(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる制御装置を車載主機として回転機を備える車両(例えばハイブリッド車両)に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
図示されるモータジェネレータ10は、車載主機であり、図示しない駆動輪に機械的に連結されている。モータジェネレータ10は、インバータIV、昇圧コンバータ12及びリレー14を介して高圧バッテリ16に接続されている。なお、本実施形態では、モータジェネレータ10として、永久磁石同期モータ(例えば埋め込み磁石同期モータ)を用いている。
高圧バッテリ16は、その端子電圧が例えば百V以上の高電圧となる蓄電池である。なお、高圧バッテリ16としては、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を採用することができる。
昇圧コンバータ12は、高圧バッテリ16の電圧を所定の電圧(例えば「650V」)を上限として昇圧する機能を有している。昇圧コンバータ12によって昇圧された電圧はインバータIVに印加される。
インバータIVは、パワー素子としての高電位側のスイッチング素子Sjp(j=u,v,w)及び低電位側のスイッチング素子Sjnの直列接続体が3つ並列接続されて構成されている。そして、これら高電位側のスイッチング素子Sjp及び低電位側のスイッチング素子Sjnの接続点が、モータジェネレータ10の各相にそれぞれ接続されている。なお、本実施形態において、上記スイッチング素子Sjp,Sjnは、いずれも電圧制御形のスイッチング素子である絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)にて構成されている。また、高電位側のスイッチング素子Sjp,低電位側のスイッチング素子Sjnの入出力端子間(コレクタ及びエミッタ間)には、フリーホイールダイオードFDp,FDnが接続されている。
スイッチング素子Sjk(k=p,n)付近には、スイッチング素子Sjkの温度を検出する感温ダイオードSDjkが設けられている。詳しくは、感温ダイオードSDjkは、スイッチング素子Sjkの温度に応じた出力電圧を出力する。なお、感温ダイオードSDjkの出力電圧とスイッチング素子Sjkの温度とは負の相関を有する。
ハイブリッド制御装置(HVECU18)は、後述するモータジェネレータ制御装置(MGECU20)よりも上位(アクセルペダル等のユーザインターフェースから入力されるユーザの要求を最上流とした場合の上流側)の電子制御装置である。HVECU18は、MGECU20に対してモータジェネレータ10の指令トルクを出力する等の機能を有している。
一方、MGECU20は、インバータIVのスイッチング素子Sjkを操作することでモータジェネレータ10の制御量(例えばトルク)を所望に制御するための電子制御装置である。詳しくは、MGECU20は、モータジェネレータ10の回転子の回転角(電気角)を検出する回転角センサ22(例えばレゾルバ)や、モータジェネレータ10のV,W相を流れる電流を検出する電流センサ24,26、インバータIVの入力電圧を検出する電圧センサ28、更には感温ダイオードSDjkの検出値等に基づき、インバータIVのU相、V相及びW相のそれぞれについてのスイッチング素子Sjpを操作する操作信号gjpと、スイッチング素子Sjnを操作する操作信号gjnとを生成して出力する。これにより、スイッチング素子Sjp,Sjnは、それらの導通制御端子(ゲート)に接続されるドライブユニットDUを介してMGECU20により操作される。なお、操作信号gjpと操作信号gjnとは、交互にオン操作指令となる相補信号である。
ちなみに、インバータIVを備える車載高圧システムと、HVECU18やMGECU20を備える車載低圧システムとは、図示しないフォトカプラ等からなるインターフェース30によって絶縁されており、上記操作信号gjk(j=u,v,w、k=p,n)は、インターフェース30を介して高圧システムに出力される。また、感温ダイオードSDjkによって検出されるスイッチング素子Sjkの温度Tjkや、回転角センサ22によって検出される回転角θ、電流センサ24,26によって検出される電流値iv,iw、更には電圧センサ28によって検出されるインバータIVの入力電圧VINVは、インターフェース30を介して低圧システムに出力される。
次に、図2を用いて、MGECU20によって実行されるモータジェネレータ10の制御量の制御(電流フィードバック制御)に関する処理について説明する。
