となる。この刻み幅の最適値は求められる精度に応じて変わるが、例えば、10Hz刻みでΔfを設定し、式(11)を算出するならば、式(11)を最大にする真のΔfに対して±5Hz以内の残留周波数誤差の範囲でΔfを検索することが可能である。つまり、周波数誤差は5Hz以内に抑えられ、M0周期の平均化を行う際の時間長(M0×T)を5m秒程度と想定しても、平均化を行う期間内の位相の誤差は2πの1/40(角度は9度)以内に収まる。平均化の期間中に位相は定常的に回転することを考慮すれば、運用上、支障のない程度の精度でチャネル情報を算出することが可能である。これは逆にいえば、平均化を行う期間内の位相の誤差を所定の値に抑えられる範囲で、M0周期の平均化を行う際の時間長(つまりM0の値)が制限されることになる。
このように、平均化処理を行う際には、連続する比較的短い時間スケールでの平均化と離散時間のチャネル推定結果での平均化を2段階で行う。なお、比較的短い時間スケールでの平均化を行う際の時間長は上述の制限を受けることに注意を要する。また、離散時間のチャネル推定結果においては、上述のようにアンテナ素子#1の複素位相φ1 (k)を用いて、全てのアンテナ素子に複素位相−φ1 (k)のオフセットを加えることで、初期複素位相の不確定性の問題は回避できる。
(アンプの個体差による影響(キャリブレーション)について)
実際の無線通信装置では、送信側の信号処理において、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ハイパワーアンプ内で複素位相がハイパワーアンプごとに異なる値で回転する場合がある。同様に、受信側の信号処理において、受信の直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ローノイズアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ローノイズアンプ内で複素位相がローノイズアンプごとに異なる値で回転する場合がある。
特に、ハイパワーアンプ及びローノイズアンプの増幅率及び位相回転量には、周波数依存性がある。周波数依存性を伴う増幅率及び複素位相の回転量の個体差が無視できないほどに大きい場合には、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定する際に、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率及び位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、増幅率及び位相回転量の誤差を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報に換算する。
以下の実施形態における基地局装置では、アップリンクのチャネル推定結果に長時間平均を行ったチャネル情報を用いて、送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する。先の説明においても、実際にはハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系及び受信系の回路等)により、振幅や複素位相が変化する場合がある。この場合、振幅や複素位相の変化に応じた補正をするためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。キャリブレーション処理は、公知の技術を用いても構わないが、以下にキャリブレーション処理の一例を説明する。
図17は、アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。同図において、符号25−1〜25−3は無線モジュールを示し、符号21−1〜21−3はハイパワーアンプ(HPA)を示し、符号22−1〜22−3はローノイズアンプ(LNA)を示し、符号23−1〜23−3は時分割スイッチ(TDD−SW)を示し、符号24−1〜24−3はアンテナ素子を示している。
ここでは、基地局装置においてチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略したが、無線モジュール25−1〜25−3にはその他の機能も含まれる。また、信号がハイパワーアンプ21−1〜21−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZHPA#1(fk)、ZHPA#2(fk)、ZHPA#3(fk)に応じて変化するものとする。また、信号がローノイズアンプ22−1〜22−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZLNA#1(fk)、ZLNA#2(fk)、ZLNA#3(fk)に応じて変化するものとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、第k周波数成分に対する周波数「(fk)」の表記を行っている。
ここで、例えば、無線モジュール25−1及び無線モジュール25−2から試験用の無線モジュール25−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。ここでは、無線モジュール25−1のアンテナ素子24−1と、無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh1(fk)で表され、無線モジュール25−2のアンテナ素子24−2と無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh2(fk)で表されている。
このとき、実際に無線モジュール25−1から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ21−1の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#1(fk)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ21−2の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#2(fk)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。
したがって、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#1(fk)・h1(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。また、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#2(fk)・h2(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZHPA#2(fk)/ZHPA#1(fk)の差が発生する。
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−1にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ22−1の通過にともなる変化を示す係数ZLNA#1(fk)とが乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ22−2の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#2(fk)とが乗算された値として観測される。
したがって、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表される。また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZLNA#2(fk)/ZLNA#1(fk)の差が発生する。
上述したように、実施形態における基地局装置は、受信したトレーニング信号に対して長時間平均をとることにより、各アンテナ素子に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報をアップリンクにて取得可能である。
しかし、基地局装置はダウンリンクにおけるチャネル情報を直接求めることができない。そこで、アップリンクのチャネル情報から換算することで、ダウンリンクのチャネル情報を取得する。この換算のためには、各アンテナ素子24−1〜24−3に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3及びハイパワーアンプ21−1〜21−3の個体差の影響をキャンセルする必要がある。
そこで、基地局装置の製造段階において、リファレンスとなる試験用の無線モジュール25−3を用意し、試験用の無線モジュール25−3のアンテナ端子と、無線モジュール25−1、25−2のアンテナ端子とを直接ケーブルで接続し、伝搬路上のチャネル情報が共通の値となる環境で、ハイパワーアンプ21−1〜21−3及びローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報を測定し、測定したチャネル情報を用いて補正を行う。
図18は、キャリブレーションの概要を示す図である。同図において、符号26−1〜26−3はアンテナ端子を示し、符号27は同軸ケーブルを示している。なお、図17に示した機能部と同じ機能部には同じ符号を付している。
図18(A)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−1とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図18(B)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−2とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図17が実際の空間上を信号が伝搬した状態を示しているのに対して、図18がアンテナ素子を介さずに同軸ケーブル上を信号が伝搬した状態を示している。
無線モジュール25−1、25−2と、無線モジュール25−3とを接続する伝搬路としての同軸ケーブル27のチャネル情報は、h0(fk)である。
このとき、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#1(fk)・h0(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#2(fk)・h0(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。
また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報は、ZHPA#3(fk)・h0(fk)・ZLNA#1(fk)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報は、ZHPA#3(fk)・h0(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。
そこで、これらのチャネル情報を測定した後に、次式(14)及び式(15)で表されるキャリブレーション係数C1(fk)、C2(fk)を算出しておく。
先ほど、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報はZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報はZHPA#3・(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表されると説明した。これらに式(14)及び式(15)のキャリブレーション係数C1(fk)、C2(fk)を乗算すると次式(16)及び式(17)が得られる。
式(16)及び式(17)の右辺は、先ほど説明した、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報、及び、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報に一致している。
このように、式(14)及び式(15)に相当するキャリブレーション係数を基地局装置の製造段階において取得しておき、これらを基地局装置内に記憶しておくことにより、これらのキャリブレーション係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出することができる。
なお、以下の実施形態では、これらのキャリブレーション係数を予め取得し、その値をデジタル信号処理上で利用する場合の説明を中心に行うが、当然ながらアナログ回路上において、これらのキャリブレーション係数が全てほぼ一定の値(複素位相が一定値であれば、絶対値そのものには差があっても構わない)となるように基地局装置内で調整を行っていれば、全てのキャリブレーション係数が1であるとみなした処理に読み替えることも可能である。同様に、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整されている場合にも、結果的に式(14)及び式(15)で示されるキャリブレーション係数の複素位相が全てのアンテナ素子でほぼ一定値になるため、同様の効果を得ることができる。
以上説明したように、見通し波及び安定的な反射波を抽出する形で、基地局装置及び端末装置の各アンテナ間のアップリンク及びダウンリンクのチャネル情報を取得することが可能になる。このチャネル情報を用いることで通信において固定的に用いる送信ウエイト及び受信ウエイトを求めることが可能になる。この送信ウエイトは、基地局装置の複数のアンテナ素子から端末装置のアンテナ素子に送信された複数の信号が、端末装置のアンテナ素子において同位相合成されるように設定される。受信ウエイトは、端末装置のアンテナ素子から送信された信号を基地局装置の複数のアンテナ素子で受信した複数の信号を同位相合成できる用に設定される。つまり、送信ウエイト及び受信ウエイトは、同時に空間多重する端末装置の組み合わせに依存せず、各端末装置に対して独立に設定可能である。これらの送信ウエイト及び受信ウエイトを用いて行う本発明関連技術について、装置構成及び処理フローの詳細を以下に示す。
[本発明のベースとなる関連技術の構成例]
本発明のベースとなる関連技術の構成例では、複数のアンテナ素子を備える基地局装置と、基地局装置と通信をする複数の端末装置を具備する無線通信システムを例にして説明を行う。まず本発明の具体的な実施形態を説明する前に、その実施形態のベースとなる関連技術の構成例を先に説明する。
(本発明関連技術における基地局装置の構成例)
図19は、本発明に係る実施形態における基地局装置400の構成を示す概略ブロック図である。基地局装置400は、複数の端末装置と同一周波数上で同一時刻に空間多重伝送を行う。また、基地局装置400は、同図に示すように、K本のアンテナ素子401−1〜401−Kと、K個の無線信号処理回路410−1〜410−Kと、N個の送受信信号処理部430−1〜430−Nと、送受信ウエイト算出部402と、通信制御回路403と、インタフェース回路404とを備えている。以下、アンテナ素子401−1〜401−Kの全体又はいずれか一つを示す場合にアンテナ素子401という。同様に、無線信号処理回路410−1〜410−Kの全体又はいずれか一つを示す場合に無線信号処理回路410、送受信信号処理部430−1〜430−Nの全体又はいずれか一つを示す場合に送受信信号処理部430という。
アンテナ素子401−1〜401−Kは、それぞれが無線信号処理回路410−1〜410−Kと一対一に対応付けられ、対応する無線信号処理回路410−1〜410−Kに接続されている。
無線信号処理回路410−1〜410−Kは、接続されているアンテナ素子401−1〜401−Kを介して受信した受信信号に対し信号増幅の後に、ベースバンド帯域への周波数変換、フィルタによる帯域外成分の除去、サンプリング処理(A/D変換処理)、ガードインターバルの除去、FFT処理を実施し各周波数成分のデジタル信号に変換し、変換により得られたデジタル信号を送受信信号処理部430−1〜430−Nに出力する。
また、無線信号処理回路410−1〜410−Kは、送受信信号処理部430−1〜430−Nそれぞれから入力される各周波数成分のデジタル信号を加算合成し、加算合成により得られた各周波数成分の信号をIFFT処理及びガードインターバルの付与によりベースバンド帯のデジタル信号に変換し、これをD/A変換し更に無線周波数帯域のアナログ信号に周波数変換(帯域外成分の除去含む)して、信号増幅の後に接続されているアンテナ素子401−1〜401−Kを介して送信する。以下、無線信号処理回路410−1〜410−Kの具体的な構成例を説明する。
図20は、本実施形態における無線信号処理回路410の構成例(TDD方式の場合)を示す概略ブロック図である。同図に示すように、無線信号処理回路410は、TDDスイッチ411、ローノイズアンプ(LNA)412、ローカル発振器413、ミキサ414、フィルタ415、A/D変換器416、FFT回路417、加算合成回路421、IFFT&GI付与回路422、D/A変換器423、ローカル発振器424、ミキサ425、フィルタ426、及び、ハイパワーアンプ(HPA)427を有している。
TDDスイッチ411は、アンテナ素子401を介して受信した信号をローノイズアンプ412に出力する。ローノイズアンプ412は、TDDスイッチ411から出力される信号を増幅して、ミキサ414に出力する。ローカル発振器413は、予め定められた周波数(F1)を有する局部発振信号を生成し、生成した局部発振信号を各ミキサ414に出力する。ここで、各ミキサ414に入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ414に入力される。
