JP5696322B1 - 押湯効率の高い柱状の押湯形状及び鋳造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来の円柱を基本形状とする押湯に比べ押湯効率の高い柱状の押湯の形状を提供する。【解決手段】直径Dと高さHの柱状でH/D≧3、かつ押湯体積が製品部の体積に対して40%以下である押湯形状とする。【選択図】図3
Description
鋳造に用いる押湯の形状であって、押湯効率の高い柱状の押湯形状及び鋳造方法を提供するものである。
鋳造においては、製品部の健全性を高めるため製品の適宜の個所に押湯を設け、押湯から製品の凝固収縮を補給することが行われており、一般的には製品の上部に設ける揚り押湯や側面に設けるサイド押湯が用いられている。しかし、いずれの場合も、押湯が鋳込重量に占める割合は、通常20〜40%であり、その結果、製品重量/鋳込重量で示される鋳造歩留りが低いという問題点がある。したがって、押湯の適正な形状、大きさの決定はコストを左右する鋳造歩留りを向上させるための重要な課題である。
鋳造方法には、注湯方向と模型の見切面方向の関係で平込め鋳造と縦型鋳造がある。注湯方向と模型の見切面方向が直角な場合が平込め鋳造であり、平行な場合が縦型鋳造である。縦型鋳造においては、製品部と押湯の配置の関係から比較的自由な形状の押湯を用いることができるが、それでも効率の高い押湯形状は定まっていない。一方、平込め鋳造では、製品部と押湯の配置の自由度が小さいので、用いられる押湯の形状は後述するようにかなり制限されるため、効率の高い押湯形状がなく、鋳造歩留りを高めることができないという問題点がある。本発明は平込め鋳造にも縦型鋳造にも適用できる押湯効率の高い柱状の押湯の形状を提供するものであるが、特に平込め鋳造において高い効果をもたらすものである。
従来技術の事例を図9及び図10示す。図9は、製品部1の上部に揚り押湯19を設けた鋳型の状態を示す。図10は、製品1の側面にサイド押湯20を設けた鋳型の状態を示す。このように設けた押湯19及び20から堰の部分2を通して製品部1の凝固収縮を補給することで、製品部1の健全性を確保することが一般的に行われている。
従来から鋳造に用いられている押湯の形状は、ほとんどが直径D、高さHの円柱(以下、円柱状と称す)を基本形状とするもので、通常H=(1.5〜2)D程度の形状となっている。また、押湯高さの見切面上下の割合は、下型0.25D、上型(1.25〜1.75)Dが一般的である。
そして、この基本形状に、製品部と押湯の基本形状をつなぐ部分に相当する堰の部分(堰部ともいう)が設けられている。すなわち、押湯は基本形状と堰の部分から構成されている。本発明においても同様である。また、造型時の型上り性を考慮して適宜の抜け勾配及び角R、隅Rなどが付けられている。基本形状として円柱状が使われるのは、形状が簡単で模型製作が容易であること及び、製品部の高さに対応して適宜の高さを作り易いという理由からである。
また、従来の技術では、押湯の効率は簡便には、体積/表面積で示される凝固モジュラスなる指標を用いて評価している。すなわち凝固モジュラスが大きいものは凝固が遅く、製品部の凝固に対応して長時間、凝固収縮を補給することができる。そして、押湯の体積(基本形状と堰部の合計の体積)は、製品部の凝固モジュラスMcと押湯の凝固モジュラスMrの比Mr/Mcを基準にして決められてきた。一般に、Mr/Mc=(1〜1.2)が推奨されている。つまり、押湯は製品部よりも大きな凝固モジュラスが必要なため、大きな体積を確保できるように大きな直径の円柱状を基本形状とする押湯を用いることになっている。
この円柱状の押湯の欠点は、押湯側面及び上下面の表面積が大きく、これが冷却面(放熱面)となり凝固の進行が速いことである。そのため、押湯の体積は、製品部の体積に対して40〜100%と大きな押湯となり、全鋳込み重量に占める割合では20〜40%と大きくなる。その結果として鋳造歩留りが低くなるのである。
