近年、2.4GHz帯または5GHz帯を用いた高速無線アクセスシステムとして、IEEE802.11g規格、IEEE802.11a規格などの普及が目覚しい。これらのシステムでは、マルチパスフェージング環境での特性を安定化させるための技術である直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用い、最大で54Mbpsの物理層伝送速度を実現している。
ただし、ここでの伝送速度とは物理レイヤ上での伝送速度であり、実際にはMAC(Medium Access Control)レイヤでの伝送効率が50〜70%程度であるため、実際のスループットの上限値は30Mbps程度であり、情報を必要とする通信相手が増えればこの特性は更に低下する。一方で、有線LANの世界ではEthernet(登録商標)の100Base−Tインタフェースをはじめ、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)の普及から、100Mbpsの高速回線の提供が普及しており、無線LANの世界においても更なる伝送速度の高速化が求められている。
そのための技術として、IEEE802.11nにおいて、空間多重送信技術としてMIMO(Multiple input multiple output)技術が導入された。さらに、IEEE802.11acでは、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)通信方法が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。MU−MIMO通信は、物理層におけるスループットを送信アンテナ数倍に高めるポテンシャルを有するが、チャネル情報をフィードバックさせるためのオーバーヘッドが大きく、伝搬チャネルの時間変動などによるチャネル情報の誤差により伝送特性が劣化しやすい問題がある。
図8に従来技術によるマルチユーザMIMO通信のフレームシーケンスを示す。図8においては、3つの端末(STA:Station)に対する例を示している。図8において、1はチャネル推定用の信号を送信することを示すアナウンス信号(NDPA:Null Data Packet Announce)、2は推定用のパイロット信号(NDP:Null Data Packet)、3−1〜3−3はチャネル情報のフィードバック信号(CSIFB:Channel State Information Feed Back)、4−1〜4−4は特定の通信相手から応答信号の送信を指示するポーリング信号、5−1〜5−3はブロックACK(BACK)、6は、任意の信号シーケンス、7はデータ信号パケットを表している。
図9に従来技術によるマルチユーザMIMOによる送信を行う無線送信装置(基地局)の構成を示す。1−0は、データ・制御信号出力回路、1−1は送信信号生成回路、1−2−1〜1−2−Nはデジタルアナログ変換器(DAC:Digital Analog Converter)、1−3−1〜1−3−Nは、送信回路、1−4−1〜1−4−Nはアンテナ、1−5は送信方法決定回路である。
基地局(AP)から送信を行う端末(STA)が決定されると、図8におけるNDPAとNDPがデータ・制御信号出力回路1−0において生成され、送信信号生成回路1−1により、パイロット信号付加、OFDM変調、ガードインターバルの付加などを行い、送信信号を形成し、DAC1−2−1〜1−2−Nによりアナログ信号に変換し、送信回路1−3−1〜1−3−Nへ出力する。送信回路1−3−1〜1−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して送信を行う。図9には記載しないが、端末STA−1〜STA−3からの受信信号も、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して受信し、復号されて、データ信号やチャネル情報が抽出される。
チャネル情報が図8に示すCSIFB3−1〜3−3により取得されると、送信方法決定回路1−5により、チャネル情報を用いて送信ウエイトが演算され、送信信号生成回路1−1に対して出力される。送信ウエイトの算出方法は後述する。この際、図8の符号6で示す任意のシーケンス(図8に示す破線部分)により、送信ウエイトが得られる時間を稼ぐことができる。任意のシーケンス6としては、自基地局のアドレスを指定した信号を送信したり、RTS−CTS信号を端末とやりとりしたりする。または、この任意のシーケンス6を用いず、送信を行うこともできる。
図8に示すデータ信号7は、データ・制御信号出力回路1−0においてデータを生成され、送信信号生成回路1−1により、送信方法決定回路1−5から入力された送信ウエイトの乗算、OFDM変調、ガードインターバルの付加、パイロット信号付加などが行われた複数のOFDMシンボルと制御信号からなり、送信信号はDAC1−2−1〜1−2−Nにおいてアナログ信号に変換され、送信回路1−3−1〜1−3−Nに出力される。送信回路1−3−1〜1−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して送信を行う。データの送信が終わると、BACK5−1、5−2を各端末から受信し、通信が終了する。
通信相手を選択する方法としては、送信を行うデータがメモリに保存され、送信を行う準備ができている通信相手を指定したり、保存されている複数のデータのうち、最も古いデータに対応する通信相手から選択したり、ユーザのQoS(Quality of service)に基づいて選択したり、予めグループIDで決められたユーザの組み合わせを選択したり、チャネル情報の相関が低い通信相手の組み合わせを選択したりすることができる。
次に、従来のMU−MIMO通信における送信ウエイトの算出方法を説明する。MU−MIMOの送信ウエイトの決定方法としては、Dirty paper coding,Zero forcing,Minimum mean square error,Tomurinson−Harashima precoding,Block diagonalization algorithm,Successive optimization algorithmなど様々な方法により決定できる。ここでは、Block diagonalization algorithm(BD法)による送信ウエイト決定方法を例にとり説明する。