ミキサ414は、ローノイズアンプ412から入力された信号に対し、ローカル発振器413から入力される局部発振信号を乗算してダウンコンバートしてフィルタ415に出力する。フィルタ415は、ミキサ414がダウンコンバートした信号に含まれる受信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、A/D変換器416に出力する。
A/D変換器416は、フィルタ415から入力されるベースバンド信号をデジタル化する。FFT回路417は、A/D変換器416から入力されるデジタル・ベースバンド信号が通常のデータ通信信号を含む信号であれば、当該デジタル・ベースバンド信号を周波数成分ごとの信号に分離する。この際、FFT回路417は、各周波数成分の信号に対して、OFDMシンボル(ないしはブロック伝送のブロック)ごとにガードインターバルを除去し、残りのサンプリングデータに対してFFT処理を施し、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換し、当該信号を送受信信号処理部430−1〜430−Nに出力する。更に、FFT回路417は、通信制御回路403の制御に応じて、入力されるデジタル・ベースバンド信号が通常のデータ通信信号と異なるチャネル推定用のトレーニング信号であれば、当該信号を送受信ウエイト算出部402に出力する。FFT回路417に入力されるデジタル・ベースバンド信号がデータ通信信号を含む信号であるか、それとは異なるトレーニング信号であるかの判定は、通信制御回路403が行う。
ここで、「通常のデータ通信信号と異なるチャネル推定用のトレーニング信号」とは、本構成例において送受信ウエイトの算出に用いるチャネル情報の推定処理において使用される図16に示すトレーニング信号3−1〜3−3信号であって、無線通信におけるユーザ・データないしは各種制御情報を収容した無線パケットとは全く異なる信号である。本関連技術では一部の構成例を除き、通常のデータ通信とは異なる信号処理(以下の図23に示すチャネル情報の短時間平均化処理等)を行う必要があり、この信号は図16にて説明した通り、従来のOFDM信号等とは異なるため、信号処理の内容も微妙に異なる。このため、FFT回路417では、この通常のデータ通信信号と異なるチャネル推定用のトレーニング信号に対しては、FFTに伴う一連の処理を施さず、デジタル・ベースバンド信号のまま送受信ウエイト算出部402に出力し、送受信ウエイト算出部402においてFFTを含む処理を実施する機能が実装されているものとしている。ただ、ここに記載された機能を実現するために、他の機能ブロックに同等の処理を実施することで代替することは当然可能であり、それも本関連技術の実現方法の一部であるとみなす。
加算合成回路421は、送受信信号処理部430−1〜430−Nが生成した信号を周波数成分ごとに合成し、IFFT&GI付与回路422に出力する。IFFT&GI付与回路422は、加算合成回路421において合成された信号に対しIFFT処理を施し、周波数軸上から時間軸上の信号に変換し、更にガードインターバルを付与し、必要に応じて波形整形を行い送信すべきデジタル・ベースバンド信号を生成し、D/A変換器423に出力する。なお、デジタル・ベースバンド信号は、アンテナ素子401それぞれに対応し、個別に信号処理される。
D/A変換器423は、IFFT&GI付与回路422から入力された信号をアナログ信号に変換しミキサ425に出力する。
ローカル発振器424は、アップコンバートに用いられる局部発振信号であって所定の周波数(F1)を有する局部発振信号をミキサ425に出力する。
ミキサ425は、D/A変換器423から入力されるアナログ信号に対し、ローカル発振器424から入力される局部発振信号を乗算して無線周波数にアップコンバートした信号をフィルタ426に出力する。なお、ミキサ425に入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ425に入力される。
フィルタ426は、ミキサ425から入力される信号に含まれ送信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、ハイパワーアンプ427に出力する。
ハイパワーアンプ427は、フィルタ426から入力される信号を増幅し、TDDスイッチ411を介してアンテナ素子401より送信する。
通信制御回路403は、更に、送信タイミングや、宛先の端末装置の管理、TDDスイッチ411の切り替えの制御を行う。
なお、加算合成回路421には、図19に示す各送受信信号処理部430−1〜430−Nにおいて生成された送信信号それぞれの各周波数成分が入力される。
なお、各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおける各ローカル発振器413は同期した局部発振信号(F1)を生成する。この際、通常は各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおいて同期した局部発振信号をミキサ414が利用するために、各無線信号処理回路410−1〜410−Kが共通の受信用のローカル発振器413の出力を分岐した局部発振信号を利用する構成をとる。すなわちローカル発振器413は、各無線信号処理回路410−1〜410−Kのいずれか一つの内部に配置されるか、又は各無線信号処理回路410−1〜410−Kの外部に一つ配置される。そして、ローカル発振器413が出力する局部発振信号(F1)を分岐させて各無線信号処理回路410−1〜410−Kに入力する構成であっても良い。
また、各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおける各ローカル発振器424は同期した局部発振信号(F1)を生成する。この際、通常は各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおいて同期した局部発振信号をミキサ425が利用するために、各無線信号処理回路410−1〜410−Kが共通の送信用のローカル発振器424の出力を分岐した信号を利用する構成をとる。すなわちローカル発振器424は、各無線信号処理回路410−1〜410−Kのいずれか一つの内部に配置されるか、又は各無線信号処理回路410−1〜410−Kの外部に一つ配置される。そして、ローカル発振器424が出力する局部発振信号(F1)を分岐させて各無線信号処理回路410−1〜410−Kに入力する構成であっても良い。
更に、図20に示したTDD方式を採用する場合には、アップコンバート/ダウンコンバートの周波数変換に用いる周波数は共通なので、ローカル発振器413とローカル発振器424とを共通化することも可能である。この場合、各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおいて用いる局部発振信号を一つのローカル発振器で生成することになる。なお、一つのローカル発振器で生成した局部発振信号を分岐させることにより信号強度が低下する場合には、適宜、増幅器を用いて信号増幅しても構わない。
また、ここではTDD方式を適用した場合における無線信号処理回路410の構成を示したが、先にも説明した通りFDD方式の適用も可能である。FDD方式が適用される場合、基地局装置400は、図20に示す無線信号処理回路410に代えて、図21に示す無線信号処理回路410aを備える。
図21は、本実施形態における無線信号処理回路410aの構成例(FDDの場合)を示す概略ブロック図である。FDD方式が適用される場合、無線信号処理回路410aは、受信系統(ローノイズアンプ412、ローカル発振器413、ミキサ414、フィルタ415、A/D変換器416、及びFFT回路417)と、送信系統(加算合成回路421、IFFT&GI付与回路422、D/A変換器423、ローカル発振器424a、ミキサ425、フィルタ426a、及びハイパワーアンプ(HPA)427)とそれぞれに異なるアンテナ素子(受信アンテナ素子401rと送信アンテナ素子401t)を接続し、TDDスイッチ411を不要とする構成になる。図19ではアンテナ素子401−1〜401−Kで示したように、各無線信号処理回路410にはアンテナ素子が1本ずつ配置されるTDD方式の場合を例示していたが、FDD方式の場合には無線信号処理回路410に代えて図21に示すようにそれぞれにアンテナが素子2本ずつ接続された無線信号処理回路410aが備えられる。また、ローカル発振器413が生成する局部発振信号の周波数がF1であるのに対し、ローカル発振器424aが生成する局部発振信号の周波数はF1とは異なるF2を用いる。このため、FDD方式の場合にはローカル発振器413とローカル発振器424aを共用化することは出来ない。また、フィルタ426aも、FDD方式の場合にはアップリンクとダウンリンクで異なる周波数を用いるため、フィルタの通過帯域が異なることになり、TDDの場合とは異なる設計のフィルタを利用する。その他の動作に関しては、図20に示すTDD方式の場合と同様である。
図19に戻って、基地局装置400の説明を続ける。
また、無線信号処理回路410−1〜410−Kは、通信制御回路403に接続されており、通信制御回路403から各種制御情報が入力される。例えば、通信制御回路403は、基地局装置400における受信と送信とを切り替える際に、各無線信号処理回路410−1〜410−KのTDDスイッチ411を制御する。また、フレームタイミングや送信及び受信のシンボルタイミングに関する情報も通信制御回路403から無線信号処理回路410−1〜410−Kに入力され、このシンボルタイミングに従ってFFTやIFFTなどの信号処理を実施する。
送受信信号処理部430−1〜430−Nは、基地局装置400が空間多重伝送の対象とする端末装置と一対一に対応付けられており、対応する端末装置との間で送受信する信号の処理を行う。送受信信号処理部430−1〜430−Nは、図19に示すように、それぞれが受信ウエイト乗算回路431、受信信号処理回路432、MAC層処理回路433、送信信号処理回路434、及び、送信ウエイト乗算回路435を有している。
受信ウエイト乗算回路431は、各無線信号処理回路410−1〜410−Kから入力される信号に対して、自回路が対応付けられている端末装置と各アンテナ素子401−1〜401−Kとの組み合わせに対応する受信ウエイトを周波数成分ごとに乗算し、それぞれの乗算結果を周波数成分ごとに加算合成して得られた信号を受信信号処理回路432に出力する。
受信信号処理回路432は、チャネル推定処理、受信信号の信号検出処理、復調及び誤り訂正復号などの処理を行う。具体的には、受信信号処理回路432は、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、加算合成された信号に対してサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDEが用いられている場合、加算合成された各周波数成分の信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理を行う。ここでの復調処理には、加算合成等の信号処理が施された後の信号に対するチャネル推定を含み、ここで推定されたチャネル情報を基に信号検出処理が行われる。更に、必要に応じて誤り訂正の復号処理を施し、自回路が対応付けられている端末装置から送信されたデータを取得し、MAC層処理回路433に出力する。
MAC層処理回路433は、受信信号処理回路432から入力されるデータに対して、MACヘッダなどの終端やアクセス制御に関わるMACレイヤの信号処理を行い、得られた信号を通信制御回路403又はインタフェース回路404のいずれかに出力する。また、MAC層処理回路433は、通信制御回路403又はインタフェース回路404のいずれかから入力されるデータに対して、プリアンブル信号の付加、MACヘッダなどの終端やアクセス制御に関わるMACレイヤの信号処理を行い、送信信号処理回路434に出力する。
送信信号処理回路434は、MAC層処理回路433から入力されるデータに対して、誤り訂正符号化及び変調や、プリアンブル信号の付加などの処理を行う。具体的には、送信信号処理回路434は、OFDM(A)変調方式が用いられる場合、誤り訂正符号化処理に加えてサブキャリアごとの信号の変調処理を行う。また、SC−FDEが用いられる場合、誤り訂正符号化処理の後にシングルキャリアの変調処理が施された信号を、送信信号のブロック単位でFFTにより各周波数成分に分離する。以上の周波数軸上の信号は送信ウエイト乗算回路435に出力される。
送信ウエイト乗算回路435は、送信信号処理回路434から入力される信号に対して、自回路に対応付けられている端末装置と各アンテナ素子401−1〜401−Kとの組み合わせに対応する送信ウエイトを周波数成分ごとに乗算する。送信ウエイト乗算回路435は、乗算に用いた送信ウエイトに対応する無線信号処理回路410に、当該送信ウエイトを乗算して得られた周波数成分ごとの結果を出力する。
また、送受信信号処理部430は、無線信号処理回路410と同様に、通信制御回路403に接続されており、各種制御情報が入出力される。例えば、フレームタイミングや送信及び受信のシンボルタイミングに関する情報も送受信信号処理部430−1〜430−Nに入力され、このシンボルタイミングに従って、基地局装置400が通信を行う端末装置のそれぞれ個別の信号処理を行う。ここで行う信号処理とは、受信ウエイトの乗算、加算合成処理、チャネル推定処理、受信信号の信号検出・復調処理、必要に応じて誤り訂正などの処理などの物理レイヤの受信信号処理に加え、誤り訂正符号化、信号変調処理、プリアンブル信号等の付加、送信ウエイトの乗算などの物理レイヤの送信信号処理、及び制御情報やMACヘッダなどの終端やアクセス制御に係わるMACレイヤの信号処理などが含まれる。MAC層処理回路433にて制御信号が受信された場合には、必要に応じてこれを通信制御回路403にも通知する。端末装置に送信すべき制御情報が通信制御回路403から入力された場合には、MAC層処理回路433は、適宜MACレイヤの処理を行い、送信信号処理回路434に出力する。
送受信ウエイト算出部402の具体的な構成についての説明は後述する。
通信制御回路403は、上述したように、無線信号処理回路410−1〜410−Kと、送受信信号処理部430−1〜430−Nとを制御する。
インタフェース回路404は、各送受信信号処理部430−1〜430−Nと、外部のネットワークとに接続されている。インタフェース回路404は、各送受信信号処理部430−1〜430−Nとネットワークと間のデータの中継処理を行う。
なお、本実施形態においては、送受信ウエイト算出部402において算出された受信ウエイトを受信ウエイト乗算回路431に記憶させるようにしてもよい。同様に、送信ウエイトを送信ウエイト乗算回路435に記憶させるようにしてもよい。
なお、補足であるが、通信制御回路403は、自装置(基地局装置400)と端末装置との間のタイミングの同期に関して、GPS等を用いた絶対的な時刻・タイミングの同期を用いるようにしてもよい。
また、絶対的な時刻の同期の他にも、基地局装置400と端末装置との間の大まかな距離が分かっていれば、その距離に相当する伝搬遅延を端末装置に事前に設定しておき、端末装置は、基地局装置400のタイミングの基準となる信号の受信時刻に対し、所定のオフセットとして伝搬遅延を減算した時間にアップリンクの信号を送信開始するようにしてもよい。
具体的には、時分割多元接続(Time Division Multiple Access:TDMA)を用いたアクセス制御の例を用いれば、端末装置は、TDMAフレーム先頭のプリアンブル等のタイミング検出により得られるフレームタイミングを基準とし、フレーム内のスロット割り当ての内容を把握して通信の動作を行う。通常であれば、アップリンクのタイムスロットのタイミングで信号を送信するが、いわゆるタイム・アライメントと呼ばれる制御では、伝搬遅延を見込んでその遅延分だけ端末が自らの認識しているタイミングに対して先行した時間のタイミングで信号の送信を開始し、結果的に基地局装置400にその信号が到着する時刻を、基地局が認識しているタイミング通りになるように調整する。
この際に必要となる調整量は、実際の信号は基地局装置400から端末装置、更に基地局装置400へと往復することになるため、端末装置は伝搬遅延の2倍の時間だけ前倒しで送信を開始することになる。なお、このタイミングの調整は必ずしも端末装置で行わなくてもよく、基地局装置400が自装置と端末装置との距離ないしはその距離に相当する伝搬遅延を把握することができれば、基地局装置400において信号が受信される時刻をその時間分(伝搬遅延の2倍)だけ後ろ倒しに調整することで、タイミング調整を行うことも可能である。ないしは、直接的に基地局装置から端末装置に対し、その時間分だけ前倒しした時間を送信タイミングであると指示を行ってもよい。
このように、GPSを用いた絶対時刻の同期ないしはタイム・アライメント制御等のいずれかの手段で把握したタイミングで基地局装置400は受信処理を開始し、シンボルタイミングも既知として処理を行うことが可能である。これらのタイミング制御、アクセス制御、TDDスイッチ411の切り替え、受信ウエイトを読み出すときにおける送信元である端末装置情報の提供など、これらを合わせて全て通信制御回路403が制御・管理を行う。
次に、送受信ウエイト算出部402の構成について説明する。
図22は、本発明関連技術の構成例における送受信ウエイト算出部402の構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送受信ウエイト算出部402は、チャネル情報短時間平均回路121、相対成分取得回路122、チャネル情報長時間平均回路123、受信ウエイト算出回路124、受信ウエイト記憶回路125、キャリブレーション回路126、送信ウエイト算出回路127、送信ウエイト記憶回路128、及びキャリブレーション係数記憶回路129を有している。なお、以下に示す説明におけるチャネル情報、送受信ウエイト、キャリブレーション係数等は、全て周波数成分ごとに異なるものであり、それらは周波数成分ごとに個別に算出、処理、記録、管理されるものである。