指令電流設定部B1は、モータジェネレータ10の生成トルクを後述するなまし処理部B12から出力される指令トルクTrqcとするための回転2相座標系の電流の指令値であるd軸上の指令電流(d軸指令電流id*)と、q軸上の指令電流(q軸指令電流iq*)とを設定する。ここでは、モータジェネレータ10の生成トルクTが、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、d軸の電流id、q軸の電流iq、電機子鎖交磁束定数φ及び極対数Pを用いると、以下の式(e1)となることが利用される。
T=P{φ・iq+(Ld−Lq)id・iq}…(e1)
ちなみに、d軸指令電流id*,q軸指令電流iq*は、具体的には例えば、指令トルクTrqcと関係付けられたこれら指令電流id*,iq*が規定されるマップ(電流指令マップ)を用いて算出すればよい。
2相変換部B2は、回転角センサ22によって検出される回転角θと、電流センサ24,26によって検出されるV相電流iv,W相電流iwとに基づき、モータジェネレータ10の各相を流れる電流iu,iv,iwを、回転2相座標系の実電流であるd軸上の実電流(d軸実電流idr)と、q軸上の実電流(q軸実電流iqr)とに変換する。なお、これら実電流の変換の際に用いられるモータジェネレータ10のU相を流れる電流iuは、V相電流iv,W相電流iwに基づき算出する。
速度算出部B3は、回転角センサ22によって検出される回転角θに基づき、モータジェネレータ10の回転子の回転速度ω(電気角速度)を算出する。
d軸電流比較部B4は、d軸指令電流id*とd軸実電流idrとの偏差Δidを算出する。ここで、上記偏差Δidは、d軸指令電流id*からd軸実電流idrを減算した値である。一方、q軸電流比較部B5は、q軸指令電流iq*とq軸実電流iqrとの偏差Δiqを算出する。ここで、上記偏差Δiqは、q軸指令電流iq*からq軸実電流iqrを減算した値である。
d軸指令電圧設定部B6は、上記偏差Δidを用いた比例積分制御(PI制御)に基づくフィードバック操作量に、周知の非干渉化制御を行うための非干渉項をフィードフォワード操作量として加えることで、d軸指令電圧Vd*を設定する。なお、上記フィードバック操作量は、具体的には、上記偏差Δid及び比例ゲインKpの乗算値と、上記偏差Δid及び積分ゲインKiの乗算値の積分演算値との加算値として算出される。また、非干渉項は、速度算出部B3から出力される回転速度ωと、指令電流設定部B1から出力されるd軸指令電流id*,q軸指令電流iq*とを入力として非干渉項算出部B8によって算出される。
q軸指令電圧設定部B7は、上記偏差Δiqを用いた比例積分制御(PI制御)に基づくフィードバック操作量に、非干渉化制御を行うための非干渉項をフィードフォワード操作量として加えることで、q軸指令電圧Vq*を設定する。なお、上記フィードバック操作量は、具体的には、上記偏差Δiq及び比例ゲインKpの乗算値と、上記偏差Δiq及び積分ゲインKiの乗算値の積分演算値との加算値として算出される。
3相変換部B9は、回転角センサ22によって検出される回転角θに基づき、指令電圧Vd*,Vq*を3相の固定座標系の指令電圧であるU相の指令電圧Vu,V相の指令電圧Vv,W相の指令電圧Vwに変換する。
PWM変調部B10は、インバータIVの3相の出力電圧を指令電圧Vu,Vv,Vwを模擬した電圧とするための上記操作信号gjk(j=u,v,w;k=p,n)を生成する。ここでは、例えば、電圧センサ28によって検出されるインバータIVの入力電圧VINVにて指令電圧Vu,Vv,Vwを規格化したものと、三角波形状のキャリアとの大小比較結果を上記操作信号gjkとすればよい。そして、生成された操作信号gjkをインバータIVに対して出力する。
ところで、スイッチング素子Sjkの温度が過度に上昇すると、スイッチング素子Sjkの信頼性が低下するおそれがある。こうした事態の発生を回避すべく、本実施形態では、スイッチング素子温度を入力として、HVECU18から出力される指令トルクTrq*を低下させる指令トルク制限部B11を備えている。
詳しくは、指令トルク制限部B11は、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、スイッチング素子温度Tthが高いほど指令トルクTrq*を低下させるトルク制限処理を行う。この処理について説明すると、まず、トルク制限係数Ktrqを設定する。トルク制限係数Ktrqは、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1以下の場合に1に設定され、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回って且つ閾値温度T1よりも高い上限温度T2未満となる場合にスイッチング素子温度Tthが高いほど小さく設定され、スイッチング素子温度Tthが上限温度T2以上となる場合に0に設定される。そして、設定されたトルク制限係数Ktrqを指令トルクTrq*に乗算することで、指令トルクTrq*を低下させる。
