実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る無線通信装置1の構成を示す図である。本実施の形態に係る無線通信装置1は、例えば基地局であって、OFDM信号を用いて複数の通信端末と通信を行う。OFDM信号は、互いに直交する複数のサブキャリアが重畳されたマルチキャリア信号である。また、本実施の形態に係る無線通信装置1は、アダプティブアレイアンテナ方式を用いて、通信相手装置である通信端末と通信する。以後、無線通信装置1を「基地局1」と呼ぶ。
図1に示されるように、基地局1は、アレイアンテナ130を構成する複数のアンテナ13(図1の例では2つのアンテナ13)と、複数の無線処理装置10(図1の例では2つの無線処理装置10)と、ベースバンド処理装置11と、信号処理装置12とを備えている。基地局1は、アレイアンテナ130の指向性を制御することが可能である。基地局1は、周辺の基地局とネットワーク(図示せず)を通じて接続されている。
複数のアンテナ13は、複数の無線処理装置10とそれぞれ接続されている。各無線処理装置10は、自身に接続されているアンテナ13で受信される、通信端末からのOFDM信号に対して増幅処理、ダウンコンバート及びA/D変換処理等を行って、デジタル形式のベースバンドの受信信号を生成して出力する。
また、各無線処理装置10は、信号処理装置12から出力される、デジタル形式のベースバンドの送信信号(OFDM信号)に対して、D/A変換処理、アップコンバート及び増幅処理等を行って、アナログ形式の搬送帯域の送信信号を生成する。そして、各無線処理装置10は、生成した搬送帯域の送信信号を、自身に接続されているアンテナ13に入力する。これにより、複数のアンテナ13から成るアレイアンテナ130から通信端末2に向かってOFDM信号が無線送信される。
ベースバンド処理装置11は、送信対象のデータを含む、デジタル形式のベースバンドの送信信号(OFDM信号)を生成して出力する。また、ベースバンド処理装置11は、信号処理装置12から出力されるベースバンドの受信信号に対して復調処理等を行って、当該受信信号に含まれる各種データを取得する。なお、ベースバンド処理装置11の動作については後で詳細に説明する。
信号処理装置12は、ベースバンド処理装置11から出力される送信信号に対して、アレイアンテナ130の送信指向性を制御するために必要な処理を行って、複数のアンテナ13にそれぞれ対応する複数のベースバンドの送信信号を生成する。信号処理装置12で生成された複数の送信信号は、複数の無線処理装置10にそれぞれ入力される。
また、信号処理装置12は、複数の無線処理装置10からそれぞれ出力される複数の受信信号に対して、アレイアンテナ130の受信指向性を制御するために必要な処理を行って、当該複数の受信信号を足し合わせて得られる新たな受信信号を、新たなベースバンドの受信信号としてベースバンド処理装置11に入力する。なお、信号処理装置12の動作については後で詳細に説明する。
本実施の形態では、複数の無線処理装置10、信号処理装置12及びベースバンド処理装置11のそれぞれは、個別の筐体に収納されている。各アンテナ13は、通信端末からの無線信号が受信しやすくなるように、電柱や建物の屋上など、周囲の障害物が少ない場所に設置される。各無線処理装置10は、自身に接続されるアンテナ13にできるだけ近い場所に配置される。例えば、各無線処理装置10は、アンテナ13と同様に、電柱や建物の屋上などに配置される。信号処理装置12及びベースバンド処理装置11は、例えば、建物の内部に配置されて、アンテナ13及び無線処理装置10から離れた場所に配置される。各無線処理装置10と信号処理装置12との間と、信号処理装置12とベースバンド処理装置11との間は、例えば光ファイバーケーブルで接続される。
図2は基地局1が通信する通信端末2の構成を示す図である。図2に示されるように、通信端末2は、アンテナ22と、無線処理部20と、ベースバンド処理部21とを備えている。本実施の形態では、無線処理部20及びベースバンド処理部21は同じ筐体に収納されている。
無線処理部20は、アンテナ22で受信される、基地局1からのOFDM信号に対して増幅処理、ダウンコンバート及びA/D変換処理等を行って、デジタル形式のベースバンドの受信信号を生成して出力する。また、無線処理部20は、ベースバンド処理部21から出力される、デジタル形式のベースバンドの送信信号(OFDM信号)に対して、D/A変換処理、アップコンバート及び増幅処理等を行って、アナログ形式の搬送帯域の送信信号を生成する。そして、無線処理部20は、生成した搬送帯域の送信信号をアンテナ22に入力する。これにより、アンテナ22から基地局1に向かってOFDM信号が無線送信される。
ベースバンド処理部21は、送信対象のデータを含む、デジタル形式のベースバンドの送信信号(OFDM信号)を生成して出力する。また、ベースバンド処理部21は、無線処理部20から出力されるベースバンドの受信信号に対して復調処理等を行って、当該受信信号に含まれる各種データを取得する。
次に、基地局1のベースバンド処理装置11について詳細に説明する。図3はベースバンド処理装置11の構成を示す図である。図3に示されるように、ベースバンド処理装置11は、DFT処理部110と、IDFT処理部111と、CP付加部112と、受信データ取得部113と、送信信号生成部114と、ずれ量取得部115とを備えている。
DFT処理部110は、信号処理装置12から出力される受信信号に対して離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)処理を行う。より具体的には、DFT処理部110は、信号処理装置12から出力される受信信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を行う。これにより、DFT処理部110では、入力された受信信号を構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の複素信号(複素シンボル)が得られる。以後、受信信号を構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の複素信号を「受信複素信号列」と呼ぶことがある。また、受信複素信号列を構成する各複素信号を「受信複素信号」と呼ぶことがある。DFT処理部110で得られた受信複素信号列は受信データ取得部113に入力される。なお、通信端末2から送信されるOFDM信号にはCP(サイクリックプレフィックス)が含まれている。
受信データ取得部113は、入力される受信複素信号列に対して復調処理等を行って、当該受信複素信号列をビットデータに変換する。その後、受信データ取得部113は、得られたビットデータに対してデスクランブル処理及び復号化処理を行う。これにより、受信データ取得部113では、通信端末2で生成された基地局1向けのビットデータが再生される。このビットデータのうち、ネットワーク向けのビットデータは、基地局1からネットワークに送信される。
