JP5708893B2 - 鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置 - Google Patents

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Description

本発明は、熱間鍛造により2気筒以上の多気筒エンジン用のクランク軸(以下、「鍛造クランク軸」ともいう)を製造する技術に関し、特に、その鍛造クランク軸の製造過程において、鍛造クランク軸の最終形状を造形する仕上打ちに供する仕上打ち用素材を成形するための成形装置に関する。
クランク軸は、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を得るレシプロエンジンの基幹部品であり、鍛造によって製造されるものと、鋳造によって製造されるものとに大別される。乗用車や貨物車や特殊作業車などの自動車のエンジン、特に、気筒数が2以上の多気筒エンジンにおいては、クランク軸に高い強度と剛性が要求され、その要求に対して優位な鍛造クランク軸が多用されている。また、自動二輪車や農機や船舶などの多気筒エンジンでも鍛造クランク軸が用いられる。
一般に、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸は、断面が丸形または角形で全長にわたって断面積が一定のビレットを原材料とし、予備成形、型鍛造、バリ抜きおよび整形の各工程を順に経て製造される。予備成形工程は、ロール成形と曲げ打ちの各工程を含み、型鍛造工程は、荒打ちと仕上打ちの各工程を含む。
図1は、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。同図に例示するクランク軸1は、4気筒エンジンに搭載されるものであり、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、およびジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8から構成され、8枚の全てのアーム部A1〜A8にバランスウエイトを有する4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸である。以下、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、およびアーム部A1〜A8それぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」と記す。
図1に示す製造方法では、以下のようにして鍛造クランク軸1が製造される。先ず、予め所定の長さに切断した図1(a)に示すビレット2を誘導加熱炉やガス雰囲気加熱炉によって加熱した後、ロール成形を行う。ロール成形工程では、例えば孔型ロールによりビレット2を圧延して絞りつつその体積を長手方向に配分し、中間素材となるロール荒地103を成形する(図1(b)参照)。次に、曲げ打ち工程では、ロール成形によって得られたロール荒地103を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下してその体積を配分し、さらなる中間素材となる曲げ荒地104を成形する(図1(c)参照)。
続いて、荒打ち工程では、曲げ打ちによって得られた曲げ荒地104を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、クランク軸(最終鍛造製品)のおおよその形状が造形された鍛造材105を成形する(図1(d)参照)。さらに、仕上打ち工程では、荒打ちによって得られた荒鍛造材105が供され、荒鍛造材105を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、クランク軸と合致する形状が造形された鍛造材106を成形する(図1(e)参照)。これら荒打ちおよび仕上打ちのとき、互いに対向する金型の型割面の間から、余材がバリとして流出する。このため、荒鍛造材105、仕上鍛造材106は、造形されたクランク軸の周囲にそれぞれバリ105a、106aが大きく付いている。
バリ抜き工程では、仕上打ちによって得られたバリ106a付きの仕上鍛造材106を上下から金型で保持しつつ、刃物型によってバリ106aを打ち抜き除去する。これにより、図1(f)に示すように、鍛造クランク軸1が得られる。整形工程では、バリを除去した鍛造クランク軸1の要所、例えば、ジャーナル部J、ピン部P、フロント部Fr、フランジ部Flなどといった軸部、場合によってはアーム部Aを上下から金型で僅かにプレスし、所望の寸法形状に矯正する。こうして、鍛造クランク軸1が製造される。
図1に示す製造工程は、例示する4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸に限らず、8枚のアーム部Aのうち、先頭の第1アーム部A1、最後尾の第8アーム部A8、および中央の2枚の第4、第5アーム部A4、A5にバランスウエイトを有する4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸であっても、同様である。その他に、3気筒エンジン、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、8気筒エンジンなどに搭載されるクランク軸であっても、製造工程は同様である。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加される。
ところで、このような製造方法では、製品とはならない不要なバリが大量に発生することから、歩留りの低下は否めない。このため、鍛造クランク軸を製造する上では、従来から、バリの発生を極力抑え、歩留りの向上を実現することが至上の課題となっている。この課題に対応する従来の技術としては下記のものがある。
例えば、特許文献1には、クランク軸のジャーナル部とピン部に相当する部分が個々にくびれた段付きの丸棒を素材とし、ピン部相当部分を間に挟む一対のジャーナル部相当部分をそれぞれダイスで把持し、この状態から、両ダイスを軸方向に接近させて丸棒素材に圧縮変形を与えるとともに、ピン部相当部分に軸方向と直角な方向にポンチを押し付けてピン部相当部分を偏芯させ、これをすべてのクランクスローにわたって順次繰り返すことにより、ジャーナル部およびピン部が造形され、アーム部もそれなりに造形されたクランク軸を製造する技術が開示されている。
