本発明は、電解質膜の両面にアノードとカソードの電極層を備える膜電極接合体と、セパレータとの積層体を有する燃料電池であって、前記膜電極接合体の端部または前記セパレータの端部に自己融着性シール材を備え、前記自己融着性シール材の表面にさらにタック防止部材を備え、および前記タック防止部材は、平行ガラス板法による動摩擦係数が0.3以下であるパウダーから形成される、燃料電池に関する。
以下、図面を参照しながら、本発明を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
(燃料電池の全体構成)
図1に、好ましい実施形態である固体高分子形燃料電池10の構造を模式的に示す。燃料電池10において、膜電極接合体18は、一対の触媒層12(アノード触媒層およびカソード触媒層)が、固体高分子電解質膜11の両面に対向して配置され、これを一対のガス拡散層13(アノード側ガス拡散層およびカソード側ガス拡散層)が挟持してなる。ここで、膜電極接合体18をMEA、固体高分子電解質膜11と触媒層12との接合体をCCMと呼ぶ場合がある。なお、図1では、ガス拡散層13は、それぞれ基材15とマイクロポーラスレイヤー(MPL)14とにより構成され、マイクロポーラスレイヤー14の側の面で触媒層12と接しているが、必ずしもマイクロポーラスレイヤー(MPL)14は必要ではなく、ガス拡散層13は基材15のみから構成されてもよい。基材15の外側に、ガス(アノード側:燃料ガス、カソード側:酸化剤ガス)用流路17,水用流路17’を形成するための溝構造を有する一対のセパレータ16(アノード側セパレータおよびカソード側セパレータ)が配置され、固体高分子形燃料電池が構成される。
図2は、図1の固体高分子形燃料電池10を、部分的にさらに拡大して模式的に示す断面図である。図2に示すように、固体高分子形燃料電池10の電解質膜11の端部に自己融着性シール材20が配置されている。
上述のように、燃料電池の単セルに設けられるシール技術として、従来、接着剤を用いる技術や粘着剤を用いる技術があった。これら接着剤および粘着剤は、つぶれしろを必要としないため、薄型化や小型化に有利である。しかしながら、接着剤を用いる場合、硬化前の接着剤塗布面への被着材以外の材料接触を防ぐ必要がある。さらに、接着剤を塗布した単セルを積層した際、硬化前は接着剤が流動性を持つため微小な位置修正が可能である一方で外因その他の影響で積層がずれやすいという問題がある。また、粘着剤(塗工後にゲル状固体の材料:圧力による接着性発現。感圧型接着剤と呼ばれることもある)については、粘着剤が接着剤のような流動性を有さないため、単セルを積層した場合の位置修正が不可能であり、積層後の位置修正に頼らない精密位置制御装置を必要とするという問題がある。
本発明の燃料電池は、膜電極接合体の端部またはセパレータの端部に自己融着性シール材を備え、前記自己融着性シール材の表面にさらにタック防止部材を備える。ここで、自己融着性シール材は、互いに接触または加圧(圧着)することにより、常温または加熱下で接触面が融着するシール材をいう。かような自己融着性シール材のうち、特定の自己融着性シール材は燃料電池の単セルを数枚仮積層した際に生じる程度の圧力ではタック性を発現しないことから、燃料電池スタックの仮積層後の位置修正が可能であり、位置修正後、加圧することで強固な接着力を発現するため、燃料電池の生産性を向上させうる。
しかしながら、自動車用など大型の燃料電池を必要とする場合には、かなりの枚数の単セルを積層して燃料電池スタックを作製する必要があり、このような場合には、単セルの枚数が多いために仮積層といえども自己融着性シール材間に相当の圧力が発生して、自己融着性シール材同士が接着するため、位置修正を行うことが困難もしくは不可能になる場合がある。本発明は、このような場合であっても位置修正を行うことが可能な、特定のタック防止部材を自己融着性シール材表面に備えた燃料電池に関する。
ここで、タック防止部材をその表面に備えた自己融着性シール材の、加圧後の自己融着力は、実質的にはタック防止部材の存在しない自己融着性シール材の加圧後の自己融着力と実質的に同一であることが好ましい。より具体的には、該加圧後の自己融着力は、0.1N/mm以上が好ましく、0.15N/mm以上、0.2N/mm以上、0.3N/mm以上、0.4N/mm以上、0.5N/mm以上、1.0N/mm以上の順で好ましい。なお、加圧後の自己融着力は高いほど好ましいため、その上限は、特に制限されない。好ましくは、加圧後の自己融着力の上限は、1000N/mmである。なお、タック防止部材をその表面に備えた自己融着性シール材の、加圧後の自己融着力は、タック防止部材をその表面に備えた自己融着性シール材の、加圧後の自己融着力は、25℃、100kPaで10分間加圧した後に、剥離速度50cm/minの速度でT字剥離試験を行うことにより求めることができる。
また、タック防止部材をその表面に備えた自己融着性シール材の、加圧前の自己融着力は、0.05N/mm未満が好ましく、0.01N/mm未満がより好ましく、自己融着性を示さない(すなわち、0N/mm)ことが更により好ましい。なお、加圧前の自己融着力は、25℃で、5kPaで10分間加圧した後に、剥離速度50cm/minの速度でT字剥離試験を行うことにより求めることができる。5kPaで加圧する理由は、燃料電池の単セルを相当数仮積層した際に、自重によりかかる圧力を想定しているからである。本発明の自己融着性シール材は、少なくとも自重に相当する圧力で対抗する自己融着性シール材に接触した場合に自己融着性を示さない事が好ましい。
図3Aおよび図3Bに、本発明に係る自己融着性シール材へのタック防止部材の配置の好ましい実施形態を模式的に示す。図3Aおよび図3B 上段に示されるように、タック防止部材21が自己融着性シール材20の表面に配置される。ここで、「自己融着性シール材の表面にさらにタック防止部材を備える」または「タック防止部材が自己融着性シール材の表面に配置される」とは、タック防止部材が自己融着性シール材の表面近傍に存在することを意味する。このため、(a)タック防止部材が、自己融着性シール材の表面上に存在する、(b)自己融着性シール材の表層に一部埋め込まれている、および(c)自己融着性シール材の表層に完全に埋め込まれている、のすべての形態が本発明に包含される。このようにタック防止部材を自己融着性シール材表面に設けることによって、単セルを仮積層した際の位置修正を容易に行える。また、本発明では、タック防止部材21は、図3Aに示されるように、いずれか一方の自己融着性シール材の表面に配置されても、あるいは図3Bに示されるように、双方の自己融着性シール材の表面に配置されてもよい。
自己融着性シール材表面にタック防止部材を設けることによって、単セルを仮積層した際の位置修正を容易に行えるメカニズムは不明であるが、下記のように推測される。なお、本発明は、下記メカニズムによって限定されるものではない。まず、対向して配置された一対の自己融着性シールの表面にそれぞれタック防止部材が形成されていることを想定する。両者を接触し加圧する場合、図3上段に示されるように単セルを仮積層した程度の低い圧力では、タック防止部材21が両者界面に介在することで互いの自己融着性シール材20同士の接触が妨害され、接着もタックも発生しないことから、両者は互いに位置修正を行うことができる。一方、タック防止部材21が自己融着性シール材20に埋没するような高い圧力を加えた場合、図3下段に示されるように自己融着性シール材20同士が互いに接触するため自己融着性が発現して強固に接着される。この際、従来技術の液体接着材が硬化に高温や長時間を要するのに対し、本発明で接着に要する時間は加圧する際の一瞬だけであり、燃料電池スタックの製造プロセスを大幅に簡素化することが可能である。さらに、前記仮説のような埋没のタイミングは、仮積層時に生じると予想される圧力と燃料電池スタックの締結圧力に応じて、自己融着性シール材料の弾性率とタック防止部材を構成するパウダーの粒径により任意に設計することが可能である。また、仮積層時に位置修正を行う際の摩擦係数は、タック防止部材を構成するパウダーの表面形状、表面材質、表面修飾によって好ましい範囲に調整することが可能である。このように、本発明は、仮積層、位置修正、加圧接着という3つのプロセスを経ることで、容易かつ正確に単セルを積層することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
