JP5722518B2 - 発芽分化植物種子の製造方法、発芽分化植物種子の易水溶性ポリフェノール及び/又は抗酸化物質を含む食品及び植物種子の発芽分化を行うための装置 - Google Patents

発芽分化植物種子の製造方法、発芽分化植物種子の易水溶性ポリフェノール及び/又は抗酸化物質を含む食品及び植物種子の発芽分化を行うための装置 Download PDF

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Description

本発明は、易水溶性ポリフェノールや抗酸化物質が増加した発芽分化種子、発芽分化植物種子の易水溶性ポリフェノール及び/又は抗酸化物質を含む食品及びその製造方法に関するものである。本発明によれば、食品原料、化粧品原料又は医薬品原料として有用な易水溶性ポリフェノールを多量に含む発芽分化種子を製造することが可能であり、その種子から容易に易水溶性ポリフェノールを抽出することができる。
植物体に含まれるポリフェノールは、分子内にフェノール性ヒドロキシ基を有する植物成分の総称であり、ほとんど全ての植物に含まれており、その数は5,000種以上に及んでいる。ポリフェノールは、フラボノイド系、フェノール酸系、エラグ酸系、リグナン系、クルクミン系、クマリン系、プロシアニン系、コーヒー酸系などに大別され、種々の生理活性、例えば、ラジカル消去能力や抗酸化作用を有している。具体的な生理活性機能としては、抗変異原性作用、抗癌作用、血圧上昇の抑制、抗糖尿病作用、抗アレルギーなどの機能をもつことが報告されている(Wine chemistry Yair Margalit The Wine Appreciation Guild 1997 Ca San Francisco)。そのため、ポリフェノールの適量の摂取は、健康によいと考えられており、従来から多くの食品、健康食品、医薬品あるいは化粧品に用いられている。
特開2001−158739号公報
このポリフェノールは、易水溶性のポリフェノールとして植物体に存在するものもあるが、難水溶性のアグリコンとして植物体に含まれるものも多い。特に植物の種子に含まれるポリフェノールは、難水溶性のポリフェノールが多く、このようなポリフェノールを植物体から抽出する場合、水やアルコールを含まない緩衝液では抽出することが困難であり、特許文献1のようにアルコールを含む抽出液を用いなければならなかった
また、難水溶性のポリフェノールは、水溶液の状態で利用することができないため、その利用範囲は比較的限定される傾向にあった。例えば、化粧品として利用する場合においてこれをクリームに含有させることはできても、アルコール無添加の化粧水には含有させられなかった。更に、健康食品等に含有させ経口で利用される場合も、一般に易水溶性のポリフェノールと比較して、難水溶性ポリフェノールは吸収されにくいため、十分効果が発揮できないことも考えられた。従って、実際に食品等にポリフェノールが含まれていても、それが難水溶性ポリフェノールである場合は、吸収が悪く十分な効果が得られないと考えられた。
そのため健康食品、化粧品等に使用する有用な易水溶性ポリフェノールを多量に含む発芽分化種子を製造し、その種子から容易に易水溶性ポリフェノールを抽出することができる方法や製法の必要があった。
本発明は発芽可能な植物の種子に、発芽分化させる発芽誘導工程において8,000ppm以上且つ20,000ppm以下の二酸化炭素濃度の雰囲気条件での保持、発芽温度条件での保持を実施する、易水溶性ポリフェノールが増加した発芽分化種子の製造方法である。植物種子は散水により含水され、前記散水中には殺菌剤を含む。含水は発芽誘導工程の前及び/又は発芽中に行われることが好ましい。さらに、発芽誘導工程において、18容量%以下の酸素濃度の雰囲気条件で保持されるとともに、前記二酸化炭素及び酸素濃度は、植物種子の呼吸作用によって調整されることが好ましい。さらに好ましくは、前記発芽誘導工程の前に、植物の種子に加熱する工程を含む、易水溶性ポリフェノールが増加した発芽分化種子の製造方法である。前記発芽誘導工程が、好ましくは更に光の照射を行う発芽誘導工程である。詳細には前記光の照射が1日当たり5000ルクス以上で2時間以上であることが好ましい。
前記発芽誘導工程において、前記雰囲気条件の二酸化炭素濃度が8,000ppm以上且つ20,000ppm以下で、発芽誘導工程時間の60%以上断続的に保持することが好ましい。
前記発芽誘導工程において、前記雰囲気条件の酸素濃度が4容量%以上且つ18容量%以下で、発芽誘導工程時間の60%以上断続的に保持することが好ましい。前記発芽誘導工程において、前記発芽温度が20℃〜45℃であることが好ましい。前記加熱の温度が発芽適温の中央値の5℃以上30℃以下であることが好ましい。前記発芽誘導工程が、種子を堆積させて行う発芽誘導工程であり、発芽温度条件での保持を発芽熱による温度上昇及び散水による温度低下を利用して行なうことが好ましい。
本発明は発芽可能な植物の種子に、発芽分化させる発芽誘導工程において8,000ppm以上且つ20,000ppm以下の二酸化炭素濃度の雰囲気条件での保持、さらに発芽温度範囲に保持し、植物種子を含水させることで得られる、易水溶性ポリフェノールが増加した発芽分化植物種子を含む食品に関するものである。前記含水は散水を含み、前記散水中には殺菌剤を含むものである。好ましくは、発芽誘導工程において、さらに18容量%以下の酸素濃度の雰囲気条件で保持されるとともに、前記二酸化炭素及び酸素濃度は、植物種子の呼吸作用によって調整される。好ましくは、植物種子に光の照射を行う発芽誘導工程である。前記光の照射が1日当たり5000ルクス以上で2時間以上であることが好ましい。発芽誘導工程において、発芽温度が20〜45℃が好ましい。発芽分化工程前に種子が発芽適温の中央値の5℃以上30℃以下で維持されることが好ましい。
食品に含まれる植物種子は、植物種子1グラムあたり最低1ミリグラムの易水溶性ポリフェノール混合物を含むことが好ましい。植物種子1グラムあたり最低2ミリグラムの易水溶性ポリフェノールを含むことが好ましい。さらに、植物種子は植物種子1グラムあたり最低40μmol DPPH相当の抗酸化物質を含み、未発芽種子と比較して最低8倍以上の易水溶性ポリフェノール量を有し、ブドウ科の植物種子を含むことが好ましい。
