JP5714118B2 - 低蛋白パン及びその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、腎臓病患者に適した低蛋白パン及びその製造方法に関する。
腎臓は、人体にとって有害となる物質や、過剰に摂取した物質を体外へ排泄する器官であり、体内の水分量調整やホルモンの分泌にも関連する重要な器官である。腎臓の疾患としては、体内でタンパク質が不足するネフローゼ症候群、慢性腎炎、急性腎炎などがあり、何れの疾患においても、症状の悪化を防ぐため、蛋白質、塩分、エネルギーの制限が有効であるとされている。
腎臓病患者用の食品としては、様々なものがあるが、そのうちの一つとして蛋白質含有量の少ない低蛋白パンがあり、製造方法が異なる様々なものが既に提案されている。その多くは、蛋白質を含む小麦粉の一部を澱粉(例えば、小麦澱粉)や多糖類と置換したものである。
例えば、澱粉と増粘多糖類と食物繊維とを原材料として混合してなるパン(特許文献1及び特許文献2を参照。)。また、澱粉とα化澱粉を原材料として混合してなるパン(特許文献3を参照。)、大粒澱粉を多く含む小麦澱粉をパン用強力小麦粉に混合してなるパン(特許文献4を参照。)、低蛋白米粉を原材料に混合してなるパン(特許文献5及び特許文献6を参照。)などが挙げられる。
ただ、これらの低蛋白パンは、何れも原材料の小麦の一部を澱粉に置換したものである。そのため、より低蛋白なパンを製造するためには、小麦と置換する澱粉の量を増やさなければならない。しかし、澱粉の量を増やすとパン生地中のグルテンの量が減少して、パン生地の伸展性が悪くなり、パン生地が充分に発酵しなくなる。そして、このようなパン生地を焼成したパンは、容積が小さくて気泡膜が厚くなるため、パンとして満足できる食感が得られない、より具体的には硬くて食べ難くなるという問題点があった。
特開平11−155467号公報 特開2007−215464号公報 特開2001−224300号公報 特開2002−169号公報 特開2005−46108号公報 特開2006−158298号公報
この発明は、低蛋白でありながら食感のよい、より具体的には柔らかなパンを提供することを課題とする。
この発明は、低蛋白パンを作る際に、小麦澱粉を主成分とする澱粉と温水とを混合・撹拌してなる繋ぎ材料と、小麦澱粉を主成分として含む粉材料とを、パンの原材料として使用することを最も主な特徴とする。
すなわち、請求項1に記載の低蛋白パンの製造方法は、小麦澱粉を主成分とする澱粉と温水とを混合・攪拌して繋ぎ材料を製造する繋ぎ材料製造工程と、繋ぎ材料と、小麦澱粉を主原料とする粉材料とを混合・攪拌してパン生地を製造する生地製造工程と、パン生地を発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を焼成する焼成工程と、を備える方法である。
また、請求項2に記載の低蛋白パンの製造方法は、請求項1に記載の低蛋白パンの製造方法であって、繋ぎ材料製造工程において、繋ぎ材料に微細な気泡を導入する方法である。
また、請求項3の低蛋白パンの製造方法は、請求項2に記載の低蛋白パンの製造方法であって、繋ぎ材料を高速攪拌することによって繋ぎ材料に微細な気泡を導入する方法である。
また、請求項4に記載の低蛋白パンの製造方法は、請求項1から請求項3の何れかに記載の低蛋白パンの製造方法であって、繋ぎ材料製造工程で使用する温水の水温が、70〜90℃の方法である。
また、請求項5に記載の低蛋白パンは、請求項1から請求項4の何れかに記載の低蛋白パンの製造方法によって製造されるものである。
さらに、請求項6に記載の低蛋白パンは、蛋白質含有量が0.5重量%以下であり、厚さ15mmにスライスしたパンのクラム部をレオメーターで測定(測定条件:粘弾性用プランジャーの直径15mm、圧縮速度20mm/分)した場合に、1mm圧縮時の荷重が2.0N以下のものであって、且つ、請求項5に記載のものである。
この発明の低蛋白パンは、低蛋白であるとともに優れた食感を備えている。そのため、腎臓病患者の症状改善に貢献するだけでなく、腎臓病患者に食べる喜びを与えることができるという利点がある。