送信信号生成部114は、ネットワークからのビットデータを含む、通信端末2に向けたビットデータを生成し、当該ビットデータに対して、符号化処理及びスクランブル処理を行う。そして、送信信号生成部114は、処理後のビットデータを、OFDM信号を構成する複数のサブキャリアに対応する、IQ平面上での複数の複素信号に変換する。この複数の複素信号は送信複素信号列としてIDFT処理部111に入力される。以後、送信複素信号列を構成する各複素信号を「送信複素信号」と呼ぶことがある。
IDFT処理部111は、入力される送信複素信号列に対して逆離散フーリエ変換(IDFT:Inverse DFT)を行う。より具体的には、IDFT処理部111は、入力される送信複素信号列に対して逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse FFT)処理を行う。これにより、IDFT処理部111では、送信複素信号列を構成する複数の送信複素信号(複素シンボル)でそれぞれ変調された複数のサブキャリアが重畳されたベースバンドのOFDM信号が得られる。IDFT部111で生成されたベースバンドの送信信号は、CP付加部112に入力される。
CP付加部112は、入力される送信信号に対してCPを付加して、当該送信信号を信号処理装置12に出力する。CP付加部112は、入力される各OFDMシンボル(1シンボル分のOFDM信号)について、当該OFDMシンボルの最後の部分をコピーして、それをCPとして当該OFDMシンボルの前に付加する。例えば、CP付加部112は、OFDMシンボルのうち、最後の8分の1の部分をコピーして、それをCPとして当該OFDMシンボルの前に付加する。以後、「OFDMシンボル」と言えば、特に断らない限り、CPを含むOFDMシンボル(CPが付加されたOFDMシンボル)を意味する。
ずれ量取得部115は、基地局1での受信信号の受信タイミングについて、本来の受信タイミングである基準タイミングからのずれ量を求める。このずれ量は、DFT処理部110から出力される既知の受信複素信号に基づいて求めることができる。以下に、図4,5を用いて受信タイミングのずれ量の求め方について説明する。
図4,5では、DFT処理部110に入力されるOFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアのうち、既知の複素信号で変調された一つのサブキャリアのI(Inphase)成分及びQ(Quadrature)成分が左側に示されている。また、図4,5の右側には、左側に示されているサブキャリアを含むOFDMシンボルに対してDFT処理部110でDFT処理が行われた結果得られる、当該サブキャリアを変調する既知の複素信号がIQ平面上に示されている。図4には、通信端末2からの信号の受信タイミングにずれが無い場合、つまり、通信端末2が適切な送信タイミングで信号を送信している場合の例が示されている。また図5には、通信端末2からの信号の受信タイミングが早い場合、つまり、通信端末2の送信タイミングが早い場合の例が示されている。
本実施の形態に係るDFT処理部110では、OFDMシンボルに対してDFT処理の窓(以後、「DFT窓」と呼ぶ)が設定される際には、当該OFDMシンボルの受信タイミングにずれが無いとした場合において当該OFDMシンボルに含まれるCPにかかるようなタイミングで、当該OFDMシンボルに対してDFT窓が設定される。つまり、DFT処理部110は、OFDMシンボルに対して、それに含まれるCPに意図的にかかるようにDFT窓を設定する。なお、DFT窓は、OFDMシンボルのうちDFT処理が実際に行われる範囲を示している。OFDMシンボルに含まれる、本来の1シンボル分の信号である有効シンボルだけにDFT窓が設定される場合には、OFDMシンボルの受信タイミングが少しでも早くなると、その後に続くOFDMシンボルにまたがってDFT窓が設定されることになり、干渉波が検出されるようになる。本実施の形態では、OFDMシンボルに含まれるCPに意図的にかかるように当該OFDMシンボルに対してDFT窓が設定されるため、OFDMシンボルの受信タイミングが早くなったとしても、その後に続くOFDMシンボルにまたがってDFT窓が設定されることを抑制できる。
なお、送信側の装置がOFDM信号を送信する際に、連続する2つのOFDMシンボルの境界部分の波形を円滑化するようなフィルタリング(波形整形)を当該2つのOFDMシンボルに対して行うことによって、受信側の装置において2つのOFDMシンボルにまたがってDFT窓が設定された場合であっても、検出される干渉波を抑えることができる。当該2つのOFDMシンボルに対して、例えばコサインロールオフ特性の窓関数を乗算することによって、当該2つのOFDMシンボルの境界部分の波形を円滑化することができる。本実施の形態では、基地局1において、通信端末2からのOFDMシンボルの受信タイミングが早くなったとしても、その後に続くOFDMシンボルにまたがってDFT窓が設定されることを抑制できることから、通信端末2は送信信号に対してこのようなフィルタリングを行わなくても良い。
通信端末2からの信号の受信タイミングがずれると、DFT処理部110では受信信号に対するDFT窓の位置がずれることから、DFT処理部110から出力される既知の受信複素信号の位相が本来の位相(受信タイミングにずれが無い場合の位相)から変化するようになる。この位相の変化量は、受信タイミングのずれ量に応じて変化する。したがって、ずれ量取得部115は、DFT処理部110から出力される既知の受信複素信号の位相についての本来の位相からの変化量に基づいて、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量を求めることができる。
ずれ量取得部115で求められたずれ量は送信信号生成部114に通知される。送信信号生成部114は、ずれ量取得部115から通知される、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量に基づいて、当該通信端末2の送信タイミングを制御するための制御情報を生成する。例えば、通信端末2からの信号の受信タイミングが本来の受信タイミングよりも早い場合には、その早い分だけ、当該通信端末2に対して送信タイミングを遅くすることを指示する制御情報が生成される。一方で、通信端末2からの信号の受信タイミングが本来の受信タイミングよりも遅い場合には、その遅い分だけ、当該通信端末2に対して送信タイミングを早くすることを指示する制御情報が生成される。送信信号生成部114は、制御情報を生成すると、当該制御情報を含む送信信号(送信複素信号列)を生成して出力する。これにより、通信端末2に対して送信タイミングの制御情報が基地局1から通知される。
通信端末2では、無線処理部20が送信タイミングの制御情報を含む信号を受信すると、ベースバンド処理部21は、当該制御情報の内容に応じて、無線処理部20の基地局1への送信タイミングを制御する。これにより、基地局1は、通信端末2からのOFDM信号を本来の受信タイミングで受信することが可能となり、当該OFDM信号に対して適切な位置にDFT窓を設定することができる。よって、基地局1は、通信端末2からのOFDM信号に含まれる各種データを正確に取得することができる。
<信号処理装置の詳細について>