チャネル応答行列取得回路において得られた端末STA−iのj番目の周波数チャネルに対するチャネル情報を表すチャネル応答行列H
i,j(M
i×N行列)は(1)式のように特異値分解により、右特異ベクトルV
i,j(N×N行列)、左特異ベクトルU
i,j(M
i×M
i行列)及び固有値の二乗根√λ
i,j,lを対角要素とし、非対角行列を0とする行列D
i,
j(M
i×N行列)に分けることができる。ここで、Nは送信アンテナ数、M
iはSTA−iの受信アンテナ数である。
ここで行列Hi,jの要素Hi,j,baはj番目の周波数チャネルにおける送信装置のa番目のアンテナからi番目の端末(STA−i)におけるb番目のアンテナまでの伝達係数を表す。右特異ベクトルVi,jのうち、V’i,jは固有値に対応する列ベクトル群、V’’i,jは0に対応する列ベクトル群である。シングルユーザ通信において、最大の周波数利用効率が得られる方法として知られる固有ベクトル送信においては、V’i,jの列ベクトルを送信ウエイトとすることで、対応する固有値λi,j,lで表せる信号電力を得ることができる。(λi,j,1≧λi,j,2≧・・・ ≧λi,j,Mi)。上付きの添え字Hは共役複素行列を表す。
次に、マルチユーザに対するBD法による通信相手の選択方法を説明する。ここでは、Kユーザ(STA−1〜STA−K)に対し、通信を行うものとする。STA−iに対する送信ウエイトの演算方法を示す。まず、STA−i以外の端末に対応する集合チャネル行列H
+ i,jを
と定義する。
Ra,jはSTA−aにおける受信ウエイトであり、STA−aに対し、La’の受信ウエイトを仮定したものとすると、La’×Mi行列として表せる。Ra,jを対角要素が1のMi×Miの対角行列とすれば、受信ウエイトの仮定なしの条件となる。または、固有値に対応する右特異ベクトル、または右特異ベクトルと同じ信号空間を表す基底ベクトルを用いて、集合チャネル行列を定義することもできる。
この場合、
として集合チャネル行列を得ることもできる。(3)式において、V’
a,jは(2)式のV’
a,jの任意のLa’個の列ベクトルを選択したものを用いてもよいし、V’
a,jを圧縮してフィードバックされたものを展開して得られたベクトルとすることもできる。
このH
+ i,jに対し、特異値分解を行うと、
と表すことができる。V’
+ i,jは固有地D
+ i,jに対応する信号空間ベクトルであり、V’’
+ i,jは固有値がない、もしくは固有値0に対応するヌル空間ベクトルである。
ここで、V’’+ i,jで表せるヌル空間に対し、送信を行うと、STA−i以外の通信相手の受信ウエイトに対し、干渉を生じない。よって、複数の通信相手に空間多重方式を用いて通信するには、j番目の周波数チャネルに用いる送信ウエイトとして、ここで得られたV’’+ i,j、またはV’’+ i,jに線形演算を行い得られるウエイトを用いればよい。例えば、V’’+ i,jに線形演算を行う場合には、送信ウエイトベクトルは、V’’+ i,jGi,jと表せる。Gi,jは(N−Li’)×Li行列であり、STA−iに対応するチャネル行列Hi,jに、V’’+ i,jを乗算し、得られたHi,jV’’+ i,jの行ベクトルに対して、直交化法を用いて得られる基底ベクトル、または、特異値分解を行って得られる右特異ベクトルからLi個のベクトルを選択して用いることができる。このようにして得られるGi,jをV’’+ i,jに乗算して得られるN×Li行列を送信ウエイトとすることができる。
このように各通信相手に対してそれぞれ送信ウエイトを演算することができ、得られたKユーザに対するj番目の周波数チャネルに対する送信ウエイトW
jは
と表せる。
この送信ウエイトによる通信における、STA−iにおけるj番目の周波数チャネルに対応する受信信号ベクトルy
i,jは
と表せる。
ここで、xi,jはj番目の周波数チャネルを用いて送信されたSTA−i宛のLi×1の送信信号ベクトルであり、ni,jはj番目の周波数チャネルにおけるSTA−iにおけるMi×1の熱雑音ベクトル、Piはj番目の周波数チャネルにおけるSTA−iへの送信信号ベクトルの各要素に対する電力分配を表すLi×Li行列である。xj、Pはそれぞれxi,j、Piからなる集合ベクトルと集合行列であり、xj=(x1,j T,x2,j T,・・・,xK,j T)T、P=diag(P1,P2,・・・,PK)と表せる。ここで、diag()は括弧内の行列や係数を対角要素とする対角行列を表す。
チャネル情報誤差がなければ、(6)式の両辺に左から受信ウエイト行列R
i,jを乗算することで、(6)式の右辺第2項でR
i,jH
i,jとW
k,jは直交し、R
i,jH
i,jW
k,j=0となるため(k≠i)、
として、STA−i宛の送信信号のみを得ることができる。受信ウエイト行列は(2)式で用いたものでもよいし、新たに受信した既知信号から計算することもできる。
しかし、基地局のチャネル情報に誤差があれば、(7)式の1行目の右辺第2項が0にならず、ユーザ間干渉として伝送品質を低下させてしまう。また、全ての端末のチャネル情報を基地局で知るために、フィードバックが必要となり、MAC効率を低下させる。
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施形態による無線送信装置を説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において1−0は、データ・制御信号出力回路、1−1は送信信号生成回路、1−2−1〜1−2−Nはデジタルアナログ変換器(DAC)、1−3−1〜1−3−Nは、送信回路、1−4−1〜1−4−Nはアンテナ、1−5は送信方法決定回路、1−6は低SNR端末決定回路である。
図2は、図1に示す無線送信装置におけるマルチユーザMIMO通信のフレームシーケンスを示す図である。図2においては、2つのSTAに対する例を示している。図2において、1はチャネル推定用の信号を送信することを示すアナウンス信号(NDPA:Null Data Packet Announce)、2は推定用のパイロット信号(NDP:Null Data Packet)、3−1はチャネル情報のフィードバック信号(CSIFB:Channel State Information Feed Back)、4−3は特定の通信相手から応答信号の送信を指示するポーリング信号、5−1〜5−2はブロックACK(BACK)、6は任意の信号シーケンス、7はデータ信号パケットを表している。