なお、トルク制限係数Ktrqの設定に用いるスイッチング素子温度Tthは、例えば、インバータIVの有する全て(6つ)のスイッチング素子Sjkの温度Tjkのうちの最大値とすればよい。また、上限温度T2は、例えば、スイッチング素子Sjkの信頼性を維持可能な上限値として設定すればよい。
なまし処理部B12は、1次遅れフィルタにて構成され、指令トルク制限部B11から出力される指令トルクの変化を遅延させる処理を行う。これは、指令トルク制限部B11から出力される指令トルクの急変を回避する(指令トルクの変化を滑らかにする)ためのものであり、ドライバビリティの低下の回避等を図るためのものである。
ここで、なまし処理部B12によれば、指令電流設定部B1に入力される指令トルクTrqcの変化を滑らかにすることができるものの、モータジェネレータ10の実際の生成トルクが指令トルク制限部B11によって低下された指令トルクとなるまでの時間が長くなる懸念がある。この場合、スイッチング素子Sjkの温度上昇を適切に抑制することができず、スイッチング素子Sjkの信頼性が低下するおそれがある。
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断されて指令トルクTrq*が低下される状況下、なまし処理部B12の1次遅れフィルタの時定数Tsを小さくする応答時間短縮処理を行う。
図3に、本実施形態にかかる応答時間短縮処理を含むモータジェネレータ10の制御処理の手順を示す。この処理は、MGECU20によって例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、ステップS10においてスイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回っているか否かを判断する。
ステップS10においてスイッチング素子温度Tthが閾値温度T1以下であると判断された場合には、ステップS12に進み、トルク制限係数Ktrqを1に設定する。
続くステップS14では、1次遅れフィルタの時定数Tsを第1の時定数Taに設定する。
一方、上記ステップS10において否定判断された場合には、スイッチング素子に流れる電流を抑制する必要があると判断し、ステップS16に進む。ステップS16では、上述したように、スイッチング素子温度Tthが高いほどトルク制限係数Ktrqを小さく設定するトルク制限処理を行う(先の図2参照)。
続くステップS18では、1次フィルタの時定数Tsを第1の時定数Taよりも小さい第2の時定数Tbに設定する応答時間短縮処理を行う。なお、第2の時定数Tbは、例えば、モータジェネレータ10を流れる電流の低下度合いを大きくしたい場合には0に設定してもよい。
ステップS14,S18の処理の完了後、ステップS20において、HVECU18から出力される指令トルクTrq*、トルク制限係数Ktrq、及びなまし処理部B12における1次遅れフィルタに基づき、指令トルクTrqcを算出する。
なお、ステップS20の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
図4に、本実施形態にかかる応答時間短縮処理の一例を示す。詳しくは、図4(a)に、スイッチング素子温度Tthの推移を示し、図4(b)に、モータジェネレータ10の生成トルクの推移を示す。
図中実線にて示すように、時刻t1においてスイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると、トルク制限処理とともに、1次遅れフィルタの時定数Tsが小さく設定される応答時間短縮処理が開始される。このため、モータジェネレータ10の生成トルクを指令トルクTrqcまで速やかに低下させることができる。すなわち、モータジェネレータ10に流れる電流を速やかに低下させることができ、スイッチング素子温度Tthが過度に上昇することを回避することができる。
これに対し、図中破線にて示すように、応答時間短縮処理が行われない場合には、モータジェネレータ10の生成トルクを指令トルクTrqcまで速やかに低下させることができず、モータジェネレータ10に流れる電流を速やかに低下させることができない。このため、スイッチング素子温度Tthが大きく上昇することとなる。
続いて、図5を用いて、応答時間短縮処理を用いるメリットについて更に説明する。詳しくは、図5(a)及び図5(b)のそれぞれは、先の図4(a)及び図4(b)のそれぞれに対応している。なお、図5の破線にて示す波形は、先の図4の破線にて示す波形と同一である。