このように従来技術の基本的な問題点は、押湯の設計が製品部と押湯の凝固モジュラスの比較という考えに基づいていることである。そのため、大きな直径Dで高さH=(1.5〜2)D程度の円柱形状が基本形状形状として採用されてきた。
ところで、健全な製品を得るために押湯から供給すべき必要な補給量は、製品部の体積のわずか3〜5%であることが従来の実験から明らかになっている。この数値を前述の、製品部の体積に対して押湯の体積が40〜100%となっている事実と対照すると、押湯の体積が過剰に大きいと言わざるを得ない。これは、凝固モジュラスを基準に押湯の設計をしていることに何か問題があると考えられる。
従来技術について、特許文献をキーワード「鋳造×押湯」で検索した結果のうちから押湯を用いた主要な鋳造方案の例を下記に示す。
特開2008−221285 特開2007−111741 特開2005−144461 特開平10−221333 特開平10−43836 特開平9−314308 特開平8−290254 特開平8−93204 特開平5−104195 特開平5−69108
上記のような従来技術の問題点を整理すると次のようになる。一般に用いられる押湯は円柱状で、通常H=(1.5〜2)D程度の形状となっている。この形状は、製品部の凝固モジュラスに対応して、押湯の凝固モジュラスを適宜の大きさにするという設計基準に基づいている。このために大きな直径の押湯となり、大きな体積の押湯となっていると考えられる。このため、鋳造歩留りが低く、製造コストを圧迫している。
このような問題点に鑑み、本発明では、従来技術の凝固モジュラスの考えに基づかない、新規な発想に基づく押湯効率の高い押湯の形状を提供することを目的とする。これによって、鋳造歩留りが大幅に改善され、鋳物製品の大きなコストダウンが得られる。
(手段1)
鋳造に用いる押湯の形状であって、堰の部分を除いた押湯の基本形状が直径D、高さHの柱状で、H/D≧3であり、かつ堰の部分と押湯の基本形状を合せた押湯の体積が製品部の体積の40%以下であることを特徴とする押湯の形状である。
鋳造に用いる押湯の形状であって、堰の部分を除いた押湯の基本形状が直径D、高さHの柱状で、H/D≧3であり、かつ堰の部分と押湯の基本形状を合せた押湯の体積が製品部の体積の40%以下であることを特徴とする押湯の形状である。
本手段では、従来の円柱状の押湯の基本形状に代わって、類似の柱状ではあるが、H/D≧3であり、かつ堰の部分と押湯の基本形状を合せた押湯の体積が製品部の体積の40%以下となる押湯形状を用いた。
まず、押湯の基本形状をH/D≧3とすることによって、従来よりも高さの高い柱状の形状を基本形状とした。ここで、柱状とは断面が円形の円柱状も含めて、断面が矩形、多角形、楕円、異形など任意の断面の柱状体を含むものとする。したがって、本願に言う直径Dは、見切面上の断面の最大径を指すものとする。
この押湯の基本形状の直径を従来と同じにすれば、当然、押湯の体積は大きくなり、かつ凝固モジュラスはあまり大きくならない。その結果、効率の低い押湯となってしまう。そこで、本手段では、基本形状の直径を小さくして、高さを高くし、かつ堰の部分と押湯の基本形状を合せた押湯の体積を製品部の体積の40%以下とした。これによって従来よりも小径で高さが高く、小さい体積の押湯とすることができる。次に本手段の押湯形状の作用効果を説明する。
押湯の効率は、先に述べたように、一般的には凝固モジュラスで評価できるが、本手段の基本形状は、小径で高さの高い柱状であるので、当然、従来の大きな直径でH/D=(1.5〜2)のものと比較すると小さな凝固モジュラスとなってこの点から見ると効率が低いことになる。