次に、図6を参照して、図1に示す無線送信装置の動作を説明する。図6は、図1に示す無線送信装置の動作を示すフローチャートである。図6に示す処理動作は、後述する第2、第3の実施形態における無線送信装置においても共通である。以下の説明においては、図1に示す無線送信装置が基地局であるものとして説明する。
まず、基地局は、通信相手となる端末のSNR、またはスループットを測定することにより端末のSNR情報を収集する(ステップS101)。そして、低SNR端末決定回路1−6は、予め定めた閾値ΓL[dB]より、SNRが低い端末、または閾値TL[bit/s]より、スループットが低い端末を低SNR端末STA−0として決定する(ステップS102)。基地局は、STA−0と同一周波数、同一タイミングで送信できる端末としてSTA−1を選択する(ステップS103)。STA−1は、例えば予め定めた閾値ΓH[dB]より、高いSNRとなる端末、または、閾値TH[bit/s]より高いスループットとなる端末を選ぶこともできる。ここでは、STA−0とSTA−1に対する送信の例を示すが、通信毎に、STA−0となる端末、STA−1となる端末は変更することができる。
基地局は、送信を行う端末が決定されると(ここでは、STA−1とSTA−0)、図2におけるNDPAとNDPがデータ・制御信号出力回路1−0において生成され、送信信号生成回路1−1により、パイロット信号付加、OFDM変調、ガードインターバルの付加などを行い、送信信号を形成し、DAC1−2−1〜1−2−Nによりアナログ信号に変換し、送信回路1−3−1〜1−3−Nへ出力する。送信回路1−3−1〜1−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して送信を行う(ステップS104)。ここで、図8に示すシーケンスとは異なり、低SNRの端末(STA−0)からは、チャネル情報のフィードバックを要求しないで通信を行うことができる。
STA−1からのCSIFBは、アンテナ1−4−1〜1−4−Nの少なくとも一つを介して受信され、復号され、チャネル情報が抽出される。チャネル情報がCSIFB3−1により取得されると、送信方法決定回路1−5により、チャネル情報を用いて送信ウエイトが演算され、送信信号生成回路1−1に出力される。送信ウエイトの算出方法は後述する。この際、図2の符号6で記載された任意のシーケンス(図2に示す破線部分)により、送信ウエイトが得られる時間を稼ぐことができる。任意のシーケンス6としては、自基地局のアドレスを指定した信号を送信したり、RTS−CTS信号を端末とやりとりしたりする。または、この任意のシーケンス6を用いず、送信を行うこともできる。図2に示すデータ信号7は、データ・制御信号出力回路1−0においてデータを生成され、送信信号生成回路1−1により、送信方法決定回路1−5から入力された送信ウエイトの乗算、OFDM変調、ガードインターバルの付加、パイロット信号付加、などが行われた複数のOFDMシンボルと制御信号からなり、送信信号はDAC1−2−1〜1−2−Nにおいてアナログ信号に変換され、送信回路に出力される。送信回路1−3−1〜1−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ1−4−1〜1−4−Nから送信を行う。データの送信が終わると、BACKを各端末から受信し、通信が終了する。
図2に示すように、低SNR端末のチャネル情報を必要としないため、従来のマルチユーザMIMO通信に対し、MAC効率(全体の通信時間Tに対するデータ送信時間TDの割合)を高めることができ、スループットを向上することができる。
次に、送信ウエイトの算出方法について説明する。ここでは、STA−1に対する空間ストリーム数をL1、STA−0に対する空間ストリーム数をL0とする。チャネル情報は、STA−0以外の端末についてのみ得られるが、これらの情報を用いて全ての通信相手に対する送信ウエイトを決定する。具体的には、低SNR端末以外の端末への送信ウエイトは、通常のシングルユーザMIMOおよびマルチユーザMIMOで提案されている方式を用いて決定し、低SNR端末への送信ウエイトはそれ以外の端末のヌル空間に対応する基底ベクトルから決定する。通常は、低SNR端末以外の端末への送信信号が低SNR端末に大きな干渉を生じるが、ここでは、低SNR端末以外の端末への送信電力を低下させることでこの問題を解決する。すなわち、低SNR端末への送信信号が引き起こす、低SNR端末以外の端末におけるユーザ間干渉は、送信側の空間信号処理によって除去するが、低SNR端末以外の端末への送信信号が引き起こす、低SNR端末におけるユーザ間干渉は、送信電力低減により除去する。
以下、低SNR端末以外の端末が一つ(STA−1)の場合について送信ウエイトと送信電力の決定方法を説明する。チャネル応答行列取得回路において得られた端末STA−1のj番目の周波数チャネルに対するチャネル情報を表すチャネル行列H
1,j(M
1×N行列)は(8)式のように特異値分解を行うことができる。
ここで、U
1,
jは左特異ベクトル、D
1,
jは特異値からなる対角行列、右特異ベクトルV
i,jのうち、V’
i,jは固有値に対応する列ベクトル群、V’’
i,jは0に対応する列ベクトル群である。または、QR分解により、ヌル空間に対応する基底ベクトルを
として得ることもできる。ここで、Q’
1,jは信号空間に対応する基底ベクトルであり、Q’’
1,jはヌル空間に対応する基底ベクトル、T
1,jは上三角行列である。ここで、H
1,
j Hに対し、グラムシュミットの直交化法などの直交化法により、ヌル空間に対応する基底ベクトルを抽出しても同様である。
または、基地局にフィードバックされた情報が、チャネル行列ではなく、(
8)式における右特異ベクトルV’
1,jや基底ベクトルQ’
1,jや、これらと高い相関を持つ基底ベクトルである場合には、これに対し、グラムシュミットの直交化法やQR分解等を行い、ヌル空間に対応する基底ベクトル群を得ることができる。フィードバックされた右特異ベクトル、基底ベクトル、または、圧縮された上でフィードバックされた係数から展開された基底ベクトルをZ’
1,j(N×L
1’行列)とすると、
を満たす条件の基底ベクトルZ’’
1,jを、ヌル空間に対応する基底ベクトルとして得ることができる。
