以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
まず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1およびその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジン1の燃焼室3およびその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、機関燃料通路27等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23,23,…に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力する。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73が接続されている。また、この排気通路には排気浄化ユニット77が配設されている。この排気浄化ユニット77には、NOx吸蔵還元型触媒としてのNSR触媒(排気浄化触媒)75、および、排気浄化フィルタとしてのDPF76が備えられている。なお、排気浄化ユニット77としてDPNR触媒を適用してもよい。
なお、本実施形態における排気浄化ユニット77は、エンジンコンパートメント内に配設されている。このため、後述するように排気浄化ユニット77での蓄熱量が比較的多い状態において車両が停車し且つエンジン1が停止した場合には、排気浄化ユニット77での蓄熱がエンジンコンパートメント内に放射されて、このエンジンコンパートメント内の温度が上昇しやすい状況になる。
上記NSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによって更に還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記インジェクタ23からの燃料噴射動作(後述するポスト噴射)やスロットルバルブ62の開度制御によって行うようになっている。
また、DPF76は、例えば多孔質セラミック構造体で成り、排気ガスが多孔質の壁を通過する際に、この排気ガス中に含まれるPM(粒子状物質)を捕集するようになっている。また、このDPF76には、DPF再生処理時に、上記捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3およびその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部に取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
上記ピストン13は、コネクティングロッド18によってエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、上記吸気ポート15aおよび上記排気ポート71がそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16および排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射する。
さらに、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52およびコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路8を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。A/F(空燃比)センサ44a,44bは、NSR触媒75の上流側および下流側にそれぞれ配設され、排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。なお、A/Fセンサの配設位置としては、NSR触媒75の上流側のみであってもよいし、NSR触媒75の下流側のみであってもよい。つまり、A/Fセンサは、排気ガスの空燃比が検出または推定できるものであればよい。排気温センサ45a,45bは、同じくNSR触媒75の上流側および下流側にそれぞれ配設され、排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。なお、排気温センサの配設位置も、NSR触媒75の上流側のみであってもよいし、NSR触媒75の下流側のみであってもよい。つまり、排気温センサは、排気ガスの温度が検出または推定できるものであればよい。また、差圧センサ(差圧トランスデューサ)4Aは、上記DPF76の上流側(エンジン1側)と下流側との圧力差を検出する。この差圧センサ4Aからの差圧信号に基づいてDPF76でのPM捕集量を求めることが可能である。具体的には、上記差圧が高くなるほどPM捕集量が多いと判断される。
−ECU−
ECU100は、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータと入出力回路とを備えている。図3に示すように、ECU100の入力回路には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44a,44b、排気温センサ45a,45b、吸気圧センサ48、吸気温センサ49、差圧センサ4Aが接続されている。さらに、入力回路には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40、車両の走行速度を検出する車速センサ4Bなどが接続されている。
一方、ECU100の出力回路には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、スロットルバルブ62、EGRバルブ81、および、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構(可変ノズルベーンの開度を調整するアクチュエータ)54が接続されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、上記ROMに記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転速度、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えば、エンジン回転速度(クランクポジションセンサ40の出力信号に基づいて算出されるエンジン回転速度;エンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られ、それに応じてメイン噴射での燃料噴射量としても多く設定されることになる。