図1は、実施例1の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図2は、実施例2の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図3は、実施例3の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図4は、実施例4の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図5は、実施例6の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図6は、実施例7の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図7は、実施例8の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図8は、実施例9の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図9は、実施例10の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図10は、実施例11の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図11は、比較例1の低蛋白パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図12は、通常の食パンを圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。 図13は、実施例3の低蛋白パンを乾燥させて水分率を変えたのち、圧縮試験した結果を示す「荷重−変位曲線」である。
この発明の低蛋白パンは、この発明の低蛋白パン製造方法によって製造されるものである。そこで、この発明の実施の形態について、低蛋白パンの製造方法、低蛋白パンの順で以下に詳説する。
1.低蛋白パンの製造方法
この発明の低蛋白パンの製造方法は、(1)繋ぎ材料製造工程、(2)生地製造工程、(3)発酵工程、(4)焼成工程を含んでいる。そこで、各工程について以下に詳説する。
(1)繋ぎ材料製造工程
繋ぎ材料製造工程は、温水と小麦澱粉を主成分とする澱粉とを混合・撹拌して繋ぎ材料を製造する工程である。なお、繋ぎ材料は、パン生地に粘性を付与し、発酵時、又は焼成時に気泡膜から発酵ガスが抜け出ることを抑制すると、考えられている。
繋ぎ材料に使用する小麦澱粉を主成分とする澱粉(以下、小麦粉等澱粉と省略する。)とは、小麦澱粉以外の澱粉、例えばジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉などの澱粉を、50重量%未満であれば含んでいてもよいこと、を意味している。小麦澱粉が50重量%よりも多ければ、出来上がった低蛋白質パンがもろくなる、歯にこびり付く等の欠点がなくなり、食感が向上する。そのため、小麦澱粉の割合は大きいほうが好ましく、100重量%がより好ましい。なお、これら小麦澱粉、ジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉、市販のものであれば特に限定することなく使用できる。
また、繋ぎ材料に使用する温水の温度は、70℃〜90℃の範囲が好ましい。70℃未満の場合には、小麦粉等澱粉のα化が進みにくく、繋ぎ材料として必要な粘度が得られない。また、90℃を超えると、繋ぎ材料の粘度が高くなり過ぎて、次工程で粉材料と混ぜ難くなる。
温水と小麦粉等澱粉の配合割合は、温水100重量部に対して、小麦粉等澱粉5〜30重量部が好ましく、10〜20重量部がより好ましい。小麦粉等澱粉の配合割合が5重量部未満では、澱粉の濃度が薄く、繋ぎ材料として粉材料を充分固めることができない。小麦粉等澱粉の配合割合が30重量部を超えると、粘度が高くなりすぎて粉材料と混合し難くなる。
小麦粉等澱粉と温水とを混合する際、温水全量と小麦粉等澱粉全量とを混合してもよいが、30〜50重量部の温水と小麦粉等澱粉全量とを混合して攪拌し、放熱中又は放熱後に、残りの温水を追加して糊状の繋ぎ材料をのばすようにしてもよい。また、小麦粉等澱粉と温水との撹拌は、温水に小麦粉等澱粉を投入してから、だまになる前に、竹ベラやミキサー等を使用して、とろみがつくまで混合することによって行う。
なお、繋ぎ材料に微小な気泡を導入すれば、気泡が後工程まで保持され、繋ぎ材料が発酵ガスの保持を助けるため、気泡と発酵ガスが焼成により膨張して、パンをふっくらと仕上げることができる。繋ぎ材料に微小な気泡を導入する方法としては、ガスを高圧で吹き込む方法など他の方法も考えられるが、ミキサーで高速攪拌する方法が容易である。
また、繋ぎ材料の粘度を増して気泡保持効果を高めるために、コーンシロップ、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラーギナン、グルコマンナン、アラビアガムなどの公知の増粘剤を加えてもよい。
(2)生地製造工程
