以下に、請求項1に記載の第一の発明を、実施例1を用いて説明する。
第一の発明は、冷やされた飲料水を供給するための冷水用配管系統と、暖められた飲料水を供給するための温水用配管系統を有するディスペンサであって、両配管系統が三つの口を有する弁である三口弁によりひとつの注水口に接続されたディスペンサに関する。当ディスペンサは、三口弁により冷水用配管系統と温水用配管系統との間に飲料水を通水させ、水の温度差による対流現象を利用して温水を両配管系統内で循環させることにより殺菌処理を行うことを特徴とする。
図1は、実施例1のディスペンサにより利用者が冷やされた飲料水を注出する場合の飲料水の経路を表す経路図である。
まず、図1を用いて実施例1のディスペンサの構造を説明する。実施例1のディスペンサは、取水口0101、冷水用配管系統0102、温水用配管系統0103、三口弁0104及び注水口0105を有する。冷水用配管系統は、配管系統中に冷水タンク0106を有し、冷水タンクは冷却機0107を備える。温水用配管系統は、配管系統中に温水タンク0108を有し、温水タンクは加熱装置0109を有する。ディスペンサの取水口には飲料水容器0110が接続されている。
飲料水容器のなかの飲料水は取水口より冷水用配管系統に流入する。飲料水は冷水タンクの中に貯蔵され、その間冷却機により冷却される。冷やされた飲料水(以下、「冷水」という)は冷水用配管系統から三口弁を経由して注水口に流れ、冷水0111がコップ0112内に注出される。三口弁は三つの口を有し、それらのうち任意の二つを任意に選択して通水することのできるものであるが、ここでは、冷水用配管系統を接続された口と注水口を接続された口とが選択されている。
図2は、実施例1のディスペンサにより利用者が温められた飲料水を注出する場合の飲料水の経路を表す経路図である。飲料水容器0201のなかの飲料水は取水口0202より温水用配管系統0203に流入する。飲料水は温水タンク0204の中に貯蔵され、その間加熱装置0205により加熱される。温められた飲料水(以下、「温水」という)は温水用配管系統から三口弁0206を経由して注水口0207に流れ、温水0208がカップ0209内に注出される。ここでは、三口弁の三つの口のうち温水用配管系統を接続された口と注水口を接続された口とが選択されている。
図3は、実施例1のディスペンサにおいて対流現象により温水を循環させてその配管系統を加熱殺菌する場合の飲料水の循環経路を表す循環経路図である。三口弁0301において冷水用配管系統0302を接続された口と温水用配管系統0303を接続された口とが選択されている。この場合、温水タンク0304内の温水は熱膨張により冷水タンク0305内の冷水よりも比重が軽くなっている。比重の軽い温水は上昇し、一方で比重の重い冷水は下降することにより、配管系統内で飲料水の循環が始まる。これを対流現象という。温水タンク内の温水は温水タンク上部の温水用配管系統0306を経由して取水口0307へ達し、さらに冷水タンク上部の冷水用配管系統0308を経由して冷水タンク内へ流入する。一方、冷水タンク内の冷水は冷水タンク下部の冷水用配管系統を経由して三口弁に達し、さらに温水タンク下部の温水用配管系統を経由して温水タンク内へ流入する。このような対流現象による温水の循環により、冷水用配管系統を含めた全配管系統が加熱殺菌処理されることとなる。尚、注水口0309は対流現象による循環経路には含まれていないが、温水を注水する場合に常に加熱殺菌処理を受けているため雑菌が繁殖する危険は少ない。
図4は、実施例1のディスペンサにおいて飲料水の注出も対流現象を使った加熱殺菌も行われていない場合の飲料水の経路図である。ここでは、三口弁0401の三つの口がいずれも選択されておらず、飲料水の注出も飲料水の循環もない状態にある。
以下において、第一の発明の各構成要件について詳しく説明する。
第一の発明は、飲料水を取水する取水口と、三つの口を有し、三つの口のなかから任意の二を選んでその間に飲用水を通過させる三口弁と、前記三口弁の三つの口の一に接続され、飲料水を注出する注水口と、前記取水口と前記三口弁の残る二の口のうち一との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に冷却機を備えた冷水タンクを有する配管系統である冷水用配管系統と、前記取水口と前記三口弁の残る一の口との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に加熱装置を備えた温水タンクを有する配管系統である温水用配管系統とを有するディスペンサ、に関する。
「ディスペンサ」とは、広くは液体を精度よく定量供給する液体定量吐出装置をいうが、ここではそのような装置のうち特に飲料水を供給する装置をいう。
「飲料水」とは、飲用に供する水をいう。典型的には地下水を原水とし容器に詰められたミネラルウォーターを指すが、地下水を原水としないものや、水道により供給される水を含む。
飲料水の供給元は、典型的には飲料水が詰められた樹脂製の飲料水容器である。そのような飲料水容器は、内部の飲料水を使い切ったときに容易に取り換えられるようにディスペンサ最上部に着脱可能に接続されることが多い。飲料水の供給元は水道でもよい。
「飲料水を取水する取水口」は、飲料水の供給元からディスペンサ内に飲料水を取り込むための取り入れ口である。飲料水の供給元が飲料水容器である場合には、飲料水容器とディスペンサの接合部が取水口となる。典型的な飲料水容器においては飲料水容器の口を下にして重力により内部の飲料水を注出させるが、通常このような飲料水容器はただひとつの口しかもたず、かつ容器が硬質の樹脂でできていてその形状が変わらないために、取出口から空気が内部に入らないと飲料水が出てこない。多くのディスペンサでは逆にこの仕組みを利用して使った分だけ飲料水容器から補充される仕組みとなっている。