本実施の形態では、図6に示されるように、アンテナ13に接続された1つの無線処理装置10とベースバンド処理装置11とを、光ファイバーケーブル等によって直接接続することによって、アダプティブアレイアンテナ方式が採用されていない基地局(以後、「アレイ非対応基地局」と呼ぶ)200を実現することができる。具体的には、無線処理装置10から出力される受信信号を、信号処理装置12から出力される受信信号の替わりに、ベースバンド処理装置11のDFT処理部110に入力し、ベースバンド処理装置11のCP付加部112から出力される送信信号を、信号処理装置12から出力される送信信号の替わりに、無線処理装置10に入力することによって、アレイ非対応基地局200を実現することができる。そして、図1に示されるように、信号処理装置12に対して、複数のアンテナ13がそれぞれ接続された複数の無線処理装置10とベースバンド処理装置11とを接続することによって、アダプティブアレイアンテナ方式が採用された基地局1(以後、「アレイ対応基地局1」と呼ぶことがある)を実現することができる。
このように、本実施の形態では、信号処理装置12の存在により、アレイ非対応基地局200とアレイ対応基地局1との間で、ベースバンド処理装置11を同じ構成とすることができるから、アレイ対応基地局1を簡単に実現することができる。
例えば、既存のアレイ非対応基地局200に対して、アンテナ13が接続された少なくとも一つの無線処理装置10と信号処理装置12とを追加し、各無線処理装置10と信号処理装置12とを接続し、信号処理装置12とベースバンド処理装置11とを接続することによって、アレイ非対応基地局200からアレイ対応基地局1を簡単に実現することができる。
また、アレイ非対応基地局200とアレイ対応基地局1の両方を準備して、ユーザが、両装置から、好みの基地局を選択することを可能にする場合には、信号処理装置12以外の要素は、アレイ非対応基地局200とアレイ対応基地局1との間で共用することができることから、アレイ非対応基地局200とアレイ対応基地局1のそれぞれを簡単に実現することができる。以下に、この特徴的な信号処理装置12の構成について詳細に説明する。
図7は信号処理装置12の構成を示す図である。図7に示されるように、信号処理装置12は、受信信号を処理する要素として、DFT処理部120と、受信ウェイト処理部121と、ベースバンド信号生成部122とを備えている。また信号処理装置12は、送信信号を処理する要素として、DFT処理部125と、送信ウェイト処理部126と、ベースバンド信号生成部127とを備えている。
DFT処理部120は、各無線処理装置10から出力される受信信号に対してDFT処理、より具体的にはFFT処理を行う。これにより、DFT処理部120では、入力された各受信信号について、当該受信信号を構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の受信複素信号(受信複素信号列)が得られる。
受信ウェイト処理部121は、複数のアンテナ13での受信信号、つまり、DFT処理部120から出力される複数の受信複素信号列に設定する受信ウェイトを、例えばMMSE(最小二乗誤差法)を用いて算出する。受信ウェイトは、通信端末2からの信号に含まれる既知の複素信号に基づいて算出することができる。
受信ウェイト処理部121は、入力された複数の受信複素信号列のそれぞれについて、当該受信複素信号列を構成する複数の受信複素信号のそれぞれに対して、対応する受信ウェイトを設定(複素乗算)する。そして、受信ウェイト処理部121は、複数の受信複素信号列に含まれる、同一のサブキャリアについての受信ウェイト設定後の複数の受信複素信号を加算する。これにより、アレイアンテナ130の受信指向性に関するビーム、つまり複数のアンテナ13全体での受信指向性に関するビームが、特定の通信端末2からの1つのサブキャリア(希望波)に向けられるようになり、当該1つのサブキャリアについて、干渉成分が除去された受信複素信号を取得することができる。つまり、複数の受信複素信号列に含まれる、同一のサブキャリアについての受信ウェイト設定後の複数の受信複素信号を足し合わせて得られる新たな受信複素信号では、干渉成分が除去されている。受信ウェイト処理部121は、受信信号を構成する複数のサブキャリアのそれぞれについて、干渉波が除去された受信複素信号を取得して出力する。
このように、通信端末2からの受信信号に受信ウェイトを設定することによって、アレイアンテナ130の受信指向性に関するビームが当該通信端末2に向くようになり、当該通信端末2から送信されるデータを適切に受信することができるようになる。
ベースバンド信号生成部122は、受信ウェイト処理部121から出力される受信複素信号列から、ベースバンド処理装置11で処理可能なベースバンドの受信信号を生成する。ベースバンド信号生成部122は、受信ウェイト処理部121から出力される受信複素信号列に対してIDFT処理、より具体的にはIFFT処理を行う。これにより、ベースバンド信号生成部122では、受信複素信号列を構成する複数の受信複素信号で変調された複数のサブキャリアが重畳されたベースバンドのOFDM信号が得られる。そして、ベースバンド信号生成部122は、得られたOFDM信号に対して後述する所定の処理を行って、CPが付加されたOFDM信号を生成してベースバンド処理装置11に出力する。
DFT処理部125は、ベースバンド処理装置11から出力される送信信号に対してDFT処理、より具体的にはFFT処理を行う。これにより、DFT処理部125では、入力された送信信号を構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の送信複素信号(送信複素信号列)が得られる。
送信ウェイト処理部126は、入力された送信複素信号列を、アンテナ13の数(本例では2つ)だけ準備する。この複数の送信複素信号列は、複数のアンテナ13からそれぞれ送信される。送信ウェイト処理部126は、各送信複素信号列に設定する送信ウェイト、言い換えれば、各アンテナ13から送信する送信信号に設定する送信ウェイトを算出する。送信ウェイトは、受信ウェイト処理部121で算出された受信ウェイトに基づいて算出することができる。具体的には、送信ウェイト処理部126は、受信ウェイト処理部121で算出された受信ウェイトをキャリブレーション情報に基づいて補正し、補正後の受信ウェイトを送信ウェイトとする。キャリブレーション情報は、基地局1での送信系回路と受信系回路の特性の相違に基づいて生成される情報である。受信ウェイト処理部121で求められた受信ウェイトをそのまま送信ウェイトとして使用することも可能であるが、送信系回路と受信系回路の特性に相違(例えば、送信系回路と受信系回路の増幅部の特性の相違)があるため、キャリブレーション情報を使用して、その相違を吸収するように受信ウェイトを補正することによって、最適な送信ウェイトを得ることができる。
送信ウェイト処理部126は、生成した複数の送信複素信号列のそれぞれについて、当該送信複素信号列を構成する複数の送信複素信号のそれぞれに対して、対応する送信ウェイトを設定(複素乗算)する。そして、送信ウェイト処理部126は、送信ウェイト設定後の複数の送信複素信号列を出力する。このように、通信端末2に向けた送信信号に対して送信ウェイトを設定することによって、アレイアンテナ130の送信指向性に関するビームが当該通信端末2に向くようになり、当該通信端末2に対してデータを適切に送信することが可能となる。