具体的な燃料噴射形態の一例としては、ピストン13が圧縮上死点に達する前に上記パイロット噴射(インジェクタ23に形成された複数の噴孔からの燃料噴射)が実行され、燃料噴射が一旦停止された後、所定のインターバルを経て、ピストン13が圧縮上死点近傍に達した時点で上記メイン噴射が実行されることになる。これにより燃料が自己着火によって燃焼し、この燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げるための運動エネルギ(エンジン出力となるエネルギ)、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、および、エンジン回転速度(機関回転速度)が高くなるほど高いものとされる。この目標レール圧は例えば上記ROMに記憶された燃圧設定マップに従って設定される。なお、本実施形態では、エンジン負荷等に応じて燃料圧力が30MPa〜200MPaの間で調整されるようになっている。
また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量および燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度およびアクセル開度に基づいて総燃料噴射量(パイロット噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)を決定する。
なお、上述したパイロット噴射およびメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。これらの噴射の機能は周知である。特に、ポスト噴射は、後述するDPF再生処理において排気ガスの昇温等を行う。また、このポスト噴射は、NOx還元処理やS被毒回復制御にも利用される。
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、予め実験やシミュレーション等によって作成されて上記ROMに記憶されたEGRマップに従って設定される。このEGRマップは、エンジン回転速度およびエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。
次に、上記排気浄化ユニット77に対する各種処理動作について説明する。この処理動作としては、NOx還元処理、S被毒回復制御、および、本実施形態の特徴とする動作であるDPF再生処理がある。以下、これら各種処理動作について順に説明する。
−NOx還元処理−
一般に、ディーゼルエンジン1では、燃焼室3内で燃焼に供される燃料と空気との混合気の酸素濃度が、ほとんどの運転領域で高濃度状態にある。燃焼に供される混合気の酸素濃度は、燃焼に供された酸素を差し引いてそのまま排気中の酸素濃度に反映されるのが通常であり、混合気中の酸素濃度(空燃比:燃焼A/F)が高ければ、排気中の酸素濃度(空燃比:排気A/F)も基本的には同様に高くなる。一方、上述したように、NSR触媒75は排気中の酸素濃度が高ければNOxを吸蔵し、酸素濃度が低ければNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する特性を有するため、排気中の酸素が高濃度状態にある限りNOxを吸蔵することとなる。ただし、NSR触媒75のNOx吸蔵量には限界量が存在し、このNSR触媒75が限界量のNOxを吸蔵した状態では、排気中のNOxがNSR触媒75に吸蔵されず触媒ケーシングを素通りすることとなる。
そこで、上記ECU100は、インジェクタ23によるポスト噴射を実行し、これにより、一時的に排気中の酸素濃度を低減し、かつ還元成分(HC等)の量を増大させるようにしている。これによりNSR触媒75は、吸蔵していたNOxをNO2若しくはNOに還元して放出し、自身のNOx吸蔵能力を回復(再生)するようになる。
なお、NSR触媒75の内部に吸蔵されているNOx量の推定動作としては、エンジン回転速度や各気筒内への燃料噴射量の履歴情報に基づいて総NOx生成量を認識することにより行われる。そして、その推定NOx量が、予め設定しておいた所定値(NSR触媒75のNOx吸蔵能力が飽和する前の適宜値)を越えたときに、上記ポスト噴射の実行によるNOx還元処理を行って上述した如くNSR触媒75のNOx吸蔵能力を回復(再生)させる。
−S被毒回復制御−
上述した如く、NSR触媒75に流入する排気の空燃比をスパイク的に目標リッチ空燃比とすることで、このNSR触媒75に保持されたNOxを還元することが可能となっている。しかし、NSR触媒75では、NOxを保持する場合と同様のメカニズムでSOxの吸収が生じており、一旦保持されたSOxはNOxよりも離脱し難く、酸素濃度が低下した還元雰囲気でNOxの放出が行われてもSOxは離脱せずに、次第にNSR触媒75内に蓄積されていく。このような硫黄被毒(S被毒)は、NSR触媒75のNOx浄化率を低下させる原因となる。
NSR触媒75のS被毒を解消する方法としては、NSR触媒75の雰囲気温度をおよそ600℃〜700℃の高温域まで昇温させるとともに、NSR触媒75に流入する排気の酸素濃度を低くすることにより、NSR触媒75に吸収されている硫酸バリウム(BaSO4)をSO3 -やSO4 -に熱分解し、次いでSO3 -やSO4 -を排気中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)と反応させて気体状のSO2 -に還元する方法が挙げられる。
本実施形態では、上述したポスト噴射の実行およびスロットルバルブ62の開度制御により、未燃燃料成分をNSR触媒75において酸化させ、酸化の際に発生する熱によってNSR触媒75の床温を高めるようにするとともに、排気A/FをリッチにすることでS被毒の解消を図るようにしている。