本発明の他の様態として、易水溶性ポリフェノール量が増加した植物種子を発芽する装置がある。この装置は、発芽分化させる発芽誘導の工程において、8,000ppm以上且つ20,000ppm以下の二酸化炭素濃度の雰囲気条件での保持を行う手段をもつ。この装置はさらに植物種子を発芽温度範囲内に保持する手段、また植物種子を含水させる手段をもつ。また、前記含水には、散水を含み、前記散水中には殺菌剤を含む。発芽誘導の工程において、さらに酸素濃度を18容量%以下に保持するとともに、前記二酸化炭素及び酸素濃度は、植物種子の呼吸作用によって調整される手段を有することが好ましい。またさらにこの装置は植物種子を1日あたり5000ルクス以上で2時間以上光を照射する光源を有することが好ましい。
本発明の参考例は発芽分化種子の易水溶性ポリフェノール量を増加させるシステムと方法に関するものである。参考例によれば、発芽可能な植物種子を、実質的に2000ppm以上の二酸化炭素濃度及び/又は実質的に18容量%以下の酸素濃度の雰囲気条件での保持、発芽温度条件での保持、並びに散水を行うことで発芽工程を誘導するためのシステムおよび方法が提供される。
様々な要素を説明するのに最初の、2番目の等の語を用いるが、これは要素を区別するものであり、限定するものではない。例えば最初の要素が2番目の要素と表現されることがあり、同様に2番目の要素が最初の要素と表現されることもあるが、発明の範囲を逸脱するものではない。「及び/又は」という語は記載されたもののいずれかや全てを単独もしくは組み合わせたものを含む。
以下の詳細な説明では具体的な実施例に添付された図について述べる。前述の図は特定の例として発明を説明するものであり、これを限定するものではない。これらの実施は詳細に説明されており、当業者の実施を可能としている。その他の様々な実施例や実施も本発明の原則と一致している。他の実施例や実施を用いてもよく、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な要素に対して構造の変化及び/又は代替を行ってもよい。従って以下の詳細な説明は狭義で解釈するものではない。
ポリフェノールとは、同一分子内にフェノール性ヒドロキシ基2つ以上をもつ植物由来の化合物であり、フラボノイド系、フェニルカルボン酸系、エラグ酸系、リグナン系、クルクミン系、クマリン系、プロシアニン系、コーヒー酸系などに分けられ、5,000種以上のポリフェノールがある。例えば、カテキン、タンニン、アントシアニン、プロアントシアニン、ケルセチン、イソフラボン、ルチン、クロロゲン酸、カカオマスポリフェノール、キサントンなどが挙げられる。これらのポリフェノールを含む植物の種子としては、カテキンを多く含有する種子としては、お茶、リンゴ、ブルーベリー、レンコンなどが、タンニンを多く含有する種子としては、お茶、カキ、バナナ、ブドウなどが、アントシアニン、プロアントシアニンを多く含有する種子としては、ブドウ、リンゴ、ブルーベリーなどが、ケルセチンを多く含有する種子としては、玉ねぎ、ほうれん草、ブロッコリー、春菊などが、イソフラボンを多く含有する種子としては、大豆、クローバーなどが、ルチンを多く含有する種子としては、ソバが、クロロゲン酸を多く含有する種子としては、ジャガイモ、プルーン、春菊などが、カカオマスポリフェノールを多く含有する種子としては、カカオ、コーヒーなどが、キサントンを多く含有する種子としては、マンゴスティーンなどが挙げられる。
本発明者らは、植物体から易水溶性のポリフェノールを安定的に取得するための方法について、鋭意研究した結果、植物の種子が発芽分化した場合に、易水溶性のポリフェノールが増加することを見出した(米国特許出願 11/246,442)。更に、発芽誘導前の加熱処理、及び発芽分化誘導時に、酸素濃度及び/又は二酸化炭素濃度、並びに発芽温度を調整することにより、発芽分化種子に含有される易水溶性のポリフェノールの量が顕著に増加することを見出した。本発明はこうした知見に基づくものである。特に、実質的に2000ppm以上の二酸化炭素濃度及び/又は実質的に18容量%以下の酸素濃度の雰囲気条件で種子を発芽分化させることで、発芽分化種子内の易水溶性ポリフェノール量が増加することがみつかった。
本明細書中の易水溶性ポリフェノールとは、アルコールなどの有機溶媒を含まない緩衝液又は水で容易に抽出されるポリフェノールであれば、特に限定されるものではない。例えば、植物の種子に多く含まれるアグリコンである難水溶性のポリフェノールに糖が付加した配糖体のポリフェノールの多くは易水溶性ポリフェノールとなる。具体的には、配糖体フラボノイドであるルチン、ダイジン、ナリンギン、及びヘスペリジンなどは易水溶性のポリフェノールである。また、代表的なポリフェノールのアントシアニジンは難水溶性であるが、アントシアニジンをアグリコンとする配糖体であるアントシアニンは易水溶性ポリフェノールである。また、ブドウ種子に多く含まれるプロアントシアニジンの配糖体である配糖体プロアントシアニジンも易水溶性のポリフェノールである。
本発明方法に使用される植物の種子は、発芽分化により易水溶性ポリフェノールが、増加する種子であれば特に限定されない。多くの種子は脂溶性のアグリコンである難水溶性ポリフェノールを含んでいる。これらのアグリコンは、糖が付加された配糖体となることにより、易水溶性のポリフェノールとなる。発芽分化により易水溶性のポリフェノールが増加する種子としては、ブドウ科のブドウなど、キク科のサンフラワー、サフラワー、及びゴボウなど、マメ科のクローバー、ピーナツ、及びコロハなど、十字花科(アブラナ科)のブラシカなど、ゴマ科のゴマなど、シソ科のエゴマ、アマニ、シソ、ローズマリー、タイム、セージ、及びミントなど、タデ科のソバなど、イネ科の米、コーン、小麦、ワイルドライス、大麦、アワ、及びヒエなど、バラ科のアメリカンレッドチェリー、アプリコット、アーモンド、プラム、イチゴ、及びビワなど、ミカン科のグレープフルーツ、及びオレンジなど、オトギリソウ科のセントジョンズワート、及びマンゴスティーンなど、ナス科のトマト、及びピーマンなど、セリ科のニンジンなど、ウルシ科のマンゴなど、ザクロ科のザクロ、タデ科のイタドリ、アオギリ科のカカオなど、カラタチ科、イチョウ科、クワ科、タデ科、ツバキ科、モクセイ科、及びヒイラギ科の種子などを挙げることができる。
本発明の方法により、植物種子中に易水溶性のポリフェノールが高濃度に増加する理由は、完全に解明されているわけではないが、以下のように推論することができる。しかしながら、本発明は以下の説明によって限定されるものではない。
植物の種子中の難水溶性のポリフェノールは、発芽分化により易水溶性のポリフェノール、例えば、配糖体ポリフェノールへと変換される。この難水溶性ポリフェオールから配糖体ポリフェノールへの変換は、酵素反応などを介して起こると考えられるが、更に発芽分化が進むと蓄積した易水溶性ポリフェノールが発芽分化のために使用され、減少する。易水溶性ポリフェノールは種子の呼吸により消費されると考えられる。二酸化炭素濃度及び/又は酸素濃度をコントロールすることにより、種子の呼吸を抑制し、易水溶性ポリフェノールの消費を抑え、種子中の易水溶性ポリフェノール濃度を上昇させることができると考えられる。
