一般に光学設計において、光学レンズ等の光学素子に一定値以上の屈折率分布が生じてしまうと、所望の光学特性を得ることができないため、収差補正を実現することができない。そのため、従来は長時間かけて熱処理を行い、屈折率分布が極力小さい光学素子を製造していた。光軸に対して非軸対称の屈折率分布が生ずると、屈折率分布に応じて形状補正することは、実質的に不可能であり、収差補正を実現することができない。しかしながら、屈折率分布のなかでも光軸に対して軸対称の屈折率分布であれば、光学素子の表面形状の補正により収差補正を実現することが可能となる。また複数の光学レンズを使用した光学系の場合、あらかじめ光学系全体の設計を、光軸に対して軸対称の屈折率分布を考慮して行うことも可能である。
前述したように屈折率分布が発生する主たる要因は、熱処理中の光学レンズ成形品の各部分における温度プロファイルの差である。従って、光学レンズを冷却する際、光軸に対して軸対称の温度分布が小さければ、光軸に対して非軸対称の温度分布は発生しても構わない。
光軸に対して軸対称の屈折率分布の許容できる範囲は、光学素子の外径や肉厚によって異なる。たとえば、外径がφ15mm、中心肉厚が1.0mmである場合、光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値が10×10−5以下であれば光学素子の形状による補正が可能となる。一般に使用される光学素子の場合、光軸に対して軸対称の温度分布の最大値が5℃以内であれば、収差の補正が可能である。また、光軸に対して軸対称および非軸対称の屈折率分布の最大値が100×10−5以下であれば、光学素子として問題とならない。
なお、ここで言う光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値とは、熱処理が完了した光学素子の中心から同一半径の円上における最大屈折率と最小屈折率との差の最大値である。また光学素子の非軸対称の屈折率分布の最大値は、光学素子の中心における屈折率と、光学素子の最外周における屈折率との差の最大値である。また光軸に対して軸対称の温度分布の最大値とは、熱処理中における光学レンズ成形品の中心から同一半径の円上における最大温度と最小温度との差の最大値である。また光学レンズ成形品の非軸対称の温度分布の最大値は、光学レンズの中心における温度と、光学レンズ成形品の最外周における温度との差の最大値である。
[第1実施形態]
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光学素子の製造方法における成型工程にて用いる成形装置を示す模式図である。まずガラスモールドレンズのプレス成形による成形工程について説明する。
成形装置50は、光学機能面を成形する為の成形面を有する上型51及び下型52、並びに側面を形成する側面型53を備えている。また、成形装置50は、上型51,下型52と側面型53を挟持するように構成された胴型54を備えている。これら上型51、下型52、側面型53、胴型54はそれぞれ不図示の加熱用ヒーターにより独立して温度制御している。そして上型51及び下型52を摺動、押圧させるための不図示の駆動手段、例えば油圧や気圧によるピストン・シリンダ機構あるいは電動モータ駆動機構が、プレス軸を介して上型51及び下型52に連結されている。つまり、上型51及び下型52によりプレス成形が行われる。上型51、下型52、側面型53、胴型54には、不図示の冷却手段としてN2が、導入管を通して冷却時に吹き付けられている。
この成形装置50を用いて以下のように成形工程を行う。まず成形素材であるガラス素材(ガラスブランク)をハンドリング装置により下型52上に載置する。その後上型51、下型52、側面型53、胴型54をそれぞれ加熱手段によりガラス素材が転移点以上の粘度108〜12dPa・s(CGS単位では「poise」)となる温度に加熱する。そして下型52に載置されたガラス素材が転移点以上の粘度108〜12dPa・sとなる温度に加熱された後(つまりガラス素材が加熱軟化した後)、上型51及び下型52を駆動手段により互いに接近させる方向に移動し押圧成形(プレス成形)する。その後冷却手段により上型51、下型52、側面型53、胴型54及び光学ガラス成形品Wをガラス転移点温度以下に冷却し、上型51及び下型52を型開きした後、下型52上から光学ガラス成形品Wを取り出す。本実施形態では、光学ガラス成形品Wは、光軸を中心軸とする軸対称形状に形成されたものであり、例えばガラスモールドレンズとしての凹メニスカスレンズである。