−DPF再生処理−
上記ECU100は、PMがDPF76に捕集されている状態をDPF76の前後の差圧を検出することにより検知している。詳しくは、排気ガス中のPMを取り除くための多孔質セラミック構造体から構成されるDPF76の上流側(エンジン1側)と下流側との圧力差を上記差圧センサ4Aによって検出し、この差圧センサ4Aからの差圧信号に基づいて、演算または上記ECU100に記憶したマップによりDPF76でのPM捕集量を求めるようにしている。具体的には、上記差圧が大きくなるほどPM捕集量が多いと判断される。
DPF再生処理の基本動作としては、DPF76に堆積しているPMの堆積量が、PMを除去する必要があると判定される閾値である規定量以上となった場合(上記差圧の値が所定値以上となった場合)に、インジェクタ23のポスト噴射を実行する。これによって、排気管73に供給された燃料等の還元剤は、NSR触媒75で酸化反応する。DPF76はそのときの酸化熱によって昇温され(例えば650℃程度に昇温され)、DPF76に捕集されたPMを燃焼させて除去できる。具体的には、上記パイロット噴射およびメイン噴射の実行後に近接ポスト噴射を実行する。この近接ポスト噴射によって排気ガスの温度が所定温度まで上昇した後に、遅角側のポスト噴射であるレイトポスト噴射を実行する。これにより、更に排気ガスの温度が上昇して、DPF76に堆積しているPMを酸化(燃焼)させて除去できる。なお、上記近接ポスト噴射は、例えばピストン13の圧縮上死点後30°で開始される。また、上記レイトポスト噴射は、例えばピストン13の圧縮上死点後100°で開始される。これら近接ポスト噴射およびレイトポスト噴射の噴射タイミングは上述したものには限定されず適宜設定される。
また、このDPF再生処理中にあっては、上記排気温センサ45a,45bによって検出される排気ガス温度、エアフローメータ43によって検出される吸入空気量、DPF再生処理の実行時間をパラメータとしてPMの除去量を算出し、このPMの除去量が所定量に達した時点でDPF再生処理を終了するようになっている。つまり、上記各ポスト噴射を終了し、通常の燃料噴射制御に復帰させる。
(DPF再生処理制限制御)
次に、本実施形態の特徴とする制御であるDPF再生処理制限制御について説明する。このDPF再生処理制限制御は、DPF76におけるPM堆積量、および、エンジンコンパートメント内の温度に相関のある値(後述する温度推定カウンタ)それぞれにおいて所定条件が成立した場合に、DPF再生処理を制限(禁止)するものである。
まず、このDPF再生処理制限制御の概略を説明する。車両のエンジンコンパートメント内に収容されている各種部品の中には耐熱性が比較的低い部品が存在している。例えば合成樹脂材料によって成形された部品である。そして、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況において、その雰囲気温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまうことは好ましくない。
このエンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況としては、車両の低車速登坂走行時であって上記フィルタ再生処理が行われている状態から、車両が停車し且つエンジン1が停止した場合が挙げられる。そして、このような状況にあっては、エンジンコンパートメント内の温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況を、後述する温度推定カウンタのカウント値によって推測し、この温度推定カウンタのカウント値が所定値以上であって且つDPF76におけるPM堆積量が所定範囲にある場合には、DPF再生処理を制限し(DPF再生処理を禁止し)、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況を回避することで、その後に、車両が停車し且つエンジン1が停止したとしても、エンジンコンパートメント内の温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまうことがないようにしている(本発明でいう昇温抑制制御)。また、このようにDPF再生処理を制限している状況であっても、DPF76におけるPM堆積量が所定の許容限界値に達した場合には、強制的にDPF再生処理を実行するようにしている。つまり、上記昇温抑制制御よりもフィルタ再生処理を優先して実行するようにしている。以下、具体的に説明する。
このDPF再生処理制限制御としては、低車速登坂判定動作、温度推定カウンタのカウント動作、DPF再生処理制限動作が行われる。
上記低車速登坂判定動作は、車両の走行状況として、低車速であって且つ登坂路を走行している状況にあるか否かを判定する。つまり、エンジンコンパートメント内に流入する走行風が少ないために外部への放熱量が少ない状況であって且つエンジン1に要求されるトルクが高いために燃焼室3内での発熱量が多くなっている状況にあるか否かを判定する。
上記温度推定カウンタのカウント動作は、エンジンコンパートメント内の温度を推定するための動作であって、そのエンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況にあっては温度推定カウンタのカウント値を増加(インクリメント)していく。具体的には、上記低車速登坂走行を行っており且つDPF再生処理が実行されている場合に、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況にあるとして温度推定カウンタのカウント値を増加していく。また、上記低車速登坂走行ではない場合や、DPF再生処理が実行されていない場合には、温度推定カウンタのカウント値は減算される。
上記DPF再生処理制限動作は、上記温度推定カウンタのカウント値が所定値に達したことで、エンジンコンパートメント内の温度が所定温度にあると推定された場合には、DPF76におけるPM堆積量が許容上限値(許容上限堆積量)未満の所定範囲内にある場合に限り、DPF再生処理を禁止するようにしている。
以下、それぞれの動作についてフローチャートに沿って説明する。
<低車速登坂判定動作>