チャネル情報短時間平均回路121は、通信制御回路403の指示に従い、FFT回路417から入力される信号に対してトレーニング信号の短時間平均化処理(必要に応じ周波数誤差補償を行い、更に時間軸上の信号をFFT処理により周波数成分ごとに分離する)を行い、端末装置ごとに、端末装置とアンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれとの間のアップリンクのチャネル情報を周波数成分ごとに取得する。相対成分取得回路122は、例えばアンテナ素子401−1の複素位相を基準とし、各アンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれのチャネル情報のアンテナ素子401−1との相対成分を取得する。チャネル情報長時間平均回路123は、端末装置ごとに、相対成分取得回路122が取得した離散的な時刻に取得された複数回分のアンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれに対する相対成分から、アンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれに対する相対成分の平均値を算出する長時間平均化処理を行い、算出した平均値をチャネル情報として出力する。
受信ウエイト算出回路124は、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に基づいて、端末装置ごとにアンテナ素子と周波数成分の各組み合わせに対応する受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125に出力する。受信ウエイト記憶回路125は、受信ウエイト算出回路124が出力した受信ウエイトと、端末装置、アンテナ素子及び周波数の組み合わせとを対応付けて記憶する。
キャリブレーション回路126は、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に予め定められたキャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得する。送信ウエイト算出回路127は、キャリブレーション回路126が取得したダウンリンクのチャネル情報に基づいて、端末装置ごとにアンテナ素子と周波数成分の各組み合わせに対応する送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128に出力する。送信ウエイト記憶回路128は、送信ウエイト算出回路127が出力した送信ウエイトと、端末装置、アンテナ素子及び周波数の組み合わせとを対応付けて記憶する。
キャリブレーション係数記憶回路129には、アンテナ素子401−1〜401−Kごとに、アップリンクのチャネル情報から、ダウンリンクのチャネル情報を算出する際に用いる各周波数及び各アンテナ素子におけるキャリブレーション係数を予め記憶している。
なお、送受信ウエイト算出部402にて行うチャネル情報の推定に係わる一連の処理、及びそれに後続する送受信ウエイトの算出とその記憶等の一連の処理は、全て周波数成分ごとに行われる。つまり、式(11)又は式(13)を用いて行う周波数誤差を推定した後は、周波数誤差を補正した式(10)で与えられる短時間平均化後の各mに対するサンプリングデータ〜Smに対してFFT処理を行い、各周波数成分に分離することでアップリンクの短時間平均化されたチャネル情報を取得した後、それを基に各周波数成分に対して一連の処理を行う。
(チャネル推定から送受信ウエイトの算出処理)
以下、図23から図26及び図27を用いて、本構成例の基地局装置400におけるチャネル推定から送信ウエイト及び受信ウエイトの算出までの処理を説明する。これらの一連処理は、端末装置と通信を開始する前に行うことが基本であるが、一旦、これらの処理を行った上で、逐次学習を行いながらチャネル情報の精度の向上、すなわち送信ウエイト及び受信ウエイトの精度の向上を図ることも可能である。
また、基地局装置400は、ブロードバンドサービスの中で利用されることを想定し、ある程度の帯域幅で通信を行う場合を対象とした。このため、OFDM(A)変調方式や、SC−FDE等の通信方式が用いられることを想定し、ブロック単位で各周波数成分を分離して信号処理をする説明を行っている。
アップリンクのチャネル推定においては、例えば、図16に示したようなトレーニング信号を端末装置から連続的に送信し、それを基地局装置400が受信し、比較的短い時間での平均化処理(図23)を行う。更に、基地局装置400において、各アンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれの相対的なチャネル情報の差を示す相対成分を取得し(図24)、長時間での平均化処理(図25)を行う3段階の信号処理を行う。
このようにして求めたアップリンクのチャネル情報に対し、キャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得し(図26)、アップリンク及びダウンリンクのチャネル情報に基づいて送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する(図27)。
以下、各処理を説明する。
図23は、本発明関連技術の構成例におけるアップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理を示すフローチャートである。
基地局装置400において、チャネル情報短時間平均回路121は、端末装置から短時間平均化用のチャネル推定のトレーニング信号の受信が開始されると(ステップS101)、サンプリングのカウンタとしてのm及びMをゼロにリセットする(ステップS102)。ここで、カウンタとは、式(10)におけるm、Mのことであり、第Mシンボルの第mサンプルの意味である。チャネル情報短時間平均回路121は、FFT回路417から入力されるトレーニング信号に対してサンプリングを行い、サンプリングした信号をSm (M)とする(ステップS103)。
チャネル情報短時間平均回路121は、サンプリング周期Δtが経過するたびに、カウンタmに「1」を加算し(ステップS104)、カウンタmがデータ数Nと一致した(m=N)か否かを判定し(ステップS105)、カウンタmがデータ数Nと一致していない(m≠N)場合(ステップS105:NO)、ステップS103に処理を戻し、ステップS103〜S105を繰り返す。ここで、データ数Nは、1シンボル当たりのサンプル数であり、予め定められた値である。
一方、カウンタmがデータ数Nと一致した場合(ステップS105:YES)、チャネル情報短時間平均回路121は、1シンボル分のサンプリングが完了したとみなし、次のシンボルをサンプリングするために、カウンタmに0を代入し、カウンタMに「1」を加算する(ステップS106)。
チャネル情報短時間平均回路121は、カウンタMが所定の値(式(10)のM0)に達したか否かに応じてサンプリング終了か否かを判定し(ステップS107)、一続きのサンプリングが完了していない場合(ステップS107:NO)、ステップS103に処理を戻し、ステップS103〜S106の処理を繰り返して行う。ここで、一続きのサンプリングとは、予め定められたシンボル数M0のサンプリングのことである。
一方、一続きのサンプリングが完了した場合(ステップS107:YES)、チャネル情報短時間平均回路121は、式(12)を用いて^S(M,M’)を算出し(ステップS108)、式(13)の解ないしは式(11)を最大にする周波数誤差Δfを算出する(ステップS109)。
チャネル情報短時間平均回路121は、算出した周波数誤差Δfを用い、式(10)から複数周期に亘り加算平均化されたサンプリングデータ〜Smを算出する(ステップS110)。
チャネル情報短時間平均回路121は、短時間平均されたサンプリングデータ〜Smに対してFFTを行い、各周波数成分の情報を算出し(ステップS111)、短時間平均化の処理を終了する(ステップS112)。
なお、周波数誤差Δfが無視可能なほどに小さいことが事前に分かっている場合(設計上、このような設定となっている場合)、ないしは短時間平均化を行う時間(T×M0)が十分に短く設定されている場合には、周波数誤差Δfの補正に相当する処理S108及びS109を省略し、Δf=0として処理S110を直接実施することも可能である。
チャネル情報短時間平均回路121は、アンテナ素子401−1〜401−Kごとに、複数の周期に亘るトレーニング信号を周期ごとに分離し、分離した各トレーニング信号を合成して短時間の平均化処理を行う。更に、各アンテナ素子401−1〜401−Kで受信した信号に含まれる異なる周期を有する各周波数成分の信号をFFTにて周波数成分ごとに分離し、分離した周波数成分ごとの信号から各アンテナ素子401−1〜401−Kと端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得する。
図24は、本発明関連技術の構成例におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する相対成分取得処理を示すフローチャートである。相対成分取得回路122は、チャネル情報短時間平均回路121が第1のアンテナ素子401−1から第Kのアンテナ素子401−Kそれぞれに対応する信号に対して短時間平均化処理を終了すると(ステップS121−1〜S121−K)、短時間平均化処理が終了した各アンテナ素子401−1〜401−Kに対応するチャネル情報における第k周波数成分^h1 (k),…,^hK (k)がチャネル情報短時間平均回路121から入力される(ステップS122−1〜S122−K)。
相対成分取得回路122は、第1のアンテナ素子401−1におけるチャネル情報(^h1 (k))と、その複素共役(^h1 (k))*とから、オフセット値e−jφ(k)(=(^h1 (k))*/‖^h1 (k)‖)を算出する(ステップS123)。ここで「‖x‖」は、xの絶対値を表す。なお、このオフセット値は周波数成分ごとに個別に求める。
相対成分取得回路122は、算出した第k周波数成分に対するオフセット値e−jφ(k)を各アンテナ素子401−1〜401−Kに対応する第k周波数成分^h1 (k)、…、^hK (k)に乗算し(ステップS124−1〜S124−K)、相対的な複素位相関係を示すチャネル情報〜h1 (k),…,〜hK (k)を求め、処理を終了する(ステップS125−1〜S125−K)。
上述のように、相対成分取得回路122は、第1のアンテナ素子401−1のチャネル情報を基準として、各アンテナ素子401−1〜401−Kの相対的なチャネル情報〜h1 (k),…,〜hK (k)を算出する。なお、相対成分取得回路122は、端末装置ごとに、全ての周波数成分について上記のステップS121−1〜ステップS125−Kまでの処理を行い、各端末装置に対する全ての周波数成分における短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h1 (k),…,〜hK (k)を算出する。
図25は、本発明関連技術の構成例におけるアップリンクのチャネル情報の長時間平均化処理を示すフローチャートである。上述の図23及び図24の各処理は、連続又は離散的な時間で複数回実施され、各処理において算出された短時間平均のチャネル情報を基に、長時間平均化処理において長時間平均化されたチャネル情報を算出する。
チャネル情報長時間平均回路123は、1回目からQ回目の短時間平均化処理(相対成分取得を含む)が完了すると(ステップS131−1〜S131−Q)、相対成分取得回路122から短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h1 (k)[q],…,〜hK (k)[q](q=1,…,Q)が入力される(ステップS132−1〜S132−Q)。ここで、短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h1 (k)[q]は、q回目に算出された第1のアンテナ素子401−1の第k周波数成分に対するチャネル情報の相対成分である。したがって、ステップS132−1〜S132−Qは時間的に異なるタイミングで行われる処理に相当する。なお、長時間平均化処理の対象になる回数Qは、無線通信システムを運用する環境などに基づいて予め定められる。
また、チャネル情報長時間平均回路123は、次式(18)を用いて、長時間平均のチャネル情報hi (k)(i=1,…,K)を算出する(ステップS133)。なお、ステップS132−1〜S132−Qは時間的に異なるタイミングで処理が完了するため、長時間平均化処理であるステップS133の実施までの間、このチャネル情報の相対成分を一時的にメモリに記憶しておき、一度にステップS133を実施しても構わない。ないしは、ステップS133のΣによる総和の個々の加算処理を、ステップS132−1〜S132−Qの個々の処理が完了ごとに実施し、次の処理までの間メモリに記憶しておいて、加算の都度、それらを読み出してステップS133を実施しても構わない。
チャネル情報長時間平均回路123は、各アンテナ素子401−1〜401−Kごとに、各周波数成分のチャネル情報それぞれを平均化した長時間平均のチャネル情報hi (k)を算出すると、長時間平均化処理を終了する(ステップS134)。なお、後述の図27を用いて説明する受信ウエイトの算出は、ここで取得したアップリンクのチャネル情報を用いて行われることになるが、これらの処理を行うにあたり、一時的にメモリに記憶しておいても構わない。
以上の処理により、アップリンクのチャネル情報が直接的に取得できる。また、本構成例では、相対成分取得処理(図24)を行っているので、1回目からQ回目までの各短時間平均処理における位相のずれの影響を受けることなく長時間平均のチャネル情報を算出することができる。なお、上述のチャネル情報hi (k)等の右肩の添え字kは周波数成分を識別する番号を表している。
図26は、本発明関連技術の構成例におけるダウンリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。基地局装置400は、基地局装置400から端末装置へのダウンリンクに関しては、アップリンクのように直接的にチャネル情報を取得することが困難なので、アップリンクのチャネル情報を基にダウンリンクのチャネル情報を推定する。
基地局装置400において、キャリブレーション回路126は、チャネル情報長時間平均回路123からアップリンクのチャネル情報hi (k)が入力され(ステップS142)、入力されたチャネル情報hi (k)に対する第iのアンテナ素子401−iにおける第k周波数成分に対応するキャリブレーション係数Ci (k)をキャリブレーション係数記憶回路129から読み出す(ステップS143)。
キャリブレーション回路126は、入力されたチャネル情報hi (k)と、読み出したキャリブレーション係数Ci (k)とを乗算し(ステップS144)、乗算結果をダウンリンクのチャネル情報として、処理を終了する(ステップS145)。この場合も、後述の図27を用いて説明する送信ウエイトの算出は、ここで取得したダウンリンクのチャネル情報を用いて行われることになるが、これらの処理を行うにあたり一時的にメモリに記憶しておいても構わない。
キャリブレーション回路126は、各アンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに上述のステップS142からステップS144の処理を行う。
図27は、本発明関連技術の構成例の基地局装置400における送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する処理を示すフローチャートである。アップリンクにおけるチャネル情報に対する受信ウエイトの算出処理と、ダウンリンクにおけるチャネル情報に対する送信ウエイトの算出処理とは同等であるので、ここでは、ダウンリンクにおける送信ウエイトを算出する処理について説明し、アップリンクにおける受信ウエイトを算出する処理の具体的な説明を省略する。
送信ウエイト算出回路127は、処理を開始すると(ステップS451)、第iのアンテナ素子401−iにおける着目するある端末装置に関する第k周波数成分のダウンリンクにおけるチャネル情報hi (k)がキャリブレーション回路126から入力される(ステップS452)。
送信ウエイト算出回路127は、キャリブレーション回路126から入力されたチャネル情報hi (k)の複素共役(hi (k))*を算出し、算出した複素共役(hi (k))*をチャネル情報hi (k)の絶対値で除算した値を送信ウエイトwi (k)にする(ステップS453)。すなわち、送信ウエイト算出回路127は、次式(19)を用いて、送信ウエイトwi (k)を算出する(ステップS453)。
送信ウエイト算出回路127は、算出した送信ウエイトwi (k)を送信ウエイト記憶回路128に記憶させ(ステップS454)、処理を終了する(ステップS455)。
送信ウエイト算出回路127は、各アンテナ素子401−1〜401−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに全ての端末装置に対して上述のステップS452からステップS453の処理を行う。
なお、受信ウエイト算出回路124は、送信ウエイト算出回路127と同様の演算により、チャネル情報長時間平均回路123から入力されるチャネル情報hi (k)から受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125に記憶させる。
なお、一般に複数のアンテナで受信した場合の信号合成のためのウエイトとしては、フェージング等の影響によりアンテナごとの信号の受信レベルに大きな差が見られる場合があり、その場合には受信レベルの低いアンテナ素子の受信信号の雑音の影響を抑制するために、以下に示す最大比合成のウエイトを用いることが多い。したがって、本構成例では式(19)の代わりに、以下に示す式(20)を用いることも可能である。