図5は、そのようなディスペンサにおける取水口周辺の断面構造図である。飲料水0501を詰めた飲料水容器0502がディスペンサ本体0503上部に設置されている。図には示していないが、飲料水容器の口は飲料水容器を逆さにしてディスペンサに設置する際に水がこぼれ出さないような弁を備え、飲料水容器をディスペンサに設置すると同時にその弁が自動的に開かれるしくみのものが多い。図のように飲料水容器は取水口0504とのあいだに若干の隙間をおいて設置される。取水口は皿状の形をしており、周辺部には飲料水がこぼれないように縁があり、縁の高さは飲料水容器の口よりも高くなっている。図の斜線部分は飲料水を示している。飲料水容器の口が取水口にたまった飲料水内部に没しており、外気は飲料水容器内部へ侵入することができない。そのため飲料水は飲料水容器内部に留まり落ちてくることができない。飲料水が注水口から注出され、取水口に溜まった飲料水が冷水用配管系統0505または温水用配管系統0506に流れ出すと取水口上の飲料水の水面が低下する。水面の低下により飲料水容器の口が外気に触れると外気が飲料水容器内部に侵入し、飲料水容器の口が取水口上の飲料水の水面内に没するまで飲料水容器から飲料水が落下する。このように取水口と飲料水の供給元の接合部は必ずしも物理的につながっているわけではない。
図5の取水口を使ったディスペンサにおいて対流現象を利用して温水を循環させるときには、温水は温水用配管系統から取水口に流入し、皿状の取水口内部を移動した後に冷水用配管系統に流出することになる。図5では飲料水容器内部の飲料水は取水口内部の飲料水につながっている。これは飲料水容器内部の水の重量による水圧を飲料水の注出に利用するためである。このため循環する温水の一部は飲料水容器内部に侵入することがある。温水の侵入を防いで加熱殺菌の効率を高めるためには、加熱殺菌処理の間飲料水容器の口に蓋をする弁を設けたり、あるいは取水口において温水用配管系統を接続する場所と冷水用配管系統を接続されている場所を近くにし、逆にこれらと飲料水容器の口は離したりする方法が考えられる。
飲料水の供給元が水道の場合においては温水用配管系統及び冷水用配管系統が水道管に直接接続された部分が取水口となる。飲料水の供給元が柔らかい樹脂でできた飲料水容器の場合には取水口は直接接続されることもあるし、図5と同様に隙間を開けて接続されることもある。
「三口弁」は、「三つの口を有し、三つの口のなかから任意の二を選んでその間に飲用水を通過させる」ことのできる弁である。三口弁の機能については既に図1から4を用いて説明した。図1から3の形態が「三つの口のなかから任意の二を選んでその間に飲用水を通過させる」場合に該当する。「三つの口を有し、三つの口のなかから任意の二を選んでその間に飲用水を通過させる」とは、図4のように三つの口のいずれの間でも通水のない形態での使用を排除する趣旨ではない。以下に、三口弁の二つの例を説明する。
図6は、実施例1のディスペンサにおける第一の三口弁の構造図である。第一の三口弁は外部が円柱形でその内部が球状にくり抜かれた本体0601の内部に回転可能なボール0602を有する。下図は円柱の底面を下にした本体を側面からみた図で、上図は下図の一点破線における断面図である。本体には、内部のボール中心点を含む本体円柱底面と水平な平面上でその中心が相互に120度の角度をもつような三つの穴が開けられている。一方ボール表面にも前記同一平面上で120度の角度をもつような二つの穴が開けられ、それらは相互に通水腔0603でつながっている。また、ボール上部には前記平面と垂直方向に軸0604が装着されており、この軸を回転させると内部のボールも回転する仕組みとなっている。軸の先端には取っ手0605が装着されている。ボールと本体とが接する球面は飲料水が漏れ出さないように密着している。
図6では、冷水用配管系統が接続された口0606と注水口が接続された口0607とが通水腔でつながっており、冷水が注水口から注ぎ出される。この状態から軸を時計回りに60度回転させると三つの口はボールの外面により塞がれ飲料水の流れは止まる。ディスペンサから飲料水を注出せず、加熱殺菌も行わない時にはボールの通水腔をこの位置に保持する(以下、飲料水の流れを止めたこの位置をディスペンサを使わないときの通常位置という意味で「基準位置」と呼ぶ)。そしてボールの軸を基準位置から時計回りにさらに60度回転させると今度は注水口が接続された口と温水用配管系統が接続された口0608とが通水腔によりつながれ温水が注水口から注ぎだされる。また、ボールの軸を基準位置から時計回りあるいは反時計回りに180度回転させると冷水用配管系統が接続された口と温水用配管系統が接続された口とがつながれ飲料水の循環が始まる。
図7は、実施例1のディスペンサの第二の三口弁の構造図である。第一の三口弁は加熱殺菌処理を始める場合に、ボールの軸を基準位置から時計回り又は反時計回りに180度回転させる必要がある。その途中60度回転させたところで注水口に接続された口と冷水用配管系統または温水用配管系統が接続された口とが接続され、注水口から水が不必要に漏れ出てしまう。第二の三口弁はこれを改善したものである。