ここで、本手段の基本形状の押湯の特徴と作用効果を説明する。小径で高さの高い柱状の押湯では、注湯後、製品部及びキャビティー内の溶湯の凝固収縮が始まり、湯口、湯道などの凝固がある程度進むと、押湯には湯口からの溶湯ヘッドが効きにくくなる。その結果、製品部への給湯は押湯のみから供給されることになり、押湯の溶湯レベルは早期に大きく下がる。その湯面の下がる程度は、本手段の押湯では従来の円柱状の押湯に比べ直径が小さいので、従来の押湯形状の場合よりも大きい。この結果、押湯頂部の溶湯と鋳型キャビティーの間に大きな空間が発生する。この空間は加熱された空気層になっており、この空気層は押湯頂部の溶湯に対して断熱作用を発生させることになる。したがって、押湯頂部の溶湯は保温され長時間融液状態を維持することになる。
その結果、この部分から大気圧が長時間作用し、製品部への給湯が持続される。本手段の押湯においても、円柱の外周の凝固は進行するが、長時間融液状態を保つ押湯頂部の溶湯のお陰で、押湯内部の溶湯は大気圧によって下方に押し下げられながら流動するので、融液状態の時間が長く持続し、保温性の高い状態を維持する。すなわち、本願の押湯の保温性は、従来から考えられてきた凝固モジュラスに依存するのではなく、押湯頂部に発生する空気層による断熱効果を利用するもので、全く新規な技術思想によるものである。
この結果、適宜な保温性を保持しながら押湯から製品部に溶湯を供給すれば、押湯の体積は製品部の体積の40%以下で十分であることがわかった。この数値は、押湯への給湯量は通常、製品部の体積の3〜5%であることから考えても十分な値である。
このように、本発明の小径で高さの高い押湯の保温性は、凝固モジュラスの点から見ると低いと思われるが、凝固の早期に発生する押湯頂部の空気層による断熱効果によって、従来技術の押湯の形状に比べて同等または優れていることがわかった。これによって、凝固モジュラス及び体積は小さくても高い保温性を有しており、製品部に対して高い給湯能力を発揮するものである。つまり本発明の、小径で高さの高い柱状の押湯を基本形状として用いることで、従来の押湯に比べ小さな体積の押湯で十分な押湯効果を得ることができる。したがって、問題であった鋳造歩留りを大幅に改善することができる。
なお、本発明における「押湯の基本形状」について説明する。一般に使われている円柱状の押湯であれ、いかなる種類の形状の押湯であっても、その基本の形状がそのまま使われることはない。通常は、基本の形状に鋳造模型として使い易いように適宜の形状の修整変形が施されて用いられている。例えば、造型の型抜き性のために適宜の抜け勾配、角R、隅Rなどを付す、押湯頂部の引け誘発のために押湯頂部に円錐穴やV溝などを設けるあるいはウィリアムスコアを設ける、又は製品部との関係から押湯形状の一部を削る、余肉を付けるなどである。場合によっては、押湯の基本形状の上に高さすなわち溶湯ヘッド(溶湯圧)を付与するために押湯直径よりも小さい直径の棒状の部分を追加して設けることもある。しかし、基本の押湯の形状はその形から明らかである。したがって、本発明における押湯の基本形状も、このような適宜の修整変形を施して用いられるものである。
(手段2)
手段1記載の押湯の形状を用いる鋳造方法において、押湯につながる湯道の一部に、湯道よりも冷却速度の速い板状の流路を設けることを特徴とする鋳造方法である。
手段1記載の押湯の形状を用いる鋳造方法において、押湯につながる湯道の一部に、湯道よりも冷却速度の速い板状の流路を設けることを特徴とする鋳造方法である。
手段2では、押湯につながる湯道の一部に、湯道よりも冷却速度の速い板状の流路を設けるようにした。これは、前述のように、小径で高さの高い押湯形状では、押湯頂部に断熱性の高い空気層を生成させることが重要である。これについて、注湯後、湯口部すなわち湯口棒及び湯口カップからの溶湯ヘッド(溶湯圧)が長時間作用すると、空気層を生成させることに悪作用が生じることがわかった。そのために、湯口棒及び湯口カップからの溶湯ヘッドの効果を早期に遮断するために、湯道の一部に凝固の速い板状の流路を設けたのである。これによって、湯口部からの溶湯ヘッドは早期に遮断され、製品部の溶湯の凝固の進行にともなって断熱性の高い空気層が早期に形成されて押湯の保温性が確保できることになる。