式(19)と式(20)との二つのウエイトの違いは、第iアンテナ素子の係数の大きさ(絶対値)がアンテナ素子ごとに微妙に異なるか同一であるかの差であり、式(20)では相対的に雑音のレベルが高い(すなわち受信レベルの低い)信号の重みを軽くする効果を取り込んでいる。しかし、長時間平均化されたチャネル情報との乗算後にはともに複素位相がゼロないし一定値となるように調整されている点では両者は共通している。広義の意味では式(20)も同位相合成のウエイトの一種といえる。本構成例では、このように長時間平均化されたチャネル情報との乗算後に複素位相がゼロないし一定値となるウエイトであればその他のウエイトを用いても同様の効果を得ることができる。
一般には、送信ウエイトとしては式(19)のウエイトを、受信ウエイトとしては式(20)のウエイトを用いるのが好ましい。なお、本構成例では基地局装置と端末装置の間の見通しが確保できるように設置されることが推奨されるので、非常に多くの多重反射波が存在するマルチパス環境とは異なり見通し波が支配的な環境であるため、アンテナ素子ごとの受信レベルの差は比較的つきにくい。この結果、式(20)で求めたウエイトは、実効的には式(19)と等価なウエイトとなる。
なお、送受信ウエイトは、アンテナ素子ごとのウエイトの値を各要素の成分として構成されるベクトル(ウエイトベクトル)の示す方向が実効的な意味をもつ。このため、あるウエイトベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたウエイトベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価である。つまり、式(19)や式(20)で与えられる各ベクトルの成分全体に共通の係数が乗算されたウエイトは、全て本発明関連技術におけるウエイトと等価なものである。
図27に関する以上の説明は送信ウエイトの算出に関するものであったが、受信ウエイトに関しても対応する回路(例えば、キャリブレーション回路126に対してチャネル情報長時間平均回路123、送信ウエイト算出回路127に対して受信ウエイト算出回路124、送信ウエイト記憶回路128に対して受信ウエイト記憶回路125)に置き換えて、同様の処理を行うことで受信ウエイトの算出処理を実施することができる。
図23から図27に示した上述の処理を事前に実施し、そこで得られた送信ウエイト及び受信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128及び受信ウエイト記憶回路125に記憶させておく。なお、図23及び図27に示した処理は、通信開始後も適当な周期で通信を一時的に休止させて実行することが可能である。そこで得られた短時間平均のチャネル情報を用いて図25から図27に示した処理を行い、逐次、送信ウエイト及び受信ウエイトを更新するようにしてもよい。
(受信処理)
図28は、本関連技術における基地局装置400の受信処理を示すフローチャートである。基地局装置400における受信処理は、基本的に基地局装置400と各端末装置との間で同期が図られているシンボル単位で処理を行う。一般的なOFDM方式を用いた通信であれば、所定のプリアンブル信号を用いた受信信号のタイミング検出の有無の判断により受信処理の開始を判断しているが、本関連技術における受信処理は、そのような判断を行わずに常にシンボル単位で受信処理を繰り返して行う。
基地局装置400において受信処理が開始されると、第1のアンテナ素子401−1において受信された信号が第1の無線信号処理回路410−1に入力される(ステップS401−1)。同様に、第2のアンテナ素子401−2から第Kのアンテナ素子401−Kのそれぞれにおいて受信された信号が、各アンテナ素子401−2〜401−Kに対応する無線信号処理回路410−2〜410−Kに入力される(ステップS401−2〜S401−K)。
各無線信号処理回路410−1〜410−Kは、入力された信号をローノイズアンプ412で増幅し、増幅された信号をミキサ414でベースバンド帯域にダウンコンバートし、帯域外成分をフィルタ415で除去し、その結果をA/D変換器416でデジタル化する。更に、FFT回路417がデジタル化されたベースバンド信号からガードインターバルを除去し、時間軸上の信号から周波数軸上の信号に変換する(ステップS402−1〜S402−K)。
各無線信号処理回路410−1〜410−KがステップS402−1〜S402−Kにおいて算出した周波数軸上のベースバンド信号はコピーされ、N台の端末装置それぞれに対応する送受信信号処理部430−1〜430−Nに入力される。第1の送受信信号処理部430−1に入力された各ベースバンド信号に対して、受信ウエイト乗算回路431が各ベースバンド信号に対応する受信ウエイトを周波数成分ごとに乗算し、乗算結果を周波数成分ごとに全アンテナ素子に亘り加算合成して受信信号処理回路432に出力する(ステップS403−1)。同様に、第2の送受信信号処理部430−2から第Nの送受信信号処理部430−Nそれぞれにおいても、各受信ウエイト乗算回路431が入力されるベースバンド信号に受信ウエイトを周波数成分ごとに乗算し、乗算結果を周波数成分ごとに全アンテナ素子に亘り加算合成して受信信号処理回路432に出力する(ステップS403−2〜S403−N)。
なお、ベースバンド信号に対応する受信ウエイトとは、ベースバンド信号を取得した無線信号処理回路410に接続されているアンテナ素子401と、送受信信号処理部430に対応付けられた端末装置との組み合わせに対応する受信ウエイトであって各周波数成分の受信ウエイトである。
送受信信号処理部430−1において、受信信号処理回路432は、受信ウエイト乗算回路431が加算合成して得られた信号から有意な信号を検出したか否かを判定し(ステップS404−1)、有意な信号を検出しなかった場合(ステップS404−1:NO)、受信処理を終了する。同様に、第2の送受信信号処理部430−2から第Nの送受信信号処理部430−Nにおいても、各受信信号処理回路432は、加算合成により得られた信号から有意な信号を検出したか否かを判定し(ステップS404−2〜404−N)、有意な信号を検出しなかった場合(ステップS404−2〜S404−N:NO)、受信処理を終了する。
一方、送受信信号処理部430−1において、加算合成により得られた信号から有意な信号を検出した場合(ステップS404−1:YES)、受信信号処理回路432は、検出した信号に対して受信信号処理を行い(ステップS405−1)、受信処理を終了する。同様に、送受信信号処理部430−2〜430−Nにおいても、加算合成により得られた信号から有意な信号を検出した場合(ステップS404−2〜S404−N:YES)、受信信号処理回路432は検出した信号に対して受信処理を行い(ステップS405−2〜S405−N)、受信処理を終了する。
なお、ステップS404−1〜S404−Nにおける有意な信号の検出は、加算合成により得られた信号(例えば、複素数で表される信号)の絶対値を二乗して全周波数成分で合算した値で得られる受信信号レベル(ないしは他の方法で求める受信信号レベルの近似量でも良い)が、予め定められた閾値レベル以上であるか否かにより行う。ないしは、各周波数成分の値の絶対値がある閾値を超えるか否かを評価し、一定数以上の周波数成分で所定の閾値を超える場合に有意な信号の検出としても良い。また、同様に信号の有無を判定できる方法なら如何なる方法であっても構わない。
また、ここでの受信信号処理とは、フレームフォーマットも意識したチャネル推定処理や、そのチャネル推定結果を基にした信号検出処理(復調処理等)、さらには必要に応じて誤り訂正処理など物理レイヤを中心とした処理を指す。ここでOFDMを用いる場合には、加算合成された信号に対してサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDEを用いる場合には、加算合成された各周波数成分の信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理を行う。当然ながらMACレイヤ等の上位レイヤの処理やインタフェース部の処理なども必要であるが、これらはシンボル単位の処理とは異なり、信号の有無などに応じて適宜、従来技術と同様に処理されるものである。
また、ステップS403−2〜S403−Nの処理において、全アンテナ素子に対応する信号を加算合成すると説明したが、有意な信号の検出や、復調・復号等を行える受信信号レベルを得ることができるのであれば、一部のアンテナ素子に対応する信号を加算合成するようにしてもよい。
なお、ここでの有意な信号の検出と送受信信号処理部430−1〜430−Nで行う受信信号処理は、一続きの無線パケットに対して一体的に判断される。例えば有意な信号検出がない状態から信号検出がある状態に変化したら、それを無線パケットの受信開始と見なして処理を開始し、フレームフォーマットに従って例えばデータ長を表す制御情報などを取得し、そのデータ長の間は仮に有意な信号検出がなくても受信信号処理を継続するとしても構わない。さらには、受信レベルの変化から無線パケットの受信開始と見なされた際に、真に無線パケットの先頭であるか否かの判断の処理を加え、この判断で間違いなく無線パケットの先頭だと判断された場合に上述の受信信号処理の継続を行うこととしても良い。この判断の方法は、例えば誤り検出符号によるチェック(例えばCRCチェック)などでも良いし、チャネル推定後にユニークワード的なパターンを利用し、そのパターンとのマッチングで判断しても良い。
さらには、チャネル推定結果の周波数軸上の成分を、プリアンブル信号になされた変調処理の逆処理を実施し、その結果をIFFT処理することで得られるインパルス応答ないしは遅延プロファイルにおいて、先頭部分に位置する所定の領域内の成分の絶対値の2乗和が残りの領域の成分の2乗和に対して所定の割合以上となっていることで、近似的なタイミング検出を行っても良い。さらには、周波数成分の信号を時間軸上の成分に戻し、時間軸上の信号に対して従来のタイミング検出と等価な処理を行っても構わない。このような様々な既存の技術の組み合わせにより実施することは可能であり、その如何なる方法であっても本発明を実施することは可能である。
(送信処理)
図29は、本関連技術における基地局装置400の送信処理を示すフローチャートである。送信処理においても、基本的に基地局装置400と各端末装置との間で同期が図られているシンボル単位で定常的に以下の処理を実施する。一般的に、送信処理は送信すべき信号がある場合にのみ実施する処理であるが、本発明の基地局装置400における送信処理は、送信すべき信号の有無を判断せずに、常にシンボル単位で以下の送信処理を繰り返して行う。
基地局装置400において送信処理が開始されると、第1の送受信信号処理部430−1において、送信信号処理回路434は自身に対応する端末装置に送信すべき信号の有無(厳密にはMAC層処理回路433から入力される信号の有無)を判断し(ステップS411−1)、送信すべき信号がない場合(ステップS411−1:NO)、第1の送受信信号処理部430−1における送信処理を終了させる。同様に、第2の送受信信号処理部430−2から第Nの送受信信号処理部430−Nにおいても、送信信号処理回路434は自身に対応する端末装置に送信すべき信号の有無を個別に判断し(ステップS411−2〜S411−N)、送信すべき信号がない場合(ステップS411−2〜S411−N:NO)、第2から第Nの送受信信号処理部430−2〜430−Nにおける送信信号処理を終了させる。
一方、第1の送受信信号処理部430−1において、自身に対応する端末装置に送信すべき信号がある場合(ステップS411−1:YES)、送信信号処理回路434は、当該信号に対して送信信号処理を行う(ステップS412−1)。ここでの送信信号処理は、いわゆる変調処理や必要に応じて付与されるプリアンブル信号の付加などの従来技術と同様な処理を指す。例えばOFDMであれば、MACレイヤの制御情報なども付与された送信データに必要に応じて誤り訂正符号化を施し、この結果をサブキャリアごとのビット列に分け、分けた各ビット列をIQ平面上の信号点にマッピングし、周波数軸上の送信信号として形成する。その他にもSC−FDEであれば、MACレイヤの制御情報なども付与された送信データに必要に応じて誤り訂正符号化を施し、この結果にシングルキャリアの変調処理を施し、さらに送信信号のブロック単位でFFTにより各周波数成分に分離する。同様に、第2から第Nの送受信信号処理部430−2〜430−Nにおいても、自身に対応する端末装置に送信すべき信号がある場合(ステップS411−2〜S411−N:YES)、送信信号処理回路434は、当該信号に対して送信信号処理を行う(ステップS412−2〜S412−N)。
各送受信信号処理部430−1〜430−Nにおいて、ステップS412−1〜S412−Nで送信信号処理がなされた各周波数成分の信号に対して、送信ウエイト乗算回路435は、各アンテナ素子401−1〜401−Kごとに、当該アンテナ素子に対応する送信ウエイトを乗算し、乗算結果を当該アンテナ素子が接続されている無線信号処理回路410に出力する(ステップS413−1〜S413−N)。
第1の無線信号処理回路410−1において、加算合成回路421は、各送受信信号処理部430−1〜430−Nから入力された各周波数成分の信号(周波数軸上の信号)を周波数成分ごとに加算合成する(ステップS414−1)。同様に、第2から第Kの無線信号処理回路410−2〜410−Kにおいても、加算合成回路421は、各送受信信号処理部430−1〜430−Nから入力された各周波数成分の信号を周波数成分ごとに加算合成する(ステップS414−2〜S414−K)。
各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおいて、各IFFT&GI付与回路422は、加算合成された信号に対してIFFT処理しガードインターバルを付与して時間軸上の信号に変換する(ステップS415−1〜S415−K)。このとき、必要であればシンボル間の波形整形を行ってもよい。
更に、各無線信号処理回路410−1〜410−Kにおいて、D/A変換器423が時間軸上の信号をアナログ信号に変換し、このアナログ信号をミキサ425が無線周波数帯域にアップコンバートし、アップコンバートされた信号に含まれる帯域外の周波数成分をフィルタ426が除去する(ステップS416−1〜S416−K)。ハイパワーアンプ427は、フィルタ426により帯域外の周波数成分が除去された信号を増幅し、アンテナ素子401−1〜401−Kから送信して(ステップS417−1〜S417−K)、送信処理を終了する
なお、ステップS411−1〜S411−Nにおいて、送信すべき信号がない場合(ステップS411−1〜S411−N:NO)、送信処理を終了するとしたが、送受信信号処理部430−1〜430−Nは、ステップS412−1〜S412−NからステップS413−1〜S413−Nの処理を行わずに、各周波数成分においてオール・ゼロの信号を各無線信号処理回路410−1〜410−Kに出力するようにしても構わない。この場合においても、各無線信号処理回路410−1〜410−Kは、ステップS414−1〜S414−KからステップS417−1〜S417−Kまでの処理を上述のように実施する。また、これと全く等価であるが、ステップS413−1〜S413−Nの処理における送信ウエイトを乗算する対象の送信信号を信号「0(ゼロ)」と設定してステップS413−1〜S413−Nの処理に遷移しても構わない。この処理を行うようにしても、加算合成においてはゼロが加算されるだけで実質的に影響を与えることがなく、実効的には有効な信号が送信されていないのと等価になる。
(本関連技術にかかわる補足事項)
なお、本関連技術における補足事項であるが、仮にFDD方式を用いる場合にはアップリンクとダウンリンクとの間のチャネル推定結果には全く相関がないものとなる。したがって、アップリンクのチャネル推定結果からキャリブレーションを行いダウンリンクのチャネル情報を推定することはできない。したがって、ダウンリンクのチャネル推定は、チャネルフィードバックの直接的な方法によって実現するなど、別途、追加の処理が必要となる場合があるが、それらの処理を実施すればFDD方式を用いる場合であっても同様に適用可能である。FDD方式を用いる場合のダウンリンクのチャネル推定では、基地局装置400からは1本ずつ順番に全てのアンテナ素子401からトレーニング信号等を順に送信する必要がある。しかし、基地局装置400からのチャネル推定用の信号の送信に対して、全ての端末装置は同時並行的にチャネル推定を行うことが可能である。一方、アップリンクの場合においては、本発明関連技術で示したのと同様に信号が混信しないように各端末装置が個別にタイミングを分けて送信することになるため、アップリンクとダウンリンクでは非対象の処理となっている点に注意を要する。
上述のように、本関連技術における基地局装置400は、通信対象とするN台全ての端末装置に一対一に対応するN個の送受信信号処理部430−1〜430−Nを備えるようにした。更に各送受信信号処理部430−1〜430−Nにおいて、チャネル情報に対して短時間平均化処理(図23)、相対成分取得処理(図24)、長時間平均化処理(図25)を行って得られた受信ウエイトを用いて複数のアンテナ素子401−1〜401−Kで受信した各受信信号を常に同位相合成して、有意な信号が含まれているか否かを判断する。すなわち、各送受信信号処理部430−1〜430−Nにおいて、対応する端末装置が信号を送信したか否かを判断し、送信された信号がある場合に受信処理をすることができる。これにより、各端末装置に対する無線リソースの割り当てを把握することなくアップリンクの通信を並列に行うことができる。
また、各送受信信号処理部430−1〜430−Nは、対応する端末装置に送信すべき信号がある場合には、短時間平均化処理、相対成分取得処理、長時間平均化処理を行って得られた送信ウエイトを用いて当該端末装置において同位相合成される信号を送信する。これにより、送受信信号処理部430−1〜430−Nは、複数台の端末装置と空間多重伝送を行う場合においても、それぞれに対応する端末装置に送信すべき信号の有無に応じて処理を並列に行うことができる。