図4および図5は、上記低車速登坂判定動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)がONされた後、所定時間毎に実行される。
まず、ステップST1では、現在のインジェクタ23に対する燃料指示噴射量(ECU100からの噴射量指令値)が所定量INJ1を超えているか否かを判定する。この所定量INJ1は、車両が所定勾配以上の登坂路を走行する場合に必要となるトルクを得るための値として、予め実験やシミュレーションに基づいて設定されている。また、燃料指示噴射量は、上述した如く、エンジン回転速度、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるようにECU100において決定される。
上記燃料指示噴射量が所定量INJ1以下であり、ステップST1でNO判定された場合には、後述するステップST10(図5)以降の動作に移る。
上記燃料指示噴射量が所定量INJ1を超えており、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、上記ECU100に予め備えられている第1タイマをONし、この第1タイマのカウントを開始する。この第1タイマは例えば5secでタイムアップするものである。この時間はこれに限定されるものではなく、任意に設定が可能である。
その後、ステップST3に移り、上記インジェクタ23に対する燃料指示噴射量が上記所定量INJ1以下となったか否かを判定する。
上記燃料指示噴射量が上記所定量INJ1以下となることなく(上記所定量INJ1を超えた燃料指示噴射量が維持されて)ステップST3でNO判定された場合にはステップST4に移り、上記第1タイマがタイムアップしたか否かを判定する。つまり、上記所定量INJ1を超えた燃料指示噴射量が所定時間(5sec)維持されたか否かを判定する。
上記所定時間が未だ経過しておらず、ステップST4でNO判定された場合には、ステップST3に戻り、上記インジェクタ23に対する燃料指示噴射量が上記所定量INJ1以下となったか否かを再び判定する。
そして、燃料指示噴射量が上記所定量INJ1以下となることなく、上記所定時間が経過して上記第1タイマがタイムアップすると、ステップST4でYES判定されて後述するステップST5に移る。
一方、上記所定時間が経過するまでに(上記第1タイマがタイムアップするまでに)燃料指示噴射量が上記所定量INJ1以下になると、ステップST3でYES判定されて、後述するステップST10以降の動作に移る。
上記ステップST5では、現在の路面の登り勾配が所定勾配SL1を超えているか否かを判定する。この所定勾配SL1は任意の値に設定可能である。また、路面の登り勾配は、車両の加速度およびインジェクタ23からの燃料指示噴射量をパラメータとして、上記ECU100のROMに記憶された演算式により算出される。また、Gセンサによって路面の登り勾配を求めるようにしてもよい。
上記路面の登り勾配が所定勾配SL1を超えており、ステップST5でYES判定された場合にはステップST6に移る。一方、上記路面の登り勾配が所定勾配SL1以下であり、ステップST5でNO判定された場合には後述するステップST10以降の動作に移る。
上記ステップST6では、現在の車速が所定車速V1未満であるか否かを判定する。この所定車速V1は、走行風がエンジンコンパートメント内に十分に流れ込むことができない(エンジンコンパートメント内の熱を十分に放出することができない)程度の値であって任意の値または予め実験やシミュレーションによって求められた値として設定されている。また、車速は、上記車速センサ4Bによって検出される。
上記車速が所定車速V1未満であり、ステップST6でYES判定された場合にはステップST7に移る。一方、上記車速が所定車速V1以上であり、ステップST6でNO判定された場合には後述するステップST10以降の動作に移る。
上記ステップST7では、現在の吸気温度が所定吸気温度Tha1を超えているか否かを判定する。この所定吸気温度Tha1は任意の値に設定可能である。また、吸気温度は、上記吸気温センサ49によって検出される。
上記吸気温度が所定吸気温度Tha1を超えており、ステップST7でYES判定された場合にはステップST8に移る。一方、上記吸気温度が所定吸気温度Tha1以下であり、ステップST7でNO判定された場合には後述するステップST10以降の動作に移る。
上記ステップST8では、現在の冷却水温度が所定冷却水温度Thw1を超えているか否かを判定する。この所定冷却水温度Thw1は任意の値に設定可能である。また、冷却水温度は、上記水温センサ46によって検出される。
上記冷却水温度が所定冷却水温度Thw1を超えており、ステップST8でYES判定された場合には、ステップST9に移り、上記ECU100に記憶されている低車速登坂フラグをONに設定する。
一方、上記冷却水温度が所定冷却水温度Thw1以下であり、ステップST8でNO判定された場合には後述するステップST10以降の動作に移る。
このように、ステップST1〜ST9の動作では、上記燃料指示噴射量が所定量INJ1を超えた状態が所定時間継続したこと、路面の登り勾配が所定勾配SL1を超えていること、車速が所定車速V1未満であること、吸気温度が所定吸気温度Tha1を超えていること、冷却水温度が所定冷却水温度Thw1を超えていることの全ての条件(AND条件)が成立した場合に、ステップST9において低車速登坂フラグがONに設定されることになる。つまり、車両の状態、エンジン1の駆動状態、環境条件として、エンジンコンパートメント内の温度が上昇しやすい状況である場合に低車速登坂フラグはONに設定される。
次に、上記ステップST1,ST5,ST6,ST7,ST8の何れかでNO判定された場合、または、上記ステップST3でYES判定された場合におけるステップST10以降の動作について説明する。
ステップST10(図5)では、現在の路面の登り勾配が所定勾配SL2未満であるか否かを判定する。この所定勾配SL2は任意の値に設定可能であり、上記ステップST5における所定勾配SL1よりも小さい値、または、この所定勾配SL1と同一の値に設定される。
