JP5709552B2 - 水素吸蔵合金組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、使用済の廃ニッケル水素二次電池から再利用可能な水素吸蔵合金組成物を新たに製造する方法に関する。
廃ニッケル水素二次電池から有価金属であるニッケル、コバルト及び希土類金属等を回収する方法として、例えば、電池を破砕、解砕、篩分した後、粗粒部(プラスチック、鉄、ニッケル基板等)と細粒部(水酸化ニッケル、水素吸蔵合金)とに分離し、細粒部を、アルカリ金属を含んだ硫酸で溶解し、コバルト含有ニッケル溶解液から不純物を除去した後、電解処理して金属ニッケル及びニッケル−コバルト合金を回収する方法が提案されている(特許文献1)。
このようにして廃ニッケル水素二次電池から有価金属を回収する際、回収した有価金属中の炭素含有量を少なくすることで回収有価金属の用途が広くなるため、有価金属、特に水素吸蔵合金構成元素の回収に当たっては回収される有価金属中の炭素含有量を少なくすることが好ましいという知見が報告されている。例えば特許文献2には、不活性ガス雰囲気或いは水素ガス雰囲気で回収した有価物を脱炭素すると、酸化され易い希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希土類元素)などを比較的酸化することなく、該有価物中に含まれる炭素を除去することができるという知見が開示されている。
しかし、廃ニッケル水素電池から水素吸蔵合金構成元素を回収する場合に、負極活物質を多く含む負極主体回収物を水素ガス雰囲気で加熱処理すると、その中に僅かに含まれる正極活物質、特に水酸化ニッケルなどの水酸化物が希土類(La、Ce、Pr、Nd、Sm等)を酸化するため、他の水素吸蔵合金構成元素に比べ希土類の回収率が低くなることが次第に分かってきた。
そこで特許文献3に係る発明は、希土類の回収率を高く維持することができる水素吸蔵合金構成元素の回収方法として、水素吸蔵合金構成元素を含有した負極主体回収物を、水素雰囲気中で100〜350℃で加熱処理することにより当該負極主体回収物中の水酸化物を還元させた後、当該負極主体回収物を水素雰囲気中で750℃以上で加熱して炭素を除去する工程を包含する水素吸蔵合金構成元素の回収方法を提案している。
また、特許文献4は、水素吸蔵合金を負極活物質とするアルカリ二次電池から有用金属を回収する方法として、水素吸蔵合金を負極活物質とするアルカリ二次電池を、粉砕及び/又は解体し、得られた粉砕物及び/又は解体物を、還元剤の存在下、200℃以上の条件で、露点を0℃以下に制御しながら加熱分解及び還元し、得られた物質から亜鉛、リチウム、カリウム等の高揮発性金属及びその化合物を揮発除去する有用金属回収方法を提案している。
特開平9−82371号公報 特開2002−327215号公報 特開2005−113226号公報 特開2001−131647号公報
ところで、廃ニッケル水素二次電池から新たに水素吸蔵合金組成物を製造(リサイクル)する場合、廃ニッケル水素二次電池から、負極を多く含む負極主体回収物を回収し、当該回収物を前述のように還元処理や脱炭素処理した後、これを負極活物質構成元素の溶湯(「合金溶湯」とも称する)に投入して加熱溶解させ、得られた溶湯を鋳造して新たな水素吸蔵合金組成物を製造することが考えられる。しかし、実際に合金溶湯に負極主体回収物を投入して加熱溶解させてみると、負極主体回収物の酸素濃度が高いために負極主体回収物の溶解が進まず、溶解歩留りを高めることが難しいために最終的な回収率を高めることができないという課題が明らかになってきた。
そこで本発明は、廃ニッケル水素電池から回収(製造)される負極主体回収物の酸素濃度を低くすることにより、負極活物質構成元素からなる合金溶湯に投入して加熱溶解させる際の溶解歩留まりを高めることができる新たな方法を提供せんとするものである。
本発明は、廃ニッケル水素電池から負極主体回収物を選別する負極回収工程と、該負極主体回収物を加熱処理する還元・脱炭素工程とを備えた水素吸蔵合金組成物の製造方法であって、
還元・脱炭素工程では、還元雰囲気下、750〜1050℃まで昇温する昇温過程において、少なくとも330℃±15℃の範囲、すなわち315℃〜345℃間の昇温速度を5.0℃/min以下とすることを第1の特徴とし、
還元・脱炭素工程終了後から降温過程の途中段階までの間で還元雰囲気から不活性雰囲気に切り替え、その後の降温過程における40〜70℃の温度領域で不活性雰囲気から空気雰囲気に切り替えることを第2の特徴とする水素吸蔵合金組成物の製造方法を提案する。