しかしながら、本発明の作用は単純に呼吸作用が抑制されるだけでなく、二酸化炭素濃度の低下による種子中のpHの低下、発芽温度の変化による種子内の酵素反応の活性化、光の照射による影響なども、難水溶性ポリフェオールから配糖体ポリフェノールへの変換、及び易水溶性ポリフェノールの蓄積に影響していると考えられる。もちろん、これらの仮説により実施例が限定されるものではなく、また装置に関する特定の仮設または理論に依存、もしくは限定されるものではない。
本発明の易水溶性ポリフェノールの増加方法に使用する植物の種子は、発芽可能な状態の種子を使用する。発芽可能な植物の種子とは、「休眠状態」でない種子である。例えば、9〜12%の含水率である植物種子は休眠状態であると考えられる。
本発明方法の加熱は、前記のように含水と同時に行なうことも可能であるが、単独の工程として行なうこともできる。植物の種子を休眠状態から発芽可能な状態にするには、具体的には、種子を加熱すること、又は含水させることによって発芽可能な状態にすることができる。しかし、特に特別な前処理を行なわずに、発芽誘導工程中の散水により、種子の含水率が上昇し、発芽可能な状態の種子にすることが可能である。
加熱および含水を組み合わせることが特に有効である。加熱および含水を組み合わせることで発芽可能な状態になった種子は、加熱もしくは含水のいずれかのみを行って発芽可能となった場合の種子と比較して一般的に易水溶性ポリフェノール量が大きい。加熱はまた発芽を促進する。さらに、種子は加熱を行わなくても含水のみで発芽可能な状態にする事が可能であるが、種子の加熱と含水を同時に行うことで発芽率が上昇する。加熱及び含水を同時に行なう場合は、例えば、加熱した水に種子を一定時間浸漬することによって行なうことができる。
種子は特別な前処理を行わなくても、発芽可能温度の範囲内の水を散水することで発芽可能な状態となる。
植物種子は発芽可能温度の範囲で加熱することで発芽可能な状態となり、ポリフェノール量が増加する。本実施例では種子の温度は発芽適温以上かつ、植物種子内のたんぱく質を変性させない温度で保持される。それぞれの発芽適温の中央値より、5℃〜30℃高い温度で加熱することが好ましい。
植物の種子を加熱する加熱温度は、植物種子の発芽適温よりも高い温度領域が好ましい。植物種子の発芽適温は、植物によって異なるが、10℃〜45℃、好ましくは、20℃〜40℃である。例えば、ブドウの種子の発芽適温は20℃〜35℃、リョクトウの発芽適温は20℃〜35℃、ダイコンの発芽適温は18℃〜30℃、及びダイズの発芽適温は10℃〜30℃である。ブドウやリョクトウの発芽適温の中央値は約28℃であり、ダイコンの発芽適温の中央値は24℃であり、ダイズの発芽適温の中央値は20℃である。
温度は高い方が易水溶性ポリフェノール量が増加する。これは植物種子内のある種のたんぱく質に関連していると考えられる。これらのたんぱく質はポリフェノールとの親和性があると考えられる。ポリフェノールとの競合的な反応があるため、目的とする易水溶性物資に必要なポリフェノール量を減少させるものと予測される。
発芽適温より5℃以内の温度上昇は、易水溶性ポリフェノールの生成を促進する発芽分化反応にほとんど影響を与えない。しかし5℃程度のわずかな温度上昇でも易水溶性ポリフェノールの生成量が増加する事が確認された。一つの仮説として、この生成量の増加はタンパク質の変性を促進することが原因の一部と考えられる。タンパク質量の減少が、易水溶性ポリフェノールの生成量を減少させる競合的な反応を妨げたり抑制したりすると考えられる。これが開示された工程の含水や温度の効果を説明するものである可能性はあるが、ここに開示された工程、原則や実施例はこの説明やその他の理論に依存するものではない。
発芽適温の中央値より5から20℃高い加熱温度を選択した。具体的には、ブドウやリョクトウの場合は、33℃〜48℃で、ダイズの場合は、25℃〜50℃で加熱することが好ましい。
本発明の製造方法における含水は、前記の加熱と同時に行なうことも可能であるが、単独で行なうこともできる。更に、後述の発芽分化工程において、散水によって植物種子に含水させることも可能である。前記の加熱によってブドウ種子は休眠状態から発芽分化状態に移行し、発芽分化の開始に伴って植物種子は大量に水分を吸収することとなるからである。
発芽分化種子に含まれる易水溶性ポリフェノール量は、大気中の二酸化炭素濃度及び/又は酸素濃度の影響を受けることが知られている。二酸化炭素濃度の増加や酸素濃度の減少により、発芽分化種子内の易水溶性ポリフェノールの生成が高まる。しかし、二酸化炭素濃度と酸素濃度の両方を調整すると、より多くの易水溶性ポリフェノールが得られる(例えば二酸化炭素を増加させ、酸素を減少させる)。さらに発芽温度の調整、種子への散水、及び種子に光を照射すると、易水溶性ポリフェノール量が一層増加する。
酸素濃度は、大気中の酸素濃度(20%)より低い濃度であり、発芽分化種子の易水溶性ポリフェノールを増加させる濃度であれば、特に重要ではない。酸素濃度は好ましくは4容量%〜20容量%であるが、4容量%〜18容量%、4容量%〜15容量%でも効果的である。4容量%未満であると種子の酸素呼吸が弱く、易水溶性ポリフェノール量が減少する。
これまで、酸素濃度が減少すると種子中の易水溶性ポリフェノールの消費が抑制されると仮定されてきた。しかしながら本実施例はこれやこれ以外の理論に依存するものではなく、いかなる理論によって限定されるものでもない。
酸素濃度のコントロールは、酸素濃度を調節可能なインキュベーター、デシケーター、栽培室などを用いることによって行なうことができる。しかし、密閉されたもしくは換気の悪い装置内では発芽分化種子の呼吸作用により酸素を消費するので、例えば密閉可能な容器に植物種子を何層かに堆積させることによって、酸素濃度を低下させ調整することも可能である。 容器内の酸素は発芽分化を開始した種子によって消費され、酸素濃度は低下する。酸素濃度範囲が、効果の得られる濃度範囲より低くなることを防ぐために、一定時間ごとに通常大気雰囲気と置換することにより酸素濃度を適当な濃度に維持することができる。通常大気雰囲気との置換は、後述する散水により、堆積した種子の間の気体が置き換わることによってできる。
酸素濃度は、発芽誘導工程において、酸素濃度を、例えば、5容量%、10容量%、又は15容量%などの一定の濃度で、維持してもよいが、実質的に18容量%以下に保持されていればよい。この発芽誘導工程の酸素濃度において「実質的」とは、発芽誘導工程の総時間の60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上において、所定の濃度に保持されることを意味する。所定の濃度に保持される時間は、連続的でも構わないが、断続的に保持されることが好ましい。