第二の三口弁は、シリンダ状本体0701と、ピストン状弁0702と、軸0703と取っ手0704とからなる。シリンダ状本体は、円柱形の外形を有する。シリンダ状本体の円柱側面には円柱底面と平行な同一平面上で相互に120度の角度をもつ三つの口が設けられる。図7の下図は円柱の中心線と注水口に接続された口の中心点を含む平面における第二の三口弁の縦断面図である。図7の上図は下図で一点破線で示された円柱底面と平行な平面における第二の三口弁の横断面図である。シリンダ状本体は内部に円柱形の空洞を有し、空洞には同じく円柱形のピストン状弁が収納される。ピストン状弁の円柱側面外壁はシリンダ状本体内部の空洞内壁と密着しており水はその密着面に侵入できない。ピストン状弁の円柱の高さはシリンダ状本体内部の空洞の高さよりも低くなっており、ピストン状弁は上下に移動することができる。ピストン状弁が上下に移動する際に内部の空気が邪魔にならないようにシリンダ状本体の天井部と床部には空気穴0705が設けられる。ピストン状弁は、シリンダ状本体内の空洞最下部に配置した状態において、シリンダ状本体に設けられた三つの口のうち二を選んで通水できるように円柱中心線から120度の角度を持つ二つの穴で接続された第一の通水腔0706を有する。また、ピストン状弁は、シリンダ状本体内の空洞最上部に配置した状態において、シリンダ状本体に設けられた冷水用配管系統を接続された口と温水用配管系統を接続された口の間で通水できるように円柱中心線から120度の角度を持つ二つの穴で接続された第二の通水腔0707を有する。上図にあるとおり、ふたつの通水腔は平面図において円柱の中心を中心とした点対称の位置に形成される。なお、ふたつの通水腔は連絡腔0710でピストン状弁内部において相互に接続されている。これは、長期にわたって加熱殺菌処理を行わない場合に第二の通水腔に滞留した飲料水に雑菌が繁殖することを防ぐためである。
ピストン状弁の上部には円柱の中心線上に軸が固定され軸はシリンダ状本体天井部中心に開けられた穴を通して外部に突出している。軸先端部には取っ手が固定されている。取っ手を時計回りまたは反時計回りに回転させることによりピストン状弁はシリンダ状本体内部で回転することができる。また、取っ手を上下に動かすことでピストン状弁はシリンダ状本体内部で上下に移動する。
図7におけるピストン状弁の位置を第二の三口弁における「基準位置」とする。基準位置から軸を時計回りまたは反時計回りに60度回転させると、冷水または温水を注出することができる。また、基準位置から軸は回転させないでピストン状弁を上に持ち上げると飲料水を循環させることができる。シリンダ状本体内壁には爪0708が取り付けられ、ピストン状弁外壁にはそれに合わせて縦に溝0709がほられている。この爪と溝により軸は基準位置と異なる角度の状態では上に持ち上がらない造りとなっている。図8は、第二の三口弁において取っ手が引き上げられたときの状態図である。ピストン状弁0801が持ち上げられて冷水用配管系統に接続された口と温水用配管系統に接続された口(断面図のため図には表れていない)とが第二の通水腔0802により接続されている状態を表している。この状態で飲料水はディスペンサ内部において循環を始める。なお、シリンダ状本体の空洞内壁に設けられた爪0803がピストン状弁に掘られた溝0804に納まっている。
図6から図8を用いて説明した二つの三口弁は図1ないし図4で説明した三口弁の機能を実現するための手段の例にすぎない。本発明の核心は、三つの口から任意の一を選択して飲料水を通過させる機能を持った三口弁をディスペンサに応用することで対流現象という自然法則を利用した簡易な加熱殺菌が可能となることを見出した点にある。したがって、上記のような三口弁の機能がどのような構造で実現されるかは本質的な問題ではないし、上記と同様な三口弁の機能を前記の例と異なった構造にて実現することは当業者にとって容易なことである。したがって、上記機能を有する弁であれば全て本発明の三口弁としてよい。
「注水口」は、「前記三口弁の三つの口の一に接続され、飲料水を注出する。」注水口は単に三口弁の一の口から出てくる飲料水を注ぎ出すにすぎないものであるから、短い管程度のものでも十分であり、三口弁と一体的に構成されていても構わない。
「冷水用配管系統」は、「前記取水口と前記三口弁の残る二の口のうち一との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に冷却機を備えた冷水タンクを有する配管系統である。」
冷水用配管系統は既に図1をもって説明した通り、その一方の端が取水口に接続され、他方の端が三口弁のひとつの口に接続されている。そして、温水用配管系統は同様にその一方の端が取水口に接続され、他方が三口弁のもうひとつの口に接続されている。したがって、冷水用配管系統は一方の端において取水口を介して飲料水の供給元の他に温水用配管系統とも接続されているのであり、また、他方の端において三口弁を介して注水口の他に温水用配管系統とも接続されている。つまり、冷水用配管系統と温水用配管系統は取水口及び三口弁を介して環状に接続されている。そして、対流現象を利用した加熱殺菌処理はこのような環状構造の配管系統を利用して行われる。
「冷水タンク」は冷水を貯蔵する容器である。図1ないし図4の冷水タンクは密閉され、その上部と下部に配管が接続されている。しかし、冷水タンクは必ずしも密閉されている必要はない。蓋のない鍋のように上部が開口したものであってもよい。すなわち、取水口において利用したものと同じ原理を利用して飲料水が必要以上に落下してこない構成にすれば、冷水タンクから飲料水が溢れ出ることはない。また、そのような構成をとっても飲料水を循環させるための妨げとはならない。これは、「温水用配管系統」の有する「温水タンク」においても同様である。
冷水用配管系統は、「その配管系統中に」冷水タンクを有するが、冷水タンクと取水口の間あるいは冷水タンクと三口弁の間に配管がある必要はない。冷水タンクと取水口が直接接続されていてもよいし、冷水タンクと三口弁が直接接続されていてもよい。これは、温水用配管系統の温水タンクにおいても同様である。