本発明のように、還元・脱炭素工程における昇温過程において、330℃付近、具体的には330℃±15℃の範囲、すなわち315℃〜345℃間での昇温速度を低く設定すると共に、降温過程において、不活性雰囲気から空気雰囲気に切り替える温度領域を規定することにより、得られる負極主体回収物の酸素濃度を低くすることができ、その結果、水素吸蔵合金構成元素からなる溶湯(「合金溶湯」称する)に加えて加熱溶解させた際の溶解歩留まりを高めることができ、その結果、廃ニッケル水素二次電池からの有価金属の回収率を顕著に高めることができるようになった。
本発明者がこれまで行ってきた試験結果をもとに、合金溶湯に投入する負極主体回収物の酸素濃度(横軸、wt%)と、Co回収率(縦軸、wt%)との関係を示したグラフである。 本発明者がこれまで行ってきた試験結果をもとに、合金溶湯に投入する負極主体回収物の酸素濃度(横軸、wt%)と、Ce回収率(縦軸、wt%)との関係を示したグラフである。
次に、本発明の好適な実施形態の一例として、廃ニッケル水素電池から水素吸蔵合金構成元素を回収して新たな水素吸蔵合金組成物を製造する方法について説明する。ただし、本発明の範囲が下記説明する実施形態に限定されるものではない。
<本水素吸蔵合金製造方法>
本発明の好適な実施形態の一例としての水素吸蔵合金組成物の製造方法(「本水素吸蔵合金製造方法」と称する)は、廃ニッケル水素電池から負極主体回収物を選別する負極回収工程と、該負極主体回収物を加熱処理する還元・脱炭素工程と、このように処理された負極主体回収物を、水素吸蔵合金構成元素からなる溶湯(「合金溶湯」)に加えて加熱溶解させる溶解工程と、溶解した本負極主体回収物等を鋳造する鋳造工程と、を備えた水素吸蔵合金組成物の製造方法である。
但し、本水素吸蔵合金製造方法は、これらの工程を備えていればよいから、各工程の順番を入れ替えたり、他の工程を追加したりしてもよい。
ここで、「負極主体回収物」とは、負極活物質を多く含む回収物の意であり、具体的には負極構成物質を50質量%以上、好ましくは負極活物質を50質量%以上、特に好ましくは負極活物質を80質量%以上含む回収物であり、負極構成物質からなる回収物も包含する。
(負極回収工程)
負極回収工程では、廃ニッケル水素電池を必要に応じて失活化させた後、水素吸蔵合金構成元素を含有する組成物、すなわち負極活物質を多く含む負極主体回収物(「本負極主体回収物」と称する)を選別し、次に必要に応じて水等の極性溶液で本負極主体回収物を洗浄してアルカリ金属塩濃度を低減させ、次にさらに必要に応じて乾燥させて、本負極主体回収物を回収するようにすればよい。
廃ニッケル水素電池から本負極主体回収物を選別回収するには、例えば廃ニッケル水素電池を失活化させた後に解体し、その中から水素吸蔵合金構成元素をより多く含有する本負極主体回収物を選別回収すればよい。
ニッケル水素電池から本負極主体回収物を回収する方法としては、従来方法と同様に行えばよい。例えば、該電池を失活化させた後、剪断破砕機を用いて破砕し、必要に応じて解砕機を用いて湿式法で解砕を行い、次いで所定の篩(例えば200メッシュ)で篩分すれば、負極主体回収物を選別することができる。一般的に篩分後、細かい方に負極活物質が多く含まれ、粗い方に正極活物質が多く含まれる傾向がある。但し、本負極主体回収物の回収方法をかかる方法に限定するものではない。
なお、負極活物質は、ミッシュメタル(「Mm」ともいう)を含有する水素吸蔵合金であることが重要であり、ミッシュメタル及びNiを含有するもの、中でも特にLaを含有する水素吸蔵合金が好ましい。その中でも、LaがMm中の10質量%以上を占めるものが好ましい。
具体的には、Mmを含有するAB型水素吸蔵合金、Mmを含有するAB型水素吸蔵合金、中でも、Bサイトの金属として、例えばNi及びAlを含有し、その他にMn、Co、Fe、Ti、Mg、V、Zn及びZrのいずれか、或いはこれらの二種類以上の組合せを含有する合金を例示することができる。
ミッシュメタル(Mm)とは、希土類元素(レア・アース)が含まれた合金であり、AB型水素吸蔵合金においてはAサイトを構成する金属であり、本発明においては、La、Ce、Nd及びPrからなる群のうちの一種又は二種以上を含む合金を意図している。
電池を失活化させるとは、電池として機能させなくすることを意味する。失活化させる方法としては、液体窒素や冷凍機などで電解液を凍らせて機能させなくする方法や、酸性溶液に入れて故意に短絡させる方法など、任意である。