二酸化炭素濃度は、大気中の二酸化炭素濃度より高い濃度であり、発芽分化種子の易水溶性ポリフェノールを増加させ、種子内での消費を抑制し、蓄積させる濃度であれば、特に限定されないが、好ましくは2,000ppm(0.2容量%)〜100,000ppm(10容量%)、より好ましくは4,000ppm(0.4容量%)〜50,000ppm(5容量%)、最も好ましくは12,000ppm(1.2容量%)〜20,000ppm(2容量%)である。2000ppm未満では呼吸の抑制効果が見られず、易水溶性ポリフェノールが消費されてしまい、10%を超えると発芽に障害がでるからである。
二酸化炭素濃度のコントロールは、二酸化炭素濃度を調節可能なインキュベーター、デシケーター、又は栽培室などを用いることによって行なうことができる。しかし、特別な装置を用いず、発芽分化種子の呼吸作用により排出される二酸化炭素によって、二酸化炭素濃度を上昇させ調整することも可能である。例えば、密閉可能な容器に植物種子を何層かに堆積させることによって、発芽分化を開始した種子の呼吸作用により二酸化炭素濃度が排出され、二酸化炭素濃度が上昇する。二酸化炭素濃度範囲が効果の得られる濃度範囲より高くなることを防ぐために、一定時間ごとに空気を置換することにより二酸化炭素濃度を適当な濃度に維持することができる。空気の置換は、後述する散水により、堆積した種子の間の空気が置き換わることによってできる。
二酸化炭素濃度は、発芽誘導工程において、二酸化炭素濃度を連続的に2,000ppm、10,000ppm、又は50,000ppmなどの一定の濃度で維持してもよいが、実質的に12,000ppm前後に保持されていればよい。この発芽誘導工程の酸素濃度において「実質的」とは、発芽誘導工程の総時間の60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上において、所定の濃度に保持されることを意味する。所定の濃度に保持される時間は、連続的でも構わないが、断続的に保持されることが好ましい。
発芽誘導工程の発芽温度条件は、植物の種子が発芽分化できる温度条件であれば限定されない。発芽分化可能な温度は、植物種子によって異なるが、例えば、その植物の発芽適温で行なうことが可能である。植物種子の発芽適温も、前記のように植物種子によって異なるが10℃〜50℃、好ましくは20℃〜45℃、より好ましくは26℃〜42℃である。発芽誘導工程において、植物種子は一定の発芽温度で保持されてもよく、また、一定の温度範囲内で保持されてもよい。植物種子を一定の温度範囲内で保持する場合は、温度の上昇及び下降を繰り返す条件で保持してもよい。
温度条件のコントロールは、温度調節可能なインキュベーターを用いてもよいし、室温を調整できる栽培室を用いることによっても行なうことができる。従来型のヒーター、冷却装置、又は空気制御や電子制御装置等により温度を保持することが可能である。発芽分化中の植物種子の呼吸作用による発芽熱と、散水により発芽温度条件を調整することも可能である。
温度や温度範囲を保持するために、様々な方法が同時にとられることもある。例えば、発芽温度条件は発芽熱及び散水により調整することが可能である。植物種子を何層かに堆積させることによって、発芽分化を開始した種子の呼吸作用により発芽熱が発生する。種子が堆積しているために発生した発芽熱は放散せず、時間の経過と共に、堆積した種子の間の温度が上昇する。この上昇した温度を、一定時間ごとに行なう散水により、下降させることによって一定温度範囲内に発芽温度を調整することが可能である。このように温度条件を発芽熱と散水によって調整する場合は、図1に示すように、温度は植物の種子が発芽分化できる温度条件の範囲内で漸次の上昇と下降を繰り返すことになる。
一定温度での保持によっても、発芽植物種子内の易水溶性ポリフェノールは十分増加するが、温度条件の範囲内で漸次の上昇と急激な下降を繰り返すことが、易水溶性ポリフェノールの種子内での増加に影響している可能性も考えられる。
散水は、発芽誘導工程において植物種子の乾燥を防ぐために行なう。「散水」とは種子に水を吹き付けたり、水をかけたり、断続的に水に浸漬させたり、また種子に霧を当てたり、湿度を比較的高い状態(種子の発芽温度範囲内の温度で80%飽和状態以上)で維持し、種子の乾燥を防ぐことを意味する。散水は、発芽誘導工程における温度や温度範囲を保持し、湿度を保持する等複数の役目を果たしている。
散水する水の温度は、特に限定されないが、発芽温度条件の範囲内の温度が好ましい。特に、散水で温度条件を一定範囲に調整する場合は、発芽温度条件範囲で、比較的低い温度の水を使用することが好ましい。散水に使用する水は、衛生上の観点から、発芽誘導工程における細菌などの発生を防ぐため、殺菌剤を含むことが好ましい。殺菌剤としては、例えば、10ppmの次亜塩素酸ナトリウムなどが挙げられるが、その他の抗菌化合物を使用しても良い。
発芽誘導工程においては、光の照射を行なうことが好ましい。全く光を照射しない場合でも、発芽分化種子において易水溶性ポリフェノールは、十分増加するが、光を照射することによって、更に易水溶性ポリフェノールが増加する。光の照射は、植物栽培で通常使用される蛍光管を使用することが可能である。波長の異なる三波長型、四波長型、UV、赤外などの光を単一で又は組み合わせて使用してもよい。光の照射時間は特に限定されないが、2時間以上が好ましく、より好ましくは4時間以上、最も好ましくは6時間以上であり、最大24時間照射してもよい。また、光強度は、20μmol/m2・秒〜100μmol/m2・秒が好ましい。本明細書において「発芽分化種子」とは、休眠状態から発芽可能な状態に移行した種子を意味する。例えば、加熱工程によりヒートショックを受け、含水工程により含水率が上昇した種子が含まれる。従って、外見的には芽が出ていない種子も、本発明の「発芽分化種子」に含まれ、発芽し芽が伸長した種子も含まれる。本発明の発芽分化種子は、休眠状態にある未発芽の種子と比較すると1.5倍以上の易水溶性ポリフェノールを含んでいる。
本発明の方法により得られた易水溶性ポリフェノールを含む発芽分化種子から、易水溶性ポリフェノールを抽出する方法は、公知の方法を使用することが可能である。例えば、発芽種子を破砕し、水又は有機溶媒を含まない水系緩衝液で抽出することによって、易水溶性ポリフェノールを含む抽出物を得ることができる。