以下、本発明で用いられるタック防止部材について説明する。
本発明では、自己融着性シール材の表面に配置されるタック防止部材は、平行ガラス板法による動摩擦係数が0.3以下であるパウダーから形成される。ここで、上記パウダーがタック防止剤として機能する。このようなタック防止部材を配置させることで、加圧前の自己融着力やタック性、および、加圧後の自己融着力を好ましい範囲に調整することができる。本発明に係るタック防止剤としてのパウダーは、一種のパウダー単独から形成されてもあるいは2種以上の異なるパウダーから形成されてもよい。本発明では、パウダーとは略球形の微粒子の集合体を意味し、本発明の目的から外れない範囲で無機パウダーやポリマー(有機)パウダーなど、従来公知の各種パウダーを好適に用いることができる。本明細書中では、本発明に係る平行ガラス板法による動摩擦係数が0.3以下であるパウダーを、「タック防止剤」とも称する。
パウダーの形状は特に制限されず、球形、ラグビーボール形、円盤形、不定形など、本発明の目的を損なわない範囲で任意の形状のパウダーを用いることができる。また、本発明では、パウダーは繊維形状をも包含する。本発明は、パウダーの動摩擦係数が0.3以下のパウダーからなるタック防止剤を備えることを特徴とすることから、各種パウダー形状の中でも、最も動摩擦係数を低減させやすいと予想される球形を好適に用いることが可能である。
無機パウダーの材質は特に制限されず、加圧前の自己融着力やタック性、および、加圧後の自己融着力や再剥離性を考慮して適宜選択できる。具体的には、アルミナ、シリカ等の微粉体や微細繊維などが挙げられる。これらのうち、アルミナパウダー、シリカパウダーが好ましく使用される。また、ポリマー(有機)パウダーの材質は特に制限されず、加圧前の自己融着力やタック性、および、加圧後の自己融着力を考慮して適宜選択できる。具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂(実施例:ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA))、ポリスチレン、およびこれらの共重合体等の微粉体や微細繊維などが挙げられる。これらのうち、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂が好ましく使用される。特に、ポリマーパウダーは、その表面に水を付着しにくいので、水の存在下であっても単セル積層時の横滑りが損なわれない。このため、ポリマーパウダーは、タック防止剤として特に好適に使用される。
パウダーの動摩擦係数は0.3以下である。ここで、動摩擦係数が大きすぎるとスムーズな位置修正に支障が生じる可能性があるとともに、自己融着性シール材表面にタック防止部材を形成する際にパウダーが凝集しやすくなる傾向がある。このため、不必要なパウダーを消費するとともに、位置修正の際に凝集したパウダーが離散して表面被覆率が増加することで加圧接着後の自己融着力が低下もしくは自己融着が発現しなくなる場合がある。このような不都合を回避するには、タック防止材を構成するパウダーが自己融着性シール材表面に実質的に単層で存在する事が好ましい。本発明で用いるような動摩擦係数0.3以下のパウダーは、その低い摩擦性によって自己融着性シール材同士の位置修正を可能にすると同時に、その高い流動性によってタック防止材の製造過程におけるパウダーの単層化に寄与するものと予想される。一方、動摩擦係数が小さすぎても本発明には支障を及ぼさないが、過度に動摩擦係数が小さいと工業プロセスとして支障が生じる可能性がある。動摩擦係数は、0.30以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、0.15以下がさらにより好ましく、0.10以下がより更に好ましく、0.05以下が特に好ましい。なお、パウダーの動摩擦係数の下限は、低いほど好ましくため、0であるが、上述したように、工業プロセスとして支障などを考慮すると、通常、0を超え、0.0001以上であれば十分である。
なお、パウダーの動摩擦係数の測定方法は、特に制限されず、公知の測定方法がそのままあるいは適宜修飾を加えて適用できる。本明細書では、パウダーの動摩擦係数は平行ガラス板法を用いて測定する。すなわち、約7.6cm×約2.5cmのスライドガラス板(厚み:1mm)上に約5.0cm×2.0cmの範囲に約0.1gのパウダーを均一に散布し、その上に同じスライドガラス板を配置して、さらに50gの重りをスライドガラス上にのせ、10mm/minで水平方向に約1分間横滑りさせたときの荷重よりパウダーの動摩擦係数を計算した。
また、パウダーの大きさは特に制限されず、上記したような所望の効果(自己融着性シール材の効果)を考慮して適宜選択されうる。例えば、パウダーがポリマーパウダーの場合には、該ポリマーパウダーの平均粒径(個数平均粒径)は、0.01〜1000μmが好ましく、0.1〜500μmがより好ましく、1〜200μm、5〜100μm、10μmを超え100μm以下、15〜100μm、20〜80μmの順で好ましい。また、パウダーが無機パウダーの場合には、パウダーの平均粒径(個数平均粒径)は、10μmを超え200μm以下であることが好ましく、10μmを超え100μm以下がであることがより好ましく、15〜100μmであることがさらにより好ましく、20〜80μmであることが特に好ましい。このような範囲であれば、仮積層時には位置修正が容易でかつ加圧(圧着)後には強固な接着力(自己融着力)を発現することができる。なおお、パウダーの平均粒径が小さすぎると、タック防止部材の塗布量によっては自己融着性シール材表面がパウダーで容易に被覆されてしまい、自己融着力の発現が過度に阻害される場合がある。一方、パウダーの平均粒径が大きすぎると、高い圧力で加圧しても自己融着性シール材同士が十分接触できず、同様に自己融着力の発現が過度に阻害される場合がある。
なお、パウダーの平均粒径(個数平均粒径)の測定方法は、特に制限されず、公知の測定方法がそのままあるいは適宜修飾を加えて適用できる。本明細書では、パウダーの平均粒径は、770×1100μmの視野に含まれる自己融着性シール材表面のパウダーの粒径分布を走査型電子顕微鏡(SEM)の画像解析によって測定し、これを3視野で測定した個数平均粒径(μm)を用いている。
タック防止剤(パウダー)による自己融着性シール材の平均被覆率は、50%以下が好ましい。このような平均被覆率であれば、タック防止部材の介在により自己融着性シール材は十分離間でき、仮積層時には位置修正が容易であり、また、加圧(圧着)後には自己融着性シール材同士を十分接触させて、単セル同士を十分な接着力で一体化することができる。平均被覆率は、10%以下がより好ましく、5%以下が更により好ましく、1%以下が更に好ましく、0.1%以下が特に好ましい。なお、タック防止剤(パウダー)による自己融着性シール材の平均被覆率の好ましい下限は、上記したような効果が達成できる程度であれば特に制限されず、自己融着性シール材の弾性率およびタック防止剤(パウダー)の平均粒径などによって適宜選択されるが、通常、1×10−4%以上であれば十分であり、1×10−3%以上が好ましい。