上記路面の登り勾配が所定勾配SL2未満であり、ステップST10でYES判定された場合には、ステップST16に移り、低車速登坂フラグをOFFに設定する。
一方、上記路面の登り勾配が所定勾配SL2以上であり、ステップST10でNO判定された場合には、ステップST11に移り、現在の車速が所定車速V2を超えているか否かを判定する。この所定車速V2は、走行風がエンジンコンパートメント内に十分に流れ込むことができる(エンジンコンパートメント内の熱を十分に放出することができる)程度の値であって任意の値または予め実験やシミュレーションによって求められた値であり、上記ステップST6における車速V1よりも高い値、または、この車速V1と同一の値に設定される。
上記車速が所定車速V2を超えており、ステップST11でYES判定された場合には、ステップST16に移り、低車速登坂フラグをOFFに設定する。
一方、上記車速が所定車速V2未満であり、ステップST11でNO判定された場合には、ステップST12に移り、現在のインジェクタ23に対する燃料指示噴射量が所定量INJ2未満であるか否かを判定する。この所定量INJ2は、車両が登坂路を走行する場合に必要となるトルクを得るための値よりも小さい値として、予め実験やシミュレーションによって設定されている。また、燃料指示噴射量は上述した如く、エンジン回転速度、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。
上記燃料指示噴射量が所定量INJ2以上であり、ステップST12でNO判定された場合には、そのままリターンされる。
上記燃料指示噴射量が所定量INJ2未満であり、ステップST12でYES判定された場合には、ステップST13に移り、上記ECU100に予め備えられている第2タイマをONし、この第2タイマのカウントを開始する。この第2タイマは上記第1タイマと同様に、例えば5secでタイムアップするものである。この時間はこれに限定されるものではなく、任意に設定が可能である。
その後、ステップST14に移り、上記インジェクタ23に対する燃料指示噴射量が上記所定量INJ2以上となったか否かを判定する。
上記燃料指示噴射量が上記所定量INJ2以上となることなく(上記所定量INJ2未満の燃料指示噴射量が維持されて)ステップST14でNO判定された場合にはステップST15に移り、上記第2タイマがタイムアップしたか否かを判定する。つまり、上記所定量INJ2未満の燃料指示噴射量が所定時間(5sec)維持されたか否かを判定する。
上記所定時間が未だ経過しておらず、ステップST15でNO判定された場合には、ステップST14に戻り、上記インジェクタ23に対する燃料指示噴射量が上記所定量INJ2以上となったか否かを再び判定する。
そして、燃料指示噴射量が上記所定量INJ2以上となることなく、上記所定時間が経過して上記第2タイマがタイムアップすると、ステップST15でYES判定されてステップST16に移り、低車速登坂フラグをOFFに設定する。
一方、上記所定時間が経過するまでに(上記第2タイマがタイムアップするまでに)燃料指示噴射量が上記所定量INJ2以上になると、ステップST14でYES判定されて、低車速登坂フラグがOFFに設定されることなくリターンされる。
このように、ステップST10〜ST16の動作では、路面の登り勾配が所定勾配SL2未満であること、車速が所定車速V2を超えていること、上記燃料指示噴射量が所定量INJ2未満である状態が所定時間継続したことの何れかの条件(OR条件)が成立した場合に、ステップST16において低車速登坂フラグがOFFに設定されることになる。つまり、車両の状態およびエンジン1の駆動状態として、エンジンコンパートメント内の温度が上昇しにくい状況である場合に低車速登坂フラグはOFFに設定される。
以上のルーチンが繰り返されることにより、車両の走行状況として、低車速であって且つ登坂路を走行している状況にあるか否かを判定する低車速登坂判定動作が行われ、低車速登坂走行状態であると判定された場合には低車速登坂フラグがONに設定される一方、低車速登坂走行状態ではないと判定された場合には低車速登坂フラグがOFFに設定されることになる。
<温度推定カウンタのカウント動作>
次に、温度推定カウンタのカウント動作について説明する。
図6は、上記温度推定カウンタのカウント動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)がONされた後、所定時間毎(例えば1sec毎)に実行される。また、この温度推定カウンタのカウント動作は、上述した低車速登坂判定動作と同時並行される。
まず、ステップST21では、上記低車速登坂判定動作において設定されている低車速登坂フラグ情報を読み込み、この低車速登坂フラグがONとなっているか否かを判定する。つまり、現在の車両の走行状況として、低車速であって且つ登坂路を走行している状況(エンジンコンパートメント内の温度が上昇しやすい状況)にあるか否かを判定する。
上記低車速登坂フラグがONとなっており、ステップST21でYES判定された場合には、ステップST22に移り、現在、DPF再生処理の実行中であるか否かを判定する。この判定は、上記ECU100からのDPF再生処理指令信号の認識、または、上述した排気ガス温度上昇のための燃料噴射(ポスト噴射)が実行されているか否かの判定により行われる。
DPF再生処理の実行中であって、ステップST22でYES判定された場合には、ステップST23に移り、上記ECU100に予め備えられている温度推定カウンタのカウント値が上限値に達しているか否かを判定する。この温度推定カウンタは、上述した如く、エンジンコンパートメント内の温度の推定に利用されるものであって、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況にあるほど、または、エンジンコンパートメント内の温度の上昇が見込まれる状況にあるほど、そのカウント値としては大きくなるものである。従って、エンジンの始動時などであってエンジンコンパートメント内の温度が低い場合には、この温度推定カウンタのカウント値は「0」となっている。また、そのカウント値の上限値としては例えば「200」に設定されている。この値はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