本実施形態では、STA−1への送信ウエイトW1,jとして、V’1,j,Q’1,j、またはZ’1,jのいずれかの行列からL1個の列ベクトルを選択、または演算して、STA−0への送信ウエイトW0,jとして、V’’1,j,Q’’1,j、またはZ’’1,jのいずれかの行列からL0個の列ベクトルを選択して、送信ウエイトとする。または、直交行列Aを、V’’1,j,Q’’1,j、またはZ’’1,jに乗算して得られる行列V’’1,jA,Q’’1,jA、またはZ’’1,jAを送信ウエイトとすることもできる。ここで、行列AはΛ×L0の行列であり、ΛはV’’1,j,Q’’1,j、またはZ’’1,jの列ベクトル数である。このように、本実施形態では低SNR端末(STA−0)の送信ウエイトをそれ以外の端末のチャネル情報から決定できる。
次に、送信電力について説明する。STA−1とSTA−0におけるj番目の周波数チャネルに対応する受信信号ベクトルy
1,jとy
0,jは
と表せる。
ここで、x
i,jはj番目の周波数チャネルを用いて送信されたSTA−i宛のL
i×1の送信信号ベクトルであり、n
i,jはj番目の周波数チャネルにおけるSTA−iにおけるM
i×1の熱雑音ベクトル、P
iは各周波数チャネルにおけるSTA−iへの送信信号ベクトルの各要素に対する電力分配を表すL
i×L
i行列である。STA−1においては、STA−0に対する送信ウエイトW
0,jはSTA−1のチャネル行列のヌル空間に対する基底ベクトルにより求められているため、STA−1においては、適切な受信ウエイトR
1,j(L
1×M
1行列)を用いることで、
として自端末宛の送信信号のみを抽出できる。
しかしながら、STA−0における受信信号には、STA−1宛の信号がユーザ間干渉として混入することとなる。そこで、本実施形態ではSTA−0における受信信号におけるSTA−1への送信信号を送信電力を低減することで、STA−0における干渉の影響を低減する。STA−iに対する送信電力行列P
iは以下のように表すことができる。
ここで、STA−iへの各周波数チャネルにおける送信電力をΨ
iとすると、
と表すことができる。
ここで、低SNR端末であるSTA−0のSNRについて考える。まず、シングルユーザ通信を考え、基地局がx
0,1,jをSTA−0に送信ウエイトw
0,1,jを用いて送信した例を示す。各周波数チャネルにおけるシングルユーザ通信の送信電力をΨ
Sと定義すると、STA−0のk番目の受信アンテナのj番目の周波数チャネルにおける受信信号は以下のように表せる。
ここで、h0,k,jはSTA−0のk番目のアンテナと基地局アンテナの間の伝搬係数を表す1×Nのチャネルベクトル、w0,1,jは基地局から送信する信号系列x0,1,jに対する送信ウエイトベクトルであり、n0,k,jはk番目のアンテナの熱雑音である。w0,1,jがチャネル行列によらず決定されたランダムウエイト、またはアンテナ選択による送信として一つの要素が1、他が0のベクトルであったとすると、受信信号y0,k,jの絶対値の二乗値の期待値E(|y0,k,j|2)は、ΨS×D0+σ0 2として得られる。
ここで、D0はチャネルベクトルh0,k,jの要素の絶対値の2乗の期待値であり、無線伝搬ロスに対応する。σ0 2はSTA−0で受信信号に加わる各周波数チャネルにおける熱雑音の電力値であり、予め信号を受信していない際などに計測することができる値である。すなわち、E(|y0,k,j|2)を計算すれば、信号電力と雑音電力の和が得られる。得られたE(|y0,k,j|2)から、σ0 2を減算するか、ΨS×D0に比べてσ0 2が小さいものとして無視すれば、E(|y0,k,j|2)から信号電力の値を得ることができ、この値は送信電力×伝搬ロスと考えることができる。
すなわち、マルチユーザMIMOによる送信において、STA−0以外の端末への送信電力であるΨ1を、Ψ1×D0が熱雑音レベル程度まで低くなるように設定すれば、STA−1への送信信号によるユーザ間干渉による通信品質への影響は小さくなる。具体的にはシングルユーザ通信などで、STA−0に対し測定されたSNRの値をΓ0とすると、STA−0以外の端末への送信電力をシングルユーザ通信時(SNR測定時)の送信電力に対し、α/Γ0に低下させることでユーザ間干渉を低減する。ここで、αは熱雑音に対しどの程度のユーザ間干渉を許容するを設定するパラメータである。α=10とすれば、熱雑音の10倍までのユーザ間干渉を許容する設定となり、α=1とすれば熱雑音と同レベルのユーザ干渉までを許容する。また、直接Γ0を測定せずとも、スループットや、指定されている変調方式・符号化率などの情報から、対応するΓ0の表をあらかじめ記憶しておくこともできる。
図2に示す例では、STA−1への送信電力を低減し、
としてSTA−1への送信電力を決定することで、STA−0における干渉を低減できる。
マルチユーザMIMO通信における各周波数チャネルにおける総送信電力をΨ
Mとすると、STA−0への送信電力も同様に、
として得ることができる。
このようにして、STA−1においても、STA−0においても、ユーザ間干渉を低減することが可能であり、マルチユーザMIMO通信を実現できる。基地局は、STA−1に対しては、SNRの情報、送信電力の低減量、STA−1のチャネル情報誤差に起因する干渉信号電力、過去の通信の成否の記録、などから変調モードと符号化率を決定でき、STA−0に対しては、SNRの情報、STA−1への送信信号に起因する干渉信号電力、過去の通信の成否の記録から、変調モードと符号化率を選択することができる。
次に、図3を参照して、図2に示すシーケンスの変形例を説明する。図3は、マルチユーザMIMO通信におけるフレームシーケンスの変形例を示す図である。ここでは、低SNR端末であるSTA−0の他に、K個の端末に対し同時通信を行い、(K+1)個の端末に対してマルチユーザMIMOを行う例を示している。図3において、1はチャネル推定用の信号を送信することを示すアナウンス信号(NDPA)、2は推定用のパイロット信号(NDP)、3−1〜3−Kはチャネル情報のフィードバック信号(CSIFB:Channel State Information Feed Back)、4−1〜4−(2K−1)は特定の通信相手から応答信号の送信を指示するポーリング信号、5−1〜5−(K+1)はブロックACK(BACK)、6は、任意の信号シーケンス、7はデータ信号パケットを表している。