タック防止剤の付着量は、前記効果を奏する量であれば特に制限されず、タック防止剤の種類や大きさ(平均粒子径)によって適宜選択される。例えば、平均粒径20μmのタック防止剤を使用する場合、タック防止剤の付着量は、1×10−5〜500g/m2が好ましく、0.01〜50g/m2がより好ましく、0.1〜10g/m2が更により好ましく、0.2〜5g/m2が特に好ましい。このような範囲であれば、圧着前は、単セルの仮積層後の位置を容易に修正でき、また、位置修正後は加圧することによって、自己融着性シール材の接触面が十分融着して一体化できるため、単セルが正確に積層された燃料電池スタックを製造できる。
なお、図2は、自己融着性シール材が電解質膜の端部に配置されている例を示しているが、自己融着性シール材が配置される部材はこれに制限されず、膜電極接合体または前記セパレータの端部に配置されればよい。具体的には、自己融着性シール材20は、触媒層(アノード触媒層およびカソード触媒層)、ガス拡散層やセパレータの端部に配置されうる。すなわち、自己融着性シール材は、電解質膜、触媒層、ガス拡散層、およびセパレータからなる群より選択される少なくとも1つの部材の端部に配置されることが好ましい。これらの配置場所のうち、ガス拡散層の端部が、多孔質構造であることから強いアンカー効果が生じ、自己融着性シール材の塗布前の特別な表面処理を省くことが可能になるため、より好ましい。
以下では、自己融着性シール材20の配置の好ましい実施形態を、図4〜8を参照しながら説明する。図4〜8は、本発明の燃料電池における自己融着性シール材の配置の好ましい実施形態を模式的に示す部分拡大断面図である。
図4では、自己融着性シール材20は、固体高分子電解質膜11の端部に配置される。ここで、自己融着性シール材20の厚みは、特に制限されない。例えば、図4に示されるように、膜電極接合体が触媒層12およびガス拡散層13を有する場合には、自己融着性シール材20は、触媒層12およびガス拡散層13の合計厚みと実質的に等しくする事ができる。同様にして、膜電極接合体が触媒層12のみを有する(ガス拡散層13が存在しない)場合には、自己融着性シール材20の厚みは、触媒層12の厚みと実質的に等しくすることができる。これにより、膜電極接合体さらには燃料電池の単セルの積層体の全体厚みを実質的に均一に保持することができる。
また、図4では、自己融着性シール材20のみが固体高分子電解質膜11の端部に配置されるが、図5に示されるように、自己融着性シール材20と固体高分子電解質膜11との間に補強層19が挿入されてもよい。ここで、補強層は、特に制限されず、当該分野において公知の材料が使用でき、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。また、補強層19の厚みは、特に制限されない。具体的には、膜電極接合体が触媒層12およびガス拡散層13を有する場合には、補強層19と自己融着性シール材20との合計厚みが、触媒層12およびガス拡散層13の合計厚みと実質的に等しくすることができる。同様にして、膜電極接合体が触媒層12のみを有する(ガス拡散層13が存在しない)場合には、補強層19と自己融着性シール材20との合計厚みが、触媒層12の厚みと実質的に等しくすることができる。これにより、膜電極接合体さらには燃料電池の単セルの積層体の全体厚みを実質的に均一に保持することができる。
また、図4及び図5では、自己融着性シール材20、または自己融着性シール材20及び補強層19は、触媒層12またはガス拡散層13の末端から離間して、固体高分子電解質膜11の端部に形成されているが、触媒層12またはガス拡散層13の末端と接するように、固体高分子電解質膜11の端部に形成されてもよい。自己融着性シール材20、または自己融着性シール材20及び補強層19は、触媒層12またはガス拡散層13の末端から離間して固体高分子電解質膜11の端部に配置されることが好ましく、図4及び図5に示されるように、触媒層12およびガス拡散層13双方の末端から離間して、固体高分子電解質膜11の端部に形成されることがより好ましい。これにより、触媒層やガス拡散層の端部が自己融着性シール材20で被覆されないため、触媒層およびガス拡散層全面にわたってその機能を有効に発揮できる。
図6では、自己融着性シール材20は、触媒層12の端部に配置される。ここで、自己融着性シール材20の厚みは、特に制限されない。例えば、図6に示されるように、膜電極接合体が触媒層12およびガス拡散層13を有する場合には、自己融着性シール材20は、ガス拡散層13の厚みと実質的に等しいことが好ましい。同様にして、膜電極接合体が触媒層12のみを有する(ガス拡散層13が存在しない)場合には、自己融着性シール材20の厚みは、なるべく薄い、あるいは全体の厚みが実質的に等しくなるように、自己融着性シール材20の配置箇所に相当する触媒層12の端部をより薄くすることが好ましい。これにより、膜電極接合体さらには燃料電池の単セルの積層体の全体厚みを実質的に均一に保持することができる。なお、図6では、自己融着性シール材20のみを触媒層12の端部に形成したが、自己融着性シール材20と触媒層12との間に補強層19を設けてもよく、この場合は、上記図5と同様である。
図7では、自己融着性シール材20は、ガス拡散層13の端部に配置される。ここで、自己融着性シール材20の厚みは、特に制限されない。例えば、自己融着性シール材20の厚みは、なるべく薄い、あるいは全体の厚みが実質的に等しくなるように、自己融着性シール材20の配置箇所に相当するガス拡散層13の端部をより薄い構造にすることが好ましい。これにより、膜電極接合体さらには燃料電池の単セルの積層体の全体厚みを実質的に均一に保持することができる。なお、本実施形態の場合には、図7に示されるように自己融着性シール材20がガス拡散層13の少なくとも一部に侵入することもあるが、ガス拡散層13は多孔質構造を有するため、自己融着性シール材20がガス拡散層13の全ての厚さに渡って侵入することでシール性を向上することができる。また、図7では、自己融着性シール材20のみをガス拡散層13の端部に配置したが、図5と同様、自己融着性シール材20とガス拡散層13との間に補強層19を設けてもよい。
図8では、自己融着性シール材20は、セパレータ16の端部に配置される。ここで、自己融着性シール材20の厚みは、特に制限されない。好ましくは、単セル(膜電極接合体)を積層する際に、単セル(膜電極接合体)間に適当な間隙を設ける程度の厚みであることが好ましい。また、自己融着性シール材20の特定のタック性をより確保するために、自己融着性シール材20に厚みを持たせる場合には、図8に示されるように、自己融着性シール材20の配置箇所に相当するセパレータ16の端部をより薄くすることが好ましい。これにより、単セル(膜電極接合体)を積層した場合に、単セル(膜電極接合体)間に適当な間隙を設けたまま、燃料電池の単セルの積層体の全体厚みを実質的に均一に保持することができる。また、他の単セル(膜電極接合体)と積層する際に、セパレータ同士を密着することができるため、流路17,17’でのガスや冷却水の漏れを防止でき、ガスや冷却水を効率よく流すことができる。なお、図8では、自己融着性シール材20のみをセパレータ16の端部に配置したが、自己融着性シール材20とセパレータ16との間に補強層19を設けてもよく、この場合は、上記図5と同様である。
上記形態のうち、図4〜6、図8が好ましく、図4、5、8がより好ましく、特に図4または図5と図8とを組み合わせることが特に好ましい。
以下、本発明で用いられる自己融着性シール材について説明する。
(自己融着性シール材)
本発明において、「自己融着性シール材(自己融着性シール層)」とは、同種材料間で接触界面の融合を発現することで接着させることを特徴とする部材を意味する。自己融着性シール材は、対向する一方もしくは両方の被着材表面に塗布し、しかる後に両者を接触させ、しかる後にこれを硬化することで接着させることを特徴とする「接着材」、対抗する一方もしくは両方の被着材表面に塗布し、しかる後にこれを硬化させ、しかる後に両者を接触することで接着させることを特徴とする「粘着材」、とは明確に区別される。