次に本実施の形態の熱処理工程について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る光学素子の製造方法における熱処理工程にて用いる加熱装置を示す模式図である。図2(a)は、加熱装置を上面から見た模式図であり、図2(b)は、加熱装置を側面から見た模式図である。
本実施形態では、加熱装置100は、温度調整器付きの電気炉である。この加熱装置100は、マッフル101と、マッフル101の内部(炉内)に配置された炉内支持部材102と、炉内を開放又は閉塞する扉103とを備えている。マッフル101の外部(炉外)には、炉外支持部材104が配置されている。
光学ガラス成形品Wであるガラスモールドレンズは、レンズ保持具(保持具)105に載置される。レンズ保持具105は、炉内支持部材102及び炉外支持部材104のそれぞれに載置可能に構成されている。レンズ保持具105は、中心軸を中心に軸対称形状に形成されており、本実施形態では、円盤形状に形成されている。
図1に示した成形装置50によりプレス成形された光学ガラス成形品Wを、加熱装置100に搬入して熱処理を行うが、この熱処理時を、図2,図3の加熱装置の模式図及び図4の熱処理工程及び冷却工程を示すプロセス線図を参照しながら説明する。
まず、熱処理工程において、図2に示すように、光学ガラス成形品Wを1個、大気解放位置にある軸対称な円盤形状のレンズ保持具105上の中央に、不図示のレンズ搬送手段で載置する。具体的には、レンズ保持具105の中心軸と光学ガラス成形品Wの中心軸とが一致するように、光学ガラス成形品Wがレンズ保持具105上に載置される。このように、上型51及び下型52から取り出した光学ガラス成形品Wはレンズ保持具105に保持される。
その後、図3(a)に示すように、加熱装置100の扉103を開け、光学ガラス成形品Wをレンズ保持具105と一緒に炉内支持部材102上に、不図示のレンズ保持具搬送手段で移送する。この時、加熱装置100のマッフル101内の雰囲気は、大気である。
このように加熱装置100に光学ガラス成形品Wを搬入した後、図3(b)に示すように、加熱装置100の扉103を閉める。レンズ保持具105と共に光学ガラス成形品Wを図4の昇温時間、本実施形態では5分間保持し、光学ガラス成形品Wの温度を、熱処理温度であるガラス粘度が1013dPa・s以上、1014.5dPa・s以下となる温度まで光学ガラス成形品Wを昇温する。つまり、図4に示す歪点温度以上、徐冷点温度以下の温度に光学ガラス成形品Wを加熱(昇温)する。そして光学ガラス成形品Wのガラス粘度を1013dPa・s以上1014.5dPa・s以下となる温度の状態で引き続き光学ガラス成形品Wとレンズ保持具105を図4の保持時間、本実施形態では10分程度、加熱装置100のマッフル101内に保持する。
その熱処理工程後、光学ガラス成形品Wを、レンズ保持具105に載置させたまま、図3(c)に示すように、加熱装置100のマッフル101外の大気解放位置に設置された炉外支持部材104上に、不図示のレンズ保持具搬送手段で移送する。
そして図4の冷却速度(50℃/分以上400℃/分以下)で、光学ガラス成形品Wのガラス粘度が1020dPa・s以上となる温度まで冷却する(冷却工程)。ガラス粘度が1020dPa・sになる温度まで冷却後、不図示の急冷手段、例えば室温に保持された冷却ブロック上に、光学ガラス成形品Wを、レンズ保持具105に載置させたまま移送する。これにより、光学ガラス成形品を不図示の搬送手段で搬送する際にワレ等が起こらない温度、本実施の形態では100℃以下までに400℃/分以上の冷却速度で冷却する。その後不図示の搬送手段にてレンズ保持具より光学ガラス成形品を取り出す。これにより、ガラス製の光学素子が得られる。ただしこの急冷工程は必須では無く、炉外支持部材104上に、光学ガラス成形品Wをレンズ保持具105に載置させたまま引き続き50℃/分以上400℃/分以下の冷却速度で冷却してもよい。そして、光学ガラス成形品を不図示の搬送手段で搬送する際にワレ等が起こらない温度、本実施の形態では100℃以下までに400℃/分以上の冷却速度で冷却しても良い。
本実施形態における冷却工程では、光学ガラス成形品Wを加熱装置100の外部に搬出して空冷している。これにより、50℃/分以上400℃/分以下の冷却速度で光学ガラス成形品Wを冷却している。なお、冷却方法としては、外気とは別の冷却ガス等で冷却してもよいし、送風機で送風するようにしてもよいが、空冷による自然冷却が最も簡単で効果的である。つまり、本実施形態では、熱処理工程後、光学ガラス成形品Wを、直ちに加熱装置100の外部に搬出して、急速に空冷させるものである。