生地製造工程は、繋ぎ材料と粉材料とを混合・撹拌してパン生地を製造する工程である。ここで、粉材料は、小麦澱粉を主原料とするものであり、副原料としてグルテンなどの蛋白質を含有する小麦粉、米粉等を含んでいてもよい。副原料の含有量は風味や食感を調整するのに必要な程度であることが好ましく、具体的には、副原料の含有量が小麦澱粉100重量部に対して10重量部以下であることが好ましい。
また、粉材料の主原料は、小麦澱粉以外の澱粉、例えばジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉などの澱粉を含んでいてもよい。小麦澱粉以外の澱粉を配合すると、低蛋白のまま食感を変えることができ、消費者の好みに合わせて調整すれば、バリエーションが豊になる。小麦以外の澱粉の配合割合は、主原料100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましく、10重量部以下がより好ましい。小麦澱粉以外の澱粉が多すぎると、パンの弾力性を失い脆くなったり、膨らみが小さくなったりするからである。
生地製造工程では、通常のパンと同様に、食塩と砂糖等の調味料、パン生地を発酵、膨張させるために酵母を、主原料、副原料、繋ぎ材料とともに混合・撹拌する。調味料の配合量は、通常のパンと同程度でもよいが、この発明の低蛋白パンの利用者が腎臓病患者であることを考慮すれば、通常のパンよりも薄味のほうが好ましい。また、酵母の配合量は、酵母として市販のドライイーストを使用する場合には、主原料、副原料、繋ぎ材料の混合材料100重量部に対してドライイースト1重量部程度を配合すればよい。
粉材料と繋ぎ材料との混合比は、粉材料100重量部に対して、繋ぎ材料が100〜200重量部であり、130〜170重量部が好ましい。また、粉材料と繋ぎ材料とを混合する際には、混合しやすい粘度を維持するため、繋ぎ材料の温度が40℃程度であることが好ましい。
粉材料と繋ぎ材料との混合・撹拌は、これらの材料をミキサーに入れて、その撹拌速度を徐々に上げて、全体が完全に均一化するまで攪拌することによって行う。なお、混合・撹拌する際の温度、撹拌速度、撹拌時間は各材料の配合割合等の条件によって適宜調整すればよい。
なお、蛋白質の含有量、カロリー、塩分量が腎臓病患者の利用に適しているならば、風味や照りを向上させるため、とき卵、バター、乾燥果実、ジャムなどをパン生地に混ぜてもよく、パン生地の表面に塗布・装飾してもよい。
(3)発酵工程
発酵工程は、パン生地を公知の方法で発酵させる工程であり、例えば、パン生地を食パンケース等の容器に詰めて、38〜40℃に設定されたホイロ中で40〜60分間発酵させる工程である。なお、発酵温度と発酵時間は、前工程での各原材料の配合割合等の条件によって適宜調整すればよい。
(4)焼成工程
焼成工程は、発酵したパン生地を電気焼成オーブンなどのパン製造に一般的に使用される加熱装置で焼成してパンを製造する工程であり、例えば、200℃〜250℃に設定された電気焼成オーブンで約30分焼成する工程である。なお、焼成温度や焼成時間は、焼成するパン生地の配合割合や発酵具合、加熱装置等の条件に応じて適宜調整すればよい。また、ホイロ工程の完了したパン生地を、パン生地に振動を与えないよう静かに加熱装置に移せば、パン生地の収縮を防げる。
2.低蛋白パン
この発明の低蛋白パンは、この発明の低蛋パンの製造方法などにより製造されたものである。中でも、低蛋白と優れた食感とを兼ね備えているため、蛋白質含有量が0.5重量%以下であり、厚さ15mmにスライスしたパンのクラム部(パンの内側のやわらかい部分)をレオメーター(測定条件:粘弾性用プランジャーの直径15mm、圧縮速度20mm/分)で測定した場合に、1mm圧縮時の荷重が2.0N以下である低蛋白パンが好ましい。なお、低蛋白パンの蛋白質含有量は、公知の方法、例えば、ケルダール法、改良ケルダール法、ミクロケルダール法、改良デュマ法(燃焼法)等によって測定できる。
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明するが、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されるものではない。
材料や製造方法の異なる複数の低蛋白パンを製造し、その性能を測定して分析した。その詳細を以下に説明する。
1.低蛋白パンの製造
(1)実施例1
小麦澱粉200gと70〜75℃の温水500mlとを混合し、とろみが出て半透明になるまで竹ベラで攪拌した。混合物を約40℃まで放熱させたのち、混合物に約40℃の温水800mlを加えて均一になるまで攪拌し、繋ぎ材料を得た(繋ぎ材料製造工程)。