温度推定カウンタのカウント値が上限値に達しておらず、ステップST23でNO判定された場合には、ステップST24において、そのカウント値が「1」だけカウントアップ(インクリメント)され、リターンされる。
一方、温度推定カウンタのカウント値が上限値に達しており、ステップST23でYES判定された場合には、温度推定カウンタのカウント値をカウントアップすることなく、そのままリターンされる。
このようにして、低車速登坂フラグがONとなっており、且つDPF再生処理の実行中である場合には、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する状況にある(現在の運転状態が継続された場合に、車両が停車し且つエンジン1が停止すると、エンジンコンパートメント内の温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまう可能性がある)として、上記温度推定カウンタのカウント値がカウントアップされていく。
一方、上記低車速登坂フラグがOFFとなっており、ステップST21でNO判定された場合には、ステップST25に移り、上記温度推定カウンタのカウント値は下限値である「0」となっているか否かを判定する。
温度推定カウンタのカウント値が「0」ではなく、ステップST25でNO判定された場合には、ステップST26において、そのカウント値が「1」だけカウントダウンされ、リターンされる。
一方、温度推定カウンタのカウント値が「0」となっており、ステップST25でYES判定された場合には、温度推定カウンタのカウント値をカウントダウンすることなく、そのままリターンされる。
また、仮に上記低車速登坂フラグがONとなっていたとしても(ステップST21でYES判定されても)、DPF再生処理の実行中でない場合にはステップST22でNO判定されることになり、この場合にも、上述したステップST25以降の動作に移る。つまり、ステップST25において、上記温度推定カウンタのカウント値は下限値である「0」となっているか否かを判定し、温度推定カウンタのカウント値が「0」ではなく、ステップST25でNO判定された場合には、ステップST26において、そのカウント値が「1」だけカウントダウンされ、リターンされる。一方、温度推定カウンタのカウント値が「0」となっており、ステップST25でYES判定された場合には、温度推定カウンタのカウント値をカウントダウンすることなく、そのままリターンされる。
このようにして、低車速登坂フラグがOFFとなっているか、または、DPF再生処理の実行中でない(非実行中である)場合には、エンジンコンパートメント内の温度は上昇しないか、または、上昇量は比較的少ないとして、温度推定カウンタのカウント値が「0」となっていないことを条件に、温度推定カウンタのカウント値がカウントダウンされていく。
以上のルーチンが繰り返されることにより、低車速登坂フラグの状態およびDPF再生処理の実行状態に応じて温度推定カウンタのカウント値が変更される温度推定カウンタのカウント動作が行われる。
<DPF再生処理制限動作>
次に、DPF再生処理制限動作について説明する。
図7は、上記DPF再生処理制限動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)がONされた後、所定時間毎に実行される。また、このDPF再生処理制限動作は、上述した低車速登坂判定動作および温度推定カウンタのカウント動作と同時並行される。
まず、ステップST31では、上記DPF76におけるPM堆積量が許容上限値である第2基準量以上となっているか否かを判定する。この第2基準量は、予め実験やシミュレーションに基づいて設定されており、大気圧に応じて変更される。具体的には、次回のDPF再生処理の実行時においてDPF76内部での温度勾配(DPF76の内部における単位長さ当たりの温度差であって、この温度勾配が所定値以上であると、DPF再生処理の実行時にDPF76にクラックが発生する可能性がある)が所定量以上とならないように第2基準量は設定される。また、大気圧が低いほど空気密度が低いため、排気系に空気が流れることによるDPF76の冷却効果が小さくなるので、大気圧が低いほどDPF76の温度は高くなりやすい。このため、大気圧が低いほど第2基準量は低く設定されることになる。
上記DPF76におけるPM堆積量が第2基準量未満であり、ステップST31でNO判定された場合には、ステップST32に移り、上記ECU100に予め備えられている第3タイマがカウント中であるか(過去に実行されたルーチンにおいてステップST38で第3タイマのカウントが開始され、そのカウントが継続中であるか)否かを判定する。
第3タイマがカウント中ではなく、ステップST32でNO判定された場合には、ステップST33に移り、上記温度推定カウンタのカウント動作においてカウントされている温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であるか否かを判定する。この所定値Bは任意の値であって例えば「100」に設定される。この値はこれに限定されるものではない。
温度推定カウンタのカウント値が所定値B未満、つまり、エンジンコンパートメント内の温度は未だ低い場合であって、ステップST33でNO判定された場合には、ステップST34に移り、上記DPF76におけるPM堆積量が第1基準量以上となっているか否かを判定する。この第1基準量は、上記第2基準量よりも小さい値に設定されている。具体的には、この第1基準量も、予め実験やシミュレーションに基づいて設定されており、大気圧に応じて変更される。
DPF76におけるPM堆積量が第1基準量未満である場合には、ステップST34でNO判定され、ステップST35に移ってDPF再生処理を非実行とする。つまり、DPF76におけるPM堆積量としては、未だDPF再生処理を必要とする量には達していないとしてDPF再生処理を非実行とする。
一方、DPF76におけるPM堆積量が第1基準量以上となっている場合には、ステップST34でYES判定され、ステップST40に移ってDPF再生処理を実行する。つまり、温度推定カウンタのカウント値が所定値B未満である場合には、仮にDPF再生処理を実行したとしても、エンジンコンパートメント内の温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまうことはないため、このDPF再生処理を許可する。