まず、基地局は、通信相手となる端末のSNR、またはスループットを測定する。低SNR端末決定回路1−6は、予め定めた閾値ΓL[dB]より、SNRが低い端末、または、閾値TL[bit/s]より、スループットが低い端末を低SNR端末STA−0として決定する。基地局は、STA−0と同一周波数、同一タイミングで送信できる端末としてSTA−1〜STA−Kを選択する。STA−1〜STA−Kは、例えば予め定めた閾値ΓH[dB]より、高いSNRとなる端末、または、閾値TH[bit/s]より高いスループットとなる端末を選ぶこともできる。ここでは、STA−0とSTA−1〜STA−Kに対する送信の例を示すが、通信毎に、STA−0となる端末、STA−1〜STA−Kとなる端末は変更することができる。
基地局は、送信を行う端末が決定されると(ここでは、STA−1〜STA−KとSTA−0)、図3におけるNDPAとNDPがデータ・制御信号出力回路1−0において生成され、送信信号生成回路1−1により、パイロット信号付加、OFDM変調、ガードインターバルの付加などを行い、送信信号を形成し、DAC1−2−1〜1−2−Nによりアナログ信号に変換し、送信回路1−3−1〜1−3−Nへ出力する。送信回路1−3−1〜1−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して送信を行う。ここで、図8に示すシーケンスとは異なり、低SNRの端末(STA−0)からは、チャネル情報のフィードバックを要求しない。
STA−1〜STA−KからのCSIFBは、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して、復号され、チャネル情報が抽出される。チャネル情報がCSIFB3−1〜3−Kにより取得されると、送信方法決定回路1−5により、チャネル情報を用いて送信ウエイトが演算され、送信信号生成回路1−1に出力される。STA−1〜STA−Kに対する送信ウエイトは、従来の方式のマルチユーザMIMOの送信ウエイトの算出方法と同様であるが、送信電力については制御される。送信電力の決定方法は、STA−0に対する送信ウエイト決定方法とともに後述する。任意のシーケンス6としては、自基地局のアドレスを指定した信号を送信したり、RTS−CTS信号を端末とやりとりしたりする。または、この任意のシーケンス6を用いず、送信を行うこともできる。
図3に示すデータ信号7は、データ・制御信号出力回路1−0においてデータを生成され、送信信号生成回路1−1により、送信方法決定回路1−5から入力された送信ウエイトの乗算、OFDM変調、ガードインターバルの付加、パイロット信号付加などが行われた複数のOFDMシンボルと制御信号からなり、送信信号はDAC1−2−1〜1−2−Nにおいてアナログ信号に変換され、送信回路1−3−1〜1−3−Nに出力される。送信回路1−3−1〜1−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ1−4−1〜1−4−Nから送信を行う。データの送信が終わると、BACKを各端末から受信し、通信が終了する。
本実施形態では、図2に示すように、低SNR端末のチャネル情報を必要としないため、従来のマルチユーザMIMO通信に対し、MAC効率(全体の通信時間Tに対するデータ送信時間TDの割合)を高めることができる。
次に、低SNR端末以外の端末の数がK(STA−1〜STA−K)の場合についてSTA−0の送信ウエイトとSTA−0〜STA−Kの送信電力の決定方法について説明する。STA−1〜STA−Kまでの送信ウエイトの決定方法は、従来のマルチユーザMIMOと同様の方法で、STA−1〜STA−Kに対するチャネル情報から決定される。
STA−0に対する送信ウエイト決定方法を説明する。チャネル応答行列取得回路において得られた端末STA−1〜STA−Kのj番目の周波数チャネルに対するチャネル情報を表すチャネル行列H
k,j(M
k×N行列、1≦k≦K)による集合行列 ̄H
j(Hjの上付きのバー「 ̄」を以下このように表現する)は(19)式のように特異値分解を行うことができる。
ここで、 ̄Ujは左特異ベクトル、 ̄Djは特異値による対角行列、右特異ベクトル ̄Vk,jのうち、 ̄V’jは固有値に対応する列ベクトル群、 ̄V’’jは0に対応する列ベクトル群である。
または、QR分解により、信号空間とヌル空間に対応する基底ベクトルを
として得ることもできる。 ̄Q’
jは ̄H
j Hの信号空間に対応する基底ベクトル、 ̄Q’’
jは ̄H
j Hのヌル空間に対応する基底ベクトル、 ̄T
jは上三角行列である。ここで、 ̄H
j Hに対し、グラムシュミットの直交化法などの直交化法により、基底ベクトルを抽出しても同様である。
または、基地局にフィードバックされた情報がチャネル行列ではなく、(8)式における右特異ベクトルV’
1,jや(9)式の基底ベクトルQ’
1,jや、これらと高い相関を持つ基底ベクトルである場合には、これに対し、グラムシュミットの直交化法やQR分解等を行い、ヌル空間に対応する基底ベクトル群を得ることができる。フィードバックされた右特異ベクトル、基底ベクトル、または、圧縮された上でフィードバックされた係数から得られた基底ベクトルをZ’
k,j(N×L
k’行列、1≦k≦K)とすると、基底ベクトルの集合行列 ̄Z
jに対してQR分解を行うことにより、ヌル空間に対応する ̄Z’’
jを得ることができる。
ここで、 ̄T’
jは上三角行列、 ̄Z’
jは信号空間に対応する基底ベクトルである。グラムシュミットの直交化法でも ̄Z’’
jを得ることができる。
STA−0への送信ウエイトW0,jとし、 ̄V’’j, ̄Q’’j、または ̄Z’’jのいずれかの行列からL0個の列ベクトルを選択して、送信ウエイトとする。または、直交行列Aを、 ̄V’’j, ̄Q’’j、または ̄Z’’jに乗算して得られる行列 ̄V’’jA, ̄Q’’jA、または ̄Z’’jAを送信ウエイトとすることもできる。ここで、行列AはΛ×L0の行列であり、Λは ̄V’’j, ̄Q’’j、または ̄Z’’jの列ベクトル数である。このように、本実施形態では低SNR端末(STA−0)の送信ウエイトをそれ以外の端末のチャネル情報から決定できる。
次に、送信電力について説明する。STA−k(1≦k≦K)とSTA−0におけるj番目の周波数チャネルに対応する受信信号ベクトルy
k,jとy
0,jは
と表せる。x
i,jはj番目の周波数チャネルを用いて送信されたSTA−i宛のL
i×1の送信信号ベクトルであり、n
i,jはj番目の周波数チャネルにおけるSTA−iにおけるM
