以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
まず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1およびその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジン1の燃焼室3およびその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されており、このうち燃料供給系2は、全ての気筒に共通のコモンレール22と各気筒毎のインジェクタ(燃料噴射弁)23とを備えた、所謂コモンレールシステムである。
上記コモンレール22には、図示省略の燃料タンクから汲み上げられてサプライポンプ21(図3参照)によって昇圧された燃料が供給される。コモンレール22は、高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23(図1では右端のものにのみ符号を付す)に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、燃料添加弁26に供給する。この燃料添加弁26は、ECU100による添加制御により、必要に応じて排気系7へ燃料を添加する電子制御式の開閉弁により構成されている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63には吸気管64が接続されて、吸気通路を構成している。吸気通路には、吸気の流れの上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、吸気絞り弁(ディーゼルスロットル)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力する。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に排気管73が接続されて排気通路を構成している。この排気通路には一例として酸化触媒74と、NOx吸蔵還元型の排気浄化触媒であるNSR(NOx Storage Reduction)触媒75と、DPF(Diesel Paticulate Filter)76とが備えられている。なお、NSR触媒75およびDPF76の代わりにDPNR(Diesel Particulate−NOx Reduction system)触媒を用いてもよい。
上記NSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、且つ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。すなわち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を、上記インジェクタ23からの燃料噴射動作(アフター噴射、ポスト噴射)や、吸気絞り弁62の開度制御や、後述するEGR機構8,9によるEGRガス還流量の制御によって行うようになっている。
また、DPF76は、例えば多孔質セラミック構造体で成り、排気ガスが多孔質の壁を通過する際に、この排気ガス中に含まれるPM(Paticulate Matter:粒子状物質)を捕集するようになっている。このDPF76には、DPF再生運転時に、上記捕集したPMを酸化・燃焼するための触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、エンジン1の燃焼室3およびその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(図の例では4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部に取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
上記ピストン13は、コネクティングロッド18によってエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。
また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、上記吸気ポート15aおよび上記排気ポート71がそれぞれ形成されているとともに、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16および排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射する。
さらに、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51によって連結されたタービンホイール52およびコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。そして、ターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行う。
また、ターボチャージャ5(コンプレッサホイール53)よりも吸気の流れの下流側において吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。なお、本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構54(図3参照)が設けられており、この可変ノズルベーン機構54の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
さらに、このエンジン1には、HPL−EGR機構(高圧EGR機構)8およびLPL−EGR機構(低圧EGR機構)9を備えたMPL−EGRシステムが設けられている。
HPL−EGR機構8は、上記ターボチャージャ5のタービンホイール52よりも上流の排気通路(例えば排気マニホールド72)から、コンプレッサホイール53よりも下流(吸気絞り弁62よりも下流)の吸気通路へ排気ガスの一部(高圧EGRガス)を導く高圧EGR通路(高圧排気ガス還流通路)81と、この高圧EGR通路81の流路面積を変更可能とする高圧EGRバルブ82とを備えている。