殆どのニッケル水素電池では、電解液として水酸化カリウムを含むアルカリ性水溶液が用いられているため、本負極主体回収物にはアルカリ性水溶液が付着している可能性がある。アルカリ性水溶液が付着した本負極主体回収物を加熱処理すると、ミッシュメタル(Mm)が酸化してミッシュメタル(Mm)の回収率が低下するばかりか、後の溶解工程で溶解性が低下したり、ドロスが生じたりするため、還元工程の前に予め本負極主体回収物からアルカリ金属塩を除去しておくのが好ましい。
アルカリ金属塩を除去する方法としては、0℃〜100℃の水や弱酸性の水溶液等の極性溶液を用いて、本負極主体回収物を洗浄することにより、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属塩を除去するのが好ましい。この際、洗浄処理は必要に応じて繰り返し行うのが好ましい。
但し、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属塩を除去することができれば、他の方法を採用してもよい。
上記のように水或いは他の極性溶液を用いて本負極主体回収物を洗浄する場合には、その後に乾燥を行うのが好ましい。
なお、前記工程で付着した水或いは他の極性溶液は、次の還元工程でも除去することが可能であるから、本乾燥工程を省略することは可能であるが、次工程では低減させる目的物質が異なるため、効率を考えると本乾燥工程を介在させるのが好ましい。
この際、乾燥方法は任意である。例えば乾燥装置内に保管乃至通過させて乾燥させるようにすればよい。好ましくは乾燥装置内で60℃〜80℃程度の低温で乾燥させ、さらに減圧〜真空下で乾燥させるのがよい。
(還元・脱炭素工程)
本工程では、本負極主体回収物を、還元雰囲気下、750〜1050℃まで昇温することにより、当該回収物中に含まれる正極活物質、特に水酸化物、中でも特に水酸化ニッケル(例えばNiOOH)や水酸化コバルトなどを還元すると共に、炭素を除去することができる。
その際、昇温工程においては、少なくとも330℃付近の温度領域での昇温速度を低く設定して、最終的には750〜1050℃まで昇温し、必要に応じて一定温度を一定時間保持した後、降温させることが重要である。また、降温過程では、40〜70℃の温度領域で不活性雰囲気から空気雰囲気に切り替えることが重要である。
本負極主体回収物を還元雰囲気下で加熱処理すると、昇温過程では、少なくとも次のような反応を生じることが想定される。
200〜300℃の温度領域では、次の式(1)の反応が想定される。
Ni(OH)2+H2→Ni+2H2O・・・(1)
330℃付近では、次の(2)の反応が想定される。
La(OH)3 →LaOOH+H2O↑・・・(2)
また、490℃付近では、次の(3)の反応が想定される。
2LaOOH →La23+ H2O↑・・・(3)
溶解歩留まりが悪い原因の一つとして、本負極主体回収物の酸素濃度が高いことが考えられる。従来行われていたように昇温すると、上記式(1)(2)(3)で生じたH2Oが、昇温過程で水素吸蔵合金組成物(特に希土類元素)と反応して酸化がより一層起こり易くなり、酸素濃度が高くなり、その結果、溶解歩留まりが低下するものと推測することができる。そこで、上記式(1)の反応後、330℃付近での上記式(2)の反応を確実に進行させるようにしたところ、上記式(1)(2)の反応で生じたH2Oと水素吸蔵合金組成物(特に希土類元素)との酸化反応を抑制できるようになり、溶解歩留まりを高めることができた。
さらに上記式(3)の反応を確実に進行させるために、490℃付近、例えば490℃±15℃の温度領域での昇温速度を、330℃付近と同様に5.0℃/min以下とするのが好ましい。
より具体的には、昇温工程においては、少なくとも330℃付近、具体的には330℃±15℃すなわち315℃〜345℃の温度領域での昇温速度を、5.0℃/min以下とするのが好ましい。
ここで、「315℃〜345℃の温度領域での昇温速度」とは、315℃から345℃まで20℃昇温した時の単位時間(min)当たりの昇温温度の意味である。
より好ましくは330℃±25℃すなわち305℃〜355℃の温度領域、特に好ましくは330℃±50℃すなわち280℃〜380℃の温度領域、中でも好ましくは330℃±100℃すなわち230℃〜480℃の温度領域、その中でも200〜600℃の温度領域での昇温速度を、5.0℃/min以下、好ましくは3℃/min以下、特に好ましくは2.2℃以下とするのがよい。