i×1の熱雑音ベクトル、Piはj番目の周波数チャネルにおけるSTA−iへの送信信号ベクトルの各要素に対する電力分配を表すL
i×L
i行列である。
STA−k(1≦k≦K)においては、STA−0に対する送信ウエイトW
0,jはSTA−1のチャネル行列のヌル空間に対する基底ベクトルにより求められており、STA−1〜STA−Kの互いのユーザ間干渉はマルチユーザMIMO技術により除去可能であるため、STA−kにおいて、適切な受信ウエイトR
k,j(L
k×M
k行列)を用いることで、
として自端末宛の送信信号のみを抽出できる。
しかしながらSTA−0における受信信号は必ずSTA−1〜STA−K宛の信号がユーザ間干渉として混入することとなってしまう。そこで、本実施形態ではSTA−0における受信信号におけるSTA−1〜STA−Kへの送信電力を低減することで、影響を低減する。
シングルユーザ通信時のSTA−0における平均SNRの値をΓ0とすると、STA−1〜STA−Kに対し許容する送信電力はシングルユーザ通信時の送信電力Ψ
S は以下のように表せる。
(24)式をSTA−1〜STA−Kに振り分ける方法としては、従来のマルチユーザMIMOにおける電力分配と同様に行うことができ、ユーザ毎の等電力配分や、ストリーム毎の等電力配分や、注水定理に基づく電力配分等を行うことができる。
または、(24)式の値から、STA−0以外の端末数Kや、STA−0以外の端末に対するデータストリーム数
に許容する最大値を規定することができる。例えば、(24)式が1mW〜0.1mWであれば、K
max=2、またはL’
max=4、0.1mW〜0.01mWであれば、K
max=1、またはL’
max=2などと、予め記憶しておくことができる。このようにして、基地局は、予めSTA−0に対するSNRの情報を取得し、KまたはL’を決定できる。
マルチユーザMIMO通信における各周波数チャネルにおける総送信電力をΨ
Mとすると、STA−0への送信電力は、
として得ることができる。
このようにして、STA−1〜STA−Kにおいても、STA−0においても、ユーザ間干渉を低減することでマルチユーザMIMO通信を実現できる。STA−0〜STA−Kは、過去の通信の成否の記録や、本発明による送信電力の低下、チャネル情報の誤差から生じるSTA−0への送信信号によるユーザ間干渉を考慮し、変調モードと符号化率を選択することができる。
本実施形態は一部の端末に対する送信電力を低減することにより、低SNR端末における干渉を低減するが、このため、DACにおける量子化ビット数による特性劣化を受けやすくなる。すなわち、本実施形態による方式では、STA−0に対する送信電力が大きいため、STA−0に対する送信信号の波形の振れ幅が、それ以外の端末(例えばSTA−1)への送信信号の波形の振れ幅より、大きくなる。このため、STA−0以外の端末への送信信号は、実効的な量子化ビット数が小さくなり、アナログ信号へ変換時にDACによる量子化誤差の影響を受けやすい。
次に、このような問題に対応するための無線送信装置(第2の実施形態、第3の実施形態)について説明する。基本的には、DACを低SNR用端末と、それ以外の端末で分けることで、低SNR端末以外の端末への送信信号に対する量子化誤差の影響を低減するのが目的となる。
<第2の実施形態>
図4は本発明の第2の実施形態によるマルチユーザMIMOによる送信を行う無線送信装置の構成を示すブロック図である。図4において、4−0は、データ・制御信号出力回路、4−1は送信信号生成回路、4−2−1〜4−2−Nはデジタルアナログ変換器(DAC:Digital Analog Converter)、4−3−1−1〜4−3−1−Nは、送信回路、4−4−1〜4−4−Nはアンテナ、4−5は送信方法決定回路、4−6は低SNR端末決定回路である。
以下の説明においても、図4に示す無線送信装置が基地局であるものとして説明する。まず、基地局は、通信相手となる端末のSNR、またはスループットを測定する(ステップS101)。低SNR端末決定回路4−6は、予め定めた閾値ΓL[dB]より、SNRが低い端末、または、閾値TL[bit/s]より、スループットが低い端末を低SNR端末STA−0として決定する(ステップS102)。基地局は、STA−0と同一周波数、同一タイミングで送信できる端末としてSTA−1を選択する(ステップS103)。STA−1は、例えば予め定めた閾値ΓH[dB]より、高いSNRとなる端末、または、閾値TH[bit/s]より高いスループットとなる端末を選ぶこともできる。ここでは、STA−0とSTA−1に対する送信の例を示すが、通信毎に、STA−0となる端末、STA−1となる端末は変更することができる。
基地局は、送信を行う端末が決定されると(ここでは、STA−1とSTA−0)、図2に示すNDPAとNDPがデータ・制御信号出力回路4−0において生成され、送信信号生成回路4−1により、パイロット信号付加、OFDM変調、ガードインターバルの付加などを行い、送信信号を形成し、DAC4−2−1〜4−2−Nによりアナログ信号に変換し、送信回路4−3−1〜4−3−Nへ出力する。送信回路4−3−1〜4−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ4−4−1〜4−4−Nから送信を行う(ステップS104)。
STA−1からのCSIFBは、アンテナ4−4−1〜4−4−Nの少なくとも一つを介して、復号され、チャネル情報が抽出される。チャネル情報がCSIFB3−1により取得されると、送信方法決定回路1−5により、送信ウエイトが演算される。ここで、図1に示す装置との違いは、STA−0に対する送信ウエイトは、アンテナ4−4−1〜4−4−Mに対するチャネル応答行列から決定され、STA−1に対する送信ウエイトは、アンテナ4−4−(M+1)〜4−4−Nから決定される点である。すなわちSTA−0に対する送信ウエイトはアンテナ4−4−1〜4−4−Mと端末STA−1との間のチャネル行列のヌル空間に対応する基底ベクトルから決定され、STA−1に対する送信ウエイトは、アンテナ4−4−(M+1)〜4−4−Nと端末STA−1との間のチャネル行列の信号空間に対応する基底ベクトルから決定される。
送信電力の決定方法は、(16)式〜(18)式と同様であるが、決定された送信電力に応じて、送信回路4−3−1−1〜4−3−1−Mのグループと、送信回路4−3−2−1〜4−3−(N−M)のグループでそれぞれ異なるアンプ利得を用いるのが、本実施形態の特徴である。このように、送信電力の低減をDAC前のデジタル信号には行わず、送信回路におけるアンプ利得の違いにより実現することで、STA−1に対する信号への量子化雑音の影響を低減することが特徴となる。