上述のように、密閉もしくは一部密閉された容器内に植物種子を堆積させる。さらにこの構造は、種子の周囲の酸素濃度を減少させ二酸化炭素濃度を上昇させるので、易水溶性ポリフェノール(抗酸化物質)が増加する。
植物種子830を堆積して発芽誘導工程を行なう装置としては、図8に示したような発芽誘導容器800を例示することができる。発芽誘導容器800は、上面810が開放状態で使用することも可能であるが、密閉して使用することも可能である。容器内の二酸化炭素濃度、酸素濃度、及び温度を管理するためには、上面810および下面840とを密閉状態で使用することが望ましい。また、二酸化炭素濃度、酸素濃度、及び温度を管理できる栽培室などにおいて開放状態で使用することも可能である。また容器内の二酸化炭素、酸素及び温度は栽培室と近い条件である。
発芽誘導容器800は、上方に水820を散水するためのノズル860を有している。底面は約1cm間隔で排水口(空気口)850があり、散水で余った水を排水することができる。排水口は下部容器840の底から出てくる垂直な管(図示しない)と結合する。各管はU字型の管の片方のアームとはめ合わせる。各U字管の他方のアームは室内の周囲環境に開放されており、散水された水がU字管のある一定の高さまでたまると開放されたアームから水があふれ出し、U字管はサイフォンとして働く。このサイフォンにより散水終了後、容器内は空になる。
本発明の発芽分化種子の製造方法によれば、発芽分化種子に含まれる易水溶性のポリフェノールの量を顕著に増加させることが可能である。また、本発明の発芽分化種子によれば、未発芽種子と比較して多くの易水溶性ポリフェノールを含んでいるため、アルコールなどの有機溶媒を使用せずに、種子からのポリフェノールの抽出及び精製を容易に行なうことが可能である。更に、本発明の易水溶性ポリフェノールの製造方法により抽出された易水溶性ポリフェノールを含む抽出物は、アルコールなどの溶媒を含んでいないため、食品、健康食品、医薬品あるいは化粧品などの広範囲の用途に容易に適用することが可能である。
以下に実施例及び比較例を示し本発明の具体的な説明を行うが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
これらの実施例について、未発芽分化種子及び発芽分化種子の易水溶性ポリフェノール量は標準的な方法で測定された(社団法人 日本生物工学実験書「生物工学実験」培風館)。種子は破砕され、水や有機溶媒を含まない緩衝液で易水溶性ポリフェノールを抽出した。溶液中の易水溶性ポリフェノール量は没食子酸を標準とし、吸光を用いて測定した。またポリフェノールと配糖体はそれぞれフォーリン・チオカルト法とフェノール・硫酸法によって測定された。抽出物中の化合物は薄層クロマトグラフィーを用いる方法により、易水溶性配糖体であることが確認された。前記の発芽分化種子からの抽出物中の易水溶性ポリフェノールの抗酸化活性は、Trolox(トロロックス:6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid)標準を参考にジフェニピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル捕捉活性により測定された。
実施例1:ブドウ種子での易水溶性ポリフェノールの増加
ブドウ種子225gを流水で洗浄後、殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウム100ppmを含む水溶液50℃で1時間浸漬した。種子を取り出し、更に100ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を交換し、40℃で4時間時間浸漬した。次に、種子を蒸留水で洗浄後、柔らかい紙で水を取り除いた。種子を発芽誘導容器800に約5cmの厚さで積層した(図8)。発芽誘導容器800の上面を密閉し、室温28℃の栽培室に設置し、4時間おきに28℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水した。24時間(1日)、48時間(2日)、96時間(4日)、168時間(7日)ごとに発芽分化種子約100粒(4.12g)を回収した。
回収した発芽分化種子4.12gを乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し、乳棒で破砕した。破砕物を10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。
発芽分化ブドウ種子から得られた抽出物に含まれたポリフェノールを前述の方法で分析した。一つの方法では抽出物に302μgのポリフェノールが含まれていた。 また別の配糖体分析によると366μgの配糖体の存在を確認した。つまり抽出物中には、多量に水溶性の配糖体ポリフェノールが存在した。ブドウ種子中に最も多く含まれるポリフェノールはプロアントシアニジンであるが、この発芽分化した種子に含まれる配糖体ポリフェノールはプロアントシアニジン又はその誘導体に糖が付加した配糖体ポリフェノールであると考えられる。
比較例2:未発芽種子からの易水溶性ポリフェノールの抽出
ジュースポマス由来のブドウ種子(リースリング種:含水率9.5〜11.0)約100粒(4,12g)を、乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し乳棒で破砕した。これを10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。
実施例1の24時間経過した発芽分化ブドウ種子から得られた抽出物と比較して、約半分の易水溶性ポリフェノールが含まれていた。
実施例3:酸素濃度および二酸化炭素濃度の効果
リョクトウ種子、クローバー種子、サンフラワー種子、又はユズ種子225gを流水で洗浄後、殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウム100ppmを含む水溶液40℃で4時間浸漬た。次に、種子を蒸留水で洗浄し、柔らかい紙で水を取り除いた。種子を発芽誘導容器800に約5cmの厚さで積層した(図8)。
発芽誘導容器800を室温(28℃)の栽培室に設置し、4時間おきに28℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水し、48時間発芽誘導し、発芽分化種子約675gを回収した。
回収した発芽分化種子4.12gを乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し乳棒で破砕した。この破砕物を10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。