上述したように、応答時間短縮処理によれば、スイッチング素子温度Tthが過度に上昇することを回避することができる。このため、閾値温度をT1からT1’に上昇させることができる。これにより、図中実線にて示すように、トルク制限処理を開始するタイミングを時刻t1から時刻t2に遅らせることができる等、モータジェネレータ10の生成トルクの制約を抑制することなどができる。
このように、本実施形態では、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、トルク制限処理とともに、1次遅れフィルタの時定数Tsを小さく設定する応答時間短縮処理を行うことで、スイッチング素子温度Tthが過度に上昇することを回避することができる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、スイッチング素子温度Tthが高いほど指令トルクTrq*を低下させるトルク制限処理を行うとともに、1次遅れフィルタの時定数Tsを小さく設定する応答時間短縮処理を行った。これにより、モータジェネレータ10を流れる電流を速やかに低下させることができ、スイッチング素子温度が過度に上昇することを回避することができる。したがって、スイッチング素子Sjkの信頼性が低下することを回避することができる。
(2)1次遅れフィルタを用いて指令トルク制限部B11から出力される指令トルクの変化を遅延させた。これにより、時定数Tsの変更によって指令トルクの変化の遅延度合いを簡易且つ適切に調節することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図6に、本実施形態にかかる電流フィードバック制御に関する処理のブロック図を示す。なお、図6において、先の図2に示した同一の処理については、便宜上同一の符号を付している。
本実施形態では、応答時間短縮処理として、1次遅れフィルタの時定数Tsを小さく設定する処理に加えて、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、d軸指令電圧設定部B6及びq軸指令電圧設定部B7において比例ゲインKp及び積分ゲインKiを増大させるゲイン増大処理を行う。
図7に、本実施形態にかかる応答時間短縮処理を含むモータジェネレータ10の制御処理の手順を示す。この処理は、MGECU20によって例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図7において、先の図3に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS14の処理が完了した場合、ステップS22において比例ゲインKpを第1の比例ゲインKpaに設定して且つ、積分ゲインKiを第1の積分ゲインKiaに設定する。
一方、ステップS18の処理が完了した場合には、ステップS24において比例ゲインKpを第1の比例ゲインKpaよりも大きい第2の比例ゲインKpbに設定して且つ、積分ゲインKiを第1の積分ゲインKiaよりも大きい第2の積分ゲインKibに設定する。なお、d軸実電流idr,q軸実電流iqrの制御性の低下を回避すべく、例えば、第2の比例ゲインKpbに対する第2の積分ゲインKibの比率を、第1の比例ゲインKpaに対する第1の積分ゲインKiaの比率と略同一としてもよい。
ステップS22,S24の処理が完了した場合、ステップS20に進む。
なお、ステップS20の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
このように、本実施形態では、応答時間短縮処理として、更にゲイン増大処理を行うことで、モータジェネレータ10を流れる電流を迅速に低下させることができる。これにより、スイッチング素子の温度が過度に上昇することをより好適に回避することができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、モータジェネレータ10の制御量の制御として、トルクフィードバック制御を行う。
図8に、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御に関する処理のブロック図を示す。なお、図8において、先の図6に示した同一の処理については、便宜上同一の符号を付している。
トルク推定部B13は、2相変換部B2から出力されるd軸実電流idr及びq軸実電流iqrに基づき、モータジェネレータ10の推定トルクTeを算出する。ここで、推定トルクTeは、具体的には例えば、これら実電流idr,iqrと推定トルクTeとが関係付けられたマップや数式を用いて算出すればよい。