このHPL−EGR機構8により還流(再循環)される高圧EGRガスの量は、上記高圧EGRバルブ82の開度により調量される。また、必要に応じて吸気絞り弁62の開度が小さくされ(閉度が大きくされ)、これによって高圧EGRガスの還流量が増量されることもある。後述するS被毒回復制御において、このHPL−EGR機構8を使用して空燃比のリッチ化を図る場合には、この高圧EGRガスの還流量を増量し、新気の量(吸気系7における酸素の量)を減量させることになる。
一方、LPL−EGR機構9は、上記NSR触媒75よりも下流(より具体的にはDPF76よりも下流)で且つ排気絞り弁86よりも上流の排気通路から、コンプレッサホイール53よりも上流の吸気通路へ排気ガスの一部(低圧EGRガス)を導く低圧EGR通路(低圧排気ガス還流通路)91と、この低圧EGR通路91の流路面積を変更可能とする低圧EGRバルブ92と、低圧EGR通路91を流れる低圧EGRガスを冷却する低圧EGRクーラ93とを備えている。
このLPL−EGR機構9により還流(再循環)される低圧EGRガスの量は、上記低圧EGRバルブ92の開度により調量される。また、必要に応じて排気絞り弁86の開度が小さくされ、これによって低圧EGRガスの還流量が増量されることもある。後述するS被毒回復制御において、このLPL−EGR機構9を使用して空燃比のリッチ化を図る場合には、この低圧EGRガスの還流量を増量し、新気の量を減量させることになる。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内の吸気絞り弁62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42は吸気絞り弁62の開度を検出する。吸気圧センサ48は、吸気絞り弁62の下流側に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、インタークーラ61の下流側に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。
また、A/F(空燃比)センサ44a,44bはそれぞれ、酸化触媒74の上流側およびNSR触媒75の下流側に配設され、排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。なお、A/Fセンサの配設位置としては、酸化触媒74の上流側のみとしてもよいし、酸化触媒74とNSR触媒75との間としてもよいし、NSR触媒75の下流側のみとしてもよい。
同様に排気温センサ45a,45bはそれぞれ、酸化触媒74の上流側およびNSR触媒75の下流側に配設され、排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。なお、排気温センサの配設位置も、酸化触媒74の上流側のみとしてもよいし、酸化触媒74とNSR触媒75との間としてもよいし、NSR触媒75の下流側のみとしてもよい。
−ECU−
ECU100は、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータと入出力回路とを備えている。図3に示すように、ECU100の入力回路には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44a,44b、排気温センサ45a,45b、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、入力回路には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40などが接続されている。
一方、ECU100の出力回路には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、吸気絞り弁62、EGRバルブ82,92、および、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構(可変ノズルベーンの開度を調整するアクチュエータ)54が接続されている。
そして、ECU100は、上記各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値に基づき、必要に応じて上記ROMに記憶された各種マップを参照して、エンジン1の各種制御を実行する。一例としてECU100は、インジェクタ23による燃料噴射制御(噴射量・噴射時期の制御)、吸気絞り弁62の開度(スロットル開度)の制御、EGRバルブ82,92の開度の制御等を含むエンジン1の各種制御を実行する。
例えばインジェクタ23の燃料噴射制御としては、図4(インジェクタ23に対する燃料噴射指令信号波形)に示すようにパイロット噴射やメイン噴射(主としてエンジン1のトルク生成に寄与する燃料噴射)の他、必要に応じてアフター噴射やポスト噴射を実行する。公知のようにパイロット噴射は、メイン噴射に先立って噴射した少量の燃料を燃焼させることにより、引き続いてメイン噴射される燃料の着火遅れを抑制して、安定した拡散燃焼に導くためのものである。
また、メイン噴射は一般的にエンジン1のトルク発生のための噴射動作であり、その噴射量は基本的には、エンジン回転速度(エンジン回転数)、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えばエンジン回転速度(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転速度;エンジン回転数)が高いほど、また、アクセル開度(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほどエンジン1の要求トルクは高くなり、それに応じてメイン噴射量が多く設定される。
具体的な燃料噴射形態の一例としては、各気筒毎の圧縮上死点前に上記パイロット噴射(インジェクタ23に形成された複数の噴孔からの燃料噴射)が実行され、燃料噴射が一旦停止された後、所定のインターバルを経て圧縮上死点近傍にて上記メイン噴射が実行される。これにより燃料が自己着火によって燃焼し、この燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げる運動エネルギ(エンジン出力となるエネルギ)、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