また、特許文献2には、単なる丸棒を素材とし、この丸棒素材の両端部のうちの一方を固定型で、その他方を可動型でそれぞれ保持するとともに、丸棒素材のジャーナル部相当部分をジャーナル型で、ピン部相当部分をピン型でそれぞれ保持し、この状態から、可動型、ジャーナル型およびピン型を固定型に向けて軸方向に移動させて丸棒素材に圧縮変形を与えると同時に、ピン型を軸方向と直角な偏芯方向に移動させてピン部相当部分を偏芯させることにより、ジャーナル部およびピン部が造形され、アーム部もそれなりに造形されたクランク軸を製造する技術が開示されている。
特許文献1、2に開示される技術では、いずれもバリが発生しないことから、歩留りの著しい向上が期待できる。
特開2008−155275号公報 特開2011−161496号公報
上述のとおり、前記特許文献1、2に開示される技術は、丸棒の素材をいきなりクランク軸形状に成形するものである。しかし、鍛造クランク軸は高強度と高剛性が要求されるので、その素材は変形し難い。このため、実際に製造できるクランク軸は、アーム部の厚みが厚くて、ピン部の偏芯量も小さくならざるを得ず、比較的緩やかなクランク軸形状に限定される。しかも、アーム部の形状はバランスウエイトがない単純なものに限られてしまう。
また、前記特許文献1、2に開示される技術では、アーム部は、丸棒素材の軸方向の圧縮変形に伴う軸方向と直角な方向への自由膨張と、丸棒素材のピン部相当部分の偏芯移動に伴う引張変形によって造形される。このため、アーム部の輪郭形状は不定形になりがちであり、寸法精度を確保できない。
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を歩留り良く、しかも、その形状を問わずに高い寸法精度で製造するために、鍛造クランク軸の製造過程において、その最終形状を造形する仕上打ちを行うことを前提とし、その仕上打ちに供する仕上打ち用素材の成形に用いる成形装置を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するため、以下に示す鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置を要旨とする。
本発明の成形装置は、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を製造する過程で、鍛造クランク軸の最終形状を造形する仕上打ちに供する仕上打ち用素材を成形する装置であって、
鍛造クランク軸のジャーナル部と軸方向の長さが同じ粗ジャーナル部、鍛造クランク軸のピン部と軸方向の長さが同じで軸方向と直角な偏芯方向の偏芯量が前記ピン部よりも小さい粗ピン部、および鍛造クランク軸のクランクアーム部よりも軸方向の厚みが厚い粗クランクアーム部がそれぞれ造形されたクランク軸形状の粗素材から、仕上打ち用素材を成形する装置であり、以下の構成を具備する。
すなわち、本発明の成形装置は、
粗ジャーナル部のうちの1つの粗ジャーナル部の位置に配置され、当該粗ジャーナル部を軸方向と直角な偏芯方向に沿って挟み込んで保持するとともに、当該粗ジャーナル部につながる粗クランクアーム部の側面に接触する固定ジャーナル型と、
固定ジャーナル型で挟み込まれる粗ジャーナル部以外の粗ジャーナル部それぞれの位置に配置され、当該粗ジャーナル部を個々に軸方向と直角な偏芯方向に沿って挟み込んで保持するとともに、各々が当該粗ジャーナル部につながる粗クランクアーム部の側面に接触しつつ、固定ジャーナル型に向けて軸方向に移動する可動ジャーナル型と、
粗ピン部それぞれの位置に配置され、当該粗ピン部それぞれの偏芯中心側に宛がわれるとともに、各々が当該粗ピン部につながる粗クランクアーム部の側面に接触しつつ、固定ジャーナル型に向けた軸方向および軸方向と直角な偏芯方向に移動するピン型と、を備え、
粗ジャーナル部を固定ジャーナル型および可動ジャーナル型で挟み込んで保持し、粗ピン部にピン型を宛がった状態から、可動ジャーナル型を軸方向に移動させるとともに、ピン型を軸方向と偏芯方向に移動させることにより、粗クランクアーム部を軸方向に挟圧してその厚みを鍛造クランク軸のクランクアーム部の厚みまで減少させるとともに、粗ピン部を偏芯方向に押圧してその偏芯量を鍛造クランク軸のピン部の偏芯量まで増加させる構成である。
上記の成形装置において、前記ピン型は、前記粗ピン部それぞれの偏芯中心側とは反対の外側に、軸方向に移動する補助ピン型を含んでおり、前記可動ジャーナル型、並びに前記ピン型および前記補助ピン型の軸方向への移動に伴って、前記固定ジャーナル型および前記可動ジャーナル型と、前記ピン型および前記補助ピン型との隙間が閉ざされた後に、偏芯変形する前記粗ピン部が前記補助ピン型に到達するように、前記ピン型の偏芯方向への移動が制御される構成とすることが好ましい。
この成形装置の場合、前記ピン型の偏芯方向への総移動距離を100%としたとき、当該ピン型に隣接する前記可動ジャーナル型の軸方向への移動が完了した時点で、前記ピン型の偏芯方向への移動距離が総移動距離の90%以下であり、この後に前記ピン型の偏芯方向への移動が完了する構成とすることが好ましい。
また、上記の成形装置において、前記固定ジャーナル型、前記可動ジャーナル型および前記ピン型は、偏芯方向に沿った方向に圧下が可能なプレス機に取り付けられており、プレス機の圧下に伴って、前記固定ジャーナル型および前記可動ジャーナル型が前記粗ジャーナル部を挟み込んで保持するとともに、前記ピン型が前記粗ピン部に宛がわれ、そのままプレス機の圧下を継続するのに伴って、前記可動ジャーナル型が個々に楔機構により軸方向に移動すると同時に、この可動ジャーナル型の移動に伴って、前記ピン型が個々に軸方向に移動する構成とすることができる。
この成形装置の場合、前記楔機構の楔角度が前記可動ジャーナル型のそれぞれで互いに異なることが好ましい。さらに、前記ピン型が油圧シリンダに連結されており、この油圧シリンダの駆動により偏芯方向に移動する構成とすることが好ましい。
また、上記の成形装置は、前記粗ジャーナル部の断面積が鍛造クランク軸のジャーナル部の断面積よりも大きく、前記粗ピン部の断面積が鍛造クランク軸のピン部の断面積よりも大きい場合、前記固定ジャーナル型および前記可動ジャーナル型による前記粗ジャーナル部の挟み込み保持、およびこれに続く前記可動ジャーナル型の軸方向への移動に伴い、前記粗ジャーナル部の断面積を鍛造クランク軸のジャーナル部の断面積まで減少させ、前記ピン型の軸方向への移動および偏芯方向への移動に伴い、前記粗ピン部の断面積を鍛造クランク軸のピン部の断面積まで減少させることができる。