偏差算出部B14は、なまし処理部B12から出力される指令トルクTrqcと推定トルクTeとの偏差ΔTrを算出する。ここで、上記偏差ΔTrは、指令トルクTrqcから推定トルクTeを減算した値である。
位相設定部B15は、上記偏差ΔTrに基づき、推定トルクTeを指令トルクTrqcにフィードバック制御するための操作量として位相δを設定する。詳しくは、上記偏差ΔTrを用いた比例積分制御(PI制御)によって位相δを設定する。より具体的には、上記偏差ΔTr及び比例ゲインKpの乗算値と、上記偏差ΔTr及び積分ゲインKiの乗算値の積分演算値との加算値として上記位相δを設定する。
ここで、本実施形態では、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、応答時間短縮処理として、比例ゲインKp及び積分ゲインKiを増大させるゲイン増大処理を行う。
ノルム設定部B16は、なまし処理部B12から出力される指令トルクTrqcと、電気角速度ωとを入力として、インバータIVの出力電圧ベクトルのノルムVnを設定する。ここで、ベクトルのノルムとは、ベクトルの各成分の2乗の和の平方根にて定義される。ちなみに、上記ノルムVnは、具体的には例えば、指令トルクTrqc及び電気角速度ωと上記ノルムVnとが関係付けられたマップ等、指令トルクTrqc及び電気角速度ωからノルムVnを一義的に算出する手段を備えることで設定することができる。
操作信号生成部B17は、上記位相δ、上記ノルムVn、インバータIVの入力電圧VINV及び電気角θに基づき、操作信号gjkを生成して出力する。詳しくは、操作信号生成部B17は、変調率毎に、電気角の1回転周期分の操作信号波形をマップデータとして記憶している。操作信号生成部B17では、インバータIVの入力電圧VINV及びノルムVnに基づき変調率を算出し、これに応じて該当する操作信号波形を選択する。操作信号波形が選択されると、操作信号生成部B17では、この波形の出力タイミングを上記位相δに基づき設定することで操作信号gjkを生成する。
なお、本実施形態にかかる応答時間短縮処理を含むモータジェネレータ10の制御処理の手順は、先の図7に示した手順に準ずる。
また、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御と、上記第2の実施形態にかかる電流フィードバック制御とは、実際にはモータジェネレータ10の運転状態に応じて選択されて実行される。具体的には例えば、変調率が1よりも大きい所定値未満になると判断された場合、電流フィードバック制御が実行され、変調率が上記所定値以上になると判断された場合、トルクフィードバック制御が実行される。
このように、本実施形態では、トルクフィードバック制御を行う構成において応答時間短縮処理を行うことで、スイッチング素子の温度が過度に上昇することを好適に回避することができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図9に、本実施形態にかかる電流フィードバック制御に関する処理のブロック図を示す。なお、図9において、先の図6に示した同一の処理については、便宜上同一の符号を付している。
本実施形態では、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、指令電流設定部B1においてd軸指令電流id*及びq軸指令電流iq*を低下させる処理を行う。詳しくは、まず、HVECU18から出力される指令トルクTrq*を入力として、電流指令マップを用いてd軸指令電流idm及びq軸指令電流iqmを算出する。
そして、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、スイッチング素子温度Tthが高いほどd軸指令電流idm及びq軸指令電流iqmを小さくする。すなわち、モータジェネレータ10に対する指令電流ベクトルのノルムを小さくする。ここで、指令電流を小さくする手法について説明すると、具体的には例えば、まず、電流制限係数aを設定する。電流制限係数aは、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1以下の場合に1に設定され、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回って且つ閾値温度T1よりも高い上限温度T2未満となる場合にスイッチング素子温度Tthが高いほど小さく設定され、スイッチング素子温度Tthが上限温度T2以上となる場合に0に設定される。そして、電流制限係数aをd軸指令電流idm及びq軸指令電流iqmのそれぞれに乗算することで、これら指令電流idm,iqmを小さくする。