なお、燃料噴射を実行する際の噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、すなわち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、および、エンジン回転速度(機関回転速度)が高くなるほど高いものとされる。この目標レール圧は例えば上記ROMに記憶された燃圧設定マップに従って設定される。
なお、アフター噴射やポスト噴射は、後述するNOx還元制御やS被毒回復制御等において、排気の空燃比(排気A/F)を調整したり、NSR触媒75やDPF76の温度を上昇させたりするのに利用される。
さらに、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じて吸気絞り弁62やEGRバルブ82,92の開度を制御し、吸気(新気)の量や排気の還流量(EGRガス量)を調整する。この制御は、予め実験やシミュレーション等によって作成されてROMに記憶されている吸気量マップやEGRマップに基づいて行われる。一例としてエンジン1への要求トルクやエンジン回転速度の上昇にともない、吸気絞り弁62の開度は大きくなりEGRバルブ82,92の開度は小さくなる。
また、本実施形態では、S被毒回復制御において排気の空燃比(排気A/F)をリッチ側、リーン側に切り換える際に、リッチ側(後述するリッチ期間)では吸気絞り弁62の開度を小さくするとともに適宜、EGRガスを還流させて吸気(新気)量を減少させる。一方、リーン側(後述するリーン期間)では吸気絞り弁62の開度を大きくして吸気量を増大させ、EGRガスは還流させないか還流量を減少させる。なお、リッチ期間におけるEGRガスの還流量の制御(HPL−EGR機構8およびLPL−EGR機構9のうち何れを使用してS被毒回復制御を行うか)の詳細については後述する。
−内燃機関の制御装置の制御動作−
以下に、本実施形態の内燃機関の制御装置によるNOx還元制御およびS被毒回復制御についてそれぞれ説明する。まず、NOx還元制御について簡単に説明した後に、本実施形態の特徴とするS被毒回復制御について詳細に説明する。
(NOx還元制御)
一般的にディーゼルエンジン1においては、大部分の運転領域で排気の空燃比はリーン空燃比となり、通常の運転状態ではNSR触媒75の周囲雰囲気は酸素濃度の高い状態になって、排気中のNOxがNSR触媒75に吸蔵される。そして、NSR触媒75の周囲雰囲気が低酸素濃度となる状況は非常に少ないため、NOxの吸蔵量は徐々に増大し、それに連れてNSR触媒75のNOx吸蔵能力が低下してゆく。
そこで、エンジン運転状態などに基づいて推定されるNOx吸蔵量が所定の閾値(NSR触媒75のNOx吸蔵能力が飽和する前の適値)に達した場合に、インジェクタ23からのポスト噴射(または燃料添加弁26からの燃料添加)によって排気中に燃料を供給することにより、その空燃比(排気A/F)を一時的にリッチ化させて、還元剤成分(HC等)の量を増大させる。これにより、NSR触媒75の周囲が還元雰囲気になって、吸蔵されているNOxが放出され、還元浄化されることで、NSR触媒75のNOx吸蔵能力が回復する。
また、空燃比を一時的にリッチ化させる手段として、LPL−EGR機構9を使用してEGRガスを還流する場合もある。そして、NOx還元制御にあっては、一般的に、NSR触媒75の床温度は比較的低く(例えば630℃未満)、空燃比をリッチ化させても、NSR触媒75から硫黄成分が排出される可能性は低い。このため、このNOx還元制御では、その殆どの期間においてLPL−EGR機構9を使用して比較的低温度のEGRガスを還流させ、空燃比を効果的にリッチ化させて、NOx還元制御の高効率化を図るようにしている。なお、エンジン1の運転領域によっては、HPL−EGR機構8を使用してEGRガスを還流させてNOx還元制御を行う場合もある。
なお、上記NOx吸蔵量の推定手法としては、エンジン回転速度とインジェクタ23からの燃料噴射量とに応じたNOx吸蔵量を予め実験やシミュレーションにより求めてマップ化しておき、このマップにより求められるNOx吸蔵量を積算するという方法が挙げられる。また、前回のNOx還元制御終了時点からの車両走行距離、または、総燃料噴射量によってNOx吸蔵量を推定するといった方法も挙げられる。
(S被毒回復制御)
次に、本実施形態の特徴とするS被毒回復制御について説明する。上記したNOx還元制御ではNSR触媒75に流入する排気の空燃比を瞬間的にリッチ化することで、吸蔵されているNOxを放出させることはできるが、NSR触媒75では、NOxの吸蔵と同様のメカニズムで硫黄成分(SOx)の吸着が生じている。一旦、吸着されたSOxはNOxよりも離脱し難いので、上記のNOx還元制御が行われてもSOxは離脱せずに、次第にNSR触媒75内に蓄積されていく。
より詳しくは、S被毒のメカニズムはおよそ以下のとおりである。まず、エンジン1の燃焼室3内で燃料や潤滑油が燃焼するときには、二酸化硫黄(SO2)や三酸化硫黄(SO3)などのSOxが生成される。そして、NSR触媒75に流入する排気の酸素濃度が高いときには、流入排気中のSO2やSO3等のSOxが白金(Pt)の表面上で酸化され、例えば硫酸イオンの形態でNSR触媒75に吸着される。
こうしてNSR触媒75に吸着された硫酸イオンは、酸化バリウム(BaO)と結合して硫酸塩(BaSO4)を形成するが、これは硝酸バリウム(Ba(NO3)2)に比して安定していて分解され難い。このため、上記NOx還元制御などによってNSR触媒75に流入する排気の酸素濃度が低くなっても、硫酸塩は分解されずにNSR触媒75内に残留し、時間とともに蓄積されてゆく。
そうしてNSR触媒75における硫酸塩(BaSO4)の蓄積量が増加するほど、NOxの吸蔵に関与することができる酸化バリウム(BaO)の量が減少することになるので、NSR触媒75のNOx吸蔵能力が低下して、NOx浄化率を低下させる原因となる(S被毒)。なお、NSR触媒75内におけるSOxの蓄積量の計測は、前回のS被毒回復制御の終了時点からのインジェクタ23の総燃料噴射量と燃料中における硫黄濃度とに基づいて行われる。