この時、炉外支持部材104は、レンズ保持具105と軸対称部分で線接触しており、炉外支持部材104からの熱流のコンダクタンスは軸対称且つ最少となっている。そのため、光学ガラス成形品Wから出ていく熱流のコンダクタンスは、レンズ保持具105の形状や、光学ガラス成形品Wの置き位置でほぼ決まる。つまり、レンズ保持具105は、冷却工程において光学ガラス成形品Wから出ていく熱流のコンダクタンスが光学ガラス成形品Wの中心軸に対して軸対称となるように光学ガラス成形品Wを保持しているものである。
本実施形態では、レンズ保持具105は、軸対称形状である円盤形状に形成されており、冷却工程においてレンズ保持具105の中心軸と光学ガラス成形品Wの中心軸とが一致するように光学ガラス成形品Wを保持している。これにより、光学ガラス成形品Wからの熱流のコンダクタンスは、光学ガラス成形品W1個に対して軸対称となる。こうすることにより、光学ガラス成形品Wは、光軸に対して軸対称の温度分布の最大値が0℃以上5℃以内の温度分布となる。
したがって、光学ガラス成形品Wを急冷しても、軸対称の温度分布の最大値を0℃以上5℃以内の範囲に抑えることができるので、屈折率分布の軸対称成分が均一となり、収差が要求値を満たすレンズ(光学素子)を得ることができる。
以上、本実施形態では、冷却工程の大幅なサイクルタイム短縮が可能となる。その結果、熱処理工程前の仕掛品が少なくなり、成形工程後の光学ガラス成形品Wの熱処理個数が少なくなり、熱処理炉が小型化できる。また成形工程と熱処理工程と間の光学ガラス成形品Wの搬送、載置をロボットで行うことによって人員削減を行う場合、搬送、載置を行うロボットの小型化、単純化することができ、コストダウンが見込める。
[第2実施形態]
次に、上記第1実施形態とは別の熱処理方法について説明する。本第2実施形態では、光学ガラス成形品を、プレス成形された凹メニスカスレンズとして説明する。以下、光学ガラス成形品Wの熱処理方法について以下に示す。
まず、硝材をプレス成形して得られた図1に示すような凹メニスカスレンズとしての光学ガラス成形品W1を、図5(a)に示すレンズ保持具1051に1個、不図示の大気解放位置において不図示のレンズ搬送手段で中央に載置する。その後、レンズ保持具1051を不図示の保持具搬送手段で、搬送装置であるベルトコンベア200のベルト201に形成された加熱装置100A外にある円形メッシュ穴202に移送する。加熱装置100Aには、入口と出口が形成されており、ベルト201は、入口及び出口を貫通するように配置されており、ベルト201を移動させることで、光学ガラス成形品W1を加熱装置100Aに搬入でき、加熱装置100Aから搬出することができる。
その後、ベルト201を、レンズ保持具1051が加熱装置100A内に入る搬送方向に移動させ、図5(b)に示すように、加熱装置100A内に光学ガラス成形品W1を載置したレンズ保持具1051を移送する。この時、加熱装置100A内の雰囲気は大気であり、温度は600℃±2℃以内に保持されている。そしてベルト201を停止させ、光学ガラス成形品W1をレンズ保持具1051と共に5分間保持し、光学ガラス成形品W1の温度を熱処理温度600℃まで加熱する。そしてそのままの状態で引き続き光学ガラス成形品W1とレンズ保持具1051を10分間、加熱装置100A内に保持する。
この間に次の熱処理工程を行う光学ガラス成形品W2を不図示のレンズ搬送手段でレンズ保持具1052に載置しておく。そして、レンズ保持具1052を、不図示の保持具搬送手段で、図5(c)のように加熱装置100A内に搬出入可能に設置されたベルト201上の加熱装置100A外にある円形メッシュ穴202上に移送する。
その後、図5(d)に示すように、光学ガラス成形品W1をレンズ保持具1051に載置したまま、ベルト201を搬送方向に移動させ、光学ガラス成形品W1とレンズ保持具1051を炉外の大気解放位置に移送し自然放冷する。
この時、円形メッシュ穴202はレンズ保持具1051と軸対称部分で線接触であり、支持部材からの熱流のコンダクタンスは軸対称且つ最少となっている。そのため光学ガラス成形品W1から出ていく熱流のコンダクタンスは、レンズ保持具1051の形状や、光学ガラス成形品W1の置き位置でほぼ決まる。よってこのレンズ保持具1051の設計を最適化する事により光学ガラス成形品W1からの熱流のコンダクタンスは、レンズ1個に対して軸対称となる。