「冷却機」は飲料水を冷却するための装置である。典型的な冷却機は、コンプレッサにより圧縮された冷媒を放熱器に送り出し、放熱器内にて放熱させた後にエクスパンジョンバルブにて減圧し、気化器にて周囲から蒸発熱を奪い冷却するというものである。放熱器はディスペンサ本体裏側に外気に触れる形で取り付け、細い管状の気化器を冷水タンク周囲に巻きつけることにより冷水タンクでの飲料水冷却が実現される。しかし、本発明の本質からすれば冷却機の一部又は全部が冷水タンクと構造上一体となっていることを求めるものではなく、例えば、冷水タンク外に設置された冷却装置において冷却した飲料水を冷水タンクに貯蔵するような構成も「冷却機を備えた冷水タンク」に含まれるものとする。
冷却機は冷却機能のオンオフが可能な電源スイッチを備えたものがよい。すなわち、対流現象を利用した加熱殺菌を行う場合には配管系統全体を必要十分に加熱するためその間は冷却機を手動または自動により停止させるのが望ましい。冷却機の電源スイッチを操作する最適例としては、上記三口弁の軸にスイッチを装着し、温水が配管系統内で循環するように弁が操作されたときに上記電源スイッチがオフとなるようにすればよい。
「温水用配管系統」は、「前記取水口と前記三口弁の残る一の口との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に加熱装置を備えた温水タンクを有する配管系統である。」
「温水タンク」は温水を貯蔵する容器である。
「加熱装置」は温水タンクに設置され、温水タンク内の飲料水を加熱する。典型的には、温水タンクの外周に電熱線を巻き、電熱線に電気を流すことにより実現される。この場合も、冷水タンクにおける冷却機同様に、加熱装置の一部又は全部と温水タンクが構造上一体となっていることを求めるものではなく、「加熱装置を備えた温水タンク」には、温水タンクとは離れた場所に設置された加熱装置で暖められた温水を温水タンクで貯蔵する場合も含むものとする。
図1ないし図4において温水タンクと冷水タンクとは同じ高さに描かれているが、同じ高さであることに限定する趣旨ではない。
実施例1のディスペンサは以上のように、三口弁の操作のみで簡単に配管系統の加熱殺菌を行うことができる。前記文献1のディスペンサにおいては、電熱線等のヒータを配管周囲に装着したり、冷水タンクに冷却装置の他にヒータをさらに設置したり、温水を循環させるための循環ポンプを備えた新たな配管系統を設けたりする必要があった。これらは、ディスペンサの通常の機能を発揮するには不要のものであって製造や保守を行うに当たって大きな負担となるものである。これに対し、実施例1のディスペンサは、三口弁を追加的に用いるだけの非常にシンプルな構造により加熱殺菌の処理を可能にした。しかも、注出口を冷水温水兼用とすることにより、もっとも雑菌が繁殖しやすい冷水用注出口の加熱殺菌を可能としている。このように、実施例1のディスペンサは構造がシンプルで製造・保守の負担が少なく、かつ、注水口を含めたすべての部分をもれなく加熱殺菌することが可能なディスペンサである。
以下に、請求項1に記載の第二の発明を、実施例2を用いて説明する。
第二の発明は、水の温度差による対流現象を利用して温水を循環させることにより配管系統の殺菌処理を行うことを特徴とするディスペンサであって、冷水用、温水用にそれぞれ専用の注出バルブを有し、また弁を開いて温水を循環させるための新たな配管系統を有することをもう一つの特徴とするディスペンサ、に関する。
図9は、実施例2におけるディスペンサの構造を表す概略図である。実施例2のディスペンサは、取水口0901、冷水注出バルブ0902、温水注出バルブ0903、冷水用配管系統0904、温水用配管系統0905及び循環用配管系統0906を有する。冷水用配管系統は冷水タンク0907を有し、冷水タンクには冷却機0908が備えられる。また、温水用配管系統は温水タンク0909を有し、温水タンクには加熱装置0910が備えられる。循環用配管系統は開閉弁0911を有する。取水口には飲料水容器0912が接続される。
図9を用いて実施例2のディスペンサにおいて飲料水が流れる経路を説明する。開閉弁は加熱殺菌処理を行わないときには閉じられている。利用者が冷水を注出するときには冷水注出バルブを開く。飲料水容器内部の飲料水は取水口、そして冷水用配管経路を介して冷水タンクに流入し貯蔵される。冷水タンク内で冷却された飲料水は冷水タンク下部の冷水用配管系統を通って冷水注出バルブから注出される。利用者が温水を注出するときには温水注出バルブを開く。飲料水容器内部の飲料水は取水口、そして温水用配管経路を介して温水タンクに流入し貯蔵される。温水タンク内で加熱された飲料水は温水タンク下部の温水用配管系統を通って温水注出バルブから注出される。
対流現象を利用した加熱殺菌処理を行うときには、循環用配管系統中の開閉弁を開く。この間、冷水用注出バルブと温水用注出バルブは閉じられている。温水タンク内の温水は温水タンク上部の温水用配管系統を通って取水口に達し、さらに冷水タンク上部の冷水用配管系統を通って冷水タンクに流入する。一方冷水タンク内の冷水は冷水タンク下部の冷水用配管系統、開閉弁左側の循環用配管系統、開閉弁、開閉弁右側の循環用配管系統、温水タンク下部の温水用配管系統を順次流れて温水タンクに達する。
以下において、第二の発明の各構成要件について詳しく説明する。
第二の発明は、飲料水を取水する取水口と、冷やした飲料水を注出する冷水注出バルブと、加熱した飲料水を注出する温水注出バルブと、前記取水口と前記冷水注出バルブとの間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に冷却機を備えた冷水タンクを有する配管系統である冷水用配管系統と、前記取水口と前記温水注出バルブとの間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に加熱装置を備えた温水タンクを有する配管系統である温水用配管系統と、前記冷水用配管系統の前記冷水注出バルブ側終端と、前記温水用配管系統の前記温水注出バルブ側終端との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に通水の開閉を行うための開閉弁を有する循環用配管系統とを有するディスペンサ、に関する。