上記のようなS被毒を解消する方法として、NSR触媒75の雰囲気温度をおよそ630〜700℃の高温域まで昇温させるとともに、NSR触媒75に流入する排気の酸素濃度を低くする(排気空燃比をリッチにする)ことにより、NSR触媒75に吸着されている硫酸バリウム(BaSO4)を熱分解して、排気中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)と反応させ、気体状のSO2等に還元する方法が挙げられる。
本実施形態では、上述したアフター噴射やポスト噴射と、吸気絞り弁62およびEGRバルブ82,92の開度の制御とによって、排気の空燃比をリッチとリーンとの間で切り換えて、S被毒の解消を図るようにしている。具体的には、リーンな排気中ではポスト噴射された燃料がNSR触媒75において酸化し、その反応熱によってNSR触媒75の床温度が効果的に上昇する。その後、空燃比をリッチ側に切り換えてNSR触媒75に還元剤成分を供給する。
このS被毒回復制御にあっては、上記EGRガスの還流によって空燃比のリッチ化を図る場合に、エンジン1の運転領域に応じて、上記HPL−EGR機構8を使用することによるEGRガスの還流と、LPL−EGR機構9を使用することによるEGRガスの還流との何れかが選択される。図6は、S被毒回復制御のリッチ期間におけるEGR機構の使用形態を決定する(HPL−EGR機構8およびLPL−EGR機構9のうち何れを使用してEGRガスを還流させるか決定する)EGR使用マップを示す図である。
この図6における領域Aは、HPL−EGR機構8によってEGRガスの還流を行うエンジン運転領域である。このエンジン運転領域Aは比較的狭い運転領域である(エンジン回転速度の中間域で且つトルクの中間域(中負荷域)に限られる)。一方、図6における領域B(領域Aの外側の領域)は、LPL−EGR機構9によってEGRガスの還流を行うエンジン運転領域である。このエンジン運転領域Bは、上記領域A(HPL−EGR機構8によってEGRガスの還流を行うエンジン運転領域)の外側であって比較的広い運転領域となっている。これは、LPL−EGR機構9によってEGRガスの還流を行う場合、比較的低温度のEGRガスを還流させることができることから空燃比を効果的にリッチ化させることが可能であるため、エンジン1の広い運転領域でLPL−EGR機構9を使用した空燃比のリッチ化を図るようにしたものである。
以下、上記した図4の他に図5も参照して、S被毒回復制御の動作についてより詳細に説明する。図5は、S被毒回復制御実行時における排気空燃比、触媒床温、NSR触媒75からのSOx放出率(クランクシャフトの単位回転角度当たりのSOx放出量)、NSR触媒75のSOx残量それぞれの変化の一例を示すタイミングチャート図である。
S被毒回復制御では、排気空燃比をリーンに設定するリーン期間と、排気空燃比をリッチに設定するリッチ期間とが交互に切り換えられ、そのリーン期間においてNSR触媒75の床温を、SOxの離脱が可能になる温度(硫酸バリウム(BaSO4)を熱分解できる温度)まで上昇させる。一方、リッチ期間では、排気空燃比をリッチにすることで、NSR触媒75からSOxを離脱させ、排気中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)と反応させて還元浄化する。
一例として、上記リーン期間からリッチ期間への切り換えタイミングは、NSR触媒75の床温度が、SOxを離脱させるのに十分な温度(例えば680℃)に達した時点としている。一方、リッチ期間からリーン期間への切り換えタイミングは、NSR触媒75の床温度が所定温度(例えば630℃)まで低下した時点としている。このようにリーン期間とリッチ期間とが交互に繰り返されることにより、NSR触媒75からSOxが放出されていく。なお、上記各温度はこれらに限定されるものではなく、適宜設定される。
より具体的には上記図4も参照すると、S被毒量(SOxの蓄積量)が所定値に達してS被毒回復制御が開始された場合、まず、図4(a)に示すように空燃比のリーン期間において、メイン噴射の実行後、気筒の膨張行程の後半(例えばATDC100〜130°CA)でポスト噴射が実行され、触媒床温が上昇する。このポスト噴射では燃料が燃焼室3内では燃焼せず、高温下で熱分解されて排気通路に流れ、NSR触媒75を通過しながら酸化されることで、触媒床温を効果的に上昇させる。
こうしてNSR触媒75の床温度が上昇して所定温度(例えば680℃)に達すると、リーン期間からリッチ期間に切り換えられる(図5におけるタイミングT1)。このリッチ期間では、図4(b)に示すように、メイン噴射の後に、筒内で燃料が燃焼するタイミング(例えばATDC30〜60°CA)で燃料をアフター噴射し、パイロット噴射およびメイン噴射と合わせた総噴射量を増量する。
同時に吸気絞り弁62の開度が所定開度まで小さくされ、また、EGRガス還流量が増量されることにより(図6に示す運転領域Aの場合にはHPL−EGR機構8によるEGRガス還流量の増量が行われ、運転領域Bの場合にはLPL−EGR機構9によるEGRガス還流量の増量が行われることにより)、吸気(新気)の量が減少するので、上記燃料の総噴射量の増量と併せて空燃比を理論空燃比よりもリッチ(例えばA/Fで14.3以下)にすることができ、これにより排気の空燃比も理論空燃比よりもリッチになる。上記値はこれに限定されることなく適宜設定される。
なお、アフター噴射された燃料の燃焼によるトルクの増分は、吸気絞り弁62の開度の減少によって相殺される。言い換えると、トルク変動が生じないようにアフター噴射の量およびタイミング、並びに吸気絞り弁62の開度が互いに対応づけて予め実験やシミュレーションにより適合され、マップとしてECU100のROMに記憶されている。
そうしてリッチ期間においては、NSR触媒75の床温度が十分に上昇(SOxの離脱を可能にする温度まで上昇)されている状態で排気空燃比がリッチになり、NSR触媒75からSOxが放出される。すなわち、図5のSOx放出率のグラフに示すようにNSR触媒75からSOxが放出され、NSR触媒75におけるSOx残量は次第に減少していく。同時にリッチ期間においてはNSR触媒75の床温度が次第に低下していき、その床温度が所定温度(例えば630℃)に達すると、リッチ期間からリーン期間に切り換えられる(タイミングT2)。