この際、昇温時の昇温速度を上記のように5.0℃/min以下とすれば、330℃付近の温度領域、すなわち315℃〜345℃の温度領域、好ましくは300〜480℃の温度領域、特に好ましくは220〜480℃の温度領域、中でも特に好ましくは200〜600℃の温度領域において、保持工程を挿入してもよい。各温度領域に保持工程を挿入することにより、上記式(1)(2)(3)の反応をそれぞれ確実に行わせることができる。具体的には、315℃〜345℃の温度領域で、段階的に昇温するなどして保持時間を含め315℃〜345℃までの全体としての昇温速度が5.0℃/min以下となるようにしてもよい。但し、連続的にゆっくりと5.0℃/min以下で昇温するのがより一層好ましい。
昇温時の最高到達温度は、負極主体回収物中に含まれる炭素を、少なくともその一部を炭化水素ガス化させて除去することができる温度、好ましくは750〜1050℃まで昇温すればよい。750℃未満でも脱炭素を図ることはできるが、反応速度が遅いため、750℃以上の温度領域まで加熱するのが好ましい。
本工程での雰囲気は、昇温過程では、還元雰囲気とする必要がある。
ここで、還元雰囲気とは、加熱により、実質的に金属や合金を酸化することなく炭素を還元等により除去できる雰囲気を意味し、例えば水素ガス雰囲気を挙げることができる。
水素雰囲気は、水分や酸素等の酸化性不純物が少ない高純度の水素ガスからなる雰囲気が好ましいが、特に制限するものではない。
昇温過程では、200℃〜300℃において、本負極主体回収物に含まれる極僅かな正極活物質、特に水酸化物、中でも特に水酸化ニッケルや水酸化コバルトが還元されることになる。
その後、300〜500℃において、本負極主体回収物に含まれる負極活物質、特にミッシュメタル、中でも特に水酸化ランタンの脱水がなされる。
そして、750〜1050℃においては、本負極主体回収物中に含まれる酸素、水素が還元的又は酸化的に作用し、本負極主体回収物の炭素が炭化水素や二酸化炭素などのガスとして排出される。なお、水素ガス雰囲気では、本負極主体回収物中の少なくとも一部の炭素が水素により還元されて低級炭化水素等に転化され回収物から排出されることになる。
750〜1050℃の加熱処理によって、脱炭素反応が終了したら、その後適宜タイミングで還元雰囲気を不活性ガス雰囲気に切り替える必要がある。この際、低温領域になると水素吸蔵合金が水素を吸収するため、脱炭素反応終了後から降温過程の途中までの間、好ましくは200℃以上の温度領域で還元雰囲気を不活性ガス雰囲気に切り替えるのがよい。
この際の不活性ガスとしては、アルゴン、窒素及びヘリウム等を挙げることができるが、アルゴンが好ましい。
そしてその後の降温過程において、上述したように、70℃以下、特に40〜70℃の温度領域で不活性ガス雰囲気から空気雰囲気に切り替えることが重要である。
例えば、70℃よりも明らかに高い温度で空気雰囲気に切り替える、すなわち、加熱炉から取り出すと、水素吸蔵合金の表面が活性化しているため発火する可能性が高い一方、40℃よりも明らかに低い温度で空気雰囲気に切り替えるようにすると、特に夏場ではその温度まで冷却するのに長時間を要するため、投入資源あたりの回収率が低下することになる。
このような観点から、降温過程で空気雰囲気に切り替える温度領域としては、40〜70℃であるのがより好ましく、中でも40〜60℃であるのがさらに好ましい。
本工程を実施する装置としては、ガスを密閉する密閉式、ガスを流動させる流動式のいずれも使用可能であるが、密閉式の場合には水蒸気等によって還元ガスの分圧が徐々に低下することになるから工業的には流動式の方が好ましい。
また、加熱手段としては、電熱加熱、ガス燃焼加熱、その他の加熱手段のいずれでもよい。
なお、還元ガスとしては、水素ガスのほかにも、アンモニア分解ガス、その他のガスを使用することができるが、一酸化炭素は450℃以下ではNi及びCoを還元することができない。水素ガスは、水酸化物の還元及び脱炭素の両方に使用できるため共通の反応炉(一炉)で処理することができる点からも特に好ましい。
(溶解工程)
本溶解工程では、得られた本負極主体回収物を、水素吸蔵合金構成元素からなる溶湯(「合金溶湯」と称する)に加えて加熱溶解させ、必要に応じて当該工程において所望の組成となるように調合(「組成調合」という)するのが好ましい。
本溶解工程では、本負極主体回収物と共にアルミニウムを合金溶湯に加えることで、回収率をより一層高めることができる。この際、本負極主体回収物と同時に加えてもよいし、また、本負極主体回収物を加える前後に順次加えてもよい。