板状の流路としては、単純に見切面上の板状の湯道とするのもよいし、見切面に直角な方向にも板状の流路を設けることも可能である。基本となる湯道の面積とほぼ同等になる面積を確保しながらできるだけ薄い板状とすることが、押湯頂部に早期に空気層を生成するのに適している。
(手段3)
手段1記載の押湯の形状を用いる鋳造方法であって、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口部の湯面高さh1と、押湯頂部の湯面高さh2の差(h1−h2)が100mm以下であることを特徴とする鋳造方法である。
手段1記載の押湯の形状を用いる鋳造方法であって、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口部の湯面高さh1と、押湯頂部の湯面高さh2の差(h1−h2)が100mm以下であることを特徴とする鋳造方法である。
上述のごとく、本手段の小径で高さの高い押湯形状では、押湯頂部に空気層を生成させることが重要である。そのためには湯口部(湯口棒及び湯口カップ)からの溶湯ヘッドは低い方が効果的である。そこで、湯口部からの溶湯ヘッドを低くするために、注湯量を減らして溶湯ヘッドを下げるようにしたものである。そのための注湯量を、注湯完了時点で、鋳型見切面からの湯口部の湯面高さh1と、押湯頂部の湯面高さh2の差(h1−h2)が100mm以下であるよう調整する(鋳型サイズ、製品部高さなどによっては、80mm以下がより効果的である)。100mm以上では、通常、押湯頂部の空気層の形成が遅れる傾向が強くなるためである。なお、注湯量の減量の上限値は、製品部の高さから決められ、湯口カップの上面の溶湯高さが製品部の高さを下回らないようにすることは当然である。
従来の鋳造方法では、注湯後の湯面は必ず製品部及び押湯頂部の湯面高さよりも高くし、かつ湯口カップの上限乃至中段程度まで注湯していたが、本手段では、減量注湯して湯口部の湯面高さと押湯頂部の湯面高さの差を100mm以下として小さくするようにした。これによって、本願の押湯の基本形状による溶湯節減に加えて、湯口部の注湯量が削減されることになる。
この作用について説明する。湯口部の湯面高さと押湯頂部の湯面高さの差を100mm以下としたことによって、キャビティー内の溶湯が凝固収縮を開始すると、まず湯口部の湯面が大きく下がり始め、その湯面の高さが押湯頂部まで達すると、次には押湯頂部の湯面が下がり始める。この結果、押湯頂部には厚い空気層が形成されて、この空気層の断熱性で、押湯頂部の溶湯が保温されて融液状態を保ち、先の説明と同じように大気圧が長時間作用して押湯効果を高めるのである。この空気層の形成される時期と厚さは手段1、2よりも早く、厚くなるので、押湯としての給湯効果はさらに改善される。この作用効果を考えると、押湯頂部の高さと湯口部の高さの差はゼロ、すなわち押湯高さと湯口部の高さは同じでもよいと言える。勿論、湯口部の高さは製品部の高さより低くなることはできない。
なお、従来技術のように湯口カップをほぼ充満するような注湯量では、湯口カップの部分の溶湯体積が大きいため、キャビティー内の溶湯の凝固収縮にともなう湯口部の湯面低下は小さく、本手段のような効果はほとんど起こらない。その結果、押湯頂部の溶湯は鋳型キャビティーに接触した状態が維持されて、凝固皮膜を形成し易く、そのため大気圧が作用する条件になりにくい。したがって、押湯の給湯能力は、押湯の凝固モジュラスに依存することになり、大きな体積の押湯が必要となる。
手段1では、小径で高さの高い形状を基本形状とする押湯効率の高い押湯の形状で、かつ押湯(堰の部分と基本形状の部分)の体積を具体的に規定し、小さい体積で押湯効果の高い柱状の押湯形状を提供した。また、手段2では、本発明の押湯を実際に用いるにあたり、押湯頂部の空気層を効率的に生成させるため、湯道の一部に凝固が速い板状の流路を用いた。また、手段3では、さらに押湯効果を高めながらさらに溶湯削減が可能な方法として注湯量を減量する方法を提案した。これらによって、従来技術の問題点であった鋳造歩留りを大幅に向上することができるようになった。この結果、押湯に必要な溶湯を大きく削減することができ、溶解のための消費電力及び溶湯処理費等を大幅に削減できるようになった。またCO2削減にも大きく貢献するものである。