本発明の成形装置によれば、バリのない粗素材から、アーム部の厚みが薄い鍛造クランク軸の形状と概ね一致した形状で、バリのない仕上打ち用素材を成形することができる。このようなバリなしの仕上打ち用素材を仕上打ちすれば、多少のバリは発生するが、アーム部の輪郭形状を含めて鍛造クランク軸の最終形状を造形することができるので、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を歩留り良く、しかも、その形状を問わずに高い寸法精度で製造することが可能になる。
図1は、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。 図2は、本発明の成形装置で被成形対象とする粗素材と、成形された仕上打ち用素材の各形状を模式的に示す平面図である。 図3は、本発明の成形装置の構成を示す縦断面図である。 図4は、図3に示す本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法を説明するための縦断面図であり、成形初期の状態を示す。 図5は、図3に示す本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法を説明するための縦断面図であり、成形完了時の状態を示す。 図6は、本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形で噛み出しが発生する状況を説明するための図である。 図7は、本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形で噛み出しの対応策を施した場合の状況を説明するための図である。
本発明では、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を製造するに際し、その製造過程で仕上打ちを行うことを前提としており、本発明の成形装置は、仕上打ちの前工程で、その仕上打ちに供する仕上打ち用素材を粗素材から成形するために用いられる。以下に、本発明の鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置について、その実施形態を詳述する。
1.被成形対象の粗素材と、成形された仕上打ち用素材
図2は、本発明の成形装置で被成形対象とする粗素材と、成形された仕上打ち用素材の各形状を模式的に示す平面図である。同図では、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の粗素材と仕上打ち用素材を例示している。
同図に示すように、粗素材4は、図1(f)に示す鍛造クランク軸1の形状に依拠しつつも全体として粗いクランク軸形状であり、5つの粗ジャーナル部J1’〜J5’、4つの粗ピン部P1’〜P4’、粗フロント部Fr’、粗フランジ部Fl’、および粗ジャーナル部J1’〜J5’と粗ピン部P1’〜P4’をそれぞれつなぐ8枚の粗クランクアーム部(以下、単に「粗アーム部」ともいう)A1’〜A8’から構成される。粗素材4にはバリはついていない。以下、粗素材4の粗ジャーナル部J1’〜J5’、粗ピン部P1’〜P4’、および粗アーム部A1’〜A8’それぞれを総称するとき、その符号は、粗ジャーナル部で「J’」、粗ピン部で「P’」、粗アーム部で「A’」と記す。
仕上打ち用素材5は、上記の粗素材4から、詳細は後述する成形装置によって成形されるものであり、5つの粗ジャーナル部J1”〜J5”、4つの粗ピン部P1”〜P4”、粗フロント部Fr”、粗フランジ部Fl”、および粗ジャーナル部J1”〜J5”と粗ピン部P1”〜P4”をそれぞれつなぐ8枚の粗クランクアーム部(以下、単に「粗アーム部」ともいう)A1”〜A8”から構成される。仕上打ち用素材5にはバリはついていない。以下、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J1”〜J5”、粗ピン部P1”〜P4”、および粗アーム部A1”〜A8”それぞれを総称するとき、その符号は、粗ジャーナル部で「J”」、粗ピン部で「P”」、粗アーム部で「A”」と記す。
仕上打ち用素材5の形状は、クランク軸(最終鍛造製品)の形状と概ね一致し、丁度、図1(d)に示す荒鍛造材105のバリ105aを除いた部分に相当する。すなわち、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J”は、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。仕上打ち用素材5の粗ピン部P”は、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じで、軸方向と直角な偏芯方向の偏芯量も同じである。仕上打ち用素材5の粗アーム部A”は、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部Aと軸方向の厚みが同じである。
これに対し、粗素材4の粗ジャーナル部J’は、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J”、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。粗素材4の粗ピン部P’は、仕上打ち用素材5の粗ピン部P”、すなわち鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じであるが、偏芯量が仕上打ち用素材5の粗ピン部P”よりも小さい。粗素材4の粗アーム部A’は、仕上打ち用素材5の粗アーム部A”、すなわち鍛造クランク軸のアーム部Aよりも軸方向の厚みが厚い。要するに、粗素材4は、仕上打ち用素材5(最終形状の鍛造クランク軸)と比較して、粗アーム部A’の厚みが厚い分だけ全長が長くて、粗ピン部P’の偏芯量が小さく、比較的緩やかなクランク軸形状となっている。
もっとも、厳密に言えば、仕上打ち用素材5は、最終形状の鍛造クランク軸に対し、粗アーム部A”の厚みが僅かに薄くされ、その分だけ粗ジャーナル部J”および粗ピン部P”の軸方向長さが僅かに大きくされている。仕上打ちの際に仕上打ち用素材5を金型内に収容し易くし、かじり疵の発生を防止するためである。これに応じて、粗素材4も、最終形状の鍛造クランク軸に対し、粗アーム部A’の厚みが僅かに薄くされ、その分だけ粗ジャーナル部J’および粗ピン部P’の軸方向長さが僅かに大きくされている。