本発明において、「自己融着性シール材(自己融着性シール層)」とは、好ましくは上記特徴に加え、被着材間の接触界面に低い加圧下では強固な自己融着性を発現しないが、ある程度加圧することで強固な自己融着性を発現する部材を意味する。具体的には、25℃、5kPaで10分間加圧した際の自己融着力(本明細書中では、「加圧前の自己融着力」とも称する)が0.01N/mm未満であり、25℃、100kPaで10分間加圧した際の自己融着力(本明細書中では、「加圧後の自己融着力」とも称する)が0.05N/mm以上である部材を意味する。なお、上記自己融着力は、剥離速度50cm/minのT字剥離試験で測定される。かような範囲であれば、燃料電池の単セルの仮積層後の位置修正が可能であり、位置修正後、加圧することで強固な接着力を発現するため、燃料電池の生産性を向上させうることが出来るため好ましい。
加圧後の自己融着力は、25℃、100kPaで10分間加圧した後に、剥離速度50cm/minの速度でT字剥離試験を行うことにより求めることができる。該加圧後の自己融着力は、0.1N/mm以上が好ましく、0.15N/mm以上、0.2N/mm以上、0.3N/mm以上、0.4N/mm以上、0.5N/mm以上、1.0N/mm以上の順で好ましい。なお、加圧後の自己融着力は高いほど好ましいため、その上限は、特に制限されない。好ましくは、加圧後の自己融着力の上限は、1000N/mmである。
かような自己融着性シール材の例としては、例えば、ブチルゴム、ポリ塩化ビニル、エチレン−プロピレンゴム、またはポリオルガノシロキサンとホウ素化合物とを含むシリコーンゴム組成物などが挙げられる。なかでも、耐熱性や化学的安定性の観点から、ポリオルガノシロキサンとホウ素化合物とを含む、シリコーンゴム組成物が好ましい。
該シリコーンゴム組成物は、特に制限されず、特開平10−120904号公報などの、公知のシリコーンゴム組成物が使用される。下記の組成を有することが好ましい。
(A)一般式:RaSiO(4−a)/2(式中、Rは互いに同一または異なる置換されているかまたは非置換の1価の炭化水素基を表し、aは1.90〜2.70である)で表される、ポリオルガノシロキサン100質量部;
(B)ホウ酸類、ホウ酸類誘導体およびポリオルガノボロシロキサンから選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物0.1〜30質量部;
(C)有機過酸化物0.1〜10質量部。
ポリオルガノシロキサン(A)は、自己融着性シール材のベースポリマーであって、平均組成式:RaSiO(4−a)/2(式中、Rおよびaは前述のとおり)で表される。Rの例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;またはクロロメチル基、1,1,1−トリフルオロプロピル基などの置換炭化水素基などが挙げられる。シリコーンゴムとしての優れた耐熱性、耐寒性および加工性を得るためには、後述のアルケニル基を除いて好ましくはR全体の50モル%以上、より好ましくは85モル%以上がメチル基であることが好ましい。特に、耐放射線性、耐熱性または耐寒性が必要なときはフェニル基、耐油性や耐薬品性が必要なときは、1,1,1−トリフルオロプロピル基の所望量を分子中に導入することが好ましい。
後述の成分(C)の有機過酸化物から発生するラジカルは、成分(C)の種類によっては、成分(A)中のメチル基にも作用して架橋構造を形成できる。しかしながら、広範囲の種類の成分(C)を、少量で有効に機能させ、良好な耐熱性や機械的性質のシリコーンゴムを得るには、R中に若干のアルケニル基、特にビニル基が存在することが好ましい。ビニル基の含有量は、ポリオルガノシロキサンの耐熱性から、R全体の1モル%以下が好ましく、0.02〜0.2モル%がより好ましい。さらに、優れた自己融着性が得られることから、ポリマー末端がシラノール基を含有する基、例えばジメチルヒドロキシシリル基で閉塞されていることが好ましい。
aは1.90〜2.70の範囲であり、より好ましくは1.99〜2.01である。
成分(B)のホウ素化合物は、シリコーンゴム組成物に硬化後の自己融着性を付与する成分である。成分(B)の具体的な例としては、例えば、無水ホウ酸、ピロホウ酸、オルトホウ酸などのホウ酸類;ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、トリメトキシホウ酸、トリエトキシホウ酸、トリメトキシボロキシンなどのホウ酸または無水ホウ酸の誘導体;およびポリシロキサン鎖中にボロキサン結合を導入したポリオルガノボロシロキサン、例えばポリメチルボロシロキサンなどが挙げられる。このようなポリオルガノボロシロキサンは、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどのオルガノアルコキシシランと無水ホウ酸とを加熱して、縮合させることによって得ることができる。これらは1種でも、2種以上を併用してもよい。成分(A)のポリオルガノシロキサンとの相溶性から、ポリオルガノボロシロキサンが好ましい。
成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部に対して好ましくは0.1〜30質量部であり、より好ましくは1〜15質量部である。0.1質量部未満では硬化後の自己融着性が発現しない場合があり、一方、30質量部を越えると、硬化して得られたシリコーンゴムは十分な耐熱性を示さず、機械的性質が低下する場合がある。
成分(C)の有機過酸化物は、加熱によりラジカルを発生して、成分(A)の架橋反応を起こし、そのことによって自己融着性シリコーンゴム組成物を硬化させる硬化剤である。具体的な例としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ビス(p−クロロベンゾイル)パーオキシド、ビス(2,4−ジクロロベンゾイル)パーオキシドのようなアシル系過酸化物;ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシドのようなアルキル系ペルオキシド;ならびにtert−ブチルペルベンゾアートのようなエステル系有機過酸化物などが挙げられる。
成分(C)の使用量は、成分(A)100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.3〜5質量部がより好ましい。成分(C)は、安全かつ容易に取扱うために、シリコーンオイルと混和してペースト状にしたり、無機質微粉末に吸着させたりして配合してもよい。
上記ホウ素化合物以外に、スズ化合物(D)を含んでもよい。スズ化合物は、自己融着性を向上させ、また、水分や湿気の存在下、または高温で長時間放置することにより自己融着性が低下する、いわゆる「かぜひき現象」を防止する成分である。スズ化合物の具体的な例としては、例えば、第二酸化スズのような酸化スズ;酪酸第一スズ、オクタン酸第一スズ、デカン酸第一スズ、ナフテン酸第一スズ、オクテン酸第一スズ、オレイン酸第一スズなどの有機酸スズ塩;ジブチルスズジアセタート、ジブチルスズジオクトアート、ジブチルスズジ−2−エチルヘキソアート、ジブチルスズジラウラート、ジブチルスズジメチラート、ジブチルスズジオキシドなどのスズ原子に直接結合した炭化水素基を有する有機スズ化合物などが挙げられる。成分(A)との相溶性からは、室温硬化型シリコーンゴムの縮合触媒として有用なスズ化合物が好ましい。
スズ化合物を使用する場合の使用量は、成分(A)100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜5質量部である。0.01質量部未満では、かぜひき現象を抑制する効果がなくなる場合がある。一方、10質量部を越えると、シリコーンゴムの硬化を阻害する場合があり、また、硬化して得られるシリコーンゴムは十分な耐熱性を示さず、機械的性質が低下する場合がある。