以下に本発明を詳細に説明するが、これら実施例によって本発明が限定されるものではない。
図1〜図4に手段1を用いた実施例1を示す。本例では、堰の部分を除いた押湯の基本形状が直径D、高さHの柱状で、H/D≧3であり、かつ堰の部分と押湯の基本形状を合せた押湯の体積が製品部の体積の40%以下である押湯の形状について説明する。
図1は、旧来技術の一例で、体積Vc=1690cm3、凝固モジュラスMc=1.46cmの製品部1に対して、従来技術の押湯形状で、押湯の基本形状の部分3が高さ/直径比(H/D)がH1/D1=2の円柱状で、これに堰の部分2を付した押湯A、4を製品部1にサイド押湯として設けたものである。この基本形状の部分3の寸法諸元は、D1=Φ8.0cm、H1=16cm、V1=803cm3、凝固モジュラスM1=1.56cmである。また、堰の部分の体積は65cm3である。したがって、押湯A、4の体積Vr1は、Vr1=868cm3である。製品部1に対する押湯Aの体積比は、Vr1/Vc=0.51である。
図2は、本願の実施例の一例で、H/D=3の押湯B、5の場合の例である。その寸法諸元は、基本形状の部分3がD2=Φ6.4cm、H2=19.2cm、V2=617cm3、M2=1.41cmである。また堰の部分2の体積は60cm3である。したがって、押湯B、5の体積Vr2は、Vr2=737cm3である。製品部1に対する押湯Bの体積比は、Vr2/Vc=0.40である。
図3は、本願の他の例で、H/D=5の押湯C、6の場合の例である。その寸法諸元は、基本形状の部分3がD3=Φ4.8cm、H3=24.0cm、V2=435cm3、M3=1.09cmである。堰の部分2の体積は55cm3である。したがって、押湯C、6の体積Vr3は、Vr3=490cm3である。製品部1に対する押湯Cの体積比は、Vr3/Vc=0.29である。押湯B、押湯Cともに、従来技術の押湯Aに対して体積削減になっている。
上記3つの押湯を設けた鋳型に対して、球状黒鉛鋳鉄の溶湯を注湯し、凝固後に製品部1の欠陥の有無を観察した結果、製品部1の引け巣欠陥は3方案ともなしで、健全であった。その時の各押湯の引けの状態を模式図的に図4に示す。従来技術の押湯Aでは、押湯頂部8を中心にした引け9が発生しており、この部分の溶湯体積分が製品部1に供給されたことがわかる。押湯下部10には引けていない部分が多く存在し、押湯の無駄があり、押湯効率が悪いことがわかる。
本願のH/D=3の押湯Bの場合には、小径で押湯高さが高くなったことから、注湯後の初期に押湯頂部8の溶湯レベルの低下が従来技術の押湯Aよりも大きくなったことで、押湯のかなり深い部分まで引けが発生している。引けの体積も押湯Aよりも若干大きく、押湯効率が高まったことがわかる。これは、押湯高さが高くなって、注湯完了後の押湯頂部の初期の溶湯レベルの低下が大きくなり、押湯頂部に大きな空気層が形成されてその部分に断熱作用が発生したためである。
本願のH/D=5の押湯Cの場合には、さらに直径を小さくし、押湯高さが高くなったことから、注湯後の初期に押湯頂部8の溶湯レベルの低下が押湯Bよりもさらに大きくなって、押湯下部まで深く引けている。引けの体積はほぼ押湯Bと同等である。押湯Cでは、押湯高さがさらに高くなったので、押湯頂部の空気層はさらに大きくなったことで、押湯の深部まで引けが継続されたと推測される。なお、この押湯では、押湯体積は製品体積の29%であるが、この値の下限値はおよそ15%程度で、これより小さい値では、押湯頂部の凝固が早く、押湯頂部の空気層の発生が得難い状態となる。
また、図5には、図3の押湯C、6を製品部1の上部に揚り押湯として用いた例を示す。この場合も作用効果は上記と同じである。この場合には、押湯には製品部1を通過した若干温度低下した溶湯が充填されるので、小径の押湯では、押湯の引けが不十分なことが起る可能性があるので、適宜の直径のものを用いるようにする。または、発熱スリーブ、断熱スリーブなどを併用することも有効である。