このような粗素材4は、断面が丸形の丸ビレットを原材料とし、この丸ビレットに予備成形を施すことにより造形することができる。例えば、孔型ロールにより丸ビレットを絞り圧延してその体積を長手方向に配分するロール成形を行い、これによって得られたロール荒地を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下してその体積を配分する曲げ打ち(通称「平押し」ともいう)を繰り返し行えば、粗素材4を造形することが可能である。そのほかに、前記特許文献1、2に開示される技術を用いても、粗素材4の造形は可能である。また、クロスロールや閉塞鍛造を採用してもよい。
2.仕上打ち用素材の成形装置
図3は、本発明の成形装置の構成を示す縦断面図である。同図には、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の成形装置、すなわち前記図2に示す粗素材4から仕上打ち用素材5を成形する成形装置を例示している。
同図に示すように、成形装置は、プレス機を利用したものであり、基礎となる固定の下側ハードプレート20と、プレス機のラムの駆動に伴って下降する上側ハードプレート21を有する。下側ハードプレート20の真上には、弾性部材24を介して下側金型支持台22が弾性的に支持されており、この下側金型支持台22は、上下方向に移動が許容されている。弾性部材24としては、皿ばねやコイルばねや空気ばねなどを適用することができ、そのほかにも油圧ばねシステムを適用することができる。上側ハードプレート21の真下には、支柱25を介して上側金型支持台23が固定されており、この上側金型支持台23は、プレス機(ラム)の駆動により上側ハードプレート21と一体で下降する。
図3に示す成形装置では、粗素材4を、粗ピン部P’の偏芯方向を鉛直方向に合わせ、第1、第4粗ピン部P1’、P4’を上に配置した姿勢、言い換えれば第2、第3粗ピン部P2’、P3’を下に配置した姿勢で金型内に収容し、仕上打ち用素材に成形する。このため、下側金型支持台22と上側金型支持台23には、粗素材4の軸方向に沿って分割され、それぞれ上下で対を成す固定ジャーナル型10U、10B、可動ジャーナル型11U、11B、並びにピン型12および補助ピン型13が取り付けられている。
固定ジャーナル型10U、10Bは、粗素材4における粗ジャーナル部J’のうちの1つの粗ジャーナル部J’の位置、例えば図3では、中央の第3粗ジャーナル部J3’の位置に配置され、上下のそれぞれが上側金型支持台23、下側金型支持台22に取り付けられている。特に、固定ジャーナル型10U、10Bは、上下のいずれも、上側金型支持台23、下側金型支持台22に対し完全に固定されている。
固定ジャーナル型10U、10Bには、それぞれ、半円筒状の第1彫り込み部10Ua、10Baと、この第1彫り込み部10Ua、10Baの前後(図3では左右)に隣接して第2彫り込み部10Ub、10Bbが形成されている。第1彫り込み部10Ua、10Baの長さは、仕上打ち用素材5における第3粗ジャーナル部J3”の軸方向の長さと同じである。第2彫り込み部10Ub、10Bbの長さは、仕上打ち用素材5におけるそのジャーナル部J3”につながる粗アーム部A”(第4、第5粗アーム部A4”、A5”)の軸方向の厚みと同じである。
固定ジャーナル型10U、10Bは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第1彫り込み部10Ua、10Baで第3粗ジャーナル部J3’を上下から挟み込んで保持する。これと同時に、固定ジャーナル型10U、10Bは、第2彫り込み部10Ub、10Bbの第1彫り込み部10Ua、10Ba側の面が、第3粗ジャーナル部J3’につながる第4、第5粗アーム部A4’、A5’における第3粗ジャーナル部J3’側の側面に接触した状態にされる。
可動ジャーナル型11U、11Bは、固定ジャーナル型10U、10Bで挟み込まれる粗素材4における粗ジャーナル部J’以外の粗ジャーナル部J’それぞれの位置、例えば図3では、第1、第2、第4、第5粗ジャーナル部J1’、J2’、J4’、J5’それぞれの位置に配置され、上下のそれぞれが上側金型支持台23、下側金型支持台22に取り付けられている。特に、可動ジャーナル型11U、11Bは、上下のいずれも、上側金型支持台23、下側金型支持台22に対し、固定ジャーナル型10U、10Bに向けての軸方向に移動が許容されている。
可動ジャーナル型11U、11Bには、それぞれ、半円筒状の第1彫り込み部11Ua、11Baと、この第1彫り込み部11Ua、11Baの前後(図3では左右)に隣接して第2彫り込み部11Ub、11Bbが形成されている。第1彫り込み部11Ua、11Baの長さは、仕上打ち用素材5における第1、第2、第4および第5粗ジャーナル部J1”、J2”、J4”、J5”の軸方向の長さと同じである。第2彫り込み部11Ub、11Bbの長さは、仕上打ち用素材5におけるそれらの粗ジャーナル部J1”、J2”、J4”、J5”につながる粗アーム部A”の軸方向の厚みと同じである。
可動ジャーナル型11U、11Bは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第1彫り込み部11Ua、11Baで各粗ジャーナル部J’を個々に上下から挟み込んで保持する。これと同時に、可動ジャーナル型11U、11Bは、第2彫り込み部11Ub、11Bbの第1彫り込み部11Ua、11Ba側の面が、各粗ジャーナル部J’につながる粗アーム部A’における各粗ジャーナル部J’側の側面に接触した状態にされる。
ここで、両端の第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の位置に配置された可動ジャーナル型11U、11Bの端面は、傾斜面14U、14Bとなっている。これに対し、下側ハードプレート20上には、それらの第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面14U、14Bの位置に対応して、個々に、第1楔26が立設されており、各第1楔26は、下側金型支持台22を貫通して上方に突き出している。第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の可動ジャーナル型11U、11Bのうち、下側の可動ジャーナル型11Bの傾斜面14Bは、初期状態で第1楔26の斜面に接触している。一方、上側の可動ジャーナル型11Uの傾斜面14Uは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第1楔26の斜面に接触した状態にされる。