「取水口」は第一の発明におけるそれと同様である。
「冷水注出バルブ」は開閉を行うバルブを備えた冷水を注出するための注水口である。
「温水注出バルブ」は開閉を行うバルブを備えた温水を注出するための注水口である。
「冷水用配管系統」は実施例1のそれと異なり、一方が三口弁ではなく冷水用注出バルブに接続され、さらに、冷水用注出バルブ接続部近辺において循環用配管系統にも接続されている。それ以外の点は、実施例1の冷水用配管系統と同様である。
「温水用配管系統」は実施例1のそれと異なり、一方が三口弁ではなく温水用注出バルブに接続され、さらに、温水用注出バルブ接続部近辺において循環用配管系統にも接続されている。それ以外の点は、実施例1の温水用配管系統と同様である。
「循環用配管系統」は、「前記冷水用配管系統の前記冷水注出バルブ側終端と、前記温水用配管系統の前記温水注出バルブ側終端との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に通水の開閉を行うための開閉弁を有する。」循環用配管系統はその一方の端が冷水用配管系統と冷水注出バルブ近辺において接続され、他方の端が温水用配管系統と温水注出バルブ近辺において接続されている。それら接続部はなるべく注出バルブに近いことが望ましい。対流現象で温水が循環するときに温水が届かない場所をなるべく少なくするためである。
「開閉弁」は通水の開閉を行う弁である。開閉は手動により行うものでもよいし、電磁力を利用した電磁弁であってもよい。
図9において温水タンクと冷水タンクとは同じ高さに描かれているが、同じ高さであることに限定する趣旨ではない。
実施例2のディスペンサは以上のように、開閉弁の操作のみで簡単に配管系統の加熱殺菌を行うことができる。前記文献1のディスペンサにおいては、電熱線等のヒータを配管周囲に装着したり、冷水タンクに冷却装置の他にヒータをさらに設置したり、温水を循環させるための循環ポンプを備えた配管系統を設けたりする必要があった。これらは、ディスペンサの通常の機能を発揮するには不要のものであって製造や保守を行うに当たって大きな負担となるものである。これに対し、実施例2のディスペンサは、開閉弁を備えた配管系統を追加的に用いるだけのシンプルな構造により加熱殺菌の処理を可能にした。
以下に、請求項3に記載の第三の発明を、実施例3を用いて説明する。
第三の発明は、水の温度差による対流現象を利用して温水を循環させることにより配管系統の殺菌処理を行うことを特徴とするディスペンサであって、ひとつの選択式注出バルブと、弁を開いて温水を循環させるための新たな配管系統とを有することをもう一つの特徴とするディスペンサ、に関する。
図10は、実施例3におけるディスペンサの構造の概略図である。実施例3のディスペンサは、取水口1001、選択式注出バルブ1002、冷水用配管系統1003、温水用配管系統1004及び循環用配管系統1005を有する。冷水用配管系統は冷水タンク1006を有し、冷水タンクには冷却機1007が備えられる。また、温水用配管系統は温水タンク1008を有し、温水タンクには加熱装置1009が備えられる。循環用配管系統は開閉弁1010を有する。取水口には飲料水容器1011が接続される。
図10を用いて実施例3のディスペンサにおいて飲料水が流れる経路を説明する。開閉弁は加熱殺菌処理を行わないときには閉じられている。利用者が冷水を注出するときには選択式注出バルブで冷水用配管系統側の弁を開く。飲料水容器内部の飲料水は取水口、そして冷水用配管経路を介して冷水タンクに流入し貯蔵される。冷水タンク内で冷却された飲料水は冷水タンク下部の冷水用配管系統を通って選択式注出バルブから注出される。利用者が温水を注出するときには選択式注出バルブで温水用配管系統側の弁を開く。飲料水容器内部の飲料水は取水口、そして温水用配管経路を介して温水タンクに流入し貯蔵される。温水タンク内で加熱された飲料水は温水タンク下部の温水用配管系統を通って選択式注出バルブから注出される。
対流現象を利用した加熱殺菌処理を行うときには、循環用配管系統中の開閉弁を開く。この間、選択式注出バルブは閉じられている。温水タンク内の温水は温水タンク上部の温水用配管系統を通って取水口に達し、さらに冷水タンク上部の冷水用配管系統を通って冷水タンクに流入する。一方冷水タンク内の冷水は冷水タンク下部の冷水用配管系統、開閉弁左側の循環用配管系統、開閉弁、開閉弁右側の循環用配管系統、温水タンク下部の温水用配管系統を順次流れて温水タンクに達する。
以下において、第三の発明の各構成要件について詳しく説明する。
第三の発明は、飲料水を取水する取水口と、二つの取入口を有し、二つの取入口のなかから一を選んで飲用水を取水して注ぎ口から注水する選択式注出バルブと、前記取水口と前記選択式注出バルブの二つの取入口の一との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に冷却機を備えた冷水タンクを有する配管系統である冷水用配管系統と、前記取水口と前記選択式注出バルブの残る取入口との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に加熱装置を備えた温水タンクを有する配管系統である温水用配管系統と、前記冷水用配管系統の前記選択式注出バルブ側終端と、前記温水用配管系統の前記選択式注出バルブ側終端との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に通水の開閉を行うための開閉弁を有する循環用配管系統とを有するディスペンサ、に関する。