このように押湯形状をH/D≧3とし、その押湯体積を製品部体積の40%以下とすることで、凝固モジュラスは小さくなるが、従来技術と押湯効果は同等以上で、大幅な押湯体積の削減すなわち溶湯削減が可能になった。これは、上記の通り、本願の小径で高さの高い柱状の押湯では、注湯完了後の押湯頂部の溶湯レベルの低下が大きく、そこに発生する空気層による断熱効果が作用したものと考えられる。これが本願の新規な技術思想である。ちなみに、本願押湯B及び押湯Cの従来技術の押湯Aに対する溶湯削減率は、それぞれ22%と43%である。なお、採用するH/D比は、製品形状、高さ、鋳型サイズなどによって適宜に決めるようにする。
図6、図7に手段2を用いた実施例2を示す。本例では、実施例1記載の押湯の形状を用いる鋳造方法において、押湯につながる湯道の一部に、湯道よりも冷却速度の速い板状の流路を設けることを特徴とする鋳造方法について説明する。
図6では、実施例1と同様に、押湯C(H/D=5)の押湯6が製品部1にサイド押湯として設けられており、それにつながる湯道7の一部が板状の流路11となっている。この板状の流路11は注湯完了後速やかに凝固するように薄い板状としている。それは、注湯完了後速やかに凝固することによって、製品部1と押湯6が、湯道7及び湯口部14(湯口カップ12と湯口棒13からなる)と早期に遮断されるようにするためである。
この結果、製品部1の凝固収縮は押湯6のみによって供給されることになる。つまり、押湯6は湯口部14からの給湯をほとんど受けずに製品部1に溶湯を補給することになる。したがって、本願の小径で高さの高い押湯は、早期に押湯頂部の溶湯レベルが低下し易くなり、そこに発生する厚い空気層15によって断熱作用が起り、押湯頂部8の引けが誘発されて、高い押湯効果を生じることになる。この作用効果は、実施例1をさらに強化したものである。これによって、本願の小径で高さの高い柱状の押湯の押湯効率をさらに安定的に実施することができる。
また図7には、板状の流路11の例を断面図で示した。(a)は単純に見切面16に平行な板状の流路11であり、(b)は見切面に平行及び垂直な板状の流路11である。このように本願の板状の流路は、形状は任意で、板部の厚さが薄く、湯道7に比べて凝固が速い形状であれば作用効果は同じである。湯道7に対して同程度の断面積を確保するように適宜の板状とすることができる。
図8に手段3を用いた実施例3を示す。本例では、実施例1記載の押湯の形状を用いる鋳造方法であって、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口部の湯面高さh1と、押湯頂部の湯面高さh2の差(h1−h2)が100mm以下であることを特徴とする鋳造方法について説明する。
図8では、実施例1の押湯Cの構成で、製品部1に押湯C、6がサイド押湯として設けられている。本図は、注湯が完了した状態を示しており、湯口部14の湯面高さh1は、湯口カップ12を満たさず、湯口棒13の途中までの高さになっている。この高さh1と、押湯頂部の湯面高さh2との高さの差は、(h1−h2)で示されるように100mm以下で小さな差である。このために、注湯完了後、製品部1の凝固が始まると、先ず湯口部の溶湯レベル17が低下し始め、押湯頂部8の溶湯レベル18の高さまで到ると、続いて押湯頂部8の溶湯レベル18が低下を始める。ただし通常は、湯口部の溶湯レベル17が押湯頂部8の高さに到る前に、湯口部14又は湯道7の固相率が上昇して溶湯の流動性が低下し、湯口部14からの溶湯ヘッドが押湯頂部8に作用しなくなるので、押湯頂部8の溶湯レベルはその時点で低下を始める場合が多い。したがって、(h1−h2)が100mm以下で本願の作用効果は十分得られるのである。