図10に、本実施形態にかかる応答時間短縮処理を含むモータジェネレータ10の制御処理の手順を示す。この処理は、MGECU20によって例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図10において、先の図7に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS10において否定判断された場合には、ステップS26に進み、電流制限係数aを1に設定する。ステップS26の処理が完了した場合、ステップS22に進む。
一方、上記ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS28に進み、上述したように、スイッチング素子温度Tthが高いほど電流制限係数aを小さく設定する(先の図9参照)。ステップS28の処理が完了した場合、ステップS24に進む。
なお、ステップS22,S24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
このように、本実施形態では、指令電流設定部B1において、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、電流指令マップに基づき算出されるd軸指令電流idm及びq軸指令電流iqmを小さくすることで、スイッチング素子の温度が過度に上昇することを好適に回避することができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図11に、本実施形態にかかる応答時間短縮処理を含むモータジェネレータ10の制御処理の手順を示す。この処理は、MGECU20によって例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図11において、先の図3に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS16の処理が完了した場合、ステップS30においてスイッチング素子温度Tthの変化量(温度変化量ΔTth)を算出する。本実施形態では、温度変化量ΔTthを、今回のサンプリングタイミングにおけるスイッチング素子温度Tth(n)から前回のサンプリングタイミングにおけるスイッチング素子温度Tth(n―1)を減算した値として算出する。
続くステップS32では、温度変化量ΔTthが0よりも大きいか否かを判断する。この処理は、スイッチング素子温度Tthが低下している状況であるか否かを判断するための処理である。
ステップS32において肯定判断された場合には、スイッチング素子温度Tthが未だ上昇傾向にあると判断し、ステップS18に進む。すなわち、なまし処理部B12における1次遅れフィルタの時定数Tsを第2の時定数Tbに維持し、応答時間短縮処理を継続する。
一方、上記ステップS32において否定判断された場合には、スイッチング素子温度Tthが低下している状況であると判断し、ステップS14に進む。すなわち、1次遅れフィルタの時定数Tsを第1の時定数Taに戻し、応答時間短縮処理を中止する。
なお、ステップS20の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
図12に、本実施形態にかかる応答時間短縮処理の一例を示す。詳しくは、図12(a)は、先の図4(a)に対応している。また、図12(b)は、トルク制限処理の実行の有無の推移を示し、図12(c)は、1次遅れフィルタの時定数Tsの推移を示す。
図示される例では、時刻t1においてスイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断されることで、トルク制限処理が開始されるとともに、時定数Tsが第1の時定数Taから第2の時定数Tbに切り替えられる。
その後、時刻t2において、温度変化量ΔTthが0以下になると判断されることで、1次遅れフィルタの時定数Tsが第2の時定数Tbから第1の時定数Taに切り替えられて応答時間短縮処理が中止される。なお、その後時刻t3において、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1以下になると判断されることで、トルク制限処理が終了される。
このように、本実施形態では、温度変化量ΔTthに基づき1次遅れフィルタの時定数Tsを切り替えた。こうした構成によれば、スイッチング素子温度Tthの上昇度合いが大きい状況においてモータジェネレータ10を流れる電流を迅速に低下させ、その後スイッチング素子温度Tthが低下する状況においてd軸実電流idr,q軸実電流iqrの制御の安定性の低下を回避することができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第1の実施形態において、指令トルク制限部B11及びなまし処理部B12における処理をHVECU18にて行ってもよい。