「取水口」は第一の発明におけるそれと同様である。
「選択式注出バルブ」は「二つの取入口を有し、二つの取入口のなかから一を選んで飲用水を取水して注ぎ口から注水する。」このようなバルブは冷水と温水を選択的に注出する水道栓として広く普及しているものである。
「冷水用配管系統」は実施例1のそれと異なり、一方が三口弁ではなく選択式注出バルブに接続され、さらに、選択式注出バルブ接続部近辺において循環用配管系統にも接続されている。それ以外の点は、実施例1の冷水用配管系統と同様である。
「温水用配管系統」は実施例1のそれと異なり、一方が三口弁ではなく選択式注出バルブに接続され、さらに、選択式注出バルブ接続部近辺において循環用配管系統にも接続されている。それ以外の点は、実施例1の温水用配管系統と同様である。
「循環用配管系統」は、「前記冷水用配管系統の前記選択式注出バルブ側終端と、前記温水用配管系統の前記選択式注出バルブ側終端との間において飲料水が通過する配管系統であって、その配管系統中に通水の開閉を行うための開閉弁を有する。」循環用配管系統はその一方の端が冷水用配管系統と選択式注出バルブ近辺において接続され、他方の端が温水用配管系統と選択式注出バルブ近辺において接続されている。それら接続部はなるべく選択式注出バルブに近いことが望ましい。対流現象で温水が循環するときに温水が届かない場所をなるべく少なくするためである。
「開閉弁」は実施例2の開閉弁と同様である。なお、上記選択式注出バルブと本開閉弁は一体として形成されていても構わない。その場合、一体として形成されたものの内部において選択式注出バルブと開閉弁を接続する通路については、冷水用配管系統または温水用配管系統の一部とみなすこととする。
図10において温水タンクと冷水タンクとは同じ高さに描かれているが、同じ高さであることに限定する趣旨ではない。
実施例3のディスペンサは以上のように、開閉弁の操作のみで簡単に配管系統の加熱殺菌を行うことができる。実施例3のディスペンサは、循環用配管系統を追加的に用いるだけの非常にシンプルな構造により加熱殺菌の処理を可能にした。実施例3のディスペンサは、製造においても保守においても負担が軽微なディスペンサである。しかも、注出口を冷水温水兼用とすることにより、もっとも雑菌が繁殖しやすい冷水用注出口の加熱殺菌を可能としている。
以下に、請求項4に記載の第四の発明を、実施例4を用いて説明する。第四の発明は、第一ないし第三の三つの発明をその上位の発明とするが、実施例4はそのうち第一の発明を上位とする第四の発明に関する。
第四の発明は、第一ないし第三の発明の一の発明に係るディスペンサであって、温水タンクを冷水タンクよりも下に配置させることにより対流現象を利用した加熱殺菌処理をさらに効率的に実施可能なディスペンサ、に関する。
図11は、実施例4のディスペンサの構成を表す概略図である。実施例4のディスペンサにおける温水タンクは冷水タンクの真下に配置されている点のみが実施例1と異なり、構成要素とそれらの接続関係は実施例1と同様である。
第四の発明において新たに加えられた構成要件について説明する。
第四の発明は、上記冷水タンク中の飲料水の重心が上記温水タンク中の飲料水の重心よりも上になるように上記冷水タンク及び上記温水タンクが設置されることを特徴とする請求項1ないし3に記載のディスペンサ、に関する。
「重心」とは、質量のある物質が分布しているときの中心となる点でありそれら質量が釣り合う点である。
「上になる」とは、高度が高くなることをいい、必ずしも真上である必要はなく、斜め上であってもよい。
第四の発明におけるディスペンサは温水タンクを冷水タンクの下に配置することによりさらに効率よく温水を循環させることができる。すなわち、加熱殺菌処理が始まる時点においては温水タンク内で温められて軽くなった飲料水と冷水タンク内で冷やされて重くなった飲料水の高度差が大きいために、飲料水の循環が速やかに始まる。
以下に、請求項5に記載の第五の発明を、実施例5を用いて説明する。
第五の発明は、第一の発明のディスペンサであって、対流現象を利用した加熱殺菌処理を自動的に行うことのできるディスペンサ、に関する。
第五の発明は、上記三口弁の三つの口のうち、冷水用配管系統に接続された口と温水用配管系統に接続された口の間における開閉を所定の条件に従って自動的に行う自動開閉装置を有することを特徴とする請求項1に記載のディスペンサ、に関する。
図12は、実施例5における自動開閉装置のハードウェア構成図である。自動開閉装置は三口弁1201に接続されて弁の開閉状態を検知しその開閉を行う駆動検出部1202と、駆動検出部に電力を供給するとともに駆動検出部を電子的に制御する制御部1203と、所定の条件に従って制御部に指令を与える司令部1204と、所定の条件を取得する条件取得部1205を有する。駆動検出部は一般的にはサーボモータが使われる。司令部は、各種演算処理を行うCPU1206と、プログラムやデータを保持するためのROMなどの外部記憶装置1207と、プログラムやデータを一時的に記憶して保持するメモリ1208と、時間を管理するためのタイマー1209とを備えている。また、司令部は制御部や条件取得部と通信を行うための通信インタフェイス1210も備えている。そしてそれらがデータ通信経路であるシステムバス1211によって相互に接続され、情報の送受信や処理を行う。外部記憶装置に保持されたプログラムは必要に応じてメモリに読みだされ、CPUは当該プログラムをメモリに参照することで各種演算処理を実行する。プログラムとは各種演算処理や検索処理を行うためにCPUを含むハードウェアを動作させるための一連の命令文である。また、このメモリにはそれぞれ複数のアドレスが割り当てられており、CPUの演算処理においては、そのアドレスを特定し格納されているデータにアクセスすることで、データを用いた演算処理を行うことが可能になっている。このような、駆動検出部、制御部、司令部からなるサーボ機構を使った制御は当業者においてはひろく知られたものである。