このことによって、押湯頂部には実施例1、2よりも早期に厚い空気層が生じる。この結果、この空気層の断熱効果によって、押湯頂部は長時間融液状態を保ち、大気圧が作用し易い状態が維持され、押湯効果が継続されることになる。この基本的な作用効果は実施例1、2と同じである。このように、湯口部の高さh1と押湯の高さh2の差を極力小さく、本願では100mm以下とすることで、上記作用効果が得られることを確認した。ただし、鋳造条件によっては、80mm以下がより効果的な場合もある。極限的には、湯口部14の湯面高さh1と押湯頂部8の湯面高さh2の差(h1−h2)はゼロでもよい。ただし、当然ながら、湯口部14の高さh1は製品部1の高さよりも低くすることはできない。なお、図では湯口部14の溶湯レベル17は、湯口カップ12の下部よりも低くなっているが、溶湯レベル17は必ずしもこのように湯口カップ12より低くなる必要はない。
この結果、本願の押湯の形状的な効果による溶湯削減に加えて、湯口部14の溶湯は削減されることになり、さらに大幅な溶湯削減が可能になる。このように、実施例2及び実施例3は実施例1をより安定的に実施するための手段である。
以上説明した通り、本発明は、従来技術の円柱状の押湯形状に対して、新規な小径で高さの高い柱状の押湯を基本とする押湯の形状を提供することで、従来技術の円柱状の押湯形状に比べて凝固モジュラスは小さいが、押湯頂部の空気層による断熱効果によって、従来と同等以上の押湯効果を発揮し、かつ大きな溶湯削減が可能になり、鋳造歩留りの大幅な向上が得られた。その結果、鋳造業界で緊急の問題となっている電力削減に多いに貢献することができた。
1 製品部 2 堰の部分 3 押湯の基本形状の部分 4 押湯A
5 押湯B 6 押湯C 7 湯道 8 押湯頂部 9 引け
10 押湯下部 11 板状の流路 12 湯口カップ 13 湯口棒
14 湯口部 15 空気層 16 見切面 17 湯口部の溶湯レベル
18 押湯頂部の溶湯レベル 19 揚り押湯 20 サイド押湯
5 押湯B 6 押湯C 7 湯道 8 押湯頂部 9 引け
10 押湯下部 11 板状の流路 12 湯口カップ 13 湯口棒
14 湯口部 15 空気層 16 見切面 17 湯口部の溶湯レベル
18 押湯頂部の溶湯レベル 19 揚り押湯 20 サイド押湯
Claims (3)
- 鋳造に用いる押湯であって、堰の部分を除いた押湯の基本形状が直径D、高さHの柱状で、H/D≧3であり、かつ堰の部分と押湯の基本形状を合せた押湯の体積が製品部の体積の40%以下とし、凝固過程で押湯頂部の溶湯と鋳型キャビティーの間に空気層を発生させ、押湯頂部の溶湯を保温することを特徴とする押湯。
- 請求項1記載の押湯を用いる鋳造方法であって、押湯につながる湯道の一部に、湯道よりも冷却速度の速い板状の流路を設けることを特徴とする鋳造方法。
- 請求項1記載の押湯を用いる鋳造方法であって、注湯完了時点において、鋳型見切面からの湯口部の湯面高さh1と、押湯頂部の湯面高さh2の差(h1−h2)が100mm以下であることを特徴とする鋳造方法。
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JP2014155488A JP5696322B1 (ja) | 2014-07-11 | 2014-07-11 | 押湯効率の高い柱状の押湯形状及び鋳造方法 |
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JPH1157940A (ja) * | 1997-08-27 | 1999-03-02 | Aisin Takaoka Ltd | 鋳型構造 |
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- 2014-07-11 JP JP2014155488A patent/JP5696322B1/ja active Active
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