このようにしてDPF再生処理が実行された後、DPF76におけるPM堆積量が第1基準量未満にまで減少すると、ステップST34でNO判定され、ステップST35に移ってDPF再生処理を終了することになる。
一方、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上になっている場合には、ステップST33でYES判定されてステップST36に移り、上記DPF76におけるPM堆積量が上記第1基準量以上で且つ上記第2基準量未満の範囲内(第1基準量≦PM堆積量<第2基準量)にあるか否かを判定する。
ここで、上記DPF76におけるPM堆積量が上記範囲内にない場合、つまり、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であるがDPF76におけるPM堆積量が第1基準量未満である場合(上記ステップST31でNO判定されているため、DPF76におけるPM堆積量は第2基準量以上ではない)、ステップST35に移り、DPF再生処理を非実行とする。つまり、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であっても、DPF76におけるPM堆積量としては、未だDPF再生処理を必要とする量には達していないとしてDPF再生処理を非実行とする。
一方、上記DPF76におけるPM堆積量が上記範囲内にあり、ステップST36でYES判定された場合、つまり、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であり、且つDPF76におけるPM堆積量が上記範囲内(第1基準量≦PM堆積量<第2基準量)にある場合には、ステップST37に移り、DPF再生処理を禁止(非実行)する。つまり、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であることで、エンジンコンパートメント内の温度が上昇しやすい状況にあり、このような状況でDPF再生処理を実行すると、その後に車両が停車し且つエンジン1が停止した場合に、エンジンコンパートメント内の温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまう可能性があるとして、DPF再生処理を禁止する。
このようにしてDPF再生処理を禁止した後、ステップST38に移り、上記ECU100に予め備えられている第3タイマをONし、この第3タイマのカウントを開始する。この第3タイマは例えば600secでタイムアップするものである。この時間はこれに限定されるものではなく、任意に設定が可能である。
ただし、この第3タイマは、そのタイムアップまでの間に上記温度推定カウンタのカウント値が「0」若しくは「0」に近い値まで減算されるだけの時間を確保する値として設定する必要がある。つまり、ステップST37においてDPF再生処理が禁止されると、上記温度推定カウンタのカウント動作(図6のフローチャート)において、温度推定カウンタのカウント値はカウントダウンされていくため(ステップST25)、一旦、上記所定値Bまで上昇した温度推定カウンタのカウント値が「0」若しくは「0」に近い値まで減算されるだけの時間を確保するように第3タイマは設定されている。
第3タイマがONされた後、ステップST39に移り、上記第3タイマがタイムアップしたか否かを判定する。つまり、DPF再生処理が禁止された状態が所定時間維持されたか否かを判定する。
上記所定時間が未だ経過しておらず、ステップST39でNO判定された場合にはリターンされる。この場合、次回のルーチンでは、ステップST32でYES判定されることになり(PM堆積量が第2基準量に達していない場合)、ステップST33およびステップST36の判定を行うことなく、DPF再生処理を禁止した状態で、第3タイマがタイムアップするのを待つことになる。
このような状態(DPF再生処理が禁止された状態)が継続され、上記所定時間が経過して上記第3タイマがタイムアップすると、ステップST39でYES判定されてステップST40に移り、DPF再生処理を実行する。つまり、DPF76におけるPM堆積量が上記第1基準量以上となっている状態が継続されることを解消するべく、DPF再生処理が実行されることになる。
このようにしてDPF再生処理が実行された場合、上記温度推定カウンタのカウント値は所定値B未満となっているため、ステップST33ではNO判定されることになり、上述したステップST34以降の動作によって、DPF76におけるPM堆積量が第1基準量未満となるまでDPF再生処理が継続されることになる。
一方、上記DPF76におけるPM堆積量が第2基準量以上となり、ステップST31でYES判定された場合には、ステップST41に移り、DPF再生処理が強制的に開始される。つまり、温度推定カウンタのカウント値に関わりなく、DPF再生処理が実行される。
その後、ステップST42に移り、DPF再生処理におけるPM燃焼量(PM除去量)が所定量A(本発明でいうフィルタ再生処理終了量)以上となったか否かを判定する。この所定量Aは任意の値が設定可能である。また、DPF再生処理におけるPM燃焼量は、上述した如く、上記排気温センサ45a,45bによって検出される排気ガス温度、エアフローメータ43によって検出される吸入空気量、DPF再生処理の実行時間をパラメータとして算出される。
そして、このDPF再生処理におけるPM燃焼量が所定量A以上に達するのを待ち、このPM燃焼量が所定量A以上に達すると、ステップST42でYES判定され、ステップST43においてDPF再生処理が終了する。
以上のDPF再生処理制限動作が繰り返され、上記温度推定カウンタのカウント値およびDPF76におけるPM堆積量に応じてDPF再生処理が実行されることになる。