これにより、基地局装置400は、各端末装置に無線リソースを割り当てるスケジューリング処理を行わずとも、各端末装置と空間多重伝送を行うことができる。つまり、基地局装置400における送受信信号処理部430−1〜430−Nと各端末装置との間で見れば、あたかもPoint−to−Point型の通信を行っている状況であり、シンボルタイミング同期の条件、及びTDD方式の場合には送信/受信区間の制約や、メンテナンス作業等において無線通信が中断されることはあるが、それらを除けば任意のタイミングでデータの送信及び受信を実施することができる。したがって、基地局装置400において、スケジューリングに付随する処理に関する負荷を削減することができる。
更に、端末装置に対する帯域割り当て管理が不要になるので、必要とする帯域を各端末装置に問い合わせたり、各端末装置が基地局装置に帯域の割り当てを要求したりする制御情報の送受信が不要となり、MACレイヤにおける処理を削減することができるとともに、無駄なオーバーヘッドとなる制御情報を省略することでMACレイヤの効率を向上することができる。例えば複数の端末装置との間の通常の多元接続であれば、信号の衝突を許容するランダムアクセス制御を除けば、帯域要求用及び帯域割り当てのための制御信号を相互に交換することが避けられないため、そのオーバーヘッドによるMACレイヤの効率の低下が無視できなかった。特に、そのオーバーヘッドは端末装置の数に比例する傾向があるため、大多数の端末装置との多元接続では致命的であった。しかし、基地局装置400は、端末装置ごとのトラヒックに大きな偏りがある場合や、時間に応じてトラヒックに大きな偏りがある場合においても、このようなオーバーヘッドによるMACレイヤの効率を低下させることなく、各端末装置と空間多重伝送を行うことができる。また、基地局装置400においては、各端末装置から送信される信号の混信を回避するためのアクセス制御は不要であるため、実際には例えばTDMA方式におけるスロット割り当て的な処理や、CSMA/CA方式におけるランダムバックオフなどの制御は不要となる。
これにより、基地局装置400を具備する無線通信システムにおいては、MACレイヤ効率の向上とそれに伴うスループット特性の向上とが期待できる。
なお、基地局装置400において、既存の無線標準規格に従い動作するのであれば、MAC層処理回路においてそのようなアクセス制御が実施されていたとしても問題はない。具体的には、端末装置が無線標準規格のWiMAXに従う端末装置であるとすれば、実効的にはPoint−to−Point通信でありながらも、基地局装置400の各MAC層処理回路433はWiMAXのフレーム構成におけるUL−MapやDL−Mapなどのスケジューリングに関する報知情報を生成するようにしてもよい。
また、FDD方式を用いる場合には、送信と受信を別の周波数チャネルで行うという修正を行えば、無線標準規格のWiFiに従う端末装置であっても、従来と同等の処理を実施することができる。なお、WiFiの場合には複数の端末装置の送信タイミングの衝突を回避するためのランダムバックオフ制御が必須であるが、本発明を適用する場合では、基本的に異なる端末装置同士で無線パケットの衝突(混信)は発生しないため、ランダムバックオフ制御も当該の基地局装置及び端末装置間の衝突のみを回避できれば十分である。
また、本発明で規定している動作は、必ずしも全ての時間帯で定常的に実施しなくても良い。例えば、TDD方式を用いる場合もFDD方式を用いる場合も同様に、ある一定の周期で基地局装置よりアップリンク及びダウンリンクの双方の帯域割り当てを指示する基地局集中制御的な動作を行う時間帯と、本発明にて規定される各端末装置と基地局装置があたかも自律分散的なPoint−to−Point通信を並列に動作する時間帯とを時分割で分け、その決められた時間帯においてのみ本発明を利用する構成としても構わない。具体例としては、アップリンクにおける帯域要求信号のみを本発明を用いて送信し、従来と同様にユーザデータに関しては基地局集中制御により送受信するとしても構わない。この場合、基地局集中制御に伴うスケジューリングの負荷を軽減する効果は期待できなくなるが、帯域要求用の制御信号に関してはスケジューリング処理が不要になり、さらには必要な時だけ帯域要求情報を送信すればよいために、無用なオーバーヘッドを低減し、MACレイヤの効率を高めることは可能である。
また、本発明関連技術の構成例における基地局装置400では、アップリンクにおけるチャネル情報を取得する際に図23に示した短時間平均処理を実施する構成を説明した。しかし、これは(要求条件1)への対応を前提とするものであった。例えば、回線設計的にはチャネル推定は実施可能なレベルであるが、より高い伝送レートでの通信のために、回線利得を更に得るための手段として基地局装置400を用いる場合には、必ずしも短時間平均を行う必要はない。この場合、アップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理(図23)は、単に、チャネル推定処理に置き換えることができる。
また同様に本発明関連技術の構成例における基地局装置400では、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出する際に、式(14)及び式(15)に示したキャリブレーション係数を用いる構成を説明した。しかし、ローノイズアンプ412、フィルタ415、ハイパワーアンプ427、フィルタ426などにおける周波数成分ごとの複素位相の回転量のアップリンクとダウンリンクとの間の相対値(複素位相の角度差)が全てのアンテナ素子に対応する回路で一定値になるようにアナログ的な信号処理で調整を行ってある場合(例えば、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整していても良い)、キャリブレーション係数を用いた処理を行う必要はない。この場合、ダウンリンクのチャネル情報を取得する処理(図26)は、省略することができ、上りリンクのチャネル情報とダウンリンクのチャネル情報とが等価になるので、送信ウエイトと受信ウエイトとは共通の値になる。この場合、ダウンリンクにおける送信ウエイト算出に係わる回路と、アップリンクにおける受信ウエイトの算出に係わる回路は共用化を図ることが可能である。
またこの場合、本発明関連技術の構成例における基地局装置では、受信ウエイト算出回路124及び受信ウエイト記憶回路125が、送信ウエイトと受信ウエイトとの算出及び記憶を兼ねて行う構成となる。この結果、キャリブレーション回路126、送信ウエイト算出回路127、送信ウエイト記憶回路128、及びキャリブレーション係数記憶回路129が省略される。しかし、これに限ることなく、本発明関連技術の構成例における基地局装置400と同じ構成のままで、キャリブレーション係数をアンテナ素子及び周波数成分の全ての組み合わせにおいて「1」とみなして送信ウエイトを算出するようにしてもよい。
更にこの場合、各周波数成分の必ずしも全てのアンテナ素子において複素位相の回転量が同一(ないしは、キャリブレーション係数が1)である必要はなく、この条件が一部の少数のアンテナ素子において例外的に満たされない状況であっても、少なくとも半数以上のアンテナ素子でこの条件を満たしていれば、全体として本発明の意図する動作を実現することは可能である。
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイトは全サブキャリアで共通の組み合わせの端末装置に対する送受信ウエイトを用いていた。一方、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書中ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明関連技術を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で送信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC−FDEで行われる処理をそのまま適用する構成としているために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。
更に、受信ウエイトを乗算した信号を複数のアンテナ素子に亘り加算合成する際に、必ずしも全てのアンテナ素子に亘り加算合成する必要はなく、全体の中の一部の複数のアンテナ素子に亘り加算合成を行ったとしても、全体として本発明関連技術の意図する動作を実現することは可能であり、結果として同様の効果を得ることができる。同様に、送信ウエイトを乗算した複数の端末装置宛の信号をアンテナ素子ごとに加算合成する際においても、加算合成を全てのアンテナ素子に亘り実施せず、一部の複数のアンテナ素子において加算合成を行ったとしても、全体として本発明関連技術の意図する動作を実現することは可能である。
また同様に、本発明関連技術においてはデータ通信の際に用いるチャネル推定用のプリアンブル信号は全ての端末装置において共通のプリアンブル信号とすることは可能であるが、一部の端末装置で他のプリアンブル信号を用いる構成とすることも当然ながら可能であり、少なくとも複数の端末装置に対して同時に空間多重して信号を送受信する際に共通のプリアンブルを用いたとすれば、それは本発明関連技術の意図する動作に相当する。
更に、本発明関連技術における図23から図25で示したチャネル情報の取得処理において、それらの処理を開始するための指示等の各種制御情報の基地局装置と端末装置の間の交換処理は如何なる方法で実現しても構わない。これらの処理は基本的にはサービス運用開始前に行うものであり、その場合には適切な送受信ウエイトが当初は未知であるために、基地局装置と端末装置の間で十分な回線利得が確保できない状況で各種制御が行われることが想定される。しかし、サービス運用開始前であれば、例えば作業員が端末装置の設置作業において手動で処理開始の指示を行うことも可能であるし、一時的に他の無線規格を利用して制御を行っても構わない。したがって、チャネル情報の取得処理を開始するための指示等の各種制御処理方法に係わりなく、本発明関連技術を実施することは可能である。
また更に、相対成分を取得する際に用いる複素位相のオフセット値φ(k)は、図24に示した処理以外の方法で取得することも可能である。
図30は、上述の本発明関連技術の各構成例においてアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する他の相対成分取得処理を示すフローチャートである。同図に示す処理と図24に示した処理との差分は、相対成分の取得の際に用いる複素位相のオフセット値φ(k)を、特定のアンテナ素子401−1の複素位相を基準とする代わりに、ステップS193において全てのアンテナ素子401−1〜401−Kの複素位相(すなわち0〜2πで表される角度)の平均値を用いる点である。ステップS122−1〜S122−Kにてアンテナ素子401−1〜401−Kに対応するチャネル情報における第k周波数成分^h1 (k),…,^hK (k)を基に、次式(21)を用いて第k周波数成分に対する全アンテナの複素位相の平均値φ(k)を求め、これをステップS124−1〜S124−Kにて用いることで相対成分の取得を実現する。なお、このオフセット値は周波数成分ごとに個別に求める。
個々のアンテナ素子401−1〜401−Kの複素位相成分は誤差を含む場合においても、式(21)では誤差の平均化を行うことになるので、結果的に精度の高い相対成分を求めることができる。
また、ダウンリンクのチャネル情報の取得方法としては、本明細書で示したアップリンクのチャネル情報を利用する方法の他に、従来技術の図4(A)の直接的な方法で示したように、ダウンリンクで直接トレーニング信号を送信し、そのトレーニング信号を受信した端末装置が取得したチャネル情報をフィードバックする形で基地局装置に設定する方法も考えられる。この場合、図16で示したトレーニング信号を、基地局装置が備えるアンテナ素子から1本ずつ順番に送信し、図23から図25で示した処理と同様の処理を端末装置で実施し、その結果得られた平均化されたアンテナ素子ごと及び周波数成分ごとのチャネル情報を何らかの方法で基地局にフィードバックして設定し、基地局装置ではこれを利用して送信ウエイトを算出する構成としても同様の効果を得ることは可能である。ただし、この場合であってもアップリンクのチャネル情報の取得においては各端末装置からのトレーニング信号の送信は必須であり、この点に関しては上述の本発明関連技術と全く同様である。
また、例えば式(21)ではチャネル情報^hi (k)の複素位相を抽出する処理を行っているが、チャネル情報^hi (k)の実数部と虚数部の比率から複素位相の角度情報を取得し、その角度情報を基に式(21)と等価な値を算出することも可能である。これは数式的には異なる処理に見えるが、数学的には全く等価な処理であり、全ての演算処理に対しこのような数学的に等価な代替の手段で処理を代用することも当然ながら可能である。
また同様に本発明関連技術の構成例における基地局装置400では、図24に示すアップリンクのチャネル情報の相対成分の取得後の処理として、図25に示す長時間平均化処理を行った後、図27に示す送受信ウエイト算出処理を行っていた。しかし、式(19)ないし式(20)で示すウエイトは単純な複素位相成分の抽出に相当するため、図24に示す相対成分の取得後に図27に示すウエイト算出処理を実施し、図25のステップS131−1〜S131−Qを個々の受信ウエイトの取得に読み替えて、ステップS133に示す長時間平均化の対象をこの受信ウエイトに置き換えることでも近似的に同等の長時間平均の受信ウエイトを取得することは可能である。つまり、先の本発明関連技術の構成例では長時間平均化の対象となる物理量はチャネル情報の相対成分であったが、チャネル情報の相対成分から算出した受信ウエイトを長時間平均化の対象となる物理量に置き換えることも可能である。
更に、図14に示した本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例では、端末装置12−1〜12−2は1本のアンテナを備えるものとして図示したが、端末装置が複数のアンテナを備えていたとしても同様の処理を行うことは可能である。原理的には、端末装置12−1〜12−2が複数本のアンテナを備えていれば、一つの端末局に複数の信号系列を空間多重することも可能である。この場合、端末装置12−1〜12−2の各アンテナを個々の端末局のアンテナ素子とみなすことで、本発明関連技術を同様に実施することが可能である。ただし、本発明では端末装置12−1〜12−2と基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4は相互に見通し環境であることを想定しているため、一般的には基地局と一つの端末局の間でMIMO伝送を行うことは困難(第2固有値以降がゼロに近づく)であることが多い。
そこで端末局が複数本のアンテナを備えている場合には、実際には単一信号系列の送受信を複数アンテナのダイバーシチ構成として運用するのが現実的である。この場合には、複数のアンテナを適当なウエイトで合成することで、仮想的な1本のアンテナとみなすことが可能であり、この仮想的な1本のアンテナとの間で同様の処理を実現すれば、全く同様に本発明関連技術を適用することが可能である。
また更に、以上の動作原理及び本発明関連技術の構成例の説明の中では、各アンテナ素子に対応したチャネル情報や送受信ウエイトについて述べてきたが、各アンテナ素子のチャネル情報ないしは送受信ウエイトを成分として構成されるベクトルは、そのベクトルの示す方向が実効的な意味をもつ。このため、あるベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価な意味合いをもつことになる。
一方で、本発明の前提条件で説明した通り、基地局装置と端末装置のアンテナはそれぞれ見通し環境ないしは見通し環境に近い環境を想定しているため、各アンテナ素子で受信される信号の強度及び振幅は概ね一定の値となっていることが期待される。このため、例えば各アンテナ素子のチャネル情報のベクトルは、実効的にはベクトルの各成分の絶対値はそれほど大きな意味をもたず、チャネル情報の値を規格化した値(チャネル情報をその絶対値で除算して得られる複素数)が有意な情報となる。このため、以上の動作原理及びの説明の中で用いられた「チャネル情報」を、近似的に「チャネル情報の値を規格化した値」とみなした処理は本発明及び本発明の関連技術と全く等価なものであり、その意味で上述の「チャネル情報」とは広義の意味で「チャネル情報の値を規格化した値」までを含むものとする。
また更に、本発明の明細書においては説明の都合上、「行ベクトル」と「列ベクトル」をあまり区別することなく扱っている。例えば、式(3)におけるチャネル情報ベクトルhiは行ベクトルであり、送信ウエイトベクトルwjは列ベクトルであり、ベクトルの並びの方向を統一する厳密な数学上の表記であれは「転置」などの記号などを使って表記すべきである。しかし、本発明の実施において必要な情報はベクトルの各成分の値であり、そのベクトルが行ベクトルか列ベクトルであるかはあまり意味をもたないため、理解の容易さを優先して「行ベクトル」と「列ベクトル」を区別しない説明としている。
また更に、以上の関連技術の主たる特徴は、実際の通信に先行した事前処理として、アップリンク及び又はダウンリンクのチャネル情報を事前に取得し、その情報を基に事前に受信ウエイト及び又は送信ウエイトを算出しておき、実際の通信に際しては事前に取得しておいた受信ウエイト又は送信ウエイトを参照して送受信の信号処理を実施する点である。この結果、アンテナ素子数が膨大な数になっても送受信ウエイトの取得処理において非常に重い演算の負荷を伴わず、回路規模も抑えながら、リアルタイムでの処理を実施することが可能という効果を得ることが可能となる。したがって、必ずしもチャネル情報のアンテナ素子ごとの相対成分の取得や、その平均化処理などを行わず、事前処理として1回のチャネル情報の取得結果を用いて送受信ウエイトを取得したとしても、信号分離のための送受信ウエイトによる信号分離の精度は幾分落ちるかもしれないが、本関連技術の目的とする効果を得ることも可能である。本発明においては、この関連技術の利用を主として想定しているが、本発明の効果を得るための必須条件としては、チャネル情報の相対成分の取得と平均化処理は必要ではない。