ベースバンド信号生成部127は、IDFT処理部128及びCP付加部129を備えている。IDFT処理部128は、送信ウェイト処理部126から出力される複数の送信複素信号列のそれぞれに対してIDFT処理、より具体的にはIFFT処理を行う。これにより、IDFT処理部128では、入力された複数の送信複素信号列のそれぞれについて、当該送信複素信号列を構成する複数の送信複素信号で変調された複数のサブキャリアが重畳されたベースバンドのOFDM信号が得られる。IDFT処理部128で生成されたベースバンドの複数の送信信号(OFDM信号)は、CP付加部129に入力される。CP付加部129は、入力される複数の送信信号のそれぞれについて、当該送信信号に対してシンボルごとにCPを付加する。CP付加部129は、上述のCP付加部112と同様に、入力されるOFDMシンボルの最後の部分をコピーして、それを当該OFDMシンボルの前にCPとして付加する。CP付加部129においてCPが付加された複数の送信信号は、複数の無線処理装置10にそれぞれ入力される。
このように、信号処理装置12は、ベースバンド処理装置11から出力されるベースバンドの送信信号に対して、アダプティブアレイアンテナ方式で送信するために必要な処理を行って、各無線処理装置10が処理可能なベースバンドの送信信号を生成する。また信号処理装置12は、各無線処理装置10から出力されるベースバンドの受信信号に対して、アダプティブアレイアンテナ方式で受信するために必要な処理を行って、ベースバンド処理装置11が処理可能なベースバンドの受信信号を生成する。したがって、アレイ非対応基地局200で使用することが可能な無線処理装置10及びベースバンド処理装置11を信号処理装置12に接続することによって、アレイ対応基地局1を簡単に実現することができる。
<信号処理装置で発生する位相変化の補正方法>
信号処理装置12のDFT処理部120では、ベースバンド処理装置11のDFT処理部110と同様に、入力されるOFDMシンボルに対して、DFT窓が、当該OFDMシンボルの受信タイミングにずれが無いとした場合において当該OFDMシンボルに含まれるCPにかかるようなタイミングで、つまり意図的にCPにかかるように設定される。そのため、アレイアンテナ130で受信された受信信号の位相が信号処理装置12において変化するようになる。具体的には、アレイアンテナ130で受信されたOFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の受信複素信号のそれぞれの位相が信号処理装置12において変化するようになる。
図8,9は、受信複素信号の位相が信号処理装置12において変化する様子を示す図である。図8では、アレイアンテナ130で受信されるOFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアのうちのあるサブキャリアに注目し、この注目サブキャリアがアレイアンテナ130で受信されたときの当該注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。また図8の右側では、左側に示される注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。
図9では、DFT処理部120に入力されるOFDMシンボルに含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。図9の右側では、左側に示されている注目サブキャリアを含むOFDMシンボルに対してDFT処理部120でDFT処理が行われた結果、DFT処理部120で得られる当該注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。なお、図8,9の例では、通信端末2からの信号の受信タイミングにずれが無いものとしている。また、後述の図10,11,14,15においても、通信端末2からの信号の受信タイミングにずれが無いものとする。
図9に示されるように、DFT処理部120においては、OFDMシンボルに対して、それに含まれるCPに意図的にかかるようにDFT窓が設定されることから、当該OFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の受信複素信号のそれぞれの位相が、アレイアンテナ130で受信されたときの状態(図8参照)から変化する。図8,9の例では、注目サブキャリアを変調する受信複素信号の位相が、DFT処理部120でのDFT処理によって、0π(ラジアン)から−π/4(ラジアン)に変化している。一方で、DFT処理部120が、仮に、OFDMシンボルに対して、その有効シンボルだけにDFT窓を設定する場合には、当該OFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアをそれぞれ変調する複数の受信複素信号のそれぞれの位相は、アレイアンテナ130で受信されたときの状態(図8参照)と一致するようになる。なお、図9に示されるαは、DFT処理部120が、受信タイミングにずれが無いOFDMシンボルに対してDFT窓を設定する際に、当該DFT窓において、当該OFDMシンボルのCPにかかっている部分の時間長を示している。以後、このαを「CPはみ出し時間長α」と呼ぶ。
受信信号の位相がDFT処理部120でのDFT処理によって変化すると、受信信号は、その位相が変化した状態で受信ウェイト処理部121に入力される。したがって、ベースバンド信号生成部122にも、位相が変化した状態で受信信号が入力される。その結果、ベースバンド信号生成部122が特別な処理を行わない限り、ベースバンド処理装置11にも、位相が変化した状態で受信信号が入力される。図10はその様子を示す図である。
図10の上側半分においては、ベースバンド信号生成部122が、入力された受信信号(受信複素信号列)に対してIDFT処理を行って得られたOFDMシンボル(CPを含まないOFDMシンボル)に含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。図10の上側半分の右側では、左側に示される注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。
また、図10の下側半分においては、ベースバンド信号生成部122が、入力された受信信号に対してIDFT処理を行って得られたOFDMシンボル、つまり、図10の上側半分の左側に示されている注目サブキャリアを含む、CPを含まないOFDMシンボルについて、その最後の部分AについてのコピーA’をCPとして当該OFDMシンボルの前に付加して得られる新たなOFDMシンボルに含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。図10の下側半分の右側では、左側に示される注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。なお、図10の下側半分の左側で示される注目サブキャリアにおいては、図10の上側半分の左側に示されている注目サブキャリアの部分を太線で示している。