上記の自己融着性シリコーンゴム組成物に、必要に応じて無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤は、シリコーンゴム組成物に必要な硬さと機械的性質とを与えるものである。具体的な例としては、例えば、煙霧質シリカ、シリカエアロゲル、沈殿シリカなどの補強性充填剤;石英粉末、溶融シリカ、珪藻土、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、フェライト、カーボンなどの非補強性充填剤が例示される。これらは単独でも、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機充填剤は、硬化後に得られるゴムの物理特性と、付与したい各種特性との兼ね合いにより、適宜配合されうる。一般的には、成分(A)100質量部に対して1,000質量部を上限として配合されることが好ましく、加工性なども考慮して、1〜500質量部の範囲で配合されることがより好ましい。
前記シリコーンゴム組成物には、従来からシリコーンゴムへの配合剤として公知の、顔料、耐熱性向上剤、酸化防止剤、加工助剤、有機溶媒などを配合してもよい。また、擬似架橋防止のために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのようなアルコールを配合してもよい。
前記シリコーンゴム組成物は、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど、任意の混練装置を用い、冷混練または加熱混練によって調製することができる。成分(A)〜(D)および必要に応じて配合される無機充填剤などの配合順は任意であるが、加熱混練を行う場合は、成分(B)、(C)および(D)は、いずれも、加熱混練の後、混合物を冷却してから加えることが好ましい。
該シリコーンゴム組成物は、市販品を使用してもよい。市販品の例としては、例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製 SE6770Uシリコーンゴムコンパウンドなどが挙げられ、当業者にとって公知なシリコーンゴム組成物であればいずれも好適に用いることが出来る。
本発明で用いられる自己融着性シール材の加圧前の自己融着力は、0.01N/mm未満が好ましく、0.001N/mm未満がより好ましく、自己融着性を示さない(すなわち、0N/mm)ことが更により好ましい。加圧前の自己融着力は、25℃で、5kPaで10分間加圧した後に、剥離速度50cm/minの速度でT字剥離試験を行うことにより求めることができる。5kPaで加圧する理由は、燃料電池の単セルを相当数仮積層した際に、自重によりかかる圧力を想定しているからである。本発明の自己融着性シール材は、少なくとも自重に相当する圧力で対抗する自己融着性シール材に接触した場合に自己融着性を示さない事が好ましい。
また、本発明で用いられる自己融着性シール材の23℃におけるボールタックは、3以下であることが好ましい。ボールタックとは、JIS Z0237:2009で規定するJ.Dow法により測定されるボールタック値であり、数値が大きいほどタック性が強いことを表している。該ボールタックは2以下であることがより好ましく、1以下がさらに好ましく、タック性を示さない(すなわち0)ことが特に好ましい。
本発明は、膜電極接合体の端部またはセパレータの端部に自己融着性シール材を備え、かつこの自己融着性シール材の表面にさらに特定のタック防止部材を備えることを特徴とする。このため、本発明において、自己融着性シール材およびタック防止部材以外のMEAやPEFCを構成する部材については、燃料電池の分野において従来公知の構成がそのまま、または適宜改良されて採用されうる。以下、MEAおよびPEFCの各構成要素について、順に説明するが、下記の形態のみに限定されることはない。
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する高分子電解質から構成され、固体高分子型燃料電池の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。固体高分子電解質膜は、構成材料である高分子電解質の種類に応じて、フッ素系固体高分子電解質膜と炭化水素系固体高分子電解質膜とに大別される。
フッ素系固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能上の観点からはこれらのフッ素系固体高分子電解質膜が好ましく用いられ、より好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系固体高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系固体高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
上述した固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質以外の材料が高分子電解質として用いられてもよい。このような材料としては、例えば、高いプロトン伝導性を有する液体、固体、ゲル状材料などが利用可能であり、リン酸、硫酸、アンチモン酸、スズ酸、ヘテロポリ酸などの固体酸、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたゲル状プロトン導電性材料などが挙げられる。プロトン伝導性と電子伝導性とを併有する混合導電体もまた、高分子電解質として利用できる。
固体高分子電解質膜の厚さは、膜電極接合体や高分子電解質の特性を考慮して適宜決定され、特に限定はされない。ただし、固体高分子電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは5〜200μmであり、さらに好ましくは10〜150μmであり、特に好ましくは15〜50μmである。厚さがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性、および使用時の出力特性のバランスが適切に制御できる。
(触媒層)
触媒層には、アノード触媒層およびカソード触媒層の2つがある。以下、アノード触媒層とカソード触媒層との区別をしないときは、単に「触媒層」とも称する。触媒層は、電気化学反応により、電気エネルギーを生み出す機能を有する。アノード触媒層では水素の酸化反応により、プロトンおよび電子が生成する。ここで生じたプロトンおよび電子は、カソード触媒層での酸素の還元反応に用いられる。
触媒層は、導電性担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒および高分子電解質を含む。触媒層の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の触媒層の構成を適宜採用できる。
(導電性担体)
導電性担体は、触媒成分を担持する担体であって、導電性を有する。導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるのに充分な比表面積を有し、かつ、充分な電子伝導性を有するものであればよい。導電性担体の組成は、主成分がカーボンであることが好ましい。導電性担体の材質として、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容できることを意味する。
導電性担体のBET(Brunauer−Emmet−Teller)比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であれば特に制限はないが、好ましくは100〜1500m2/gであり、より好ましくは600〜1000m2/gである。導電性担体の比表面積がこのような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。