このようにして、NSR触媒75の床温度が630〜700℃の高温域に維持されたまま、その床温度の変化に応じて排気の空燃比がリッチとリーンとの間で切り換えられることで、NSR触媒75からSOxが次第に放出されていき、このNSR触媒75におけるSOxの蓄積量(SOx残量)が減少していく。そして、SOx蓄積量が所定量未満になると、S被毒回復制御は終了する。
なお、NSR触媒75からのSOx放出量の計測は、例えばNSR触媒75の床温度や上記リッチ期間の積算時間に基づいて行われる。つまり、NSR触媒75の床温度が高いほど、また、上記リッチ期間の積算時間が長いほどSOx放出量は多くなっていくので、これらNSR触媒75の床温度やリッチ期間の積算時間を計測していくことにより、SOx放出量が求められることになる。そして、このSOx放出量が、S被毒回復制御開始時におけるSOx吸着量(インジェクタ23の総燃料噴射量と燃料中における硫黄濃度とに基づいて計測されたSOxの吸着量)に略一致すると、NSR触媒75内のSOxの略全量が放出されたとしてS被毒回復制御が終了することになる。
以上が、S被毒回復制御の基本動作である。
(S被毒回復制御のリッチ期間のEGRガス還流制御)
本実施形態の特徴は、上記リッチ期間におけるEGRガス還流制御にある。まず、このリッチ期間におけるEGRガス還流制御の概要について説明する。ここでは、上記LPL−EGR機構9を使用してEGRガスを還流させて筒内をリッチ化し、それによって排気の空燃比(排気A/F)をリッチにしている場合の制御について説明する。つまり、エンジン1の運転領域が図6における領域Bである場合におけるS被毒回復制御でのリッチ期間のEGRガス還流制御について説明する。
上記リッチ期間において、LPL−EGR機構9を使用してEGRガスを還流させて空燃比をリッチ化させる場合、S被毒回復制御にともなってNSR触媒75から放出(排出)された硫黄成分の一部が低圧EGR通路91に流れ込むことになる。このような状況になると、低圧EGR通路91に流れ込んだ硫黄成分が、上記低圧EGRクーラ93やインタークーラ61で生じた凝縮水(クーラで冷却されることに起因する凝縮水)に溶解されることによって、酸性液体(硫酸)が発生することがある。
このようにして酸性液体が発生する状況では、低圧EGRクーラ93、インタークーラ61および各種配管への悪影響が懸念されることになる。
そこで、本実施形態では、S被毒回復制御の開始後、上記NSR触媒75内部において、吸蔵材料からの離脱にともなって、排気ガス流れ方向の上流側から下流側に向かって移動する硫黄成分の位置を推定し、その硫黄成分の位置が、NSR触媒75から硫黄成分が排出される所定位置に達するまでは、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を許可する。例えばエンジン1の運転領域が図6の領域Bである場合にはLPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を実行する。
一方、硫黄成分の位置が、NSR触媒75から硫黄成分が排出される所定位置に達した時点で、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を停止(禁止)するようにしている。例えばエンジン1の運転領域が図6の領域Bであるときに、NSR触媒75から硫黄成分が排出される状況になると、上記低圧EGRバルブ92を全閉とし、低圧EGR通路91での流れを停止させる。これにより、NSR触媒75から排出された硫黄成分が低圧EGR通路91に流れ込んでしまうことを防止するようにしている(本発明でいう「還流制限動作」)。
ここで、NSR触媒75内部における硫黄成分の堆積分布について説明する。S被毒回復制御が開始された時点におけるNSR触媒75中におけるSOxの堆積分布としては、NSR触媒75の前端部(排気ガスの流れ方向の上流側端部)が最も堆積量が多く、後端部(排気ガスの流れ方向の下流側端部)に向かうに従って堆積量は次第に少なくなっている。つまり、NSR触媒75中におけるSOxの堆積量が最も多い領域(以下、「堆積量ピーク位置」という場合もある)はNSR触媒75の前端部となっている。図7は、S被毒回復制御開始時点におけるNSR触媒75内部での硫黄成分(SOx)の堆積分布の一例を示している。このように、NSR触媒75内部におけるSOxの堆積分布としては、NSR触媒75の前端部が最も堆積量が多くなっており、後端部に向かって堆積量は次第に少なくなっている。
そして、上記S被毒回復制御が開始されて上記リッチ期間が継続されると、NSR触媒75の吸蔵材料に堆積しているSOxは離脱されていき、NSR触媒75の後端部に向かって流れる始める(移動を始める)ことになる。これにより、NSR触媒75内部における堆積量ピーク位置はNSR触媒75の前端部から後端部に向かって次第に移動していく。
図8は、S被毒回復制御開始後におけるNSR触媒75内部での硫黄成分の堆積分布の変化の一例を示している。S被毒回復制御開始時にあっては、上述した如くNSR触媒75内部における堆積量ピーク位置はNSR触媒75の前端部であったのに対し(図中の破線を参照)、S被毒回復制御開始後にあっては、硫黄成分がNSR触媒75の吸蔵材料から離脱されることによって、この硫黄成分がNSR触媒75の後端部に向かって流れることになり、あるタイミングにおいて、図中に実線で示すように、堆積量ピーク位置はNSR触媒75の長手方向(排気ガスの流れ方向)の中央位置に達する。なお、この状態にあっては、NSR触媒75の吸蔵材料から一旦離脱された硫黄成分の一部が吸蔵材料(例えばNSR触媒75の長手方向の中央にある吸蔵材料)に再付着している。
そして、S被毒回復制御が継続されると、さらに硫黄成分がNSR触媒75の後端部に向かって流れることになって、図中に一点鎖線で示すように、堆積量ピーク位置はNSR触媒75の後端位置付近に達する。