図10に示されるように、ベースバンド信号生成部122において、仮に、CPを含まないOFDMシンボルの最後の部分AについてのコピーA’をCPとして当該OFDMシンボルの前に付加される場合には、図8と図10とを比較して理解できるように、各受信複素信号は、その位相が変化した状態でベースバンド信号生成部122から出力されてベースバンド処理装置11に入力される。
ベースバンド処理装置11に対して、アレイアンテナ130で受信されたときの状態から位相が変化した受信信号が入力されると、ベースバンド処理装置11のDFT処理部110からは、アレイアンテナ130で受信されたときの状態から位相が変化した受信複素信号が出力されるようになる。既知の受信複素信号の位相が、アレイアンテナ130で受信されたときの状態から変化し、ベースバンド処理装置11が、それを認識せずに、当該既知の受信複素信号に基づいて、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量を求めると、当該ずれ量の算出精度が低下する。その結果、通信端末2の送信タイミングを精度良く制御しにくくなる。
そこで、本実施の形態に係るベースバンド信号生成部122は、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が補正されるように、ベースバンド処理装置11に入力する、CPが付加されたベースバンドのOFDM信号を生成する。以下に、ベースバンド信号生成部122でのこの補正処理について説明する。
図11はベースバンド信号生成部122での補正処理を説明するための図である。図11の上側半分においては、図10の上側半分と同様に、ベースバンド信号生成部122が、入力された受信信号に対してIDFT処理を行って得られたOFDMシンボル(CPを含まないOFDMシンボル)に含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。図11の上側半分の右側では、左側に示される注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。
また図11の下側半分においては、ベースバンド信号生成部122から出力される、CPが付加されたOFDMシンボルに含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。また、図11の下側半分の右側では、左側に示されている注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。なお、図11の下側半分の左側で示される注目サブキャリアにおいては、図11の上側半分の左側に示されている注目サブキャリアの部分を太線で示している。
本実施の形態に係るベースバンド信号生成部122では、入力される受信信号に対してIDFT処理を行って得られる各OFDMシンボル(図11の上側半分の左側に示されている注目サブキャリアを含む、CPを含まないOFDMシンボル)について、当該OFDMシンボルの最後の部分XのコピーX’を当該OFDMシンボルの前に付加するとともに、当該OFDMシンボルの最初の部分YのコピーY’を当該OFDMシンボルの後ろに付加することによって、CPが付加されたベースバンドのOFDM信号を生成している。これにより、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が補正された、ベースバンド処理装置11に入力する受信信号が得られる。
図11の下側半分に示されるように、ベースバンド信号生成部122から出力される、CPが付加されたOFDMシンボルに含まれる注目サブキャリアを変調する受信複素信号の位相は、上述の図8の右側に示される受信複素信号の位相、つまり、注目サブキャリアがアレイアンテナ130で受信されたときの当該注目サブキャリアを変調する受信複素信号の位相と一致している。このことから、ベースバンド信号生成部122から出力される受信信号では、DFT処理部120でのDFT処理によって発生する位相変化が補正されていることが理解できる。
CPを含まないOFDMシンボルに対してそのコピーY’が付加される、当該OFDMシンボルの最初の部分Yの時間長yは、以下の式(1)で表される。
y=α ・・・(1)
ここで、CPはみ出し時間長αは、上述のように、DFT処理部120が、受信タイミングにずれが無いOFDMシンボルに対してDFT窓を設定する際に、当該DFT窓において、当該OFDMシンボルのCPにかかっている部分の時間長を示している(図9参照)。
そして、CPを含まないOFDMシンボルに対してそのコピーX’が付加される、当該OFDMシンボルの最後の部分Xの時間長xは、以下の式(2)で表される。
x=β−α ・・・(2)
ここでβはCPの時間長を示している。
時間長x,yをこのように設定することによって、図11に示されるように、基地局1が属する無線通信システムにおいて定められている時間長を有するCP及び有効シンボルで構成されたOFDMシンボルであって、DFT処理部120でのDFT処理によって発生する位相変化が補正されたOFDMシンボルを、ベースバンド信号生成部122において生成することができる。
以上のように、本実施の形態では、信号処理装置12が、ベースバンド処理装置11から出力されるベースバンドの送信信号に対して、アダプティブアレイアンテナ方式で送信するために必要な処理を行って、各無線処理装置10が処理可能なベースバンドの送信信号を生成している。したがって、アレイ非対応基地局200で使用することが可能な無線処理装置10及びベースバンド処理装置11を信号処理装置12に接続することによって、アダプティブアレイアンテナ方式で送信することが可能な基地局1を簡単に実現することができる。
また、信号処理装置12は、各無線処理装置10から出力されるベースバンドの受信信号に対して、アダプティブアレイアンテナ方式で受信するために必要な処理を行って、ベースバンド処理装置11が処理可能なベースバンドの受信信号を生成している。したがって、アレイ非対応基地局200で使用することが可能な無線処理装置10及びベースバンド処理装置11を信号処理装置12に接続することによって、アダプティブアレイアンテナ方式で受信することが可能な基地局1を簡単に実現することができる。
また、本実施の形態に係るベースバンド信号生成部122では、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が補正されるように、CPが付加されたベースバンドの受信信号が生成されるため、ベースバンド処理装置11に対して、アレイアンテナ130で受信されたときから位相の変化が少ない受信信号を入力することができる。よって、ベースバンド処理装置11においては、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量の算出精度が向上する。その結果、基地局1は通信端末2の送信タイミングを精度良く制御することができる。
<実施の形態1の変形例>
<第1変形例>