本負極主体回収物と同時又は順次にアルミニウムを合金溶湯に加える手段としては、例えば、本負極主体回収物にアルミニウム(Al)を混合し、混合状態のまま合金溶湯に加えてもよいし、或いは、アルミニウムを先に合金溶湯に加え、その直後に本負極主体回収物を合金溶湯に順次加えてもよいし、或いは、本負極主体回収物を先に合金溶湯に加え、その直後にアルミニウムを溶湯に順次加えるようにしてもよい。いずれにしても、合金溶湯中において、アルミニウムが溶湯中で溶融した付近に本負極主体回収物を存在させるのが好ましい。
なお、アルミニウムを先に溶湯に添加し、“その直後に”本負極主体回収物を溶湯に順次加える、或いは、本負極主体回収物を先に溶湯に添加し、“その直後に”アルミニウムを溶湯に順次加える場合の“直後”とは、いずれを先に添加しても一定時間溶湯上に浮いた状態となるため、それらが浮いている間に、好ましくは浮いている範囲内に加えるという意味である。
加熱溶解を行う装置(炉を含む)は任意である。例えば、高周波溶解炉、低周波溶解炉を用いて加熱溶解することができる。
また、合金溶湯は、水素吸蔵合金構成元素からなる溶湯であればよく、その組成は適宜調整可能である。負極活物質を溶融してなる溶湯であっても、負極活物質を作製するための母合金からなる溶湯であってもよい。
このように本負極主体回収物と同時又は順次にアルミニウムを合金溶湯に加えて加熱溶解させることで、本負極主体回収物の溶解効率を顕著に高めることができる。なぜ溶解効率が高まるのかの原因を究明できている訳ではないが、次のように推察することができる。すなわち、本負極主体回収物が合金溶湯に加えられて溶解するのは、単純に熱溶融されているのではなく、表面の酸化物などが還元されて溶湯に溶解されるものと考えられる。アルミニウムは水素吸蔵合金構成元素の中では比較的融点が低い。また、溶解時には高い反応熱により金属酸化物を還元する性質がある。よって、高温の溶湯中で溶融したアルミニウムによって溶湯の粘性が低下すると共に、溶解時の反応熱により混合状態の本負極主体回収物が還元されて負極主体回収物の溶解効率が飛躍的に高まるものと推察することができる。
本負極主体回収物と共に合金溶湯に加えるアルミニウムは、金属アルミニウム或いはアルミニウム合金であればよい。効果の観点から、金属アルミニウムであるのがより好ましい。
本負極主体回収物と共に合金溶湯に加えるアルミニウムは、粒状又は粉状であるのが好ましく、中でも粒度が2mm〜10mm、すなわち網目の大きさが2mm〜10mmの篩を使って分級されるアルミニウム粒であるのが好ましい。
この際、加えるアルミニウム量は、本負極主体回収物の溶解率(溶解率)を高める観点から、負本負極主体回収物の10質量%以上、特に20質量%以上、中でも特に30質量%以上とするのが好ましい。
本負極主体回収物とアルミニウムとを混合し、混合状態のまま合金溶湯に加える場合、混合状態のまま直接、合金溶湯に投入してもよいが、そのまま溶湯に投入すると溶湯上に当該混合物が浮いてしまって溶解が進まない可能性があるため、アルミニウムやニッケル、マグネシウムなどの水素吸蔵合金構成元素の一種又は二種以上からなる部材で、当該混合物を束ねて溶湯に投入するのがより一層好ましい。
この際、本負極主体回収物を束ねる部材の形状は、特に限定するものではなく、例えば袋状、筒状、紐状、バンド状、リボン状、その他の形状であればよく、網や箔で包むようにしてもよい。具体的には、アルミニウム箔で当該混合物を包んで溶湯中に投入すればよい。
本負極主体回収物を溶解する温度、言い換えれば合金溶湯の溶湯温度は1200〜1600℃であるのが好ましく、特に1300〜1550℃、中でも特に1400〜1500℃であるのが好ましい。
また、溶解工程は、有価金属、すなわち水素吸蔵合金構成元素の酸化を抑制するために、アルゴン中等の不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
また、本溶解工程において組成調合する場合には、予め本負極主体回収物の元素量を分析しておき、さらに本負極主体回収物の回収率を考慮し、この本負極主体回収物の元素量(Alを添加する場合には本負極主体回収物と共に加えるAl量)と、合金溶湯の元素量との合計値が目的とする製造物の組成となるように、合金溶湯の組成及び量(Alを添加する場合には本負極主体回収物と共に加えるAl量)と、本負極主体回収物の投入量とを調整するようにするのが好ましい。
(鋳造工程)
前記溶解工程において本負極主体回収物を加熱溶解して得られた溶湯は、必要に応じて鋳型に注入し、所望の形状に鋳造することができる。但し、鋳造工程を省略することもできる。