[関連技術に基づく具体的な本発明の実施形態]
以上の動作原理のもと、具体的な本発明の実施形態について以下に説明を行う。本発明の実施形態は、本発明のベースとなる関連技術との組み合わせで実施されるものである。以下、基地局装置が空間多重伝送の対象とする端末装置の数をN、基地局装置が備えるアンテナ素子の数をK(FDD方式の場合には送信アンテナ素子と受信アンテナ素子のペアの数を考慮してK組)として説明する。
上述した本発明関連技術の基地局装置400では、基本的には基地局装置の集中制御により帯域割り当てを行うのではなく、基地局装置と端末装置との間で自律分散的に送受信タイミングを決定している。したがって、特にアップリンクの場合、端末装置側の独自の判断で行った信号送信の結果としての空間多重数を簡単には把握することはできない。しかし、アップリンクにおいても同時に空間多重するストリーム数(信号系列数)の上限を管理できないと、パケットロスに伴う再送によって更にトラヒックが増大し、雪だるま式に空間多重数が膨大となって、通信の品質が大幅に劣化する状況が起きかねない。
そこで、本発明の実施形態では、上述した本発明関連技術に対して、同時に空間多重されるアップリンクのストリーム数を管理する機能を追加し、確率的ではあっても多重数が所定の閾値以上とならないように管理する。
(本実施形態の動作原理)
アップリンクの空間多重数を制御するために、まず基地局装置は、現在のアップリンクの空間多重数がどの程度になっているかを把握する必要がある。このための方法として、本実施形態の基地局装置は、各端末装置に対応した送受信信号処理部内の受信ウエイト乗算回路からの出力に対して、各周波数成分の絶対値の2乗和などの値を利用することにより、空間多重された状態から信号分離されて自局宛のみを抽出した信号の受信レベルを評価する。基地局装置は、この受信レベルが所定の閾値以上であれば信号受信あり、閾値以下であれば信号受信なしと判断し、それぞれの端末装置についての信号受信状態を、本発明の実施形態において新たに備えるアップリンク空間多重数管理回路に集約する。この様にして、端末装置は、空間多重数が目標とする上限を超えていることを把握することができるようになる。
アップリンク空間多重数管理回路は、信号受信ありと判断された端末装置の総数をカウントし、そのカウント結果である空間多重数の予測値が所定の閾値以上である場合、通信制御回路を介して各送受信信号処理部にこの状態を通知する。各送受信信号処理部は、この通知された状態をもとに、空間多重数の超過により無線パケットロスが発生したことが予測される端末装置に対して、送信を控えるためのバックプレッシャーを通知するNACK(Negative Acknowledgment:否定応答)を送信する。なお、ダウンリンクでの送信に関しては、同時に送信する端末装置数が所定の局数(空間多重数)以内に収まるように別途定める何らかの方法で適宜調整する。これにより、パケットロスに伴う端末装置からの再送によってトラヒックが増大することを防ぐ。
図31は、本発明の動作原理を適用した基地局装置におけるアップリンクの通信状態に対応した応答方法を示す図である。
上述したように、基地局装置は、アップリンク空間多重数管理回路によりカウントされたアップリンク空間多重数の推定値が所定の閾値以上か否かを把握することができる。さらに、基地局装置は、各端末装置に対応した送受信信号処理部内において、自局宛の信号の受信レベル推定結果が閾値以上であるか否か、すなわち、信号受信ありかなしかを判断することもできる。また、各端末装置に対応した送受信信号処理部内には、通常の受信信号処理機能の一つとして、無線パケットの受信開始を把握するためのプリアンブル信号検出やユニークワード検出機能が実装されている。送受信信号処理部は、このプリアンブル検出等により、無線パケットの受信信号処理を開始すると、無線パケットのフォーマット規定に従いパケット長を把握し、通常であればCRC等の誤り検出符号による符号誤りの有無を判断する。なお、プリアンブル検出がなければ、受信処理自体が開始されないので符号誤り検出はない。このように、信号受信処理におけるエラーには、プリアンブル等が検出されなかった場合と、プリアンブル等の検出の後に符号誤りが検出された場合とがある。
上記の様な「空間多重数推定値」、「レベル検出」、「プリアンブル検出」、「符号誤り検出」の結果から、同図に示すように基地局装置の状態を状態Aから状態Gの7つに分類できる。なお、「レベル検出なし」、かつ「プリアンブル検出なし」の場合(つまり、その端末装置からの信号受信の確率が非常に低い状態)、応答の必要性が全くないことから同図からは除外している。
まず、「空間多重数推定値」、「レベル検出」の条件を問わず、「プリアンブル検出あり」(プリアンブル検出あり:YES)、かつ「符号誤り検出なし」(CRCチェック結果OK:YES)の「状態G」の場合、通常であれば基地局装置はACK応答を送信元の端末装置に返信する。本発明においても、この条件は同様である。
「空間多重数推定値が閾値以下」(空間多重推定数が閾値以下:YES)でありながら、「符号誤り検出あり」(CRCチェック結果OK:NO)の「状態A」又は「状態C」の場合、又は、「レベル検出あり」(レベル検出あり:YES)かつ「プリアンブル検出なし」(プリアンブル検出あり:NO)の「状態B」の場合、何らかの信号を受信した可能性が高いが実際には無線パケットロスとなっていると思われる。そこで、基地局装置は、通常のNACKを通知して再送を促す。なお、送信元の端末装置からすれば、受信のACKが返送されてこない(正常受信できない)ことをもってNACKとみなすことも可能であるため、NACKの送信なしにも再送制御を実施することも可能である。
一方、「空間多重数推定値が閾値超過」(空間多重推定数が閾値以下:NO)であって、「プリアンブル検出あり」(プリアンブル検出あり:YES)かつ「符号誤り検出あり」(CRCチェック結果OK:NO)の「状態D」又は「状態F」の場合、又は、「レベル検出あり」(レベル検出あり:YES)かつ「プリアンブル検出なし」(プリアンブル検出あり:NO)の「状態E」の場合には、仮に再送制御を行っても再度、空間多重数オーバーとなる可能性が高いことを端末装置側に示さなければならない。そこで、基地局装置は、連続的な再送を含む送信を控える旨の指示(つまり、バックプレッシャー的な指示)を含んだ特殊なNACKを送信することが好ましい。
この特殊なNACKを受信した端末装置の動作としては、少なくとも所定の時間は再送を含む送信を控えることになる。この再送を控える時間の指定としては、基地局装置側より具体的な時間を指示しても良いし、ある時間範囲内のシンボルタイミングの中で一様な乱数等で送信開始タイミングを決定するとしても良い。前者に関しては、各端末装置間で送信時刻が重なり難いように、基地局装置側で指定することも可能である。また、後者に関しては、例えば最低限送信停止すべき時間長をTmin、乱数を用いた場合に最大となる送信停止時間長をTmax、ρを0から1の間の一様な乱数とすると、端末装置側で生成した乱数ρを用いてTmin+ρ×(Tmax−Tmin)で与えられる時間長を送信停止期間と設定すれば良い。また、このTminとTmaxは、空間多重数の推定値次第で値を可変制御しても構わない。その値ないしはその値を算出可能な関連情報は、直接基地局装置側から明示的に通知しても構わないし、NACKの受信頻度などから端末装置側が自律的に判断しても構わない。また、空間多重数が超過することによる無線パケットロスは、無線パケットの送信時間の全体で超過していなくても、その一部分において超過していれば符号誤りによるパケットロスとなる可能性が高いために、Tmax−Tminの時間長は標準的な無線パケットのパケット長の数倍、ないしはそれ以上であることが好ましい。また、実際の送受信はシステム全体でシンボル同期が計られ状態で運用されるため、端末装置の送信停止時間は一般的にはシンボル単位で量子化される。
(第1の実施形態)
図1は、本発明第1の実施形態における基地局装置500の構成例を示す。
同図に示す基地局装置500が、図19に示す本発明関連技術の基地局装置400と異なる点は、送受信信号処理部430−1〜430−N、通信制御回路403に代えて送受信信号処理部501−1〜501−N、通信制御回路520を備えている点、アップリンク空間多重数管理回路510をさらに備えている点である。なお、同図においては、アンテナ素子401−1〜401−K、及び無線信号処理回路410−1〜410−Kを省略して示している。以下、送受信信号処理部501−1〜501−Nの全体又はいずれか一つを示す場合に送受信信号処理部501とも記載する。
送受信信号処理部501が送受信信号処理部430と異なる点は、受信ウエイト乗算回路431、受信信号処理回路432、MAC層処理回路433に代えて受信ウエイト乗算回路502、受信信号処理回路504、MAC層処理回路505を備えている点、受信電力評価回路503をさらに備えている点である。
受信ウエイト乗算回路502は、本発明関連技術の受信ウエイト乗算回路431と同様に、各アンテナ素子401−1〜401−Kにて受信された信号を各周波数成分に分離した信号に対して、各端末装置毎に所定の受信ウエイトを乗算し、各周波数成分毎に全アンテナ素子401−1〜401−Kに亘って受信ウエイトが乗算された信号を加算合成した信号を受信信号処理回路504に出力する。このとき、受信ウエイト乗算回路502は、受信信号処理回路504に入力される信号をコピーして受信電力評価回路503にも入力する。受信電力評価回路503は、受信ウエイト乗算回路502から出力された信号の各周波数成分の値に基づいて受信電力を推定し、信号の受信があったか否かを判断する。受信信号処理回路504は、本発明関連技術の受信信号処理回路432と同様の処理を行う。この際、関連技術の説明では明示しなかったが、受信信号処理回路504は、プリアンブル(ないしはユニークワード等)検出の有無の状態をも合わせて管理する。また、MAC層処理回路505は、本発明関連技術のMAC層処理回路433と同様の処理を行うと共に、符号誤り検出の状態も合わせて管理する。
一般に、受信信号の受信レベル(受信電力)は、周波数軸上の信号として表される受信信号に対し、その各周波数成分の絶対値の2乗を全周波数成分に亘り総和を取った値に一致する。厳密には、この値の2乗以外の値のべき乗和(1乗和である絶対値の和を含む)ないしはその近似値であっても等価な効果は期待できるが、以下の説明では絶対値の2乗和として説明を行う。従って、受信電力評価回路503は、受信ウエイト乗算回路502から出力された信号における各周波数成分の絶対値の2乗和を求め、これが所定の閾値以下であるかどうかを判定する。これにより、そのシンボルにおいて信号の受信(レベル検出)があったか否かが判断できる。
なお、無線パケットのフレームフォーマット規定により、無線パケットは最低でも数シンボル以上となることが一般的である。そこで、受信電力評価回路503は、1より大きい所定の正の整数であるmに対し、mシンボルに亘り連続的に受信レベルが閾値以上となることを条件に、「信号受信あり(レベル検出あり)」と判断することも可能である。また同様に、受信電力評価回路503は、一旦「信号受信あり(レベル検出あり)」と判断した後は、1より大きい所定の正の整数であるnに対し、nシンボルに亘り連続的に受信レベルが閾値以下となることを条件に、「信号受信あり(レベル検出あり)」から「信号受信なし(レベル検出なし)」への状態遷移が起こったと判断することも可能である。
この様にして、各端末装置に対応した受信電力評価回路503による信号受信あり/なしの判断結果はアップリンク空間多重数管理回路510に入力される。アップリンク空間多重数管理回路510の構成は、受信電力評価回路503から通知される「信号受信あり」の端末装置数を管理できるものであれば如何なる構成でも構わない。ここでは、一例として、各端末装置の状態を「0」(信号受信なし)、「1」(信号受信あり)で管理する状態管理レジスタ511−1〜511−Nを実装する。そして、加算器512が、それらのレジスタ値の総和を求め、「信号受信あり(レベル検出あり)」の端末装置数、すなわち空間多重数の推定値を把握する構成とする。
加算器512による加算結果は、アップリンク空間多重超過判断回路513に入力され、ここで所定の閾値以上であるか否かが判断される。アップリンク空間多重超過判断回路513は、空間多重数が超過状態であると判断した場合、その判断結果を通信制御回路520に通知する。そして、空間多重数の超過は、通信制御回路520を経由して各送受信信号処理部501−1〜501−Nに通知される。
各送受信信号処理部501−1〜501−Nは、(1)通信制御回路520から通知される空間多重数の超過判断結果、(2)当該端末装置の受信電力評価回路503にて判断されるレベル検出の判断結果、(3)受信信号処理回路504の信号処理におけるプリアンブル(ないしはユニークワード等)検出の有無、(4)MAC層処理回路505における符号誤り検出結果、の情報を集約し、図31に示す状態A〜状態G、又はそれ以外のいずれの状態であるかを判断する。この結果、各送受信信号処理部501−1〜501−Nは、状態D〜状態Fのいずれかの状態を検出すると、当該端末装置に対して所定期間の送信停止を通知するNACKの送信を行う。
なお、最終的にこのNACK信号を生成するのはMAC層処理回路505であることから、この一連の処理を、その処理用の個別の回路を実装する構成としても構わないが、ここではそれと等価な構成として、MAC層処理回路505にて行うものとして説明する。なお、以下に示す一連の処理も、基本的にはシンボル単位で行うものとする。
図32は、本発明第1の実施形態における基地局装置500のレベル検出状態管理処理を示すフローチャートである。
受信ウエイト乗算回路502は、以下の処理をシンボル単位で行う(ステップS501)。まず、受信ウエイト乗算回路502は、図28のステップS403−1〜S403−Nの処理を行って、周波数成分毎に全アンテナに亘り受信ウエイトを乗算した信号を加算合成し、受信電力評価回路503と受信信号処理回路504に出力する(ステップS502)。受信電力評価回路503は、受信ウエイト乗算回路502により加算合成された信号に対し、全周波数成分に亘り個々の周波数成分の信号の絶対値の2乗の総和を算出する(ステップS503)。
受信電力評価回路503は、算出した総和が閾値以上である場合(ステップS504:YES)、そのYESの状態がm回連続で継続したか否かを判断する(ステップS505)。受信電力評価回路503は、m回連続で継続したと判断した場合(ステップS505:YES)、状態を「レベル検出あり」に設定するとともに(ステップS506)、当該受信電力評価回路503が備えられている送受信信号処理部501−i(i=1〜N)に対応した状態管理レジスタ511−iに「1」を設定し(ステップS507)、処理を終了する(ステップS511)。m回に達していなければ(ステップS505:NO)、受信電力評価回路503は、そのまま処理を終了する(ステップS511)。
一方、ステップS503で算出した総和が閾値よりも小さい場合(ステップS504:NO)、受信電力評価回路503は、そのNOの状態がn回連続で継続したか否かを判断する(ステップS508)。受信電力評価回路503は、n回連続で継続したと判断した場合(ステップS508:YES)、状態を「レベル検出なし」に設定するとともに(ステップS509)、当該受信電力評価回路503が備えられている送受信信号処理部501−i(i=1〜N)に対応した状態管理レジスタ511−iに「0」を設定し(ステップS510)、処理を終了する(ステップS511)。n回に達していなければ(ステップS508:NO)、受信電力評価回路503は、そのまま処理を終了する(ステップS511)。
なお、ここでは状態管理レジスタを利用する場合について説明したが、空間多重数をカウントするカウンタを利用し、「レベル検出なし」から「レベル検出あり」のときにカウンタ値を加算し、「レベル検出あり」から「レベル検出なし」に遷移したときにカウンタ値を減算することで空間多重数管理ができればそれでも代用できる。
また、図28のステップS404−1〜S404−Nの処理において、有意な信号の検出の有無を判断するが、これは図28のステップS405−1〜S405−Nの処理を実施するか否かの判断のための処理であり、必ずしも空間多重数の評価の閾値と一致する必要はない。したがって、本発明の関連技術における図28のステップS403−1〜S403−Nの各処理を、図32に示す処理に置き換えた後、更に図28のステップS404−1〜S404−Nの処理を実施し、ステップS405−1〜S405−Nの処理へと継続されるものと理解することが出来る(ステップS502は図28のステップS403−1〜S403−Nと一致しており、実質的にはステップS503以降の処理が追加されていることになる)。この際の閾値の関係としては、空間多重数の評価(ステップS504)の閾値は、図28のステップS404−1〜S404−Nの閾値レベルより高い値に設定される。
以上の処理に続けて以下の処理を実施し、システム全体の空間多重数超過状態を管理する。
図33は、本発明第1の実施形態における基地局装置500の空間多重数超過状態管理処理を示すフローチャートである。空間多重数超過状態と非超過状態は時刻と共に刻一刻と変わっていくが、無線パケットの受信期間中に一瞬でも超過状態となった場合には、図31の状態D〜状態Fのいずれかとなる可能性があるため、システム全体としての状態と端末装置個別の状態は別途管理する必要がある。そこで、同図においては、システム全体としての管理について説明し、後述する図36にて端末装置個別の管理について説明する。