また、中央寄りの第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の位置に配置された可動ジャーナル型11U、11Bには、第1彫り込み部11Ua、11Baおよび第2彫り込み部11Ub、11Bbから外れた側部(図3では紙面の手前と奥)に、傾斜面15U、15Bを有する図示しないブロックが固定されている。これに対し、下側ハードプレート20上には、それらの第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面15U、15Bの位置に対応して、個々に、第2楔27が立設されており、各第2楔27は、下側金型支持台22を貫通して上方に突き出している。第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の可動ジャーナル型11U、11Bのうち、下側の可動ジャーナル型11Bの傾斜面15Bは、初期状態で第2楔27の斜面に接触している。一方、上側の可動ジャーナル型11Uの傾斜面15Uは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第2楔27の斜面に接触した状態にされる。
そして、プレス機の圧下の継続に伴って、上側の可動ジャーナル型11Uが下側の可動ジャーナル型11Bと一体で押し下げられる。これにより、第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の可動ジャーナル型11U、11Bは、上下のいずれも、その傾斜面14U、14Bが第1楔26の斜面に沿って摺動することから、第3粗ジャーナル部J3’の固定ジャーナル型10U、10Bに向けて軸方向に移動するようになる。これと同時に、第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の可動ジャーナル型11U、11Bは、上下のいずれも、その傾斜面15U、15Bが第2楔27の斜面に沿って摺動することから、第3粗ジャーナル部J3’の固定ジャーナル型10U、10Bに向けて軸方向に移動するようになる。要するに、可動ジャーナル型11U、11Bは、個々に楔機構により軸方向に移動することができる。
上下で対を成すピン型12と補助ピン型13は、粗素材4における粗ピン部P’それぞれの位置に配置され、上下のそれぞれが上側金型支持台23、下側金型支持台22に取り付けられている。ピン型12は、粗ピン部P’それぞれの偏芯中心側に配置されるものであり、他方の補助ピン型13は、粗ピン部P’それぞれの偏芯中心側とは反対の外側に配置されるものである。例えば、第1粗ピン部P1’の位置では、第1粗ピン部P1’の配置が上側であることから、ピン型12が下側金型支持台22に取り付けられるとともに、補助ピン型13が上側金型支持台23に取り付けられる。
特に、ピン型12と補助ピン型13は、上下のいずれも、上側金型支持台23、下側金型支持台22に対し、固定ジャーナル型10U、10Bに向けての軸方向に移動が許容されている。さらに、ピン型12に限っては、粗ピン部P’に向けての偏芯方向にも移動が許容されている。
ピン型12、補助ピン型13には、それぞれ、半円筒状の彫り込み部12a、13aが形成されている。彫り込み部12a、13aの長さは、仕上打ち用素材5における粗ピン部P”の軸方向の長さと同じである。
ピン型12は、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、彫り込み部12aが各粗ピン部P’の偏芯中心側に宛がわれ、ピン型12の両側面が、各粗ピン部P’につながる粗アーム部A’における各粗ピン部P’側の側面に接触した状態にされる。
そして、ピン型12と補助ピン型13は、プレス機の圧下の継続に伴って一体で押し下げられる。これにより、ピン型12と補助ピン型13は、上記したように可動ジャーナル型11U、11Bが軸方向に移動するのに連れて、第3粗ジャーナル部J3’の固定ジャーナル型10U、10Bに向けて軸方向に移動する。また、ピン型12の偏芯方向への移動は、各ピン型12に連結された油圧シリンダ16の駆動により行われる。
なお、ピン型12と補助ピン型13の軸方向への移動は、可動ジャーナル型11U、11Bと同様の楔機構や、油圧シリンダや、サーボモータなどの別途の機構を用いて、強制的に行ってもよい。補助ピン型13は、隣接する一対の可動ジャーナル型11U、11Bのうちの一方と一体化されていても構わない。
図3に示す初期状態では、個々に軸方向に連なる固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bと、ピン型12および補助ピン型13との間に、可動ジャーナル型11U、11B、並びにピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動を許容するために、隙間が確保されている。これらの各隙間の寸法は、仕上打ち用素材5における粗アーム部A”の厚みと粗素材4における粗アーム部A’の厚みの差である。
次に、このような構成の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法について説明する。
図4および図5は、図3に示す本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法を説明するための縦断面図であり、図4は成形初期の状態を、図5は成形完了時の状態をそれぞれ示す。
前記図3に示す下側の固定ジャーナル型10B、可動ジャーナル型11B、並びにピン型12および補助ピン型13に粗素材4を収容し、プレス機の圧下を開始する。すると、先ず、図4に示すように、上側の固定ジャーナル型10Uおよび可動ジャーナル型11Uが、それぞれ、下側の固定ジャーナル型10Bおよび可動ジャーナル型11Bに当接する。
これにより、粗素材4は、各粗ジャーナル部J’が固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bによって上下から保持され、各粗ピン部P’の偏芯中心側にピン型12が宛がわれた状態になる。この状態のとき、粗素材4の各粗アーム部A’における粗ジャーナル部J’側の側面には、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bが接触し、各粗アーム部A’における粗ピン部P’側の側面には、ピン型12が接触している。また、この状態のとき、第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面14U、14Bが第1楔26の斜面に接触し、第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面15U、15Bが第2楔27の斜面に接触している。