本実施形態では、光学ガラス成形品W1を軸対称な円形のレンズ保持具1051上の中央に載置しておく。この状態で屈折率分布が温度履歴に影響を受けない温度470℃まで冷却速度200℃/分で、0.65分(約40秒)かけて冷却する。その結果、光学素子最外周の軸対称の温度分布の最大値が4℃以内に保たれている。その間、次の熱処理工程を行う別の光学ガラス成形品W2を載置したレンズ保持具1052は、加熱装置100A内に移送されており、次の熱処理サイクルを行っている。
そしてその後、光学ガラス成形品W1を載置したままレンズ保持具1051を不図示のレンズ保持具搬送手段により不図示の大気解放位置へ移送し、引き続き大気解放状態で冷却を続ける。そして光学ガラス成形品W1を不図示のレンズ搬送手段で搬送できる温度である100℃以下まで冷却したのち、光学ガラス成形品W1を搬出する。
この光学素子の非軸対称の屈折率分布の最大値は、測定の結果、50×10−5であった。これは従来例(20×10−5)に比べ、値は大きくはなっているが、熱処理前のレンズに比べれば大幅に値を下げることができた。さらに軸対称の屈折率分布の最大値は、測定の結果、20×10−5となった為、設計段階でレンズ設計値に反映させることが容易である。その結果、このレンズをカメラ等のレンズユニットに組み込んだ場合、屈折率分布起因の収差は製品の要求値を満たすことが可能である。
このように本実施形態による熱処理方法を従来の熱処理方法と比較すると、屈折率分布の性能はほぼ同等を保ちつつ、熱処理工程後の冷却工程のサイクルタイムを1/20以下まで短縮させることが可能である。よって従来は大量にあった成形工程後の仕掛品を大幅に削減することが可能となり、結果として大幅なコストダウンを達成することが可能になる。
[実施例1]
以下に本発明の実施例1に係る光学素子の製造方法を以下に示す。本実施例1では、上述した成形装置50を用い、まず成形素材であるガラス素材(硝材HOYA製M−TAFD305、歪点温度588℃、徐冷点温度606℃、転移点612℃)をハンドリング装置により下型52上に載置する。その後上型51、下型52、側面型53、胴型54をそれぞれ加熱手段によりガラス素材が転移点以上の粘度108〜12dPa・sとなる温度、実施例1では680℃に加熱する。そして下型52に載置されたガラス素材が680℃に加熱された後、上型51及び下型52を駆動手段により互いに接近させる方向に移動し、圧力10MPaで押圧成形する。その後冷却手段により上型51、下型52、側面型53、胴型54及び光学ガラス成形品Wをガラス転移点温度以下、実施例1では580℃に冷却し、上型51及び下型52を型開きした後、下型52上から光学ガラス成形品Wであるレンズを取り出す。このようにして、光学ガラス成形品Wとして、図1の凹メニスカスレンズ(外径φ14.5、中心肉厚t1.0)を得た。このときの成形サイクルタイムは5分であった。
この光学ガラス成形品Wを、図2に示すように、大気解放位置にある軸対称で、外径φ40、厚さt1.0の円形のレンズ保持具105に1個、不図示のレンズ搬送手段で軸対称な円形のレンズ保持具105上の中央に載置する。
その後マッフル101を備えた加熱装置100の扉103を開け、光学ガラス成形品Wをレンズ保持具105と一緒に炉内支持部材102上に、不図示のレンズ保持具搬送手段で移送する(図3(a))。この時マッフル101内の雰囲気は大気であり、光学ガラス成形品Wが1013dPa・s以上、1014.5dPa・s以下となる温度、実施例1では600℃±2℃以内に保持されている。
そしてこの加熱装置100の扉103を閉め、光学ガラス成形品Wをレンズ保持具105と共に5分間保持し、光学ガラス成形品Wを粘度1013dPa・s以上、1014.5dPa・s以下となる熱処理温度600℃まで加熱する(図3(b))。そしてそのままの状態で引き続き光学ガラス成形品Wとレンズ保持具105を10分間加熱装置100内に保持する。
その後光学ガラス成形品Wをレンズ保持具105に載置したまま、加熱装置100外の大気解放位置に設置された炉外支持部材104上に、不図示のレンズ保持具搬送手段で移送する(図3(c))。そして冷却速度200℃/分で0.65分かけて、ガラス粘度が1020dPa・s以上となる温度、実施例1では470℃まで光学ガラス成形品Wを冷却する。