アップリンク空間多重数管理回路510は、シンボル単位で以下の処理を行う(ステップS521)。まず、アップリンク空間多重数管理回路510は、空間多重数の推定値をカウントし、その値が閾値以下であるか否かを判断する(ステップS522)。具体的には、加算器512が、状態管理レジスタ511−1〜511−Nのレジスタ値を加算し、アップリンク空間多重超過判断回路513は、加算器512による加算結果が閾値以下であるか否かを判断する。アップリンク空間多重超過判断回路513は、空間多重数の推定値が閾値以下であると判断した場合(ステップS522:YES)、システム全体の状態を「空間多重数非超過」に設定し(ステップS523)、閾値よりも大きいと判断した場合(ステップS522:NO)、システム全体の状態を「空間多重数超過」に設定して(ステップS524)、管理する。アップリンク空間多重数管理回路510は、ステップS523又はステップS524におけるシステム全体の状態の設定後、処理を終了する(ステップS525)。
なお、一旦、空間多重数超過状態となった場合、図34に示すように、その後しばらくの間は空間多重数超過状態として管理することも可能である。
図34は、本発明第1の実施形態における基地局装置500の他の空間多重数超過状態管理処理を示すフローチャートである。同図において、図33に示す処理フローと同じ処理には同じ符号を付し、説明を省略する。
同図において、アップリンク空間多重超過判断回路513は、空間多重推定値が閾値以下と判断した場合であっても(ステップS522:YES)、過去Mシンボル以内に空間多重数超過となった履歴があれば(ステップS530:NO)、システム全体の状態を「空間多重数非超過」には設定せずに処理を終了する(ステップS525)。アップリンク空間多重超過判断回路513は、過去Mシンボル連続で非超過状態を維持したと判断した時点で(ステップS530:YES)、システム全体の状態を「空間多重数非超過」に設定する(ステップS523)。
図35は、本発明第1の実施形態における基地局装置500のプリアンブル検出および符号誤り検出状態管理処理を示すフローチャートである。この図35に示す処理は図28のステップS405−1〜S405−Nの各処理の一部として、個別の送受信信号処理部501−1〜501−N内にて実施される処理であり、図33又は図34の処理とは独立かつ並列的に実行される。また、図28のステップS404−1〜S404−Nで行う閾値との比較判断は、先にも説明したように閾値の値が図32のステップS502の閾値よりも低く設定されるため、状態が「レベル検出なし」であってもステップS404−1〜S404−Nで行う閾値以上であれば図35に示す処理が実施される。
受信信号処理回路504は、シンボル単位で以下の処理を行う(ステップS541)。まず、受信信号処理回路504は、処理対象のシンボルでのプリアンブル検出(ないしはユニークワード等の無線パケット受信の有無を判断できるものであればいかなる方法であっても良い)の有無を判断する(ステップS542)。ここでは、例えば受信信号に対してIFFT処理を施して周波数軸から時間軸上の信号に変換し、変換された信号と所定のプリアンブルパターンとの間で、時間軸上の信号と既知のプリアンブルパターンの時間軸信号の値(ないしはその複素共役の値)とを乗算したものを1シンボルに亘り加算した相関値を求め、その値が閾値を超えるか否かの判断でプリアンブル検出の有無を判断する。なお、WiFiなどのようにシンボル同期ができないシステムであれば、サンプリング時間ずつ順にシフトした時刻で同様に相関値を求めるのであるが、本実施形態が想定するシステムではシンボル同期が取れていることを前提としているため、シンボル同期の誤差の範囲程度の時間領域で同様に相関検出を行い、そのいずれかで相関値が閾値を超えればそれをもってプリアンブル検出としても良い。また、その他の無線システムにおける、無線パケットの先頭を検出する如何なる手法を用いても、無線パケットの受信開始を判断できればそれで代用しても構わない。
ここで、受信信号処理回路504は、プリアンブル検出ないしはそれと同等の検出がなされたと判断した場合(ステップS542:YES)、状態を「プリアンブル検出あり」として管理し(ステップS543)、処理を終了する(ステップS551)。
一方、受信信号処理回路504は、プリアンブル検出なしと判断した場合(ステップS542:NO)、その前からの継続として状態が「プリアンブル検出あり」に設定されているか否かを判断し(ステップS544)、設定されていなければ(ステップS544:NO)、処理を終了する(ステップS551)。
状態が「プリアンブル検出あり」に設定されている場合(ステップS544:YES)、MAC層処理回路505は、処理対象のシンボルが無線パケットのフレームフォーマットのルールに則った場合の最終シンボルか否か、すなわちそのシンボルで受信終了するか否かを判断する(ステップS545)。
MAC層処理回路505は、受信終了と判断した場合(ステップS545:YES)、無線パケットの最後で実施される符号誤り検出を実施し、符号誤りの有無を確認する(ステップS546)。ここで、MAC層処理回路505は、符号誤りがあると判断した場合(ステップS546:YES)、状態に「符号誤り検出あり」を設定し(ステップS547)、符号誤りがないと判断した場合(ステップS546:NO)、状態に「符号誤り検出なし」を設定する(ステップS548)。MAC層処理回路505は、ステップS547又はステップS548における誤り検出状態の設定後、処理を終了する(ステップS551)。
また、MAC層処理回路505は、受信終了ではないと判断した場合(ステップS545:NO)、さらに、前シンボルで受信が終了したかを判断する(ステップS549)。MAC層処理回路505は、前シンボルで受信が終了していないと判断した場合(ステップS549:NO)、そのまま処理を終了し(ステップS551)、前シンボルで受信が終了したと判断した場合(ステップS549:YES)、状態に「プリアンブル検出なし」を設定してから(ステップS550)、処理を終了する(ステップS551)。
以上の図32から図35の処理において、図31の各状態を判断する条件が確定するので、これを受けて、MAC層処理回路505は、各端末装置毎に個別の空間多重数の超過状態を判断する。
図36は、本発明第1の実施形態における基地局装置500の端末装置個別の空間多重数超過状態管理処理を示すフローチャートであり、図32から図35の処理が完了した後に各送受信信号処理部501−1〜501−Nにて独立且つ並列的に実行される。
MAC層処理回路505は、シンボル単位で以下の処理を行う(ステップS561)。まず、MAC層処理回路505は、アップリンク空間多重数管理回路510によるシステム全体での空間多重数超過状態の判断結果を参照する(ステップS562)。MAC層処理回路505は、判断結果により、システム全体の状態が「空間多重数超過」であると判断した場合(ステップS562:YES)、着目する端末装置の状態がプリアンブル検出ありか否かを判断する(ステップS563)。着目する端末装置とは、MAC層処理回路505を備えている送受信信号処理部501に対応する端末装置である。従って、MAC層処理回路505は、当該MAC層処理回路505と同じ送受信信号処理部501に備えられた受信信号処理回路504からプリアンブル検出状態を取得する。状態が「プリアンブル検出あり」の場合(ステップS563:YES)、MAC層処理回路505は、端末装置個別の状態に「空間多重数超過」を設定し(ステップS564)、処理を終了する(ステップS568)。
一方、プリアンブル検出がない場合(ステップS563:NO)、MAC層処理回路505は、レベル検出ありか否かを判断する(ステップS565)。なお、MAC層処理回路505は、当該MAC層処理回路505と同じ送受信信号処理部501に備えられた受信電力評価回路503からレベル検出状態を取得する。MAC層処理回路505は、「レベル検出あり」と判断した場合も同様に(ステップS565:YES)、端末装置個別の状態を「空間多重数超過」に設定し(ステップS564)、処理を終了する(ステップS568)。一方、状態が「レベル検出なし」の場合(ステップS565:NO)、MAC層処理回路505は、端末装置個別の状態を「空間多重数非超過」に設定し(ステップS566)、処理を終了する(ステップS568)。
また、MAC層処理回路505は、空間多重数超過状態の判断結果により、システム全体の状態が「空間多重数非超過」と判断した場合(ステップS562:NO)、続いて前シンボルで受信が終了したか否かの判断を行う(ステップS567)。MAC層処理回路505は、前シンボルで受信終了となっていたと判断した場合(ステップS567:YES)、一旦、状態をリセットするために端末装置個別の状態を「空間多重数非超過」に設定し(ステップS566)、処理を終了する(ステップS568)。また、前シンボルで受信終了ではない場合(ステップS567:NO)、MAC層処理回路505は、状態遷移を行わず処理を終了する(ステップS568)。
以上の処理により、図31に示した状態Dから状態Fを判断するための情報が揃うので、これらの状態を参照して以下の図37の処理を行う。
図37は、本発明第1の実施形態における基地局装置500のNACK送信判断処理を示すフローチャートであり、図32から図36までの処理の終了後に実施される。
MAC層処理回路505は、処理を開始すると(ステップS571)、端末装置個別の状態が空間多重数超過であるか否かを判断する(ステップS572)。MAC層処理回路505は、「空間多重数超過」であると判断した場合(ステップS572:YES)、さらに状態がプリアンブル検出ありか否かを判断する(ステップS573)。
MAC層処理回路505は、「プリアンブル検出なし」と判断した場合(ステップS573:NO)、さらに状態がレベル検出ありか否かを判断する(ステップS574)。ここでMAC層処理回路505は、「レベル検出あり」と判断した場合(ステップS574:YES)、「状態E」と判定する(ステップS575)。
一方、ステップS573において、「プリアンブル検出あり」と判断した場合(ステップS573:YES)、MAC層処理回路505は、さらに状態が符号誤り検出ありか否かを判断する(ステップS576)。MAC層処理回路505は、「符号誤り検出なし」と判断した場合(ステップS576:NO)、処理を終了する(ステップS582)。
MAC層処理回路505は、「符号誤り検出あり」と判断した場合(ステップS576:YES)、さらに状態がレベル検出ありか否かを判断する(ステップS577)。MAC層処理回路505は、「レベル検出あり」と判断した場合(ステップS577:YES)、「状態D」と判断し(ステップS578)、「レベル検出なし」と判断した場合(ステップS577:NO)、「状態F」と判断する(ステップS579)。
ここまでの処理で状態D、状態E、状態Fのいずれとも判定されない場合、すなわち、MAC層処理回路505が、ステップS572において空間多重数非超過と判断した場合(ステップS572:NO)、ステップS574において「レベル検出なし」と判断した場合(ステップS574:NO)、又は、ステップS576において「符号誤り検出なし」と判断した場合(ステップS576:NO)、処理を終了する(ステップS582)。
MAC層処理回路505は、状態D、状態E、状態Fのいずれかであると判定した場合(ステップS575、S578、又はS579)、過去、Lシンボルの間にNACK送信がなされたか否かを判断する(ステップS580)。MAC層処理回路505は、未送信であると判断した場合(ステップS580:NO)、端末装置にバックプレッシャーをかけるためのNACKの送信データを生成し、MACレイヤの信号処理を行って送信信号処理回路434に出力する。これにより、バックプレッシャーをかけるためのNACKを端末装置に送信し(ステップS581)、MAC層処理回路505は、処理を終了する(ステップS582)。一方、過去Lシンボルの間にNACKを送信済みであれば(ステップS580:YES)、MAC層処理回路505は、処理を終了する(ステップS582)。
ここで、ステップS581の処理において、NACKの送信データの生成、MACレイヤの信号処理、バックプレッシャーをかけるためのNACKを端末装置に送信、の各処理は、必ずしも即座に行うべきものではなく、ある程度のシンボル数の時間をおいてから遅れて実施することとしても構わない。これにより、複数の端末装置へのNACKの送信が時間的に集中し、ダウンリンクにおける空間多重数が超過するという事態を避けることが可能になる。この時の遅延させる時間は、いかなる方法で定めても構わない。
なお、以上の処理の終了後も、端末装置個別の空間多重数の超過状態、プリアンブル検出状態、レベル検出状態、誤り検出状態は、図32から図36のフローチャートで明示的に状態遷移を指示されるまでは、そのままの状態を維持するものとする。
また、図35から図37の処理は、先にも述べたように、図28の処理フローにおいて個別の送受信信号処理部501−1〜501−Nが実施するステップS405−1〜S405−Nの各処理の一部とみなすことが出来る。つまり、これらのフローチャートでは明示されていない受信信号の復調処理などの処理を実施すると共に、同時並行的にこれらの処理が実施されることになる。
なお、このNACK送信を行わない期間であるLシンボルの設定は、例えば以下の様にすればよい。つまり、想定する伝送方式、誤り訂正の符号化率、帯域幅等と、一回当たりに連続して送信する最大パケット長を基に、最も遅い伝送レートでその最大パケット長を伝送する場合に要するシンボル長(又はそれよりも大きな数)をLとすれば、単一のパケットの受信期間中に複数回のNACKが無駄に送信される事態を回避することが可能である。また、一回のNACK受信で端末装置側は最低でもTminの期間内は送信停止を行うので、Tminをシンボル値に換算した値をLと設定することも可能である。その他、これらの値の中間の所定の値であっても同様に構わない。さらにTDD方式を用いる場合には、図13(a)のようにアップリンクに割り当てられた期間中であればダウンリンクでNACK送信を行うことは不可能であり、この意味でステップS580の条件判断においてはダウンリンク期間中のみをシンボル数のカウント対象とした場合においてLシンボル以内にNACK送信済みとみなすことも可能である。
この様にして送信したNACKを端末装置側で受信した際には、このNACK信号に設定されたTminおよびTmaxの情報(ないしは端末装置側で所定のルールで管理されるTminおよびTmaxの情報であっても良い)を用い、0から1までの乱数ρを用い、NACK信号受信後にTmin+ρ×(Tmax−Tmin)で与えられる時間長を送信停止期間と設定し、その停止期間を経過後に信号の送信を再開する。ここでシンボル同期が図られて、送信タイミングがシンボル周期に限定されている場合には、送信停止期間はシンボル長の整数倍に量子化されている。さらにTDD方式を用いる場合には、一般的にはアップリンク期間を除外して、ダウンリンク期間中において上述の送信停止期間を設定しても良い。
NACKの送信元である基地局装置500では、空間多重数超過の継続状況を把握しているので、TmaxおよびTminの最適設定は可能である。適当なルールとして、例えば検出された空間多重数の最大値が大きい場合ないしは空間多重数超過状況の継続時間が長い場合には深刻な状況と判断し、その深刻さの程度に応じてTmax(必要に応じてTminも同様)を長めに設定し、深刻度が低いないしは状況の推移から短期的に超過状態が解消可能だとの判断ができればTmaxを短めに設定すれば良い。
なお、TminおよびTmaxの情報は必ずしも基地局装置500から端末装置に通知する必要はない。例えば、WiFiなどで用いられるランダムバックオフ方式のように、ウインドウサイズとしてW0=Tmax−Tminの初期値を定め、NACKを連続的にQ回受信する場合には、ウインドウサイズの初期値W0に対して、NACKを受信する毎に、W0×2(Q−1)としてウインドウサイズが大きくなる様な制御であっても構わない。ここでWiFiとの違いは、WiFiであれば無線パケットの受信毎にACKを即座に返送するルールになっていることから、送信側はACKの受信タイミングを確定的に知ることができるが、本発明ではNACKの受信タイミングは確定的ではない。したがって、上述のQは無線パケットの送信失敗回数とは異なる管理となり、例えば無線パケット送信後に適当な時間長のタイマーを設定し、その時間長以内にNACKを受信すれば+1、受信しなければ−1ないしはゼロにリセットするカウンタを用いて管理しても良い。また、適当な時間量の時間窓を設定し、その時間窓内に受信したNACKの回数をQとしてウインドウサイズを管理するようにしても良い。
このような処理を行う端末装置について以下に説明する。
図38は、本発明の第1の実施形態による端末装置600の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置500と無線通信する端末装置600は、通信制御回路610、MAC層処理回路620、送信部630、受信部640、及びインタフェース回路650を備えている。
通信制御回路610は、宛先局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を行う。MAC層処理回路620は、通信制御回路610の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。送信部630は、送信データの信号系列を周波数軸上の信号として変調し、変調した信号を周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換した後、デジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換する。さらに送信部630は、変換により得られたアナログ信号を無線周波数の信号にアップコンバートし、アップコンバートされた信号から帯域外の周波数成分を除去した電気的な信号を、アンテナ素子から送信する。受信部640は、アンテナ素子で受信した信号を増幅し、無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートし、受信すべき周波数帯域外の成分を除去した後、デジタル・ベースバンド信号に変換する。さらに受信部640は、デジタル・ベースバンド信号を周波数軸上の信号に変換し、復調処理の後に受信データとしてMAC層処理回路620に出力する。インタフェース回路650は、端末装置600に接続されるここでは図示されていない外部装置と、MAC層処理回路620との間のデータの入出力を管理する。具体的には、電気的条件や信号のフォーマット変換などを行う。