導電性担体の平均粒子径についても特に制限はないが、通常は5〜200nmであり、好ましくは10〜100nm程度である。なお、「導電性担体の平均粒子径」の値としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による一次粒子径測定法によって算出される値を採用する。
(触媒成分)
触媒成分は、上記電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。導電性担体に担持される触媒成分は、上述した電気的化学反応を促進する触媒作用を有するものであれば特に制限はなく、従来公知の触媒成分を適宜採用できる。触媒成分として、具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、およびこれらの合金などが挙げられる。これらのうち、触媒活性、耐溶出性などに優れるという観点からは、触媒成分は少なくとも白金を含むことが好ましい。触媒層の触媒成分として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者によって適宜選択できるが、好ましくは白金が30〜90原子%程度、合金化する他の金属が10〜70原子%程度である。なお、「合金」とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質を有しているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。ここで、合金組成の特定は、ICP発光分析法を用いることで可能である。
触媒成分の形状や大きさは特に制限されず、従来公知の触媒成分と同様の形状および大きさが適宜採用できるが、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。そして、触媒成分粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5〜30nmであり、より好ましくは1〜20nmである。触媒成分粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御できる。なお、本発明において、「触媒成分粒子の平均粒子径」の値は、X線回折における触媒成分粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として算出できる。
電極触媒における導電性担体と触媒成分との含有量の比は、特に制限されない。ただし、触媒成分の含有率(担持量)は、電極触媒の全質量に対して、好ましくは5〜70質量%であり、より好ましくは10〜60質量%であり、さらに好ましくは30〜55質量%である。触媒成分の含有率が5質量%以上であると、電極触媒の触媒性能が充分に発揮され、ひいては固体高分子型燃料電池の発電性能の向上に寄与する。一方、触媒成分の含有率が70質量%以下であると、導電性担体の表面における触媒成分どうしの凝集が抑制され、触媒成分が高分散状態で担持されるため、好ましい。なお、上述した含有量の比の値としては、ICP発光分析法により測定される値を採用するものとする。
(高分子電解質)
高分子電解質は、触媒層のプロトン伝導性を向上させる機能を有する。触媒層に含まれる高分子電解質の具体的な形態に特に制限はなく、燃料電池の技術分野において従来公知の知見が適宜参照できる。例えば、触媒層に含まれる高分子電解質としては、上述した固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質を同様に用いることができる。そのため、高分子電解質の具体的な形態の詳細はここでは省略する。なお、触媒層に含まれる高分子電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
触媒層に含まれる高分子電解質のイオン交換容量は、イオン伝導性に優れるという観点から、0.8〜1.5mmol/gであることが好ましく、1.0〜1.5mmol/gであることがより好ましい。なお、高分子電解質の「イオン交換容量」とは、高分子電解質の単位乾燥質量当りのスルホン酸基のmol数を意味する。「イオン交換容量」の値は、高分子電解質分散液の分散媒を加熱乾燥などにより除去して固形の高分子電解質とし、これを中和滴定することにより、算出できる。
触媒層における高分子電解質の含有量についても特に制限はない。ただし、触媒層における導電性担体の含有量に対する高分子電解質の含有量の質量比(高分子電解質/導電性担体の質量比)は、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.6〜1.5であり、さらに好ましくは0.8〜1.3である。高分子電解質/導電性担体の質量比が0.8以上であると、膜電極接合体の内部抵抗値の抑制という観点から好ましい。一方、高分子電解質/導電性担体の質量比が1.3以下であると、フラッディングの抑制という観点から好ましい。
各触媒層、特に導電性担体表面や高分子電解質には、さらに、撥水剤や、その他各種添加剤が被覆または含まれていてもよい。撥水剤が含まれていることにより、得られる触媒層の撥水性を高めることができ、発電時に生成した水などを速やかに排出することができる。撥水剤の混合量は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適宜決定することができる。撥水剤としては、上記で例示したものを同様に好ましく用いることができる。
本発明における触媒層の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる点で好ましい。
前記膜電極接合体は、従来公知の方法を用いて、固体高分子電解質膜の両面にアノード側およびカソード側の触媒層を形成し、これを上記の方法により得られるガス拡散層で挟持することにより製造できる。
触媒層は、上記のような電極触媒、高分子電解質および溶媒などからなる触媒インクを、固体高分子電解質膜にスプレー法、転写法、ドクターブレード法、ダイコーター法などの従来公知の方法を用いて塗布することにより製造できる。
固体高分子電解質膜および触媒インクの塗布量は、電極触媒が電気化学反応を触媒する作用を十分発揮できる量であれば特に制限されないが、単位面積あたりの触媒成分の質量が0.05〜1mg/cm2となるように塗布することが好ましい。また、塗布する触媒インクの厚さは、乾燥後に5〜30μmとなるように塗布することが好ましい。なお、上記の触媒インクの塗布量および厚さは、アノード側およびカソード側で同じである必要はなく、適宜調整することができる。
(ガス拡散層)
1対のガス拡散層は、上述した電解質膜と触媒層とからなるMEAを挟持するように配置される。ガス拡散層は、後述するセパレータの有するガス流路を介して供給されたガス(アノード側:燃料ガス、カソード側:酸化剤ガス)の触媒層への拡散を促進させる機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、親水処理されてなるものであることが好ましい。ガス拡散層が親水処理されていることで、触媒層に存在する(または流入した)過剰な水分の排出が促進され、フラッディング現象の発生が効果的に抑制されうる。ここで、ガス拡散層に対して施される親水処理の具体的な形態としては、例えば、カーボン基材表面への酸化チタンのコーティングといった処理やカーボン基材表面を酸性官能基により修飾するといった処理が挙げられる。ただし、これらの形態のみに限定されることはなく、場合によってはその他の親水処理が採用されてもよい。
また、触媒層に存在する過剰な水分の排出を促進させてフラッディング現象の発生を抑制するために、ガス拡散層は、カーボン粒子を含むマイクロポーラスレイヤー(カーボン粒子層)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
マイクロポーラスレイヤー(カーボン粒子層)に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