発芽誘導容器800を用いたリョクトウ種子の温発芽誘導工程での温度変化を発芽誘導開始から24時間まで測定した。温度は、種子を積層した表面から3cm内部の位置の温度である。栽培室は28℃であるが、発芽誘導容器内の温度は、リョクトウ種子の発芽熱で次第に上昇する。発芽誘導開始から4時間で39℃に達するが、28℃の水温の10ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液を散水し、発芽物の温度を28℃まで低下させる(図1)。この温度は表面から3cm内部で測定しているが、積層された種子の内部は、ほぼ同じ温度変化を示した。
発芽誘導容器800を用いたリョクトウ種子の温発芽誘導工程での酸素濃度変化を発芽誘導開始から24時間まで測定した。酸素濃度は、種子積層した表面から3cm内部の位置の濃度である。4時間おきの散水時に外気と入れ替わるので、一時的に通常大気雰囲気の酸素濃度になるが、すぐに酸素は種子の呼吸作用によって消費され、15%以下に低下する。(図3)。この濃度は表面から3cm内部で測定しているが、積層された種子の内部はほぼ同じ濃度変化を示した。
発芽誘導容器800を用いたリョクトウ種子の発芽誘導工程での二酸化炭素濃度変化を発芽誘導開始から24時間まで測定した。二酸化炭素濃度は、種子を積層した表面から3cm内部の位置の濃度である。4時間おきの散水時に外気と入れ替わるので、一時的に通常大気雰囲気の二酸化炭素濃度になるが、すぐに二酸化炭素は種子の呼吸作用によって増加する。散水後、二酸化炭素は急激に8000ppmに達する(図5)。二酸化炭素濃度は表面から3cm内部で測定しているが、積層された種子の内部はほぼ同じ濃度を示した。
参考例4:酸素濃度および二酸化炭素濃度の効果
リョクトウ種子、クローバー種子、サンフラワー種子、又はユズ種子225gを流水で洗浄後、殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウム100ppmを含む水溶液40℃で4時間時間浸漬し、加熱及び含水を同時に行なった。次に、種子を蒸留水で洗浄後、柔らかい紙で水を取り除いた。種子を発芽容器700に一層にまいた(図7)。
発芽容器700は、上面710が開放状態であり、上方に散水用のノズル760を有している。底面には1cm間隔で排水口(空気口)740があり、余分な水を排水することができる。上面は開放状態であり、多くの排水口(空気口)を有するため、容器内の酸素濃度及び二酸化炭素濃度は通常大気雰囲気の濃度とほぼ同じに保たれる。1回目では発芽容器700を38℃の栽培室に設置し、4時間おきに36℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水した。2回目では容器700を室温28℃の栽培室に設置し、4時間おきに27℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水した。それぞれ48時間後に、発芽分化種子約675gを回収した。
回収した発芽分化種子4.12gを乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し乳棒で破砕した。この破砕物を10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。
図2に示すように発芽容器700を用いたリョクトウ種子の発芽誘導工程での温度変化を発芽誘導開始から24時間まで測定した。温度は、一層にまいた種子の表面上で測定した。栽培室が38℃の場合、10ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液の散水により36℃に低下した。よって図2の曲線210で示されるように1回目の試験では温度は36℃と38℃の間に保たれている。栽培室が28℃の場合、10ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液の散水により27℃に低下した。よって図2の曲線220で示されるように2回目の試験では温度は27℃と28℃の間に保たれている
発芽容器700を用いたリョクトウ種子の発芽誘導工程での酸素濃度変化を発芽誘導開始から24時間まで測定した。酸素濃度は、一層にまいた種子の表面の濃度を測定した。酸素濃度は、発芽誘導工程を通じてほぼ21%であった(図4)。
発芽容器700を用いたリョクトウ種子の発芽誘導工程での二酸化炭素濃度変化を発芽誘導開始から24時間まで測定した。二酸化炭素濃度は、一層にまいた種子の表面の濃度である。二酸化炭素濃度は、発芽誘導工程を通じてほぼ300ppmであった(図6)。
抽出物の分析
リョクトウ種子、クローバー種子、サンフラワー種子、またユズ種子から得られた抽出物を上記の方法で分析した。
表1に示すように、発芽分化種子は、未発芽の種子と比較して、リョクトウは少なくとも11倍以上、クローバーは少なくとも5倍以上、サンフラワーは少なくとも4.1倍以上、ユズは少なくとも20倍以上の易水溶性ポリフェノールを含んでいた。一方、参考例4の発芽種子は、栽培室温度が38℃又は28℃の場合も、実施例の発芽分化種子3より易水溶性ポリフェノールの量は少なかった。(表1)。
実施例5: 温度の効果
リョクトウ種子、クローバー種子、サンフラワー種子、ブドウ種子225gを流水で洗浄後、発芽適温(中央値)又は発芽適温(中央値)より10℃高い温度の次亜塩素酸ナトリウム100ppmを含む水溶液で4時間浸漬し、加熱及び含水を同時に行なった。次に、種子を蒸留水で洗浄し、柔らかい紙で水を取り除いた。種子を発芽誘導容器800に約5cmの厚さで積層した(図8)。発芽誘導容器800を室温(28℃)の栽培室に設置し、4時間おきに28℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水し、8時間発芽誘導し、発芽分化種子約675gを回収した。リョクトウ種子の発芽適温の中央値は28℃、クローバー種子の発芽適温の中央値は24℃、サンフラワー種子の発芽適温の中央値は24℃、ブドウ種子の発芽適温の中央値は28℃である。
リョクトウ種子、クローバー種子、サンフラワー種子、又はブドウ種子の回収した発芽分化種子4.12gを乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し乳棒で破砕した。これを10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。