この時、炉外支持部材104はレンズ保持具105と軸対称部分で線接触であり、炉外支持部材104からの熱流のコンダクタンスは軸対称且つ最少となっている。そのため光学ガラス成形品Wから出ていく熱流のコンダクタンスは、レンズ保持具105の形状や、光学ガラス成形品Wの置き位置でほぼ決まる。よってこのレンズ保持具105の設計を最適化し、光学ガラス成形品Wの置き位置を最適化する事により光学ガラス成形品Wからの熱流のコンダクタンスは、レンズ1個に対して軸対称となる。
このようにして冷却している光学ガラス成形品Wの温度を、光学ガラス成形品Wの上部より放射温度計にて測定した。測定結果から、光学ガラス成形品Wの光軸に対する軸対称の温度分布の最大値は4℃となった。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は20℃となった。
470℃まで冷却した光学ガラス成形品Wを更に200℃/分で常温まで冷却し光学素子を製造した。このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率の最大値が 1.85040で最小値が1.85035であり、その差分が最大であった。従って光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5となった。
また、この時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85035であった。従って光軸に対して非軸対称の屈折率分布はその差分である50×10−5となった。
これらの結果を表1に示す。なお、屈折率分布の測定は、光学素子の光路長差を干渉計にて計測し、屈折率差を検出する干渉計法にて行った。
実施例1における、光軸に対して非軸対称の屈折率分布の最大値は50×10−5であり、許容される100×10−5以下を十分満足するものであった。また、光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5であり、許容される10×10−5以下を十分満足するものであった。
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係る光学素子の熱処理方法について述べる。本実施例2では、光学ガラス成形品として、前記実施例1と同様にプレス成形された凹メニスカスレンズとする。以下、光学ガラス成形品Wの熱処理方法について示す。
まず実施例1と同様の硝材をプレス成形して、図1に示すような凹メニスカスレンズとしての光学ガラス成形品W(外径φ40、中心肉厚t2.0、成形サイクルタイム15分)を得た。この光学ガラス成形品Wを、図2に示すように、大気解放位置にある軸対称で、外径φ60、厚さt1.0の円形のレンズ保持具105に1個、不図示のレンズ搬送手段で軸対称な円形のレンズ保持具105上の中央に載置する。
その後、実施例1と同様の条件の加熱装置100に光学ガラス成形品Wを移送し、実施例1と同様の方法で加熱装置100内で20分間保持し600℃まで加熱する。そしてそのままの状態で引き続き光学ガラス成形品Wとレンズ保持具105を10分間加熱装置100内に保持する。
その後、大気解放し470℃まで光学ガラス成形品Wを冷却した。この時の冷却速度は50℃/分で2.6分かけて冷却した。このようにして冷却している光学ガラス成形品Wの温度を、光学ガラス成形品Wの上部より放射温度計にて測定した。測定結果から、光学ガラス成形品Wの光軸に対する軸対称の温度分布の最大値は4℃となった。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は20℃となった。
470℃まで冷却した光学ガラス成形品Wを更に50℃/分で常温まで冷却し光学素子を製造した。このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率の最大値が1.85040で最小値が1.85035であり、その差分が最大であった。従って光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5となった。
また、この時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85035であった。従って光軸に対して非軸対称の屈折率分布はその差分である50×10−5となった。
これらの結果を表1に示す。なお、屈折率分布の測定は、光学素子の光路長差を干渉計にて計測し、屈折率差を検出する干渉計法にて行った。実施例2における、光軸に対して非軸対称の屈折率分布の最大値は50×10−5であり、許容される100×10−5以下を十分満足するものであった。また、光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5であり、許容される10×10−5以下を十分満足するものであった。