マイクロポーラスレイヤー(カーボン粒子層)は撥水剤を含んでもよい。撥水剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
(セパレータ)
MEAは、セパレータで挟持されてPEFCの単セルを構成する。PEFCは、単セルが複数個直列に接続されてなるスタック構造を有するのが一般的である。この際、セパレータは、各MEAを直列に電気的に接続する機能に加えて、燃料ガスおよび酸化剤ガス並びに冷媒といった異なる流体を流す流路やマニホールドを備え、さらにはスタックの機械的強度を保つといった機能をも有する。
セパレータを構成する材料は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうるが、例えば、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン材料や、ステンレス等の金属材料などが挙げられる。セパレータのサイズや流路の形状などは特に限定されず、PEFCの出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
(ガスケット)
ガスケットは、一対の触媒層およびガス拡散層を包囲するように燃料電池の周囲に配置され、触媒層に供給されたガスが外部にリークするのを防止する機能を有する。ガス拡散電極とは、ガス拡散層および触媒層の接合体をいう。ガスケットを構成する材料としては、特に制限はないが、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴムなどのゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスケットの厚さにも特に制限はなく、好ましくは50μm〜2mmであり、より好ましくは100μm〜1mm程度とすればよい。
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
(燃料電池の製造方法)
本発明の燃料電池の製造方法は、1)電解質膜の両面にアノードとカソードの電極層を備える膜電極接合体およびセパレータからなる群より選択される少なくとも1つの部材の端部に自己融着性シール材を塗布する工程と、2)前記自己融着性シール材を硬化する工程と、3)平行ガラス板法による動摩擦係数が0.3以下であるパウダーを用いて、タック防止部材を前記自己融着性シール材の表面に形成する工程と、4)前記膜電極接合体および前記セパレータを積層して、積層体を得る工程と、5)前記積層体を圧着する工程と、を含む。以下、工程順に説明するが、本発明は下記の形態に制限されるものではない。
1)電解質膜、膜電極接合体、およびセパレータからなる群より選択される少なくとも1つの部材の端部に自己融着性シール材を塗布する工程
本工程では、電解質膜、膜電極接合体、およびセパレータからなる群より選択される少なくとも1つの部材の端部に自己融着性シール材を塗布する。
自己融着性シール材の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、ディスペンサ、グラビアコーター、ナイフコーター、リップコーター、もしくはバーコーターによる塗布、または、スクリーン印刷、フレキソ印刷など、従来公知の塗布方法を用いることができる。
自己融着性シール材の塗布量は、2g/m2以上であることが好ましく、10g/m2以上であることがより好ましく、20g/m2以上であることがさらに好ましく、30g/m2以上であることが特に好ましい。上限は特に設けないが、1000g/m2を超えるとシールが厚くなりすぎる場合がある。かような範囲であれば、シールと被着面を好適に融着させることが可能である。
2)自己融着性シール材を硬化する工程
塗布された自己融着性シール材の塗布面が他の材料と接触しないように配慮しながら、本工程に移り、加熱乾燥、放射線照射等の手段により自己融着性シール材が硬化される。硬化した自己融着性シール材は、異種材料間はもとより、5kPa以下の接触面圧では同種材料間でも融着性やタック性をほとんど示さない。よって、自己融着性シール材を塗布した部材をロール形状にしたり、カットしてストッカーに一時貯蔵することが可能となり、多様な燃料電池の生産ラインの設計・構築が可能となる。
加熱乾燥により硬化する場合の硬化温度は120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。硬化温度の下限値は特に制限されないが、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましい。
また、硬化時間は1時間以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。硬化時間の下限は特に設けない。
3)自己融着性シール材の表面にタック防止部材を形成する工程
本工程では、自己融着性シール材の表面にタック防止部材を形成する。ここで、タック防止部材の自己融着性シール材表面への形成(配置)方法は、特に制限されない。具体的には、
(ア)タック防止剤を自己融着性シール材表面に噴霧する方法(噴霧方法);
(イ)タック防止剤と自己融着性シール材を容器に入れて攪拌する方法(攪拌方法);
(ウ)タック防止剤を自己融着性シール材表面に付着させた後、流体を用いてその一部を除去する方法;
(エ)タック防止剤を自己融着性シール材表面に静電気を用いて付着させる方法;
(オ)タック防止剤を自己融着性シール材表面に、シリコンオイル等の適当な媒体と混合・塗布して付着させる方法;
などが挙げられる。これらのうち、(ア)、(イ)、(ウ)の方法が好ましく、(ア)及び(イ)の方法がより好ましく、(ア)の方法が特に好ましい。
上記(ア)の方法において、タック防止剤は、そのまま自己融着性シール材表面に噴霧されてもよいが、適当な流体を用いて噴霧することが好ましい。ここで、流体は、特に制限されないが、空気、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等)などの気体および水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等)などの液体が好ましく挙げられる。なお、上記流体は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物(例えば、混合気体、混合液体)の形態で使用されてもよい。好ましくは、空気、不活性ガスが使用され、空気が特に好ましく使用される。タック防止剤は、ある程度自己融着性シール材表面から離間させて自己融着性シール材表面に噴霧することが好ましい。これにより、ここで、タック防止剤を含む噴霧器と自己融着性シール材との距離は、約10〜1000mmであることが好ましく、50〜500mmであることがより好ましい。このような距離であれば、タック防止部材を自己融着性シール材表面に均一に分布させることができる。
なお、上述したように、パウダー(タック防止剤)の機能は、低圧では対向する自己融着性シール材間にタック防止剤が存在することで自己融着を阻害する一方、高圧(圧着時)ではタック防止剤が自己融着性シール材に陥没することで自己融着を発現するものと想像できる。このため、タック防止剤は対向する自己融着性シール材の少なくとも一方の面に配置されればよい。なお、以下では、タック防止部材が表面に形成された自己融着性シール材を、単に「タック防止部材付自己融着性シール材」と、称する。
4)電解質膜およびガス拡散層を含む膜電極接合体、ならびにセパレータを積層し積層体を得る工程
本工程においては、電解質膜およびガス拡散層を含む膜電極接合体、ならびにセパレータが1枚ずつ積層される。タック防止部材付自己融着性シール材は、前記電解質膜、前記ガス拡散層、および前記セパレータからなる群より選択される少なくとも1つの部材の端部に備えられている。積層される積層数は燃料電池の用途によって異なるが、概ね定置用で数十層、自動車用で数百層である。上述の通り、本発明で用いられる自己融着性シール材は、5kPa以下の接触面圧では、同種材料間でも融着性やタック性を示さないため、単セルの仮積層後の位置修正が可能である。位置修正の方法としては、例えば、仮積層した燃料電池スタックの外周部に平板をあてがって、振動・重力その他の方法で整列させる等の方法を用いることが挙げられる。