上述の方法で各サンプルのポリフェノール含有量を分析した。分析結果を表2に示す。発芽適温の中央値より10℃高い温度で加熱工程を行なった場合は、平均発芽適温で加熱工程を行なうより、易水溶性ポリフェノールの増加が顕著であった。リョクトウ種子では、発芽適温の5℃、20℃、及び30℃高い温度で加熱工程を行なった場合も、平均発芽適温で加熱工程を行なうより、易水溶性ポリフェノールの増加が顕著であった。
参考例6:酸素濃度の効果
酸素濃度の低下が、発芽誘導工程の際に易水溶性ポリフェノールを増加させる影響について、ブドウ種子を用いて検討した。ブドウ種子225gを流水で洗浄後、100ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液で、40℃で4時間時間浸漬した。
次に、種子を蒸留水で洗浄し、柔らかい紙で水を取り除いた。種子をデシケーターに入れ、窒素ガスと空気の混合により酸素濃度を5%、10%及び15%に調整した気体を通気させた。通常大気雰囲気下の酸素濃度は約21容量%である。デシケータ内の二酸化炭素濃度は、いずれの条件でもほぼ350ppmだった。温度を28℃に維持し、4時間おきに28℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水し、48時間発芽誘導し、発芽分化種子約675gを回収した。
回収した発芽分化種子4.12gを乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し乳棒で破砕した。この破砕物を10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。この発芽種子抽出物250μlを分析した。
種子抽出物の抗酸化力の相対的な値をジフェニピクリルヒドラジル(DPPH)/Troloxラジカル捕捉活性法を用いて吸光度A=log10(I0/I)で測定した。ここでI0 はラジカルが無い場合の光強度、I は溶液中にラジカルが存在する場合に減衰された光強度である。この吸光度は抽出溶液中の抗酸化物質が捕捉した後のフリーラジカルの濃度に依存する。表3にDPPHラジカルに対する種子抗酸化力の相対値を示す。酸素濃度を周囲環境以下に減少させることで、抗酸化力が最低でも5倍以上の40μmolDPPH eq uiv./gm-seed以上に増加する。
実施例7: 二酸化炭素濃度の効果
二酸化炭素濃度が、発芽誘導工程に与える影響について、ブドウ種子を用いて検討した。ブドウ種子225gを流水で洗浄後、100ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液で、40℃で4時間時間浸漬した。次に、種子を蒸留水で洗浄し、柔らかい紙で水を取り除いた。種子をデシケーターに入れ、二酸化炭素ガスと空気の混合により二酸化炭素濃度を2,000ppm(0.2容量%)、10,000ppm(1容量%)及び50,000ppm(5容量%)に調整した気体をデシケーターに通気させた。通常大気雰囲気下の二酸化炭素濃度は約300ppmである。酸素濃度は、いずれの条件でも20〜21容量%であった。温度を28℃に維持し、4時間おきに28℃の10ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を散水し、48時間発芽誘導し、発芽分化種子約675gを回収した。回収した発芽分化種子4.12gを乳鉢に入れ、蒸留水10mlを添加し乳棒で破砕した。この破砕物を10000×gで15分間、遠心分離し、その上清を抽出物とした。
表4にジフェニピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル捕捉活性で測定した抽出物中の易水溶性ポリフェノールの抗酸化活性値を示す。通常大気雰囲気の二酸化炭素濃度以上になると、抗酸化力が8倍以上の40μmol DPPH equiv./gm−seedになった。
大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴い抗酸化力が上がるという傾向は多くの種子(キク科、マメ科、十字花科、シソ科、カラタチ科、バラ科、イチョウ科、イネ科、クワ科、タデ科、ツバキ科、モクセイ科、 ヒイラギ科の種子、具体的には、ブドウ、サンフラワー、サフラワー、クローバー、ブラシカ、ゴマ、エゴマ、アマニ、シソ、ピーナツ、米、そば、コーン、小麦、ワイルドライス、大麦、アワ、ヒエ、コロハ、ローズマリー、タイム、セージ、ミント、アメリカンレッドチェリー、アプリコット、アーモンド、グレープルルーツ、オレンジ、プラム、セントジョンズワート、トマト、イチゴ、ニンジン、ピーマン、マンゴスティーン、マンゴ、ビワ、ゴボウ、カカオなど)で認められた。
参考例8:光の照射の効果
実施例3と参考例4において、異なる可視光線量を照射しながら通常大気雰囲気下の酸素濃度及び二酸化炭素濃度(酸素濃度21%、二酸化炭素濃度350ppm)で発芽誘導工程と分析を繰り返した。その結果を表5に示す。光の照射は、蛍光管を使用し、0時間(暗条件)、2時間、6時間、24時間照射した。光強度は、簡易照度計で5000ルクスで行なった。各条件で照射を行った種子から易水溶性ポリフェノールを抽出した。
暗条件に比べ、一日当たり最低2時間以上の光を照射した種子から抽出した易水溶性ポリフェノールの方が強い抗酸化力を示した。光の照射がない場合でも発芽時間とともに抗酸化成分の量は増加しているが、光の照射により種子抽出物の抗酸化成分量が増加することがわかった。条件によっては光の照射が種子の抗酸化力を50%以上増加させることもあった。
この傾向は多くの種子(キク科、マメ科、十字花科、シソ科、カラタチ科、バラ科、イチョウ科、イネ科、クワ科、タデ科、ツバキ科、モクセイ科、ヒイラギ科の種子、具体的には、ブドウ、サンフラワー、サフラワー、クローバー、ブラシカ、ゴマ、エゴマ、アマニ、シソ、ピーナツ、米、そば、コーン、小麦、ワイルドライス、大麦、アワ、ヒエ、コロハ、ローズマリー、タイム、セージ、ミント、アメリカンレッドチェリー、アプリコット、アーモンド、グレープルルーツ、オレンジ、プラム、セントジョンズワート、トマト、イチゴ、ニンジン、ピーマン、マンゴスティーン、マンゴ、ビワ、ゴボウ、カカオなど)で認められた。
手段や装置の具体例や実施例は説明を目的とするものであり、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、各種の変更を行うことが可能である。例えば本発明の実施例は様々なシステムに適用することが可能であり、多くの種類の植物種子から易水溶性ポリフェノールや抗酸化化合物を得ることができる。本発明は有機溶媒を使用せずに、種子からのポリフェノールの抽出及び精製を容易に行なうことが可能なため、食品、健康食品、医薬品あるいは化粧品などの広範囲の用途に適用することができる。さらに、実施様態では水溶液を用いて種子からの抽出を行ったが、一例として種子もしくは種子の副産物を直接食品に取り入れるなど、他の多くの用途に本発明を適用することが可能であり、易水溶性ポリフェノールを利用するあらゆる用途に用いることができる。さらには実施例の特性は他の実施例に組み込んでもよく、本記述内に一つの実施例としてそれらの特性が説明されておらずともよい。従って上記の説明は、添付の請求項で定義される発明の範囲を制限するものではない。