[実施例3]
次に、本発明の実施例3に係る光学素子の熱処理方法について述べる。本実施例3では、光学ガラス成形品として、前記実施例1と同様にプレス成形された凹メニスカスレンズとする。以下、光学ガラス成形品Wの熱処理方法について示す。
まず実施例1と同様の硝材をプレス成形して、図1に示すような凹メニスカスレンズとしての光学ガラス成形品W(外径φ8、中心肉厚t0.7、成形サイクルタイム3分)を得た。この光学ガラス成形品Wを、図2に示すように、大気解放位置にある軸対称で、外径φ20、厚さt1.0の円形のレンズ保持具105に1個、不図示のレンズ搬送手段で軸対称な円形のレンズ保持具105上の中央に載置する。
その後、実施例1と同様の条件の加熱装置100に光学ガラス成形品Wを移送し、実施例1と同様の方法で加熱装置100内で3分間保持し600℃まで加熱する。そしてそのままの状態で引き続き光学ガラス成形品Wとレンズ保持具105を10分間加熱装置100内に保持する。その後、大気解放し470℃まで光学ガラス成形品Wを冷却した。この時の冷却速度は400℃/分で、0.325分かけて冷却した。
このようにして冷却している光学ガラス成形品Wの温度を、光学ガラス成形品Wの上部より放射温度計にて測定した。測定結果から、光学ガラス成形品Wの光軸に対する軸対称の温度分布の最大値は20℃となった。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は4℃となった。
470℃まで冷却した光学ガラス成形品Wを更に400℃/分で常温まで冷却し光学素子を製造した。このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率の最大値が1.85040で最小値が1.85035であり、その差分が最大であった。従って光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5となった。
また、この時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85035であった。従って光軸に対して非軸対称の屈折率分布はその差分である50×10−5となった。
これらの結果を表1に示す。なお、屈折率分布の測定は、光学素子の光路長差を干渉計にて計測し、屈折率差を検出する干渉計法にて行った。実施例3における、光軸に対して非軸対称の屈折率分布の最大値は50×10−5であり、許容される100×10−5以下を十分満足するものであった。また、光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5であり、許容される10×10−5以下を十分満足するものであった。
[比較例1]
従来の長時間かけて冷却する熱処理方法の比較例1を以下に示す。実施例1と同様の成形工程にて成形された図1に示す光学ガラス成形品Wである凹メニスカスレンズを、マッフル101を備えた温度調節器付き電気炉である加熱装置100に入れて熱処理を行う。この熱処理時の温度変化を、図4のプロセス線図を参考に説明する。
まず光学ガラス成形品Wを加熱装置100内に設置し、加熱装置100を室温から、ガラス粘度が歪点(1014.5dPa・s)以上徐冷点(1013dPa・s)以下の熱処理温度600℃まで210分かけて加熱した。この時光学ガラス成形品Wはほぼ加熱装置100内の温度と同様の温度で加熱されていた。そして、この温度に光学ガラス成形品Wを30分間保持した。その後屈折率分布が温度履歴に影響を受けない温度であるガラス粘度が1020dPa・s以上となる温度、470℃まで冷却速度約0.43℃/分、(26℃/時)で300分かけて加熱装置100内の温度を降温させた。これにより加熱装置100の温度変化と同様の温度変化で光学ガラス成形品Wを冷却した。
このようにして冷却している光学ガラス成形品Wの温度を測定すると、光学ガラス成形品Wの光軸に対する軸対称の温度分布の最大値は5℃となった。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は4℃となった。
このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率の最大値が1.85070で最小値が1.85065であり、その差分が最大であった。従って光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は5×10−5となった。