この状態から、そのままプレス機の圧下を継続する。すると、第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の可動ジャーナル型11U、11Bは、各々の傾斜面14U、14Bが第1楔26の斜面に沿って摺動し、この楔機構により、第3粗ジャーナル部J3’の固定ジャーナル型10U、10Bに向けて軸方向に移動する。これと同時に、第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の可動ジャーナル型11U、11Bは、各々の傾斜面15U、15Bが第2楔27の斜面に沿って摺動し、この楔機構により、第3粗ジャーナル部J3’の固定ジャーナル型10U、10Bに向けて軸方向に移動する。このように可動ジャーナル型11U、11Bが個々に楔機構により軸方向に移動するのに伴って、ピン型12と補助ピン型13も、第3粗ジャーナル部J3’の固定ジャーナル型10U、10Bに向けて軸方向に移動する。
これにより、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bと、ピン型12および補助ピン型13との隙間が次第に狭まり、終にはそれらの各隙間がなくなる。その際、粗素材4は、固定ジャーナル型10U、10B、可動ジャーナル型11U、11Bおよびピン型12により、粗ジャーナル部J’および粗ピン部P’の軸方向の長さが維持されながら、粗アーム部A’が軸方向に挟圧され、粗アーム部A’の厚みが仕上打ち用素材5の粗アーム部A”の厚みまで減少させられる(図5参照)。
また、可動ジャーナル型11U、11B、並びにピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動に応じ、各ピン型12の油圧シリンダ16を駆動する。すると、各ピン型12は、個々に、粗素材4の粗ピン部P’を偏芯方向に押圧する。これにより、粗素材4の粗ピン部P’は偏芯方向にずれ、その偏芯量が仕上打ち用素材5の粗ピン部P”の偏芯量まで増加させられる(図5参照)。
このようにして、バリのない粗素材4から、アーム部Aの厚みが薄い鍛造クランク軸(最終鍛造製品)の形状と概ね一致した形状で、バリのない仕上打ち用素材5を成形することができる。そして、このようなバリなしの仕上打ち用素材5を仕上打ちに供して仕上打ちを行えば、多少のバリは発生するが、アーム部の輪郭形状を含めて鍛造クランク軸の最終形状を造形することができる。したがって、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を歩留り良く、しかも、その形状を問わずに高い寸法精度で製造することが可能になる。もっとも、粗素材の段階でアーム部にバランスウエイトに相当する部分を造形しておけば、バランスウエイトを有する鍛造クランク軸の製造も可能である。
前記図3〜図5に示す成形装置では、第1粗ジャーナル部J1’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面14U、14Bおよびこれと接触する第1楔26の斜面と、第5粗ジャーナル部J5’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面14U、14Bおよびこれと接触する第1楔26の斜面とは、傾斜角度が鉛直面を基準に正反対とされている。また、第2粗ジャーナル部J2’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面15U、15Bおよびこれと接触する第2楔27の斜面と、第4粗ジャーナル部J4’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面15U、15Bおよびこれと接触する第2楔27の斜面とは、傾斜角度が鉛直面を基準に正反対とされている。さらに、第1楔26の斜面の角度(第1、第5粗ジャーナル部J1’、J5’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面14U、14Bの角度)は、第2楔27の斜面の角度(第2、第4粗ジャーナル部J2’、J4’の可動ジャーナル型11U、11Bの傾斜面15U、15Bの角度)よりも大きくされている。このように、各可動ジャーナル型11U、11Bを軸方向に移動させる楔機構の楔角度を可動ジャーナル型11U、11Bごとに異ならせている理由は、粗アーム部A’を軸方向に挟圧して厚みを減少させる変形速度をすべての粗アーム部A’で一定にするためである。
前記図3〜図5に示す成形装置で用いる粗素材4は、粗ジャーナル部J’の断面積が、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J”、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部Jの断面積と同じであるか、それよりも大きい。同様に、粗素材4の粗ピン部P’の断面積は、仕上打ち用素材5の粗ピン部P”、すなわち鍛造クランク軸のピン部Pの断面積と同じであるか、それよりも大きい。粗素材4の粗ジャーナル部J’の断面積が仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J”の断面積よりも大きく、粗素材4の粗ピン部P’の断面積が仕上打ち用素材5の粗ピン部P”の断面積よりも大きい場合であっても、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bによる粗ジャーナル部J’の挟み込み保持、およびこれに続く可動ジャーナル型11U、11Bの軸方向への移動に伴い、粗ジャーナル部J’の断面積を仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J”の断面積まで減少させることができ、ピン型12の軸方向への移動および偏芯方向への移動に伴い、粗ピン部P’の断面積を仕上打ち用素材5の粗ピン部P”の断面積まで減少させることができる。
以上説明した仕上打ち用素材の成形で留意すべき点として、局部的な噛み出しの発生がある。以下に、噛み出しの発生原理とその対応策について説明する。
図6は、本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形で噛み出しが発生する状況を説明するための図であり、図7は、その対応策を施した場合の状況を説明するための図である。図6および図7中、(a)は成形初期の状態を、(b)は成形途中の状態を、(c)は成形完了時の状態を、(d)は成形完了後に成形装置から取り出した仕上打ち用素材をそれぞれ示す。