以上説明したように、本実施形態では、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であって、DPF76におけるPM堆積量が上記範囲内(第1基準量≦PM堆積量<第2基準量)にある場合には、DPF再生処理を禁止(非実行)するようにしている。つまり、エンジンコンパートメント内の温度が上昇しやすい状況にあっては、その後に車両が停車し且つエンジン1が停止した際に、エンジンコンパートメント内の温度が、耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまう可能性があることを考慮してDPF再生処理を禁止している。このため、エンジンコンパートメント内の温度が、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度を超えてしまうといった状況を回避することができる。また、DPF76におけるPM堆積量が第2基準量以上となった場合には、温度推定カウンタのカウント値に関わりなくDPF再生処理を実行するようにしている。これにより、DPF再生処理を禁止したことに起因してPM堆積量が過剰になるといったことが防止され、DPF76の性能を高く維持することができる。
(変形例1)
次に、変形例1について説明する。上述した実施形態では、エンジンコンパートメント内温度の上昇を抑制するための昇温抑制制御としては、DPF再生処理を非実行(禁止)とするものであった。本変形例は、それに代えて、または、それに加えて、エンジンコンパートメント内に配設された図示しないラジエータファンを駆動して、エンジンコンパートメント内に外気を導入するものである。
つまり、図7に示すフローチャートにおけるステップST36でYES判定された場合、つまり、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であり、且つDPF76におけるPM堆積量が上記範囲内(第1基準量≦PM堆積量<第2基準量)にある場合には、ステップST37に移って、DPF再生処理を禁止(非実行)すると共に、ラジエータファンを強制的に駆動して、エンジンコンパートメント内に外気を導入する。または、DPF再生処理を禁止することなく(実行を許可して)、ラジエータファンを強制的に駆動し、エンジンコンパートメント内に外気を導入する。
これにより、温度推定カウンタのカウント値が所定値B以上であることで、エンジンコンパートメント内の温度が上昇しやすい状況にあっても、ラジエータファンの駆動による外気の導入により、エンジンコンパートメント内の温度を低下させることができる。このため、その後に車両が停車し且つエンジン1が停止したとしても、エンジンコンパートメント内の温度を、上記耐熱性が低い部品の耐熱温度未満に抑えることができる。
(変形例2)
次に、変形例2について説明する。上述した実施形態では、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する運転状態を、燃料指示噴射量、路面の登り勾配、車速、吸気温度および冷却水温度によって判定するようにしていた。本変形例は、それに代えて、エンジンコンパートメント内に温度センサを配設しておき、その温度センサによって計測される温度に基づいてエンジンコンパートメント内の温度が上昇する運転状態であるか否かを判定するものである。
具体的に、温度センサの配設位置としては、上記耐熱性が低い部品の周辺に配設して、この部品の周辺温度が、その耐熱温度付近に達する状況では、エンジンコンパートメント内の温度が上昇する運転状態であると判断し、上記DPF再生処理が実行中であることを条件に、温度推定カウンタのカウントアップを行うようにする。
また、温度センサの配設位置としては、上記のものには限定されず、例えばエンジン周辺や排気系部品の周辺であってもよい。この場合、計測した温度に基づいて、上記耐熱性が低い部品の周辺温度を推定することが好ましい。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態および各変形例では、直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)については特に限定されるものではない。
また、上記実施形態および各変形例では、インジェクタ23からのポスト噴射によってDPF再生処理用の燃料を供給するものとしていた。本発明はこれに限らず、排気系7(例えば排気マニホールド72)に直接的に燃料を供給する燃料添加弁を備えさせ、この燃料添加弁から供給される燃料によってDPF再生処理を行うものであってもよい。
また、上記実施形態および各変形例では、上記温度推定カウンタのカウント値が所定値(上記B)未満である場合にDPF再生処理を開始するPM堆積量と、上記温度推定カウンタのカウント値が所定値(上記B)以上である場合にDPF再生処理を禁止するPM堆積量の下限量とを同一に設定していた(上記第1基準量)。本発明は、これに限らず、これら値が互いに異なるものであってもよい。例えば、前者のPM堆積量を後者のPM堆積量に比べて大きい値に設定することなどが挙げられる。
更に、上記実施形態および各変形例では、上記第2基準量をPM堆積量の許容上限値としていた。本発明はこれに限らず、PM堆積量の許容上限値よりも所定量だけ少ない量を第2基準量として設定し、DPF76の損傷等を確実に防止できるようにしてもよい。
また、上記実施形態および各変形例では、低車速登坂フラグがONに設定される条件として、上記燃料指示噴射量が所定量INJ1を超えた状態が所定時間継続したこと、路面の登り勾配が所定勾配SL1を超えていること、車速が所定車速V1未満であること、吸気温度が所定吸気温度Tha1を超えていること、冷却水温度が所定冷却水温度Thw1を超えていることの全ての条件(AND条件)が成立した場合としていた。本発明はこれに限らず、上記燃料指示噴射量が所定量INJ1を超えた状態が所定時間継続したこと、路面の登り勾配が所定勾配SL1を超えていること、車速が所定車速V1未満であることの各条件(AND条件)が成立した場合に、低車速登坂フラグをONに設定するようにしてもよい。
また、上記実施形態および各変形例では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジン1について説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。