「所定の条件」とは対流現象を利用してディスペンサの加熱殺菌処理を行うための条件を言い、弁を開く時刻、弁を開いてから閉じるまでの時間に関する。条件取得部はこれらの条件の入力を受け付ける。典型的には小型の液晶画面と数個の入力用ボタンからなる入力端末であり、液晶画面上で移動するカーソルに従ってボタンを操作しながら時間等を入力する。このような電子部品は各種家電において広汎に応用されており当業者においては容易に実施可能なものである。
図13は、実施例5の自動開閉装置により行われる加熱殺菌処理の流れを表すフロー図である。本段落において「弁が開いている」とは、三口弁の三つの口のうち、冷水用配管系統に接続された口と温水用配管系統に接続された口の間において通水可能な状態をいい、それ以外の場合を閉じているという。まず、条件取得部が加熱殺菌処理開始時刻及び処理時間を含む所定の条件を取得する(ステップS1301)。司令部はそれを外部記憶装置に記録する(ステップS1302)。司令部は外部記憶装置から読み込んだ加熱殺菌処理開始時刻をタイマーから取得した現在時刻と比較することにより加熱殺菌処理開始時刻の到来を常時監視する(ステップS1303)。司令部は、加熱殺菌処理開始時刻が到来すると制御部に対して三口弁を開くよう命ずる(ステップS1304)。制御部は、駆動検出部を制御して弁を開く(ステップS1305)。次に、司令部は、加熱殺菌処理開始から実際に経過した時間が外部記憶装置から読み込んだ処理時間に達したかどうかを常時監視する(ステップS1306)。司令部は処理時間が経過したと判断した時は制御部に対して弁を閉じるよう命ずる(ステップS1307)。制御部は駆動検出部を制御して弁を閉じる(ステップS1308)。なお、ここではディスペンサはすでに使用状態にあり温水タンク内の温水は温められた状態にあると仮定している。また、加熱殺菌処理を行っている間は、冷却機を停止することが望ましいが、実施例5においては、三口弁を閉じたときには三口弁の軸に装着されたスイッチにより冷却機による冷却が自動的に停止される構成としたため、上記手順には含めなかった。
このようにCPUやタイマーなどの装置を組み込むことにより、予約による加熱殺菌処理の自動稼働を行うことができる。
以下に、請求項6に記載の第六の発明を、実施例6を用いて説明する。
第六の発明は、第二または第三の発明のディスペンサであって、対流現象を利用した加熱殺菌処理を自動的に行うことのできるディスペンサ、に関する。
第六の発明は、上記開閉弁の開閉を所定の条件に従って自動的に行う自動開閉装置を有することを特徴とする請求項2または3に記載のディスペンサ、に関する。
実施例6の自動開閉装置は実施例5のそれと同様である。ただし、実施例6の自動開閉装置により操作する対象は三口弁ではなく開閉弁である。実施例6の自動開閉装置のハードウェア構成や加熱殺菌処理の実施手順も実施例5と同様であるので説明を省略する。
以下に、請求項7に記載の第七の発明を、実施例7を用いて説明する。
第七の発明は、第一ないし第三の発明のディスペンサであって、対流現象を利用するのではなく循環ポンプを用いて強制的に温水を循環させることを特徴とするディスペンサ、に関する。
第七の発明は、配管系統中に循環ポンプを有することを特徴とする請求項1ないし3に記載のディスペンサ、に関する。
「配管系統」とは、第一の発明に従属する第七の発明にあっては、冷水用配管系統及び温水用配管系統を、第二又は第三の発明に従属する第七の発明にあっては、冷水用配管系統、温水用配管系統及び循環用配管系統を指す。「循環ポンプ」は温水による加熱殺菌処理時に飲料水を強制的に循環させるためのポンプである。循環ポンプは電源スイッチにより起動と停止がおこなわれる。電源スイッチは、第一の発明に従属する第七の発明にあっては三口弁に、第二又は第三の発明に従属する第七の発明にあっては開閉弁に装着することにより、これら弁の開閉に合わせて循環ポンプの起動及び停止を行わせるとよい。
循環ポンプの設置場所は、第二又は第三の発明に従属する第七の発明にあっては、循環用配管系統中とするのがよい。冷水または温水の注出時において循環ポンプが飲料水の流れの邪魔とならないようにするためである。第一の発明に従属する第七の発明にあっては、循環ポンプは冷水用配管系統、温水用配管系統のいずれかに装着されるが、飲料水注出時において飲料水の流れの妨げとならないようなポンプを用いる。
第七の発明のディスペンサは第一ないし第三の発明のディスペンサよりも構造はやや複雑となるが強制的な温水の循環により加熱殺菌処理時間の短縮を可能とするものである。
以下に、請求項8に記載の第八の発明を、実施例8を用いて説明する。
第八の発明は、第五又は第六の発明のディスペンサであって、自動的な加熱殺菌処理が循環ポンプによる温水の強制的な循環により行われることを特徴とするディスペンサ、に関する。
第八の発明は、配管系統中に循環ポンプを有し、前記自動開閉装置は循環ポンプの制御をおこなうことを特徴とする請求項5または6に記載のディスペンサ、に関する。
前記自動開閉装置における制御部は駆動検出部を制御すると同時に循環ポンプも制御する。すなわち、弁を解放するとともに循環ポンプを起動し、弁を閉じるとともに循環ポンプを停止させる。