図6(a)に示すように、成形が開始されると、可動ジャーナル型11U、11Bが軸方向へ移動するとともに、ピン型12および補助ピン型13が軸方向と偏芯方向へ移動する。その後、図6(b)に示すように、可動ジャーナル型11U、11B、並びにピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動が完了する前に、すなわち、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bと、ピン型12および補助ピン型13との隙間が閉ざされる前に、偏芯変形する粗ピン部P’が補助ピン型13に到達すると、この補助ピン型13と、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bとの隙間に、粗ピン部P’の肉が流入してしまう。この流入した肉は、成形の進行に伴って薄く延ばされていくものの、図6(c)に示すように、成形完了時にも残存する。こうして、図6(d)に示すように、仕上打ち用素材5の粗ピン部P”の外側には、隣接する粗アーム部A’との境界に局所的な噛み出し部5aが現れる。
噛み出し部5aは、次工程の仕上打ちで製品に打ち込まれてかぶり疵となる。したがって、製品品質を確保する観点から、噛み出しの発生を防止する必要がある。
噛み出しの発生を防止する対応策としては、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bと、ピン型12および補助ピン型13との隙間が閉ざされた後に、偏芯変形する粗ピン部P’が補助ピン型13に到達するように、ピン型12の偏芯方向への移動を制御すればよい。具体的には、可動ジャーナル型11U、11B、並びにピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動が完了した後に、ピン型12の偏芯方向への移動を完了させればよい。例えば、ピン型12の偏芯方向への総移動距離を100%としたとき、そのピン型12に隣接する可動ジャーナル型11U、11Bの軸方向への移動が完了した時点で、ピン型12の偏芯方向への移動距離が総移動距離の90%以下(より好適には83%以下、さらに好適には60%以下)であり、この後にピン型12の偏芯方向への移動が完了することが好ましい。
すなわち、図7(a)に示すように、成形を開始し、その後、図7(b)に示すように、ピン型12の偏芯方向への移動距離が総移動距離の90%に達するまでに、可動ジャーナル型11U、11B、並びにピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動を完了させる。そうすると、この時点では、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bと、ピン型12および補助ピン型13との隙間が閉ざされているものの、偏芯変形する粗ピン部P’が補助ピン型13に到達していない。そして、ピン型12の偏芯方向への移動に伴って粗ピン部P’が補助ピン型13に到達し、その移動が完了すると、図7(c)に示すように、成形が完了する。このため、補助ピン型13と、固定ジャーナル型10U、10Bおよび可動ジャーナル型11U、11Bとの隙間に、粗ピン部P’の肉が流入する事態は起こらない。こうして、図7(d)に示すように、噛み出しのない高品位の仕上打ち用素材5を得ることができる。
可動ジャーナル型の軸方向への移動が完了するまでのピン型の偏芯方向への移動過程は、任意に変更することが可能である。例えば、ピン型の偏芯方向への移動は、可動ジャーナル型の軸方向への移動開始と同時に開始してもよいし、それよりも前に開始してもよく、逆に可動ジャーナル型の軸方向への移動がある程度進行してから開始してもよい。また、ピン型の偏芯方向への移動は、開始後、一定量移動した位置で一旦停止させ、可動ジャーナル型の軸方向への移動が完了した後に再開してもよい。
その他本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、可動ジャーナル型を軸方向へ移動させる機構としては、上記の実施形態ではプレス機を利用した楔機構を採用しているが、これに限らず、リンク機構を採用してもよいし、プレス機の利用に代えて油圧シリンダやサーボモータを利用しても構わない。また、ピン型を偏芯方向へ移動させる機構としては、油圧シリンダに限らず、サーボモータであってもよい。
また、上記の実施形態では、上側金型支持台を上側ハードプレートに固定するとともに、下側金型支持台を下側ハードプレートで弾性的に支持し、当該下側ハードプレートに楔を設置して、この楔で上下の可動ジャーナル型を移動させるようにした構成であるが、これとは上下を反転させた構成でも構わない。上下の各金型支持台をそれぞれのハードプレートで弾性的に支持し、ハードプレートにそれぞれ楔を設置して、各楔で上下の各可動ジャーナル型を移動させるように構成することもできる。
また、上記の実施形態では、補助ピン型は、軸方向にのみ移動が許容されているが、これに加えて偏芯方向とは逆方向にも移動が許容される構成とし、これにより、ピン型と補助ピン型が各粗ピン部P’を個々に上下から挟み込んで保持しながら、互いに連動して偏芯方向に移動するようにしてもよい。
本発明の効果を確認するため、前記図3に示す成形装置を用い、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の仕上打ち用素材を成形した。その結果、素材の全長を338mmから270mmに圧縮することができた。細かく言えば、第1、第8粗アーム部の各厚みを20.85mmから10.4mmに薄くすることができ、第2〜第7アーム部の各厚みを17.55mmから9.7mmに薄くすることができた。また、ピン型の偏芯方向への移動距離が総移動距離の60%に達する前に、可動ジャーナル型、並びにピン型および補助ピン型の軸方向への移動を完了させたので、噛み出しは発生しなかった。さらに、ピン型の偏芯方向への移動距離が総移動距離の83%に達する前に、可動ジャーナル型、並びにピン型および補助ピン型の軸方向への移動を完了させた場合でも、噛み出しは発生しなかった。
本発明は、多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を製造する際に有用である。
1:鍛造クランク軸、 J、J1〜J5:ジャーナル部、
P、P1〜P4:ピン部、 Fr:フロント部、
Fl:フランジ部、 A、A1〜A8:クランクアーム部、
2:ビレット、