・上記各実施形態では、スイッチング素子Sjkのそれぞれの温度を各別に検出可能なように感温ダイオードSDjkを備えたがこれに限らない。例えば、これらスイッチング素子Sjkのうちの比較的温度が上昇しやすいものの付近のみに感温ダイオードを配置してもよい。
・上記第2,第3の実施形態において、なまし処理部B12を備えなくてもよい。この場合であっても、ゲイン増大処理が行われるため、スイッチング素子温度Tthが過度に上昇することを抑制することはできる。
・1次遅れフィルタの時定数Tsの設定態様としては、上記第1の実施形態に例示したものに限らない。例えば、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、スイッチング素子温度Tthが高いほど時定数Tsを段階的に小さく設定してもよい。
・遅延手段としては、1次遅れフィルタに限らず、例えば2次遅れフィルタであってもよい。この場合、例えば、2次遅れフィルタの減衰係数を1よりも大きくしつつ、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、2次遅れフィルタの固有周波数を高く設定すればよい。
・フィードバックゲインの増大手法としては、上記第2〜4の実施形態に例示したものに限らない。例えば、比例ゲインKp及び積分ゲインKiのうちいずれかを増大させてもよい。
また、フィードバック制御としては、比例積分制御に限らず、例えば、比例積分微分制御であってもよい。この場合、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると判断された場合、微分ゲインを増大させてもよい。
・上記第4の実施形態において、d軸指令電流idm及びq軸指令電流iqmのうちいずれかを小さくする処理を行ってもよい。
・上記第5の実施形態において、温度変化量ΔTthが0以下とならなくても、温度変化量ΔTthが正であって且つ、温度変化量ΔTthの絶対値が非常に小さい場合、1次遅れフィルタの時定数Tsを第1の時定数Taに切り替えてもよい。
・上記第5の実施形態において、1次遅れフィルタの時定数Tsを小さくする処理に加えて、上記第2の実施形態に示したゲイン増大処理を行ってもよい。この場合、スイッチング素子温度Tthが閾値温度T1を上回ると一旦判断された後、温度変化量ΔTthが0以下になると判断された場合、時定数Tsを小さくする処理に加えてゲイン増大処理を中止すればよい。
なお、上記第5の実施形態において、応答時間短縮処理として、時定数Tsを小さくする処理に代えてゲイン増大処理を行ってもよい。
・スイッチング素子温度Tthの検出手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、スイッチング素子Sjk付近にサーミスタを備え、サーミスタによってスイッチング素子Sjkの温度Tjkを検出してもよい。
また、スイッチング素子温度を直接検出する手法に限らず、スイッチング素子温度を推定する手法を採用してもよい。この手法を採用することで、スイッチング素子温度を検出するセンサ数を低減させることができる。ここで、スイッチング素子温度の推定手法について説明すると、具体的には例えば、まず、スイッチング素子Sjkのうちの一部のスイッチング素子の温度のみ感温ダイオードによって検出する。そして、検出されたスイッチング素子温度と、感温ダイオードの検出対象となるスイッチング素子以外の特定のスイッチング素子及び上記検出対象となるスイッチング素子(以下、一対のスイッチング素子)のそれぞれを流れる電流量とを入力とし、一対のスイッチング素子の各温度間の相対的な大小関係と上記一対のスイッチング素子を流れる電流量との間の相関関係に基づき、上記特定のスイッチング素子の温度を推定する。この手法は、一対のスイッチング素子を流れる電流量の相対的な大小関係と、これらスイッチング素子の各温度間の相対的な大小関係との間に相関関係があることに鑑みたものである。
・本願発明が適用される回転機としては、駆動輪に機械的に連結されるものに限らず、例えば、高圧バッテリ16を直接の電源とする空調装置のコンプレッサに内蔵される回転機であってもよい。
・回転機としては、ブラシレスDCモータに限らず、ブラシ付きDCモータであってもよい。この場合、回転機に適用される電力変換回路としては、直流電源の電力を交流電力に変換する直流交流変換回路(インバータ)に限らず、例えばHブリッジ回路であってもよい。