ブドウの種子を図8の発芽誘導容器800に5cm積層させて、室温28℃で、発芽誘導した場合の24時間の温度変化を示すグラフ。 リョクトウの種子を図7の発芽容器700に1層にまいて、室温28℃又は室温36℃で、発芽誘導した場合の24時間の温度変化を示すグラフ。 リョクトウの種子を図8の発芽誘導容器800に入れ、室温28℃で、発芽誘導した場合の24時間の酸素濃度変化を示すグラフ。 リョクトウの種子を図7の発芽誘導容器700に入れ、室温28℃又は室温36℃で、発芽誘導した場合の24時間の酸素濃度変化を示すグラフ。 リョクトウの種子を図8の発芽誘導容器800に入れ、室温28℃で、発芽誘導した場合の24時間の二酸化炭素濃度変化を示すグラフ。 リョクトウの種子を図7の発芽容器700に入れ、室温28℃又は室温36℃で、発芽誘導した場合の24時間の二酸化炭素濃度変化を示すグラフ。 発芽容器に種子の入った状態を説明する説明図。 発芽容器に種子の入った状態を説明する説明図。

Claims (25)

  1. 発芽可能な植物種子を、発芽分化させる発芽誘導工程において8,000ppm以上且つ20,000ppm以下の二酸化炭素濃度の雰囲気条件で保持し、その植物種子を発芽温度範囲で保持し、植物種子を含水させ、前記含水には散水を含み、前記散水中には殺菌剤を含む、易水溶性ポリフェノールが増加した発芽分化植物種子の製造方法。
  2. 発芽誘導工程において、さらに18容量%以下の酸素濃度の雰囲気条件で保持されるとともに、前記二酸化炭素及び酸素濃度は、植物種子の呼吸作用によって調整される、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  3. 発芽分化工程前に植物種子に含水させる工程を含む、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  4. 発芽分化工程前に植物種子を加熱する、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  5. 植物種子に光を照射する、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  6. 光の照射が1日当たり5000ルクス以上で2時間以上である、請求項5に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  7. 発芽誘導工程において、雰囲気条件の二酸化炭素濃度が8,000ppm以上且つ20,000ppm以下で、発芽誘導工程時間の60%以上保持する、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  8. 発芽誘導工程において、雰囲気条件の酸素濃度が4容量%以上且つ18容量%以下で、発芽誘導工程時間の60%以上保持する、請求項2に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  9. 発芽誘導工程において、発芽温度が20℃〜45℃である、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  10. 加熱温度が発芽適温の中央値の5℃以上30℃以下である、請求項4に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  11. 発芽誘導工程が、種子を堆積させて行う発芽誘導工程であり、温度調節を発芽熱による温度上昇及び散水による温度低下を利用して行なう、請求項1に記載の発芽分化植物種子の製造方法。
  12. 植物種子を二酸化炭素濃度が8,000ppm以上且つ20,000ppm以下の雰囲気条件で発芽分化させる発芽誘導工程を行い、温度を発芽温度範囲に保持し、植物種子を含水させることで生成され、前記含水には散水を含み、前記散水中には殺菌剤を含む、易水溶性ポリフェノールが増加した発芽分化植物種子を含む食品。
  13. 発芽誘導工程において、さらに18容量%以下の酸素濃度の雰囲気条件で保持されるとともに、前記二酸化炭素及び酸素濃度は、植物種子の呼吸作用によって調整される、請求項12に記載の食品。
  14. 発芽分化工程中に種子に光の照射を行った、請求項12に記載の食品。
  15. 光の照射が1日当たり5000ルクス以上で2時間以上である、請求項14に記載の食品。
  16. 発芽誘導工程において、発芽温度が20〜45℃である、請求項12に記載の食品。
  17. 発芽分化工程前に植物種子が発芽適温の中央値の5℃以上30℃以下の温度で保持された、請求項12に記載の食品。
  18. 植物種子1グラムあたり1ミリグラム以上の易水溶性ポリフェノールを含む植物種子からなる、請求項12に記載の食品。
  19. 植物種子1グラムあたり2ミリグラム以上の易水溶性ポリフェノールを含有する植物種子からなる、請求項12に記載の食品。
  20. 植物種子1グラムあたり40μmol DPPH相当以上の抗酸化物質を含む植物種子からなる、請求項12に記載の食品。
  21. 未発芽の種子と比較して8倍以上の易水溶性ポリフェノールを含有する植物種子を含む、請求項12に記載の食品。
  22. 植物種子はブドウ科の植物種子を含む、請求項12に記載の食品。
  23. 発芽分化させる発芽誘導の工程において、二酸化炭素濃度を8,000ppm以上且つ20,000ppm以下に保持し、植物種子の温度を発芽適温範囲内に保持し、その植物種子を含水させる手段を有し、前記含水には散水を含み、前記散水中には殺菌剤を含む、易水溶性ポリフェノールが増加した発芽分化植物種子の発芽分化を行うための装置。
  24. 発芽誘導の工程において、さらに酸素濃度を18容量%以下に保持するとともに、前記二酸化炭素及び酸素濃度は、植物種子の呼吸作用によって調整される手段を有する、請求項23に記載の装置。
  25. 植物種子に1日当たり5000ルクス以上で2時間以上光を照射するための光源を有する、請求項23に記載の装置。
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