また、この時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85065であった。従って光軸に対して非軸対称の屈折率分布はその差分である20×10−5となった(表1参照)。
このレンズをカメラ等のレンズユニットに組み込んだ場合、屈折率分布起因の収差は製品の要求値を満たしていた。しかしこの従来熱処理プロセスでは、成形のサイクルタイムに比べて熱処理工程のサイクルタイムが長く、熱処理工程前に大量の仕掛品が生じてしまっていた。その為結果的にレンズのコストアップとなっていた。
[比較例2]
本発明に対する比較例2について説明する。熱処理工程の冷却工程で光学ガラス成形品W内から出ていく熱流のコンダクタンスが光学ガラス成形品Wの光軸方向に対して軸対称ではなく、光学ガラス成形品Wの光軸に対して軸対称の温度分布の最大値が5℃を超える温度分布となった例を以下に述べる。
実施例1と同様、成形工程にて図1に示すような凹メニスカスレンズである光学ガラス成形品Wを形成する。次に、図6に示すように、大気解放位置にある軸対称で、外径φ40、厚さt1.0の円形のレンズ保持具105に1個、不図示のレンズ搬送手段で軸対称な円形のレンズ保持具105の中央から15mm偏心した位置に光学ガラス成形品Wを載置しておく。
その後、実施例1と同様の条件の加熱装置100に光学ガラス成形品Wを移送し、実施例1と同様の方法で加熱装置100内で5分間保持し600℃まで加熱する。そしてそのままの状態で引き続き光学ガラス成形品Wとレンズ保持具105を10分間加熱装置100内に保持する。
その後、大気解放し470℃まで光学ガラス成形品Wを冷却した。この時の冷却速度は200℃/分で0.65分かけて冷却した。
この時、レンズ保持具105の中央から偏心した位置に光学ガラス成形品Wが置かれており、炉外支持部材104の位置に対し偏心した状態となっている。その為光学ガラス成形品Wと炉外支持部材104との距離が近い方向にコンダクタンス大となり、熱流のコンダクタンスが光学ガラス成形品Wの中心軸に対して非軸対称となっていた。その為、光学ガラス成形品Wと炉外支持部材104との距離が近い方向の温度が低くなっていた。
このようにして冷却している光学ガラス成形品Wの温度を測定すると、光学ガラス成形品Wの光軸に対する軸対称の温度分布の最大値は20℃となった。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は20℃となった。
このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率の最大値が1.85055で最小値が1.85035であり、その差分が最大であった。従って光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は20×10−5となった。
また、この時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85035であった。従って光軸に対して非軸対称の屈折率分布はその差分である50×10−5となった(表1参照)。これは実施例1に比べ屈折率分布の軸対称性が低下しており、屈折率分布起因の収差が要求値を満たさなくなっていた。
[比較例3]
本発明に対する比較例3について説明する。実施例1と同様の成形工程にて成形された図1に示す光学ガラス成形品Wである凹メニスカスレンズを、マッフル101を備えて温度調節器付き電気炉である加熱装置100に入れて熱処理を行う。この熱処理時の温度変化を、図4のプロセス線図を参考に説明する。
まず光学ガラス成形品Wを加熱装置100内に設置し、加熱装置100を室温から、ガラス粘度が歪点(1014.5dPa・s)以上徐冷点(1013dPa・s)以下の熱処理温度600℃まで210分かけて加熱した。この時光学ガラス成形品Wはほぼ加熱装置100内の温度と同様の温度で加熱されていた。そして、この温度に光学ガラス成形品Wを30分間保持した。その後屈折率分布が温度履歴に影響を受けない温度であるガラス粘度が1020dPa・s以上となる温度、470℃まで冷却速度50℃/分未満、本比較例では40℃/分で、3.25分かけて冷却した。この冷却速度を実現するためには、光学ガラス成形品Wを大気解放位置に移送して冷却する事は困難である。その為光学ガラス成形品Wを加熱装置内に設置させたまま、加熱装置100内の温度を扉103を開放する事により冷却速度40℃/分で降温させた。これにより加熱装置100の温度変化と同様の温度変化で光学ガラス成形品Wを冷却した。