また、例えば本実施形態の製造目的が母合金、すなわち、そのまま負極活物質として使用可能な水素吸蔵合金を製造するのではなく、後で適宜成分を加えて組成調整して水素吸蔵合金を製造するための中間材料としての合金(「母合金」と称する)を製造することにある場合は、上述のように鋳造することもできるし、また、母合金の溶湯を一旦製造した後、この母合金に適宜成分を加えて水素吸蔵合金の組成に調製した後、上述のように鋳造することもできる。
鋳造工程においても、有価金属、すなわち水素吸蔵合金構成元素の酸化を抑制するために、アルゴン中等の不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
<製品としての水素吸蔵合金組成物>
本水素吸蔵合金製造方法で得られる水素吸蔵合金組成物は、前述の組成調合によって、ニッケル水素電池の負極活物質として利用することができる水素吸蔵合金組成物とすることもできるし、また、母合金、すなわち負極活物質用母合金として利用することができる水素吸蔵合金組成物とすることもできる。
ニッケル水素電池の負極活物質として利用することができる水素吸蔵合金組成物を製造する場合には、適宜成分、すなわち例えばLa、Ce、Nd、Pr、Ni、Al、Mn、Co、Fe、Ti、V、Zn、Mg、Cu、Y、Rb、Gd、Tm、Lu及びZrなどのいずれか、或いはこれらの二種類以上の組合せを加えて溶解して合金を製造し、ニッケル水素電池の負極活物質として利用することができる水素吸蔵合金組成物を製造すればよい。
<その他>
本水素吸蔵合金製造方法では、廃ニッケル水素電池から取り出した原料回収物を出発原料としているが、水素吸蔵合金元素の一種又は二種以上からなる基板と水素吸蔵合金層とからなる部材を選択的に取り出すことができれば廃ニッケル水素電池から取り出した原料に限定するものではない。例えば、ヒートポンプ、太陽・風力などの自然エネルギーの貯蔵装置、水素貯蔵装置、アクチュエータ、燃料電池などにおいて、水素吸蔵合金元素の一種又は二種以上からなる基板と水素吸蔵合金層とからなる部材を選択的に取り出すことができれば、これを出発原料とすることも可能である。
<用語の説明>
本発明において、「水素吸蔵合金」とは、LaNiに代表されるAB型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB型合金、そのほかAB型合金やAB型(A含む)合金など様々な合金を包含する。
「水素吸蔵合金構成元素」とは、水素吸蔵合金を構成する元素のうちの一種又は二種以上の組み合わせからなる元素を意味する。中でも、CaCu型の結晶構造を有するAB型水素吸蔵合金、詳しくはAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Co等の金属元素を用いた水素吸蔵合金及びその構成元素が本発明の対象として好ましい。
「水素吸蔵合金組成物」とは、水素吸蔵合金構成元素からなる組成物であり、その形状は塊状、成形体状、粉体状の何れであってもよい。
また、本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意であり、「好ましくはXより大きく、Yより小さい」の意を包含するものである。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
以下、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
<定量元素分析>
250mlビーカーに測定サンプル(水素吸蔵合金組成物)を0.2gを入れ、これに硝酸10mlを加えて加熱溶解させた後、さらに塩酸を10ml加えて完全溶解させ、その後100mlのメスフラスコに移し、水を加えて100mlの水溶液を得た。その水溶液を50倍に希釈して、ICP発光分析装置(SIIナノテク社製型式SPS-3100)を用いて、各元素の定量を行った。
また、Co及びCeの回収率(wt%)は次のように算出した。
Coの回収率(wt%)=(鋳造後の水素吸蔵合金組成物中のCo含有量/リサイクル原料中のCo含有量)×100
Ceの回収率(wt%)=(鋳造後の水素吸蔵合金組成物中のCe含有量/リサイクル原料中のCe含有量)×100
<酸素濃度測定>
測定サンプルの酸素濃度の測定は、0.02gに秤量したサンプルについて下記分析装置を使用し、下記条件下で行った。
・分析装置:固体中酸素窒素分析装置(堀場製作所製、EMGA-620W)
・キャリアーガス:He(純度99.995%以上)、ガス圧0.35±0.02Mpa
・るつぼ:黒鉛るつぼ