図39は、本発明第1の実施形態における端末装置600の送信停止期間設定処理を示すフローチャートである。端末装置600の受信部640により、最初のNACKを受信すると(ステップS601)、通信制御回路610は、ウインドウサイズを決定するパラメータQに初期値として1を設定し(ステップS602)、タイマーをリセット(t=0)して所定の時間Ttimeoutのタイマーを起動する(ステップS603)。ここで、通信制御回路610は、現在のQ値を用いて、TmaxにTmin+W0×2(Q−1)を設定する(ステップS604)。
その後、通信制御回路610は、新規NACKの受信確認(ステップS605)と、t=Ttimeoutであるかのタイムアウト確認(ステップS606)を繰り返す。通信制御回路610は、受信部640により新規NACKを受信した場合(ステップS605:YES)、Q値が所定の最大値Qmaxか否かを判断し(ステップS607)、最大値であると判断した場合(ステップS607:YES)、Q値を据え置き、ステップS603に戻ってタイマーリセットし、処理を継続する。一方、通信制御回路610は、最大値ではないと判断した場合(ステップS607:NO)、Q値に1を加算(+1)してから(ステップS608)、ステップS603に戻ってタイマーリセットし、処理を継続する。
また、通信制御回路610は、タイムアウトを確認したら(ステップS606:YES)、Q値から1を減算(−1)し(ステップS609)、Q値がゼロでなければ(ステップS610:NO)、ステップS603に戻ってタイマーリセットして処理を継続し、Q値がゼロであれば(ステップS610:YES)、通常送信に復帰して送信処理を再開する(ステップS611)。
なお、ここではQ値を1ずつ減算するとしたが、1回のタイムアウトで通常送信に復帰する場合、ステップS609及びS610の処理を省略しても構わない。また、タイムアウト時のQ値の減算を1回あたり2以上とし、Q値が0以下になると正常送信に復帰するとしても当然ながら構わない。同様に、ステップS608ではQ値を1ずつ加算するとしたが、1回のNACK受信でQ値を2以上加算しても構わない。この場合、ステップS607の処理ではQ値が所定の最大値Qmax以上か否かを判断し、Qmax以上であればQにQmaxを設定してステップS603に戻る処理としても当然ながら構わない。
さらには、ウインドウサイズを必ずしも2のべき乗倍とする必要もなく、ウインドウサイズがQに対して単調増加する関数で与えられるものとしても構わない。
また、端末装置600の通信制御回路610に、上記のようなタイマーの代わりにM段のシフトレジスタを設け、NACK受信の都度、現在状態の初段レジスタ値に1加算する構成としてもよい。これにより、端末装置600は、所定の時間毎にレジスタを1段ずつシフトし、M段のレジスタ値の加算値としてQを定めても同等の効果を得る処理を行うことが可能である。シフトする際に、端末装置600は、現在状態の初段レジスタ値にゼロを設定する。シフトレジスタのシフト間隔をTshiftとすると、このレジスタでは概ねTshift×Mの時間内のNACK受信数を管理することが可能である。この様にして得られた値をQ値として活用すれば良い。
(第2の実施形態)
以上の第1の実施形態では、比較的厳格に図31に示す状態を管理していたが、もう少し大まかな管理により同等の効果を得ることも可能である。例えば、第1の実施形態では、基地局装置500は、図33または図34によりシステム全体の空間多重数超過状態を管理すると共に、図36により端末装置個別の空間多重数超過状態を把握する構成である。本実施形態では、これを簡易化し、端末装置個別の空間多重数超過状態の管理を省略する。このためには、基地局装置500は、一旦システム全体の状態が「空間多重数超過」となったら、その後も所定のシンボル数は連続で「空間多重数超過」状態を維持することとすれば良い。このような点を考慮して、同様の処理を別の条件で実現する方法を以下に示す。
図40は、本発明第2の実施形態における基地局装置500の空間多重数超過状態管理処理を示すフローチャートである。本図に示す処理は、第1の実施形態に示す図32の処理及び図35の処理後に実施される。
シンボル単位の処理として(ステップS711)、アップリンク空間多重数管理回路510は、加算器512が状態管理レジスタ511−1〜511−Nのレジスタ値を加算することにより算出した空間多重数の推定値が閾値以下かどうかを判断する(ステップS712)。アップリンク空間多重数管理回路510は、閾値を越えていると判断した場合(ステップS712:NO)、システム全体の状態を「空間多重数超過」に設定する(ステップS713)。
アップリンク空間多重数管理回路510は、空間多重数の推定値が閾値以下であると判断した場合(ステップS712:YES)、さらに過去Mシンボル連続で空間多重数の推定値が閾値以下かを判断する(ステップS714)。アップリンク空間多重数管理回路510は、空間多重数の推定値が過去Mシンボル連続で閾値以下であると判断した場合(ステップS714:YES)、システム全体の状態を「空間多重数非超過」に設定し(ステップS715)、処理を修了する(ステップS725)。
一方、アップリンク空間多重数管理回路510は、過去Mシンボル内に1回でも空間多重数の推定値が閾値以上であったと判断した場合(ステップS714:NO)、システム全体の状態を「空間多重数超過」に設定する(ステップS713)。つまり、1シンボルでも超過となればその後、Mシンボルの間は超過として管理する。この様にすることで、第1の実施形態における図36で示す様に端末装置毎の個別の状態を管理せずにシステム全体の空間多重数の超過状態管理のみに管理を単純化する。
ステップS713でシステム全体の状態が「空間多重数超過」に設定された場合、MAC層処理回路505は、状態がプリアンブル検出ありであるか否かを判断する(ステップS716)。
MAC層処理回路505が、状態がプリアンブル検出なしであると判断した場合(ステップS716:NO)、MAC層処理回路505は、図32のステップS506ないしはステップS509にて設定された状態がレベル検出ありか否かを判断する(ステップS717)。MAC層処理回路505は、レベル検出ありと判断した場合(ステップS717:YES)、「状態E」と判断する(ステップS718)。一方、MAC層処理回路505は、ステップS717において状態がレベル検出なしであると判断した場合(ステップS717:NO)、処理を終了する(ステップS725)。
一方、ステップS716において、MAC層処理回路505は、状態がプリアンブル検出ありであると判断した場合(ステップS716:YES)、状態が符号誤り検出ありか否かを判断する(ステップS719)。MAC層処理回路505は、状態が符号誤り検出なしであると判断した場合(ステップS719:NO)、そのまま処理を終了する(ステップS725)。
MAC層処理回路505は、状態が符号誤り検出ありであると判断した場合(ステップS719:YES)、さらに状態がレベル検出ありであるか否かを判断する(ステップS720)。MAC層処理回路505は、状態がレベル検出ありであると判断した場合(ステップS720:YES)、「状態D」と判断し(ステップS721)、状態がレベル検出なしであると判断した場合(ステップS720:NO)、「状態F」と判断する(ステップS722)。
MAC層処理回路505は、状態D、状態E、状態Fのいずれかと判断した場合(ステップS718、ステップS721、又はステップS722)、過去、Lシンボルの間にNACK送信がなされたか否かを判断する(ステップS723)。MAC層処理回路505は、未送信と判断した場合(ステップS723:NO)、端末装置にバックプレッシャーをかけるためにNACKを送信して(ステップS724)処理を終了し(ステップS725)、送信済みと判断した場合(ステップS723:YES)、そのまま処理を終了する(ステップS725)。
なお、ステップS712からステップS715の各処理はアップリンク空間多重数管理回路510が実施し、その判断結果(ステップS713における「空間多重数超過」の判定、ないしはステップS715における「空間多重数非超過」の判定)を全てのMAC層処理回路505に通知する。これにより、個々のMAC層処理回路505がステップS716以降の処理を個別に実施する。
(第3の実施形態)
以上説明した第1の実施形態における図37の処理、および第2の実施形態における図40の処理においては、「状態D」「状態E」「状態F」を区別する処理までを明記しているが、実際には図31に分類した「状態D」「状態E」「状態F」のいずれの状態であっても、その後の処理であるNACKの送信は共通の処理として実施される。そこで、図35におけるステップS547の「符号誤り検出あり」の状態と、図32におけるステップS506の「レベル検出あり」で且つ図35のステップS550の「プリアンブル検出なし」の状態を、共に「受信処理エラーあり」として管理し、この状態で且つ「空間多重数が超過」の場合にNACKの送信を実施する場合の処理について説明する。
図41は、本発明第3の実施形態における基地局装置500のプリアンブル検出および符号誤り検出状態管理処理を示すフローチャートである。この図41に示す処理は、図28のステップS405−1〜S405−Nの各処理の一部として、個別の送受信信号処理部501−1〜501−N内にて実施される処理であり、図33又は図34の処理とは独立かつ並列的に実行される。また、同図において、図35と共通の処理に関しては、同一の番号を付与して説明を行う。
図35の処理との違いは、MAC層処理回路505が、ステップS544で状態が「プリアンブル検出なし」と判断した場合に(ステップS544:NO)、状態がレベル検出ありか否かの判断を行い(ステップS552)、状態がレベル検出あり(ステップS552:YES)と判断した場合、そのシンボルにおける状態を「受信処理エラーあり」に設定する(ステップS553)点、及びステップS547に続けて、そのシンボルにおける状態を「受信処理エラーあり」に設定する(ステップS554)点である。ステップS552において、状態がレベル検出なし(ステップS552:NO)の場合には、処理を終了する(ステップS551)。この「受信処理エラーあり」の状態は1シンボル限定の状態として管理され、次のシンボルでは状態がリセットされる。この処理に続けて、以下の処理を実施する。
図42は、本発明第3の実施形態における基地局装置500のNACK送信判断処理を示すフローチャートであり、図33または図34、図36、及び図41の処理の終了後に実施される。また、同図において、図37と共通の処理に関しては、同一の番号を付与して説明を行う。
図37の処理との違いは、MAC層処理回路505は、図37ではステップS573からステップS579において状態として「状態D」「状態E」「状態F」を区別する処理を記載していたが、これらを区別する代わりに図41で実施した処理において、状態が受信処理エラーありか否かの判断をステップS572に続けて実施し(ステップS583)、状態が受信処理エラーありと判断した場合(ステップS583:YES)、図37のステップS580以降の処理を実施するとした点である。なお、ステップS583において状態が受信処理エラーありではないと判断した場合(ステップS583:NO)、MAC層処理回路505は、そのまま処理を終了する(ステップS582)。
(第4の実施形態)
上述の第2の実施形態に対しても、上記の第3の実施形態と同様に、「状態D」「状態E」「状態F」を特定せずに、これらの状態に共通する「受信処理エラーあり」の状態を管理し、図40の処理を簡略化することが可能である。
図43は、本発明第4の実施形態における基地局装置500のNACK送信判断処理を示すフローチャートであり、図33または図34、及び図41の処理の終了後に実施される。また、同図において、図40と共通の処理に関しては、同一の番号を付与して説明を行う。
図40の処理との違いは、MAC層処理回路505が、図40ではステップS716からステップS722において状態が「状態D」「状態E」「状態F」のいずれであるかを区別する処理を記載していたが、これらを区別する代わりに図41で実施した処理において、状態が受信処理エラーありか否かの判断をステップS713に続けて実施し(ステップS726)、状態が受信処理エラーありと判断した場合(ステップS726:YES)、図40のステップS723以降の処理を実施するとした点である。なお、ステップS726において状態が受信処理エラーありではないと判断した場合(ステップS726:NO)、MAC層処理回路505は、そのまま処理を終了する(ステップS725)。
(実施形態に関する共通の補足事項)
なお、上述した第1および第2の実施形態の説明では、図1の回路構成において、各端末装置に対応した送受信信号処理部501−1〜501−N内の受信電力評価回路503が、受信電力の評価結果をアップリンク空間多重数管理回路510内の状態管理レジスタ511−1〜511−Nに記録する構成とし、空間多重数の推定値は各状態管理レジスタ511−1〜511−Nのレジスタ値の加算値より得るものとして説明を行っていた。
この場合、例えば受信電力評価回路503において所定の閾値以上の受信電力が検出されないときには、アップリンク空間多重数管理回路510において空間多重ありとみなされないことになる。しかし、送受信信号処理部501−1〜501−N内の受信信号処理回路504においてプリアンブル検出処理(ないしはユニークワード検出処理)を行う場合、プリアンブル検出と判定されれば受信レベルが閾値以下であっても、その端末装置を空間多重数に組み入れることも可能である。この場合、送受信信号処理部501−i(iは1以上N以下の整数)の受信電力評価回路503において、例えば受信信号処理回路504におけるプリアンブル検出の有無(一旦プリアンブル検出があった場合には、パケットの受信期間に相当する時間領域を検出ありとみなす)を管理し、受信電力推定値が閾値以上又はプリアンブル検出ありのいずれかの条件を満たした場合に、アップリンク空間多重数管理回路510内の状態管理レジスタ511−iに「1」を設定する構成としてもよい。
また、上述した第1および第2の実施形態の説明では、図1の回路構成において、アップリンク空間多重数管理回路510内の状態管理レジスタ511−1〜511−Nを用いて「レベル検出あり」である端末装置の数、即ちアップリンクの空間多重数推定値を得る構成について説明したが、これと同等の管理を状態管理レジスタ511−1〜511−Nの代わりに単純なカウンタを用いて実施することも可能である。具体的には、各シンボルにおいて送受信信号処理部501−1〜501−N内の受信電力評価回路503から入力される「レベル検出あり」の報告数をカウントする構成としても構わない。ないしは、「レベル検出なし」から「レベル検出あり」への遷移と共にカウンタ値に1を加算し、「レベル検出あり」から「レベル検出なし」への遷移と共にカウンタ値から1を減算することで、「レベル検出あり」の報告数をカウントする構成としても構わない。
さらに、第1の実施形態と第3の実施形態、及び第2の実施形態と第4の実施形態は、本質的には状態として「状態D」「状態E」「状態F」を区別するか否かの違いであり、個別の状態の代わりに「状態D」「状態E」「状態F」に共通した「受信処理エラーあり」という状態で管理する処理に対応する。これと同様に、第1と第2の実施形態においては、「状態D」と「状態F」を区別せずに省略することも可能である。具体的には、図37におけるステップS577の条件判断を省略し、ステップS578とステップS579を共通化した「状態DまたはF」という状態として管理することも可能である。同様に、図40におけるステップS720の条件判断を省略し、ステップS721とステップS722を共通化した「状態DまたはF」という状態として管理することも可能である。
またさらに、本実施形態で示した一連の処理フローは、あくまでも図31に示す各状態を識別し、必要に応じてNACKの送信を行うための判断処理を示すためのフローチャートであり、図28のステップS404−1〜S404−Nで行う各処理の中の受信信号の復調処理などは、本発明関連技術の中で示した様に、ここで示した処理とは別に実施されることになる。
なお、図19には、図20の無線信号処理回路410の構成例に記載したローカル発振器413及び424(FDD方式が適用される場合は、図21の無線信号処理回路410aの構成例に記載したローカル発振器413及び424a)は明示的に記載していない。ただし、先の説明でも記載したとおり、図19の各無線信号処理回路410−1〜410−Kに含まれるローカル発振器413及び424は、基地局全体で共用化が図られるのが一般的であり、本来であれば無線信号処理回路410の外部にローカル発振器413及び424を図示するのが適当である。しかし、ここでは説明の都合上、各無線信号処理回路410内にこれらを記載し、実際の運用では全体が共用化されているものとして説明を行っている。これは、図1に示す本発明の実施形態の基地局装置500においても同様である。
以上説明した本発明の実施形態によれば、各端末装置と基地局装置が個別のPoint−to−Point型の通信を並列で実施しながらも、アップリンクの空間多重数が特性劣化に至らないように管理し、安定的な通信を効率的に実現することが可能になる。
[その他の補足事項]
なお、本発明における基地局装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、送信ウエイト及び受信ウエイト、並びに送受信ウエイトを算出する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウエアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。