本変形例に係るベースバンド信号生成部122では、入力される周波数領域の受信信号(受信複素信号列)の位相を変化させることによって、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化を補正する。以下に、本変形例に係るベースバンド信号生成部122の動作について詳細に説明する。
ベースバンド信号生成部122は、受信ウェイト処理部121から出力される受信複素信号列を構成する各受信複素信号の位相を、DFT処理部120での上述のCPはみ出し時間長α(図9参照)に基づいて変化させる。DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に生じる位相変化量は、CPはみ出し時間長αに依存することから、受信ウェイト処理部121から出力される各受信複素信号の位相をCPはみ出し時間長αに基づいて変化させることによって、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に生じる位相変化を補正することができる。ベースバンド信号生成部122は、ある受信複素信号の位相をCPはみ出し時間長αに基づいて変化させる場合には、当該受信複素信号に対応するサブキャリアの周期をTとすると、当該受信複素信号の位相を、IQ平面上において、(2π×α/T)ラジアンだけ反時計回りに回転させる。これにより、当該受信複素信号の位相は、アレイアンテナ130で受信されたときの位相に一致するようになり、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が補正される。
例えば、図9の右側のIQ平面上に示される受信複素信号が、受信ウェイト処理部121から出力される受信複素信号であるとすると、当該受信複素信号の位相を、(2π×α/T)ラジアンだけ反時計回りに回転させることによって、当該受信複素信号の位相は、図8の右側に示される、アレイアンテナ130で受信されたときの位相に一致するようになる。
ベースバンド信号生成部122は、受信複素信号列の位相を時間長αに基づいて補正すると、当該受信複素信号列に対してIDFT処理を行って、ベースバンドのOFDM信号を生成する。そして、ベースバンド信号生成部122は、CP付加部129と同様に、生成したベースバンドのOFDM信号に含まれる各OFDMシンボル(CPを含まないOFDMシンボル)について、当該OFDMシンボルの最後の部分をコピーして、それを当該OFDMシンボルの前にCPとして付加する。これにより、DFT処理部120でのDFT処理によって発生する位相変化が補正された、CPが付加されたベースバンドの受信信号が得られる。
なお、本変形例の場合には、受信複素信号列を構成する複数の受信複素信号のそれぞれの位相を個別に変化させる必要がある。一方で、図11を参照して説明した、CPを含むOFDM信号の生成方法では、各サブキャリアに対して個別に処理を行うではなく、OFDM信号全体に対して処理を行っている。したがって、本変形例よりも、図11を参照して説明した方法の方が、ベースバンド信号生成部122での処理が簡素化される。
<第2変形例>
信号処理装置12のDFT処理部125においても、DFT処理部120と同様に、入力されるOFDMシンボル(送信信号)に対して、当該OFDMシンボルの受信タイミングにずれが無いとした場合において当該OFDMシンボルに含まれるCPにかかるようなタイミングでDFT窓が設定される場合には、DFT処理部125でのDFT処理によって送信信号に位相変化が発生する。したがって、この場合には、ベースバンド信号生成部127が、ベースバンド信号生成部122と同様に、DFT処理部125でのDFT処理によって送信信号に発生する位相変化が補正されるように、CPが付加されたベースバンドの送信信号を生成しても良い。以下に、本変形例に係るベースバンド信号生成部127の動作について説明する。
ベースバンド信号生成部127は、送信ウェイト処理部126から出力される、複数のアンテナ13にそれぞれ対応する複数の送信信号のそれぞれについて、当該送信信号に対してIDFT処理を行う。そして、ベースバンド信号生成部127は、入力される各送信信号に関して、当該送信信号に対してIDFT処理を行って得られる各OFDMシンボル(CPを含まないOFDMシンボル)について、当該OFDMシンボルの最後の部分XのコピーX’を当該OFDMシンボルの前に付加するとともに、当該OFDMシンボルの最初の部分YのコピーY’を当該OFDMシンボルの後ろに付加することによって、CPが付加されたベースバンドの送信信号を生成する。
CPを含まないOFDMシンボルに対してそのコピーY’が付加される、当該OFDMシンボルの最初の部分Yの時間長yは、上記の式(1)で与えられる。ただし、この場合のCPはみ出し時間長αは、DFT処理部125がOFDMシンボルに対してDFT窓を設定する際に、当該DFT窓において、当該OFDMシンボルのCPにかかっている部分の時間長を示すことになる。そして、CPを含まないOFDMシンボルに対してそのコピーX’が付加される、当該OFDMシンボルの最後の部分Xの時間長xは上記の式(2)で与えられる。
時間長x,yをこのように設定することによって、システムにおいて定められている時間長を有するCP及び有効シンボルで構成されたOFDMシンボルであって、DFT処理部125でのDFT処理によって発生する位相変化が補正された送信用のOFDMシンボルを、ベースバンド信号生成部127において生成することができる。
なお、上記の第1変形例と同様に、ベースバンド信号生成部127は、入力される周波数領域の送信信号(送信複素信号列)の位相を変化させることによって、DFT処理部125でのDFT処理によって送信信号に発生する位相変化を補正しても良い。この場合には、ベースバンド信号生成部127は、送信ウェイト処理部126から出力される各送信複素信号列について、当該送信複素信号列を構成する各送信複素信号の位相を、DFT処理部125でのCPはみ出し時間長αに基づいて変化させる。ベースバンド信号生成部127は、ある送信複素信号の位相をCPはみ出し時間長αに基づいて変化させる場合には、当該送信複素信号に対応するサブキャリアの周期をTとすると、当該送信複素信号の位相を、IQ平面上において、(2π×α/T)ラジアンだけ反時計回りに回転させる。これにより、当該送信複素信号の位相は、ベースバンド処理装置11で生成されたときの位相に一致するようになり、DFT処理部125でのDFT処理によって送信信号に発生する位相変化が補正される。
ベースバンド信号生成部127は、各送信複素信号列の位相をCPはみ出し時間長αに基づいて補正すると、当該送信複素信号列に対してIDFT処理を行って、ベースバンドのOFDM信号を生成する。そして、ベースバンド信号生成部127は、上述のCP付加部129と同様に、生成したベースバンドのOFDM信号に含まれる各OFDMシンボル(CPを含んないOFDMシンボル)について、当該OFDMシンボルの最後の部分をコピーして、それを当該OFDMシンボルの前にCPとして付加する。これにより、DFT処理部125でのDFT処理によって発生する位相変化が補正された、CPが付加されたベースバンドの送信信号が得られる。
実施の形態2.