このように、S被毒回復制御が継続される場合、例えば堆積量ピーク位置がNSR触媒75の長手方向の中央位置に達するまでの間は、未だNSR触媒75からの硫黄成分(H2SやSO2)の排出は行われないか、または、排出量は僅かである(上記酸性液体が発生しない程度の量である)。
これに対し、堆積量ピーク位置がNSR触媒75の長手方向の中央位置に達した後(堆積量ピーク位置がNSR触媒75の長手方向の中央位置よりも後端側に移動した後)には、NSR触媒75から硫黄成分の排出が開始されることになる。
NSR触媒75内部における単位時間当たりの硫黄成分の移動量(移動速度)は、触媒床温および排気A/Fに左右されることになる。つまり、触媒床温が高いほど、また排気A/Fが小さいほど(リッチであるほど)硫黄成分の移動速度は高くなる。つまり、これら触媒床温および排気A/Fを認識しておくことにより、NSR触媒75内部における硫黄成分の堆積量ピーク位置は推定できることになる。この触媒床温および排気A/Fと、NSR触媒75内部における硫黄成分の堆積量ピーク位置との関係は、NSR触媒75の構成や容量によって異なるため、予め実験やシミュレーションによって求められている。例えば、排気A/Fのリッチ期間をパラメータとしてNSR触媒75内部における硫黄成分の堆積量ピーク位置を推定するマップや、触媒床温および排気A/Fのリッチ期間それぞれをパラメータとしてNSR触媒75内部における硫黄成分の堆積量ピーク位置を推定するマップがECU100のROMに記憶されており、このマップを使用して、現在の硫黄成分の堆積量ピーク位置を推定するようにしている(詳しくは後述する)。
本実施形態にあっては、上記堆積量ピーク位置(SOxの堆積分布が最も高い位置)が所定位置(例えばNSR触媒75の長手方向(排気ガスの流れ方向の)の中央位置)まで移動した時点で、NSR触媒75から硫黄成分(H2SやSO2)の排出が開始されると判断して、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を停止し(低圧EGRバルブ92を全閉にし)、これにより、硫黄成分が低圧EGR通路91に流れ込んでしまうことを防止するようにしている。
なお、上記NSR触媒75の温度(触媒床温)は、エンジン1の運転状態や、上記排気温センサ45a,45bによって検出される排気ガスの温度等に基づいて推定される。また、センサを用いてNSR触媒75の温度を直接的に計測するようにしてもよい。また、排気A/Fは、上記A/Fセンサ44aからの出力に基づいて求められる。また、インジェクタ23からのアフター噴射量や、吸入空気量や、低圧EGRバルブ92の開度等に基づいて排気A/Fを推定するようにしてもよい。
以下、本実施形態のS被毒回復制御における上記リッチ期間での制御手順について図9のフローチャートに沿って説明する。このフローチャートはS被毒回復制御の開始後、所定期間毎(例えば数msec毎、または、クランクシャフトの所定回転角度毎)に実行される。
まず、ステップST1において、NSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値α以上となっているか否かを判定する。この所定値αは、上記リーン期間からリッチ期間への切り換えタイミングを規定する値、つまり、排気空燃比をリッチにした場合にNSR触媒75からの硫黄成分の放出(吸蔵材料からの離脱)を良好に行うことができる値であって例えば上記680℃に設定されている。この値はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
触媒床温が所定値α未満である場合には、未だ触媒床温がリッチ期間への切り換え温度に達していないとして、ステップST1でNO判定され、ステップST12に移って、リーン期間制御を実行する。つまり、メイン噴射の実行後にポスト噴射を実行することにより、触媒床温を効果的に上昇させる制御を行う(図4(a)に示す燃料噴射態様を参照)。
一方、触媒床温が所定値α以上であり、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、予めECU100に記憶されているS排出開始フラグがONとなっているか否かを判定する。このS排出開始フラグは、S被毒回復制御の実行にともなって上記堆積量ピーク位置(SOxの堆積分布が最も高い位置)がNSR触媒75の長手方向(排気ガスの流れ方向の)の中央位置まで移動したと推定された時点でONされ、S被毒回復制御が終了すると(NSR触媒75内のSOxの略全量が放出されたとしてS被毒回復制御が終了すると)OFFされるものである(後述するステップST11)。S被毒回復制御の開始時点では、上述した如く堆積量ピーク位置はNSR触媒75の前端部であるため、S排出開始フラグはOFFとなっている。
S排出開始フラグがOFFであって、ステップST2でNO判定された場合には、ステップST3に移り、NSR触媒75内部における硫黄成分の堆積位置(S堆積位置)の推定を行う。このS堆積位置の推定として具体的には、NSR触媒75内部における上記堆積量ピーク位置を推定するものであって、S被毒回復制御の開始時点にあっては、上述した如く、NSR触媒75の前端部(排気ガスの流れ方向の上流側端部)が堆積量ピーク位置となっている。一方、S被毒回復制御が開始された後にあっては、上述した如く、NSR触媒75内部においてSOxの堆積分布が変化していくため(図8を参照)、リッチ期間の長さに応じて堆積量ピーク位置が推定されることになる。このリッチ期間の長さと、堆積量ピーク位置との関係は予め実験により求められている。図10は、リッチ期間の積算時間をパラメータとして、硫黄成分の移動距離(上記堆積量ピーク位置の移動距離に対応)を求めるためのマップ(堆積量ピーク位置マップ)を示している。このようにリッチ期間の積算時間が長いほど硫黄成分の移動距離は長くなり、上記堆積量ピーク位置が、NSR触媒75の後端側に移動していくことになる。
また、この硫黄成分の移動距離は、リッチ期間の長さだけでなく、触媒床温によっても変化するため、この触媒床温によって硫黄成分の移動距離を推定するようにしてもよい。つまり、触媒床温が高いほど効果的に硫黄成分の離脱が行われるため、硫黄成分の移動距離は長くなる。図11は、リッチ期間の積算時間および触媒床温をパラメータとして、硫黄成分の移動距離(上記堆積量ピーク位置の移動距離に対応)を求めるためのマップを示している。このようにリッチ期間の積算時間が長いほど、また、触媒床温が高いほど硫黄成分の移動距離は長くなり、上記堆積量ピーク位置が、NSR触媒75の後端側に移動していくことになる。