よって、図2に示すデータ信号7は、データ・制御信号出力回路1−0においてデータを生成され、送信信号生成回路1−1により、STA−0に対する信号は、送信方法決定回路1−5から入力されたアンテナ4−4−1〜4−4−Mに対する送信ウエイトの乗算を行い、STA−1に対する信号は、アンテナ4−4−(M+1)〜4−4−Nに対する送信ウエイトの乗算を行い、それぞれ、DAC4−2−1〜4−2−Mと、4−2−(M+1)〜4−2−Mに出力される。OFDM変調、ガードインターバルの付加、パイロット信号付加などが行われ、STA−0への送信信号は送信回路4−3−1−1〜4−3−1−M、STA−1への送信信号は送信回路4−3−2−1〜4−3−2−(N−M)に出力される。送信回路4−3−1−1〜4−3−1−Mと送信回路4−3−2−1〜4−3−1−(N−M)とは、予め決められたSTA−1とSTA−0への送信電力の差に対応するアンプ利得の差を与える。生成された搬送波周波数の信号を、アンテナ1−4−1〜1−4−Nから送信を行う。データの送信が終わると、BACKを各端末から受信し、通信が終了する。
<第3の実施形態>
図5は本発明の第3の実施形態によるマルチユーザMIMOによる送信を行う無線送信装置の構成を示すブロック図である。図6において、5−0は、データ・制御信号出力回路、5−1は送信信号生成回路、5−2−1−1〜5−2−2−Nはデジタルアナログ変換器(DAC)、5−3−1−1〜5−3−2−Nは、送信回路、5−4−1〜5−4−Nはアンテナ、5−5は送信方法決定回路、5−6は低SNR端末決定回路、5−7−1〜5−7−Nは結合器である。
以下の説明においても、図5に示す無線送信装置が基地局であるものとして説明する。まず、基地局は、通信相手となる端末のSNR、またはスループットを測定する(ステップS101)。低SNR端末決定回路5−6は、予め定めた閾値ΓL[dB]より、SNRが低い端末、または、閾値TL[bit/s]より、スループットが低い端末を低SNR端末STA−0として決定する(ステップS102)。基地局は、STA−0と同一周波数、同一タイミングで送信できる端末としてSTA−1〜STA−Kを選択する(ステップS103)。STA−1〜STA−Kは、例えば予め定めた閾値ΓH[dB]より、高いSNRとなる端末、または、閾値TH[bit/s]より高いスループットとなる端末を選ぶこともできる。ここでは、STA−0とSTA−1〜STA−Kに対する送信の例を示すが、通信毎に、STA−0となる端末、STA−1〜STA−Kとなる端末は変更することができる。
基地局は、送信を行う端末が決定されると(ここでは、STA−1〜STA−KとSTA−0)、図3に示すNDPAとNDPがデータ・制御信号出力回路5−0において生成され、送信信号生成回路5−1により、パイロット信号付加、OFDM変調、ガードインターバルの付加などを行い、送信信号を形成し、DAC5−2−1−1〜5−2−1−Nによりアナログ信号に変換し、結合器5−7−1〜5−7−Nを介し、送信回路5−3−1〜5−3−Nへ出力する。送信回路5−3−1〜5−3−Nは、搬送波周波数にアップコンバートした上で、アンプにより増幅を行い、アンテナ5−4−1〜5−4−Nから送信を行う(ステップS104)。
STA−1からのCSIFBは、アンテナ5−4−1〜4−4−Nの少なくとも一つを介して、復号され、チャネル情報が抽出される。チャネル情報がCSIFB3−1により取得されると、送信方法決定回路1−5により、送信ウエイトが演算される。送信ウエイトの決定と送信電力の決定方法は第1の実施形態と同様である。
送信電力の決定方法は、(16)式〜(18)式、(24)式、(26)式、(27)式と同様であるが、決定された送信電力に応じて、DAC5−2−1−1〜5−2−1−Nのグループと、DAC5−2−2−1〜5−2−2−Nのグループでそれぞれ異なる範囲のアナログ信号に変換するのが本実施形態の特徴である。
このように、DACの出力信号の電力を、STA−0とSTA−1〜STA−Kに対する送信信号の比と同様に与えることで、量子化誤差の影響を受けないようにSTA−1〜STA−Kへの送信電力を生成できる。よって、図2、図3に示すデータ信号7は、データ・制御信号出力回路5−0においてデータを生成され、送信信号生成回路5−1により、STA−0に対する信号はDAC5−2−1−1〜5−2−1−Nを介してアナログ信号に変換し、STA−1〜STA−Kに対する信号はDAC5−2−2−1〜5−2−2−Nを介してSTA−0に対するDACの出力より電力の小さい信号を出力し、結合器5−7−1〜5−7−NにおいてSTA−0とそれ以外の端末への信号を結合し、送信回路4−3−1−1〜4−3−1−Nを介して、アンテナ1−4−1〜1−4−Nから送信を行う。データの送信が終わると、BACKを各端末から受信し、通信が終了する。また、本実施形態において、第1のDACグループ5−2−1−1〜5−2−1−Nと第2のDACグループ5−2−2−1〜5−2−2−Nで、アナログ信号の出力範囲を同様にし、結合器5−7−1〜5−7−Nにおいて、片方または両方の入力信号に送信電力差に応じた減衰量を与えて結合させることもできる。このようにすることで、DACがそれぞれ異なる範囲のアナログ信号範囲で出力することなく、STA−0とSTA−0以外の端末への送信電力差を適切に与えることができる。
<第4の実施形態>
第1〜3の実施形態において、STA−0からのチャネル情報のフィードバックを得て、本発明の送信を行うこともできる。この場合、送信のデータシーケンスは図8と同様(STA−3をSTA−0と考える)となるが、STA−0からのフィードバック情報の精度を低減することで、フィードバック信号(CSI−FB)の長さを短くし、MAC効率を向上できる。第4の実施形態では、STA−0に対するチャネル情報H
0,jを送信ウエイトの計算に用いる。V’’
1,j,Q’’
1,j、Z’’
1,j、 ̄V’’
j, ̄Q’’
j、または ̄Z’’
jをここで、行列X
jとして定義すると、
の信号空間に対応する基底ベクトルを算出し、得られた行列A
jをX
jに乗算して得られる行列X
jA
jをSTA−0に対するj番目の周波数チャネルにおける送信ウエイトとすることができる。
(28)式におけるH