小麦澱粉1000g、砂糖50g、食塩5g、ドライイースト10gを混合して粉材料を製造した。この粉材料1065gと繋ぎ材料1500gとを混合し、なじむように10秒間竹べらでゆっくりと攪拌した。さらに、ハンドミキサー(株式会社テスコム製THM280)を使用して2分間中速度(速度調整3)で攪拌してパン生地を製造した(生地製造工程)。
パン生地を計量して小型食パンケースに詰め、温度40℃、湿度80〜90%のホイロ中で約40分間発酵した(発酵工程)。小型食パンケースを電気焼成オーブンに静かに移して、発酵させたパン生地を200℃、30分間焼成し、低蛋白パンを製造した(焼成工程)。発酵工程でパン生地が約2倍膨張した。また、焼成時の釜伸びはなかったが、ふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(2)実施例2
粉材料に増粘剤であるコーンスターチ20gを配合したことを除き、実施例1と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程ではパン生地が約2.5倍膨張した。焼成工程において釜伸びはなかったが、実施例1の低蛋白パンと比べて、よりふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(3)実施例3
繋ぎ材料製造工程において、温水と小麦澱粉とを混合して、竹ベラで均一になるまで攪拌したのち、直ちにハンドミキサー(実施例1と同じ。)を使用して高速度(速度調整5)で約4分間分間攪拌したことを除いて、実施例1と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例1及び実施例2の低蛋白パンと比べて、よりふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(4)実施例4
粉材料に増粘剤であるコーンスターチ20gを配合したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程で膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例1の低蛋白パンと比べて、よりふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(5)実施例5
焼成前にとき卵をパン上面に薄く塗布したことを除き、実施例4と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例1の低蛋白パンと比べて、よりふっくらと弾力性があるとともに、配合した卵による優れた風味を有する低蛋白パンが製造できた。
(6)実施例6
小麦澱粉200gの代わりに、小麦澱粉100gとジャガイモ澱粉100gとを混合した混合澱粉を繋ぎ材料に使用したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例3の低蛋白パンと同等の、ふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(7)実施例7
小麦澱粉200gの代わりに、小麦澱粉100gとタピオカ澱粉100gとを混合した混合澱粉を繋ぎ材料に使用したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例3の低蛋白パンと同等の、ふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(8)実施例8
小麦澱粉1000gの代わりに、小麦澱粉900gとジャガイモ澱粉100gとを混合した混合澱粉を粉材料に使用したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例3の低蛋白パンに近い、ふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(9)実施例9
小麦澱粉1000gの代わりに、小麦澱粉800gとジャガイモ澱粉200gとを混合した混合澱粉を粉材料に使用したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例3の低蛋白パンと同程度に膨らんだ。
(10)実施例10
小麦澱粉1000gの代わりに、小麦澱粉900gとタピオカ澱粉100gとを混合した混合澱粉を粉材料に使用したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例3の低蛋白パンと同等の、ふっくらと弾力性のある低蛋白パンが製造できた。
(11)実施例11
小麦澱粉1000gの代わりに、小麦澱粉800gとタピオカ澱粉200gとを混合した混合澱粉を粉材料に使用したことを除き、実施例3と同様にして低蛋白パンを製造した。発酵工程での膨張と焼成工程での釜伸びを併せると、パン生地が約2.5倍膨張した。実施例3の低蛋白パンと同程度の弾力性を示したが、パンのクラム部の一部に割れが発生した。