図12,13は実施の形態2に係る基地局1の信号処理装置12及びベースバンド処理装置11の構成をそれぞれ示す図である。本実施の形態に係る基地局1では、信号処理装置12でのDFT処理によって発生する受信信号の位相変化の補正を、ベースバンド処理装置11において行う。以下に、本実施の形態に係る基地局1について、上述の実施の形態1に係る基地局1との相違点を中心に説明する。
図12に示されるように、本実施の形態2に係る信号処理装置12は、実施の形態1に係る信号処理装置12において、ベースバンド信号生成部122の替りにベースバンド信号生成部322を設けて、位相変化情報生成部325をさらに設けたものである。
ベースバンド信号生成部322は、実施の形態1に係るベースバンド信号生成部122と異なり、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化を補正しない。ベースバンド信号生成部322は、IDFT処理部323及びCP付加部324を備えている。
IDFT処理部323は、受信ウェイト処理部121から出力される受信信号に対して、IDFT処理、より具体的にはIFFT処理を行う。これにより、IDFT処理部323では、入力された受信信号(受信複素信号列)を構成する複数の受信複素信号で変調された複数のサブキャリアが重畳されたベースバンドのOFDM信号が得られる。CP付加部324は、IDFT処理部323で生成されたベースバンドの受信信号に対して、シンボルごとにCPを付加する。CP付加部324は、CP付加部129と同様に、入力される、CPを含まないOFDMシンボルの最後の部分をコピーして、それを当該OFDMシンボルの前にCPとして付加する。これにより、ベースバンド信号生成部322では、CPが付加されたベースバンドの受信信号が生成されて、ベースバンド処理装置11に出力される。
このように、信号処理装置12においては、DFT処理によって受信信号に発生する位相変化が補正されていないことから、ベースバンド処理装置11に対しては、上述の図9に示されるような、位相変化が生じた受信信号が入力される。
位相変化情報生成部325は、DFT処理部120でのDFT処理によって受信信号に発生する位相変化を示す位相変化情報を生成する。位相変化情報生成部325では、DFT処理部120でのCPはみ出し時間長αに基づいて位相変化情報が生成される。この位相変化情報は、ベースバンド信号生成部322で生成された受信信号とともに、ベースバンド処理装置11に入力される。
本実施の形態に係るベースバンド処理装置11は、図13に示されるように、実施の形態1に係るベースバンド処理装置11において、DFT処理部110の替りにDFT処理部410を設けたものである。
DFT処理部410は、信号処理装置12から出力される、ベースバンドの受信信号に対してDFT処理、具体的にはFFT処理を行う。このとき、DFT処理部410は、信号処理装置12から出力される位相変化情報に基づいて、受信信号に発生している位相変化が補正されるようにDFT窓を設定する。これにより、DFT処理部410では、信号処理装置12で発生した位相変化が補正された受信複素信号列が得られる。この受信複素信号列は受信データ取得部113に入力される。
なお、アレイ非対応基地局200のように、信号処理装置12に無線処理装置10が直接接続される場合には、信号処理装置12を介して接続される場合に生じるような、受信信号の位相変化は生じないことから、DFT処理部410では、DFT窓がCPに意図的にかかるように設定される。ベースバンド処理装置11は、位相変化情報が入力されると、自身に信号処理装置12が接続されていると判断し、DFT処理部410が、当該位相変化情報に基づいてDFT窓を設定する。一方で、ベースバンド処理装置11は、位相変化情報が入力されない場合には、自身に信号処理装置12が接続されていないと判断し、つまり無線処理装置10が直接接続されていると判断し、DFT処理部410は、DFT窓を、CPはみ出し時間長αだけCPに意図的にかかるように設定する。
なお、信号処理装置12が、位相変化情報とは別に、自装置がベースバンド処理装置11に接続されたことを通知するための接続通知信号を出力できるようにしても良い。この場合には、ベースバンド処理装置11は、当該接続通知信号が入力されるか否かによって、信号処理装置12が接続されているか否かを判断する。
次に位相変化情報の生成方法の一例について説明する。図14は、位相変化情報の生成方法を説明するための図である。図14では、ベースバンド信号生成部322で生成されるベースバンドの受信信号に含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。また図14の右側では、左側に示される注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。
本実施の形態では、ベースバンド処理装置11のDFT処理部410において、受信信号に発生している位相変化が補正されるようなDFT窓の先頭位置(DFT処理の演算開始位置)がCPはみ出し時間長αに基づいて算出される。そして、当該DFT窓の先頭位置を示す情報が、当該位相変化を示す位相変化情報として用いられる。以後、DFT処理部410において、受信信号に発生している位相変化が補正されるようなDFT窓の先頭位置を「補正用DFT窓先頭位置」と呼ぶ。
補正用DFT窓先頭位置は、DFT処理部410において、ベースバンド処理装置11に無線処理装置10が直接接続される場合に使用されるDFT窓の先頭位置から、受信信号に発生する位相変化に応じた量であるCPはみ出し時間長αだけ後ろに設定される。本例では、DFT処理部410では、ベースバンド処理装置11に無線処理装置10が直接接続される場合には、DFT窓が、CPはみ出し時間長αだけCPに意図的にかかるように設定されることから、そのDFT窓の先頭の位置よりもはみ出し時間長αだけ後ろ、つまり、図14に示されるように、受信信号の受信タイミングにずれが無いとした場合の有効シンボルの先頭(CPの末尾)に設定される。位相変化情報生成部325は、このようにして決定された補正用DFT窓先頭位置を示す情報を位相変化情報として生成する。
図15はベースバンド処理装置11のDFT処理部410が受信信号に対してDFT処理を行う様子を示す図である。図15では、DFT処理部410に入力される受信信号(ベースバンド信号生成部322で生成されるベースバンドの受信信号)に含まれる注目サブキャリアのI成分及びQ成分が左側に示されている。また図15の右側では、左側に示される注目サブキャリアを含むOFDMシンボルに対してDFT処理部410でDFT処理が行われた結果、DFT処理部410で得られる当該注目サブキャリアを変調する受信複素信号がIQ平面上に示されている。図15では、ベースバンド処理装置11に信号処理装置12が接続された際のDFT処理部410でのDFT窓の範囲が実線で示されており、ベースバンド処理装置11に無線処理装置10が直接接続された際のDFT処理部410でのDFT窓の範囲が破線で示されている。
図15に示されるように、DFT処理部410でのDFT窓の先頭位置は、位相変化情報が示す補正用DFT窓先頭位置、つまり、受信信号の受信タイミングにずれが無いとした場合の有効シンボルの先頭に設定される。これにより、DFT処理部410から出力される受信信号では、信号処理装置12で発生した位相変化が補正されている。