このようにして冷却している光学ガラス成形品Wの温度を測定すると、光学ガラス成形品Wの光軸に対する軸対称の温度分布の最大値は20℃となった。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は15℃となった。
このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率の最大値が1.85065で最小値が1.85045であり、その差分が最大であった。従って光軸に対して軸対称の屈折率分布の最大値は20×10−5となった。
また、この時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85045であった。従って光軸に対して非軸対称の屈折率分布はその差分である40×10−5となった。(表1参照)。
これは実施例1に比べ屈折率分布の軸対称性が低下しており、屈折率分布起因の収差が要求値を満たさなくなっていた。
[比較例4]
本発明に対する比較例4について説明する。実施例1と同様の成形工程にて成形された図1に示す光学ガラス成形品Wである凹メニスカスレンズを、マッフル101を備えて温度調節器付き電気炉である加熱装置100に入れて熱処理を行う。この熱処理時の温度変化を、図4のプロセス線図を参考に説明する。
まず光学ガラス成形品Wを加熱装置100内に設置し、加熱装置100を室温から、ガラス粘度が歪点(1014.5dPa・s)以上徐冷点(1013dPa・s)以下の熱処理温度600℃まで210分かけて加熱した。この時光学ガラス成形品Wはほぼ加熱装置100内の温度と同様の温度で加熱されていた。そして、この温度に光学ガラス成形品Wを30分間保持した。その後屈折率分布が温度履歴に影響を受けない温度であるガラス粘度が1020dPa・s以上となる温度、470℃まで冷却速度400℃/分よりも早く、本実施例では450℃/分、0.28分より早く冷却した。この冷却速度を実現するためには、光学ガラス成形品Wを大気解放位置に移送して冷却するだけでは困難である。その為光学ガラス成形品Wを大気解放位置に移送した後、強制的に冷却媒体、本比較例では冷却されたエアを光学ガラス成形品Wに吹き付けて冷却させた。この熱処理時の光学素子の軸対称温度分布の最大値は、実施例より更に急速に冷却させたため、光学ガラス成形品Wの中心軸に対して軸対称に保つことが難しく、20℃付いていた。またこの時の非軸対称の温度分布の最大値は25℃であった。
このようにして製造された光学素子の最外周における屈折率分布の最大値が1.85045で最小値が1.85025であり、この差分が最大値であった。従って光軸に対して
軸対称の屈折率分布の最大値は20×10−5となった。
またこの時の光学素子の軸中心における屈折率が1.85085で最外周の屈折率は1.85025であった。従って光軸に対して非軸対称な屈折率分布はその差分である60×10−5であった(表1参照)。
これは実施例1に比べ屈折率分布の軸対称性が低下しており、屈折率分布起因の収差が要求値を満たさなくなっていた。
なお、上記実施形態及び上記実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
ガラスブランクの材料及び光学ガラス成形品の形状は、上記実施形態及び上記実施例に記載のものに限定するものではなく、成形工程後に屈折率分布が大きく発生し、熱処理を必要とする全てのものに適応させることが可能である。ただしガラス材、光学ガラス成形品の形状が変わった場合は、その光学ガラス成形品の形状に最適な昇温時間、熱処理温度、保持時間とする必要がある。冷却速度に関しては光学ガラス成形品の形状によって自然に変化する。
また、加熱装置に関しては、電気炉では抵抗加熱、誘導加熱、輻射加熱等、手段を選ばない。また電気以外に例えばガス炉等の電気以外に燃料を使用した加熱装置でも良い。
また、図7に示すように、光学ガラス成形品Wを、レンズ保持具105上に複数個裁置する際は、軸対称形状である柱状保持部材105Bを板状保持部材105A上に複数配置したレンズ保持部材を使用する事が望ましい。光学ガラス成形品Wの裁置は、柱状保持部材105B1個に対し1個、柱状保持部材105Bの中央に裁置する。また、保持部材105を大気中で冷却する際、天板部材106を光学ガラス成形品Wと保持部材105上に近接させて設置させる事が望ましい。