0,jのチャネル情報誤差が大きく、実際のチャネルとのずれがあったとしても、STA−0以外の端末に対するチャネル情報の精度は高いため、STA−0以外の端末へユーザ間干渉を著しく低減できる。Ajは例えば、(29)式のようにQR分解を行うことで得られる。
T
jは上三角行列、A
jはH
0,jX
jの信号空間に対応する基底ベクトル、A’
jはH
0,jX
jのヌル空間に対応する基底ベクトルである。
第1〜第3の実施形態において、本実施形態による送信が可能かを判断するために、低SNR端末のSNRΓ
0と、低SNR端末と同時に送信される端末STA−kのSNRΓ
kの比を評価し、
を満たす条件となるSTA−kが存在する場合のみ、本発明による送信を行うこともできる。つまり、Γ
kが非常に大きい、近距離の端末が存在するか、通信可能で、Γ
0が低い遠距離の端末が存在する場合に、本実施形態の方法は効果が高い。
また、低SNR端末決定回路が、通信を行う端末のSNR情報を得る方法としては、端末から下り回線におけるSNRをフィードバックしてもらう方法や、上り回線で推定したSNRが下り回線でも同様であるとみなし、上り回線通信の受信信号から取得してもよい。また、SNRは時系列の信号に対して得られたものでもよいし、フーリエ変換により、周波数領域に変換された信号に対して得られたものでもよい。この場合、特定の周波数チャネルのSNR情報を当該端末のSNRとして用いることもできる。
次に、図7を参照して、前述した無線送信装置の効果について説明する。図7は、図1、図4、図5に示す無線送信装置の効果を示す図である。図7は、無線送信装置から30cmに存在するSTA−1と、無線送信装置から距離D[m]に存在するSTA−0に対し、従来のマルチユーザMIMO通信と、時間分割多重によるシングルユーザMIMO通信と、前述した方法によるSTA−0とSTA−1の総スループット特性[Gb/s]を示している。これは、図2に示すデータ信号7であるパイロット信号以外のデータ部をPHYのスループットによらず700個のOFDMシンボルとし、CSIフィードバックとしてIEEE802.11nのV行列圧縮フィードバックφとψに対するビット数を9ビット、7ビットとしてフィードバックさせた場合の結果である。シングルユーザMIMOの場合でもチャネル情報のフィードバックを要求するものとした。無線LANのシステムを考え、DIFSなどのアクセス取得までの時間を無視するものとし、通信全体にかかる時間に対するデータ信号を送信している区間の比率を、シングルユーザMIMOでは、87%、従来のマルチユーザMIMOでは、81%、前述した方法では、85%とした。この関係は、データ部の信号長や、任意のシーケンス6、などにより変化するが、「シングルユーザMIMO>前述した方式>従来のマルチユーザMIMO」の関係には違いがない。
シミュレーションでは、送信アンテナ数を8本、端末の受信アンテナ数を4本とし、基地局は1〜4まで任意の空間多重数と、QPSK〜256QAM、符号化率1/2、2/3、3/4、5/6の変調方式・符号化率からスループット最大化する最適な送信モードが選択できるものと仮定した。送信および受信に用いるDACとADCの量子化ビット数は14ビット、総送信電力15dBm、熱雑音レベルを−84dBmとして、IEEE802.11acの80MHzのOFDM信号に準拠したフォーマットで通信を行った。ここで、第1の実施形態による、図1の装置構成を仮定している。STA−0のAPからの距離は10m、20m、30m、40mとして評価した。伝搬モデルはIEEE802.11nに基づき、伝搬特性が変わるブレイクポイントを5mとして評価した。このとき、30cmにあるSTA−1の平均受信SNRは64dBであり、10m、20m、30m、40mに位置するSTA−0は29dB、18dB、12dB、8dBのSNRが得られる。
図7に示す結果から基地局(AP)からの距離が30m以上、SNRで12dB程度以下の端末に対し、有効であり、一部の端末のチャネル情報しか求めないのにもかかわらず、従来のマルチユーザMIMOより高い特性を得ることが分かる。また、距離20m、SNR18dBのSTA−0に対しても、シングルユーザMIMO通信に比べると高いスループットが得られている。
以上説明したように、マルチユーザMIMOでは、同時送信の対象となる各端末と基地局との間のチャネル推定を行う際に、基地局が、それぞれの端末との間での制御情報を交換することによって、チャネル推定を行う。このとき、通信状況の悪い端末(SNRの低い、又は、スループットの低い端末)との間では、使用する伝送レートが低いことによる伝送効率の劣化、および、推定精度が低いことによるユーザ間干渉の増加が生じる。
前述した無線送信装置(基地局)では、SNRの低い端末との間で制御情報の交換を行わず、SNRの高い端末との間で取得したチャネル情報に基づいて、SNRの低い端末にヌル空間となる基底ベクトルを用いること、及び、SNRの高い端末に対する送信電力を低下するようにした。具体的には、基地局は、各端末との間でSNRを測定し、閾値の低い端末をSNRの低い端末として判定し、制御信号の交換は、SNRの高い端末とのみ行うことにより、伝送効率の劣化を回避する。次に、SNRの高い端末に対して算出したチャネル情報に基づいて基底ベクトルを算出し、その一部を用いて、当該SNRの高い端末に対する送信ビームの重み係数を算出する。残りの基底ベクトルについてヌル空間となる基底ベクトルを用いてSNRの低い端末に対する送信ビームの重み係数を算出する。これにより、SNRの高い端末との間で算出したチャネル情報に基づいて、SNRの低い端末に対する重み係数を算出することができる。ここで、SNRの低い端末で受診されるSNRが高い端末宛ての送信信号に対する受信電力が低くなるように、各アンテナに対する電力配分を行うことができる。SNRの高い端末に対する送信電力を低くすることにより、SNRの低い端末におけるSNRの高い端末に対する送信信号に対する受信電力が低くなることにより、SNRの高い端末に対する送信信号からのユーザ間干渉が低減するため、受信特性を改善することができる。
なお、図1、図4、図5における処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより無線通信処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の精神及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行っても良い。