なお、位相変化情報については、補正用DFT窓先頭位置を示す情報以外の情報を採用しても良い。例えば、信号処理装置12において受信信号に位相変化が生じないと仮定した場合の当該受信信号でのOFDMシンボルに含まれる有効シンボルの先頭の位置(以後、「本来の有効シンボルの先頭位置」と呼ぶ)を示す情報を、位相変化情報として採用しても良い。図14の左側に示されるOFDMシンボル、つまり、通信端末2からの信号の受信タイミングにずれが無い場合において、ベースバンド信号生成部322で生成されるベースバンドの受信信号に含まれるOFDMシンボルにおいては、その有効シンボルの先頭位置からCPはみ出し時間長αだけ後の位置が、本来の有効シンボルの先頭位置となる。
ベースバンド処理装置11のDFT処理部410は、位相変化情報が示す本来の有効シンボルの先頭位置に基づいて、受信信号に発生している位相変化が補正されるようにDFT窓を設定する。具体的には、DFT処理部410は、位相変化情報が示す本来の有効シンボルの先頭位置よりもCPはみ出し時間長αだけ前の位置に、DFT窓の先頭位置を設定する。これにより、DFT処理部410でのDFT窓の先頭位置は、図15に示されるように、受信信号の受信タイミングにずれが無いとした場合の有効シンボルの先頭に設定される。その結果、DFT処理部410から出力される受信信号では、信号処理装置12で発生した位相変化が補正されている。
以上のように、本実施の形態では、アレイ非対応基地局200で使用することが可能なベースバンド処理装置11を、信号処理装置12からの位相変化情報を入力できるようにし、そのDFT処理部410が当該位相変化情報に基づいてDFT窓の位置を調整できるようにすることによって、アレイ対応基地局1用のベースバンド処理装置11を実現できる。よって、簡単にアレイ対応基地局1を実現できる。
また、信号処理装置12のDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が、ベースバンド処理装置11において補正されるため、ベースバンド処理装置11において、アレイアンテナ130で受信されたときから位相の変化が少ない受信信号を得ることができる。そのため、ベースバンド処理装置11においては、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量の算出精度が向上する。その結果、基地局1は通信端末2の送信タイミングを精度良く制御することができる。
<実施の形態2の変形例>
上記のベースバンド処理装置11では、DFT処理部410が位相変化情報に基づいてDFT窓の位置を決定することによって、信号処理装置12において受信信号に発生した位相変化が補正されている。つまり、DFT処理部410が、信号処理装置12でのDFT処理によって受信信号に発生した位相変化を補正する位相変化補正部として機能している。
これに対して、本変形例に係るベースバンド処理装置11では、DFT処理部410から出力される受信信号の位相を位相変化情報に基づいて補正することによって、当該位相変化が補正される。以下に本変形例に係るベースバンド処理装置11について説明する。
図16は、本変形例に係るベースバンド処理装置11を示す図である。図16に示されるように、本変形例に係るベースバンド処理装置11は、実施の形態1に係るベースバンド処理装置11において、位相変化補正部500をさらに設けたものである。本変形例に係る位相変化情報は、DFT処理部120でのCPはみ出し時間長αを示すものとする。
位相変化補正部500は、DFT処理部110から出力される受信複素信号列を構成する各受信複素信号の位相を、位相変化情報が示すCPはみ出し時間長αに基づいて変化させる。位相変化補正部500は、上述の実施の形態1に係る第1変形例のベースバンド信号生成部122と同様に、各受信複素信号の位相を、当該受信複素信号に対応するサブキャリアの周期をTとすると、IQ平面上において、(2π×α/T)ラジアンだけ反時計回りに回転させる。これにより、信号処理装置12において受信信号に発生した位相変化が補正される。位相変化補正部500で補正された受信複素信号列は受信データ取得部113に入力される。ずれ量取得部115は、位相変化補正部500から出力される、位相補正済みの既知の受信複素信号に基づいて、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量を求める。
このように、本変形例においても、信号処理装置12のDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が、ベースバンド処理装置11において補正されるため、ベースバンド処理装置11において、アレイアンテナ130で受信されたときから位相の変化が少ない受信信号を得ることができる。そのため、ベースバンド処理装置11においては、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量の算出精度が向上する。その結果、基地局1は通信端末2の送信タイミングを精度良く制御することができる。
なお、本変形例に係るベースバンド処理装置11では、受信複素信号列を構成する複数の受信複素信号のそれぞれの位相を位相変化情報に基づいて個別に変化させることによって、信号処理装置12のDFT処理によって受信信号に発生する位相変化を補正している。一方で、上記の図13に示されるベースバンド処理装置11では、DFT処理部410でのDFT窓を位相変化情報に基づいて調整するだけで、信号処理装置12のDFT処理によって受信信号に発生する位相変化が補正される。したがって、本変形例よりも、図13の例のように、DFT処理部410でのDFT窓を調整する方が、位相変化の補正処理が簡素化される。
また、本変形例では、DFT処理部110から出力される受信複素信号列に含まれる複数の受信複素信号のすべての位相を位相変化情報に基づいて変化させているが、当該複数の受信複素信号のうち、ずれ量取得部115において受信タイミングのずれ量を算出する際に使用される既知の受信複素信号だけの位相を位相変化情報に基づいて変化させても良い。この場合には、DFT処理部110から出力される既知の受信複素信号を、位相変化補正部500において位相変化情報に基づいて変化させても良いし、位相変化補正部500を設けずに、ずれ量取得部115が、DFT処理部110から出力される既知の受信複素信号の位相を位相変化情報に基づいて変化させても良い。後者の場合には、ずれ量取得部115が位相変化補正部として機能する。ずれ量取得部115は、位相を変化させた既知の受信複素信号の位相と、当該既知の受信複素信号についての本来の位相との差に基づいて、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量を求める。これにより、通信端末2からの信号の受信タイミングのずれ量をより正確に求めることができる。
<実施の形態1,2及びそれらの変形例に共通の変形例>
上記の例では、信号処理装置12とベースバンド処理装置11とは別の筐体に収納されていたが、信号処理装置12とベースバンド処理装置11とを同じ筐体に収納しても良い。例えば、既存のアレイ非対応基地局200のベースバンド処理装置11の筐体に、信号処理装置12を配置できるスペースがある場合には、当該スペースに信号処理装置12を配置して、アレイ対応基地局1を実現しても良い。
また、無線処理装置10と、信号処理装置12と、ベースバンド処理装置11とを同じ筐体に収納しても良い。例えば、既存のアレイ非対応基地局200において、無線処理装置10とベースバンド処理装置11とが同じ筐体に収納されており、当該筐体に、信号処理装置12を配置できるスペースがある場合には、当該スペースに信号処理装置12を配置して、アレイ対応基地局1を実現しても良い。
また上記の例では、本願発明を基地局に適用する場合について説明したが、本願発明は基地局以外の無線通信装置にも適用することができる。