5)積層体を加圧、融着する工程
本工程においては、上記4)の工程で得られた積層体が、10kPa以上の圧力で積層方向に加圧される。これにより、自己融着性シール材間で強固な融着力が発現し、燃料電池スタックが完成する。目的に応じて、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下の温度で燃料電池スタックを加熱し、融着力の向上を図ることも可能である。融着温度の下限値は特に制限されないが、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましい。
加圧する際の圧力は、10kPa以上であり、50kPa以上が好ましく、200kPa以上がより好ましく、500kPa以上がさらに好ましく、1MPa以上が特に好ましい。また、燃料電池内部の接触抵抗を低減するために高い圧力が好ましい場合は、さらに高い圧力を用いることも可能である。なお、加圧する際の圧力の上限は、特に制限されず、積層体(膜電極接合体)の構造が損傷を受けない圧力である。
(車両)
上述した本発明の燃料電池を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。本発明の燃料電池は、発電性能および耐久性に優れるため、高出力を要求される車両用途に適している。
以下、実施例を用いて、より具体的に本発明を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が下記実施例に限定されることはない。
(実施例1)
(1)自己融着性シール材表面へのタック防止部材の形成
空気噴霧器((株)弘洋商会、”FURUPLA” JET OILER、No.301 SUPER TYPES、180mL、ノズル長:9cm)に、タック防止剤として、0.01gのポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)パウダー(ガンツ化成、ガンツパールGM−5003、個数平均粒径:26.6μm、体積平均粒径52.9μm、図11参照)を、導入した。このPMMAパウダーの動摩擦係数は0.06であった。次に、縦50mm横10mmに切り出した自己融着性シール材(富士高分子工業製フジポリ ヒラテープ5TV0.25−25、厚み:0.25mm、幅:25mm)を支持治具上にセットし、約100mm離れた位置から空気噴霧器を用いてPMMAパウダーを20回噴射することで、自己融着性シール材の表面にタック防止部材を形成した。
(2)自己融着性シール材の評価
上記(1)で得られた自己融着性シール材2枚について、タック防止部材が形成している面同士が接触するように軽く重ね合わせ、2mmずらした後、元に戻した。5kPaおよび100kPaで25℃、10分間加圧した後に、圧縮試験機(カトーテック製)を用いて、剥離速度6cm/minの速度でT型剥離試験を実施して、自己融着力(T剥離強度)を測定した。その結果を表1に示す。なお、下記表1において、本実施例の方法を、噴霧方法と、記載する。
また、自己融着性シール材表面のタック防止部材の形成状況を、走査型電子顕微鏡(カール・ツァイス製、ULTRA55)で観察した。その結果を表1に示す。タック防止剤であるPMMAパウダーを自己融着性シール材表面に空気噴霧器を用いて20回噴射した直後の自己融着性シール材の表面状態を、走査型電子顕微鏡にて観察し、その結果については画像処理ソフトを用いて個数平均粒子径(μm)および表面被覆率(%)を測定した。その結果を表2および図9に示す。表2から、PMMAパウダーの個数平均粒径は、パウダーでの26.6μmから7.1μmに低下していることがわかる。また、図9に示すように、走査型電子顕微鏡観察でも大粒径のPMMAパウダーが見られないことから、空気噴霧器用いて噴射すると、比較的大粒径のPMMAパウダーが優先的に風圧によって自己融着性シール材表面から脱離していることが考察される。以上の結果から、仮説として以下の効果が期待できる。すなわち、噴射により大粒径のPMMAパウダーが脱離した部分が100kPaで加圧後の自己融着性シール材同士の接着部位になる。このため、仮積層時にはシール材表面に残った中粒径から小粒径のタック防止部材がシール材界面に介在することで、自己融着性シール材同士の接触が妨害され、位置修正を容易に行うことができる。一方、100kPaで加圧すると、上記したような大粒径のPMMAパウダーが脱離した部分を介して自己融着性シール材同士が互いに接触するため自己融着性が発現して強固に接着できる。
また、タック防止剤を使用せずに、自己融着性シール材のみを使用して、上記と同様のT型剥離試験を実施して、自己融着力(T剥離強度)を測定した(比較例1)。その結果をあわせて下記表1に示す。
(比較例2)
(1)自己融着性シール材表面へのタック防止層の形成
ガラス製サンプル瓶(アズワン製、グッドボーイ100ml)に、タック防止層用添加剤として、0.01gのポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)パウダー(ガンツ化成、ガンツパールGM−0105、個数平均粒径:1.59μm、体積平均粒径2.25μmを、導入し、2分以上攪拌した。このPMMAパウダーの動摩擦係数は0.59であった。次に、縦50mm横10mmに切り出した自己融着製シール材(富士高分子工業製フジポリ ヒラテープ5TV0.25−25、厚み:0.25mm、幅:25mm)を針金で作った壁面付着防止用治具にセットして上記サンプル瓶に投入し、2分以上攪拌することで、自己融着性シール材の表面にタック防止層を形成した。サンプル瓶から取り出した自己融着性シール材2枚について互いのタック防止層が接触するように軽く重ね合わせた。このようにして自己融着性シール材の表面にタック防止部材を形成した。
(2)自己融着性シール材の評価
上記(1)で作製された自己融着性シール材について、実施例1(2)に記載の方法と同様にして、個数平均粒子径(μm)および表面被覆率(%)を測定した。その結果を表2に示す。自己融着性シール材に付着したPMMAパウダーの個数平均粒径は68μmであり、パウダー単独での個数平均粒径1.59μmと比較して大きく凝集していることがわかる。また、T型剥離試験を実施して、自己融着力(T剥離強度)を測定した。その結果を下記表1に示す。比較例2の自己融着性シール材は加圧する圧力によらず自己融着力は発現しなかった。なお、100kPa加圧前に2mmずらした時点で自己融着性シール材を互いに剥離し、表面のタック防止部材を目視したところ、タック防止部材が自己融着性シール材表面の大部分に広がっていた。このことから、2mmずらした時点で大きく凝集したPMMAパウダーが分散し、自己融着性シール材がタック防止部材によって過度に被覆されることで100kPa加圧後の自己融着性シール材のT剥離強度が低くなったものと、考察される。
上記表1から、本実施例のように室温でほぼ無圧(1kPa未満)で接触させただけでも強固な融着力を発現する自己融着性シール材であっても、適切なタック防止剤を適用することによって、自己融着性シール材の加圧前および加圧後の自己融着力(T剥離強度)を所望の値に容易に調節できることが分かる。なお、本実施例では、剥離速度6cm/minの速度でT型剥離試験を実施して加圧前(5kPa)および加圧後(100kPa)の自己融着力(T剥離強度)を測定したが、剥離速度50cm/minの速度でT型剥離試験を実施した場合の、加圧前(5kPa)および加圧後(100kPa)の自己融着力(T剥離強度)は双方とも、剥離速度6cm/minの速度で自己融着力(T剥離強度)より高い値となる。