第八の発明のディスペンサは第五又は第六の発明のディスペンサよりも構造はやや複雑となるが強制的な温水の循環により加熱殺菌処理時間の短縮を可能とするものである。
以下に、請求項9に記載の第九の発明を、実施例9を用いて説明する。
第九の発明は、冷水用の注出バルブと温水用の注出バルブを有するディスペンサにおいて、両バルブを配管で接続して行う加熱殺菌方法に関する。
第九の発明は、飲料水を取水する取水口と、冷やした飲料水を注出する冷水注出バルブと、加熱した飲料水を注出する温水注出バルブと、前記取水口と前記冷水注出バルブとの間において飲料水が通過する配管系統であってその配管系統中に冷水タンクを有する配管系統である冷水用配管系統と、前記取水口と前記温水注出バルブとの間において飲料水が通過する配管系統であってその配管系統中に加熱装置を備えた温水タンクを有する配管系統である温水用配管系統とを有するディスペンサを加熱殺菌する方法であって、温水タンク内の飲料水を加熱装置により温める第一ステップと、前記冷水注出バルブと前記温水注出バルブとを配管で接続する第二ステップと、前記冷水注出バルブ及び前記温水注出バルブの両バルブを開放する第三ステップからなるディスペンサ加熱殺菌方法、に関する。
図14は、実施例9の加熱殺菌方法における飲料水の経路図である。実施例9における加熱殺菌方法により加熱殺菌が可能なディスペンサは、循環用配管系統を有さない点及び冷却機を必ずしも有さない点を除き実施例2のディスペンサと同様である。すなわち、冷水注出用、温水注出用にそれぞれ専用の注出バルブを有する。このようなディスペンサの構造は非常に一般的なものである。図14では、ディスペンサの冷水注出バルブ1401の口と温水注出バルブ1402の口が着脱可能な配管1403により中継されている。
図15は、実施例9で「着脱可能な配管」をディスペンサに装着後バルブを解放して飲料水を循環させるときの注水バルブ近辺の図である。第一ステップにおいてまず温水タンク内の飲料水が加熱装置により温められる。このステップはディスペンサの電源コードをコンセントに接続したり、ディスペンサの電源スイッチを投入したりするなどの方法により開始される。次に、第二ステップにおいて冷水注出バルブ1501と温水注出バルブ1502とを配管により接続する。「配管」は、ここではゴムホース1503である。ゴムホースは、飲料水が接続部から漏出しないようにその内径が注水口の外径よりも若干小さいものを選択するとよい。最後に、第三ステップにおいて冷水注出バルブと温水注出バルブの両方のバルブが解放される。通常のディスペンサの注出バルブのバルブは注水後に注水用取っ手から手を離すとばねの力で自動的に弁が閉じられる構造のものが多い。そのような場合には図15のように注水用取っ手1504が元に戻らないように輪ゴム1505をかけて固定するなどするとよい。なお、冷却機を有するディスペンサにおいては、第三ステップの後に冷却機の動作を停止させれば加熱殺菌の効率を向上させることができる。
第九の発明のディスペンサ加熱殺菌方法は、以上のような身近な道具を用いるだけで特別な装置を要せずして簡易にディスペンサの加熱殺菌を行うことのできるものである。またこの方法によれば、外気に常時触れ雑菌が繁殖しやすい冷水注出バルブも含めて加熱殺菌することができる点において優れた加熱殺菌方法である。
最後に、第一ないし第八の発明に係るディスペンサ又は第九の加熱殺菌方法における加熱殺菌処理が有効であることを確認するため、実施例9の加熱殺菌方法を用いて以下のような試験を行った。
ここで、試験に使用したディスペンサは次のようなものである。(1)実施例9において加熱殺菌方法の対象としたディスペンサを使用した。すなわち、冷水注出用、温水注出用それぞれに専用の注出バルブをもったディスペンサである。(2)12Lボトルを1か月に4本ほど消費する標準的な使用条件で1ヶ月間使用されている。(3)ディスペンサの使用開始時においては冷水用注出口から取水する冷水で検出される一般細菌数が1500以上である。(4)使用水は、着脱可能な飲料水容器によるミネラルウォーターで、飲料水容器内の飲料水の細菌数は検出されないか30以下である。 (5)ディスペンサは、直射日光の当たらない場所で一般的な事務所や家庭の居間と同様な環境に設置されるものとする。(6)ディスペンサは、冷却機のみの電源を切断するための専用のスイッチを有する。
試験の具体的な手順は以下のとおりである。(1)コンプレッサの電源をオフにして冷水の生成を止める。このとき、温水タンクの加熱機能はそのままとする。(2) 図15と同様に温水蛇口と冷水蛇口をホースでつなぐとともに、それぞれの蛇口を開放にして、温水冷水が自由に循環できるようにする(温水循環殺菌の開始)。(3)温水循環殺菌開始後、0分、15分、30分、45分、60分、90分、120分、150分、180分の各時間経過時に冷水蛇口から取水し、温度を記録する。(4)温水循環殺菌開始後180分経過した時点で、開放していた蛇口を閉じてホースを取り外し、コンプレッサの電源を入れて、通常の使用状態に戻す。(5)同一の試験を2台のウォーターサーバーA及びBで行う。(6)前記(3)にて採取した飲料水1ミリリットルを標準寒天培地にて35±1℃で48時間培養しコロニー数を計測した。
以下に試験の結果を表す。表中の温度は摂氏による。また、表中の菌数は前記手順(6)にて計測した一般細菌のコロニー数を表す。ミネラルウォーター類の製造基準(S34.12.28食品、添加物の規格基準 厚生省告示第370号)では、標準寒天培地法で1ミリリットルあたり100個以内としているが、本試験においては循環殺菌開始から1時間で細菌がほぼゼロにまで減少しており、十分な殺菌効果が確認できた。
検査開始日 2009年9月14日