このようにしてNSR触媒75の内部におけるS堆積位置の推定(堆積量ピーク位置の推定)を行った後、ステップST4に移り、S堆積位置が所定位置まで移動したか否かを判定する。この所定位置としては、例えば、NSR触媒75における排気ガス流れ方向の中央位置が挙げられる。つまり、図8に実線で示す硫黄成分の堆積分布になったか否かを、このステップST4で判定している。本実施形態では、この堆積量ピーク位置がNSR触媒75における排気ガス流れ方向の中央位置に達した時点で、NSR触媒75から硫黄成分(H2SやSO2)の排出が開始されるものとしている。
S堆積位置が所定位置まで未だ移動しておらず、ステップST4でNO判定された場合には、ステップST5に移り、LPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流を許可する。つまり、低圧EGRバルブ92を開放し、低圧EGR通路91からEGRガスを還流させて排気A/Fをリッチ化する制御を許可する。これにより、目標とする排気A/F(例えば13.5)を達成させて、上述したリッチ期間の制御を行う。この場合におけるアフター噴射での噴射量や、吸気絞り弁62の開度や、低圧EGRバルブ92の開度は、予め実験やシミュレーションによって、上記排気A/Fが得られるように求められている。
このようにして目標排気A/Fをリッチに設定した状態で、ステップST6に移り、NSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値β以下になったか否かを判定する。この所定値βは、上記排気A/Fをリッチに設定したとしても、硫黄成分の還元処理ができない温度であって、例えば630℃に設定されている。この値はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
触媒床温が所定値βを超えており(所定値βを超える触媒床温が維持されており)、ステップST6でNO判定された場合には、ステップST3に戻り、NSR触媒75の内部における硫黄成分の堆積位置(S堆積位置)の推定を再び行う。ここでのS堆積位置の推定動作としては、上述したものと同様に行われる。その後、ステップST4において上述と同様に、S堆積位置が所定位置まで移動したか否かを判定する。このようにして、S堆積位置が所定位置に移動するまで(上記堆積量ピーク位置がNSR触媒75における排気ガス流れ方向の中央位置に達するまで)、LPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流が継続されることになる。
なお、このようにLPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流が許可されている状態において、NSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値β以下に低下した場合には、排気A/Fをリッチに設定したとしても硫黄成分の還元処理ができないため、ステップST6でYES判定され、ステップST12に移って、リーン期間制御を実行する。つまり、メイン噴射の実行後にポスト噴射を実行することにより、触媒床温を効果的に上昇させる制御を行う(図4(a)に示す燃料噴射態様を参照)。この場合、NSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値α以上となってステップST1でYES判定されると、上述したステップST2〜ステップST6の動作が繰り返されることになる。
そして、NSR触媒75の内部におけるS堆積位置が所定位置に達し、ステップST4でYES判定された場合には、ステップST7に移って上記S排出開始フラグをONにし、ステップST8において、LPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流を停止(禁止)する。つまり、低圧EGRバルブ92を閉鎖して、低圧EGR通路91からEGRガスを還流させて排気A/Fをリッチ化する制御を停止させる。この場合、例えばHPL−EGR機構8を使用した排気A/Fのリッチ化が行われる。つまり、上記高圧EGRバルブ82を開放して、高圧EGR通路81からEGRガスを還流させることによって、排気A/Fをリッチ化する制御を開始する。また、EGRガスの還流を行うことなく排気A/Fをリッチ化するようにしてもよい。例えば、インジェクタ23からの燃料噴射量が比較的多く、上記吸気絞り弁62の開度を小さくするのみで、上記目標とする空燃比が実現できる場合には、EGRガスの還流を行うことなく排気A/Fのリッチ化を行うことになる。
このような動作により、目標とする排気A/F(例えば13.5)を達成させて、上述したリッチ期間の制御を行う。この場合におけるアフター噴射での噴射量や、吸気絞り弁62の開度や、高圧EGRバルブ82の開度も、予め実験やシミュレーションによって、上記排気A/Fが得られるように求められている。
このようにして目標排気A/Fをリッチに設定した状態で、ステップST9に移り、上述したステップST6の場合と同様に、NSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値β以下になったか否かを判定する。
触媒床温が所定値βを超えており(所定値βを超える触媒床温が維持されており)、ステップST9でNO判定された場合には、ステップST10に移り、NSR触媒75からのS排出量が所定量に達したか否かを判定する。この所定量は、S被毒回復制御を終了させるためのS排出量であって、例えば、S被毒回復制御の開始時におけるSOx吸着量に相当する値、または、このS被毒回復制御の開始時におけるSOxの蓄積量よりも僅かに小さい値に設定されている。なお、このNSR触媒75からのS排出量は、上述した如く、触媒床温とリッチ期間の長さとから求められる。
そして、NSR触媒75からのS排出量が所定量に達していない場合は、ステップST10でNO判定され、ステップST9に戻る。