(12)比較例1
比較例1には、原材料にα化澱粉を含むバイオテックジャパン社製の低蛋白パン(商品名:越後の食パン)を使用した。
(13)比較例2
粉材料を構成する小麦澱粉をタピオカ澱粉に換えたことを除き、実施例4と同様にして低蛋白パンを製造した。小麦澱粉をタピオカ澱粉に換えることによって、焼成中にパン生地が釜伸びして、焼成後は放熱中に収縮して餅のようになり、パンとは言いにくい食感となった。
(14)比較例3
粉材料を構成する小麦澱粉をジャガイモ澱粉に換えたことを除き、実施例4と同様にして低蛋白パンを製造した。小麦澱粉をジャガイモ澱粉に換えることによって、発酵時及び焼成時の膨張が小さくなり、ふっくらとしたパンにならなかった。
2.低蛋白パンの比較
製造した低蛋白パンの特性、具体的にはパンのふくらみ、食感、蛋白質含有量を比較した。比較内容と比較結果の詳細を以下に示す。
(1)パンのふくらみ
パンのふくらみは、単位重量あたりの容積、言い換えると容積を重量で除してなる値、すなわち比容積により比較した。
パンの容積は、菜種置換法により測定した。すなわち、一定の容器を充たす菜種種子の容積(V1)と、パンを入れた状態で同じ容器を充たす菜種種子の容積(V2)をメスシリンダーで計測し、その差(V1−V2)をパンの容積とした。
また、パンの重量は、秤を使用して、比較例1を除いて製造直後に測定した。比較例1については、市販品であるため、包装開封直後の重量を測定した。なお、パン重量は、パンの水分率により影響を受け、比容積の値に影響する。そこで、パンの重量に加えて、パンの水分率についても測定し、絶乾状態における絶乾重量を算出した。なお、パンの水分率は、五訂増補日本食品標準成分表分析マニュアルに従って、135℃常圧乾燥法により測定した。
パンの容積をパンの重量で除してなる比容積、パンの水分率、パンの容積をパンの絶乾重量で除してなる絶乾比容積を低蛋白パンごとに測定・算出した。その結果を表1に示す。
(2)パンの食感
パンの食感は、レオメーターによるクラム部の圧縮試験により評価した。具体的には、厚さ15mmにスライスしたパンのクラム部を、粘弾性用プランジャー(直径15mm)を使用して、20mm/分で3mm圧縮し、1mm圧縮時の荷重と、3mm圧縮時の最大荷重をレオメーターで測定した。なお、レオメーターは、CR-500DX(株式会社サン科学)を使用した。また、比較のため市販されている通常の食パンについても同様に試験した。さらに、実施例3の低蛋白パンを乾燥して水分率を変え、水分率の違いが与える影響についても調べた。
圧縮試験の生データ(荷重−変位曲線)を図1から図13のグラフに示し、1mm圧縮時の荷重及び3mm圧縮時の最大荷重を表1に示す。なお、図1は実施例1の低蛋白パン、図2は実施例2の低蛋白パン、図3は実施例3の低蛋白パン、図4は実施例4の低蛋白パン、図5は実施例6の低蛋白パン、図6は実施例7の低蛋白パン、図7は実施例8の低蛋白パン、図8は実施例9の低蛋白パン、図9は実施例10の低蛋白パン、図10は実施例11の低蛋白パン、図11は比較例1の低蛋白パン、図12は通常の食パンを測定して得られた「荷重−変位曲線」である。また、図13は実施例3(図3)の低蛋白パン(水分率47.1%)を、水分率が38.4%となるまで乾燥したものを測定して得られた「荷重−変位曲線」である。
(3)パンの蛋白質含量
パンの蛋白質含量は、五訂増補日本食品標準成分表分析マニュアルに準じて測定した。具体的には、ミクロケルダール法によって定量した窒素量に、五訂増補日本食品標準成分表の「窒素−たんぱく質換算係数」に記載の小麦粉加工品の窒素−たんぱく質換算係数5.70を乗じて算出した。その結果を表1に示す。
Figure 0005714118
3.比較結果の分析
(1)パンのふくらみについて
表1から、実施例1の低蛋白パンと比較して、実施例2〜実施例11の低蛋白パンは、比容積及び絶乾比容積が大きい、すなわちよりふっくらしていることが確認できた。また、実施例の中で実施例3、実施例6〜実施例7、及び実施例9〜実施例10の低蛋白パンが特に比容積及び絶乾比容積が大きい、すなわち特にふっくらしていることが確認できた。これらの結果は、製造した際に目で見た感じと合致していた。
なお、比較例1の低蛋白パンが、実施例の低蛋白パンと比較して比容積が大きい理由は、比較例1の水分率が小さく、重量が小さいからである。重量から水分を除いた絶乾重量から算出した絶乾比容積は、実施例1、実施例11を除いて、実施例2〜実施例4、実施例6〜実施例10と比較例1は大差ない。すなわち、比較例1低蛋白パンと比較して実施例2〜実施例4、実施例6〜実施例10の低蛋白パンのふくらみは、著しく劣るものではない。