・測定条件:EMGA-620W取扱説明書に記載の標準設定条件(1モード分析条件(1)5.00、500kw;75secの条件に変更)
・測定モード:BLOCKモードのSTANDARD BLOCK動作モード
(実施例1)
使用済の廃ニッケル水素電池を液体窒素で冷凍失活させた後、2軸剪断破砕機を用いて乾式破砕を行い、次いで、解砕機を用いて湿式法で解砕を行った後、水洗によりプラスチックや紙などを除去し、その後篩(16メッシュ)で分級し、篩上の非分級物を2000〜3000ガウスで磁力選別して負極Fe基板を除去した。篩下の分級物は、負極の水素吸蔵合金が濃縮した負極活物質主体の回収物(負極主体回収物)であった。
この負極主体回収物(「リサイクル原料」とも称する)は、負極活物質の比率が88質量%で、残りは正極活物質などが混在しており、Co濃度は9.6質量%であった。
また、この負極主体回収物(リサイクル原料)の各元素濃度を化学分析(ICP法及び炭素分析装置)した結果、各元素量の質量%は;Mm:30.6%、Ni:52.7%、Mn:4.4%、Al:1.5%、Co:9.6%、C:1.2%であった。また酸素濃度は5.0%であった。なお、Mmは、La、Ce、Nd及びPrなどの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分量(回収物中の質量%)は、La:10.3%、Ce:14.3%、Nd:4.5%、Pr:1.5%であった。
このようにして得た負極主体回収物(リサイクル原料)を、流動式回転炉(7rpm)を用いて水素雰囲気(H99.99%、O<0.02ppm、HO(露点)−80℃、CO<0.01ppm)下において、表1に示した昇温プロフィールで昇温した。
なお、表1における第1〜第4昇温過程において、各昇温過程での昇温速度は一定である。
上記昇温後、降温工程において、220℃付近でアルゴンガス雰囲気(Ar99.98%、O<0.02ppm)に切り替えた後、40℃で回転炉から取り出して空気雰囲気に晒した後、ビニール袋に回収してアルゴンガス封入を行い、処理済負極主体回収物(水素吸蔵合金組成物)を得た。得られた処理済負極主体回収物の酸素濃度は2.64%であった。
なお、上記の各温度は、炉内の加熱物付近の温度である(他も同様)。
上記の処理済負極主体回収物460gと、網目2mmの篩及び網目10mmの篩で分級された粒径2mm〜10mmの粒状アルミニウム368gとを混合し、混合状態の混合物828gを2等分してそれぞれアルミニウム箔(11.0g)で包んだ。このようにアルミニウム箔で包んだ2つの包みを、高周波誘導炉チャンバー内の原料投入容器にセットした。
他方、高周波誘導炉チャンバーを用いて次のように合金溶湯を調製した。
すなわち、各元素の質量比率で、水素吸蔵合金構成元素の原料であるLa:34.0%と、Ni:61.3%と(残りが添加したAl)となるように、各元素金属を秤量及び混合した。得られた混合物をルツボに入れて高周波誘導炉に固定し、その後、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中1400℃で加熱溶解させて合金溶湯を調製した。
このように調製した合金溶湯の湯面に、前述の原料投入容器からアルミニウム箔で包んだ前記混合物を投入し、アルゴンガス雰囲気中で加熱溶解させた。得られた溶湯約9kgを、総質量200kgの水冷式銅鋳型に4kg/秒で注入し、室温まで冷却した(鋳造)。得られた合金塊をジョークラッシャーで粗砕後、ディスクミルで粉砕、分級を行って調合品(水素吸蔵合金組成物)を製造した。
得られた調合品を定量元素分析したところ、Co:0.44質量%、La:31.83質量%、Ce:0.56質量%、Nd:0.16質量%、Pr:0.05質量%、Ni:62.2質量%、Al:4.53質量%、Mn:0.23質量%であった。
(実施例2)
表1に示した昇温プロフィールで昇温し、その後、降温過程において60℃で回転炉から取り出して空気雰囲気に晒した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度2.59%)を得た。
(実施例3)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度2.86%)を得た。
(実施例4)
表1に示した昇温プロフィールで昇温する一方、降温過程において70℃で回転炉から取り出して空気雰囲気に晒した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度3.10%)を得た。