4:粗素材、 J’、J1’〜J5’:粗ジャーナル部、
P’、P1’〜P4’:粗ピン部、 Fr’:粗フロント部、
Fl’:粗フランジ部、
A’、A1’〜A8’:粗クランクアーム部、
5:仕上打ち用素材、 J”、J1”〜J5”:粗ジャーナル部、
P”、P1”〜P4”:粗ピン部、 Fr”:粗フロント部、
Fl”:粗フランジ部、
A”、A1”〜A8”:粗クランクアーム部、
5a:噛み出し部、
10U、10B:固定ジャーナル型、
11U、11B:可動ジャーナル型、
12:ピン型、 12a:彫り込み部、
13:補助ピン型、 13a:彫り込み部、
10Ua、10Ba:固定ジャーナル型の第1彫り込み部、
10Ub、10Bb:固定ジャーナル型の第2彫り込み部、
11Ua、11Ba:可動ジャーナル型の第1彫り込み部、
11Ub、11Bb:可動ジャーナル型の第2彫り込み部、
14U、14B:第1、5粗ジャーナル部の可動ジャーナル型の傾斜面、
15U、15B:第2、4粗ジャーナル部の可動ジャーナル型の傾斜面、
16:油圧シリンダ、
20:下側ハードプレート、 21:上側ハードプレート、
22:下側金型支持台、 23:上側金型支持台、
24:弾性部材、 25:支柱、
26:第1楔、 27:第2楔

Claims (7)

  1. 多気筒エンジン用の鍛造クランク軸を製造する過程で、鍛造クランク軸の最終形状を造形する仕上打ちに供する仕上打ち用素材を成形する装置であって、
    鍛造クランク軸のジャーナル部と軸方向の長さが同じ粗ジャーナル部、鍛造クランク軸のピン部と軸方向の長さが同じで軸方向と直角な偏芯方向の偏芯量が前記ピン部よりも小さい粗ピン部、および鍛造クランク軸のクランクアーム部よりも軸方向の厚みが厚い粗クランクアーム部がそれぞれ造形されたクランク軸形状の粗素材から、仕上打ち用素材を成形する装置であり、
    当該成形装置は、
    粗ジャーナル部のうちの1つの粗ジャーナル部の位置に配置され、当該粗ジャーナル部を軸方向と直角な偏芯方向に沿って挟み込んで保持するとともに、当該粗ジャーナル部につながる粗クランクアーム部の側面に接触する固定ジャーナル型と、
    固定ジャーナル型で挟み込まれる粗ジャーナル部以外の粗ジャーナル部それぞれの位置に配置され、当該粗ジャーナル部を個々に軸方向と直角な偏芯方向に沿って挟み込んで保持するとともに、各々が当該粗ジャーナル部につながる粗クランクアーム部の側面に接触しつつ、固定ジャーナル型に向けて軸方向に移動する可動ジャーナル型と、
    粗ピン部それぞれの位置に配置され、当該粗ピン部それぞれの偏芯中心側に宛がわれるとともに、各々が当該粗ピン部につながる粗クランクアーム部の側面に接触しつつ、固定ジャーナル型に向けた軸方向および軸方向と直角な偏芯方向に移動するピン型と、を備え、
    粗ジャーナル部を固定ジャーナル型および可動ジャーナル型で挟み込んで保持し、粗ピン部にピン型を宛がった状態から、可動ジャーナル型を軸方向に移動させるとともに、ピン型を軸方向と偏芯方向に移動させることにより、粗クランクアーム部を軸方向に挟圧してその厚みを鍛造クランク軸のクランクアーム部の厚みまで減少させるとともに、粗ピン部を偏芯方向に押圧してその偏芯量を鍛造クランク軸のピン部の偏芯量まで増加させる、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
  2. 請求項1に記載の成形装置において、
    前記ピン型は、前記粗ピン部それぞれの偏芯中心側とは反対の外側に、軸方向に移動する補助ピン型を含んでおり、
    前記可動ジャーナル型、並びに前記ピン型および前記補助ピン型の軸方向への移動に伴って、前記固定ジャーナル型および前記可動ジャーナル型と、前記ピン型および前記補助ピン型との隙間が閉ざされた後に、偏芯変形する前記粗ピン部が前記補助ピン型に到達するように、前記ピン型の偏芯方向への移動が制御される、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
  3. 請求項2に記載の成形装置において、
    前記ピン型の偏芯方向への総移動距離を100%としたとき、当該ピン型に隣接する前記可動ジャーナル型の軸方向への移動が完了した時点で、前記ピン型の偏芯方向への移動距離が総移動距離の90%以下であり、この後に前記ピン型の偏芯方向への移動が完了する、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の成形装置において、
    前記固定ジャーナル型、前記可動ジャーナル型および前記ピン型は、偏芯方向に沿った方向に圧下が可能なプレス機に取り付けられており、
    プレス機の圧下に伴って、前記固定ジャーナル型および前記可動ジャーナル型が前記粗ジャーナル部を挟み込んで保持するとともに、前記ピン型が前記粗ピン部に宛がわれ、そのままプレス機の圧下を継続するのに伴って、前記可動ジャーナル型が個々に楔機構により軸方向に移動すると同時に、この可動ジャーナル型の移動に伴って、前記ピン型が個々に軸方向に移動する、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
  5. 請求項4に記載の成形装置において、
    前記楔機構の楔角度が前記可動ジャーナル型のそれぞれで互いに異なる、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
  6. 請求項4または5に記載の成形装置において、
    前記ピン型が油圧シリンダに連結されており、この油圧シリンダの駆動により偏芯方向に移動する、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の成形装置において、
    前記粗ジャーナル部の断面積が鍛造クランク軸のジャーナル部の断面積よりも大きく、前記粗ピン部の断面積が鍛造クランク軸のピン部の断面積よりも大きい場合、
    前記固定ジャーナル型および前記可動ジャーナル型による前記粗ジャーナル部の挟み込み保持、およびこれに続く前記可動ジャーナル型の軸方向への移動に伴い、前記粗ジャーナル部の断面積を鍛造クランク軸のジャーナル部の断面積まで減少させ、
    前記ピン型の軸方向への移動および偏芯方向への移動に伴い、前記粗ピン部の断面積を鍛造クランク軸のピン部の断面積まで減少させる、鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置。
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