また、実施例3〜実施例10の低蛋白パンが、実施例1、実施例2に比較して、視覚的にふっくらしており、比容積、絶乾比容積が大きかった理由としては、実施例3〜実施例10では繋ぎ材料製造工程で繋ぎ材料を高速攪拌しているため、繋ぎ材料に微小な気泡が導入され、この気泡が焼成時に膨張したこと、が考えられる。
(2)パンの食感について
表1から、初期弾性率と関係する1mm圧縮時の荷重は、実施例1の低蛋白パンが最も大きいこと、何れの実施例の低蛋白パンも比較例の低蛋白パンと比較すれば小さいこと、が確認できた。また、圧縮変形がさらに進んだ3mm圧縮試験の最大荷重は、実施例1の低蛋白パンを除き、実施例の低蛋白パンのほうが比較例1の低蛋白パンよりも小さいことが確認できた。
実施例1の低蛋白パンが、1mm圧縮時の荷重及び3mm圧縮試験の最大荷重が最も大きいのは、他の実施例の低蛋白パンが気泡や増粘剤を含んでいるからである。また、3mm圧縮時の最大荷重が、実施例1と比較例1の低蛋白パンで逆転している理由は、実施例1の低蛋白パンは大きく圧縮しても弾性変形が継続しているのに対して、比較例1の低蛋白パンはパン生地の破壊が生じているからである。このことは、実施例1の低蛋白パンは噛んでも最後まで弾力性があるのに対して、比較例1の低蛋白パンは最初こそ硬いものの、噛むとビスケットように脆く崩れることから、裏付けられた。
実施例1と実施例2との圧縮荷重の比較から、増粘剤には発酵ガスの漏れを防ぐ効果があり、パン生地中の空隙を増加させ食感の向上に寄与する効果があることが、分かった。また、実施例1と実施例3との比較から、繋ぎ材料に微小な気泡を含ませることは、増粘剤と同様に、パン生地中の空隙を増加させ、食感の向上に寄与する効果があることが、分かった。
しかし、実施例3と実施例4との圧縮荷重の比較から、増粘剤はパンの食感を減殺する逆の効果もあることが分かった。なお、逆の効果が生じる原因については、増粘剤が前記のようにパン生地中の空隙を増加させるだけではなく、パン生地を構成する実部(空隙以外の部分)を硬化させることが考えられる。
したがって、増粘剤を加えて空隙の増加とともに実部を硬化させるよりも、実部を硬化しない微小な気泡を含ませるほうが、食感を向上させるためには好ましいことが分かった。なお、繋材料に微小な気泡を含ませ、併せて増粘剤を使用するときは、パン生地実部の硬化を防ぐために、少量を補助的に使用することが好ましいことも分かった。
なお、実施例3の低蛋白パンの水分濃度を変えた低蛋白パン(図13)の1mm圧縮時の荷重は1.6Nであった。一般的に、パンはその水分率が低下すれば硬化する傾向にある。それにもかかわらず、比較例1と同程度の水分率まで、この発明に係る低蛋白パンを乾燥させても、1mm圧縮時の荷重は比較例1よりも小さかった。このことから、この発明の低蛋白パンの優れた食感が裏付けられた。
(3)蛋白質含量について
表1から、とき卵を塗布した実施例5を除いて、何れの実施例も比較例1と比べて蛋白質の含有量が少ないこと、より具体的には20〜40%程度少ないことが確認できた。
以上のように、この発明の低蛋白パンは、従来からある低蛋白パンと比較して、蛋白質の含有量を大きく削減したにもかかわらず、優れた食感を備えていることが分かった。

Claims (6)

  1. 小麦澱粉を主成分とする澱粉と温水とを混合・攪拌して繋ぎ材料を製造する繋ぎ材料製造工程と、
    繋ぎ材料と、小麦澱粉を主原料とする粉材料とを混合・攪拌してパン生地を製造する生地製造工程と、
    パン生地を発酵させる発酵工程と、
    発酵させたパン生地を焼成する焼成工程と、
    を備える低蛋白パンの製造方法。
  2. 繋ぎ材料製造工程において、繋ぎ材料に微細な気泡を導入する請求項1に記載の低蛋白パンの製造方法。
  3. 繋ぎ材料を高速攪拌することによって、繋ぎ材料に微細な気泡を導入する請求項2に記載の低蛋白パンの製造方法。
  4. 繋ぎ材料製造工程で使用する温水の水温が、70〜90℃である請求項1から請求項3の何れかに記載の低蛋白パンの製造方法。
  5. 請求項1から請求項4の何れかに記載の低蛋白パンの製造方法によって製造される低蛋白パン。
  6. 蛋白質含有量が0.5重量%以下であり、厚さ15mmにスライスしたパンのクラム部をレオメーターで測定(測定条件:粘弾性用プランジャーの直径15mm、圧縮速度20mm/分)した場合に、1mm圧縮時の荷重が2.0N以下である請求項5に記載の低蛋白パン。
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