(実施例5)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度2.73%)を得た。
(実施例6)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度3.00%)を得た。そして、実施例1と同様にして調合品を得た。
(比較例1)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度4.00%)を得た。そして、実施例1と同様にして調合品を得た。
(比較例2)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度4.00%)を得た。
(比較例3)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度3.22%)を得た。
(比較例4)
表1に示した昇温プロフィールで昇温した以外は、実施例1と同様にして処理済負極主体回収物(酸素濃度3.25%)を得た。そして、実施例1と同様にして調合品を得た。
(比較例5)
実施例1において、降温過程において回転炉から取り出す温度を80℃で行ったところ、取り出し中に、負極主体回収物が発火したため回収は不可であった。
Figure 0005709552
Figure 0005709552
(考察)
本発明者が行ってきたこれまでの試験結果によると、処理済負極主体回収物(水素吸蔵合金組成物)を合金溶湯に投入する際の回収率(Co回収率及びCe回収率などを包含する)を高めるためには、合金溶湯に投入する処理済負極主体回収物(水素吸蔵合金組成物)の酸素濃度を低減することが必要であると考えられる(図1及び図2参照)。
また、合金溶湯に投入する処理済負極主体回収物(水素吸蔵合金組成物)の酸素濃度が3.10wt%以下であれば、回収率(Co回収率及びCe回収率などを包含する)が顕著に高まることを確認することができた。
このような観点から、330℃付近での反応(La(OH)3 →LaOOH+H2O↑)を確実に進行させてH2Oを系外に十分に排除させるために、少なくとも330℃±15℃の温度領域での昇温速度を5.0℃/min以下、特に3℃/min以下、中でも特に2.2℃以下としたところ、酸素濃度を3.1wt%以下とすることができ、表2に示すように、回収率(Co回収率及びCe回収率などを包含する)を顕著に高めることができることが判明した。
本実施例で用いた負極主体回収物のLa含有量は10.3%であるが、最近のHEV(ハイブリッド自動車)用のニッケル水素電池では、La含有量が高くなっている傾向がある。
また、降温過程においては、不活性雰囲気から空気雰囲気に切り替える温度領域を40〜70℃にすることにより、得られる水素吸蔵合金組成物の酸素濃度を低くすることができ、しかも、発火を防ぐことができることが分かった。

Claims (4)

  1. 廃ニッケル水素電池から負極主体回収物を選別する負極回収工程と、該負極主体回収物を加熱処理する還元・脱炭素工程とを備えた水素吸蔵合金組成物の製造方法であって、
    還元・脱炭素工程では、還元雰囲気下、750〜1050℃まで昇温する昇温過程において、少なくとも330℃±15℃の範囲、すなわち315℃〜345℃間での昇温速度を5.0℃/min以下とすることを第1の特徴とし、
    還元・脱炭素工程終了後から降温過程の途中段階までの間で還元雰囲気から不活性雰囲気に切り替え、その後の降温過程における40〜70℃の温度領域で不活性雰囲気から空気雰囲気に切り替えることを第2の特徴とする水素吸蔵合金組成物の製造方法。
  2. 負極回収工程では、廃ニッケル水素二次電池を失活化させた上で、破砕乃至解砕を行い、篩分することを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
  3. 還元・脱炭素工程で得られた負極主体回収物を、水素吸蔵合金構成元素からなる合金溶湯に加えて加熱溶解させる溶解工程と、溶解した本負極主体回収物等を鋳造する鋳造工程と、を備えた請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
  4. 溶解工程では、還元・脱炭素工程で得られた負極主体回収物と同時又は順次にアルミニウムを合金溶湯に加えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金組成物の製造方法。
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