一方、NSR触媒75からのS排出量が所定量以上に達しており、ステップST10でYES判定された場合には、ステップST11においてS被毒回復制御の終了処理を行うと共に、上記S排出開始フラグをOFFにする。すなわち、空燃比のリッチ、リーンの切り換えおよびポスト噴射を停止する。これによりS被毒回復制御は終了し、NSR触媒75のNOx吸蔵能力が回復された状態で、通常のエンジン制御に移行する。
なお、上記LPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流を停止(禁止)して排気A/Fをリッチ化させている状態で、NSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値β以下に低下した場合には、排気A/Fをリッチに設定したとしても硫黄成分の還元処理ができないため、ステップST9でYES判定され、ステップST12に移って、リーン期間制御を実行する。つまり、メイン噴射の実行後にポスト噴射を実行することにより、触媒床温を効果的に上昇させる制御を行う(図4(a)に示す燃料噴射態様を参照)。そして、このNSR触媒75の床温(触媒床温)が所定値α以上に達すると、ステップST1でYES判定されて、上述したリッチ期間制御が再度実行されることになる。この場合、既にS排出開始フラグはONとなっているため(NSR触媒75からの硫黄成分の排出は開始されているため)、ステップST2ではYES判定され、NSR触媒75の内部における硫黄成分の堆積位置(S堆積位置)の推定を行うことなく、ステップST10において、NSR触媒75からのS排出量が所定量に達したか否かを判定することになる。
以上説明したように、本実施形態では、NSR触媒75内部における硫黄成分の位置が、NSR触媒75から硫黄成分が排出される所定位置に達するまでは、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を行って空燃比をリッチにするS被毒回復制御を行うようにしている。このS被毒回復制御では、空燃比を効果的にリッチ化させることが可能であり、NSR触媒75からの硫黄成分の離脱を比較的短期間で行うことができ、S被毒回復制御に要する時間の短縮化に寄与させることができる。その結果、S被毒回復制御に要する燃料量の削減が可能となり、燃料消費率の改善が図れる。
また、NSR触媒75内部における硫黄成分の位置が、NSR触媒75から硫黄成分が排出される所定位置に達すると(本実施形態の場合、上記堆積量ピーク位置がNSR触媒75の長手方向の中央位置に達すると)、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を停止(禁止)する。これにより、NSR触媒75から排出された硫黄成分が低圧EGR通路91に流れ込むことに起因する酸性液体の発生を防止することができる。これにより、酸性液体による低圧EGRクーラ93やインタークーラ61や配管類への悪影響を防止することができ、エンジン1の耐久性の向上を図ることができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。また、ガソリンエンジンに対して適用することも可能である。
また、上記実施形態では、S被毒回復制御において排気系7に燃料を供給する手段としてインジェクタ23からのポスト噴射を行うようにしていた。本発明はこれに限らず、排気系7(例えば排気マニホールド72)に直接的に燃料を供給する上記燃料添加弁26から供給される燃料によってS被毒回復制御を行う場合にも適用可能である。
また、上記実施形態では、上記堆積量ピーク位置が、NSR触媒75における排気ガス流れ方向の中央位置に達した時点で、NSR触媒75から硫黄成分が排出され始めるとしてLPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流を停止(禁止)するようにしていた。本発明は、これに限ることなく、NSR触媒75から硫黄成分が排出され始める堆積量ピーク位置を予め実験やシミュレーションによって把握しておき、この硫黄成分が排出され始める堆積量ピーク位置に達した時点で、LPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流を停止(禁止)するようにすればよい。例えば、NSR触媒75における排気ガス流れ方向の長さに対して前端から2/3の距離の位置に上記堆積量ピーク位置が達した時点で、LPL−EGR機構9を使用した吸気系6へのEGRガスの還流を停止(禁止)することなどが挙げられる。
また、上記実施形態では、硫黄成分の位置が、NSR触媒75から硫黄成分が排出される所定位置に達した時点で、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を停止(禁止)するようにしていた。本発明は、これに限らず、NSR触媒75から硫黄成分が排出される所定位置に達した時点で、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流量を減量するようにしてもよい(本発明でいう「還流制限動作」)。この場合、NSR触媒75から排出された硫黄成分の一部が低圧EGR通路91に流れ込むことになるので、この減量されるEGRガスの還流量としては、上記酸性液体が発生しない範囲内、または、酸性液体が発生したとしても、その量が所定の許容範囲内(低圧EGRクーラ93やインタークーラ61や配管類に悪影響を与えない範囲内)となるように制限されることになる。この場合のEGRガスの還流量(減量された還流量)は実験またはシミュレーションによって予め求められている。
さらに、上記実施形態では、NSR触媒75から硫黄成分が排出されるタイミングと、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を停止するタイミングとを一致させるようにしていた。本発明はこれに限らず、NSR触媒75から硫黄成分が排出されるタイミングに対して僅かな時間だけ先立って、LPL−EGR機構9を使用したEGRガスの還流を停止させておくことも技術的思想の範疇である。